説明

選択的な光抑制のためのシステム及び方法

眼用システムに用いるのに好適なフィルムが提供される。そのフィルムは400nm〜460nmの波長範囲の青色光を選択的に抑制して目に対する光毒性光を低減しながら明所視視覚を維持し、そのフィルムが組み込まれたシステムを観察及び/又は使用する観察者が無色と知覚するように色が調和されることができる。このシステムは85%以上の明所視及び暗所視発光透過率及び80%未満の光毒性率を有しうる。観察者の眼と光源との間に配置されて眼用システムまたは他のシステムに用いられる場合に、このフィルムは目の内部組織に青色光が流入するのを防止しながら瞳孔の拡張を低減又は最小化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2006年8月23日に出願された米国仮出願第60/839,432号、2006年9月1日に出願された米国仮出願第60/841,502号、及び2006年11月28に出願された米国仮出願第60/861,247号に基づく利益を主張し、これらの内容は参照としてここに完全に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
白内障及び黄斑変性症は眼球内のレンズ及び網膜がそれぞれ光化学的に損傷する結果であると広く考えられている。青色光に対する露出もまたブドウ膜メラノーマ細胞の増殖を促進することが示されている。可視スペクトルにおける最も活性な光子は380及び500nmの間の波長を有し、紫色又は青色と知覚される。例えば、マインスター(Mainster)及びスパロー(Sparrow)、「IOLはどれ位の青色光を透過すべきか?」、Br.J.オプタルモル(Ophthalmol).、2003年、87巻、1523〜29頁及び図6、に説明されているように、全体的な機構にわたって総括された光毒性の波長依存性は、しばしば作用スペクトル(action spectrum)として表される。眼球内にレンズを有しない目(無水晶体眼)では、400nmよりも短い波長の光は損傷を引き起こしうる。有水晶体眼では、この光は眼球内のレンズに吸収され、網膜に対する光毒性に寄与しないけれども、レンズの光学的な劣化又は白内障を引き起こしうる。
【0003】
目の瞳孔は、網膜の波長依存性感度を伴う入射流量と瞳孔の投影面積との積である、トロランドにおける明所視網膜照度に応答する。この感度は、ウィゼキ(Wyszecki)及びスタイルズ(Stiles)、カラーサイエンス:コンセプト及び方法、定量的データ及び化学式(Wiley: New York)1982年、102〜107頁に説明されている。
【0004】
現在の研究によれば、ある人の一生の過程において、幼児期の始まりから、光の網膜との相互作用によって、網膜の色素上皮層内部に代謝老廃副生成物が蓄積する。この代謝老廃生成物はあるフルオロフォアによって特徴付けられる。もっとも著名なものの一つはリポフスチン構成要素A2Eである。この特定のフルオロフォアは約430ナノメートルの波長の青色光照射によって最も重大に励起されることが示されている。この代謝老廃物(特にリポフスチンフルオロフォア)の形成の組合せがある一定レベルの蓄積を達成した場合に転換点に達し、人がある年齢閾値に達した場合に網膜内でのこの一定の老廃物を代謝する人の体の生理的な能力が減退し、そして該当する波長の青色光の刺激によってドルーゼが形成されると理論的に説明される。そして、ドルーゼはさらに適切な栄養を光受容体に届ける正常な生理学的/代謝活動を阻害して、AMD(年齢に関連した黄斑変性症)に寄与すると考えられる。AMDは高齢者における失明の主な原因と考えられる。
【0005】
理論的な観点から次の事項が発生している:
1)色素上皮レベル内部における老廃物の蓄積は、一生を通じて幼児期から出発して発生する。
2)この老廃物を処理するための網膜の代謝活性及び能力は、典型的には年齢と共に減少する。
3)黄斑色素は、典型的には人が年をとるにつれて減少し、それ故より少量の青色光しか濾光除去(filtering out)しなくなる。
4)青色光はリポフスチンが毒性になることを引き起こす。
5)得られる毒性により、色素上皮細胞が損傷される。
【0006】
430±30nmの波長範囲内において仮に約50%の青色光がブロックされると、青色光によって引き起こされる細胞死は最大80%まで減少することが示されている。プラット(Pratt)への米国特許第6,955,430号には、目の健康増進を目的として青色光をブロックするサングラス、眼鏡、ゴーグル及びコンタクトレンズのような外部眼鏡類が記載されている。網膜をこの光毒性の光から保護する目的のその他の眼用デバイスには、眼球内レンズ類及びコンタクトレンズ類が含まれる。これらの眼用デバイスは環境光と網膜との間の光学経路内に位置させられ、一般に、青色光及び紫色光を選択的に吸収する染料を含むかこれで被覆されている。
【0007】
青色光をブロックすることにより色収差を低減することを試みたその他のレンズが知られている。色収差は、角膜、眼球内レンズ、房水、硝子体液を含む眼球の媒体の光学分散によって引き起こされる。この分散は青色光をより長波長の光とは異なる画像平面に焦点し、フルカラー画像の焦点ぼけを導く。従来の青色ブロックレンズは、パーテル(Patel)らへの米国特許第6,158,862号、ジンカーソン(Jinkerson)への米国特許第5,662,707号、ヨハンセン(Johansen)への米国特許第5,400,17号、及びヨハンセン(Johansen)への米国特許第4,878,748号に記載されている。
【0008】
