説明

選択的分離材及びその製造方法、並びに血液処理器

【課題】優れた生体適合性を有し、かつ、十分量の抗体が配向よく強固に化学結合した特異的分離材を提供すること。
【解決手段】水不溶性担体と、該水不溶性担体の少なくとも表面に結合したポリマーと、該ポリマーに結合した抗体とを有し、ポリマーが、親水性モノマー及び疎水性モノマーの共重合体であり、かつ親水性モノマーに由来する構造単位のモル組成比が、全構造単位に対して、0.30〜0.60であり、抗体の単位表面積あたりの固定量が1.50mg/m以上であり、かつ抗体配向性を示す抗Fab/抗Fc比率の値が6以上である、特異的分離材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的分離材及びその製造方法、並びに血液処理器に関する。
【背景技術】
【0002】
血液から特定成分を除去する目的で、該特定成分に対して親和性のある物質、すなわち、リガンドを水不溶性担体に固定した分離材が臨床的に広く利用されている。これら分離材は、患者の血液を一旦体外に取り出し、血液そのもの、又は血漿分離器で分離した血漿を分離材に流して処理した後、患者に返血するという形で使用される。
【0003】
このため分離材からリガンドが溶離すると、リガンドが直接患者体内に入り、種々の生理作用を引き起こす危険性がある。よって、リガンドの溶離量が多い分離材は、安全性の点から臨床で利用できない。すなわち、これら分離材を実用化するにあたっては、水不溶性担体とリガンドとの結合を強固にし、溶離するリガンド量を減らせるかが最も重要な技術課題である。
【0004】
また、分離材には、血液又は血漿中のタンパク質、細胞(例えば、白血球及び血小板)、及びその他血中成分が表面に吸着しにくいという血液適合性(生体適合性)も求められる。特に、選択的分離材においては、特定成分を選択的に吸着させるために、分離材そのものに目的成分以外の成分が非特異的に吸着しない特性が望まれている。
【0005】
そこで、医療用材料表面の親水性及び疎水性を改善するため、放射線及び紫外線等を照射する方法、アーク、直流グロー、高周波、マイクロ波及びコロナ放電等によりプラズマ処理する方法、並びに、UV−オゾン処理する方法等により発生させたラジカルを開始点として、これにラジカル重合性モノマーを作用させて、医療用材料表面にグラフト重合層を形成させる方法が広く用いられている。
【0006】
一方、生体適合性を高めるポリマーとして、グリシン型の両性基を持つN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(以下、「CMB」ともいう。)が提案されている(例えば、特許文献1、2及び3)。CMBと重合性モノマーとの共重合ポリマーはタンパク質及び血球等の生体成分との相互作用が小さいなどの優れた生体適合性を有しているとの報告がある(特許文献4)。
【0007】
しかしながら、生体適合性を向上させるために、CMBのような親水性ポリマーが基材表面に高含有される場合、タンパク質及び血球等の生体成分が吸着しにくくなると同時に、リガンド自体も結合できなくなるといった問題がある。
【0008】
親水性ポリマーを含有した基材に抗体を固定する方法として、1M程度のリン酸水素二カリウムを含む緩衝液を使用する方法が開示されている(特許文献5)。また、非特許文献1には、エポキシ基と抗体との化学結合を促進するために、0.5M程度の硫酸アンモニウムを含む緩衝液を使用する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−95474号公報
【特許文献2】特開平9−95586号公報
【特許文献3】特開平11−222470号公報
【特許文献4】特開2007−130194号公報
【特許文献5】特開2008−128854号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wheatly JB, et. al., J Chromatogr A. 849(1):1−12(1999).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、細胞分離材に限らず、血液中から選択的に目的物質を除去又は回収する選択的分離材を製造する場合には、分離材からのリガンドの漏出が極めて少ないといった安全性が重要である。つまり、リガンドの固定化を化学結合でほぼ達成し、リガンドの物理的な結合を十分に低減させておく必要がある。また、選択的分離材においては、特定成分を選択的に吸着させるために、基材そのものに目的成分以外の成分の非特異的な吸着が起きない基材が望まれており、その解決策の一つとして、親水性ポリマーを高含有する基材の使用が挙げられる。
【0012】
特許文献5に記載の方法では、臨床使用するためには抗体固定量が不十分である。非特許文献1に記載の方法は、親水性ポリマーを高含有する基材への化学固定方法としては応用できない。また、基材にリガンドを固定した後、親水性ポリマーで基材表面をコートする方法も実施されているが、この場合、コートされたポリマーが溶出するという問題、及びリガンドの性能が低下するという問題がある。
【0013】
さらに、選択的分離材においては、リガンドが目的物質と効率よく結合できるように、リガンドの配向を制御することも重要である。例えば、リガンドとして抗体を使用した場合、抗体のFc部が基材と結合し、抗原との結合部位であるFab部が基材表面から外に向かうように抗体が固定される必要がある。Fc部が基材表面から外に向かうように抗体が固定された場合、目的物質との結合効率が低下することに加え、Fc部への血小板の吸着及び補体の活性化が起こるといった問題が生じる。
【0014】
抗体の配向を制御する方法として、ProteinG/A又ビオチン・アビジンを利用して、抗体のFc部と特異的に吸着させる方法が挙げられる。しかしながら、ProteinG/Aはヒト血中の抗体との親和性が高く、リガンドとして用いる抗体と血中の抗体とが置き換わるため臨床使用することはできない。また、ビオチン・アビジンを利用する場合においても、ビオチンとアビジンとの結合が化学結合ではないため、分離材からの抗体の漏れ出しの問題があり臨床使用はされていない。
【0015】
本発明者は、蛋白質や血球などの生体成分との非特異的相互作用が少ないなどの優れた生体適合性を有し、リガンドを強固に結合し、固定化したリガンドとの特異的相互作用に基づく高い吸着性能を発揮し得るリガンド固定化用基材として、水不溶性担体の少なくとも表面にCMBと求電子官能基を有する重合性モノマーとの共重合体が結合してなるリガンド固定化用基材がこの課題を解決できることを見出しており、本出願人によって特許出願を行っている(特願2010−083455号)。しかしながら、先願明細書には、固定化するリガンドの配向制御に関してまでは記載されておらず、リガンドの使用効率が更に高いものが望まれていた。また、先願明細書に記載されているモノマーの重合条件と完全に同じではないが、本発明者らがモノマーの共重合を行ったところ、基材表面のCMBモル組成比が高くなるにつれ、血小板吸着は抑制されるが、リガンドが固定化されにくくなり、目的の細胞を除去する能力が低下してしまうことが分かった。また、先願明細書に記載されたリガンド固定化方法では抗体の配向が制御できていないことも明らかとなっている(本願比較例4及び7等参照)。
【0016】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、優れた生体適合性を有し、かつ、十分量の抗体が配向よく強固に化学結合した選択的分離材を提供することを目的とする。本発明はまた、優れた生体適合性を有し、かつ、十分量の抗体が配向よく強固に化学結合した選択的分離材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は下記[1]〜[9]に関する。
[1]
水不溶性担体と、該水不溶性担体の少なくとも表面に結合したポリマーと、該ポリマーに結合した抗体とを有し、
前記ポリマーが、親水性モノマー及び疎水性モノマーの共重合体であり、かつ前記親水性モノマーに由来する構造単位のモル組成比が、全構造単位に対して、0.30〜0.60であり、
前記抗体の単位表面積あたりの固定量が1.50mg/m以上であり、かつ抗体配向性を示す抗Fab/抗Fc比率の値が6以上である、選択的分離材。
[2]
前記抗体の化学固定率が80%以上である、[1]に記載の選択的分離材。
[3]
前記親水性モノマーが、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、スルホベタイン及びポリエチレングリコールモノメタクリレートからなる群より選択される1種以上である、[1]又は[2]に記載の選択的分離材。
[4]
前記疎水性モノマーが、下記一般式(1)で表される重合性モノマーである、[1]〜[3]のいずれかに記載の選択的分離材。
【化1】


[一般式(1)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基を示す。]
[5]
前記求電子官能基がエポキシ基である、[4]に記載の選択的分離材。
[6]
前記水不溶性担体が、多孔膜又は粒子である、[1]〜[5]のいずれかに記載の選択的分離材。
[7]
血液の導入口及び導出口を有する容器と、
該容器の内部に充填された[1]〜[6]のいずれかに記載の選択的分離材と、を備える、血液処理器。
[8]
[1]〜[6]のいずれかに記載の選択的分離材の製造における抗体固定化用基材の使用であって、
前記抗体固定化用基材が、水不溶性担体と、該水不溶性担体の少なくとも表面に結合したポリマーと、を有し、
前記ポリマーが、親水性モノマー及び疎水性モノマーの共重合体であり、かつ前記親水性モノマーに由来する構造単位のモル組成比が、全構造単位に対して、0.30〜0.60である、前記使用。
[9]
水不溶性担体と、該水不溶性担体の少なくとも表面に結合したポリマーとを有する抗体固定化用基材に対し、濃度が0.6M以上のアンチカオトロピックイオンの存在下、酸性pHの条件下で抗体を結合させる工程を備え、
