説明

遮熱構造物及び遮熱塗料組成物

【課題】遮熱塗膜の膜厚が20μm程度の一般的な膜厚であっても十分な遮熱特性を発揮できる遮熱構造物を提供する。
【解決手段】遮熱塗膜は、熱線に対する反射率95%以上の鱗片状粉末が互いに平行に重なるように配向して厚さ方向に複数枚含まれている。遮熱塗膜が20μm以下の薄膜であっても、鱗片状粉末が被遮熱体の表面のほぼ全面を被覆しているので、高い遮熱特性が発現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射熱を反射する遮熱塗膜をもつ遮熱構造物と、その遮熱塗膜を形成する遮熱用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の床下には、エキゾーストマニホールドとマフラーとを連結する排気管が配設されている。この排気管は、通過する排ガスによってかなりの高温となる。そこで、排気管の熱が車室内に伝達されたり、周辺のゴム部品やシール材などが熱劣化するのを防止するために、主にアルミニウムを素材とする遮熱板を排気管の周辺に取り付けることが行われている。
【0003】
この遮熱板は、例えば特開2004−308534号公報などに記載されているように、排気管と間隔を隔てた状態で車体に取り付ける必要があり、取り付け工数が多大であるとともに、部品点数が多いという問題がある。さらに振動による脱落を防止する必要があり、また軽量化の要請もあるため、遮熱板を廃止しようとする機運がある。
【0004】
そこで遮熱板に代えて、遮熱塗料を車体床下などに塗装して排気管からの輻射熱を反射させることが考えられる。例えば特開2006−335949号公報には、大粒径の二酸化チタンと、シリカ粉又はシリケート粉を含有する遮熱塗料組成物が記載されている。また特開2006−045447号公報には、中空球状又は鱗片状の低熱伝導体と、構造助剤及びシランカップリング剤を含有する遮蔽塗料組成物が記載されている。
【0005】
これらの公報には、遮熱塗料組成物を塗装した試験板に20cmの距離から赤外線を30分間照射したとき、無塗装の試験板に比べて表面温度が約40℃低下したことが記載されている。しかしこれらの公報には、塗装膜厚が100〜400μmが好ましく、膜厚が100μm未満では遮熱特性が低下すると記載されている。そのため一般的な塗料に比べて高膜厚に塗装しなければならず、塗装工程及び乾燥工程における工数が多大となり、また塗装時のタレを防止する必要があるなど塗料の設計工数が多大となるという問題があった。
【0006】
また瓦などの屋根材を通して室内の温度が上昇するという問題があり、野地板の上にアルミシートなどの遮熱シートを貼ることが検討されている。しかしアルミシートなどを貼る場合には、日光反射や滑りなどにより作業時の負担が大きいという問題がある。そこで特開2009−046970号公報には、裏面に低放射率金属膜が設けられた屋根材が記載されている。この屋根材によれば、このような問題を回避することができ、室内温度の上昇を抑制することができる。
【0007】
特開2009−046970号公報には、低放射率金属膜の形成方法として、アルミ箔などを貼る方法、ショットピーニング法により金属膜を形成する方法、金属メッキする方法などが例示されている。しかしいずれの方法も、工数が多大となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−308534号公報
【特許文献2】特開2006−335949号公報
【特許文献3】特開2006−045447号公報
【特許文献4】特開2009−046970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、遮熱塗膜の膜厚が20μm程度の一般的な膜厚であっても十分な遮熱特性を発揮できる遮熱構造物を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の遮熱構造物の特徴は、基体と、基体の表面に被覆された遮熱塗膜と、からなる遮熱構造物であって、
遮熱塗膜は、鱗片状粉末を含有してなり、鱗片状粉末の少なくとも平坦表面は熱線に対する反射率が95%以上の金属からなり、
鱗片状粉末は、遮熱塗膜の厚さ方向に対して平坦表面が互いに平行に重なるように配向して遮熱塗膜の厚さ方向に複数枚含まれ、遮熱塗膜の表面から透視したときに鱗片状粉末が互いに重なり合って基体の表面を覆っていることにある。
【0011】
