説明

遮熱コーティング上の酸化ニッケル系バナジウム軽減層

【課題】酢酸ニッケル四水和物の飽和溶液を形成する段階、ガスタービンエンジンの所定の部品の遮熱コーティング上に均一な厚さの皮膜を施工する段階、及び遮熱コーティング上にNiOの保護層を形成するのに十分な温度で、空気中でコーティングされた部品を加熱処理する段階を含む、ガスタービンエンジン部品に保護皮膜を施工する方法を提供すること。
【解決手段】酢酸ニッケル四水和物の飽和溶液は、遮熱コーティング上に均一なNiO層を形成するのに十分な量であり、しかも遮熱コーティングの微視的亀裂に浸透して、五酸化バナジウムと遮熱コーティング中に存在するイットリア安定化化合物との反応を実質的に抑制するNiOの「犠牲軽減層」を形成するのに十分な溶解度を有する液体として施工される。950°F〜1050°Fの温度の空気炉中で加熱処理を行うことにより、NiOは、ガスタービンエンジンの排気流に存在するバナジウムと反応して固体バナジン酸ニッケルを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジンの作動部品の保護に用いられる遮熱コーティング(TBC)上に保護材料のインサイツ層(現場層)を形成する新規プロセス、特にTBC中のイットリア安定化化合物と五酸化バナジウムとの反応を効果的に防ぐ材料からなる犠牲層をTBC上に施工する新規方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大半のガスタービンエンジンは、圧縮空気を炭化水素燃料と燃焼させて高温排気ガスを生成させ、これをタービンで膨張させて動力を発生することによって作動する。タービン部品、特にタービンブレードはニッケル基超合金からなることが多く、ニッケル基超合金は、クリープ、金属疲労及び腐食、つまりガスタービンエンジンの高温セクション(特に燃焼室及びタービン)における主要な劣化機構に対して優れた耐性を与える。近年、General Electric社などによって、ガスタービンエンジンの重要部品、特にエンジンの燃焼器及びオグメンタセクションの形成に様々なニッケル基及びコバルト基超合金を用いて、高温用途で大幅な進歩がなされてきた。
【0003】
しかし、最新世代の超合金であっても、下地金属基材の腐食を促進する傾向がある酸化及び高温腐食による損傷に弱い。そのため、多くのエンジン部品はある種の遮熱コーティングを備えている。過去10年間でTBC用途の数及び重大性は増しているので、供用中のTBCの早期剥離損傷が依然として問題である。損傷によって、露出された金属が危険な高温ガスに暴露されるおそれがあり、運転上の重大な懸案事項であるからである。
【0004】
TBCの破損機構も様々で複雑であるが、最も重要なのは、熱膨張応力、金属酸化及びTBCの組成と特性の物理的変化である。現在、ガスタービンエンジン用TBC系の遮熱コーティングとして、セラミック材料、特にイットリア安定化ジルコニア(YSZ)が広く用いられている。通例、エンジンの最高温度領域で用いられるTBCは、電子ビーム物理蒸着(EBPVD)法で堆積されており、この方法では、剥離をもたらす損傷応力を生じさせることなく、膨張・収縮することのできる結晶粒組織が得られる。
【0005】
さらに、接着性を高め、TBC系の耐用年数を延ばすために、耐酸化性ボンドコートが多用されており、通常はMCrAlX(式中、Mは鉄、コバルト及び/又はニッケルであり、Xはイットリウムその他の希土類元素である)又は拡散アルミニド皮膜の形態である。エンジン供用中などの高温暴露時に、ボンドコートが酸化して密着性アルミナ層(例えば、酸化アルミニウム又はAl2O3)を形成し、これが下地構造を壊滅的酸化から保護し、TBCをボンドコートに接着させる。通常、TBC系の耐用年数は、ボンドコートとTBCの界面又はその近傍での剥離(spallation)によって制限される。
【0006】
五酸化バナジウムは、イットリアとの反応によってイットリア安定化ジルコニアを不安定化することが知られている。この反応は、以下の反応式に従ってバナジン酸イットリウム及び単斜晶系ジルコニアの形成をもたらす。
【0007】
Y2O3(s)(YSZ中)+V2O5(l)→2YVO4(s)+m−ZrO2(s)

