説明

遮水性組成物の製造方法及びコンクリート防食防水工法

【課題】コンクリート防食防水工法に適した、遮水性及び層強度が高い素地調整層の形成に好適な、遮水性組成物を提供する。
【解決手段】1)液状エポキシ樹脂、2)該樹脂の硬化剤であって、アミン水溶液及びアミン水分散体からなる群から選択された少なくとも1種、並びに、3)水硬性材料を混合することを特徴とする遮水性組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮水性組成物の製造方法及び該遮水性組成物を用いたコンクリート防食防水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート防食防水工法としては、例えば、コンクリート表面に樹脂等を塗装する工法が知られている。この工法では、コンクリート表面に存在する小さな気泡、突起等に起因する塗装の不都合を改善するために、コンクリート表面にポリマーセメントモルタル、樹脂パテ材等からなる素地調整層を設ける場合がある。素地調整層を形成した場合には、コンクリート表面から樹脂層への水分(水蒸気)の放散が抑制されるため、水分の放散に起因する樹脂層のフクレ等の発生を抑制できる。
【0003】
従来、素地調整層としては、防水性モルタルからなるものが知られている。例えば、特許文献1には、セメント、液状エポキシ樹脂水分散体、硬化剤及びポゾランを含む防水性組成物が開示されており、該素地調整層の形成に使用されている。液状エポキシ樹脂水分散体は、有機溶剤を用いた樹脂溶液と異なり、火災、溶剤中毒等を防止できる上、水で容易に希釈できる特徴がある。特許文献2には、水系の架橋型エポキシ樹脂エマルションと水硬性微小セメント系フィラーとを含有する下地層用塗布液が開示されており、該素地調整層の形成に使用されている。また、特許文献3には、水可溶性エポキシ樹脂とセメントモルタルとの複合材が開示されており、該素地調整層の形成に使用されている。
【0004】
しかしながら、これら従来技術に係る素地調整層は、いずれも遮水性が十分ではなく、コンクリート表面からの水分の放散を長期間にわたり抑止するには至っておらず、水分の透過により仕上げ層である樹脂層の硬化が不十分となる問題がある。また、従来技術に係る素地調整層は、層強度が十分でなく、素地調整層に直接樹脂層を形成した場合には、両層の接着強度が十分でない(引き剥がし抵抗性が小さい)理由から、樹脂層の損傷の主因となる樹脂層のフクレ等が生じ易いという問題もある。
【0005】
素地調整層の層強度を補填し、樹脂層のフクレ等を生じ難くするために、従来、両層の間にプライマー層を形成する試みもなされている。該プライマー層の形成により、樹脂層のフクレ等の発生は抑制することができるが、防食防水工程が多工程を含むことになり、施工不良が生じ易いという指摘がある。具体的には、コンクリート表面にプライマー/素地調整層/プライマー/樹脂層を順に形成する工法が知られており、コンクリート表面のプライマーを下塗り層、素地調整層表面のプライマーを中塗り層、樹脂層を上塗り層(仕上げ層とも言う)と称している。
【特許文献1】特開平5−44421号公報
【特許文献2】特開平3−191162号公報
【特許文献3】特開平10−176424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コンクリート防食防水工法に適した、遮水性及び層強度が高い素地調整層の形成に好適な、遮水性組成物を提供することを主な目的とする。なお、本明細書では、素地調整層のことを遮水性層と称する。
【0007】
また、本発明は、該遮水性層を形成することを特徴とする、工程数が少なく、コンクリートに長期安定性に優れた防食防水効果を付与するコンクリート防食防水工法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、1)液状エポキシ樹脂、2)該樹脂の硬化剤、並びに、3)水硬性材料を混合するという特定の製造方法により製造された遮水性組成物が上記目的の達成に寄与することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の遮水性組成物の製造方法及びコンクリート防食防水工法に係るものである。
1.1)液状エポキシ樹脂、2)該樹脂の硬化剤であって、アミン水溶液及びアミン水分散体からなる群から選択された少なくとも1種、並びに、3)水硬性材料を混合することを特徴とする遮水性組成物の製造方法。
