説明

遮熱性織編物および繊維製品

【課題】近赤外線に対して優れた遮熱性を有する遮熱性織編物および繊維製品を提供する。
【解決手段】単繊維径が10〜1000nmでありかつフィラメント数が500本以上のフィラメント糸Aと、艶消し剤を1.5重量%以上含みかつ単繊維径が1000nmよりも大きいフィラメント糸Bとで織編物を構成し、必要に応じて該織編物を用いて衣料などの繊維製品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線に対して優れた遮熱性を有する遮熱性織編物および繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、夏場の炎天下などにおいて、太陽光を遮蔽するために、日傘、カーテン、日よけシートなどの繊維製品が使用されている。そして、かかる繊維製品用の織編物としては、酸化チタンなどの艶消し剤を含有する繊維を用いたものや、織編物表面に光反射性の金属膜を形成したものなどが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、艶消し剤を含有する繊維を用いたものでは、紫外線に対しては遮蔽効果があるものの、暑さを感じる近赤外線領域での遮蔽効果は十分とはいえなかった。また、織編物表面に光反射性の金属膜を形成したものでは、工程が複雑になりかつコストアップとなり、実用的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−117935号公報
【特許文献2】特開2006−174978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、近赤外線に対して優れた遮熱性を有する遮熱性織編物および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、艶消し剤を含有するフィラメント糸と、細繊度かつフィラメント数が大きいフィラメント糸とを用いて織編物を得ると、かかる織編物は、驚くべきことに、近赤外線に対して優れた遮熱性を有することを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「単繊維径が10〜1000nmでありかつフィラメント数が500本以上のフィラメント糸Aと、艶消し剤を1.5重量%以上含みかつ単繊維径が1000nmよりも大きいフィラメント糸Bとを含むことを特徴とする遮熱性織編物。」が提供される。
【0008】
その際、前記フィラメント糸Aがポリエステルからなることが好ましい。また、前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。また、前記フィラメント糸Bがポリエステルからなることが好ましい。
【0009】
本発明の遮熱性織編物において、織編物に含まれる前記フィラメント糸Aとフィラメント糸Bとの重量比が(前者:後者)15:85〜80:20の範囲内であることが好ましい。また、織編物が経二重織物であり、前記フィラメント糸Aが該織物の緯糸に配され、かつ前記フィラメント糸Bが該織物の経糸に配されていることが好ましい。その際、 経糸が織物の表裏面とも70%以上露出することが好ましい。また、織編物の厚さが250μm以下であることが好ましい。また、織編物に対する、波長0.78〜2μmの近赤外線の平均反射率が70%以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、前記の織編物を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウェア、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、一般衣料、カーテン、テント、タープ、傘地、帽子、日よけシート、および日よけネットの群より選ばれるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、近赤外線に対して優れた遮熱性を有する遮熱性織編物および繊維製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の遮熱性織編物において、採用することのできる経二重織物の織組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、フィラメント糸A(以下、「ナノファイバー」と称することもある。)において、その単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nm(好ましくは100〜900nm、特に好ましくは550〜900nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1000nmよりも大きい場合は、近赤外線に対して優れた遮熱効果が得られず好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。また、単繊維繊度のばらつきが−20%〜+20%の範囲内であることが好ましい。
【0014】
前記フィラメント糸Aにおいて、近赤外線に対して優れた遮熱効果を得る上でフィラメント数が500本以上(より好ましくは2000〜10000本)であることが肝要である。かかるフィラメント数が500本未満の場合、近赤外線に対して優れた遮熱効果が得られないおそれがある。また、フィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。
【0015】
前記フィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されず、長繊維(マルチフィラメント糸)でもよいし、短繊維でもよい。なかでも、織編物の組織間空隙を小さくして近赤外線に対して優れた遮熱効果が得る上で、紡績糸のように繊維が凝集しているよりも長繊維(マルチフィラメント糸)のように嵩高であるほうが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0016】