前記ポリマーが、親水性モノマー及び疎水性モノマーの共重合体であり、かつ前記親水性モノマーに由来する構造単位のモル組成比が、全構造単位に対して、0.30〜0.60である、[1]〜[6]のいずれかに記載の選択的分離材を製造する製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れた生体適合性を有し、かつ、十分量の抗体が配向よく強固に化学結合した選択的分離材を提供することができる。また、本発明によれば、優れた生体適合性を有し、かつ、十分量の抗体が配向よく強固に化学結合した選択的分離材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態に係る選択的分離材の模式断面図である。
【図2】一実施形態に係る選択的分離材の模式断面図である。
【図3】一実施形態に係る血液処理器の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0021】
本実施形態に係る選択的分離材は、水不溶性担体と、該水不溶性担体の少なくとも表面に結合したポリマーと、該ポリマーに結合した抗体とを有する。
【0022】
〔水不溶性担体〕
本明細書において、水不溶性担体とは、水に溶けない担体を意味する。例えば、血液に接触した場合、血液中に溶け出さないものである。
【0023】
本実施形態に係る水不溶性担体を形成する素材としては、天然高分子、合成高分子、再生高分子等の有機高分子化合物、ガラス及び金属に代表される無機化合物、さらに有機/無機ハイブリッド化合物等が挙げられるが特に限定されない。
【0024】
加工性の面からは、有機高分子素材が特に好ましく、例えば、ポリアルキレンテレフタレート類、ポリカーボネート類、ポリウレタン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体(エバール)、エチレン/ビニルアセテート共重合体、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、ポリスルホン類、セルロース及びセルロース誘導体類、ポリフェニレンエーテル類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等、及びこれらを構成するモノマーの共重合体、更には上記高分子の1種又は2種以上のアロイ及びブレンド等が挙げられる。
【0025】
水不溶性担体としては、医療用分離材(医療用吸着材)の担体として周知のもの全てを使用できるが、多孔膜又は粒子が好ましく、多孔質粒子、不織布又は中空糸膜が体外循環時の体液の流通性に優れるためより好ましい。また、目的吸着成分が細胞である場合は、不織布又は粒子が好ましい。なお、以下、目的吸着成分が細胞である場合の選択的分離材を、特に「細胞選択分離材」ともいう。
【0026】
多孔膜としては、これらの素材から得られる繊維状物(中実繊維及び中空繊維)を用いて製造される不織布、織布、編布及びメッシュ等が挙げられる。また、有機高分子素材又は無機高分子素材を、熱溶融した状態、溶媒によって溶解した溶液状態、可塑剤を用いて可塑化した状態等から、発泡法、相分離法(熱誘起相分離法や湿式相分離法)、延伸法及び焼結法等によって得ることができるシート状膜(平膜)及び空糸膜も使用できる。
【0027】
多孔膜においては、連通孔を有し、連通孔の少なくとも表面部分に存在するアフィニティーリガンドとの接触によって目的成分が吸着されるのであればどのような構造であっても構わない。連通孔とは、支持多孔膜の一方の膜面から反対側の膜面にかけて連通した孔のことであって、その連通孔を通して液体が通過するとこができるのであれば、その孔の膜表面の形状や膜内部の構造はどのようなものであってもよい。
【0028】
特に、細胞選択分離材の場合に好ましいものとしては、細胞浮遊液の透過性、及び細胞捕捉性の観点から、各種繊維状物から製造される不織布、織布、編布及びメッシュ等が挙げられ、特に不織布は好ましく用いられる多孔膜である。不織布形状の場合、その平均繊維径(平均繊維直径)は0.1μm〜50μmが好ましい。さらに平均繊維径は0.5μm〜40μmであることが好ましく、1μm〜30μmであることがより好ましく、1μm〜20μmであることが更に好ましく、2μm〜10μmであることが更により好ましい。平均繊維径が0.1μm未満であると、細胞選択分離材の機械的強度が低下しやすい。また50μmを超えると吸着表面積が小さくなり細胞捕捉性が低下しやすい。
【0029】
粒子は目的吸着成分によって、無孔質又は多孔質を選択すればよい。また、多孔質においては、目的吸着成分によって、その孔径を選択すればよい。平均粒径は、25μm以上2500μm以下のものを利用できるが、その比表面積(分離材としての吸着能力)と体液の流通性を考慮すると、50μm以上1500μm以下のものが好ましい。
【0030】
〔ポリマー〕
本実施形態に係るポリマーは、親水性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体である。共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、周期的共重合体及び交互共重合体のいずれであってもよい。
【0031】
<親水性モノマー>
本明細書において、「親水性モノマー」とは、重合性官能基(例えば、炭素−炭素二重結合等の不飽和結合を有する官能基)及び親水性官能基を有するモノマーを意味する。親水性官能基は、水分子との間で水素結合を形成可能な官能基であればよく、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルキレングリコール残基、ベタイン基が挙げられる。親水性官能基は、好ましくは、水中で電離し、正又は負に帯電する官能基である。
【0032】
親水性モノマーとしては、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(CMB)、スルホベタイン及びポリエチレングリコールモノメタクリレートからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。中でも、抗体の配向性により優れるため、親水性モノマーとしては、下記式(2)で表されるCMBがより好ましい。
【化2】

【0033】
CMBは、例えば、特開平9−95474号公報、特開平9−95586号公報、特開平11−222470号公報などに記載されている方法により、容易に高純度で調製することができる。
【0034】
<疎水性モノマー>
本明細書において、「疎水性モノマー」とは、重合性官能基(例えば、炭素−炭素二重結合等の不飽和結合を有する官能基)及び求電子官能基を有するモノマーを意味する。好ましくは、親水性官能基を有しないモノマーである。求電子官能基とは求電子的に反応する官能基を意味し、求電子官能基の具体例としては、例えば、エポキシ基、イソシアネート基又はアルデヒド基が挙げられる。
【0035】
疎水性モノマーとしては、下記一般式(1)で表される重合性モノマーが好ましい。
【化3】


一般式(1)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基を示す。
【0036】
求電子官能基としてエポキシ基を分子内に有する重合性モノマーとしては、特に限定されないが、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリルアミド、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、グリシジルソルベート、グリシジルメタイタコナート、エチルグリシジルマレアート、グリシジルビニルスルホナート等を例示でき、求電子官能基としてイソシアネート基を分子内に有する重合性モノマーとしては、アクリロイルオキシエチルイソシアネート、アクリロイルオキシメチルイソシアネート、アクリロイルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、メタクリロイルエチルイソシアネート等を例示でき、さらに、求電子官能基としてアルデヒド基を分子内に有する重合性モノマーとしては、シンナムアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン等を例示できるが、この中でも入手の容易さ、コスト、取り扱いの容易さから、求電子官能基としてエポキシ基を分子内に有する重合性モノマーが好ましく、その中でも特にグリシジルメタクリレートが好ましい。
【0037】
<ポリマー>
本実施形態に係るポリマーは、優れた生体適合性を発揮するという観点から、親水性モノマーに由来する構造単位のモル組成比が、親水性モノマーに由来する構造単位及び疎水性モノマーに由来する構造単位の合計(すなわち、全構造単位)に対して、0.30〜0.60であればよい。このモル組成比が0.30未満であると、ポリマーの疎水性が高くなりすぎて、タンパク質及び血球等の生体成分の非特異的吸着が増加する傾向にある。一方、このモル組成比が0.60を超えると、抗体の結合量が低下する傾向にある。上記モル組成比は、好ましくは0.30〜0.50であり、より好ましくは0.40〜0.50である。
【0038】
親水性モノマーに由来する構造単位とは、例えば、親水性ポリマーがCMBである場合、以下の構造単位を意味する。
【化4】


「*」は他の構造単位との結合を示す。
また、疎水性モノマーに由来する構造単位とは、例えば、疎水性ポリマーが上記一般式(1)で表される重合性モノマーである場合、以下の構造単位を意味する。
【化5】


「*」は他の構造単位との結合を示す。
【0039】
親水性ポリマーがCMBであり、疎水性ポリマーが上記一般式(1)で表される重合性モノマーである場合、ポリマーは下記一般式(2)で表すことができる。
【化6】


[一般式(2)中、n及びmは正の整数を示し、m/(n+m)の値は0.30以上0.60以下である。また、一般式(2)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基、R
【化7】


を示す。]
【0040】
