説明

遷移金属固定化リアクター、及びその製造方法

【課題】 触媒固定量が多く、かつ、繰り返しの使用安定性に優れた遷移金属固定化リアクター、及び、長時間反応や高温反応を行うことなく、簡便な操作により調製できる遷移金属固定化リアクターの製造方法を提供することにある。
【解決手段】 アミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物の重合体を含む多孔質ポリマー層の表面に、アミノ基を2つ以上有する化合物を反応させた後、遷移金属化合物を前記アミノ基を2つ以上有する化合物のアミノ基に結合させ、更に、前記遷移金属化合物の遷移金属を還元させることにより遷移金属粒子を固定した有機多孔質ポリマー層が、管状流路の壁面の一部に形成されている遷移金属固定化リアクター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の試料により所定の化学反応を行わせるための微細流路を有するリアクター、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウムなどの遷移金属を含む触媒による化学反応は、炭素−炭素カップリング反応に代表されるように、今日の有機合成において最も重要な触媒反応であると認識されている。これらの遷移金属触媒を用いた反応系では、通常は遷移金属触媒が反応溶液中に溶解した均一系触媒として使用される。しかしながら、一般にこれらの遷移金属触媒は高価であるため、繰り返しての使用が求められる。均一系触媒では、反応溶液中に触媒が溶解しているため、反応後触媒を溶液から分離、回収することが容易ではない。したがって、遷移金属触媒を不溶性固体に固定化した状態で使用する不均一系触媒を用いることが検討されている。
【0003】
不溶性固体に固定化した遷移金属触媒の一形態に、微細管状流路を有するリアクターがある。このようなリアクターは、数cm大の基板プレート上に、長さが数cm程度で、幅と深さが数十nmから数百μmの微細管状流路を有する。このようなリアクターの微細流路に反応溶液を導入した場合、微細流路の大きな比表面積や短い分子間距離の効果による分子の速やかな拡散により、特別な撹はん操作を行なわなくても効率のよい化学反応を行なうことができる。また、拡散時間は微細流路の幅の2乗に比例するので、微細流路の幅を小さくするほど拡散による混合が効率的に進行し、反応が起こりやすくなることが知られている。このような微細管状流路を有するリアクターは、マイクロチューブを用いた流通式リアクターに比べ、流路の幅を小さくすることができるため、反応が速くなるという利点を有する。
【0004】
非特許文献1には、ガラス製プレート中の微細流路の壁面に高分子化パラジウム触媒を固定化し、水素添加反応に応用した例が報告されている。しかしながら、この方法は触媒の固定化操作が煩雑であり、また、比表面積の小さな平滑ガラス表面への触媒の固定化であるため、触媒の固定量は必ずしも多くない。
【0005】
非特許文献2には、ガラス製プレート中の微細流路内の有機層/水層層流界面において、界面反応によりパラジウム触媒を含む高分子錯体膜を形成し、炭素−炭素カップリング反応に応用した例が報告されている。しかしながら、この方法で形成される高分子錯体膜は、その2辺で壁面に固定された形で微細流路の中央付近に形成され、その使用安定性が懸念されるが、安定性に関する記述はない。
【0006】
一方、本発明者等は、特許文献1および特許文献2において、有機ポリマーからなる微細流路の底面に非表面積の大きな多孔質性ポリマー層を導入する方法を開示している。また、特許文献3および特許文献4において、有機ポリマーからなる微細流路の表面に官能基を導入する方法を開示している。
【0007】
【特許文献1】特開2000-2705号公報
【特許文献2】特開2004-271430号公報
【特許文献3】特開2003-136640号公報
【特許文献4】特開2005-91135号公報
【非特許文献1】J. Kobayashi et al., Science, 2004, 304, 1305-1308.
【非特許文献2】Y. Uozumi et al. J. Am. Chem. Soc., 2006, 128, 15994-15995.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、触媒固定量が多く、かつ、繰り返しの使用安定性に優れた遷移金属固定化リアクター、及び、長時間反応や高温反応を行うことなく、簡便な操作により調製できる遷移金属固定化リアクターの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意検討した結果、管状の微細流路を有し、且つ該流路を形成する壁面の少なくとも一部が、表面に遷移金属粒子が固定された有機多孔質ポリマー層で形成されているリアクターを用いることにより、触媒固定量が多く、かつ、繰り返しの使用安定性に優れた遷移金属固定化リアクターを簡便に製造可能であることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、管状の流路を有し、且つ該流路を形成する壁面の少なくとも一部が、表面に遷移金属粒子が固定された有機多孔質ポリマー層で形成されているリアクターであって、
前記有機多孔質ポリマー層が、アミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物の重合体を含む多孔質ポリマー層の表面に、アミノ基を2つ以上有する化合物を反応させた後、遷移金属化合物を前記アミノ基を2つ以上有する化合物のアミノ基に結合させ、更に、前記遷移金属化合物の遷移金属を還元させることにより遷移金属粒子を固定した層である
ことを特徴とする遷移金属固定化リアクターを提供するものである。
【0011】
また、本発明は、(1)支持体の表面に、アミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物を含む活性エネルギー線重合性組成物(c)と、該活性エネルギー線重合性組成物(c)とは相溶するが、該活性エネルギー線重合性組成物(c)の重合物を溶解または膨潤させない溶剤(M)とを混合した有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)を塗布して塗膜を形成し、該塗膜に活性エネルギー線を照射することによって、該活性エネルギー線重合性組成物(c)を重合させ、その後、溶剤(M)を除去することによって有機多孔質ポリマー層を形成する工程1、
(2)該有機多孔質ポリマー層の表面を、アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)に接触させる工程2、
(3)該アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)に接触させた該有機多孔質ポリマー層の上に活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)を塗工し、該組成物(Y)の未硬化塗膜を形成し、流路となすべき部分以外の前記未硬化塗膜に活性エネルギー線を照射して前記組成物(Y)の硬化または半硬化塗膜を形成し、非照射部分の未硬化の前記組成物(Y)を除去して、該有機多孔質ポリマー層が底面に露出した凹部を形成する工程3、
(4)前記凹部を有する部材の凹部に蓋となる他の部材を固着して前記凹部を空洞状の流路となす工程4、及び、
(5)前記工程によって形成した流路に、遷移金属化合物を含む溶液(e)を流通させ、その後、還元剤を含む溶液(f)を流通させる工程5を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の遷移金属固定化リアクターの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、管状微細流路の一部を構成する、比表面積の大きな有機多孔質ポリマー層の表面を利用して遷移金属粒子を固定化するため、遷移金属粒子の固定量を高くでき、また、使用安定性にも優れた遷移金属固定化リアクターを提供できる。また、穏和な条件での配位結合生成とそれに続く還元反応により遷移金属の固定化を行うため、簡便な操作により遷移金属固定化リアクターを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための要部について説明する。
[遷移金属固定化リアクターの形状と構造]
本発明の遷移金属固定化リアクターは、その内部に微細な管状流路を有し、該流路内にて、反応、化学工学的処理、検出などを行うものである。その外形は特に限定する必要はない。例えば、シート状(フィルム状、リボン状などを含む。以下同じ)、板状、塗膜状、棒状、チューブ状、その他複雑な形状の成型物などであり得るが、製造の容易さや使用の容易さから、シート状または板状であることが好ましい。
遷移金属固定化リアクターの内部に設けられた流路の断面形状は任意であり、例えば、矩形、台形、円、半円形、スリット状など(矩形その他の角のある形状は、角が丸められた形状を含む。以下同じ)であり得る。
該流路の寸法も任意であるが、深さ(リアクターの、流路に最も近い表面に直角な方向の、流路の内寸を深さとする)は、例えば、1〜300μm、好ましくは2〜150μm、更に好ましくは5〜100μmである。この範囲の時、微細流路としてのメリットと本発明の効果を十分に発揮できる。流路の幅は任意であり、例えば1μm〜リアクター全体の幅であっても良い。
【0014】
