説明

遮熱組成物、太陽電池用部材及び太陽電池

【課題】防汚性、全光線透過率に優れ、赤外線遮熱効果によって太陽電池の温度上昇を抑制し発電効率を向上できる遮熱組成物を提供する。
【解決手段】(A1)成分:数平均粒子径が1nm〜400nmのシリカと、(A2)成分:数平均粒子径が1nm〜2000nmの赤外線吸収剤と、(B)成分:数平均粒子径が10nm〜800nmの重合体エマルジョン粒子と、を含む遮熱組成物から成る太陽電池用部材10を太陽電池パネルの受光面に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱組成物、太陽電池用部材及び太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な温暖化現象により環境に対する意識が高まり、炭酸ガス等の温暖化ガスを発生しない新しいエネルギーシステムが関心を集めている。太陽電池発電や風力発電等の環境に優しい再生可能なエネルギーは、炭酸ガス等の温暖化を誘発するといわれているガスを排出しないため、クリーンなエネルギーとして研究開発が盛んに行われている。中でも、安全性や扱いやすさに優れることから、特に太陽電池や太陽熱発電が注目を浴びている。
【0003】
太陽電池はガラスや耐候性樹脂フィルム等からなる保護カバーによって受光面が保護されているが、当該保護カバーが長期間の使用中に煤塵で汚れるため、光透過率が低下する結果、太陽電池のエネルギー変換効率が低下するという問題がある。また、結晶シリコン、多結晶シリコンタイプの太陽電池はシリコンの特性としてその温度が高くなると発電効率が低下するという問題がある。
【0004】
表面の汚れを防止する技術として、例えば特許文献1には、防汚の対象となる基材の表面に形成されたアナターゼ型酸化チタン含有層上に、アンモニア水に溶解させたタングステン酸と蒸留水を加えた遮熱液を塗布し、700℃で焼き付け処理を施して酸化タングステンからなる表面層を形成する技術が開示されている。特許文献2には、親水性表面を備えた複合材であって、基材と、基材の表面に接合され、TiO2、ZnO、SnO2、SrTiO3、WO3、Bi23、Fe23からなる群から選ばれた光触媒性半導体材料とシリカとを含む光触媒性被膜とを備え、該被膜の表面は光触媒性半導体材料の光励起に応じて親水性を呈することを特徴とする複合材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−114545号公報
【特許文献2】特許第2756474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、防汚性、全光線透過率に優れ、赤外線遮熱効果によって太陽電池の温度上昇を抑制し発電効率を向上させるという観点から、上記特許文献に記載のものはいずれも改良の余地があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、防汚性、全光線透過率に優れ、赤外線遮蔽効果によって太陽電池の温度上昇を抑制し発電効率の向上に寄与できる遮熱組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
(A1)成分:数平均粒子径が1nm〜400nmのシリカと、
(A2)成分:数平均粒子径が1nm〜2000nmの赤外線吸収剤と、
(B)成分:数平均粒子径が10nm〜800nmの重合体エマルジョン粒子と、
を含む遮熱組成物。
〔2〕
前記(A2)成分が、錫をドープした酸化インジウム、アンチモンをドープした酸化錫、酸化セリウム、酸化亜鉛、及びシリカで被覆された当該剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である〔1〕に記載の遮熱組成物。
〔3〕
前記(B)成分が、
(b1)成分:加水分解性珪素化合物と、
(b2)成分:水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基及びエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有するビニル単量体と、
(b3)成分:乳化剤と、
(b4)成分:水と、を含む重合原液中で、前記(b1)成分及び前記(b2)成分を重合して得られる重合体エマルジョン粒子である〔1〕又は〔2〕に記載の遮熱組成物。
〔4〕
前記(B)成分の含有量に対する前記(A1)成分と前記(A2)成分との総含有量((A1+A2)/(B))の質量比が60/100〜1000/100であり、
前記(B)成分と前記(A1)成分の合計含有量に対する前記(A2)成分の含有量の質量比((A2)/(B+A1))が、0.05/100〜40/100である、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
〔5〕
前記(B)成分の含有量に対する前記(b2)成分の含有量の質量比((b2)/(B))が、0.1/1〜0.5/1である、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
〔6〕
前記(A1)成分の含有量に対する前記(b2)成分の含有量の質量比((b2)/(A1))が、0.1/1〜1/1である、〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
〔7〕
前記(B)成分が、コア層と、当該コア層を被覆する1層又は2層以上のシェル層と、を備えるコア/シェル構造を有する、〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
〔8〕
前記コア層において、前記(b1)成分の含有量に対する前記(b2)成分の含有量の質量比((b2)/(b1))が、0.01/1〜1/1であり、
前記シェル層の最外層において、前記(b1)成分の含有量に対する前記(b2)成分の含有量の質量比((b2)/(b1))が、0.1/1〜5/1である、〔7〕に記載の遮熱組成物。
〔9〕
前記(B)成分が、前記コア層を形成するシード粒子を含む前記重合原液中で、前記(b1)成分及び前記(b2)成分を重合して得られる重合体エマルジョン粒子であり、
前記シード粒子が、前記(b1)成分、前記(b2)成分及び(b5)前記(b2)成分と共重合可能な他のビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の成分を重合して得られる粒子である、〔7〕又は〔8〕に記載の遮熱組成物。
〔10〕
前記(b2)成分が、2級アミド基及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体である、〔3〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
〔11〕
(C)成分:下記式(1)、(2)及び(3)で表される化合物からなる群より選ばれる1種以上の加水分解性珪素化合物をさらに含み、
前記(A1)成分の含有量に対する前記(C)成分の含有量の質量比((C)/(A1))が、1/100〜100/100である、〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
1nSiX4-n (1)
(式(1)中、R1は、水素原子、あるいは、ハロゲン基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基又はエポキシ基を有していてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基若しくはアリール基を表す。Xは、加水分解性基を表し、nは0〜3の整数である。)

3Si−R2n−SiX3 (2)
(式(2)中、Xは加水分解性基を表し、R2は炭素数1〜6のアルキレン基又はフェニレン基を表す。nは0又は1である。)