2.水硬性材料100重量部に対して、液状エポキシ樹脂と該樹脂の硬化剤とを、液状エポキシ樹脂の重量と硬化剤中のアミンの重量との合計が10〜90重量部となるように混合する上記項1記載の製造方法。
3.上記項1又は2記載の製造方法により製造された遮水性組成物。
4.上記項3記載の遮水性組成物からなる遮水性層をコンクリート表面に形成する工程を含むコンクリート防食防水工法。
5.上記項3記載の遮水性組成物からなる遮水性層をコンクリート表面に形成後、該遮水性層の表面に樹脂層を形成することを特徴とするコンクリート防食防水工法。

以下、本発明の遮水性組成物の製造方法及びコンクリート防食防水工法について詳細に説明する。
【0010】
遮水性組成物の製造方法
本発明の遮水性組成物の製造方法は、1)液状エポキシ樹脂、2)該樹脂の硬化剤であって、アミン水溶液及びアミン水分散体からなる群から選択された少なくとも1種、並びに、3)水硬性材料を混合することを特徴とする。
【0011】
本発明の遮水性組成物の製造方法は、特に液状エポキシ樹脂を、予め溶媒又は分散媒に溶解又は分散させずに硬化剤、水硬性材料等と混合するため、得られた遮水性組成物をコンクリート表面に塗布・乾燥してなる遮水性層(「素地調整層」以下同じ)は密度が高く、水分の透過性が十分に抑制されている。そのため、該遮水性層上に直接樹脂層(「上塗り層」以下同じ)を形成した場合でも、樹脂層の硬化を阻害するコンクリート表面からの水分の浸透が十分に抑制されるため、防食防水効果を長期にわたり維持できる。
【0012】
また、該遮水性層は層強度が高い(引き剥がし抵抗性が高い)ため、樹脂層の損傷の主因となるフクレ等の発生を十分に抑制できる。そのため、コンクリート防食防水工法を実施するに際し、層強度補填を目的として遮水性層と樹脂層との間にプライマー層をさらに形成する必要がない。
【0013】
以下、遮水性組成物の製造方法について具体的に説明する。
(液状エポキシ樹脂)
液状エポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を2個以上有するものであって、常温(20℃)において液状で存在し、所定の硬化剤との混合により容易に硬化するものであれば特に限定されない。液状エポキシ樹脂の軟化点は、35℃以下が好ましい。このような液状エポキシ樹脂としては、例えば、汎用性、価格等を考慮すると、エピクロルヒドリン−ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0014】
液状エポキシ樹脂は、必要に応じて、乳化剤、保護コロイド、消泡剤等の添加剤を混合して用いてもよい。添加剤の種類、添加量等は、液状エポキシ樹脂の種類、所望の特性等に応じて適宜設定できる。
【0015】
なお、本発明の製造方法では、液状エポキシ樹脂は、そのまま又は上記添加剤を含む形態で使用し、予め溶媒又は分散媒中に溶解又は分散させない。溶液又は分散体とせずに使用することにより、本発明所定の効果が達成される。
(液状エポキシ樹脂の硬化剤)
液状エポキシ樹脂の硬化剤としては、該樹脂との混合により容易に硬化が達成できるものであれば特に限定されない。本発明の製造方法では、硬化剤として、アミン水溶液及び水分散体からなる群から選択された少なくとも1種を使用する。
【0016】
アミンとしては特に限定されず、液状エポキシ樹脂の硬化に有効なものであれば良いが、例えば、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン等が好適である。
【0017】
脂肪族ポリアミンは、常温でエポキシ基と反応する活性水素原子を有するアミノ基及びイミノ基を分子中に少なくとも2個以上有する脂肪族化合物である。例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサン、ジエチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、イミノビスヘキシルアミン等が挙げられる。
【0018】
脂環式ポリアミンは、常温でエポキシ基を反応する活性水素原子を有するアミノ基及びイミノ基を分子中に少なくとも2個以上有する脂環式化合物である。例えば、キシリレンジアミン、3,9ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、N−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン等が挙げられる。