本発明の遷移金属固定化リアクターは、流路の底部となる底部材と、該流路の側壁部を形成する部材である壁部材と、該流路の蓋部となり流路の天井を形成する蓋部材とを備え、これらから形成される流路壁面の少なくとも一部が、表面に遷移金属粒子が固定された有機多孔質ポリマー層で形成されている。該有機多孔質ポリマー層は、アミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物を重合させた多孔質ポリマー層の表面にアミノ基を2つ以上有する化合物を反応させた後、遷移金属化合物を前記アミノ基を2つ以上有する化合物のアミノ基に結合させ、更に、前記遷移金属化合物の遷移金属を還元させることにより遷移金属粒子を固定した層である。
【0015】
有機多孔質ポリマー層の多孔質の形状は、凝集粒子状又は網目状であり、その平均孔径が0.1〜10μmの範囲にあるものが望ましい。有機多孔質ポリマー層の厚さは、1〜100μmの範囲が好ましく、3〜50μmの範囲が特に好ましい。有機多孔質ポリマー層の厚さが1μmよりも薄い場合、リアクターとしての性能が低下する傾向にあるので好ましくない。なお、有機多孔質ポリマー層の厚さは、走査型電子顕微鏡を用いて、その断面の顕微鏡観察により測定することができる。
【0016】
遷移金属粒子は、第一遷移元素、第二遷移元素、第三遷移元素、または、第四遷移元素のいずれかに含まれる元素から選択される1種以上の元素からなる粒子である。ただし、第二遷移元素、または、第三遷移元素に含まれる元素から選択される1種以上の元素からなる粒子が好ましく、その中でも、パラジウム、白金、ルテニウム及びロジウムから選択される1種以上である元素からなる粒子が特に好ましい。遷移金属粒子の平均粒径は、0.1〜30nmの範囲が好ましく、0.5〜10nmの範囲が特に好ましい。
有機多孔質ポリマー層中の、アミノ基と反応しうる官能基としては、アミノ基と反応できるものであれば任意であり、例えば、イソシアナト基、エポキシ基、カルボキシ基、及び、酸ハロゲン化物(−COX基)が好適に利用できる。但し、−COX基においてXはハロゲン原子を表し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられるが、塩素原子が好ましく挙げられる。これらの中で、イソシアナト基、または、エポキシ基が好適に利用できる。
【0017】
本発明に用いるアミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物としては、該重合性化合物の重合体が前記官能基を有し、活性エネルギー線により重合できる化合物であればラジカル重合性化合物、アニオン重合性化合物又はカチオン重合性等、任意の化合物であって良いが、このうちラジカル重合性化合物が好ましく挙げられる。
アミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物としては、アミノ基と反応しうる官能基を有する(メタ)アクリレートが好ましく挙げられ、具体的には、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートの如きイソシアナト基を有する(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートの如きエポキシ基を有する(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸の如きカルボキシ基を有する(メタ)アクリレート、及び、(メタ)アクリロイルクロリドの如き酸塩化物等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
本発明に用いるアミノ基を2つ以上有する化合物としては、エチレンジアミン、1,4−フェニレンジアミン、アミドール、3,3’−ジアミノベンジジン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,6−ジアミノヘキサン、3,3’−ジアミノジプロピルアミン、ヘキサメチレンテトラアミン、トリエチレンテトラアミン、分岐状ポリエチレンイミン、直鎖状ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、アミノ基含有デンドリマー、または、これらの塩酸塩または一部のアミノ基が塩酸塩となっているもの等が挙げられる。この中で、分岐状ポリエチレンイミン、直鎖状ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、アミノ基含有デンドリマーが好ましく挙げられる。分岐状、または、直鎖状ポリエチレンイミンは、重量平均分子量が600〜1,000,000の範囲にあることが好ましく、10,000〜500,000の範囲にあることが特に好ましい。ポリアリルアミンは、重量平均分子量が3,000〜500,000の範囲にあることが好ましく挙げられる。アミノ基含有デンドリマーは、例えば、アルドリッチ社製エチレンジアミンコアデンドリマー(製品コード、412449(第4世代)、412422(第3世代))等が好ましく使用できる。
【0019】
アミノ基を2つ以上有する化合物と、有機多孔質ポリマー層上のアミノ基と反応しうる官能基との反応は、例えば、アミノ基を2つ以上有する化合物を溶剤に溶解させ、これを浸漬、塗布又は印刷により有機多孔質ポリマー層に接触させるか、または、流路形成後、該溶液を流路内に導入して有機多孔質ポリマー層に接触させることにより、行うことができる。このような方法により、有機多孔質ポリマー層上にアミノ基を2つ以上有する化合物が点在するように固定化することもできるし、または、全体を被覆して層を成すよう固定化することもできる。
【0020】
本発明に用いる遷移金属化合物としては、第一遷移元素、第二遷移元素、第三遷移元素、または、第四遷移元素のいずれかに含まれる元素からなる塩、例えば、ヨウ素酸塩、臭素酸塩、塩素酸塩、フッ素酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、酢酸塩、アセチルアセトナト塩、シュウ酸塩、グルコン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等が好ましく利用できる。中でも、第二遷移元素、または、第三遷移元素に含まれる元素からなる塩が好ましく、その中でも、パラジウム、白金、ルテニウム及びロジウムから選択される元素からなる塩が特に好ましい。また、これらの遷移金属の塩素酸塩、または、酢酸塩が好ましく利用できる。これらの遷移金属化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
有機多孔質ポリマー層上に固定されたアミノ基を2つ以上有する化合物のアミノ基と、遷移金属化合物の結合の生成は、例えば、遷移金属化合物を溶剤に溶解させ、これを浸漬、塗布又は印刷により有機多孔質ポリマー層に接触させるか、または、流路形成後、該溶液を流路内に導入して有機多孔質ポリマー層に接触させることにより、行うことができる。このような方法により、アミノ基を2つ以上有する化合物のアミノ基と遷移金属化合物中の遷移金属が配位結合することにより、有機多孔質ポリマー層上に遷移金属化合物を固定することができる。
【0022】
有機多孔質ポリマー層上に固定された遷移金属化合物の還元は、例えば、水素化ホウ素ナトリウムやヒドラジン等の還元剤を用いて行うことができる。この場合、還元剤を溶剤に溶解させ、これを浸漬、塗布又は印刷により有機多孔質ポリマー層に接触させるか、または、流路形成後、該溶液を流路内に導入して有機多孔質ポリマー層に接触させることにより、行うことができる。このような方法により、遷移金属粒子が固定化された有機多孔質ポリマー層を得ることができる。
【0023】
[遷移金属固定化リアクターの製造方法]
本発明の遷移金属固定化リアクターの製造は、下記の3つの方法によって行うことができる。
【0024】
遷移金属固定化リアクターを製造する第1の方法は、(1)支持体の表面に、アミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物を含む活性エネルギー線重合性組成物(c)と、該活性エネルギー線重合性組成物(c)とは相溶するが、該活性エネルギー線重合性組成物(c)の重合物を溶解または膨潤させない溶剤(M)とを混合した有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)を塗布して塗膜を形成し、該塗膜に活性エネルギー線を照射することによって、該活性エネルギー線重合性組成物(c)を重合させ、その後、溶剤(M)を除去することによって有機多孔質ポリマー層を形成する工程1、(2)該有機多孔質ポリマー層の表面を、アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)に接触させる工程2、(3)該アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)に接触させた該有機多孔質ポリマー層の上に活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)を塗工し、該組成物(Y)の未硬化塗膜を形成し、流路となすべき部分以外の前記未硬化塗膜に活性エネルギー線を照射して前記組成物(Y)の硬化または半硬化塗膜を形成し、非照射部分の未硬化の前記組成物(Y)を除去して、該有機多孔質ポリマー層が底面に露出した凹部を形成する工程3、(4)前記凹部を有する部材の凹部に蓋となる他の部材を固着して前記凹部を空洞状の流路となす工程4、及び、(5)前記工程によって形成した流路に、遷移金属の塩を含む溶液(e)を流通させ、その後、還元剤を含む溶液(f)を流通させる工程5、を有する方法である。
【0025】
