説明

選択培地の製造方法及びその利用

【課題】特定の基準に従って、数多くの微生物が混在している中で、標的となる微生物を優勢的に増殖させることができる選択培地を製造する方法を提供する。
【解決手段】微生物の生物学的情報に基づいて、該微生物によって資化される少なくとも一種の炭素源、及び/又は、該微生物に耐性のある少なくとも一種の抗生物質を選択する工程;並びに選択された炭素源及び/又は抗生物質、並びに基礎培地成分を混合する工程を含む、該微生物用選択培地の製造方法、ならびに該選択培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の生物学的情報に基づいて微生物を優勢的に増殖させるための成分を選択し、次いで選択された成分、並びに基礎培地成分を混合することを含む、微生物用選択培地の製造方法に関する。さらに本発明は、該製造方法により製造される微生物用選択培地及び該選択培地を含む微生物を検出するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
動植物の病原菌は、空気伝染、接触伝染、雨水伝染などにより蔓延し、動植物に対して多大な被害をもたらす。例えば、植物の病原菌としては種子伝染性の病原菌がある。種子伝染性の病原菌による汚染は、汚染率がわずかなロットの種子からも被害が拡散する傾向にあり、特に多数の苗を養成する共同育苗や接木栽培などにおいて、甚大な被害に発展する可能性がある。
【0003】
これら種子伝染性病害を回避するために、種子は、種子ロットごとに病原菌の感染の有無を検査されている。汚染種子の検査方法としては、温室内又はプラスチック箱内の培養土に播種して、発芽後の幼苗に現れる病徴で評価するgrow-out test及びsweatboxgrow-out testがある。これらの方法は、病徴から病原菌を特定できるという利点があるが、被検種子の数に応じて、種子伝染性病原の生育に適した一定の温度及び湿度に管理された広範なスペースの施設が必要であった。さらに、これらの方法は、被検種子の発芽率が常に100%とは限らないことから、汚染種子が発芽しないことにより、被検ロットは病原菌に侵されていないという偽陰性の評価がなされる可能性があった。また、これらの方法は、我が国で実施された実績が少なく、事実上海外の検査機関に依頼しなければならなかった。
【0004】
その他の汚染種子の検出方法としては、病原菌の存在をコロニーとして検出するコロニー検出法が知られている。コロニー検出法は、種子を溶液に浸して攪拌洗浄し、次いで得られた種子洗浄液をそのまま、又はプレインキュベートしたものを、他の微生物種に対して対象とする病原菌が優勢的に生育できる選択培地に塗沫して、病原菌に適した条件でインキュベートすることにより通常行われている。例えば、この方法に用いられる選択培地として、Burkholderia glumae、Acidovarax avenae subp. avenae、Agrobacterium tumefaciens、Burkholderia caryophylli、Erwinia carotovara subsp. carotovora、Ralstonia solanacearum、Xamthomonas campestris pv. campestrisなどの細菌が特異的に増殖し得る選択培地がこれまでに知られている(非特許文献1〜7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kawaradani M, Okada K, Kusakari S, (2000), Journal of General Plant Pathology 66, 234-237
【非特許文献2】白川 隆 ,會澤 雅夫,小宮 友紀子,我孫子 和雄, (2000), 種子, 植物体からのAcidovorax avenae subsp. citrulliの分離・検出を目的とした選択培地の開発, 日本植物病理學會報,66, 132
【非特許文献3】Kado, C. I., and M. G. Heskett., (1970), Phytopathology 60:969-976.
【非特許文献4】青野信男、加藤邦彦, (1979), カーネーション萎ちょう細菌病菌選択培地の検討.神奈川県園芸試験所研究報告.26, 84-89
【非特許文献5】津山博之, (1962), 白菜軟腐病に関する研究, 東北大学農学研究所彙報, 13, 221-345
【非特許文献6】原秀紀,小野邦明, (1982), タバコ立枯病の発生生態に関する研究, 岡山県たばこ試験報告, 42, 127-138
【非特許文献7】Chun WWC, Alvarez AM,, (1983), Plant Disease 67, 632-635
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コロニー検出法には、種子を発芽させるためのスペースに比べると選択培地を培養するためのスペースを狭くすることができること、被検種子の発芽率によらず汚染種子を検出することができること、国内で簡易に検査できることなどの、grow-out test及びsweatboxgrow-out testに対して多くの有利な点がある。さらにコロニー検出法では、種子の汚染の度合いを病原菌のコロニーの数によって把握することも可能である。
【0007】
しかし、従前のコロニー検出法は、図1〜7に示す如く、雑多な微生物のコロニーの中から対象となる病原菌のコロニーを選別しなければならないことから、病原菌の検出、特に病原菌の汚染の度合いを検出することが困難である。
【0008】
従前のコロニー検出法における上記問題をもたらす原因の一つとして、標的となる病原菌などの微生物に対して選択培地の選択性が低いことが考えられる。特に、数多くの微生物が混在している中で、標的となる微生物を優勢的に増殖させることができる選択培地やこのような選択培地を製造する方法はこれまでに知られていない。従前の選択培地は微生物の種類ごとにいわゆる経験則によって組成が決められているが、微生物の性質などの特定の基準にそって選択培地を製造する方法もまたこれまでに知られていない。
【0009】
そこで、本発明は、特定の基準に従って、数多くの微生物が混在している中で、標的となる微生物を優勢的に増殖させることができる選択培地を製造する方法を提供することを解決すべき課題とした。さらに、本発明は、該製造方法により製造される選択培地及び該選択培地を含む微生物を検出するためのキットを提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、バイオインフォマティクスを利用して、標的となる微生物の生物学的情報に基づいて、微生物が優勢的に資化することができる炭素源及び/又は微生物が耐性のある抗生物質を選択し、次いで選択された炭素源及び/又は抗生物質と基礎培地成分を混合することを含む方法により製造された選択培地を用いれば、微生物を優勢的に培養できることを見出した。本発明は、上記知見により完成された発明である。
【0011】
したがって、本発明によれば、微生物の生物学的情報に基づいて、該微生物によって資化される少なくとも一種の炭素源、及び/又は、該微生物に耐性のある少なくとも一種の抗生物質を選択する工程;並びに
選択された炭素源及び/又は抗生物質、並びに基礎培地成分を混合する工程
を含む、該微生物用選択培地の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の別の側面によれば、微生物の生物学的情報に基づいて、該微生物によって資化される少なくとも一種の炭素源、及び、該微生物に耐性のある少なくとも一種の抗生物質を選択する工程;並びに
選択された炭素源及び抗生物質、並びに基礎培地成分を混合する工程
を含む、該微生物用選択培地の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の微生物用選択培地の製造方法の好ましい態様は、基礎培地成分が、窒素源、緩衝物質、及びミネラル物質を含む。
【0014】
本発明の微生物用選択培地の製造方法の好ましい態様は、微生物が、細菌又は真菌である。
【0015】
本発明の微生物用選択培地の製造方法の好ましい態様は、細菌が、Acidovorax avenae subsp. avenae、Agrobacterium tumefaciens、Burkholderia caryophylli、Burkholderia glumae、Erwinia carotovora subsp. carotovora、Ralstonia solanacearum、Xanthomonas campestris pv. campestris、又はBurkholderia cepaciaである。
【0016】
本発明の微生物用選択培地の製造方法の好ましい態様は、炭素源を選択するための生物学的情報が、微生物の炭素代謝情報である。
【0017】
本発明の微生物用選択培地の製造方法の好ましい態様は、抗生物質を選択するための生物学的情報が、微生物の遺伝子情報である。
【0018】
本発明の微生物用選択培地の製造方法の好ましい態様は、遺伝子が、抗生物質耐性遺伝子又は抗生物質合成遺伝子である。
【0019】
本発明の微生物用選択培地の製造方法の好ましい態様は、微生物によって資化される少なくとも一種の炭素源が、アラビノース、マンニトール、トレハロース、イノシトール、アルギニン、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、グルタミン酸、チロシン、バリン、及びポリガラクツロン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の炭素源である。
【0020】
本発明の微生物用選択培地の製造方法の好ましい態様は、微生物に耐性のある少なくとも一種の抗生物質が、アンピシリン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマイド、ポリミキシン、カルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン、ネオマイシン、チロスリシン、ストレプトマイシン及びバンコマイシンからなる群から選ばれる少なくとも一種の抗生物質である。
【0021】
本発明の微生物用選択培地の製造方法の好ましい態様は、微生物用選択培地が、完全合成培地である。
【0022】
本発明の別の側面によれば、本発明の微生物用選択培地の製造方法によって製造される、微生物用選択培地が提供される。
【0023】
本発明の選択培地の好ましい態様は、微生物がBurkholderia glumaeであり、炭素源としてアラビノースを含み、かつ抗生物質としてアンピシリン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマリド及びポリミキシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む。
【0024】
本発明の選択培地の好ましい態様は、微生物がAcidovarax avenae subp. avenaeであり、炭素源としてマンニトールを含み、かつ抗生物質としてカルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン及びネオマイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む。
【0025】
本発明の選択培地の好ましい態様は、微生物がAgrobacterium tumefaciensであり、炭素源としてマンニトールを含み、かつ抗生物質としてチロスリシン、セトリマイド、及びバンコマイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む。
【0026】
本発明の選択培地の好ましい態様は、微生物がBurkholderia caryophylliであり、炭素源としてソルビトールを含み、かつ抗生物質としてチロスリシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、及びポリミキシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む。
【0027】
本発明の選択培地の好ましい態様は、微生物がErwinia carotovara subsp. carotovoraであり、炭素源としてペクチン酸を含み、かつ抗生物質としてネオマイシン、ノボビオシン、セトリマイド、及びバンコマイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む。
【0028】
本発明の選択培地の好ましい態様は、微生物がRalstonia solanacearumであり、炭素源としてL−グルタミン酸を含み、かつ抗生物質としてポリミキシン、クロラムフェニコール、チカルシリン、カルベニシリン、及びバンコマイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む。
【0029】