上述した水不溶性担体の少なくとも表面にポリマー(共重合体)がどのような様式で結合しているかは特に限定されず、共有結合、配位結合、イオン結合及び水素結合等の化学結合であれば、いずれの結合様式であってもよい。中でも、ポリマーの溶出が十分に低減されることから、共有結合であることが好ましい。
【0041】
水不溶性担体へのポリマーの結合方法としては、グラフト法及び不溶化沈殿法等、あらゆる公知の方法を用いることができる。したがって、高分子化合物又はそのモノマーを放射線又はプラズマ等を用いてグラフト重合する、又は共有結合する等の公知の方法により表面改質を施す方法(特開平1−249063号公報、特開平3−502094号公報)を好適に用いることができる。
【0042】
放射線照射グラフト重合法を用いる場合、種々の公知の方法を利用することができる。例えば、担体上に活性点を導入するための電離性放射線は、α線、β線、γ線、加速電子線、X線及び紫外線等が挙げられるが、実用的には加速電子線又はγ線が好ましい。加速電子線又はγ線の照射量は担体の性質、重合性モノマー(親水性モノマー及び疎水性モノマー)の性質、及びポリマーの固定量等により任意に変えることができるが、10kGyから200kGyが好ましい。水不溶性担体と重合性モノマーをグラフト重合させる方法としては、水不溶性担体と重合性モノマーの共存下で放射線を照射する同時照射法と、水不溶性担体のみに予め放射線を照射した後、重合性モノマーと水不溶性担体とを接触させる前照射法のいずれも使用可能であるが、前照射法が、グラフト重合以外の副反応を生成しにくいため好ましい。重合性モノマー濃度は通常1質量%以上20質量%以下、反応温度は5℃以上40℃以下の範囲で、重合性モノマーと水不溶性担体との反応を行うことができるが、この範囲に限定されるものではなく、適宜設定してよい。重合性モノマーと水不溶性担体との反応の際の溶媒は、無溶媒又は水、メタノール、エタノール、その他アルコール若しくはアセトン等の溶媒若しくはそれらの混合溶媒で、重合性モノマーが溶解、分散するものであれば用いることができる。また、放射線照射グラフト重合法を用いる場合、水不溶性担体への共重合体のグラフト率(G)は5%以上300%以下が好ましく、20%以上200%以下がさらに好ましく、50%以上150%以下が特に好ましい。グラフト率が5%未満であると、水不溶性担体表面のグラフト鎖による被覆が不十分となりやすく、水不溶性担体表面の改質が不十分となるおそれや、リガンド(抗体)の固定化量が不十分となるおそれがある。またグラフト率が300%を超えると、水不溶性担体自体の物理特性が失われるおそれがあり、分離材の設計上好ましくない。
【0043】
なお、ここにいうグラフト率(G)は、下記式(4)で表される値である。
G(%)=[(グラフト後水不溶性担体重量−グラフト前水不溶性担体重量)/(グラフト前水不溶性担体重量)]×100 (4)
【0044】
重合反応後は、過剰の重合性モノマーや連鎖移動反応によって生成したグラフトされていないポリマーを適当な溶剤にて十分洗浄除去すればよい。
【0045】
〔抗体固定化用基材〕
上述した水不溶性担体の少なくとも表面に上述したポリマーが結合した基材は、抗体(リガンド)固定化用基材として、好適に用いることができる。本実施形態に係る抗体固定化用基材は、疎水性ポリマーに由来する構造単位中の求電子官能基と抗体との間で共有結合させて抗体を固定することができる。
【0046】
求電子官能基としてエポキシ基を有する不織布型の抗体固定化用基材は、細胞選択分離材の製造には非常に有効である。グリシジルメタクリレートやその誘導体(エポキシ基とエステル基を結ぶメチレン基の数が2〜5のもの)を放射線照射グラフト重合法にて不織布(例えば、ポリエチレンやポリプロピレン不織布)へ固定化する方法でエポキシ基を導入したものは、これに抗体を固定化した場合は、抗体が有する本来の高いアフィニティーを問題なく発現して目的細胞を十分に捕捉する細胞選択分離材を得ることができる。
【0047】
〔抗体〕
本実施形態に係る選択的分離材に用いられる抗体は、求電子官能基と化学結合するものであれば特に制限されない。抗体としては、具体的には例えば、マウス抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体、ヤギ抗体、ラット抗体、ハムスター抗体、ブタ抗体、ウシ抗体及びヒト抗体並びにこれらのキメラ抗体を挙げることができる。また、抗体が有する重鎖又は軽鎖の可変領域の相補性決定領域を形成しうるアミノ酸配列を有するF(ab’)、Fab、Fab’、及びその他ペプチド又はその修飾ペプチド型のリガンドであってもよい。
【0048】
〔選択的分離材〕
図1は、一実施形態に係る選択的分離材の模式図である。図1に示す選択的分離材100は、水不溶性担体1と、水不溶性担体1の少なくとも表面に結合した、親水性モノマー及び疎水性モノマーの共重合体(ポリマー)2と、を備える。共重合体2は、ポリマー主鎖10の末端で水不溶性担体1と結合しており、選択的分離材100の表面に、親水性モノマーに由来する親水性基20及び疎水性モノマーに由来する求電子官能基30を呈している。求電子官能基30には、抗体40が結合している。
【0049】
図2は、他の実施形態に係る選択的分離材の模式図である。図2に示す選択的分離材110は、共重合体2と水不溶性担体1とが、ポリマー主鎖10に相当する部分を介して結合している。なお、共重合体2と水不溶性担体1との間の結合は、図1に示すようにポリマー主鎖10の末端を介する結合、又は図2に示すようにポリマー主鎖10の全体を介する結合のみならず、ポリマー主鎖10の一部を介して結合していればよい。
【0050】
本実施形態に係る選択的分離材は、単位表面積あたりの抗体の固定量が1.50mg/m以上であり、1.70mg/m以上であることが好ましく、2.00mg/m以上であることがより好ましい。固定量の上限には特に制限はないが、通常2.50mg/m以下である。本実施形態に係る選択的分離材は、抗体の化学固定率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。抗体の化学固定率は、選択的分離材を2%ドデシル硫酸ナトリウム(以下「SDS」という。)で洗浄する前後における単位表面積あたりの抗体の固定量から求めることができる。
【0051】
本実施形態に係る選択的分離材は、抗体配向性を示す抗Fab/抗Fc比率の値が6以上であり、6.5以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましい。抗Fab/抗Fc比率の値の上限には特に制限はないが、通常10以下である。なお、抗Fab/抗Fc比率の値は、選択的分離材への抗Fab抗体の結合量と、抗Fc抗体の結合量との比を意味しており、この値が大きいほど抗Fab抗体の結合量の方が多いことを意味している。すなわち、選択的分離材に固定された抗体のうち、抗原と結合可能なFab部分が基材表面から外へ向かう配向で固定された抗体の割合が高いことを意味している。
【0052】
本実施形態に係る選択的分離材は、血液又は血漿中のタンパク質、細胞(例えば、白血球及び血小板)を特異的に吸着して分離することができる。そのため、本実施形態に係る選択的分離材は、血液浄化用として、又は血液浄化用吸着材としても好適に使用することができる。
【0053】
〔選択的分離材の製造方法〕
本実施形態に係る選択的分離材の製造方法は、上述した抗体固定化用基材に対し、濃度が0.6M以上と高濃度のアンチカオトロピックイオンの存在下、かつ酸性pHの条件下で抗体を結合させる工程を少なくとも備える。抗体固定化用基材と抗体との結合は、疎水性ポリマーに由来する構造単位中の求電子官能基と抗体との間の共有結合により行われる。
【0054】
抗体を基材に固定化する方法として、抗体と基材(疎水性)との疎水性相互作用を高める目的でアンチカオトロピックイオン強度の高い塩が使用されることがある。例えば、非特許文献1では、エポキシ基への抗体固定の際に0.5M程度の比較的低濃度の硫酸アンモニウムが使用されている。また、特許文献5には、親水性ポリマーを含有した基材へ抗体を固定化させる方法として、1M程度のリン酸水素二カリウムを含有する溶液を使用することが記載されている。さらに、pHを下げることで、抗体のFc部の疎水度を高めることができるとの報告もある(Clinical Chemistry,36巻,492−496頁,1990年)。しかしながら、親水性ポリマーを高含有する基材への抗体の化学固定方法として、塩濃度を高める、又はpHを下げるだけでは十分量の抗体が化学固定できないという問題があった。
【0055】
一般的にタンパク質はpH及び塩の影響を受けやすい。例えば、pH3以下の緩衝液では抗体が変性してしまい、リフォールディングできなくなるとの報告がある(Clinical Chemistry,36巻,492−496頁,1990年)。また、硫酸アンモニウム等のアンチカオトロピックイオンとしての強度の強い塩は濃度を高めすぎると、タンパク質が凝集・変性してしまうおそれがある。このような背景から、リガンドの固定化は、中性条件又はアルカリ条件下で行われるのが一般的である。例えば、リガンドをエポキシ基へと固定化する場合は、中性〜アルカリ性条件下で行われるのが一般的であり、リガンドをチオール基又はアミノ基へと固定化する場合は、中性条件下で行われるのが一般的である。すなわち、酸性条件下での固定化は推奨されていないのが現状であり、抗体の固定化は、抗体が失活する可能性のある、高塩濃度かつ低pHの条件下では行われてこなかった。
【0056】