遷移金属固定化リアクターを製造する第2の方法は、前記第1の方法で示した工程1で形成された前記有機多孔質ポリマー層の上に前記活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)を塗工し、該組成物(Y)の未硬化塗膜を形成し、流路となすべき部分以外の前記未硬化塗膜に活性エネルギー線を照射して前記組成物(Y)の硬化または半硬化塗膜を形成し、非照射部分の未硬化の前記組成物(Y)を除去して、有機多孔質ポリマー層が底面に露出した凹部を形成する工程2’、前記凹部を有する部材の凹部に蓋となる他の部材を固着して前記凹部を空洞状の流路となす工程3’、及び、前記工程によって形成した流路に、アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)を流通させた後、遷移金属の塩を含む溶液(e)を流通させ、次いで、還元剤を含む溶液(f)を流通させる工程4’、を有する方法である。
【0026】
遷移金属固定化リアクターを製造する第3の方法は、前記第1および第2の方法で示した工程1、2’、3’によって形成した流路に、アミノ基を2つ以上有する化合物と遷移金属粒子を含む溶液(g)を流通させる工程4’’、を有する方法である。
最初に、遷移金属固定化リアクターを製造する第1の方法について、詳細に説明する。
工程1では、活性エネルギー線重合性組成物(c)の重合により生成した重合体が、溶剤(M)と相溶しなくなり、重合体と溶剤(M)とが相分離を生じ、重合体内部や重合体間に溶剤(M)が取り込まれた状態になる。この溶剤(M)を除去することにより、溶剤(M)が占めていた領域が孔となり有機多孔質ポリマー層を形成できる。
活性エネルギー線重合性組成物(c)は、アミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物と、該重合性化合物と共重合体を形成しうる他の重合性化合物を含有する。アミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物としては、前記アミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物として例示した重合性化合物等を用いることができる。
【0027】
アミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物と共重合体を形成しうる他の重合性化合物としては、重合開始剤の存在下または非存在下で活性エネルギー線により重合するものであり、付加重合性の化合物や、活性エネルギー線重合性官能基として重合性の炭素−炭素二重結合を有するものが好ましく、なかでも、反応性の高い( メタ)アクリル系化合物やビニルエーテル類、また光重合開始剤の不存在下でも硬化するマレイミド系化合物が好ましい。さらに、半硬化の状態で形状保持性を高くでき、硬化後の強度も高くできることから、重合して架橋重合体を形成する化合物であることが好ましい。そのために、1分子中に2つ以上の重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下、「1分子中に2つ以上の付加重合性の官能基を有する」ことを「多官能」と称する。)であることが更に好ましい。
【0028】
このような重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル系モノマー、マレイミド系モノマー、あるいは、分子鎖に(メタ)アクリロイル基やマレイミド基を有する重合性のオリゴマー(プレポリマーともいう。)などが使用できる。
上記(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えばジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2′−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン、ヒドロキシジピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ビス(アクロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、N−メチレンビスアクリルアミドなどの2官能モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレートなどの3官能モノマー;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能モノマー;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの6官能モノマーが挙げられる。
【0029】
マレイミド系モノマーとしては、例えば、4,4′−メチレンビス(N−フェニルマレイミド)、2,3−ビス(2,4,5−トリメチル−3−チエニル)マレイミド、1,2−ビスマレイミドエタン、1,6−ビスマレイミドヘキサン、トリエチレングリコールビスマレイミド、N,N′−m−フェニレンジマレイミド、m−トリレンジマレイミド、N,N′−1,4−フェニレンジマレイミド、N,N′−ジフェニルメタンジマレイミド、N,N′−ジフェニルエーテルジマレイミド、N,N′−ジフェニルスルホンジマレイミド、1,4−ビス(マレイミドエチル)−1,4−ジアゾニアビシクロ−[2,2,2]オクタンジクロリド、4,4′−イソプロピリデンジフェニル=ジシアナート・N,N′−(メチレンジ−p−フェニレン)ジマレイミドなどの2官能マレイミド;N−(9−アクリジニル)マレイミドなどのマレイミド基とマレイミド基以外の重合性官能基とを有するマレイミドが挙げられる。これらマレイミド系モノマーは、ビニルモノマー、ビニルエーテル類、アクリル系モノマーなどの重合性炭素・炭素二重結合を有する化合物と共重合させることもできる。
【0030】
分子鎖に(メタ)アクリロイル基やマレイミド基を有する重合性のオリゴマーとしては、質量平均分子量が500〜50,000のものが挙げられ、例えば、エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテル樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリブタジエン樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、分子末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0031】
これら重合性化合物は、単独で、又は、2種類以上を混合して用いることもできる。また、粘度の調節、または、接着性や半硬化状態での粘着性の調節を行う目的で、単官能(メタ)アクリル系モノマーや、単官能マレイミド系モノマーなどの単官能モノマーと混合して使用してもよい。
【0032】
単官能(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、エチレンオキサイド変性フタル酸アクリレート、w−カルボキシカプロラクトンモノアクリレート、2−アクリロイルオキシプロピルハイドロジェンフタレート、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリル酸ダイマー、2−アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロジェンフタレート、フッ素置換アルキル(メタ)アクリレート、塩素置換アルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸ソーダエトキシ(メタ)アクリレート、スルホン酸−2−メチルプロパン−2−アクリルアミド、燐酸エステル基含有(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルクロライド、(メタ)アクリルアルデヒド、スルホン酸エステル基含有(メタ)アクリレート、シラノ基含有(メタ)アクリレート、((ジ)アルキル)アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級((ジ)アルキル)アンモニウム基含有(メタ)アクリレート、(N−アルキル)アクリルアミド、(N、N−ジアルキル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。
【0033】
単官能マレイミド系モノマーとしては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ドデシルマレイミドなどのN−アルキルマレイミド;N−シクロヘキシルマレイミドなどのN−脂環族マレイミド;N−ベンジルマレイミド;N−フェニルマレイミド、N−(アルキルフェニル)マレイミド、N−ジアルコキシフェニルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2−エチル−6−メチルフェニル)マレイミドなどのN−(置換又は非置換フェニル)マレイミド;N−ベンジル−2,3−ジクロロマレイミド、N−(4′−フルオロフェニル)−2,3−ジクロロマレイミドなどのハロゲンを有するマレイミド;ヒドロキシフェニルマレイミドなどの水酸基を有するマレイミド;N−(4−カルボキシ−3−ヒドロキシフェニル)マレイミドなどのカルボキシ基を有するマレイミド;N−メトキシフェニルマレイミドなどのアルコキシ基を有するマレイミド;N−[3−(ジエチルアミノ)プロピル]マレイミドなどのアミノ基を有するマレイミド;N−(1−ピレニル)マレイミドなどの多環芳香族マレイミド;N−(ジメチルアミノ−4−メチル−3−クマリニル)マレイミド、N−(4−アニリノ−1−ナフチル)マレイミドなどの複素環を有するマレイミドなどが挙げられる。