【0019】
これらのアミンの誘導体も使用できる。例えば、脂肪族ポリアミンのエチレンオキサイド付加物、エポキシ樹脂付加物、ポリエチレンポリアミン変性物等の変性脂肪族ポリアミン;脂環式ポリアミンのモノグリシジルエーテル付加物、エポキシ樹脂付加物、アクリルニトリル付加物、脂肪酸グリシジルエーテル付加物の変性脂環式ポリアミン;ポリエチレンポリアミン−脂肪酸、ポリエチレンポリアミン−ダイマー酸、キシリレンジアミン−ダイマー酸等の縮合反応生成物であるポリアミドアミン;並びにこれらの変性物等が挙げられる。
【0020】
これらのアミンは、水溶液又は水分散体の状態で使用する。水の混合量は特に限定されず、溶解又は分散を十分に行える量であればよいが、本製造方法で調製する遮水性組成物の製造に必要となる水量を満たすように設定することが好ましい。勿論、硬化剤の取扱い易さを考慮して硬化剤中の水量を設定しておき、遮水性組成物の調製に必要な全成分を混合時に不足する水を別途加えてもよい。
【0021】
なお、液状エポキシ樹脂と硬化剤との混合比は、樹脂及びアミンの種類に応じて変動するため特に限定されないが、当量割合で表して、液状エポキシ樹脂:硬化剤=1〜3:0.4の範囲内が好ましい。
(水硬性材料)
水硬性材料としては、水との混合により水硬性を示す材料であれば特に限定されない。
【0022】
例えば、セメント、水硬性ポゾラン、シリカ、セッコウ(硫酸カルシウム)等が挙げられる。この中でも、セメント、水硬性ポゾラン等が好ましく、セメントがより好ましい。これらの水硬性材料は、1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0023】
セメントとしては、水硬性セメントであれば特に限定されず、ケイ酸石灰質セメント(例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント;高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメント)、アルミン酸石灰質セメント、ケイ酸アルミン酸石灰質セメント、リン酸セメント等が広く使用できる。
【0024】
この中でも、ケイ酸石灰質セメント、アルミン酸石灰質セメント、ケイ酸アルミン酸石灰質セメント等が好ましく、早強ポルトランドセメント、高炉セメント等がより好ましい。なお、高炉セメントには、JIS R 5211において、スラグ量が5%を超え30%以下のA種、スラグ量が30%を超え60%以下のB種、スラグ量が60%を超え70%以下のC種があり、この中でもB種が好ましい。
【0025】
セッコウとしては、それ自体が水和硬化性を有するか、又は凝結剤、凝結促進剤等の補助剤と併用することにより、水和硬化性を呈するものであればよい。例えば、半水セッコウ(α、β)、II型無水セッコウ等が挙げられる。凝結剤又は凝結促進剤としては、セッコウ成分である硫酸カルシウムの水和硬化性の発現を補助又は増強する作用を有するものであればよく、例えば、硫酸カリウム、ミョウバン、二水セッコウの微粉末、シュウ酸等の有機酸などが挙げられる。凝結剤、凝結促進剤等の添加量は、セッコウの使用量に応じて適宜設定できる。
(各成分の混合)
上記した各成分の混合方法は、液状エポキシ樹脂の水溶液又は水分散体を予め調製することとならない態様であれば特に限定されない。例えば、遮水性組成物の調製に必要な成分を各々計量し、一度に混練りする方法の他、工場で予め、水硬性材料(後記のフィラー、固体の混和材、固体の混和剤等も含めてよい)を混合した固体材料;液状エポキシ樹脂;及び硬化剤その他の液体材料を各々セットにして調製し、施工現場で適宜混合する方法が挙げられる。
【0026】
混合の際は、例えば、ハンドミキサー、コンクリートミキサー、シャベル等で全体が均一になるまで十分に混合(混練り)すればよい。
【0027】
各成分の混合比は特に限定されないが、水硬性材料100重量部に対して、液状エポキシ樹脂と該樹脂の硬化剤とを、液状エポキシ樹脂の重量と硬化剤中のアミンの重量との合計が10〜90重量部となるように混合することが好ましい。アミン水溶液の場合には、水溶液調製前のアミンの重量を考慮する。該合計量が10重量部未満ではコンクリートからの水分によるフクレ防止が十分ではなく、90重量部を超えると樹脂成分との混和性が劣り好ましくない。好ましくは30〜50重量部である。
【0028】
