説明

遷移金属固定化リアクター、及びその製造方法

【課題】触媒固定量が多く、かつ、繰り返しの使用安定性に優れた遷移金属固定化リアクター、及び、長時間反応や高温反応を行うことなく、簡便な操作により調製できる遷移金属固定化リアクターの製造方法を提供する。
【解決手段】管状の流路を有し、且つ該流路を形成する壁面の少なくとも一部が、表面に遷移金属化合物が固定された有機多孔質ポリマー層で形成されているリアクターであって、前記有機多孔質ポリマー層が、式1
(CH=CHCPRML (1)
または式2
[CH=CHCPR−(CH)−PRCH=CH]ML (2)
で表される化合物の重合体を含む多孔質ポリマー層である遷移金属固定化リアクター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の試料により所定の化学反応を行わせるための微細流路を有するリアクター、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウム、白金、または、ロジウムを含む触媒による化学反応は、炭素−炭素カップリング反応に代表されるように、今日の有機合成において最も重要な触媒反応であると認識されている。これらの遷移金属触媒を用いた反応系では、通常は遷移金属触媒が反応溶液中に溶解した均一系触媒として使用される。しかしながら、一般にこれらの遷移金属触媒は高価であるため、繰り返しての使用が求められる。均一系触媒では、反応溶液中に触媒が溶解しているため、反応後触媒を溶液から分離、回収することが容易ではない。したがって、遷移金属触媒を不溶性固体に固定化した状態で使用する不均一系触媒を用いることが検討されている。
【0003】
不溶性固体に固定化した遷移金属触媒の一形態に、微細管状流路を有するリアクターがある。このようなリアクターは、数cm大の基板プレート上に、長さが数cm程度で、幅と深さが数十nmから数百μmの微細管状流路を有する。このようなリアクターの微細流路に反応溶液を導入した場合、微細流路の大きな比表面積や短い分子間距離の効果による分子の速やかな拡散により、特別な撹はん操作を行なわなくても効率のよい化学反応を行なうことができる。また、拡散時間は微細流路の幅の2乗に比例するので、微細流路の幅を小さくするほど拡散による混合が効率的に進行し、反応が起こりやすくなることが知られている。このような微細管状流路を有するリアクターは、マイクロチューブを用いた流通式リアクターに比べ、流路の幅を小さくすることができるため、反応が速くなるという利点を有する。
【0004】
非特許文献1には、ガラス製プレート中の微細流路の壁面に高分子化パラジウム触媒を固定化し、水素添加反応に応用した例が報告されている。しかしながら、この方法は触媒の固定化操作が煩雑であり、また、比表面積の小さな平滑ガラス表面への触媒の固定化であるため、触媒の固定量は必ずしも多くない。
【0005】
非特許文献2には、ガラス製プレート中の微細流路内の有機層/水層層流界面において、界面反応によりパラジウム触媒を含む高分子錯体膜を形成し、炭素−炭素カップリング反応に応用した例が報告されている。しかしながら、この方法で形成される高分子錯体膜は、その2辺で壁面に固定された形で微細流路の中央付近に形成され、その使用安定性が懸念されるが、安定性に関する記述はない。
【0006】
一方、本発明者等は、特許文献1および特許文献2において、有機ポリマーからなる微細流路の底面に非表面積の大きな多孔質性ポリマー層を導入する方法を開示している。また、特許文献3および特許文献4において、有機ポリマーからなる微細流路の表面に官能基を導入する方法を開示している。
【0007】
【特許文献1】特開2000-2705号公報
【特許文献2】特開2004-271430号公報
【特許文献3】特開2003-136640号公報
【特許文献4】特開2005-91135号公報
【非特許文献1】J. Kobayashi et al., Science, 2004, 304, 1305-1308.
【非特許文献2】Y. Uozumi et al. J. Am. Chem. Soc., 2006, 128, 15994-15995.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、触媒固定量が多く、かつ、繰り返しの使用安定性に優れた遷移金属固定化リアクター、及び、長時間反応や高温反応を行うことなく、簡便な操作により調製できる遷移金属固定化リアクターの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意検討した結果、管状の微細流路を有し、且つ該流路を形成する壁面の少なくとも一部が、表面に遷移金属化合物が固定された有機多孔質ポリマー層で形成されているリアクターを用いることにより、触媒固定量が多く、かつ、繰り返しの使用安定性に優れた遷移金属固定化リアクターを簡便に製造可能であることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、管状の流路を有し、且つ該流路を形成する壁面の少なくとも一部が、表面に遷移金属化合物が固定された有機多孔質ポリマー層で形成されているリアクターであって、
前記有機多孔質ポリマー層が、式1
【0011】
【化1】

(式中、Mはパラジウム、白金またはロジウム原子、R及びRは置換基を有していてもよいアリール基または炭素数1〜18のアルキル基、L及びLは配位子基を表す。)
または式2
【0012】
【化2】

(式中、Mはパラジウム、白金またはロジウム原子、nは1〜12の整数、Rは置換基を有していてもよいアリール基または炭素数1〜18のアルキル基、L及びLは配位子基を表す。)で表される化合物の重合体を含む多孔質ポリマー層であることを特徴とする遷移金属固定化リアクターを提供するものである。
【0013】
また、本発明は、上記の遷移金属固定化リアクターの製造方法であって、
(1)支持体の表面に、式1または式2で表される化合物を含有する活性エネルギー線重合性組成物(a)と、該活性エネルギー線重合性組成物(a)とは相溶するが、該活性エネルギー線重合性組成物(a)の重合物を溶解または膨潤させない溶剤(M)とを混合した有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)を塗布して塗膜を形成し、
該塗膜に活性エネルギー線を照射することによって、該活性エネルギー線重合性組成物(a)を重合させ、その後、該溶剤(M)を除去することによって有機多孔質ポリマー層を形成する工程1、
(2)該有機多孔質ポリマー層の上に活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)を塗工し、該組成物(Y)の未硬化塗膜を形成し、流路となすべき部分以外の前記未硬化塗膜に活性エネルギー線を照射して前記組成物(Y)の硬化または半硬化塗膜を形成し、非照射部分の未硬化の前記組成物(Y)を除去して、該有機多孔質ポリマー層が底面に露出した凹部を形成する工程2、及び、
