説明

選択性を向上させたカチオン交換膜、その製造方法及びその使用

【課題】必要性及び従来の技術的問題を満たす修飾カチオン交換膜を提供すること。
【解決手段】カチオン交換膜であって、表面上に、式−R−(CH−NRの少なくとも1つの基及び/又は式−R−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する少なくとも1つの分子がグラフトされる、ポリマーカチオン交換マトリックスにある、カチオン交換膜:(式中、Rはアリール基を表し、mは0、1、2又は3を表し、R及びRは、同一であるか又は異なり、水素又はアルキル基を表す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン膜の分野、より詳細にはカチオン交換膜の分野に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、選択性に関する特性が改善されるカチオン交換膜を提案しており、この改善は膜の表面修飾に起因するものである。
【0003】
また、本発明は、このようなカチオン交換膜を製造する方法、及びその種々の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
イオン交換膜は、電荷符号に応じた荷電種の選択的な移行、カチオン交換膜(CEM)の場合にはカチオンの移行、アニオン交換膜(AEM)の場合にはアニオンの移行を可能にするポリマーマトリックスである(非特許文献1)。
【0005】
電気透析は、透過性イオン交換膜を介したイオンの移行が電界の作用を受けて実行される電気膜技法である。カチオン交換膜(CEM)又はアニオン交換膜(AEM)の本質的な特性は、膜を介したカチオン又はアニオンそれぞれに対する選択的な透過である。このアニオン/カチオンの選別は「透過選択性」とも称される。
【0006】
イオン交換膜を用いた電気透析の最も重要な用途の1つは、湿式精錬廃水及び金属化法からの強酸の回収である(非特許文献2)。
【0007】
しかしながら、これらの方法の濯ぎ水には一般的に、多価イオンがかなり多量に含まれている(非特許文献3)。関連するような電気透析のこれら全ての種々の工業用途は、一価カチオンに対して特異的な選択性のあるカチオン交換膜の使用を必要とする。
【0008】
念のため、同じ符号であるが異なるイオン価のイオンの選別は、「優先的選択性(preferential selectivity)」と称される。このような特性を改善させるために、「優先的選択性を有する膜」又は「特異的カチオン交換膜(SCEM)」と称される新たなタイプのカチオン交換膜が開発されている。膜は、高いイオン価のものよりも低いイオン価のイオンに対して、またあまり水和していないものと比べてより水和したイオンに対して選択的により透過性となり得る(非特許文献4)。
【0009】
一価イオンに対する選択特性を得るために、2つの方法が主に選択される。
【0010】
第1の方法は、架橋度等の合成パラメータを調節することによって、等極膜(単一の型のイオン交換部位のみを含有する)を製造することにあり、このため、異なるイオン価のイオンを含有する混合溶液と接触させると、一価カチオン及び特にプロトンのフローが多価金属カチオンのものよりも大きくなる。
【0011】
第2の方法は、二価カチオン上で静電障壁として作用すると考えられ、またそれらの膜内への貫入を制限すると考えられる正電荷を生じさせるように、カチオン交換膜の表面にアニオン交換材料の薄層を堆積させることにある(非特許文献5)。
【0012】
一価イオンに対する二価イオンの選択性は、スチレンとジビニルベンゼンとからなるスルホン酸イオン交換膜における架橋度が増大するにつれて徐々に減少することが報告されている(非特許文献6)。縮合型の膜と比較して、架橋度の増大により、一価カチオンに対する透過選択性が改善される。しかしながら、膜を介した電位降下が電気透析中に漸増し、膜/溶液界面に濃度分極をもたらし得るようになる(非特許文献7)。
【0013】
ここ20年、一価イオンに対する選択性を改善させることを目的として膜の表面を修飾させる化学的方法が、幾度も研究されてきた(非特許文献5、8〜10)。これらの修飾は、膜の表面上に、ポリエチレンイミン、ポリアニリン又はポリピロール等のポリマーの形成及び/又は堆積を伴う。それにもかかわらず、ポリエチレンイミンが静電的相互作用によって膜の表面上に主に維持されると、たとえポリマー層を電着によって再生することが可能であっても、この層の剥離が電気透析シーケンス中に必然的に観察される。長期的にみると、修飾膜は安定性に欠ける(非特許文献11)。これが、正に帯電した層とカチオン交換膜との間の安定な共有結合を熟慮することが不可欠である理由である。
【0014】
スルホンアミド結合を形成することによる商業用のカチオン交換膜の化学修飾が、Chamoulaud及びBelangerの論文で報告されている(非特許文献12)。四級化(quaternized)アミンの層により修飾される表面を得るために、三段階の化学プロセスが提案されている。
【0015】
それ故、双極性膜の合成に関する米国特許第5,840,192号(特許文献1)では、使用されるポリマーフィルムが、100μmの厚みを有するエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)であり、その上に、スチレンの化学グラフトがなされた後、ビニルベンゼン(DVB)による架橋が施される。その後、スチレン基は、SOCl基を導入するためにクロロスルホン化反応を経た後、SO型の官能基を得るために加水分解される。この段階で、カチオン交換膜が得られる。この研究の独自性は、形成されたカチオン膜の表面の修飾を目的とする化学工程の追加にある。修飾工程は、クロロスルホン化させた膜の表面上において、室温でジアミン(3−ジメチル−アミノプロピルアミン)を用いてアミノ化を実行することにある。これにより、−SOCl基がアミンと共に、スルホンアミド結合を形成する(スキーム1)。
【0016】
【化1】

