説明

選択波長域透過率向上膜及び蛍光ランプ

【課題】所定の波長域の光透過性を選択的に向上させることで、所望の色味を効率よく制御できる選択波長域透過率向上膜を提供する。また、当該選択波長域透過率向上膜を具備し、所望の色味が効率よく制御され、輝度が改善された蛍光ランプを提供する。
【解決手段】透光性基材上に設けられ、屈折率と膜厚とを調整することで、3つの特定波長域のうち1つの選択波長域における透過率を前記透光性基材のみの場合に比べて向上させる選択波長域透過率向上膜、及びこれを有する蛍光ランプである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択波長域透過率向上膜及び蛍光ランプに関し、特に蛍光ランプに好適に用いることが可能な選択波長域透過率向上膜及びこの膜を有する蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光ランプは、例えば、ガラス管の両端が封止された透光性封止管の内面に蛍光体からなる発光層を形成し、この透光性封止管内の両端部側にそれぞれ電極を設け、この透光性封止管内の任意の部分、例えば電極等に酸化セシウム等の電子放射性物質を付着させ、さらに、この透光性封止管内に水銀及びアルゴン等の希ガスを封入したものである。
【0003】
このような蛍光ランプに対し、最近では、昼白色、昼光色、白熱電球の色合いに近似した電球色等の様々な色味が求められる場合がある。このような場合、従来は、蛍光体層を互いに発光色の異なる複数種類の蛍光体で構成し、各色の蛍光体の混合比を適宜設定することにより上記のような色味を出してきた。
【0004】
しかし、蛍光体の種類によっては非常に高価なものもあり上記のような様々な色味を出すために高価な蛍光体を多量に使用すると、蛍光ランプのコストも当然高くなってしまう。従って、高価な蛍光体を多量に使用しないで、種々の色味を出すことができれば、コスト削減の観点からも有意である。
【0005】
また、従来の蛍光ランプでは、製造コストを低減する目的で蛍光体の塗布量を削減すると、発光層における紫外線吸収率が低下し、その結果、光束及び演色性が低下するという欠点がある。これを解消するために、ガラス面に、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、燐酸カルシウム等の非発光物質からなる紫外線反射層と、蛍光体を単独または複数種混合してなる発光層とを順次形成した蛍光ランプが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
さらに、放電容器の管球部の内面に三重蛍光体層からなるUV−可視変換層を形成し、この放電容器の放電キャビティに突き出した内曲管の表面にUV反射層を形成した無電極コンパクト蛍光ランプが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
ここで、従来の蛍光ランプは、ガラス面に、紫外線反射層及び発光層を順次積層した構成であるから、紫外線反射層により紫外線を良好に反射することで発光層自体の発光特性は改善されるものの、紫外線反射層における可視光領域の透過性が十分ではないために、蛍光ランプの輝度を向上させることが難しいという問題点があった。また、従来の無電極コンパクト蛍光ランプにおいても、上記の蛍光ランプと同様の問題点があった。
【特許文献1】特開平2−223147号公報
【特許文献2】特開2002−319373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
蛍光ランプの輝度を向上させるためには、発光層における発光強度の向上を図ること、すなわち蛍光体量を増加させることの他、ガラス管における可視光透過特性を改善する方法がある。ガラス管の可視光透過特性を改善させるためには、ガラス管自体の材質を可視光透過特性の良いものに変える方法の他、ガラス管の表面に、例えば低屈折率膜からなる可視光反射防止層を設けることが考えられる。しかしながら、材質の変更はガラス自体が高価なために大幅なコストアップを招くため実用的ではない。また、可視光反射防止層の形成も、この可視光反射防止層を形成するための工程が別途必要になり、その結果、工程に係る時間が長くなり、製造コストも上昇するという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、下記目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明は、所定の波長域の光透過性を選択的に向上させることで、所望の色味を効率よく制御できる選択波長域透過率向上膜の提供を目的とする。また、当該選択波長域透過率向上膜を具備し、所望の色味が効率よく制御され、輝度が改善された蛍光ランプの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明者等は下記本発明に想到し当該課題を解決できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の通りである。
