説明

遮熱性編物および繊維製品

【課題】優れた遮熱性を有する遮熱性編物および繊維製品を提供する。
【解決手段】単繊維繊度が1.5dtex以下でありかつ艶消し剤を1.0重量%以上含む扁平断面繊維を用いて編物を得た後、必要に応じて繊維製品とする。さらに、2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面繊維と扁平断面繊維以外の他の繊維とで構成され、最外層に扁平断面繊維を配された繊維製品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた遮熱性を有する遮熱性編物および繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、夏場の炎天下などにおいて、太陽光を遮蔽するために、日傘、カーテン、日よけシートなどの繊維製品が使用されている。そして、かかる繊維製品用の織編物としては、酸化チタンなどの艶消し剤を含有する繊維を用いたものや、織編物表面に金属膜を形成したものなどが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、単に艶消し剤を含有する繊維を用いたものでは、遮熱性の点でまだ十分とはいえなかった。特に編物では、編物の組織間空隙により遮熱性が低下するという問題があった。一方、織編物表面に金属膜を形成したものでは、織編物の重量が大きくなってしまい、衣料用途には使えないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−117935号公報
【特許文献2】特開2007−1079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、優れた遮熱性を有する遮熱性編物および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、艶消し剤を含有し、かつ単繊維繊度が小さい扁平断面繊維を用いて編物を得ると、驚くべきことに遮熱性が向上することを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「編物であって、単繊維繊度が1.5dtex以下でありかつ艶消し剤を1.0重量%以上含む扁平断面繊維を含むことを特徴とする遮熱性編物。」が提供される。
その際、前記扁平断面繊維において、単繊維の断面形状が、2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面であることが好ましい。また、前記扁平断面繊維がポリエステル繊維であることが好ましい。また、編物が、前記扁平断面繊維と、前記扁平断面繊維以外の他の繊維とで構成されることが好ましい。かかる他の繊維としては、2種以上の仮撚捲縮加工糸で構成され、30T/m以下のトルクを有する複合糸であることが好ましい。
【0008】
本発明の遮熱性編物において、編物が2層以上の多層構造を有する多層構造編物であって、前記扁平断面繊維が最外層に配されていることが好ましい。また、編物の目付けが200g/m以下であることが好ましい。また、編物に吸水加工が施されていることが好ましい。また、波長700〜1400nmの平均赤外線反射率が62%以上であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記の遮熱性編物を用いてなる、衣料、帽子、カーテン、日傘、サンバイザー、およびテントからなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた遮熱性を有する遮熱性編物および繊維製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明において、単繊維の断面形状として採用することのできる、くびれ部を有する扁平断面形状を模式的に例示したものである。
【図2】実施例1で用いた編組織図である。
【図3】実施例2で用いた編組織図である。
【図4】実施例3で用いた編組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明で用いる扁平断面繊維において、単繊維繊度が1.5dtex以下(好ましくは0.000001〜1.5dtex)であることが肝要である。該単繊維繊度が1.5dtexよりも大きい場合、繊維間空隙が大きくなり遮熱性が低下するおそれがあり、また、軽量性も損なわれるおそれがあるため好ましくない。その際、前記扁平断面繊維はナノファイバーと称される単繊維径1000nm以下の超極細繊維であってもよい。
【0012】
また、前記扁平断面繊維において、単繊維の断面形状は、外接円の直径が内接円の直径よりも大であればよい。なかでも、図1に模式的に示すような、2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面を採用すると、編物とした場合の組織間空隙を小さくすることができ、遮熱性が向上し好ましい。なお、断面扁平度とは、図1に示す、長辺の長さ(B)と短辺の長さ(C1)との比(B/C1)である。また、くびれ部とは図1に模式的に示すように、短辺の長さが短くなっている部分のことである。かかるくびれ部において、凹部の深さとしては、短辺の長さの最大値と最小値の比(C1/C2)で、1.05以上(好ましくは1.1〜2.0)となる深さであることが好ましい。なお、図1は、くびれ部が3個所の場合を例示するものである。