【0017】
しかしながら、この共有結合修飾は、イオン交換容量の低減をもたらす化学的な損傷を膜に引き起こした。同様に、Mrs Boulehidの博士論文には、膜の表面を修飾する付加的な層の厚みを制御する難しさが報告されている(非特許文献4)。
【0018】
文献で公表されている研究から、膜の電気抵抗の増大が表面修飾及び層の形成に依存するという合理的な解釈がなされる(非特許文献13)。化学修飾後の膜の収縮が10μmであることが報告されている(非特許文献11)。また、ポリアニリンの35μmの堆積が、80μmの未処理の(virgin)膜の全厚に比べて大き過ぎるサイズであることも報告されている(非特許文献14)。膜表面修飾の分野では、性能の選択性及び安定性の改善以上に、抵抗の増大の制限を広く考慮する必要がある(非特許文献13)。
【0019】
実験的困難性は、非常に薄いアミノ化表面層を得ることにある。実際、大きい表面グラフト率を有しつつ、表面に対する反応を厳密に制限することは難しい。その結果として、アミノ化時間及びジアミンの濃度等のパラメータを最適化しなければならない。良好な有機溶媒である1,2−ジクロロエタン(特許文献1)中における作業は、この際、溶媒が浸透し得ることから、表面に対する反応を厳密に制限することがこれらの条件下で困難であるため、解決策にならない。
【0020】
先に説明したように、異なるイオン価のカチオンに対する強い選択性を有し、また付加的には、電気透析における使用を視野に入れてそれらのイオン交換容量及びそれらの電気抵抗を維持する修飾カチオン交換膜が真に必要とされている。
【0021】
この必要性は、一方でカチオン交換膜にグラフトされる層を介したカチオン交換膜の修飾と、他方では、グラフトした層の厚みの厳密な制御とを可能とする有効な方法に密接に関連付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第5,840,192号(Universite Libre de Bruxelles)、1998年11月24日公開;
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Roux-de Balmann および Casademont, 2006, ≪ Electrodialyse ≫, Techniques de l’Ingenieur, J 2840 ;
【非特許文献2】Taky ら., 1996, ≪ Transport properties of a commercial cation-exchange membrane in contact with divalent cations or proton-divalent cation solutions during electrodialysis ≫, Hydrometallurgy, Vol.43, p.63 ;
【非特許文献3】Tuan ら., 2008, ≪ Absorption equilibrium and permselectivity of cation exchange membranes in sulfuric acid, sodium chloride and nickel sulfate media ≫, J. Membr. Sci., Vol.323, p.288 ;
【非特許文献4】Boulehid, 2007, ≪ Elaboration et caracterisation d’une membrane cationique monoselective par modification chimique d’un film ETFE ≫, PhD dissertation, Universite Libre de Bruxelles ;
【非特許文献5】Vallois ら., 2003, ≪ Separation of H+/Cu2+ cations by electrodialysis using modified proton conducting membranes ≫, J. Membr. Sci., Vol.216, p.13;
【非特許文献6】Sata, 1978, ≪ Modification of properties of ion-exchange membranes. IV. Change in transport properties of cation exchange membranes by various polyelectrolytes ≫, J. Polym. Sci., Polym. Chem. Ed. 16, p.1063 ;
【非特許文献7】Katsube および Asawa, 1969, ≪ Electric potential drop across cation-exchange membranes with high permselectivity to univalent cations in electrodialytic concentration of sea water ≫, Rep. Res. Lab., Asahi Glass 19, p.43 ;
【非特許文献8】Sata および Izuo, 1989, ≪ Modification of properties of ion-exchange membranes. X. Formation of polyethyleneimine layer on cation-exchange membrane by acid-amide bonding ≫, Angew. Makromol. Chem., Vol.171, p.101 ;
【非特許文献9】Nagarale ら., 2004, ≪ Preparation and electrochemical characterization of cation- and anion-exchange/polyaniline composite membranes ≫, J. Colloid Interface Sci., Vol.277, p.163 ;
【非特許文献10】Gohil ら., 2006, ≪ Preparation and characterization of monovalent ion selective polypyrrole composite ion-exchangemembranes ≫, J. Membr. Sci., Vol.280, p.210 ;
【非特許文献11】Tan ら., 2002, ≪ Chemical modification of a sulfonated membrane with a cationic polyaniline layer to improve its permselectivity ≫, Electrochem. Solid-State Lett., Vol.5, p.E55 ;
【非特許文献12】Chamoulaud および Belanger, 2004, ≪ Chemical modification of the surface of a sulfonated membrane by formation of a sulfonamide bond ≫, Langmuir, Vol.20, p.4989 ;
【非特許文献13】Takata ら., 1996, ≪ Modification of transport properties of ion exchange membranes, XIIIa, Surface-modified cation exchange membranes prepared from polyamines and a copolymer membrane containing p-styrenesulfonyl chloride ≫, Angew. Makromol. Chem., Vol.236, p.67 ;
【非特許文献14】Sivaraman ら., 2007, ≪ Electrochemical modification of cation exchange membrane with polyaniline for improvement in permselectivity ≫, Electrochimica Acta, Vol.52, p.5046 ;
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、必要性及び上述の技術的問題を満たす修飾カチオン交換膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
実際、本発明者等の研究は、以下の特性:
1)使用の困難な条件下でも忌避層(repellent layer)の永続的な特性を得るための、この膜の表面の共有結合化学修飾と、
2)例えば、膜の全体的な電気抵抗を増大させないための、膜の厚みに少し影響を及ぼすだけか又は全く影響を及ぼさず、かつ厚みを制御し、同じままでなければならない膜のバルク特性を変更しないか又は乱れさせない、高次の表層化学修飾と、
3)静電気的に有効であるような、化学的に束縛されていない静電荷の発生と、
4)大きいグラフト率に関係する大きな表面電荷密度と、
5)単純な化学的環境及び単純な化学的条件下において一段階中でなされる修飾と、
を有する修飾カチオン交換膜を得ることのできる方法の開発を可能にした。
【0026】
より詳細には本発明は、ポリマーマトリックスにあるカチオン交換膜、特に、表面上に、式−R−(CH−NRの少なくとも1つの基及び/又は式−R−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する少なくとも1つの分子がグラフトされる、カチオン交換ポリマーマトリックスにある、カチオン交換膜に関する:
(式中、
はアリール基を表し、
mは0、1、2又は3を表し、
及びRは、同一であるか又は異なり、水素又はアルキル基を表す)。
【0027】
本発明は、化学官能基又はポリマー鎖の共有結合グラフトによって表面において官能化、すなわち、修飾されるカチオン交換膜の性能から利得を得る。それは、以後「修飾カチオン交換膜」と呼ぶ本発明によるカチオン交換膜の先に挙げた特性を保証するこの特定の機能付与である。
【0028】
本発明によるカチオン交換膜が、表面上に、式−R−(CH−NRの少なくとも1つの基がグラフトされる、ポリマーマトリックスにある場合、この基は、R基由来の原子(特にR基中に存在する芳香族(複素)環の原子)及びこの膜を形成するポリマーマトリックス由来の原子を伴う結合を介して、適用されるカチオン交換膜と共有結合する。
【0029】
「式−R−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する(bearing)分子」とは、数個の原子から数十又は更には数百の原子を含む任意の天然又は合成の有利には有機分子を意味する。したがって、この分子は、化学官能基、単純分子、又はポリマー構造物等のより複雑な構造を有する分子とすることができる。
【0030】
この分子の構造にかかわらず、本発明の範囲内の本質的な特徴は、
一方では、分子が該分子の原子及びこの膜を形成するポリマーマトリックスの原子を伴う結合を介して、適用されるカチオン交換膜と共有結合するため、上記分子が、ポリマーマトリックスの表面との共有結合に関与する原子(又は官能基)を含むこと、
他方では、分子が式−R−(CH−NRの基を含むこと、
である。
【0031】
式−R−(CH−NRの基が、ポリマーマトリックスの表面との共有結合に関与する分子の官能基と異なることは、当業者にとって明らかである。
【0032】
「アリール基」とは、本発明によるR基を規定するために、3個〜8個の原子を各々含む1つ又は複数の芳香族環又は芳香族複素環からなる、任意に一置換若しくは多置換される、芳香族炭素構造又は複素環式芳香族炭素構造であり、ヘテロ原子(複数の場合もあり)はN、O、P又はSとすることができる。置換基(複数の場合もあり)は、1つ又は複数のヘテロ原子、例えばN、O、F、Cl、P、Si、Br又はS及びアルキル基を含有していてもよい。本発明の範囲内では、このような炭素構造が、その芳香族(複素)環の1つと直接結合する式−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持するものとする。
