説明

選択結合性物質固定化担体

担体の表面に選択結合性物質を固定化した選択結合性物質固定化担体であって、担体表面が、下記一般式(1)で表される構造単位を全モノマー単位の10%以上含有しているポリマーを有し、選択結合性物質は担体表面に生成したカルボキシル基との共有結合にて固定化されていることを特徴とする選択結合性物質固定化担体である。


(一般式(1)のR、R、Rは、アルキル基、アリール基もしくは水素原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、被検物質と選択的に結合する物質(本明細書において「選択結合性物質」)を固定化した担体に関する。
【背景技術】
各種生物の遺伝情報解析の研究が始められており、ヒト遺伝子をはじめとして、多数の遺伝子とその塩基配列、また遺伝子配列にコードされる蛋白質およびこれら蛋白質から二次的に作られる糖鎖に関する情報が急速に明らかにされつつある。配列の明らかにされた遺伝子、蛋白質、糖鎖などの高分子体の機能については、各種の方法で調べることができる。主なものとしては、核酸についてはノーザンハイブリダイゼーション、あるいはサザンハイブリダイゼーションのような、各種の核酸/核酸間の相補性を利用して各種遺伝子とその生体機能発現との関係を調べることができる。蛋白質については、ウエスタンハイブリダイゼーションに代表されるような、蛋白質/蛋白質間の反応を利用し蛋白質の機能および発現について調べることができる。
近年、多数の遺伝子発現を一度に解析する手法としてDNAマイクロアレイ法(DNAチップ法)と呼ばれる新しい分析法、ないし方法論が開発され、注目を集めている。これらの方法は、いずれも核酸/核酸間ハイブリダイゼーション反応に基づく核酸検出・定量法である点で原理的には従来の方法と同じであり、蛋白質/蛋白質間あるいは糖鎖/糖鎖間や糖鎖/蛋白質間のに基づく蛋白質や糖鎖検出・定量にも応用が可能ではある。これらの技術は、マイクロアレイ又はチップと呼ばれるガラスの平面基板片上に、多数のDNA断片や蛋白質、糖鎖が高密度に整列固定化されたものが用いられている点に大きな特徴がある。マイクロアレイ法の具体的使用法としては、例えば、研究対象細胞の発現遺伝子等を蛍光色素等で標識したサンプルを平面基板片上でハイブリダイゼーションさせ、互いに相補的な核酸(DNAあるいはRNA)同士を結合させ、その箇所を高解像度解析装置で高速に読みとる方法や、電気化学反応にもとづく電流値等の応答を検出する方法が挙げられる。こうして、サンプル中のそれぞれの遺伝子量を迅速に推定できる。
例えば、特表平10−503841号公報(特許請求の範囲)には、核酸を基板上に固定化するための技術として、スライドガラス等の平坦な基板の上にポリ−L−リジン、アミノシラン等をコーティングして、スポッターと呼ばれる点着装置を用い、各核酸を固定化する方法などが開示されている。
また、例えば、特開2001−108683号公報(特許請求の範囲および実施例)には、DNAチップに用いられる核酸プローブ(基板上に固定化された核酸)は、従来の数百〜数千塩基の長さのcDNAおよびその断片から、検出の際のエラーを下げることと、合成機で容易に合成できるという理由から、核酸プローブとしてオリゴDNA(オリゴDNAとは塩基数が10〜100塩基までのものをいう)を用いる方法が開示されている。この際、オリゴDNAとガラス基板とを共有結合にて、結合させている。
その他、DNAチップに用いるガラス以外の基板の材料としては、樹脂製の基板についていくつかの提案がある。例えば、特開2001−337089号公報(第17段落)には基板として、ポリメチルメタクリレートからなるポリマーについての記述がある。しかしながら、特開2001−337089号公報には具体的なDNAの固定化方法については何ら述べられていない。また、特開2003−130874号公報(第12段落)にも同様の記述があるが、具体的なDNAの固定化方法については何ら記述されていない。特開2002−71693号公報(第7段落)にはアクリル繊維などのニトリル基を有する繊維をアルカリ処理によってカルボキシル基を有する繊維に誘導し、このカルボキシル基とDNAなどを結合して固定化する方法が開示してある。しかし、アルカリ繊維はポリアクリロニトリルが主成分であるため、材料自体の自家蛍光が大きく基板としては不適であるとの問題点がある。さらに特開2002−71693号公報(第7段落)には、ポリメタクリレートをアクリル酸、メタクリル酸との共重合によってカルボキシル基を有する繊維に誘導し、このカルボキシル基とDNAとを結合する方法が開示してあるが、この方法では、基板(担体)表面のカルボキシル基の量が少なく、固定できるDNAの量が少なくなり、結果的にハイブリダイゼーションを示すシグナルが十分に得られないと言った問題点があった。
【発明の開示】
本発明が解決しようとする課題は次のようなものである。まず、平坦なガラスの基板にオリゴDNAを固定化した場合、以下のような問題点があった。すなわち、1)ハイブリダイゼーションを行った時、ガラスが親水的なので、プローブDNAを固定したスポット以外の部分にも非特異的に検体DNAが吸着し易く、スキャナーと呼ばれる装置で蛍光検出を行う際、この非特異的に吸着した検体をも検出し、ノイズが大きくなるという問題点と、2)ガラスが剛体のため、これに共有結合したオリゴDNAの空間的な自由度が妨げられるという推定理由から、検体DNAとのハイブリダイゼーション効率が低いので、シグナル強度が小さく、結果的にS/N比が十分でないといった問題があった。
本発明が解決しようとする課題は、樹脂製の基板に強固にかつ、ハイブリダイゼーション効率の良い状態でDNAを固定化した担体を提供するものである。さらには、上記のようなS/Nの悪化を防ぎ、検出感度の高い選択結合性物質が固定化された担体を提供するものである。
すなわち本発明は、選択結合性物質が固定化された担体であって、該担体の表面が低自家蛍光樹脂から成り、アルカリもしくは酸でこのポリマーの表面を処理し、カルボキシル基を生成してから選択結合性物質を固定化したことを特徴とする選択結合性物質固定化担体である。
また本発明は、担体の表面に選択結合性物質を固定化した選択結合性物質固定化担体であって、担体表面が、下記一般式(1)で表される構造単位を含有しているポリマーを有し、アルカリもしくは酸でこのポリマーの表面を処理してから選択結合性物質を固定化したことを特徴とする選択結合性物質固定化担体である。

(一般式(1)のR、R、Rは、アルキル基、アリール基もしくは水素原子を表す。)
