説明

遮蔽材の組成評価方法

【課題】中性子線の遮蔽に用いられるホウ素添加材料に含まれる、ホウ素ならびに無機系材料の組成を、迅速、正確に定量評価する。
【解決手段】有機材料に炭化ホウ素を添加してなる遮蔽材の組成評価方法であって、この組成評価方法は、第一の工程と第二の工程とを有し、第一の工程は、遮蔽材の炭化ホウ素を含む試料を採取して溶液化して、この溶液状態における試料のホウ素をICPプラズマ発光分析法により定量化して、組成を評価するものであり、第二の工程は、遮蔽材の炭化ホウ素を含む試料を採取して、無機系不純物元素の組成を蛍光X線分析法によって評価するものである。有機材料としては、シリコーンゴムが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ホウ素(BC)入り有機材料である遮蔽材に含まれる、ホウ素、ならびに不純物の各無機成分を分析して、組成を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ホウ素(BC/ボロンカーバイド)は、比較的軽く密度(2.5g/cm)、非常に固い硬度(ビッカース硬さ:HV=4.2×10MPa)のセラミックである。天然資源として産出されるホウ素(天然B)には、中性子を吸収する質量数10B を約20%含有する。残りの約80%は11Bである。10Bは中性子吸収断面積が高い材料として知られている。
Cはホウ素含有量が高く、中性子吸収能が高いという特徴を有し、様々な原子炉に於いて核分裂反応制御材料や中性子遮蔽材料として使用されている。例えば、多線種の放射線を分離測定するポケット線量計に提供される。この材料は、「無水ホウ酸の炭素還元法〔2B+7C → BC+6CO〕」により、工業的に最も多く用いられる。BCは、この他に試験研究用原子炉でも制御材料や遮蔽材料として実用化され、線量計用遮蔽材としても盛んに研究されている。
【0003】
またBCは放射線遮蔽材として通常、大量(例えば10wt%程度)に有機材料(シリコーンゴムなど)に添加すると、流動性が無くなるが、この問題点を解決した製品が開発されている。これは柔軟性を有し、耐熱性、耐候性に優れた成型品があり、例えばシリコーンゴム(ボロンシートと呼称)に炭化ホウ素を添加したもので中性子遮蔽材として安定して優れた効果を発揮する。その他の有機系材料の例として、常温硬化樹脂(エポキシ樹脂)とホウ素含有天然岩石(灰ホウ石)を混合した材料などがある。中性子が発生する医療施設、先端工場等に適用可能と言われている。
【0004】
いずれも、遮蔽材の有機材料(例えばシリコーンゴムシート)の炭化ホウ素量を、ホウ素換算で求めることと無機系不純物元素の組成割合を求めて、所定の含有量を判定する汎用可能な分析評価方法が、特性評価のうえで重要であり望まれている。
【0005】
従来の材料の分析方法については、分析試料の前処理(例えば、溶液化、固体化など、分析できる状態にすることを言う)が個々に行われ、溶液化後の試料については、1)重量法、2)原子吸光法、3)吸光光度法、 4)ICP発光分析法、 5)蛍光X線法などが一般的な元素の分析方法である。ここで、前処理に個々に時間を要し、迅速性に欠けることおよび検出感度の点が問題となる。前記1)〜5)の方法で全無機元素の多元素分析把握からみて 4)、5)が適していると考えられる。
【0006】
ICP発光分析法の溶液化後の試料について、無機元素の定性分析(約65元素)は、主に分解試料液量を多く必要とし実用的でない。但し、発光線を用いることからBの感度は高い。蛍光X線法は非破壊分析(対象成分B〜92U)ができるが軽元素のBは感度が低い。
そこで、ICP発光分析(ICP)法の検出感度の良いホウ素量Bは、溶液化後の試料について検討し、Bを除く蛍光X線(XRF)法で無機元素の定性分析および定量分析とする。しかし、Bの溶液化方法の確立された前処理と測定方法、無機元素の前処理と測定方法がない。
