説明

遮音床構造

【課題】歩行による床材の沈み込みを抑制でき、良好な歩行感が得られるとともに、床衝撃音の遮音性能も高い遮音床構造を提供する。
【解決手段】床下地材1の上に、緩衝層2、空間層3、木質層4、床仕上げ層5を順次積層した遮音床構造を形成する。前記構造において、支持材6が前記緩衝層2と前記木質層4との間に介在している。前記緩衝層は、厚み3〜20mm見掛け密度0.03〜0.2g/cmの不織繊維構造体(特に、湿熱接着性繊維を含み、かつこの湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定されるとともに、繊維接着率が3〜85%である不織繊維構造体)であってもよい。前記支持材は、床面積に対して10〜70%の面積を占めていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床衝撃音、例えば、複数階建ての建築物(多層階建築物)における上階からの床衝撃音などを低減するのに有用な遮音床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
マンション、ビル、一般住宅などの複数階建ての建築物では、上階からの床衝撃音を低減するための遮音床構造が施工されている。床衝撃音には、スプーンや食器を落とした衝撃音やスリッパで歩く音などにより発生する衝撃音などの軽量衝撃音(比較的高周波域の音波)、子供がソファーから飛び降りる衝撃音や激しい歩行による衝撃音(比較的低周波域の音波)などがあり、幅広い衝撃音に対して遮音性能を有する遮音床構造が望まれている。遮音床構造としては、主として、木質基板の裏面に複数の切り溝を設けて緩衝材と貼り合わせる方法(いわゆる直張りタイプの遮音床材を用いた方法)、制振材(遮音材)を床材と床下地材との間に配設する方法などが知られている。
【0003】
切り溝と緩衝材とを組み合わせた方法として、例えば、特開2004−44315号公報(特許文献1)には、中密度繊維板の成形原板を厚さ方向に複数に分割して得られ且つ片面に硬質相を有する分割板を硬質層が表面側になるように配置すると共に複数枚の板を積層一体化した合板基材の表面側に上記分割板を積層一体化し、合板基材の最表面側の第1層の厚さを第1層より下の通常の層の半分程度の厚さと薄くし、合板基材の裏面側から第2層まで至るように溝部を穿設して成る防音床材が開示されている。この防音床材では、床に衝撃が加わると、木質基板の裏面に設けた複数の切り溝により木質基板が変形し、変形部分は緩衝材で衝撃を吸収するため、衝撃源の中でも、特に軽量床衝撃源に対して優れた効果を発揮する。さらに、この文献では、表面側に中密度繊維板よりなる硬質部分を合板基材の表面側に設けることにより、床上をキャスターで移動してもキャスターの荷重に耐えられる強度を有することが記載されている。
【0004】
しかし、切り溝と緩衝材とを組み合わせた方法では、特定の中密度繊維板を表面側に形成しても、人の歩行により負荷された部分の木質基板が局所的に変形する(すなわち、床材が沈み込む)ため、歩行中に踏み心地における違和感を感じる。さらに、切り溝の大きさが充分でなく、空間部の体積が小さいためか、重量床衝撃音(例えば、比較的低周波域の衝撃音)に対する遮音効果がない小さい。
【0005】
一方、床材と床下地材の間に制振材を介在させる方法として、例えば、特許第3013023号公報(特許文献2)には、石油系アスファルト100重量部、熱可塑性エラストマー2〜10重量部、鉱物粒100〜400重量部、鉄粉100〜800重量部及び界面活性剤0.1〜1重量部からなる混合物を、フェルト紙又は不織布からなるシートでサンドイッチして板状に成型してなる床衝撃音緩和のための遮音構成材が開示されている。
【0006】
しかし、制振材(遮音構成材)を用いた場合は、人の歩行による変形は少なく歩行感は良好であるが、床衝撃音の遮音性能については、切り溝と緩衝材とを組み合わせた遮音床材に比べて低下する。
【0007】
なお、国際公開WO2007/116676号公報(特許文献3)には、湿熱接着性繊維を含む不織繊維集合体を高温水蒸気で加熱処理することにより、不織繊維構造を有し、かつ厚み方向に均一な接着率で湿熱接着性繊維が融着した硬質の成形体が製造されている。この文献には、前記硬質成形体が建材用ボードとして利用できることが記載されている。しかし、この文献には、床構造や遮音性について記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−44315号公報(請求項1、段落[0010][0012][0014]、図1及び3)
【特許文献2】特許第3013023号公報(請求項1、図2及び3)
【特許文献3】国際公開WO2007/116676号公報(請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、歩行による床材の沈み込みを抑制でき、良好な歩行感が得られるとともに、床衝撃音の遮音性能も高い遮音床構造を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、複数階建ての建築物における上階からの床衝撃音に対して、低周波域を含む幅広い周波域で遮音できる遮音床構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、床下地材の上に、緩衝層、特定の空間層、木質層、床仕上げ層を順次積層することにより、歩行による床材の沈み込みを抑制でき、良好な歩行感が得られるとともに、床衝撃音の遮音性能も向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の遮音床構造は、床下地材の上に、緩衝層、空間層、木質層、床仕上げ層を順次積層した遮音床構造であって、支持材が、前記緩衝層と前記木質層との間に介在している。前記緩衝層は、厚み3〜20mm、見掛け密度0.03〜0.2g/cmの不織繊維構造体(特に、湿熱接着性繊維を含み、かつこの湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定されるとともに、繊維接着率が3〜85%である不織繊維構造体)であってもよい。前記支持材は、床面積に対して10〜70%の面積を占めていてもよい。前記支持材は、複数の四角柱状の支持材で構成され、かつ各支持材が間隔をおいて平行に配設されていてもよい。本発明の遮音床構造は、木質層と床仕上げ層との間に制振層(特に、アスファルトを含む制振層)が介在していてもよい。本発明の遮音床構造は、際根太及び/又は根太に隣接して緩衝層及び空間層が配設されていてもよい。前記根太及び際根太のうち、長尺な支持材に対して垂直な方向の際根太及び根太は、部分的に木質層を支持していてもよい。さらに、前記根太、際根太、木質層及び表面仕上げ層は、壁面に対して密接させずに隙間をあけて配設されていてもよい。
【0013】
本発明には、床衝撃音を低減するための緩衝材であって、湿熱接着性繊維を含み、この湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された不織繊維構造体で構成され、前記不織繊維構造体の繊維接着率が3〜85%である緩衝材も含まれる。この緩衝材は、複数階建ての建築物における上階からの床衝撃音を低減するための緩衝材であってもよい。さらに、本発明には、前記緩衝材を用いて床衝撃音を低減する方法も含まれる。
【0014】
