説明

選択的S1P1レセプターアゴニストの投与法

【課題】選択的S1Pレセプターアゴニストの新規投与法の提供。
【解決手段】初期治療期の間においては、選択的S1Pレセプターアゴニストを、心臓の脱感作を惹起する用量、かつ心臓の脱感作を維持する投与頻度にて、さらなる急性の心拍数減少が起こらなくなるまで投与し、当該用量は標的用量未満であり、続いて選択的S1Pレセプターアゴニストの標的用量への用量漸増を行うように、選択的S1Pレセプターアゴニストを対象に投与する、選択的S1Pレセプターアゴニストの投与法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期治療期の間においては、選択的S1Pレセプターアゴニストを、心臓の脱感作を惹起する用量、かつ心臓の脱感作を維持する投与頻度にて、さらなる急性の心拍数減少が起こらなくなるまで投与し、当該用量は標的用量(Target dose)未満であり、続いて選択的S1Pレセプターアゴニストの標的用量への用量漸増を行うように、選択的S1Pレセプターアゴニストを対象に投与する、選択的S1Pレセプターアゴニストの投与法に関する。本発明はまた、本発明に従う投与のための、選択的S1Pレセプターアゴニストの異なる薬剤ユニットを含むキットであって、当該選択的S1Pレセプターアゴニストの標的用量未満の用量強度(dose strength)の1又は2以上のユニットが初期治療期用に提供され、そして当該選択的S1Pレセプターアゴニストの標的用量までのより高い用量強度の後続の薬剤ユニットが提供される、当該キットを提供する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、初期治療期における、又は、断薬後の投与の再開に際しての副作用を対象/患者において最小化する、選択的S1Pレセプターアゴニストの投与法を提供する。
【0003】
選択的S1Pレセプターアゴニストは、スフィンゴシン−1−ホスフェート−感受性ヒトG−タンパク質結合レセプターのS1P、S1P、S1P、S1P及びS1Pファミリーメンバーのうち、ヒトS1Pレセプターサブタイプを優先的に活性化する化合物である。S1Pレセプターアゴニストは、例えば、経口投与後に、ヒト又は動物の末梢血中の遊走リンパ球数を減少させ、従って、免疫系の不全に関連する種々の疾患の治療における可能性を有している。例えば、非選択的S1PレセプターアゴニストであるFTY720は、多発性硬化症患者における臨床的再燃率を減少させることが見出された(Kappos Lら、N Engl J Med. 2006 Sep 14、355(11):1124−40)。
【0004】
しかしながら、S1Pレセプターアゴニストは、げっ歯動物モデルにおいて心拍を減少させることが記述され、この効果は、IK,ACh 内向き整流電流(inward rectifier current)を増強し、そして洞房ペースメーカー(sinoatrial pacemaker)を遅延させる、心臓の洞結節組織におけるS1Pレセプターの活性化に関連付けられた(Hale JJら、Bioorg Med Chem Lett. 2004、14(13):3501−5;Buenemann Mら、J Physiol 1995、489:701−707;Guo Jら、Pflugers Arch 1999、438:642−648;Ochi Rら、Cardiovasc Res 2006、70:88−96)。さらに、非選択的S1PレセプターアゴニストであるFTY720は、ヒトにおいて心拍を減少させ(Koyrakh Lら、Am J Transplant 2005、5:529−536)、そしてこの文献は、非選択性S1Pレセプターアゴニストと比較し、S1P選択性化合物が、ヒトにおける心拍に対して弱い効果を有することを示唆している(Himmel HMら、Mol Pharmacol 2000、58:449−454;Peters SL、Alewijnse AE、Curr Opin Pharmacol. 2007、7(2):186−92;Fujishiro Jら、Transplantation 2006、82(6):804−12;Sanna MGら、J Biol Chem. 2004、279(14):13839−48)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の記述