【0033】
有利には、本発明によるR基が、環の原子の1つと直接結合する式−(CH−NRの基を担持し、かつ1つ又は複数のヘテロ原子、例えばN、O、F、Cl、P、Si、Br又はS、及びアルキル基で任意に置換される、6個の原子を含む芳香族環又は芳香族複素環であり、ヘテロ原子(複数の場合もあり)はN、O、P又はSとすることもできる。
【0034】
とりわけ、本発明によるR基は、フェニル原子の1つと直接結合する式−(CH−NRの基で少なくとも置換されるフェニルである。他の任意の置換基(複数の場合もあり)は、ヘテロ原子、例えばN、O、F、Cl、P、Si、Br若しくはS、又はアルキル基である。
【0035】
「アルキル基」とは、本発明によるR基及びR基、又はR基の置換基を規定するために、1個〜6個、特に1個〜4個の炭素原子、及び任意にN、O、F、Cl、P、Si、Br又はS等のヘテロ原子を含む、任意に置換される、直鎖状、環状又は分枝鎖状のアルキル基を意味する。
【0036】
「置換アルキル」とは、本発明の範囲内で、ハロゲン、メチル基、エチル基、アミン基又はジアミン基で置換されるアルキル基を意味する。
【0037】
−NR基は、本発明によるカチオン交換膜の使用条件下で、カチオン交換膜の表面に正電荷をもたらすカチオン性基を形成することができる基である。これらの正に帯電した基は、一価イオンに比べて多価イオンを優先的に忌避することを意図するものである。したがって、−NR基は、このような基を担持する分子でグラフトされる膜に、未処理の膜、すなわちグラフトされていない膜の選択性に比べて、多価イオンを超える一価イオンに対する改善された選択性をもたらす可能性を与える。
【0038】
有利には、R基及びR基は、同一であるか又は異なり、水素、メチル、エチル又はプロピルからなる群から選択される。より詳細には、R基及びR基は同一である。更に詳細には、R基及びR基は水素を表す。
【0039】
有益な代替形態では、アリール基Rが置換される式−(CH−NRの基が有利には、−NH、−CH−NH、−(CH−NH、−N(CH、−CH−N(CH、−(CH−N(CH、−N(C、−CH−N(C及び−(CH−N(Cからなる群から選択される。
【0040】
アリール基Rが置換される式−(CH−NRの基はとりわけ、−NH、−CH−NH及び−(CH−NHからなる群から選択される。
【0041】
アリール基Rが置換される式−(CH−NRの基はより詳細には−NHである。実際、−NH基は、本発明によるカチオン交換膜の使用条件下で、大きな第四級アンモニウムイオンよりも小さいサイズの−NH基をもたらす。この場合、静電界は、距離の逆二乗に応じて減少するため(1/r)、可能な限り近くにそれらを接近させるとより強力になる。
【0042】
本発明の代替形態において、本発明によるカチオン交換膜の表面上にグラフトされる分子は高分子構造物である。有利には、この高分子構造物は、ポリマー、又は同一であるか若しくは異なる幾つかのモノマー単位に主に由来する(コ)ポリマーであり、上記ポリマー又はコポリマーは、先に規定したような式−R−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する。
【0043】
とりわけ、この高分子構造物は、先に規定したような式−R−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する、同一であるか又は異なる幾つかのモノマー単位から主にもたらされる(コ)ポリマーである。更に詳細には、この高分子構造物は、先に規定したような式−R[(CH−NR]−の、同一であるか又は異なる幾つかの単量体単位から主にもたらされる(コ)ポリマーである。この状況では、モノマー単位が、R基を介して、有利には、2つの別個のモノマーのR基の芳香族環が各々担持する2つの原子の間の共有結合によって互いに結合する。
【0044】
本発明によるカチオン交換膜は、式−R−(CH−NRの基及び/又は少なくともこのような基を担持する、特に高分子構造物の形態の分子でグラフトされ、グラフトの厚み、すなわち、そのためグラフトされた層の厚みは、100nm未満、有利には80nm未満、特に60nm未満であり、とりわけ2nm〜40nmが含まれ、より詳細には3nm〜30nmが含まれる。
【0045】
「ポリマーマトリックス」とは、カチオン交換膜の形状及びカチオン交換性をもたらすカチオン交換膜のベース部分を意味する。
【0046】
カチオン交換膜に一般に使用される任意のポリマーマトリックスを、本発明の範囲内で使用することができる。利用されるポリマーマトリックスは、Selemion CMV膜マトリックス(旭硝子株式会社(日本))、Neosepta CMX膜マトリックス(徳山曹達株式会社(日本))、又はCMI−7000Sマトリックス(Membrane International Inc.(USA))等の商業用ポリマーマトリックスとすることができる。
【0047】
このポリマーマトリックスは、自身にその透過選択性をもたらすことができる、同一であるか又は異なる、イオン性基を有する。これらのイオン性基は特に、−SO、−PO2−、−HPO、−COO、−SeO2−及び−AsO2−から選択される。
【0048】
有利には、このポリマーマトリックスは、1μm〜1cm、特に2μm〜500μm、とりわけ5μm〜150μmを含む厚みを有する。
【0049】
当業者は、このようなポリマーマトリックスの製造を可能にする種々の技法を認識している。
【0050】
それ故、この技法は、芳香族環を含むポリマーが、先に規定したようなイオン性基又は先に規定したような1つ又は幾つかのイオン性基を含む基で官能化される化学的方法とすることができる。芳香族環を含むポリマーは、非限定的な例として、ポリアリールエーテルエーテルケトン(PEEK)、スチレン−ジビニルベンゼン、スチレン−ブタジエン、スチレン−イソプレン−スチレン又はスチレン−エチレン/ブチレン−スチレンとすることができる。
【0051】
代替的に、この技法は、放射化学的工程を伴い、続いて、先に記載したような化学的方法に従う化学的工程があってもよい。放射化学的工程は、γ線、X線又は電子線の作用を受けて、不活性ポリマー上で芳香族化合物をグラフトすることにある。使用することができる芳香族化合物は特に、先に規定したような芳香族環を含むポリマーである。不活性ポリマーは、非限定的な例として、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリ(ビニリデンフルオライド)若しくはポリテトラフルオロエチレン等のフッ化ポリマー、ポリアミド又はポリアクリロニトリルとすることができる。
【0052】
本発明の範囲内で使用することができるポリマーマトリックスは、ナノ構造を有し、特に、その厚み方向に、有利にはマトリックスの2つの向かい合う面を接続させる、チャネル等の実質的に円柱状の領域を含み得る。
【0053】
このナノ構造化は、本発明の主題であるグラフトにより既に得られた選択性を向上させ得る。実際、これらの実質的に円柱状の帯域は、より大きな直径を有するカチオンとは異なり、小さい直径を有するカチオンの通過を促進させる可能性をもたらす。
【0054】
ポリマーマトリックスを横断するこれらの実質的に円柱状の領域は、
該マトリックスを形成するポリマーと共有結合し、かつ、
炭素原子の少なくとも一部が−COOR基と−SOR基又は−PO基との両方に結合する主鎖を含むポリマー鎖であって、Rが水素、ハロゲン、アルキル基又はカチオン性対イオンを表す、ポリマー鎖、
ペンダント型フェニル基を含む主鎖を含むポリマー鎖であって、これらの基の少なくとも一部が−SOR又は−PO基で置換される少なくとも1つの水素原子を含み、Rが上記に挙げられるものと同じ意味を有する、ポリマー鎖、および
これらの混合物、
から選択されるポリマー鎖を含む。
【0055】
これらの実質的に円柱状の帯域は、ポリマーマトリックスの厚みを可変角度又は同一角度で横断するものであり得る。それらは、10nm〜100nmの範囲の直径(ナノゾーン)を有し得る。これらのゾーンはまた中空であってもよく、その場合に、グラフトは上記帯域の壁に結合する。従来、ポリマーマトリックスは、1cm当たり5×10〜5×1010、好ましくは10〜5×10の帯域を含み得る。
【0056】
このようなナノ構造を有するポリマーマトリックスは、1)大きなイオン交換容量、2)80℃を超える、例えば120℃の操作温度でプロトンの伝導を確実なものとする性能、3)10バールの圧力に対する耐性、4)腐食現象に関する不活性を有する。
【0057】
ナノ構造を有するポリマーマトリックスは有利には、先に規定したような不活性ポリマーのマトリックス、特に、フッ化不活性ポリマー、とりわけPVDFのマトリックスである。
【0058】
ポリマーマトリックスの構成ポリマーと結合するポリマー鎖は、様々な形態で見ることができる。
【0059】
それ故、第1の実施の形態によれば、ポリマー鎖は、炭素原子の少なくとも一部が−COOR基と−SOR基又は−PO基との両方に結合する主鎖を含み、これは、言い換えれば、主鎖の炭素原子の幾つかが二重に置換しており、置換基の1つが−COORであるとともに、他の置換基が−SOR又は−POであることを意味する。これは、−COOR基を担持する炭素原子に隣接する炭素原子も−SOR又は−POを含み得ることを排除しない。
【0060】
かかるポリマー鎖は、アクリル酸等の、少なくとも1つの−COR基を含むアクリルモノマーの重合によってもたらされてもよく、得られるポリマーは、−COR基を担持する原子の少なくとも一部に−SOR基又は−PO基を導入するために、スルホン化工程又はホスファネーション(phosphanation)工程を経たものであり、Rは上記に規定したとおりである。
【0061】
第2の実施の形態によれば、ポリマーグラフトは、ペンダント型フェニル基を含む主鎖を含み、これらの基の少なくとも一部が、−SOR基又は−PO基で置換される少なくとも1つの水素原子を含み、Rは上記に規定したとおりである。
【0062】
かかるポリマー鎖は、芳香族環を含むモノマーの重合、その後の、フェニル基の炭素原子の少なくとも1つに−SOR基又は−PO基を導入するようなスルホン化工程又はホスファネーション工程によってもたらされてもよく、Rは上記に規定したとおりである。重合工程後に得られるポリマー鎖は、先に規定したような芳香族環を含むポリマーである。
【0063】
ナノ構造を有するポリマーマトリックスの製造を可能にする任意の技法を、本発明の範囲内で使用することができる。
【0064】
有利なことに、本発明の製造方法は、以下の工程:
i)マトリックスの厚みを横断する実質的に円柱状の形状を有する、照射された帯域を形成するような、ポリマーマトリックスの照射工程と、
ii)任意に、照射工程によって生じる潜在的なトレース(latent traces)を明らかにする工程と、
iii)エチレンモノマーとのラジカル反応によって、照射された帯域をグラフトする工程であって、これにより、ポリマー鎖の主鎖が得られる、グラフトする工程と、
iv)上記主鎖のスルホン化工程又はホスファネーション工程と、
を含み得る。
【0065】
ポリマーマトリックスの照射工程(i)は、上記マトリックスを、特にクリプトン、鉛及びキセノンから選択される、重イオンとの衝突に付すことにあり得る。
【0066】
より詳細には、この工程は、ポリマーマトリックスに、4.5MeV/mauの強度を有するPbイオンのビーム、又は10MeV/mauの強度を有するKrイオンのビーム等の重イオンのビームを衝突させることにあり得る。
【0067】
機構の観点から、エネルギーを担持する重イオンがマトリックスを横断する場合、その速度は減少する。イオンは、形状が略円柱状である損傷領域を発生させることによって、そのエネルギーを産生する。これらの領域は、「潜在的なトレース」と称され、2つの区域、すなわちトレースのコア及びハローを含む。トレースのコアは、完全に分解した領域、すなわち、フリーラジカルを発生させる材料の構成的な結合の破壊が起こった領域である。このコアは、重イオンがかなりの量のエネルギーを材料の電子に伝達する区域でもある。その後、このコアから二次電子の放出が起こり、コアから遠くに欠陥が生じることにより、ハローが生じる。
【0068】