前記フィラメント糸Aを形成するポリマーの種類としては特に限定されないが、繊維強度や染色堅牢性などの点でポリエステル系ポリマーが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2009−091694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。艶消し剤(酸化チタン)はポリエステル中に含まれていてもさしつかえないが、艶消し剤がポリエステル中に含まれていなくても近赤外線に対して優れた遮熱効果が得られるので、フィラメントAを容易に製造する上で、艶消し剤(酸化チタン)の含有量はポリエステル重量対比2.5%以下とすることが好ましい。
【0017】
次に、フィラメント糸Bは、艶消し剤をフィラメント糸を形成するポリマー重量対比1.5重量%以上(より好ましくは2.0重量%以上、特に好ましくは2.0〜4.0重量%)含みかつ単繊維径が1000nmよりも大きいフィラメント糸である。
ここで、フィラメント糸Bに含まれる艶消し剤の含有量が1.5重量%未満の場合、近赤外線に対して優れた遮熱効果が得られないおそれがある。
【0018】
また、フィラメント糸Bの単繊維径が1000nm以下の場合、艶消し剤の含有量が大きいため紡糸が困難になるおそれがある。フィラメント糸Bの単繊維径の好ましい範囲は1〜20μmである。フィラメント糸Bにおいて、フィラメント数および総繊度としては、フィラメント数10〜200本、総繊度10〜350dtexの範囲内であることが好ましい。
かかるフィラメント糸Bを形成するポリマーとしては、前記フィラメント糸Aと同様のポリエステル系ポリマーが好ましい。
【0019】
本発明の遮熱性織編物において、織編物に含まれる前記フィラメント糸Aとフィラメント糸Bとの重量比としては、(前者:後者)15:85〜80:20の範囲内であることが好ましい。なお、本発明の遮熱性織編物は、前記フィラメント糸Aとフィラメント糸Bだけで構成されることが最も好ましいが、織編物重量に対して50重量%以下であれば他の繊維が含まれていてもよい。
【0020】
前記フィラメント糸Aとフィラメント糸Bとは、複合糸として織編物に含まれていてもよいし、両者が引き揃えられて含まれていてもよいし、両者が交編または交織されていてもよい。特に、近赤外線に対して優れた遮熱効果を得る上で両者が交編または交織されていることが好ましい。
【0021】
本発明の遮熱性織編物において、織編物の織編物組織は特に限定されず、例えば、織組織としては、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、経二重織、緯二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。編物の場合は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。また、製編織方法も通常の織編機(例えば、通常のウオータージェットルーム、エアージェットルーム、丸編機など)を用いた通常の方法でよい。
【0022】
なかでも、織編物が経二重織物であり、前記フィラメント糸Aが該織物の緯糸に配され、かつ前記フィラメント糸Bが該織物の経糸に配されていると、赤外線を効果的に反射するという理由で、近赤外線に対して優れた遮熱効果が得られ好ましい。その際、経糸が織物の表裏面とも70%以上露出していると、近赤外線に対して特に優れた遮熱効果が得られ好ましい。
【0023】
また、織編物の厚さとしては、250μm以下(より好ましくは50〜250μm、特に好ましくは150〜250μm)であると、織編物を衣料とした場合に着用快適性が損なわれず好ましい。また、目付としては、優れた遮熱性を得る上で30g/m以上(より好ましくは30〜300g/m2、特に好ましくは50〜100g/m)であることが好ましい。
【0024】
また、織編物が、下記式に定義するカバーファクターCFが1200以上(より好ましくは1400〜5000)の織物であると、特に優れた遮熱効果が得られ好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWf
は緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0025】
本発明の織編物は例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、海成分と、その径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維(フィラメント糸A用繊維)を用意する。かかる海島型複合繊維としては、特開2007−2364号公報に開示された海島型複合繊維マルチフィラメント(島数100〜1500)が好ましく用いられる。
【0026】
ここで、海成分ポリマーとしては、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0027】
一方、島成分ポリマーは、最終的にフィラメントAを形成するポリマーであり、前記のようなのポリエステルが好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0028】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。また、島成分の径は、10〜1000nmの範囲とする必要がある。その際、該径が真円でない場合は外接円の直径を求める。前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。
【0029】