【0007】
本発明に関するICP発光分析法の適用する場合は分光分析であり、溶液化後のままで迅速分析ができる。また蛍光X線法で多成分の無機元素の組成分析は、有機物を除く無機元素の全組成分析値で定量分析ができる有効な方法であると考える。
【0008】
ICP発光分析法の溶液化方法による全ホウ素量の定量方法について述べる。
炭化ホウ素(BC)は代用的な難溶解性ファインセラミックスの一つである。一般に、酸分解にフッ化水素酸は不可欠であり、塩酸や硝酸での完全な分解はできない。BCの酸分解は、密閉容器中でフッ化水素酸と硝酸の混酸による加圧分解法が多用される。BCは、テトラフルオロホウ酸(BF−)となってホウ素(B)はBFという形で固定される。
【0009】
前記の方法で全ホウ素量Bは、中和滴定法または重量法で定量される。微量のホウ酸(HBO)を有機試薬で発色させるか、フッ化水素酸でテトラフルオロホウ酸(BF)をクルクミンやメチレンブルーとの会合体として、溶媒である水の中に抽出し、吸光光度法で定量されるが、分析時間とホウ素(B)の性状から、汎用的な方法ではない。
一方、前もってBFをアルカリ溶融後にBFを酸により分解し可溶化する。試料の分解は、石英または白金皿を用いてアルカリ溶融する。ICP法で方法を確立するには、前記のBFの溶液化の方法を確立することが必要である。
【0010】
非特許文献1に示すこの「アルカリ・酸逐次加圧分解/マンニトール滴定法による炭化ホウ素中のホウ素の高精度定量」は、炭化ホウ素はその製法上、炭素が残存しやすく、主成分ホウ素の正確な定量法が望まれている。例えば、白金ルツボに採った粉末試料0.25gを加圧分解容器に入れ、50w/v%水酸化ナトリウム1mlを添加し、250℃で16時間加熱する。放冷後、硝酸10mlを加え同条件で再加熱すると、透明な試料溶液が得られる。この溶液中のホウ素をマンニトール/アルカリ滴定法で定量する。
【0011】
本法における相対標準偏差は0.1%と極めて良好であり、従来のアルカリ融解法に比べ3倍に再現性が向上したと言われている。1試料当たりの分析には約50時間を要した例がある。しかし、この方法が滴定法で定量する方法で、所要時間が長く、そのまま適用し難い問題がある。
特許文献1に示す「ほう素化合物系中性子遮蔽材」は、珪酸カルシウム粉末とほう素化合物粉末からなる混合成形体で、その組成をCaO/SiOモル比が0.5〜2.0であり、ほう素化合物がほう素化合物(BC)もしくは ほう化ユーロピウムである ほう素化合物系中性子遮蔽材とされている。中性子遮蔽能力に優れ、800℃の高温まで安定しているとされている。
【0012】
さらに、成形体構造、化学組成、成形プロセス、構造例、遮蔽性能評価例が記載されている。組成に関する化学組成では、平均粒径やCaO/SiOモル比が述べられているが各成分の組成分析方法の言及はない。
このように遮蔽材の多成分の組成分析方法についての言及はなく、そこで遮蔽材の組成評価方法は特性把握のうえで重要である。予め炭化ホウ素(BC)入り有機材料(シリコーンゴム)のホウ素や不純物を含む遮蔽材の各無機成分を分析して組成を求め、特性を評価することである。
【0013】
しかし、炭化ホウ素(BC)入りシリコーンゴムのホウ素や不純物を含む遮蔽材の組成を求める方法に関して、分析検査などの方法と所定の含有量を定量分析して判定する汎用可能な評価方法の従来技術は見当たらない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】: 「アルカリ・酸逐次加圧分解/マンニトール滴定法による炭化ホウ素中のホウ素の高精度定量」,分析化学 Vol. 50 (2001) , No. 2 pp.139-141.