また、照射工程は、UV線照射又は電子線照射によって実現され得るが、照射によって生じる実質的に円柱状の帯域の範囲を定めるマスクを使用することになる。
【0069】
ナノ構造を有するポリマーマトリックスを製造する方法は、照射工程後に、照射工程によって生じる潜在的なトレースを明らかにする工程(ii)を含み得る。化学的展開は、潜在的なトレースの位置に中空チャネルを形成するように、マトリックスを、潜在的なトレースを加水分解することができる試薬と接触させることにあり得る。
【0070】
この特定の実施の形態によれば、イオンが照射中に材料内を通過する一方で、重イオンによるポリマーマトリックスの照射後に生じた潜在的なトレースが、既存の鎖の分裂によって形成されるポリマーの短鎖を有する。これらの潜在的なトレースでは、展開中の加水分解率が、照射されなかった部分のものよりも大きい。それ故、選択的な展開を進めることが可能である。潜在的なトレースの展開を確実なものとし得る試薬は、マトリックスの構成材料によって変わる。
【0071】
それ故、例えばポリマーマトリックスがフッ化ポリマーからなる場合、潜在的なトレースは特に、0.25重量%のKMnOの存在下65℃の温度で、10NのKOH溶液等の強塩基性の酸化溶液によって処理され得る。塩基性溶液による処理は、任意に、UVによるトレースの増感と一体となって、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリカーボネート(PC)等のポリマーに十分なものであり得る。この処理により、塩基性の酸化溶液によるエッチング時間に応じて直径を調節することができる円柱状の中空孔の形成がもたらされる。概して、重イオンによる照射を実行した結果、膜は、1cm当たり、10個〜1011個、特に5×10個〜5×1010個を含む、とりわけ1010個程度の数多くのトレースを含む。
【0072】
さらに、ナノ構造を有するポリマーマトリックスを製造する方法は、照射され任意に展開したマトリックスをエチレンモノマーと接触させることにあるグラフト工程(iii)を含む。
【0073】
理論に束縛されるものではないが、エチレンモノマーをグラフトする工程は、三段階:
上述の帯域におけるエチレンモノマーの反応段階であって、この開始段階は、マトリックスのラジカル中心との反応による二重結合の開裂によって具体化され、それによりラジカル中心が、マトリックスから、上記エチレンモノマー由来の炭素原子に向かって「移動する」、反応段階、
初めにグラフトされたモノマー上に生じるラジカル中心による、エチレンモノマーの重合段階、
反応媒体の環境に従う、ラジカルの再結合又は移行による停止段階、
で行われ得る。
【0074】
言い換えれば、上述の帯域内に存在するフリーラジカルは、マトリックスと接触するエチレンモノマーの重合反応の伝播を生じさせるものである。ラジカル反応はそれ故、この状況において、照射されたマトリックス由来の、それと接触するエチレンモノマーのラジカル重合反応である。
【0075】
それ故、重合段階の終わりに、得られた膜は、照射されたマトリックスと接触するエチレンモノマーの重合による反復単位を含むポリマーによってグラフトされるポリマーマトリックスを含むと考えられる。
【0076】
グラフト工程(iii)後、本発明の方法は最終的に、スルホン化工程又はホスファネーション工程(工程iv)を含む。
【0077】
スルホン化工程は、直接的な炭素−硫黄結合によってスルホン酸基−SORを分子中に導入することにある。スルホン化は、直接的なスルホン化反応(付加反応)、ハロゲン原子又はジアゾ酸基をスルホン酸基で置換する反応、スルフィド基の酸化反応によって起こり得る。このスルホン化工程は、グラフトしたマトリックスをクロロスルホン酸の溶液で処理することにあり得る。
【0078】
ホスファネーション工程は、直接的な炭素−リン結合によってホスホン酸基−POを分子中に導入することにある。このような工程は、ハロゲン原子を担持する分子上におけるミカエリス・アルブーゾフ反応又はミカエリス・ベッカー反応によって達成され、これにより、ホスホン酸エステルの形成、次いで、対応するホスホン酸を得るための任意の加水分解をもたらし得る。アリール基を含む分子に関して、このような工程は、フリーデル・クラフツ反応によって達成され、その後、任意の加水分解が行われ、対応するホスホン酸がもたらされ得る。
【0079】
また、本発明は、本発明に従って修飾されるカチオン交換膜の使用に関する。実際、表面上でグラフトされた層、すなわち多価カチオン、特に二価カチオン、例えば、Ni2+、Ca2+、Pb2+、Cu2+、Ti2+又はZn2+を忌避する、カチオン性基を形成することができる式−R−(CH−NRの基を担持する層の存在に起因して、カチオン交換膜は、一価カチオン、特にアルカリ性カチオンに対して選択的に透過性である。任意にアルカリ性の一価カチオンの例として、H、Na、K及びLiに言及することができる。
【0080】
本発明によるカチオン交換膜の表面における、式−R−(CH−NRの基を担持する層のグラフトにより、移動度比X/Yn+(ここで、X、Yn+及びnはそれぞれ、一価カチオン、多価カチオン及び2より大きいか又はこれに等しい整数である)が増大し、特に、移動度比X/Y2+、とりわけ移動度比H/Ni2+の増大を可能にする。この増大は、本発明に従う修飾を施していないカチオン交換膜、すなわち未処理の膜について得られる対応する移動度比に比べて、2倍超、3倍超、4倍超、又は更には5倍超のものであり得る。その代わり、式−R−(CH−NRの基を担持する層のグラフトは、未処理の膜に比べて修飾膜のイオン交換容量を変えない。
【0081】
この選択性によって、本発明によるカチオン交換膜は、溶液の電気透析に有用である[1]。
【0082】
この溶液は有利には、汽水、湧水、飲料水、海水、工業廃水、農業食品産業由来の溶液、又は精密化学産業若しくは製薬産業由来の溶液によって構成される群から選択される。
【0083】
実際、本発明によるカチオン交換膜は、汽水又は海水から飲料水を生産するためだけでなく、金属カチオン型の予想される夾雑物を除去するため、又は飲料水若しくは湧水中におけるその量を減らすためにも使用することができる。
【0084】
さらに、本発明によるカチオン交換膜は、電気透析によって工業廃水を処理するのに使用することができ、これは特に、工業廃水が含有することがあるおそらく毒性の重金属を、工業廃水から除去するのに使用することができる。これらの工業廃水は、製紙産業、湿式精錬産業、表面処理産業又は皮革産業から生じ得る。
【0085】
農業食品産業の分野では、本発明によるカチオン交換膜を伴う電気透析を、乳清を脱塩するのに、フルーツジュース及び甘味溶液を脱酸及び/又は脱塩するのに、有機酸を製造するのに使用することができる。
【0086】
最後に、ファインケミストリー及び製薬の分野では、本発明によるカチオン交換膜を、薬学的に有効な成分又はアミノ酸を精製するのに、等張液を製造するのに、有機酸を製造するのに、酸を濃縮するのに使用することができる。
【0087】
また、本発明は、先に規定したようなカチオン交換膜を製造する方法に関する。
【0088】
本発明の方法は、先に記載したようなポリマーマトリックス上で、式−R−(CH−NRの少なくとも1つの基及び/又は少なくとも1つのかかる基を担持する少なくとも1つの分子をグラフトすることにある。
【0089】
当業者に既知の任意のグラフト技法を本発明の範囲内で使用することができる。しかしながら、有利に利用される技法は、国際公開第2008/078052号[16]に記載されているものであり、この技法は化学ラジカルグラフトを伴う。
【0090】
「化学ラジカルグラフト」という用語は特に、膜のポリマーマトリックスの表面との共有結合型の結合を形成するための不対電子を有する分子要素の使用を指し、上記分子要素は、それらをグラフトすることが意図される表面に関係なく生成される。
【0091】
カチオン交換膜をグラフト及び修飾するための化学ラジカルグラフトの使用は、現行水準、特に[4、12、13]において使用されるグラフト法を超える幾つかの利点を有する。
【0092】
実際、[16]に記載されている化学ラジカルグラフトは、それを修飾することによるものではなく、材料をポリマーマトリックスに添加することによる単純工程において共有結合グラフトを可能とするものである。
【0093】
さらに、[16]に記載されている化学ラジカルグラフトは厚みが制御され、また制御可能であり、これによって、抵抗の低減及び/又は双極性膜の作用の発生を回避することが可能である。
【0094】
化学ラジカルグラフトがラジカル種、すなわちマトリックスの厚みに貫入し得る前にマトリックスの表面と結合する強い反応性の化学種を伴うため、バルク特性の乱れが存在せず、それ故、ポリマーマトリックスの電気抵抗の乱れが存在しない。
【0095】
最終的に、化学ラジカルグラフト中に生じるラジカル種は、ポリマーマトリックスの任意の反応性基と反応してもよく、これにより、グラフトが起こり得る大きな部位集団を有する可能性、またこれによりかなりの電荷密度を得る可能性がもたらされる。[4、12、13]に記載されている方法では、3−ジメチルアミノプロピルアミンのみが、初期のグラフトレベルに応じて初期のスチレン基集団自体に依存するクロロスルホン化基と反応する。[4、12、13]に記載されているものの型のポリマーマトリックスを使用することによって、化学ラジカルグラフト中に生じたラジカル種は、膜の表面に存在する、クロロスルホン化スチレン基、クロロスルホン化されていないスチレン基の両方、及び任意の他の反応性基上に結合し得る。「反応性基」とは、ラジカル中心と反応し得る基を意味する。
【0096】
本発明によるカチオン交換膜を製造する方法は有利には、化学ラジカルグラフトによって、先に規定したようなポリマーマトリックス上で芳香族(複素)環と直接結合する式−(CH−NR(式中m、R及びRは先に規定したようなものである)の少なくとも1つの基を担持する開裂可能なアリール塩を有することにある。
【0097】
利用される開裂可能なアリール塩は、アリールジアゾニウム塩、アリールアンモニウム塩、アリールホスホニウム塩及びアリールスルホニウム塩からなる群から選択され、上記アリール基は、芳香族(複素)環と直接結合する式−(CH−NR(式中m、R及びRは先に規定したようなものである)の少なくとも1つの基を担持する。これらの塩では、アリール基が、先に規定したようなRで表され得るアリール基である。
【0098】
上記開裂可能なアリール塩の中でもとりわけ下記式(I)の化合物に言及することができる:
N−(CH−R−N、A (I)
(式中、
Aは一価アニオンを表し、
m、R、R及びRは先に規定したとおりである)。
【0099】
上記の式(I)の化合物では、Aが特に、無機アニオン、例えば、I、Br及びClのようなハロゲン化物、テトラフルオロボレート等のハロゲノボレート、過塩素酸塩及びスルホネート、並びに有機アニオン、例えば、アルコラート及びカルボン酸塩から選択され得る。
【0100】
式(I)の化合物として、4−アミノフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート又は4−アミノメチルフェニルジアゾニウムクロライドを使用することが特に有利である。
【0101】
それ故、このグラフト工程は、任意に先に規定したような少なくとも1つのポリマーマトリックスの存在下で、芳香族(複素)環と直接結合する式−(CH−NR(式中m、R及びRは先に規定したようなものである)の少なくとも1つの基を担持する少なくとも1つの開裂可能なアリール塩又はこのような開裂可能なアリール塩の前駆体を含有する溶液Sを、上記開裂可能なアリール塩又は上記前駆体から少なくとも1つのラジカル要素を形成させる条件に付すことにある。
【0102】
「芳香族(複素)環と直接結合する式−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する開裂可能なアリール塩の前駆体」とは、本発明の範囲内で、単一の適用し易い操作工程によって上記開裂可能なアリール塩から分離される分子を意味する。
【0103】