本実施形態に係る選択的分離材の製造方法によれば、親水性モノマーに由来する構造単位を高含有するポリマーへの化学固定量を増加させることができ、かつ抗体を配向よく固定化することが可能となる。この機構は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、以下のように考えている。すなわち、高濃度のアンチカオトロピックイオンの存在下で酸性pHの条件下で抗体固定化用基材と抗体との結合を行うことにより、抗体固定化用基材と抗体との疎水性相互作用が向上し、親水性モノマーに由来する構造単位を高含有するポリマーへの化学固定量を増加させることができる。さらに、高濃度のアンチカオトロピックイオン及び酸性pHの影響により抗体の構造の中でもFc部の疎水度を高めることができ、抗体を配向よく抗体固定化用基材へと固定化することができる。一方、特許文献5に記載の方法では、1M程度のリン酸水素二カリウムを含有する溶液がpH8〜9と高pHの溶液であり、基材と抗体の反応としては、ニトロフェニルエステル基と抗体のアミノ酸中のN末端、又はランダムに存在するリシン側鎖のアミノ基とが結合していると考えられる。したがって、特許文献5に記載の固定化方法では、抗体の配向は向上していない。
【0057】
<アンチカオトロピックイオン>
本実施形態に係る選択的分離材の製造方法では、高濃度のアンチカオトロピックイオンの存在下で抗体固定化用基材と抗体との結合を行う。
【0058】
アンチカオトロピックイオンは、一般に水分子との水素結合を強める作用を有しており、また疎水性相互作用を強化する作用がある。本実施形態に係る製造方法において、好適に使用することのできるアンチカオトロピックイオンとしては、例えば、PO3−、SO2−、CHCO、NH、K、Naが挙げられる。これらのアンチカオトロピックイオンは1種を単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
アンチカオトロピックイオンを生じるアンチカオトロピック塩としては、例えば、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸二カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素二カリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素二ナトリウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸二水素アンモニウム、硫酸二水素カリウム、硫酸二水素ナトリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸水素カリウム、酢酸水素二カリウム、酢酸水素ナトリウム、酢酸水素二ナトリウム、酢酸水素アンモニウム、酢酸二水素アンモニウム、酢酸二水素カリウム、酢酸二水素ナトリウム等が挙げられる。これらのアンチカオトロピック塩は1種を単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0060】
アンチカオトロピックイオンの濃度は、0.6M以上であることが好ましく、1M以上であることがより好ましい。また、アンチカオトロピックイオンの濃度の上限には特に制限はないが、通常2M以下である。
【0061】
<pH>
本実施形態に係る選択的分離材の製造方法では、酸性pH条件下で抗体固定化用基材と抗体との結合を行う。pHとしては、2.6〜6.0であることが好ましい。また、3.0〜5.0であることがより好ましく、3.0〜4.0であることが更に好ましい。
【0062】
〔血液処理器〕
本実施形態に係る血液処理器は、内部に血液を導入するための入口(導入口)と、内部の血液を外部に排出するための出口(導出口)とを有する容器と、容器の内部に充填された上記選択的分離材とを備えるものである。上記選択的分離材が選択的にターゲット成分を吸着することができるため、例えば、血液から特定の成分を除去する目的に好ましく利用することができる。具体的には、直接血液灌流用の血液成分吸着器や特異的細胞吸着器等が挙げられる。
【0063】
図3は、一実施形態に係る血液処理器の模式断面図である。血液処理器200は、容器50と、容器50の内部に充填された複数の選択的分離材120とを有する。容器50の両端部には、ヘッダーキャップ60a、60bが設けられている。ヘッダーキャップ60aは内部に血液を導入するための入口(導入口)となり、ヘッダーキャップ60bは血液を外部に排出するための出口(導出口)となる。ヘッダーキャップ60aの導入口より矢印Fの方向から血液処理器200の内部に流入した血液が、選択的分離材120と接することにより、抗体40の抗原となる血液中の成分が吸着する。これにより、ヘッダーキャップ60bの導出口から流出した際には血液中から上記成分が除去されている。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
[実施例1]
(A)方法
(1)γ線照射
担体としてポリプロピレンからなる不織布(平均繊維径3.8μm、目付80g/m)0.108mを脱酸素剤とともに酸素低透過性袋に封入し十分に酸素を除いた後、−78℃にて25kGyのγ線を照射した。
【0066】
(2)グラフト反応
N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(CMB)68.9g、及びグリシジルメタクリレート(GMA)21.1mLを400mLのメタノールに溶解し、40℃にて60分間窒素を通気した。
耐圧ガラス容器に上記の不織布をすばやく入れ、減圧後、上記の溶液を引き込み40℃にて1時間反応させた。反応後、取り出した不織布をジメチルホルムアミド及びメタノールにより洗浄し、40℃にて真空乾燥することでリガンド固定化用不織布(リガンド固定化用基材)を得た。
【0067】
(3)細胞吸着フィルター(選択的分離材)の作製
上記で得られたリガンド固定化用不織布を直径0.68cmの円形に切断した(以下、「円形不織布状基材A」という。)。次に、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(105.7mg)を溶解したクエン酸リン酸緩衝液(pH4.0)400μL(以下、「抗CD4溶液」という。)に、得られた円形不織布状基材A4枚を37℃にて16時間浸し、該モノクローナル抗体を円形不織布状基材Aに固定した。その後、このモノクローナル抗体を固定化した円形不織布状基材A(以下、「抗体固定化円形不織布A」という。)をカルシウム及びマグネシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩液(以下、「PBS(−)」という。)で洗浄した。次に、0.2%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート/PBS(−)溶液(以下、「Tween20溶液」という。)に該抗体固定化円形不織布Aを常温で2.5時間浸し、ブロッキングを行った。その後、該抗体固定化円形不織布AをPBS(−)2mlで洗浄することで、細胞吸着フィルターを作製した。
【0068】
(4)細胞吸着フィルターの洗浄
2%ドデシル硫酸ナトリウム/PBS(−)(以下、「SDS溶液」という。)により細胞吸着フィルター4枚を95℃で5分間浸した。これを2回繰り返した後、該細胞吸着フィルターをPBS(−)2mlで洗浄した。
【0069】
(5)細胞吸着器の作製
入口と出口を有する容量1mlの容器に、上記で得られた細胞吸着フィルター4枚と充填液としてPBS(−)溶液とを充填し、細胞吸着器を作成した。
【0070】
(6)細胞吸着器の細胞吸着性
上記で得られた細胞吸着器の入口から、ACD−A添加ヒト新鮮血液8ml(血液:ACD−A=8:1)をシリンジポンプにて流速0.2ml/分で送液した。細胞吸着器の出口から回収される細胞吸着後溶液を8mLずつ分取した。その後、細胞吸着器の出口から細胞吸着後の溶液を回収した。
【0071】
(7)配向評価用基材の作製
上記リガンド固定化用不織布を直径0.48cmの円形に切断した(以下、「円形不織布状基材B」という。)。次に、ヒトIgG(16μg)及び硫酸アンモニウム(105.7mg)を溶解したクエン酸リン酸緩衝液(pH4.0)400μL(以下、「IgG溶液」という。)に、得られた円形不織布状基材B8枚を37℃にて16時間浸し、該ヒトIgGを円形不織布状基材Bに固定した。その後、このヒトIgGを固定化した円形不織布状基材B(以下、「抗体固定化円形不織布B」という。)をPBS(−)で洗浄した。次に、0.2%Tween20溶液に該抗体固定化円形不織布Bを常温で2.5時間浸し、ブロッキングを行った。その後、該抗体固定化円形不織布BをPBS(−)2mlで洗浄することで、配向評価用基材を作製した。
【0072】
(B)結果
(1)X線光電子分光法(XPS)による表面解析
上記で得られたリガンド固定化用不織布の表面をX線光電子分光法(XPS ESCA)により解析した。XPSより得られる炭素、酸素及び窒素の各相対元素濃度をそれぞれC、C、Cとすると、基材表面に存在するCMB相対モル濃度(X)、GMA相対モル濃度(Y)、担体構成ポリマー相対モル濃度(Z)はそれぞれ下記式(1)から(3)で表される。
X=x/(x+y+z) (1)
Y=y/(x+y+z) (2)
Z=z/(x+y+z) (3)
ただし、x=C、y=(C−4x)/3、z={C−(10x+7y)}/Aであって、Aは担体構成ポリマーの単位炭素組成であり、例えば、ポリエチレンの場合A=2、ポリプロピレンの場合A=3である。
上記で得られる相対モル濃度より共重合ポリマー中のCMBのモル組成比Rは次式(4)で表される。
R=m/(n+m)=X/(X+Y) (4)
これらの計算式に基づき、CMBモル組成比Rを算出した結果、CMBのモル組成比Rは0.48であった。
【0073】
(2)比表面積測定
上記で得られたリガンド固定化用不織布の比表面積は自動比表面積/細孔分布測定装置(SHIMADZU社製 MICRIMERITICS TRISTAR 3000)を用いてBET法による多点法比表面積を測定した。その結果、比表面積は0.40m/gであった。
【0074】
(3)細胞吸着フィルターの抗体固定化量の定量
上記で得られた細胞吸着フィルターにおける抗ヒトCD4モノクローナル抗体の固定化量はBCAタンパク質定量試薬(PIERCE社製 Micro BCA(登録商標) Protein Assay Reagent Kit 23235)を用い、マイクロプレート分光光度計(Molecular Devices社製 SPECTRA MAX340PC、解析ソフトSOFT max PRO)によって吸光度測定を行い、定量した。その結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには1.85mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには1.65mg/mが固定化されており、化学固定率89.1%であった。
