説明

遷移金属酸化物を含有するケイ酸リチウムガラスセラミックおよびガラス

【課題】屈折率が容易に変更可能であるが、他の特性は実質的に損なわれない、ケイ酸リチウムベースのガラスセラミックを提供すること。
【解決手段】本発明は、少なくとも8.5重量%の遷移金属酸化物を含有するケイ酸リチウムガラスセラミックであって、該遷移金属酸化物は、イットリウムの酸化物、41〜79の原子番号を有する遷移金属の酸化物およびこれらの酸化物の混合物からなる群より選択される、ケイ酸リチウムガラスセラミックを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い原子量を有する元素の高い含有量を有し、歯科材料として(例えば、歯科用修復物の調製のため)の使用に特に適している、ケイ酸リチウムガラスセラミックおよびガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ酸リチウムガラスセラミックは、非常に良好な機械特性により特徴付けられ、この理由により、これらのガラスセラミックは、歯科分野において、そして主として、歯科用クラウンおよび小さいブリッジの調製のために、長期にわたり使用されている。公知のケイ酸リチウムガラスセラミックは通常、主成分として、SiO、LiO、Al、アルカリ金属(例えば、NaOまたはKO)および造核剤(例えば、P)を含有する。さらに、これらのガラスセラミックは、さらなる成分として、例えば、さらなるアルカリ金属酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物および/またはZnOを含有し得る。少量のさらなる金属酸化物、特に、着色性および蛍光性の金属酸化物を含有する、ガラスセラミックもまた公知である。
【0003】
特許文献1は、0重量%〜2重量%のZrO、ならびに0.5重量%〜7.5重量%、そして特に0.5重量%〜3.5重量%の着色性金属酸化物および蛍光性金属酸化物をさらに含有し得る、ケイ酸リチウムガラスセラミックを記載する。特許文献2は、実質的にZnOを含まず、そして上記量の着色性金属酸化物および蛍光性金属酸化物に加えて、0重量%〜4重量%のZrOを含有する、類似のケイ酸リチウムガラスセラミックを記載するが、この文献において、高い強度を達成するために、0重量%〜2重量%という、より少量のZrOが好ましい。これらのガラスセラミックは、所望の歯科用修復物に、特にメタケイ酸リチウムガラスセラミックの形態で、CAD/CAM法によって加工され、ここで引き続く熱処理は、メタシリケート相の、高強度のジシリケート相への転換を起こす。
【0004】
特許文献3は、他の成分に加えて遷移金属酸化物もまた含有し得る、二ケイ酸リチウムガラスセラミックに関する。とりわけ、ガラスマトリックスの屈折率を増加させる目的で、少量の重元素(例えば、Sr、Y、Nb、Cs、Ba、Ta、Ce、EuまたはTb)を添加することが提唱されている。従って、例えば、CeOおよびTbは、0重量%〜1重量%の量で使用され得、NbおよびTaは、0重量%〜2重量%の量で使用され得、そしてZrOおよびYは、0重量%〜3重量%の量で使用され得る。1つの実施形態において、Taは、具体的な例は最大2.02重量%のこの酸化物を含有するものの、0.5重量%〜8重量%の量で存在し得ると記載されている。
【0005】
特許文献4および特許文献5は、例えば陶磁器類の製造のための、ガラスセラミックを開示し、このガラスセラミックは、着色剤として、特定の遷移金属酸化物(例えば、CeO、Co、Cr、CuO、Fe、MnO、NiOおよびV)を、0.01重量%〜7重量%の量で含有し得る。
【0006】
特許文献6および特許文献7は、歯科用修復物を形成するためのプロセス、およびこれらのプロセスにおいて使用され得るガラスセラミックを記載する。これらのガラスセラミックは特に、二ケイ酸リチウムガラスセラミックであり、0重量%〜5重量%の着色性酸化物(例えば、SnO、MnO、CeO、Fe、NiO、V、CrまたはTiO)を含有し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1505041号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1688398号明細書
【特許文献3】米国特許第6455451号明細書
【特許文献4】米国特許第5176961号明細書
【特許文献5】米国特許第5219799号明細書
【特許文献6】米国特許第5507981号明細書