化合物、(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン((R)−5−[3−chloro−4−(2,3−dihydroxy−propoxy)−benz[Z]ylidene]−2−([Z]−propylimino)−3−o−tolyl−thiazolidin−4−one)(以下、「化合物1」とも記載する。;化合物1の製造及びその医薬としての使用は、公開されたPCT出願、WO2005/054215に記載されている。)は、選択的S1Pレセプターアゴニストであり、そしてヒトに対し、5mg以上の用量を毎日繰り返して経口投与すると、末梢血リンパ球数の、一貫的、持続的かつ用量依存的減少を招く。しかしながら、驚くべきことに、選択的S1Pレセプターアゴニストである化合物1が、ヒトにおいて、一時的に心拍を減少させ、その効果は投与後1〜3時間後に最大になることが見出された。いくつかの個体においては、心電図(ECG)におけるPRインターバルの、同様に一時的な増大、及び関連した不規則な心拍(いわゆる、Wenckebachリズム)を伴う。投与後の期間には、倦怠感及びめまいも時折生じる。心拍及びリズム及び倦怠感/めまいに対する化合物1のこれらの急性的な効果は、10mgでは、20mgよりも軽度である。これらの効果のすべては、投与を繰り返すことにより減衰する。すなわち、5〜20mgの用量を2〜4日間、毎日経口投与すると、投与前の値と比較した急性の心拍数減少は、化合物1を投与してももはや観察されない。同様に、5〜20mgの用量の化合物1を毎日繰り返し経口投与すると、投与前の値と比較したECGのPRインターバルの一時的増大は観察されず、倦怠感やめまいも報告されない。心拍、房室伝導に対する効果又は倦怠感若しくはめまいは、深刻な副作用ではないにしても、望ましいものではなく、そしてこれらの効果を最小化する方法は、化合物1及び他の選択的S1Pレセプターアゴニストの許容性(tolerability)及び安全性を最大化し、そして投与開始の初期又は、断薬後の薬剤療法再開時の関連するモニターの必要性を最小化する上で価値あるものである。
【0006】
従って、本発明の主題は、記述した副作用の発生又は程度を最小化する、特に化合物1のような選択的S1Pレセプターアゴニストの投与法を提供する。本発明の投与法によれば、初期治療期の間においては、選択的S1Pレセプターアゴニストを、心臓の脱感作を惹起する用量、かつ心臓の脱感作を維持する投与頻度にて、さらなる急性の心拍数減少が起こらなくなるまで投与し、当該用量は標的用量未満であり、続いて選択的S1Pレセプターアゴニストの標的用量への用量漸増を行うように、選択的S1Pレセプターアゴニストを対象に投与する。本発明の投与法は、標的用量未満の用量にて心臓の脱感作を誘起し、持続させることができ、そのような投与法無しで標的用量を与えた場合に比べ、急性の心拍数減少が生じにくいという利点を有する。従って、本発明の投与法は、選択的S1Pレセプターアゴニストの投与の初期段階において、又は断薬後の薬剤療法再開に際し、対象/患者における副作用を最小化することにより許容性を改良する。
【0007】
初期治療期間における投与法の選択(すなわち、投与量及び投与頻度)は、初期投与量間の急性の心拍数減少の大きさの比較により、経験的に行うことができる。投与頻度は患者にとって好適なものであるべきであり、急性の心拍数減少の期間より長く、かつ心臓が脱感作から回復するのに必要な時間よりも短くあるべきである。このように経験的に選択された投与頻度は、いくつかの独立した過程の相対的速度定数を反映する:体内のS1Pレセプターアゴニストの濃度が脱感作に関連する濃度スレッショルドを超えるための速度定数;心臓の脱感作の速度定数;及び心臓の脱感作からの回復の速度定数。後二者の(心臓の脱感作及び脱感作からの回復の)速度定数は、これらの現象を引き起こす原因となる生物学的過程の固有の特性である。(濃度スレッショルドを超えるための)最初の速度定数は、S1Pレセプターアゴニストの薬物動態、すなわち、薬剤の吸収、分布、代謝及び排泄の速度により決定される。上記の3つの速度定数を考慮すると、適切な投与間隔の長さは、用量依存的であろう。
【0008】
例えば、20−mgの化合物1を、1日に1回、経口投与した場合、第一日に急性の心拍数減少が起こり、24時間後に2回目の20−mg用量を投与しても急性の心拍数減少は観察されない。脱感作は、この24−時間の投与間隔に渡って持続した。しかしながら、2回目の20−mg用量を、最初の投与から7日目に投与すると、第一日と同様の大きさの急性の心拍数減少が起こる。脱感作は、20mg用量のこの7日間の投与間隔に渡って持続しなかった。この例は、心臓の脱感作を持続させるためには、適切な投与間隔が必要であることを示す。
【0009】
i) 本発明は特に、医薬として使用するための選択的S1Pレセプターアゴニストに関し、上記使用において、選択的S1Pレセプターアゴニストは、初期治療期の間においては、心臓の脱感作を惹起する用量、かつ心臓の脱感作を維持する投与頻度にて、さらなる急性の心拍数減少が起こらなくなるまで投与され、当該用量は標的用量未満であり、続いて選択的S1Pレセプターアゴニストの標的用量への用量漸増を行うように、当該選択的S1Pレセプターアゴニストが対象(特にヒトである対象)に投与される。
【0010】
ii) さらなる態様において、本発明は、標的用量未満の初期用量が、標的用量よりも2−〜5−倍低い、態様i)に従う、医薬として使用するための選択的S1Pレセプターアゴニストに関する。
【0011】
iii) さらなる態様において、本発明は、標的用量未満の初期用量が、標的用量よりも5−〜16−倍低い、態様i)に従う、医薬として使用するための選択的S1Pレセプターアゴニストに関する。
【0012】