【0034】
溶剤(M)としては、活性エネルギー線重合性組成物(c)とは相溶するが、該活性エネルギー線重合性組成物(c)の重合物を溶解または膨潤させないものを使用する。溶剤(M)と活性エネルギー線重合性組成物(c)との相溶の程度は、均一な有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)が得られればよい。溶剤(M)は、単一溶剤であっても混合溶剤であってもよく、混合溶剤の場合には、その構成成分単独では活性エネルギー線重合性組成物(c)と相溶しないものや、活性エネルギー線重合性組成物(c)の重合体を溶解させるものであっても良い。このような溶剤(M)としては、例えば、デカン酸メチル、ラウリル酸メチル、アジピン酸ジイソブチルなどの脂肪酸のアルキルエステル類;ジイソブチルケトンなどのケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶剤;デカノールなどのアルコール類;2−プロパノールと水との混合物などのアルコールと水との混合物など、室温での蒸気圧が高い溶剤が挙げられる。
【0035】
工程1においては、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)に含まれる活性エネルギー線重合性組成物(c)の含有量によって、得られる有機多孔質ポリマー層の孔径や強度が変化する。活性エネルギー線重合性組成物(c)の含有量が多いほど有機多孔質ポリマー層の強度が向上するが、孔径は小さくなる傾向にある。活性エネルギー線重合性組成物(c)の好ましい含有量としては15〜50質量%の範囲、更に好ましくは25〜40質量%の範囲が挙げられる。活性エネルギー線重合性組成物(c)の含有量が15質量%以下になると、有機多孔質ポリマー層の強度が低くなり、活性エネルギー線重合性組成物(c)の含有量が50質量%以上になると、多孔質部の孔径の調整が難しくなる。
有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)には、重合速度や重合度、あるいは孔径分布などを調整するために、重合開始剤、重合禁止剤、重合遅延剤、溶剤、あるいは、可溶性高分子などの各種添加剤を添加してもよい。
【0036】
光重合開始剤としては、活性エネルギー線に対して活性であり、活性エネルギー線重合性組成物(c)を重合させることが可能なものであれば、特に制限はなく、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤などが使用でき、例えば、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2′−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類;ベンゾフェノン、4,4′−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンなどのケトン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインエーテル類; ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのベンジルケタール類;N−アジドスルフォニルフェニルマレイミドなどのアジドが挙げられる。また、マレイミド系化合物などの重合性光重合開始剤を使用することもできる。
重合遅延剤や重合禁止剤としては、α−メチルスチレン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンなどの活性エネルギー線重合性化合物としては重合速度の低いビニル系モノマー;tert−ブチルフェノールなどのヒンダントフェノール類などが挙げられる。
【0037】
添加する溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、塩化メチレンなどの塩素系溶剤が挙げられる。
可溶性高分子としては、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)として均一の組成物を与え、かつ、前記の溶剤(M)単独に可溶であれば、制限なく利用することができる。溶剤(M)に可溶であることにより、組成物(Z)の硬化後の洗浄操作により容易に硬化塗膜から除去できる。
【0038】
また、塗工性、平滑性、親水性などの機能付与の目的で、公知慣用の界面活性剤、疎水性化合物、増粘剤、改質剤、着色剤、蛍光色素、紫外線吸収剤、酵素、蛋白、細胞、触媒などを添加することもできる。
【0039】
この方法において使用できる支持体は、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)や使用する活性エネルギー線によって実質的に侵されず、例えば、溶解、分解、重合などが生じず、かつ、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)を実質的に侵さないものであればよい。そのような支持体としては、例えば、重合体、ガラス、石英などの結晶、セラミック、シリコンなどの半導体、金属などが挙げられるが、これらの中でも、透明性が高いこと、および、安価であることより、重合体、または、ガラスが好ましい。支持体に使用する重合体は、単独重合体であっても、共重合体であっても良く、熱可塑性重合体であっても、熱硬化性重合体であっても良い。また、支持体は、ポリマーブレンドやポリマーアロイで構成されていても良いし、積層体その他の複合体であっても良い。更に、支持体は、改質剤、着色剤、充填材、強化材などの添加物を含有しても良い。
【0040】
支持体の形状は特に限定されず、使用目的に応じて任意の形状のものを使用できる。例えば、シート状(フィルム状、リボン状、ベルト状を含む)、板状、ロール状、球状などの形状が挙げられるが、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)をその上に塗布し易く、また、活性エネルギー線を照射し易いという観点から、塗工面が平面状または2次曲面状の形状であることが好ましい。
【0041】
支持体はまた、重合体の場合もそれ以外の素材の場合も、表面処理されていて良い。表面処理は、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)による支持体の溶解防止を目的としたもの、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)の濡れ性向上及び有機多孔質ポリマー層の接着性向上を目的としたものなどが挙げられる。
【0042】
支持体の表面処理方法は任意であり、例えば、前記活性エネルギー線重合性組成物(c)を支持体の表面に塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させる処理、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、酸又はアルカリ処理、スルホン化処理、フッ素化処理、シランカップリング剤等によるプライマー処理、表面グラフト重合、界面活性剤や離型剤等の塗布、ラビングやサンドブラストなどの物理的処理などが挙げられる。また、有機多孔質ポリマー層の素材が有する反応性官能基や上記の表面処理方法によって導入された反応性官能基と反応して表面に固定される化合物を反応させる方法が挙げられる。この中で、支持体としてガラス、または、石英を用いた場合、例えば、トリメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレートやトリエトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート等のシランカップリング剤によって処理する方法は、これらのシランカップリング剤の有する重合基が有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)と共重合できることより、有機多孔質ポリマー層の支持体上への接着性を向上させる上で有用である。
【0043】
工程1に用いる有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)の支持体への塗布方法は公知慣用の方法であればいずれの方法でも良く、例えば、コーターや噴霧等による塗布方法が好ましく挙げられる。
【0044】
工程1の方法によると、直径約0.1μm〜1μmの粒子状の重合体が互いに凝集し、この粒子間の隙間が細孔となる凝集粒子構造の多孔質ポリマー層や、重合体が網目状に凝集した三次元網目構造の多孔質ポリマー層を形成することができる。
【0045】
工程2は、工程1により形成した有機多孔質ポリマー層の表面を、アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)に接触させる工程で、支持体上に形成された有機多孔質ポリマー層を溶液(d)中に浸せきするか、または、有機多孔質ポリマー層上に溶液(d)を塗布した後、洗浄を行う方法が用いられる。中でも、支持体上に形成された有機多孔質ポリマー層を溶液(d)中に浸せきする方法が、好ましく用いられる。
【0046】
アミノ基を2つ以上有する化合物としては、前記アミノ基を2つ以上有する化合物として例示した重合性化合物等を用いることができる。
【0047】