【特許文献7】米国特許第5702514号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ケイ酸リチウムベースの公知のガラスセラミックはしばしば、特に歯科材料として使用することに関する美的要件を充分には満足しない、光学特性を有する。従って、公知のガラスセラミックはしばしば、好ましくない屈折率を有する。特に、ガラスセラミックを用いると、結晶相の屈折率とガラス相の屈折率とが、通常、互いに顕著に異なるという問題があり、このことはほとんどの場合において、ガラスセラミックの望ましくない曇りをもたらす。類似の問題が、例えば、複合材の場合において存在する。なぜなら、公知のガラスセラミックの屈折率とガラスの屈折率とが、通常、ポリマー相の屈折率と異なるからである。従って、屈折率が容易に変更可能であるが、他の特性は実質的に損なわれない、ケイ酸リチウムベースのガラスセラミックが必要とされている。さらに、このようなガラスセラミックが、従来のガラスセラミックに匹敵する条件下で調製および結晶化され得ることが、望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
少なくとも8.5重量%の遷移金属酸化物を含有するケイ酸リチウムガラスセラミックであって、該遷移金属酸化物は、イットリウムの酸化物、41〜79の原子番号を有する遷移金属の酸化物およびこれらの酸化物の混合物からなる群より選択される、ケイ酸リチウムガラスセラミック。
【0010】
(項目2)
少なくとも8.5重量%の遷移金属酸化物を含有し、該遷移金属酸化物は、Y、Nb、La、Ta、Wの酸化物、およびこれらの酸化物の混合物からなる群より選択される、上記項目に記載のガラスセラミック。
【0011】
(項目3)
8.5重量%〜30.0重量%、好ましくは9.0重量%〜25.0重量%、特に9.5重量%〜20.0重量%、好ましくは10.0重量%〜18.0重量%、より好ましくは10.5重量%〜16.0重量%、そして最も好ましくは11.0重量%〜15.0重量%の前記遷移金属酸化物を含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0012】
(項目4)
54.0重量%〜80.0重量%、そして特に60.0重量%〜70.0重量%のSiOを含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0013】
(項目5)
11.0重量%〜19.0重量%、そして特に12.0重量%〜15.0重量%のLiOを含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0014】
(項目6)
0.5重量%〜12.0重量%、そして特に2.5重量%〜6.0重量%の造核剤を含有し、該造核剤は特に、P、TiO、および/または金属から選択され、そして好ましくは、Pである、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0015】
(項目7)
0.5重量%〜13.5重量%、好ましくは1.0重量%〜7.0重量%、そして特に好ましくは2.0重量%〜5.0重量%の量の、さらなるアルカリ金属酸化物を含有し、該さらなるアルカリ金属酸化物は特に、KO、CsOおよび/またはRbOであり、そして好ましくは、KOである、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0016】
(項目8)
6.0重量%まで、そして特に0.1重量%〜5.0重量%のアルカリ土類金属酸化物を含有し、該アルカリ土類金属酸化物は、好ましくは、CaO、BaO、MgOおよび/またはSrOであり、そして/あるいは6.0重量%まで、そして特に0.1重量%〜5.0重量%のZnOを含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0017】
(項目9)
0.2重量%〜8.0重量%、特に1.0重量%〜7.0重量%、そして好ましくは2.5重量%〜3.5重量%の三価元素の酸化物を含有し、該三価元素の酸化物は特に、Alおよび/またはBiであり、そして好ましくは、Alである、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0018】
(項目10)
少なくとも1種のさらなる四価元素の酸化物、特にZrO、SnOもしくはGeOを含有するか、または少なくとも1種のさらなる五価元素の酸化物、特にBiを含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0019】
(項目11)
以下の成分:
成分 重量%
SiO 54.0〜80.0、特に60.0〜70.0
LiO 11.0〜19.0、特に13.0〜17.0
Al 0.2〜8.0、特に1.0〜7.0
O 0.5〜13.5、特に1.0〜7.0