3−(O−Si(OR32n−OR3 (3)
(式(3)中、R3は炭素数1〜6のアルキル基を表す。nは2〜8の整数である。)
〔12〕
前記(B)成分の数平均粒子径が10〜100nmである、〔1〕〜〔11〕のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
〔13〕
前記(A1)成分が、数平均粒子径が1nm〜400nmのコロイダルシリカである〔1〕〜〔12〕のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
〔14〕
前記(A2)成分が、波長1000nm〜2500nmの波長域で0.1%以上の吸収がある〔1〕〜〔13〕のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
〔15〕
基材と、
前記基材上に〔1〕〜〔14〕のいずれか一項に記載の遮熱組成物を塗布し、乾燥させて形成された塗膜と、
を備える太陽電池用部材。
〔16〕
太陽電池の保護部材である、〔15〕に記載の太陽電池用部材。
〔17〕
〔15〕又は〔16〕に記載の太陽電池用部材と、
前記太陽電池用部材と対向して配置されるバックシートと、
前記太陽電池用部材と前記バックシートの間に配置される発電素子と、
を備える太陽電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の遮熱組成物は、防汚性、全光線透過率に優れ、赤外線遮熱効果によって太陽電池の温度上昇を抑制し発電効率を向上に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の太陽電池の一態様の簡略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、本明細書における「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及びそれに対応する「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及びそれに対応する「メタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリロイル」とは「アクリロイル」及びそれに対応する「メタクリロイル」を意味する。
【0012】
本実施形態の遮熱組成物は、(A1)成分:数平均粒子径が1nm〜400nmのシリカと、(A2)成分:数平均粒子径が1nm〜2000nmの赤外線吸収性剤と、(B)成分:数平均粒子径が10nm〜800nmの重合体エマルジョン粒子と、を含む遮熱組成物である。
【0013】
(A1)成分は、(B)成分と相互作用することにより、(B)成分の硬化剤として作用すると考えられる。当該相互作用としては、例えば、(A1)成分が一般に有する水酸基と、(B)成分が有する水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基及びエーテル基との水素結合、(A1)成分が一般に有する水酸基と、(B)成分を構成する(b1)成分の重合生成物との縮合(化学結合)等を例示することができる。
【0014】
また、(A1)成分が、(B)成分と相互作用しながら(B)成分の粒子間に連続相を形成して存在することが好ましい。この結果、塗膜の最表面には必ず親水性の高いシリカ粒子が存在することになるため、光の照射に無関係に塗膜形成直後から高い親水性が得られると共に、透明性、耐候性がより向上し得る。
【0015】
(A1)成分は、シリカ(いわゆる二酸化ケイ素)であればよく、沈殿法、乾式法等の製法は特に限定されないが、コロイダルシルカが好ましい。(A1)成分がコロイダルシリカである場合には、ゾル−ゲル法で調製して使用することができ、市販品を利用することもできる。コロイダルシリカをゾル−ゲル法で調製する場合、Werner Stober et al;J.Colloid and Interface Sci.,26,62−69(1968)、Rickey D.Badley et al;Lang muir 6,792−801(1990)、色材協会誌,61[9]488−493(1988)等に記載の方法を参照して調製することができる。
【0016】
コロイダルシリカは、二酸化ケイ素を基本単位とするシリカの水又は水溶性溶媒の分散体であり、その数平均粒子径は、好ましくは1nm〜400nmであり、より好ましくは1nm〜200nm、さらに好ましくは1nm〜100nm、よりさらに好ましくは5nm〜30nmである。数平均粒子径が1nm以上であれば、遮熱組成物の貯蔵安定性がより良好であり、100nm以下であると、塗膜の透明性がより良好となる。上記範囲の粒子径を有するコロイダルシリカは、水性分散液の状態で、酸性及び塩基性のいずれであっても用いることができ、共に混合する(B)成分の水性分散体の安定領域に応じて、そのpHを適宜選択することができる。
【0017】
水を分散媒体とする酸性のコロイダルシリカとしては、例えば市販品として日産化学工業(株)製のスノーテックス(商標)−O、スノーテックスOS、スノーテックス−OL、旭電化工業(株)製のアデライト(商標)AT−20Q、クラリアントジャパン(株)製のクレボゾール(商標)20H12、クレボゾール30CAL25等が挙げられる。
【0018】
塩基性のコロイダルシリカとしては、例えば、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン又はアミンの添加で安定化したシリカ等が挙げられる。より具体的には、市販品として日産化学工業(株)製のスノーテックス−20、スノーテックス−30、スノーテックス−C、スノーテックス−C30、スノーテックス−CM40、スノーテックス−N、スノーテックス−N30、スノーテックス−K、スノーテックス−XL、スノーテックス−YL、スノーテックス−ZL、スノーテックスPS−M、スノーテックスPS−L等、旭電化工業(株)製のアデライトAT−20、アデライトAT−30、アデライトAT−20N、アデライトAT−30N、アデライトAT−20A、アデライトAT−30A、アデライトAT−40、アデライトAT−50等、クラリアントジャパン(株)製のクレボゾール30R9、クレボゾール30R50、クレボゾール50R50、デュポン社製のルドックス(商標)HS−40、ルドックスHS−30、ルドックスLS、ルドックスSM−30等が挙げられる。
【0019】
水溶性溶剤を分散媒体とするコロイダルシリカとしては、市販品として例えば、日産化学工業(株)製のMA−ST−M(数平均粒子径が20nm〜25nmのメタノール分散タイプ)、IPA−ST(数平均粒子径が10nm〜15nmのイソプロピルアルコール分散タイプ)、EG−ST(数平均粒子径が10nm〜15nmのエチレングリコール分散タイプ)、EG−ST−ZL(数平均粒子径が70nm〜100nmのエチレングリコール分散タイプ)、NPC−ST(数平均粒子径が10nm〜15nmのエチレングリコールモノプロピルエーテール分散タイプ)等が挙げられる。
【0020】
これらコロイダルシリカは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。コロイダルシリカは、少量成分として、アルミナ、アルミン酸ナトリウム等を含んでいてもよい。また、コロイダルシリカには、安定剤として無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア等)や有機塩基(テトラメチルアンモニウム等)が共存してもよい。
【0021】
(A2)成分である赤外線吸収性剤は、赤外線領域(波長800nm以上)に吸収帯を有する剤であって、有機物、無機物及びそれらの混合物である。赤外線吸収性剤として、無機微粒子及び有機微粒子が挙げられるが、無機微粒子としては、具体的には、酸化セリウム、酸化亜鉛、及びシリカで被覆された当該微粒子、錫をドープした酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドープした酸化錫(ATO)、フッ素をドープした酸化錫(FTO)等の透明導電性微粒子、銀、金、白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属微粒子、式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIからなる群から選択される1種類以上の元素を表し、Wはタングステンを表し、Oは酸素を表し、0.0001≦x/y≦1.5、1.0≦z/y≦5.0)で表記される複合タングステン酸化物等が挙げられる。この他にも酸化ジルコニウム、酸化錫、酸化ビスマス、酸化チタン等の紫外領域に吸収を有する微粒子を1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの赤外線吸収剤は比較的安定で、微粒子化することも可能であるため、可視光領域の散乱を抑制しながら赤外線領域の波長を吸収することが可能となるため好ましい。これらの中でも、ITO、ATO、酸化セリウム、酸化亜鉛、及びシリカで被覆された当該剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0022】