【0013】
前記扁平断面繊維において、繊維形態は特に限定されず、長繊維(マルチフィラメント)でもよいし、短繊維でもよい。なかでも、編物の組織間空隙を小さくして優れた遮熱効果が得る上で、紡績糸のように繊維が凝集しているよりも長繊維(マルチフィラメント糸)のように嵩高であるほうが好ましい。その際、かかるマルチフィラメントにおいて、優れた遮熱効果を得る上でフィラメント数は多いほどよく30本以上(より好ましくは30〜10000本)であることが好ましい。また、総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、25〜55dtexの範囲内であることが好ましい。該総繊度が25dtexよりも小さいと遮熱性が損なわれるおそれがある。逆に、該総繊度が55dtexよりも大きいと軽量性が損なわれるおそれがある。なお、かかるマルチフィラメントに仮撚捲縮加工や空気加工を施すと嵩高となり遮熱性が向上し好ましい。
【0014】
前記扁平断面繊維を形成するポリマーとしては、ポリエステル系ポリマーやポリアミド系ポリマーやポリオレフィン系ポリマーなどの通常の繊維形成性ポリマーでよいが、耐候性や繊維強度の点でポリエステル系ポリマーが好ましい。
【0015】
かかるポリエステル系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2009−091694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
【0016】
該ポリマー中には、艶消し剤(二酸化チタン)がポリマー重量対比1.0重量%以上(より好ましくは1.0〜5.0重量%)含まれることが肝要である。艶消し剤の含有量が1.0重量%よりも小さいと、十分な遮熱性が得られないおそれがあり、好ましくない。また、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0017】
本発明の遮熱性編物は前記扁平断面繊維を含む編物である。その際、前記扁平断面繊維の含有量は、優れた遮熱性を得る上で、編物の総重量対比20重量%以上(より好ましくは20〜80重量%)であることが好ましい。
その際、前記扁平断面繊維と他の繊維とで編物を構成してもよく、かかる他の繊維としては、2種以上の仮撚捲縮加工糸(例えばS方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸)で構成される30T/m以下(好ましくは0T/m)のトルクを有する複合糸が含まれていると、編物が嵩高となり、遮熱性がさらに向上し好ましい。
【0018】
かかる複合糸は例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、糸条を第1ローラ、セット温度が90〜220℃(より好ましくは100〜190℃)の熱処理ヒータを経由して撚り掛け装置によって施撚することによりone heater仮撚捲縮加工糸を得てもよいし、必要に応じてさらに第2ヒーター域に導入して弛緩熱処理することによりsecond heater仮撚捲縮加工糸を得てもよい。仮撚加工時の延伸倍率は、0.8〜1.5の範囲が好ましく、仮撚数は、仮撚数(T/m)=(32500/(Dtex)1/2)×αの式においてα=0.5〜1.5が好ましく、通常は0.8〜1.2位とするのがよい。ただし、Dtexとは糸条の総繊度である。用いる撚り掛け装置としては、デイスク式あるいはベルト式の摩擦式撚り掛け装置が糸掛けしやすく、糸切れも少なくて好ましいが、ピン方式の撚り掛け装置であってもよい。また、施撚の方向により、仮撚捲縮加工糸が有するトルクをS方向かZ方向か選択することができる。次いで、2種以上の仮撚捲縮加工糸を合糸することにより前記複合糸が得られる。
【0019】
かかる複合糸には、インターレース加工により交絡が付与されていることが好ましい。交絡(インターレース)の個数は、ソフトな風合いやストレッチ性を損なわないために30〜90個/mの範囲内であることが好ましい。該個数が90個/mよりも大きいとソフトな風合いやストレッチ性が損なわれるおそれがある。逆に、該個数が30個/mよりも小さいと複合糸の集束性が不十分となり、製編性が損なわれるおそれがある。なお、交絡処理(インターレース加工)は通常のインターレースノズルを用いて処理したものでよい。
【0020】
トルクは小さいほど好ましくノントルク(0T/m)が最も好ましい。このようにノントルクとするには、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向の仮撚捲縮加工糸とを合糸する際、トルクの方向が異なること以外は同じトルクを有する2種の仮撚捲縮加工糸を使用するとよい。
【0021】