【0075】
(4)CD4陽性細胞除去率
フローサイトメーター(BECTON DICKINSON社製 FACSCALIBUR)を用いたフローサイトメトリー法によって、細胞吸着前のACD−A添加ヒト新鮮血液及び細胞吸着後の溶液中のCD4陽性細胞数を測定し、細胞吸着器への細胞の吸着率を計算した。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は98.3%であった。また血小板の回収率は94.7%であった。
【0076】
(5)配向評価用基材の抗体固定化量の定量
上記で得られた配向評価用基材におけるヒトIgGの固定化量の定量を、(3)細胞吸着フィルターの抗体固定化量の定量と同様に行った。その結果、洗浄前の配向評価用基材には1.63mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.57mg/mが固定化されており、化学固定率96.5%であった。
【0077】
(6)配向評価
上記配向評価用基材1枚にmonoclonal Antibody to IgG (Fab)(PE)conjufgated(Sigma社製)(以下、「抗Fab抗体」という。)0.1mg/ml溶液を、もう1枚にMonoclonal Antibody to Human IgG (Fc)−PE(sigma社製)(以下、「抗Fc抗体」という。)0.1mg/ml溶液を50μlずつ添加し、1時間遮光反応させた。その後、0.2%Tween20溶液にて1回、PBS(−)で3回洗浄した。二次抗体(抗PE抗体)を結合させ、二次抗体結合量を蛍光プレートリーダー(Biosearch社製 CytoFluor II)を用いた蛍光測定により定量した。その結果、配向評価基材へ固定化されたヒトIgGへの抗Fc抗体結合量に対する抗Fab抗体結合量の比率(抗Fab/抗Fc比率)は7.35であった。抗Fab/抗Fc比率が高い程、抗原と結合可能な配向で固定化されたヒトIgGの比率が高いことを意味している。
【0078】
[実施例2]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(52.9mg)を溶解したクエン酸リン酸緩衝液(pH3.0)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及び硫酸アンモニウム(52.9mg)を溶解したクエン酸リン酸緩衝液(pH3.0)400μlに代えたこと以外は実施例1と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには2.21mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには2.17mg/mが固定化されており、化学固定率98.1%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は96.9%であり、血小板の回収率は96.3%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には2.01mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.82mg/mが固定化されており、化学固定率90.4%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は7.23であった。
【0079】
[実施例3]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(105.7mg)を溶解したクエン酸リン酸緩衝液(pH3.0)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及び硫酸アンモニウム(105.7mg)を溶解したクエン酸リン酸緩衝液(pH3.0)400μlに代えたこと以外は実施例1と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには1.99mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには1.64mg/mが固定化されており、化学固定率82.4%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は93.1%であり、血小板の回収率は93.9%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には1.75mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.56mg/mが固定化されており、化学固定率89.2%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は7.10であった。
【0080】
[実施例4]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及びリン酸二水素カリウム(54.4mg)を溶解したクエン酸緩衝液(pH3.5)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及びリン酸二水素カリウム(54.4mg)を溶解したクエン酸緩衝液(pH3.5)400μlに代えたこと以外は実施例1と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには1.75mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには1.74mg/mが固定化されており、化学固定率99.5%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は98.5%であり、血小板の回収率は93.7%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には1.62mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.61mg/mが固定化されており、化学固定率99.2%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は8.21であった。
【0081】
[実施例5]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及びリン酸二水素カリウム(81.7mg)を溶解したクエン酸緩衝液(pH3.5)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及びリン酸二水素カリウム(81.7mg)を溶解したクエン酸緩衝液(pH3.5)400μlに代えたこと以外は実施例1と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには2.01mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには1.90mg/mが固定化されており、化学固定率94.7%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は96.3%であり、血小板の回収率は95.3%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には1.89mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.80mg/mが固定化されており、化学固定率95.1%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は7.24であった。
【0082】
[実施例6]
グラフト反応を下記方法により行ったこと、XPSによる表面解析を下記方法により行ったこと以外は実施例3と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
(グラフト反応)
スルホベタイン(SB)145.4g、及びグリシジルメタクリレート(GMA)26.3mLをメタノールに溶解し、500mLの反応液を得た。この反応液を用いて実施例1と同様の方法により、リガンド固定化用不織布(リガンド固定化用基材)を得た。
(XPSによる表面解析)
上記で得られたリガンド固定化用不織布の表面をXPS法により解析した。XPSより得られる炭素、酸素及び窒素の各相対元素濃度をそれぞれC、C、Cとすると、基材表面に存在するSB相対モル濃度(X)、GMA相対モル濃度(Y)、担体構成ポリマー相対モル濃度(Z)はそれぞれ下記式(5)から(7)で表される。
X=x/(x+y+z) (5)
Y=y/(x+y+z) (6)
Z=z/(x+y+z) (7)
ただし、x=C、y=(C−5x)/3、z={C−(11x+7y)}/Aであって、Aは担体構成ポリマーの単位炭素組成であり、例えば、ポリエチレンの場合A=2、ポリプロピレンの場合A=3である。
上記で得られる相対モル濃度より共重合ポリマー中のSBのモル組成比Rは次式(8)で表される。
R=m/(n+m)=X/(X+Y) (8)
これらの計算式に基づき、SBモル組成比Rを算出した結果、SBのモル組成比Rは0.40であった。
(細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価)
