説明

遮熱吸音材とその製造方法及び遮熱吸音構造物

【課題】遮熱性能と吸音性能とを併せ持つ遮熱吸音材を提供する。
【解決手段】弾性を有する繊維状又は壁状の骨格と骨格どうしの間に形成された空孔とを有する基材と、基材の表面の少なくとも一部で骨格の表面にバインダーを介して一体的に固着された鱗片状粉末と、からなり、鱗片状粉末の少なくとも平坦表面は熱線に対する反射率が95%以上の金属からなり、基材の表面には空孔の開口と鱗片状粉末とが表出している。空孔によって吸音性能が発現され、鱗片状粉末によって遮熱性能が発現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射熱を反射する特性と共に吸音特性を併せ持つ遮熱吸音材と、その遮熱吸音材を製造する方法及びその遮熱吸音材を有する遮熱吸音構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車車室内の静粛性の改善が求められ、エンジンルームからの騒音、風切り音、タイヤからの騒音などが車室内へ進入するのを抑制する手段が種々採用されている。例えばエンジンルームからの騒音が車室内へ進入するのを抑制する一つの手段として、ダッシュパネルの車室側表面に沿ってダッシュサイレンサーを配置することが行われている。
【0003】
このダッシュサイレンサーは、例えばフェルト層とPVC製などのシート層が積層されたものであり、フェルト層がダッシュパネル側に配置され、シート層が車室側に配置されて用いられる。そしてフェルト層がダッシュパネルの振動を制振するとともに騒音を吸音する吸音層として作用し、フェルト層を通過した音波がシート層で反射して再びフェルト層へ向かって吸音される。つまりシート層は、遮音層として作用している。また遮音効果を向上させるために、シート層には充填材の混入により質量を高めたものが用いられている。
【0004】
ところで遮音性能及び吸音性能をさらに向上させるには、ダッシュパネルのエンジンルーム側表面にもサイレンサーを配置することが望ましい。しかしながらダッシュサイレンサーと同じものをダッシュパネルのエンジンルーム側表面に配設した場合には、エンジンからの輻射熱が直接伝わるために、PVC製などのシート層が溶融するなどの問題が生じる。そこでシート層に代えてアルミニウム箔を積層することが行われている。アルミニウム箔によって遮熱性能が発現され、フェルト層の熱劣化を防止することができる。
【0005】
しかしアルミニウム箔を積層した部位では、フェルト層のみの場合に比べて吸音性能が損なわれるという問題がある。またアルミニウム箔は、フェルト層の成形形状に追従しにくく、積層時に割れや皺が発生しやすい。そのためその補修に手間がかかるという問題があった。そこで特開2010−101234号公報には、フェノール系レジンフェルトなどの多孔質材料からなる基層と、耐熱性有機繊維材料を不織布用繊維材料に混ぜてなる混合繊維製の表皮層とからなるエンジン用インシュレータが提案されている。このインシュレータによれば、従来のダッシュサイレンサーと同等の吸音性能を有すると共に、表皮層が高い耐熱性を有するので、ダッシュパネルのエンジンルーム側表面に用いることができる。したがって自動車車室内の静粛性がさらに向上する。
【0006】
また特開2006−321053号公報には、セラミック短繊維と無機粒子とを含むシート状の耐熱部材に、耐熱性有機繊維の短繊維をニードルパンチングした耐熱性吸音断熱材が提案されている。この耐熱性吸音断熱材は、上記のエンジン用インシュレータとして好適に用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−101234号公報
