説明

遮熱性織編物および衣料

【課題】優れた遮熱性だけでなく優れた軽量性をも有する遮熱性織編物および衣料を提供する。
【解決手段】 艶消し剤を1.0重量%以上含みかつ単繊維繊度が1.5dtex以下のポリエステルマルチフィラメントを用いて織編物を得た後、必要に応じて衣料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた遮熱性だけでなく優れた軽量性をも有する遮熱性織編物および衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、夏場の炎天下などにおいて、太陽光を遮蔽するために、日傘、カーテン、日よけシートなどの繊維製品が使用されている。そして、かかる繊維製品用の織編物としては、酸化チタンなどの艶消し剤を含有する繊維を用いたものや、織編物表面に金属膜を形成したものなどが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
しかしながら、艶消し剤を含有する繊維を用いたものでは、遮熱性の点でまだ十分とはいえなかった。一方、織編物表面に金属膜を形成したものでは、織編物の重量が大きくなってしまい、衣料用途には使えないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−117935号公報
【特許文献2】特開2007−1079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、優れた遮熱性だけでなく優れた軽量性をも有する遮熱性織編物および衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、艶消し剤を含有し、かつ単繊維繊度が小さいポリエステルマルチフィラメントを用いて織編物を得ると、驚くべきことに遮熱性が向上すること、また、かかる織編物は金属膜を形成する必要がないので軽量性にも優れることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「艶消し剤を1.0重量%以上含みかつ単繊維繊度が1.5dtex以下のポリエステルマルチフィラメントを含むことを特徴とする遮熱性織編物。」が提供される。
【0007】
その際、前記ポリエステルマルチフィラメントにおいて、総繊度が25〜55dtexの範囲内であることが好ましい。また、前記ポリエステルマルチフィラメントにおいて、単繊維の断面形状が、2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面であることが好ましい。また、織編物が、下記式に定義するカバーファクターCFが1200以上の織物であることが好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWf
は緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0008】
本発明の遮熱性織編物において、織編物の目付けが120g/m以下であることが好ましい。また、織編物にカレンダー加工および/または撥水加工が施されていることが好ましい。また、波長700〜1400nmの平均赤外線反射率が48%以上であることが好ましい。また、本発明によれば、前記の遮熱性織編物を用いてなる衣料が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた遮熱性だけでなく優れた軽量性をも有する遮熱性織編物および衣料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のポリエステル繊維において、単繊維の断面形状として採用することのできる、くびれ部を有する扁平断面形状を模式的に例示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明で用いるポリエステルマルチフィラメントにおいて、単繊維繊度が1.5dtex以下(好ましくは0.000001〜1.5dtex)であることが肝要である。該単繊維繊度が1.5dtexよりも大きい場合、繊維間空隙が大きくなり遮熱性が低下するおそれがあり、また、軽量性も損なわれるおそれがあるため好ましくない。その際、前記ポリエステルマルチフィラメントはナノファイバーと称される単繊維径1000nm以下の超極細繊維であってもよい。
【0012】
前記ポリエステルマルチフィラメントにおいて、優れた遮熱効果を得る上でフィラメント数は多いほどよく30本以上(より好ましくは30〜10000本)であることが好ましい。
【0013】
また、前記ポリエステルマルチフィラメントにおいて、総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、25〜55dtexの範囲内であることが好ましい。該総繊度が25dtexよりも小さいと遮熱性が損なわれるおそれがある。逆に、該総繊度が55dtexよりも大きいと軽量性が損なわれるおそれがある。
【0014】
前記ポリエステルマルチフィラメントにおいて、繊維形態は特に限定されず、長繊維(マルチフィラメント糸)でもよいし、短繊維でもよい。なかでも、織編物の組織間空隙を小さくして優れた遮熱効果が得る上で、紡績糸のように繊維が凝集しているよりも長繊維(マルチフィラメント糸)のように嵩高であるほうが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。なかでも、図1に模式的に示すような、2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面を採用すると、織編物とした場合の組織間空隙を小さくすることができ、遮熱性が向上し好ましい。なお、断面扁平度とは、図1に示す、長辺の長さ(B)と短辺の長さ(C1)との比(B/C1)である。また、くびれ部とは図1に模式的に示すように、短辺の長さが短くなっている部分のことである。かかるくびれ部において、凹部の深さとしては、短辺の長さの最大値と最小値の比(C1/C2)で、1.05以上(好ましくは1.1〜2.0)となる深さであることが好ましい。なお、図1は、くびれ部が3個所の場合を例示するものである。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0015】
