説明

選択的スプライシングを用いて真核細胞においてポリペプチドマルチマーを発現するための方法および構築物

本発明は単一の発現ベクターを用いて真核細胞において抗体または抗体フラグメントのような複数のポリペプチドを生成する方法を提供する。この発現ベクターは、単一のプロモーターの制御下に2つまたはそれより多い発現カセットを含むように操作され、この発現カセットは、その選択的スプライシングおよび望ましい比率での2つまたはそれより多い別個の遺伝子産物としての発現を可能にするスプライシング部位を有する。真核宿主細胞における組換え抗体の効率的な発現のためのベクターの使用ならびに診断適用および治療適用におけるかかる抗体の使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
(発明の背景)
(発明の分野)
本明細書にて開示する本発明の特定の実施形態は真核細胞においてインビトロおよびインビボの両方で選択的スプライシングを用いてポリペプチドマルチマーを発現するためのベクターおよび方法に関する。これらのベクターを含有する細胞を生成するための方法、ならびに疾患の処置およびかかるマルチマータンパク質の効率的なインビボまたはインビトロ生成のためのこれらのベクターおよびそこから発現されるポリペプチドの使用が含まれる。
【背景技術】
【0002】
(背景および関連技術の説明)
ポリペプチドマルチマーは一緒に複合体を形成する2つまたはそれより多いポリペプチドの集合体である。複合体を作り上げるポリペプチドは通常異なっている。抗体は、一緒に四量体複合体を形成する2つの抗体軽鎖ポリペプチドおよび2つの抗体重鎖ポリペプチドから構成されるという点で典型的なポリペプチドマルチマーである。
【0003】
宿主細胞におけるポリペプチドマルチマーの発現は、ポリペプチドマルチマーを作り上げる各々の異なるポリペプチドの発現が注意深く協働しなければならないという点で挑戦的なプロセスである。例えば真核細胞において抗体を発現するために、抗体軽鎖をコードする第1の遺伝子および抗体重鎖をコードする第2の遺伝子は細胞に導入され、そして許容され得る範囲内の比率で発現されなければならない。同一細胞または培養系内で抗体軽鎖の抗体重鎖に対する許容されない比率の発現は、望ましいマルチマー複合体の非常に効率の悪い生成または細胞毒性もしくは器官毒性に至り得る。
【0004】
真核細胞においてポリペプチドマルチマーを発現するための過去のアプローチには、各々のベクターがポリペプチドマルチマーを作り上げる異なるポリペプチドの各々を別個にコードする、2つまたはそれより多いベクターを導入することが含まれる。各々のベクターは典型的には複合体の1つのポリペプチドの発現を駆動するプロモーターを運び、そして少なくとも1つのベクターは典型的には選択マーカーをコードする。次いでベクターは順次または一緒に細胞に導入され(通常トランスフェクションによる)、そして細胞は両方の選択マーカーの発現に関して同時選択される。
【0005】
別のアプローチでは、ポリペプチド複合体を作り上げる各々のポリペプチドに関するプロモーターと一緒にコード配列を操作して単一のベクターに入れる。このアプローチは複数のベクターで作業する必要性を排除するが、依然各コード配列間のプロモーター競合の可能性を排除しない。また、このアプローチは典型的には、タンパク質マルチマーの効率的な発現に至るために許容される比率のタンパク質マルチマーを含む個々のポリペプチドの発現の問題を解決できない。
【0006】
したがって、前記のアプローチのいずれでも、宿主細胞において2つの産物の一貫した比率を常に得ることができるとは限らない。これは異なるプロモーター活性、最適な発現に必要な細胞因子に関するプロモーター競合、タンパク質マルチマー成分ポリペプチドの転写および/もしくは翻訳の効率、ならびに/または細胞に導入された各々のベクターのコピー数における差異のような因子に起因し得る。
【0007】
単一のスプライス供与部位およびスプライス受容部位を利用するスプライシングベクターもまた開発されている。特許文献1は選択マーカー(例えばDHFR)を発現するミニ遺伝子を開示し、そして目的のタンパク質をコードする遺伝子を含有するイントロンを有している。特許文献2は目的のタンパク質をコードする遺伝子がコード配列に対して5’にイントロンを含有するという逆の状況を開示している。このイントロンはスプライス供与部位および受容部位と境界を接している選択マーカーをコードする遺伝子を含有する。この型のイントロン発現ベクターはさらに非特許文献1に記載されている。特許文献3は融合選択マーカーを有する類似のイントロンベクターを開示している。これはまた1つより多くの目的のタンパク質の発現のための2対のスプライス供与部位およびスプライス受容部位の使用を開示している。しかしながらこれらの公開された構築物の全ては1対のスプライス供与部位およびスプライス受容部位に頼っている、すなわち単一のスプライス受容部位に適合する1つのスプライス供与部位を有している。これらの構築物の各々は有効性に関して全ての部位での非常に効率的なスプライシングに依存する。複数のポリペプチドを発現するために、単一のスプライス供与部位を用いて1つより多くのスプライス受容部位からの選択的スプライシングを活性化することに言及されている文献はない。さらに、異なる比率でポリペプチドを発現することが望ましいこと、またはポリペプチドの相対的発現を制御するために異なるスプライス受容部位を置換することを示唆したものはない。
【特許文献1】米国特許第5,043,270号明細書
【特許文献2】米国特許第5,561,053号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0019925A1号明細書
【非特許文献1】Lukas,B.K.ら、Nucleic Acids Res.(1996)24:1774−1779
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、得られた遺伝子産物が効率的に生成され、そして組み立てられるように、一貫した比率で2つまたはそれより多い遺伝子の発現を関連づける構築物に関する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、選択的スプライシングの使用により2つまたはそれより多い遺伝子の発現を関連づけることにより、1つの発現ベクターを用いる宿主細胞におけるポリペプチドマルチマーを発現することの前記の問題を解決する。したがって、1つのプロモーターを有する単一のベクターを用いて、2つまたはそれより多いmRNA転写物が異なるポリペプチドをコードするように、2つまたはそれより多い異なるmRNA転写物にスプライシングすることができるプレmRNAの発現を駆動することができる。したがって、2つまたはそれより多い産物の相対的発現は独立したプロモーターの異なる活性、プロモーター競合またはベクターコピー数のいずれによっても影響されない。
【0010】
特に、本発明は、次いで2つまたはそれより多い異なる遺伝子産物(これは次いで2つまたはそれより多い異なるポリペプチドに翻訳され得る)へと選択的にスプライシングされる単一のプレmRNAの転写を駆動する単一のプロモーターを用いて単一の発現ベクターを真核細胞に導入するための方法を提供する。1つの実施形態では、遺伝子産物はマルチマータンパク質のポリペプチドサブユニットをコードする。別の実施形態では、遺伝子産物は、抗体を構成する抗体軽鎖および抗体重鎖である。
【0011】
したがって、本発明は限定するものではないが、以下を含むいくつかの利点を有する:
− 複数のポリペプチド、特に抗体または抗体フラグメントのようなヘテロマーポリペプチドを発現するためのベクターを提供すること;
− 複数のポリペプチド、例えば動物細胞または酵母細胞のような真核細胞において抗体ポリペプチド重鎖および抗体軽鎖ポリペプチドを生成する効率的な方法;
− 診断適用または治療適用で使用するために組換え抗体を生成する効率的な方法;ならびに
− 組換え抗体治療を必要とする被験体を処置するための、この方法により生成された組換え抗体。
【0012】
したがって、1つの実施形態では、本発明は、発現ベクターを提供し、この発現ベクターは、5’から3’に、すなわち下流方向にプロモーター、例えばCMVプロモーター;例えばキャッピングシグナルを提供する5’非翻訳領域(UTR);スプライス供与部位;イントロン;第1スプライス受容部位;第1ポリペプチドをコードする第1エキソン;第2スプライス受容部位;および第2ポリペプチドをコードする第2エキソンを含み、ここでプロモーターは第1エキソンおよび第2エキソンに作動可能なように連結されている。スプライス部位(すなわち供与部位および受容部位)は天然発生スプライス部位、操作されたスプライス部位、例えば合成スプライス部位、標準もしくはコンセンサススプライス部位、または非標準スプライス部位、例えば潜在的スプライス部位でよい。各々のエキソンはさらにポリアデニル化シグナルを含むことができる。
【0013】
ここでエキソン、イントロン、任意のスプライス部位等のような遺伝エレメントに適用されるような「第1」または「第2」なる用語は単に種々のエレメントを同定し、そして互いに区別するために用いられ、そして遺伝子内の要素の実際の直線的な配置もしくはナンバリング、またはタンパク質マルチマーの別個のポリペプチド構成要素をコードするプレmRNA分子が発現される順序を意味するものではない。
【0014】
別の実施形態では、ベクターは1つのスプライス供与部位および1つより多くのスプライス受容部位、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれより多くのスプライス受容部位を含有する。各々のスプライス受容部位はスプライス受容部位のちょうど下流に位置するエキソンに随伴される。したがって、ベクターは1つより多くのエキソン、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれより多くのエキソンを含有する。
【0015】
1つの実施形態では、第1ポリペプチドは抗体の重鎖であり、そして第2ポリペプチドは抗体の軽鎖であるか、またはこれに代えて、第1ポリペプチドは抗体の軽鎖であり、そして第2ポリペプチドは抗体の重鎖である。
【0016】
関連する実施形態では、軽鎖および/または重鎖はネズミ、キメラ、ヒト化またはヒトのものである。軽鎖または重鎖は例えばFc領域におけるグリコシル化部位の導入または除去のようなアミノ酸変化を含有し得る。
【0017】
別の実施形態では、第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチドは約20:1から1:20まで、約15:1から約1:15まで、約12:1から約1:12まで、約10:1から約1:10まで、約9:1から約1:9まで、約8:1から約1:8まで、約7:1から約1:7まで、約6:1から約1:6まで、約5:1から約1:5まで、約4:1から約1:4まで、約3:1から約1:3まで、約2:1から約1:2まで、または約1:1の比率で発現される。特定の実施形態では、第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチドは約20:1、約19:1、約18:1、約17:1、約16:1、約15:1、約14:1、約13:1、約12:1、約11:1、約10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:11、約1:12、約1:13、約1:14、約1:15、約1:16、約1:17、約1:18、約1:19および/または約1:20の比率で発現される。比率の決定は典型的には逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)もしくはノーザンブロット(転写物の相対量を測定する場合)または免疫ブロットもしくは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)技術(ポリペプチドの相対量を測定する場合)のような技術分野で認識されている技術を用いて決定される。
【0018】
1つの実施形態では、ベクターは配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27または28を含む。
【0019】
関連する実施形態では、ベクターは配列番号29を含む。
【0020】
別の実施形態では、本発明は2つまたはそれより多い選択的スプライシングされた遺伝子産物を発現することができる前記のベクターを含有する真核細胞を提供する。
【0021】
1つの実施形態では、本発明の選択的スプライシングベクターは細胞の染色体DNAに組み込まれ、そしてさらに別の実施形態では、ベクターはエピソーム性である。関連する実施形態では、本発明の選択的スプライシングカセットまたは構築物は細胞の染色体DNAに組み込まれる。別の関連する実施形態では、本発明の選択的スプライシングカセットまたは構築物はエピソーム性である。さらに別の関連する実施形態では、本発明の選択的スプライシングベクターはウイルスベクターを含む。
【0022】
別の実施形態では、本発明のベクターを含有する真核細胞は例えばベビーハムスター腎臓細胞、線維芽細胞、骨髄腫細胞、NS0細胞、PER.C6細胞もしくはCHO細胞のような哺乳動物細胞、またはこれに代えて、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda;Sf9)細胞、イラクサギンウワバ(Tricoplusia ni;Tn.TnHigh−Five)細胞、またはカイコ(BMN)細胞のような昆虫細胞である。これに代えて本発明のベクターを含有する真核細胞は酵母細胞、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)細胞、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)細胞またはピキア(Pichia)細胞である。
【0023】
別の実施形態では、本発明はポリペプチドを生成する方法を提供し、この方法は、本発明の選択的スプライシングベクターまたは発現カセットまたは構築物を含有する前記の細胞を培養する工程、続いて細胞培養から第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチドを単離する工程を包含する。
【0024】
方法の1つの実施形態では、第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチドは抗体のようなポリペプチドマルチマーを形成する。
【0025】
別の実施形態では、本発明は疾患または障害の処置または予防のための医薬の製造のための、その方法により生成された前記のペプチドマルチマーを提供する。
【0026】
別の実施形態では、本発明は選択的スプライシングベクターまたは選択的スプライシングカセットまたは構築物の、患者へのインビボでの送達を提供する。
【0027】
さらなる実施形態では、本発明は選択的スプライシングベクターまたは選択的スプライシングカセットまたは構築物の、患者の細胞または組織へのエキソビボでの送達を提供する。関連する実施形態では、本発明はまた選択的スプライシングベクターまたは選択的スプライシングカセットまたは構築物を含む患者の細胞または組織を患者の身体に戻すことをも提供する。
【0028】
本発明の別の特徴および利点は以下の詳細な説明および請求の範囲から当業者には明白であろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(発明の詳細な記載)
明細書および請求の範囲の明確な理解を提供するために、下記の定義を以下に便宜的に提供する。