かかる海島型複合繊維は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。吐出された海島型複合繊維(マルチフィラメント)は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。さらに、仮撚捲縮加工を施してもよい。かかる海島型複合繊維(フィラメント糸A用マルチフィラメント)において、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5〜10.0dtex、フィラメント数5〜75本、総繊度30〜170dtex(好ましくは30〜100dtex)の範囲内であることが好ましい。ここで、最終的に得られるフィラメントAのフィラメント数を500本以上とする上で、前記島成分の島数と、海島型複合繊維のフィラメント数との積が500以上であることが肝要である。
【0030】
また、艶消し剤を1.5重量%以上含みかつ単繊維径が1000nmよりも大きいフィラメント糸Bを用意する。
次いで、前記海島型複合繊維(フィラメント糸A用マルチフィラメント)とフィラメント糸Bとを用いて、さらに必要に応じて他の繊維(弾性繊維やポリエステル繊維など)をも用いて前記のような織編物を製編織する。
【0031】
次いで、該織編物にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去し、海島型複合繊維を単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aとすることにより、単繊維径が10〜1000nmでありかつフィラメント数が500本以上のフィラメント糸Aと、艶消し剤を1.5重量%以上含みかつ単繊維径が1000nmよりも大きいフィラメント糸Bとを含む織編物を得る。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜65℃の温度で処理するとよい。
【0032】
また、常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工、バッフィング加工またはブラシ処理加工を付加適用してもよい。また、丸編地にが施すと、ヌメリ感に優れた風合いを呈し好ましい。
【0033】
かくして得られた織編物は、太陽光の近赤外線に対して優れた遮熱性を有する。その理由は、フィラメント糸Bに含まれる艶消し剤により近赤外線が反射されると同時に、極細繊維(フィラメント糸A)と、極細繊維間に存在する微小な空気層との界面が多いため入射した近赤外線が反射されるためであろうと推定している。
ここで、織編物の遮熱性としては、島津製作所製「UV3100S MPC−3100」で、波長0.78〜2μmの近赤外線の平均反射率を測定して、70%以上であることが好ましい。
【0034】
また、耐水圧がJIS L1092 7.1A法に従って測定して35cm以上であると、耐水性が要求される用途にも好適に使用され好ましい。なお、耐水圧を35cm以上とするには、前記フィラメント糸Aおよびフィラメント糸Bとを用い、前記の織編組織や密度を採用することにより容易に得ることができる。
【0035】
次に、本発明の繊維製品は、前記の織編物を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウェア、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、一般衣料、カーテン、テント、タープ、傘地、帽子、日よけシート、および日よけネットの群より選ばれるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は前記の織編物を用いているので、優れた遮熱性を有する。
【実施例】
【0036】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0037】
(1)溶融粘度
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットした。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度−溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000秒−1の時の溶融粘度を見た。
【0038】
(2)溶解速度
海・島成分の各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取り、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製した。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から減量速度を算出した。
【0039】
(3)単繊維径
織編物を電子顕微鏡で写真撮影した後、n数5で単繊維径を測定しその平均値を求めた。
【0040】
(4)織編物の厚さ
JIS L 1096 8.5に従って測定した。
【0041】
(5)織編物の目付
JIS L1096 6.4.2に従って測定した。
【0042】
(6)近赤外線の反射率
島津製作所製「UV3100S MPC−3100」で、波長780nm〜2μmの範囲の近赤外線に対する平均反射率を測定した。
【0043】
(7)織物のカバーファクターCF
下記式により織物のカバーファクターCFを求めた。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWf
は緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0044】
(8)経糸の露出率
織物の表面および裏面を構成する経糸および緯糸の2.54cm当たりの本数(密度)をそれぞれ求め、その積を計算した。次に、緯糸が経糸に対して浮いている箇所数を求め、次の式にて経糸露出率を表裏それぞれ算出した。
(1−(緯糸の浮き箇所数÷経糸・緯糸密度の積))×100(%)
【0045】
(9)耐水圧
JIS L1092 7.1 A法に従って耐水圧(cm)を測定した。
【0046】
(10)フィラメント糸Aの含有率
下記式にてフィラメント糸Aの含有率を算出した。
(フィラメント糸A総繊度×フィラメント糸A緯糸密度)÷(経糸総繊度×経糸密度+緯糸総繊度×緯糸密度)×100(%)
