説明

遮音床パネル、遮音床構造、及び遮音床パネルの製造方法

【課題】 受けた衝撃によって発生する衝撃音を小さくすることができる遮音床パネルを提供すること。
【解決手段】 中空部14を有するセメント系中空パネル13の当該中空部14に、粒状体15を袋体16に充填して形成された吸振袋体17が装着されている遮音床パネル11において、袋体16に充填されている粒状体15の集合体としての体積は、中空部14に装着された状態の袋体16の容積の50〜95%であることを特徴とする構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部を有するセメント系中空パネルの当該中空部に、粒状体を袋体に充填して形成された吸振袋体が装着されている遮音床パネル、遮音床構造、及び遮音床パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の特に住宅等の床においては、例えば床が衝撃を受けたときに、その床衝撃音が上階から下階へ漏れないようにすることが要求されている。そして、この床衝撃音として、軽量衝撃音と重量衝撃音とがある。軽量衝撃音には、物を落とした音やイスの移動音等があり、重量衝撃音には、足音や飛び跳ねる音等がある。
【0003】
軽量衝撃音については、床表面の仕上げ材(フローリング材)等を使用することによって緩和することができる。しかし、重量衝撃音については、施工時の床材の材質や床構造によって緩和効果が決まってしまうため、床を施工する段階から、重量衝撃音を緩和させることができ、遮音性能の優れた床材の材質や床構造を取り入れることが必要である。
【0004】
従来の床の遮音構造体として、2枚の板体の間に形成された空間内に、騒音及び振動を遮蔽するための遮蔽材を充満状態に充填して密封された袋体を装着したものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この遮音構造体は、袋体に充満状態に充填された遮蔽材によって、この遮音構造体を透過しようとする騒音及び振動を減衰させて、騒音等がこの構造体を透過することを遮断しようとするものである。
【0006】
そして、他の従来の建築物の床構造として、2枚の上板と下板との間に形成された中空部に、砂状を成す流動体を充満状態に充填して封入した袋体を装着したものがある。そして、この流動体が封入された袋体は、その中空部に空隙部を残した状態で配置されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
この建築物の床構造によると、流動体が封入された袋体を、中空部に空隙部を残した状態で配置することによって、上板と下板とが、流動体が充満状態に充填された袋体を間に介して互いに接触して重なり合った状態とならないようにすることができる。これによって、この建築物の床構造が受けた床衝撃音を、この空隙部及び流動体が充満状態で封入された袋体によって減衰させて、床衝撃音が階下に伝わらないようにしようとするものである。
【0008】
また、更に他の従来の遮音床として、複数の中空部を有する成形セメントパネルと、その中空部に砂状粒を充填したものがある。(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
この遮音床によると、この遮音床が床衝撃を受けたときに、その床衝撃による振動エネルギを、この砂状粒が振動することによって吸収することができる。これによって、床衝撃音が階下に伝わらないようにしようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開昭57−80511号公報
【特許文献2】特開平8−13674号公報
【特許文献3】特開平10−205043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記従来の遮音構造体では、袋体に充填された遮蔽材が、袋体内で充満した状態となっているので、騒音及び振動がこの遮音構造体に伝達されたときに、その騒音及び振動によって、袋体に充填された遮蔽材自体が殆ど振動することができず、その結果、この遮蔽材によって騒音及び振動を十分に減衰させることができない。従って、騒音等がこの構造体を透過することを効果的に遮蔽することができない。
【0012】
そして、上記従来の建築物の床構造でも、袋体に充填された砂等の流動体が、袋体内で充満した状態となっているので、この流動体によって床衝撃音を十分に減衰させることができず、従って、床衝撃音が階下に伝わることを効果的に緩和することができない。
【0013】