本発明により、非特異的な検体の吸着が少なく、かつ、ハイブリダイゼーション効率が良好であり、結果的にS/N比が良好な選択結合物質が固定化された担体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、PMMA表面に選択結合性物質を固定化する際の反応スキーム示すための図、
図2は、本発明の担体の模式図、
図3は、本発明の担体の断面模式図、
図4は、マイクロアレイ突き当て用治具の例を示す図、
図5は、担体凹凸部の断面図、
図6は、支持体層と選択結合性物質固定化層を有する担体の概念図、
図7は、ガラス表面に選択結合性物質を固定化する際の反応スキームを示すための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の選択結合性物質の固定化担体について説明する。
本発明の選択結合性物質の固定化担体は、選択結合性物質を固定化するため、担体表面が低自家蛍光樹脂からなり、かつ、アルカリもしくは酸にて表面を処理し、カルボキシル基を生成することを特徴とする。ここで、低自家蛍光樹脂とは、Axon Instruments社のGenePix 4000Bを用いて、厚み1mmの清浄な平板を、励起波長532nm、フォトマルチプライヤーの設定ゲインを700、レーザーパワーを33%の条件で測定したとき、蛍光強度が1000以下であるものを言う。これを満たさない樹脂は、検出の際のS/Nが悪化するので、好ましくない。このような樹脂としては、例えば下記一般式(1)で表されるポリマーを挙げることができる。

また、本発明の選択結合性物質の固定化担体は、選択結合性物質を固定化するための担体表面が、下記一般式(1)で表される構造単位を含有しているポリマーを有する固体である。

(一般式(1)のR、R、Rは、アルキル基、アリール基もしくは水素原子を表す。)
前記ポリマーとしては、単独重合体あるいは共重合体が用いられる。前記ポリマーは、少なくとも一つのタイプのモノマーを原料に用いており、そのモノマーは、重合に関与し得る二重結合および重縮合に関与し得る官能基ならびに、ケトンもしくはカルボン酸またはそれらの誘導体の形態で存在する。また前記ポリマーは、一般式(1)の構造を有することがより好ましい。
なお、前記ポリマーが共重合体の場合、一般式(1)で表される構造単位を全モノマー単位の10%以上含有していることが好ましい。一般式(1)で表される構造単位の含有量が10%以上であると、後に説明するようなステップにて、表面に多くのカルボキシル基を生成でき、プローブ核酸を多く固定化できるので、結果的にS/N比がより向上する。
本発明において、ポリマーとは、数平均重合度が50以上のものを言う。このポリマーの数平均重合度の好ましい範囲は、100から1万である。特に好ましくは、200以上、5000以下である。なお、数平均重合度はGPC(ゲルパーメイションクロマトグラフ)を用い定法にてポリマーの分子量を測定することにより、容易に測定できる。
一般式(1)において、RおよびRはアルキル基、アリール基または水素原子を表し、それぞれ同一であっても異なっていても良い。前記アルキル基は直鎖状であってもまたは枝別れしていても良く、好ましくは1から20の炭素数を有する。前記アリール基は、好ましくは6から18、さらに好ましくは6から12の炭素数を有する。官能基XはO、NR、またはCHの中から任意に選ばれる。Rは前記RおよびRと同様に定義される官能基である。
前記各種のような官能基を含むポリマーで、好ましいものとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート(PEMA)またはポリプロピルメタクリレートのポリメタクリル酸アルキル(PAMA)等がある。これらの中で最も好ましいものは、射出成形やホットエンボス法にて成形が容易であり、かつ、比較的ガラス転移温度が高い点からポリメチルメタクリレートである。さらに、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸シクロヘキシルまたはポリメタクリル酸フェニル等も用いることができる。また、前記ポリマーの構成要素を組み合わせた、または前記ポリマーの構成要素に他の一種または複数種のポリマーの構成要素を加えた構造の、共重合体も用いることができる。前記他のポリマーとしては、ポリスチレン等がある。
共重合体の場合、各構成要素の比の範囲は、カルボニル基を含むモノマー、例えばメタクリル酸アルキルの割合は、10モル%以上が好ましい。こうすることにより、表面に多くのカルボン酸を生成できプローブ核酸を多く固定化できるので、結果的にS/N比がより向上するからである。ポリマーの構造単位のうち、より好ましい該モノマーの割合は50モル%以上である。
さらに本発明では、一般式(1)で表される構造単位を少なくとも1つ有するポリマーを有する担体に選択結合性物質を固定化するため、これにアルカリもしくは酸で前処理を施すことが必要である。こうすることにより、担体表面にカルボキシル基を形成させることができる。担体表面にカルボキシル基を生成する手段としては、アルカリ、酸などで処理する方法を単独で用いるだけではなく、温中での超音波処理、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ、放射線に担体を晒す方法などと組み合わせても良い。これらの方法の中でも、担体の損傷が少なく、また、容易に実施できるという点から温度を上げたアルカリ、もしくは酸に担体を漬け込んで表面にカルボキシル基を生成させることが好ましい。具体的な例としては、水酸化ナトリウムや硫酸の水溶液(好ましい濃度は、1N〜20N)に担体を漬け込み、好ましくは30℃から80℃の温度にして、1時間から100時間の間保持すればよい。
上記の方法にて、カルボキシル基が担体表面に生成したかどうかは、XPS(X線光電子分光法)にて確認できる。具体的には、フッ素を含むラベル化試薬(例えばトリフルオロエタノール)を用いてカルボキシル基をフッ素でラベル化する。そして、ラベル化後の試料でのC1s、F1sピーク面積強度に反応率を考慮して官能基量を推定することが可能である。さらに精度を上げるためには、トリフルオロエタノールで標識化された試料の表面のフッ素分布をTOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)で観察することにより、カルボキシル基が担体表面に生成しているかどうかを確認すればよい。