有機微粒子としては近赤外線(800nm〜1100nm)の波長帯域に極大吸収波長を有する色素等あれば、その種類及び組成等に限定はない。例えばジイモニウム系の近赤外線吸収色素が好ましい。ジイモニウム系の近赤外線吸収色素は、波長850nm〜1100nmの近赤外線領域にモル吸光係数が10万程度の強い吸収性を有し、波長400nm〜500nmの可視光領域に若干吸収があるため、黄褐色の透過色を呈するけれども、可視光透過性が他の近赤外線吸収色素よりも優れているため、可視光領域で高い透過率を得るためには好ましい。波長750nm〜950nmに吸収極大を有し、可視光領域における吸収のないフタロシアニン系色素、有機金属錯体系色素、及びシアニン系色素からなる群から選択される1種以上の色素を単独で使用してもよいし、併用してもよい。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリビニルスルホン酸等に代表される導電性ポリマーを使用することができる。
【0023】
塗膜断熱性を付与する目的で、(A2)成分として着色顔料を単独あるいは併用することができる。この場合、例えば、JIS A5759−1998に規定される日射反射率が13%以上の着色顔料であることが好ましく、具体的には、白系顔料としてチタンホワイト、酸化亜鉛系顔料等の白系顔料;酸化鉄系顔料、キナクリドン系顔料等の赤系顔料;酸化鉄系顔料、水酸化鉄系顔料、クロム酸鉛系顔料、アゾ系顔料等の黄色系顔料;フタロシアニンブルー、複合酸化物系顔料等の青系顔料;クロムグリーン、フタロシアニングリーン系顔料等の緑系顔料等が例示できる。
【0024】
赤外線吸収性剤は太陽光の赤外線波長、特にシリコンの吸収帯に相当する波長域に吸収が無いことが理想的であるが、可視紫外光領域波長300nm〜780nmにおける平均反射率が25%以下、赤外線領域波長780nm〜2500nmにおける平均反射率が15%以上であることが好ましい。
【0025】
(A2)成分に赤外線吸収がある場合には、波長1000nm〜2500nmの波長域で0.1%以上の吸収があることが好ましい。波長1000nm〜2500nmの領域は赤外線が熱に効率よく変換される波長域であり、この波長域で0.1%以上の吸収があると好ましく、10%以上であることがより好ましい。しかし、この波長域はシリコンの吸収領域とも重なるため赤外線吸収剤の赤外線吸収能力に応じて添加量を調整して用いることもできる。
【0026】
粒子の散乱によってシリコンの吸収帯波長の光を散乱しない粒子径にすることで、太陽電池の発電性能に悪影響を与えずに温度の上昇を効率的に抑制することができる。このような観点から数平均粒子径は10nm〜2000nmが好ましく、10nm〜1500nmがより好ましく、10nm〜1000nmがさらに好ましい。数平均粒子径が10nm以上とすることで分散安定性を保持することができ、2000nm以下とすることで(A2)成分の添加量が多い場合でも散乱光が強くならず太陽電池の発電効率が低下しない。
【0027】
一般的に、これら赤外線吸収性剤は水系の溶媒中に分散しにくい傾向があるため、赤外線吸収性剤の表面を均一あるいは不均一にシリカで表面を被覆したものを使用することが好ましい。これにより(A1)成分との配合安定性、赤外線吸収性剤の耐候性等をさらに向上させることができる。赤外線吸収性剤をシリカで被覆する方法は特に限定はされず、公知の方法を採用でき、例えば、赤外線吸収性剤を水中に分散させ、高圧モホジナイザーで分散処理した後、攪拌しながらテトラエトキシシランや水ガラス等を添加し、pHを適切に調整しつつ、温度を管理することで得ることができる。
【0028】
(A2)成分の形態としては、特に限定されず、例えば、粉体、分散液、ゾル等が挙げられる。ここでいう「分散液」及び「ゾル」とは、(A2)成分が水及び/又は親水性有機溶媒中に0.01〜80質量%、好ましくは0.1〜50質量%の濃度で、1次粒子及び/又は2次粒子として分散された状態を意味する。
【0029】
分散液又はゾル中に観察される(A2)成分の粒子径は数平均粒子径(1次粒子と2次粒子との混合物であってもよく、1次粒子及び2次粒子のいずれか一方のみであってもよい。)を意味する。(A2)成分の数平均粒子径は、得られる遮熱組成物を用いて形成される塗膜の光学特性等に寄与し得る。特に、その数平均粒子径を100nm以下とすることは、得られる塗膜の透明性を大きく向上させ得る。なお、本実施形態における数平均粒子径は、後述する実施例の方法に準じて測定される値である。
【0030】
前記(B)成分の含有量に対する前記(A1)成分と前記(A2)成分との総含有量の質量比((A1+A2)/B)は、特に限定されないが、全光線透過率と赤外線吸収の観点から、好ましくは60/100〜1000/100であり、より好ましくは100/100〜500/100であり、さらに好ましくは120/100〜300/100である。
【0031】
(B)成分と(A1)成分の合計含有量に対する(A2)成分の含有量の質量比((A2)/(B+A1))は、塗膜の全光線透過率の観点から、好ましくは0.05/100〜40/100であり、より好ましくは0.1/100〜20/100であり、さらに好ましくは0.1/100〜10/100である。
【0032】
(A2)成分は(A1)成分よりも比較的二次凝集を生じやすいため、前記(B)成分と前記(A1)成分の合計含有量に対する(A2)成分の含有量の質量比((A2)/(A1+B))を40/100以下にすることにより、塗膜の透明性を高くし、散乱による光線透過率の低下を抑制することができる。前記(B)成分と前記(A1)成分の合計含有量に対する前記(A2)成分の含有量の質量比((A2)/(A1+B))を0.05/100以上にすることにより、塗膜表面での赤外線吸収を高め、シリコンの温度上昇を抑制し、発電効率を向上させることができる。
【0033】
なお、本実施形態において「親水性」とは、測定対象物の表面に対する水(23℃)の接触角が、好ましくは60゜以下、より好ましくは30゜以下、さらに好ましくは20゜以下になる性質を意味する。
【0034】
本実施形態の遮熱組成物には必要に応じて、(A1)及び(A2)成分以外に導電性を有する金属酸化物を含有することができる。これにより帯電防止性能等を遮熱組成物に付与することができる。このような導電性を有する金属酸化物としては、特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、錫をドープした酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドープした酸化錫(ATO)、酸化錫、酸化亜鉛等が挙げられる。また、(B)成分との相互作用の観点から、例えば、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化鉛、酸化鉄、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ニオブ、酸化セリウム等を併用することもできる。
【0035】
(B)成分の重合体エマルジョン粒子は、(b1)成分:加水分解性珪素化合物と、(b2)成分:水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基及びエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有するビニル単量体と、(b3)成分:乳化剤と、(b4)成分:水と、を含む重合原液中で、(b1)成分及び(b2)成分を重合して得られる重合体エマルジョン粒子である。このようにして得られる(B)成分としては、(b1)成分に由来する水酸基と(b2)成分の重合生成物とが、水素結合等により複合化されたものを好適に用いることができる。
【0036】
(b1)成分としては、例えば、下記式(4)で表される化合物やその縮合生成物、シランカップリング剤等が挙げられる。