本発明の選択培地の好ましい態様は、微生物がXamthomonas campestris pv. campestrisであり、炭素源としてマンニトールを含み、かつ抗生物質としてノボビオシン、ネオマイシン、及びバンコマイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む。
【0030】
本発明の選択培地の好ましい態様は、微生物がBurkholderia cepaciaであり、炭素源としてアラビノースを含み、かつ抗生物質としてストレプトマイシン及びアンピシリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む。
【0031】
本発明の選択培地の好ましい態様は、形状が、液体状、固体状、又は保持体に浸漬させた形状である。
【0032】
本発明の別の側面によれば、本発明の選択培地を含む、微生物を検出するためのキットが提供される。
【0033】
本発明のキットの好ましい態様は、スティック状又は液体状である。
【発明の効果】
【0034】
本発明の製造方法によれば、所望でない微生物の増殖を制限し、対象とする微生物を優勢的に増殖させることができる選択培地を製造することができる。本発明の製造方法によって製造された本発明の選択培地を用いれば、微生物、例えば、Acidovorax avenae subsp. avenae、Agrobacterium tumefaciens、Burkholderia caryophylli、Burkholderia glumae、Erwinia carotovora subsp. carotovora、Ralstonia solanacearum、Xanthomonas campestris pv. campestrisなどの植物病原性の微生物やBurkholderia cepaciaなどの動物病原性の微生物を、他の微生物種より優勢的に増殖させることができる。微生物としては、これまでにゲノム情報が明らかにされている微生物や遺伝子や酵素に関する情報が豊富な微生物を対象とすることが可能である。本発明の選択培地は、完全合成培地とすることにより、天然成分を含む培地と比して、耐熱性があり、ロット間差がなく、さらに原材料の入手困難性のリスクを低減することが可能である。本発明の選択培地やキットによれば、微生物の増殖を発色や濁りなどで視認することにより、検体中の微生物汚染を正確かつ簡便に確認することが可能となり、これにより微生物汚染の拡大防止が大いに期待される。さらに本発明の選択培地やキットは、これまでに知られている微生物に特異的なプライマーを用いて種々の微生物からなる集団から抽出したDNAの一部をPCR増幅することにより標的となる微生物の有無を検出する方法や、微生物に特異的な抗体を用いて抗原抗体反応により微生物の有無を検出する方法と比べると、DNAの抽出や細菌の単離などを要せず、さらにPCRを行うための器具なども要しない。したがって、本発明の選択培地やキットは、これらの方法に比べて簡便かつ迅速に大量の試料から標的となる微生物の有無を検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、既報の選択培地を用いたAcidovarax avenae subp. avenaeの培養結果を示す。
【図2】図2は、既報の選択培地を用いたAgrobacterium tumefaciensの培養結果を示す。
【図3】図3は、既報の選択培地を用いたBurkholderia caryophylliの培養結果を示す。
【図4】図4は、既報の選択培地を用いたBurkholderia glumaeの培養結果を示す。
【図5】図5は、既報の選択培地を用いたErwinia carotovara subsp. carotovoraの培養結果を示す。
【図6】図6は、既報の選択培地を用いたRalstonia solanacearumの培養結果を示す。
【図7】図7は、既報の選択培地を用いたXamthomonas campestris pv. campestrisの培養結果を示す。
【図8】図8は、本発明の保持体に浸漬させた形状の選択培地の構造の一例を示す。
【図9】図9は、本発明のスティック状のキットの一例を示す。
【図10】図10は、図9のキットの使用方法の概略を示す。
【図11】図11は、本発明のスティック状のキットの一例を示す。
【図12】図12は、本発明の選択培地を用いたAcidovarax avenae subp. avenaeの培養結果を示す。
【図13】図13は、本発明の選択培地を用いたAgrobacterium tumefaciensの培養結果を示す。
【図14】図14は、本発明の選択培地を用いたBurkholderia caryophylliの培養結果を示す。
【図15】図15は、本発明の選択培地を用いたBurkholderia glumaeの培養結果を示す。
【図16】図16は、本発明のの選択培地を用いたErwinia carotovara subsp. carotovoraの培養結果を示す。
【図17】図17は、本発明の選択培地を用いたRalstonia solanacearumの培養結果を示す。
【図18】図18は、本発明の選択培地を用いたXamthomonas campestris pv. campestrisの培養結果を示す。
【図19】図19は、実施例8(4)のBurkholderia glumaeの選択培養中の微生物数の変動を示す。
【図20】図20は、実施例8(6)のBurkholderia caryophylliの選択培養中の微生物数の変動を示す。
【図21】図21は、実施例9のBurkholderia caryophylliの選択培養結果を示す。
【図22】図22は、OXOID社製選択培地を用いたBurkholderia cepaciaの培養結果を示す。
【図23】図23は、本発明の選択培地を用いたBurkholderia cepaciaの培養結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明について以下に詳細に説明する。
本発明の製造方法は、微生物の生物学的情報に基づいて微生物を優先的に増殖させるために選択された成分と基礎培地成分を混合して、微生物用選択培地を製造する方法に関する。
【0037】
微生物用選択培地とは、標的となる微生物(以下、「標的微生物」と呼ぶ場合もある)を優勢的に増殖させることができる培地を指す。ここで、「優勢的に」とは、培地上で増殖させることができる標的微生物の数がその他の微生物を合計した数よりも多いことを示し、例えば、これらの比は、60:40が好ましく、70:30がより好ましく、80:20がさらに好ましく、90:10がなおさらに好ましく、95:5が特に好ましい。
【0038】
微生物の生物学的情報に基づいて選択される成分としては、例えば、標的となる微生物の増殖に要求される栄養素や標的微生物以外の微生物の増殖を阻害する物質などを挙げることができ、好ましくは炭素源と抗生物質である。本発明の製造方法において、それぞれ1種又は2種以上の炭素源及び/又は抗生物質が選択され得る。
【0039】
微生物の生物学的情報に基づいて選択される成分は、一種以上であればよく、例えば、炭素源及び抗生物質のいずれか一方でもよい。しかし、標的微生物を優勢的に増殖させるためには、微生物の生物学的情報に基づいて選択される成分は二種以上が好ましく、例えば、炭素源と抗生物質の両方を選択することが好ましい。
【0040】
基礎培地成分は、微生物の増殖にとって必要最小限の培地組成、例えば、窒素源、ミネラル物質、及び緩衝物質を含有してなる。ただし、微生物の生物学的情報に基づいて選択される成分に炭素源が含まれない場合は、基礎培地成分には炭素源が含まれる。
【0041】
基礎培地成分に含まれる窒素源としては、窒素を含有する無機化合物であれば特に制限されないが、例えば、アンモニウム塩や硝酸塩を用いることができ、具体的には、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸アンモニウムなどを用いることができる。ただし、炭素源としてグルタミン酸などのアミノ酸、尿素などの窒素含有有機化合物を用いる場合は、これらを窒素源として用いることもできる。
【0042】
基礎培地成分に含まれる緩衝物質としては、pHの変化を抑える緩衝作用を持つ物質又はその組み合わせであれば特に制限されないが、例えば、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液を構成する物質を用いることができ、具体的には、酢酸及び酢酸ナトリウム;リン酸及びリン酸二水素ナトリウム;リン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素二ナトリウム;リン酸二水素カリウム及びリン酸水素二ナトリウム;クエン酸及びクエン酸ナトリウム;トリスヒドロキシメチルアミノメタン及び塩酸;トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びエチレンジアミン四酢酸;トリスヒドロキシメチルアミノメタン、酢酸及びエチレンジアミン四酢酸;トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ホウ酸及びエチレンジアミン四酢酸;トリスヒドロキシメチルアミノメタン及び塩化ナトリウム;ホウ酸及び塩化ナトリウム;酒石酸及び酒石酸ナトリウムなどを用いることができるが、炭素を含まない化合物又はその組み合わせが好ましい。
【0043】
基礎培地成分に含まれるミネラル物質としては、微生物の増殖に要求されるミネラル物質であれば特に制限されないが、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などを用いることができ、具体的には、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどが用いられる。基礎培地成分に含めるべきミネラル物質は、例えば、乾燥させた微生物を成分分析して、分析結果から決定することもできる。さらに、生物学的情報に基づいて選択された成分によっては、代謝や遺伝子発現において特定のミネラル物質を要求する場合もある。このような場合は、微生物が生物学的情報に基づいて選択された成分を利用できるために、適宜要求されるミネラル物質を基礎培地成分に含めることが好ましい。
【0044】
本発明の製造方法では、必要に応じて、ビオチンやチアミンなどのビタミンなどを適宜含めることができる。さらに微生物の増殖の確認を容易にするために、増殖した微生物を着色するための染色性物質(染色剤)を追加することも好ましい。染色剤としては、通常知られている微生物に親和性のある染色剤であれば特に制限されないが、例えば、微生物が微生物である場合はBTBやクリスタルバイオレットなどを用いることができ、特に微生物がグラム陰性細菌である場合は、グラム陽性細菌に対する殺菌作用を期待してクリスタルバイオレットを用いることが好ましい。また、本発明の製造方法では、標的微生物以外の微生物の増殖を抑制する抗生物質等を追加することが好ましい。例えば、微生物が細菌である場合は、真菌の増殖を抑制するために抗真菌性の抗生物質、例えば、シクロヘキシミドを追加することが好ましい。上記のビタミン、染色剤、抗生物質などは、本発明の製造方法において、基礎培地成分とすることもできるし、基礎培地成分の追加物質とすることもできる。本発明の製造方法により得られる選択培地は、それぞれ1種又は2種以上の窒素原、緩衝物質、ミネラル物質、ビタミン、染色剤、抗生物質などの物質を含み得る。
【0045】
微生物の生物学的情報は、微生物に関する生物学的な情報であれば制限なく用いることができる。生物学的情報は、選択する成分によって適宜調整できるが、選択する成分によって同じ又は異なる生物学的情報を利用することができる。例えば、微生物の生物学的情報としては、微生物の遺伝子情報、酵素情報、各栄養素の代謝情報などを挙げることができ、選択する成分が炭素源の場合は炭素代謝情報が好ましく、選択する成分が抗生物質の場合は抗生物質耐性遺伝子及び抗生物質合成遺伝子に関する情報が好ましい。微生物の生物学的情報は、例えば、微生物のゲノム情報を基に作成された公共のデータベース、例えば、KEGGやNCBIなどのサイトにより入手可能である。
【0046】
微生物は、あらゆる原核生物及び真核生物を制限なく包含し、具体的には、細菌、真菌、原生生物、並びに植物及び動物の組織、器官、組織などを挙げることができる。本発明の標的となる微生物は、公共のデータベースなどで生物学的情報を知ることができるものが好ましく、細菌及び真菌がより好ましい。細菌及び真菌の中でも、植物や動物に対して病原性のある細菌及び真菌、すなわち植物病原性細菌、植物病原性真菌、動物病原性細菌、及び動物病原性真菌を標的微生物として本発明を実施することができる。植物病原性細菌としては、例えば、下記表1に記載の細菌を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。表1において、左欄に記載の細菌が右欄に記載の疾病をもたらし得る。
【表1】