【特許文献2】特開2006−321053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年の自動車では、車体の小型化と室内空間の拡大に伴い、エンジンルームの容積は縮小化の傾向にある。そうするとエンジンとダッシュパネルなどとの距離が小さくなり、インシュレータへの輻射熱が高くなる。ところが上記特許文献に記載された材料をインシュレータとして用いた場合には、当然ながら、アルミニウム箔をもつものに比べて遮熱性能が低いために、フェルト層などの基層が熱劣化することが懸念される。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、吸音性能と遮熱性能とが両立した遮熱吸音材を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の遮熱吸音材の特徴は、弾性を有する繊維状又は壁状の骨格と骨格どうしの間に形成された空孔とを有する基材と、基材の表面の少なくとも一部で骨格の表面にバインダーを介して一体的に固着された鱗片状粉末と、からなり、
鱗片状粉末の少なくとも平坦表面は熱線に対する反射率が95%以上の金属からなり、基材の鱗片状粉末が固着した表面には空孔の開口と鱗片状粉末とが表出していることにある。
【0011】
また本発明の遮熱吸音材の製造方法の特徴は、ビヒクルと、少なくとも平坦表面が熱線に対する反射率が95%以上の金属からなる鱗片状粉末と、溶媒又は分散媒と、を含有してなる塗料組成物を、弾性を有する繊維状又は壁状の骨格と骨格どうしの間に形成された空孔とを有する基材の表面に塗布し乾燥するにあたり、空孔の開口がビヒクルの被膜で覆われない条件下で塗布することにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遮熱吸音材及び遮熱吸音構造物によれば、基材の表面には空孔の開口と鱗片状粉末とが表出している。したがって鱗片状粉末による熱線の反射によって遮熱性能が発現されるとともに、空孔内へ進入した音波のエネルギーが骨格の振動による熱エネルギーに変換されることで吸音性能が発現される。
【0013】
また本発明の遮熱吸音材の製造方法によれば、エアスプレー法や印刷法などを用いて塗布するだけで遮熱吸音材を製造できるので、安定した品質の遮熱吸音材を容易かつ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例で用いた基材の模式的な断面図である。
【図2】実施例1に係る遮熱吸音材の表面の顕微鏡写真である。
【図3】実施例で用いた基材の表面の顕微鏡写真である。
【図4】実施例1に係る遮熱吸音材の表面を示す模式的な説明図である。
【図5】実施例において遮熱吸音材の遮熱特性を測定する方法を示す説明図である。
【図6】加熱時間と温度との関係を示すグラフである。
【図7】周波数と吸音率との関係を示すグラフである。
【図8】実施例5に係る遮熱吸音材の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の遮熱吸音材は、基材と、基材にバインダーを介して固着された鱗片状粉末とからなる。基材は、弾性を有する繊維状又は壁状の骨格と骨格どうしの間に形成された空孔とを有するものであり、織布、不織布、紙類、ポリウレタン発泡体、ポリオレフィン発泡体など、吸音性能を有するものを用いることができる。吸音性能の指標としては目付量、通気度などがあり、目的、用途に応じて各種の値で設計される。
【0016】
鱗片状粉末は、少なくともその平坦表面が熱線に対する反射率95%以上の金属から形成されたものであり、鱗片状の金属粉末あるいは、ガラス、雲母、タルクなどの鱗片状粉末表面に金属光輝層を形成した粉末などを用いることができる。
【0017】
熱線に対する反射率が95%以上の金属としては、アルミニウム、金、銀、インジウム、銅などが例示される。中でも、波長4μmの遠赤外線の反射率が99%と高いアルミニウムが最も望ましい。なお熱線とは、近赤外線、中赤外線、遠赤外線をいい、一部の可視光も含まれる。また雲母、タルクなどの鱗片状粉末表面に金属光輝層を形成するには、蒸着法、スパッタリング法などのPVD法、あるいは無電解めっきなどのCVD法を用いて形成することができる。
【0018】
またベースフィルムの表面に蒸着法などを用いて薄い金属層を形成し、ベースフィルムから金属層を剥離した後に粉砕して鱗片状粉末とすることもできる。
【0019】