【0030】
(定義)
「第1ポリペプチド」または「第2ポリペプチド」なる用語はその同時発現が望ましいポリペプチドを意味する。これらには、例えば複数のポリペプチドサブユニットから構成されるマルチマータンパク質のポリペプチド「鎖」が含まれる。これらのマルチマータンパク質は天然に見出されるもの、例えば当該分野で記載されているものでよい。もちろん、「第1ポリペプチド」および「第2ポリペプチド」なる用語を、当該分野でこれまで報告されていないマルチマータンパク質を報告するために将来用いることもできる。これらのマルチマータンパク質はまた人工的なものでよく、例えば通常天然に随伴されて見出されることがないポリペプチドから構成され得る。さらに、ポリペプチドは一緒に随伴しないかもしれないが、何らかの機能的な目的、例えば選択マーカーと目的のポリペプチドとの同時発現のために同時発現されてもよい。さらにポリペプチドはネイティブな配列であってもよく、またはアミノ酸の付加、欠失もしくは置換によって変異していてもよい。当業者は広範囲のポリペプチドについての本発明のベクターの適切性を容易に認識し、そして標準的な分子生物学技術を用いてこれらのポリペプチドで使用するためにこのベクターを適合させることができる。
【0031】
「抗体」または「抗体フラグメント」なる用語は、標的ポリペプチドもしくは受容体との結合活性を有するか、または望ましいエフェクター機能を有している、ポリペプチドまたはポリペプチドフラグメントの集合体を意味する。典型的には、かかる集合体は少なくとも抗体軽鎖および抗体重鎖の可変領域、例えばFabフラグメント、または4本の鎖が一緒に四量体抗体(L:H:H:L)を形成してその可変領域が抗原に結合し得る、2本の抗体軽鎖および2本の抗体重鎖を含む。本発明の抗体は技術分野で公知の任意の形態の抗体、例えばネズミ、キメラ、ヒト化、ヒトまたは合成のものでよい。本発明の抗体は、変化したグリコシル化部位またはFc領域のようなその他の特徴を有するように修飾されてもよい。
【0032】
「UTR」なる用語は非翻訳領域を意味し、そしてプレmRNAおよび成熟mRNAの非翻訳領域へと転写される核酸配列のセグメントを意味する。5’UTRは典型的には、mRNA転写物のポリペプチドへの翻訳を開始する、修飾されたかまたは7−グアノ、7−メチルグアノシンキャップで「キャップされた」転写物の5’末端として作用する。
【0033】
「比率で発現された」なる用語は転写物またはポリペプチドのいずれかとして発現された遺伝子産物の生成比率を意味する。比率の決定は典型的には逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)もしくはノーザンブロット(転写物の相対量を測定する場合)または免疫ブロットもしくは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)技術(ポリペプチドの相対量を測定する場合)のような当該分野で認識されている技術を用いて決定される。
【0034】
特定の実施形態では、第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチドは約20:1から1:20まで、約15:1から約1:15まで、約12:1から約1:12まで、約10:1から約1:10まで、約9:1から約1:9まで、約8:1から約1:8まで、約7:1から約1:7まで、約6:1から約1:6まで、約5:1から約1:5まで、約4:1から約1:4まで、約3:1から約1:3まで、約2:1から約1:2まで、または約1:1の比率で発現される。特定の実施形態では、第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチドは約20:1、約19:1、約18:1、約17:1、約16:1、約15:1、約14:1、約13:1、約12:1、約11:1、約10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:11、約1:12、約1:13、約1:14、約1:15、約1:16、約1:17、約1:18、約1:19および/または約1:20の比率で発現される。
【0035】
「第1エキソン」なる用語は、ポリペプチドもしくはポリペプチド領域をコードする、コード配列または核酸配列を意味し、そして「第2エキソン」なる用語は、第2ポリペプチド領域をコードする、異なる第2コード配列または核酸配列を意味する。本発明の第1エキソンおよび第2エキソンはまた5’スプライス受容部位配列をも含む。
【0036】
「宿主細胞」または「真核細胞宿主細胞」なる用語は、本発明の発現系を用いて第1エキソンおよび第2エキソンの遺伝子産物を生成または発現する任意の真核細胞を意味する。これには、例えばベビーハムスター腎臓細胞、線維芽細胞、骨髄腫細胞(例えばNS0細胞)、ヒトPER.C6細胞またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞のような哺乳動物細胞が挙げられる。発現に有用な昆虫細胞には、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(Sf9)細胞、イラクサギンウワバ(Tn.TnHigh−Five)細胞、またはカイコ(BMN)細胞が挙げられる。発現に有用な酵母細胞には、例えばサッカロミセス細胞、シゾサッカロミセス細胞またはピキア細胞が挙げられる。かかる細胞はアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC,Manassas,VA)のような公的供給源および商業用供給源から容易に入手できる。
【0037】
「イントロン」なる用語は、転写されてプレmRNAに存在するが、スプライス供与部位およびスプライス受容部位の配列に基づいてスプライシング機構により切除され、したがって成熟mRNA転写物には存在しない、核酸配列セグメントを意味する。
【0038】
「作動可能なように連結された」なる用語は、その構成要素がその意図された様式で機能することを可能にする関係にある並びを意味する(例えば機能的に連結されている)。
【0039】
「ポリアデニル化シグナル」なる用語は、酵素ポリアデニルトランスフェラーゼが存在する場合に転写物がポリアデニル化されることを可能にする、RNA転写物に存在する核酸配列を意味する。多くのポリアデニル化シグナルが技術分野で公知であり、そして本発明に有用である。例としては、ヒト改変体成長ホルモンポリアデニル化シグナル、SV40後期ポリアデニル化シグナルおよびウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルが挙げられる。
【0040】
「プロモーター」なる用語は、(好ましくは真核細胞において)転写を指向するのに十分な最小配列を意味する。本発明で使用するためのプロモーターとしては、例えば高レベルの発現を提供する、ウイルス、哺乳動物、昆虫および酵母のプロモーター、例えば哺乳動物サイトメガロウイルスすなわちCMVプロモーター、SV40プロモーター、または真核細胞における発現に適切な技術分野で公知の任意のプロモーターが挙げられる。
【0041】
「スプライス部位」なる用語は、真核細胞のスプライシング機構により、切断され、そして/または対応するスプライス部位にライゲートされるのに適切であると認識され得る特定の核酸配列を意味する。スプライス部位によりプレmRNA転写物に存在するイントロンの切除が可能になる。典型的にはスプライス部位の5’部位がスプライス供与部位と称され、そして3’の対応するスプライス部位が受容スプライス部位と称される。スプライス部位なる用語には、例えば天然に存在するスプライス部位、操作されたスプライス部位、例えば合成スプライス部位、標準もしくはコンセンサススプライス部位、および/または非標準スプライス部位、例えば潜在的スプライス部位が含まれる。
【0042】
「と共にスプライシングされる」なる用語は、スプライス供与部位がスプライス受容部位と相互作用してスプライシング機構(例えばスプライセオソーム)による転写物のスプライシングを可能にすることを意味する。前記したように、スプライシングはスプライス供与部位およびスプライス受容部位と境界を接した転写物部分(イントロン)の切除である。各々の転写物に関して、スプライス供与部位はただ1つのスプライス受容部位と共にスプライシングされる。選択的スプライシングに関しては、転写物のプール内でスプライス供与部位は1つより多くのスプライス受容部位と共にスプライシングされる。例えば、スプライス供与部位は1つの転写物に関して第1スプライス受容部位と共にスプライシングされることができるが、別の転写物では、スプライス供与部位は第2スプライス受容部位とスプライシングされて、転写物の不均一プールを生じ得る。
【0043】
「スプライシングされた転写物」なる用語は、第1または第2エキソンを含む本発明の選択的スプライシングベクターから転写されたRNAであって、スプライス供与部位と第1スプライス受容部位または第2スプライス受容部位との間でのスプライシングを受けたRNAを意味する。
【0044】
「ベクター」なる用語は宿主細胞または宿主細胞抽出物に導入された場合、遺伝子産物を発現させることができる核酸分子(DNAまたはRNAのいずれか)を意味する。この用語は「選択的スプライシングベクター」、「発現ベクター」、「発現カセット」または「構築物」と互換的である。かかるベクターまたは発現カセットまたは構築物は、本発明の選択的スプライシングエレメント、ならびに細胞におけるベクターの増殖のためのさらなる配列、ベクターの細胞への侵入のためのさらなる配列およびそれに続く発現のためのさらなる配列、選択マーカー、または任意のその他の機能的なエレメントを含むことができる。かかるエレメントは技術分野で周知であり、そして必要な場合、標準的な分子生物学の技術を用いて入れ替えることができる。
【0045】
「ウイルスベクター」なる用語またはそれのバリエーション(例えば、「アデノウイルス」)は、本発明の選択的スプライシングベクターまたは発現カセットまたは構築物を含む、弱毒化または複製欠損ウイルス粒子を意味する。以下にさらに詳細に記載するように、かかるウイルスベクターは、本発明の選択的スプライシングベクターまたは発現カセットまたは構築物を宿主細胞に挿入するのに有用である。
【0046】
(詳細な記載)
(1.概説)
本発明は、一部では、2つまたはそれより多い発現可能な転写物に選択的にスプライシングされるように操作されている、2つまたはそれより多いエキソンの発現を駆動する単一のプロモーターを含むベクターまたは発現カセットまたは構築物を提供することにより真核細胞において2つまたはそれより多い遺伝子産物を発現するための方法を提供する。したがって、ベクターまたは発現カセットまたは構築物は2つまたはそれより多いポリペプチドおよび特にポリペプチドマルチマー、例えば典型的には2本の軽鎖抗体ポリペプチドおよび2本の重鎖抗体ポリペプチドの集合体である抗体(または抗体フラグメント)を発現するのに適切である。
【0047】
さらに、本発明のベクターまたは発現カセットまたは構築物は、プレmRNAの発現を駆動するのに単一のプロモーターを用い、このプレmRNAは、次いで2つまたはそれより多い遺伝子産物に選択的スプライシングされるので、本発明により、複数のベクターの使用、複数のプロモーターの使用によるプロモーター競合、または独立したプロモーターによる活性の差異が回避される。
【0048】
加えて、複数のスプライス受容部位の使用により、本発明は、例えば得られるポリペプチド集合体(例えば、四量体抗体)が効率的に生成されるような、望ましい比率での真核細胞における複数の遺伝子産物の発現を提供するという利点を有する。
【0049】
さらに、本発明は、スプライシングエレメント(特に、第1スプライス受容部位)の配列を変化させることにより、コードされるポリペプチドの発現の比率を変化させる。発現されるポリペプチドの比率を変化させる能力により、最適な量でポリペプチドを提供することによるポリペプチドのさらに効率的なマルチマー化またはその他の機能の態様が可能になる。したがって、本発明のベクターまたは発現カセットまたは構築物により、1つまたはそれより多い望ましいタンパク質を生成するのに十分量のポリペプチドの発現が可能になる。
【0050】
したがって、本発明はまた、選択的スプライシングを用いるポリペプチドマルチマー(例えば抗体)の発現に適切なベクター、ならびにこのベクターを含む細胞、およびかかる細胞から生成される抗体、ならびに被験体(例えばヒト患者)での、例えば障害または疾患の予後診断、診断、予防、改善または処置におけるその使用を提供する。
【0051】
さらに、本発明は、ベクターを被験体に直接的かまたはエキソビボ技術を介してのいずれかで送達することによるポリペプチドのインビボでの発現に適切なベクターを提供する。
【0052】
(2.ポリペプチドマルチマーを発現するためのベクターまたは発現カセットまたは構築物の設計)
本発明の方法は、以下を含むベクターの使用を用いる:(5’から3’すなわち下流の方向で)プロモーター;5’非翻訳(UTR)領域(これはコード配列を含んでも含まなくてもよい);単一の5’スプライス供与部位;好ましくは約5〜95%の効率(産物の望ましい比率に依存する)で用いられる3’スプライス受容部位で終わるイントロン(例示的な3’スプライス受容部位の効率としては、限定するものではないが5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%および95%が挙げられる);第1遺伝子および場合によってはポリアデニル化シグナルを含有するエキソン;50%より高い効率である3’スプライス受容部位で終わるイントロン配列(好ましい実施形態では、3’スプライス受容部位は75%より高い効率(例えば80%、85%、90%、95%または100%)、85%より高い効率(例えば90%、95%または100%)、90%より高い効率(例えば91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%)または非常に好ましい実施形態では95%より高い効率(例えば96%、97%、98%、99%または100%)である);ならびに第2遺伝子および場合によってはポリアデニル化シグナルを含有するエキソン(図1参照)。本発明のベクター、発現カセットまたは構築物を選択的スプライシングされたmRNA転写物を生成する宿主細胞に導入することができる。これらの2つまたはそれより多いmRNA転写物は明確に区別されるポリペプチドをコードし、これは次いで1つまたはそれより多い望ましいマルチマータンパク質を生成するに十分な量で発現される。2つまたはそれより多い産物の比率は、所望により、適切なスプライス部位、例えば、より弱いスプライス受容部位またはより強いスプライス受容部位の選択により変化し得る。特定の実施形態では、2つまたはそれより多い産物の比率は第1スプライス受容部位のみの選択により変化し得る。
【0053】
典型的には、プレmRNAスプライシングはイントロン配列の正確な除去を伴い、そしてある程度、スプライシング機構(例えばスプライセオソーム)によるイントロン−エキソン境界での特定の配列(すなわち供与スプライス部位および受容スプライス部位)の認識に基づく。これらの境界配列は典型的にはイントロンの5’末端ではMAG/GURAGU(配列番号30)、およびイントロンの3’末端ではY10NCAG/G(配列番号31)というコンセンサス配列に適合する(ここで、M=AまたはCであり、下線部は不変ヌクレオチドであり、Y10=10個連続したCヌクレオチドまたはTヌクレオチドであり、そしてN=任意のヌクレオチドである)。イントロンおよびエキソン内の配列ならびにイントロンの大きさはスプライシングの効率において役割を果たすことも示されている(例えばChabot,B. Trends in Genetics、12:472−478(1996)参照)。