iv) さらなる態様において、本発明は、治療の最初の2〜4日間に、標的用量未満の用量を対象に投与する、態様i)〜iii)のいずれか1つに従う、医薬として使用するための選択的S1Pレセプターアゴニストに関する。
【0013】
v) さらなる態様において、本発明は、標的用量未満の用量を、1日に1回又は2回の投与頻度にて投与する、態様i)〜iv)のいずれか1つに従う、医薬として使用するための選択的S1Pレセプターアゴニストに関する。
【0014】
vi) さらなる態様において、本発明は、選択的S1Pレセプターアゴニストが、(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン又はその薬学的に許容される塩である、態様i)〜v)のいずれか1つに従う、医薬として使用するための選択的S1Pレセプターアゴニストに関する。
【0015】
vii) さらなる態様において、本発明は、医薬の製造における選択的S1Pレセプターアゴニストの使用に関し、当該医薬は、態様i)〜v)のいずれか1つに特定したように対象に投与される。
【0016】
viii) さらなる態様において、本発明は、選択的S1Pレセプターアゴニストが(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン又はその薬学的に許容される塩である、態様vii)に従う使用に関する。
【0017】
ix) 本発明はまた、
態様i)に従う投与のための、選択的S1Pレセプターアゴニストの異なる薬剤ユニットを含むキットであって、当該選択的S1Pレセプターアゴニストの標的用量未満の用量強度の1又は2以上のユニットが初期治療期用に提供され、そして当該選択的S1Pレセプターアゴニストの標的用量までのより高い用量強度の後続の薬剤ユニットが提供される、当該キットに関する。
【0018】
x) さらなる態様において、本発明は、選択的S1Pレセプターアゴニストが、(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン、又はその薬学的に許容される塩である、態様ix)に従うキットに関する。
【0019】
xi) さらなる態様において、本発明は、初期用量強度に比べて、2〜5倍高い用量強度の後続の薬剤ユニットが提供される、態様ix)又はx)に従うキットに関する。
【0020】
xii) さらなる態様において、本発明は、初期用量強度に比べて、5〜16倍高い用量強度の後続の薬剤ユニットが提供される、態様ix)又はx)に従うキットに関する。
【0021】
xiii) さらなる態様において、本発明は、標的用量未満の用量強度ユニットが、治療の最初の2〜4日間のために提供される、態様ix)〜xii)のいずれか1つに従うキットに関する。
【0022】
xiv) さらなる態様において、本発明は、標的用量未満の用量強度ユニットが、1日に1回又は2回の投与頻度で投与される、態様ix)〜xiii)のいずれか1つに従うキットに関する。
【0023】
xv) さらに、本発明はまた、選択的S1Pレセプターアゴニストを、態様i)〜v)のいずれか1つに特定するように対象に投与する、選択的S1Pレセプターアゴニストの投与方法に関する。
【0024】
xvi) さらなる態様において、本発明は、選択的S1Pレセプターアゴニストが、(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン、又はその薬学的に許容される塩である、態様xv)に従う方法に関する。
【0025】
本明細書の上記及び下記の部分において使用される一般的用語は、本開示の範囲内において、好ましくは下記の意味を有する:
本明細書で使用する「心臓の脱感作」という用語は、薬剤投与後の急性の心拍数減少の欠如を意味する。
【0026】
本明細書で使用する「急性の心拍数減少」という用語は、投与前の値、例えば1分当たり10又はそれ以上の拍数(bpm)からの心拍の減少を意味し、それは、薬剤投与後の数時間、例えば1〜3時間以内に最大になり、そして、その後、心拍は投与前の値に戻る。
【0027】
本明細書で使用する「標的用量」という用語は、標的末梢血リンパ球計数、例えば、1マイクロリットル当たり400−800のリンパ球を達成する、選択的S1Pレセプターアゴニストの用量を意味する。投与されるS1Pレセプターアゴニストの標的用量は、治療されるべき疾患の性質及び重篤度に依存する。
【0028】
標的用量への用量漸増は、1回又は数回の用量増大で達成することができる。例えば、化合物1の適切な投与計画は、5mg、p.o.(1日1回、3日間;初期治療期)、続いて10mg、p.o.(1日1回、3日間)への漸増、続いて1日1回、無期限の20mg、p.o.(標的用量)への漸増である。化合物1の適切な投与計画の別の例は、5mg、p.o.(1日1回、3日間;初期治療期)、続いて1日1回、無期限の20mg、p.o.(標的用量)への漸増である。
【0029】
