説明

選択された脂環式ビスフェノールと他のビスフェノールから生成されるビスクロロ炭酸エステルオリゴマー

【課題】選択された脂環式ビスフェノールと他のビスフェノールからの線形の統計的なコポリカーボネートの製造のために有用なビスクロロ炭酸エステルの混合物を提供する。
【解決手段】選択された脂環式ビスフェノールと他のビスフェノールから、2相反応において、ホスゲンを導入することによりビスクロロ炭酸エステルオリゴマーを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2相反応において、選択された脂環式ビスフェノールとそれ以外のビスフェノールとからホスゲンの導入により生成されるビスクロロ炭酸エステル(Bischlorkohlensaureester)オリゴマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ビスクロロ炭酸エステルは、例えば、溶液重合から環式のポリカーボネート化合物(独国特許第19636539号公報によれば、高分子ポリカーボネート用の前駆体として)や線形のポリカーボネートを製造するための遊離体として適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許第19636539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビスフェノール1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(TMCビスフェノール)は、高いガラス温度(glass temperature)のポリカーボネートを生成する。より低いガラス温度のポリカーボネートは、そのより優れた作業性のために、しばしば必要とされている。
【0005】
好適な化合物は、例えば、他のビスフェノールとのコポリマーである。
【0006】
一般に、TMCビスフェノールのビスクロロ炭酸エステル前駆体オリゴマー(前駆体1;V1)を別のビスクロロ炭酸エステル前駆体オリゴマー(前駆体2;V2)と反応前に混合することは可能である。しかし、それから、ビスフェノールモノマー(V1)および(V2)の統計的な連続物がその後の反応で得られず、その代わりに、前駆体1と前駆体2のブロックが形成される。このため、それ自体がTMCビスフェノールと他のビスフェノールから統計的に構成されるビス炭酸エステル前駆体オリゴマーを調製することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、式(I)、(II)および(III)のビスクロロ炭酸エステルの混合物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、式(I)、(II)および(III)のビスクロロ炭酸エステルの混合物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
従って、本発明は、式(I)、(II)および(III)のビスクロロ炭酸エステルの混合物を提供する。
【0010】
【化1】

【0011】
式中、
およびRは、互いに独立して、水素、ハロゲン、好ましくは塩素または臭素、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、C〜C10−アリール、好ましくはフェニル、およびC〜C12−アラルキル、好ましくはフェニル−C〜C−アルキル、特にベンジルを表し、
mは、4〜7の整数であって、好ましくは4または5であり、
およびRは、互いに独立して、水素またはC〜C−アルキルを表し、そして
Xは、炭素を表し、
ただし、上記の式(I)または(III)において、繰り返し単位1個につき、少なくとも1個のX原子において、RおよびRが、同時に、アルキルを表し、
Zは、炭素原子6個〜30個を有する芳香族基であって、芳香族核を1個以上含有していてもよく、置換されていてもよく、そして、脂肪族基または式(I)中の脂環式基とは異なる脂環式基またはブリッジ型架橋のつなぎとしてのヘテロ原子を含有していてよく、
p、q、rおよびsは、1〜15の自然数を表し、そして、脂環式ビスフェノール単位:脂肪族ビスフェノール単位のモル比は、1:10〜10:1である。
【0012】
Zは、好ましくは、以下のものである。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Meは、メチル基である。)
【0015】
ビスクロロ炭酸エステルの混合物は、好ましくは、式(IV):式(V)のビスフェノールのモル比1:10〜10:1の混合物に、水と有機溶媒、好ましくは塩化メチレンから成る2相系において、−5℃〜40℃でホスゲンを導入することにより調製される。水相のpHは、アルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類水酸化物を添加するかまたはそれを先に供給することにより、1〜13、好ましくは2〜9に維持する。
【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
式中、X、R、R、R、Rおよびmは、式(I)に関して示した意味を表す。
【0019】
好ましくは、分子(IV)1個につき1〜2個のX原子、特に、唯一1個のX原子におけるRおよびRは、同時に、アルキルを表す。
【0020】
好ましいアルキル基は、メチルである。ジフェニル置換されたC原子(C−1)に対してα位のX原子は、好ましくは、ジアルキル置換されていないが、C−1に対してβ位では、アルキル2置換が好ましい。
【0021】
脂環式基中の環に炭素原子を5個および6個有するジヒドロキシジフェニルシクロアルカン(式(IV)中、mが、4または5であるもの)が好ましく、例えば、下記の式(IVa)〜式(IVc)のジフェノールである。
【0022】
【化5】

【0023】
【化6】

【0024】
ここで、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(式(IVa)においてRおよびRがHを表すもの)が特に好ましい。ポリカーボネートは、式(I)のジフェノールから独国特許出願第P3832396.6号に従って生成されてよい。
【0025】
繰り返し単位には、式(IV)のジフェノールに加えて、他のジフェノール、例えば、式(V)で表されるものが使用される。
【0026】
【化7】