【0054】
本発明の特定の実施形態では、選択的スプライシングは本発明のベクターまたは発現カセットまたは構築物のエキソンによりコードされる各々のポリペプチドの発現を調節することができる。各々の個々のスプライシングされた転写物に関して、スプライス供与部位はただ1つのスプライス受容部位と共にスプライシングされるか、または全くスプライシングされない。しかしながら、選択的スプライシングは転写物の不均一プールを形成する。なぜなら、スプライス供与部位が1つの転写物に関して第1スプライス受容部位と共にスプライシングされ、そして別の転写物に関しては第2スプライス受容部位と共にスプライシングされることができるためである。したがって、単一のスプライス供与部位の複数のスプライス受容部位に対するスプライシングは、細胞における本発明のベクターまたは発現カセットまたは構築物から作製される第1および第2の(またはそれより多い)エキソンのスプライシングされた転写物のレベルを調節する。異なってスプライシングされた転写物レベルの相対量は、どのくらいの頻度でスプライス供与部位が特定のスプライス受容部位と結合するかに依存し、これをスプライシング事象の効率と称する。転写物のプールで生じる特定のスプライシング事象の頻度が高いほど、次いでそのスプライシング事象に関与するスプライス供与部位およびスプライス受容部位は、より効率的であるかまたはより強力であると考えられる。
【0055】
本発明の特定の実施形態では、スプライス供与部位および3’末端スプライス受容部位(例えば第2スプライス受容部位)が非常に効率的であって、そのために全体的なスプライシングが非常に効率的であり、そして第1スプライス受容部位の強度がスプライシングされたエキソン転写物の相対レベルを制御するのが好ましい。スプライシングされていない転写物の翻訳は典型的には非常に効率が悪く、そのために最大のスプライシングがポリペプチド発現を促進する。例えばスプライス供与部位および第2スプライス受容部位が非常に効率的である場合、ほとんどの新生mRNAはスプライシングされる。第1スプライス受容部位が強力である(すなわち効率的である)場合、第1エキソンを含む相対的に高レベルのスプライシングされた転写物が細胞内に存在し、第2ポリペプチドと比較して第1ポリペプチドの発現の比率が高くなる。第1スプライス受容部位がより弱い場合、第1エキソンを含む相対的に低いレベルのスプライシングされた転写物が細胞内に存在し、第2ポリペプチドと比較して第1ポリペプチドの発現の比率が低くなる。翻訳は所定のエキソンを含むスプライシングされた転写物のレベルに高度に依存するため、第1エキソンまたは第2エキソンによりコードされるポリペプチドの発現はそのエキソンの直ぐ上流のスプライス受容部位を利用するスプライシングのレベルに依存する。したがって、特定の実施形態では、スプライシングは本発明のベクターまたは発現カセットまたは構築物によりコードされる各々のエキソンを含む成熟転写物のレベルに影響するため、選択的スプライシングを用いてエキソンによりコードされるポリペプチドの発現を調節する。
【0056】
スプライス供与部位およびスプライス受容部位は技術分野で周知であり、そしていずれも本発明で利用することができる。これらのエレメントを、経験的にヌクレオチドを挿入、欠失もしくは置換することによるか、またはNetgene2バージョン2.4のようなスプライシング配列を予測することができるソフトウェアを使用することによるかのいずれかにより、とりわけ技術分野において見出すことができるか、またはコンセンサス配列から誘導することができる。実施例に記載した方法の使用によるような、かかるスプライシングエレメントを本発明の適切さに関して試験することができる。部分的に、本発明は、遺伝子操作により真核細胞における2つまたはそれより多い望ましい組換え遺伝子産物の選択的スプライシングを達成するためにかかる配列を組み込み、そして改良する。
【0057】
本発明のベクターまたは発現カセットまたは構築物は種々のヘテロマルチマータンパク質を発現するのに有用である。例としては、限定するものではないが糖タンパク質ホルモンのようなヘテロ二量体(例えば絨毛性ゴナドトロピン(CG)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、ルトロピン(LH)、およびホリトロピン(FSH))またはインテグリンファミリーのメンバーが挙げられる。2対の同一のサブユニットからなるヘテロ四量体を用いることもできる。適切なヘテロ四量体の例としては、抗体、インスリン受容体(アルファ2ベータ2)および転写開始因子TFIIE(アルファ2ベータ2)が挙げられる。さらに、2:1の比率の発現を生じるスプライス受容部位対を用いて、ベクターまたは発現カセットまたは構築物を用いてリンホトキシンアルファ1ベータ2のようなヘテロ三量体を発現することができる。様々なスプライス受容部位を組み合わせることにより発現比率を変化させて、様々な比率でマルチマーを発現することができるベクターまたは発現カセットまたは構築物を作製することができ、これにより多くの様々なヘテロマルチマータンパク質の効率的な発現が可能になる。特定の実施形態では、スプライス供与部位シグナルおよび/またはスプライス受容部位シグナルの配列に基づいて発現比率が予測される。別の実施形態では、発現比率は経験的に決定される。
【0058】
さらに、本発明の選択的スプライシング系を用いてポリペプチドマルチマー(例えば抗体)を生成するのに有用な遺伝子配列を多くの様々な供給源から入手することができる。例えば種々のヒトタンパク質遺伝子を公的に入手可能な遺伝子配列寄託物および/またはプラスミド、クローン、細胞等の寄託物の形態で入手することができる。タンパク質およびタンパク質コード遺伝子の多くの配列は公開されており、そして適切な遺伝子を本明細書に記載される配列のような配列から合成することができる。これに代えて、タンパク質生成細胞系を選択し、そして技術分野で認識されている技術を用いて培養することができる。別の実施形態では、サブスクリプションデータベースにアクセスすることにより遺伝子配列を得ることができる。当業者には遺伝子配列情報を得るための適切な多くの方法が公知である。
【0059】
例えば、グアニジニウムイソチオシアナート抽出および沈殿後遠心またはクロマトグラフィーのような標準的な技術により抗体コードRNAを、元来抗体を生成するハイブリドーマ細胞から、またはその他の形質転換された細胞から、単離することができる。所望により、オリゴdTセルロースでのクロマトグラフィーのような標準的な技術により全RNAからmRNAを単離することができる。これらの目的に適切な技術は当業者に周知である。
【0060】
周知の方法に従って、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを用いて、同時または別個のいずれかで抗体の軽鎖および重鎖をコードするcDNAを作製することができる。コンセンサス定常領域プライマーによって、または例えば公開された抗体軽鎖および抗体重鎖のDNA配列およびアミノ酸配列に基づくさらに特異的なプライマーによって、これを開始することができる。前記で論じたように、PCRを用いて抗体軽鎖および抗体重鎖をコードするDNAクローンを単離することもできる。この場合、コンセンサスプライマーまたはマウス定常領域プローブのようなより大きな相同性プローブによりライブラリーをスクリーニングすることができる。
【0061】
これに代えて、周知のコンピューターモデリング技術から誘導される配列を用いて抗体および抗体フラグメントを合成することができる。かかるモデリング技術を用いて、保存されたアミノ酸配列により定義される所定の抗体フレームワークの局面で予測されるリガンド構造に結合する抗体配列を予測することができる。この公知の関係を用いることにより、当業者は望ましい抗体または抗体フラグメントのアミノ酸配列を設計し、次いで望ましいポリペプチドをコードする核酸分子を合成することができる。このように設計された抗体または抗体フラグメントを「合成のもの」と称する。
【0062】
本発明の組成物および方法は任意の抗体または実にあらゆる多鎖もしくはマルチマータンパク質に適切である。本発明のこの実施形態に適合するオリゴヌクレオチド合成技術は当業者に周知であり、そしていくつかの市販の自動合成器のいずれかを用いて実行することができる。加えて、いくつかの型の本明細書に前記した重および軽鎖をコードするDNA配列を、商業的DNA販売者のサービスを通して入手することができる。いずれかの前記の方法を用いて得られた遺伝物質を次いで変化させるかまたは修飾して、本発明に適合する抗体およびかかる抗体の望ましい使用を提供することができる。
【0063】
本発明に従って種々の異なる型の抗体を発現させることができる。例えば、抗原(例えば腫瘍関連抗原、病原体または自己抗原)に対する特異的免疫反応活性を有する抗体または抗体フラグメントは自己免疫疾患に関与する。抗体(またはそのフラグメント)は、1つまたはそれより多い定常領域が欠失されるような改変が行われてもよく、またはそうでなければ血清半減期もしくはエフェクター機能のような望ましい機能活性を提供するように変化させることができる。多くのかかる抗体はKuby,J.Immunology、第3版、W.H.Freeman and Co.(1997)に記載されている。
【0064】
本発明の方法を用いて真核細胞において発現するのに適切な抗体には5つの明確に区別されるクラスの抗体:IgA、IgD、IgG、IgEおよびIgMが含まれる。5つのクラスは全て本発明の範囲内であるが、以下の議論は一般的にIgG分子のクラスに関する。当業者は以下の議論をその他のクラスの免疫グロブリンに容易に適応させることができる。IgG分子は典型的には分子量が各々およそ23kDaの2本の同一の抗体軽鎖および分子量が各々53−70kDaの2本の同一の抗体重鎖を含む。図2で示す立体配置の鎖間ジスルフィド結合は4本の鎖を結合している。加えて、抗体軽鎖および抗体重鎖は両方とも構造的および機能的な相同性領域に分けられる。「定常」および「可変」なる用語は機能面で用いられる。この点で、抗体軽(VL)鎖および抗体重(VH)鎖の両方の可変ドメインが抗原認識および特異性を決定することは当業者に理解されよう。逆に、軽鎖定常ドメイン(CL)および重鎖定常ドメイン(CH1、CH2またはCH3)は分泌、胎盤通過性、Fc受容体結合、補体結合およびその他のエフェクター機能のような重要な生物学的特性を付与する。
【0065】
軽鎖はカッパ鎖またはラムダ鎖のいずれかとして分類される。各重鎖クラスはカッパ軽鎖またはラムダ軽鎖のいずれかと結合し得る。一般的に、軽鎖および重鎖は互いに共有結合し、そして免疫グロブリンがハイブリドーマ、B細胞または遺伝子操作された宿主細胞のいずれかにより作製される場合、2本の重鎖の「テール」部分は共有結合性ジスルフィド結合により互いに結合する(図2参照)。N末端には可変領域があり、そしてC末端には定常領域がある。重鎖はガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロンに分類され、その中にいくつかのサブクラスを有する。抗体の「クラス」をIgA、IgD、IgE、IgGまたはIgMとして決定するのはこの鎖の特性である。免疫グロブリンサブクラス(アイソタイプ)(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1)は十分に特徴付けされており、そして機能的な特殊性を付与することが解っている。得られるベクターが1本の軽鎖および1本の重鎖をコードする限り、本発明の第1エキソンまたは第2エキソンを用いて抗体軽鎖または抗体重鎖のいずれかを選択的にコードすることができることが解っている。
【0066】
抗原結合部位は、VH鎖およびVL鎖の各々にある3個の相補性決定領域(CDR)により規定される。抗体は水性環境下でその3次元的立体配置をとるため、各単量体抗体に存在する6個のCDRは、特異的に位置して抗原結合部位を形成する短い非連続アミノ酸配列である。重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインの残りはアミノ酸配列において分子間変動性をあまり示さず、そしてフレームワーク領域と称される。フレームワーク領域は主にベータシートコンフォメーションを取り、そしてCDRはループを形成し、このループは、ベータシート構造を連結し、そしてその一部を形成する場合もある。したがって、フレームワーク領域は、鎖間の非共有結合性相互作用により6個のCDRを正確な配向で配置する足場を形成するように作用する。配置されたCDRにより形成された抗原結合部位は、免疫反応性抗原上のエピトープに相補的な表面を規定する。この相補的表面は、免疫反応性抗原エピトープへの抗体の非共有結合性結合を促す。
【0067】
抗体フラグメントは本発明の選択的スプライシングベクターまたは発現カセットまたは構築物を用いる発現に適切である。かかるフラグメントは望ましい抗体の任意の部分であり、そして例えばFabフラグメント、F(ab’)フラグメントおよびFcフラグメントが挙げられ得る。さらに抗体フラグメントは単鎖抗体または全長よりも短い四量体抗体タンパク質を含むその他の抗体由来のポリペプチドを含み得る。
【0068】
本発明の選択的スプライシングベクターまたは発現カセットまたは構築物を用いて発現される抗体は、抗体と選択された抗原とを結合させる任意の型の可変領域を含み得ることは当業者に理解されよう。この点で、可変領域は体液性応答の開始が誘起され、そして望ましい抗原に対する免疫グロブリンを作製することができる任意の型の哺乳動物に含まれるかまたはそこから誘導され得る。そのように、改変された抗体の可変領域は例えばネズミ、ヒト以外の霊長類またはヒトのものでよい。異なる種から誘導された場合、典型的にはヒト定常領域に融合されたネズミ可変領域の場合、抗体はキメラ抗体と称される。好ましい実施形態では、抗体の可変領域および定常領域の両方はヒトのものである。その他の選択された実施形態では、適合抗体の可変領域(通常ヒト以外の供給源から誘導される)を操作するかもしくは特別にあつらえて結合特性(例えば親和性成熟)を改善するか、または分子の免疫原性を低減させることができる。この点で、本発明に有用な可変領域をヒト化するか、またはそうでなければ移入DNAもしくはアミノ酸配列の封入により変化させることができる。別の種から移植されたCDRを有するかかるヒト抗体はヒト化抗体と称される。さらに、前記したように可変領域を操作するか、または合成性でよい。いずれかの前記の抗体をさらに修飾してグリコシル化部位、ペグ化に適切な部位および/または抗体に対するエフェクター機能を変化させる、例えば相補体結合、Fc受容体結合および/または免疫細胞相互作用活性を変化させる部位を変化させることができる。
【0069】
本発明の目的のために、多くの選択的スプライシングベクター系を用いることができる。例えば、本発明の選択的スプライシングベクターまたは発現カセットまたは構築物は、ヒトパピローマウイルスまたはウシパピローマウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス(例えばHIV)、サイトメガロウイルスまたはSV40ウイルスのような動物ウイルスから誘導されるDNAエレメントを含有することができる。加えて、選択的スプライシングベクターもしくは発現カセットもしくは構築物をその染色体に組み込むことができるか、またはベクターもしくは発現カセットもしくは構築物細胞をエピソームに維持することができる細胞を、トランスフェクトされた宿主細胞の選択を可能にする1つまたはそれより多いマーカーを導入することにより選択することができる。選択マーカー遺伝子は、発現されるDNA配列に直接連結されるか、または同時トランスフェクションにより同一の細胞に導入されるかのいずれでもよい。本発明のベクターまたは発現カセットまたは構築物に導入するための適切な宿主細胞を以下で論じる。