このようにカルボキシル基を担体の表面に生成すれば、これを足がかりに、担体側をビオチンもしくはアビチン修飾し、選択結合性物質をアビチンもしくはビオチン修飾して、アビチン・ビオチン相互作用にて選択結合性物質を担体に固定化する方法や、担体側をエチレンジアミン等のリンカーと反応させて、さらにこのリンカーと選択結合性物質を反応させ固定化することも考えられる。しかし、これらの方法では、2段階の反応を行うため、反応収率の関係から、担体に固定化できる選択結合性物質が少なくなりがちである。従って、担体のカルボキシル基と選択結合性物質との官能基とを直接反応させ、選択結合性物質を固定化することが好ましい。すなわち、担体表面のカルボキシル基と選択結合性物質のアミノ基や水酸基とを共有結合により固定化することが好ましい。一般的には、これらの結合の反応を助長するため、ジシクロヘキシルカルボジイミド、N−エチル−5−フェニルイソオキサゾリウム−3’−スルホナートなどの様々な縮合剤が用いられている。これらの中でも、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)は、毒性が少ないことや、反応系からの除去が比較的容易なことから、選択結合性物質と担体表面のカルボキシル基との縮合反応にはもっとも有効な縮合剤の1つである。その他、有望な縮合剤としては4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチル−モルホリニウムクロリド(DMT−MM)がある。これらEDCなどの縮合剤は、選択結合性物質の溶液と混ぜて使用しても良いし、カルボキシル基が表面に生成された担体を予めEDCの溶液に浸漬しておき、表面のカルボキシル基を活性化しておいても良い。
このような縮合剤を用い、担体表面のカルボキシル基と選択結合性物質のアミノ基とを反応させた場合は、アミド結合により担体表面と選択結合性物質が固定化されることになり、担体表面のカルボキシル基と選択結合性物質の水酸基とを反応させた場合は、エステル結合により担体表面と選択結合性物質とが固定化されることになる。選択結合性物質を含む試料を担体に作用させる際の温度は、5℃〜95℃が好ましく、15℃〜65℃が更に好ましい。処理時間は通常5分〜24時間であり、1時間以上が好ましい。なお、選択結合性物質を固定化するためのスキームを図1に示す。(図1中の1はPMMA基板を示し、2は選択結合性物質(DNA)を示す。)
前述した方法により、ポリマー表面に選択結合性物質を固定化することにより、スポット部分以外は、電荷がマイナスのカルボキシル基が存在しているので、検体(代表的なDNA)の非特異的な吸着を抑え、さらに、共有結合で強固に、かつ、高密度に選択結合性物質を固定化でき、さらに、ガラスに比べ、固定化された選択結合性物質の空間的な自由度が高いという推定理由のために、検体とのハイブリダイゼーション効率が高い担体を得ることができる。空間的な自由度が高い利点は、特に固定化されている選択結合性物質がオリゴDNAと呼ばれる塩基長が10塩基から100塩基のDNAとターゲットの場合に、検体とのハイブリダイゼーション効率が非常に向上するという優れた特性を与える。
ところで、一般式(1)で示されるような構造単位を含むポリマーで担体を作製する場合、ガラス、セラミック、金属などに比較し、射出成形方法やホットエンボス法などを用いることにより、微細な形状を設けた担体をより簡単に大量生産することが可能である。そこで、選択結合性物質が固定化される担体の形状について述べる。本発明の選択結合性物質が固定化される担体には凹凸部があり、凸部上面に選択性適合物質が固定化されていることが好ましい。このような構造を取ることにより、検出の際、後述のように非特異的に吸着した検体を検出することがないので、ノイズが小さく、結果的によりS/Nが良好な選択結合性物質物質が固定化された担体を提供することができる。そして、凹凸部の複数の凸部の高さに関しては、凸部の上面の高さが略同一であるであることが好ましい。ここで、高さが略同一とは、多少高さの違う凸部の表面に選択結合性物質を固定化し、これと蛍光標識した被検体とを反応させ、そして、スキャナーでスキャンした際、その信号レベルの強度差が問題とならない高さをいう。具体的に高さが略同一とは、高さの差が100μmより小さいことをいう。さらに本発明の担体には、平坦部が設けられていることが好ましい。具体例を図2、図3に示す。11が平坦部であり、かつ、12で示される凹凸部の凸部上面に選択結合性物質(例えば核酸)が固定化されている。そして、該凹凸部の凸部分の上面が実質的に平坦であることが好ましい。ここで凸部上面が実質的に平坦とは、50μm以上の凹凸がないことを意味する。さらに、凹凸部の凸部の上面の高さと平坦部分の高さが略同一である。ここで、平坦部と凹凸部との高さが略同一とは、スキャナーでスキャンした際、その信号レベルの低下具合が問題とならない高さをいう。具体的に高さの差が略同一とは、凹凸部凸部上面の高さと、平坦部の高さとの差が100μmより小さいことをいう。
すなわち、一般にマイクロアレイは、蛍光標識化された検体と担体に固定化された選択結合性物質とを反応させ、スキャナーと呼ばれる装置で蛍光を読みとることが一般的である。スキャナーは励起光であるレーザー光を対物レンズで絞り込み、レーザー光を集光する。この集光された光をマイクロアレイの表面に照射して、レーザー光の焦点をマイクロアレイ表面に合わせる。そして、この条件のまま、対物レンズもしくは、マイクロアレイ自体を走査することによりマイクロアレイから発生する蛍光を読み込むような仕組みとなっている。
このような、スキャナーを用いて本発明の凸部上面に選択結合性物質を固定化した担体をスキャンすると、凹凸部の凹部に非特異的に吸着した検体DNAの蛍光(ノイズ)を検出しがたいという効果を発揮する。この理由は、凸部上面にレーザー光の焦点が合っているため、凹部ではレーザー光がデフォーカスされるからである。逆に言えば、選択結合性物質が固定化された複数の凸部の内、最も高い凸部上面の高さと、最も低い凸部上面の高さの差が50μm以下であることが好ましい。なぜなら、凸部上面の高さにこれ以上のばらつきがあると、スキャナーの焦点深度の関係で正確な蛍光強度を測定できないことが起こりうるからである。
なお、選択結合性物質が固定化された複数の凸部の内、最も高い凸部上面の高さと、最も低い凸部上面の高さの差は、50μm以下であれば良いが、30μm以下であることがより好ましく、高さが同一であればなお好ましい。なお、本願でいう同一の高さとは、生産等で発生するばらつきによる誤差も含むものとする。