眼球の媒体に対する青色光の露出を低減するための従来の方法は、典型的には、閾値波長を下回る光を完全に閉鎖し、一方でより長い波長の光も低減することである。例えば、プラットへの米国特許第6,955,430号に記載されているレンズは、プラット'430の図6に示されるように、650nmまで長い波長の入射光の40%未満しか透過しない。米国特許第5,400,175号にヨハンセン及びディフェンダファー(Diffendaffer)によって開示された青色光ブロックレンズは、その'175特許の図3に示されるように、同様に、可視スペクトルにわたって60%を超えて光を弱めてしまう。
【0009】
青色光をブロック及び/又は抑制すると、カラーバランス、人が光学デバイスを通して見た場合の色覚、及び光学デバイスが知覚されている状態での色に影響するために、ブロックされた青色光の範囲及び量を調和させるのは困難である。例えば、射撃眼鏡は明るい黄色に見え、青色光をブロックする。射撃眼鏡は、人が青空に目を向けた場合に、しばしば、ある種の色をより明確にして、射撃手が標的物をより早くより正確に認識できるようにする。この作用は射撃眼鏡にとっては良いが、多くの眼用用途には許容されない。
【0010】
従来の手法による青色のブロックは可視光透過率を低下させることが見出されており、これは反対に瞳孔の拡張を刺激する。瞳孔が拡張すると、眼球内レンズ及び網膜を含む目の内部構造に対する光の流入が増大する。これらの構造に対する照射流量は瞳孔直径の2乗として増加するため、可視光透過率の減少を伴って青色光の半分をブロックするレンズは瞳孔を直径2mm〜3mm弛緩させ、実際には青色光子の網膜に対する照射量は12.5%だけ増加する。網膜を光毒性の光から保護することは、網膜に衝突するこの光の量に依存し、眼球の媒体の透過特性及び瞳孔の動的な口径にも依存する。
【0011】
従来の青色をブロックする手法に伴うその他の問題は暗視力が低下しうることである。青色光は、明るい光又は明所視のためよりも、低い光量レベル又は暗所視のためにより重要であり、暗所視及び明所視についての発光感度スペクトルにおける定量的に表現された結果である。光化学的及び酸化的反応は眼球内レンズ組織による400〜450nm光の吸収を引き起こし、年齢と共に自然に増加する。低光量視(low-light vision)に関与する網膜上の棒状の光受容体の数も年齢と共に減少し、眼球内レンズによる増大された吸収は暗視力を劣化させるのに重要である。例えば、暗所視感度は53歳の眼球内レンズでは33%だけ低下しており、75歳のレンズでは75%低下している。網膜の保護と暗所視感度との緊張関係は、マインスター及びスパロー、「IOLはどれ位の青色光を透過すべきか?」、Br.J.オプタルモル.、2003年、87巻、1523〜29頁に記載されている。
【0012】
青色ブロックするための従来の方法は、カットオフ又はハイパスフィルターを用いて、特定の青色または紫色の波長以下の透過をゼロに低減することを含みうる。例えば、閾値波長を下回る全ての光は完全に又はほぼ完全にブロックされうる。例えば、マインスター(Mainster)及びマインスター(Mainster)への米国公開特許出願第2005/0243272号、「眼球内レンズは青色光ではなくUV照射及び紫色をブロックすべきである」、アーク(Arch).オプタル(Ophthal).、第123巻、第550頁(2005)には、400及び450nmの間の閾値波長以下の全ての光をブロックすることが記載されている。ロングパスフィルターの端部がより長波長にシフトされて、瞳孔の拡張が合計流量の増加に作用するために、このようなブロックは望ましくない。ここまで説明したように、これは暗所視を劣化させ、色の歪みを増大させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
望ましくないカラーシフトを引き起こさないで青色光の波長をブロック及び/又は選択的に抑制するための広範な種類のシステムの内部又は上に含まれうるフィルムが提供される。これらのデバイスには窓、自動車の風防、眼鏡レンズ、コンタクトレンズ、眼球内レンズ、及び電気活性レンズのような眼用レンズを含むレンズ、角膜内インレー、カメラのフラッシュ、蛍光照明、LED照明やその他の人工照明に設けることができる特別なフィルター(照射フィラメント容器に対してか、又は装置そのものに対するもの)、網膜鏡、検眼鏡、眼底カメラ、生体顕微鏡及び人の目を見るのに用いる他の形態の器具類、コンピューターモニター、テレビスクリーン、光るサイン及び青色光が発せられるか透過されるいずれかのその他の物品が含まれる。レンズに含まれる場合、そのフィルムは、殆ど又は全ての眼鏡レンズの着色又は殆ど又は全ての着色不足のために提供されうる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このフィルムは380〜500nmの波長範囲内の少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、及び/又は少なくとも50%の青色光をブロック及び/又は選択的に抑制し、色が調和されて、そのフィルム及びそのフィルムがその中に組み込まれたシステムを観察者が見た場合に無色と知覚するようにされうる。本発明によるフィルムを組み込んだシステムは、85%以上の全ての可視光の明所視発光透過率をも有し、そのフィルムを組み込んだシステムの使用者及び/又は観察者がそのシステムを通過したほぼ正常な色覚を有することを許容する。
【発明の効果】
【0015】
ここに記載されているデバイス及びシステムは目の内部構造に対する青色光の流入を低減しながら発光透過率が減少することの結果である瞳孔の拡張を低減又は最小化する。ここに記載された方法及びシステムは青色のブロックを行うレンズにおける色歪みをも低減し最小化しまたは排除する。特定のデバイスは実質的に無色のレンズをもって網膜の健康を保護し、そのレンズを着用した人の顔を見ても美容上不利であるカラーシフト引き起こさない。
【0016】