【0047】
植物病原性細菌の具体例としては、Acidovorax avenae subsp. avenae、Agrobacterium tumefaciens、Burkholderia caryophylli、Burkholderia glumae、Erwinia carotovora subsp. carotovora、Ralstonia solanacearum、Xanthomonas campestris pv. campestrisなどを挙げることができる。
【0048】
同様に、植物病原性真菌としては、例えば、下記表2に記載の真菌を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。表2において、左欄に記載の真菌が右欄に記載の疾病をもたらし得る。
【表2】

【0049】
動物病原性細菌としては、例えば、ヒトのう胞性線維症を伴う肺感染症の病原菌であるBurkholderia cepaciaを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0050】
微生物が細菌又は真菌である場合の基礎培地成分は、窒素原、緩衝物質、及びミネラル物質によって構成することができる。より具体的には、微生物が細菌である場合の基礎培地成分は、好ましくはアンモニウム塩、リン酸緩衝液を構成する物質、マグネシウム塩、カルシウム塩を含み、より好ましくは塩化アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムを含む。これらの含有量(濃度)は、適宜調整することができるが、例えば、下記表3の組成が好ましい。下記表3の組成以外にも、例えば、M9最小培地(Miller, JH, 1972)からグルコース(糖)を除いた組成の培地を用いることができる。
【表3】

【0051】
微生物が真菌である場合の基礎培地成分は、好ましくは硝酸塩、リン酸緩衝液を構成する物質、マグネシウム塩、鉄塩を含み、より好ましくは硝酸ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、硫化鉄を含む。真菌である場合の基礎培地成分には、真菌は細菌と異なって、アンモニウム塩を代謝できず、さらに増殖に要求されるミネラル物質がカルシウムではないことから、これらに代えて硝酸塩及び鉄を用いている。これらの含有量(濃度)は、適宜調整することができるが、例えば、下記表4の組成が好ましい。
【表4】

【0052】
微生物の生物学的情報に基づいて、これらの微生物によって資化される炭素原を選択するに際して、選択されるべき炭素原は以下の方法により事前の絞込みをすることが好ましい。
【0053】
任意の炭素源、クリスタルバイオレット(抗生物質)及び寒天を基礎培地成分と混合し、寒天培地を作製する。この培地上に、植物栽培土壌 1g を100 ml 水に懸濁した土壌懸濁水 100 μlを 塗抹する(繰り返し数:3)。30℃で5日間培養し、培地上に形成した糸状菌及び細菌のコロニー数を計測する。各数値は「炭素源なし」の培地上のコロニー数を100%とした相対値で示す(%)。コロニー形成度が30(糸状菌)及び60(細菌)を下回る生育阻害度の高い炭素源を選抜する。値が小さいほど、その炭素源を資化する雑菌(糸状菌及び細菌)が少ないことを示す。
【0054】
上記方法によって事前に試された炭素原を下記表5に示す。
【表5】