また本発明の遮熱構造物を形成できる遮熱塗料組成物の特徴は、ビヒクルと、鱗片状粉末とを含有してなり、鱗片状粉末の少なくとも平坦表面は熱線に対する反射率が95%以上の金属からなることにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遮熱構造物に形成されている遮熱塗膜は、熱線に対する反射率が95%以上の金属からなる平坦表面を有する鱗片状粉末を含んでいる。鱗片状粉末を含む液状塗料を塗布すると、鱗片状粉末はアスペクト比が高いため、その平坦表面が厚さ方向に対して傾きを有し互いに平行となるように配向する。ここで、鱗片状粉末が互いに重なることなく密に被遮熱体を覆えば、その平坦表面で熱線が反射されて被遮熱体に到達しにくくなるため、1層の鱗片状粉末層を有する遮熱塗膜を形成することで高い遮熱効果が発現される。
【0013】
しかし、鱗片状粉末が互いに重なることなく密に被遮熱体を覆うように遮熱塗料組成物を塗布することは困難である。そこで本発明の遮熱構造物によれば、遮熱塗膜は厚さ方向に複数枚の鱗片状粉末を含んでいる。このように構成したことで、塗布時のばらつきを考慮しても、また遮熱塗膜の膜厚が20μm以下と薄くても、遮熱塗膜の表面から透視したときに鱗片状粉末が互いに重なり合って被遮熱体の表面の大部分を覆うようになり、鱗片状粉末の平坦表面が熱線を反射することで高い遮熱効果が発現される。
【0014】
すなわち本発明の遮熱構造物によれば、遮熱塗膜が熱源からの輻射熱を反射するため、従来用いられている遮蔽板を廃止することができる。したがって自動車工業分野においては、遮蔽板の組付工数及び部品点数を大きく低減することができる。
【0015】
入射した単位エネルギー「1」に対して、反射、吸収、透過の起こる割合を、それぞれ反射率、吸収率、透過率といい、次の関係が成り立つ。
【0016】
反射率+吸収率+透過率=1
またキルヒホッフの法則より、吸収率=放射率となる。
【0017】
通常の不透明な物質なら透過率≒0であるので、放射率と反射率は、以下の関係式が成り立つ。
【0018】
放射率≒1−反射率
すなわち本発明の遮熱構造物によれば、遮熱塗膜は熱線に対して約95%以上の高い反射率を有しているので、放射率は約5%以下となり、放射特性がきわめて低い。したがって本発明の遮熱構造物が遮熱塗膜の反対側から加熱された場合、あるいは遮熱構造物自体が熱を帯びている場合、遮熱塗膜からの放射熱がきわめて小さいという効果が発現される。例えば瓦などの屋根材の裏面側に遮熱塗膜を形成すれば、直射日光によって屋根材が熱くなった場合であってもその裏面側の雰囲気温度を低くすることができ、室内の温度上昇を抑制することができる。
【0019】
また本発明の遮熱塗料組成物は、例えば8μm程度の膜厚となるように塗布するだけで遮熱塗膜を形成することができる。したがってタレ止め性などを考慮する必要がないので塗料設計が容易であり、かつ塗料の使用量も少ないのできわめて経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例において遮熱塗膜の遮熱特性を測定する方法を示す説明図である。
【図2】鱗片状アルミニウム粉末の含有量と試験片の表面温度との関係を示すグラフである。
【図3】実施例に係る遮熱構造物の模式的な要部拡大断面図である。
【図4】遮熱構造物の放射特性を測定する方法を示す説明図である。
【図5】加熱開始から30分後における遮熱塗膜から50mm離れた位置の雰囲気温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の遮熱構造物は、基体と、遮熱塗膜とからなる。基体としては特に制限されず、例えば自動車床下の排気管に対向する部位、エンジンルームのエンジンに対向する部品やダッシュパネルなど、熱源に対向して配置される被遮熱体、あるいは瓦などの屋根材、外壁材など表面は加熱されるけれども反対側へ熱を伝えるのが好まれない物体が例示される。また基体の材質は、金属、樹脂、ゴムなど特に制限されない。
【0022】
遮熱塗膜は、基体の熱源に対向する表面又は熱せられる表面と反対側表面に形成することができる。遮熱塗膜は鱗片状粉末を含有してなり、鱗片状粉末は、遮熱塗膜の厚さ方向に対して平坦表面が互いに平行にその一部どうしが又は大部分どうしが重なるように配向して遮熱塗膜の厚さ方向に複数枚含まれ、遮熱塗膜の表面から透視したときに鱗片状粉末が互いに重なり合って被遮熱体の表面を覆っている。なお「平坦表面が互いに平行に重なるように配向する」とは、平坦表面が平行な状態で重なるように配向しているものだけでなく、平行に近い状態で重なるように配向しているものも含んでいることを意味している。