概して、前駆体は、同様の環境条件下で開裂可能なアリール塩よりも大きな安定性を有する。例えば、アリールアミンはアリールジアゾニウム塩の前駆体である。実際、単純な反応によって、例えば、酸性水性媒体中におけるNaNOとの単純な反応によって、又は有機媒体中におけるNOBFとの単純な反応によって、対応するアリールジアゾニウム塩を形成することが可能である。
【0104】
本発明の範囲内で有利に利用される前駆体は、下記式(II):
N−(CH−R−NH (II)
(式中R、R、R及びmは先に規定したとおりである)のアリールジアゾニウム塩の前駆体である。
【0105】
非限定的な例として、本発明の範囲内で利用され得る前駆体は、4−アミノフェニルアミン(又はp−フェニレンジアミン)又は4−アミノメチルフェニルアミンである。
【0106】
本発明による方法のグラフト工程で利用される溶液Sは、溶媒として、
プロトン性溶媒、すなわち、プロトンとして放出され得る少なくとも1つの水素原子を含み、かつ有利には、水、脱イオン水、蒸留水、酸性化又は塩基性のいずれかの、酢酸、メタノール及びエタノール等のヒドロキシル化溶媒、エチレングリコール等の低分子量の液体グリコール、並びにそれらの混合物からなる群から選択される溶媒、又は
非プロトン性溶媒、すなわち、プロトンを放出することができないか又は非極限条件下でプロトンを受容することができず、かつ有利には、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、アセトニトリル及びジメチルスルホキシド(DMSO)から選択される溶媒、又は
少なくとも1つのプロトン性溶媒と、少なくとも1つの非プロトン性溶媒との混合物のいずれか、
であり得る溶媒を含有する。
【0107】
本発明の方法のグラフト工程における少なくとも1つのラジカル要素の形成を可能とする条件は、溶媒と、少なくとも1つのポリマーマトリックスと、芳香族(複素)環と直接結合する式−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する少なくとも1つの開裂可能なアリール塩又はこのような開裂可能なアリール塩の前駆体とを含む反応混合物への電圧の印加の非存在下で、ラジカル要素の形成を可能とする条件である。
【0108】
これらの条件は、ラジカル要素の形成中に電流が関与しない一方で、例えば、温度、溶媒の性質、特定の添加剤の存在、撹拌、圧力等のパラメータが関与する。ラジカル要素の形成を可能とする条件は非常に多く、このタイプの反応は従来技術において詳細に知られておりまた研究されている。
【0109】
故に、例えば、不安定化させるために、芳香族(複素)環と直接結合する式−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する開裂可能なアリール塩、又はこのような塩の前駆体の熱環境、反応速度環境、化学的環境、光化学的環境又は放射化学的環境に影響を与えることが可能であり、その結果、開裂可能なアリール塩又は前駆体はラジカル要素を形成する。当然ながら、これらのパラメータの幾つかに同時に影響を与えることも可能である。
【0110】
本発明の範囲内で、本発明によるグラフト工程中にラジカル要素の形成を可能とする条件は典型的に、分子又はその前駆体が付される、熱条件、反応速度条件、化学的条件、光化学的条件、放射化学的条件、及びそれらの組合せからなる群から選択される。有利に、本発明によるグラフト工程の範囲内で適用される条件は、熱条件、化学的条件、光化学的条件、放射化学的条件、及びそれらの組合せからなる群から選択され、かつ/又は反応速度条件内にあるものである。本発明による方法のグラフト工程の範囲内で適用される条件はより詳細には化学的条件である。
【0111】
熱環境は温度に依存する。その制御は、当業者に通例使用される加熱手段により容易である。温度調節環境の使用は、反応条件の正確な制御を可能にするので、特に興味深い。
【0112】
反応速度環境は本質的に、系の撹拌及び摩擦力に対応する。本明細書で、これは、分子自体の擾乱(agitation)(結合の伸長等)ではなく、分子の総体的運動である。
【0113】
それ故、上記グラフト工程中、溶液Sを機械的撹拌及び/又は超音波による処理に付す。第1の代替形態では、グラフト工程中に実装される溶液Sを、マグネチックスターラー及び磁気棒を用いて高速回転に付し、これは特に10分〜12時間、とりわけ15分〜6時間を含む、5分〜24時間の撹拌からなる間行われる。第2の代替形態では、グラフト工程中に適用される溶液Sを、超音波による、特に、典型的に500ワットの吸収能及び25kHz〜45kHzの周波数を有する超音波槽を用いることによる処理に付し、これは特に15分〜12時間、とりわけ30分〜6時間を含む、1分〜24時間の撹拌からなる間行われる。
【0114】
最終的に、電磁放射線、γ線、UV線、電子ビーム又はイオンビーム等の様々な放射線の作用によっても、芳香族(複素)環と直接結合する式−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する開裂可能なアリール塩は十分に不安定化され得るため、開裂可能なアリール塩はラジカルを形成する。使用される波長は、何ら発明的努力を伴うことなく、使用される開裂可能なアリール塩に応じて選択される。
【0115】
化学的条件の範囲内で、1つ又は幾つかの化学的開始剤が反応媒体、すなわち溶液S中で使用される。化学的開始剤の存在は多くの場合、上記に論じたような非化学的環境条件と結び付く。典型的に、安定性が、利用される開裂可能なアリール塩又は前駆体のものよりも低い化学的開始剤は、選択された環境条件下で、開裂可能なアリール塩又は前駆体に作用する不安定な形態に発展し、それらからラジカル要素の形成を起こさせると考えられる。作用が本質的に環境条件に関係せず、かつ広範囲の熱条件又は更には反応速度条件にわたって作用し得る化学的開始剤を使用することも可能である。開始剤は好ましくは反応環境、例えば使用される溶媒に適合すると考えられる。
【0116】
多くの化学的開始剤が存在する。概して、使用される環境条件に応じて3つのタイプに区別される:
熱開始剤。最も一般的なものは過酸化物又はアゾ化合物である。熱の作用を受け、これらの化合物がフリーラジカルに解離する。この場合、反応は、開始剤からラジカルを形成するのに必要とされるものに対応する最低温度で実行される。このタイプの化学的開始剤は一般に、それらの分解反応速度に応じて、或る特定の温度間隔で特異的に使用される;
照射によりもたらされる放射線によって(ほとんどの場合UVによるが、γ線又は電子ビームによっても)励起される光化学的開始剤又は放射化学的開始剤は、程度の差はあるが複合機構によりラジカルの生産を可能にする。BuSnH及びIが光化学的開始剤又は放射化学的開始剤に属する;
本質的に化学的な開始剤。このタイプの開始剤は、ラジカルを形成させるために、急速かつ常温常圧条件下で分子又はその前駆体に作用する。かかる開始剤は一般的に、反応条件下で、使用される開裂可能なアリール塩又は該前駆体の還元電位よりも小さい酸化還元電位を有する。故に、開裂可能なアリール塩又はその前駆体の性質に応じて、これは、開裂可能なアリール塩又はその前駆体を不安定化させるのに十分な割合の、例えば、鉄、亜鉛、ニッケル等の還元金属;メタロセン;次亜リン酸(HPO)若しくはアスコルビン酸等の有機還元剤;有機塩基又は無機塩基であり得る。有利には、化学的開始剤として使用される還元金属が、金属ウール(より一般には「フレーク」とも称される)又は金属の削りくず等の微細形態で見られる。概して、有機塩基又は無機塩基を化学的開始剤として使用する場合、4以上のpHであれば包括的に十分である。ラジカルリザーバ型の構造、例えば、予め電子ビーム又は重イオンビーム及び/又は先に述べた全照射手段で照射したポリマーマトリックスも、開裂可能なアリール塩又はその前駆体を不安定化させかつこの塩からのラジカル要素の形成をもたらすための化学的開始剤として使用することができる。
【0117】
より詳細には、本発明による方法は、以下の工程:
a)溶液S中に存在する、芳香族(複素)環と直接結合する式−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する開裂可能なアリール塩の前駆体を、上記対応する開裂可能なアリール塩に任意に変換する工程と、
b)上記開裂可能なアリール塩からラジカル要素を発生させるように、溶液S中に存在する、任意に工程(a)後に得られる、芳香族(複素)環と直接結合する式−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する開裂可能なアリール塩を、非電気化学的条件下におく工程と、
c)先に規定したようなポリマーマトリックスを、上記溶液S中に存在する、工程(b)で得られるラジカル要素と接触させる工程であって、その接触によって、上記ポリマーマトリックス上における、式−R−(CH−NRの基及び/又は少なくとも1つのかかる基を担持する高分子構造物のグラフトが達成される工程と、
を含み、
なお、m、R、R及びRは先に規定したとおりである。
【0118】
以下のスキーム2は、前駆体としてp−フェニレンジアミンを使用するような方法の工程を示す。
【0119】
溶液S中における開裂可能なアリール塩又はこの開裂可能なアリール塩の前駆体の量は、実験者の要求に応じて様々な値をとり得る。この量は有利には、溶液S中で、およそ10−6M〜5M、好ましくは5×10−2M〜10−1Mを構成する。
【0120】
本発明による方法の工程(c)は、先に規定したようなグラフト工程に相当する。これは、10分〜6時間、特に30分〜4時間、とりわけ1時間〜2時間、より詳細には約90分(±10分)続けてもよい。
【0121】
開裂可能なアリール塩又はこの開裂可能なアリール塩の前駆体が溶液S中に大量に存在するため、グラフト工程を、全ての分子がカーボンナノチューブに付着する前に停止することができる。当業者は、グラフト工程の停止を可能にする種々の技法を認識しており、また、開裂可能なアリール塩又はその適用される前駆体に応じて最も適切な技法を決定する方法も知っているであろう。かかる技法の例として、特に塩基性溶液(例えば、pHが10を超える塩基性水)を添加することによる溶液SのpHの変化、(例えば濾過、沈降又は錯化による)溶液S中の開裂可能なアリール塩の除去、又は溶液Sからのポリマーマトリックスの回収に言及することができる。
【0122】
添付の図面を参照して、限定としてではなく、例示として以下に挙げる実施例を読めば、本発明の他の特徴及び利点が当業者に更に明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】膜抵抗を測定するのに使用され得る水銀電池の概略図である。
【図2】未処理の膜(図2A及び図2C)及び修飾膜(図2B及び図2D)の表面(図2A及び図2B)及び断面(図2C及び図2D)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【図3】未処理のVMC膜(曲線(a))及びポリアニリン型の薄層によって修飾されたVMC膜(曲線(b))の赤外スペクトルを示す図である。
【図4】未処理のVMC膜(曲線(a))及びポリアニリン型の薄層によって修飾されたVMC膜(曲線(b))のX線光電子分光スペクトル(XPS)を示す図である。
【図5A】未処理のPVDF膜のX線光電子分光スペクトル(XPS)を示す図である。
【図5B】PAAで修飾されたPVDF膜のX線光電子分光スペクトル(XPS)を示す図である。
【図5C】ポリアニリン型の薄層によって修飾されたPVDF膜のX線光電子分光スペクトル(XPS)を示す図である。
【図6】未処理のVMC膜(三角形)及びポリアニリン型の薄層によって修飾されたVMC膜(四角形)で記録されるインピーダンス図である。
【図7】平衡溶液中におけるニッケル当量濃度に対する修飾膜におけるニッケルイオンの当量分率(曲線a)、及び平衡溶液中におけるニッケル当量濃度に対する修飾膜の伝導度(曲線b)を示す図である。
【図8】修飾膜におけるニッケルイオンの当量分率に対する膜の伝導度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0124】
I.カチオン交換膜
I.1.VMC膜
本研究で使用されるカチオン交換VMC膜の主な特徴を表1に挙げる。
【0125】
【表1】