(3)前記凹部を有する部材の凹部に蓋となる他の部材を固着して前記凹部を空洞状の流路となす工程3
を有することを特徴とする遷移金属固定化リアクターの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、管状微細流路の一部を構成する、比表面積の大きな有機多孔質ポリマー層の表面を利用して遷移金属化合物を固定化するため、遷移金属化合物の固定量を高くでき、また、使用安定性にも優れた遷移金属固定化リアクターを提供できる。また、重合性の遷移金属化合物を用い、有機多孔質ポリマー層の生成と同時に遷移金属化合物の固定化を行うため、簡便な操作により遷移金属固定化リアクターを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための要部について説明する。
[遷移金属固定化リアクターの形状と構造]
本発明の遷移金属固定化リアクターは、その内部に微細な管状流路を有し、該流路内にて、反応、化学工学的処理、検出などを行うものである。その外形は特に限定する必要はない。例えば、シート状(フィルム状、リボン状などを含む。以下同じ)、板状、塗膜状、棒状、チューブ状、その他複雑な形状の成型物などであり得るが、製造の容易さや使用の容易さから、シート状または板状であることが好ましい。
遷移金属固定化リアクターの内部に設けられた流路の断面形状は任意であり、例えば、矩形、台形、円、半円形、スリット状など(矩形その他の角のある形状は、角が丸められた形状を含む。以下同じ)であり得る。
【0016】
該流路の寸法も任意であるが、深さ(リアクターの、流路に最も近い表面に直角な方向の、流路の内寸を深さとする)は、例えば、1〜300μm、好ましくは2〜150μm、更に好ましくは5〜100μmである。この範囲の時、微細流路としてのメリットと本発明の効果を十分に発揮できる。流路の幅は任意であり、例えば1μm〜リアクター全体の幅であっても良い。
【0017】
本発明の遷移金属固定化リアクターは、流路の底部となる底部材と、該流路の側壁部を形成する部材である壁部材と、該流路の蓋部となり流路の天井を形成する蓋部材とを備え、これらから形成される流路壁面の少なくとも一部が、表面に遷移金属化合物が固定された有機多孔質ポリマー層で形成されている。該有機多孔質ポリマー層は、式1または式2
【0018】
【化1】

(式中、Mはパラジウム、白金またはロジウム原子、R及びRは置換基を有していてもよいアリール基または炭素数1〜18のアルキル基、L及びLは配位子基を表す。)
【0019】
【化2】

(式中、Mはパラジウム、白金またはロジウム原子、nは1〜12の整数、Rは置換基を有していてもよいアリール基または炭素数1〜18のアルキル基、L及びLは配位子基を表す。)で表される化合物を含有する活性エネルギー線重合性組成物の硬化層である。
【0020】
有機多孔質ポリマー層の多孔質の形状は、凝集粒子状又は網目状であり、その平均孔径が0.1〜10μmの範囲にあるものが望ましい。有機多孔質ポリマー層の厚さは、1〜100μmの範囲が好ましく、3〜50μmの範囲が特に好ましい。有機多孔質ポリマー層の厚さが1μmよりも薄い場合、リアクターとしての性能が低下する傾向にあるので好ましくない。なお、有機多孔質ポリマー層の厚さは、走査型電子顕微鏡を用いて、その断面の顕微鏡観察により測定することができる。
【0021】
式1または式2で表される遷移金属化合物のR、R、およびRは、置換基を有していてもよいアリール基として、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基が利用できる。これらが有する置換基としては、炭素数1〜12の直鎖状アルキル基;sec−プロピル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基などの分岐状アルキル基;エテニル基、プロペニル基などの不飽和アルキル基;メトキシ基、tert−ブトキシ基などのアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基などのアルキルチオ基;フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。アリール基上の置換基の位置、および、個数は、特に制限はない。また、R、R、およびRとして、メチル基、エチル基、sec−プロピル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基、オクタデシル基などの、炭素数1〜18のアルキル基を挙げることができる。
【0022】
式1および式2のL、L、L及びLは、任意の配位子基である。配位子基としては、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;フェノキシ基、ナフトキシ基、アントリルオキシ基などのアリールオキシ基;ジエチルアミン、エチレンジアミンなどのアミン類;トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどのホスフィン類や、その他、アセチルアセトン誘導体、リン酸類、炭酸類、カルボニル配位子などが挙げられる。また、1,2−ビフェノキシ基、1,1’−ビ−2,2’−ナフトキシ基、1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、シクロオクタジエン、ノルボルナジエンなどのキレート配位子を利用することもできる。本発明の遷移金属固定化リアクターを用いた触媒反応において、これらの配位子は、反応基質と置換されることにより、反応サイトを提供することができる。
【0023】
[遷移金属固定化リアクターの製造方法]
本発明の遷移金属固定化リアクターの製造方法は、(1)支持体の表面に、上記式1または式2で表される化合物を含有する活性エネルギー線重合性組成物(a)と、該活性エネルギー線重合性組成物(a)とは相溶するが、該活性エネルギー線重合性組成物(a)の重合物を溶解または膨潤させない溶剤(M)とを混合した有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)を塗布して塗膜を形成し、該塗膜に活性エネルギー線を照射することによって、該活性エネルギー線重合性組成物(a)を重合させ、その後、該溶剤(M)を除去することによって有機多孔質ポリマー層を形成する工程1、(2)該有機多孔質ポリマー層の上に活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)を塗工し、該組成物(Y)の未硬化塗膜を形成し、流路となすべき部分以外の前記未硬化塗膜に活性エネルギー線を照射して前記組成物(Y)の硬化または半硬化塗膜を形成し、非照射部分の未硬化の前記組成物(Y)を除去して、該有機多孔質ポリマー層が底面に露出した凹部を形成する工程2、及び、(3)前記凹部を有する部材の凹部に蓋となる他の部材を固着して前記凹部を空洞状の流路となす工程3を有する方法である。