また、ここに記載されているデバイス及びシステムは、黄斑(macula)に対する青色及びその他の光子の流入を増大させるように作用する瞳孔の拡張を防止することにより光毒性の青色光から人の網膜を保護する。目の内部及び/又は外部の吸収性、反射性、又は吸収性と反射性とが混成した光学的フィルターエレメントは目の像平面からの青色光を全てではないが幾らかブロックしうる。網膜平面に幾らかの青色光を到達させることにより、ここに記載されているデバイス及び方法は低光量レベル(暗所視又は暗視)においても感度を維持し、青色の濾光(blue-filtering)によって引き起こされる色歪みを低減し、そして青色を濾光するデバイスを通して観察される装着者の顔に対する美容上望ましくない着色を低減する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による眼用デバイスを示す図である。
【図2】本発明による例示的なフィルムの光学的な透過特性を示す図である。
【図3】本発明による例示的な眼用システムを示す図である。
【図4】本発明による例示的なシステムを示す図である。
【図5A】視野照度の関数としての瞳孔の直径を示す図である。
【図5B】視野照度の関数としての瞳孔の面積を示す図である。
【図6】ペリレン染料でドープした本発明によるフィルムの透過スペクトルであり、この濃度及び経路長さの製品は約437nmにおいて約33%の透過率を提供する。
【図7】図6に例示したものよりも約2.27倍高いペリレン濃度を有する本発明によるフィルムの透過スペクトルである。
【図8】本発明によるSiO及びZrOの6層積層体についての例示的な透過スペクトルである。
【図9】(L,a,b)色空間おける所定の発光体によって照射されたマンセルタイルに対応する参照色座標である。
【図10A】関連するフィルターのためのマンセルカラータイルについてのカラーシフトのヒストグラムである。
【図10B】関連する青色ブロックフィルターにより誘導されるカラーシフトを示す図である。
【図11】本発明によるペリレン着色された基材についてのカラーシフトのヒストグラムである。
【図12】本発明によるシステムの透過スペクトルである。
【図13】昼光におけるマンセルタイルについての本発明によるデバイスの色歪みを総括したヒストグラムである。
【図14A】異なる人種の被験者由来の皮膚反射スペクトルの代表的なシリーズを示す図である。
【図14B】異なる人種の被験者由来の皮膚反射スペクトルの代表的なシリーズを示す図である。
【図15】白色人種の被験者についての例示的な皮膚反射スペクトルである。
【図16】本発明による種々のレンズについての透過スペクトルである。
【図17】本発明による例示的な染料である。
【図18】本発明によるハードコートを有する眼用システムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によれば、眼用システム又はその他のシステムにおけるフィルムは400nm〜460nmの範囲内の青色光の少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、及び/又は少なくとも50%を選択的に抑制する。ここで用いられているように、フィルムは波長範囲を「選択的に抑制」しながら、その波長範囲以内の少なくとも幾らかの透過を抑制したとしても、その範囲外の可視光波長の透過に殆ど又は全く影響を与えない。そのフィルムを組み込んだフィルム及び/又はシステムは、観察者及び/又は使用者によって無色と知覚されるように色が調和されてよい。本発明によるそのフィルムを組み込んだシステムは可視光の85%以上の明所視発光透過率を有し、そのフィルム又はシステムを通して見る者に殆ど正常な色覚を提供する。
【0019】
図1は本発明の例示的な実施形態を示している。フィルム102は一つ以上の基本材料101、103の二つの層又は領域の間に配置されうる。さらにここに説明されるように、このフィルムは一定波長の光を選択的に抑制する染料含有しうる。基本材料は、レンズ、眼用システム、窓、又はその中にフィルムが配置されうるその他のシステムのために適するいずれかの材料でありうる。
【0020】
本発明による例示的なフィルムの光学的な透過特性は図2に示されており、ここでは430nm±10nmの範囲の青色光の約50%がブロックされており、他方では可視スペクトル内のその他の波長における最低限の損失を与えている。図2に示されている透過は例示的なものであり、50%未満の青色光を選択的に抑制したり、及び/又は抑制される特定の波長を変化させることが多くの用途について望ましいことは理解されるべきである。多くの用途において、50%未満の青色光をブロックすることによって細胞死が低減又は防止されると考えられている。例えば、約40%、より好ましくは約30%、より好ましくは約20%、より好ましくは約10%、そしてより好ましくは約5%の400〜460nm範囲の光が選択的に抑制される。光のエネルギーが高いためにより少量の光を選択的に抑制することによっても損傷を防止することができ、他方十分に少量であるためにその抑制はシステムの使用者の暗所視及び/又は概日サイクルに悪影響を与えない。
【0021】
図3は本発明による眼用レンズ300内に組み込まれたフィルム301を示しており、眼用材料302、303の層の間に挟まれている。眼用材料の前側層の厚さは、単に例示的に、200ミクロン〜1,000ミクロンの範囲である。
【0022】
同様に、図4は本発明による自動車風防のような例示的なシステム400を示している。フィルム401はシステム400内に組み込まれてよく、基本材料402、403の層の間に挟まれている。例えば、システム400が自動車風防である場合、基本材料402、403には風防用ガラスが通常使用される。本発明の範囲から逸脱することなく、視覚用、表示用、眼用、及び他のシステムを含む種々のその他のシステムにおいて異なる基本材料を用いうることが理解される。