鱗片状粉末の形態としては、アスペクト比が10〜500の範囲にあることが望ましく、厚さは0.1μm〜5μmの範囲にあることが望ましい。アスペクト比が10より小さいと、塗布時に配向しにくくなり遮熱性能が低下する。またアスペクト比が500より大きくなると、スプレー塗布などが困難となる。さらに鱗片状粉末の厚さが0.1μmより薄くなると、塗料組成物の製造時に破損してアスペクト比が小さくなる場合があり、5μmより厚くなると鱗片状粉末の固着性が低下して基材から脱落する場合もある。
【0020】
鱗片状粉末は、基材の表面の少なくとも一部で骨格の表面にバインダーを介して固着されている。バインダーとしては、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、熱可塑性エラストマなどの熱可塑性樹脂、BR、SBR、NBR、CR、EPDM、フッ素ゴムなどのゴム類など、溶媒又は分散媒が蒸発することで被膜を形成するものを用いることができる。場合によっては、ポリオールとイソシアネートからなるウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、などの熱硬化性樹脂を用いることも可能である。できるだけ赤外線の吸収率が低いものを選択することが望ましい。
【0021】
鱗片状粉末が固着する範囲は、基材の全面でもよいし一部表面(塗布表面)のみに固着していてもよい。すなわち、熱源に対向している表面のみに鱗片状粉末を固着させれば、その部位にのみ遮熱性能を付与することができる。また鱗片状粉末によって吸音性能が若干阻害される場合であっても、部分的に固着することで、塗布表面以外の鱗片状粉末が存在しない部分では最大の吸音性能が発現し、遮熱性能と吸音性能とが両立する。
【0022】
鱗片状粉末は基材の表面の一部又は全面にバインダーと共に塗布され、基材の塗布表面の80%以下が鱗片状粉末で覆われていることが望ましい。基材の塗布表面が80%を超えて鱗片状粉末で覆われると、吸音性能が低下して実用的でない。
【0023】
また空孔の開口の最大径は、鱗片状粉末の最大径より小さいことが望ましい。こうすることで鱗片状粉末が空孔内へ入り込むのが防止され、骨格の表面に確実に固着させることができる。
【0024】
ここで空孔の開口の最大径は、基材の空孔の開口径だけでなく、基材に鱗片状粉末が固着して基材自体の空孔の開口径が鱗片状粉末で覆われて開口が狭くなったときの開口径を含むものである。鱗片状粉末で基材自体の空孔の開口が覆われることによって、その上から塗布される鱗片状粉末が空孔内へ入り込むのが防止でき熱反射が効率よく行える。さらに基材表面は、鱗片状粉末で完全に被覆されずに開口を有しているため吸音性能を発現させることができる。
【0025】
本発明の遮熱吸音材は、厚さ方向のフラジール通気度が1.0cm3/cm2.s以上であることが望ましい。通気度がこれより低いと吸音性能が大幅に低下し実用的でない。さらに、基材の表面に表出する開口の総面積と鱗片状粉末の総面積との比が20/80〜90/10の範囲にあることが望ましい。この比がこの範囲より小さいと吸音性能が大幅に低下し、この比がこの範囲より大きくなると遮熱性能が低く実用的でない。
【0026】
鱗片状粉末をバインダーを介して骨格の表面に固着するには各種方法が考えられるが、ビヒクルと、少なくとも平坦表面が熱線に対する反射率が95%以上の金属からなる鱗片状粉末と、溶媒又は分散媒と、を含有してなる塗料組成物を、基材の表面に塗布し乾燥する方法が特に好適である。塗布方法としては、スクリーン印刷などの印刷法、刷毛やロールで塗布する方法、エアスプレー法など、従来の塗料やインキの塗布方法を用いることができる。このように塗布する方法を用いることで、前述したように鱗片状粉末を基材の部分的に固着させることを容易に行うことができる。また吐出量、粘度などを制御することで、安定した品質の遮熱吸音材を容易にかつ安価に製造することができる。
【0027】
塗料組成物は、水性塗料、有機溶媒型塗料など、溶媒又は分散媒を含む液状塗料である。塗料組成物のビヒクルとしては、前述のバインダーと同様のものを用いることができる。この塗料組成物としては、水系エマルジョンを用いることが特に好ましい。水は揮発しにくいため塗布されたウェット塗膜中において鱗片状粉末が基材の表面に沿うように配向し易くなり、鱗片状粉末が骨格の表面を覆い易くなるとともに遮熱性能が向上する。この水系エマルジョンとしては、アクリルエマルジョン、シリコンアクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョン、ウレタンアクリルエマルジョン、SBRエマルジョン、エポキシエマルジョンなどが例示され、また、水ガラス、コロイダルシリカ、シリケートなどの無機バインダも用途に応じて各種選択して用いることができる。