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】: 特開平4−175700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、炭化ホウ素(BC)入りシリコーンゴムのホウ素や不純物を含む遮蔽材の組成成分分析は、一般に入手できる試料は微量(1g程度)の試料である。そこで、Bとシリコーンゴム由来の不純物からなる組成を分析検査するために、前処理と測定方法が必要である。
非特許文献1に示される方法は、前記のとおり、1試料当たりの分析には約50時間を要し、そのまま適用することはできない。
特許文献1に示される方法は、組成を定量分析して評価することが重要であるにもかかわらず、炭化ホウ素(BC)や不純物を含む遮蔽材の分析法の言及はなく適用はできない。
【0017】
そこで本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は遮蔽材の組成評価方法において、プラズマ発光分析法と蛍光X線法との両者を利用して、分析評価する方法とする。
より詳しくは、微量の遮蔽材のB分析の前処理法、分析精度の正確性および全不純物の分析法の確立を図る。ホウ素(B)の分析は、試料を採取し溶液化してICP法により定量する方法を確立する。全不純物の分析は、XRF法により定量する方法を確立する。その結果、遮蔽材の成分組成が迅速に高精度分析の分析検査ができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、遮蔽材の組成評価方法であって、ホウ素量と無機成分量とを、同時分析により、少量の試料量で、短時間に評価するものである。
本発明が用いるICP発光分析法は分光分析であり、溶液状態のままで、ホウ素量を迅速に評価することができる。また本発明が用いる蛍光X線法は、多成分の無機元素を定量分析できる。
【0019】
本発明では、微量の遮蔽材の試料を予め採取し、ホウ素量の評価のためにアルカリ分解して溶液化する。この溶液状態の試料をICP発光分析法により評価して、ホウ素量を、分析し定量する。また全無機不純物用に蛍光X線法を用いて分析し定量する。この方法は材料の性状管理と高精度分析でも有効である。
しかして、本発明によれば、有機材料に炭化ホウ素を添加してなる遮蔽材の組成評価方法であって、この組成評価方法は、第一の工程と第二の工程とを有し、第一の工程は、遮蔽材の炭化ホウ素を含む試料を採取して溶液化して、この溶液状態における試料のホウ素をICPプラズマ発光分析法により定量化して、組成を評価するものであり、第二の工程は、遮蔽材の炭化ホウ素を含む試料を採取して、無機系不純物元素の組成を蛍光X線分析法によって評価するものである、こととする。
【0020】
第一の工程が、有機材料が含む樹脂分を熱分解後に炭化ホウ素が主体の残渣を回収し、この残渣にアルカリ融剤を加えて溶融し、溶融後に酸により熱分解して、溶液状態において炭化ホウ素分のホウ素の定量分析を行うこととする。
アルカリ融剤が炭酸カリウムナトリウムであり、酸が塩酸であることが、特に好ましい。
第二の工程が、有機材料に含まれる無機系不純物元素の、原子番号11Na〜92Uの各成分量を評価するものであることとする。
【0021】
また、溶液状態において、炭化ホウ素分のホウ素が、ICPプラズマ発光分析法によって、所定の重量の変動係数1%以下で管理されものであることとする。
有機材料が、シート状のシリコーンゴムであることが特に好適である。
さらに、シート状のシリコーンゴムに含まれる珪素量を、蛍光X線法により評価することとする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、遮蔽材を用いた試料の炭化ホウ素の前処理方法と元素の測定方法をBの分析、無機系不純物元素分析を確立して評価できる。
ボロンが添加された例えばシリコーンゴムのシートを、1gといった微量を目安に切断・秤量する。試料は、シリコーンゴムの固体試料(BC約40%)と推定する。切断・秤量品は微量を用い、これを加熱温度300℃ 30分間の加熱すれば、BC主体の残渣が得られる。この試料を白金坩堝でアルカリ分解(KNaCO)して融点降下で溶融し、これを塩酸で溶解して沈殿物のない均質な溶液化ができ、ICP法の分析試料ができる。