【0023】
一つの実施形態では、本発明によるシステムは、関連する放出される可視光が非常に特定のスペクトルを有する環境において操作される。かかる状況では、フィルムの濾光効果を、その品目によって透過、反射、又は発光される光が最適化されるように調整することが望ましい。このことは、例えば、透過され、反射され、発光される光の色が主要な懸案事項である場合に該当する。例えば、本発明によるフィルムがカメラフラッシュ又はフラッシュフィルターの内部又は一緒に使用される場合は、画像又はプリントの知覚される色はできるだけ本来の色に近いことが望ましい。他の例として、本発明によるフィルムは、疾患について患者の目の裏を観察するための装置に用いうる。かかるシステムでは、フィルムは網膜の本来の及び観察される色を阻害しないことが重要になりうる。その他の例として、ある種の人工照明は本発明のフィルムを利用する波長調節フィルターの特徴を生かすことができる。
【0024】
ある実施形態では、本発明のフィルムは、光着色性、電気着色性、又は着色可変性の眼用レンズ、窓又は自動車風防内に用いうる。かかるシステムは、着色が機能しない環境において、UV光波長、強い直射日光及び青色光波長からの保護を提供する。この実施形態では、着色が機能するか否かに関わらず、フィルムの青色光波長保護の属性は有効である。
【0025】
ある実施形態では、フィルムは青色光を選択的に抑制しながら色を調和し、可視光の85%以上の暗所視発光透過率を有する。かかるフィルムは、運転眼鏡又は運動眼鏡のような光透過率が低い用途のために有用であり、コントラスト感度が増大するために優れた視覚性能が提供される。
【0026】
いくつかの用途について、本発明によるシステムはここに説明されるように青色光を選択的に抑制して、可視スペクトルにわたって、約85%未満、典型的には約80〜85%の発光透過率を有することが望ましい。このことは、例えば、システムに用いられる基本材料の屈折率が高いため、全ての可視光波長にわたってより以上に光を抑制する場合が当てはまる。具体例としては、高屈折(例えば、1.7)レンズは波長にわたってより以上に光を反射して、85%未満の発光透過率を提供する。
【0027】
従来の青色ブロックシステムに存在する問題を回避、低減又は排除するために、光毒性青色光の透過を減少させるが排除しないことが望ましい。目の瞳孔はトロランドにおける明所視網膜照度に応答し、これは網膜の波長依存性感度を伴う入射流量と瞳孔の投影面積との積である。眼球内レンズのような目の内部装着、コンタクトレンズ又は角膜置換のような目に対する取り付け、又は眼鏡レンズのような目の光学経路内設置を問わず、網膜の前方にフィルターを位置させることで、網膜に対する光の合計流量及び瞳孔を刺激して拡張することが減少し、視野照度の減少が補われる。視野において定常的な輝度に露出された場合、瞳孔の直径は一般にある値の周辺で上下し、輝度が減少すると増大する。
【0028】
瞳孔面積と視野照度との関数関係は、ムーン(Moon)及びスペンサー(Spencer)、J.Opt.Soc.Am.、33巻、260頁(1944)に、瞳孔直径についての以下の式を用いて説明されている。
【0029】
[数1]
d=4.9−3tanh(Log(L)+1) (0.1)
【0030】
式中、dはミリメートルで表され、Lはcd/mで表される照度である。図5Aは視野照度(cd/m)の関数としての瞳孔直径(mm)を示している。図5Bは視野照度の関数としての瞳孔面積(mm)を示している。
【0031】
照度は、国際CIE標準によって、波長にわたる視覚感度のスペクトル加重積分として定義される。
【0032】
[数2]
L=K∫Le,λλdλ 明所視
L'=K'∫Le,λV'λdλ 暗所視 (0.2)
【0033】
式中、K'は暗所視(暗視)について1700.06lm/Wであり、Kは明所視(昼間視)について683.2lm/Wであり、スペクトル発光効率関数Vλ及びVλ'は標準的な明所視及び暗所視観察者を定義する。発光効率関数Vλ及びVλ'は、http://webvision.med.utah.edu/Phych1.html, last visited August 8, 2007, において入手可能な、マイケル・カロニアティス(Michael Kalloniatis)及びチャールズ・ルー(Charles Luu)、「視覚の精神物理学」の、例えば図9に記載されており、これはここに参照として組み込む。
【0034】
眼球内、コンタクト又は眼鏡レンズの形態で吸収性眼用エレメントを介在させることにより、以下の式に従って照度が低下する。
【0035】
[数3]
L=K∫Tλe,λλdλ 明所視
L'=K'∫Tλe,λV'λdλ 暗所視 (0.3)
【0036】
式中、Tλは光学エレメントの波長依存性透過率である。それぞれの従来の青色ブロックレンズについて、等式1.2から計算した濾光していない照度値に対して標準化した等式1.3中の積分についての値を表Iに示す。
【0037】
[表I]

【0038】
表Iを参照して、プラット(Pratt)による眼用フィルターは、その濾光しない値の83.6%だけ暗所視感度を低減し、減衰は暗視力を低減するとともに、等式1.1に従って瞳孔の拡張を刺激する。マインスター(Mainster)に記載されているデバイスは暗所視流量を22.5%だけ低減し、これはプラットほど深刻ではないが依然として重大である。
【0039】
対照的に、本発明によるフィルムは、吸収性または反射性の眼用エレメントを用いて紫色及び青色光を部分的に減衰するが、暗所視照度の低減はその濾光しない値の15%以下である。驚くべきことに、本発明によるシステムは青色光の所望の領域を選択的に抑制しながら明所視及び暗所視に対して殆ど又は全く影響しないことが見出された。
【0040】