アミノ基を2つ以上有する化合物を溶解させる溶剤は、該化合物を溶解でき、且つ、該化合物、及び、前記有機多孔質ポリマー層に含まれる官能基と反応しない、水、有機溶剤、及び、それらの混合物を、特に限定なく用いることができる。該化合物を溶解させる有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールの如きアルコール系化合物;アセトン、2−ブタノンの如きケトン系化合物;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンの如きエーテル系化合物;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドの如き非プロトン性極性化合物;ヘキサン、デカン、ヘキサデカンの如き脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンの如き芳香族炭化水素;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタンの如きハロゲン化炭化水素などが挙げられるが、これらの溶剤に限定されるものではない。
【0048】
アミノ基を2つ以上有する化合物を溶解させる溶剤として、水、又は、水を含む混合溶剤を使用する場合は、高いpH及び低いpH条件ではガラスや金属酸化物を表面に有する基材では腐食が進行しやすくなる傾向にあるため、pHは3〜11の範囲が好ましく、4〜10の範囲が特に好ましい。
【0049】
アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)による処理温度には、特に制限がないが、0〜150℃の範囲が好ましく、15〜100℃の範囲が特に好ましい。処理時間も、特に制限はないが、一般に、処理温度が低いと長時間を要し、処理温度が高いと短時間で処理が終了するので、1分間〜24時間の範囲が好ましく、10分間〜8時間の範囲が特に好ましい。
【0050】
有機多孔質ポリマー層を溶液(d)から分離した後の洗浄操作は、未反応のアミノ基を2つ以上有する化合物を表面から除去するために有効である。洗浄に用いる溶剤としては、該化合物を溶解することができる上記の溶剤が挙げられる。また、基材の乾燥方法にも、特に制限がなく、10〜100℃の範囲で減圧条件にて行ってもよいし、また、空気、窒素、アルゴン等のガスブローにて行ってもよい。
【0051】
工程3では、アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)に接触させた有機多孔質ポリマー層上に、活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)を塗工することにより、有機多孔質ポリマー層内に組成物(Y)が含浸された形態で、多孔質ポリマー層内、および多孔質ポリマー層上に組成物(Y)の未硬化塗膜が形成される。その後、流路と成すべき部分以外の未硬化塗膜に活性エネルギー線を照射し、非照射部分の未硬化の組成物(Y)を除去することにより、底面が多孔質ポリマー層、壁面が組成物(Y)の硬化又は半硬化塗膜からなる凹部が得られる。一方、流路となる部分以外の多孔質ポリマー層は、含浸した組成物(Y)の硬化または半硬化物により細孔が閉塞される。
【0052】
活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)に含まれる重合性化合物は、重合開始剤の存在下、あるいは非存在下で活性エネルギー線により重合し得る化合物であり、付加重合性の化合物や、活性エネルギー線重合性官能基として重合性の炭素−炭素二重結合を有するものが好ましい。なかでも、反応性の高い(メタ)アクリル系化合物やビニルエーテル類や、光重合開始剤の不存在下でも硬化するマレイミド系化合物などが好ましい。また、該重合性化合物が多官能の化合物であると、重合して架橋構造となるため、硬化後の強度も高くなる。
【0053】
このような重合性化合物としては、例えば、前記した工程1において使用できる重合性化合物と同様の化合物を使用できる。該重合性化合物は単独で、あるいは二種以上を混合して使用することができ、また、粘度の調節や、あるいは接着性、粘着性などの機能を付与するために、単官能モノマーと混合して使用してもよい。混合できる単官能モノマーとしては、例えば前記した工程1において使用できる単官能モノマーと同様の化合物を使用できる。
【0054】
組成物(Y)には、必要に応じて、光重合開始剤、重合遅延剤、重合禁止剤、溶剤、増粘剤、改質剤、着色剤などを混合して使用することができる。組成物(Y)に添加できる光重合開始剤、重合遅延剤、および重合禁止剤としては、例えば、前記した工程1において有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)の光重合開始剤、重合遅延剤、および重合禁止剤と同様の化合物を好適に使用できる。
【0055】
溶剤としては、特に限定されないが、使用する重合性化合物や組成物(Y)に添加された添加剤、あるいは要求される粘度などによって溶剤の種類や添加量を適宜調整する必要があるが、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、塩化メチレンなどの塩素系溶剤などが挙げられる。
【0056】
組成物(Y)の粘度は、多孔質ポリマー層の孔径に応じて変わりうるものであるが、多孔質ポリマー層の上に塗工した際に、組成物(Y)が速く多孔質ポリマー層内へ浸透すること、および活性エネルギー線照射後に、非照射部分の未硬化の組成物(Y)を除去する際に、組成物(Y)が完全に多孔質ポリマー層から除去される観点から、組成物(Y)の粘度が25℃ において30〜3,000mPa・sの範囲であることが好ましく、100〜1,000mPa・sの範囲であることが更に好ましい。粘度が30mPa・s未満であると、凹部の深さ制御が困難になり、一方、粘度が3,000mPa・sより大きいと、組成物(Y)の多孔質ポリマー層内部への浸透が困難になり、また、非照射部分の未硬化の組成物(Y)の除去も困難になる。
【0057】
工程3において、多孔質ポリマー層上に組成物(Y)を塗工する方法としては任意の塗工方法を用いることができ、例えば、スピンコート法、ローラーコート法、流延法、ディッピング法、スプレー法、バーコーター法、X−Yアプリケータ法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、グラビア印刷法、ノズルからの押し出しや注型などの方法が挙げられる。また、組成物(Y)が高粘度である場合や特に薄く塗工する場合には、組成物(Y) に溶剤を含有させて塗工した後、該溶剤を揮発させる方法により塗工することもできる。
【0058】
組成物(Y)を塗工する厚さは、活性エネルギー線照射後に多孔質ポリマー層の上部に硬化又は半硬化塗膜が得られれば特に制限されないが、活性エネルギー線照射後に多孔質ポリマー層の上部に形成される硬化又は半硬化塗膜の厚さ、すなわち凹部の壁面高さが3〜150μmとなる範囲が好ましく、5μm〜50μmとなる範囲であれば更に好ましい。3μmより薄いと凹部に蓋となる他の部材を固着して該凹部を空洞状の流路とする際に、流路が閉塞するおそれがある。
【0059】
照射する活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線、レーザー光線、放射光などの光線;エックス線、ガンマ線、放射光などの電離放射線;電子線、イオンビーム、ベータ線、重粒子線などの粒子線が挙げられる。これらの中でも、取り扱い性や硬化速度の面から紫外線及び可視光が好ましく、紫外線が特に好ましい。硬化速度を速め、硬化を完全に行う目的で、活性エネルギー線の照射を低酸素濃度雰囲気で行うことが好ましい。低酸素濃度雰囲気としては、窒素気流中、二酸化炭素気流中、アルゴン気流中、真空又は減圧雰囲気中が好ましい。
【0060】
有機多孔質ポリマー層を底面全体または底面の一部に形成された凹部を形成するために、上記活性エネルギー線を照射する際に、活性エネルギー線をパターニング照射する。パターニング照射の方法は任意であり、例えば、活性エネルギー線を照射しない部分をマスキングして照射する、あるいはレーザーなどの活性エネルギー線のビームを走査するなどのフォトリソグラフィーの手法が利用できる。
【0061】
組成物(Y)の未硬化塗膜の硬化を半硬化とすることによって、接着剤を使用することなく蓋となる他の部材と固着することが可能であり、また、接着剤を使用する場合にも接着強度が向上する。組成物(Y)の硬化状態を半硬化とした場合には、最終的な遷移金属固定化リアクターと成す前のいずれかの工程において後硬化を行い、完全に硬化させることが好ましいが、本発明の遷移金属固定化リアクターの機能に差し障りがなければ必ずしも完全に硬化させる必要はない。後硬化は、活性エネルギー線による硬化の場合には、半硬化させるのに使用した活性エネルギー線と同じものであっても異なるものであっても良い。後硬化はまた、活性エネルギー線による硬化の他に、熱硬化により硬化してもよい。
【0062】
工程4は、工程3において形成された凹部を有する部材の凹部に蓋となる他の部材を固着して前記凹部を空洞状の流路と成す工程である。蓋となる部材としては、使用目的に応じて適宜選択し得るものであり、流路に流す流体に侵されないものを使用すればよく、該部材は粘着性を有するテープやシートまたは板状のものであっても良い。
【0063】
蓋となる部材で凹部に蓋をするには、蓋部材と凹部を有する部材を貼り合わせればよい。上記したように、凹部を有する部材が半硬化塗膜で、蓋部材との接着性が良好で有れば、そのまま貼り付ければよい。また、凹部を有する部材の接着性が低いか、あるいは硬化塗膜である場合には、接着剤などを使用して両部材を貼り合わせればよい。
【0064】