【0023】
遮蔽材の重要なB量は、高精度のICP法での分析を可能にしたため、絶対量は変動係数1%以下を管理値として評価し、良好な効果が得られる。
また、遮蔽材のシートの状に含まれる無機系不純物元素をXRF法で、非破壊で分析できるのでシート由来のシリコーンゴムの珪素やその他の元素が0.01wt%の定量下限で分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】遮蔽材の元素分析評価の流れ図である。
【図2】遮蔽材のB分解方法の前処理の詳細を示す流れ図である。
【図3】ICPの試料導入システムの例を示す図である。
【図4】ICP法によるBの検量線を示す図である。
【図5】波長分散型蛍光X線法の光学系略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る遮蔽材の元素分析評価方法の例を述べる。すなわち遮蔽材のBのICP発光分析用の試料分解・溶液化法の詳細と、ICPの試料導入システムの例、B濃度を発光強度の検量線で求めるための方法について述べ、さらに、遮蔽材の不純物を蛍光X線で評価するときに用いた波長分散型蛍光X線法の光学系について述べる。
【0026】
図1は、本発明における遮蔽材の元素分析評価の流れ図であり、1.第一工程のICPの溶液化処理と2.第二工程のXRFの非破懐分析方法で、それぞれ試料を採取し、定量分析して組成を評価する実試料の分析評価までの分析調査を示す。
【0027】
さらに、ホウ素については、3.試料の切断・秤量が行なわれ、4.試料の加熱減量測定を経て、5.ICP法のBのアルカリ溶融・分解され、6.試料液の調製と検量線の検討が行われ、7.ICP法のデータが整理される。次に無機系元素については、8. 試料の切断と9.サンプル調製・設定が行われ、10.スペクトルの測定と11.XRF法のデータ整理が行なわれて 、ホウ素と無機系元素との両方の、12. 遮蔽材の元素分析評価が完成する。
【0028】
図2は、遮蔽材のB分解方法の前処理の詳細(流れ図)で、ホウ素を添加したシート状のシリコーンシートの切断からICP法での分析までを示す。
1)試料の切断は、シリコーンシートの切断で、2)秤量は、試料量1g(濃度BC約40%)で行う。3)加熱減量測定は白金坩堝で容量30mlを用いる(後のアルカリ溶融に利用する)。加熱温度は300℃以下(〜250℃)に設定し、時間30分間(シリコーンゴム分の除去に有効な時間)、4)冷却は、室温まで行い残渣はBC主体である。次に5)アルカリ融剤秤量は、KNaCO秤量添加し(融剤量は1gを2回に分けて混合する)6)溶融は、マッフル炉にて800℃ 1時間加熱し(ガラス化)する。7)冷却は、室温まで行いガラス化を確認する。8)白金坩堝内容物の溶液化−1は、1+1 HCl(純水とHClの比が1対1)を使用し(10〜15ml)溶液化する。9)溶液化−2は、白金坩堝内容物の溶液化は超音波印加し必要に応じて行なう。希釈をおこなって10)溶液化完了する。次に11)ICPによるB分析を行なう。
【0029】
これとは別途、BC入りシリコーンゴムシートの不純物(無機系元素)の分析はシートの状態で、定量下限は0.01wt%で全元素を蛍光X線分析法で別途使用した。
[本発明に関する遮蔽材の元素分析の前処理について]
実験は、BC入りシリコーンゴムの分析評価おいて、Bの定量が特性評価上重要である。BCは酸には不溶であるため、アルカリ溶融と溶液化(HCl溶液:1+1)を検討し、ICP法で定量するようにした。この方法は、他の測定法に比べ干渉影響が少なく、測定精度が高い方法である。なおBのXRF法による分析は行わない。何故なら、ホウ素はX線強度が低く、XRF法では検出感度が低いためである。
【0030】
1)実験試料は、実試料を用いた。熱中性子吸収材ボロン入り(BC)シリコーンゴム(シート厚さ;1.1mm)、品質規格〔B含有量40±1wt%〕であり、試料の一部を切り出した物を用いた。2)前処理法は、加熱後にアルカリ溶融法(KNaCO)で溶液化した。すなわち、本発明によれば、KNaCOによってBCを溶融化できることを見出した。これにより、ICP法で組成を評価できる方法を確立した。3)不純物の分析は、シートの状態で、定量下限は0.01wt%で無機系全元素の分析が可能な蛍光X線分析法で行う方法を確立した