ある実施形態では、ペリレン(C2012、CAS#198−55−0)が、その吸収極大の437nmにおいて光の約2/3が吸収されるのに十分な濃度及び厚さで眼用デバイス中に組み込まれる。このデバイスの透過スペクトルを図6に示す。表Iに示すように、この濾光の結果である照度の変化は、暗所視条件において約3.2%、そして明所視条件において約0.4%に過ぎない。デバイス中のペリレンの濃度又は厚さを増大させることにより、ビールの法則(Beer's law)に従って各波長における透過率が減少する。図7は、ペリレン濃度が図6のものよりも2.27倍高いデバイスの透過スペクトルを示している。このデバイスは図6のデバイスよりもより多くの光毒性青色光を選択的にブロックするけれども、これは暗所視照度を6%未満だけ、及び明所視照度を0.7%未満だけ低減する。図6及び7のスペクトルからは反射が除去されており、染料による吸収の効果のみ示されていることに注意すべきである。
【0041】
ペリレン以外の染料であっても青色またはほぼ青色波長範囲に強い吸収を有し、可視スペクトルの他の領域に殆どまたは全く吸収を有しないものがある。このような染料の例には、図17に例示されるように、ポルフィリン、クマリン、及びアクリジンに基づく分子であり、これらは単一または組み合わせて使用されて、400nm〜460nmにおいて透過率が排除されることなく低減されうる。従って、ここに説明される方法及びシステムはペリレン、ポルフィリン、クマリン、及びアクリジンの透過スペクトルを再現する濃度において、その他の分子構造に基づく類似の染料を用いうる。
【0042】
本発明の実施形態による光学経路内への染料の挿入は、光学用品製造の当業者に周知の種々の方法によって行うことができる。染料又は染料類は基材中に直接組み込まれてよく、ポリマー被覆に添加されてよく、レンズに吸収させてよく、染料含浸層を含む積層構造中に組み込まれてよく、又は染料含浸微粒子を有するコンポジット材料としてもよい。
【0043】
本発明のその他の実施形態では、紫色及び青色スペクトル領域において部分的に反射性であり、より長波長においては反射防止性である誘電性被覆が設けられうる。適当な誘電性光学フィルターを設計するための方法は、アンガス・マックレオド(Angus McLeod)、薄膜光学フィルター(Thin Film Optical Filter)(マグローヒル:NY)1989年、のような教科書にまとめられている。図8に、本発明によるSiO及びZrOの6層積層体についての例示的な透過スペクトルを示す。再び表Iを参照して、この光学フィルターは光毒性青色光及び紫色光をブロックしながら、5%未満だけの暗所視照度及び3%未満だけの明所視照度を減少させる。
【0044】
多くの従来の青色ブロック技術ではできるだけ多くの青色光を抑制することが試みられたけれども、現在の研究では、多くの用途において、比較的少量の青色光を抑制するのが望ましいことが示されている。例えば、暗所視における望ましくない効果を防止するために、本発明による眼用システムは約30%の青色(すなわち、380〜500nm)波長の光、好ましくは約20%の青色光、より好ましくは約10%、より好ましくは約5%しか抑制しないことが望ましい。わずか5%の青色光を抑制することにより細胞死が低減すると考えられており、その一方この程度の青色光の減少ではシステムを使用する人々の暗所視及び/又は概日行動に殆ど又は全く影響しない。
【0045】
ここで用いられるように、青色光を選択的に抑制する本発明によるフィルムはフィルムを組み込む基本システムに対して測定される光の量を抑制するものとして説明される。例えば、眼用システムはレンズのためにポリカーボネート又はその他の類似の基本材料を使用しうる。このような基本材料のために典型的に使用される材料は可視波長において種々の量の光を抑制しうる。本発明による青色ブロックフィルムがシステムに付加されると、フィルムが無い状態で同じ波長において透過される光の量に対して測定した場合に、5%、10%、20%、30%、40%、及び/又は50%の全ての青色波長が選択的に抑制されうる。
【0046】
ここに開示される方法及びデバイスは青色をブロックする結果である色知覚におけるシフトを最小化、好ましくは排除する。人間の視覚系によって知覚される色は、異なるスペクトル応答特性を有する網膜色素に当った光シグナルを神経処理した結果である。色知覚を数学的に説明するために、3種類の波長依存性色整合関数とスペクトル照度との積を積分する(integrating)ことにより色空間が構成される。結果は知覚される色を特徴付ける3個の数値である。代替的な色標準に基づく同様の計算が色科学の当業者に周知でありそれらも使用可能であるけれども、国際照明委員会(CIE)によって確立された、統一(L,a,b)色空間を、知覚される色を特徴付けるために使用することができる。この(L,a,b)色空間はL軸で明度を規定し、a及びb軸により規定される平面内で色を規定する。空間のカルテシアン距離(Cartesian distances)が二つの物体の間の知覚される色差の大きさ(Magnitude)に比例することから、計算に用いる類の用途のためにはこのCIE標準によって定義されるような統一色空間が好ましい。ウィゼキ(Wyszecki)及びスタイルズ(Stiles)、カラーサイエンス:コンセプト及び方法、定量的データ及び化学式(Wiley: New York)1982年、に説明されているように、統一色空間を使用することは当業界で認められている。
【0047】