[1]透光性基材上に設けられ、屈折率と膜厚とを調整することで、3つの特定波長域のうち1つの選択波長域における透過率を前記透光性基材のみの場合に比べて向上させる選択波長域透過率向上膜。
[2]前記3つの特定波長域が、蛍光ランプに用いられる蛍光体の発光領域内にある[1]に記載の特定波長域透過率向上膜。
[3]前記3つの特定波長域がそれぞれ、600〜640nm(R領域)、530〜570nm(G領域)、410〜500nm(B領域)であり、前記選択波長域が前記R領域の場合、屈折率が1.30〜1.43で、膜厚が0.30〜0.40μmであり、前記選択波長域が前記G領域の場合、屈折率が1.30〜1.43で、膜厚が0.28〜0.38μmであり、前記選択波長域が前記B領域の場合、屈折率が1.30〜1.43で、膜厚が0.55〜0.97μmである[1]又は[2]に記載の特定波長域透過率向上膜。
[4]酸化アルミニウム微粒子および酸化イットリウム微粒子の少なくともいずれかを含む[1]〜[3]のいずれかに記載の選択波長域透過率向上膜。
[5]さらに、紫外線反射特性を有する[1]〜[4]のいずれかに記載の選択波長域透過率向上膜。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の選択波長域透過率向上膜が、透明性封止管の内部に形成されてなる蛍光ランプ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所定の波長域の光透過性を選択的に向上させることで、所望の色味を効率よく制御できる選択波長域透過率向上膜を提供することができる。また、当該選択波長域透過率向上膜を具備し、所望の色味が効率よく制御され、輝度が改善された蛍光ランプを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[選択波長域透過率向上膜]
本発明の選択波長域透過率向上膜は、透光性基材上に設けられ、屈折率と膜厚とを調整することで、3つの特定波長域のうち1つの選択波長域における透過率を透光性基材のみの場合に比べて向上させる膜である。
ここで、3つの特定波長域は、蛍光ランプに用いられる蛍光体の発光領域内にあることが好ましく、それぞれ、600〜640nm(R領域)、530〜570nm(G領域)、410〜500nm(B領域)であることが好ましい。
【0014】
白色光を発光する通常の蛍光ランプにおける発光波長の分布は、太陽光のような連続スペクトルではなく、光の3原色である赤、緑、青の3種類(波長)に選択的なピークを有している。すなわち、蛍光ランプに用いられる蛍光体は、紫外線を吸収して赤、緑、青の3種類(波長)の光のいずれかを発光するものであって、これらの光を発光する3種類(以上)の蛍光体を組み合わせて用いることにより、発光する各波長の光を合わせ、白色光を得ている。従って、蛍光ランプにおける輝度改善においては、必ずしも可視光全域に渡っての特性改善を行う必要はなく、これら蛍光体の発光波長に合わせた領域の特性改善を行えばよい。
【0015】
ここで、蛍光体の発光領域は、赤色に相当する波長(R領域)が600〜640nm、緑色に相当する波長(G領域)が530〜570nm、青色に相当する波長(B領域)が410〜500nmである。従って、選択波長域透過率向上膜を設けることにより、透光性基材のみの場合に対し、これらの波長域において透過特性が改善されればよい。すなわち、本選択波長域透過率向上膜を蛍光ランプに適用することにより、所望の色味を出すように制御することが可能となり、また透過率が向上するから蛍光ランプの輝度を向上させることができる。
なお単純に示せば、赤系に相当する波長の光が強い場合は電球色、青系に相当する光が強い場合には昼白色に近い色味となる。
【0016】
選択波長域透過率向上膜を設けた場合においては、選択波長における透過率が向上すれば透過率向上値を特に限定するものではないが、蛍光ランプ用透光性封止管に適用した場合には1%以上であることが好ましく、2.5%以上であることがより好ましい。1%以上であれば、蛍光ランプの実効的な輝度向上が得られる。