また、他の繊維として、特開2007−291567号公報に記載の、単糸繊維径が1000nm以下の繊維(「ナノファイバー」と称することもある。)、特開2005−36374号公報に記載の、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維、または該ポリエーテルエステル繊維を含む複合糸、特開2006−118062号公報に記載の、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型に接合された複合繊維などを含ませることも好ましいことである。なかでも、吸水性を高める上で単糸繊維径が1000nm以下(好ましくは10〜1000nm、より好ましくは510〜800nm)の繊維が特に好ましい。
【0022】
単糸繊維径が1000nm以下の繊維としては、海島型複合繊維の海成分を溶解除去したものが好ましい。その際、海島型複合繊維としては、特開2007−2364号公報に開示された海島型複合繊維マルチフィラメント(島数100〜1500)が好ましく用いられる。
【0023】
ここで、海成分ポリマーとしては、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0024】
一方、島成分ポリマーは、繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0025】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。また、島成分の径は、10〜1000nmの範囲とすることが好ましい。その際、該径が真円でない場合は外接円の直径を求める。前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。
【0026】
かかる海島型複合繊維マルチフィラメントは、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。吐出された海島型断面複合繊維マルチフィラメント糸は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。さらに、仮撚捲縮加工を施してもよい。かかる海島型複合繊維マルチフィラメントにおいて、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5〜10.0dtex、フィラメント数5〜75本、総繊度30〜170dtex(好ましくは30〜100dtex)の範囲内であることが好ましい。
【0027】
次いで、かかる海島型複合繊維マルチフィラメントを、必要に応じて布帛とした後に、アルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維マルチフィラメントの海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維マルチフィラメントを単糸繊維径が1000nm以下の繊維とする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度1〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜70℃の温度で処理するとよい。
【0028】
本発明の遮熱性編物において、編物組織は特に限定されず、例えば、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。なかでも、優れた遮熱性を得る上で、編物を2層以上の多層構造を有する多層構造編物とし、前記扁平断面繊維を最外層に配することは好ましい。
【0029】
本発明の編物は、例えば以下の製造方法により製造することができる。例えば、扁平断面に穿孔された口金を使用し、固有粘度が0.55〜0.80の前記ポリエステルに、艶消し剤をポリエステル重量に対して1.0重量%以上ブレンドしたチップを、常法により紡糸し、2000〜4300m/分の速度で未延伸糸(中間配向糸)として一旦巻き取り、延伸するか、または、巻き取る前に延伸してポリエステルマルチフィラメントを得る。また、中間配向糸を、180〜200℃に加熱されたヒーターを用いて、弛緩状態(オーバーフィード1.5〜10%)で熱処理することにより、加熱下で自己伸長性を有する未延伸糸(中間配向糸)としてもよい。さらには、仮撚捲縮加工や空気加工や撚糸などを施してもよい。
【0030】
次いで、該扁平断面繊維を用いて、通常の編機(トリコット機、ラッセル機、丸編機など)により編物を製編することにより、本発明の遮熱性編物を製造することができる。
ここで、編物に、常法の染色加工、吸水加工、カレンダー加工、撥水加工、さらには、常法の起毛加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工、バッフィング加工またはブラシ処理加工を付加適用してもよい。
かかる遮熱性編物において、優れた遮熱性と軽量性とを両立させる上で目付けが200g/m以下(より好ましくは30〜160g/m)であることが好ましい。
【0031】