【0024】
工程1では、活性エネルギー線重合性組成物(a)の重合により生成した重合体が、溶剤(M)と相溶しなくなり、重合体と溶剤(M)とが相分離を生じ、重合体内部や重合体間に溶剤(M)が取り込まれた状態になる。この溶剤(M)を除去することにより、溶剤(M)が占めていた領域が孔となり有機多孔質ポリマー層を形成できる。
【0025】
活性エネルギー線重合性組成物(a)は、上記式1または式2で表される重合性化合物と、該重合性化合物と共重合体を形成しうる他の重合性化合物を含有する。式1または式2で表される重合性化合物としては、前記例示した重合性化合物等を用いることができる。
【0026】
上記式1または式2で表される重合性化合物と共重合体を形成しうる他の重合性化合物としては、重合開始剤の存在下または非存在下で活性エネルギー線により重合するものであり、付加重合性の化合物や、活性エネルギー線重合性官能基として重合性の炭素−炭素二重結合を有するものが好ましく、なかでも、反応性の高い(メタ)アクリル系化合物やビニルエーテル類、また光重合開始剤の不存在下でも硬化するマレイミド系化合物が好ましい。さらに、半硬化の状態で形状保持性を高くでき、硬化後の強度も高くできることから、重合して架橋重合体を形成する化合物であることが好ましい。そのために、1分子中に2つ以上の重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下、「1分子中に2つ以上の付加重合性の官能基を有する」ことを「多官能」と称する。)であることが更に好ましい。
【0027】
このような重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル系モノマー、マレイミド系モノマー、あるいは、分子鎖に(メタ)アクリロイル基やマレイミド基を有する重合性のオリゴマー(プレポリマーともいう。)などが使用できる。上記(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えばジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2′−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン、ヒドロキシジピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ビス(アクロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、N−メチレンビスアクリルアミドなどの2官能モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレートなどの3官能モノマー;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能モノマー;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの6官能モノマーが挙げられる。
【0028】
マレイミド系モノマーとしては、例えば、4,4′−メチレンビス(N−フェニルマレイミド)、2,3−ビス(2,4,5−トリメチル−3−チエニル)マレイミド、1,2−ビスマレイミドエタン、1,6−ビスマレイミドヘキサン、トリエチレングリコールビスマレイミド、N,N′−m−フェニレンジマレイミド、m−トリレンジマレイミド、N,N′−1,4−フェニレンジマレイミド、N,N′−ジフェニルメタンジマレイミド、N,N′−ジフェニルエーテルジマレイミド、N,N′−ジフェニルスルホンジマレイミド、1,4−ビス(マレイミドエチル)−1,4−ジアゾニアビシクロ−[2,2,2]オクタンジクロリド、4,4′−イソプロピリデンジフェニル=ジシアナート・N,N′−(メチレンジ−p−フェニレン)ジマレイミドなどの2官能マレイミド;N−(9−アクリジニル)マレイミドなどのマレイミド基とマレイミド基以外の重合性官能基とを有するマレイミドが挙げられる。これらマレイミド系モノマーは、ビニルモノマー、ビニルエーテル類、アクリル系モノマーなどの重合性炭素・炭素二重結合を有する化合物と共重合させることもできる。
【0029】
分子鎖に(メタ)アクリロイル基やマレイミド基を有する重合性のオリゴマーとしては、質量平均分子量が500〜50,000のものが挙げられ、例えば、エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテル樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリブタジエン樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、分子末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0030】
これら重合性化合物は、単独で、又は、2種類以上を混合して用いることもできる。また、粘度の調節、または、接着性や半硬化状態での粘着性の調節を行う目的で、単官能(メタ)アクリル系モノマーや、単官能マレイミド系モノマーなどの単官能モノマーと混合して使用してもよい。
【0031】
単官能(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、エチレンオキサイド変性フタル酸アクリレート、w−カルボキシカプロラクトンモノアクリレート、2−アクリロイルオキシプロピルハイドロジェンフタレート、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリル酸ダイマー、2−アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロジェンフタレート、フッ素置換アルキル(メタ)アクリレート、塩素置換アルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸ソーダエトキシ(メタ)アクリレート、スルホン酸−2−メチルプロパン−2−アクリルアミド、燐酸エステル基含有(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルクロライド、(メタ)アクリルアルデヒド、スルホン酸エステル基含有(メタ)アクリレート、シラノ基含有(メタ)アクリレート、((ジ)アルキル)アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級((ジ)アルキル)アンモニウム基含有(メタ)アクリレート、(N−アルキル)アクリルアミド、(N、N−ジアルキル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。