また、上記従来の遮音床によると、成形セメントパネルの複数の各中空部に対して、砂状粒を袋体に入れずにそのまま充填した構成であるので、砂状粒が中空部からこぼれ出ないように、中空部の開口端部を閉塞する必要があり、手間が掛かる。そして、この砂状粒を袋体に充填することも考えられるが、上記他のそれぞれの従来例と同様に、砂状粒を袋体に充満状態で充填して密封すると、袋体内の砂状粒自体が殆ど振動することができず、その結果、この砂状粒によって床衝撃音を十分に減衰させることができず、従って、床衝撃音が階下に伝わることを効果的に緩和することができない。
【0014】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、受けた衝撃によって発生する衝撃音を小さくすることができる遮音床パネル、遮音床構造、及び遮音床パネルの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る遮音床パネルは、中空部を有するセメント系中空パネルの当該中空部に、粒状体を袋体に充填して形成された吸振袋体が装着されている遮音床パネルにおいて、前記袋体に充填されている前記粒状体の集合体としての体積は、前記中空部に装着された状態の前記袋体の容積の50〜95%であることを特徴とするものである。
【0016】
本発明に係る遮音床パネルによれば、この遮音床パネルが衝撃を受けると、この衝撃による振動エネルギが、吸振袋体に充填されている粒状体の集合体に伝達されてこの粒状体が振動し、この粒状体の振動が、粒状体どうしの摩擦抵抗や衝突等によって減衰する。これによって、吸振袋体は、遮音床パネルが受けた衝撃によって発生する振動エネルギを吸収して、衝撃音を小さくすることができる。
【0017】
そして、袋体に充填されている粒状体の集合体としての体積を、中空部に装着された状態の袋体の容積の50〜95%とすることによって、粒状体が自由に振動することができる空間を袋体内で確保でき、この遮音床パネルが受けた衝撃による振動エネルギを、粒状体の振動によって十分に減衰させることができる。
【0018】
ここで、粒状体の体積を、中空部に装着された状態の袋体の容積の50%未満とすると、粒状体の質量が不十分となり、そして、95%を超えると、粒状体が自由に振動するために必要とされる空間が不十分となり、いずれの場合も衝撃による振動エネルギを、粒状体の振動によって十分に減衰させることができない。
【0019】
この発明に係る遮音床パネルにおいて、前記吸振袋体の外周面の形状及び大きさは、前記中空パネルの中空部の内周面の形状及び大きさと略同一であり、前記吸振袋体が前記中空パネルの中空部内に装着された状態で、前記吸振袋体の外周面が前記中空パネルの中空部の内周面に略密着するものとすることができる。
【0020】
このように、吸振袋体の外周面の形状及び大きさを、中空パネルの中空部の内周面の形状及び大きさと略同一とすることによって、吸振袋体が中空部に装着される前と後の両方の形状及び大きさが略同一となるようにすることができる。これによって、袋体に充填されている粒状体の集合体としての体積が、中空部に装着された状態の袋体の容積の50〜95%となることを確実に実現することができる。更に、この吸振袋体を中空パネルの中空部に簡単に装着することができ、この遮音床パネルの製造に掛かる手間を軽減することができる。
【0021】
また、吸振袋体が中空パネルの中空部内に装着された状態で、吸振袋体の外周面が中空パネルの中空部の内周面に略密着するようにすると、中空部内に装着された吸振袋体が、この中空部から抜け出にくくすることができ、この遮音床パネルの取扱いに手間が掛からないようにできる。
【0022】
この発明に係る遮音床パネルにおいて、前記中空パネルが、押出成形セメント板とすることができる。
【0023】
このようにすると、押出成形セメント板を製造したときに、中空部が一体成形によって自動的に形成されるので、中空部を有する中空パネルを簡単に製造することができる。よって、中空パネルを作るために、現場で部材を組合わせたり組立作業をすることが不要であり、施工期間を短縮することができる。
【0024】
この発明に係る遮音床パネルにおいて、前記粒状体が、無機質系建材を粉砕して形成されたものとすることができる。
【0025】
このようにすると、無機質系建材をリサイクルすることができる。また、遮音床パネルをリサイクルするときは、中空パネルは、セメント系であり、粒状体は、無機質系建材を粉砕して形成されたものであるので、これら中空パネル及び粒状体を分別する必要がなく、リサイクルのための手間が少なくて済む。
【0026】
この発明に係る遮音床パネルにおいて、前記粒状体は、嵩比重が1.0〜4.0であるものとすることができる。
【0027】