アルカリ土類金属酸化物 0〜6.0、特に0.1〜5.0
ZnO 0〜6.0、特に0.1〜5.0
遷移金属酸化物 8.5〜30.0、特に9.0〜25.0
0.5〜12.0、特に2.5〜6.0
ZrO 0.1〜4.0、特に0.5〜2.0
着色剤 0.1〜8.0、特に0.2〜2.0
および蛍光剤
のうちの少なくとも1つ、そして好ましくは全てを含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0020】
(項目12)
上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミックの成分を含有する、ケイ酸リチウムガラス。
【0021】
(項目13)
前記ガラスが、メタケイ酸リチウム結晶および/または二ケイ酸リチウム結晶を形成するのに適切な核を含有する、上記項目のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラス。
【0022】
(項目14)
粉末、ブランクまたは歯科用修復物の形態で存在する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック、または上記項目のいずれか1項に記載のガラス。
【0023】
(項目15)
上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック、または上記項目のいずれか1項に記載のガラスの調製のためのプロセスであって、該ガラスセラミックまたは該ガラスの成分を有する出発ガラスが、450℃〜950℃の範囲での少なくとも1回の熱処理に供される、プロセス。
【0024】
(項目16)
歯科材料として、特に、歯科用修復物をコーティングするため、および歯科用修復物の調製のため、ならびに無機−有機複合材における充填材としての、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック、または上記項目のいずれか1項に記載のガラスの使用。
【0025】
上記目的は、請求項1〜11および14のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミックにより達成される。本発明の主題はまた、請求項12〜14のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラス、請求項15に記載のガラスセラミックおよびガラスの調製のためのプロセス、ならびに請求項16に記載のこれらの使用である。
【0026】
(摘要)
本発明は、少なくとも8.5重量%の遷移金属酸化物を含有するケイ酸リチウムガラスセラミックに関し、この遷移金属酸化物は、イットリウムの酸化物、41〜79の原子番号を有する遷移金属の酸化物およびこれらの酸化物の混合物からなる群より選択される。本発明はまた、対応するケイ酸リチウムガラス、ガラスセラミックおよびガラスの調製のためのプロセス、ならびにこれらの使用に関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によって、屈折率が容易に変更可能であるが、他の特性は実質的に損なわれない、ケイ酸リチウムベースのガラスセラミックが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明によるケイ酸リチウムガラスセラミックは、イットリウムの酸化物、41〜79の原子番号を有する遷移金属の酸化物およびこれらの酸化物の混合物からなる群より選択される、少なくとも8.5重量%の遷移金属酸化物を含有することを特徴とする。
【0029】
一般に、本発明によるガラスセラミックまたは本発明によるガラスの成分としての遷移金属酸化物は、この成分が添加されない対応するガラスセラミックまたは対応するガラスと比較して、色変化を実質的に起こさないことが好ましい。具体的には、この遷移金属酸化物は、無色かつ/または非蛍光性である。
【0030】
この遷移金属酸化物は、好ましくは、Y、Nb、La、Ta、Wの酸化物、およびこれらの酸化物の混合物からなる群より選択される。
【0031】
8.5重量%〜30.0重量%、好ましくは9.0重量%〜25.0重量%、特に9.5重量%〜20.0重量%、好ましくは10.0重量%〜18.0重量%、より好ましくは10.5重量%〜16.0重量%、そして最も好ましくは11.0重量%〜15.0重量%の、上記群のうちの1つ以上から選択される遷移金属酸化物を含有する、ガラスセラミックが好ましい。
【0032】