【0032】
単官能マレイミド系モノマーとしては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ドデシルマレイミドなどのN−アルキルマレイミド;N−シクロヘキシルマレイミドなどのN−脂環族マレイミド;N−ベンジルマレイミド;N−フェニルマレイミド、N−(アルキルフェニル)マレイミド、N−ジアルコキシフェニルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2−エチル−6−メチルフェニル)マレイミドなどのN−(置換又は非置換フェニル)マレイミド;N−ベンジル−2,3−ジクロロマレイミド、N−(4′−フルオロフェニル)−2,3−ジクロロマレイミドなどのハロゲンを有するマレイミド;ヒドロキシフェニルマレイミドなどの水酸基を有するマレイミド;N−(4−カルボキシ−3−ヒドロキシフェニル)マレイミドなどのカルボキシ基を有するマレイミド;N−メトキシフェニルマレイミドなどのアルコキシ基を有するマレイミド;N−[3−(ジエチルアミノ)プロピル]マレイミドなどのアミノ基を有するマレイミド;N−(1−ピレニル)マレイミドなどの多環芳香族マレイミド;N−(ジメチルアミノ−4−メチル−3−クマリニル)マレイミド、N−(4−アニリノ−1−ナフチル)マレイミドなどの複素環を有するマレイミドなどが挙げられる。
【0033】
溶剤(M)としては、活性エネルギー線重合性組成物(a)とは相溶するが、該活性エネルギー線重合性組成物(a)の重合物を溶解または膨潤させないものを使用する。溶剤(M)と活性エネルギー線重合性組成物(a)との相溶の程度は、均一な有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)が得られればよい。溶剤(M)は、単一溶剤であっても混合溶剤であってもよく、混合溶剤の場合には、その構成成分単独では活性エネルギー線重合性組成物(a)と相溶しないものや、活性エネルギー線重合性組成物(a)の重合体を溶解させるものであっても良い。このような溶剤(M)としては、例えば、デカン酸メチル、ラウリル酸メチル、アジピン酸ジイソブチルなどの脂肪酸のアルキルエステル類;ジイソブチルケトンなどのケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶剤;デカノールなどのアルコール類;2−プロパノールと水との混合物などのアルコールと水との混合物など、室温での蒸気圧が高い溶剤が挙げられる。
【0034】
工程1においては、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)に含まれる活性エネルギー線重合性組成物(a)の含有量によって、得られる有機多孔質ポリマー層の孔径や強度が変化する。活性エネルギー線重合性組成物(a)の含有量が多いほど有機多孔質ポリマー層の強度が向上するが、孔径は小さくなる傾向にある。活性エネルギー線重合性組成物(a)の好ましい含有量としては15〜50質量%の範囲、更に好ましくは25〜40質量%の範囲が挙げられる。活性エネルギー線重合性組成物(a)の含有量が15質量%以下になると、有機多孔質ポリマー層の強度が低くなり、活性エネルギー線重合性組成物(a)の含有量が50質量%以上になると、多孔質部の孔径の調整が難しくなる。
【0035】
有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)には、重合速度や重合度、あるいは孔径分布などを調整するために、重合開始剤、重合禁止剤、重合遅延剤、溶剤、あるいは、可溶性高分子などの各種添加剤を添加してもよい。
【0036】
光重合開始剤としては、活性エネルギー線に対して活性であり、活性エネルギー線重合性組成物(a)を重合させることが可能なものであれば、特に制限はなく、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤などが使用でき、例えば、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2′−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類;ベンゾフェノン、4,4′−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンなどのケトン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインエーテル類; ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのベンジルケタール類;N−アジドスルフォニルフェニルマレイミドなどのアジドが挙げられる。また、マレイミド系化合物などの重合性光重合開始剤を使用することもできる。
【0037】
重合遅延剤や重合禁止剤としては、α−メチルスチレン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンなどの活性エネルギー線重合性化合物としては重合速度の低いビニル系モノマー;tert−ブチルフェノールなどのヒンダントフェノール類などが挙げられる。
【0038】
添加する溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、塩化メチレンなどの塩素系溶剤が挙げられる。
可溶性高分子としては、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(Z)として均一の組成物を与え、かつ、前記の溶剤(M)単独に可溶であれば、制限なく利用することができる。溶剤(M)に可溶であることにより、組成物(Z)の硬化後の洗浄操作により容易に硬化塗膜から除去できる。
【0039】
また、塗工性、平滑性、親水性などの機能付与の目的で、公知慣用の界面活性剤、疎水性化合物、増粘剤、改質剤、着色剤、蛍光色素、紫外線吸収剤、酵素、蛋白、細胞、触媒などを添加することもできる。
【0040】