【0055】
表5に記載の通り、土壌中の雑菌による資化性の低い炭素原は、アラビノース、マンニトール、トレハロース、イノシトール、アルギニン、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、チロシン、バリン、及びポリガラクツロン酸である。ただし、これらに加えて、炭素源及び窒素源となり、各種生合成の出発物質として有用なグルタミン酸を含めることが好ましい。したがって、微生物の生物学的情報に基づいて、これらの微生物によって資化される炭素原を選択する場合は、アラビノース、マンニトール、トレハロース、イノシトール、アルギニン、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、グルタミン酸、チロシン、バリン、及びポリガラクツロン酸からなる群から選択することが、これらの微生物を優勢的に増殖させるために好ましい。
【0056】
例えば、Acidovorax avenae subsp. avenaeの炭素代謝情報に基づいて、Acidovorax avenae subsp. avenaeによって資化される炭素原は以下の方法により選択することができる。
KEGGデータベース(http://www.genome.jp/kegg/)にアクセスする。次いで「KEGG PATHWAY」をクリックする。次いで「Search」を「MODULE」とし、対象「for」の横のカラムに任意の炭素源を入力し、検索「Go」を実行する。次いで表示されるリストの中から「Pathway map」をクリックし、Pathway mapのページへ移動する。プルダウンバーの菌名一覧から「Acidovorax avenae」を選択する。次いで選んだ代謝経路のそれぞれについて、細胞外(extracellular)の表示のある炭素源を選択する。次いで細胞外炭素源の中からGlycolysisに繋がる炭素源を選択する。
【0057】
なお、選択した炭素源と基礎培地成分を混合した培地を作製し、次いでAcidovorax avenae subsp. avenae及び雑菌を塗沫して、次いでAcidovorax avenae subsp. avenaeの資化性が高く、かつ雑菌の資化性が低い炭素源を選び出すことにより、選択した炭素源の中から選択培地に適した最適な炭素源を決定することができる。
【0058】
KEGGデータベースにおいて、pathwayページでは各細菌の代謝経路が示される。代謝経路の例を図1とした。図1において、D-Mannitol(糖の一種)に赤丸を入れている。赤丸の横にある[1.1.1.11]というボックスはD-Mannitolを隣のD-Fructoseに分解する酵素である。このボックスを持っているということはD-MannitolをD-Fructoseに変換できることを意味する。このボックスは図1右下のGlycolysisというボックスにつながっている。Glycolysisまで繋がるということは生物の生育に必要なATPの合成が可能となり、その生物が生育できることを意味する。任意の細菌について、KEGGデータベースをこのように使用して、D-MannitolがGlucolysisまで繋がるならば、この細菌がD-Mannitolを使用できるとし、繋がらないならば生育するために使用できないとする。D-Mannitol以外の炭素源についても同様の操作を行うことによって、培地の炭素源を決定することができる。
【0059】
抗生物質もまた、微生物に耐性があって、これらの微生物以外の微生物に耐性のない抗生物質であることが好ましく、さらに一般的に入手可能な抗生物質であることがより好ましく、アンピシリン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマイド、ポリミキシン、カルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン、ネオマイシン、チロスリシン、ストレプトマイシン及びバンコマイシンからなる群から選ばれる抗生物質であることがさらに好ましい。
【0060】
例えば、Acidovorax avenae subsp. avenaeの遺伝子情報に基づいて、Acidovorax avenae subsp. avenaeに耐性のある抗生物質は以下の方法により選択することができる。
NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)にアクセスし、「Search」を「Nucleotide」とし、対象「for」の横のカラムに、Acidovorax avenae[ORGN]、任意の抗生物質名の順に入力し、検索「Go」を実行し、該抗生物質耐性遺伝子又は該抗生物質合成遺伝子を検索する。このとき、Acidovorax avenae subsp. avenaeが該抗生物質耐性遺伝子又は該抗生物質合成遺伝子を有さない場合は、検索結果がゼロとなる。次いでこれらの遺伝子のいずれか、又は両方ある抗生物質を、選択培地に含める抗生物質として選択する。なお、検索された遺伝子が該抗生物質耐性遺伝子又は該抗生物質合成遺伝子であることを文献等により確認することが好ましい。
【0061】
抗生物質耐性遺伝子としては、例えば、抗生物質に結合して不活性化するタンパク質をコードする遺伝子を用いることができる。抗生物質耐性遺伝子の具体例としては、カルベニシリンに対するBeta-lactamase遺伝子;チカルシリンに対するtauD遺伝子;ペニシリンに対するpenicillin-binding protein 1C遺伝子;ストレプトマイシンに対するstrB遺伝子;バンコマイシンに対するbme2遺伝子及びsanA遺伝子;アンピシリンに対するβ−ラクタマーゼ遺伝子;ポリミキシンに対するarnA遺伝子;クロラムフェニコールに対するクロラムフェニコールアセチル化酵素遺伝子;及びこれらの遺伝子産物のホモログをコードする遺伝子などを用いることができる。
【0062】
抗生物質合成遺伝子としては、例えば、抗生物質の合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子を用いることができる。抗生物質合成遺伝子の具体例としては、ネオマイシンに対するネオマイシンリン酸基転移酵素neo遺伝子、チロスリシンに対するチロスリシン合成酵素tycC遺伝子;セトリマイドに対するセトリマイドの細胞外輸送ポンプsugE遺伝子;ノボビオシンに対するノボビオシン排出ポンプ遺伝子MdtA遺伝子、MdtB遺伝子、及びMdtC遺伝子、並びにノボビオシン合成酵素aspC遺伝子;並びにこれらの遺伝子産物のホモログをコードする遺伝子などを用いることができる。
【0063】
微生物の生物学的情報に基づいて選択された炭素源や抗生物質などの成分は、基礎培地成分と混合される。混合方法は、通常知られている方法、例えば、手動による混合やミキサーなどを用いた機械的な混合などを制限なく用いることができる。混合に際して、上記成分と基礎培地成分を加える順番も適宜調整できるが、構造的に安定な化合物から不安定な化合物へと加えていくのが一般的である。上記した方法によって得られる選択培地の具体例としては、実施例に示される組成の選択培地を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
本発明の製造方法によって得られる選択培地は、微生物の生物学的情報に基づいて選択された炭素源及び抗生物質などの成分、並びに基礎培地成分に含まれる、又は追加される窒素源、緩衝物質、ミネラル物質、ビタミン、染色剤、抗生物質などについて、これらを全て化学合成された化合物とすることにより、完全合成培地とすることができる。完全合成培地は、天然成分を含む半合成培地や天然培地と比べて、温度やpHによる変動が予測し易く、製造ごとのロット間の差が少なく、さらに化合物は市場での入手が容易であるなどの利点を有する。したがって、本発明の製造方法によって得られる選択培地は、完全合成培地であることが好ましい。
【0065】
本発明は、本発明の製造方法によって得られる選択培地を包含する。本発明の選択培地の好ましい例としては、炭素源としてアラビノース、抗生物質としてアンピシリン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマリド及びポリミキシンからなる群から選ばれる1種、2種、3種、4種又は5種の抗生物質、並びに基礎培地成分を少なくとも含む、Burkholderia glumae用選択培地;炭素源としてマンニトール、抗生物質としてカルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン及びネオマイシンからなる群から選ばれる1種、2種、3種、又は4種の抗生物質、並びに基礎培地成分を少なくとも含む、Acidovarax avenae subp. avenae用選択培地;炭素源としてマンニトール、抗生物質としてチロスリシン、セトリマイド、及びバンコマイシンからなる群から選ばれる1種、2種、又は3種の抗生物質、並びに基礎培地成分を少なくとも含む、Agrobacterium tumefaciens用選択培地;炭素源としてソルビトール、抗生物質としてチロスリシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、及びポリミキシンからなる群から選ばれる1種、2種、3種、又は4種の抗生物質、並びに基礎培地成分を少なくとも含む、Burkholderia caryophylli用選択培地; 炭素源としてペクチン酸、抗生物質としてネオマイシン、ノボビオシン、セトリマイド、及びバンコマイシンからなる群から選ばれる1種、2種、3種、又は4種の抗生物質、並びに基礎培地成分を少なくとも含む、Erwinia carotovara subsp. carotovora用選択培地;炭素源としてL−グルタミン酸、抗生物質としてポリミキシン、クロラムフェニコール、チカルシリン、カルベニシリン、及びバンコマイシンからなる群から選ばれる1種、2種、3種、4種又は5種の抗生物質、並びに基礎培地成分を少なくとも含む、Ralstonia solanacearum用選択培地;炭素源としてマンニトール、抗生物質としてノボビオシン、ネオマイシン、及びバンコマイシンからなる群から選ばれる1種、2種、又は3種の抗生物質、並びに基礎培地成分を少なくとも含む、Xamthomonas campestris pv. campestris用選択培地;炭素源としてアラビノース、抗生物質としてストレプトマイシン及びアンピシリンからなる群から選ばれる1種、又は2種の抗生物質、並びに基礎培地成分を少なくとも含む、Burkholderia cepacia用選択培地などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、これらの培地において、添加される抗生物質の種類は、その数が多いほど好ましい。
【0066】
本発明の選択培地は、通常知られている培地の形態により特に制限なく提供され得るが、例えば、液体状、固体状、保持体に浸漬させた形状で提供され得る。本発明の液体状の選択培地は、通常知られている液体培地の製造方法を制限なく用いることができるが、例えば、微生物の生物学的情報に基づいて選択された炭素源や抗生物質などの成分と基礎培地成分を液体、好ましくは水に溶解して製造できる。本発明の固体の選択培地は、通常知られている固体培地の製造方法を制限なく用いることができるが、例えば、微生物の生物学的情報に基づいて選択された炭素源や抗生物質などの成分、基礎培地成分、及び凝固性物質、好ましくは寒天を液体、好ましくは水に溶解し、次いで溶解液を固めて製造することができる。
【0067】
本発明の保持体に浸漬させた形状の選択培地は、液体状又は固体状の選択培地を紙、ろ紙、布、膜などの保持体に浸漬又は塗布などによって展着させてなる形状を有する。本発明の保持体に浸漬させた形状の選択培地の好ましい例を、図8に示した。図8のA層は、透視性、通気性、及び防乾・保湿性を有する紙、布、シュリンクフィルムなどの材質の粘着テープの層であり、この層は粘着成分を含まない上記素材と両面粘着テープの組合せも可能である。図8のB層は、培地構成成分を保持するための紙、濾紙、布、膜などの材質からなる層である。図8のC層は、防水性を有するポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの材質からなる支持体 (台紙) の層である。図8の選択培地について、吸水側のB層が露出している部分に被測定溶液を滴下すると、溶液はB層中に自然に拡散し、次いで選択対象の微生物が溶液中に存在した場合には微生物が繁殖し、存在しない場合には微生物の増殖は起こらない。図8のB層中に微生物が取り込まれると染色する染色剤を混合することにより、微生物が増殖した場合には、微生物のコロニーを目視により確認することが可能となる。図8のB層は、一部又は全部に微生物の生物学的情報に基づいて選択された成分及び基礎培地成分を含み得る。例えば、図8のB層の一部を微生物の生物学的情報に基づいて選択された成分及び基礎培地成分を含む検出部とし、該B層の他の一部を該微生物以外の微生物が増殖し得る成分を含む対照部とすることができる。
【0068】
本発明には、本発明の選択培地を含む、微生物を検出するためのキットも包含する。本発明のキットは、従来知られているキットの形状を制限なく用いることができるが、好ましくはスティック状又は液体状である。本発明のキットは、試料中に標的となる微生物が存在するか否かを確認するために使用することができる。本発明のキットは、本発明の選択培地の他に、微生物を含む検体を本発明の選択培地に適用するための器具を含み得る。
【0069】
本発明のスティック状のキットの好ましい例を、図9とした。図9に示された本発明のキットは、本発明の保持体に浸漬させた形状の選択培地と、該選択培地を包含し、かつ該選択培地の一部を視認できる検出窓及び吸水部(口)を備えた耐腐食性のスティック(棒)からなる。図9のキットは、例えば、土壌懸濁液の一部をパラフィンなどの疎水性の膜の上にとり、次いでこれを毛細管現象により該選択培地の吸水口より吸い上げ、次いで微生物の生育に適した温度で適当な時間をインキュベートすることにより、検出窓から微生物の増殖及び対照としてその他の土壌中の雑菌の増殖をコロニーとして確認することができる(図10)。
【0070】
本発明のスティック状のキットのその他の好ましい例として、図11に示したフタ型及びシール型のスティック状キットを挙げることができる。これらのキットは、一部に本発明の選択培地を含み、この選択培地部に微生物を含む検体を滴下し、フタ又は付属シールで密封し、微生物に適した条件で培養することにより、微生物の増殖をコロニーとして確認することができる。
【0071】
本発明の液体状のキットは、例えば、本発明の液体状の選択培地を、エッペンドルフチューブなどのキャップ付容器に加えてなる。本発明の液体状のキットは、例えば、以下の方法で使用できる。
【0072】
種子や土壌を水や緩衝液などの溶液と混合し、場合によっては超音波処理をするなどして、試料懸濁液を作製する。作製した試料懸濁液の一部を、本発明のキットに添加し、選択対象となる細菌の増殖に適した条件下で、24時間インキュベートする。24時間のインキュベートで雑菌は死滅し、対象となる細菌のみ増殖する。インキュベートした本発明のキットに、生菌のみを染色する試薬ChemChrome V23を添加し、フローサイトメーターで計数する。なお、ChemChrome V23は細菌のエステラーゼ活性により、480nmのレーザー光を吸収し、525nmの励起光を発する物質に変換される。対象となる細菌の混入したサンプルでのみ100cfu/ml以上の値が計測される。この方法によれば、数多くの種子や土壌を、非破壊検査によって自動的に高感度で検査することが可能となる。フローサイトメーターは、細菌懸濁液中の細菌を蛍光染色したサンプル溶液を装置にセットすると個々の細菌が装置内部のフローセル中を直線上に流れ、この流れの一部に青色レーザーを照射することにより、細菌の蛍光を検知し、通過した細菌数を測定することを原理とする。これまでに、特異的蛍光抗体や蛍光DNAプローブで蛍光染色し、Flow cytometerで測定する手法が報告されているが、非特異反応によるバックグラウンドが検出されるため、検出感度は105 cfu/mlと低く、操作が煩雑であった。
【0073】
上記方法において、ChemChrome V23の代わりにBTBを用いることにより、細菌の増殖をキット内の液体の色の変化によって目視により確認でき、フローサイトメーターの使用を回避できる。例えば、選択培地1 ml中に100 cfu程度の細菌が存在すれば、培養24時間で緑から黄色に液体の色が変化する。
【0074】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0075】
Acidovorax avenae subsp. avenae用選択培地の製造方法
(1)炭素源の選択
Acidovorax avenae subsp. avenaeはゲノム解読が終了していないため、同種であるAcidovorax avenae subsp. citrulliのゲノム情報を用いた。炭素源の絞込みを行い(表5)、その結果から、アラビノース、マンニトール、トレハロース、イノシトール、アルギニン、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、チロシン、バリン、及びポリガラクツロン酸を1次スクリーニングした。
【0076】
KEGGデータベース(http://www.genome.jp/kegg/)にアクセスし、次いで「KEGG PATHWAY」をクリックし、次いで「Search」を「MODULE」とし、対象「for」の横のカラムに1次スクリーニングした炭素源の中の1種を入力し、検索「Go」を実行した。次いで表示されるリストの中から「Pathway map」をクリックし、Pathway mapのページへ移動する。プルダウンバーの菌名一覧から「Acidovorax avenae」を選択した。次いで選んだ代謝経路のそれぞれについて、細胞外(extracellular)の表示のある炭素源であることを確認し、さらにGlycolysisに繋がる炭素源であることを選択した。その結果、Acidovorax avenae subsp. avenaeは、マンニトール分解酵素遺伝子を有することから、Acidovorax avenae subsp. avenaeに優勢的に資化される炭素源としてマンニトールを選択した。
【0077】
(2)抗生物質の選択
NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)にアクセスした。「Search」を「Nucleotide」とし、対象「for」の横のカラムに、Acidovorax avenae、[ORGN]、及び抗菌作用が広域である抗生物質である、アンピシリン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマイド、ポリミキシン、カルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン、ネオマイシン、チロスリシン、又はバンコマイシンを順に入力し、検索「Go」を実行し、各抗生物質に対する抗生物質耐性遺伝子又は抗生物質合成遺伝子を検索した。その結果、Acidovorax avenae subsp. avenaeに耐性のある抗生物質として、カルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン、ネオマイシンを選択した。
【0078】
(3)基礎培地成分
基礎培地成分は、M9最小培地を参照して表6の通りとした。
【表6】