驚くべきことに、本発明により、高い原子番号を有する高い含有量の遷移金属を使用することによって、ケイ酸リチウムベースのガラスセラミックおよびガラスの屈折率は、他の特性が実質的に損なわれずに、容易に調整され得る。特に、予測不可能なことに、高い原子番号を有する遷移金属の高い含有量は、通常、二ケイ酸リチウムの所望の結晶化を妨げず、望ましくない二次結晶相の形成ももたらさないことが示され、その結果、本発明により、優れた光学特性および機械特性を有するガラスセラミックが得られる。
【0033】
54.0重量%〜80.0重量%、そして特に60.0重量%〜70.0重量%のSiOを含有するガラスセラミックが、さらに好ましい。
【0034】
さらに、11.0重量%〜19.0重量%、そして特に12.0重量%〜15.0重量%のLiOを含有するガラスセラミックが好ましい。
【0035】
このガラスセラミックが、0.5重量%〜12.0重量%、そして特に2.5重量%〜6.0重量%の造核剤を含有する場合に、特に好ましいことが示された。好ましい造核剤は、P、TiO、金属(例えば、Pt、Pd、Au、Ag)、またはこれらの混合物から選択される。特に好ましくは、このガラスセラミックは、Pを造核剤として含有する。驚くべきことに、特に造核剤としてのPは、所望の二ケイ酸リチウム結晶の形成をもたらし、一方で、望ましくない二次結晶相の形成を大いに防止する。
【0036】
本発明によるガラスセラミックは、好ましくは、さらなるアルカリ金属酸化物を、0.5重量%〜13.0重量%、好ましくは1.0重量%〜7.0重量%、そして特に好ましくは2.0重量%〜5.0重量%の量で含有する。用語「さらなるアルカリ金属酸化物」とは、LiO以外のアルカリ金属酸化物をいう。このさらなるアルカリ金属酸化物は特に、KO、CsOおよび/またはRbOであり、そして特に好ましくは、KOである。KOの使用は、従来のガラスセラミックにおいて使用されるNaOと比較して、ガラス網目構造の強化に寄与すると仮定される。このガラスセラミックは、2.0未満、特に1.0未満、好ましくは0.5重量%未満を含有すること、そして特に好ましくはNaOを本質的に含有しないことが好ましい。
【0037】
このガラスセラミックは、6.0重量%まで、そして特に0.1重量%〜5.0重量%のアルカリ土類金属酸化物を含有することがさらに好ましく、ここでこのアルカリ土類金属酸化物は特に、CaO、BaO、MgO、SrOまたはこれらの混合物である。
【0038】
このガラスセラミックは、6.0重量%まで、そして特に0.1重量%〜5.0重量%のZnOを含有することが、さらに好ましい。
【0039】
本発明によるガラスセラミックはまた、さらなる成分を含有し得、これらのさらなる成分は、特に、三価元素の酸化物、さらなる四価元素の酸化物、さらなる五価元素の酸化物、融解加速剤、着色剤および蛍光剤から選択される。
【0040】
0.2重量%〜8.0重量%、特に1.0重量%〜7.0重量%、そして好ましくは2.5重量%〜3.5重量%の三価元素の酸化物を含有するガラスセラミックが好ましく、この酸化物は特に、Al、Biおよびこれらの混合物から選択され、そして好ましくは、Alである。
【0041】
用語「さらなる四価元素の酸化物」とは、SiO以外の四価元素の酸化物をいう。さらなる四価元素の酸化物の例は、ZrO、SnOおよびGeOであり、特に、ZrOである。
【0042】
用語「さらなる五価元素の酸化物」とは、P以外の五価元素の酸化物をいう。さらなる五価元素の酸化物の例は、Biである。
【0043】
少なくとも1種のさらなる四価元素の酸化物またはさらなる五価元素の酸化物を含有するガラスセラミックが好ましい。
【0044】
融解加速剤の例は、フッ化物である。
【0045】
着色剤および蛍光剤の例は、d元素およびf元素の、発色性または蛍光性の酸化物(例えば、Sc、Ti、Mn、Fe、Ag、Ce、Pr、Tb、ErおよびYb、特にTi、Mn、Fe、Ag、Ce、Pr、TbおよびErの酸化物)である。
【0046】
以下の成分:
成分 重量%
SiO 54.0〜80.0、特に60.0〜70.0
LiO 11.0〜19.0、特に12.0〜15.0
O 0.5〜13.5、特に1.0〜7.0
Al 0.2〜8.0、特に1.0〜7.0
アルカリ土類金属酸化物 0〜6.0、特に0.1〜5.0
ZnO 0〜6.0、特に0.1〜5.0
遷移金属酸化物 8.5〜30.0、特に9.0〜25.0
0.5〜12.0、特に2.5〜6.0
ZrO 0.1〜4.0、特に0.5〜2.0
着色剤 0.1〜8.0、特に0.2〜2.0および
蛍光剤
のうちの少なくとも1つ、そして好ましくは全てを含有するガラスセラミックが、特に好ましい。
【0047】
以下で使用される用語「主要結晶相」とは、他の結晶相と比較して体積の割合が最も高い結晶相をいう。
【0048】