かくして得られた編物は、優れた遮熱性を有する。その理由は、扁平断面繊維に含まれる艶消し剤により近赤外線が反射されると同時に、扁平断面繊維の単繊維繊度が小さく、かつ単繊維の断面形状が扁平であるため、編物の組織間空隙が小さくなり近赤外線が透過しにくいためであろうと推定している。
【0032】
ここで、編物の平均赤外線反射率としては、島津製作所製「UV3100S MPC−3100」で、波長700〜1400nmの平均赤外線反射率が62%以上であることが好ましい。また、遮熱性としては、下記の方法で測定して46℃以下であることが好ましい。すなわち、黒画用紙の5mm上に試料を保持し、試料側からランプ光を照射して裏面の画用紙中央の温度を熱電対で測定する。
使用ランプ:岩崎電気(株)製アイランプ<スポット>PRS100V500W
照射距離:50cm
照射時間:15分間
試験室温度:18〜22℃
【0033】
次に、本発明の衣料は、前記の編物を用いてなる繊維製品である。かかる繊維製品は前記の編物を用いているので、優れた遮熱性を有する。なお、かかる繊維製品には、衣料(例えば、スポーツ用衣料、インナー用衣料など)、帽子、カーテン、日傘、サンバイザー、テントなどが含まれる。かかる繊維製品は前記の遮熱性編物を用いているので優れた遮熱性を有する。
【実施例】
【0034】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0035】
(1)編物の目付
JIS L1096 6.4.2に従って測定した。
【0036】
(2)近赤外線の反射率
島津製作所製「UV3100S MPC−3100」で、波長700〜1400nmの範囲の近赤外線に対する平均反射率を測定した。反射率が62%以上であれば良好とする。
【0037】
(3)遮熱性
黒画用紙の5mm上に試料を保持し、試料側からランプ光を照射して裏面の画用紙中央の温度を熱電対で測定した。46℃以下であると良好とする。
使用ランプ:岩崎電気(株)製アイランプ<スポット>PRS100V500W
照射距離:50cm
照射時間:15分間
試験室温度:18〜22℃
【0038】
(4)捲縮率
供試糸条を、周長が1.125mの検尺機のまわりに巻きつけて、乾繊度が3333dtexのかせを調製した。前記かせを、スケール板の吊り釘に懸垂して、その下部分に6gの初荷重を付加し、さらに600gの荷重を付加したときのかせの長さL0を測定する。その後、直ちに、前記かせから荷重を除き、スケール板の吊り釘から外し、このかせを沸騰水中に30分間浸漬して、捲縮を発現させる。沸騰水処理後のかせを沸騰水から取り出し、かせに含まれる水分をろ紙により吸収除去し、室温において24時間風乾する。この風乾されたかせを、スケール板の吊り釘に懸垂し、その下部分に、600gの荷重をかけ、1分後にかせの長さL1aを測定し、その後かせから荷重を外し、1分後にかせの長さL2aを測定する。供試フィラメント糸条の捲縮率(CP)を、下記式により算出する。
CP(%)=((L1a−L2a)/L0)×100
【0039】
[実施例1]
艶消し剤としての二酸化チタンを2.5重量%含むポリエチレンテレフタレートを4つ山扁平断面(くびれ部3個所)に穿孔された口金より、紡糸温度300℃で紡出し、4000m/minで引き取り、一旦巻き取ることなく引き続き1.3倍に延伸し、扁平断面繊維(A)として、フィラメントの横断面形状が図1に示すような、くびれ部(短辺の長さCの最大/最小=1.2)を3個所有する扁平断面(断面扁平度3.2)のポリエステルマルチフィラメント44dtex/36fil(単繊維繊度1.2dtex)を得た。一方、ポリウレタン弾性糸22dtex/1fil(B)を用意した。
次いで、36ゲージの丸編シングル機を使用して、上記、扁平断面繊維(A)とポリウレタン弾性糸(B)とを用いて、ポリウレタン弾性糸(B)をドラフト率2.5倍にドラフトしながら図2に示す編組織に従って、天竺リバーシブル編物を編成した。その際、生機の密度は、60コース/2.54cm、48ウェール/2.54cm、目付98g/mであった。次いで、上記編物に通常の染色仕上げ加工(130℃かつ30分間の高圧染色、最終セットとして170℃の乾熱セット)を施した。得られた編物は、目付150g/m、反射率74%、遮熱性39℃であり、遮熱性に優れた編物であった。
次いで、該編物を用いてスポーツ用衣料(Tシャツ)を得て着用したところ、遮熱性に優れ、軽量性にも優れていた。
【0040】
[実施例2]
通常のポリエチレンテレフタレート(艶消し剤の含有率0.3重量%)を用いて通常の紡糸装置から280℃で溶融紡糸し、2800m/分の速度で引取り、延伸することなく巻取り、半延伸されたポリエステル糸条56dtex/12fil(単糸繊維の断面形状:丸断面)を得た。
次いで、該ポリエステル糸条を用いて、延伸倍率1.6倍、仮撚数2500T/m(S方向)、ヒーター温度180℃、糸速350m/分の条件で同時延伸仮撚捲縮加工を行った。
また、前記ポリエステル糸条を用いて、延伸倍率1.6倍、仮撚数2500T/m(Z方向)、ヒーター温度180℃、糸速350m/分の条件で同時延伸仮撚捲縮加工を行った。