なお、本願明細書では、根太(ねだ)とは、木質系ボードや床仕上げ材などの床板を受けるために床下にわたす横木を意味し、際根太(きわねだ)とは、根太のうち、部屋の周囲(四周)において、壁に接して配設される根太を意味する。従って、本願明細書では、RC建築物におけるコンクリートスラブ素面や木造建築物における床下地材の上に配設する横木を「根太」の意味で用いる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、床下地材の上に、緩衝層、空間層、木質層、床仕上げ層を順次積層し、切り溝などが形成されていない木質層と床仕上げ層とが密着し、かつ支持材により、緩衝層と木質層との間に空間部が形成されているため、歩行による床材の沈み込みを抑制でき、良好な歩行感が得られるとともに、床衝撃音の遮音性能も向上できる。また、従来の切り溝を形成した構造に比べて、空間部を大きくすることにより、複数階建ての建築物における上階からの床衝撃音に対して、低周波域を含む幅広い周波域で遮音できるため、軽量床衝撃音及び重量床衝撃音のいずれの衝撃音に対しても有効に遮音できる。また、さらに制振層を介在させることにより、床衝撃源からの振動を制振効果により低減させて床衝撃音の遮音性能を向上でき、特に、アスファルトを含有した制振層では高い床衝撃音の遮音性能に加えて、歩行感も向上できる。さらに、緩衝層として、湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された特定の不織繊維構造体を用いることにより、高い床衝撃音(特に軽量床衝撃音)の遮音性を示す緩衝性を保持しつつ耐荷重性を確保することができるとともに、さらに根太及び/又は際根太と組み合わせることにより、床材の強度を向上でき、沈み込みなどを高度に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の遮音床構造の一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の遮音床構造の他の一例を示す概略断面図である。
【図3】図3は、本発明の遮音床構造の他の一例を示す概略斜視図である。
【図4】図4は、図3の遮音床構造のA−A線概略断面図である。
【図5】図5は、図3の遮音床構造のB−B線概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の遮音床構造について、必要に応じて、図面を参照して説明する。図1は、本発明の遮音床構造の一例を示す概略断面図である。本発明の遮音床構造は、図1に示すように、床下地材1の上に、緩衝層2、空間層3、木質層4、床仕上げ層5が順次積層されており、横断面形状が長方形状の棒状支持材6が間隔をおいて平行に配設されることにより介在している。すなわち、隣接する支持材6の間には、空間層3が形成されている。なお、図1は、支持材6の長手方向に対して垂直な方向の断面図である。
【0018】
(床下地材)
本発明の遮音床構造は、建築物の種類に応じて、各種の床下地材に利用できる。床下地材としては、例えば、鉄筋コンクリートの建築物におけるコンクリートスラブや軽量発泡コンクリートなどであってもよく、一般的な木造住宅で使用される木造床などであってもよい。さらに、床下地材は、コンクリートスラブや木造床の上に、さらに畳床、プラスチック板、合板、木質系ボード、紙、織布又は不織布シート、無機質ボード(石膏ボード、珪酸カルシウム板など)、金属板などが積層されていてもよい。
【0019】
(緩衝層)
緩衝層は、床構造において、床衝撃音の吸音性を向上させるために配設され、弾力性と衝撃吸収性とを有する板状又はシート状材で構成されていれば、特に限定されず、プラスチック発泡体(例えば、発泡スチレン、発泡ウレタン、発泡ポリオレフィンなど)、ゴム又はエラストマー、繊維構造体(織編物、不織布などで構成された構造体)などが利用できる。本発明では、これらの中でも、適度な空隙性を有し、かつ吸音性にも優れるため、不織繊維構造体が好ましい。本発明では、このような緩衝層を部分的に支持された支持体の下に配設することにより、衝撃の発生効果的に抑制でき、階下への伝搬を減少できる。さらに、繊維構造体を用いることにより、さらに高周波域の音波の吸音も可能となり、下階の居住快適性を向上できる。
【0020】
不織繊維構造体としては、例えば、不織布を機械的圧縮処理(ニードルパンチなど)、部分的な熱圧融着処理(熱エンボス加工など)、バインダー成分による接着又は融着処理などにより固定した成形体が挙げられる。不織布を構成する繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維、(メタ)アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、塩化ビニル系繊維、スチレン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリカーボネート系繊維、ポリウレタン系繊維などが挙げられる。これらの繊維のうち、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、又はこれらの繊維を含む複合繊維などが汎用される。
【0021】
ポリエステルエステル系繊維を構成するポリエステル系樹脂としては、ポリC2−4アルキレンアリレート系樹脂などの芳香族ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、特に、PETなどのポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、エチレンテレフタレート単位の他に、他のジカルボン酸(例えば、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、フタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、ビス(カルボキシフェニル)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など)やジオール(例えば、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど)で構成された単位を20モル%以下程度の割合で含んでいてもよい。
【0022】
ポリアミド系繊維を構成するポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド12、ポリアミド6−12などの脂肪族ポリアミドおよびその共重合体、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから合成された半芳香族ポリアミドなどが好ましい。これらのポリアミド系樹脂にも、共重合可能な他の単位が含まれていてもよい。
【0023】
不織繊維構造体を構成する繊維の平均繊度は、用途に応じて、例えば、0.01〜100dtex程度の範囲から選択でき、好ましくは0.1〜50dtex、さらに好ましくは0.5〜30dtex(特に1〜10dtex)程度である。平均繊度がこの範囲にあると、遮音及び吸音性に優れる。
【0024】
不織繊維構造体の見掛け密度は、例えば、0.03〜0.2g/cm(例えば、0.03〜0.15g/cm)、好ましくは0.04〜0.18g/cm、さらに好ましくは0.05〜0.15g/cm程度である。見かけ密度が低すぎると、遮音性は向上するものの、硬さの低下により歩行感が低下し、逆に高すぎると、遮音性が低下する。
【0025】
不織繊維構造体の目付は、例えば、50〜10000g/m程度の範囲から選択でき、好ましくは100〜5000g/m、さらに好ましくは200〜3000g/m(特に300〜2000g/m)程度である。目付が小さすぎると、硬さを確保することが難しく、また、目付が大きすぎると、ウェブが厚すぎて湿熱加工において、高温水蒸気が充分にウェブ内部に入り込めず、厚み方向に均一な構造体とするのが困難になる。
【0026】
不織繊維構造体(又は繊維)は、さらに、慣用の添加剤、例えば、安定剤(銅化合物などの熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、分散剤、増粘剤、微粒子、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤、滑剤、抗菌剤、防虫・防ダニ剤、防カビ剤、つや消し剤、蓄熱剤、香料、蛍光増白剤、湿潤剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、構造体表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