前記ポリエステルマルチフィラメントを形成するポリエステル系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2009−091694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリエステルポリマー中には、艶消し剤(二酸化チタン)がポリエステルポリマー重量対比1.0重量%以上(より好ましくは1.0〜5.0重量%)含まれることが肝要である。艶消し剤の含有量が1.0重量%よりも小さいと、十分な遮熱性が得られないおそれがあり、好ましくない。また、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0016】
本発明の遮熱性織編物は前記のポリエステルマルチフィラメントを含む織編物である。その際、ポリエステルマルチフィラメントの含有量は、優れた遮熱性を得る上で、織編物の総重量対比20重量%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の遮熱性織編物において、織編物の織編物組織は特に限定されず、例えば、織組織としては、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、経二重織、緯二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。編物の場合は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。また、製編織方法も通常の織編機(例えば、通常のウオータージェットルーム、エアージェットルーム、丸編機など)を用いた通常の方法でよい。
また、目付としては、優れた遮熱性と軽量性とを両立させる上で120g/m以下(より好ましくは30〜80g/m)であることが好ましい。
また、織編物が、下記式に定義するカバーファクターCFが1200以上(より好ましくは1400〜5000)の織物であると、特に優れた遮熱効果が得られ好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWf
は緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0018】
本発明の織編物は、例えば以下の製造方法により製造することができる。すなわち、固有粘度が0.55〜0.80の前記ポリエステルに、艶消し剤をポリエステル重量に対して1.0重量%以上ブレンドしたチップを、常法により紡糸し、2000〜4300m/分の速度で未延伸糸(中間配向糸)として一旦巻き取り、延伸するか、または、巻き取る前に延伸してポリエステルマルチフィラメントを得る。また、中間配向糸を、180〜200℃に加熱されたヒーターを用いて、弛緩状態(オーバーフィード1.5〜10%)で熱処理することにより、加熱下で自己伸長性を有する未延伸糸(中間配向糸)としてもよい。さらには、仮撚捲縮加工や空気加工や撚糸などを施してもよい。
【0019】
次いで、該ポリエステルマルチフィラメントを用いて、通常の織機または編機により織編物を製編織することにより、本発明の遮熱性織編物を製造することができる。
【0020】
ここで、織編物にカレンダー加工および/または撥水加工を施すと、組織間空隙が小さくなるため、遮熱性がさらに向上し好ましい。撥水加工としては、例えば、特許第3133227号公報や特公平4−5786号公報に記載された方法が好適である。すなわち、撥水剤として市販のふっ素系撥水剤(例えば、旭硝子(株)製、アサヒガードLS−317)を使用し、必要に応じてメラミン樹脂、触媒を混合して撥水剤の濃度が3〜15重量%程度の加工剤とし、ピックアップ率50〜90%程度で、該加工剤を用いて織編物の表面を処理する方法である。加工剤で織編物の表面を処理する方法としては、パッド法、スプレー法などが例示され、なかでも、加工剤を織編物内部まで浸透させる上でパッド法が最も好ましい。なお、前記ピックアップ率とは、加工剤の織編物(加工剤付与前)重量に対する重量割合(%)である。また、カレンダー加工の条件としては、温度130℃以上(より好ましくは140〜195℃)、線圧200〜20000N/cmの範囲内であることが好ましい。
【0021】
本発明の遮熱性織編物において、さらには、常法の起毛加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工、バッフィング加工またはブラシ処理加工を付加適用してもよい。
かくして得られた織編物は、優れた遮熱性を有する。その理由は、ポリエステルマルチフィラメントに含まれる艶消し剤により近赤外線が反射されると同時に、ポリエステルマルチフィラメントの単繊維繊度が小さいため、織編物の組織間空隙が小さくなり近赤外線が透過しにくいためであろうと推定している。また、かかる織編物は、ポリエステルマルチフィラメントの単繊維繊度が小さいため軽量性にも優れ、遮熱性と軽量性という通常相反する性質を兼備する。
【0022】
ここで、織編物の平均赤外線反射率としては、島津製作所製「UV3100S MPC−3100」で、波長700〜1400nmの平均赤外線反射率が48%以上であることが好ましい。また、遮熱性としては、下記の方法で測定して53℃以下であることが好ましい。すなわち、黒画用紙の5mm上に試料を保持し、試料側からランプ光を照射して裏面の画用紙中央の温度を熱電対で測定する。
使用ランプ:岩崎電気(株)製アイランプ<スポット>PRS100V500W
照射距離:50cm
照射時間:15分間
試験室温度:18〜22℃
【0023】
次に、本発明の衣料は、前記の織編物を用いてなる衣料である。かかる衣料は前記の織編物を用いているので、優れた遮熱性および優れた軽量性を有する。なお、かかる衣料には、スポーツウエア、アウトドアウェア、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、一般衣料などが含まれる。なお、前記の織編物をカーテン、テント、タープ、傘地、帽子、日よけシート、および日よけネットなどの繊維製品として用いてもよい。