次いで、これらS方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とを合糸して空気交絡処理を行い、複合糸(B)(66dtex/24fil、捲縮率7%、トルク0T/m)を得た。空気交絡処理は、インターレースノズルを用い、オーバーフィード率1.0%、圧空圧0.3MPa(3kgf/cm)で60個/mの交絡を付与した。
次いで、28ゲージの丸編ダブル機を使用して、実施例1と同じ扁平断面繊維(A)と上記複合糸(B)と通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸84dtex/72fil(C)とを用いて、図3に示す編組織に従って、裏鹿の子編物を編成した。生機の密度は、46コース/2.54cm、32ウェール/2.54cm、目付90g/mであった。次いで、上記編物に通常の染色仕上げ加工(130℃かつ30分間の高圧染色、最終セットとして170℃の乾熱セット)を施した。得られた編物は、表面がCで構成され、裏面がAとBで構成された2層構造の編物であった。得られた編物は、目付110g/m、反射率65%、遮熱性44℃であり、遮熱性に優れた編物であった。
次いで、該編物を用いてスポーツ用衣料(Tシャツ)を得て着用したところ、遮熱性に優れ、軽量性にも優れていた。
【0041】
[実施例3]
28G丸編みダブル機を使用して、実施例1と扁平断面繊維(A)と複合糸(B)とを用いて、図4に示す編組織でハニカムメッシュ組織を編成した。生機の密度42コース/2.54cm、32ウェール/2.54cm、目付106g/mであった。
得られた編物は、表面がBで構成され、裏面がAとBで構成された2層構造の編物であった。得られた編地は、目付127g/m、反射率69%、遮熱性42℃で、遮熱性に優れた編物であった。
次いで、該編物を用いてスポーツ用衣料(Tシャツ)を得て着用したところ、遮熱性に優れ、軽量性にも優れていた。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、扁平断面繊維(A)に含まれる艶消し剤の含有量を0.3重量%に変更すること以外は実施例1と同様に実施した。
得られた編物において、平均赤外線反射率が49%、遮熱性が56.3℃と遮熱性に劣るものであった。
【0043】
[比較例2]
実施例1において、丸断面に穿孔された口金を用いて、丸断面で二酸化チタンを2.5重量%含むポリエステルマルチフィラメント44dtex/36filを得た。これ以外は実施例1と同様に実施した。
得られた編物において、平均赤外線反射率が60%、遮熱性が48℃と遮熱性に劣るものであった。
【0044】
[比較例3]
実施例1において、扁平断面繊維(A)の総繊度/fil数を44dtex/12fil(単繊維繊度3.7dtex)に変更すること以外は実施例1と同様に実施した。
得られた編物において、平均赤外線反射率が55%、遮熱性が51℃と遮熱性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、優れた遮熱性を有する遮熱性編物および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
編物であって、単繊維繊度が1.5dtex以下でありかつ艶消し剤を1.0重量%以上含む扁平断面繊維を含むことを特徴とする遮熱性編物。
【請求項2】
前記扁平断面繊維において、単繊維の断面形状が、2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面である、請求項1に記載の遮熱性編物。
【請求項3】
前記扁平断面繊維がポリエステル繊維である、請求項1または請求項2に記載の遮熱性編物。
【請求項4】
編物が、前記扁平断面繊維と、前記扁平断面繊維以外の他の繊維とで構成される、請求項1〜3のいずれかに記載の遮熱性編物。
【請求項5】
前記他の繊維が、2種以上の仮撚捲縮加工糸で構成され、30T/m以下のトルクを有する複合糸である、請求項4に記載の遮熱性編物。
【請求項6】
編物が2層以上の多層構造を有する多層構造編物であって、前記扁平断面繊維が最外層に配されてなる、請求項1〜5のいずれかに記載の遮熱性編物。
【請求項7】
編物の目付けが200g/m以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の遮熱性編物。
【請求項8】
編物に吸水加工が施されている、請求項1〜7のいずれかに記載の遮熱性編物。
【請求項9】
波長700〜1400nmの平均赤外線反射率が62%以上である、請求項1〜8のいずれかに記載の遮熱性編物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の遮熱性編物を用いてなる、衣料、帽子、カーテン、日傘、サンバイザー、およびテントからなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−21245(P2012−21245A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160516(P2010−160516)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】