[Bの前処理方法]
C入りシリコーンゴムのBの前処理は、元素分析法として溶液化が最も重要である。前処理法の(例)を図2に示した。これは試料量や試薬量を変えて行なうこともできる。
主な前処理法は、加熱減量測定後(ゴムの部分を飛ばす)、その残渣を炭酸カリウムナトリウム(KNaCO)により溶融する方法、塩酸滴下による溶液化(HCl溶液:1+1)を行なう方法を見出した。
【0031】
この方法は、炭酸塩が高温でBCを溶融したものである。
ナトリウムとカリウムの炭酸塩は熱によって分解しないが、他の金属の塩は強熱すると分解して炭酸ガスを発生し、酸化物に変わる。〔例: MgCO=MgO+CO 、ZnCO=ZnO+CO〕。 酸を加えると、炭酸ガスを発生し、その酸と塩をつくる。そのとき2段の反応をする。
NaCO+HCl=NaCl+NaHCO
NaHCO+ HCl=NaCl+HO+CO
この反応によって生ずる塩は、炭酸水素イオン(HCO)を含んでいる。炭酸水素塩は、一般に炭酸塩よりも溶解度が大きい。しかし、ナトリウム塩では、炭酸ナトリウムの方が炭酸水素ナトリウムよりよく溶ける特長を生かしたものである。炭酸塩カリウムも同様な性質を示す。本発明はかかる点についても知見したものである。
以上が分析方法の図1および図2に係わる例で、分解・溶液化し試料調製が完了する。
【0032】
[本発明のICP発光分析について]
ICP発光分析法(ICP法)は、アルゴンプラズマの高温中(6000〜9000℃程度)に試料を導入し、発生する光を測定する装置である。その光の波長は各元素に特有であり、光の強度は試料中の元素の量に比例することから、試料の高感度の定性分析と定量分析が可能である。ICP法は前記の多成分の微量定量分析に効果的な方法である。
遮蔽材のBの組成を分析するため、BCのサンプル状態をアルカリと酸で全溶解した抽出液で行う。ICP法により、遮蔽材のBの含有量を測定する。
ICP発光分光分析装置:セイコーインスツルメンツ社製 SPS-3100を使用した。
[分析条件] 高周波出力:1.2kW,積分回数:3回,予備噴霧時間:30秒,洗浄時
間:20秒
[分析成分]:B
前記の元素の前処理は、1g/100mlのアルカリ溶融と溶液化(HCl溶液:1+1)液で、全溶解した抽出液を10倍と100倍に希釈して用いた。試料液は、図3の31.試料溶液に提供する。
[ICP法の主な特徴と装置の構成]
例えばBについての定量分析に利点があり適用した。主な特徴を述べる。
1)多くの元素に対してppbレベルの高い検出能力を持ち、希土類元素の定量可能で
ある。
2)主成分元素から微量成分元素までの多元素を迅速に測定・定量可能である。
3)プラズマ温度が極めて高く、化学干渉やイオン化干渉などの干渉が極めて少ない。
【0033】
精度の向上につながる。
4)自己吸収が少ないため、検量線の直線範囲が極めて広く、多元素の同時分析が可能
である。
5)安定性、再現性に優れており、繰り返し分析に有効である。
図3は、ICP発光分析装置の試料導入システムの例で、主な試料導入部は 31.試料溶液、 32.ネブライザー(噴霧器)、 33.石英トーチ 、34.高周波誘導コイル、 35.Arプラズマ、36.分光器 、37.データ処理システムである。これによって、Bの定量分析ができる。
【0034】
[検量線のデータ処理方法について]
遮蔽材のBの発光波長(nm)と濃度と各元素の発光相対強と検量線定数・相関係数を示す。図4は、いずれも直線性の良好な検量線ができた。この実験式の定数は次の通りである。
【0035】
Bの発光波長= 249.773 (nm) 、
検量線定数 B(ppm)=1.549E-08χ+0.084E 、相関係数= 0.9999
本法は、試料液に対しBの平均組成(濃度:ppm)が求められる。以上によって、ICP発光分析による元素のデータ処理の態勢ができる。
次に、試料(g)と分解液量(ml)に対する換算(wt%)を行なう。
[試料量に対する換算の例について]