また、活性エネルギー線重合性化合物を含む組成物を高分子のフィルムやシートのような支持体に塗布し、活性エネルギー線を照射して、該組成物の塗膜を半硬化させて、上記凹部を有する部材の凹部に貼り合わせて、再び活性エネルギー線を照射して完全に硬化させる方法もある。ここで使用される活性エネルギー線重合性化合物及びその組成物は、上記工程1または工程3で使用される重合性化合物及び組成物と同じものが使用できる。また、重合性化合物の塗布方法も工程1または工程3と同様の方法が使用できる。
【0065】
蓋部材と凹部を有する部材を貼り合わせる際の接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂系接着剤、スチレンブタジエン樹脂系接着剤、(メタ)アクリル系接着剤などが使用できる。このようにして得られた空洞状の流路は、外部に連絡していてもよいし、連絡していなくてもよい。後者の場合、別途ドリルなどで孔を穿つことにより、該流路と外部を連絡させることができる。
【0066】
工程5は、工程4により形成した流路に、遷移金属化合物を含む溶液(e)を流通させ、その後、還元剤を含む溶液(f)を流通させることにより、該溶液を流路内の有機多孔質ポリマー層に接触させ、有機多孔質ポリマー層上に遷移金属粒子を固定化する工程である。
【0067】
遷移金属化合物としては、前記の本発明で使用できる遷移金属化合物として例示した化合物等を用いることができる。遷移金属化合物を溶解させる溶剤は、該化合物を溶解でき、且つ、該化合物、及び、前記流路壁面に存在する官能基と反応しない、水、有機溶剤、及び、それらの混合物を、特に限定なく用いることができる。該化合物を溶解させる有機溶剤としては、例えば、前記アミノ基を2つ以上有する化合物を溶解させる有機溶剤として例示したものを利用できる。
【0068】
遷移金属化合物を含む溶液(e)の流路への導入は、シリンジポンプ等を用い、圧力駆動により行うことが好ましい。溶液(e)を導入する際の流路内の温度は、特に制限はないが、0〜150℃の範囲が好ましく、15〜100℃の範囲が特に好ましい。溶液(e)の流速は、該溶液の流路内における滞留時間、すなわち処理時間に関係する。処理時間も、特に制限はないが、一般に、流路内温度が低いと長時間を要し、流路内温度が高いと短時間で処理が終了するので、処理時間は、1秒間〜24時間の範囲が好ましく、1分間〜8時間の範囲が特に好ましい。
【0069】
このような方法により、アミノ基を2つ以上有する化合物のアミノ基と遷移金属化合物中の遷移金属が配位結合することにより、有機多孔質ポリマー層上に遷移金属化合物を固定することができる。
【0070】
溶液(e)を導入した後の流路内の洗浄操作は、未反応の遷移金属化合物を有機多孔質ポリマー層から除去するために有効である。洗浄に用いる溶剤としては、該化合物を溶解することができる上記の溶剤が挙げられる。流路内への洗浄用溶剤の導入は、溶液(e)の導入方法と同様の方法で行うことができる。
【0071】
還元剤としては、前記の本発明で使用できる還元剤として例示した化合物等を用いることができる。還元剤を溶解させる溶剤は、該化合物を溶解でき、且つ、該化合物、及び、前記流路壁面に存在する官能基と反応しない、水、有機溶剤、及び、それらの混合物を、特に限定なく用いることができる。該化合物を溶解させる有機溶剤としては、例えば、前記アミノ基を2つ以上有する化合物を溶解させる有機溶剤として例示したものを利用できる。
【0072】
還元剤を含む溶液(f)の流路への導入、および、その後の洗浄操作は、遷移金属化合物を含む溶液(e)を用いた場合と同様の方法で行うことができる。
【0073】
次に、遷移金属固定化リアクターを製造する第2の方法について説明する。第2の方法では、まず、第1の方法と同様の方法により、工程1を行う。
【0074】
続いて、工程2’では、工程1により形成した有機多孔質ポリマー層上に、活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)を塗工することにより、有機多孔質ポリマー層内に組成物(Y)が含浸された形態で、多孔質ポリマー層内、および多孔質ポリマー層上に組成物(Y)の未硬化塗膜が形成される。その後、流路と成すべき部分以外の未硬化塗膜に活性エネルギー線を照射し、非照射部分の未硬化の組成物(Y)を除去することにより、底面が多孔質ポリマー層、壁面が組成物(Y)の硬化又は半硬化塗膜からなる凹部が得られる。一方、流路となる部分以外の多孔質ポリマー層は、含浸した組成物(Y)の硬化または半硬化物により細孔が閉塞される。工程2’で用いられる化合物、および、方法は、前記第1の方法の工程3で説明した化合物、および、方法と同様である。
【0075】
工程3’は、工程2’ において形成された凹部を有する部材の凹部に蓋となる他の部材を固着して前記凹部を空洞状の流路と成す工程である。工程3’で用いられる部材、および、方法は、前記第1の方法の工程4で説明した部材、および、方法と同様である。
工程4’は、工程3’により形成した流路に、アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)を流通させた後、遷移金属化合物を含む溶液(e)を流通させ、次いで、還元剤を含む溶液(f)を流通させることにより、該溶液を流路内の有機多孔質ポリマー層に接触させ、有機多孔質ポリマー層上に遷移金属粒子を固定化する工程である。
【0076】
アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)は、前記と同様である。該溶液を流路に導入する方法は、前記第1の方法の工程5において、遷移金属化合物を含む溶液(e)を流路に導入する方法として説明した方法と同様である。遷移金属化合物を含む溶液(e)、および、還元剤を含む溶液(f)は前記と同様であり、それらを流路に導入する方法は、第1の方法の工程5と同様に行うことができる。
【0077】
次に、遷移金属固定化リアクターを製造する第3の方法について説明する。第3の方法では、まず、第2の方法と同様の方法により、工程1、工程2’、および、工程3’を行う。続いて、アミノ基を2つ以上有する化合物、および、予め調製した遷移金属粒子を含む溶液(g)を流路に流通させる工程4’’を行う。
【0078】
アミノ基を2つ以上有する化合物と遷移金属粒子を含む溶液(g)は、例えば、アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液に、遷移金属化合物を加えることにより、該アミノ基を2つ以上有する化合物中のアミノ基を該遷移金属化合物中の遷移金属に配位結合させ、続いて、これに還元剤を加えることにより、遷移金属を還元し、遷移金属粒子を生成させることにより、調製することができる。
【0079】
ここで用いることのできる、アミノ基を2つ以上有する化合物、遷移金属化合物、および、還元剤は、前記と同様である。また、これらを溶解する際に用いる溶剤も、前記と同様である。該溶液を流路に導入する方法は、前記第1の方法の工程5において、遷移金属化合物を含む溶液(e)を流路に導入する方法として説明した方法と同様に行うことができる。
【0080】
上記の方法1、方法2、または、方法3において、流路内の有機多孔質ポリマー層に遷移金属粒子を固定した後、アミノ基と反応可能な官能基を複数個有する架橋剤化合物を含む溶液(h)を、前記流路に導入する工程を行うことは、有機多孔質ポリマー層の表面でアミノ基を架橋することにより、遷移金属粒子が有機多孔質ポリマー層から離散することを抑制することができ、使用安定性に優れた遷移金属固定化リアクターを製造する上で有効である。
【0081】
アミノ基と反応可能な官能基を複数個有する架橋剤化合物としては、例えば、1,6−ヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートの如きイソシアナト基を複数個有する化合物、ビスフェノールAプロポキシレートジグリシジルエーテルの如きエポキシ基を複数個有する化合物、テレフタル酸、アジピン酸の如きカルボキシ基を複数個有する化合物、及び、コハク酸クロリド、アジピン酸クロリドの如き酸塩化物等が挙げられる。また、アミノ基と反応しうる官能基を有する重合性化合物の重合体、例えば、メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートの如きイソシアナト基を有する(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートの如きエポキシ基を有する(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸の如きカルボキシ基を有する(メタ)アクリレート、及び、(メタ)アクリロイルクロライドの如き酸塩化物の重合体や、マレイン酸やマレイン酸モノアルキルエステルを含む重合体が挙げられる。これらのアミノ基と反応しうる官能基を有する化合物や重合体は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0082】
これらを溶解する際に用いる溶剤も、前記と同様である。該溶液を流路に導入する方法は、前記第1の方法の工程5において、遷移金属化合物を含む溶液(e)を流路に導入する方法として説明した方法と同様に行うことができる。
【0083】
以上、遷移金属固定化リアクターの製造に関して説明したが、本発明で用いることができる遷移金属固定化リアクターの製造方法は上記の例示に限定されるものではない。
【0084】
得られた遷移金属固定化リアクターは、部材同士が強固に接着している場合には、そのまま使用に供することができるし、接着力が弱い場合には、ねじ止め、クランプその他の方法にて固定して使用することも可能である。