この方法において使用できる支持体は、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)や使用する活性エネルギー線によって実質的に侵されず、例えば、溶解、分解、重合などが生じず、かつ、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)を実質的に侵さないものであればよい。そのような支持体としては、例えば、重合体、ガラス、石英などの結晶、セラミック、シリコンなどの半導体、金属などが挙げられるが、これらの中でも、透明性が高いこと、および、安価であることより、重合体、または、ガラスが好ましい。支持体に使用する重合体は、単独重合体であっても、共重合体であっても良く、熱可塑性重合体であっても、熱硬化性重合体であっても良い。また、支持体は、ポリマーブレンドやポリマーアロイで構成されていても良いし、積層体その他の複合体であっても良い。更に、支持体は、改質剤、着色剤、充填材、強化材などの添加物を含有しても良い。
【0041】
支持体の形状は特に限定されず、使用目的に応じて任意の形状のものを使用できる。例えば、シート状(フィルム状、リボン状、ベルト状を含む)、板状、ロール状、球状などの形状が挙げられるが、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)をその上に塗布し易く、また、活性エネルギー線を照射し易いという観点から、塗工面が平面状または2次曲面状の形状であることが好ましい。
【0042】
支持体はまた、重合体の場合もそれ以外の素材の場合も、表面処理されていて良い。表面処理は、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)による支持体の溶解防止を目的としたもの、有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)の濡れ性向上及び有機多孔質ポリマー層の接着性向上を目的としたものなどが挙げられる。
【0043】
支持体の表面処理方法は任意であり、例えば、前記活性エネルギー線重合性組成物(a)を支持体の表面に塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させる処理、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、酸又はアルカリ処理、スルホン化処理、フッ素化処理、シランカップリング剤等によるプライマー処理、表面グラフト重合、界面活性剤や離型剤等の塗布、ラビングやサンドブラストなどの物理的処理などが挙げられる。また、有機多孔質ポリマー層の素材が有する反応性官能基や上記の表面処理方法によって導入された反応性官能基と反応して表面に固定される化合物を反応させる方法が挙げられる。この中で、支持体としてガラス、または、石英を用いた場合、例えば、トリメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレートやトリエトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート等のシランカップリング剤によって処理する方法は、これらのシランカップリング剤の有する重合基が有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)と共重合できることより、有機多孔質ポリマー層の支持体上への接着性を向上させる上で有用である。
【0044】
工程1に用いる有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)の支持体への塗布方法は公知慣用の方法であればいずれの方法でも良く、例えば、コーターや噴霧等による塗布方法が好ましく挙げられる。
【0045】
工程1の方法によると、直径約0.1μm〜1μmの粒子状の重合体が互いに凝集し、この粒子間の隙間が細孔となる凝集粒子構造の多孔質ポリマー層や、重合体が網目状に凝集した三次元網目構造の多孔質ポリマー層を形成することができる。
【0046】
工程2では、工程1で形成した有機多孔質ポリマー層上に、活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)を塗工することにより、有機多孔質ポリマー層内に組成物(Y)が含浸された形態で、多孔質ポリマー層内、および多孔質ポリマー層上に組成物(Y)の未硬化塗膜が形成される。その後、流路と成すべき部分以外の未硬化塗膜に活性エネルギー線を照射し、非照射部分の未硬化の組成物(Y)を除去することにより、底面が多孔質ポリマー層、壁面が組成物(Y)の硬化又は半硬化塗膜からなる凹部が得られる。一方、流路となる部分以外の多孔質ポリマー層は、含浸した組成物(Y)の硬化または半硬化物により細孔が閉塞される。
【0047】
活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)に含まれる重合性化合物は、重合開始剤の存在下、あるいは非存在下で活性エネルギー線により重合し得る化合物であり、付加重合性の化合物や、活性エネルギー線重合性官能基として重合性の炭素−炭素二重結合を有するものが好ましい。なかでも、反応性の高い(メタ)アクリル系化合物やビニルエーテル類や、光重合開始剤の不存在下でも硬化するマレイミド系化合物などが好ましい。また、該重合性化合物が多官能の化合物であると、重合して架橋構造となるため、硬化後の強度も高くなる。
【0048】
このような重合性化合物としては、例えば、前記した工程1において使用できる重合性化合物と同様の化合物を使用できる。該重合性化合物は単独で、あるいは二種以上を混合して使用することができ、また、粘度の調節や、あるいは接着性、粘着性などの機能を付与するために、単官能モノマーと混合して使用してもよい。混合できる単官能モノマーとしては、例えば前記した工程1において使用できる単官能モノマーと同様の化合物を使用できる。
【0049】
組成物(Y)には、必要に応じて、光重合開始剤、重合遅延剤、重合禁止剤、溶剤、増粘剤、改質剤、着色剤などを混合して使用することができる。組成物(Y)に添加できる光重合開始剤、重合遅延剤、および重合禁止剤としては、例えば、前記した工程1において有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)の光重合開始剤、重合遅延剤、および重合禁止剤と同様の化合物を好適に使用できる。
【0050】
溶剤としては、特に限定されないが、使用する重合性化合物や組成物(Y)に添加された添加剤、あるいは要求される粘度などによって溶剤の種類や添加量を適宜調整する必要があるが、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、塩化メチレンなどの塩素系溶剤などが挙げられる。
【0051】