【0070】
(3.培養中の真核細胞におけるポリペプチドマルチマーの発現)
本発明の選択的スプライシングベクターまたは発現カセットまたは構築物を当業者に周知である技術を用いて適切な宿主細胞に導入することができる。これには、例えばトランスフェクション(電気泳動およびエレクトロポレーションを含む)、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム沈殿、エンベロープで包まれたDNAとの細胞融合、マイクロインジェクション、およびウイルスでの感染(例えばRidgway,A.A.G.、「Mammalian Expression Vectors」24.2章470−472頁、Vectors、RodriguezおよびDenhardt編(Butterworths,Boston,Mass,1988)参照)が含まれる。前記したように、本発明のベクターまたは発現カセットまたは構築物を宿主細胞の染色体に組み込むか、エピソームに保持するか、または一過性に発現させることができる。形質転換された細胞を、そこでコードされたポリペプチド(例えば、抗体、軽鎖および重鎖)を生成するのに適切な条件下で増殖させ、そしてポリペプチド合成に関してアッセイする。ポリペプチド合成を同定および定量するためのアッセイ技術の例としては、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光活性化細胞分類分析(FACS)および免疫組織化学が挙げられる。
【0071】
タンパク質発現に用いられる宿主細胞株は好ましくは真核生物起源、例えば哺乳動物起源のもの、またはこれに代えて、酵母もしくは昆虫である。宿主細胞株の例としては、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)株、HeLa(ヒト子宮頸癌)、CVI(サル腎臓株)、COS(SV4O T抗原を有するCVIの誘導体)、R1610(チャイニーズハムスター線維芽細胞)、BALBC/3T3(マウス線維芽細胞)、HAK(ハムスター腎臓株)、SP2/O(マウス骨髄腫)、NS0(骨髄腫)、(ウシ内皮細胞)、RAJI(ヒトリンパ球)、293(ヒト腎臓)、PER.C6(ヒト)、スポドプテラ・フルギペルダ(Sf9)(昆虫)、イラクサギンウワバ(Tn.TnHigh−Five)(昆虫)、カイコ(BMN)(昆虫)、サッカロミセス(酵母)、シゾサッカロミセス(酵母)およびピキア(酵母)が挙げられる。宿主細胞株は典型的にはアメリカンティシューカルチャーコレクションのような商業用のサービスから、または公開された文献から入手できる。
【0072】
インビトロ生成により本発明の選択的スプライシング系を用いて生成される多量の望ましいポリペプチド、好ましくは抗体が得られるスケールアップが可能になる。組織培養条件下での真核生物、例えば哺乳動物細胞および酵母細胞培養の技術は当業者に周知であり、そして例えばエアリフトリアクター中もしくは連続攪拌反応器中の均質懸濁液培養、または例えば中空繊維、マイクロカプセル中、アガロースマイクロビーズ、セラミックカートリッジ上、もしくは発酵装置中の固定細胞培養もしくは捕捉細胞培養が含まれる。本発明に従って生成されたマルチマータンパク質の単離および回収のために、特に抗体に関して、例えば硫酸アンモニウムでの沈殿、PEGのような吸湿性材料に対する透析、および選択膜を通すろ過により培養上清中のタンパク質(例えば免疫グロブリン)を最初に濃縮することができる。必要および/または所望により、通常のクロマトグラフィー方法、例えばゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、DEAEセルロースでのクロマトグラフィー、または免疫親和性クロマトグラフィー(例えばプロテインAまたはプロテインG)によりマルチマータンパク質(例えば多価抗体)の濃縮溶液を精製する。
【0073】
本発明はさらに、本発明の選択的スプライシング系を用いて発現される場合に、会合して、機能的抗体(例えば、腫瘍関連抗原、病原体、または自己抗原のような標的抗原に特異的に結合するか、または望ましいエフェクター効果を有するもの)を生成する任意の抗体軽鎖および抗体重鎖の配列の発現を企図する。
【0074】
重要なことに、選択的スプライシングされた構築物における抗体軽鎖および抗体重鎖遺伝子のコピー数を、好ましい比率の軽/重鎖が得られるように選択することができる。特定の実施形態では、軽鎖は典型的には重鎖に対して約10/1、約5/1、約3/1または約1/1の範囲であるレベルで発現される。関連する実施形態では、軽鎖ポリペプチドおよび重鎖ポリペプチドは約20:1から1:20まで、約15:1から約1:15まで、約12:1から約1:12まで、約10:1から約1:10まで、約9:1から約1:9まで、約8:1から約1:8まで、約7:1から約1:7まで、約6:1から約1:6まで、約5:1から約1:5まで、約4:1から約1:4まで、約3:1から約1:3まで、約2:1から約1:2まで、または約1:1の比率で発現される。特定の実施形態では、軽鎖ポリペプチドおよび重鎖ポリペプチドは約20:1、約19:1、約18:1、約17:1、約16:1、約15:1、約14:1、約13:1、約12:1、約11:1、約10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:11、約1:12、約1:13、約1:14、約1:15、約1:16、約1:17、約1:18、約1:19および/または約1:20の比率で発現される。
【0075】
本発明はまた、例えば所定の細胞株において望ましい比率が達成されるように、様々なスプライス部位を有するベクターをスクリーニングすることにより、任意の望ましい比率を選択するための方法もまた提供する(例えば実施例2参照)。軽鎖の特定の発現レベルが抗体重鎖および抗体軽鎖の適切な集合を導くのに役立ち得ることが観察されており、そして対になっていない過剰な重鎖は細胞毒性を誘起し得るので、抗体を効率的に発現する場合にこれは特に重要である。さらに軽鎖はまた、小胞体において機能的な抗原結合抗体を生成するために、組み立てられた抗体重鎖および抗体軽鎖のフォールディングを導くのにも重要である。したがって、特定の実施形態では、抗体軽鎖は典型的には抗体重鎖に対して約10/1から1/1(例示的な軽鎖/重鎖比率としては、限定するものではないが約10/1、9/1、8/1、7/1、6/1、5/1、4/1、3/1、2/1および1/1が挙げられる)で発現される。
【0076】
特定の実施形態では、本発明の発現系に従って発現された抗体は任意の望ましい抗原に対して特異的であり得る。好ましくは抗体は、自己免疫疾患、炎症疾患、感染症、アレルギー疾患または腫瘍性疾患を処置するのに有用な抗体のような、治療効果を引き出す機能的抗体である。相乗効果のために抗体をその他の治療薬と組み合わせることができる。例えば抗体を例えばその他の抗体、低分子、または癌化学療法剤として使用するための放射活性供給源と組み合わせることができる。
【0077】
特定の実施形態では、本発明の選択的スプライシングベクターまたは発現カセットまたは構築物を複数のポリペプチドを発現するために意図的に選択的スプライシングに頼らないその他のベクターまたは発現カセットまたは構築物と組み合わせて使用する。
【0078】
(4.医薬組成物)
本発明はまたとりわけ、それを必要とする被験体または患者の処置のための、本発明の方法および/またはベクターもしくは発現カセットもしくは構築物を用いて発現されたマルチマータンパク質を含む治療用組成物をも提供する。本発明の組成物を用いて、本発明の方法により生成された治療用ポリペプチドの投与を介して、または本発明の選択的スプライシングベクターもしくは発現カセットもしくは構築物を含む遺伝子治療により、それを必要とする被験体(すなわち患者)を処置することができる。それを必要とする被験体は、本発明の組成物を投与することにより処置または予防することができる疾患、障害または症状を患うかまたは患う危険性を有している被験体である。被験体は哺乳動物被験体でよい。好ましい被験体はヒト被験体である。
【0079】
特定の実施形態では、かかる治療用組成物は薬学的に受容可能なキャリア中にかかるマルチマータンパク質を含む。好ましい実施形態では、かかる治療用組成物は薬学的に受容可能なキャリア中に本発明に従って生成された少なくとも1つの組換え抗体またはその抗体フラグメントを含む。「薬学的に受容可能なキャリア」とは活性成分の投与のために通常用いられる、医薬調製物のうちの少なくとも1つの成分を意味する。このように、キャリアは技術分野において用いられる任意の医薬用賦形剤および投与のための任意の形態の賦形剤を含有し得る。組成物は例えば注射用溶液、水性懸濁液または溶液、非水性懸濁液または溶液、固体および液体経口用処方、膏薬、ゲル、軟膏、皮内パッチ、クリーム、ローション、錠剤、カプセル、徐放処方物等でよい。さらなる賦形剤には、例えば着色剤、矯味剤、溶解補助剤、懸濁剤、圧縮剤、腸溶コーティング、徐放補助剤等を挙げることができる。
【0080】
本発明の薬剤をしばしば活性治療薬および種々のその他の薬学的に受容可能なせいぶnを含む医薬組成物として投与する。Remington’s Pharmaceutical Science(第15版、Mack Publishing Company、イーストン、ペンシルバニア(1980))参照。好ましい形態は意図される投与態様および治療適用に依存する。組成物はまた望まれる処方に依存して、薬学的に受容可能な無毒性のキャリアまたは希釈剤を含むことができ、これは動物またはヒト投与のために医薬組成物を処方するために通常用いられる賦形剤と定義される。希釈剤は組み合わせの生物学的活性に影響しないように選択される。かかる希釈剤の例としては、限定するものではないが蒸留水、生理学的リン酸塩緩衝生理食塩水、リンガー液、デキストロース溶液およびハンクス液が挙げられる。加えて、医薬組成物または処方はその他のキャリア、アジュバントまたは無毒性の非治療用非免疫原性安定剤もまた含み得る。典型的にはかかる組成物は治療上有効量で投与され、これは本発明の組成物での処置に反応する疾患、障害または症状を患うかまたは患う危険性を有している被験体または患者に及ぼす検出可能な(好ましくは医学的に有利な)影響を生み出すのに十分な量である。
【0081】
本発明に従って生成されたマルチマータンパク質を注射またはインプラント製剤の形態で投与することができ、これを活性成分の徐放を可能にするような様式で処方することができる。好ましい実施形態では、かかるマルチマータンパク質は抗体である。例示的組成物は、モノクローナル抗体を5mg/mLで含み、50mM L−ヒスチジン、150mM NaClから成り、HClでpH6.0に調整された水性バッファーに処方する。
【0082】
典型的には組成物は液体溶液または懸濁液のいずれかとして注射可能物として調製され;液体賦形剤中溶液または懸濁液に適切な固体形態を注射前に調製することもできる。前記で論じたように調製物をアジュバント効果の増強のために乳化またはポリラクチド、ポリグリコリドもしくは共重合体のようなリポソームもしくはマイクロ粒子中にカプセル化することもできる(Langer、Science 249:1527(1990)およびHanes、Advanced Drug Delivery Reviews 28:97(1997)参照)。
【0083】
(5.予防方法および治療方法)
特定の実施形態では、本発明は任意の疾患、障害または状態の予防、改善または処置に適切なタンパク質の生成に関する。かかる障害または疾患には、癌、前癌状態および筋ジストロフィーのような遺伝的疾患または状態が含まれる。本発明の方法により生成されたタンパク質での処置に反応する疾患、障害または状態には、遺伝疾患(すなわち1つまたはそれより多い遺伝子の欠陥に起因する疾患状態)、後天性病状(すなわち先天性欠陥に起因しない病理学的状態)および予防プロセス(すなわち疾患または望ましくない医学的状態の予防)が含まれる。後天性病理は生理学状態、生化学状態、細胞状態、構造状態または分子生物学的状態の異常により明示される疾患または症候群でよい。
【0084】
本発明の方法により生成されたタンパク質での処置に反応する疾患、障害または状態は、ウイルス感染および細菌感染を含む感染、癌および前癌状態を含む過剰増殖性の疾患または障害、関節リウマチのような免疫障害、高IgM症候群のような遺伝的免疫不全状態、好中球減少症を特徴とする症状を含む原発性免疫不全状態または複合型免疫不全状態、ならびに神経障害、虚血のような心臓血管障害、および糖尿病、甲状腺障害および不妊のような内分泌障害でよい。
【0085】
本発明の方法により生成されたタンパク質での処置に反応する疾患、障害または状態は癌を含む過剰増殖性疾患または障害でよい。かかる疾患または障害は、脳、肺、扁平上皮細胞、膀胱、胃、膵臓、乳房、頭部、頸部、肝臓、腎臓、卵巣、前立腺、結腸、直腸、食道、鼻咽腔、甲状腺および皮膚を含む任意の細胞、組織または器官を伴い得る。癌は黒色腫、リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、肉腫または癌腫でよい。癌は固形腫瘍であってもよく、または血液のような体液を伴ってもよい。
【0086】
本発明の方法により生成されたタンパク質での処置に反応する疾患、障害または状態は、ハンチントン病、双極性障害、パーキンソン病、手根管症候群、嚢胞性線維症、ペリツェウス・メルツバッハー病、多発性硬化症またはデシュンヌ型筋ジストロフィーのような遺伝的に遺伝される疾患でよい。
【0087】
本発明の方法により生成されたタンパク質での処置に反応する疾患、障害または状態は結核、マラリア、黄熱病、またはB型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス等による感染により引き起こされる疾患のような感染性疾患でよい。
【0088】
特定の実施形態では、本発明はまたとりわけ、障害または疾患、例えば免疫系の障害または疾患の予防または処置に適切な抗体または抗体フラグメントの生成にも関する。
【0089】
したがって、特定の実施形態では、本発明の抗体または抗体フラグメントは例えば糸球体腎炎、強皮症、硬変、多発性硬化症、ループス腎炎、アテローム性動脈硬化症、炎症性腸疾患、アレルギー性または関節リウマチを含む免疫障害の予防または処置に有用である。別の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントを用いて、限定するものではないが、アルツハイマー病、重症の喘息、アトピー性皮膚炎、悪液質、CHF虚血、冠動脈再狭窄、クローン病、糖尿病性腎症、リンパ腫、乾癬、線維症/放射線誘起、若年性関節炎、発作、外傷により引き起こされる脳または中枢神経系の炎症、および潰瘍性大腸炎を含む炎症性障害を処置または予防することができる。
【0090】
本発明により生成された抗体または抗体フラグメントで予防または処置できるその他の炎症性障害には、角膜移植による炎症、慢性閉塞性肺疾患、C型肝炎、多発性骨髄腫、および骨関節炎が含まれる。別の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントを用いて、限定するものではないが、膀胱癌、乳ガン、頭部および頸部の癌、カポジ肉腫、黒色腫、卵巣癌、小細胞肺癌、胃癌、白血病/リンパ腫、および多発性骨髄腫を含む腫瘍症を予防または処置することができる。さらなる腫瘍症状態には、頸部癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌、非扁平上皮細胞性肺癌、および前立腺癌が含まれる。