【0126】
I.2.放射グラフトされたナノ構造を有する膜
I.2.1.重イオン照射法
PVDF β膜(厚み9μm、Solvay(ベルギー))を、ソックスレーを用いてトルエン中で24時間抽出した。続いて、膜を真空中、60℃で12時間乾燥させた。その後、膜を、ヘリウム雰囲気中、1010イオン/cmのフルエンスの重イオン78Kr31+(Kr=10MeV・amu−1、Krの電子阻止能は40MeV・cm・mg−1である)(Ganil(Caen))による照射に付した。膜は窒素雰囲気下、−20℃で使用するまで保存した。
【0127】
I.2.2.スチレンによる放射グラフト法
重イオンを照射した膜(項目I.2.1)を放射グラフト管内で純粋なスチレン溶液に浸漬させた後、窒素バブリングを30分間実行する。続いて、管に封をし、60℃の浴内に1時間入れる。それにより修飾された膜をトルエンで2回濯ぐ(2×100mL)。膜を真空中で2時間乾燥させた。
【0128】
比率:Y=(W−W)/W(%)(式中、W及びWはビニルモノマーのグラフト後およびグラフト前の膜の重量を表す)を用いて放射グラフト率を算出した。放射グラフト率は140質量%であると求められた。膜をATR(減衰全反射)モードでフーリエ変換赤外分光法によって分析した。2985cm−1及び3025cm−1におけるポリスチレンの特異的な振動バンドが観測された。
【0129】
I.2.3.アクリル酸による放射グラフト法
重イオンを照射した膜(項目I.2.1)を、放射グラフト管内でアクリル酸、水(60/40)及び0.1質量%のモール塩の溶液に浸漬させた後、窒素バブリングを15分間実行する。モール塩はアクリル酸の単独重合を制限するために使用した。続いて、管に封をし、60℃の浴内に1時間入れる。その後、得られた膜を溶液から取り出し、水で清浄し、ソックスレー装置を用いて沸騰水中で24時間抽出した。その後、それを高真空下で12時間乾燥させた。
【0130】
比率:Y=(W−W)/W(%)(式中、W及びWiはビニルモノマーのグラフト後およびグラフト前の膜の重量を表す)を用いて放射グラフト率を算出した。放射グラフト率は50質量%であると求められた。膜をATRモードでフーリエ変換赤外分光法によって分析した。1703cm−1におけるポリ(アクリル酸)の特異的な振動バンドが観測された。
【0131】
I.2.4.PVDF−g−PS膜のスルホン化
PVDF−g−PS膜が膨張するように、膜を室温で20分間ジクロロメタン溶液に浸漬させた。続いて、膜を、室温で30分間、10%のクロロスルホン酸のジクロロメタン溶液に浸漬させる。その後、膜をジクロロメタンで2回濯いだ後(2×50mL)、室温で2時間1Mの水酸化ナトリウム溶液に浸漬させる。膜を再度酸性化させるために、それを脱イオン水で2回濯いだ後(2×100mL)、室温で3時間1Mの硫酸溶液に浸漬させる。脱イオン水での3回の濯ぎの後(3×100mL)、得られた膜を50℃の真空中で12時間乾燥させた。膜をATRモードでフーリエ変換赤外分光法によって分析した。1029cm−1におけるSO基の特異的な振動バンドが観測された。
【0132】
I.2.5.PVDF−g−PAA膜のスルホン化
PVDF−g−PAA膜を室温で6時間100%のクロロスルホン酸溶液に浸漬させた。その後、膜をジクロロメタン(2×50mL)、テトラヒドロフラン(2×50mL)、エタノール(2×50mL)、その後脱イオン水(2×50mL)で2回ずつ濯ぐ。膜を再度酸性化させるために、それを室温で3時間1Mの硫酸溶液に浸漬させる。脱イオン水での3回の濯ぎの後(3×100mL)、得られた膜を50℃の真空中で12時間乾燥させた。膜をATRモードでフーリエ変換赤外分光法によって分析した。1029cm−1におけるSO基及び1703cm−1におけるポリ(アクリル酸)のC=O基の特異的な振動バンドが観測された。
【0133】
I.2.6.PVDF−g−PS−SOH膜及びPVDF−g−PAA−SOH膜のイオン交換容量(IEC)の決定
膜を室温で24時間1MのNaCl溶液に浸漬させた。フェノールフタレインを着色指示薬として用いることによって溶液を0.01Mの水酸化ナトリウム溶液で滴定した。その後、IECを下記式:IEC(mequiv・g−1)=(V・NOH)/mにより求める。ここで、VはNaOHの当量体積であり、NOHは水酸化ナトリウム溶液の規定度であり、mは膜の総質量である。PVDF−g−PS−SOH膜のIECは、2.97mequiv・g−1のプロトン交換能であると評価された。PVDF−g−PAA−SOH膜のIECは、3mequiv・g−1のプロトン交換能であると評価された。
【0134】
II.本発明による膜の表面を修飾する方法
ポリアニリン型のフィルムのグラフト化は、以下の方法において空気中室温で実行した:p−フェニレンジアミンを0.3のpHを有する塩酸の溶液(0.5MのHCl)に0.1Mで可溶化する。モノアリールジアゾニウム塩を生成するために、5mLの0.1Mの亜硝酸ナトリウム溶液を同体積のp−フェニレンジアミン溶液に滴加した。溶液の均質化後、塩を還元させるための反応を起こすために、0.5gの鉄の削りくず(filings)を添加する。溶液は、(ジアゾニウム塩の還元から生じる)窒素の泡(foam of nitrogen bubbles)及び(酸性媒体中における鉄の削りくずのアタックに起因する)水素の泡を発生させる。
【0135】
ほんの少しの後、膜(3×3cm)を挿入する。更に何もすることなく膜を溶液中で90分間維持した後、回収し、酸性HCl溶液(pH=0.3)に浸すことによって濯ぎ、その後、塩を加えたNaCl溶液(30g/l)、続いて脱イオン水を用いて超音波浴内において120分間濯ぐ。
【0136】
III.本発明による修飾膜を特性決定するのに使用される技法
III.1.分光学的研究
SEM画像をSEM−FEG(電界放出銃)であるHitachi S4500電子顕微鏡により記録した。
【0137】
IRスペクトルを、ATR Pike−Miracleアクセサリを備えるVertex 70 Brukerスペクトロメータにより記録した。検出器は、液体窒素で冷却したMCT(テルル化カドミウム水銀)検出器である。スペクトルは、2cm−1の解像度で256回のスキャンにより取得した。XPSの記録は、1486.6eVでAlKα源を用いて、KRATOS Axis Ultra DLDにより遂行した。遷移エネルギーはコアレベルに対して20eVに設定した。
【0138】
III.2.イオン交換容量
既知の重量の膜サンプルを、それらを1MのNaCl溶液中で撹拌することによってNa形態に変換する。その後、膜を洗浄し、1.0MのHCl溶液における吸収平衡(absorption equilibrium)に25℃で24時間設定する。吸着したHClを完全に取り出すためにそれらを再度蒸留水で濯ぎ、最終的に、スルホネート部位と結合するHイオンと外部NaCl溶液中のNaイオンとの交換反応を得るために1MのNaCl溶液に入れる。得られた溶液中のプロトンの量は、酸−塩基滴定(DMP Titrino(Metrohm))により推定され、イオン交換容量Cexは乾燥膜1グラム当たりのHイオン(mmol)の量として表される。
【0139】
III.3.輸送指数
電気透析セルは2つのコンパートメントからなる。膜を両コンパートメント間の円形オリフィスに入れる。封止は円形フラットガスケットで行う。膜の見掛け面積は6cmである。白金でめっきしたチタンの2つのプレートを、アノード及びカソードとして使用し、両コンパートメントの端に入れる。アノードコンパートメントは、0.25MのNiSOと0.25MのHSOとからなる250mLの溶液を含有する。カソードコンパートメントは、0.5MのHSOのみを含有する25mLの溶液を含有する。ソフトウェアパッケージCorrwareにより制御される1286 Solartronポテンショスタットを用いて、60mAの電流を30分間セル全体に印加する。ニッケル及びプロトンの量は、原子吸収分光法及び滴定装置(DMP Titrino(Metrohm))によって検査する。
【0140】
III.4.イオン交換等温線
まず、膜を24時間0.5MのHSOに浸漬させる。表面に堆積する硫酸を吸収する紙上で乾燥させた後、平衡までイオンを充填するように、膜を24時間撹拌しながらxNのNiSO溶液及び0.5NのHSO溶液に浸漬させる(ここで、xは0.05、0.1、0.2及び0.5に等しい)。その後、膜を溶液から取り出し、吸収紙で包んだ(buffered)後、水素及びニッケルイオンを全て交換させかつ取り出すために、24時間1MのNaCl溶液に再度浸漬させる。溶液中に放出するニッケルの量は、原子吸光分光法によって求められる。
【0141】
III.5.膜の抵抗
所与の溶液において平衡を保つ膜の電気抵抗の値は、水銀電池(図1)を用いることによって、電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって測定される。この情報を収集するために、白金線を、膜に直接接触する水銀中に浸漬させ、結果として測定用電極が形成される。水銀との膜の有効接触面積は0.866cmである。
【0142】
Solartron社の1255 HF周波数応答分析器及び同じ会社のSI 1286電気化学的界面機器を実装することによって、Scribner AssociatesのプログラムZplotが、1Hz〜100000Hzの範囲の周波数についてのzの値を格納し得る。結果の表示はアルガン図において果たされる。
【0143】
硫酸の所与の溶液中で平衡を保つ膜の電気抵抗の値は、電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって測定される。2つのコンパートメントからなるセルは、膜の表面全体に接触させるために、等しい体積の水銀で調整される。水銀による電気接触は、白金/パラジウム線によって想定される。可変周波数のAC電流は、EISによる分析を行うのに使用される。1Hz〜100kHzの周波数間に規定されるインピーダンス図は、抵抗が高周波数部分に規定されるのを可能とする。Zviewソフトウェアパッケージにより制御されるSolartron社製のアセンブリ1286(ポテンショスタット)−1255(周波数分析器)によって測定を行う。
【0144】
IV.結果及び考察
IV.1.VMC膜の表面におけるポリアニリン型の層の特性決定
VMC膜上におけるポリアニリン型の層のグラフトは、項目IIに示される操作モードに従って実現される。化学原理を以下のスキーム2に示す。(a)1当量のNaNOの添加により、ジアミン分子の2つのアミノ化基の一方のみの、ジアゾニウム塩への変換がもたらされる。酸性媒体が、幾らか保護される残存アミン官能基から形成されるジアゾニウム塩の保護を可能にすると明記することが重要である。これは、層のグラフト率及び被覆率を改善させることに寄与する。(b)鉄粒子の表面におけるジアゾニウム塩の化学的還元により、対応するラジカル種の形成がもたらされる。(c)これらの高い反応性の化学種はラジカル付加機構によって周囲表面においてグラフトされる。(d)層に対する成長機構が可能であり、また数ナノメートルの厚みをもたらし得る。
【0145】
【化2】