【0027】
前記式(V)で表される好適なジフェノールは、式中、Zが、炭素数6〜30の芳香族基でかつ芳香族核を1個以上含有していてもよく、置換されていてもよく、なおかつ、式(I)に対応するものとは別の脂肪族基もしくは脂環式基、またはブリッジ型架橋のつなぎとしてヘテロ原子を含有していてよいものである。
【0028】
式(V)のジフェノールの例は、ヒドロキノン、レゾルシノール、ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、α,α’−ビス(ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン、並びに、これらの環−アルキル化および環−ハロゲン化された化合物である。
【0029】
好ましいジフェノールは、α,α’−ビス(ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼンおよび2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンであり、α,α’−ビス(ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンおよび2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが特に好ましい。
【0030】
前記ジフェノールおよびそれ以外の好適なジフェノールは、例えば、研究論文:エイチ・シュネル(H.Schnell)著、「ケミストリー・アンド・フィジックス・オブ・ポリカーボネーツ(Chemistry and Physics of Polycarbonates)」、インターサイエンス・パブリッシャーズ、ニューヨーク、1964年に開示されている。
【0031】
ビスフェノール類(V)とそれ以外のビスフェノール類の混合物も当然、コ−ビスフェノール(cobisphenols)として使用してよい。
【0032】
これに関し、他の好ましいビスフェノールの例は、以下のものである。4,4’−ジヒドロキシジフェニル、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、α,α’−ビス(ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4,4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4−ビス(3,4−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン。
【0033】
式(IV)のビスフェノールとして使用される化合物は、好ましくは、1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンまたは1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)−3−メチルシクロヘキサンであり、特に好ましくは、1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである。
【0034】
式(V)のビスフェノールとして使用される化合物は、好ましくは、2,2−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)エタン、または2,2−ビス(ヒドロキシフェニル)ブタンであり、特に好ましくは、2,2−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパンである。
【0035】
本発明は、環式コ−オリゴカーボネートの製造のための本発明のビスクロロ炭酸エステルの混合物の使用も提供する。
【0036】
環式コ−オリゴカーボネートの合成は、塩化メチレン中のビスクロロ炭酸エステルと、3〜15モル%の有機アミン、好ましくはトリエチルアミンとの混合物の溶液を、塩化メチレンと水との2相混合物に同時に添加することによって行われる。その間、水相のpH値は、アルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類水酸化物を添加または先に供給することによって、7〜13、好ましくは9〜11に維持され、そして温度は、0℃〜40℃、好ましくは30℃〜40℃である。必要に応じて、10モル%までの他のビスフェノール類を更に使用する。
【0037】
本発明は、線形の統計的なコポリカーボネートの製造のための本発明のビスクロロ炭酸エステルの混合物の使用も提供する。
【0038】
本発明のビスクロロ炭酸エステルから生成される高分子ポリカーボネートは、任意に他のビスクロロ炭酸エステルと組み合わせて、ポリカーボネート製造のための公知の方法により、好ましくは相界面法により生成されてよい(エイチ・シュネル著、「ケミストリー・アンド・フィジックス・オブ・ポリカーボネーツ」、ポリマー・レヴューズ、第IX巻、33頁以降、インターサイエンス・パブリッシャーズ、1964年を参照のこと)。
【0039】
線形の統計的なコポリカーボネート(linearen,statistischen Copolycarbonate(linear statistical copolycarbonates))の合成は、例えば、ビスクロロ炭酸エステルの混合物の塩化メチレン溶液を、水に溶解された無機塩基、好ましくはアルカリ金属水酸化物と、pH7〜13および0℃〜40℃の温度において、有機アミン、好ましくはトリエチルアミンもしくはN−エチルピペリジン0.01〜2モル%の存在下、場合により式(IV)および式(V)のビスフェノール類を0〜80モル%およびモノフェノール類を0〜7モル%添加して、2相反応により行われる。
【0040】
通常使用される濃度の一官能価の化合物は、それ自体公知のポリカーボネートの分子量制御のための連鎖停止剤として使用される。好適な化合物は、例えば、フェノール、tert−ブチルフェノールまたは他のアルキル置換フェノールである。特に、少量の式(VI)のフェノールが分子量を制御するのに適している。
【0041】
【化8】