組成物(Y)の粘度は、多孔質ポリマー層の孔径に応じて変わりうるものであるが、多孔質ポリマー層の上に塗工した際に、組成物(Y)が速く多孔質ポリマー層内へ浸透すること、および活性エネルギー線照射後に、非照射部分の未硬化の組成物(Y)を除去する際に、組成物(Y)が完全に多孔質ポリマー層から除去される観点から、組成物(Y)の粘度が25℃ において30〜3,000mPa・sの範囲であることが好ましく、100〜1,000mPa・sの範囲であることが更に好ましい。粘度が30mPa・s未満であると、凹部の深さ制御が困難になり、一方、粘度が3,000mPa・sより大きいと、組成物(Y)の多孔質ポリマー層内部への浸透が困難になり、また、非照射部分の未硬化の組成物(Y)の除去も困難になる。
【0052】
工程2において、多孔質ポリマー層上に組成物(Y)を塗工する方法としては任意の塗工方法を用いることができ、例えば、スピンコート法、ローラーコート法、流延法、ディッピング法、スプレー法、バーコーター法、X−Yアプリケータ法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、グラビア印刷法、ノズルからの押し出しや注型などの方法が挙げられる。また、組成物(Y)が高粘度である場合や特に薄く塗工する場合には、組成物(Y) に溶剤を含有させて塗工した後、該溶剤を揮発させる方法により塗工することもできる。
【0053】
組成物(Y)を塗工する厚さは、活性エネルギー線照射後に多孔質ポリマー層の上部に硬化又は半硬化塗膜が得られれば特に制限されないが、活性エネルギー線照射後に多孔質ポリマー層の上部に形成される硬化又は半硬化塗膜の厚さ、すなわち凹部の壁面高さが3〜150μmとなる範囲が好ましく、5μm〜50μmとなる範囲であれば更に好ましい。3μmより薄いと凹部に蓋となる他の部材を固着して該凹部を空洞状の流路とする際に、流路が閉塞するおそれがある。
【0054】
照射する活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線、レーザー光線、放射光などの光線;エックス線、ガンマ線、放射光などの電離放射線;電子線、イオンビーム、ベータ線、重粒子線などの粒子線が挙げられる。これらの中でも、取り扱い性や硬化速度の面から紫外線及び可視光が好ましく、紫外線が特に好ましい。硬化速度を速め、硬化を完全に行う目的で、活性エネルギー線の照射を低酸素濃度雰囲気で行うことが好ましい。低酸素濃度雰囲気としては、窒素気流中、二酸化炭素気流中、アルゴン気流中、真空又は減圧雰囲気中が好ましい。
【0055】
有機多孔質ポリマー層を底面全体または底面の一部に形成された凹部を形成するために、上記活性エネルギー線を照射する際に、活性エネルギー線をパターニング照射する。パターニング照射の方法は任意であり、例えば、活性エネルギー線を照射しない部分をマスキングして照射する、あるいはレーザーなどの活性エネルギー線のビームを走査するなどのフォトリソグラフィーの手法が利用できる。
【0056】
組成物(Y)の未硬化塗膜の硬化を半硬化とすることによって、接着剤を使用することなく蓋となる他の部材と固着することが可能であり、また、接着剤を使用する場合にも接着強度が向上する。組成物(Y)の硬化状態を半硬化とした場合には、最終的な遷移金属固定化リアクターと成す前のいずれかの工程において後硬化を行い、完全に硬化させることが好ましいが、本発明の遷移金属固定化リアクターの機能に差し障りがなければ必ずしも完全に硬化させる必要はない。後硬化は、活性エネルギー線による硬化の場合には、半硬化させるのに使用した活性エネルギー線と同じものであっても異なるものであっても良い。後硬化はまた、活性エネルギー線による硬化の他に、熱硬化により硬化してもよい。
【0057】
工程3は、工程2において形成された凹部を有する部材の凹部に蓋となる他の部材を固着して前記凹部を空洞状の流路と成す工程である。蓋となる部材としては、使用目的に応じて適宜選択し得るものであり、流路に流す流体に侵されないものを使用すればよく、該部材は粘着性を有するテープやシートまたは板状のものであっても良い。
【0058】
蓋となる部材で凹部に蓋をするには、蓋部材と凹部を有する部材を貼り合わせればよい。上記したように、凹部を有する部材が半硬化塗膜で、蓋部材との接着性が良好で有れば、そのまま貼り付ければよい。また、凹部を有する部材の接着性が低いか、あるいは硬化塗膜である場合には、接着剤などを使用して両部材を貼り合わせればよい。
【0059】
また、活性エネルギー線重合性化合物を含む組成物を高分子のフィルムやシートのような支持体に塗布し、活性エネルギー線を照射して、該組成物の塗膜を半硬化させて、上記凹部を有する部材の凹部に貼り合わせて、再び活性エネルギー線を照射して完全に硬化させる方法もある。ここで使用される活性エネルギー線重合性化合物及びその組成物は、上記工程1または工程2で使用される重合性化合物及び組成物と同じものが使用できる。また、重合性化合物の塗布方法も工程1または工程2と同様の方法が使用できる。
【0060】
蓋部材と凹部を有する部材を貼り合わせる際の接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂系接着剤、スチレンブタジエン樹脂系接着剤、(メタ)アクリル系接着剤などが使用できる。このようにして得られた空洞状の流路は、外部に連絡していてもよいし、連絡していなくてもよい。後者の場合、別途ドリルなどで孔を穿つことにより、該流路と外部を連絡させることができる。
【0061】
以上、遷移金属固定化リアクターの製造に関して説明したが、本発明で用いることができる遷移金属固定化リアクターの製造方法は上記の例示に限定されるものではない。
【0062】
得られた遷移金属固定化リアクターは、部材同士が強固に接着している場合には、そのまま使用に供することができるし、接着力が弱い場合には、ねじ止め、クランプその他の方法にて固定して使用することも可能である。
【0063】
本発明の方法により、遷移金属化合物の固定量が多く、かつ、繰り返しの使用安定性に優れた遷移金属固定化リアクターを提供することができる。ここで言う遷移金属固定量の多いリアクターとは、有機多孔質ポリマー層1g当たりに固定化された遷移金属の重量が20mg以上であることを指し、好ましくは、50mg以上であることを指す。また、ここで言う使用安定性に優れた遷移金属固定化リアクターとは、50℃、5時間での触媒反応流通試験において、触媒能力に変化なく、5回以上繰り返し使用可能であることを指し、好ましくは、同条件において、10回以上繰り返し使用可能であることを指す。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
(合成例1)
〔[1,2−ビス(4−スチリルジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)[2,3−ジヒドロキシナフタレン]の合成〕