ここに記載されている方法及びシステムによる光学的な設計は視覚的環境を説明するスペクトルのパレットを使用してよい。その非限定的な例示はマンセル艶消しカラーパレットであり、これは、相互に全く相違して認識されるように精神物理学的な実験によって確立されている1,269色のタイルからなっている。これらタイルのスペクトル照度は標準照明条件の下で測定される。(L,a,b)色空間におけるD65昼光発光体によって照らされたこれらタイルのそれぞれに対応する色座標の配列は色歪みについての参照であり、図9に示される。次いで、カラータイルのスペクトル照度は青色ブロックフィルターによって変調され、色座標の新しい組が計算される。それぞれのタイルは(L,a,b)座標の幾何学的な変位に対応する量だけシフトした知覚色を有する。この計算はプラットの青色ブロックフィルターに適用されており、ここでは(L,a,b)色空間における平均色歪みは41丁度可知差異(JND)単位である。プラットフィルターによって引き起こされる最小歪みは19JND、最大は66、そして標準偏差は7JNDである。全ての1,269個のカラータイルについての色歪みのヒストグラムを図10A(上側)に示す。
【0048】
図10Bを参照して、マインスターの青色ブロックフィルターによって誘導されるカラーシフトは6の最小値、19の平均値、34の最大値、及び6JNDの標準偏差を有する。
【0049】
2種類の濃度におけるペリレン染料又は上述の反射フィルターを用いる本発明の実施形態は、表IIに示されるように、平均、最小又は最大歪みのいずれとして測定されても従来のデバイスよりも実質的に小さいカラーシフトを有する。図11は、その透過スペクトルが図6に示されている本発明によるペリレンで着色された基材についてのカラーシフトのヒストグラムを示す。明らかに、全てのカラータイルにわたるシフトは、マインスター、プラットなどによって説明される従来のデバイスについてのそれらよりも実質的に低く狭いことが観察される。例えば、シミュレーションの結果は、本発明によるフィルムについて、12及び20JNDという低い(L,a,b)シフト、及び7〜12JNDという低い全てのタイルにわたる平均シフトを示した。
【0050】
[表II]

【0051】
一つの実施形態では、反射及び吸収エレメントを組み合わせることにより有害な青色光子を濾光(filter)しながら比較的高い発光透過率が維持される。つまり、本発明によるシステムによって瞳孔の拡張が避けられるか減少し、暗視に対する悪影響が保全又は防止され、そして色歪みが減少する。この試みの一例は、図8に示される誘電性積層体と図6のペリレン染料との組みあわせであり、図12に示される結果になる。このデバイスは97.5%の明所視透過、93.2%の暗所視透過、及び11JNDの平均カラーシフトを有することが観察された。昼光におけるマンセルタイルについてのこのデバイスの色歪みを総括したヒストグラムを図13に示す。
【0052】
その他の実施形態では、光学フィルターは目の外側に置かれ、例えば眼鏡レンズ、ゴーグル、バイザーなどである。通常のフィルターが用いられる場合は、外部の観察者が見た場合に、装着者の顔の色がそのレンズで着色される。すなわち、典型的には、他人が見た場合に、顔色又は肌の色調が青色ブロックレンズによりシフトされるのである。青色光の吸収に伴うこの黄色変色はしばしば美容上好ましくない。このカラーシフトを最小限にするための操作は、マンセルカラータイルのそれを装着者の肌の反射に置き換えて、マンセルタイルについて上述したのと同様である。肌の色は着色、血流及び照明条件の関数である。異なる人種の被験者由来の肌反射スペクトルの代表的なシリーズを図14A〜Bに示す。白色人種の被験者についての例示的な肌反射スペクトルを図15に示す。昼光(D65)照明におけるこの肌の(L,a,b)色座標は(67.1,18.9,13.7)である。プラット青色ブロックフィルターの介在によりこれらの色座標は、69JND単位のシフト、(38.9,17.2,44.0)に変更される。マインスター青色ブロックフィルターはその色座標を17JND単位だけ(62.9,13.1,29.3)にシフトする。これに対し、ここに説明されているペリレンフィルターはわずか6JNDのカラーシフトであり、マインスターフィルターの1/3である。種々の青色ブロックフィルターを用いる昼光照明の下での例示的な白色人種の肌の美容上のカラーシフトの総括を表IIIに示す。表Iに示されているデータは基本材料によって引き起こされるいずれかの効果を除去するために標準化されている。
【0053】
[表III]

【0054】
一つの実施形態では、網膜に対する青色光の流入を減少させるが排除しないように照明が濾光される。これは、ここに記載した原理を用いて視野と照明源との間に吸収又は反射エレメントを置くことで達成される。例えば、建築物の窓がペリレンを含むフィルムで被覆され、窓の透過スペクトルが図6に示されるものに整合される。典型的には、外部の昼光がそれらを通過した場合に、これらのフィルターは被覆されていない窓と比較して瞳孔の拡張を誘導せず、感知できるほどのカラーシフトを引き起こさない。本発明による青色フィルターは、蛍光灯、白熱灯、アーク灯、フラッシュ、ダイオードランプ、ディスプレイなどのような人工照明に用いうる。
【0055】
本発明によるフィルムを製造するために種々の材料を用いることができる。かかる材料の二つの例は、ポリビニルアルコール(PVA)及びポリビニルブチラール(PVB)である。PVAフィルムの場合、これはポリビニルアセテートを完全に加水分解してアセテート基を除去することにより調製される。PVAフィルムはフィルム形成性、乳化性及び接着特性に優れているために好ましい。さらに、PVAフィルムは引っ張り強度、柔軟性、及び高温安定性が高く、また酸素遮断性に優れる。
【0056】
PVBフィルムはブタナール中でポリビニルアルコールを反応させて調製される。PVBは高い強度、光学的な透明性、柔軟性及び強靭性が要求される用途に好適である。また、PVBはフィルム形成性及び接着特性に優れている。
【0057】