SiWxy (4)

ここで、式中、Wは炭素数1〜20のアルコキシ基、水酸基、炭素数1〜20のアセトキシ基、ハロゲン原子、水素原子、炭素数1〜20のオキシム基、エノキシ基、アミノキシ基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表す。Rは、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30個のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、及び置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数1〜20のアルコキシ基若しくはハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭化水素基を表す。xは1以上4以下の整数であり、yは0以上3以下の整数である。また、x+y=4である。
【0037】
シランカップリング剤とは、ビニル重合性基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、イソシアネート基等の有機物と反応性を有する官能基が分子内に存在するシラン誘導体を意味する。
【0038】
式(4)で表される化合物の具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリ−n−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン類;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン類等が挙げられる。また、これらは、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。
【0039】
(b1)成分として、フェニル基を有する珪素アルコキシド(例えば、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等)を用いることができる。フェニル基を有する珪素アルコキシドを用いた場合、水及び乳化剤の存在下における重合安定性が良好となり好適である。
【0040】
(b1)成分は、チオール基を有するシランカップリング剤や、(b1−1)成分:ビニル重合性基を有する加水分解性珪素化合物を含んでもよい。これらを(b1)成分として用いた場合、得られる塗膜の長期防汚染性が良好となり好適である。
【0041】
チオール基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0042】
(b1−1)成分としては、例えば、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、2−トリメトキシシリルエチルビニルエーテル等のビニル重合性基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
【0043】
これらシランカップリング剤は、後述する(b2)成分との共重合又は連鎖移動反応により化学結合を生成し得る。このため、ビニル重合性基やチオール基を有するシランカップリング剤を上述した(b1)成分と混合若しくは複合化させて用いた場合、(b1)成分の重合生成物と後述する(b2)成分の重合生成物とを化学結合により複合化し得る。
【0044】
(b1−1)成分における「ビニル重合性基」としては、例えば、ビニル基、アリル基等が挙げられ、これらの中でも3−(メタ)アクリルオキシプロピル基が好ましい。
【0045】
(b1)成分は、(b1−2)成分:環状シロキサンオリゴマーを含んでいてもよい。当該(b1−2)成分を用いた場合、得られる塗膜の柔軟性がより良好となり好適である。
【0046】
環状シロキサンオリゴマーとしては、下記式(5)で表される化合物を例示することができる。

(R’2SiO)m (5)