本発明の選択的S1Pレセプターアゴニストは、S1P、S1P、S1P、S1P及びS1Pファミリーメンバーのうち、ヒトS1Pレセプターサブタイプを優先的に活性化する化合物であり、特に、他のファミリーメンバーに比べ、S1Pレセプターを、適切なアッセイにおいて少なくとも5倍活性化する能力を有する化合物である。S1Pレセプターアゴニスト活性を測定する適切なアッセイは、技術分野において既知である。特に、化合物のS1Pレセプターアゴニスト活性は、例えば、WO2007/080542にヒトS1Pレセプターについて記載されたGTPγSアッセイを用いて試験することができる。組み換えヒトS1P、S1P、S1P及びS1Pレセプターを発現するCHO細胞を用いて、同じアッセイを、他のS1Pファミリーメンバーに関して、化合物のアゴニスト活性を測定するために、用いることができる。
【0030】
本発明の好ましい選択的S1Pレセプターアゴニスト、それらの製造及び医薬として使用は、公開されたPCT出願、WO2005/054215、WO2005/123677、WO2006/010544、WO2006/100635、WO2006/100633、WO2006/100631、WO2006/137019、WO2007/060626、WO2007/086001、WO2007/080542、WO2008/029371、WO2008/029370、WO2008/029306、WO2008/035239、WO2008/114157及びWO2009/024905に開示されている。
【0031】
選択的S1Pレセプターアゴニスト及びそれらの薬学的に許容される塩は、医薬として、例えば経腸又は非経口投与のための医薬組成物の形態で使用することができ、活性化された免疫系と関連する疾患若しくは障害の予防及び/又は治療に適している。
【0032】
「薬学的に許容される塩」という用語は、無毒性の、無機若しくは有機酸及び/又は塩基付加塩を意味する。「Salt selection for basic drugs」、Int.J.Pharm.(1986)、33、201−217を参照してもよい。
【0033】
医薬組成物の製造は、いずれの当業者にもよく知られた様式で(例えば、Remington、The Science and Practice of Pharmacy、21st Edition(2005)、Part 5、「Pharmaceutical Manufacturing」[Lippincott Williams&Wilkinsにより出版]を見よ。)、選択的S1Pレセプターアゴニスト又はそれらの薬学的に許容される塩を、任意にその他の治療的に有益な物質と組み合わせて、適切な無毒の不活性な薬学的に許容される固体又は液体の担体材料及び必要に応じて、通常の薬学的アジュバントと共に、製剤投与形態とすることにより遂行することができる。
【0034】
選択的S1Pレセプターアゴニストを用いて治療及び/又は予防され得るような、活性化された免疫系と関連する疾患又は障害は、例えば、WO2005/054215に記載されている。
【0035】
選択的S1Pレセプターアゴニストを用いて治療及び/又は予防されるべき好ましい疾患又は障害は、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、角膜及び皮膚等の移植された臓器に対する拒絶反応;幹細胞移植によりもたらされる移植片対宿主病;関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病及び潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、乾癬、乾癬性関節炎、橋本甲状腺炎等の甲状腺炎、及びブドウ膜網膜炎を含む自己免疫症候群;鼻炎、結膜炎及び皮膚炎等のアトピー性疾患;喘息;I型糖尿病;リウマチ熱及び感染後糸球体腎炎を含む感染後自己免疫疾患;固形癌並びに腫瘍転移からなる群より選択される。
【0036】
選択的S1Pレセプターアゴニストを用いて治療及び/又は予防されるべき特に好ましい疾患又は障害は、腎臓、肝臓、心臓及び肺から選択される移植された臓器に対する拒絶反応;幹細胞移植によりもたらされる移植片対宿主病;関節リウマチ、多発性硬化症、乾癬、乾癬性関節炎、クローン病及び橋本甲状腺炎から選択される自己免疫症候群;及びアトピー性皮膚炎からなる群より選択される。非常に好ましくは、選択的S1Pレセプターアゴニストを用いて治療及び/又は予防されるべき疾患又は障害は、多発性硬化症及び乾癬から選択される。
【0037】
さらに、選択的S1Pレセプターアゴニストはまた、1又は数種の免疫調節剤と組み合わせて、本明細書で言及した疾患又は障害の予防及び/又は治療に有用である。本発明の好ましい態様によれば、当該薬剤は、免疫抑制薬、副腎皮質ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、細胞毒、接着分子阻害剤、サイトカイン、サイトカイン阻害剤、サイトカイン受容体アンタゴニスト及び組換えサイトカイン受容体からなる群より選択される。
【0038】
現在、化合物1は、3つの第1相試験においてヒトに投与されている。全部で85の対象が、75mgまでの単回投与及び40mgまでの複数回投与にて、最大限15日間、化合物1で治療されている。
【0039】