【0027】
不織繊維構造体の厚みは、床衝撃音の遮音性能を発現するために3mm以上であるのが好ましく、例えば、3〜20mm、好ましくは5〜18mm(例えば、5〜15mm)、さらに好ましくは8〜16mm程度である。本発明では、このような厚みの不織繊維構造体を緩衝材として用いると、充分な遮音性を発現できるとともに、床の強度も確保でき、歩行時の沈み込みなども抑制できる。
【0028】
特に、本発明では、前記不織繊維構造体の中でも、バインダー成分(特に、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリビニルアルコール系などの熱接着性樹脂で構成された熱接着性繊維で構成されたバインダー繊維)の融着により固定された繊維構造体が好ましく、遮音性(特に軽量床衝撃音に対する遮音性)と強度とを両立できる点から、湿熱接着性繊維を含み、かつこの湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された構造体(以下、「湿熱接着性繊維を含む不織繊維構造体」と称することがある)が特に好ましい。本発明の遮音床構造では、緩衝材は最下層にあるため、床全体の荷重が緩衝材に負荷されるが、本発明では、湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された構造体は、高温(過熱又は加熱)水蒸気を利用して接着するために、厚み方向で均一に接着されており、繊維構造を保持しながら、高い強度を確保できる。
【0029】
この不織繊維構造体において、湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂で構成されている。湿熱接着性樹脂は、高温水蒸気によって容易に実現可能な温度において、流動又は容易に変形して接着機能を発現可能であればよい。具体的には、熱水(例えば、80〜120℃、特に95〜100℃程度)で軟化して自己接着又は他の繊維に接着可能な熱可塑性樹脂、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系重合体、ポリ乳酸などのポリ乳酸系樹脂、(メタ)アクリルアミド単位を含む(メタ)アクリル系共重合体などが挙げられる。さらに、高温水蒸気により容易に流動又は変形して接着可能なエラストマー(例えば、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマーなど)などであってもよい。これらの湿熱接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、特に、エチレンやプロピレンなどのα−C2−10オレフィン単位を含むビニルアルコール系重合体、特に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が好ましい。
【0030】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体において、エチレン単位の含有量(共重合割合)は、例えば、5〜65モル%(例えば、10〜65モル%)、好ましくは20〜55モル%、さらに好ましくは30〜50モル%程度である。エチレン単位がこの範囲にあることにより、湿熱接着性を有するが、熱水溶解性はないという特異な性質が得られる。エチレン単位の割合が少なすぎると、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が、低温の蒸気(水)で容易に膨潤又はゲル化し、水に一度濡れただけで形態が変化し易い。一方、エチレン単位の割合が多すぎると、吸湿性が低下し、湿熱による繊維融着が発現し難くなるため、実用性のある強度の確保が困難となる。エチレン単位の割合が、特に30〜50モル%の範囲にあると、シート又は板状への加工性が特に優れる。
【0031】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体におけるビニルアルコール単位のケン化度は、例えば、90〜99.99モル%程度であり、好ましくは95〜99.98モル%、さらに好ましくは96〜99.97モル%程度である。ケン化度が小さすぎると、熱安定性が低下し、熱分解やゲル化によって安定性が低下する。一方、ケン化度が大きすぎると、繊維自体の製造が困難となる。
【0032】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体の粘度平均重合度は、必要に応じて選択できるが、例えば、200〜2500、好ましくは300〜2000、さらに好ましくは400〜1500程度である。重合度がこの範囲にあると、紡糸性と湿熱接着性とのバランスに優れる。
【0033】
湿熱接着性繊維の横断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、一般的な中実断面形状である丸型断面や異型断面[偏平状、楕円状、多角形状など]に限定されず、中空断面状などであってもよい。湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂を含む複数の樹脂で構成された複合繊維であってもよい。複合繊維は、湿熱接着性樹脂を少なくとも繊維表面の一部に有していればよいが、接着性の点から、繊維表面において長さ方向に連続する湿熱接着性樹脂を有するのが好ましい。湿熱接着性樹脂の被覆率は、例えば、50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0034】
湿熱接着性樹脂が表面を占める複合繊維の横断面構造としては、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型又は多層貼合型、放射状貼合型、ランダム複合型などが挙げられる。これらの横断面構造のうち、接着性が高い構造である点から、湿熱接着性樹脂が繊維の全表面を被覆する構造である芯鞘型構造(すなわち、鞘部が湿熱接着性樹脂で構成された芯鞘型構造)が好ましい。芯鞘型構造は、他の繊維形成性重合体で構成された繊維の表面に湿熱接着性樹脂をコーティングした繊維であってもよい。
【0035】
複合繊維の場合、湿熱接着性樹脂同士を組み合わせてもよいが、非湿熱接着性樹脂と組み合わせてもよい。非湿熱接着性樹脂としては、非水溶性又は疎水性樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの非湿熱接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0036】
これらの非湿熱接着性樹脂のうち、耐熱性及び寸法安定性の点から、融点が湿熱接着性樹脂(特にエチレン−ビニルアルコール系共重合体)よりも高い樹脂、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、特に、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点から、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0037】
湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂(繊維形成性重合体)とで構成された複合繊維の場合、両者の割合(質量比)は、構造(例えば、芯鞘型構造)に応じて選択でき、湿熱接着性樹脂が表面に存在すれば特に限定されないが、例えば、湿熱接着性樹脂/非湿熱接着性樹脂=90/10〜10/90、好ましくは80/20〜15/85、さらに好ましくは60/40〜20/80程度である。湿熱接着性樹脂の割合が多すぎると、繊維の強度を確保し難く、湿熱接着性樹脂の割合が少なすぎると、繊維表面の長さ方向に連続して湿熱接着性樹脂を存在させるのが困難となり、湿熱接着性が低下する。この傾向は、湿熱接着性樹脂を非湿熱接着性繊維の表面にコートする場合においても同様である。