ここで、式中、R’は、水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30個のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、及び置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数1〜20のアルコキシ基若しくはハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1種を示す。mは整数であり、2≦m≦20である。
中でも、反応性等の点からオクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状ジメチルシロキサンオリゴマーが好ましい。
【0047】
(b1)成分として縮合生成物が用いられる場合、当該縮合生成物のポリスチレン換算重量平均分子量(GPC法による)は、好ましくは200〜5000、より好ましくは300〜1000である。
【0048】
本実施形態の遮熱組成物において、(B)成分の含有量に対する(b1)成分の含有量の質量比((b1)/(B))は、重合安定性の観点から、好ましくは0.01/100〜80/100、より好ましくは0.1/100〜70/100である。
【0049】
(B)成分の含有量に対する(b1−1)成分の含有量の質量比((b1−1)/(B))は、重合安定性の観点から、好ましくは0.01/100〜20/100、より好ましくは0.5/100〜10/100である。(b2)成分の含有量に対する(b1−1)成分の含有量の質量比((b1−1)/(b2))は、重合安定性の観点から、好ましくは0.1/100〜100/100、より好ましくは0.5/100〜50/100である。
【0050】
(B)成分の含有量に対する(b1−2)成分の含有量の質量比((b1−2)/(B))(質量比)は、親水性の観点から、好ましくは0.01/100〜20/100、より好ましくは0.5/100〜5/100である。(b2)成分の含有量に対する(b1−2)成分の含有量の質量比((b1−2)/(b2))は、重合安定性の観点から、好ましくは0.5/100〜50/100、より好ましくは1.0/100〜20/100である。
【0051】
(b2)成分として挙げられる水酸基含有ビニル単量体の具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート若しくは4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートのような各種のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル若しくは4−ヒドロキシブチルビニルエーテルのような各種の水酸基含有ビニルエーテル類;2−ヒドロキシエチルアリルエーテルのような各種の水酸基含有アリルエーテル類;ポリエチレングリコールに代表される種々のポリエーテルポリオールと、(メタ)アクリル酸に代表される種々の不飽和カルボン酸とから得られるポリオキシアルキレングリコールのモノエステル類;上述の各種の水酸基含有単量体類とε−カプロラクトンに代表される種々のラクトン類との付加物;グリシジル(メタ)アクリレートに代表される種々のエポキシ基含有不飽和単量体と酢酸に代表される種々の酸類との付加物;(メタ)アクリル酸に代表される種々の不飽和カルボン酸類と「カーデュラ E」(オランダ国シェル社製の商品名)に代表されるα−オレフィンのエポキサイド以外の種々のモノエポキシ化合物との付加物等が挙げられる。
【0052】
(b2)成分として挙げられるカルボキシル基含有ビニル単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸若しくはフマル酸のような各種の不飽和カルボン酸類;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノ−n−ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノ−n−ブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノ−n−ブチルのような不飽和ジカルボン酸類と飽和1価アルコール類とのモノエステル類(ハーフエステル類);アジピン酸モノビニル若しくはコハク酸モノビニルのような各種の飽和ジカルボン酸のモノビニルエステル類;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水フタル酸若しくは無水トリメリット酸のような各種の飽和ポリカルボン酸の無水物類と上述の各種の水酸基含有ビニル系単量体類との付加反応生成物;上述の各種のカルボキシル基含有単量体類とラクトン類とを付加反応して得られる単量体類等が挙げられる。
【0053】
(b2)成分として挙げられるアミノ基含有ビニル単量体の具体例としては、例えば、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジ−n−プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、4−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート若しくはN−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エチルモルホリンのような各種の3級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルキノリンのような各種の3級アミノ基含有芳香族ビニル系単量体類;N−(2−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ジ−n−プロピルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、N−(3−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、N−(4−ジメチルアミノ)ブチル(メタ)アクリルアミド若しくはN−[2−(メタ)アクリルアミド]エチルモルホリンのような各種の3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド類;N−(2−ジメチルアミノ)エチルクロトン酸アミド、N−(2−ジエチルアミノ)エチルクロトン酸アミド、N−(2−ジ−n−プロピルアミノ)エチルクロトン酸アミド、N−(3−ジメチルアミノ)プロピルクロトン酸アミド若しくはN−(4−ジメチルアミノ)ブチルクロトン酸アミドのような各種の3級アミノ基含有クロトン酸アミド類;2−ジメチルアミノエチルビニルエーテル、2−ジエチルアミノエチルビニルエーテル、3−ジメチルアミノプロピルビニルエーテル若しくは4−ジメチルアミノブチルビニルエーテルのような各種の3級アミノ基含有ビニルエーテル類等が挙げられる。
【0054】
(b2)成分として挙げられるエーテル基含有ビニル単量体の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体のような各種のポリエーテル鎖を側鎖に有するビニルエーテル類、アリルエーテル類又は(メタ)アクリル酸エステル類のビニル単量体類が挙げられる。エーテル基含有ビニル単量体は市販品を用いることもでき、例えば、ブレンマーPE−90、PE−200、PE−350、PME−100、PME−200、PME−400、AE−350(以上、日本油脂(株)製、商品名)、MA−30、MA−50、MA−100、MA−150、RA−1120、RA−2614、RMA−564、RMA−568、RMA−1114、MPG130−MA(以上、日本乳化剤(株)製、商品名)等が挙げられる。ここで、ポリオキシエチレン鎖のオキシエチレン単位の数は2〜30が好ましい。2未満では、塗膜の柔軟性が不十分となる傾向にあり、30を超えると、塗膜が軟らかくなり、耐ブロッキング性に劣る傾向にある。
【0055】
(b2)成分として挙げられるアミド基含有ビニル単量体の具体例としては、例えば、N−アルキル又はN−アルキレン置換(メタ)アクリルアミドを例示することができる。より具体的には、例えばN−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−アクリロイルヘキサヒドロアゼピン、N−アクリロイルモルホリン、N−メタクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスメタクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等が挙げられる。
【0056】
前記(b2)成分としては、他成分との水素結合性をより向上させる観点から、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体を用いることが好ましい。特に水素結合力の観点から3級アミド基を有するビニル単量体が好ましい。
【0057】
本実施形態の遮熱組成物において、(B)成分の含有量に対する(b2)成分の含有量の質量比((b2)/(B))は、重合安定性の観点から、好ましくは0.1/1〜0.5/1、より好ましく0.2/1〜0.4/1である。
【0058】
(A1)成分の含有量に対する(b2)成分の含有量の質量比((b2)/(A1))は、(A1)成分との水素結合性や配合安定性の観点から、好ましくは0.1/1〜1/1、より好ましくは0.2/1〜0.7/1である。
【0059】
(b3)成分としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸等の酸性乳化剤、酸性乳化剤のアルカリ金属(Li、Na、K等)塩、酸性乳化剤のアンモニウム塩、脂肪酸石鹸等のアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレート等の四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル等のノニオン型界面活性剤等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0060】
(b3)成分としては、得られる(B)成分の水分散安定性を向上させる観点、及び、得られる塗膜の長期防汚染性を向上させる観点から、ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤を用いることが好ましい。反応性乳化剤としては、例えば、スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体、硫酸エステル基を有するビニル単量体、及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、ポリオキシエチレン等のノニオン基を有するビニル単量体、並びに、4級アンモニウム塩を有するビニル単量体等が挙げられる。
【0061】
上記スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体としては、例えば、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつスルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基、フェニル基、ナフチル基、及びコハク酸基からなる群より選ばれる置換基を有する化合物;スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物等が挙げられる。
【0062】
硫酸エステル基を有するビニル単量体としては、例えば、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつ硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基、フェニル基、及びナフチル基からなる群より選ばれる置換基を有する化合物等が挙げられる。
【0063】
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基により一部が置換されたコハク酸基を有する化合物の具体例としては、アリルスルホコハク酸塩等が挙げられる。より詳しくは、例えば、エレミノールJS−2(三洋化成(株)製、商品名)、ラテムルS−120、S−180A又はS−180(花王(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0064】
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基により一部が置換された、炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基を有する化合物の具体例としては、例えばアクアロンHS−10又はKH−1025(第一工業製薬(株)製、商品名)、アデカリアソープSE−1025N又はSR−1025(旭電化工業(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0065】
ノニオン基を有するビニル単量体として具体的には、例えば、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(商品名:アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40等、旭電化工業(株)製)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(商品名:アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50等、第一製薬工業(株)製)が挙げられる。
【0066】
(b3)成分の使用量は、重合安定性の観点から、(B)成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは0.001〜5質量部である。
【0067】