【0079】
マンニトールの代謝経路からマンニトールの代謝にはモリブデンが要求されることを見出したことから、Na2MoO4・2H2Oを追加した。真核生物のタンパク質合成阻害剤であり、真菌の生育を抑制するシクロヘキシミドを追加した。染色剤であり、かつグラム陽性菌を殺菌し得るクリスタルバイオレットを追加した。
【0080】
(4)選択培地の組成
上記した成分を含み、かつ固体培地とするために寒天を加えた選択培地を表7に示した。
【表7】

【0081】
(5)培地評価
表7の組成の選択培地(図12)と表8の組成の既報の培地(図1)を用いて、Acidovorax avenae subsp. avenaeの増殖の選択性について評価した。
【表8】

【0082】
図1と12から明らかな通り、Acidovorax avenae subsp. avenaeは、表8の組成の培地に比べて、表7の組成の培地において、優勢的に増殖した。
【実施例2】
【0083】
Agrobacterium tumefaciens用選択培地の製造方法
(1)炭素源の選択
Agrobacterium tumefaciensのゲノムは未解読であるが、多くの遺伝情報がデータベースに存在している。炭素源の絞込みを行い(表5)、その結果から、アラビノース、マンニトール、トレハロース、イノシトール、アルギニン、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、チロシン、バリン、及びポリガラクツロン酸を1次スクリーニングした。
【0084】
KEGGデータベース(http://www.genome.jp/kegg/)にアクセスし、次いで「KEGG PATHWAY」をクリックし、次いで「Search」を「MODULE」とし、対象「for」の横のカラムに1次スクリーニングした炭素源の中の1種を入力し、検索「Go」を実行した。次いでプルダウンバーの菌名一覧から「Agrobacterium tumefaciens」を選択した。次いで選んだ代謝経路のそれぞれについて、細胞外(extracellular)の表示のある炭素源であることを確認し、さらにGlycolysisに繋がる炭素源であることを選択した。その結果、Agrobacterium tumefaciens はマンニトール分解酵素遺伝子を有していることから、Agrobacterium tumefaciensに優勢的に資化される炭素源としてマンニトールを選択した。
【0085】
(2)抗生物質の選択
NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)にアクセスした。「Search」を「Nucleotide」とし、対象「for」の横のカラムに、Agrobacterium tumefaciens、[ORGN]、及びアンピシリン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマイド、ポリミキシン、カルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン、ネオマイシン、チロスリシン、又はバンコマイシンの順に入力し、検索「Go」を実行し、各抗生物質に対する抗生物質耐性遺伝子又は抗生物質合成遺伝子を検索した。その結果、Agrobacterium tumefaciensに耐性のある抗生物質として、ストレプトマイシン、チロスリシン、セトリマイド、及びバンコマイシンを選択した。
【0086】
(3)基礎培地成分
基礎培地成分は、M9最小培地を参照して表6の通りとした。
【0087】
真核生物のタンパク質合成阻害剤であり、真菌の生育を抑制するシクロヘキシミドを追加した。染色剤であり、かつグラム陽性菌を殺菌し得るクリスタルバイオレットを追加した。
【0088】
(4)選択培地の組成
上記した成分を含み、かつ固体培地とするために寒天を加えた選択培地を表9に示した。
【表9】

【0089】
(5)培地評価
表9の組成の選択培地(図13)と表10の組成の既報の培地(図2)を用いて、Agrobacterium tumefaciensの増殖の選択性について評価した。
【表10】