【0038】
湿熱接着性繊維の平均繊維長は、例えば、10〜100mm程度の範囲から選択でき、好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは25〜75mm程度である。平均繊維長がこの範囲にあると、繊維が充分に絡み合うため、繊維構造体の機械的強度が向上する。
【0039】
湿熱接着性繊維の捲縮率は、例えば、1〜50%、好ましくは3〜40%、さらに好ましくは5〜30%程度である。また、捲縮数は、例えば、1〜100個/25mm、好ましくは5〜50個/25mm、さらに好ましくは10〜30個/25mm程度である。
【0040】
不織繊維構造体は、前記湿熱接着性繊維に加えて、さらに非湿熱接着性繊維を含んでいてもよい。非湿熱接着性繊維としては、前記複合繊維を構成する非湿熱接着性樹脂で構成された繊維の他、セルロース系繊維(例えば、レーヨン繊維、アセテート繊維など)などが挙げられる。これらの非湿熱接着性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの非湿熱接着性繊維は、目的の特性に応じて選択でき、レーヨンなどの半合成繊維と組み合わせると、相対的に高密度で機械的特性の高い繊維構造体が得られる。
【0041】
湿熱接着性繊維と非湿熱接着性繊維との割合(質量比)は、パネルの種類や用途に応じて、湿熱接着性繊維/非湿熱接着性繊維=100/0〜20/80(例えば、99/1〜20/80)、好ましくは100/0〜50/50(例えば、95/5〜50/50)、さらに好ましくは100/0〜70/30程度である。湿熱接着性繊維の割合が少なすぎると、硬度が低下し、繊維構造体としての取り扱い性の保持が困難となる。
【0042】
湿熱接着性繊維を含む不織繊維構造体は、不織繊維構造を構成する繊維が前記湿熱接着性繊維の融着による繊維接着率は3〜85%(例えば、5〜60%)、好ましくは5〜50%(例えば、6〜40%)、さらに好ましくは6〜35%(特に8〜30%)程度である。本発明では、このような範囲で繊維が接着されているため、各繊維の自由度が高く、高い遮音性を発現できる。さらに、強度を向上させるために、繊維接着率は、例えば、10〜85%、好ましくは20〜80%、さらに好ましくは30〜75%程度であってもよい。
【0043】
本発明における繊維接着率は、後述する実施例に記載の方法で測定できるが、不織繊維断面における全繊維の断面数に対して、2本以上接着した繊維の断面数の割合を示す。従って、繊維接着率が低いことは、複数の繊維同士が融着する割合(集束して融着した繊維の割合)が少ないことを意味する。
【0044】
本発明では、さらに、不織繊維構造を構成する繊維は、各々の繊維の接点で接着しているが、できるだけ少ない接点数で大きな曲げ応力を発現するためには、この接着点が、厚み方向に沿って、繊維構造体表面から内部(中央)、そして裏面に至るまで、均一に分布しているのが好ましい。接着点が表面又は内部などに集中すると、優れた機械的特性及び成形性を確保するのが困難となるだけでなく、接着点の少ない部分における形態安定性が低下する。
【0045】
従って、繊維構造体の厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも前記範囲にあるのが好ましい。さらに、各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)(繊維接着率が最大の領域に対する最小の領域の比率)が、例えば、50%以上(例えば、50〜100%)、好ましくは55〜99%、さらに好ましくは60〜98%(特に70〜97%)程度である。本発明では、繊維接着率が、厚み方向において、このような均一性を有しているため、繊維の接着面積が低いにも拘わらず、硬さや曲げ強度、耐折性や靱性も優れている。さらに、繊維の接着面積が低いため、自由に振動可能な繊維が多く、優れた振動吸収性を有している。そのため、床材を通過してきた音波は、不織繊維構造体により吸音され、固体伝播音を軽減することができる。すなわち、本発明における不織繊維構造体は、ボードとしての機械的特性と、繊維構造体としての吸音性とを両立している。
【0046】
湿熱接着性繊維を含む不織繊維構造体は、ステープル繊維を用いて得られたウェブ(例えば、セミランダムウェブ、パラレルウェブなど)に対して、温度70〜150℃(特に80〜120℃)程度の高温水蒸気を、圧力0.1〜2MPa(特に好ましくは0.2〜1.5MPa)程度で噴射する方法により得られるが、詳細な製造方法については、国際公開WO2007/116676号公報(特許文献3)に記載の製造方法を利用できる。
【0047】
なお、不織繊維構造体で構成された緩衝層を接着剤や粘着剤を用いて床下地材又は支持材と固定する場合、接着剤又は粘着剤が不織繊維構造体に浸透し、緩衝効果を軽減する虞があるため、不織繊維構造体の表面及び/又は裏面に、フィルムや不織布などのシート材を積層することにより、接着剤又は粘着剤の浸透を防止してもよい。
【0048】
(空間層)
空間層は、床衝撃音(特に、重量床衝撃音などの低周波域の衝撃音)に対する遮音性を向上するために形成され、横断面形状が長方形状である棒状支持材を緩衝層と木質層との間に間隔をおいて配設することにより形成されている。支持材は、遮音性の高い空間部を形成するために、床面積に対して10〜70%、好ましくは10〜50%、さらに好ましくは10〜30%程度の面積を占めるように配設されるのが好ましい。
【0049】
支持材の形状は、前記面積を占める形状であれば特に限定されないが、作業性などの点から、施工する部屋の一辺の長さに対応する棒状(長尺状)が好ましい。棒状支持材を、間隔をおいて(特に、等間隔で)平行に複数本配設することにより、作業性が優れるとともに、床構造の安定性を向上できる。例えば、部屋の大きさによるが、支持材と木質ボードとの接合の観点から、幅10〜100mm(特に30〜75mm)程度の棒状支持体を、前記面積となるように等間隔で配設してもよい。支持材の配設位置は特に限定されないが、等間隔で均一になるように配設することにより、均一な床衝撃音の遮音性能が得られる。
【0050】
棒状支持体の長手方向に垂直な断面形状(横断面形状)は、作業性や設置後の安定性の点から、対向する平行な辺を有する形状が好ましく、例えば、四角形状(正方形状、長方形状、台形状など)など挙げられる。正方形状や長方形状などの断面四角形状の棒状支持体を用いることにより、施工時のずれを防止し、かつ木質系ボード材及び床仕上げ材で被覆した後に固定する際に位置の推測がし易く、施工が容易となる。
【0051】
支持材の材質は、有機材料(木質材、プラスチック材など)、無機材料(石膏、珪酸カルシウム、ガラス、アルミニウム、ステンレススチール、鋼など)のいずれでもよいが、床仕上げ材及び木質系ボード材からの釘を容易に保持できる点から、木質材が好ましい。木質材としては、無垢材、積層木質材、木質繊維材などが挙げられるが、釘保持力の点から、積層木質材、木質繊維材が好ましい。支持材としては、例えば、後述する木質系ボード材と同様のボード材、例えば、合板、パーティクルボード、配向性ストランドボードを切削加工して利用してもよい。さらに、支持材は、木質材と、前記緩衝層を構成する緩衝材及び/又は後述する制振層を構成する制振材との組み合わせであってもよい。
【0052】
支持材の厚みは、例えば、5〜20mm、好ましくは8〜18mm、さらに好ましくは10〜15mm程度である。本発明では、支持材の厚みをこの範囲にして空間層を形成するとともに、下層に形成した前記緩衝層との組み合わせにより、床衝撃音を効果的に遮音できる。特に、空間層をこのような厚みとすることにより、床構造の強度を保持しつつ、低周波域の衝撃音などを有効に遮音できる。一方で、空間層が比較的薄くなるため、空間層が空気バネとなり、床下地材に直接的に振動を伝えることによる遮音性の低下も発生するが、緩衝層により空気バネの影響を抑制できるともに、後述する際根太の部分支持構造によっても、空気バネの影響を緩和できる。