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには2.05mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには1.95mg/mが固定化されており、化学固定率95.0%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は90.2%であり、血小板の回収率は96.8%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には1.99mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.90mg/mが固定化されており、化学固定率95.3%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は6.12であった。
【0083】
[実施例7]
グラフト反応を下記方法により行ったこと、XPSによる表面解析を下記方法により行ったこと以外は実施例3と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
(グラフト反応)
ポリエチレングリコールモノメタクリレート(PEGMM)152.8g、及びグリシジルメタクリレート(GMA)26.3mLを500mLのメタノールに溶解し、反応液を得た。この反応液を用いて実施例1と同様の方法により、リガンド固定化用不織布(リガンド固定化用基材)を得た。
(XPSによる表面解析)
上記で得られたリガンド固定化用不織布の表面をXPS法により解析した。XPS解析では、まず、リガンド固定化用不織布表面のエポキシ基を開環させるため、リガンド固定化用不織布を2規定(2N)硫酸にて、50℃で10時間処理した後、エポキシ基開環前リガンド固定化用不織布とエポキシ基開環後リガンド固定化用不織布の表面を解析した。XPSより得られる炭素及び酸素の各相対元素濃度を測定し、エポキシ基開環前リガンド固定化用不織布の炭素及び酸素の各相対元素濃度をそれぞれC及びC、エポキシ基開環後リガンド固定化用不織布基材の炭素及び酸素の各相対元素濃度をそれぞれC及びCとすると、C+C=1、C+C=1である。また、基材表面に存在するPEGMM相対モル濃度(X)、GMA相対モル濃度(Y)はそれぞれ下記式(9)及び(10)で表される。
X=x/12 (9)
Y=C−C (10)
ただし、x=C−y、y=3(C−C)で表される。上記で得られる相対モル濃度より共重合ポリマー中のPEGMMのモル組成比Rは次式(11)で表される。
R=m/(n+m)=X/(X+Y) (11)
これらの計算式に基づき、PEGMMモル組成比Rを算出した結果、PEGMMのモル組成比Rは0.35であった。
(細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価)
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには2.20mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには2.05mg/mが固定化されており、化学固定率93.3%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は98.7%であり、血小板の回収率は92.1%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には1.81mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.79mg/mが固定化されており、化学固定率99.0%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は6.53であった。
【0084】
[実施例8]
グラフト反応を下記方法により行ったこと以外は実施例3と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
(グラフト反応)
N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン28.3g、及びグリシジルメタクリレート26.3mLを500mLのメタノールに溶解し、反応液を得た。この反応液を用いて実施例1と同様の方法により、リガンド固定化用不織布(リガンド固定化用基材)を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.30であった。また比表面積を測定したところ0.47m/gであった。
(細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価)
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには2.20mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには2.16mg/mが固定化されており、化学固定率98.0%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は98.1%であり、血小板の回収率は93.2%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には2.13mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.84mg/mが固定化されており、化学固定率86.3%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は6.51であった。
【0085】
[実施例9]
グラフト反応を下記方法により行ったこと以外は実施例3と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
(グラフト反応)
N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン43.1g、及びグリシジルメタクリレート26.3mLを500mLのメタノールに溶解し、反応液を得た。この反応液を用いて実施例1と同様の方法により、リガンド固定化用不織布(リガンド固定化用基材)を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.33であった。また比表面積を測定したところ0.53m/gであった。
(細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価)
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには2.22mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには2.14mg/mが固定化されており、化学固定率96.2%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は99.5%であり、血小板の回収率は98.3%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には2.07mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.84mg/mが固定化されており、化学固定率88.8%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は7.92であった。
【0086】
[実施例10]
グラフト反応を下記方法により行ったこと以外は実施例3と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
(グラフト反応)
N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン103.3g、及びグリシジルメタクリレート15.8mLを350mLのメタノールに溶解し、反応液を得た。この反応液を用いて実施例1と同様の方法により、リガンド固定化用不織布(リガンド固定化用基材)を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.56であった。また比表面積を測定したところ0.36m/gであった。
(細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価)
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには1.50mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには1.21mg/mが固定化されており、化学固定率80.4%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は99.3%であり、血小板の回収率は92.6%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の配向評価用基材には1.52mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.25mg/mが固定化されており、化学固定率82.3%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は8.37であった。
【0087】
[比較例1]
グラフト反応を下記方法により行ったこと、抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと以外は実施例1と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
(グラフト反応)
グリシジルメタクリレート26.3mLを500mLのメタノールに溶解し、反応液を得た。この反応液を用いて実施例1と同様の方法により、リガンド固定化用不織布(リガンド固定化用基材)を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0であった。また比表面積を測定したところ0.51m/gであった。
(細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価)