水の混合量は特に限定されないが、水硬性材料100重量部に対して、30〜100重量部、好ましくは35〜50重量部程度である。なお、水の量には、硬化剤中に含まれる水の量も含まれる。
【0029】
本発明の製造方法では、上記成分以外に、各種添加剤を加えることができる。添加剤としては、例えば、フィラー、混和材、混和剤等が挙げられる。
【0030】
フィラーとしては、セメント、コンクリート等の分野で通常使用される骨材を広く使用できる。例えば、珪砂、寒水砂、川砂等の天然骨材;陶磁器片、ガラス粒等の着色骨材、パーライト、バーミキュライト、シラス球等の軽量骨材、汚泥焼成骨材等の再生骨材等の人工骨材が挙げられる。また、骨材と同様な機能を有する骨材相当物も使用できる。これらの骨材は、1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0031】
水硬性材料に対するフィラーの割合は特に制限されず、用途・目的に応じて適宜調整できる。一般に水硬性材料100重量部に対して、20〜500重量部、好ましくは30〜300重量部程度、より好ましくは30〜200重量部程度である。
【0032】
混和材としては、通常セメントに配合して用いられる混和材を広く用いることができ、具体的には、フライアッシュ、シリカフューム、ポゾラン、高炉スラグ、ケイ酸質微粉末、鉱物質微粉末等が挙げられる。
【0033】
混和剤としては、AE剤、減水剤、AE減水剤、減水促進剤、減水遅延剤、促進剤、遅延剤、急結剤、防水剤、起泡剤、発泡剤、保水剤、接着剤、防水剤等が例示できる。
【0034】
より具体的には、AE剤としては、陰イオン系、非イオン系、陽イオン系又は両性イオン系のAE剤が使用できる。この中でも、非イオン系のAE剤が好適である。
【0035】
減水剤としては、リグニンスルホン酸塩系、高級多価アルコールのスルホン酸塩系、オキシ有機酸、アルキルアリルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオール複合体の減水剤を任意に使用できる。この中でも、リグニンスルホン酸塩系の減水剤が好適である。
【0036】
混和材及び混和剤の添加量は特に限定されず、遮水性組成物の所望の特性等に応じて適宜設定できる。
【0037】
コンクリート防食防水工法
本発明の遮水性組成物は、コンクリート防食防水工法に好適に適用できる。
【0038】
本発明のコンクリート防食防水工法は、該遮水性組成物からなる遮水性層をコンクリート表面に形成する工程を含むことを特徴とする。
【0039】
遮水性層は、コンクリート表面に本発明の遮水性組成物を塗布後、乾燥させることにより形成できる。遮水性層は、コンクリート表面から放散される水分の透過を遮断する役割以外に、コンクリート表面の凹凸を均す役割も有する。塗布方法は特に限定されず、コテ塗り、吹き付け塗り、ハケ塗り、へら塗り等の方法が採用できる。
【0040】
遮水性層の厚みは特に限定的ではないが、通常0.3〜3mm、好ましくは0.5〜1.5mm程度である。0.3mm未満の場合には、遮水性が不十分となる場合がある。3mmを超える場合には、遮水効果の向上が少なく、不経済である。
【0041】
遮水性層の密度は、遮水性組成物の組成に応じて変動するが、通常1〜2.5g/cm3、好ましくは1.3〜1.8/cm3程度である。本発明の遮水性組成物の製造方法では、液状エポキシ樹脂を予め水溶液又は水分散体とせずに、他の成分と混合して遮水性組成物を調製する。この方法によれば、該遮水性組成物から形成した乾燥後の遮水性層には水は殆ど含まれておらず、高密度な遮水性層が得られる。一方、液状エポキシ樹脂を水溶液又は水分散体とした後に他の成分と混合する従来法では、素地調整層には水溶液又は分散体に起因する水が残存するため密度が不十分となる。
【0042】
このような高密度且つ高強度の遮水性層を形成するため、コンクリート表面から放散される水分の透過を十分に抑制できる。また、遮水性層の表面に後記する樹脂層を直接形成しても、樹脂層との密着性が高く、樹脂層のフクレ等も十分に抑制できる。
【0043】
なお、遮水性層の形成前に、コンクリート表面にプライマー層を形成してもよい。この場合には、コンクリートと遮水性層との密着強度を高めることができる。プライマー層は、例えば、1液型ウレタン樹脂、水系ウレタン樹脂、無溶剤型エポキシ樹脂、水系エポキシ樹脂等の公知のプライマー剤をコンクリート表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。