【0053】
(木質層)
木質層は、遮音床構造において、機械的強度を付与するために配設され、通常、木質系ボード材が使用される。木質系ボード材としては、板状又はシート状の木質材であれば特に限定されず、例えば、無垢材、合板(積層木質ボード)、木質繊維ボード(MDF、パーティクルボード、配向性ストランドボードなど)などが挙げられる。これらのうち、床仕上げ材からの釘を保持する力が高い点から、構造用合板、パーティクルボード、配向性ストランドボードなどが好ましい。なお、木質系ボード材は、通常、複数のボード材を組み合わせて使用する。隣接するボード材の面方向における突き合わせ部(すなわち、継ぎ目部分)は強度的に弱いため、突き合わせ部が後述する支持材又は根太の上に位置するように配設するのが好ましい。
【0054】
木質層は、壁面に対して密接させずに隙間をあけて配設するのが好ましい。すなわち、木質層の端面と壁面との間に隙間を形成することにより、床から壁に伝わる振動を絶縁できるため、遮音効果を向上できる。壁面との間の隙間は、必ずしも必要ではないが、遮音性の点から形成するのが好ましく、例えば、2〜10mm、好ましくは3〜9mm、さらに好ましくは4〜8mm程度である。
【0055】
木質層の厚みは、例えば、5〜20mm、好ましくは8〜18mm、さらに好ましくは10〜15mm程度である。
【0056】
(床仕上げ層)
床仕上げ層には、部屋の種類に応じて、慣用の床仕上げ材、例えば、敷き仕上げ、フローリング、軟質仕上げなどに用いられる慣用の床仕上げ材が利用できる。
【0057】
敷き仕上げの床仕上げ材としては、例えば、畳表、カーペット、ラグ、ラグマット、じゅうたんなどが挙げられる。フローリングの床仕上げ材には、ムク材系床仕上げ材、合板系床仕上げ材などのフローリング材が含まれる。軟質仕上げの床仕上げ材には、コルク板、軟質プラスチック板などが含まれる。軟質プラスチック板としては、発泡層を有するプラスチックシート(クッションフロア)であってもよい。
【0058】
これらの床仕上げ材のうち、コルク板、カーペット、畳表を用いると、表面の緩衝効果により軽量衝撃音の遮音性能がさらに向上する。
【0059】
床仕上げ層も、遮音性を向上させるために、壁面に対して密接させずに隙間をあけて配設するのが好ましい。壁面との間の隙間は、必ずしも必要ではないが、遮音性の点から形成するのが好ましく、例えば、1〜10mm、好ましくは2〜8mm、さらに好ましくは3〜6mm程度である。なお、壁面との隙間を形成した場合、隙間に幅木を施工することにより、床仕上げ材と壁との隙間は露出しない状態とすることができる。幅木についても、床仕上げ層の端面から1〜2mm程度離した状態で施工するのが好ましく、又は幅木下部に合成樹脂などで構成されたシート材が付いた幅木(いわゆる「ヒレ付幅木」)を使用することにより、床仕上げ材から幅木、壁に伝わる振動を絶縁してもよい。
【0060】
床仕上げ層の厚みは、種類に応じて選択でき、例えば、フローリング材の厚みは、例えば、2〜20mm、好ましくは3〜15mm、さらに好ましくは5〜15mm程度であってもよく、軟質床仕上げ材の厚みは、例えば、1〜20mm、好ましくは1.5〜10mm、さらに好ましくは2〜8mm程度であってもよい。
【0061】
(制振層)
本発明の遮音床構造は、さらに制振層と組み合わせてもよい。図2は、本発明の遮音床構造の他の例を示す概略断面図である。なお、図2も図1と同様に支持材6の長手方向に対して垂直方向の断面図である。本発明の遮音床構造は、床衝撃源からの振動を制振効果により低減させて床衝撃音の遮音性能をさらに向上させるため、図2に示されるように、木質層4と床仕上げ層5との間に、さらに制振層7が介在していてもよい。
【0062】
制振層は、床衝撃源からの振動を制振効果により低減させて床衝撃音の遮音性能を向上させるために配設され、幅広い周波域の床衝撃音を遮音可能であれば、特に限定されないが、高密度かつ高比重の制振材が利用される。
【0063】
制振材としては、通常、バインダー成分とフィラーとの混合物が使用される。バインダー成分としては、例えば、アスファルトなどの瀝青質物質、合成樹脂、ゴムやエラストマーなどが挙げられる。バインダー成分が制振効果を発現するためには、通常、単位面積当たりの質量が4kg/m以上であるのが好ましく、このような高比重を有する点から、バインダー成分は、アスファルトを含有するのが好ましい。アスファルトとしては、特に限定されず、一般的なアスファルト、例えば、天然アスファルト、ストレートアスファルト、ブローンアスファルトなどの石油アスファルトなどが使用できる。これらのアスファルトは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0064】
さらに、バインダー成分は、制振材に可撓性を付与するために、アスファルトに加えて、軟質樹脂又はエラストマー成分を含んでいてもよい。軟質樹脂又はエラストマー成分としては、例えば、ポリオレフィン、ビニル系重合体(ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体など)、ポリアミド、ポリエステル、合成ゴム(ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体など)、天然ゴム、ロジン系樹脂(天然ロジン、変性ロジンなど)などが挙げられる。これらの軟質樹脂又はエラストマー成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの軟質樹脂又はエラストマー成分のうち、スチレン−ブタジエンブロック共重合体などのスチレン−ジエン系共重合体が好ましい。
【0065】
アスファルトを含む制振材において、軟質樹脂又はエラストマー成分の割合は、アスファルト100重量部に対して、例えば、0〜100重量部、好ましくは1〜80重量部、さらに好ましくは3〜50重量部程度である。
【0066】
フィラーとしては、有機フィラーであってもよいが、高比重である点から、無機フィラーが好ましい。無機フィラーとしては、例えば、鉄、銅、錫、亜鉛、ニッケル、ステンレス鋼などの金属粒子(粉末)、酸化鉄、三二酸化鉄、四三酸化鉄、フェライト、酸化錫、酸化亜鉛、亜鉛華、酸化銅、酸化アルミニウムなどの金属酸化物粒子、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、炭酸バリウム、水酸化マグネシウムなどの金属塩粒子、製鋼スラグ、マイカ、クレー、タルク、ウォラストナイト、けい藻土、けい砂、軽石粉などの鉱物粒子などが挙げられる。
【0067】
これらの無機フィラーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの無機フィラーのうち、鉄粒子、各種酸化鉄粒子、製鋼スラグ粒子、(重)炭酸カルシウム粒子などが好ましい。
【0068】
無機フィラーの形状は、粒子状又は粉末状、不定形状、繊維状などが挙げられるが、粒子状又は粉末状が好ましい。無機フィラーの平均粒径は、例えば、0.5mm以下(例えば、0.01〜0.5mm)、好ましくは0.2mm以下(例えば、0.05〜0.2mm)程度である。このように微粉末化された無機フィラーを使用すると、制振材を製造する際の成形加工性を改善し、アスファルト基材中に多量の無機フィラーを均一に分散配合することができるため、制振材の面密度及び感熱安定性を向上できる。
【0069】
無機フィラーの割合は、アスファルト100重量部に対して、例えば、100〜2000重量部、好ましくは200〜1800重量部、さらに好ましくは300〜1500重量部程度である。無機充填剤の量が少なすぎると制振遮音効果が低下し、逆に多すぎると全体が脆くなり成形が困難となり、作業性が低下する。制振材の面密度は4.0kg/m以上(特に8.0kg/m以上)となるように調整するのが好ましい。
【0070】