【0017】
一方、選択波長域透過率向上膜を設けた場合における選択波長以外の透過率は、透光性基材のみの場合に比べて低下しないことが最適ではあるが、実際には全光線透過率の値が透光性基材のみの場合に比べて2%以上低下しないことが好ましく、1%以上低下しないことがより好ましい。
これは、本発明の選択波長域透過率向上膜を蛍光ランプに適用した場合、上記の蛍光体発光領域の波長以外であれば、透過率がある程度低下しても蛍光ランプの輝度に対しては実効的な影響を及ぼさないためである。また、蛍光体自体のコストにも差があるため、例えば、高コストの蛍光体を用いる波長については蛍光体量を低減しつつ透光性封止管の該当波長域の光透過性を向上させることで輝度改善を行い、一方低コストの蛍光体を用いる波長については、透過率が減少した分を、蛍光体量を増すことによる輝度改善で補う、ということも可能である。
ただし、低コストの蛍光体を用いる波長の光の遮蔽量が過大になると、逆に低コストの蛍光体の使用量を必要以上に増大させてしまい好ましくない。このため、前記のように全光線透過率の値が2%以上低下しないようにすることが好ましい。
【0018】
本発明の選択波長域透過率向上膜においては、膜の屈折率(膜を構成する各成分の屈折率ではなく膜全体としての屈折率)および膜厚を調整することにより、選択波長域の透過率を調整する。
【0019】
ここで、膜の屈折率を制御するためには、屈折率の異なる2種以上の成分の混合比を変えて成膜する。また、本発明の膜を構成する成分は、基本的には可視光に対して透光性を有することが必要であること、低コストであることが好ましい。これらを考慮した場合、酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムが好適であることから、選択波長域透過率向上膜は、酸化アルミニウム微粒子および/又は酸化イットリウム微粒子を含むことが好ましい。
【0020】
なお、これら以外に、酸化ユーロピウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化ランタン、酸化カルシウム等の酸化物;窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の窒化物;ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩;等を用いることもできる。
【0021】
また、本発明の選択波長域透過率向上膜の膜厚は、上記のように膜の屈折率との関係で決定されるが、選択波長域がR領域の場合、屈折率が1.30〜1.43(より好ましくは1.30〜1.37)で、膜厚が0.30〜0.40μm(より好ましくは0.34〜0.37μm)であり、G領域の場合、屈折率が1.30〜1.43(より好ましくは1.30〜1.37)で、膜厚が0.28〜0.38μm(より好ましくは0.28〜0.33μm)であり、B領域の場合、屈折率が1.30〜1.43(より好ましくは1.30〜1.37)で、膜厚が0.55〜0.97μm(より好ましくは0.73〜0.78μm)であることが好ましい。
なお、実際の膜においては、屈折率や膜厚の制御に限界があるために生じる膜間の特性のバラツキや、膜形成時における変動による膜内の面内分布が生じる。このため選択波長域の範囲には広がりが生じ、本来は独立であるはずのR、G、B各領域間相互での影響が生じる場合がある。このため、本発明では、本来、R、G、Bの波長域のうちの1つの波長域(選択波長域)の透過率を大きくするものであるが、実際には選択波長域における透過率が透光性基材のみの場合に比べて5%以上向上する場合には、他の波長域の透過率も5%未満の範囲で向上することがある。特に波長域が近接しているR領域とG領域は、この影響が強い。
【0022】
この選択波長域透過率向上膜は、さらに紫外線反射特性を有していることが好ましい。
ここで、紫外線反射特性とは、蛍光体を励起する400nm以下の波長の紫外線を反射する性質を有するということである。この紫外線反射特性における400nm以下の波長の紫外線に対する反射率は、10%以上が好ましく、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは50%以上である。
例えば、全光線透過率の値が透光性基材に対して96〜100%の場合、紫外線領域240〜270nm、特に水銀の輝線である254nmにおける反射率は10〜60%である。