なお、選択結合性物質が固定化された複数の凸部とは、データとして必要な選択結合性物質(例えば核酸)が固定化された部分をいうのであって、ただ単にダミーの選択結合性物質を固定化した部分は除く。
また、一般にスキャナーの焦点を調整する方法は、以下の通りである。すなわち、スキャナーがマイクロアレイの表面に励起光の焦点を合わせる際には、マイクロアレイの隅で励起光の焦点を合わせるか、図4に示すように、治具にマイクロアレイを突き当て、レーザー光の焦点をマイクロアレイ表面に合わせる。そして、その条件のまま、マイクロアレイ全体をスキャンする。(図4中の13はマイクロアレイ、14は対物レンズ、15は励起光、16はマイクロアレイを治具に突き当てるためのバネを示す。)したがって、本発明の担体には、特に凹凸部と平坦部が設けられていることが好ましい。具体例を図2、図3に示す。11が平坦部であり、かつ、12で示される凹凸部の凸部上面に選択結合性物質(例えば核酸)が固定化されている。さらに、凹凸部の凸部の上面の高さと平坦部分の高さの差が50μm以下であることが好ましい。このようにしておけば、選択結合性物質が固定化された担体をスキャンする場合は、いったん平坦部の上面で励起光の焦点を合わせたり、平坦部を治具に突き当てることが可能である。すなわち、スキャナーの焦点合わせが容易になる。このようにして、平坦部で励起光の焦点を合わせるので、選択結合性物質が固定化された凸部の上面は、平坦であり、かつ、凸部上面の高さと平坦部の高さの差が50μm以下であることが好ましい。
凸部の上面の高さと平坦部の高さの差が50μmより大きいと、以下のような問題点が生じることがある。すなわち、励起光の焦点は平坦部の上面で調整されているので、凸部の上面の高さが異なると、凸部上面での励起光の焦点がぼやけてしまい、最悪の場合、選択結合性物質と検体が反応したことによる蛍光が全く検出されないことが起こりうる。同様なことは、凸部上面と高さが同じ平坦部が設けられていない場合でも起こりうる。
また、凸部の上面が平坦でない場合、凸部上面での励起光の焦点の大きさにばらつきが起き、結果的に1つの凸部上面内で検出された蛍光の強さにむらが発生する。こうなると、後の解析が困難となる。本願の場合は、上記のような問題は起きず、良好なシグナル(蛍光)を得ることが可能である。
なお、凸部の上面の高さと平坦部分の高さの差は、50μm以下であればよいが、30μm以下であることがより好ましく、凸部の上面の高さと平坦部分の高さが同一であればなお好ましい。なお、本願でいう同一の高さとは、生産等で発生するばらつきによる誤差も含むものとする。
また本発明では、平面状の担体に選択結合性物質を点着するのではなく、凹凸部分の凸部上面にのみ選択結合性物質を固定化している。したがって、凸部上面以外の部分に非特異的に検体試料が吸着しても、凸部上面以外の部分では、励起光の焦点がぼやけてるため、望まざる非特異的な吸着をした検体試料からの蛍光を検出することがない。このため、ノイズが小さくなり、結果的にS/Nが良くなるという効果を発揮する。
このような形状の担体を作製するためには、射出成型法を用いることが生産性を鑑みると好ましい。上記のような形状の担体を射出成型法により作製するためには、型が必要となが、この型の作製方法としては、LIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスで型を作製すれば、成形後の担体の離型が容易な型が作製可能であるので好ましい。
また、凸部の上面の面積は略同一であることが好ましい。このようにすることにより、多種の選択結合性物質が固定化される部分の面積を同一にできるので、後の解析に有利である。ここで、凸部の上部の面積が略同一とは、凸部の中で最も大きい上面面積を、最も小さい上面面積で割った値が1.2以下であることを言う。
凸部の上面の面積は、特に限定される物ではないが、選択結合性物質の量を少なくすることができる点とハンドリングの容易さの点から、4mm以下、10μm以上が好ましい。
凹凸部における凸部の高さとしては、0.01mm以上、1mm以下が好ましい。凸部の高さがこれより低いと、スポット以外の部分の非特異的に吸着した検体試料を検出してしまうことがあり、結果的にS/Nが悪くなることがある。また、凸部の高さが1mm以上であると、凸部が折れて破損しやすいなどの問題が生じる場合がある。
また、少なくとも凸部の側面に導電性材料が設けられていることが好ましい。こうすると、例えば、対抗電極を設け、対抗電極とこの導電性材料の間に電流、電圧を印加することにより核酸の場合であるとハイブリダイゼーションの高速化が可能となる。導電性材料がコートされる好ましい領域としては、凹部の全部、凸部の側面全部である。その例を図5に示す。(図5中の21は凸部上面、22は導電性膜、23は絶縁膜を示す。)印加する電圧の範囲としては、電流が流れる場合は、0.01V以上、2V以下の範囲が好ましい。特に好ましい範囲は、0.1V以上、1.5V以下である。これより、大きい電圧を印加すると水が電気分解をおこし、表面の選択結合性物質に悪影響を及ぼす場合がある。導電性材料の材質としては特に限定されないが、炭素、マグネシウム、アルミ、シリコン、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、錫、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、白金、金、ステンレスやこれらの混合物や導電性ポリマーが挙げられる。この中でも、白金、金、チタンが特に好ましく用いられる。これらの導電性材料の膜の作製方法としては、蒸着、スパッタ、CVD、メッキなどが挙げられる。
上記のように凸部に導電性材料をコートした場合は、凸部の上面以外はさらに絶縁材料の層を設けることが好ましい。絶縁材料の層があると、電流を流した場合凸部の上面にのみ被検体を引き寄せることが可能である。絶縁材料の材料としては、金属の酸化物(例えば、Al−O、SiO、TiO、VO、SnO、Cr−O、Zn−O、GeO、Ta、ZrO、Nb−O、Yなど)、窒化物(Al−N、Si、TiN、Ta−N、Ge−N、Zr−N、NbNなど)、硫化物(ZnS、PbS、SnS、CuS)、絶縁性のポリマーが挙げられる。
上述の方法により得られた選択結合性物質固定化担体は、選択結合性物質を固定した後、適当な処理をすることができる。例えば、熱処理、アルカリ処理、界面活性剤処理などを行うことにより、固定された選択結合性物質を変性させることもできる。