【0023】
鱗片状粉末は、遮熱塗膜中に20体積%以上含まれ、遮熱塗膜の厚さ方向に3枚以上含まれていることが望ましい。このようにすることで、遮熱塗膜が8μmという薄膜であっても高い遮熱効果が発現される。
【0024】
遮熱塗膜は、本発明の遮熱塗料組成物から形成されているので、以下、遮熱塗料組成物の組成を説明することで遮熱塗膜の構成の説明に代える。
【0025】
本発明の遮熱塗料組成物は、水性塗料、有機溶媒型塗料、粉体塗料のいずれの形態であってもよいが、溶媒又は分散媒を含む液状塗料であることが望ましい。粉体塗料では、鱗片状粉末の配向が困難となる場合がある。
【0026】
液状塗料の場合には、本発明の遮熱塗料組成物は、ビヒクルと、ビヒクルを溶解又は分散する液状媒体と、鱗片状粉末と、を主たる構成要素とする。ビヒクルとしては、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、熱可塑性エラストマなどの熱可塑性樹脂、BR、SBR、NBR、CR、EPDM、フッ素ゴムなどのゴム類など、溶媒又は分散媒が蒸発することで被膜を形成するものを用いることができる。場合によっては、ポリオールとイソシアネートからなるウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、などの熱硬化性樹脂を用いることも可能である。できるだけ赤外線の吸収率が低いものを選択することが望ましい。
【0027】
ビヒクル及び液状媒体としては、水系エマルジョンを用いることが特に好ましい。水は揮発しにくいため塗布されたウェット塗膜中において鱗片状粉末がより配向し易くなり、膜厚が薄くても鱗片状粉末が被遮熱体の表面を覆い易くなる。この水系エマルジョンとしては、アクリルエマルジョン、シリコンアクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョン、ウレタンアクリルエマルジョン、SBRエマルジョン、エポキシエマルジョンなどが例示され、また、水ガラス、コロイダルシリカ、シリケートなどの無機バインダも用途に応じて各種選択して用いることができる。
【0028】
鱗片状粉末は、少なくともその表面が熱線に対する反射率95%以上の金属から形成されたものであり、鱗片状の金属粉末あるいは、ガラス、雲母、タルクなどの鱗片状粉末表面に金属光輝層を形成した粉末などを用いることができる。
【0029】
熱線に対する反射率が95%以上の金属としては、アルミニウム、金、銀、インジウム、銅などが例示される。中でも、波長4μmの遠赤外線の反射率が99%と高いアルミニウムが最も望ましい。なお熱線とは、近赤外線、中赤外線、遠赤外線をいい、一部の可視光も含まれる。また雲母、タルクなどの鱗片状粉末表面に金属光輝層を形成するには、蒸着法、スパッタリング法などのPVD法、あるいは無電解めっきなどのCVD法を用いて形成することができる。
【0030】
またベースフィルムの表面に蒸着法などを用いて薄い金属層を形成し、ベースフィルムから金属層を剥離した後に粉砕して鱗片状粉末とすることもできる。
【0031】
鱗片状粉末の形態としては、アスペクト比が10〜500の範囲にあることが望ましく、厚さは0.1μm〜5μmの範囲にあることが望ましい。アスペクト比が10より小さいと、塗布時に厚さ方向に重なるように配向しにくくなり、被遮熱体の表面を被覆しにくくなるため遮熱性能が低下する。またアスペクト比が500より大きくなると、スプレー塗布が困難となる。さらに鱗片状粉末の厚さが0.1μmより薄くなると、塗料製造時に破損してアスペクト比が小さくなる場合があり、5μmより厚くなると薄膜で塗布した場合に塗膜表面粗度が大きくなったり、塗膜中から鱗片状粉末が脱落する場合もある。
【0032】
鱗片状粉末は、塗料固形分中に20体積%以上含有されていることが望ましい。鱗片状粉末の含有量が20体積%より少ないと、遮熱塗膜を厚膜に形成しないと遮熱性能が不十分となり、タレが生じたりコストが高くなる。また鱗片状粉末の含有量が60体積%より多くなると、塗膜の成膜が困難となり被遮熱体から剥離する場合もある。
【0033】
本発明の遮熱塗料には、ビヒクル及び鱗片状粉末以外の他の固形分は極力含まないことが望ましい。遮熱塗膜中に他の固形分が存在すると、他の固形分が熱を吸収するため遮熱塗膜の温度が高くなり、その熱が被遮熱体に伝熱される結果、遮熱性能が低下してしまう。しかしながら本発明の遮熱塗料は、タレ止め剤、シランカップリング剤、可塑剤などの各種助剤、有機・無機顔料、体質顔料などの顔料などを、遮熱特性に影響の無い範囲で含むこともできる。