このように、粒状体の嵩比重を1.0〜4.0としたことと、袋体に充填されている粒状体の集合体としての体積を、中空部に装着された状態の袋体の容積の50〜95%としたこととの関係によって、中空パネルの中空部内に装着される粒状体の重量を決定することができる。よって、粒状体の嵩比重及び体積を、上記範囲内で適宜選択することにより、受けた衝撃によって発生する振動エネルギを、粒状体の振動によって効果的に吸収して、衝撃音を小さくすることができる遮音床パネルを製造することができる。
【0028】
この発明に係る遮音床パネルにおいて、前記遮音床パネルの中空部内には、その長さ方向に沿って吸振袋体が2以上ずつ装着されているものとすることができる。
【0029】
このようにすると、中空部の長さよりも短い2以上の吸振袋体を、長さ方向に沿って中空部内に装着することができる。これによって、中空部と略等しい長さの吸振袋体を製造する必要がないので、中空部よりも短い長さの吸振袋体を簡単に低コストで製造することができる。そして、このような短い長さの吸振袋体は、中空部に簡単に装着することができるし、簡単に取り外すこともできる。また、短い長さの2以上の吸振袋体を中空部に装着すると、粒状体が中空部内でその長さ方向に移動して偏在することを緩和できる。これによって、遮音床パネルは、それが受けた衝撃によって発生する振動エネルギを、粒状体の振動によって予定通りに効果的に吸収して、衝撃音を小さくすることができる。
【0030】
本発明に係る遮音床構造は、本発明に係る遮音床パネルを使用して構成されたことを特徴とするものである。
【0031】
本発明に係る遮音床構造によると、本発明に係る遮音床パネルを備えており、この遮音床パネルと同様に作用する。
【0032】
本発明に係る遮音床パネルの製造方法は、前記中空パネルの最小モジュールの長さの1倍、2倍、3倍、及び4倍のうち異なる2以上のそれぞれの倍数に相当する長さの違う2種類以上の前記吸振袋体を製造し、これら長さの違う2種類以上の前記吸振袋体から選択された前記吸振袋体を前記中空パネルの中空部内に装着することを特徴とするものである。
【0033】
このように、長さの違う2種類以上の吸振袋体から選択された吸振袋体を、中空パネルの中空部内に装着することによって、中空パネルの中空部の長さに応じてその中空部の略全体に亘って吸振袋体を装着することが可能である。これによって、任意の長さの中空パネルに対して、衝撃音の発生を効果的に緩和する機能を付与することができる。そして、例えば部屋の間取りに合わせてカットされて形成された中空パネルの中空部の長さに応じて、その中空部の略全体に亘って吸振袋体を装着することが可能なので、そのようにカットされて形成された中空パネルに対しても、衝撃音の発生を効果的に緩和する機能を付与することができる。
【0034】
この発明に係る遮音床パネルの製造方法において、前記中空パネルの中空部内に、その長さ方向に沿って2以上の吸振袋体を装着するものとすることができる。
【0035】
このようにして製造された遮音床パネルは、中空パネルの中空部内に、その長さ方向に沿って2以上の吸振袋体を装着した遮音床パネルに係る上記発明と同様に作用する。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係る遮音床パネルによると、袋体に充填されている粒状体の集合体としての体積が、中空部に装着された状態の袋体の容積の50〜95%であるとした構成としたので、この遮音床パネルが衝撃を受けたときに発生する衝撃音を十分に小さくすることができる。これによって、遮音性能の優れた遮音床パネルを提供することができる。
【0037】
そして、この遮音床パネルを使用する遮音床構造によると、遮音床パネルが衝撃を受けたときに発生する衝撃音が、例えば階下に伝わることを効果的に緩和することができるので、快適な住環境を提供することができる。
【0038】
また、遮音床パネルの製造方法によると、長さの違う2以上の吸振袋体から選択された吸振袋体を、中空パネルの中空部内に装着することによって、任意の長さの中空パネルや、カットして形成された中空パネルの中空部に対して、その中空部の略全体に亘って吸振袋体を装着することが可能である。従って、任意の長さや形状の中空パネルに対して、衝撃音の発生を効果的に抑制する機能を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は、この発明の一実施形態に係る遮音床パネルを構成する中空パネルの正面図、(b)は、同実施形態の遮音床パネルの正面図である。
【図2】同実施形態に係る遮音床パネルの中空部に吸振袋体を装着する状態を示す遮音床パネルの部分斜視図である。
【図3】同実施形態に係る吸振袋体が遮音床パネルの中空部に装着されている状態を示す斜視図である。
【図4】同実施形態に係る遮音床パネルを備える遮音床構造を示す部分斜視図である。