【実施例】
【0024】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)織編物の目付
JIS L1096 6.4.2に従って測定した。
(2)近赤外線の反射率
島津製作所製「UV3100S MPC−3100」で、波長700〜1400nmの範囲の近赤外線に対する平均反射率を測定した。反射率が48%以上であれば良好とする。
【0025】
(3)織物のカバーファクターCF
下記式により織物のカバーファクターCFを求めた。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWf
は緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
(4)遮熱性
黒画用紙の5mm上に試料を保持し、試料側からランプ光を照射して裏面の画用紙中央の温度を熱電対で測定した。53℃以下であると良好とする。
使用ランプ:岩崎電気(株)製アイランプ<スポット>PRS100V500W
照射距離:50cm
照射時間:15分間
試験室温度:18〜22℃
【0026】
[実施例1]
艶消し剤としての二酸化チタンを2.5重量%含むポリエチレンテレフタレートを4つ山扁平断面(くびれ部3個所)に穿孔された口金より、紡糸温度300℃で紡出し、4000m/minで引き取り、一旦巻き取ることなく引き続き1.3倍に延伸し、フィラメントの横断面形状が図1に示すような、くびれ部(短辺の長さCの最大/最小=1.2)を3個所有する扁平断面(断面扁平度3.2)のポリエステルマルチフィラメント44dtex/36filを得て経糸用とした。
【0027】
一方、艶消し剤としての二酸化チタンを0.3重量%含むポリエチレンテレフタレートを丸断面に穿孔された口金より、紡糸温度300℃で紡出し、4000m/minで引き取り、一旦巻き取ることなく引き続き1.3倍に延伸し、フィラメントの横断面形状が丸断面のポリエステルマルチフィラメント56dtex/20filを得て緯糸用とした。
【0028】
次いで、前記経糸および緯糸を用いて、通常のウオータージェットルーム織機を使用して平組織の織物を織成した。該織物において、経糸密度122本/2.54cm、緯糸密度106本/2.54cmであった。
【0029】
そして、該織物に通常の染色仕上げ加工を行い、撥水加工したあとでファイナルセットを施し、カレンダー加工を行った。その際、撥水加工は下記の加工剤を使用し、ピックアップ率70%で搾液し、130℃で3分間乾燥後170℃で45秒間熱処理を行った。また、カレンダー加工は、ロール温度160℃の条件でカレンダー加工を行った。
【0030】
<加工剤組成>
・ふっ素系撥水剤 10.0wt%
(旭硝子(株)製、アサヒガードLS−317)
・メラミン樹脂 0.3wt%
(住友化学(株)製、スミテックスレジンM−3)
・触媒 0.3wt%
(住友化学(株)製、スミテックスアクセレレータACX)
・水 89.4wt%
得られた織物において、経糸密度140本/2.54cm、緯糸密度114本/2.54cmでカバーファクターCFが1692、目付55g/m、艶消し剤としての二酸化チタンを2.5重量%含むポリエステルマルチフィラメントの混率50%であり、平均赤外線反射率が52%、遮熱性が50.2℃と軽量性および遮熱性に優れたものであった。
次いで、該織編物を用いて衣料(Tシャツ)を得て着用したところ、遮熱性および軽量性に優れていた。
【0031】
[比較例1]
実施例1において、艶消し剤としての二酸化チタンを2.5重量%含むポリエステルマルチフィラメントにかえて、艶消し剤としての二酸化チタンを0.3重量%含む、丸断面のポリエステルマルチフィラメントを使用したこと以外は実施例1と同様に実施した。
得られた織物において、平均赤外線反射率が44%、遮熱性が56.3℃と遮熱性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、優れた遮熱性だけでなく優れた軽量性をも有する遮熱性織編物および衣料が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
艶消し剤を1.0重量%以上含みかつ単繊維繊度が1.5dtex以下のポリエステルマルチフィラメントを含むことを特徴とする遮熱性織編物。
【請求項2】
前記ポリエステルマルチフィラメントにおいて、総繊度が25〜55dtexの範囲内である、請求項1に記載の遮熱性織編物。
【請求項3】
前記ポリエステルマルチフィラメントにおいて、単繊維の断面形状が、2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面である、請求項1または請求項2に記載の遮熱性織編物。
【請求項4】
織編物が、下記式に定義するカバーファクターCFが1200以上の織物である、請求項1〜3のいずれかに記載の遮熱性織編物。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWf
は緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【請求項5】
織編物の目付けが120g/m以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の遮熱性織編物。
【請求項6】
織編物にカレンダー加工および/または撥水加工が施されている、請求項1〜4のいずれかに記載の遮熱性織編物。
【請求項7】
波長700〜1400nmの平均赤外線反射率が48%以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の遮熱性織編物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の遮熱性織編物を用いてなる衣料。

【図1】
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