PVA、PVB及びその他の安定なフィルムは、押し出しされ、溶液から注型され、スピンコートされて硬化され、又は浸漬被覆されて硬化されてよい。当業者に知られているその他の製造方法を用いてもよい。フィルムの所望のスペクトルプロファイルを生成するのに必要な染料を一体化するための幾つかの方法が知られている。例示的な染料一体化方法には、蒸着、フィルム中への化学的な架橋、ポリマー微小球に溶解してフィルムに一体化することが含まれる。好ましい染料は、キーストーン(Keystone)、BPI&ファントム(Phantom)を含む会社から市販されている。
【0058】
眼鏡レンズの殆どの着色はレンズが製造者から発送された後に行われる。したがって、青色吸収染料はレンズそのものの製造過程で一体化されることが好ましい。そうするためには、濾光及び色調和染料は、ハードコート及び/又はレンズ材料に対するハードコートの接着を促進するために設けられるプライマーコートの中に組み込まれる。例えば、プライマーコート及びそれに伴うハードコートは、最終製品について追加的に耐久性及び耐擦傷性を提供するために製造過程の最後に於いて眼鏡レンズ又はその他の眼用システムの最も上にしばしば追加される。典型的には、ハードコートはシステムの最も外側の層であり、システムの前面、後面、又は前面及び後面の両方に設けられる。
【0059】
図18はハードコート1803及びそれに伴う接着性促進プライマーコート1802を有する例示的なシステムを示す。例示的なハードコート及び接着性促進プライマーコートは、例えばトクヤマ、ウルトラオプティクス(UltraOptics)、SDC、PPG、及びLTIのような製造者から入手可能である。
【0060】
本発明によるシステムでは、青色ブロック染料及び色調和染料がプライマーコート1802に含まれてよい。また、青色ブロック及び色調和染料はハードコート1803に含まれてよい。染料類は同一の被覆層に含まれる必要はない。例えば、青色ブロック染料はハードコート1803に含有させ、色調和染料はプライマーコート1802に含有させてよい。色調和染料はハードコート1803に含有させ、青色ブロック染料はプライマーコート1802に含有させてよい。
【0061】
本発明によるプライマー及びハードコートは、スピンコート、ディップコート、スプレーコート、蒸発、スパッタリング、及び化学蒸着を含む当業者に知られている方法を用いて付着させることができる。各層に含有される青色ブロック及び/又は色調和染料は、染料が液体被覆材料中に溶解されて得られる混合物がシステムに塗布される場合のように、層として同時に付着されてよい。また、染料は、被覆が硬化又は乾燥又は設けられる前に表面上に染料がスプレーされる場合のように、独立した方法又は従属した方法によって付着されてもよい。
【0062】
ハードコート及び/又はプライマーコートはフィルムに関してここに説明されるような機能を奏し、利益を達成する。特に、この被覆は青色を選択的に抑制し、他方望ましい明所視、暗所視、概日リズム、及び光毒性レベルは維持する。また、ここに説明されるハードコート及び又はプライマーコートは、いずれかの組み合わせにおいて、ここに説明されるフィルムを組み込んだ眼用システムに用いられる。特定の実施例として、眼用システムは青色光を選択的に抑制するフィルム及び色補正を提供するハードコートを含みうる。
【実施例】
【0063】
変化させた濃度の青色ブロック染料を有する一体化フィルムを有するポリカーボネートレンズを製造し、図16に示すように各レンズの透過スペクトルを測定した。2.2mmのレンズ厚さにおいて35、15、7.6、及び3.8ppm(重量基準)のペリレン濃度を用いた。各レンズについて計算された種々のメトリクスを表IVに示す。その参照は図16における参照番号に対応する。光の選択的な吸収は、ビールの法則に従って生成物の染料の濃度及び被覆の厚さに主として依存するから、フィルムと組み合わせて又はフィルムのかわりにハードコート及び/又はプライマーコートを用いて同様の結果が達成されると考えられる。
【0064】
[表IV]

【0065】
35ppm着色レンズを除き、表IV及び図16に記載された全てのレンズは380nm未満のUV波長を抑制するために眼用レンズシステムに典型的に用いられるUV染料を含む。明所視率は正常視力を説明し、無濾光光及びその同じ感度曲線の積分で割ったフィルター透過スペクトル及びVλ(明所視感度)の積分として計算される。暗所視率は薄暗い照明の条件における視力を説明し、無濾光光及びその同じ感度曲線の積分で割ったフィルター透過スペクトル及びV'λ(暗所視感度)の積分として計算される。概日率は概日リズムに対する光の影響を説明し、無濾光光及びその同じ感度曲線の積分で割ったフィルター透過スペクトル及びM'λ(メラトニン抑制感度)の積分として計算される。光毒性率は高エネルギー光に露出されたことにより引き起こされる目に対する損傷を説明し、無濾光光及びその同じ感度曲線の積分で割ったフィルター透過性及びBλ(有水晶体UV−青色光毒性)の積分として計算される。これらの値を計算するのに用いられる応答関数は、マインスター及びスパロー、「IOLはどれ位の青色光を透過すべきか?」、Br.J.オプタルモル.、2003年、87巻、1523〜29頁、マインスター、「眼球内レンズは青色光ではなくUV照射及び紫色をブロックすべきである」、アーク(Arch).オプタル(Ophthal).、第123巻、第550頁(2005)、及びマインスター、「紫色及び青色光ブロック眼球内レンズ:光保護対光受容」Br.J.オプタルモル、2006年、90巻、784〜92頁に開示されている。幾つかの用途について異なる光毒性曲線が好ましいが計算のための方法論は同様である。例えば、眼球内レンズ(IOL)の用途のためには無水晶体光毒性曲線を用いるべきである。さらに、光毒性光機構の理解が進歩するに従って新しい光毒性曲線が適用されうる。
【0066】