単回投与用量漸増(SAD)試験(AC−058−101)において、化合物1が、6人の健康男性対象(21−47歳)から成る6群に経口投与された。無作為二重盲検プラセボ対照試験デザインにて、1、3、8、20、50及び75mgの用量を、8対象から成る逐次群(sequential group)に投与した(6対象に活性薬剤、2対象にプラセボ)。20mgの用量を、絶食条件で1回、そして摂食条件で1回投与して、食事が化合物1の薬物動態に与える影響を評価した。ECGを記録し、臨床検査パラメーター、バイタルサイン(vital signs)、肺機能、神経学的評価(neurological assessments)(75−mg用量群において)、化合物1の血漿レベル及び末梢血リンパ球計数(トータル及びサブセット)を測定した。48人のすべての無作為化対象が評価可能であり、試験を中止又は中断した対象はいなかった。化合物1(n=36)で治療されたすべての対象が、薬物動態(PK)及び薬力学(PD)分析に加えられた。
【0040】
複数回用量漸増(MAD)試験(AC−058−102)のパートAにおいては、無作為二重盲検プラセボ対照試験デザインにて、5、10及び20mgの用量の化合物1を、1日に1回、7日間、健康男性及び女性対象(22−58歳、性比1:1)に経口投与した。各用量レベルにおいて、10人の対象から成る群を、無作為に化合物1(8)又はプラセボ(2)に割り当てた。パートAにおいては、30人のすべての無作為化対象が試験を最後まで終え、化合物1で治療された24人の対象が、PK分析に加えられた。
【0041】
MAD試験のパートBでは、化合物1の洞結節自動能及び房室−(AV−)伝導に与える初回投与効果を減少させるために、漸増スキームを実施した。化合物1による治療を、1日1回、10mgを4日間から始め、次いで、1日1回、20mgを4日間、そして1日1回、40mgを7日間とした。17人の対象(女性9名、男性8名、18−43歳)を無作為化した。13人の対象がactive treatmentを受け、4人の対象がmatching placeboを投与された。17人の対象のうち全部で15人が計画通りに試験を最後まで終えた。active treatmentの2人の対象について、副作用(一方のケースは、軽度の歯科感染及び口内浮腫であり、他方は、末梢血スミアにおける顆粒球の軽度の左へのシフトであったが、それは既にベースラインにおいて存在していた。)のため投与が中断された。40mgの化合物1で治療され、試験を最後まで終えた11人の対象は、化合物1のPK分析に加えられた。
【0042】
表1に、40mg投与群(AC−058−102、パートB)における、各漸増段階(第一日は10mg、第5日は20mg、そして第9日は40mg)後の、投与前に対する投与後2.5hにおける平均心拍(HR)減少を、漸増を行わない場合の第1日(AC−058−102のパートA、10及び20mg及びAC−058−101の50mg)におけるHR減少と比較して示す。
【0043】
【表1】

【0044】
40mg投与群(AC−058−102、パートB)における、投与前に対する投与後2.5hにおける平均HR減少は、第2、3及び4日(10mg)において、それぞれ2bpm、1bpm及び1bpmであり、そして第6、7及び8日(20mg)において、それぞれ4bpm、3bpm及び3bpmであった。
【0045】
試験のパートBの間に、一人の対象のみが、第一日における最初の10mg用量の化合物1の投与後に、一過性の一度AV−ブロックを報告したが、これは、化合物1の洞結節自動能及びAV−伝導両方に対する効果を漸増が減じることを示唆する。試験のパートBの間、2又は3度AV−ブロックは観察されなかった。パートBにおける複数回投与により、他のECG変動に対する関連のある効果は記録されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン(化合物1)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、前記化合物1又はその薬学的に許容される塩が対象へ、初期治療期の間において、経口で、標的用量未満である5−20mgが1日1回少なくとも2日間投与され、続いて経口で、1日1回少なくとも20mg投与される量である前記標的用量への用量漸増を1回又は数回の用量増大で行うように投与される、選択的S1Pレセプターアゴニスト薬。
【請求項2】
前記化合物1又はその薬学的に許容される塩が、初期治療期の間において、経口で、5−10mgが1日1回少なくとも2日間投与され、続いて経口で1日1回少なくとも20mg投与される量である前記標的用量への用量漸増を1回又は数回の用量増大で行うように投与される、請求項1に記載の選択的S1Pレセプターアゴニスト薬。
【請求項3】
(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン(化合物1)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、請求項1又は2に記載の投与が行われ、前記標的用量が経口で1日1回20−40mg投与される量である、選択的S1Pレセプターアゴニスト薬。
【請求項4】