選択波長域透過率向上膜がこのような紫外線反射特性を有していれば、本発明の選択波長域透過率向上膜を蛍光ランプに適用した場合、発光層を通過した紫外線を反射させ再度発光層に戻すことができるので、紫外線を有効利用するとともに、蛍光体の励起を再度行うことで蛍光体の輝度を向上させることができ、よって蛍光ランプの輝度を向上させることができる。
選択波長域透過率向上膜に紫外線反射特性を付与するには、紫外線反射特性を有する材料自体を膜中に混合すればよい。選択波長域透過率向上膜に好適に用いられる酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムは紫外線反射特性も有しているから、これらの成分を用いることは紫外線反射特性を付与する点からも好ましい。また、酸化ランタン、酸化マグネシウム、硫酸バリウムなども紫外線反射特性を有しているので、これら成分を添加することも有効である。
【0023】
[選択波長域透過率向上膜の作製方法]
本発明の選択波長域透過率向上膜を透光性基材上に作製(形成)するには、まず、選択波長域透過率向上膜作製用塗料を調製する。当該塗料には、少なくとも屈折率の異なる2種以上の金属酸化物微粒子と溶媒とを含むことが好ましい。
【0024】
塗料中に含まれる金属酸化物微粒子としては、酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムであることが好ましいが、これは膜の説明において記載の通り、膜の屈折率を制御するために屈折率の異なる2種以上の成分の混合比を変えて成膜すること、本発明の膜を構成する成分が、基本的には可視光に対して透光性を有することが必要であること、コスト面を考慮したことによるものである。
金属酸化物微粒子の平均粒径は、0.005〜0.5μmであることが好ましく、0.01〜0.10μmであることがより好ましい。当該平均粒径は日機装社製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT3000IIシリーズ、HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950などにより測定することができる。
【0025】
また、これら以外の金属酸化物として、酸化ユーロピウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化ランタン、酸化カルシウム等の酸化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の窒化物、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩等を選択できることも、前述の膜の場合と同様である。
【0026】
この塗料に用いられる溶媒は、基本的には、水および/または低沸点有機溶媒である。
上記の低沸点有機溶媒は、乾燥速度を向上させるために用いられるもので、常圧(1気圧)下で150℃以下の沸点を有する有機溶媒である。この低沸点有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の低級アルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸−1−ブチル、酢酸−2−ブチル等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;等の1種または2種以上を用いることができる。
【0027】
なかでも、水、低級アルコール類、ケトン類等が挙げられ、特に、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)等が好適である。
【0028】
この塗料の乾燥速度を調節するために、高沸点有機溶媒を添加してもよい。
この高沸点有機溶媒は、常圧(1気圧)下で150℃を超える沸点を有する有機溶媒であり、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0029】
塗料中の金属酸化物微粒子の分散性を向上させるために、上記塗料に分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸塩、ポリアルキル硫酸塩、ポリビニルアルコール(PVA)等の水に可溶なポリマー類が挙げられる。
【0030】
また、この塗料には、用途や仕様に応じて上記の他、界面活性剤、樹脂等の有機高分子、硼珪酸亜鉛ガラス等の低融点ガラス等を含有していてもよい。
【0031】