【0091】
別の実施形態では、本発明の抗体または抗体フラグメントを用いて、限定するものではないが、アルツハイマー病、発作、および外傷性脳または中枢神経系傷害を含む神経変性障害を予防または処置することができる。さらなる神経変性障害には、ALS/運動ニューロン疾患、糖尿病性末梢性ニューロパシー、糖尿病性網膜症、ハンチントン病、黄斑変性症、およびパーキンソン病が含まれる。
【0092】
臨床適用では、被験体は疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状を呈することにより前記した状態の1つを進行させているかまたはその危険性を有していると同定される。少なくとも1つの本発明の抗体もしくはその抗体フラグメントまたは少なくとも1つの本発明の抗体もしくはその抗原結合フラグメントを含む組成物を十分量で投与して例えば前記したような疾患または障害の少なくとも1つの症状を処置する。
【0093】
したがって、本発明のタンパク質は、例えば本明細書に記載したような例えば疾患または障害の予防または処置のために被験体において有利な治療応答を生じる条件下で治療用試薬として被験体に投与するのに適切である。
【0094】
本発明の治療薬は典型的には望ましくない夾雑物から実質的に純粋である。これは、薬剤が典型的には少なくとも約50w/w(重量/重量)%の純度であり、そして干渉するタンパク質および夾雑物を実質的に含まないことを意味する。しばしば薬剤は少なくとも約80w/w%の純度であり、そしてさらに好ましくは少なくとも90%または約95w/w%の純度である。しかしながら、従来のタンパク質精製技術を用いて、例えば本明細書に記載するように、少なくとも99w/w%の均質なペプチドを得ることができる。
【0095】
無症候性被験体および現在疾患の症状を示す被験体の両方においてこの方法を用いることができる。かかる方法において用いられる抗体はヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体もしくはヒト以外の抗体、またはそのフラグメント(例えば抗原結合フラグメント)でよく、そしてモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体でよい。
【0096】
別の実施形態では、発明の方法に従って生成された抗体を医薬組成物として医薬用キャリアと共に投与することを発明の特徴とする。これに代えて、少なくとも1本の抗体鎖をコードするポリヌクレオチドを投与することにより抗体を被験体に投与することができる。ポリヌクレオチドを発現させて被験体において抗体鎖を生成する。したがって、ポリヌクレオチドは抗体の重鎖および軽鎖をコードする。ポリヌクレオチドを発現させて被験体において重鎖および軽鎖を生成する。例示的な実施形態では、被験体の血中の投与された抗体のレベルに関して被験体をモニタリングする。
【0097】
(6.遺伝子送達)
本発明はまた選択的スプライシングベクターを含む核酸を、それを必要とする患者に提供する遺伝子治療をも包含する。本発明の方法により生成されたポリペプチドでの処置に関して前記したのと同一の疾患、障害および状態を処置、改善または予防することができる。遺伝子産物タンパク質の発現のためにDNAを細胞に移入または送達する種々の方法は、別に遺伝子治療と称され、Gene Transfer into Mammalian Somatic Cells in vivo、N.Yang、Crit.Rev.Biotechn.12(4):335−356(1992)に開示されており、これは本明細書中に参考として援用される。遺伝子治療はエキソビボまたはインビボのいずれかの治療で使用するための、DNA配列の体細胞または生殖系列細胞への組み込みを包含する。遺伝子治療は遺伝子を置き換え、正常または異常な遺伝子機能を高め、そして感染性疾患およびその他の病理に対抗するために機能する。
【0098】
これらの医学的問題を遺伝子治療で処置するためのストラテジーには、欠陥遺伝子を同定し、そして次に機能的遺伝子を加えて欠陥遺伝子の機能を置き換えるか、またはわずかに機能的な遺伝子を補強するような治療ストラテジー;または症状を処置するかまたは組織もしくは器官を処置ストラテジーに対してさらに鋭敏にする産物タンパク質に関する遺伝子を加えるような予防ストラテジーが含まれる。これに代えて、本発明の選択的スプライシングベクターで特定の抗原に対する抗体を提供することによるような、免疫を付与する遺伝子を移入させることができる。
【0099】
遺伝子治療のための遺伝子移入方法は、3つの広いカテゴリーである物理学(例えばエレクトロポレーション、直接遺伝子移入およびパーティクルボンバードメント)、化学(脂質に基づくキャリアまたはその他の非ウイルス性ベクター)および生物学(ウイルス由来のベクターおよび受容体取り込み)に入る。例えば非ウイルス性ベクターを用いることができ、これにはDNAと複合化されたリポソームが含まれる。かかるリポソーム/DNA複合体を患者に直接静脈内注射することができる。リポソーム/DNA複合体は肝臓で濃縮され、ここでこれはDNAをマクロファージおよびクップファー細胞に送達すると考えられている。これらの細胞は長命であり、そしてしたがって送達されたDNAの長期間発現を提供する。加えて、治療用DNAを標的化送達するために、ベクターまたは遺伝子の「裸の」DNAを直接望まれる器官、組織または腫瘍に直接注射することができる。
【0100】
また遺伝子治療手法を送達部位により記載することもできる。遺伝子を送達する基本的な方式にはエキソビボ遺伝子移入、インビボ遺伝子移入、およびインビトロ遺伝子移入が含まれる。エキソビボ遺伝子移入では細胞を患者から取り、そして細胞培養物中で増殖させる。DNAを細胞にトランスフェクトし、トランスフェクトされた細胞の数を増やし、そして次に患者に再移植する。インビトロ遺伝子移入では、方法は同一であるが、トランスフェクトされた細胞は組織培養細胞のような培養物中で増殖している細胞であり、そして個々の患者からの細胞ではない。
【0101】
インビボ遺伝子移入は、細胞が患者内にある場合、DNAを患者の細胞に導入することを伴う。方法には、患者に遺伝子を送達するために非感染性のウイルスを用いるウイルス媒介遺伝子移入の使用、または患者の部位への裸のDNAの注射が含まれ、そしてDNAは、遺伝子産物タンパク質が発現される一定の割合の細胞により取り込まれる。加えて、機械的または化学的方法を用いるような本明細書に記載するその他の方法を本発明の核酸のインビボ挿入に用いることができる。
【0102】
DNA送達の機械的方法には、DNAの生殖細胞または体細胞へのマイクロインジェクションのようなDNAの直接注射、「遺伝子銃」で用いられる金粒子のような空気圧で送達されるDNAコーティングされた粒子、およびリン酸カルシウムトランスフェクションのような無機化学的アプローチが含まれる。別の方法であるリガンド媒介遺伝子治療は、DNAを特異的なリガンドと複合化して、リガンド−DNA結合体を形成してDNAを特異的な細胞または組織に指向させることを伴う。
【0103】
遺伝子治療の化学的方法は、リポソームのような融合性脂質小胞もしくは膜融合のためのその他の小胞、リポフェクチンのようなカチオン性脂質を組み込むDNAの脂質粒子、またはポリリジン媒介性DNA移入のような、細胞に結合するための、および/または細胞膜を通ってDNAを運ぶための化学物質を伴い得る。負に荷電したDNAに結合する脂質に基づく陽イオンであるリポフェクチンまたはサイトフェクチンは、細胞膜を通過できかつ細胞の内部にDNAを提供することができる複合体を作る。別の化学的方法は受容体に基づくエンドサイトーシスを用い、これは特異的リガンドを細胞表面受容体に結合させ、そしてエンベロープで包み、そして細胞膜をわたってそれを輸送することを伴う。リガンドはDNAに結合し、そして全複合体は細胞に輸送される。リガンド遺伝子複合体を血流に注射し、そして次に受容体を有する標的細胞はリガンドと特異的に結合し、そしてリガンド−DNA複合体を細胞に輸送する。
【0104】
多くの遺伝子治療手法はウイルスベクターを用いて遺伝子を細胞に挿入し、そして本発明の選択的スプライシングベクターを含むように操作することができる。例えば遺伝子を末梢リンパ球および腫瘍浸潤リンパ球、肝細胞、上皮細胞、筋細胞またはその他の体細胞に導入するためにエキソビボ方法で変化したレトロウイルスベクターが用いられている。これらの変化した細胞を次いで患者に導入して、挿入されたDNAから遺伝子産物を提供する。
【0105】
またインビボプロトコールを用いて遺伝子を細胞に挿入するためにウイルスベクターも用いられている(例えばEck,S.L.およびJ.M.Wilson、「Gene Based Therapy」、Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、第9版、77−101頁、マックグラウヒル、ニューヨーク(1996)参照)。外来遺伝子の組織特異的発現を導くために、組織特異的であることが公知であるシス作用調節エレメントまたはプロモーターを用いることができる。これに代えて、インビボでDNAまたはウイルスベクターの特異的な解剖学的部位へのインサイチュ送達を用いてこれを達成することができる。例えば動脈壁の選択された部位にインビトロで形質導入された内皮細胞を移植することにより、インビボで血管への遺伝子移入を達成した。ウイルスは周囲の細胞を感染し、これもまた遺伝子産物を発現した。例えばカテーテルにより、ウイルスベクターを直接インビボ部位に送達することができ、したがって特定の領域のみがウイルスにより感染されることが可能になり、そして長期間の部位特異的遺伝子発現を提供する。レトロウイルスベクターを用いるインビボ遺伝子移入もまた、器官に至る血管への変化したウイルスの注射により哺乳動物組織および肝臓組織において実証されている。
【0106】
遺伝子治療プロトコールに用いられているウイルスベクターには、限定するものではないが、レトロウイルス、ポリオウイルスまたはシンドビスウイルスのようなその他のRNAウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、SV40、ワクシニアウイルス、およびその他のDNAウイルスが含まれる。複製欠損ネズミレトロウイルスベクターおよびアデノウイルスベクターは最も広く利用されている遺伝子移入ベクターである。マウス白血病レトロウイルスは核コアタンパク質およびポリメラーゼ(pol)酵素と複合化された1本鎖RNAから構成され、タンパク質コア(gag)により包まれ、そして宿主域を決定する糖タンパク質エンベロープ(env)により囲まれている。レトロウイルスのゲノム構造は、5’長末端反復(LTR)および3’長末端反復(LTR)により囲い込まれたgag遺伝子、pol遺伝子およびenv遺伝子を含む。レトロウイルスベクター系は、ウイルス構造タンパク質がパッケージング細胞株においてトランスで供給される場合に、5’LTRおよび3’LTRならびにパッケージングシグナルを含有する最小ベクターが、ベクターのパッケージング、標的細胞への感染および標的細胞への組み込みを可能にするのに十分であるという事実を利用する。遺伝子移入に関するレトロウイルスの基本的な利点には、効率的な感染およびたいていの細胞型における遺伝子発現、標的細胞染色体DNAへの正確な単一コピーベクターの組み込み、およびレトロウイルスゲノムの操作の容易さが挙げられる。
【0107】
アデノウイルスは、コアタンパク質と複合化され、そしてキャプシドタンパク質で囲まれた直鎖状の2本鎖DNAから構成される。分子ウイルス学の進歩により、新規遺伝子配列をインビボで標的細胞に形質導入することができるベクターを創るためにこれらの生物の生物学を利用することが可能になってきている。アデノウイルスに基づくベクターは高レベルで遺伝子産物ペプチドを発現する。アデノウイルスベクターの感染性の効率は高いが、ウイルスの力価は低い。加えて、ウイルスは無細胞ビリオンとして十分に感染性があるため、生成細胞株の注射は必要ではない。アデノウイルスベクターの別の可能性のある利点はいくつかの細胞型においてインビボで異種遺伝子の長期発現を達成する能力である。
【0108】
アデノウイルスベクターは、典型的にはE1遺伝子の欠失を含有する複製無能アデノウイルスから誘導される。かかるベクターは、E1欠失アデノウイルスの複製を可能にする293ヒト胚性腎細胞株のような細胞にトランスフェクトされる。トランスフェクションの後、アデノウイルスベクターがこれらの特殊化されたヘルパー細胞において複製し、そして感染性粒子を形成することが可能になり、これを収集し、そして精製する。この粒子は導入遺伝子、例えば本発明の選択的スプライシングベクターの発現のために広範な宿主細胞を感染することができるが、さらなるウイルス因子を加えないと複製はできない。複製能力のあるアデノウイルスがアデノウイルス調製物に夾雑する可能性を低減させるために、E1/E3欠失ベクターまたは全てもしくはほとんどのウイルス遺伝子が不活性化されている「無気力(gutless)」ベクターのようなウイルスゲノムにさらなる欠失または変異を伴うアデノウイルスベクターを用いることができる。これに代えて、米国出願番号第60/621,782号および第60/631,246号に記載されるように逆方向タンパク質pIX遺伝子を含有するアデノウイルスベクターを用いることができる。
【0109】
プラスミドDNAの筋肉細胞への注射によりトランスフェクトされ、そしてマーカー遺伝子の発現が持続されている細胞を高比率で生じることが見出されている。プラスミドのDNAは細胞のゲノムに組み込まれていてもいなくてもよい。トランスフェクトされたDNAの非組み込みにより、細胞またはミトコンドリアのゲノムにおける変異性の挿入、欠失、または変化の恐れなく、最終分化した非増殖性の組織におけるトランスフェクションおよび遺伝子産物タンパク質の発現が長期間可能になる。永久である必要はないが、長期間の治療用遺伝子の特異的な細胞への移動は遺伝疾患または予防的使用のための処置を提供し得る。DNAを定期的に再注射してレシピエント細胞のゲノムに変異を生じることなく、遺伝子産物のレベルを維持することができる。外因性DNAの非組み込みにより、種々のまたは複数の遺伝子産物を発現する全ての構築物を有する1つの細胞内にいくつかの異なる外因性DNA構築物の存在が可能になり得る。
【0110】
粒子媒介性遺伝子移入方法は最初に植物組織の形質転換に用いられた。パーティクルボンバードメントデバイス、すなわち「遺伝子銃」で推進力を生じて、DNAでコーティングした(金またはタングステンのような)高密度粒子を標的器官、組織または細胞の貫通を可能にする高速まで加速させる。インビトロ系において、またはエキソビボ技術もしくはインビボ技術とともにパーティクルボンバードメントを用いてDNAを細胞、組織または器官に導入することができる。
【0111】
遺伝子移入のためのエレクトロポレーションは、電流を用いて細胞または組織をエレクトロポレーション媒介遺伝子移入しやすくする。所定の電界強度の短い電気インパルスを用いて、DNA分子が細胞を貫通することができるような方式で膜の透過性を高める。インビトロ系において、またはエキソビボ技術もしくはインビボ技術とともにこの技術を用いてDNAを細胞、組織または器官に導入することができる。
【0112】