【0085】
本発明の方法により、遷移金属粒子の固定量が多く、かつ、繰り返しの使用安定性に優れた遷移金属固定化リアクターを提供することができる。ここで言う遷移金属固定量の多いリアクターとは、有機多孔質ポリマー層1g当たりに固定化された遷移金属粒子の重量が20mg以上であることを指し、好ましくは、50mg以上であることを指す。また、ここで言う使用安定性に優れた遷移金属固定化リアクターとは、50℃、5時間での触媒反応流通試験において、触媒能力に変化なく、5回以上繰り返し使用可能であることを指し、好ましくは、同条件において、10回以上繰り返し使用可能であることを指す。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)
〔支持体の前処理〕
松浪硝子工業株式会社製ガラス製平板「S−1111」(26mm×76mm、厚さ1mm)を、東京化成工業株式会社製メタクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルエステル「M0725」の5mmol/Lのメタノール溶液に50℃にて3時間浸漬した後、メタノール中で超音波洗浄し、100℃の恒温槽で減圧下(0.01Pa以下)1時間加熱し、支持体[A−1]を調製した。
【0088】
〔有機多孔質ポリマー層の作製〕
共栄社化学株式会社製トリメチロールプロパントリメタクリレート「ライトエステルTMP」78mmol、昭和電工株式会社製2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート「カレンズMOI」22mmol、及び、光重合開始剤としてチバガイギー社製1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュア184」4.4mmolを均一に混合して組成物(X1)を調製した。また、アルドリッチ社製ポリ(酢酸ビニル)「387924」(重量平均分子量〜140,000)の10質量%ジエチレングリコールジメチルエーテル溶液(X2)を調製した。前記組成物(X1)および溶液(X2)を、体積比3:4になるように均一に混合して、組成物(X3)を調製した。
【0089】
前記の表面処理を施した支持体[A−1]上にスピンコーターを用いて組成物(X3)を塗工し、該塗膜に3000Wメタルハライドランプを光源とするアイグラフィックス株式会社製のUE031−353CHC型UV照射装置(以下、「ランプ1」と称する。)を用い、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を、室温、窒素気流下で40秒間照射して組成物(X3)を硬化させ、その後、トルエンを用いて洗浄することにより、支持体上に形成された、厚さ10μmの有機多孔質ポリマー層[A−2]を得た。
【0090】
〔アミノ基を2つ以上有する化合物による処理〕
支持体上に形成された有機多孔質ポリマー層[A−2]を、アルドリッチ社製ポリエチレンイミン「408727」(重量平均分子量〜25,000)の0.5質量%メタノール溶液に50℃にて1時間浸漬した後、メタノールで洗浄し、50℃の恒温槽で10分間乾燥することにより、アミノ基を2つ以上有する化合物により処理された有機多孔質ポリマー層[A−3]を調製した。
【0091】
〔有機多孔質ポリマー層上への凹部の形成〕
東亞合成株式会社製トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート「アロニックスM−315」16質量%、東亞合成株式会社製ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート「アロニックスM−215」63質量%、第一工業製薬株式会社製1,6−ヘキサンジオールジアクリレート「ニューフロンティアHDDA」18質量%、光重合開始剤として前記「イルガキュア184」1.5質量%、及び重合遅延剤として関東化学株式会社製2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン1.5質量%を均一に混合して組成物(X4)を調製した。
【0092】
支持体上に形成された有機多孔質ポリマー層[A−3]にスピンコーターを用いて組成物(X4)を塗工し、次いで、流路となる部分をフォトマスキングし、250W高圧水銀ランプを光源とするウシオ電機株式会社製のマルチライト250Wシリーズ露光装置用光源ユニット(以下、「ランプ2」と称する。)を用い、365nmにおける紫外線強度が50mW/cmの紫外線を185秒間照射した後、エタノールを用いて洗浄することにより未重合の組成物(X4)を除去し、有機多孔質ポリマー層の表面に形成された、幅1mm×深さ20μm×長さ340mmの流路となる溝を有する半硬化塗膜[A−4]を作製した。
【0093】
〔有機多孔質ポリマー層上への流路の形成〕
前記「アロニックスM−315」18質量%、前記「アロニックスM−215」72質量%、前記「ニューフロンティアHDDA」9.8質量%、及び、光重合開始剤として前記「イルガキュア184」0.2質量%を均一に混合して組成物(X5)を調製した。
表面がコロナ処理された厚さ30μmの二村化学株式会社製二軸延伸ポリプロピレン・シート(以下、OPPシートと称する)を転写用支持体として使用し、これをガラス板に貼り付けた基材に、バーコーターを用いて組成物(X5)を塗工し、該塗膜にランプ1を用い、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を、室温、窒素気流下で5秒間照射して組成物(X5)を半硬化させた。これを、前記の流路となる溝を有する組成物(X4)の半硬化塗膜[A−4]に積層し、ランプ1を用い、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を、室温、窒素気流下で10秒間照射して接着し、外部への開口部を有する管状の微細流路[A−5]を作製した。
【0094】
〔遷移金属固定化リアクターの作製〕
得られた微細流路[A−5]に内径1mmのテフロン(登録商標)製チューブを接続し、Kdサイエンティフィク社製シリンジポンプKDS−200を用い、塩化パラジウムカリウム(KPdCl)の0.1mol/L水溶液を毎分10μlの流速にて、室温で15分間流通させ、その後、純水を毎分20μlの流速にて、室温で5分間流通させ洗浄した。次いで、水素化ホウ素ナトリウムの1mol/L水溶液を毎分20μlの流速にて、室温で5分間流通させ、その後、純水を毎分20μlの流速にて、室温で5分間流通させ洗浄した。さらに、イソホロンジイソシアネートの1mol/Lトルエン溶液を毎分10μlの流速にて、室温で15分間流通させ、その後、トルエンを毎分20μlの流速にて、室温で5分間流通させ洗浄した。以上の操作により、遷移金属固定化リアクター[R−1]を作製した。
【0095】
〔遷移金属固定化リアクター中の遷移金属固定量の測定〕
作製した遷移金属固定化リアクター[R−1]に内径1mmのテフロン(登録商標)製チューブを接続し、前記シリンジポンプKDS−200を用い、20質量%硝酸を毎分5μlの流速にて、室温で36時間流通させた。得られた溶液に対しICP発光分析を行った結果、[R−1]の流路内に固定化されたパラジウム量は、有機多孔質ポリマー層1g当たり97mgであった。
【0096】
〔遷移金属固定化リアクターを用いた触媒反応試験〕
ヨードベンゼン1.5mmol、フェニルアセチレン2.3mmol、ピロリジン12mmol、ヨウ化銅(I)0.03mmol、及び、N,N−ジメチルアセトアミド5mLを均一に混合して反応溶液(Y1)を調製した。前記の遷移金属固定化リアクター[R−1]に内径1mmのテフロン(登録商標)製チューブを接続し、前記シリンジポンプKDS−200を用い、反応溶液(Y1)を毎分0.2μlの流速にて、55℃で40分間流通させた。ガスクロマトグラフィによる分析の結果、98%以上の反応率でジフェニルアセチレンが生成したことが確認された。該遷移金属固定化リアクター[R−1]に反応溶液(Y1)を5時間の連続流通した場合も、反応率が低下することなく、反応が進行することが確認された。さらに、同様の触媒反応試験を10回繰り返し行った場合も、反応率が低下することなく、生成物が得られることが確認された。
【0097】
(実施例2)
〔支持体の前処理〕
実施例1と同様にして、支持体[A−1]を調製した。
〔有機多孔質ポリマー層の作製〕
実施例1と同様にして、支持体上に形成された、厚さ10μmの有機多孔質ポリマー層[A−2]を得た。
【0098】
〔有機多孔質ポリマー層上への凹部の形成〕
支持体上に形成された有機多孔質ポリマー層[A−2]に対し、実施例1と同様にして、有機多孔質ポリマー層の表面に形成された、幅1mm×深さ20μm×長さ340mmの流路となる溝を有する組成物(X4)の半硬化塗膜[B−1]を作製した。
【0099】
〔有機多孔質ポリマー層上への流路の形成〕
実施例1と同様にして、OPPシートをガラス板に貼り付けた基材上に組成物(X5)の塗膜を半硬化させた。これを、前記の半硬化塗膜[B−1]に積層し、実施例1と同様にして、外部への開口部を有する管状の微細流路[B−2]を作製した。
【0100】
〔遷移金属固定化リアクターの作製〕