【図5】同実施形態の遮音床構造を示す部分縦断面図である。
【図6】同発明の他の実施形態に係る吸振袋体が遮音床パネルの中空部に装着されている状態を示す斜視図である。
【図7】図6に示す遮音床パネルの中空部に装着される長さの相違する吸振袋体を示す斜視図である。
【図8】同実施形態の遮音床パネル及びそれ以外の中空パネルの床衝撃音レベルの測定結果を示す図である。
【図9】同実施形態に係る吸振袋体に充填される粒状体の種類及び比重を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係る遮音床パネル、遮音床構造、及び遮音床パネルの製造方法の一実施形態を、図1〜図9を参照して説明する。この遮音床パネル11は、建物の特に住宅等の床を形成するために使用され、例えば床が衝撃を受けたときに、その床衝撃音が上階から下階へ漏れないようにすることができるものである。そして、この遮音床パネル11は、床衝撃音のうち特に重量衝撃音(足音や飛び跳ねる音等)が上階から下階へ漏れないようにすることができるものである。
【0041】
この遮音床パネル11は、図2に示すように、中空部14を有する中空パネル13を備えており、この中空部14に吸振袋体17が装着されている。この吸振袋体17は、粒状体15を袋体16に充填して形成されたものである。なお、図2等では、袋体16を透明に描いている。この袋体16の材質は、例えば合成樹脂、紙、又は布である。
【0042】
図1(a)に示す中空パネル13は、セメント系中空パネルであり、セメント、骨材、及び繊維等を混練してできた混練物を、押出成形によって製造したものである。この中空パネル13には、複数の中空部14が互いに平行して長手方向に形成されている。そして、中空部14どうしを仕切っている隔壁部18には、ワイヤーロープ19が埋設され、更に、中空パネル13の両側の各側面には、凹溝部20が形成されている。この凹溝部20は、中空パネル13の側縁部どうしを接合するときに、この接合部にパッキング材21を挟み込むことができるようにするためのものである。
【0043】
図1(b)は、中空パネル13の複数の各中空部14に吸振袋体17を装着した状態を示し、これが遮音床パネル11である。
【0044】
図1(b)及び図2に示す吸振袋体17は、粒状体15を袋体16に充填して形成されたものである。そして、この袋体16に充填されている粒状体15の集合体としての体積は、中空部14に装着された状態の袋体16の容積の50〜95%である。よって、中空部14に装着された状態の袋体16の内部空間のうち、粒状体15の集合体が占める範囲以外の部分が空間23として形成されている。この空間23の容積は、中空部14に装着された状態の袋体16の容積の5〜50%である。
【0045】
そして、この粒状体15は、例えば無機質系建材を粉砕して形成したものであり、この無機質系建材として、押出成形セメント板やセメント系ボード等がある。
【0046】
このように、粒状体15として、無機質系建材を粉砕して形成したものを使用すると、このような無機質系建材をリサイクルすることができ、無機質系建材のリサイクルに貢献することができる。また、遮音床パネル11をリサイクルするときは、中空パネル13がセメント系の材質であり、粒状体15は、無機質系建材を粉砕して形成されたものであるので、これら中空パネル13及び粒状体15を分別する必要がなく、リサイクルのための手間が少なくて済む。
【0047】
また、粒状体15は、これ以外にも、無機質系部材を粉砕して形成したものであってもよく、無機系部材として、陶器、瓦、又はコンクリート等がある。図9には、粒状体15の具体的な材質や材料の種類及びその比重を挙げている。よって、粒状体15の嵩比重は、1.0〜4.0である。
【0048】
また、図1及び図2に示すように、吸振袋体17の外周面の断面形状は、略横長の矩形であり、中空パネル13の中空部14の内周面の断面形状と略同一である。従って、吸振袋体17が中空パネル13の中空部14内に装着された状態で、吸振袋体17の外周面が中空パネル13の中空部14の内周面に略密着するようになっている。
【0049】
更に、図3に示すように、中空パネル13の複数の各中空部14内には、その長さ方向に沿って、略同一長さの吸振袋体17が2つずつ装着されている。例えば中空パネル13の長さが約1000mmとすると、吸振袋体17の長さが約500mmである。
【0050】
次に、図4及び図5を参照して、図3に示す遮音床パネル11を使用して構成された遮音床構造12を説明する。この遮音床構造12は、図4に示すように、梁24の上面に複数の遮音床パネル11を配置して、それぞれの遮音床パネル11を取付け金具25によって梁24に取り付けた構成である(図5参照)。
【0051】