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには2.32mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには2.24mg/mが固定化されており、化学固定率96.4%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は69.7%であり、血小板の回収率は8.7%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には2.01mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.85mg/mが固定化されており、化学固定率92.0%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は3.17であった。
【0088】
[比較例2]
グラフト反応を下記方法により行ったこと以外は比較例1と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
(グラフト反応)
N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン21.5g、及びグリシジルメタクリレート26.3mLを500mLのメタノールに溶解し、反応液を得た。この反応液を用いて実施例1と同様の方法により、リガンド固定化用不織布(リガンド固定化用基材)を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.26であった。また比表面積を測定したところ0.50m/gであった。
(細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価)
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには1.43mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには1.26mg/mが固定化されており、化学固定率87.6%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は78.2%であり、血小板の回収率は50.5%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の配向評価用基材には2.03mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.72mg/mが固定化されており、化学固定率84.6%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は3.15であった。
【0089】
[比較例3]
グラフト反応を下記方法により行ったこと以外は実施例3と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
(グラフト反応)
N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン207.14g、及びグリシジルメタクリレート15.8mLを300mLのメタノールに溶解し、反応液を得た。この反応液を用いて実施例1と同様の方法により、リガンド固定化用不織布(リガンド固定化用基材)を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.63であった。また比表面積を測定したところ0.32m/gであった。
(細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価)
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには1.25mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには0.85mg/mが固定化されており、化学固定率68.0%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は75.8%であり、血小板の回収率は99.8%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の配向評価用基材には1.37mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には0.79mg/mが固定化されており、化学固定率57.7%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は8.52であった。
【0090】
[比較例4]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと以外は実施例1と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには0.95mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには0.66mg/mが固定化されており、化学固定率69.5%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は49.5%であり、血小板の回収率は95.4%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には0.87mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には0.63mg/mが固定化されており、化学固定率72.4%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は4.01であった。
【0091】
[比較例5]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したクエン酸リン酸緩衝液(pH3.0)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したクエン酸リン酸緩衝液(pH3.0)400μlに代えたこと以外は実施例1と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには1.33mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには0.52mg/mが固定化されており、化学固定率38.8%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は50.1%であり、血小板の回収率は100.0%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には1.15mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には6.58mg/mが固定化されており、化学固定率57.2%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は5.03であった。
【0092】
[比較例6]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(105.7mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及び硫酸アンモニウム(105.7mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと以外は実施例1と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには1.05mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには0.83mg/mが固定化されており、化学固定率79.0%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は64.2%であり、血小板の回収率は100.0%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には0.93mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には0.85mg/mが固定化されており、化学固定率91.4%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は4.92であった。
【0093】
[比較例7]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと以外は実施例9と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには1.13mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには0.81mg/mが固定化されており、化学固定率71.7%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は72.0%であり、血小板の回収率は76.5%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には1.05mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には0.94mg/mが固定化されており、化学固定率89.5%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は2.81であった。
【0094】