得られた微細流路[B−2]に内径1mmのテフロン(登録商標)製チューブを接続し、前記シリンジポンプKDS−200を用い、アルドリッチ社製の第4世代アミノ基含有エチレンジアミンコアデンドリマー「412449」の0.5質量%メタノール溶液を毎分10μlの流速にて、室温で15分間流通させ、その後、メタノールを毎分20μlの流速にて、室温で5分間流通させ洗浄した。次いで、塩化パラジウムカリウム(KPdCl)の0.1mol/L水溶液を毎分10μlの流速にて、室温で15分間流通させ、その後、純水を毎分20μlの流速にて、室温で5分間流通させ洗浄した。次いで、水素化ホウ素ナトリウムの1mol/L水溶液を毎分20μlの流速にて、室温で5分間流通させ、その後、純水を毎分20μlの流速にて、室温で5分間流通させ洗浄した。さらに、イソホロンジイソシアネートの1mol/Lトルエン溶液を毎分10μlの流速にて、室温で15分間流通させ、その後、トルエンを毎分20μlの流速にて、室温で5分間流通させ洗浄した。以上の操作により、遷移金属固定化リアクター[R−2]を作製した。
【0101】
〔遷移金属固定化リアクター中の遷移金属固定量の測定〕
実施例1と同様にして分析を行った結果、遷移金属固定化リアクター[R−2]の流路内に固定化されたパラジウム量は、有機多孔質ポリマー層1g当たり76mgであった。
【0102】
〔遷移金属固定化リアクターを用いた触媒反応試験〕
実施例1と同様にして、遷移金属固定化リアクター[R−2]に反応溶液(Y1)を毎分0.2μlの流速にて、55℃で40分間流通させた。ガスクロマトグラフィによる分析の結果、98%以上の反応率でジフェニルアセチレンが生成したことが確認された。該遷移金属固定化リアクター[R−2]に反応溶液(Y1)を5時間の連続流通した場合も、反応率が低下することなく、反応が進行することが確認された。さらに、同様の触媒反応試験を10回繰り返し行った場合も、反応率が低下することなく、生成物が得られることが確認された。
【0103】
(実施例3)
〔支持体の前処理〕
実施例1と同様にして、支持体[A−1]を調製した。
〔有機多孔質ポリマー層の作製〕
実施例1と同様にして、支持体上に形成された、厚さ10μmの有機多孔質ポリマー層[A−2]を得た。
〔有機多孔質ポリマー層上への凹部の形成〕
実施例2と同様にして、有機多孔質ポリマー層の表面に形成された、幅1mm×深さ20μm×長さ340mmの流路となる溝を有する組成物(X4)の半硬化塗膜[B−1]を作製した。
〔有機多孔質ポリマー層上への流路の形成〕
実施例2と同様にして、外部への開口部を有する管状の微細流路[B−2]を作製した。
【0104】
〔遷移金属固定化リアクターの作製〕
第4世代アミノ基含有エチレンジアミンコアデンドリマー「412449」の0.5質量%メタノール溶液10mLに、塩化パラジウムカリウム(KPdCl)の0.1mol/L水溶液を5mL添加し、室温にて、30分間撹拌した。次いで、水素化ホウ素ナトリウムの1mol/L水溶液を2mL添加し、室温にて、30分間撹拌することにより、溶液(Z1)を調製した。
【0105】
前記の微細流路[B−2]に内径1mmのテフロン(登録商標)製チューブを接続し、前記シリンジポンプKDS−200を用い、溶液(Z1)を毎分10μlの流速にて、室温で15分間流通させ、その後、メタノールを毎分20μlの流速にて、室温で5分間、次いで、純水を毎分20μlの流速にて、室温で5分間流通させ洗浄した。以上の操作により、遷移金属固定化リアクター[R−3]を作製した。
【0106】
〔遷移金属固定化リアクター中の遷移金属固定量の測定〕
実施例1と同様にして分析を行った結果、遷移金属固定化リアクター[R−3]の流路内に固定化されたパラジウム量は、有機多孔質ポリマー層1g当たり79mgであった。
【0107】
〔遷移金属固定化リアクターを用いた触媒反応試験〕
実施例1と同様にして、遷移金属固定化リアクター[R−3]に反応溶液(Y1)を毎分0.2μlの流速にて、55℃で40分間流通させた。ガスクロマトグラフィによる分析の結果、98%以上の反応率でジフェニルアセチレンが生成したことが確認された。該遷移金属固定化リアクター[R−3]に反応溶液(Y1)を5時間の連続流通した場合も、反応率が低下することなく、反応が進行することが確認された。さらに、同様の触媒反応試験を10回繰り返し行った場合も、反応率が低下することなく、生成物が得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の流路を有し、且つ該流路を形成する壁面の少なくとも一部が、表面に遷移粒子が固定された有機多孔質ポリマー層で形成されているリアクターであって、
前記有機多孔質ポリマー層が、アミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物の重合体を含む多孔質ポリマー層の表面に、アミノ基を2つ以上有する化合物を反応させた後、遷移金属化合物を前記アミノ基を2つ以上有する化合物のアミノ基に結合させ、更に、前記遷移金属化合物の遷移金属を還元させることにより遷移金属粒子を固定した層である
ことを特徴とする遷移金属固定化リアクター。
【請求項2】
前記有機多孔質ポリマー層の厚さが、3〜50μmの範囲にある請求項1に記載の遷移金属固定化リアクター。
【請求項3】
前記遷移金属粒子の平均粒径が0.5〜10nmの範囲にある請求項1又は2記載の遷移金属固定化リアクター。
【請求項4】
前記遷移金属がパラジウム、白金、ルテニウム及びロジウムから選択される1種以上である請求項1、2又は3のいずれかに記載の遷移金属固定化リアクター。
【請求項5】
前記アミノ基と反応しうる官能基が、イソシアナト基またはグリシジル基である請求項1、2、3又は4のいずれかに記載の遷移金属固定化リアクター。
【請求項6】
前記アミノ基を2つ以上有する化合物が、分岐状ポリエチレンイミン、直鎖状ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン又はアミノ基含有デンドリマーである請求項1、2、3、4又は5のいずれかに記載の遷移金属固定化リアクター。
【請求項7】
前記ポリエチレンイミンの重量平均分子量が、10,000〜500,000の範囲にある請求項6に記載の遷移金属固定化リアクター。
【請求項8】
(1)支持体の表面に、アミノ基と反応しうる官能基を有する活性エネルギー線重合性化合物を含む活性エネルギー線重合性組成物(c)と、該活性エネルギー線重合性組成物(c)とは相溶するが、該活性エネルギー線重合性組成物(c)の重合物を溶解または膨潤させない溶剤(M)とを混合した有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)を塗布して塗膜を形成し、該塗膜に活性エネルギー線を照射することによって、該活性エネルギー線重合性組成物(c)を重合させ、その後、溶剤(M)を除去することによって有機多孔質ポリマー層を形成する工程1、
(2)該有機多孔質ポリマー層の表面を、アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)に接触させる工程2、
(3)該アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)に接触させた該有機多孔質ポリマー層の上に活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)を塗工し、該組成物(Y)の未硬化塗膜を形成し、流路となすべき部分以外の前記未硬化塗膜に活性エネルギー線を照射して前記組成物(Y)の硬化または半硬化塗膜を形成し、非照射部分の未硬化の前記組成物(Y)を除去して、該有機多孔質ポリマー層が底面に露出した凹部を形成する工程3、
(4)前記凹部を有する部材の凹部に蓋となる他の部材を固着して前記凹部を空洞状の流路となす工程4、及び、
(5)前記工程によって形成した流路に、遷移金属化合物を含む溶液(e)を流通させ、その後、還元剤を含む溶液(f)を流通させる工程5を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の遷移金属固定化リアクターの製造方法。
【請求項9】
前記工程1で形成された前記有機多孔質ポリマー層の上に前記活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)を塗工し、該組成物(Y)の未硬化塗膜を形成し、流路となすべき部分以外の前記未硬化塗膜に活性エネルギー線を照射して前記組成物(Y)の硬化または半硬化塗膜を形成し、非照射部分の未硬化の前記組成物(Y)を除去して、有機多孔質ポリマー層が底面に露出した凹部を形成する工程2、
前記凹部を有する部材の凹部に蓋となる他の部材を固着して前記凹部を空洞状の流路となす工程3、及び、
前記工程によって形成した流路に、アミノ基を2つ以上有する化合物を含む溶液(d)を流通させた後、遷移金属化合物を含む溶液(e)を流通させ、次いで、還元剤を含む溶液(f)を流通させる工程4を有する
請求項8記載の遷移金属固定化リアクターの製造方法。
【請求項10】
前記工程1〜3によって形成した流路に、アミノ基を2つ以上有する化合物と遷移金属粒子を含む溶液(g)を流通させる工程4を有する請求項9記載の遷移金属固定化リアクターの製造方法。
【請求項11】
アミノ基と反応可能な官能基を複数個有する架橋剤化合物を含む溶液(h)を、前記流路に流通させる工程を有する請求項8、9又は10のいずれかに記載の遷移金属固定化リアクターの製造方法。
【請求項12】
前記遷移金属がパラジウム、白金、ルテニウム及びロジウムから選択される1種以上である請求項8、9、10又は11のいずれかに記載の遷移金属固定化リアクターの製造方法。

【公開番号】特開2008−212764(P2008−212764A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49425(P2007−49425)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】