また、選択結合性物質固定化担体は、蛍光標識化された検体と担体に固定化された選択結合性物質とをハイブリダイゼーション反応させ、スキャナーと呼ばれる装置で蛍光を読みとることが一般的である。スキャナーは励起光であるレーザー光を対物レンズで絞り込み、レーザー光を集光する。しかし、担体表面から自家蛍光が生じる場合、その発光がノイズとなり検出精度の低下に繋がることがある。これを防ぐため一般式(1)の構造単位を有するポリマーに黒色を呈し、またレーザー照射により発光を生じない物質を含有させて表面を黒色にすることにより、担体自身からの自家蛍光を低減させることができるので好ましい。このような担体を用いることにより、検出の際、担体からの自家蛍光を低減できるのでよりノイズが小さく、結果的にS/N比が良好な選択結合性物質物質が固定化された担体を提供することができる。
ここで、担体が黒色とは、可視光(波長が400nmから800nm)範囲において、担体の黒色部分の分光反射率が特定のスペクトルパターン(特定のピークなど)を持たず、一様に低い値であり、かつ、担体の黒色部分の分光透過率も、特定のスペクトルパターンを持たず、一様に低い値であることをいう。
この分光反射率、分光透過率の値としては、可視光(波長が400nmから800nm)の範囲の分光反射率が7%以下であり、同波長範囲での分光透過率が2%以下であることが好ましい。なお、ここでいう分光反射率は、JIS Z 8722 条件Cに適合した、照明・受光光学系で、担体からの正反射光を取り込んだ場合の分光反射率をいう。
黒色にする手段としては、担体に黒色物質を含有させることにより達成しうるが、この黒色物質の好ましいものを挙げると、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、CoおよびCuの酸化物、Si、Ti、Ta、ZrおよびCrの炭化物などの黒色物質が使用できる。
これらの黒色物質は単独で含有させる他、2種類以上を混合して含有させることもできる。この中の黒色物質の中でも、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラックを好ましく含有させることができ、ポリマーに一様に分散しやすいことから特にカーボンブラックを好ましく用いることができる。
また、担体の形状としてガラス、金属などの熱変形をし難い材料からなる支持体層の上に、一般式(1)で表される構造単位を少なくとも1つ有するポリマーからなる選択結合性物質固定化層を設けると、熱や外力による担体の形状変化を防げることから好ましい。その他支持体層としては、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドなどの比較的高温に耐えられる樹脂などを用いても良い。この概念図を図6に示す。(2は選択結合性物質(DNA)、3は支持体層(ガラス)、4は選択結合性物質固定化層(PMMA)を示す。)支持体層としては、ガラスや、鉄、クロム、ニッケル、チタン、ステンレスなどの金属が好ましい。また、この支持体層と選択結合性物質固定化層との密着性を良くするため、支持体層の表面を、アルゴン、酸素、窒素ガスでのプラズマ処理やシランカップリング剤での処理を施すことが好ましい。このようなシランカップリング剤としては3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジメトキシメチルシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ジメトキシ−3−メルカプトプロピルメチルシランなどが挙げられる。支持体層の上に選択結合性物質固定化層を設ける手段としては、ポリマーを有機溶媒に溶解し、スピンコートやディッピングなどの公知の手段を用いることができる。より簡単には、支持体層に接着剤で貼り付けることもできる。
ここで、「選択結合性物質」とは、被検物質と直接的又は間接的に、選択的に結合し得る物質を意味し、代表的な例として、核酸、タンパク質、糖類及び他の抗原性化合物を挙げることができる。核酸は、DNAやRNAでもPNAでもよい。特定の塩基配列を有する一本鎖核酸は、該塩基配列又はその一部と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸と選択的にハイブリダイズして結合するので、本発明でいう「選択結合性物質」に該当する。また、タンパク質としては、抗体及びFabフラグメントやF(ab’)2フラグメントのような、抗体の抗原結合性断片、並びに種々の抗原を挙げることができる。抗体やその抗原結合性断片は、対応する抗原と選択的に結合し、抗原は対応する抗体と選択的に結合するので、「選択結合性物質」に該当する。糖類としては、多糖類が好ましく、種々の抗原を挙げることができる。また、タンパク質や糖類以外の抗原性を有する物質を固定化することもできる。本発明に用いる選択結合性物質は、市販のものでもよく、また、生細胞などから得られたものでもよい。「選択結合性物質」として、特に好ましいものは、核酸である。この核酸の中でも、オリゴ核酸と呼ばれる、長さが10塩基から100塩基までの核酸は、合成機で容易に人工的に合成が可能であり、また、核酸末端のアミノ基修飾が容易であるため、担体表面への固定化が容易となることから好ましい。さらに、20塩基未満ではハイブリダイゼーションの安定性が低いという観点から20〜100塩基がより好ましい。ハイブリダイゼーションの安定性を保持するため、特に好ましくは40〜100塩基の範囲である。
本発明の担体を用いた測定方法に供せられる被検物質としては、測定すべき核酸、例えば、病原菌やウイルス等の遺伝子や、遺伝病の原因遺伝子等並びにその一部分、抗原性を有する各種生体成分、病原菌やウイルス等に対する抗体等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの被検物質を含む検体としては、血液、血清、血漿、尿、便、髄液、唾液、各種組織液等の体液や、各種飲食物並びにそれらの希釈物等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。また、被検物質となる核酸は、血液や細胞から常法により抽出した核酸を標識してもよいし、該核酸を鋳型として、PCR等の核酸増幅法によって増幅したものであってもよい。後者の場合には、測定感度を大幅に向上させることが可能である。核酸増幅産物を被検物質とする場合には、蛍光物質等で標識したヌクレオチド三リン酸の存在下で増幅を行うことにより、増幅核酸を標識することが可能である。また、被検物質が抗原又は抗体の場合には、被検物質である抗原や抗体を常法により直接標識してもよいし、被検物質である抗原又は抗体を選択結合性物質と結合させた後、担体を洗浄し、該抗原又は抗体と抗原抗体反応する標識した抗体又は抗原を反応させ、担体に結合した標識を測定することもできる。