本発明によるガラスセラミックは、好ましくは、メタケイ酸リチウムを主要結晶相として有する。特に、このガラスセラミックは、ガラスセラミック全体に対して5体積%より多く、好ましくは10体積%より多く、そして特に好ましくは15体積%より多くのメタケイ酸リチウム結晶を含有する。
【0049】
さらに好ましい実施形態において、このガラスセラミックは、二ケイ酸リチウムを主要結晶相として有する。特に、このガラスセラミックは、ガラスセラミック全体に対して5体積%より多く、好ましくは10体積%より多く、そして特に好ましくは15体積%より多くの二ケイ酸リチウム結晶を含有する。
【0050】
本発明による二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、特に良好な機械特性により特徴付けられ、そして本発明によるメタケイ酸リチウムガラスセラミックの熱処理により製造され得る。
【0051】
高い原子番号を有する遷移金属のその高い含有量にもかかわらず、本発明による二ケイ酸リチウムガラスセラミックは通常、良好な半透明性を有し、そして非晶質−非晶質相分離が起こらないこともまた、驚くべきことであり、従って、例えば、歯科用修復物の美的に好ましいコーティングのために使用され得る。
【0052】
本発明による二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、良好な機械特性および高い化学耐性を有する。
【0053】
本発明はまた、上記本発明によるガラスセラミックの成分を含有するケイ酸リチウムガラスに関する。このガラスの好ましい実施形態に関して、本発明によるガラスセラミックの上記好ましい実施形態が参照される。驚くべきことに、高い原子番号を有する遷移金属の高い含有量にもかかわらず、均質な透明なガラスが得られ得、このガラスは、非晶質−非晶質相分離または自発的結晶化などの望ましくない現象を示さないことが、示された。従って、これらのガラスは、本発明によるガラスセラミックの調製に適切である。あるいは、例えば歯科材料(特に無機−有機複合材)における充填材としての使用もまた、可能である。本発明の主題はまた、上記ガラスセラミックまたはガラス、および少なくとも1種の重合性モノマーを含有する、重合性組成物である。適切なモノマーおよび複合材のさらなる成分は、当業者に公知である。
【0054】
メタケイ酸リチウム結晶および/または二ケイ酸リチウム結晶の形成に適切な核を有するケイ酸リチウムガラスが、特に好ましい。
【0055】
核を有する本発明のガラスは、対応して構成された出発ガラスの熱処理により製造され得る。さらなる熱処理によって、本発明によるメタケイ酸リチウムガラスセラミックが次いで形成され得、これは次に、さらなる熱処理によって、本発明による二ケイ酸リチウムガラスセラミックに転換され得る。出発ガラスである核を有するガラス、およびメタケイ酸リチウムガラスセラミックは、結果として、高強度二ケイ酸リチウムガラスセラミックの製造のための前駆体とみなされ得る。
【0056】
本発明によるガラスセラミックおよび本発明によるガラスは、特に、粉末またはブランクの形態で存在する。なぜなら、これらの形態において容易にさらに加工され得るからである。しかし、これらはまた、歯科用修復物(例えば、インレー、アンレー、クラウンまたは橋脚歯)の形態で存在し得る。
【0057】
本発明はまた、本発明によるガラスセラミックおよび本発明による核を有するガラスの調製のためのプロセスに関し、このプロセスにおいて、このガラスセラミックまたはこのガラスの成分を有する出発ガラスが、450℃〜950℃の範囲での少なくとも1回の熱処理に供される。
【0058】
従って、この出発ガラスは、少なくとも8.5重量%の、上に規定されたような少なくとも1種の遷移金属の酸化物を含有する。さらに、この出発ガラスはまた、好ましくは、ケイ酸リチウムガラスセラミックの形成を可能にする目的で、適切な量のSiOおよびLiOを含有する。さらに、この出発ガラスはまた、さらなる成分(例えば、本発明によるケイ酸リチウムガラスセラミックについて上に与えられたもの)を含有し得る。ガラスセラミックについてもまた好ましいものとして与えられた実施形態が、好ましい。
【0059】
出発ガラスを調製するために、その手順は特に、適切な出発材料(例えば、カーボネート、酸化物、ホスフェートおよびフッ化物)の混合物が、特に1300℃〜1600℃、好ましくは1450℃〜1500℃の温度で、2時間〜10時間融解されるプロセスである。特に高い均質性を達成するために、得られたガラス融解物は、ガラス顆粒を形成する目的で水に注がれ、そして得られた顆粒が次いで、再度融解される。
【0060】
次いで、この融解物は、型に注がれて、出発ガラスのブランク(いわゆる固体ガラスブランクまたはモノリシックブランク)を製造し得る。冷却は、好ましくは、500℃の温度から室温まで、3K/分〜5K/分の冷却速度で行われる。このことは、応力のないガラス製品を製造するために特に有利である。