このような材料を適宜混合することで、選択波長域透過率向上膜作製用塗料を調製することができる。そして、透光性基材上に上記塗料を塗布して塗布膜を形成し、次いでこの塗布膜を乾燥および/または熱処理することで選択波長域透過率向上膜を作製することができる。
【0032】
ここで、透光性基材としては、必要とする波長域の光に対して透光性を有し、熱処理温度に耐える基材であればよく、ガラス基材、透光性のセラミックス基材等が好適であるが、蛍光ランプ用途を考慮すると、蛍光ランプの仕様に適合可能なガラス管が好ましい。
【0033】
塗布方法としては、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、メニスカスコート法、吸上げ塗工法、フローコート法等、通常のウエットコート法を用いることができる。特に、蛍光ランプのようにガラス管の内面に塗膜を形成する場合には、吸上げ塗工法、フローコート法等が好適に用いられる。
【0034】
塗布膜の乾燥および/または熱処理は、大気中にて行うことができる。
乾燥温度は、塗料に含まれる溶媒、すなわち水および/または低沸点有機溶媒が充分に散逸する温度であればよく、例えば、常温〜100℃である。
【0035】
この乾燥工程では、塗布膜が充分乾燥すればよく、加熱だけの乾燥でもよく、空気を吹き付けてもよい。具体的には、常温のエアブローでも、熱風を吹き付けてもよい。熱処理は、100℃〜800℃の範囲の温度にて、透光性基材および形成する選択波長域透過率向上膜に不具合が生じない範囲で所定時間行う。特に、蛍光ランプに適用する場合には、蛍光ランプ自体の特性に不具合が生じない範囲で行なう必要がある。
【0036】
一方、蛍光ランプに適用する場合には、基材上に蛍光体層及び本発明の塗布膜を順次形成した後に熱処理工程を行うことで、蛍光体層の形成と本発明の膜の熱処理を同時に行ってもよい。
【0037】
[蛍光ランプ]
本発明の蛍光ランプは、本発明の選択波長域透過率向上膜を透光性封止管の内部に形成することにより、透光性封止管における蛍光体の発光波長の光透過特性を向上するとともに、全光線透過率を一定値以上に保つことで可視光線領域での透過性を良好に保持し、更には紫外線を反射し蛍光体の励起を再度行うことで、蛍光体の輝度を向上させることが可能である。
【0038】
図1は、本発明の一実施形態の蛍光ランプを示す縦断面図、図2は同横断面図であり、図において、1は両端が封止されたガラス管からなる透光性封止管、2は本発明の膜であり透光性封止管1の内壁全体(内面)に形成された選択波長域の透過率が向上する選択波長域透過率向上膜、3は赤色系発光蛍光体、緑色系発光蛍光体及び青色系発光蛍光体の混合物からなる蛍光体層、4は透光性封止管1内の両端部側にそれぞれ設けられた電極、5は電極4に電気的に接続されたリード線である。
【0039】
また、Gは透光性封止管1内に封入された封入ガスであり、この封入ガスGは、水銀、及びアルゴン等の希ガスや窒素等の不活性ガスにより構成されている。
【0040】
通常の蛍光ランプは、点灯用電気回路を介して通電して点灯させると、透光性封止管1内の放電空間から発生する水銀の輝線である254nmの波長の光を蛍光体層3が吸収し、赤系、緑系、青系の可視光線が励起され発光する。そして、変換された可視光線及び蛍光体層3に吸収されなかった紫外線は、通常、透光性封止管を透過してランプ外に放射されるが、透光性封止管の光透過特性(光吸収特性)に基づく吸収を受け、放射光量が減少する。
【0041】
本実施形態の蛍光ランプでは、透光性封止管1の内壁全体に選択波長、すなわち蛍光体層3が発光する赤系、緑系、青系のいずれかの可視光線の透過率を向上させた選択波長域透過率向上膜2を形成しているので、透光性封止管の光透過特性(光吸収特性)に基づく吸収による放射光量の減少が抑制され、蛍光ランプの輝度を向上させることができる。
さらに、この選択波長域透過率向上膜2がさらに紫外線反射特性を有することで、蛍光体層3が吸収し得なかった紫外線を反射することにより、再び蛍光体層3に戻して吸収させ、可視光線に変換してランプ外に放射させることができる。このサイクルは透光性封止管内で繰り返し行われるので、透光性封止管1内で放射された紫外線のほとんどは、最終的に可視光線に変換され、蛍光ランプの輝度をより高めることができる。
【0042】
このように、本実施形態の蛍光ランプでは、従来の蛍光ランプと同じ水銀量、同じ電圧とした場合でも、透光性封止管における光透過特性が向上するので、蛍光ランプの輝度を向上させることができる。また、蛍光ランプの輝度を従来と同一にした場合、使用する水銀量を減らすことができる。その結果、最終的に液晶ディスプレイや液晶テレビ等における冷陰極管の本数を削減することができる。