固定化物質と被検物質を相互作用させる工程は、従来と全く同様に行うことができる。反応温度及び時間は、ハイブリダイズさせる核酸の鎖長や、免疫反応に関与する抗原及び/又は抗体の種類等に応じて適宜選択されるが、核酸のハイブリダイゼーションの場合、通常、50℃〜70℃程度で1分間〜十数時間、免疫反応の場合には、通常、室温〜40℃程度で1分間〜数時間程度である。
【実施例】
本発明を以下の実施例によって更に詳細に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
参考例1
透明なポリメチルメタクリレート(PMMA)板((株)クラレ製;コモグラス押し出し板、厚さ1mm、平均分子量15万、すなわち数平均重合度1500)をエタノールと純水で十分に洗浄した後、10Nの水酸化ナトリウム水溶液に70℃で12時間浸漬した。次いで、純水、0.1N HCl水溶液、純水の順で洗浄した。このアルカリ処理を施した板と、アルカリ処理を施していない板とを試料とし、フッ素を含むラベル化試薬(トリフルオロエタノール)を用いて気相状態で試料表面のカルボキシル基をラベル化した。そして、単色化されたAl Kα1,2線(1486.6eV)を用い、X線径1mm、光電子脱出角90°の条件にて、XPS測定を行い、C1s、F1sピーク面積強度に反応率を考慮してカルボキシル基を推定した。その結果、カルボキシル基量は、アルカリ未処理の試料の場合0.0013(全炭素量中のカルボキシル基炭素の割合)、アルカリ処理を行った試料の場合0.0015であり、表面のカルボキシル基量が多くなっていることが認められた。
また、上記2つのトリフルオロエタノールによって表面のカルボキシル基をラベル化した試料表面のフッ素量と分布をTOF−SIMS(飛行時間型2次イオン質量分析)によって測定したところ、以下の結果が得られた。すなわち2つの試料で比較すると、水酸化ナトリウム処理品では未処理品よりも1969CFが強く、水酸化ナトリウム処理品では未処理品よりもカルボキシル基が多いことが認められた。具体的には、未処理品では、Fに相当する質量数19のイオンのカウント数は8000であったが、水酸化ナトリウム処理品では25000であった。また、CF3−に対応する質量数69のイオンのカウント数は、未処理品では1200であったが、水酸化ナトリウム処理品では、7000であった。さらに、TOF−SIMSにより両試料表面のフッ素の分布を2次元的に測定したところ、水酸化ナトリウム処理品では19のイオン像に局在した分布がみられた(30μm〜40μmφの円形や、30μm〜40μm幅の筋状にイオン強度の弱い領域がみられた)。上の結果から、アルカリ処理を行ったサンプルでは、表面のカルボキシル基が局在した分布を持っていることが推察される。一方、未処理品においては、19のイオン像に特に局在した分布は認められなかった。一方、メトキシ基によるものと思われる31CHのイオン像には2つの試料ともに局在した分布は特に認められなかった。
【実施例1】
(DNA固定化担体の作製)
透明なポリメチルメタクリレート(PMMA)板((株)クラレ製;コモグラス押し出し板、厚さ1mm、平均分子量15万、すなわち数平均重合度1500)を10Nの水酸化ナトリウム水溶液に65℃で12時間浸漬した。次いで、純水、0.1N HCl水溶液、純水の順で洗浄した。このようにして、板表面のPMMAの側鎖を加水分解して、カルボキシル基を生成した。なお、Axon Instruments社のGenePix4000Bを用いて、励起波長532nm、フォトマルチプライヤーのゲイン設定を700、レーザーパワーを33%の条件で測定したとき、この板(アルカリ処理無し)の自家蛍光強度は650であった。
(プローブDNAの固定化)
配列番号1(70塩基、5’末端アミノ化)、配列番号2(60塩基、5’末端アミノ化)、配列番号3(40塩基、5’末端アミノ化)、配列番号4(20塩基、5’末端アミノ化)のDNAを合成した。これら配列番号1から4のDNAは5’末端がアミノ化されている。
これらのDNAを、純水に0.27nmol/μlの濃度で溶かして、ストックソリューションとした。基板に点着する際は、PBS(NaClを8g、NaHPO・12HOを2.9g、KClを0.2g、KHPOを0.2g純水に溶かし11にメスアップしたものにpH調整用の塩酸を加えたもの、pH5.5)でプローブの終濃度を0.027nmol/μlとし、かつ、担体表面のカルボキシル基とプローブDNAの末端のアミノ基とを縮合させるため、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を加え、この終濃度を50mg/mlとした。そして、これらの混合溶液をおよそ200nl取り出して、これを基板に点着した。すなわち、4種類のプローブをPMMA基板の上にそれぞれ1箇所点着した。次いで、基板を密閉したプラスチック容器入れて、37℃、湿度100%の条件で20時間程度インキュベートして、純水で洗浄した。この反応スキームを図1に示す。
(検体DNAの調整)
検体DNAとして、上記DNA固定化基板とハイブリダイズ可能な塩基配列を持つ配列番号8のDNA(968塩基)を用いた。調整方法を以下に示す。
配列番号5と配列番号6のDNAを合成した。これを純水にとかして濃度を100μMとした。次いで、pKF3 プラスミドDNA(タカラバイオ(株)製品番号;3100)(配列番号7:2264塩基)を用意して、これをテンプレートとし、配列番号5および配列番号6のDNAをプライマーとして、PCR反応(Polymerase Chain Reaction)により増幅を行った。
PCRの条件は以下の通りである。すなわち、ExTaq 2μl、10×ExBuffer 40μl、dNTP Mix 32μl(以上はタカラバイオ(株)製 製品番号RR001Aに付属)、配列番号5の溶液を2μl、配列番号6の溶液を2μl、テンプレート(配列番号7)を0.2μlを加え、純水によりトータル400μlにメスアップした。これらの混合液を、4つのマイクロチューブに分け、サーマルサイクラーを用いてPCR反応を行った。これを、エタノール沈殿により精製し、40μlの純水に溶解した。PCR反応後の溶液の一部をとり電気泳動で確認したところ、増幅したDNAの塩基長は、およそ960塩基であり配列番号8(968塩基)が増幅されていることを確認した。