【0061】
顆粒を調製する目的で、この融解物を再度水に入れることもまた可能である。次いで、この顆粒は、粉砕および必要に応じてさらなる成分(例えば、着色剤および蛍光剤)の添加後にプレスされて、ブランク(いわゆる粉末未焼結コンパクト)を形成し得る。
【0062】
最後に、この出発ガラスはまた、顆粒化後に粉末を形成するように加工され得る。
【0063】
次いで、この出発ガラスは、例えば固体ガラスブランク、粉末未焼結コンパクトまたは粉末の形態で、450℃〜950℃の範囲での少なくとも1回の熱処理に供される。1回目の熱処理は、メタケイ酸リチウム結晶および/または二ケイ酸リチウム結晶を形成するのに適切な核を有する本発明によるガラスを調製するために、500℃〜600℃の範囲の温度で最初に実施されることが好ましい。次いで、このガラスは、好ましくは、より高温(特に、570℃より高温)での少なくとも1回のさらなる温度処理に供されて、メタケイ酸リチウムまたは二ケイ酸リチウムの結晶化を起こし得る。
【0064】
本発明によるプロセスにおいて実施される少なくとも1回の熱処理はまた、本発明によるガラスまたは本発明によるガラスセラミックをセラミック上にプレスまたは焼結する枠組み内で、行われ得る。
【0065】
歯科用修復物(例えば、インレー、アンレー、クラウンまたは橋脚歯)が、本発明によるガラスセラミックおよび本発明によるガラスから調製され得る。従って、本発明はまた、歯科用修復物の調製のためのこれらの使用に関する。
【0066】
本発明によるガラスセラミックおよび本発明によるガラスの、その前駆体としての上記特性の観点から、これらはまた、特に歯科学において使用するのに適切である。従って、本発明の主題はまた、本発明によるガラスセラミックまたは本発明によるガラスの、歯科材料として(特に、歯科用修復物の調製における)、または歯科用修復物(例えば、クラウンおよびブリッジ)のためのコーティング材料としての、使用である。
【0067】
本発明は、実施例を参照しながら以下により詳細に記載される。
【実施例】
【0068】
(実施例1〜10 - 組成および結晶相)
表Iに与えられる組成(それぞれ重量%単位)を有する、合計10個のガラスおよびガラスセラミックを、対応する出発ガラスを融解し、続いて制御された核形成および結晶化のための熱処理により調製した。
【0069】
これらの出発ガラスを最初に、100g〜200gの規模で、慣習的な素材から1400℃〜1500℃で融解し、そして水に注ぐことにより、ガラスフリットに転換した。次いで、これらのガラスフリットを、均質化のために、1450℃〜1550℃で1時間〜3時間、2回目として融解した。得られたガラス融解物を予熱した型に注いで、ガラスモノリスを製造した。これらのガラスモノリスを、熱処理によって、本発明によるガラスおよびガラスセラミックに転換した。
【0070】
全ての熱処理の完了後に得られた結晶相を、高温X線回折(HT−XRD)により、各場合において表Iに列挙される温度で決定した。驚くべきことに、二ケイ酸リチウムを主要結晶相として含有するガラスセラミックが常に得られた。高い原子番号を有する遷移金属の高い含有量にもかかわらず、これらの遷移金属において二次結晶相は見られなかった。
【0071】
最後に、それぞれのガラス相の屈折率を、Abbe屈折率測定機(20℃、589nm)を使用して決定した。本発明によるガラスセラミックが、比較ガラスセラミックよりかなり高い屈折率を有することが示された。
【0072】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも8.5重量%の遷移金属酸化物を含有するケイ酸リチウムガラスセラミックであって、該遷移金属酸化物は、イットリウムの酸化物、41〜79の原子番号を有する遷移金属の酸化物およびこれらの酸化物の混合物からなる群より選択される、ケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項2】
少なくとも8.5重量%の遷移金属酸化物を含有し、該遷移金属酸化物は、Y、Nb、La、Ta、Wの酸化物、およびこれらの酸化物の混合物からなる群より選択される、請求項1に記載のガラスセラミック。
【請求項3】
8.5重量%〜30.0重量%、好ましくは9.0重量%〜25.0重量%、特に9.5重量%〜20.0重量%、好ましくは10.0重量%〜18.0重量%、より好ましくは10.5重量%〜16.0重量%、そして最も好ましくは11.0重量%〜15.0重量%の前記遷移金属酸化物を含有する、請求項1または2に記載のガラスセラミック。
【請求項4】