[比較例8]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと以外は実施例8と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには1.25mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには0.98mg/mが固定化されており、化学固定率78.4%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は78.2%であり、血小板の回収率は68.4%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には1.13mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には0.92mg/mが固定化されており、化学固定率81.4%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は2.20であった。
【0095】
[比較例9]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと以外は実施例6と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには0.72mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには0.62mg/mが固定化されており、化学固定率86.0%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は15.0%であり、血小板の回収率は85.2%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には0.35mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には0.14mg/mが固定化されており、化学固定率39.5%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は3.15であった。
【0096】
[比較例10]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及び硫酸アンモニウム(26.4mg)を溶解したPBS(−)(pH7.4)400μlに代えたこと以外は実施例7と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには0.28mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには0.28mg/mが固定化されており、化学固定率99.1%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は75.5%であり、血小板の回収率は98.4%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には0.50mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には0.30mg/mが固定化されており、化学固定率60.4%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は3.68であった。
【0097】
[比較例11]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び塩化ナトリウム(23.4mg)を溶解したクエン酸リン酸緩衝液(pH3.0)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及び塩化ナトリウム(23.4mg)を溶解したクエン酸リン酸緩衝液(pH3.0)400μlに代えたこと以外は実施例1と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには2.11mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには1.51mg/mが固定化されており、化学固定率71.3%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は95.1%であり、血小板の回収率は94.9%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の配向評価用基材には2.06mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.35mg/mが固定化されており、化学固定率65.3%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は5.61であった。
【0098】
[比較例12]
抗CD4溶液を、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び塩化ナトリウム(46.7mg)を溶解したクエン酸リン酸緩衝液(pH3.0)400μlに代えたこと、及び抗IgG溶液を、IgG(16μg)及び塩化ナトリウム(46.7mg)を溶解したクエン酸リン酸緩衝液(pH3.0)400μlに代えたこと以外は実施例1と同様の方法で、細胞吸着フィルター及び配向評価用基材の作製及び評価を行った。
細胞吸着フィルターの抗体固定化量を定量した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには2.15mg/m、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには1.42mg/mが固定化されており、化学固定率66.1%であった。
細胞吸着器への細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は98.4%であり、血小板の回収率は95.9%であった。
配向評価用基材の抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の配向評価用基材には1.94mg/m、SDS洗浄後の配向評価用基材には1.13mg/mが固定化されており、化学固定率58.2%であった。
配向評価用基材の配向評価の結果、抗Fab/抗Fc比率は5.79であった。
【0099】
実施例1〜10及び比較例1〜12の評価結果を下記表1にまとめた。
【表1】

【符号の説明】
【0100】
1…水不溶性担体、2…ポリマー(共重合体)、10…ポリマー主鎖、20…親水性基、30…求電子官能基、40…抗体、50…容器、60a、60b…ヘッダーキャップ、F…血液の流れ方向、100,110…特異的分離材、200…血液処理器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性担体と、該水不溶性担体の少なくとも表面に結合したポリマーと、該ポリマーに結合した抗体とを有し、
前記ポリマーが、親水性モノマー及び疎水性モノマーの共重合体であり、かつ前記親水性モノマーに由来する構造単位のモル組成比が、全構造単位に対して、0.30〜0.60であり、
前記抗体の単位表面積あたりの固定量が1.50mg/m以上であり、かつ抗体配向性を示す抗Fab/抗Fc比率の値が6以上である、特異的分離材。
【請求項2】
前記抗体の化学固定率が80%以上である、請求項1に記載の特異的分離材。
【請求項3】
前記親水性モノマーが、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、スルホベタイン及びポリエチレングリコールモノメタクリレートからなる群より選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の特異的分離材。
【請求項4】
前記疎水性モノマーが、下記一般式(1)で表される重合性モノマーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の特異的分離材。
【化1】


[一般式(1)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基を示す。]
【請求項5】
前記求電子官能基がエポキシ基である、請求項4に記載の特異的分離材。
【請求項6】
前記水不溶性担体が、多孔膜又は粒子である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の特異的分離材。
【請求項7】
血液の導入口及び導出口を有する容器と、
該容器の内部に充填された請求項1〜6のいずれか一項に記載の特異的分離材と、を備える、血液処理器。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の特異的分離材の製造における抗体固定化用基材の使用であって、
前記抗体固定化用基材が、水不溶性担体と、該水不溶性担体の少なくとも表面に結合したポリマーと、を有し、
前記ポリマーが、親水性モノマー及び疎水性モノマーの共重合体であり、かつ前記親水性モノマーに由来する構造単位のモル組成比が、全構造単位に対して、0.30〜0.60である、前記使用。
【請求項9】
水不溶性担体と、該水不溶性担体の少なくとも表面に結合したポリマーとを有する抗体固定化用基材に対し、濃度が0.6M以上のアンチカオトロピックイオンの存在下、酸性pHの条件下で抗体を結合させる工程を備え、
前記ポリマーが、親水性モノマー及び疎水性モノマーの共重合体であり、かつ前記親水性モノマーに由来する構造単位のモル組成比が、全構造単位に対して、0.30〜0.60である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の特異的分離材を製造する製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−71074(P2013−71074A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212918(P2011−212918)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】