上記のジルコニアの単斜晶相(m−ZrO2)は、ガスタービンエンジンの通常運転時などの熱サイクル時に体積変化を起こすので望ましくない。かかる繰返しサイクルは、コーティングの剥離及び最終的には重要エンジン部品の潜在的な壊滅的故障を招きかねない。ガスタービンエンジンの駆動に用いられる燃料の夾雑物によって剥離の問題が促進されるおそれがあることが判明した。すなわち、炭化水素燃料と空気の混合物、特に少量ではあるがバナジウムを含んでいる中東燃料に存在する夾雑物は、高温腐食を促進する。バナジウムは、残渣燃料油(ROF)並びにある種の原油に、通常ポルフィリンその他の有機金属錯体の形態で含まれていることが多い。バナジウムを含む無機化合物も低品位燃料で見つかっている。
【0008】
燃料の燃焼時に、バナジウムは酸素と反応して、VO、V2O3、V2O4(VO2)及びV2O5を始めとする各種の酸化物を生成する。VO、V2O3及びV2O4(VO2)は融点が1500℃を超える耐火材料とみなされ、通常は、排気流の一部としてガスタービンを通過する。しかし、五酸化バナジウムV2O5は融点が格段に低い(約650℃〜670℃)。そのため、V2O5は、通常は典型的なガスタービン作動温度で液体であり、高温部品の表面に付着する傾向があり、最終的に高温腐食を起こし、剥離の一因となる。
【0009】
従前、バナジウム高温腐食を抑制するため、燃焼器燃料の一部として様々な添加剤が使用されてきた。例えば、マグネシウム含有化合物(例えば、MgSO4)が使用されているが、これは、酸化マグネシウム(MgO)へと分解し、それがV2O5と反応してバナジン酸マグネシウム(Mg3(VO4)2)を形成するからである。残念なことに、燃焼器燃料に由来する硫酸ナトリウムやSO2のような各種の残留硫黄化合物はMgOの有効性を減少させる傾向があり、MgOは、バナジン酸マグネシウムを生じるV2O5との反応よりも、硫黄と優先的に反応してMgSO4を生成する。低品位燃料に添加されるマグネシウム系化合物は、バナジウムの腐食作用の低減には役立つが、ガスタービン内部の部材への灰状付着物の堆積をもたらし、堆積した付着物の除去のためにガスタービンエンジンの定期的な運転停止及び保守整備が必要とされるおそれがあることが判明した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、五酸化バナジウムの悪影響を抑制するための従前の様々な努力にもかかわらず、ガスタービンエンジンでの炭化水素燃料(特に、バナジウムを含有していることが多い中東産原油のような重質燃料)の燃焼には、高温ガス経路の金属表面にバナジウム灰が堆積するという深刻な問題が残っている。通例、堆積した灰はV2O5(五酸化バナジウム)とNa2SO4(硫酸ナトリウム)を共に含んでいる。灰状物質は、次いで、各種のナトリウム塩を生成して、バナジウムを含む低融点反応性化合物の生成に起因する高温ガス経路部品の汚損及び腐食を起こす。最終的には、上述の通り、長期運転での汚損及び腐食のため金属部品の劣化さらには故障を招いて、ガスタービンエンジン全体の運転停止が必要となる事態に至る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
添付の図面及び以下の説明では、ガスタービンエンジン部品上に保護皮膜を設ける新規方法であって、酢酸ニッケル四水和物の飽和溶液を形成する段階と、ガスタービンエンジンの所定の部品の遮熱コーティング上に均一な厚さの皮膜を施工する段階と、被覆した部品を、遮熱コーティング上にNiOの複合保護層を形成するのに十分な温度で空気中で加熱処理する段階とを含む方法について説明する。通常、酢酸ニッケル四水和物の飽和溶液は、遮熱コーティング上に均一なNiO層を形成するのに十分な量の液体として施工され、遮熱コーティングの微視的亀裂に浸透するのに十分な室温での溶解度を有する。
【0012】
NiO層は、ガスタービンエンジンの排気流に存在するバナジウムと反応して固体バナジン酸ニッケルを生成することによって遮熱コーティング中に存在するイットリア安定化化合物と五酸化バナジウムとの反応を実質的に抑制する「犠牲軽減層」を形成する。従って、本発明の例示的な実施形態では、酢酸ニッケル四水和物溶液は、遮熱コーティング中のすべての微視的表面亀裂を完全に充填して封止するのに十分な量で施工され、次いで950°F〜1050°Fの温度の空気炉中で加熱処理が実施される。
【0013】
本発明には、本発明の方法で処理されたガスタービンエンジン部品、すなわち、超合金基材と、超合金基材に施工された遮熱コーティングと、遮熱コーティングの表面に施工された犠牲NiO皮膜とを含む保護皮膜が施工された部品も包含される。本発明には、