54.0重量%〜80.0重量%、そして特に60.0重量%〜70.0重量%のSiOを含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項5】
11.0重量%〜19.0重量%、そして特に12.0重量%〜15.0重量%のLiOを含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項6】
0.5重量%〜12.0重量%、そして特に2.5重量%〜6.0重量%の造核剤を含有し、該造核剤は特に、P、TiO、および/または金属から選択され、そして好ましくは、Pである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項7】
0.5重量%〜13.5重量%、好ましくは1.0重量%〜7.0重量%、そして特に好ましくは2.0重量%〜5.0重量%の量の、さらなるアルカリ金属酸化物を含有し、該さらなるアルカリ金属酸化物は特に、KO、CsOおよび/またはRbOであり、そして好ましくは、KOである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項8】
6.0重量%まで、そして特に0.1重量%〜5.0重量%のアルカリ土類金属酸化物を含有し、該アルカリ土類金属酸化物は、好ましくは、CaO、BaO、MgOおよび/またはSrOであり、そして/あるいは6.0重量%まで、そして特に0.1重量%〜5.0重量%のZnOを含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項9】
0.2重量%〜8.0重量%、特に1.0重量%〜7.0重量%、そして好ましくは2.5重量%〜3.5重量%の三価元素の酸化物を含有し、該三価元素の酸化物は特に、Alおよび/またはBiであり、そして好ましくは、Alである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項10】
少なくとも1種のさらなる四価元素の酸化物、特にZrO、SnOもしくはGeOを含有するか、または少なくとも1種のさらなる五価元素の酸化物、特にBiを含有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項11】
以下の成分:
成分 重量%
SiO 54.0〜80.0、特に60.0〜70.0
LiO 11.0〜19.0、特に13.0〜17.0
Al 0.2〜8.0、特に1.0〜7.0
O 0.5〜13.5、特に1.0〜7.0
アルカリ土類金属酸化物 0〜6.0、特に0.1〜5.0
ZnO 0〜6.0、特に0.1〜5.0
遷移金属酸化物 8.5〜30.0、特に9.0〜25.0
0.5〜12.0、特に2.5〜6.0
ZrO 0.1〜4.0、特に0.5〜2.0
着色剤 0.1〜8.0、特に0.2〜2.0
および蛍光剤
のうちの少なくとも1つ、そして好ましくは全てを含有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のガラスセラミックの成分を含有する、ケイ酸リチウムガラス。
【請求項13】
前記ガラスが、メタケイ酸リチウム結晶および/または二ケイ酸リチウム結晶を形成するのに適切な核を含有する、請求項12に記載のケイ酸リチウムガラス。
【請求項14】
粉末、ブランクまたは歯科用修復物の形態で存在する、請求項1〜11のいずれか1項に記載のガラスセラミック、または請求項12もしくは13に記載のガラス。
【請求項15】
請求項1〜11もしくは14のいずれか1項に記載のガラスセラミック、または請求項12〜14のいずれか1項に記載のガラスの調製のためのプロセスであって、該ガラスセラミックまたは該ガラスの成分を有する出発ガラスが、450℃〜950℃の範囲での少なくとも1回の熱処理に供される、プロセス。
【請求項16】
歯科材料として、特に、歯科用修復物をコーティングするため、および歯科用修復物の調製のため、ならびに無機−有機複合材における充填材としての、請求項1〜11もしくは14のいずれか1項に記載のガラスセラミック、または請求項12〜14のいずれか1項に記載のガラスの使用。

【公開番号】特開2011−225442(P2011−225442A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88671(P2011−88671)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(505247661)イフォクレール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト (5)
【Fターム(参考)】