【0034】
本発明の遮熱塗料は、基体の表面に直接塗布してもよいし、基体の表面に下塗り塗膜や中塗り塗膜が形成されている場合には、その塗膜の表面に塗布することもできる。
【0035】
以下、実施例、比較例及び試験例により本発明の実施態様を具体的に説明する。
【実施例1】
【0036】
固形分:50質量%、Tg:−16℃、粒子径:220nmのスチレン・ブタジエンゴム(SBR)エマルジョン(「A7032」旭化成ケミカルズ社製)を83.3質量部と、径:54μm、厚さ:0.5μmの鱗片状アルミニウム粉末を60質量%含む水性アルミペースト(「Hydrolan-212」エカルト社製)を16.7質量部とを混合し、ミキサーで撹拌して本実施例の遮熱塗料組成物を調製した。この遮熱塗料組成物には、全固形分中に鱗片状アルミニウム粉末が19.4質量%、体積比で8.0体積%含まれている。
【実施例2】
【0037】
実施例1と同様のSBRエマルジョンを71.4質量部と、実施例1と同様の水性アルミペーストを28.6質量部とを混合し、ミキサーで撹拌して本実施例の遮熱塗料組成物を調製した。この遮熱塗料組成物には、全固形分中に鱗片状アルミニウム粉末が32.4質量%、体積比で14.8体積%含まれている。
【実施例3】
【0038】
実施例1と同様のSBRエマルジョンを62.5質量部と、実施例1と同様の水性アルミペーストを37.5質量部とを混合し、ミキサーで撹拌して本実施例の遮熱塗料組成物を調製した。この遮熱塗料組成物には、全固形分中に鱗片状アルミニウム粉末が41.9質量%、体積比で20.7体積%含まれている。
[比較例1]
実施例1と同様のSBRエマルジョンのみを比較例1の遮熱塗料組成物を調製した。この遮熱塗料組成物には、鱗片状アルミニウム粉末が含まれていない。
[比較例2]
実施例1と同様のSBRエマルジョンを22.5質量部と、実施例1と同様の水性アルミペーストを77.5質量部とを混合し、ミキサーで撹拌して本実施例の遮熱塗料組成物を調製した。この遮熱塗料組成物には、全固形分中に鱗片状アルミニウム粉末が80.5質量%、体積比で60.0体積%含まれている。
<試験例1>
実施例1−3と比較例1−2の遮熱塗料組成物の構成を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
予め電着塗膜が形成されたSPCC−SD鋼板(0.8×70×150mm)を用意し、エアスプレーにて実施例1−3と比較例1−2の遮熱塗料組成物をそれぞれ塗布し(希釈なし)、130℃で20分間加熱してそれぞれ遮熱塗膜を形成した。遮熱塗膜の平均膜厚は、それぞれ20μmである。なお比較例2の遮熱塗料組成物は成膜しなかったので、試験例から除外した。
【0041】
図1に示すように、370℃に加熱されたホットプレート1の表面から35mm離れた位置に、遮熱塗膜20がホットプレート1に対向するように得られた試験片2をそれぞれ配置し、表面温度計3を用いて試験片2の遮熱塗膜20と反対側の表面温度をそれぞれ測定した。5分間未満の加熱時間でそれぞれ表面温度が略一定となり、その後はそれぞれその温度近傍で推移したので、試験開始後5分〜30分の平均温度を算出し結果を表2及び図2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2及び図2から、鱗片状アルミニウム粉末を8.0体積%含むだけで表面温度が急激に低下し、鱗片状アルミニウム粉末の含有量が増えるにつれて表面温度が徐々に低下していることがわかる。すなわち鱗片状アルミニウム粉末を8.0体積%以上含むことで、高い遮熱効果が発現していることが明らかである。
<試験例2>
試験例1と同様の予め電着塗膜が形成されたSPCC−SD鋼板を用意し、実施例3の遮熱塗料組成物をエアスプレーにて乾燥膜厚が8μm、20μm、50μm、80μmとなるようにそれぞれ塗布し、130℃で20分間加熱してそれぞれ遮熱塗膜を形成した。得られた試験片を用い、試験例1と同様にして試験片の遮熱塗膜と反対側の表面温度を測定した。試験開始後5分〜30分の平均温度を算出し結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
表3から明らかなように、遮熱塗膜の膜厚に関わらず表面温度は略一定であり、鱗片状アルミニウム粉末を20.7体積%含む遮熱塗膜は8μmという薄い膜厚でも十分な遮熱特性を有している。