(B)成分は上述の(b1)〜(b3)の各成分、及び(b4)成分(すなわち水)を含む重合原液中で、(b1)成分及び(b2)成分を重合して得られる重合体エマルジョン粒子である。(b4)成分の使用量は、重合安定性の観点から、重合原液中の含有率として好ましくは30〜99.9質量%である。
【0068】
重合原液には、(b1)〜(b4)成分に加え、更に種々の成分を混合することができる。まず、重合原液には、(b5)成分:(b2)成分と共重合可能な他のビニル単量体をさらに混合することが好ましい。このような(b5)成分を用いることは、生成する重合生成物の特性(ガラス転移温度、分子量、水素結合力、極性、分散安定性、耐候性、(b1)成分である加水分解性珪素化合物の重合生成物との相溶性等)を制御する観点から好適である。
【0069】
(b5)成分としては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル類の他、エポキシ基含有ビニル単量体、カルボニル基含有ビニル単量体、アニオン型ビニル単量体のような官能基を含有する単量体等が挙げられる。
【0070】
(b5)成分が全ビニル単量体中に占める割合としては、好ましくは0.001〜30質量%であり、より好ましくは0.05〜10質量%の範囲である。(b5)成分をこの範囲で用いることは、ガラス転移温度、分子量、水素結合力、極性、分散安定性、耐候性、(b1)成分である加水分解性珪素化合物の重合生成物との相溶性等を制御する観点から好適である。
【0071】
重合原液には、連鎖移動剤を混合することができる。連鎖移動剤としては、例えば、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンのようなアルキルメルカプタン類;ベンジルメルカプタン、ドデシルベンジルメルカプタンのような芳香族メルカプタン類;チオリンゴ酸のようなチオカルボン酸又はそれらの塩若しくはそれらのアルキルエステル類、又はポリチオール類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジ(メチレントリメチロールプロパン)キサントゲンジスルフィド及びチオグリコール、α−メチルスチレンのダイマー等のアリル化合物等が挙げられる。
【0072】
これら連鎖移動剤の使用量は、全ビニル単量体の合計量100質量部に対して、好ましくは0.001〜30質量部、より好ましくは0.05〜10質量部である。連鎖移動剤をこの範囲で用いることは、重合安定性の観点から好適である。
【0073】
さらに、重合原液には分散安定剤を混合することができる。そのような分散安定剤としては、例えば、ポリカルボン酸及びスルホン酸塩からなる群より選ばれる各種の水溶性オリゴマー類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性又は水分散性アクリル樹脂等の合成又は天然の水溶性又は水分散性の各種の水溶性高分子物質等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0074】
これらの分散安定剤の使用量は、(B)成分の重合体エマルジョン粒子100質量部に対して、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは0.001〜5質量部である。
【0075】
上述の重合原液の重合は、重合触媒の存在下で実施するのが好ましい。(b1)成分の重合触媒としては、例えば、塩酸、フッ酸等のハロゲン化水素類、酢酸、トリクロル酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸等のカルボン酸類、硫酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸類、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸等の酸性乳化剤類、酸性又は弱酸性の無機塩、フタル酸、リン酸、硝酸のような酸性化合物類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、酢酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン類、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシランのような塩基性化合物類;ジブチル錫オクチレート、ジブチル錫ジラウレートのような錫化合物等が挙げられる。中でも、(b1)成分である加水分解性珪素化合物の重合触媒としては、重合触媒のみならず乳化剤としての作用を有する酸性乳化剤類、特に炭素数が5〜30のアルキルベンゼンスルホン酸(ドデシルベンゼンスルホン酸等)等が好ましい。
【0076】
(b2)成分の重合触媒としては、熱又は還元性物質等によってラジカル分解してビニル単量体の付加重合を起こさせるラジカル重合触媒が好適である。そのようなラジカル重合触媒として、例えば、水溶性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物が挙げられ、これらが好ましい。より具体的には、ラジカル重合触媒として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ヒドロクロリド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0077】
重合触媒の使用量としては、全ビニル単量体100質量部に対して、好ましくは0.001〜5質量部である。なお、重合速度の促進、及び70℃以下での低温の重合を望む場合、例えば重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
【0078】
本実施形態において、(b1)成分の重合と、(b2)成分の重合とは、別々に実施することも可能であるが、同時に実施すると水素結合等によるミクロな有機・無機複合化が達成できるので好ましい。
【0079】
(B)成分を得る方法として、乳化剤がミセルを形成するのに十分な量の水の存在下に(b1)成分と(b2)成分とを重合する、いわゆる乳化重合が適している。乳化重合の方法としては、例えば、(b1)成分及び(b2)成分、更には必要に応じて(b3)成分をそのまま、又は乳化した状態で、一括若しくは分割して、又は連続的に反応容器中に滴下し、重合触媒の存在下、好ましくは大気圧から必要により10MPaまでの圧力下で、約30〜150℃の反応温度で重合させる方法等が挙げられる。ただし、必要に応じて、これ以上の圧力で、又はこれ以下の温度条件で重合してもよい。
【0080】
重合原液の配合について、重合安定性の観点から、最終固形分量が0.1〜70質量%、好ましくは1〜55質量%の範囲になるように(b1)〜(b4)の各成分を配合するのが好ましい。
【0081】
乳化重合を行うに際して、得られる(B)成分の粒子径を適度に成長又は制御する観点から、シード重合法を用いることが好ましい。シード重合法とは、予め水相中にエマルジョン粒子(シード粒子)を存在させて重合させる方法である。シード重合法を行う際の重合系中のpHとしては、好ましくは1.0〜10.0、より好ましくは1.0〜6.0である。そのpHは、リン酸二ナトリウム、ボラックス、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等のpH緩衝剤を用いて調節することが可能である。
【0082】
(B)成分を得る方法として、(b1)成分を重合させるのに必要な(b3)成分及び(b4)成分の存在下、(b1)成分及び(b2)成分を、必要により溶剤存在下で重合した後、重合生成物がエマルジョンとなるまで水を添加する手法も適用できる。
【0083】
(B)成分は、それが含まれる遮熱組成物を用いて形成される塗膜の基材密着性を向上させる観点から、コア層と、当該コア層を被覆する1層又は2層以上のシェル層とを備えたコア/シェル構造を有することが好ましい。当該コア/シェル構造を形成する方法としては、乳化重合を多段で行う、多段乳化重合が非常に有用である。
【0084】
(B)成分は、前記コア層を形成するシード粒子を含む前記重合原液中で、前記(b1)成分及び前記(b2)成分を重合して得られる重合体エマルジョン粒子であり、前記シード粒子が、前記(b1)成分、前記(b2)成分及び(b5)前記(b2)成分と共重合可能な他のビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の成分を重合して得られる粒子であることがより好ましい。この場合も、多段乳化重合が有用である。
【0085】
多段乳化重合は、具体的には、例えば第1段階として、(b3)成分及び(b4)成分の存在下、(b1)成分、(b2)成分及び(b5)成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の成分を重合してシード粒子を形成し、第2段階として、当該シード粒子の存在下、(b1)成分及び(b2)成分、並びに必要に応じて(b5)成分を含む重合原液を添加して重合する(2段重合法)。3段以上の多段乳化重合を実施する場合、例えば第3段階として、さらに(b1)成分及び(b2)成分、並びに必要に応じて(b5)成分を含む重合原液を添加して重合することができる。このような方法は、重合安定性の観点からも好適である。
【0086】
2段重合法を採用する場合、上記第1段階において用いられる重合原液中の固形分質量(M1)と上記第2段階において添加される重合原液中の固形分質量(M2)との質量比((M1)/(M2))は、重合安定性の観点から、好ましくは9/1〜1/9、より好ましくは8/2〜2/8である。
【0087】
また、上記コア/シェル構造として、重合安定性の観点から、シード粒子の粒径分布(体積平均粒子径/数平均粒子径)が大きく変化することなく、上記第2段階の重合によって粒子径が増大した構造を有することが好ましい。なお、体積平均粒子径は、数平均粒子径と同様に測定し得る。
【0088】
本実施形態に係る重合体エマルジョン粒子(B)は、上記コア層において、(b1)成分の含有量に対する(b2)成分の含有量の質量比((b2)/(b1))が、0.01/1〜1/1であると好ましい。コア層における(b2)/(b1)は、重合安定性の観点から0.01/1以上、耐久性、柔軟性の観点から1/1以下であると好ましい。シェル層の最外層において、(b1)成分の含有量に対する(b2)成分の含有量の質量比((b2)/(b1))は、(A)成分と適度な相互作用を得るという観点から、0.1/1〜5/1であることが好ましい。
【0089】
コア/シェル構造は、例えば、透過型電子顕微鏡等による形態観察や粘弾性測定による解析等により観察することができる。
【0090】
コア/シェル構造のコア層のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは0℃以下である。この場合、得られる遮熱組成物は、その塗膜の物性として、室温における柔軟性に優れるので、割れ等が生じ難い太陽電池用の保護部材を形成することが可能となり、好ましい。なお、本実施形態において、Tgは示差走査熱量測定装置(DSC)にて測定することができる。
【0091】
(B)成分の数平均粒子径は、10nm〜800nmである。(B)成分の粒子径をこのような範囲に調整し、数平均粒子径が1nm〜400nmの(A1)成分と組み合わせて組成物を形成することにより、耐候性、防汚染性が良好となる。得られる塗膜の透明性向上の観点から、(B)成分の数平均粒子径は10nm〜100nmであると好適である。
【0092】
(A1)成分の表面積(SA1)と(B)成分の表面積(SB)との比((SA1)/(SB))は、好ましくは0.001〜1000の範囲である。なお、各成分の表面積は、(A1)成分及び(B)成分の各々の粒子径、各々の質量、及び各々の比重から、粒子の形状を真球と仮定して算出することができる。
【0093】
本実施形態の遮熱組成物には、上記各成分に加えて、その用途及び使用方法等に応じて、通常、塗料や成型用樹脂に添加配合される添加剤成分、例えば、光安定剤、紫外線吸収剤、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋反応触媒、顔料、硬化触媒、架橋剤、充填剤、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、成膜助剤、防錆剤、染料、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤又は帯電調整剤等をそれぞれの目的に応じて選択したり、組み合わせたりして、配合することができる。
【0094】
光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤が好ましく用いられる。中でも、分子内にラジカル重合性の二重結合を有するラジカル重合性光安定剤が好ましい。紫外線吸収剤としては、例えば有機系紫外線吸収剤を挙げることができる。このような有機系紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。中でも、分子内にラジカル重合性の二重結合を有するラジカル重合性紫外線吸収剤を用いることが好ましい。また、紫外線吸収能の高いベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤が好ましい。
【0095】
光安定剤は、有機系紫外線吸収剤と併用することが好ましい。両者を併用することは、得られる遮熱組成物の耐候性向上に寄与し得る。また、これらの有機系紫外線吸収剤や、光安定剤、各種添加剤成分は、(A1)成分、(A2)成分及び(B)成分と単に配合することも可能であるし、(B)成分を合成する際に共存させることも可能である。
【0096】
本実施形態の遮熱組成物は、塗膜の強度及び防汚性を向上させる目的で、(C)成分として加水分解性珪素化合物を更に含むと好ましい。(C)成分として用いられる加水分解性珪素含有化合物としては、下記式(1)で表される加水分解性珪素含有化合物(c1)、下記式(2)で表される加水分解性珪素含有化合物(c2)、下記式(3)で表される加水分解性珪素化合物(c3)からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。