次いで、9塩基のランダムプライマー(タカラバイオ(株)製;製品番号3802)を6mg/mlの濃度に溶かし、上記のPCR反応後精製したDNA溶液にに2μl加えた。この溶液を100℃に加熱した後、氷上で急冷した。これらにKlenow Fragment(タカラバイオ(株)製;製品番号2140AK)付属のバッファーを5μl、dNTP混合物(dATP、dTTP、dGTPの濃度はそれぞれ2.5mM、dCTPの濃度は400μM)を2.5μl加えた。さらに、Cy3−dCTP(アマシャムファルマシアバイオテク製;製品番号PA53021)を2μl加えた。この溶液に10UのKlenow Fragmentを加え、37℃で20時間インキュベートし、Cy3で標識された検体DNAを得た。なお、標識の際ランダムプライマーを用いたので検体DNAの長さには、ばらつきがある。最も長い検体DNAは配列番号8(968塩基)となる。なお、検体DNAの溶液を取り出して、電気泳動で確認したところ、960塩基に相当する付近にもっとも強いバンドが現れ、それより短い塩基長に対応する領域に薄くスメアがかかった状態であった。。そして、これをエタノール沈殿により精製し、乾燥した。
この標識化された検体DNAを、1重量体積%BSA(ウシ血清アルブミン)、5×SSC(5×SSCとはNaClを43.8g、クエン酸3ナトリウム水和物22.1gを純水にとかし、1lにメスアップしたもの。またNaClを43.8g、クエン酸3ナトリウム水和物22.1gを純水にとかし、5lにメスアップしたものを1×SSCと表記し、これの10倍濃縮液を10×SSC、5倍希釈液を0.2×SSCと表記する。)、0.1重量体積%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、0.01重量体積%サケ精子DNAの溶液(各濃度はいずれも終濃度)、400μlに溶解し、ハイブリダイゼーション用の溶液とした。
(ハイブリダイゼーション)
上記で得られたプローブDNAを固定化した基板に上記検体DNAをハイブリダイゼーションさせた。具体的には、先に用意したプローブ核酸が固定化されている担体にハイブリダイゼーション用の溶液を10μl滴下し、その上にカバーガラスをかぶせた。また、カバーガラスの周りをペーパーボンドでシールし、ハイブリダイゼーションの溶液が乾燥しないようにした。これを、プラスチック容器の中に入れ、65℃、湿度100%の条件で10時間インキュベートした。インキュベート後、カバーガラスを剥離後に洗浄、乾燥した。
(測定)
ハイブリダイゼーションの有無を検出するために、ハイブリダイゼーション後の基板上の蛍光を蛍光顕微鏡(オリンパス光学)により観察した。全てのプローブ部分でハイブリダイゼーションを示す蛍光発光が観察された。また塩基数が40、60、70と増加するにつれてスポット上の蛍光とバックグラウンドの差が大きくなった。すなわち、プローブの塩基数が長くなるに従い、S/N比が向上した。
次いで、定量的な議論を行うために、DNAチップ用のスキャナー(Axon Instruments社のGenePix 4000B)に上記処理後の担体をセットし、レーザー出力33%、フォトマルチプライヤーのゲインを500にした状態で測定を行った。その結果を表1に示す。ここで、蛍光強度とはスポット内の蛍光強度の平均値であり、ノイズとはスポット周り(DNAが点着されていない部分)の蛍光強度の平均値とした。
比較例1
実施例1のような基板がPMMAではなく、ガラスの場合の実験を行った。
スライドガラスを10N NaOH水溶液に1時間浸漬したあと、純水で十分に洗浄した。ついで、APS(3−アミノプロピルトリエトキシシラン;信越化学工業(株)製)を2重量体積%の割合で純水に溶解した後、上記のスライドガラスを1時間浸漬し、この溶液から取り出した後に110℃で10分間乾燥した。このようにして、ガラスの表面にアミノ基を導入した。
ついで、5.5gの無水コハク酸を1−メチル−2−ピロリドン335mlに溶解させた。1Mの50mlのホウ酸ナトリウム(ホウ酸3.09gとpH調整用の水酸化ナトリウムを加えて、純水で50mlにメスアップしたもの。pH8.0)に上記コハク酸溶液に加えた。この混合液に上記のガラス基板を20分間浸漬した。浸漬後、純水で洗浄および乾燥した。このようにして、ガラス基板の表面のアミノ基と無水コハク酸を反応させて、ガラス表面にカルボキシル基を導入した。これをDNA固定化用基板として用いた。さらに、塩基配列1から4のDNAを実施例1と同様の手順で上記ガラス基板に固定化した。この反応スキームを図7に示す(図7中、2は選択結合性物質(DNA)、5はガラス基板を示す)。そして、実施例1と同様の手順でハイブリダイゼーションを行った。これを、実施例1と同様の条件で蛍光顕微鏡にて観察した。
蛍光顕微鏡にて観察したところ、ガラス基板においてもプローブ部分が40塩基以上の時に発光が観察された。しかし基板がPMMAの場合と比較して比較例の3つのガラス基板では蛍光強度は明らかに微弱であることが観察された。さらに定量的な議論を行うためにこれらの基板における発光強度をスキャナーにより測定した。その結果を実施例1と併せて表1に示す。表1の結果からガラス基板では蛍光が微弱であり、かつノイズも大きくS/N比が劣っていることがわかる。
また、その他の市販のアミノ基が導入されたスライドガラスを用い、上記と同様なスキームでDNAの固定化、ハイブリダイゼーションまで行った。用いたスライドガラスは、DNAマイクロアレイ用コートスライド硝子 高密度アミノ基導入タイプ(松浪硝子工業(株)製;製品番号SD00011)とMASコートスライドガラス(松浪硝子工業(株)製;製品番号S081110)を用いた。同様に測定した結果、これらのスライドガラスを用いても、基板をPMMAとした場合よりもS/N比が劣っていた。その結果を表1に示す。

比較例2
(スライドガラスの調整)
比較例1と同様に、3−アミノプロピルトリエトキシシランを用いてスライドガラスの表面にアミノ基を導入した。そして、比較例1と同様に無水コハク酸を用いて、スライドガラスの表面に、カルボキシル基を導入したあと、アセトニトリルで洗浄し、1時間減圧下で乾燥した。乾燥後の、末端にカルボキシル基が導入されたガラス基板を、EDC(955mg)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(575mg)のアセトニトリル(50ml)溶液に2時間浸し、アセトニトリルで洗浄し、1時間減圧下に乾燥し、N−ヒドロキシスクシンイミドがエステル結合にて表面に導入されているガラス基板を得た。
(DNAの固定化)