【0028】
本発明の製造方法においては、空孔の開口がビヒクルの被膜で覆われない条件下で塗布することが重要である。空孔の開口がビヒクルの被膜で覆われると、音波が空孔内へ進入できないため吸音性能が大幅に低下してしまう。空孔の開口がビヒクルの被膜で覆われないように塗布するには、塗布時のビヒクル濃度を低くする、目付量を少なくする、などの方法がある。特に、ビヒクルを固形分で10〜90重量%含む塗料組成物を用い、乾燥時の目付量が10〜200g/m2の範囲となるように塗布することが好ましい。このようにすれば、塗布時に空孔の開口に被膜が形成されたとしても、乾燥中に溶媒又は分散媒が揮散することによる体積収縮によって、乾燥後には空孔の開口に被膜が残らない。
【0029】
塗料組成物には、ビヒクル及び鱗片状粉末以外の他の固形分は極力含まないことが望ましい。他の固形分が存在すると、他の固形分が熱を吸収するため塗布層の温度が高くなり、遮熱性能が低下してしまう。しかしながら塗料組成物には、タレ止め剤、シランカップリング剤、可塑剤などの各種助剤、有機・無機顔料、体質顔料などの顔料などを、遮熱性能及び吸音性能に影響の無い範囲で含むこともできる。
【0030】
本発明の遮熱吸音構造物は、被遮熱体の表面に本発明の遮熱吸音材を備えている。被遮熱体としては特に制限されず、例えば自動車床下の排気管に対向する部位、エンジンルームのエンジンに対向する部品やダッシュパネルなど、熱源に対向して配置されるものが例示される。
【0031】
被遮熱体の表面に遮熱吸音材を配置するには、接着、粘着、機械的要素による接合など公知の方法を採用することができる。また被遮熱体の材質は、金属、樹脂、ゴムなど特に制限されない。
【0032】
以下、実施例、比較例及び試験例により本発明の実施態様を具体的に説明する。
【実施例1】
【0033】
固形分:50質量%、Tg:−16℃、粒子径:220nmのスチレン・ブタジエンゴム(SBR)エマルジョン(「A7032」旭化成ケミカルズ社製)を62.5質量%と、径:54μm、厚さ:0.5μmの鱗片状アルミニウム粉末を60質量%含む水性アルミペースト(「Hydrolan−212」エカルト社製)を37.5質量%とを混合し、ミキサーで撹拌して本実施例の遮熱塗料組成物を調製した。この遮熱塗料組成物には、全固形分中に鱗片状アルミニウム粉末が41.9質量%、体積比で20.7体積%含まれている。
【0034】
次に、図1に示すように、基層10と表皮層11とからなる基材1を用意した。この基材1は、ダッシュパネルのエンジンルーム側表面に貼着されてアウターインシュレータとして用いられるものである。基層10は、1200g/m2の目付量を有するフェノール系レジンフェルトからなる。また表皮層11は、特殊酸化アクリル系繊維(「パイロメックス」東邦テナックス社製)とポリエステル繊維との混合物をウェブ化し、それにウォータージェットを噴射することで各繊維を交絡させて形成されたスパンレース不織布からなる。表皮層11における特殊酸化アクリル系繊維とポリエステル繊維との混合比は、体積比で特殊酸化アクリル系繊維:ポリエステル繊維=80:20であり、総目付量は60g/m2である。
【0035】
続いて上記で調製された遮熱塗料組成物を用い、エアスプレーにて基材1の表皮層11の表面に塗布した。これを室温で30分乾燥した後、120℃で20分間乾燥して、本実施例の遮熱吸音材を得た。乾燥後の塗布目付量は36g/m2であり、JIS L 1096に規定されるフラジール通気度は131cm3/cm2.sであった。この遮熱吸音材の表面の顕微鏡写真を図2に、塗装前の表皮層11の表面の顕微鏡写真(比較例1の吸音材と同一)を図3に示す。
【0036】