1nSiX4-n (1)

ここで、式(1)中、R1は水素原子、あるいは、ハロゲン基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基又はエポキシ基を有していてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基若しくはアリール基を示す。Xは、加水分解性基を示し、nは0〜3の整数である。加水分解性基は加水分解により水酸基が生じる基であれば特に限定されず、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、フェノキシ基、オキシム基等が挙げられる。

3Si−R2n−SiX3 (2)

ここで、式(2)中、Xは加水分解性基を示し、R2は炭素数1〜6のアルキレン基又はフェニレン基を示す。nは0又は1である。

3−(O−Si(OR32n−OR3 (3)

ここで、式(3)中、R3は炭素数1〜6のアルキル基を示す。nは2〜8の整数である。
【0097】
加水分解性珪素化合物(c1)及び(c2)として具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(i−ブトキシ)シラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリフェノキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリフェノキシシリル)エタン、1,3−ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(トリエトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(トリフェノキシシリル)プロパン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラキス(トリクロロアセトキシ)シラン、テトラキス(トリフルオロアセトキシ)シラン、トリアセトキシシラン、トリス(トリクロロアセトキシ)シラン、トリス(トリフルオロアセトキシ)シラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリス(トリクロロアセトキシ)シラン、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラフルオロシラン、トリクロロシラン、トリブロモシラン、トリフルオロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリブロモシラン、メチルトリフルオロシラン、テトラキス(メチルエチルケトキシム)シラン、トリス(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、フェニルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、ビス(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルビス(メチルエチルケトキシム)シラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルシラン、ビス(ジエチルアミノ)メチルシラン等が挙げられる。
【0098】
前記式(3)で表される加水分解性珪素化合物(c3)の具体例としては、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(例えば、多摩化学工業(株)製の商品名「Mシリケート51」、コルコート(株)製の商品名「MSI51」、三菱化学(株)製の「MS51」、同「MS56」)、テトエトキシシランの部分加水分解縮合物(多摩化学工業(株)製の商品名「シリケート35」、同「シリケート45」、コルコート(株)製の商品名「ESI40」、同「ESI48」)、テトラメトキシシランとテトラエトキシシランとの共部分加水分解縮合物(多摩化学工業(株)製の商品名「FR−3」、コルコート(株)製の商品名「EMSi48」)等が挙げられる。
【0099】
(C)成分である上記加水分解性珪素化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0100】
また、本実施形態の遮熱組成物において、(A1)成分の含有量に対する(C)成分の含有量の質量比((C)/(A1))は、好ましくは0.2/100〜300/100であり、より好ましくは1/100〜100/100である。(C)/(A1)が0.2/100以上であれば、高温条件下で十分低い接触角が得られる傾向にあり、(C)/(A1)が300/100以下であれば、十分な塗膜強度が得られる傾向にある。
【0101】
本実施形態の遮熱組成物は、特に限定されるものではないが、水及び必要に応じて別の溶媒に溶解及び/又は分散させた状態として調製することができる。
【0102】
本実施形態の遮熱組成物は、太陽電池用部材として好適に用いることができる。太陽電池用部材としては、例えば、基材と、前記基材上に本実施形態の遮熱組成物を塗布し、乾燥させて形成された塗膜と、を備えるものが挙げられる。この塗膜は太陽電池の保護膜として好適に使用することができる。したがって、本実施形態の太陽電池用部材は太陽電池用保護部材としてより好適に用いることができる。
【0103】
本実施形態で使用される基材としては、特に限定されず、例えば、その材料がガラスや樹脂であるものが好ましく用いられる。透明性、耐候性、軽量化の観点から、基材を構成する材料が、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びエチレン−フルオロエチレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の材料、又はそれらの複合材料であると好ましい。アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、エチレン−フルオロエチレン共重合体には、耐候性を付与する目的で耐候剤等を更に練り込んでもよい。
【0104】
また、本実施形態の太陽電池用部材は、例えば、水等の溶媒等に分散させた上記遮熱組成物(単に「水分散体」と略記することがある。)を基材上に塗布し乾燥することで形成される。ここで、水分散体の固形分濃度は、好ましくは0.01〜60質量%、より好ましくは1〜40質量%である。また、水分散体の粘度は、20℃において好ましくは0.1〜100000mPa・s、より好ましくは1〜10000mPa・sである。さらに、遮熱組成物の基材への塗布方法としては、例えばスプレー吹き付け法、フロー遮熱法、ロールコート法、バーコート法、刷毛塗り法、ディップ遮熱法、スピン遮熱法、スクリーン印刷法、キャスティング法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等が挙げられる。なお、塗膜を基材上で乾燥した後、所望により好ましくは100℃以下での熱処理や紫外線照射等を行って得ることも可能である。
【0105】
このようにして得られた塗膜は、上記(A1)成分、(A2)成分及び(B)成分、並びに必要に応じて、上記(C)成分、及び固形分として残存し得る上記添加剤成分を含むものである。
【0106】
塗膜の厚さは、好ましくは0.05μm〜100μm、より好ましくは0.1μm〜10μmである。透明性の観点から、100μm以下の厚さであることが好ましく、耐候性、防汚染性等の機能をより有効に発現するためには0.05μm以上の厚さであることが好ましい。
【0107】
塗膜の屈折率は1.3〜1.5であることが好ましい。光線透過率を高める観点から1.3〜1.45であることがより好ましい。本実施形態では、(A1)成分と(A2)成分との屈折率は大きく異なるため、(A1)成分の含有量が高い組成において、屈折率を上記範囲に制御するには、(A2)成分の粒子径や添加量を少なくすることはもちろんであるが、(A2)成分を塗膜中になるべく均一に分散させることも有用である。本実施形態において「塗膜」は、必ずしも連続膜である必要はなく、不連続膜、島状分散膜等の態様であってもよい。
【0108】
本実施形態の遮熱組成物は、上述のようにして塗膜とすることにより、太陽電池の保護部材等の太陽電池用部材として好適に用いることができる。塗膜のヘイズ値は、光線透過率を高くするという観点から10%以下であることが好ましい。ここでいう「ヘイズ値」は、後述する実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0109】
本実施形態の遮熱組成物、塗膜及びそれを用いた太陽電池用部材によると、防汚性、全光線透過率、赤外線遮蔽性に優れ、太陽電池のモジュール温度の上昇を抑制することが可能であるため、特に結晶タイプ太陽電池において出力の高い太陽電池とすることができる。
【0110】
図1は、本実施形態の太陽電池の一態様の簡略断面図である。本実施形態の太陽電池1は、太陽電池用部材10と、前記太陽電池用部材10と対向して配置されるバックシート12と、前記太陽電池用部材10と前記バックシート12の間に配置される発電素子14と、を備える。さらに、発電素子14は、封止材16によって封止されている。太陽電池1において太陽光Lは、太陽電池用部材10側から入射して発電素子14に到達する。
【0111】
太陽電池用部材10は、発電素子14等を保護する保護部材である。太陽電池用部材10は、基板102の表面に塗膜104が形成されている。この場合、太陽電池用部材10は太陽光を透過する光透過性基板として機能するとともに、上記した防汚性、赤外線遮蔽性に優れるため太陽電池のモジュール温度の上昇を抑制することもできる。そして、太陽電池用部材10は前記塗膜104が形成された面を太陽電池1の表面側となるように用いることが好ましい。
【0112】
太陽電池用部材10は、耐候性、撥水性、耐汚染性、機械強度をはじめとして、太陽電池1の屋外暴露における長期信頼性を確保できるための性能を具備することが好ましい。また、太陽光を有効に活用するために、光学ロスの小さい、透明性の高い部材であることが好ましい。基板102の材料としては、特に限定されず、上述したものを用いることができる。より具体的には、ガラス基板;ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、環状オレフィン(共)重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等からなる樹脂フィルム等が好ましく、これらの中でも、耐候性、耐衝撃性、コストのバランスの観点からガラス基板がより好ましい。
【0113】
ガラス基板を用いる場合には、波長350〜1400nmの光の全光線透過率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。かかるガラス基板としては赤外部の吸収の少ない白板ガラスを使用するのが一般的であるが、青板ガラスであっても厚さが3mm以下であれば太陽電池モジュールの出力特性への影響は通常少ない。また、ガラス基板の機械的強度を高めるために熱処理により強化ガラスを得ることができるが、熱処理無しのフロート板ガラスを用いてもよい。
【0114】
樹脂フィルムとして、透明性、強度、コスト等の観点からポリエステル樹脂が好ましく、とりわけポリエチレンテレフタレート樹脂がより好ましい。また、耐侯性が特に良好なフッ素樹脂も好適に用いられる。具体的には、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン樹脂(TFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂(CTFE)が挙げられる。耐候性の観点からはポリフッ化ビニリデン樹脂が好ましいが、耐候性及び機械的強度の両立をする観点からは四フッ化エチレン−エチレン共重合体が好ましい。
【0115】
塗膜104としては、上述した塗膜を用いることができる。基材102の上に塗膜104を形成する方法についても、上述した方法を用いることができる。
【0116】
バックシート12としては、特に限定はないが、太陽電池モジュールの最表層に位置するため、上述の太陽電池用部材10と同様に、耐候性、機械強度等の諸特性を有することが好ましい。したがって、太陽電池用部材10と同様の材質でバックシートを構成してもよい。すなわち、太陽電池用部材10(特に、基材102)において用いることができる上述の各種材料を、バックシートにおいても用いることができる。特に、ポリエステル樹脂、及びガラス基板を好ましく用いることができ、中でも、耐候性、コストの観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)がより好ましい。
【0117】
バックシート12は、太陽光の通過を前提としないため、太陽電池用部材10で求められる透明性(透光性)は必ずしも要求されない。そこで、図示はしないが、太陽電池1の機械的強度を増す目的や、温度変化による歪や反りを防止する目的で、補強板を張り付けてもよい。例えば、鋼板、プラスチック板、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)板等を好ましく使用することができる。
【0118】
バックシート12は、2層以上からなる多層構造を有していてもよい。多層構造としては、例えば、中央層の両面に、中央層に対して対称の配置となるように同一成分の層が1又は2以上積層された構造等が挙げられる。そのような構造を有するものとしては、例えば、PET/アルミナ蒸着PET/PET、PVF(商品名:テドラー)/PET/PVF、PET/AL箔/PET等が挙げられる。
【0119】
発電素子14は、半導体の光起電力効果を利用して発電できるものであれば特に限定されず、例えば、シリコン(単結晶系、多結晶系、非結晶(アモルファス)系)、化合物半導体(3−5族、2−6族、その他)等を用いることができ、中でも、発電性能とコストとのバランスの観点から、多結晶シリコンが好ましい。
【0120】