ガスタービンエンジン部品の遮熱コーティングに施工された保護皮膜の有効性及び予想耐用年数を評価するための新規方法であって、ガスタービンエンジンの所定の部品と同じ超合金基材及び遮熱コーティング組織を含む試験クーポンに酢酸ニッケル四水和物溶液の均一層を施工する段階と、被覆した試験クーポンを、遮熱コーティング上に一定の厚さのNiOの保護層を形成するのに十分な温度で空気中で加熱処理する段階と、試験クーポンをガスタービンエンジン中の所定の部品に相当する位置に挿入する段階と、ガスタービンエンジンの所定期間の運転後に試験クーポン上に残存するNiO皮膜の量を決定する段階と
を含む方法も包含される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来技術において、所定のTBC部品をバナジウム腐食から保護するため燃料中に存在するバナジウム化合物を抽出するための、慣用ガスタービンエンジンの高温ガス経路の処理プロセスの例を示す概略流れ図である。
【図2】本発明において、所定のガスタービンエンジン部品の遮熱コーティング上に堆積される犠牲軽減層の形成及び経時的評価のために採用される段階の例示的な実施形態を示す概略流れ図である。
【図3】遮熱コーティングとその上に施工されたNiO皮膜を有する本発明の例示的なガスタービンエンジン部品の表面の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ガスタービンエンジンでの、バナジウム化合物を含む炭化水素燃料成分(五酸化バナジウムを生成する傾向がある)の使用に固有の問題に関する別の解決策を提供する。具体的には、本発明は、炭化水素燃料の予備処理にも、炭化水素燃料又は高温ガス流へのNiOの添加にも依拠しない。代わりに、材料の犠牲軽減層を、所定のガスタービンエンジン部品つまり高温セクションを構成する部品の遮熱コーティング上に直接堆積する。犠牲軽減層は、五酸化バナジウムとTBC中に存在するイットリア安定化化合物との経時的反応を効果的に防止又は少なくとも実質的に抑制する。重要な点として、酢酸Niの飽和溶液から保護層を形成し、次いでTBC表面上に直接堆積(実際には「塗工」)することができる。次いで、被覆した部品全体を所定の加熱処理に付して、TBC上に犠牲NiO層を形成する。被覆及び加熱処理段階は、特定の最終用途に応じて、以下で説明するように繰り返してもよい。
【0016】
本発明の一態様による直接施工被覆法は、犠牲軽減層は、五酸化バナジウムとイットリア安定化ジルコニアとの反応を抑制してガスタービンの耐用年数を延ばす傾向があるという点で、高温ガス流(又は炭化水素燃料)にニッケル又はマグネシウムを導入するシステムよりも、多くの点で優れていることが判明した。TBCの表面の酸化ニッケル犠牲層は、NiO層が事実上すべて枯渇してしまうまで、有害反応が実質的に起こるのを防ぐ。
【0017】
犠牲軽減層の層の使用は、さもなければ剥離又は不安定化TBCを生じかねない高温ガス経路部品の予想寿命も増加させる。その結果、商業的観点からは、灰の堆積の問題に対処するためガスタービンエンジンをそれほど点検する必要がなくなり、エンジンを供用から外す必要もなくなる。このような予測運転時間の増加は、多大な商業的利点をもたらし、装置は重大なピーク使用期間中に保守整備を行う必要がない。
【0018】
皮膜成分としての酸化ニッケル自体は、比較的劣る構造材料である。にもかかわらず、酸化ニッケルは、バナジウムと反応して固体バナジン酸ニッケルを形成し、大半のガスタービンエンジンで見込まれる高い運転温度で固体のまま残るので、TBCの有用なトップコートであることが判明した。他方、バナジウムは、公称ガスタービン運転温度で、様々な材料と反応して液体を形成する。これはMgO及びNiOとも反応して固体を生成する。しかし、マグネシウムは、ガスタービン排気中に含まれることの多い化合物である硫酸塩と相互作用を起こし易く、TBC皮膜の候補としてはマグネシウムよりも酸化ニッケルの方が優れていることが判明した。
【0019】
このように、NiOは強度の点では比較的劣る構造材料であると考えられているにもかかわらず、TBC皮膜の表面の保護層として理想的な候補であることが判明した。本発明に従ってTBCに施工され、処理されるNiO皮膜は、皮膜の小さな表面空隙及び亀裂に浸透して封止する。このようにして、最終的な酸化ニッケル層は、五酸化バナジウムがTBCに浸透してイットリアとの反応を防止する。五酸化バナジウムは皮膜の断面全体を通してTBC層に浸透する傾向があるので、本発明は、不都合な反応が同じ断面積全体に進行するのを効果的に防止する。