【0090】
図2と13から明らかな通り、Agrobacterium tumefaciensは、表10の組成の培地に比べて、表9の組成の培地において、優勢的に増殖した。
【実施例3】
【0091】
Burkholderia caryophylli用選択培地の製造方法
(1)炭素源の選択
Burkholderia caryophylliのゲノムは未解読であるが、多くの遺伝情報がデータベースに存在している。炭素源の絞込みを行い(表5)、その結果から、アラビノース、マンニトール、トレハロース、イノシトール、アルギニン、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、チロシン、バリン、及びポリガラクツロン酸を1次スクリーニングした。
【0092】
KEGGデータベース(http://www.genome.jp/kegg/)にアクセスし、次いで「KEGG PATHWAY」をクリックし、次いで「Search」を「MODULE」とし、対象「for」の横のカラムに1次スクリーニングした炭素源の中の1種を入力し、検索「Go」を実行した。次いでプルダウンバーの菌名一覧から「Burkholderia caryophylli」を選択した。次いで選んだ代謝経路のそれぞれについて、細胞外(extracellular)の表示のある炭素源であることを確認し、さらにGlycolysisに繋がる炭素源であることを選択した。その結果、Burkholderia caryophylli はソルビトール分解酵素遺伝子を有していることから、Burkholderia caryophylliに優勢的に資化される炭素源としてソルビトールを選択した。
【0093】
(2)抗生物質の選択
NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)にアクセスした。「Search」を「Nucleotide」とし、対象「for」の横のカラムに、Burkholderia caryophylli、[ORGN]、及びアンピシリン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマイド、ポリミキシン、カルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン、ネオマイシン、チロスリシン、又はバンコマイシンの順に入力し、検索「Go」を実行し、各抗生物質に対する抗生物質耐性遺伝子又は抗生物質合成遺伝子を検索した。その結果、Burkholderia caryophylliに耐性のある抗生物質として、チロスリシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、及びポリミキシンを選択した。
【0094】
(3)基礎培地成分
基礎培地成分は、M9最小培地を参照して表6の通りとした。なお、真核生物のタンパク質合成阻害剤であり、真菌の生育を抑制するシクロヘキシミドを追加した。染色剤であり、かつグラム陽性菌を殺菌し得るクリスタルバイオレットを追加した。アミノ酸合成速度を高めることによりコロニー形成速度を高めるために、アルギニンを追加した。
【0095】
(4)選択培地の組成
上記した成分を含み、かつ固体培地とするために寒天を加えた選択培地を表11に示した。
【表11】

【0096】
(5)培地評価
表11の組成の選択培地(図14)と表12の組成の既報の培地(図3)を用いて、Burkholderia caryophylliの増殖の選択性について評価した。
【表12】

【0097】
図3と14から明らかな通り、Burkholderia caryophylliは、表11の組成の培地に比べて、表12の組成の培地において、優勢的に増殖した。
【実施例4】
【0098】
Burkholderia glumae用選択培地の製造方法
(1)炭素源の選択
Burkholderia glumaeのゲノムは未解読であるが、多くの遺伝情報がデータベースに存在している。炭素源の絞込みを行い(表5)、その結果から、アラビノース、マンニトール、トレハロース、イノシトール、アルギニン、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、チロシン、バリン、及びポリガラクツロン酸を1次スクリーニングした。
【0099】
KEGGデータベース(http://www.genome.jp/kegg/)にアクセスし、次いで「KEGG PATHWAY」をクリックし、次いで「Search」を「MODULE」とし、対象「for」の横のカラムに1次スクリーニングした炭素源の中の1種を入力し、検索「Go」を実行した。次いでプルダウンバーの菌名一覧から「Burkholderia glumae」を選択した。次いで選んだ代謝経路のそれぞれについて、細胞外(extracellular)の表示のある炭素源であることを確認し、さらにGlycolysisに繋がる炭素源であることを選択した。その結果、Burkholderia glumaeはアラビノーストランスポーター遺伝子AraG遺伝子を有していることから、Burkholderia glumaeに優勢的に資化される炭素源としてアラビノースを選択した。
【0100】
(2)抗生物質の選択
NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)にアクセスした。「Search」を「Nucleotide」とし、対象「for」の横のカラムに、Burkholderia glumae、[ORGN]、及びアンピシリン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマイド、ポリミキシン、カルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン、ネオマイシン、チロスリシン、又はバンコマイシンの順に入力し、検索「Go」を実行し、各抗生物質に対する抗生物質耐性遺伝子又は抗生物質合成遺伝子を検索した。その結果、Burkholderia glumaeに耐性のある抗生物質として、アンピシリン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマイド、及びポリミキシンを選択した。
【0101】
(3)基礎培地成分
基礎培地成分は、M9最小培地を参照して表6の通りとした。真核生物のタンパク質合成阻害剤であり、真菌の生育を抑制するシクロヘキシミドを追加した。染色剤であり、かつグラム陽性菌を殺菌し得るクリスタルバイオレットを追加した。アミノ酸合成速度を高めることによりコロニー形成速度を高めるために、アルギニンを追加した。
【0102】
(4)選択培地の組成
上記した成分を含み、かつ固体培地とするために寒天を加えた選択培地を表13に示した。
【表13】

【0103】
(5)培地評価
表13の組成の選択培地(図15)と表14の組成の既報の培地(図4)を用いて、Burkholderia glumaeの増殖の選択性について評価した。
【表14】

【0104】
図4と15から明らかな通り、Burkholderia glumaeは、表13の組成の培地に比べて、表14の組成の培地において、優勢的に増殖した。
【実施例5】
【0105】
Erwinia carotovora subsp. carotovora用選択培地の製造方法
(1)炭素源の選択
Erwinia carotovora subsp. carotovoraのゲノムは未解読であるが、多くの遺伝情報がデータベースに存在している。炭素源の絞込みを行い(表5)、その結果から、アラビノース、マンニトール、トレハロース、イノシトール、アルギニン、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、チロシン、バリン、及びポリガラクツロン酸を1次スクリーニングした。
【0106】
KEGGデータベース(http://www.genome.jp/kegg/)にアクセスし、次いで「KEGG PATHWAY」をクリックし、次いで「Search」を「MODULE」とし、対象「for」の横のカラムに1次スクリーニングした炭素源の中の1種を入力し、検索「Go」を実行した。次いでプルダウンバーの菌名一覧から「Erwinia carotovora subsp. carotovora」を選択した。次いで選んだ代謝経路のそれぞれについて、細胞外(extracellular)の表示のある炭素源であることを確認し、さらにGlycolysisに繋がる炭素源であることを選択した。その結果、Erwinia carotovora subsp. carotovoraはペクチン酸分解酵素pectic acid lyase 3遺伝子を有することから、Erwinia carotovora subsp. carotovoraに優勢的に資化される炭素源としてペクチン酸を選択した。
【0107】
(2)抗生物質の選択
NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)にアクセスした。「Search」を「Nucleotide」とし、対象「for」の横のカラムに、Erwinia carotovora subsp. carotovora、[ORGN]、及びアンピシリン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマイド、ポリミキシン、カルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン、ネオマイシン、チロスリシン、又はバンコマイシンの順に入力し、検索「Go」を実行し、各抗生物質に対する抗生物質耐性遺伝子又は抗生物質合成遺伝子を検索した。その結果、Erwinia carotovora subsp. carotovoraに耐性のある抗生物質として、ネオマイシン、ノボビオシン、セトリマイド及びバンコマイシンを選択した。
【0108】
(3)基礎培地成分
基礎培地成分は、M9最小培地を参照して表6の通りとした。真核生物のタンパク質合成阻害剤であり、真菌の生育を抑制するシクロヘキシミドを追加した。染色剤であり、かつグラム陽性菌を殺菌し得るクリスタルバイオレットを追加した。
【0109】
(4)選択培地の組成
上記した成分を含み、かつ固体培地とするために寒天を加えた選択培地を表15に示した。
【表15】

【0110】
(5)培地評価
表15の組成の選択培地(図16)と表16の組成の既報の培地(図5)を用いて、Erwinia carotovora subsp. carotovoraの増殖の選択性について評価した。
【表16】

【0111】
図5と16から明らかな通り、Erwinia carotovora subsp. carotovoraは、表16の組成の培地に比べて、表15の組成の培地において、優勢的に増殖した。
【実施例6】
【0112】
Ralstonia solanacearum用選択培地の製造方法
(1)炭素源の選択
Ralstonia solanacearumのゲノムはすでに解読されている。炭素源の絞込みを行い(表5)、その結果から、アラビノース、マンニトール、トレハロース、イノシトール、アルギニン、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、チロシン、バリン、及びポリガラクツロン酸を1次スクリーニングした。
【0113】
KEGGデータベース(http://www.genome.jp/kegg/)にアクセスし、次いで「KEGG PATHWAY」をクリックし、次いで「Search」を「MODULE」とし、対象「for」の横のカラムに1次スクリーニングした炭素源の中の1種を入力し、検索「Go」を実行した。次いでプルダウンバーの菌名一覧から「Ralstonia solanacearum」を選択した。次いで選んだ代謝経路のそれぞれについて、細胞外(extracellular)の表示のある炭素源であることを確認し、さらにGlycolysisに繋がる炭素源であることを選択した。その結果、Ralstonia solanacearumはL−グルタミン酸が炭素化合物及び窒素化合物の合成の出発物質になることがわかったことから、Ralstonia solanacearumに優勢的に資化される炭素源としてL−グルタミン酸を選択した。
【0114】
(2)抗生物質の選択
NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)にアクセスした。「Search」を「Nucleotide」とし、対象「for」の横のカラムに、Ralstonia solanacearum、[ORGN]、及びアンピシリン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマイド、ポリミキシン、カルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン、ネオマイシン、チロスリシン、又はバンコマイシンの順に入力し、検索「Go」を実行し、各抗生物質に対する抗生物質耐性遺伝子又は抗生物質合成遺伝子を検索した。その結果、Ralstonia solanacearumに耐性のある抗生物質として、ポリミキシン、クロラムフェニコール、チカルシリン、カルベニシリン、及びバンコマイシンを選択した。
【0115】
(3)基礎培地成分
基礎培地成分は、M9最小培地を参照して表6の通りとした。真核生物のタンパク質合成阻害剤であり、真菌の生育を抑制するシクロヘキシミドを追加した。染色剤であり、かつグラム陽性菌を殺菌し得るクリスタルバイオレットを追加した。
【0116】
(4)選択培地の組成
上記した成分を含み、かつ固体培地とするために寒天を加えた選択培地を表17に示した。
【表17】