そして、遮音床パネル11は、図4に示すように、建物の部屋の広さに合わせて複数枚が梁24上に敷き詰められる。遮音床パネル11間の目地には、不燃性のパッキング材21が充填されて目地部が形成される。この目地部としての不燃性のパッキング材21は、目地部が所定の遮音性能及び耐火性能を確保できるようにするものである。また、図には示さないが、遮音床パネル11の終端縁部と、壁部との取り合い部にも、目地部と同様に不燃性のパッキング材が充填されている。そして、遮音床パネル11は、図5に示すように、取付け金具25、ボルト27及びナット26を使用して、梁24に取り付けられている。なお、遮音床パネル11の下面と、梁24の上面との間には、必要に応じて緩衝機能を有するパッキング材22が設けられる。
【0052】
次に、上記のように構成された遮音床パネル11及び遮音床構造12の作用を説明する。図4及び図5に示す遮音床構造12によれば、床を形成する遮音床パネル11が、例えば足音や飛び跳ねる音等の重量衝撃を受けると、この衝撃による振動エネルギが、吸振袋体17に充填されている粒状体15の集合体に伝達されてこの粒状体15が振動し、この粒状体15の振動は、粒状体15どうしの摩擦抵抗や衝突等によって減衰する。これによって、吸振袋体17は、遮音床パネル11が受けた衝撃によって発生する振動エネルギを吸収して、衝撃音を小さくすることができる。
【0053】
そして、図1(b)及び図2に示すように、袋体16に充填されている粒状体15の集合体としての体積を、中空部14に装着された状態の袋体16の容積の50〜95%とすることによって、粒状体15が自由に振動することができる空間23を袋体16内で確保でき、この遮音床パネル11が受けた衝撃による振動エネルギを、粒状体15の振動によって十分に減衰させることができる。
【0054】
ここで、粒状体15の体積を、中空部14に装着された状態の袋体16の容積の50%未満とすると、粒状体15の質量が不十分となり、そして、95%を超えると、粒状体15が自由に振動するために必要とされる空間23が不十分となり、いずれの場合も衝撃による振動エネルギを、粒状体15の振動によって十分に減衰させることができない。
【0055】
このようにして、遮音性能の優れた遮音床パネル11、及び遮音床構造12を提供することができる。そして、この遮音床パネル11を使用する遮音床構造12によると、遮音床パネル11が衝撃を受けたときに発生する衝撃音が、例えば階下に伝わることを効果的に緩和することができるので、快適な住環境を提供することができる。
【0056】
また、図2に示すように、吸振袋体17の外周面の形状及び大きさを、中空パネル13の中空部14の内周面の形状及び大きさと略同一とすることによって、吸振袋体17が中空部14に装着される前と後の両方の形状及び大きさが略同一となるようにすることができる。これによって、袋体16に充填されている粒状体15の集合体としての体積が、中空部14に装着された状態の袋体16の容積の50〜95%、好ましくは75〜95%となるようにすることを確実に実現することができる。更に、この吸振袋体17を中空パネル13の中空部14に簡単に装着することができ、この遮音床パネル11の製造に掛かる手間を軽減することができる。
【0057】
また、吸振袋体17が中空パネル13の中空部14内に装着された状態で、吸振袋体17の外周面が中空パネル13の中空部14の内周面に略密着するようにすると、中空部14内に装着された吸振袋体17が、この中空部14から抜け出にくくすることができ、この遮音床パネル11の取扱いに手間が掛からないようにできる。
【0058】
更に、図2に示す吸振袋体17は、中空部14に装着された状態の袋体16の容積の50〜95%の体積の粒状体15が充填され、充満状態で充填されていないので、この吸振袋体17を例えば自由に湾曲させたり折り曲げたりして、中空部14内に容易に装着したり取り出すことができる。これによって、この遮音床パネル11を簡単に製造することができるし、例えば梁24に取り付けられた遮音床パネル11に装着されている吸振袋体17を、遮音性能の調整が必要となったときに簡単に取り替えることもできる。
【0059】
そして、図1(a)に示す中空パネル13が、押出成形によって製造された押出成形セメント板とすると、この押出成形セメント板を製造したときに、中空部14が一体成形によって自動的に形成されるので、中空部14を有する中空パネル13を簡単に製造することができる。よって、中空パネル13を作るために、現場で部材を組合わせたり組立作業をすることが不要であり、施工期間を短縮することができる。
【0060】