【0146】
まず反応の終わりの膜を、鉄粒子のあらゆる痕跡を除去するために0.5Mの塩酸で濯ぐ。その後、膜の体積のナトリウムとプロトンを交換するためにそれを1MのNaCl溶液で調整する。最後に、膜を脱イオン水で濯ぐ。この段階で、表面アミン基が中和されることを明記すべきである。それらは、pHがアミン塩基の共役酸形態を作るのに十分である使用条件下、すなわち、酸性媒体中にある場合に、多価イオンを忌避することを意図する荷電群となる。アニリンのpKaは4.63であり、すなわち、酸性廃水の通常pHは常にこの値を下回る。
【0147】
未処理の膜及びポリアニリン型のフィルムによって修飾された膜の表面及び断面のSEM画像を図2に示す。ポリアニリン型のフィルムの存在は、未処理の表面(図2A)には見ることができない、わずかに橙色の表皮面の外観により、膜の表面を示す画像(図2B)に見ることができる。膜断面の画像では事実上、付加的な層を観測できない(図2C及び図2D)。これは、修飾が極めて表在性であることを表す。
【0148】
図3は修飾前後のIRスペクトルを示す。修飾されていないVMC膜(すなわち、未処理の膜)のスペクトルは、S=O振動に相当する1171cm−1のバンドを特徴とする。−SO基の振動に相当するものは、1008cm−1及び1037cm−1に観測される[12]。ポリアニリン型のフィルムによる修飾後、−SO基に関連するバンドは、強度がわずかに減少しても常に見ることができる。1510cm−1及び1610cm−1、また3350cm−1における新たなバンドはそれぞれ、NHの変形及び伸長によるNH振動に起因する。これは金属表面上に観測され得るため、スペクトルの一般的側面は、膜の存在及びポリアニリン型の薄層に対応する。ATR法を考慮し、膜の表面に対して1μm〜3μmの厚みについてIR分析を行う。
【0149】
また、未処理の膜及び修飾膜はXPSによって分析する。このとき、表面の分析は、ナノメートルスケール(10nm〜20nm)で遂行する。これは図4に見ることができるように、未処理のVMC膜は、スルホネート基に特徴的な、1072eV(Na1s)、977eV(O KLLオージェピーク)、532eV(O1s)、497eV(Na KLLオージェピーク)、228eV(S2s)及び169eV(S 2p)におけるピーク、並びにポリ塩化ビニル(PVC)骨格に起因する、271eV(Cl2s)、200eV(Cl2p)及び285eV(C1s)におけるピークを示す[12、18]。
【0150】
塩素又は硫黄のピークの減衰、及び窒素に起因する400eVにおけるピークの出現が、未処理の膜と修飾膜との間に顕著に観測される。これらの2つの観測結果は、膜の表面上に存在するポリアニリン型の薄いフィルムの存在を表す。フィルムは、数ナノメートルの厚みを有すると推測され得る。図3は、NH基によく一致する400eVを中心とするN 1sピークを示す。
【0151】
グラフトされた層の安定性は、超音波に長時間かけた後に上記に示すスペクトルが体系的に得られることによって立証される。幾つかのサンプルは0.5Mの塩酸中で実に1週間維持される。
【0152】
カチオン性表面層によって修飾されるカチオン交換膜が、高いイオン価のカチオンよりも低いイオン価のカチオンに対して優先的に透過性であることが一様に示された。同時に、これらの膜は、静電反発力及び孔の小さいサイズに起因して、最大のものよりも小さい水和カチオンに対してより透過性である。
【0153】
IV.2.PVDF−g−PAA膜の表面におけるポリアニリン型の層の特性決定
PVDF−g−PAA膜上におけるポリアニリン型の層のグラフトは、項目IIに示されかつパラグラフIV.1に記載される操作モードに従って遂行される。
【0154】
まず反応の終わりの膜を、鉄粒子のあらゆる痕跡を除去するために0.5Mの塩酸で濯ぐ。その後、膜の体積のナトリウムとプロトンを交換するためにそれを1MのNaCl溶液で調整する。最後に、膜を脱イオン水で濯ぐ。この段階で、表面アミン基が中和されることを明記すべきである。それらは、pHがアミン塩基の共役酸形態を作るのに十分である使用条件下、すなわち、酸性媒体中にある場合に、多価イオンを忌避することを意図する荷電群となる。アニリンのpKaは4.63であり、すなわち、酸性廃水の通常pHは常にこの値を下回る。
【0155】
未処理の膜及び修飾膜はXPSによって分析する。これは図5A〜図5Cに見ることができるように、未処理のPVDF膜(図5A)は、287eVを中心とする二重ピークを示す。285eVにおける第1のピークは、PVDFの水素原子を担持する炭素(C1s)に相当し、290eV付近の第2のピークは、PVDFのフッ素原子を担持する炭素に相当する。685eVを中心とするピークは直接、PVDFのフッ素原子(F1s)に相当する。
【0156】
PAAによるPVDF膜のグラフトであるPVDF−g−PAAは、PAAの酸素原子(O1s)に関連する532eVにおける高強度バンドの出現を特徴とする(図5B)。多数を占める炭素ピークは、285eVを中心とする。相対強度において、PVDFを被覆するPAAフィルムの存在に起因して、ピークF1sの強度が減少する。
【0157】
ポリアニリン型の薄いフィルムによる修飾(図5C)は主に、400eVを中心とするピークN1sの出現及びF1s及びO1sのピークの相対的な減少によって表される。フィルムは、数ナノメートルの厚みを有すると推測することができる。
【0158】
グラフトされた層の安定性は、超音波に長時間かけた後に上記に示すスペクトルが体系的に得られることによって立証される。幾つかのサンプルは0.5Mの塩酸中で実に1週間維持される。
【0159】
表面においてカチオン性層によって修飾されるカチオン交換膜が、高いイオン価のカチオンよりも低いイオン価のカチオンに対して優先的に透過性であることが一様に示された。同時に、これらの膜は、静電反発力及び孔の小さいサイズに起因して、最大のものよりも小さい水和カチオンに対してより透過性である。
【0160】
IV.3.水素イオンに対する選択性の改善
電気透析プロセス中、膜を通る水素イオン及びニッケルイオンの輸送数は、数式:
【数1】