キャリア媒介遺伝子移入をインビボで用いて外来DNAを細胞にトランスフェクトすることができる。キャリア−DNA複合体を都合良く体液または血流に導入し、そして次に身体の標的器官または組織へと部位特異的に導くことができる。リポソームおよびポリリジン、リポフェクチンまたはサイトフェクチンのようなポリカチオンの両方を用いることができる。細胞特異的または器官特異的であるリポソームを開発することができ、したがってリポソームにより運ばれる外来DNAは標的細胞により取り込まれる。特定の細胞上の特異的受容体を標的とする免疫リポソームの注射を、受容体を担持する細胞にDNAを挿入する都合の良い方法として用いることができる。用いられている別のキャリア系は、インビボ遺伝子移入のためにDNAを肝細胞に運ぶためのアシアロ糖タンパク質/ポリリジン結合体系である。
【0113】
トランスフェクトされたDNAを別の種類のキャリアと複合化して、DNAをレシピエント細胞に運び、そして次に細胞質または核質に存在するようにすることができる。DNAを特異的に操作された小胞複合体中のキャリア核タンパク質に結合させ、そして核に直接運ぶことができる。
【0114】
例えば患者から取り出された腫瘍細胞を、抗腫瘍ポリペプチドを発現する本発明のベクターでトランスフェクトし、そして患者に再導入することができる。トランスフェクトされた腫瘍細胞は、腫瘍の増殖を阻止するタンパク質レベルを患者において生成する。患者はヒトまたはヒト以外の動物でよい。エレクトロポレーション、イオノポレーションまたは「遺伝子銃」を介するような技術分野で公知の物理的または化学的な方法により細胞をトランスフェクトすることもできる。加えて、本発明の選択的スプライシングベクターを含む核酸をキャリアの補助なしに患者に直接注射することができる。特に、ベクターDNAを皮膚、筋肉または血液に注射することができる。
【0115】
本発明のベクターを患者にトランスフェクトするための遺伝子治療プロトコールは、ベクターDNAの細胞のゲノムへの組み込みによってであっても、ミニ染色体への組み込みによってであっても、または細胞の細胞質もしくは核質における別個の複製性もしくは非複製性のDNA構築物としてのいずれでもよい。タンパク質発現を長期間持続してもよく、または細胞、組織もしくは器官中の望ましいタンパク質レベルまたは所定の血中レベルを維持するために定期的に再注射してもよい。
【0116】
(7.処置レジメおよび用量)
予防的適用では医薬組成物または医薬を、本発明の組換えタンパク質で処置できる障害(例えば免疫系障害)を患う被験体に、その障害の生化学的、組織学的および/または行動上の症状、その合併症およびその障害の進行の中間の病理学的表現型を含め、その障害の危険性を排除もしくは低減する、重篤度を弱める、または発症を遅延させるのに十分な量で投与する。治療的適用では組成物または医薬をかかる障害が疑われるかまたはすでに患っている被験体に、その合併症およびその障害の進行中の中間の病理学的表現型を含め、その障害の症状(生化学的、組織学的および/または行動上)を治癒するかまたは少なくとも部分的に停止させるのに十分な量で投与する。本発明のポリペプチドは血液に存在する細胞表面抗原の生物学的活性を調節するのに特に有用であり、ここで処置または予防される疾患は少なくともある程度は、その抗原の異常に高いかまたは異常に低い生物学的活性により引き起こされる。
【0117】
ある方法では、本発明の組成物の投与により免疫障害、例えば炎症が低減または排除される。治療的処置または予防的処置を達成するのに十分な量は治療的または予防的に有効な用量として定義される。予防的レジメおよび治療的レジメの両方で、薬剤は通常いくつかの投薬で十分な免疫応答が達成されるまで投与される。
【0118】
前記した状態の処置のための本発明の組成物の有効用量は、投与の手段、標的部位、被験体の生理学的状態、被験体がヒトであるかまたは動物であるか、投与されるその他の医薬、および処置が予防的であるかまたは治療的であるかを含め、多くの様々な因子に依存して異なる。通常被験体はヒトであるが、トランスジェニック哺乳動物を含むヒト以外の哺乳動物を処置することもできる。
【0119】
前記した本発明の選択的スプライシングベクターまたは発現カセットまたは構築物により発現されたポリペプチドおよびタンパク質を、当業者に公知の処方方法を用いて薬学的に受容可能な処方物中の単離されたおよび実質的に精製されたタンパク質およびタンパク質フラグメントとして提供することができる。これらの処方物を標準的な経路により投与することができる。一般的に局所、経皮、腹腔内、頭蓋内、脳室内、脳内、膣内、子宮内、経口、直腸または非経口(例えば静脈内、脊髄内、皮下または筋肉内)経路により組み合わせを投与することができる。加えて、ポリペプチドを生分解性ポリマーに組み込んで、化合物の徐放を可能にすることができ、ポリマーは薬物送達が望ましい付近、例えば腫瘍部位に移植されるか、またはポリペプチドが全身に緩徐に放出されるように移植される。浸透圧ミニポンプを用いて、転移増殖物に直接的にまたはその腫瘍への血管供給へのように、カニューレを介して目的の部位への高濃度のポリペプチドの制御された送達を提供することもできる。生分解性ポリマーおよびその使用は、例えばBremら、J.Neurosurg.74:441−446(1991)に詳細に記載されている。
【0120】
本発明のポリペプチドの投与量は処置される疾病状態または状態、ならびにヒトまたは動物の体重および状態、および化合物の投与経路のようなその他の臨床因子に依存する。ヒトまたは動物の処置のために、およそ0.5mg/kgから500mg/kgのポリペプチドを投与することができる。特定の動物またはヒトにおけるポリペプチドの半減期に依存して、ポリペプチドを1日数回から週1回までの間で投与することができる。本発明はヒトおよび獣医学の両方での使用に適用を有することが理解されるべきである。本発明の方法は、単回投与、ならびに同時にまたは長期間にわたってのいずれかで与えられる多回投与を意図する。
【0121】
抗体を用いる受動免疫に関しては、投与量は宿主体重の約0.0001〜100mg/kg、およびさらに通常的には0.01〜20mg/kgの範囲である。例えば投与量は1mg/kg体重もしくは10mg/kg体重、または1〜10mg/kgの範囲内、好ましくは少なくとも1mg/kgでよい。かかる用量を、毎日、隔日に、毎週または経験的分析により決定される任意のその他のスケジュールに従って被験体に投与することができる。例示的な処置は複数投与量の投与を長期間、例えば少なくとも6か月間必要とする。さらなる例示的な処置レジメは2週に1回または1か月に1回または3〜6か月毎に1回の投与を必要とする。例示的な投与スケジュールは連続して毎日1〜10mg/kgもしくは15mg/kg、隔日に30mg/kg、または毎週60mg/kgを含む。ある方法では、異なる結合特異性を有する2つまたはそれより多いモノクローナル抗体を同時に投与し、この場合投与される各抗体の用量は示された範囲内に入る。
【0122】
抗体は通常複数の機会に投与される。単一投与量間の間隔は毎週、毎月または毎年でよい。ある方法では、投与量を調整して1〜1000μg/mlの血漿抗体濃度を達成するようにし、そしてある方法では25〜300μg/mlを達成するようにする。これに代えて、徐放処方物として抗体を投与することができ、この場合必要とされる投与頻度は少ない。投与量および頻度は被験体における抗体の半減期に依存して異なる。一般的に、ヒト抗体は最も長い半減期を示し、ヒト化抗体、キメラ抗体、およびヒト以外の抗体がそれに続く。
【0123】
投与の投与量および頻度は処置が予防的であるかまたは治療的であるかに依存して異なり得る。予防的適用では、本抗体またはそのカクテルを含有する組成物を、まだ疾病状態にない被験体に投与して被験体の抵抗性を高める。かかる量を「予防的に有効な用量」であると定義する。この用途では、正確な量は再度被験体の健康状態および全身免疫に依存するが、一般的には投与あたり0.1〜25mg、特に投与あたり0.5〜2.5mgの範囲である。相対的に低い投与量を相対的に低頻度の間隔で長期間にわたって投与する。残りの生涯にわたって処置を受け続ける被験体もいる。
【0124】
治療的適用では、相対的に高投与量(例えば投与あたりの抗体約1〜200mg、5〜25mgの投与量がさらに一般的に用いられる)が比較的短い間隔で、しばしば疾患の進行が低減されるかまたは停止するまで、そして好ましくは被験体が疾患の症状の部分的または完全な改善を示すまで必要とされる。その後、患者に予防的レジメを投与することができる。
【0125】
抗体をコードする核酸の疾患の症状の用量は被験体あたりDNA約10ng〜1g、100ng〜100mg、1μg〜10mg、または30〜300μgの範囲である。感染性ウイルスベクターに関する用量は用いるウイルスベクターの型に依存して異なるが、インビボで用量あたりビリオン1×10〜1×1020個の間である。インビトロ投与量に関しては、一般的に細胞あたりビリオン約0.5〜100個を用いる。
【0126】
予防的および/または治療的処置のために、非経口、局所、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、腹腔内、鼻内または筋肉内手段により治療用薬剤を投与することができる。タンパク質薬物の最も典型的な投与の経路は静脈内、皮下または筋肉内であるが、その他の経路が有効であり得る。ある方法では、薬剤を沈着物が蓄積している特定の組織に直接注射、例えば頭蓋内注射する。ある方法では、徐放組成物、またはMedipad(商標)デバイスのようなデバイスとして抗体を投与する。タンパク質薬物を気道を介して、例えば乾燥粉末吸入デバイスを用いて投与することもできる。
【0127】
場合によっては発明の薬剤を、本発明により標的とされた障害の処置において少なくともある程度有効であるその他の薬剤と組み合わせて投与することができる。
【0128】
以下の実施例を説明の目的で含めるが、本発明のを限定するとは解釈されるべきでない。任意の特許、特許出願、特許公報(国内および国際)の内容(特に配列表を含む)およびこの明細書全体で引用された参考文献はその全体が参考として本明細書に援用される。
【0129】
(例示)
特記しない場合、実施例全体にわたって以下の材料および方法を使用した。
【0130】
(材料および方法)
一般的に本発明の実施には、特記しない場合、分子生物学、組換えDNA技術、ならびに腫瘍学、神経学および免疫学、特に例えば抗体技術の従来技術を用いる。例えばSambrook、FritschおよびManiatis、Molecular Cloning:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Antibody Engineering Protocols(Methods in Molecular Biology)、510、Paul,S.、Humana Pr(1996);Antibody Engineering:A Practical Approach(Practical Approach Series,169)、McCafferty編、Irl Pr(1996);Antibodies:A Laboratory Manual、Harlowら、C.S.H.L.Press,Pub.(1999);ならびにCurrent Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、John Wiley & Sons(1992)参照。
【0131】
(選択的スプライシングベクターの真核細胞への導入)
真核細胞におけるポリペプチドの発現のために、本発明のベクターを典型的にはHEBS(20mM Hepes(pH7.05)、137mM NaCl、5mM KCl、0.7mM NaHPO、6mMデキストロース)0.8mL中0.4cmキュベット(BioRad、Hercules、CA)を用いた0.28kVおよび950uFでのエレクトロポレーションによりCHO細胞に導入した。約5×10個の細胞を各エレクトロポレーションに使用した。エレクトロポレーションの後、細胞をキュベット中室温で5−10分間インキュベートし、そして次に無血清CHO培地10mLの入った遠心管に移し、そして1000rpmで5分間ペレット化した。次いで細胞ペレットを無血清CHO培地10mLに再懸濁し、T75フラスコに播種し、そして加湿インキュベーター中5% COを伴って36℃でインキュベートした。トランスフェクションの3〜5日後に、馴化培地を収集し、そしてELISAにより抗体力価を決定した。トランスフェクションを2連で実施した。
【0132】
(ポリペプチドマルチマー発現分析)
発現分析は典型的にはDHFR選択を用いて実施した。安定してトランスフェクトされた細胞を、ヌクレオシドを欠く無血清CHO培地中でトランスフェクション後およそ2週間増殖させた。DNAなしでトランスフェクトされた細胞(ネガティブコントロール)は死滅したが、選択マーカーを含有する細胞は増殖した。培地を交換し、細胞を2×10〜3×10個/mLの生存細胞で播種し、そして細胞を2〜3日間増殖させ、その後抗体力価および細胞密度を決定することにより、細胞の特異的ポリペプチドマルチマー生産性を評価した。
【0133】
FRETアッセイまたは抗体の可変領域に特異的なELISAおよび/もしくは抗体のFc領域に特異的なELISAを用いて全力価を決定した。簡単には、プレートを50μL/ウェルのAffiniPureヤギ抗ヒトIgG Fcγフラグメント(カタログ番号109−005−098、Jackson Immunoresearch,West Grove,PA)またはPBS中10μg/mlの特異的抗原でコーティングし、そして4℃で一晩インキュベートした。使用前にコーティング溶液を除去し、そしてPBS、0.05% Tween 20で3回洗浄し、次いで200μL/ウェルのPBS、0.05% Tween 20、1%BSA(PBST/BSA)で少なくとも1時間ブロッキングした。ブロッキング溶液を除去し、そして試料を標準曲線に対して分析した。標準および未知の両方を典型的にはPBST/BSAで希釈し、室温で2時間インキュベートし、そして次に前記したように洗浄した。50μl/ウェルのペルオキシダーゼ結合AffiniPureロバ抗ヒトIgG(H+L)(Jackson Immunoresearch、カタログ番号709−035−149)のアリコートを用いて抗体の存在を検出した。結合体をPBST/BSAで1:10,000に希釈し、そして室温で1.5時間インキュベートし、次いで前記したように除去および洗浄した。次いで100μl/ウェルの基質のアリコート(0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH4.9)中420mMテトラメチルベンジジンおよび0.05%過酸化水素)を加えて、基質と共に2分間インキュベートすることにより結合抗原を分離し、続いて100μl/ウェルの2N硫酸の停止バッファーで固定した。得られた吸光度をSoftmaxソフトウェア(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)を用いてMolecular Devices SpectraMax Plusプレートリーダーで450nmで読んだ。
【0134】
FRETアッセイでは、馴化培地試料50μLを1%BSA含有PBS(ダルベッコリン酸塩緩衝生理食塩水溶液、カタログ番号9280、Irvine Scientific、Santa Ana,CA;BSA、Sigma、カタログ番号CA−7906)で希釈した1.67μg/mL LanceTM Eu−IDEC−152(ユーロピウムで標識したIgG1モノクローナル抗体)パーキンエルマー(Boston,MA)75μLと混合した。標識抗体を添加した後、1%BSA含有PBSで希釈した6.67μg/mL PhycolinkRヤギ抗ヒトIgG(Fc特異的)−XLアロフィコシアニン(APC)結合体(カタログ番号PJ253、Prozyme San Leandro,CA)を含有するアッセイミックス75μLを加える。試料+ミックスを蓋付きのフルウェル非処理96ウェルブラックプレート(カタログ番号237105、NalgeNunc International,Rochester、NY)中でインキュベートし、そしてタイタープレートシェーカー(カタログ番号4625(VWR#57019−600)、Barnstead/Lab−Line,Melrose Park,IL)を用いて15分間より長く振盪した。1420マルチラベルカウンター(Wallac,Gaithersburg,MA)を用いて時間分解蛍光様式で、励起337nMおよび発光665nMでプレートを読む。Softmaxソフトウェア(Molecular Devices)を用いてデータ分析した。