油浴、攪拌機、および、滴下ロートを備えたガラスフラスコに、削り状マグネシウム2.73g(112mmol)を仕込み、そこに滴下ロートより4−クロロスチレン3.4mL(28.3mmol)の脱水テトラヒドロフラン溶液16mLを室温にて10分かけて滴下した。次に、この混合物にヨウ化メチル25μLを室温にて加えた。この混合物に脱水テトラヒドロフラン20mLを加えた後、滴下ロートより4−クロロスチレン3.4mL(28.3mmol)の脱水テトラヒドロフラン溶液36mLを室温にて10分かけて滴下した。その後、油浴温度を55℃に昇温し、すべての内容物が溶解するまで3時間撹拌した。この溶液を室温まで冷却後、油浴と攪拌機を備えたガラスフラスコに仕込まれた1,2−ビス(ジクロロホスフィノ)エタン1.3mL(8.61mmol)の脱水テトラヒドロフラン溶液30mL中にカンニュラ移送した。その後、この溶液を室温にて30分間撹拌した。この溶液に、tert−ブチルカテコール10mgを含む、塩化アンモニウム16.5gの水溶液100mLを加え、次いで、テトラヒドロフラン300mLを加え、飽和食塩水100mLで3回洗浄した。得られた油相に硫酸マグネシウムを加え乾燥した。この溶液から硫酸マグネシウムをろ過後、溶媒を留去、テトラヒドロフラン/ヘキサンより再結晶して、1,2−ビス(4−スチリルジフェニルホスフィノ)エタンの針状晶2.51gを得た。収率は58モル%であった;H−NMRスペクトル(300MHz、重水素化塩化メチレン溶液)化学シフト(ppm):7.39(br,s,3H)、7.37(br,s,5H)、7.32(m,8H)、6.77(dd,4H)、5.79(dd,4H)、5.29(dd,4H)、2.07(t,4H)。
【0065】
攪拌機を備えたガラスフラスコに、1,2−ビス(4−スチリルジフェニルホスフィノ)エタン1.52g(3.03mmol)および塩化メチレン80mLを仕込み、得られた溶液を室温にて15分間撹拌した。この溶液を、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム(II)0.78g(3.03mmol)の塩化メチレン溶液中にカンニュラ移送した。その後、この溶液を、室温にて5時間撹拌した。溶媒留去後、塩化メチレン/ヘキサンより再結晶して、[1,2−ビス(4−スチリルジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)ジクロリドの針状晶1.40gを得た。収率は68モル%であった;H−NMRスペクトル(300MHz、重水素化塩化メチレン溶液)化学シフト(ppm):7.80(dd,8H)、7.53(dd,8H)、6.77(dd,4H)、5.90(d,4H)、5.42(d,4H)、2.44(m,4H)。
【0066】
攪拌機を備えたガラスフラスコに、[1,2−ビス(4−スチリルジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)ジクロリド0.21g(0.31mmol)および塩化メチレン25mLを仕込み、得られた溶液を室温にて15分間撹拌した。この溶液に、水酸化カリウム0.14g(2.51mmol)および2,3−ジヒドロキシナフタレン0.20g(1.26mmol)を溶解させた水溶液10mLを加え、得られた2相系溶液を室温にて7時間撹拌した。この溶液に、塩化メチレン25mLを加えた後、水相に塩化メチレン10mLを加え抽出した。混合した塩化メチレン溶液を水15mLで洗浄後、硫酸マグネシウムを加え乾燥した。この溶液から硫酸マグネシウムをろ過後、溶媒を留去、塩化メチレン/ヘキサンより再結晶して、[1,2−ビス(4−スチリルジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)[2,3−ジヒドロキシナフタレン]の針状晶0.15gを得た。収率は64モル%であった;H−NMRスペクトル(300MHz、重水素化塩化メチレン溶液)化学シフト(ppm):7.95(dd,8H)、7.54(dd,8H)、7.42(q,2H)、6.96(q,2H)、6.85(s,2H)、6.73(dd,4H)、5.86(d,4H)、5.35(d,4H)、2.51(m,4H);13C−NMRスペクトル(100MHz、重水素化クロロホルム溶液)化学シフト(ppm):166.4、141.8、136.0、133.8、133.7、133.6、129.1、128.3、127.5、127.4、127.3、125.1、120.5、117.3、108.4、27.2;元素分析:C4438Pdとして、計算値 C,68.91、H,4.96、実測値 C,68.52、H,4.87。
【0067】
(実施例1)
〔支持体の前処理〕
松浪硝子工業株式会社製ガラス製平板「S−1111」(26mm×76mm、厚さ1mm)を、東京化成工業株式会社製メタクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルエステル「M0725」の5mmol/Lのメタノール溶液に50℃にて3時間浸漬した後、メタノール中で超音波洗浄し、100℃の恒温槽で減圧下(0.01Pa以下)1時間加熱し、支持体[A−1]を調製した。
【0068】
〔有機多孔質ポリマー層の作製〕
共栄社化学株式会社製トリメチロールプロパントリメタクリレート「ライトエステルTMP」19mmol、共栄社化学株式会社製メチルメタクリレート「ライトエステルM」5.3mmol、及び、光重合開始剤としてチバガイギー社製1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュア184」1.3mmolを均一に混合して組成物(X1)を調製した。また、合成例1に記載した[1,2−ビス(4−スチリルジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)[2,3−ジヒドロキシナフタレン]1.1質量%、アルドリッチ社製ポリ(酢酸ビニル)「387924」(重量平均分子量〜140,000)9.1質量%、及び、ジエチレングリコールジメチルエーテル89.8質量%を均一に混合して組成物(X2)を調製した。前記組成物X1および溶液(X2)を、体積比3:4になるように均一に混合して、組成物(X3)を調製した。
【0069】
前記の表面処理を施した支持体[A−1]上にスピンコーターを用いて組成物(X3)を塗工し、該塗膜に3000Wメタルハライドランプを光源とするアイグラフィックス株式会社製のUE031−353CHC型UV照射装置(以下、「ランプ1」と称する。)を用い、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を、室温、窒素気流下で40秒間照射して組成物(X3)を硬化させ、その後、トルエンを用いて洗浄することにより、支持体上に形成された、厚さ10μmの有機多孔質ポリマー層[A−2]を得た。