【0043】
また、本発明の選択波長域透過率向上膜を用いれば、赤、緑、青の各光強度を調整することができるので、蛍光体層3中の蛍光体量が一定であっても蛍光ランプからの出射光を調光することが可能となる。すなわち、本発明の選択波長域透過率向上膜を用いた蛍光ランプによれば、通常の白色光だけではなく、例えば電球色や昼光色といった「色味」を制御した出射光を得ることが可能となる。
なお、この調光については、蛍光体の量や種類と組み合わせて行ってもよい。
【0044】
以上説明したように、本発明の選択波長域透過率向上膜は、蛍光ランプを形成する蛍光体の発光波長領域の光透過特性を選択的に向上させることから、本発明の選択波長域透過率向上膜を蛍光ランプに適用すれば、この蛍光ランプの輝度を向上させることができ、さらには製造コストの低減を図ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
酸化イットリウム粉末(平均粒径:0.06μm)を、分散剤を含む2−プロピルアルコール中にビーズミルを用いて分散させ、その後ビーズを分離し、酸化イットリウムを10質量%含む酸化イットリウム分散塗料を作製した。
また、酸化アルミニウム(γ−アルミナ)粉末(平均粒径:0.02μm)を、分散剤を含む2−プロピルアルコール中にビーズミルを用いて分散させ、その後ビーズを分離し、酸化アルミニウムを10質量%含む酸化アルミニウム分散塗料を作製した。
得られた酸化イットリウム分散塗料、酸化アルミニウム分散塗料、2−プロピルアルコールを、酸化イットリウムを1.5質量%と酸化アルミニウムを1.5質量%になるよう混合し、分散塗料(1)を作製した。
【0047】
次いで、分散塗料(1)を乾燥膜厚が0.34μmになるように硬質ガラス上に塗布し、得られた塗膜を室温にて乾燥させた後に、大気中、90℃にて5分間エアブローして仮焼成し、更に600℃で5分間熱処理し、R領域を選択波長域とした選択波長域透過率向上膜を作製した。
【0048】
更に、蛍光ランプ用のガラス管(透明性封止管)を用意し、このガラス管の内面に吸上げ塗工法を用いて上記分散塗料(1)を乾燥膜厚が0.34μmになるように塗布し、得られた塗膜を室温にて乾燥させた後に、大気中、90℃にて5分間エアブローして仮焼成を行い、更に600℃で5分間熱処理し、上記選択波長域透過率向上膜を形成した。
【0049】
次いで、この膜上に吸上げ塗工法を用いて蛍光体スラリを膜厚が20μmになるように塗布し、大気中、90℃にて5分間エアブローしながら乾燥を行った。800℃で30分間の熱処理を行い、その後、このガラス管に電極やリード線を取り付けて封止し、蛍光ランプを作製した。当該蛍光ランプからの光は、後述する比較例1よりもR領域の発光強度が約5.5%UPしていた。なお、蛍光体スラリとしては、赤色系発光蛍光体、青色系発光蛍光体、緑色系発光蛍光体の混合物と、ニトロセルロースを含む酢酸ノルマルブチルとの混合物を使用した。
【0050】
(実施例2)
酸化イットリウムを1.8質量%、酸化アルミニウムを1.2質量%になるように変更した以外は実施例1と同様にして分散塗料(2)を調製した。この分散塗料(2)を用い、乾燥膜厚を0.32μmに変更した以外は実施例1と同様にして、G領域を選択波長域とした選択波長域透過率向上膜を作製した。
【0051】
また、実施例1と同様にして蛍光ランプを作製した。当該蛍光ランプからの光は、後述する比較例1よりもG領域の発光強度が約5.2%向上していた。
【0052】
(実施例3)
酸化イットリウムを0.5質量%、酸化アルミニウムを4.5質量%になるように変更した以外は実施例1と同様にして分散塗料(3)を調製した。この分散塗料(3)を用い乾燥膜厚を0.72μmに変更した以外は実施例1と同様にして、B領域を選択波長域とした選択波長域透過率向上膜を作製した。
【0053】
また、実施例1と同様にして蛍光ランプを作製した。当該蛍光ランプからの光は、後述する比較例1よりもB領域の発光強度が約5.2%向上していた。
【0054】
(実施例4)
酸化イットリウムを2.4質量%、酸化アルミニウムを1.8質量%になるように変更した以外は実施例1と同様にして分散塗料(4)を調製した。この分散塗料(4)を用い乾燥膜厚を0.27μmに変更した以外は実施例1と同様にして、R領域を選択波長域とした選択波長域透過率向上膜を作製した。
【0055】
また、実施例1と同様にして蛍光ランプを作製した。当該蛍光ランプからの光は、後述する比較例1よりもR領域の発光強度が約2.8%向上していた。