【0046】
ここで、試験例2における膜厚8μmの遮熱塗膜中の鱗片状アルミニウム粉末の積層枚数は、膜厚×鱗片状アルミニウム粉末の含有量(体積%)/鱗片状アルミニウム粉末の厚さで算出され、8×0.207/0.5≒3.3となる。すなわち鱗片状アルミニウム粉末が遮熱塗膜の厚さ方向に平均して3枚以上積層されていることで、遮熱塗膜が8μmという薄い膜厚でも十分な遮熱特性を発現している。
【0047】
すなわち図3に拡大断面図を示すように、試験例2における膜厚8μmの遮熱塗膜5には鱗片状のアルミニウム粉末50が厚さ方向に重なるように配向した状態で含まれ、厚さ方向に平均して約3.3枚のアルミニウム粉末50が積層されている。したがって遮熱塗膜5の表面から透視したときに、アルミニウム粉末50が互いに平行に重なり合って鋼板4の表面を覆っている。したがって熱源からの輻射熱は、遮熱塗膜5に含まれる鱗片状のアルミニウム粉末50によって反射されるため、鋼板4への伝熱を抑制することができる。
【実施例4】
【0048】
片面に施釉された素焼きの陶板(厚さ15mm)を用意し、その裏面に実施例3の遮熱塗料組成物をエアスプレーにて乾燥膜厚が8μmとなるように塗装し、130℃で20分間加熱して遮熱塗膜を形成した。
[比較例3]
実施例4と同様の陶板を用意し、その裏面にショットピ−ニング法によって厚さ3μmの錫膜を形成した。
[比較例4]
実施例4と同様の陶板を比較例4とした。裏面は、何もコートされていない素焼き面である。
<試験例3>
図4に示すように、各陶板6の施釉表面から160mmの距離だけ離れた位置から赤外ランプ7を照射し、照射開始から30分後に遮熱塗膜7の表面から50mmの距離にある測定点における雰囲気温度を測定した。結果を図5に示す。
【0049】
図5より、実施例4の遮熱構造物によれば、何も塗布していない比較例4に比べて雰囲気温度が約8.5℃低くなることがわかり、きわめて低い放射特性を示すことが明らかである。また比較例3に比べても低放射特性を示すこともわかり、錫膜を形成するより簡単な方法で安価に、低放射特性を示す遮熱塗膜を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の遮熱塗料組成物を基体の各種熱源に対向する表面、あるいは熱源と反対側の表面に塗布し乾燥させるだけで、本発明の遮熱構造物を形成することができる。本発明の遮熱構造物は、自動車分野、建築分野、家電分野など各種分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
4:鋼板 5:遮熱塗膜 50:アルミニウム粉末(鱗片状粉末)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体の表面に被覆された遮熱塗膜と、からなる遮熱構造物であって、
該遮熱塗膜は、鱗片状粉末を含有してなり、該鱗片状粉末の少なくとも平坦表面は熱線に対する反射率が95%以上の金属からなり、
該鱗片状粉末は、該遮熱塗膜の厚さ方向に対して該平坦表面が互いに平行に重なるように配向して該遮熱塗膜の厚さ方向に複数枚含まれ、該遮熱塗膜の表面から透視したときに該鱗片状粉末が互いに重なり合って該基体の表面を覆っていることを特徴とする遮熱構造物。
【請求項2】
前記遮熱塗膜は膜厚が20μm以下である請求項1に記載の遮熱構造物。
【請求項3】
前記遮熱塗膜は膜厚が10μm以下である請求項1に記載の遮熱構造物。
【請求項4】
前記鱗片状粉末は前記遮熱塗膜中に20体積%以上含まれ、前記遮熱塗膜の厚さ方向に3枚以上積層されている請求項1〜3のいずれかに記載の遮熱構造物。
【請求項5】
請求項1に記載の遮熱構造物を製造するのに用いられる遮熱塗料組成物であって、ビヒクルと、鱗片状粉末とを含有してなり、該鱗片状粉末の少なくとも平坦表面は熱線に対する反射率が95%以上の金属からなることを特徴とする遮熱塗料組成物。
【請求項6】
前記鱗片状粉末は、前記ビヒクルと前記鱗片状粉末の全固形分中に20体積%以上含まれている請求項5に記載の遮熱塗料組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−66578(P2012−66578A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168027(P2011−168027)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】