封止材16は、発電素子14を封止可能な部材であればよく、その種類は特に限定されず、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の樹脂を含む樹脂封止シート等が挙げられる。このような樹脂封止シートを熱溶融させることで封止対象である発電素子14等に密着し、封止することができる。かかる封止材を用いることで発電素子のクリープを防止できるとともに、太陽電池用部材(保護部材)10やバックシート12に対して優れた接着性を発揮することができる。
【0121】
本実施の形態における太陽電池の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することもできる。例えば、太陽電池用部材(保護部材)10/封止材16/発電素子14/封止材16/バックシート12の順に重ね、真空ラミネート装置を用いて150℃、15分間の条件で真空ラミネートすることにより製造できる。
【0122】
太陽電池1の各部材の厚さは特に限定されないが、太陽電池用部材(保護部材)10の厚さは、耐候性、耐衝撃性の観点から3mm以上が好ましく、バックシート12の厚さは、絶縁性の観点から75μm以上が好ましく、発電素子14の厚さは、発電性能とコストのバランスの観点から140μm〜250μmが好ましく、封止材16の厚さは、クッション性及び封止性の観点から250μm以上が好ましい。
【実施例】
【0123】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、各種物性は下記の方法で評価した。
【0124】
1.数平均粒子径
試料中の固形分含有量が1〜20質量%となるよう適宜溶媒を加えて希釈し、湿式粒度分析計(日機装製マイクロトラックUPA−9230)を用いて、試料に含まれる粒子の数平均粒子径を測定した。
【0125】
2.初期接触角
塗膜の表面に脱イオン水の水滴を載せ、23℃で1分間放置した後、接触角測定装置(協和界面科学製、CA−X150型接触角計)を用いて、その水滴の接触角を測定した。
【0126】
3.全光線透過率
濁度計(日本電色工業製、商品名「NDH2000」)を用い、JIS−K7105に準じて、基材と塗膜との積層体であるエネルギー変換装置用部材及び塗膜の全光線透過率を測定した。
【0127】
4.屈折率
膜厚計(大塚電子製、商品名「FE−3000」)を用い、基材上に積層された塗膜の屈折率(波長:633nm)を測定した。
【0128】
5.赤外線吸収性
赤外分光光度計(日本分光製「FT/IR4100」を用い、塗膜の赤外線吸収率を測定した(測定波長1300nm)
【0129】
6.太陽電池モジュール温度
定格出力70Wの太陽電池に遮蔽性組成物を塗布して得られた太陽電池モジュールを、屋外(川崎市)に30度の傾斜角度で曝露し、モジュールの背面に取り付けた熱電対で太陽電池のモジュールの温度を測定した。測定時の天気は晴れ、大気温度は28℃であった。
【0130】
[製造例1]
<重合体エマルジョン粒子(B−1)水分散体の合成>
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応容器に、イオン交換水1600g、ドデシルベンゼンスルホン酸6gを投入した後、撹拌下で温度を80℃に加温した。これに、ジメチルジメトキシシラン185gとフェニルトリメトキシシラン117gとの混合液を反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて滴下し、その後、反応容器中の温度を80℃に維持した状態で約1時間撹拌を続行した。次にアクリル酸ブチル86g、フェニルトリメトキシシラン133g及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.3gの混合液と、ジエチルアクリルアミド137g、アクリル酸3g、反応性乳化剤(旭電化(株)製、商品名「アデカリアソープSR−1025」、固形分25質量%水溶液)13g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液40g及びイオン交換水1900gの混合液とを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。さらに、反応容器中の温度を80℃に維持した状態で約2時間撹拌を続行した後、液を室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過した後、イオン交換水で液中の固形分を10.0質量%に調整し、(B)成分である数平均粒子径70nmの重合体エマルジョン粒子の水分散体を得た。
【0131】
[実施例1]
コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製、商品名「スノーテックス−OS」((A1)成分)を水で希釈して、固形分10質量%の分散液(粒子の数平均粒子径8nm)に調整した。そこに、固形分10質量%のATO微粒子分散液、粒子径30nm((A2)成分)と製造例1で合成した重合体エマルジョン粒子の水分散体とを固形分換算でA1/A2/B=100/5/100(質量比)の割合で配合し、遮熱組成物を得た。得られた遮熱組成物を膜厚500nmになるように白板ガラス(厚み2mm、6×6cm角)上にディップコートにて塗布した後、70℃で30分間乾燥させて遮熱性塗膜を得た。
得られた遮熱性塗膜の物性は、初期接触角12度、全光線透過率94、屈折率1.40、赤外線吸収率5%、太陽電池モジュール温度45℃であった。
【0132】
[実施例2]
(C)成分としてテトラエトキシシラン(和光純薬製試薬特級)をA1/A2/B/C=200/10/100/100(質量比)の割合で添加した以外は実施例1と同様にして遮熱性塗膜を得た。
得られた遮熱性塗膜の物性は、初期接触角8度、全光線透過率93.5%、屈折率1.42、赤外線吸収率3%、太陽電池モジュール温度46℃であった。
【0133】
[実施例3]
コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製、商品名「スノーテックス−OS」((A1)成分)を水で希釈して、固形分10質量%の分散液(粒子の数平均粒子径8nm)に調整した。そこに、固形分2質量%のCs/W複合酸化物微粒子分散液(Cs比率0.3)、粒子径60nm((A2)成分)と製造例1で合成した重合体エマルジョン粒子の水分散体、(C)成分としてテトラエトキシシラン(和光純薬製、試薬特級)を固形分換算でA1/A2/B/C=200/5/100/100(質量比)の割合で配合し、遮熱組成物を得た。得られた遮熱組成物を膜厚500nmになるように白板ガラス(厚み2mm、6×6cm角)上にディップコートにて塗布した後、70℃で30分間乾燥させて遮熱性塗膜を得た。
得られた遮熱性塗膜の物性は、初期接触角9度、全光線透過率93.1、屈折率1.40、赤外線吸収率5%、太陽電池モジュール温度45℃であった。
【0134】
[比較例1]
A2成分を含まない以外は実施例1と同様にして遮熱性塗膜を得た。
得られた遮熱性塗膜の物性は、初期接触角15度、全光線透過率93.2%、屈折率1.39、赤外線吸収率0%、太陽電池モジュール温度48℃であった。
【0135】
以上より、各実施例の遮熱組成物は、防汚性、全光線透過率に優れ、赤外線遮蔽効果によって太陽電池の温度上昇を抑制し発電効率の向上に寄与できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の遮熱組成物を用いた塗膜は、防汚性、全光線透過率、赤外線遮蔽性に優れ太陽電池の温度上昇を抑制することが可能であるため、特に結晶タイプ太陽電池の出力を向上させる目的で用いることができる。
【符号の説明】
【0137】
1 太陽電池
10 太陽電池用部材
12 バックシート
14 発電素子
16 封止材
102 基材
104 塗膜
L 入射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1)成分:数平均粒子径が1nm〜400nmのシリカと、
(A2)成分:数平均粒子径が1nm〜2000nmの赤外線吸収剤と、
(B)成分:数平均粒子径が10nm〜800nmの重合体エマルジョン粒子と、
を含む遮熱組成物。
【請求項2】
前記(A2)成分が、錫をドープした酸化インジウム、アンチモンをドープした酸化錫、酸化セリウム、酸化亜鉛、及びシリカで被覆された当該剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の遮熱組成物。
【請求項3】
前記(B)成分が、
(b1)成分:加水分解性珪素化合物と、
(b2)成分:水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基及びエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有するビニル単量体と、
(b3)成分:乳化剤と、
(b4)成分:水と、を含む重合原液中で、前記(b1)成分及び前記(b2)成分を重合して得られる重合体エマルジョン粒子である請求項1又は2に記載の遮熱組成物。
【請求項4】
前記(B)成分の含有量に対する前記(A1)成分と前記(A2)成分との総含有量((A1+A2)/(B))の質量比が60/100〜1000/100であり、
前記(B)成分と前記(A1)成分の合計含有量に対する前記(A2)成分の含有量の質量比((A2)/(B+A1))が、0.05/100〜40/100である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
【請求項5】
前記(B)成分の含有量に対する前記(b2)成分の含有量の質量比((b2)/(B))が、0.1/1〜0.5/1である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
【請求項6】
前記(A1)成分の含有量に対する前記(b2)成分の含有量の質量比((b2)/(A1))が、0.1/1〜1/1である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
【請求項7】
前記(B)成分が、コア層と、当該コア層を被覆する1層又は2層以上のシェル層と、を備えるコア/シェル構造を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
【請求項8】
前記コア層において、前記(b1)成分の含有量に対する前記(b2)成分の含有量の質量比((b2)/(b1))が、0.01/1〜1/1であり、
前記シェル層の最外層において、前記(b1)成分の含有量に対する前記(b2)成分の含有量の質量比((b2)/(b1))が、0.1/1〜5/1である、請求項7に記載の遮熱組成物。
【請求項9】
前記(B)成分が、前記コア層を形成するシード粒子を含む前記重合原液中で、前記(b1)成分及び前記(b2)成分を重合して得られる重合体エマルジョン粒子であり、
前記シード粒子が、前記(b1)成分、前記(b2)成分及び(b5)前記(b2)成分と共重合可能な他のビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の成分を重合して得られる粒子である、請求項7又は8に記載の遮熱組成物。
【請求項10】
前記(b2)成分が、2級アミド基及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体である、請求項3〜9のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
【請求項11】
(C)成分:下記式(1)、(2)及び(3)で表される化合物からなる群より選ばれる1種以上の加水分解性珪素化合物をさらに含み、
前記(A1)成分の含有量に対する前記(C)成分の含有量の質量比((C)/(A1))が、1/100〜100/100である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
1nSiX4-n (1)
(式(1)中、R1は、水素原子、あるいは、ハロゲン基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基又はエポキシ基を有していてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基若しくはアリール基を表す。Xは、加水分解性基を表し、nは0〜3の整数である。)

3Si−R2n−SiX3 (2)
(式(2)中、Xは加水分解性基を表し、R2は炭素数1〜6のアルキレン基又はフェニレン基を表す。nは0又は1である。)

3−(O−Si(OR32n−OR3 (3)
(式(3)中、R3は炭素数1〜6のアルキル基を表す。nは2〜8の整数である。)
【請求項12】
前記(B)成分の数平均粒子径が10〜100nmである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
【請求項13】
前記(A1)成分が、数平均粒子径が1nm〜400nmのコロイダルシリカである請求項1〜12のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
【請求項14】
前記(A2)成分が、波長1000nm〜2500nmの波長域で0.1%以上の吸収がある請求項1〜13のいずれか一項に記載の遮熱組成物。
【請求項15】
基材と、
前記基材上に請求項1〜14のいずれか一項に記載の遮熱組成物を塗布し、乾燥させて形成された塗膜と、
を備える太陽電池用部材。
【請求項16】
太陽電池の保護部材である、請求項15に記載の太陽電池用部材。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の太陽電池用部材と、
前記太陽電池用部材と対向して配置されるバックシートと、
前記太陽電池用部材と前記バックシートの間に配置される発電素子と、
を備える太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−181636(P2011−181636A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43449(P2010−43449)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】