定量結果は、ICP法の検量線から各元素の平均組成(濃度:ppm)が分かる。試料量に対する換算は次のように行なう。
Bの濃度(wt%)=〔(100ml当たりの濃度ppm)× 希釈係数・液量〕(g)/試料量(g)〕
×100
を求める。
* 例として、B=40wt%に対し加熱後(BC主体)の試料0.1000gで、液量100mlとし濃度(ppmレベル)の微量分析技術を確立した。これは40wt%の目標値に対して、十分評価ができるものである。
【0036】

[分析精度の検討結果について]
さらにBについて分析精度の検討を行った。実験は、標準液を用いて変動係数で求めた結果を表1に示す。 分析精度は変動係数1%以下で良好である。なお、繰返し分析とは、同じサンプルを繰返して分析したものである
元素分析のJIS法での分析精度は、一般に変動係数で2%〜10%とされている。これに比べて本法の分析精度は良好であり高精度であることが分かった。また、JIS法での分析精度を十分満足していることが分かる。
【0037】
【表1】

【0038】
変動係数は、
CV%=(標準偏差/分析値平均値)×100
で求められる。このようにして、ICP法による試料液のBについて、微量成分と主成分の分析方法を確立し、変動係数で2%以下を管理基準とした。これにより、本発明の一実施形態に係る遮蔽材の分析評価ができる。
[適応例:遮蔽材のB組成分析について]
以上の検討結果より、BC入りシリコーンゴムの分析評価においてBの分析を行なう。
試料の前処理は、前項までの内容を適用した。BC入りシートのICP法によるB量を表2に示した。分析試料は、熱中性子吸収材:ボロン入り(BC)シリコ−ンゴム(シート厚さ;1.1mm)、品質規格(B含有量40±1wt%)、試料の一部切り出し品である。
C入りシートのB量は、39.45 wt%であった。これは、試料の繰返し3回の平均値で、品質規格のB含有量の40±1 wt%に合致する。
【0039】
【表2】

【0040】
[本発明の蛍光X線法について]
シートの不純物はXRF法により組成評価を行う。不純物の分析はシートの状態で行い全元素分析法を検討し、またSiの定量分析やその他の元素分析を確立する。
【0041】
蛍光X線法(XRF)は、試料にX線を照射すると原子に吸収されたX線の一部が元素の種類により、特有の波長をもった蛍光X線を放出する。波長分散型蛍光X線分析装置の場合、これを分光結晶で分光しX線の波長と強度を測定する事で、試料中に含まれる元素の種類及び濃度を測定することができる。
XRF装置は、理学電機工業(株)製 3272型 、波長分散型蛍光X線を使用した。
【0042】
[分析条件] 管球ターケ゛ット(Rh):電圧-電流(50kV-40mA):雰囲気(VAC),対象元素の原子
番号11Na〜92U
前記の元素の前処理は、シート切り出し品である。固体試料は、図5の51.試料に提供する。
特長として、前処理の簡便さ、非破壊分析であること、及び標準試料無しに定量を行うことができることが挙げられる(ファンダメンタルパラメータ:FP法と呼称。)。
Cシートは、波長分散型蛍光X線法光学系の図3の51.試料部から54.一次コリメータ(X線波長収束)を通して53.分光結晶部に導かれ、各波長が分光されて55.検出器で計測される。
新たに標準試料の検量線を必要としない検出成分のデータ処理をFP法で定量分析を行う。不純物分析の観点から、蛍光X線分析による対象元素の原子番号11Na〜92Uで定性分析と検出成分の定量分析を行い、検出成分のデータ処理をFP法で定量分析ができるようにした。
【0043】
[FP法について]
FP法は、装置の持つ諸定数や物理的な基礎パラメータをもとに理論的に蛍光X線強度を算出する方法である。装置の持つ諸定数は、例えば一次X線のエネルギーおよび強度の分布、光学的寸法、検出器の特性などであり、物理的な基礎パラメータには光電吸収係数、質量吸収係数、蛍光収率などがある。これらの情報はデータベースとして装置に組み込まれている。このようにして装置関数を求めておき、測定強度から全体を100%にノルマライズ゛して 未知試料の定量計算が行なわれる。
以上の方法によってボロンシート試料のB以外の無機成分(対象元素11Na〜92U)を定性分析し、検出成分の定量分析を定量下限0.01wt%できるようにした。