遮熱吸音材の表面では、図4に模式的に示すように、白く写る鱗片状アルミニウム粒子2がSBRを介して繊維12(骨格)の表面に固着し、繊維12の一部又は全部がSBRで被覆されているものの、繊維12間に形成されている空孔にはSBR膜が形成されず、空孔の開口13が表出している。そして画像解析によって視野中の鱗片状アルミニウム粒子2の総面積と開口13の総面積を算出して計算したところ、表皮層11の表面の15%以下が鱗片状アルミニウム粒子で覆われ、開口13の総面積と鱗片状アルミニウム粒子2の総面積との比は、開口/鱗片状アルミニウム粒子=85/15であった。
【実施例2】
【0037】
実施例1と同様の遮熱塗料組成物を用い、乾燥後の塗装目付量を90g/m2としたこと以外は実施例1と同様にして、本実施例の遮熱吸音材を得た。得られた遮熱吸音材のフラジール通気度は23cm3/cm2.sであった。そして実施例1と同様にして顕微鏡写真を撮影し、画像解析によって視野中の鱗片状アルミニウム粒子の総面積と開口の総面積を算出して計算したところ、表皮層11の表面の25%以下が鱗片状アルミニウム粒子で覆われ、開口の総面積と鱗片状粉末の総面積との比は75/25であった。繊維間に形成されている空孔は、SBR膜が形成されず開口している。
【実施例3】
【0038】
実施例1と同様の遮熱塗料組成物を用い、乾燥後の塗装目付量を165g/m2としたこと以外は実施例1と同様にして、本実施例の遮熱吸音材を得た。得られた遮熱吸音材のフラジール通気度は0.7cm3/cm2.sであった。そして実施例1と同様にして顕微鏡写真を撮影し、画像解析によって視野中の鱗片状アルミニウム粒子の総面積と開口の総面積を算出して計算したところ、表皮層11の表面の80%以下が鱗片状アルミニウム粒子で覆われ、開口の総面積と鱗片状粉末の総面積との比は20/80であった。繊維間に形成されている空孔は、SBR膜が形成されず開口している。
【実施例4】
【0039】
実施例1と同様の遮熱塗料組成物を用い、乾燥後の塗装目付量を93g/m2としたこと以外は実施例1と同様にして、本実施例の遮熱吸音材を得た。得られた遮熱吸音材のフラジール通気度は23.3cm3/cm2.sであった。そして実施例1と同様にして顕微鏡写真を撮影し、画像解析によって視野中の鱗片状アルミニウム粒子の総面積と開口の総面積を算出して計算したところ、表皮層11の表面の25%以下が鱗片状アルミニウム粒子で覆われ、開口の総面積と鱗片状粉末の総面積との比は75/25であった。繊維間に形成されている空孔は、SBR膜が形成されず開口している。
[比較例1]
実施例1で用いた基材1を比較例1の吸音材とした。遮熱塗料組成物は塗装されず、表皮層11の各繊維間に形成されている空孔は開口している。この吸音材のフラジール通気度は152.0cm3/cm2.sであった。
[比較例2]
実施例1で用いた基材1の表皮層11の表面をアルミニウム箔で覆い、比較例2の遮熱吸音材とした。
【0040】
<耐熱試験>
図5に示すように、350℃〜380℃に加熱されたホットプレート3の表面から100mm離れた位置に、遮熱塗料組成物が塗布された表面、又は表皮層11の表面、又はアルミニウム箔の表面がホットプレート3に対向するように、得られた各遮熱吸音材4をそれぞれ配置し、表面温度計5を用いて遮熱吸音材4の裏面温度を時間を追ってそれぞれ測定した。加熱時間と裏面温度との関係をグラフ化した結果を図6に示す。なお、比較例1では3分間の加熱で表皮層11が溶融したため、測定を中断している。
【0041】
図6から、実施例1〜3の遮熱吸音材は、比較例2のアルミニウム箔に比べれば表面温度が高いものの、比較例1に比べると高い遮熱性能を有し、十分な耐熱性を備えていることが明らかである。また実施例4の遮熱吸音材については耐熱試験を行っていないが、遮熱塗料組成物の塗布目付量が実施例2とほぼ同等であることから、実施例2の遮熱吸音材と同等の遮熱性及び耐熱性を有していると考えられる。
【0042】
<吸音試験>
実施例4、比較例1及び比較例2の遮熱吸音材を用い、JIS A 1409に規定する残響室法吸音率試験に基づいて吸音率をそれぞれ測定した。結果を図7に示す。
【0043】