【0020】
酢酸ニッケル四水和物溶液の例示的な施工プロセス及び関連する浸透方法は、以下の通り要約できる。酢酸ニッケル四水和物の飽和溶液を、比較的均一なNiO微粒子層を形成するのに十分な量でTBCに施工する。次いで、NiOで被覆した部品を、空気中でのNiO被覆部品の加熱処理に付す。好ましくは、飽和溶液は、液体のまま残るマトリックスの形態で施工され、TBCの微視的亀裂中に十分に浸透する溶解度を十分長く維持する。飽和溶液は、遮熱コーティング上に「塗工」することによって、すべてのTBC表面亀裂に浸透し、それらを完全に充填して封止する。通常は、遮熱コーティングの加熱処理の完了後、つまりTBC部分が室温まで冷却した後、露出部分全体を被覆する。
【0021】
亀裂を拡大し、乾燥してNi析出物をNiOへと変換するために、酢酸Ni四水和物で被覆したTBC部品は、空気炉中で950°F〜1050°Fの温度に加熱処理すべきであることが判明した。エンジン部品を、最低限1時間同じ温度に維持し、次いで800°F未満に炉を冷却した後、炉から部品を取り出す。部品に新たな飽和溶液を塗工して、再度すべての残存表面亀裂を浸透及び充填することによって、同じ酢酸ニッケル四水和物浸透プロセスを2回繰り返してもよい。次いで、同様の加熱処理を上述の通り実施する。必要に応じて、一様な構造的健全性を有する均一な皮膜を確実に得るため、浸透プロセス及び加熱処理を3回繰り返してもよい。
【0022】
以下の実施例では、本発明による保護材料のインサイツ層の形成に用いられる基本的なプロセス段階及び条件について説明する。
【0023】
図1は、バナジウムを含む燃料からバナジウムを除去する従来技術のプロセスの例を示す概略図である(かかるプロセスとは大きく異なる本発明と対照的である。)。図1では、燃料源10を、バナジウムを抽出するための吸着材を含む分留装置20に供給する。供給原料を軽質燃料留分60と重質燃料留分70とに分離することによって、燃料を分留装置20で分留する。軽質燃料留分及び気相は分留装置20の頂部から除去され、冷却器(図示せず)に供給される。軽質燃料留分は液体に凝縮され、気相が存在する場合には蒸気状態のまま残る。次いで、凝縮物を分離器90で気相から分離する。気相30が存在する場合には、炎中で燃焼させるか或いは炭化水素ガスの燃焼に適したガスノズルを備えるガスタービン50へと供給される。
【0024】
特に、凝縮した軽質燃料留分60は、バナジウムの量が大幅に低減した液体として形成され、ガスタービン50の燃料として使用し得る。重質燃料留分70は、通例、高いバナジウム含量を有しており、分留装置20の搭底から除去され、廃棄されるか或いは燃料部分酸化又は自己熱分解装置80でバナジウムを除去するためにさらに処理される。通常、バナジウムは部分酸化又は自己熱分解により燃料中で酸化されて固体を形成する。図1に示す通り、次いで、燃料部分酸化装置又は自己熱分解装置80からの固体バナジウム及び灰分を分離器90で処理燃料から分離する。
【0025】
図2は、ガスタービンエンジン部品の遮熱コーティング上に堆積した犠牲軽減層を形成し、経時的に評価するために、本発明で採用する段階の例示的な実施形態を示す概略流れ図である。溶液形成段階100で上述の通り酢酸Ni溶液を作り、次いで酢酸Ni被覆段階110で特定の試験クーポンに所定量施工する。被覆量及び施工条件は、ガスタービンエンジンの対応TBC部品の位置及び構造に応じて、各クーポン毎に若干変更し得る。
【0026】
段階120では、上述の通りTBC内部に浸透させた後、試験クーポンを加熱処理してNiOを形成する。また、種々のクーポンについての正確な加熱処理及び被覆パラメータは、それらのクーポンが存在するガスタービンエンジン内の正確な位置に応じて若干変更し得る。通常、工業用ガスタービン運転条件に供する前に最終皮膜の構造的健全性及び均一な膜厚を担保するため、クーポンを複数回被覆及び加熱処理する。
【0027】