【実施例】
【0135】
(実施例1)
(選択的スプライシングを用いて複数のポリペプチドを発現するためのベクターを操作する方法)
以下の実施例は真核細胞において選択的スプライシングにより2つまたはそれより多い遺伝子産物を発現するのに適切なベクターを構築するための方法を記載する。
【0136】
本明細書に記載する発現ベクターは米国出願番号第10/237,067に記載される発現ベクターpV80の誘導体であり、これはネイティブCMVスプライス供与部位およびスプライス受容部位を有するネイティブCMVイントロンを含有する。簡単には、(5’から3’すなわち下流方向に)サイトメガロウイルス前初期1(CMV IE1)プロモーターを含むDNA構築物を作り、これはCMV IE1イントロン(ヒトサイトメガロウイルス株AD169)およびCMV IE1イントロンの5’側半分に先行する5’非翻訳領域を含み、ネイティブスプライス供与部位配列(SD)を含んだ。CMV IE1イントロンの改変された3’部分は、選択的スプライス受容部位(SA1)が都合良く交換されるように、クローニングポリリンカー(SwaI−BstB1)を含んだ。加えて、ヒト化軽鎖遺伝子がクローン化された第1コード配列のためのクローニング部位(AscI)を改変体ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化領域と一緒にSA1のすぐ下流に加えた。なおさらに下流に、ネイティブスプライス受容部位(SA2)配列を含むCMV IElイントロンの3’部分をベクターに組み込んだ。ヒト化IgG1重鎖遺伝子をクローン化した第2コード配列のクローニング部位(BamHI)を改変体ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化領域と一緒にSA2のすぐ下流に加えた。ベクターの別個の位置でジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)選択マーカーを導入した。この選択マーカーはpSI(Genbank登録番号U47121,Promega、Madison,WI)から誘導され、そしてSV40プロモーター/エンハンサー、人工イントロン(選択的スプライシングベクターとは別である)およびSV40後期ポリアデニル化配列により転写が調節される。真核細胞において選択的スプライシングベクターをクローニングおよび増殖させるために、ベータラクタマーゼ遺伝子を含むpUC19から誘導された配列を加えた。
【0137】
前記した操作工程から得られたベクター(すなわちpHL005)を図3に示す(AscI部位およびBamHI部位に挿入されたエキソンコード配列を含まないベクターバックボーン配列を提供する配列番号29をも参照)。この実施例では、ヒト化抗体の軽鎖配列および抗体重鎖配列を各々AscI部位およびBamHI部位にクローニングしている。このベクターにより、場合によっては軽鎖および重鎖の発現比率を変えるために、第1コード配列の直ぐ上流の制限部位(SwaI−BstB1)での種々のスプライス受容部位の挿入も可能になる。
【0138】
スプライス受容部位のすぐ5’側のイントロン部分を欠失してpHLP005のベクターバックボーンを作製した、さらなる発現ベクターを作った。pHLP005のイントロン配列は各々SwaI部位の5’側におよそ310塩基対および110塩基対のPflMI部位およびBspEI部位を含有する。これらの欠失を作製するために、pHLP005プラスミドをPflMIまたはBspEIのいずれかを用いる部分的消化により直鎖状にし、そして次にBspEIで完全に消化し、そしてゲル精製した。
【0139】
異なる第1スプライス受容部位(SA1)を有する発現ベクターを作製するために、PflMIおよびBspEIまたはBspEIおよびBspEI適合部位を有するオリゴヌクレオチド(配列番号1〜28)をそれぞれpHLP005消化ベクターにライゲートし、そして新しいベクター名をつけた(図4)。次いで全構築物をDNA配列分析により確認した。
【0140】
得られたベクターは5’から3’すなわち下流方向でネイティブCMVスプライス供与部位(SD)、配列番号1〜28から選択される第1スプライス受容部位(SA1)、第1ポリペプチドを挿入するための第1制限部位(AscI)、ネイティブCMVスプライス受容部位である第2スプライス受容部位(SA2)、および第2ポリペプチドの導入のための第2制限部位(BamHI)を含有する。
【0141】
プライマーに基づくポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて抗体軽鎖および抗体重鎖の配列を調製し、そして標準的な遺伝子操作技術を用いて得られた産物をベクターに導入した。用いたプライマーはAscI部位およびBamHIへの挿入のためのコード領域に隣接した制限部位を含有した。
【0142】
【化1】

これらのプライマーに関してN(20)は望ましい重鎖または軽鎖をコードするDNAに特異的なヌクレオチド配列を表す。
【0143】
(実施例2)
(選択的スプライシング効率を決定するための方法)
この実施例では、異なるスプライス受容部位に隣接するエキソンによりコードされる2つの異なる遺伝子産物を発現するために選択的スプライシングを用いる効率を決定するための方法および構築物を記載している。
【0144】
スプライシングはエキソン/イントロン接続部のコンセンサス配列により媒介されるが、スプライシング効率の正確な予測をこれらの配列単独では決定できない。この理由のために、本明細書では生成されたマルチマータンパク質の全量として測定することができる産物の適切な比率を生じるスプライス受容部位配列を同定するために経験的なアプローチが必要である。したがって、本発明は任意の所定の細胞株において望ましいスプライス部位の組み合わせを効率的にスクリーニングするのに都合の良いベクターを提供する。
【0145】
選択的スプライス部位を有する種々の発現ベクターを作製するために、pHLP005ベクターのSwaI部位およびBstB1部位への挿入のために平滑末端およびBstB1適合末端を有するオリゴヌクレオチドを作製した。全ての構築物をDNA配列分析により確認した。試験したスプライス部位の配列を図4および配列表で提供する(すなわち配列番号1〜28)。
【0146】
種々のスプライス受容部位で作製されたベクターをエレクトロポレーションによる一過性または安定したトランスフェクションを用いて比較した。トランスフェクションに用いた宿主細胞はジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)欠損チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株DG44であった(Urlaubら、Cell 33、405−412(1983))。Megaprepキット(Qiagen,Valencia,CA)を用いて全DNAを調製した。トランスフェクションの前に、DNAをエタノール(EtOH)沈殿し、70%EtOHで洗浄し、乾燥させ、HEBSに再懸濁し、そしてトランスフェクションの前に定量した。ネガティブコントロールはDNAなしのトランスフェクションを含有し、そしてトランスフェクションコントロールとして使用した。mAb特異的ELISAおよびIgG特異的ELISAの両方は細胞培養培地に分泌された抗体全体を測定する。一過性にトランスフェクトされた細胞に関する全抗体発現レベルを表1で提供する。
【0147】
結果は、特定のスプライス部位、例えばpHLP0015およびpHLP0018は他のものよりもより効率的であり、CHO細胞において一過性で試験した場合、より高レベルの全抗体を作製することを示す。
【0148】
【表1】

(実施例3)
(真核細胞における選択的スプライシングされた遺伝子産物の発現)
この実施例では選択的スプライシングされた遺伝子産物の発現、特に組み立てられたIgG抗体について記載する。
【0149】
手短に述べると、エレクトロポレーションにより本発明の選択的スプライシングベクターでCHO細胞をトランスフェクトし、そして前記したように選択培地中で約2週間回復させて、安定してトランスフェクトされた細胞を作製した。3〜5日後、馴化培地を収集し、そしてELISAにより抗体力価を決定した。
【0150】
最初の実験では抗体軽鎖および抗体重鎖をコードする別個のベクターのDNA50μg、抗体軽鎖および抗体重鎖の両方をコードする選択的スプライシングされたベクター50μg、またはDNAを全く含まないものを真核細胞(CHO)に導入し、そして細胞により生成された機能的ポリペプチドマルチマーの量を抗体結合活性の関数として決定した(表2)。
【0151】
【表2】

最初の実験の結果は、選択的スプライシングベクターから機能的なポリペプチドマルチマー、例えばモノクローナル抗体産物を作製することが可能であるという原理の証明である。
【0152】
さらなる実験では、抗体軽鎖および抗体重鎖をコードする別個のベクターのDNA25μg、抗体軽鎖および抗体重鎖の両方をコードする選択的スプライシングされたベクター50μg、またはDNAを全く含まないものを真核細胞(CHO)に導入し、そして細胞により生成された機能的ポリペプチドマルチマーの量を抗体結合活性の関数として決定した(表3〜6)。
【0153】
実験の結果により、選択的スプライシングベクターから機能的なポリペプチドマルチマー、例えばモノクローナル抗体産物を作製することが可能であることが実証される。このデータにより、pHLP015は高レベルの機能的抗体を生成するその能力のために、試験した他のものよりも良好な選択的スプライシングベクターであることが示唆される。
【0154】
【表3】

【0155】
【表4】

【0156】
【表5】

【0157】
【表6】

したがって、選択的スプライシングベクターを用いて真核細胞において一過性におよび安定しての両方で機能的ポリペプチドマルチマー、例えば抗体を生成することができると結論づけた。したがって、選択的スプライシングにより1つより多くのポリペプチドを発現する1つのベクター系の容易さおよび有用性が実証された。
【0158】
(実施例4)
(ベクターが良好な発現能力を有する細胞系を生成することができるということの実証)
抗体発現に関して軽鎖および重鎖の比率を最適化するために本発明のベクターを設計した。免疫グロブリン重鎖は軽鎖と共に組み立てられなければ分泌されないが、たいていの軽鎖は遊離の分子として分泌され得る。したがって、過剰量の遊離軽鎖は軽鎖に対する重鎖の生成の比率を上げるためにベクターをさらに最適化する必要性の指標になる。遊離軽鎖の生成を評価するために、本発明のベクターのうちの1つを含有する細胞株を作製し、そして分泌された組換え遊離軽鎖および/または組み立てられた抗体マルチマー産物を含有するその馴化培地を評価した(表7)。
【0159】
(ベクター作製)
pHLP015に基づくベクターを実施例1および2に記載するように調製した。このベクターをCHO細胞に導入し、そして前記したように安定したトランスフェクションに関して選択した。増幅された細胞株は、前記したFRET分析により測定されるように、1日あたり細胞あたりに生成されるタンパク質が10ピコグラムを超える比生産性の工業的標準を目標にして誘導された。以下で提供する結果により、抗体生成を許容する細胞系を作製するのにこの発現ベクターが有用であることが実証される。
【0160】
(RT−PCR結果により予測されたスプライス部位を確認する)
細胞性RNAの逆転写に続きcDNAのポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を実施して、発現ベクター設計から予測される接合部に対して軽鎖および重鎖mRNAに関するスプライス接合部を確認した。プラスミドpHLP015を用いたトランスフェクションのうちの1つから安定してトランスフェクトされた細胞系を単離し、そして全RNAを調製した(RNAwiz,Ambion,Austin,TX)。重鎖mRNAのほぼ中央に相補的なプライマーを用いて、逆転写酵素を用いてcDNAを作製した(Superscript III逆転写酵素,Invitrogen,Carlsbad,CA)。次いでCMVの5’非翻訳領域(スプライス供与部位の5’側)のプライマーおよびコード領域(重鎖コード配列のスプライス受容部位の3’側)のプライマーを用いるPCR(Vent DNAポリメラーゼ、New England Biolabs,Beverly,MA)の鋳型としてそのcDNAを用いた。このPCR産物をシークエンシングしたところ、CMVイントロンのスプライス供与部位と重鎖コード配列のすぐ5’側のスプライス受容部位との間に予測されるスプライス産物が確認された。
【0161】
プライマーとしてオリゴ(dT)15を用いて、逆転写酵素(逆転写系,Promega,Madison,WI)を用いて細胞性RNAからcDNAを作製した。次いでこのcDNAをCMVの5’非翻訳領域(スプライス供与部位の5’側)のプライマーおよびコード領域(軽鎖コード配列のスプライス受容部位の3’側)のプライマーを用いるPCR(Vent DNAポリメラーゼ,New England Biolabs,Beverly,MA)の鋳型として用いた。このPCR産物をシークエンシングしたところ、CMVイントロンのスプライス供与部位と軽鎖コード配列のすぐ5’側のスプライス受容部位との間に予測されるスプライス産物が確認され、予期されたとおり選択的スプライシングにより発現ベクターが機能したことが示された。
【0162】
(馴化培地のSDS−PAGE分析)
実施例1〜3のプラスミドpHLP015(表7のmAb#1−1)を用いるトランスフェクションから、安定してトランスフェクトされた細胞株を単離した。加えて、別のpHLP015に基づくベクター(この実施例で作製されるのと同様、表7のmAb#2−1〜5)を用いて、安定してトランスフェクトされた多くの細胞系が作製された。
【0163】
全mAbおよび遊離軽鎖の両方を精製するために、馴化培地およそ50mLをプロテインL−アガロース(カタログ番号P3351、Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)の1.3mLカラムに適用し、カラムを15mLの3×PBS、次いで5mLの1×PBSで1回洗浄し、そして100mM NaHPO(pH2.8)の0.3mLアリコートで溶出し、そして即座に1M Hepes(pH8)75μLで中和した。UV吸光度により280nmにタンパク質ピークが位置決定され、そして吸光係数1.5 A280/mg/mLを用いてタンパク質濃度を決定した。適切な容量のピーク試料を試料バッファーに希釈して15μL中タンパク質1.5μgをローディングした。
【0164】