また、この実施形態では、粒状体15の嵩比重dを1.0〜4.0としている。このように、粒状体15の嵩比重dを1.0〜4.0としたことと、袋体16に充填されている粒状体15の集合体としての体積VRを、中空部14に装着された状態の袋体16の容積VHの50〜95%(好ましくは75〜95%)としたこととの関係によって、中空パネル13の中空部14内に装着される粒状体15の重量GR(=d・VR)を決定することができる。
【0061】
よって、遮音床パネル11が受けた衝撃を効果的に減衰させるために必要とされる粒状体15の重量GRが決まっていれば、その粒状体15の重量GRを得るための粒状体15の嵩比重dと、粒状体15の集合体としての体積VRとが定まる。従って、嵩比重d及び体積VRを適宜選択して、袋体16に充填される粒状体15の重量GR(=d・VR)を決定することによって、衝撃によって発生する振動エネルギを、この粒状体15の振動によって効果的に吸収して、衝撃音を小さくすることができる遮音床パネル11を製造することができる。
【0062】
また、粒状体15そのものの比重が大きいものを使用すれば、粒状体15の比重が大きくなるほど、粒状体15の集合体としての体積VRを小さくすることができる。このようにしても、衝撃を効果的に減衰させるために必要とされる重量GRの粒状体15を中空部14内に配置しておけば、遮音床パネル11が受けた衝撃を効果的に減衰させることができる。
【0063】
従って、遮音床パネル11の中空部14の大きさ(例えば中空パネル13の厚み)に応じて、粒状体15の嵩比重dを選択して採用することによって、衝撃を効果的に減衰させることができる遮音床パネル11を製造することができる。
【0064】
次に、粒状体15の粒度について説明する。粒状体15の粒度は、粒状体15の振動が大きくなるようにできること、及び粒状体15の嵩比重dを1.0〜4.0に収めることの条件を満たすようにすることが必要であり、この条件を満たすためには、粒状体15の粒度を2〜10mmとするのが好ましい。
【0065】
ここで、粒状体15の直径が2mm未満となると、粒状体15どうしの隙間が小さくなり、粒状体15の振動が大きくならない。そして、10mmを超えると、粒状体15どうしの隙間が大きくなり、この粒状体15の集合体において、体積あたりの振動エネルギの吸収量が大きくならない。よって、いずれの場合も衝撃による振動エネルギを、粒状体15の振動によって十分に吸収することができず、この衝撃を効果的に減衰させることができない。
【0066】
次に、粒状体15の形状について説明する。粒状体15の形状は、丸味を有するものが好ましい。丸味を有する粒状体15を使用することによって、衝撃による振動エネルギによって、粒状体15が効率良く振動し、この振動によって振動エネルギを十分に吸収することができる。その結果、その衝撃を効果的に減衰させることができる。
【0067】
また、図3に示すように、遮音床パネル11のそれぞれの中空部14内には、その長さ方向に沿って吸振袋体17が2本ずつ装着されている。それぞれの吸振袋体17の長さは、それぞれ同一であって、遮音床パネル11の長さの約1/2に形成されている。
【0068】
このようにすると、中空部14と略等しい長さの吸振袋体17を製造する必要がないので、中空部14よりも短い約1/2の長さの吸振袋体17を簡単に低コストで製造することができる。そして、このような短い長さの吸振袋体17は、中空部14に簡単に装着することができるし、簡単に取り外すこともできる。
【0069】
また、短い長さの2本以上の吸振袋体17を中空部14に装着すると、粒状体15が中空部14内でその長さ方向に移動して偏在することを緩和できる。これによって、遮音床パネル11は、それが受けた衝撃によって発生する振動エネルギを、粒状体15の振動によって予定通りに効果的に吸収して、衝撃音を小さくすることができる。
【0070】
ただし、図3に示す遮音床パネル11では、各中空部14内にその長さ方向に沿って吸振袋体17を2本ずつ装着したが、これに代えて、1本ずつ装着してもよいし、3本以上ずつ装着してもよい。また、各中空部14内に長さが相違する吸振袋体17を1本又は2本以上ずつ装着してもよい。
【0071】
そして、図3に示す遮音床パネル11では、1種類の長さの吸振袋体17を各中空部14内に装着したが、これに代えて、2種類以上長さの吸振袋体17を各中空部14内に装着してもよい。
【0072】
次に、図6及び図7を参照して、本発明の他の実施形態に係る遮音床パネル29、及びその製造方法を説明する。図6に示す遮音床パネル29は、施工現場において、建物の柱等を避けるために、中空パネル13をカットして切欠き部30を形成したものである。この切欠き部30が形成された中空パネル13では、長さが相違する中空部14が3種類形成されているので、これら長さが相違する3種類の各中空部14の略全体に亘って吸振袋体17を配置できるように、長さの相違する2種類の吸振袋体17を中空部14に装着している。