【0117】
(5)培地評価
表17の組成の選択培地(図17)と表18の組成の既報の培地(図6)を用いて、Ralstonia solanacearumの増殖の選択性について評価した。
【表18】

【0118】
図6と17から明らかな通り、Ralstonia solanacearumは、表18の組成の培地に比べて、表17の組成の培地において、優勢的に増殖した。
【実施例7】
【0119】
Xanthomonas campestris pv. campestris用選択培地の製造方法
(1)炭素源の選択
Xanthomonas campestris pv. campestrisの近縁のXanthomonas campestris pv. vesicatoriaのゲノムはすでに解読されている。炭素源の絞込みを行い(表5)、その結果から、アラビノース、マンニトール、トレハロース、イノシトール、アルギニン、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、チロシン、バリン、及びポリガラクツロン酸を1次スクリーニングした。
【0120】
KEGGデータベース(http://www.genome.jp/kegg/)にアクセスし、次いで「KEGG PATHWAY」をクリックし、次いで「Search」を「MODULE」とし、対象「for」の横のカラムに1次スクリーニングした炭素源の中の1種を入力し、検索「Go」を実行した。次いでプルダウンバーの菌名一覧から「Xanthomonas campestris pv. campestris」を選択した。次いで選んだ代謝経路のそれぞれについて、細胞外(extracellular)の表示のある炭素源であることを確認し、さらにGlycolysisに繋がる炭素源であることを選択した。その結果、Xanthomonas campestris pv. campestrisはマンニトール分解酵素遺伝子を有していることから、Xanthomonas campestris pv. campestrisに優勢的に資化される炭素源としてマンニトールを選択した。
【0121】
(2)抗生物質の選択
NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)にアクセスした。「Search」を「Nucleotide」とし、対象「for」の横のカラムに、Xanthomonas campestris pv. campestris、[ORGN]、及びアンピシリン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマイド、ポリミキシン、カルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン、ネオマイシン、チロスリシン、又はバンコマイシンの順に入力し、検索「Go」を実行し、各抗生物質に対する抗生物質耐性遺伝子又は抗生物質合成遺伝子を検索した。その結果、Xanthomonas campestris pv. campestrisに耐性のある抗生物質として、ノボビオシン、バンコマイシン、及びネオマイシンを選択した。
【0122】
(3)基礎培地成分
基礎培地成分は、M9最小培地を参照して表6の通りとした。マンニトールの代謝経路からマンニトールの代謝には鉄およびモリブデンが要求されることを見出したことから、Fe-EDTAおよびNa2MoO4・2H2Oを追加した。真核生物のタンパク質合成阻害剤であり、真菌の生育を抑制するシクロヘキシミドを追加した。染色剤であり、かつグラム陽性菌を殺菌し得るクリスタルバイオレットを追加した。
【0123】
(4)選択培地の組成
上記した成分を含み、かつ固体培地とするために寒天を加えた選択培地を表19に示した。
【表19】

【0124】
(5)培地評価
表19の組成の選択培地(図18)と表20の組成の既報の培地(図7)を用いて、Xanthomonas campestris pv. campestrisの増殖の選択性について評価した。
【表20】

【0125】
図7と18から明らかな通り、Xanthomonas campestris pv. campestrisは、表20の組成の培地に比べて、表19の組成の培地において、優勢的に増殖した。
【実施例8】
【0126】
液体選択培地を用いた病原性細菌の検出
(1)種子
基礎培地成分900 ulに種子を入れ、超音波処理10分で種子中の微生物を含む懸濁液を作製した。懸濁液から種子を取り除き、又は種子を取り除かずに、実施例1又は4の基礎培地成分を水に置き換えた選択培地100 ulを添加し、37℃、2000 rpm/minで24時間震盪培養し、試料溶液を得た。試料溶液100 ulをとり、蛍光試薬ChemChrome V23 1 ulを添加し、1 mlにメスアップした後、Flow cytometerで解析した。
【0127】
(2)土壌
基礎培地成分 10 (lに土壌1 gを入れ、vortexを10分して種子中の微生物を含む懸濁液を作製した。10分間静置し、上清100 ul を10000 rpm 10分間遠心し、上清を捨てた。基礎培地成分900 μlと、実施例3又は6の基礎培地成分を水に置き換えた選択培地100 (lを添加し、37℃、180 rpm/minで24時間震盪培養し、試料溶液を得た。試料溶液100 μlをとり、蛍光試薬ChemChrome V23 1 ulを添加し、1 mlにメスアップし、Flow cytometerで解析した。本方法によれば、実際には土壌0.01 gを検査していることになる。例えば、103 cfu/1 gの汚染土壌なら、10 cfuが液体選択培地に持ち込まれ選択培養される。
【0128】
(3)検出感度
検出感度は、種子の場合は病原菌1 cfu/1種子であり、土壌の場合は病原菌10000 cfu/1 g土壌である。ただし、栄養培地を使用すれば1000 cfu/1g土壌も検出可能である。
【0129】
(4)Burkholderia glumaeの検出
検査サンプルは、感染が疑われる検査種子10粒とした。(1)の方法によるFlow cytometerでの解析の結果、検査種子2、7、10でCyFlowの値が100を越え、これらの種子を感染種子と判断した(表21)。本同定はglu-FW(配列表の配列番号1)とglu-RV(配列表の配列番号2)のプライマーセットを用いたPCR法で確認した。本法で検査しても、種子は発芽に影響なかった。
【表21】

【0130】
24時間培養中の微生物数の変動を調べた結果、24時間の培養で1 cfuの病原菌は3000cfu程度にまで増殖することがわかった(図19)。しかし、実際に測定してみると汚染種子で3000 cfu/mlを超える値になるものはなかった。これは種子表面のB. glumaeが増殖する際に増殖準備期(lag phase)が必要だったからであると考えられる。
【0131】
Flow cytometerのバックグラウンドとして、健全種子でも10程度の値がFlow cytometerに表示されるが、実際には24時間後の培養液を栄養培地に塗抹してもコロニーは形成しないことから、24時間の選択培養で健全種子の雑菌数は0となることがわかった。
【0132】
(5)Acidovorax avenaeの検出
検査サンプルは、感染が疑われる検査種子10粒とした。(1)の方法によるFlow cytometerでの解析の結果、すべての種子でCyFlowの値が100を越え、これらの種子を感染種子と判断した(表22)。本同定はAaaf3(配列表の配列番号3)とAaar2(配列表の配列番号4)のプライマーセットを用いたPCR法で確認した。
【表22】

【0133】
(6)Burkholderia caryophylliの検出
検査サンプルとして、0.01gの土壌を使用した。(2)の方法により作製した試料溶液とこの試料溶液を10倍に薄めた溶液をFlow cytometerで解析した(表23)。土壌伝染菌は一般に103 cfu/1g土壌を超えると発病すると言われている。今回、 4.56 x 104 cfu/1g以上の汚染土壌でCyFlowの値が大きくなり、汚染土壌と診断できたが4.56 x 103 cfu/1gの土壌と健全土壌のCyFlowの値に大きな差がなかった。この24時間選択培養した液体培地をCyFlowで計測するのではなく、栄養培地に塗抹すると、健全土壌ではコロニーは形成されず、4.56 x 103 cfu/1gの土壌では200 cfu程度のコロニーが形成された。
【表23】

【0134】
表23の健全土壌において、CyFlowの値が370であったが、これはバックグラウンドの値であり、栄養培地に塗抹してもコロニーは形成されなかった。汚染土壌 4.56 × 103 cfu/1g土壌は、CyFlowの値が265であったが、栄養培地に塗抹すると200 cfu程度のコロニーが形成し、健全土壌と区別できた。4.56 × 104 cfu/1g土壌以上の汚染土壌において、CyFlowの値は健全土壌と明確な違いがあった。
【0135】
24時間培養中の微生物数の変動を調べた結果、Flow cytometerのバックグラウンドとして、健全土壌でも300程度の値がFlow cytometerに表示されるが、実際には24時間後の培養液を栄養培地に塗抹してもコロニーは形成しないことから、24時間の選択培養で健全土壌の雑菌数は0となる(図20)。
【0136】
Flow cytometerのバックグラウンドとして、健全種子でも10程度の値がFlow cytometerに表示されるが、実際には24時間後の培養液を栄養培地に塗抹してもコロニーは形成しないことから、24時間の選択培養で健全種子の雑菌数は0となることがわかった。
【0137】
(7)Ralstonia solanacearumの検出
検査サンプルとして、0.01gの土壌を使用した。(2)の方法により作製した試料溶液とこの試料溶液を10倍に薄めた溶液をFlow cytometerで解析した(表24)。
【表24】