(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン(化合物1)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の投与が行われ、前記初期治療期の間において、前記化合物1又はその薬学的に許容される塩が、2−4日間投与される、選択的S1Pレセプターアゴニスト薬。
【請求項5】
(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン(化合物1)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の投与が行われ、前記初期治療期の間において、前記化合物1又はその薬学的に許容される塩が、少なくとも4日間投与される、選択的S1Pレセプターアゴニスト薬。
【請求項6】
(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン(化合物1)又はその薬学的に許容される塩が、初期治療期の間において、経口で5mgが1日1回3日間投与され、続いて経口で1日1回3日間、10mgへの用量漸増を行うように投与され、続いて経口で1日1回20mg投与される量である前記標的用量への用量漸増を行うように投与される、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の選択的S1Pレセプターアゴニスト薬。
【請求項7】
(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン(化合物1)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の投与が行われ、活性化された免疫系と関連する疾患若しくは障害の予防及び/又は治療に用いられる、選択的S1Pレセプターアゴニスト薬。
【請求項8】
(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン(化合物1)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の投与が行われ、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、角膜及び皮膚等の移植された臓器に対する拒絶反応;幹細胞移植によりもたらされる移植片対宿主病;関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病及び潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、乾癬、乾癬性関節炎、橋本甲状腺炎等の甲状腺炎、及びブドウ膜網膜炎を含む自己免疫症候群;鼻炎、結膜炎及び皮膚炎等のアトピー性疾患;喘息;I型糖尿病;リウマチ熱及び感染後糸球体腎炎を含む感染後自己免疫疾患;固形癌並びに腫瘍転移、からなる群より選択される疾患若しくは障害の予防及び/又は治療に用いられる、選択的S1Pレセプターアゴニスト薬。
【請求項9】
(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン(化合物1)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の投与が行われ、腎臓、肝臓、心臓及び肺から選択される移植された臓器に対する拒絶反応;幹細胞移植によりもたらされる移植片対宿主病;関節リウマチ、多発性硬化症、乾癬、乾癬性関節炎、クローン病及び橋本甲状腺炎から選択される自己免疫症候群;及びアトピー性皮膚炎からなる群より選択される疾患若しくは障害の予防及び/又は治療に用いられる、選択的S1Pレセプターアゴニスト薬。
【請求項10】
(R)−5−[3−クロロ−4−(2,3−ジヒドロキシ−プロポキシ)−ベンズ[Z]イリデン]−2−([Z]−プロピルイミノ)−3−o−トリル−チアゾリジン−4−オン(化合物1)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の投与が行われ、多発性硬化症及び乾癬から選択される疾患若しくは障害の予防及び/又は治療に用いられる、選択的S1Pレセプターアゴニスト薬。

【公開番号】特開2012−25756(P2012−25756A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186874(P2011−186874)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【分割の表示】特願2011−500324(P2011−500324)の分割
【原出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(500226786)アクテリオン ファーマシューティカルズ リミテッド (151)
【氏名又は名称原語表記】Actelion Pharmaceuticals Ltd
【住所又は居所原語表記】Gewerbestrass 16,CH−4123 Allschwil,Switzerland
【Fターム(参考)】