【0073】
つまり、まず、図7に示す右側の2本の吸振袋体17のように、中空パネル13の最小モジュール(例えば約250mm)の長さの1倍(約250mm)及び2倍(約500mm)の倍数に相当する長さの違う2種類の吸振袋体17を製造する。次に、これら長さの違う2種類の吸振袋体17を、中空パネル13の各中空部14内に装着することによって、図6に示す遮音床パネル11を製造することができる。
【0074】
このように、図6に示すように例えば部屋の間取りに合わせてカットされて形成された中空パネル13の中空部14の長さに応じて、その中空部14の略全体に亘って吸振袋体17を装着することが可能なので、そのようにカットされて形成された中空パネル13に対しても、衝撃音の発生を効果的に緩和する機能を付与することができる。
【0075】
ただし、図7に示す右側の2本の吸振袋体17のように、中空パネル13の最小モジュール(例えば約250mm)の長さの1倍(約250mm)及び2倍(約500mm)の倍数に相当する長さの違う2種類の吸振袋体17を製造し、これら長さの違う2種類の吸振袋体17を中空パネル13の中空部14内に装着するようにしたが、これに代えて、図7に示すように、中空パネル13の最小モジュールの長さの1倍(例えば約250mm)、2倍(例えば約500mm)、3倍(例えば約750mm)、及び4倍(例えば約1000mm)のうち異なる2以上のそれぞれの倍数に相当する長さの違う2種類以上の吸振袋体17を製造し、これら長さの違う2種類以上の吸振袋体17から選択された吸振袋体17を中空パネル13の中空部14内に装着するようにしてもよい。
【0076】
このように、図7に示す長さの違う4種類の吸振袋体17から選択された吸振袋体17を、中空パネル13の中空部14内に装着することによって、中空パネル13の中空部14の長さに応じてその中空部14の略全体に亘って吸振袋体17を装着することが可能である。これによって、任意の長さ又は形状の中空パネル13に対して、衝撃音の発生を効果的に緩和する機能を付与することができる。
【0077】
なお、図7に示す長さの違う複数種類の吸振袋体17から所望の長さの吸振袋体17を選択して使用できるようにすると、図5に示すように、取付け金具25に挿通するボルト27、及びこのボルト27に螺合するナット26が配置されている中空部14の開口端部内に吸振袋体17が配置されないようにすることができる。これによって、吸振袋体17で邪魔されずに、取付け金具25、ボルト27、及びナット26を使用して、遮音床パネル11を梁24に容易に取り付けることができる。そして、取付け金具25等の取り付けが完了した後に、図には示さないが、その中空部14の開口端部内に、その長さに相当する吸振袋体17を装着することも可能である。
【0078】
次に、図2に示す遮音床パネル11の床衝撃音レベルの測定結果(図8参照)を説明する。床衝撃音レベルとは、JISA1418で規定される重量衝撃源(例えばタイヤ)を床面に落下させた時の下階における各周波数帯の衝撃音の音圧レベルである。
【0079】
この測定方法は、ピット等の上側開口部に被測定物である遮音床パネル11を載置し、所定高さ(例えば60cm〜90cm)からタイヤを自由落下させる等して、その際に生じた衝撃音を受音室に設置したマイクロホンによって検出するものである。
【0080】
この測定は、図2に示す遮音床パネル11の中空部14に装着されている吸振袋体17に充填されている粒状体15の体積充填率が0%、20%、50%、75%、95%、及び100%の各遮音床パネル11及び中空パネル13を被測定物として行った。
【0081】
上記粒状体15の体積充填率とは、袋体16に充填されている粒状体15の集合体としての体積の、中空部14に装着された袋体16の容積に対する比率である。
【0082】
そして、被測定床は、厚さ60×幅500×長さ3100mmの押出成形セメント板を使用している。そして、吸振袋体17に充填されている粒状体15は、比重1.5の珪砂を使用している。
【0083】
このような測定方法によって得られた結果を図8に示す。図中、L−30〜L−80は遮音等級であり、このL値が小さくなるほど遮音等級、即ち遮音性が上がる。また、遮音等級は、床衝撃音レベルが5dB下がるごとに、1ランク上がる。
【0084】
図8から明らかなように、吸振袋体17が中空部14に装着された遮音床パネル11(粒状体15の充填率が20〜100%の遮音床パネル11)は、吸振袋体17が中空部14に装着されていない中空パネル13(粒状体15の充填率が0%である中空パネル13)と比較して、優れた遮音性能を有していることが分かる。
【0085】