【0070】
〔有機多孔質ポリマー層上への凹部の形成〕
東亞合成株式会社製トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート「アロニックスM−315」16質量%、東亞合成株式会社製ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート「アロニックスM−215」63質量%、第一工業製薬株式会社製1,6−ヘキサンジオールジアクリレート「ニューフロンティアHDDA」18質量%、光重合開始剤として前記「イルガキュア184」1.5質量%、及び重合遅延剤として関東化学株式会社製2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン1.5質量%を均一に混合して組成物(X4)を調製した。
【0071】
支持体上に形成された有機多孔質ポリマー層[A−2]にスピンコーターを用いて組成物(X4)を塗工し、次いで、流路となる部分をフォトマスキングし、250W高圧水銀ランプを光源とするウシオ電機株式会社製のマルチライト250Wシリーズ露光装置用光源ユニット(以下、「ランプ2」と称する。)を用い、365nmにおける紫外線強度が50mW/cmの紫外線を185秒間照射した後、エタノールを用いて洗浄することにより未重合の組成物(X4)を除去し、有機多孔質ポリマー層の表面に形成された、幅1mm×深さ20μm×長さ340mmの流路となる溝を有する半硬化塗膜[A−3]を作製した。
【0072】
〔有機多孔質ポリマー層上への流路形成による遷移金属固定化リアクターの作製〕
前記「アロニックスM−315」18質量%、前記「アロニックスM−215」72質量%、前記「ニューフロンティアHDDA」9.8質量%、及び、光重合開始剤として前記「イルガキュア184」0.2質量%を均一に混合して組成物(X5)を調製した。
表面がコロナ処理された厚さ30μmの二村化学株式会社製二軸延伸ポリプロピレン・シート(以下、OPPシートと称する)を転写用支持体として使用し、これをガラス板に貼り付けた基材に、バーコーターを用いて組成物(X5)を塗工し、該塗膜にランプ1を用い、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を、室温、窒素気流下で5秒間照射して組成物(X5)を半硬化させた。これを、前記の流路となる溝を有する組成物(X4)の半硬化塗膜[A−3]に積層し、ランプ1を用い、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を、室温、窒素気流下で10秒間照射して接着し、外部への開口部を有する管状の微細流路を有する遷移金属固定化リアクター[R−1]を作製した。
【0073】
〔遷移金属固定化リアクター中の遷移金属固定量の測定〕
作製した遷移金属固定化リアクター[R−1]に内径1mmのテフロン(登録商標)製チューブを接続し、Kdサイエンティフィク社製シリンジポンプKDS−200を用い、20質量%硝酸を毎分5μlの流速にて、室温で36時間流通させた。得られた溶液に対しICP発光分析を行った結果、[R−1]の流路内に固定化されたパラジウム量は、有機多孔質ポリマー層1g当たり51mgであった。
【0074】
〔遷移金属固定化リアクターを用いた触媒反応試験〕
アリルメチルカーボネート3.0mmol、エチル3−オキソブタネート3.0mmol、トリフェニルホスフィン0.6mmol、及び、トルエン10mLを均一に混合して反応溶液(Y1)を調製した。前記の遷移金属固定化リアクター[R−1]に内径1mmのテフロン(登録商標)製チューブを接続し、前記シリンジポンプKDS−200を用い、反応溶液(Y1)を毎分1μlの流速にて、55℃で8分間流通させた。ガスクロマトグラフィによる分析の結果、98%以上の反応率でエチル2−アリル−3−オキソブタネートが生成したことが確認された。該遷移金属固定化リアクター[R−1]に反応溶液(Y1)を5時間の連続流通した場合も、反応率が低下することなく、反応が進行することが確認された。さらに、同様の触媒反応試験を10回繰り返し行った場合も、反応率が低下することなく、生成物が得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の流路を有し、且つ該流路を形成する壁面の少なくとも一部が、表面に遷移金属化合物が固定された有機多孔質ポリマー層で形成されているリアクターであって、
前記有機多孔質ポリマー層が、式1
【化1】

(式中、Mはパラジウム、白金またはロジウム原子、R及びRは置換基を有していてもよいアリール基または炭素数1〜18のアルキル基、L及びLは配位子基を表す。)
または式2
【化2】

(式中、Mはパラジウム、白金またはロジウム原子、nは1〜12の整数、Rは置換基を有していてもよいアリール基または炭素数1〜18のアルキル基、L及びLは配位子基を表す。)で表される化合物の重合体を含む多孔質ポリマー層であることを特徴とする遷移金属固定化リアクター。
【請求項2】
前記有機多孔質ポリマー層の厚さが、3〜50μmの範囲にある請求項1に記載の遷移金属固定化リアクター。
【請求項3】
請求項1又は2記載の遷移金属固定化リアクターの製造方法であって、
(1)支持体の表面に、式1または式2で表される化合物を含有する活性エネルギー線重合性組成物(a)と、該活性エネルギー線重合性組成物(a)とは相溶するが、該活性エネルギー線重合性組成物(a)の重合物を溶解または膨潤させない溶剤(M)とを混合した有機多孔質ポリマー層形成用組成物(X)を塗布して塗膜を形成し、
該塗膜に活性エネルギー線を照射することによって、該活性エネルギー線重合性組成物(a)を重合させ、その後、該溶剤(M)を除去することによって有機多孔質ポリマー層を形成する工程1、
(2)該有機多孔質ポリマー層の上に活性エネルギー線硬化性の組成物(Y)を塗工し、該組成物(Y)の未硬化塗膜を形成し、流路となすべき部分以外の前記未硬化塗膜に活性エネルギー線を照射して前記組成物(Y)の硬化または半硬化塗膜を形成し、非照射部分の未硬化の前記組成物(Y)を除去して、該有機多孔質ポリマー層が底面に露出した凹部を形成する工程2、及び、
(3)前記凹部を有する部材の凹部に蓋となる他の部材を固着して前記凹部を空洞状の流路となす工程3
を有することを特徴とする遷移金属固定化リアクターの製造方法。

【公開番号】特開2008−212765(P2008−212765A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49426(P2007−49426)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】