制振材は、特に限定されず、バインダー成分と無機フィラーとを加熱混合し、板状に成形する方法などにより得ることができる。軟質樹脂又はエラストマー成分を配合する場合は、アスファルトと軟質樹脂又はエラストマー成分を予め混合した混合物に無機フィラーを添加してもよい。
【0071】
なお、制振材の形状は、作業性などの点から、板状又はシート状材が好ましいが、例えば、半固体状などの不定形状の制振材であってもよい。
【0072】
制振層の厚みは、例えば、1〜20mm、好ましくは3〜15mm、さらに好ましくは4〜12mm(特に5〜10mm)程度である。制振層の比重は、例えば、2.2〜3.6、好ましくは2.3〜3.5、さらに好ましくは2.5〜3.4程度である。
【0073】
なお、制振層は、床仕上げ層と床下地材との間に介在させればよく、木質層と床仕上げ層との間に限定されないが、重量床衝撃音を含む幅広い周波域に対して遮音効果を有する制振層を床に近接させて配設することにより、床衝撃音を効果的に減殺することができ、さらに下層に配設された空間層及び緩衝層によって残存した衝撃音を吸音することで、より有効な遮音性能を発揮できる。さらに、床下地材が木造床や軽量発泡コンクリートなどの遮音性が低い下地材である場合、緩衝層を複数の層で構成し、緩衝層の間に制振層を介在させて、床衝撃音の遮音性能を向上させてもよい。
【0074】
(根太及び際根太)
本発明の遮音床構造は、さらに根太及び/又は際根太と組み合わせてもよい。図3は、本発明の遮音床構造の他の一例を示す概略斜視図であり、図4は、図3の遮音床構造のA−A線概略断面図であり、図5は、図3の遮音床構造のB−B線概略断面図である。なお、図3では、際根太8a、8b及び根太9の配置関係を分かり易くするために、木質層4、制振層7及び床仕上げ層5は省略している。さらに、図4は、壁側における一部の断面を示し、図5は、根太が配設されている中央部における一部の断面を示している。本発明の遮音床構造は、床材の強度を向上するために、図4及び5に示すように、緩衝層2及び空間層3に対して際根太8a、8b及び根太9を配設することにより、緩衝層2及び支持材6の強度を補強している。すなわち、この遮音床構造は、床下地材1の周囲に配設された際根太8及び8aと、長尺な支持材6に対して垂直な方向において、床の所定部(例えば、中央部)に位置する根太9と、際根太8a及び8bと根太9との間に配置された緩衝層2と、この緩衝層2の上で際根太8aと平行に間隔をおいて配置された支持材6とを備えている。さらに、木質層4の端面の突き合わせ部(隣り合う木質層4の継ぎ目部)4aは、根太9上に位置させている。
【0075】
際根太は、部屋の四周に配設され、遮音床構造の端部(壁10と略接する部位)を構成しており、支持材6の長手方向に平行な方向の際根太8aは、中央部に配設された根太9に向かって連続して延び、木質層4を支持する構造を形成している。一方、支持材6の長手方向に垂直な方向の際根太8bは、支持材6に対応する箇所(支持体6の延長線上の部位)で部分的に木質層4を支持する構造(部分支持構造)を形成している。すなわち、際根太8bは、支持材6の長手方向に垂直な方向において、複数の凹凸構造を形成しており、支持材6に対応しない箇所である凹部では、緩衝層2と略同じ高さとなっている。このように、際根太8a、8bを遮音床構造の端部に配設することにより、緩衝層2及び支持材6の強度を均一に補強でき、家具などの重量物を載置しても床の沈み込みを抑制できる。
【0076】
また、根太9も、支持材6の長手方向の略中央部において、際根太8bと同様に、支持材6に対応する箇所で部分的に木質層4を支持する構造を形成している。前記際根太8a、8bに加えて、根太9を部屋の中央部に配設すると、緩衝層2及び支持材6の強度を均一に補強でき、部屋全体に亘って、床の撓みや歩行による沈み込みを抑制できる。なお、際根太及び根太は、いずれか一方のみを配設してもよいが、少なくとも際根太を配設するのが好ましい。なお、際根太及び根太の配列方法は、要求される荷重に応じて適宜選択でき、複数本の根太を配設してもよく、また支持材の長手方向に平行な方向に根太を配設してもよい。さらに、根太、際根太のいずれについても、部分支持構造の割合は限定されないが、後述する理由から、少なくとも際根太の一部は部分支持構造とするのが好ましい。
【0077】
際根太及び根太(際根太8b及び根太9については凸部)は、横断面形状が長方形状の四角柱形状であり、かつ緩衝層2及び空間層3の合計厚みと同じ厚みであり、両層に跨って配設されている。なお、際根太及び根太の厚み(際根太8b及び根太9については凸部の厚み)は、支持材6の厚みから、配設前の支持材6及び緩衝層2の略合計の厚みまでの範囲で適宜選択することにより、緩衝層2の圧縮状態を調整できる。すなわち、例えば、際根太及び根太の厚みを支持材6の厚みに近づけると、緩衝層2を圧縮でき、合計量の厚みに近づけると、緩衝層2が圧縮されない状態とできる。従って、際根太及び根太の厚みを調整することにより、要求される床構造の遮音特性と強度とのバランスを調整できる。なお、不織繊維構造体で構成された緩衝材を配設する場合には、前記略合計の厚みよりも若干小さくして、緩衝材を圧縮することにより、床構造の強度及び安定性を高めるのが好ましい。一方、際根太8b及び根太9の凹部の厚みは、通常、緩衝層2と略同一の厚みである。
【0078】
支持材6の長手方向と垂直な方向の際根太8b及び根太9(特に際根太8b)を部分支持構造にする理由は次の通りである。すなわち、際根太を部屋の四周に配設して空間層を閉塞した場合、空間層が空気バネとなり、床下地材に直接的に振動を伝えるため、遮音効果が低下する。これに対して、際根太8b及び根太9を、部分支持構造とすることにより、凹部から空気を効率良く逃すことができるため、空気バネによる遮音性の低下を抑制できる。支持材6の長手方向と垂直な方向の際根太及び根太は、部分支持に限定されないが、遮音効果を向上する点から、少なくとも際根太を部分支持構造とするのが好ましい。凹部の大きさも、特に限定されず、対応する支持材の大きさよりも小さくても大きくてもいずれでもよく、例えば、支持材6に対応する箇所にのみ際根太及び根太を形成し、凹部の面積を最大化してもよいが、構造強度と遮音性とを両立できる点から、対応する支持材の大きさと略同じ大きさの凹部を形成するのが好ましい。
【0079】
さらに、際根太8aと根太9との突き合わせ部(すなわち、隣接する際根太8と根太9との継ぎ目)、際根太8aと際根太8bとの突き合わせ部、際根太8bと支持材6との突き合わせ部には、木質材などの温湿度による伸縮を考慮して、それぞれ、隙間L1、L2、L3が形成されている。これらの隙間を形成することにより、床に荷重がかかったときに、各部材間の擦れによる音の発生などを抑制できる。隙間L1〜L3は、必ずしも形成する必要はなく、形成する場合は、例えば、1〜15mm、好ましくは3〜13mm、さらに好ましくは5〜12mm程度である。
【0080】
さらに、際根太8a、際根太8b、根太9及び支持材6は、壁面に対して密接させずに隙間をあけて配設されている。すなわち、際根太8aの長手方向の端面と壁10との間には隙間L4が形成され、際根太8bの長手方向の端面と壁(図3では省略)との間には隙間L5が形成されている。隙間L4及びL5を形成することにより、床から壁に伝わる振動を絶縁できるため、遮音効果を向上できる。隙間L4及びL5は、必ずしも形成する必要はなく、形成する場合は、例えば、2〜10mm、好ましくは3〜9mm、さらに好ましくは4〜8mm程度である。
【0081】
根太及び際根太の材質は、支持材と同様の材料が使用でき、強度などの点から、支持材と同様に、積層木質材、木質繊維材が好ましい。
【0082】
(遮音床構造の施工又は製造方法)
本発明の遮音床構造は、床下地材の上に、緩衝層(必要に応じて、根太及び際根太)、支持材、木質層(必要に応じて制振層)、床仕上げ層を順次積層することにより施工できる。
【0083】
根太及び/又は際根太を配設する場合、緩衝層を構成する緩衝材を敷き詰める前に根太及び/又は際根太を施工する。根太及び際根太の固定方法としては、接着剤又は粘着剤を用いる方法、固定具を用いる方法などが挙げられる。