[XRF法による不純物分析について]
ボロンシート試料のSi、B以外の無機成分は、検出した成分から不純物などであることが分る。測定は、所要時間が約1時間、分析精度は変動係数3%以下で良好である。
[適応例: 遮蔽材の不純物ついて]
不純物の定量分析を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
Siの量は、42.19 wt%であった。これはシリコーンゴムの由来のSi量である。その他の不純物量は、Feが0.71wt%であり、他は0.15wt%以下の微量であった。この元素は、蛍光X線分析法による分析対象元素が11Na〜92Uで行なった結果である。なお、炭酸塩や水素や炭素などの軽い元素は、加熱減量により飛んでしまう。
かくして本発明の遮蔽材の組成評価方法により、プラズマ発光分析法と蛍光X線分析とにより試料を定量分析して組成を評価することを確立した。なお本発明の試料液は、上記した実施の形態(試料サイズや抽出液量など)に限定されるものではなく、本発明の上記を逸脱しない範囲内おいて種々変更を加えてもかまわない。
【符号の説明】
【0046】
1 第一の工程(ICPの溶液化処理)
2 第二の工程(XRFの測定)
3 試料の切断・秤量
4 試料の加熱減量測定
5 Bのアルカリ溶融・分解
6 試料液の調製・検量線の検討
7 ICPのデータ整理
8 試料の切断
9 サンプル調製・設定
10 スペクトルの測定
11 XRFのデータ整理
12 遮蔽材の元素分析評価
31 試料溶液
32 ネブライザー(噴霧器)
33 石英トーチ
34 高周波誘導コイル
35 Arプラズマ
36 分光器
37 データ処理システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料に炭化ホウ素を添加してなる遮蔽材の組成評価方法であって、
この組成評価方法は、第一の工程と第二の工程とを有し、
第一の工程は、遮蔽材の炭化ホウ素を含む試料を採取して溶液化して、この溶液状態における試料のホウ素をICPプラズマ発光分析法により定量化して、組成を評価するものであり、
第二の工程は、遮蔽材の炭化ホウ素を含む試料を採取して、無機系不純物元素の組成を蛍光X線分析法によって評価するものである、
ことを特徴とする遮蔽材の組成評価方法。
【請求項2】
第一の工程が、有機材料が含む樹脂分を熱分解後に炭化ホウ素が主体の残渣を回収し、この残渣にアルカリ融剤を加えて溶融し、溶融後に酸により熱分解して、溶液状態において炭化ホウ素分のホウ素の定量分析を行うことを特徴とする請求項1に記載の遮蔽材の組成評価方法。
【請求項3】
アルカリ融剤が炭酸カリウムナトリウムであり、酸が塩酸であることを特徴とする請求項2に記載の遮蔽材の組成評価方法。
【請求項4】
第二の工程が、有機材料に含まれる無機系不純物元素の、原子番号11Na〜92Uの各成分量を評価するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の遮蔽材の組成評価方法。
【請求項5】
溶液状態において、炭化ホウ素分のホウ素重量を、IPCプラズマ分析法により、所定の重量の変動係数1%以下で管理することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の遮蔽材の組成評価方法。
【請求項6】
有機材料が、シート状のシリコーンゴムであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の遮蔽材の組成評価方法。
【請求項7】
シート状のシリコーンゴムに含まれる珪素量を、蛍光X線法により評価することを特徴とする請求項6に記載の遮蔽材の組成評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−220354(P2012−220354A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87110(P2011−87110)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】