図7より、実施例4の遮熱吸音材は500Hz〜2000Hzの可聴域の吸音性能が比較例1と同等以上であり、700Hz以上の音に対してはアルミニウム箔を用いた比較例2に比べて高い吸音性能を示している。なお鱗片状アルミニウム粒子が空孔の開口を覆う場合もあるのに、実施例4の遮熱吸音材が僅かながら比較例1より吸音性能が向上しているのは、遮熱塗料組成物の塗布によって表皮層11の空孔径が縮小されたこと、SBRによって表皮層11の繊維の弾性が高まったことなどが起因していると考えられる。
【実施例5】
【0044】
本実施例の遮熱吸音材の模式的断面図を図8に示す。この遮熱吸音材は、表皮層11の一部表面にのみ鱗片状アルミニウム粒子2が固着した遮熱層14が形成されている。この遮熱吸音材は、実施例1と同様の基材1の表皮層11の所定部分をマスキングし、実施例1と同様の遮熱塗料組成物を用いてマスキング部以外の表面に実施例1と同様の目付量で塗布し、乾燥することで形成されている。
【0045】
本実施例の遮熱吸音材は、被遮熱体の表面に積層され、遮熱層14が熱源に対向するようにして用いられる。したがって遮熱層14によって熱源からの輻射熱が被遮熱体に伝わるのが防止されるとともに、遮熱層14が形成されていない部位では基材1の吸音特性が最大に発現される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の遮熱吸音材は、自動車分野、建築分野、家電分野など各種分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1:基材 10:基層 11:表皮層
2:鱗片状アルミニウム粒子 12:繊維(骨格)
13:開口 14:遮熱層
3:ホットプレート 4:遮熱吸音材 5:表面温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有する繊維状又は壁状の骨格と該骨格どうしの間に形成された空孔とを有する基材と、該基材の表面の少なくとも一部で該骨格の表面にバインダーを介して一体的に固着された鱗片状粉末と、からなり、
該鱗片状粉末の少なくとも平坦表面は熱線に対する反射率が95%以上の金属からなり、
該基材の該鱗片状粉末が固着した表面には該空孔の開口と該鱗片状粉末とが表出していることを特徴とする遮熱吸音材。
【請求項2】
前記鱗片状粉末は前記基材の表面の一部又は全面に前記バインダーと共に塗布され、前記基材の前記塗布表面の80%以下が前記鱗片状粉末で覆われている請求項1に記載の遮熱吸音材。
【請求項3】
前記開口の最大径は前記鱗片状粉末の最大径より小さい請求項1に記載の遮熱吸音材。
【請求項4】
厚さ方向のフラジール通気度が1.0cm3/cm2.s以上である請求項1に記載の遮熱吸音材。
【請求項5】
前記基材の表面に表出する前記開口の総面積と前記鱗片状粉末の総面積との比が20/80〜90/10の範囲にある請求項1に記載の遮熱吸音材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の遮熱吸音材の製造方法であって、
ビヒクルと、少なくとも平坦表面が熱線に対する反射率が95%以上の金属からなる鱗片状粉末と、溶媒又は分散媒と、を含有してなる塗料組成物を、弾性を有する繊維状又は壁状の骨格と該骨格どうしの間に形成された空孔とを有する基材の表面に塗布し乾燥するにあたり、
該空孔の開口が該ビヒクルの被膜で覆われない条件下で塗布することを特徴とする遮熱吸音材の製造方法。
【請求項7】
前記ビヒクルを固形分で10〜90重量%含む前記塗料組成物を用い、乾燥時の目付量が10〜200g/m2の範囲となるように塗布する請求項6に記載の遮熱吸音材の製造方法。
【請求項8】
被遮熱体の表面に請求項1〜5のいずれかに記載の遮熱吸音材を有することを特徴とする遮熱吸音構造物。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−36383(P2013−36383A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172963(P2011−172963)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【出願人】(509069892)豊和繊維工業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】