非還元ゲル用に新鮮な100mM NEMでラエムリに基づく試料バッファー(0.25M Tris−HCl(pH6.8)、8%SDS、40%グリセロールおよび0.01%ブロモフェノールブルー)の4倍ストック溶液を調製した。試料を100℃で5分間加熱し、そして15μLをPAGErゴールドプレキャスト4−20% tris−グリシンゲル(カタログ番号59517、Cambrex,East Rutherford,NJ)にローディングした。ゲルをラエムリバッファー中45mAで40分間流した。流した後クーマシーブルークリーブランド染料(50%メタノール、10%酢酸、0.1%クーマシーブルー)およそ100mLを用いてマイクロ波1分間および振盪10分間によりゲルを染色した。次いで10%メタノール、10%酢酸およそ100mL中マイクロ波2分間および振盪一晩により吸着剤フォームを用いてゲルを脱染した。Biorad GS−800キャリブレーテッドデンシトメーターでゲルをスキャンし、そして抗体全体および遊離軽鎖のバンドをBiorad Quantity Oneソフトウェアで定量した。遊離軽鎖の量を全分泌タンパク質(抗体全体+遊離軽鎖)のパーセンテージとして表7に示す。
【0165】
【表7】

表7に示すように、高レベルの遊離軽鎖は検出されず、これはベクターが重鎖に対する軽鎖の発現において均衡が取れていることを示している。
【0166】
(実施例5)
(マルチマータンパク質を生成するベクター)
本発明のベクターおよび発現カセットまたは構築物を用いて、限定するものではないが前記の詳細な記載で記載したマルチマータンパク質を含む任意のマルチマータンパク質を発現することができる。多くのかかるタンパク質は技術分野で周知であり、そして本発明のベクターおよび発現カセットまたは構築物において使用するのに適切である。発現されるポリペプチドの数を変えることができる。例えば前記したように2つのポリペプチドを発現させることができる。ポリペプチドをコードする別のエキソンをベクターに、好ましくは第1エキソンと第2スプライス受容部位との間に挿入することによりさらなるポリペプチドを発現させることができる。各々のさらなるエキソンはエキソンに対して5’側のスプライス受容部位を有して、単一のスプライス供与部位と個々のスプライス受容部位との間で生じるスプライシングとして転写を調節する。したがって、同一のスプライス供与部位および異なるスプライス受容部位を用いて、1つより多くのポリペプチドを発現させて、望ましいタンパク質の発現を最適化する比率でポリペプチドを発現させることができる。
【0167】
スプライシングおよびそれに続く、マルチマータンパク質の発現を最適化する比率でのポリペプチド鎖の翻訳を可能にするスプライス受容部位を含有するベクターまたは発現カセットまたは構築物を前記の実施例で記載するように調製する。最初に、ポリペプチド鎖をコードする遺伝子を、鎖に特異的なプライマーおよび望ましいポリペプチドを発現する遺伝子を含有する適切なライブラリーを用いるRT−PCRのような標準的な技術を用いてクローン化または増幅する。次いで遺伝子を高レベルのマルチマータンパク質を発現するのに十分な適切な比率でポリペプチドを発現することができる本発明のベクターまたは発現カセットまたは構築物に挿入する。このベクターまたは発現カセットまたは構築物はスプライス部位、エキソンおよびその他の望ましいエレメントの挿入を促す都合の良い制限部位を有し得る。例えばpHLP0015を用いることができる。これに代えて、実施例2および3に記載するように、ポリペプチドをコードする遺伝子を、各々が異なる第1スプライス受容部位を有する1つより多くのベクターまたは発現カセットまたは構築物に挿入して、適切な発現レベルを可能にするスプライス受容部位に関してスクリーニングする。最後にポリペプチドをコードするベクターまたは発現カセットまたは構築物を適切な細胞系、例えば哺乳動物細胞、昆虫細胞または酵母細胞に挿入し、そして発現させる。次いでマルチマータンパク質を、分泌される場合は細胞培養培地から、またはタンパク質が細胞内性もしくは膜結合性である場合は溶解した細胞から収集し得る。
【0168】
本明細書にて引用した全ての参考文献はその全体が本明細書中に参考として援用される。
【0169】
(均等物)
当業者には、慣用実験にすぎない実験を用いるだけで、本明細書に記載した本発明の具体的な実施形態に対する多くの均等物が存在する。かかる均等物は請求の範囲により包含されると意図される。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】図1は、単一のプロモーターが、その後2つまたはそれより多い転写物に選択的スプライシングされ得る単一のプレmRNAの転写を駆動するのを可能にするように設計された本発明の選択的スプライシングベクターの構造および機能の態様の概略図を示す。2つまたはそれより多い転写物は次いで2つまたはそれより多い対応するポリペプチドに翻訳される。
【図2】図2は、その後組み立てられて成熟四量体抗体を形成する抗体軽鎖および抗体重鎖を発現するために用いられる場合の本発明の発現ベクターの概略図を示す。
【図3】図3は、真核細胞において抗体を生成するために単一のプロモーターから抗体軽鎖および抗体重鎖を発現するように設計された本発明の選択的スプライシングベクターのプラスミドマップである。プラスミドマップはまたスプライス部位、クローニング部位、ポリアデニル化配列、ならびに真核細胞における選択マーカー(DHFR)および原核細胞における増殖マーカー(βラクタマーゼ)の位置および方向を示す。ベクターバックボーンの配列を提供する配列番号29もまた参照されたい。
【図4】図4は、試験される第1スプライス受容部位のスプライス部位の配列、イントロン領域およびエキソン領域(それぞれ小文字および大文字)、ならびに対応するプラスミド名および配列識別番号を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発現ベクターであって、該発現ベクターは、
プロモーター;
5’UTR;
単一のスプライス供与部位;
イントロン;
第1スプライス受容部位;
第1ポリペプチドをコードする第1エキソン;
第2スプライス受容部位;および
第2ポリペプチドをコードする第2エキソン;
を含み、
ここで、該プロモーターは、該第1エキソンおよび該第2エキソンに作動可能なように連結されており;
ここで、細胞への侵入時に該単一のスプライス供与部位は該第1スプライス受容部位と共にスプライシングされて、該第1エキソンの転写を可能にするスプライシングされた転写物を形成し、そして該第2スプライス受容部位は該第2エキソンの転写を可能にするスプライシングされた転写物を形成し;そして
ここで、該第1ポリペプチドおよび該第2ポリペプチドは該スプライシングされた転写物から発現される、発現ベクター。
【請求項2】
前記プロモーターがCMVプロモーターである、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記第1エキソンまたは第2エキソンに作動可能なように連結されたポリアデニル化シグナルをさらに含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項4】
前記ベクターが1つまたはそれより多いさらなるスプライス受容部位およびさらなるポリペプチドをコードするさらなるエキソンをさらに含み:
細胞への侵入時に前記単一のスプライス供与部位は該さらなるスプライス受容部位と共にスプライシングされて、該さらなるエキソンの転写を可能にするさらなるスプライシングされた転写物を形成し;そして
該さらなるポリペプチドは該さらなるスプライシングされた転写物から発現される;
請求項1に記載のベクター。
【請求項5】
前記第1エキソンもしくは第2エキソンまたは両方が選択マーカーをコードする、請求項1に記載のベクター。
【請求項6】
前記第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチドがマルチマーを形成する、請求項1に記載のベクター。
【請求項7】
前記マルチマータンパク質がヘテロ二量体、ヘテロ三量体またはヘテロ四量体である、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
前記第1ポリペプチドが前記第2ポリペプチドに対して約10:1から約1:10の頻度で発現される、請求項1に記載のベクター。
【請求項9】
前記第1ポリペプチドが前記第2ポリペプチドに対して約3:1から約1:3の頻度で発現される、請求項1に記載のベクター。
【請求項10】
前記第1ポリペプチドが前記第2ポリペプチドに対して約1:1の頻度で発現される、請求項1に記載のベクター。
【請求項11】
前記第1スプライス受容部位または前記第2スプライス受容部位が配列番号1〜28からなる群から選択されるいずれか1つの配列を含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項12】
前記スプライス供与部位および前記第2スプライス受容部位がCMVから誘導され、そして前記第1スプライス受容部位が配列番号1〜28からなる群から選択されるいずれか1つの配列を含む、請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
前記ベクターがウイルスベクターである、請求項1に記載のベクター。
【請求項14】
配列番号29を含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項15】
請求項1に記載のベクターを含有する、真核細胞。
【請求項16】
前記ベクターが前記細胞の染色体DNAに組み込まれている、請求項15に記載の細胞。
【請求項17】
前記ベクターがエピソーム性である、請求項15に記載の細胞。
【請求項18】
前記細胞が哺乳動物細胞または酵母細胞である、請求項15に記載の細胞。
【請求項19】
前記細胞がベビーハムスター腎臓細胞、線維芽細胞、骨髄腫細胞、NS0細胞、PER.C6細胞またはCHO細胞を含む群から選択される、請求項18に記載の細胞。
【請求項20】
前記細胞がCHO細胞である、請求項19に記載の細胞。
【請求項21】
ポリペプチドを生成する方法であって、請求項15に記載の細胞を培養物中で培養する工程、および該培養物から前記第1ポリペプチドおよび前記第2ポリペプチドを単離する工程を包含する、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法により生成された、第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチド。
【請求項23】
請求項22に記載の第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチドを含み、薬学的に受容可能なキャリアをさらに含む、組成物。
【請求項24】
処置を必要とする患者を請求項23に記載の組成物で処置する方法。
【請求項25】
発現ベクターであって、該発現ベクターは、
プロモーター;
5’UTR;
単一のスプライス供与部位;
イントロン;
第1スプライス受容部位;
第1抗体ポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする第1エキソン;
第2スプライス受容部位;および
第2抗体ポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする第2エキソン;
を含み、
ここで、該プロモーターは該第1エキソンおよび該第2エキソンに作動可能なように連結されており;
ここで、細胞への侵入時に該単一のスプライス供与部位は該第1スプライス受容部位と共にスプライシングされて、該第1エキソンの転写を可能にするスプライシングされた転写物を形成し、そして該第2スプライス受容部位は該2エキソンの転写を可能にするスプライシングされた転写物を形成し;そして
ここで、該第1抗体ポリペプチドまたはそのフラグメントおよび該第2抗体ポリペプチドまたはそのフラグメントは該スプライシングされた転写物から発現され、そして会合して、抗体または抗体フラグメントを形成する、発現ベクター。
【請求項26】
前記第1エキソンもしくは該第2エキソンまたは両方が抗体フラグメントをコードする、請求項25に記載のベクター。
【請求項27】
前記第1ポリペプチドが抗体重鎖またはそのフラグメントをコードし、そして前記第2ポリペプチドが抗体軽鎖またはそのフラグメントである、請求項25に記載のベクター。
【請求項28】
前記第1ポリペプチドが抗体軽鎖またはそのフラグメントであり、そして前記第2ポリペプチドが抗体重鎖またはそのフラグメントである、請求項25に記載のベクター。
【請求項29】
前記軽鎖もしくは重鎖または両方がネズミ、キメラ、ヒト化、ヒトまたは合成のものである、請求項27に記載のベクター。
【請求項30】
前記軽鎖もしくは重鎖または両方がネズミ、キメラ、ヒト化、ヒトまたは合成のものである、請求項28に記載のベクター。
【請求項31】
前記第1抗体ポリペプチドまたはそのフラグメントが前記第2抗体ポリペプチドまたはそのフラグメントに対して約3:1から約1:3の頻度で発現される、請求項25に記載のベクター。
【請求項32】
前記第1抗体ポリペプチドまたはそのフラグメントが前記第2抗体ポリペプチドまたはそのフラグメントに対して約1:1の頻度で発現される、請求項25に記載のベクター。
【請求項33】
前記第1スプライス受容部位または前記第2スプライス受容部位が配列番号1〜28からなる群から選択されるいずれか1つの配列を含む、請求項25に記載のベクター。
【請求項34】
前記スプライス供与部位および前記第2スプライス受容部位がCMVから誘導され、そして前記第1スプライス受容部位が配列番号1〜28からなる群から選択されるいずれか1つの配列を含む、請求項33に記載のベクター。
【請求項35】
前記ベクターがウイルスベクターである、請求項25に記載のベクター。
【請求項36】
配列番号29を含む、請求項25に記載のベクター。
【請求項37】
請求項25に記載のベクターを含有する、真核細胞。
【請求項38】
前記ベクターが前記細胞の染色体DNAに組み込まれている、請求項37に記載の細胞。
【請求項39】
前記ベクターがエピソーム性である、請求項37に記載の細胞。
【請求項40】
前記細胞が哺乳動物細胞または酵母細胞である、請求項37に記載の細胞。
【請求項41】
前記細胞がベビーハムスター腎臓細胞、線維芽細胞、骨髄腫細胞、NS0細胞、PER.C6細胞またはCHO細胞を含む群から選択される、請求項40に記載の細胞。
【請求項42】
前記細胞がCHO細胞である、請求項41に記載の細胞。
【請求項43】
抗体または抗体フラグメントを生成する方法であって、請求項37に記載の細胞を培養物中で培養する工程、および該培養物から前記第1ポリペプチドおよび前記第2ポリペプチドを単離する工程を包含する、方法。
【請求項44】
請求項43に記載の方法により生成された、抗体または抗体フラグメント。
【請求項45】
請求項44に記載の抗体または抗体フラグメントを含み、薬学的に受容可能なキャリアをさらに含む、組成物。
【請求項46】
処置を必要とする患者を請求項45に記載の組成物で処置する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2007−529223(P2007−529223A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504008(P2007−504008)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【国際出願番号】PCT/US2005/008473
【国際公開番号】WO2005/089285
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(592221528)バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド (224)
【Fターム(参考)】