【0084】
接着剤又は粘着剤としては、緩衝材や根太の材質に応じて、慣用の接着剤又は粘着剤の中から選択できる。接着剤としては、デンプンやカゼインなどの天然高分子系接着剤、ポリ酢酸ビニルなどのビニル系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤などの熱可塑性樹脂系接着剤、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂系接着剤などが挙げられる。粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤などの熱可塑性樹脂系粘着剤などが挙げられる。
【0085】
固定具としては、ネイル、ネジ、釘、ステープル、針などの係合手段、粘着テープ、面ファスナーなどが挙げられる。
【0086】
これらの方法のうち、通常、釘などの固定具を用いる方法が汎用される。
【0087】
なお、根太及び際根太における部分支持構造は、凹凸構造を有する根太及び際根太を使用してもよく、また予め凹部の厚みを有する部材(木質材など)を施工した後、その部材の上に、凸部に対応する部材を施工してもよい。両部材の固定方法としては、例えば、接着剤を用いる方法や、粘着テープを用いる方法などが汎用される。
【0088】
緩衝材は、際根太及び根太を施工した場合には、根太及び際根太に囲まれた床下地材の上に敷き詰め、一方、根太及び際根太を配設しない場合には、床仕上げ材全面に敷き詰める。その際に、床下地材上に予め前記接着剤又は粘着剤を塗布後、緩衝材を敷き詰めてもよく、緩衝材を敷き詰めた後に、前記固定具などで固定してもよい。
【0089】
次に、支持材を緩衝材の上に配設して空間層を形成するが、支持材と緩衝材との固定方法としては、前述の接着剤(もしくは粘着剤)又は固定具を用いる方法が利用できる。前記固定方法のうち、置き敷き又は接着剤や両面テープを用いる方法が好ましい。
【0090】
さらに、木質系ボード材を支持材の上に配設して木質層を形成する。木質系ボード材は、通常、複数の木質系ボード材を使用するが、木質系ボード材の突き合わせ部(隣り合う木質系ボード材の継ぎ目部)に支持材又は根太を配設するのが好ましい。木質系ボード材の突き合わせ部に、支持材又は根太を配設すると、木質層の安定性が向上し、木質系ボード材の突き合わせ部での荷重による沈み込みを抑制できる。また、木質系ボード材の突き合わせ部は、密接させてもよく、木質系ボードの温湿度による伸縮を考慮し1〜20mm(特に5〜15mm)程度の隙間を開けてもよい。
【0091】
最後に、床仕上げ材を木質層の上に配設して床仕上げ層を形成する。木質層及び床仕上げ層の固定方法としても、前述の接着剤(もしくは粘着剤)又は固定具を用いる方法が利用できるが、床仕上げ材及び木質ボード材がいずれも硬質であるため、通常、ネイル、ステープル、釘などの係合手段が利用される。これらの係合手段は、遮音性を向上させる点から、緩衝層まで到達しない長さの係合手段を利用するのが好ましい。例えば、床仕上げ材がフローリングの場合、通常、係合手段としてフロアネイルと称される釘を使用するが、フロアネイルが緩衝層や床下地材に到達すると、サウンドブリッジにより床衝撃音の遮音性能が低下する虞がある。従って、支持体が釘保持力を有する材質(木質材など)である場合、床仕上げ層から支持材までフロアネイルなどの係合手段で一体化するのが好ましい。床仕上げ層から支持材まで一体化されると、床自体の剛性が向上し、床衝撃音の遮音性能が向上するだけでなく、歩行感も良好になる。
【0092】
制振層を床仕上げ層と木質層との間に介在させる場合、制振材と床仕上げ材、制振材と木質系ボードは、接着剤又は粘着剤で固定するのが好ましい。接着剤で固定することにより、床自体の剛性を向上でき、床衝撃音の遮音性能を向上できる。さらに、緩衝層の間に介在させる場合も、同様に接着剤又は粘着剤で固定するのが好ましい。
【0093】
床暖房を施工する場合は、床仕上げ材の直下に床暖房パネルなどを設置してもよい。なお、制振材を使用している場合は、制振材上に更に木質系パネルや断熱性を有するパネルを設置するのが好ましい。
【0094】
なお、本発明の遮音床構造は、部屋の全面に施工される態様だけに限定されず、部屋の一部に施工してもよい。例えば、ピアノなどの重量物を載置する部屋に対して、重量物が載置される部分について、支持材を略全面に敷き詰める態様、前記緩衝層及び空間層の両層を耐荷重性の高い木質系ボードなどに置き換える態様などにより、部分的に強度を担保してもよい。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。なお、実施例中の「部」及び「%」はことわりのない限り、質量基準である。
【0096】
(1)目付(g/m2
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0097】
(2)厚み(mm)、見掛け密度(g/cm3
JISL 1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて厚さを測定し、この値と目付けの値とから見かけ密度を算出した。
【0098】
(3)繊維接着率
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、構造体断面を100倍に拡大した写真を撮影した。撮影した構造体の厚み方向における断面写真を厚み方向に三等分し、三等分した各領域(表面、内部(中央)、裏面)において、そこに見出せる繊維切断面(繊維端面)の数に対して繊維同士が接着している切断面の数の割合を求めた。各領域に見出せる全繊維断面数のうち、2本以上の繊維が接着した状態の断面の数の占める割合を以下の式に基づいて百分率で表わした。なお、繊維同士が接触する部分には、融着することなく単に接触している部分と、融着により接着している部分とがある。但し、顕微鏡撮影のために構造体を切断することにより、構造体の切断面においては、各繊維が有する応力によって、単に接触している繊維同士は分離する。従って、断面写真において、接触している繊維同士は、接着していると判断できる。
【0099】
繊維接着率(%)=(2本以上接着した繊維の断面数)/(全繊維断面数)×100
但し、各写真について、断面の見える繊維は全て計数し、繊維断面数100以下の場合は、観察する写真を追加して全繊維断面数が100を超えるようにした。なお、三等分した各領域についてそれぞれ繊維接着率を求め、その最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)も併せて求めた。
【0100】
(4)床衝撃音の遮音特性
JIS A 1418−1「建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法 −第1部:標準軽量衝撃源による方法」及びJIS A 1418−2「建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法−第2部:標準重量衝撃源による方法」に準拠して行った。測定結果は、JIS A 1419−2「建築物および建築部材の遮音性能の評価方法−第2部:床衝撃音遮断性能」に準拠して床衝撃音レベル等級で示した。
【0101】
実施例1