【0044】
遮水性層の表面には、樹脂層(上塗り層)を形成する。樹脂は特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ノンスチレン型ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等の中から、目的、用途に応じて選択することができる。樹脂層は、必要に応じて、ガラスクロス等の補強材を層中に含めた態様で形成することもできる。樹脂の塗布方法、塗膜の厚み等は特に限定されず、防食防水工法の目的等に応じて適宜設定できる。
【0045】
本発明のコンクリート防食防水工法では、高密度且つ高強度の遮水性層を形成するため、遮水性層の表面に直接樹脂層を形成できる。そのため、遮水性層の層強度の補填、引き剥がし抵抗性の補填等を目的として、遮水性層と樹脂層との間にプライマー層をさらに形成する必要がない。
【発明の効果】
【0046】
本発明の遮水性組成物の製造方法は、特に液状エポキシ樹脂を、予め溶媒又は分散媒に溶解又は分散させずに硬化剤及び水硬性材料と混合するため、得られた遮水性組成物をコンクリート表面に塗布・乾燥してなる遮水性層は密度が高く、水分の透過性が十分に抑制されている。そのため、該遮水性層上に直接樹脂層を形成した場合でも、樹脂層の硬化を阻害するコンクリート表面からの水分の浸透が十分に抑制されるため、防食防水効果が長期にわたり維持できる。
【0047】
また、該遮水性層は層強度が高い(引き剥がし抵抗性が高い)ため、樹脂層の損傷の主因となるフクレ等の発生を十分に抑制できる。そのため、コンクリート防食防水工法を実施するに際し、層強度補填を目的として遮水性層と樹脂層との間にプライマー層をさらに形成する必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。なお、本発明は実施例に限定されない。
【0049】
実施例1及び比較例1
下記表1に示す成分を含有する遮水性組成物を調製した。
【0050】
遮水性組成物は、各成分を十分に混合(混練り)することにより調製した。
【0051】
【表1】

【0052】
*1:商標「ジョリシールJBX-104A」アイカ工業(株)製、ビスフェノール系エポキシ樹脂
*2:商標「エピレッツ7148」ジャパンエポキシ(株)製、ビスフェノール系エポキシ樹脂(軟化点0℃以下)70重量部を30重量部の水に分散させたもの
*3:商標「ゼナミド♯250」コグニスジャパン(株)製、アミン価425〜450
*4:商標「ゼナミド♯2000」コグニスジャパン(株)製、アミン価580〜620
*5:商標「ジョリシールJBX−104SB」アイカ工業(株)製
*6:商標「マイクロシリカ」昭和化学工業(株)製、平均粒径0.15μm
*7:減水剤
実験例1及び比較実験例1
実施例1及び比較例1で調製した遮水性組成物からなる遮水性層を形成し、遮水性層の水分遮断性を対比した。
【0053】
φ150mm×40mmの大きさのモルタル板を2つ用意した。各モルタル板の平面上に、各遮水性組成物を厚さ1mmで塗布した。その後、温度20±2℃、湿度65%±10%の養生室で7日間養生し、約80℃で一定質量になるまで乾燥させた。以下、該乾燥物を試験体と称する。
【0054】
試験体の水分遮断性を測定した。具体的には、JIS A 1404 11.透水試験の規定に従って、各試験体の上下両面中央に、5cmの透水円孔を有する約1cm厚のゴム製ガスケットを押し当てて均一に締め付けた後、遮水性層面から294KPaの水圧で水を1時間押し当てて重量増加を測定した。重量増加が多いほど、水分遮断性が小さいことを示している。
【0055】
試験結果を下記表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2の結果より、本発明の製造方法により製造した遮水性組成物からなる遮水性層は、重量増加が少なく、水分遮断性が優れている。一方、比較例1の遮水性組成物からなる遮水性層は、重量増加が多く、水分遮断性が劣る。
【0058】
実験例2及び比較実験例2
実施例1及び比較例1で調製した遮水性組成物からなる遮水性層の表面に上塗り層を形成し、上塗り層の剥離強度を確認した。上塗り層の剥離強度を測定することにより、遮水性層の引き剥がし抵抗性を対比した。
【0059】