【0042】
(式中、Rは、分岐したC−および/またはC−アルキル基を表す。)
【0043】
アルキル基R中、CHプロトンの割合は、好ましくは47%〜89%であり、CH−およびCHプロトンの割合は、好ましくは53%〜11%である。同様に、好ましくは、Rは、OH基に対してo−および/またはp−位にあり、特に好ましくは、オルト体の割合の上限は20%である。連鎖停止剤は、一般に、用いられるジフェノールに対して0.5〜10モル%、好ましくは1.5〜8モル%の量で使用される。
【0044】
得られるコポリカーボネートは、ブロック型構造でも交互構造でもない。得られるコポリカーボネートは、統計的に構成される(statistisch aufgebaut(built up statistically))。
【0045】
以下の実施例により、本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0046】
実施例
実施例1
本発明のビスクロロ炭酸エステル混合物の調製
ホスゲン300gを、TMCビスフェノール155g(0.5モル)、BPA 114g(0.5モル)および塩化メチル1.2Lから成る混合物に0℃で150分間かけて導入した。同時に、25%NaOHを添加して、混合物のpH値を2〜5にした。このために、約1LのNaOHを要した。ホスゲンの導入後、pH値を8〜9に調節して、溶液がホスゲンを含まなくなるまで窒素を通過させた。相分離した後、有機相を1N HClで洗浄し、その後、水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥させて、蒸発させた。収率は、285gであり、加水分解性塩素の含量は14.5%であった。非オリゴマー化ビスクロロ炭酸エステルの混合物は理論上、加水分解性の塩素を18.0%含有している。従って、p、q、rおよびsが1を越えるオリゴクロロ炭酸エステル部分が含まれている。
【0047】
実施例2
環式オリゴカーボネートの調製
(使用例)
塩化メチレン200mL、水7mL、9.75モルのNaOH水溶液2mLおよびトリエチルアミン2.4mLを40℃で1リットルフラスコに同時に入れて、激しく撹拌しながら、実施例1のビスクロロ炭酸エステル混合物78.8gの塩化メチレン溶液200mL、0.75モルのNaOH水溶液59mLおよびトリエチルアミンの10%塩化メチレン溶液25mLを28分間かけて導入した。ビスクロロ炭酸エステルの溶液の導入は、液面下で行った。相分離した後、生成物を1N HClで洗浄し、水で3回洗浄して、有機相を蒸発させた。60.2gの物質が得られた。これは、HPLCによれば、約80%程度の環式化合物から構成されていた。
【0048】
実施例3
線形のポリカーボネート(linearen Polycarbonats(linear polycarbonate))の調製
(使用例)
実施例1のビスクロロ炭酸エステル39.4g、45%NaOH 62g、p−tert−ブチルフェノール0.53gおよび塩化メチレン400gをフラスコに入れ、N−エチルピペリジン0.1gをそこへ添加し、次いで、混合物を1時間撹拌した。混合物は、HClで酸性化し、有機相を分離して、真空乾燥オーブンで蒸発させた。相対溶液粘度(25℃において塩化メチレン中0.5%)1.29およびガラス温度199℃のポリカーボネート30gが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)、(II)および(III):
【化1】

(式中、
およびRは、互いに独立して、水素、ハロゲン、好ましくは塩素または臭素、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、C〜C10−アリール、好ましくはフェニル、およびC〜C12−アラルキル、好ましくはフェニル−C〜C−アルキル、特にベンジルを表し、
mは、4〜7の整数であって、好ましくは4または5であり、
およびRは、互いに独立して、水素またはC〜C−アルキルを表し、そして
Xは、炭素を表し、
ただし、式(I)または式(III)において、繰り返し単位1個につき、少なくとも1個のX原子において、RおよびRは、同時に、アルキルを表し、
Zは、炭素原子6個〜30個を有する芳香族基であって、芳香族核を1個以上含有していてもよく、置換されていてもよく、そして、脂肪族基または式(I)中の脂環式基とは異なる脂環式基またはブリッジ型架橋のつなぎとしてのヘテロ原子を含有していてよく、
p、q、rおよびsは、1〜15の自然数を表し、そして、脂環式ビスフェノール単位:脂肪族ビスフェノール単位のモル比は、1:10〜10:1である)
で表されるビスクロロ炭酸エステルの混合物。
【請求項2】
Zが、以下の基:
【化2】

(式中、Meは、メチル基を表す)
に相当する請求項1記載の混合物。
【請求項3】
環式コ−オリゴカーボネートの製造のための請求項1または2記載のビスクロロ炭酸エステルの混合物の使用。
【請求項4】
線形の統計的なコポリカーボネート(linearer statistischer Copolycarbonate(linear statistical copolycarbonates))の製造のための請求項1または2記載のビスクロロ炭酸エステルの混合物の使用。

【公開番号】特開2012−31413(P2012−31413A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183295(P2011−183295)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【分割の表示】特願2001−511520(P2001−511520)の分割
【原出願日】平成12年7月6日(2000.7.6)
【出願人】(591063187)バイエル アクチェンゲゼルシャフト (67)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−51368 Leverkusen, Germany
【Fターム(参考)】