処理後、被覆クーポンを、段階170で特定の位置でガスタービン排気に暴露するが、その取付けは、一定期間後に、ガスタービンエンジンを運転停止することなくクーポンを物理的に取り出して分析することができるように行われる。所定期間運転した後、段階130に示すようにクーポンを取り出して、残存NiO層の正確な量及び組成を決定すればよい。評価期間中に、段階140に示すように、NiO層が十分な厚さを保持していて、NiOマトリックスが劣化していなかった場合(判定線150参照)、クーポンをエンジン内の同じ位置に戻し、被覆試験フィードバック線180で示すように試験を継続する。一方、下地のTBCが危険にさらされるほどの厚さの減少をクーポンが示していれば、試験を「Yes」線160で中断し、定期的保守整備のためのエンジン運転停止を示唆する。上述の通り、本発明のNiO皮膜を用いると、かかる保守整備運転停止から次の運転停止までの期間が延びるはずである。
【0028】
図3は、単一層遮熱コーティングとその上に本発明に従って施工した保護NiO皮膜を有する例示的なガスタービンエンジン部品の表面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。被覆エンジン部品の断面を符号200で示すが、その表面に遮熱コーティング201(イットリア安定化ジルコニアなど)を有している。
【0029】
図3は、TBCに微視的亀裂202及び203が存在することも示しており、そのいくつかは皮膜の外表面まで延在しており、そのためTBCは、TBC中のイットリア安定化化合物と五酸化バナジウムとの反応(つまりガスタービン排気流に存在するバナジウムとのバナジン酸ニッケル生成反応)を受け易い。図3におけるNiO層204は、その下のTBCを不要なバナジン酸塩反応から保護する「犠牲軽減層」をなす。上述の通り、NiO層204は、まず、室温でTBC上に実質的に均一なNiO層を形成するとともに微視的亀裂202及び203に浸透することができる量の酢酸ニッケル四水和物の飽和液体溶液を施工することによって形成される。図3の左下に示す200μm目盛と比較すると、TBC及びNiO層の相対的厚さを知ることができる。特定のエンジン部品及び所望の最終NiO厚さに応じて、上述の通り追加のNiO層を堆積させてもよい。
【0030】
現時点で最も実用的で好ましいと思料される実施形態を例にとって本発明を説明してきたが、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は特許請求の範囲に記載された技術的思想及びその技術的範囲に属する様々な修正及び均等な構成を包含する。
【符号の説明】
【0031】
10 燃料源
20 分留装置
60 軽質燃料留分
70 重質燃料留分
90 分離器
30 気相
50 ガスタービン
80 燃料部分酸化又は自己熱分解装置
200 被覆エンジン部品
201 遮熱コーティング
202 微視的亀裂
203 微視的亀裂
204 NiO層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンエンジン部品に保護皮膜を施工する方法であって、
酢酸ニッケル四水和物の飽和溶液を形成する段階、
ガスタービンエンジンの所定の部品に酢酸ニッケル四水和物溶液の均一層を施工する段階、及び
被覆した部品を、遮熱コーティング上にNiOの保護層を形成するのに十分な温度で空気中で加熱処理する段階
を含む方法。
【請求項2】
前記酢酸ニッケル四水和物の飽和溶液が、ガスタービンエンジン部品の遮熱コーティング上に均一なNiO層を加熱処理後に形成するのに十分な量の液体として施工される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酢酸ニッケル四水和物の飽和溶液が、遮熱コーティングの微視的亀裂に浸透するのに十分な室温溶解度を維持する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
酢酸ニッケル四水和物溶液の均一層を施工する段階が、遮熱コーティングを加熱処理して室温に冷却しておいた後に実施される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記NiO層が、五酸化バナジウムと遮熱コーティング中に存在するイットリア安定化化合物との反応を実質的に抑制する犠牲軽減層を形成する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記NiOが、ガスタービンエンジンの排気流に存在するバナジウムと反応して固体バナジン酸ニッケルを形成する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記酢酸ニッケル四水和物溶液が、遮熱コーティングの表面のすべての微視的表面亀裂を完全に充填して封止するのに十分な量で施工される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