【0047】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ、艶消し剤の含有なし)、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1750ポイズ)を用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸糸を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。
得られた未延伸糸を、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットし、海島型複合延伸糸(フィラメント糸A用マルチフィラメント)として巻き取った。得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
【0048】
一方、フィラメント糸Bとして、艶消し剤(二酸化チタン)をフィラメント糸を形成するポリマー重量対比2.5重量%含むポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント33dtex/12fil(帝人ファイバー(株)製)を用意した。
次いで、経糸用として前記フィラメント糸Bを無撚にて整経し、一方で、緯糸用として、前記海島型複合延伸糸(フィラメント糸A用マルチフィラメントを用い、通常のレピア織機を使用して、織密度を経395本/2.54cm、緯188本/2.54cmにて図1に示す経二重織組織にて製織し、織物を得た。
そして、該織物を温度55℃の2.5%水酸化ナトリウム水溶液にて上記海島型複合繊維の海成分のみを溶解した。その後、温度120℃、キープ時間20分にて通常のリラックス、温度130℃、キープ時間45分にて通常の染色加工を施した。さらに、温度180℃、時間1分で乾熱ファイナルセットを施した。
【0049】
得られた織物において、目付けは87g/mであり、該織物に含有されるフィラメント糸Aの重量は32g/m、厚さは180μm、カバーファクターCFは3600、経糸露出率は表裏いずれも85%であった。また、フィラメント糸Aの単繊維径は700nmであり、フィラメント数は8360本であった。また、フィラメント糸Bの単繊維径は16μmであった。また、該織物において、耐水圧は53cmで、近赤外線の平均反射率は78%であった。
次いで、該織物を用いて衣料(スポーツウエア)を得て着用したところ、近赤外線に対して優れた遮熱性を有し、かつ雨に対しても優れた耐水性を有するものであった。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、緯糸として海島型複合延伸糸のかわりに実施例1と同じフィラメント糸Bを用いること以外は実施例1と同様に織物を製織した。
そして、該織物を温度120℃、キープ時間20分にて通常のリラックス、温度130℃、キープ時間45分にて通常の染色加工を施した。さらに、温度180℃、時間1分で乾熱ファイナルセットを施した。
得られた織物において、目付けは85g/mであり、該織物に含有されるフィラメント糸Aの重量は0g/m、厚みは200μm、カバーファクターCFは3650、経糸露出率は表裏いずれも85%であった。該織物において、耐水圧は32cmで、近赤外線の平均反射率は68%であった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、近赤外線に対して優れた遮熱性を有する遮熱性織編物および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維径が10〜1000nmでありかつフィラメント数が500本以上のフィラメント糸Aと、艶消し剤を1.5重量%以上含みかつ単繊維径が1000nmよりも大きいフィラメント糸Bとを含むことを特徴とする遮熱性織編物。
【請求項2】
前記フィラメント糸Aがポリエステルからなる、請求項1に記載の遮熱性織編物。
【請求項3】
前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条である、請求項1または請求項2に記載の遮熱性織編物。
【請求項4】
前記フィラメント糸Bがポリエステルからなる、請求項1〜3のいずれかに記載の遮熱性織編物。
【請求項5】
織編物に含まれる前記フィラメント糸Aとフィラメント糸Bとの重量比が(前者:後者)15:85〜80:20の範囲内である、請求項1〜4のいずれかに記載の遮熱性織編物。
【請求項6】
織編物が経二重織物であり、前記フィラメント糸Aが該織物の緯糸に配され、かつ前記フィラメント糸Bが該織物の経糸に配されてなる、請求項1〜5のいずれかに記載の遮熱性織編物。
【請求項7】
経糸が織物の表裏面とも70%以上露出する、請求項6に記載の遮熱性織編物。
【請求項8】
織編物の厚さが250μm以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の遮熱性織編物。
【請求項9】
織編物に対する、波長0.78〜2μmの近赤外線の平均反射率が70%以上である、請求項1〜8のいずれかに記載の遮熱性織編物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の織編物を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウェア、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、一般衣料、カーテン、テント、タープ、傘地、帽子、日よけシート、および日よけネットの群より選ばれるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【公開番号】特開2012−1826(P2012−1826A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135092(P2010−135092)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】