間隔910mmで断面120×240mmの梁上に28mmの構造用合板を施工した、根太レス工法で構成された寸法3600×3600mmの床下地材上に置いて、四周に厚み12mmで幅寸法50mmの構造用合板を2枚積層し、合計24mmの際根太を、釘を用いて固定した。なお、支持材の長手方向と垂直方向の際根太に関しては、予め、厚み12mmで寸法50mmの構造用合板を施工し、さらに支持材の延長線上となる部分にのみ、厚さ12mmで寸法50mm角の構造用合板を両面テープで固定して凸部を形成し、部分支持構造の際根太を施工した。さらに、床下地材の上に、支持材の長手方向の中央部において、支持材の長手方向と垂直な方向に延びる根太を、部分支持構造の際根太と同じ構造で施工した。次に、厚み12mmで単位面積質量(目付)1400g/mのニードルパンチ方式によるポリエステル不織布(平均繊維径25μm)を際根太と根太に囲まれた床下地材上に敷設した。さらに、厚み12mmで幅寸法50mmの構造用合板からなる支持材を303mm間隔でポリエステル不織布の上に載置した。なお、際根太及び根太と支持材との面方向に於ける突き合わせ部分は10mmの間隔を開けて施工した。その上に厚み12mmの構造用合板を突き付けで施工し、さらに制振材(厚み6mmで比重4.0のアスファルトと鉄系無機粉体とを加熱混合して板状に成形したシート)を施工し、この制振材の上に厚さ12mmの合板からなるフローリングを施工した。なお、フローリングの固定は、38mmのフロアネイルを使用し、フローリングから支持材が固定される様に固定した。上記構成において、遮音床構造の全ての端面を壁面から6mm離した状態で施工した。なお、階下の天井構造は、梁から吊り木、野縁受け、野縁、厚さ9.5mmの石膏ボードであった。
【0102】
実施例2
緩衝材として、ポリエステル不織布の代わりに以下の方法で得られた不織繊維構造体を使用する以外は、実施例1と同様にして遮音床構造を施工した。
【0103】
(不織繊維構造体の製造方法)
湿熱接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量44モル%、ケン化度98.4モル%)である芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製、「ソフィスタ」、繊度3dtex、繊維長51mm、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm、捲縮率13.5%)を準備した。
【0104】
この芯鞘型複合ステープル繊維を用いて、カード法により目付約50g/mのカードウェブを作製し、このウェブを6枚重ねて合計目付約300g/mのカードウェブとした。
【0105】
このカードウェブを、50メッシュ、幅500mmのステンレス製エンドレスネットを装備したベルトコンベアに移送した。尚、このベルトコンベアの金網の上部には同じ金網を有するベルトコンベアが装備されており、それぞれが同じ速度で同方向に回転し、これら両金網の間隔を任意に調整可能なベルトコンベアを使用した。
【0106】
次いで、下側コンベアに備えられた水蒸気噴射装置ヘカードウェブを導入し、この装置から0.2MPaの高温水蒸気をカードウェブの厚み方向に向けて通過するように(垂直に)噴出して水蒸気処理を施し、不織繊維構造を有する成形体を得た。この水蒸気噴射装置は、下側のコンベア内に、コンベアネットを介して高温水蒸気をウェブに向かって吹き付けるようにノズルが設置され、上側のコンベアにサクション装置が設置されていた。また、この噴射装置のウェブ進行方向における下流側には、ノズルとサクション装置との配置が逆転した組合せである噴射装置がもう一台設置されており、ウェブの表裏両面に対して蒸気処理を施した。
【0107】
なお、水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、ノズルがコンベアの幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられた蒸気噴射装置を使用した。加工速度は3m/分であり、ノズル側とサクション側の上下コンベアベルト間の間隔(距離)を、厚み6mmの構造体が得られるように調整した。ノズルはコンベアベルトの裏側にベルトとほぼ接するように配置した。
【0108】
得られた不織繊維構造体(成形体)は、ボード状の形態を有し、一般的な不織布に比べて非常に硬質であった。見掛け密度は、0.05g/cmであった。さらに、繊維接着率は、表面側で11%、中央部で10%、裏面側で10%であった。
【0109】
この不織繊維構造体を、切断加工して、緩衝材として利用した。
【0110】
比較例1
床下地材の上に、厚み12mmの合板からなるフローリングを施工した。
【0111】
比較例2
床下地材の上に、厚み12mmで単位面積質量(目付)1400g/mのニードルパンチ方式によるポリエステル不織布、厚み6mmで比重4.0のアスファルトをバインダーとする制振材、この制振材の上に厚み12mmの合板からなるフローリングを施工した。
【0112】
実施例及び比較例で得られた床構造について、床衝撃音の遮音特性を測定した結果を表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
表1の結果から明らかなように、実施例の遮音床構造が優れた遮音性を示すのに対して、比較例の遮音床構造は遮音性が低い。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の遮音床構造は、マンション、ビル、一般住宅などの建築物の床構造に利用でき、特に、マンション、ビル、一般住宅などの複数階建ての建築物(多層階建築物)における2階以上のフロアにおける床構造として有用である。
利用できる。
【符号の説明】
【0116】
1…床下地材
2…緩衝層
3…空間層
4…木質層
4a…木質系ボード材の突き合わせ部
5…床仕上げ層
6…支持材
7…制振層
8…際根太
9…根太
10…壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床下地材の上に、緩衝層、空間層、木質層、床仕上げ層を順次積層した遮音床構造であって、支持材が、前記緩衝層と木質層との間に介在している遮音床構造。
【請求項2】
緩衝層が、厚み3〜20mm、見掛け密度0.03〜0.2g/cmの不織繊維構造体で形成されている請求項1記載の遮音床構造。
【請求項3】
不織繊維構造体が、湿熱接着性繊維を含み、かつこの湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定されるとともに、繊維接着率が3〜85%である請求項2記載の遮音床構造。
【請求項4】
支持材が、床面積に対して10〜70%の面積を占める請求項1〜3のいずれかに記載の遮音床構造。
【請求項5】
支持材が、複数の四角柱状の支持材で構成され、かつ各支持材が間隔をおいて平行に配設されている請求項1〜4のいずれかに記載の遮音床構造。
【請求項6】
木質層と床仕上げ層との間に制振層が介在している請求項1〜5のいずれかに記載の遮音床構造。
【請求項7】
制振層がアスファルトを含有する請求項6記載の遮音床構造。
【請求項8】
際根太及び/又は根太に隣接して緩衝層及び空間層が配設されている請求項1〜7のいずれかに記載の遮音床構造。
【請求項9】
長尺な支持材に対して垂直な方向の際根太及び根太が、部分的に木質層を支持している請求項8記載の遮音床構造。
【請求項10】
根太、際根太、木質層及び表面仕上げ層が、壁面に対して隙間を有する請求項8又は9記載の遮音床構造。
【請求項11】
床衝撃音を低減するための緩衝材であって、湿熱接着性繊維を含み、この湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された不織繊維構造体で構成され、前記不織繊維構造体の繊維接着率が3〜85%である緩衝材。
【請求項12】
複数階建ての建築物における上階からの床衝撃音を低減するための緩衝材である請求項11記載の緩衝材。
【請求項13】
請求項11又は12記載の緩衝材を用いて床衝撃音を低減する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−184935(P2011−184935A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50842(P2010−50842)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(591260513)七王工業株式会社 (11)
【出願人】(307046545)クラレクラフレックス株式会社 (50)
【Fターム(参考)】