被覆したガスタービンエンジン部品を加熱処理する段階が950°F〜1050°Fの温度の空気炉中で実施される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
被覆したガスタービンエンジン部品を加熱処理する段階が、遮熱コーティング中の微視的表面亀裂を拡げて、拡大した亀裂に酢酸ニッケル四水和物溶液が浸透できるようにする、請求項1記載の方法。
【請求項10】
酢酸ニッケル四水和物溶液が遮熱コーティング中の微視的表面亀裂に浸透し、そこで皮膜が乾燥してNiが析出してNiOを生成する、請求項7記載の方法。
【請求項11】
ガスタービンエンジン部品を同じ温度に約1時間以上保持し、次いで、800°F未満に炉内冷却した後、炉から部品を取り出す、請求項1記載の方法。
【請求項12】
酢酸ニッケル四水和物溶液の第2の皮膜を施工して、ガスタービンエンジン部品中の残存表面亀裂に浸透させて充填し、次いで被覆した部品に2度目の加熱処理を行うことをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
酢酸ニッケル四水和物溶液の第3の皮膜を施工して、ガスタービンエンジン部品中の残存表面亀裂に浸透させて充填し、次いで被覆した部品に3度目の加熱処理を行うことをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
2度目に被覆したガスタービンエンジン部品を加熱処理する段階が950°F〜1050°Fの温度の空気炉中で実施される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
3度目に被覆したガスタービンエンジン部品を加熱処理する段階が950°F〜1050°Fの温度の空気炉中で実施される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
酢酸ニッケル四水和物溶液が、遮熱コーティング上に室温でスプレー塗工され、次いで加熱処理される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
保護皮膜が施工されたガスタービンエンジン部品であって、
超合金基材と、
超合金基材に施工された遮熱コーティングと、
遮熱コーティングの表面に施工された犠牲NiO皮膜と
を含むガスタービンエンジン部品。
【請求項18】
遮熱コーティングがMCrAlyの耐酸化性ボンドコートを含む、請求項17記載のガスタービンエンジン部品。
【請求項19】
ガスタービンエンジン部品の遮熱コーティングに施工された保護皮膜の有効性及び予想耐用年数を評価する方法であって、
ガスタービンエンジンの所定の部品と同じ超合金基材及び遮熱コーティング組織を含む試験クーポンに酢酸ニッケル四水和物溶液の均一層を施工する段階と、
被覆した試験クーポンを、遮熱コーティング上に一定の厚さのNiOの保護層を形成するのに十分な温度で空気中で加熱処理する段階と、
試験クーポンをガスタービンエンジン中の所定の部品に相当する位置に挿入する段階と、
ガスタービンエンジンの所定期間の運転後に試験クーポン上に残存するNiO皮膜の量を決定する段階と、
NiO皮膜の厚さを、所定の部品に割り当てられた特定のNiO目標値と比較する段階と、
NiOの厚さレベルの1つ以上がNiO目標値を下回る場合に、試験クーポンを取り出して、ガスタービンエンジンを運転停止する段階と
を含む方法。
【請求項20】
酢酸ニッケル四水和物の均一層を施工する段階、及びコーティングされた試験クーポンを加熱処理する段階が繰り返される、請求項19記載の評価する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−60661(P2013−60661A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−199091(P2012−199091)
【出願日】平成24年9月11日(2012.9.11)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】