(式中、Fはファラデー定数であり、N、NはアノードコンパートメントにおけるイオンMの初期濃度及び最終濃度であり、Iは総印加電流であり、tは電気透析時間を表す)
に従って、電気透析前後のアノードコンパートメントの組成から求めることができる。
【0161】
そうでなければ、Hに対するNi2+カチオンの輸送数と称される、Ni2+カチオンとHカチオンとの間の比透過選択性
【数2】

が、以下の数式:
【数3】

(式中、
【数4】

及び
【数5】

はそれぞれ、電解中の脱塩溶液側の膜の表面上におけるNi2+カチオン及びHカチオンの濃度である)
で規定される。
【0162】
未処理の膜及び修飾膜についての0.056及び0.0066の
【数6】

の値の比較は、プロトンに対する選択性の増大を示す。かかる結果は、慣習的な方法によって修飾される、プロトンに対して選択的な他のイオン交換膜により得られるものに匹敵する[2、4、19]。
【0163】
膜の修飾が選択性を改善させるだけでなく、伝導度の低下をももたらし、それ故、電気透析の効率に影響を及ぼし得ることが明らかである。したがって、膜の抵抗を研究することが重要である。本研究では、0.25MのHSO溶液中における平衡後の膜の抵抗を、水銀で充填したコンパートメントを有するセル内においてEISによって求める。値の決定は、図6に見られる一般的側面を有する未処理の表面及び修飾表面のナイキスト線図から推察する。
【0164】
膜の面積(0.866cm)を考慮して、0.25Mの硫酸に接触する未処理の膜及び修飾膜の電気抵抗を推察することができる。電気抵抗が修飾後に0.86オーム・cmから0.93オーム・cmに、すなわち8%わずかに増大することが伺われる。
【0165】
Chapotot[19]は、ポリエチレンイミンの層により修飾されるCRA膜の電気抵抗が、2.1オーム・cmから4.1オーム・cmに、すなわち略100%増大することを報告している。本発明の範囲内で、抵抗値の増大は、付加される層の小さい厚みに起因して非常に小さいままであると思われる。この推測は、イオン交換容量に関する研究と十分一致している。要望どおり、ポリアニリン型の薄層は、未処理の膜に比べて修飾膜のイオン交換容量には作用しない。
【0166】
以下のことが測定される:
未処理の膜のイオン交換容量を測定すると、2.13mmol当量/gであり、
修飾膜のイオン交換容量を測定すると、2.11mmol当量/gである。
【0167】
さらに、VMC膜に関する本研究で得られる0.93オーム・cmの値は、商業用CMS膜の0.96オーム・cm[3]の値と比較され得る。金属化産業由来の廃水の処理にたびたび使用される商業用CMS膜[2、3、20]は、一価カチオンに関するその選択性を改善させるように表面で修飾され、VMC膜と同様のポリスチレン−ジビニルベンゼン構造を有する。
【0168】
IV.4.膜における水素とニッケルとの交換平衡
膜の表面でグラフトされるポリアニリン型の薄層の存在が、硫酸と硫酸ニッケルとからなる混合溶液からプロトンを分離する機能特性を膜にもたらすことが示された。膜におけるプロトンとニッケルイオンとの間の輸送の競合に関する調査には、プロトンとニッケルとの交換平衡のより良好な説明を必要とする。本発明者等によって行われる、硫酸の存在下における膜の吸収特性に関する調査は、種々の硫酸ニッケル濃度を用いて拡張した。
【0169】
外部溶液と膜とのイオン交換等温線を表すために、当量分率(equivalent fraction)
【数7】

は平衡溶液中で規定されるものとし、H−Ni2+系に関する、膜内の
【数8】

は下記のとおり規定される:
【数9】

(式中、
【数10】

及び
【数11】

はそれぞれ、溶液中及び膜内のイオン濃度(mol/cm)である)。
【0170】
これまでの研究で[3]、膜相に入る交換されない電解質イオンが交換容量に比較して無視できるものであると示されてきた。この場合、得られる荷電の平衡条件は:
【数12】

であり、ここで、
【数13】

は膜内の固定イオン部位の濃度として使用される。
【0171】
図7は、修飾膜についてのイオン交換等温線を記載している。ニッケルの吸収量が未処理の膜よりも修飾膜においてわずかに大きくなることが観測される。
【0172】
実に、0.5の当量分率を含有する外部溶液により、0.88の吸収当量分率が修飾膜において得られ、未処理の膜では0.94の吸収当量分率が得られる[3]。両方の膜の間の観測された差異は、二価ニッケルイオンの移行速度を低減させる正に帯電した層の存在に起因する。別の様式では、膜の伝導度κを、以下の方法で、膜における水素及びニッケルイオンの移動度から求めることができる:
【数14】

(式中、
【数15】

は移動度(cm−1−1)であり、
【数16】

は膜相内のイオンiの総濃度(mol/cm)である)。
【0173】
本研究では、膜伝導度κが、以下の関係を用いて算出される:
【数17】

(式中、Rは膜の抵抗であり、d及びAはそれぞれ、2つのコンパートメントを有するセル内における膜の厚み及び曝露面である(A=0.866cm))。伝導度の実験値を図7の曲線(b)にプロットする。
【0174】
数式
【数18】

は、膜伝導度が、膜におけるニッケル当量分率の関数として直線的に変化することを示す。図8の線は、上記の数式の妥当性を裏付けるものである。図に与えられるパラメータから、比率
【数19】

の値を算出することが可能であり、これは修飾膜について40.2である。
【0175】
未処理のVMC膜で行われる実験は、7.4程度の移動度比というかなり小さい値をもたらす。この値は、未処理の膜が一価イオン又は多価イオンのいずれについても特異的な選択性を何ら示さないことを表す。これは、非選択性の膜により得られるものに類似する値である。
【0176】
反対に、修飾膜で得られる40.2の値は、CMS等の商業用の高い選択性の膜により得られかつ文献[3、20]で報告される、それぞれNi2+、Cu2+又はZn2+に関する39.8、37.9又は38.7の値に匹敵するものである。
【0177】
修飾VMCの移動度比H/Ni2+は40.2である。
未処理のVMCの移動度比H/Ni2+は7.4である。
【0178】
V.結論
ポリアニリン型ポリマーの薄層は、一価イオンに対する選択性を改善させるために、ジアゾニウム塩に基づき、極めて単純な方法によって、カチオン交換膜の表面上でグラフトされた。
【0179】
酸性媒体中に入れられる膜の表面上における正に帯電した層の存在は、プロトンに対する強い選択性をもたらす。
【0180】
それによりなされる修飾が、電気透析における膜の効率的な操作に関する基本パラメータである膜のイオン交換容量又は電気抵抗のいずれも変えることなく膜の選択特性を変更するに過ぎないことは特筆すべきことである。正に帯電した層は、膜内に貫入するニッケルの量を低減させ、プロトンとニッケルイオンとの間の電気輸送現象における競合に影響を及ぼす。
【0181】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン交換膜であって、表面上に、式−R−(CH−NRの少なくとも1つの基及び/又は式−R−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する少なくとも1つの分子がグラフトされる、ポリマーカチオン交換マトリックスにある、カチオン交換膜:
(式中、
はアリール基を表し、
mは0、1、2又は3を表し、
及びRは、同一であるか又は異なり、水素又はアルキル基を表す)。
【請求項2】
前記アリール基が、3個〜8個の原子を各々含む1つ又は複数の芳香族環又は芳香族複素環からなる、任意に一置換若しくは多置換される、芳香族炭素構造又は複素環式芳香族炭素構造であり、該ヘテロ原子(複数の場合もあり)がN、O、P又はSとすることができることを特徴とする、請求項1に記載のカチオン交換膜。
【請求項3】
前記アリール基が、フェニルの原子の1つと直接結合する式−(CH−NRの基で少なくとも置換されるフェニルであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のカチオン交換膜。
【請求項4】
前記R基及びR基が、同一であるか又は異なり、水素、メチル、エチル又はプロピルからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のカチオン交換膜。
【請求項5】
アリール基Rが置換される式−(CH−NRの前記基が、−NH、−CH−NH、−(CH−NH、−N(CH、−CH−N(CH、−(CH−N(CH、−N(C、−CH−N(C及び−(CH−N(Cからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のカチオン交換膜。
【請求項6】
前記グラフトされた分子が高分子構造物であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のカチオン交換膜。
【請求項7】
前記高分子構造物が、同一であるか又は異なる、式−R[(CH−NR]−(式中、R、R、R及びmは請求項1〜5に規定したとおりである)の幾つかのモノマー単位に主に由来する(コ)ポリマーであることを特徴とする、請求項6に記載のカチオン交換膜。
【請求項8】
前記ポリマーマトリックスがナノ構造を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のカチオン交換膜。
【請求項9】
前記ポリマーマトリックスが、
該マトリックスを形成するポリマーと共有結合し、かつ、以下:
炭素原子の少なくとも一部が−COOR基と−SOR基又は−PO基との両方に結合する主鎖を含むポリマー鎖であって、Rが水素、ハロゲン、アルキル基又はカチオン性対イオンを表す、ポリマー鎖、
ペンダント型フェニル基を含む主鎖を含むポリマー鎖であって、これらの基の少なくとも一部が−SOR基又は−PO基で置換される少なくとも1つの水素原子を含み、Rが上記に挙げられるものと同じ意味を有する、ポリマー鎖、及び
これらの混合物、
から選択されるポリマー鎖を含む実質的に円柱状の帯域を、その厚み方向に含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のカチオン交換膜。
【請求項10】
溶液の電気透析のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載のカチオン交換膜の使用。
【請求項11】
前記溶液が、汽水、湧水、飲料水、海水、工業廃水、農業食品産業由来の溶液、又は精密化学産業若しくは製薬産業由来の溶液からなる群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のカチオン交換膜を製造する方法であって、先に記載したようなポリマーマトリックス上に、式−R−(CH−NR(式中R、R、R及びmは請求項1〜5に規定したとおりである)の少なくとも1つの基、及び/又は少なくとも1つのかかる基を担持する少なくとも1つの分子をグラフトすることにある、請求項1〜9のいずれか一項に記載のカチオン交換膜を製造する方法。
【請求項13】
前記ポリマーマトリックス上で、化学ラジカルグラフトによって、芳香族(複素)環と直接結合する式−(CH−NR(式中m、R及びRは請求項1、4又は5に規定したとおりである)の少なくとも1つの基を担持する開裂可能なアリール塩を反応させることにあることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記開裂可能なアリール塩が下記式(I)のものであることを特徴とする、請求項13に記載の方法:
N−(CH−R−N、A (I)
(式中、
Aは一価アニオンを表し、
m、R、R及びRは請求項1〜5に規定したとおりである)。
【請求項15】
a)溶液S中に存在する、芳香族(複素)環と直接結合する式−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する開裂可能なアリール塩の前駆体を、前記対応する開裂可能なアリール塩に任意に変換する工程と、
b)前記開裂可能なアリール塩からラジカル要素を発生させるように、溶液S中に存在する、工程(a)後に任意に得られる、芳香族(複素)環と直接結合する式−(CH−NRの少なくとも1つの基を担持する開裂可能なアリール塩を、非電気化学的条件下におく工程と、
c)前記ポリマーマトリックスを、前記溶液S中に存在する、工程(b)で得られるラジカル要素と接触させる工程であって、その接触によって、前記ポリマーマトリックス上における、式−R−(CH−NRの基及び/又は少なくとも1つのかかる基を担持する高分子構造物のグラフトが達成される工程と、
を含み、
m、R、R及びRは請求項1〜5に規定したとおりであることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−514417(P2013−514417A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543774(P2012−543774)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070003
【国際公開番号】WO2011/073363
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(510097644)コミッサリア ア ロンネルジー アトミック エ オ ゾンネルジー ザルテルナティーフ (33)
【Fターム(参考)】