縦50mm、横150mm、厚さ20mmのモルタル基板を4つ用意した。その内、2つはモルタル基板表面が乾燥しており、残りの2つは湿潤している。モルタル基板は、JIS R 5201の10.4(供試体の作製法)に準拠して作製した。具体的には、モルタルを内方寸法で50×150×20mmの型枠により成形し、湿空養生室で24時間養生後脱型し、その後6日間20±2℃の水中で養生後、さらに7日以上一般養生室で養生を行った。養生終了後、基板表面を研磨紙で十分に研磨した。湿潤した基板は、研磨後24時間水中に浸漬し、引き上げ後に表面付着水を十分に拭き取ったものとした。
【0060】
モルタル基板の表面に、実施例1で調製した遮水性組成物を縦30mm、横150mm、厚さ1mmに塗布して遮水性層を形成した。塗布24時間後、ガラスクロスを補強材として含む0.75mmの上塗り層を形成した。その後、温度20±2℃、湿度65%±10%の養生室で7日間養生し、約80℃で一定質量になるまで乾燥させた。以下、該乾燥物を試験体と称する。この試験体は基板表面が乾燥したものと湿潤したものとの2つを作製した。
【0061】
モルタル基板の表面に、比較例1で調製した遮水性組成物を縦30mm、横150mm、厚さ1mmに塗布して遮水性層を形成した。塗布24時間後、水性エポキシ樹脂のプライマーを塗布し、さらに24時間後、ガラスクロスを補強材として含む0.75mmの上塗り層を形成した。その後、温度20±2℃、湿度65%±10%の養生室で7日間養生し、約80℃で一定質量になるまで乾燥させた。以下、該乾燥物を試験体と称する。この試験体は基板表面が乾燥したものと湿潤したものとの2つを作製した。
【0062】
4つの試験体の作製において、ガラスクロスを含む上塗り層は、図1に示す引張り試験機(万能試験機)の引張りワイヤー端部のつかみ具に固定するため、モルタル基板の端から10mm程度はみ出るように設定した。
【0063】
引き剥がし試験は、図1に示す引張り試験機(万能試験機)の架台に試験体を固定後、コンクリート基板からはみ出た上塗り層の端部を引張りワイヤー端部のつかみ具に固定し、垂直方向に引っ張ることにより実施した。引き剥がし速度は20mm/分とした。試験は、試験体作製後、4週目と8週目に行った。
【0064】
上塗り層の剥離強度の測定結果を下記表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3の結果より、本発明の遮水性組成物からなる遮水性層を形成した場合には、従来法の遮水性組成物からなる遮水性層(中塗りプライマー層を有する工法)よりも引き剥がし抵抗性が大きく、隣接層との密着性が高いことが分かる。遮水性層の表面に中塗りプライマー層を有する比較実験例2よりも、中塗りプライマーを有さない実験例2の方が高い強度保持率を示している。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実験例2及び比較実験例2で用いた引張り試験機(万能試験機)の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)液状エポキシ樹脂、2)該樹脂の硬化剤であって、アミン水溶液及びアミン水分散体からなる群から選択された少なくとも1種、並びに、3)水硬性材料を混合することを特徴とする遮水性組成物の製造方法。
【請求項2】
水硬性材料100重量部に対して、液状エポキシ樹脂と該樹脂の硬化剤とを、液状エポキシ樹脂の重量と硬化剤中のアミンの重量との合計が10〜90重量部となるように混合する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により製造された遮水性組成物。
【請求項4】
請求項3記載の遮水性組成物からなる遮水性層をコンクリート表面に形成する工程を含むコンクリート防食防水工法。
【請求項5】
請求項3記載の遮水性組成物からなる遮水性層をコンクリート表面に形成後、該遮水性層の表面に樹脂層を形成することを特徴とするコンクリート防食防水工法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−83006(P2006−83006A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268966(P2004−268966)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(397018811)日本ジッコウ株式会社 (3)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】