【0138】
表24の健全土壌において、CyFlowの値が310であったが、これはバックグラウンドの値であり、栄養培地に塗抹してもコロニーは形成されなかった。汚染土壌 1.52 × 103 cfu/1g土壌は、CyFlowの値が455であったが、栄養培地に塗抹すると400 cfu程度のコロニーが形成し、健全土壌と区別できた。1.52 × 104 cfu/1g土壌以上の汚染土壌において、CyFlowの値は健全土壌と明確な違いがあった。
【実施例9】
【0139】
フローサイトメーターを用いない系によるBurkholderia caryophylliの検出
土壌1 gを蒸留水 10 mlに懸濁し、上清100 μlを使用する(土壌は100倍希釈されたことになる)。上清100μl、0.5% BTB溶液 100μl、基礎培地成分 800 ul、実施例3の基礎培地成分を水に置き換えた選択培100 μlを混和し、24時間培養した。培養後の試料溶液の色の変化によりBurkholderia caryophylliの増殖の有無を確認した(図21)。並行して、土壌1gに含まれていたBurkholderia caryophylliの数を実施例3に記載の選択培地で確認した。結果、土壌1gに含まれていた細菌数が1600以上である場合に、色が変色した。なお、土壌は100倍希釈されて液体選択培地に入るので、16cfuの菌体が存在すると色が変色することを示す。
【実施例10】
【0140】
Burkholderia cepacia用選択培地の製造方法
(1)炭素源の選択
Burkholderia cepaciaはゲノム解読がほぼ終了しており、代謝に関する情報をKEGGおよびNCBIデータベースから蒐集することが可能である。炭素源の絞込みを行い(表5)、その結果から、アラビノース、マンニトール、トレハロース、イノシトール、アルギニン、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、チロシン、バリン、及びポリガラクツロン酸を1次スクリーニングした。
【0141】
KEGGデータベース(http://www.genome.jp/kegg/)にアクセスし、次いで「KEGG PATHWAY」をクリックし、次いで「Search」を「MODULE」とし、対象「for」の横のカラムに1次スクリーニングした炭素源の中の1種を入力し、検索「Go」を実行した。次いでプルダウンバーの菌名一覧から「Burkholderia cepacia」を選択した。次いで選んだ代謝経路のそれぞれについて、細胞外(extracellular)の表示のある炭素源であることを確認し、さらにGlycolysisに繋がる炭素源であることを選択した。その結果、Burkholderia cepaciaはアラビノーストランスポーター遺伝子AraGを有していることから、Burkholderia cepaciaに優勢的に資化される炭素源としてアラビノースを選択した。
【0142】
(2)抗生物質の選択
NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)にアクセスした。「Search」を「Nucleotide」とし、対象「for」の横のカラムに、Burkholderia cepacia、[ORGN]、及びアンピシリン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマイド、ポリミキシン、カルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン、ネオマイシン、チロスリシン、又はバンコマイシンの順に入力し、検索「Go」を実行し、各抗生物質に対する抗生物質耐性遺伝子又は抗生物質合成遺伝子を検索した。その結果、Burkholderia cepaciaに耐性のある抗生物質として、ストレプトマイシン、及びアンピシリンを選択した。
【0143】
(3)基礎培地成分
基礎培地成分は、M9最小培地を参照して表6の通りとした。真核生物のタンパク質合成阻害剤であり、真菌の生育を抑制するシクロヘキシミドを追加した。染色剤であり、かつグラム陽性菌を殺菌し得るクリスタルバイオレットを追加した。また、Burkholderia cepaciaは、ゲンタマイシン耐性複合タンパク質L6構成因子rpIFをコードする遺伝子を有することから、ゲンタマイシンを追加した。
【0144】
(4)選択培地の組成
上記した成分を含み、かつ固体培地とするために寒天を加えた選択培地を表25に示した。
【表25】

【0145】
(5)培地評価
表25の組成の選択培地(図23)と、表26の組成の市販培地(バーコホルデリアセパシア寒天基礎培地;OXOID社;商品コードCM0995)(図22)を用いて、Burkholderia cepaciaの増殖の選択性について評価した。
【表26】

【0146】
図22と23から明らかな通り、Burkholderia cepaciaは、表26の組成の培地に比べて、表25の組成の培地において、優勢的に増殖した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の生物学的情報に基づいて、該微生物によって資化される少なくとも一種の炭素源、及び/又は、該微生物に耐性のある少なくとも一種の抗生物質を選択する工程;並びに
選択された炭素源及び/又は抗生物質、並びに基礎培地成分を混合する工程
を含む、該微生物用選択培地の製造方法。
【請求項2】
微生物の生物学的情報に基づいて、該微生物によって資化される少なくとも一種の炭素源、及び、該微生物に耐性のある少なくとも一種の抗生物質を選択する工程;並びに
選択された炭素源及び抗生物質、並びに基礎培地成分を混合する工程
を含む、該微生物用選択培地の製造方法。
【請求項3】
基礎培地成分が、窒素源、緩衝物質、及びミネラル物質を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
微生物が、細菌又は真菌である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
細菌が、Acidovorax avenae subsp. avenae、Agrobacterium tumefaciens、Burkholderia caryophylli、Burkholderia glumae、Erwinia carotovora subsp. carotovora、Ralstonia solanacearum、Xanthomonas campestris pv. campestris、又はBurkholderia cepaciaである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
炭素源を選択するための生物学的情報が、微生物の炭素代謝情報である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
抗生物質を選択するための生物学的情報が、微生物の遺伝子情報である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
遺伝子が、抗生物質耐性遺伝子又は抗生物質合成遺伝子である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
微生物によって資化される少なくとも一種の炭素源が、アラビノース、マンニトール、トレハロース、イノシトール、アルギニン、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、グルタミン酸、チロシン、バリン、及びポリガラクツロン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の炭素源である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
微生物に耐性のある少なくとも一種の抗生物質が、アンピシリン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマイド、ポリミキシン、カルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン、ネオマイシン、チロスリシン、ストレプトマイシン及びバンコマイシンからなる群から選ばれる少なくとも一種の抗生物質である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
微生物用選択培地が、完全合成培地である、請求項1〜10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法によって製造される、微生物用選択培地。
【請求項13】
微生物がBurkholderia glumaeであり、炭素源としてアラビノースを含み、かつ抗生物質としてアンピシリン、クロラムフェニコール、ノボビオシン、セトリマリド及びポリミキシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む、請求項12に記載の選択培地。
【請求項14】
微生物がAcidovarax avenae subp. avenaeであり、炭素源としてマンニトールを含み、かつ抗生物質としてカルベニシリン、チカルシリン、ペニシリン及びネオマイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む、請求項12に記載の選択培地。
【請求項15】
微生物がAgrobacterium tumefaciensであり、炭素源としてマンニトールを含み、かつ抗生物質としてチロスリシン、セトリマイド、及びバンコマイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む、請求項12に記載の選択培地。
【請求項16】
微生物がBurkholderia caryophylliであり、炭素源としてソルビトールを含み、かつ抗生物質としてチロスリシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、及びポリミキシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む、請求項12に記載の選択培地。
【請求項17】
微生物がErwinia carotovara subsp. carotovoraであり、炭素源としてペクチン酸を含み、かつ抗生物質としてネオマイシン、ノボビオシン、セトリマイド、及びバンコマイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む、請求項12に記載の選択培地。
【請求項18】
微生物がRalstonia solanacearumであり、炭素源としてL−グルタミン酸を含み、かつ抗生物質としてポリミキシン、クロラムフェニコール、チカルシリン、カルベニシリン、及びバンコマイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む、請求項12に記載の選択培地。
【請求項19】
微生物がXamthomonas campestris pv. campestrisであり、炭素源としてマンニトールを含み、かつ抗生物質としてノボビオシン、ネオマイシン、及びバンコマイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む、請求項12に記載の選択培地。
【請求項20】
微生物がBurkholderia cepaciaであり、炭素源としてアラビノースを含み、かつ抗生物質としてストレプトマイシン及びアンピシリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の抗生物質を含む、請求項12に記載の選択培地。
【請求項21】
形状が、液体状、固体状、又は保持体に浸漬させた形状である、請求項12〜20のいずれか1項に記載の選択培地。
【請求項22】
請求項12〜21のいずれか1項に記載の選択培地を含む、微生物を検出するためのキット。
【請求項23】
形状が、スティック状又は液体状である、請求項22に記載のキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2010−193775(P2010−193775A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42108(P2009−42108)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】