上述の例示的なデータに示されるように、本発明によるシステムは選択的に青色光、特に400nm〜460nm領域の光を抑制しながら、一方では少なくとも約85%の明所視発光透過率、及び約80%未満、より好ましくは約70%未満、より好ましくは約60%未満、そしてより好ましくは約50%未満の光毒性率を提供する。上述のように、ここに記載された技術を用いて95%又はそれ以上までの明所視発光透過率を達成することもできる。
【0067】
ここに説明されている原理は、光毒性の青色光の幾らかの部分を濾光しながら瞳孔の拡張、暗所視感度、眼用デバイスによる色歪み、及びそのデバイスを顔に装着した人を見る観察者が眼用デバイスの外部から受ける美容上の色を減少させる目的を持つ種々の発光体、フィルター及び肌の調色に適用することができる。
【0068】
ここに説明した方法及びシステムは、特定の染料、誘電性光学フィルター、肌の色合い、及び発光体を用いて説明されているけれども、代替的な染料、フィルター、肌の色、及び発光体を用いうることは理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
400nm〜460nmの波長を有する光を選択的に抑制するフィルムを有する眼用システムであって、該システムは可視スペクトルにわたって少なくとも約85%の明所視発光透過率及び約80%未満の光毒性率を有する眼用システム。
【請求項2】
前記システムが約70%未満の光毒性率を有する請求項1記載の眼用システム。
【請求項3】
前記システムが約60%未満の光毒性率を有する請求項1記載の眼用システム。
【請求項4】
前記システムが約50%未満の光毒性率を有する請求項1記載の眼用システム。
【請求項5】
前記システムが約15%以下だけ暗所視発光透過率を低減する請求項1記載の眼用システム。
【請求項6】
前記システムが約60%を超える概日リズム率を有する請求項1記載の眼用システム。
【請求項7】
更に色調和成分を有する請求項1記載の眼用システム。
【請求項8】
前記フィルムがPVAである請求項1記載の眼用システム。
【請求項9】
そのシステムによって引き起こされるいずれかのマンセルカラーシステムタイルのD65発光体下における最大カラーシフトが、CIE(L,a,b)色空間における約20丁度可知差異(JND)単位以下である請求項1記載の眼用システム。
【請求項10】
400nm〜460nmの波長を有する光を選択的に抑制するフィルムを有する眼用システムであって、該システムは可視スペクトルにわたって少なくとも85%の明所視発光透過率を有し、約15%以下だけ暗所視発光透過率を低減する眼用システム。
【請求項11】
前記システムが可視スペクトルにわたって少なくとも95%の明所視発光透過率を有する請求項10記載の眼用システム。
【請求項12】
更に色調和成分を有する請求項10記載の眼用システム。
【請求項13】
前記フィルムがPVAである請求項10記載の眼用システム。
【請求項14】
そのシステムによって引き起こされるいずれかのマンセルカラーシステムタイルのD65発光体下における最大カラーシフトが、CIE(L,a,b)色空間における約20丁度可知差異(JND)単位以下である請求項10記載の眼用システム。
【請求項15】
前記システムが約80%未満の光毒性率を有する請求項10記載の眼用システム。
【請求項16】
前記システムが約70%未満の光毒性率を有する請求項10記載の眼用システム。
【請求項17】
前記システムが約60%未満の光毒性率を有する請求項10記載の眼用システム。
【請求項18】
前記システムが約50%未満の光毒性率を有する請求項10記載の眼用システム。
【請求項19】
400nm〜460nmの波長を有する光の透過を低減するが排除しない染料を含有するフィルム;及び
そのフィルムに隣接して配置された色調和成分;
を有する眼用システム。
【請求項20】
前記システムは少なくとも約85%の明所視発光透過率及び80%未満の光毒性率を有する眼用システム。
【請求項21】
400nm〜460nmの波長を有する光を選択的に抑制する被覆を有する眼用システムであって、該システムは可視スペクトルにわたって少なくとも約85%の明所視発光透過率及び約80%未満の光毒性率を有する眼用システム。
【請求項22】
前記被覆が前記システムの最外側層にあるハードコートである請求項21記載の眼用システム。
【請求項23】
前記システムが約15%以下だけ暗所視発光透過率を低減する請求項21記載の眼用システム。
【請求項24】
レンズ;
400nm〜460nmの波長を有する光の透過を低減するが排除しない第一の染料を含有する第一の被覆であって、レンズの最外側表面上に配置されたハードコート;及び
第一の染料により引き起こされるカラーシフトを調和させる第二の染料を少なくとも含有する第二の被覆;
を有する眼用システム。
【請求項25】
前記第一の被覆がハードコートであり、前記第二の被覆がハードコートである請求項24記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2010−501256(P2010−501256A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525621(P2009−525621)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/018593
【国際公開番号】WO2008/024414
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(509051370)ハイ・パフォーマンス・オプティクス・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】HIGH PERFORMANCE OPTICS, INC.
【Fターム(参考)】