そして、粒状体15の充填率が50%以上の遮音床パネル11は、遮音等級がL−65以上の遮音性能が得られていることが分かる。しかし、粒状体15の充填率が20%の遮音床パネル11では、周波数が1000のときに、遮音等級L−65以上の遮音性能(床衝撃音レベル)が得られない。また、粒状体15の充填率を100%にすると、95%にしたときよりも遮音性能が低下することが認められた。
【0086】
また、図8から分かるように、粒状体15の充填率が50%及び100%の遮音床パネル11のグループよりも、充填率が75%及び95%の遮音床パネル11のグループの方の遮音性能が優れている。従って、粒状体15の充填率を75〜95%とするのが好ましい。
【0087】
ただし、上記各実施形態では、中空パネル13として押出成形セメント板を使用したが、これ以外の製造方法で製造された中空パネル13を使用することができる。
【0088】
そして、上記各実施形態では、図1に示すように、吸振袋体17の外周面の断面形状、及び中空パネル13の中空部14の内周面の断面形状が、略横長の矩形としたが、これ以外の断面形状とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上のように、本発明に係る遮音床パネル、遮音床構造、及び遮音床パネルの製造方法によって製造された遮音床パネルは、受けた衝撃によって発生する衝撃音を小さくすることができる優れた効果を有し、このような遮音床パネル、遮音床構造、及び遮音床パネルの製造方法に適用するのに適している。
【符号の説明】
【0090】
11 遮音床パネル
12 遮音床構造
13 中空パネル
14 中空部
15 粒状体
16 袋体
17 吸振袋体
18 隔壁部
19 ワイヤーロープ
20 凹溝部
21、22 パッキング材
23 空間
24 梁
25 取付け金具
26 ナット
27 ボルト
29 遮音床パネル
30 切欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を有するセメント系中空パネルの当該中空部に、粒状体を袋体に充填して形成された吸振袋体が装着されている遮音床パネルにおいて、
前記袋体に充填されている前記粒状体の集合体としての体積は、前記中空部に装着された状態の前記袋体の容積の50〜95%であることを特徴とする遮音床パネル。
【請求項2】
前記吸振袋体の外周面の形状及び大きさは、前記中空パネルの中空部の内周面の形状及び大きさと略同一であり、前記吸振袋体が前記中空パネルの中空部内に装着された状態で、前記吸振袋体の外周面が前記中空パネルの中空部の内周面に略密着することを特徴とする請求項1記載の遮音床パネル。
【請求項3】
前記中空パネルが、押出成形セメント板であることを特徴とする請求項1又は2記載の遮音床パネル。
【請求項4】
前記粒状体が、無機質系建材を粉砕して形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の遮音床パネル。
【請求項5】
前記粒状体は、嵩比重が1.0〜4.0であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の遮音床パネル。
【請求項6】
前記遮音床パネルの中空部内には、その長さ方向に沿って吸振袋体が2以上ずつ装着されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の遮音床パネル。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の遮音床パネルを使用して構成されたことを特徴とする遮音床構造。
【請求項8】
前記中空パネルの最小モジュールの長さの1倍、2倍、3倍、及び4倍のうち異なる2以上のそれぞれの倍数に相当する長さの違う2種類以上の前記吸振袋体を製造し、これら長さの違う2種類以上の前記吸振袋体から選択された前記吸振袋体を前記中空パネルの中空部内に装着することを特徴とする遮音床パネルの製造方法。
【請求項9】
前記中空パネルの中空部内に、その長さ方向に沿って2以上の吸振袋体を装着することを特徴とする請求項8記載の遮音床パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−162938(P2012−162938A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24975(P2011−24975)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000135335)株式会社ノザワ (52)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)
【Fターム(参考)】