【0056】
(実施例5)
酸化イットリウムを1.8質量%、酸化アルミニウムを2.4質量%になるように変更した以外は実施例1と同様にして分散塗料(5)を調製した。この分散塗料(5)を用い乾燥膜厚を0.32μmに変更した以外は実施例1と同様にして、G領域を選択波長域とした選択波長域透過率向上膜を作製した。
【0057】
また、実施例1と同様にして蛍光ランプを作製した。当該蛍光ランプからの光は、後述する比較例1よりもG領域の発光強度が約3.0%向上していた。
【0058】
(実施例6)
酸化イットリウムを4.2質量%、酸化アルミニウムを3.2質量%になるように変更した以外は実施例1と同様にして分散塗料(6)を調製した。この分散塗料(6)を用い乾燥膜厚を0.88μmに変更した以外は実施例1と同様にして、B領域を選択波長域とした選択波長域透過率向上膜を作製した。
【0059】
また、実施例1と同様にして蛍光ランプを作製した。当該蛍光ランプからの光は、後述する比較例1よりもB領域の発光強度が約2.8%向上していた。
【0060】
(比較例1)
選択波長域透過率向上膜を設けなかった以外は実施例1と同様にして蛍光ランプを作製した。
【0061】
(屈折率の測定)
分光光度計で反射率を測定し、その反射率から塗膜の屈折率を算出した。結果を膜厚とともに下記表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
(透過スペクトルの評価)
上記にて作製した選択波長域透過率向上膜の透過スペクトルを測定し、蛍光体発光波長域での透過率を比較した。測定には、日本分光製の分光光度計V−570(積分球装置使用)を用いた。結果を下記表2に示し、実施例1〜3の透過スペクトルを図3に示す。
なお、表2では比較例1の透過率を100として各実施例を下記4段階の評価指標で表している。
【0064】
【表2】

【0065】
表2より、すべての実施例において、それぞれの選択波長域にて比較例の膜を上回る透過率となっていた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態の蛍光ランプを示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の蛍光ランプを示す横断面図である。
【図3】実施例1〜3の透過スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1・・・透光性封止管
2・・・選択波長域透過率向上膜
3・・・蛍光体層
4・・・電極
5・・・リード線
G・・・封入ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基材上に設けられ、
屈折率と膜厚とを調整することで、3つの特定波長域のうち1つの選択波長域における透過率を前記透光性基材のみの場合に比べて向上させる選択波長域透過率向上膜。
【請求項2】
前記3つの特定波長域が、蛍光ランプに用いられる蛍光体の発光領域内にある請求項1に記載の特定波長域透過率向上膜。
【請求項3】
前記3つの特定波長域がそれぞれ、600〜640nm(R領域)、530〜570nm(G領域)、410〜500nm(B領域)であり、
前記選択波長域が前記R領域の場合、屈折率が1.30〜1.43で、膜厚が0.30〜0.40μmであり、
前記選択波長域が前記G領域の場合、屈折率が1.30〜1.43で、膜厚が0.28〜0.38μmであり、
前記選択波長域が前記B領域の場合、屈折率が1.30〜1.43で、膜厚が0.55〜0.97μmである請求項1又は2に記載の特定波長域透過率向上膜。
【請求項4】
酸化アルミニウム微粒子および酸化イットリウム微粒子の少なくともいずれかを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の選択波長域透過率向上膜。
【請求項5】
さらに、紫外線反射特性を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の選択波長域透過率向上膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の選択波長域透過率向上膜が、透明性封止管の内部に形成されてなる蛍光ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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