実施例1と同様の5’末端がアミノされたDNAを用い、0.1M炭酸緩衝液(pH9.3)に分散してなる水性液(DNAの濃度は0.027nmol/μl)200nlを、上記で得たガラス基板に点着した。直ちに、固定化後のガラス基板を25℃、湿度90%にて1時間放置した後、このガラス基板を0.1重量体積%SDSと2×SSCとの混合溶液で2回、0.2×SSC水溶液で1回順次洗浄した。次いで、上記の洗浄後のガラス基板を0.1Mグリシン水溶液(pH10)中に1時間30分浸積した後、蒸留水で洗浄し、室温で乾燥させ、DNA断片が固定されたガラス基板を得た。
(検出)
実施例1のハイブリダイゼーション実験と同様の手順、および検体DNAでハイブリダイゼーションを行った。結果を表2に示す。実施例1の基板がPMMAの場合と比較してS/N比は十分でないことがわかる。

【実施例2】
(DNA固定化担体の作製)
平均分子量が15万のPMMA中に3重量%の割合でカーボンブラックを混合して、キャスト法により、厚さ1mmの黒色基板を作製した。この黒色PMMA基板を10Nの水酸化ナトリウム水溶液に65℃で12時間浸漬した。これを、純水、0.1NのHCl水溶液、純水の順で洗浄した。なお、Axon Instruments社のGenePix4000Bを用いて、励起波長532nm、フォトマルチプライヤーの設定ゲインを700、レーザーパワーを33%の条件で測定したとき、この板(アルカリ処理無し)の自家蛍光強度は250であった。実施例1と同様のプローブDNAを4種類用い、同様な操作手順で、黒色化したDNA固定化担体を作製した。
別途同様な基板を作製して、この黒色基板の分光反射率と分光透過率を測定したところ、分光反射率は、可視光領域(波長が400nmから800nm)のいずれの波長でも5%以下であり、また、同範囲の波長で、透過率は0.5%以下であった。分光反射率、分光透過率とも、可視光領域において特定のスペクトルパターン(ピークなど)はなく、スペクトルは一様にフラットであった。なお、分光反射率は、JIS Z 8722の条件Cに適合した照明・受光光学系を搭載した装置(ミノルタカメラ製、CM−2002)を用いて、担体からの正反射光を取り込んだ場合の分光反射率を測定した。
(検体DNAの調整およびハイブリダイゼーション)
実施例1と同様の検体DNA調整法およびハイブリダイゼーション法により行った。
(測定)
実施例1と同じ条件で、スキャナーにより蛍光測定を行った。表3にスキャナーにより観察した結果を示す。実施例1と同様に塩基数が増加するにつれ蛍光強度が増加した。また、実施例1の結果と比較してバックグラウンドが減少した。このことより、基板を黒色にするとノイズが低減し、より、S/N比の向上が確認された。

【実施例3】
3−アミノプロピルトリエトキシシランが表面に導入されたスライドガラスを比較例1の手順で作製した。これに、クロロホルムに溶解したPMMAをスピンコートして、100℃で15分間、115℃で1時間保持して、支持体層(ガラス)/選択結合性物質固定化層(PMMA)から成る担体を作製した。なお、スピンコートされたPMMAの厚さは、およそ20μmであった。
次いで、この担体を10NのNaOHに10時間浸漬し、PMMAの表面にカルボキシル基を生成した。実施例1と同様に、プローブDNAの固定化、検体DNA調整、ハイブリダイゼーション、蛍光強度の測定を行った。そのところ、実施例1と同様な結果が得られた。なお、実施例1では、若干基板が反っていたが、本実施例の担体には、反りが見られなかった。
また、実施例2で用いた、カーボンブラックが分散したPMMAを同様にスピンコートしても、実施例2と同様な蛍光強度とノイズが得られ、この場合も担体の反りは見られなかった。
【実施例4】
PMMA表面のカルボキシル基生成の際、10NのNaOH水溶液を用いる代わりに、10Nの硫酸を用いた以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【実施例5】
スチレンとMMA(メタクリル酸メチル)との共重合体ポリマーを作製した。作製したポリマー組成は、MMAが10mol%、スチレンが90mol%であった。この共重合体の具体的な作製方法は、MMAとスチレンとを1:9(モル比)の割合で脱水トルエンに溶解した後、AIBN(アゾビスイソブチルニトリル)をMMAとスチレンを合わせたモル数の1/1000の割合で加え、窒素雰囲気下で60℃で1時間、65℃で3時間、90℃で20時間保持した。そして、エタノール沈殿、濾過により精製した。
精製したポリマーの組成はNMR(nuclear magnetic resonance)にて確認した。また、このポリマーの分子量をGPCで測定して、数平均重合度を算出したところ、1100であった。
ついで、精製したポリマーをキャスト法にて、厚さ1mm程度の板状とした。固定化するDNAを配列番号2のみとした以外は、実施例1と同様な実験を行った。そして、実施例1と同じ条件で、スキャナーにより蛍光測定を行った。その結果、蛍光強度は5200、ノイズは150であり、MMAの含有量が10%であっても、比較例1、比較例2と比べ、S/N比が向上できた。なお、Axon Instruments社のGenePix4000Bを用いて、励起波長532nm、フォトマルチプライヤーの設定ゲインを700、レーザーパワーを33%の条件でアルカリ処理を未実施の平板を測定したとき、この板の自家蛍光強度は750であった。
比較例3
ポリスチレンのホモポリマーを作製し、これをキャスト法にて厚さ1mm程度の板状とした。この板を用いて、実施例1と同様に実験を行ったが、プローブDNAと検体DNAとのハイブリダイゼーションを示す蛍光は全く観察されなかった。
【実施例6】
(DNA固定化担体の作製)
公知の方法であるLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスを用いて、射出成形用の型を作製し、射出成型法により後述するような形状を有するPMMA製の基板を得た。なお、この実施例で用いたPMMAの平均分子量は15万であり、PMMA中には1重量%の割合で、カーボンブラック(三菱化学製 #3050B)を含有させており、基板は黒色である。この黒色基板の分光反射率と分光透過率を測定したところ、分光反射率は、可視光領域(波長が400nmから800nm)のいずれの波長でも5%以下であり、また、同範囲の波長で、透過率は0.5%以下であった。分光反射率、分光透過率とも、可視光領域において特定のスペクトルパターン(ピークなど)はなく、スペクトルは一様にフラットであった。なお、分光反射率は、JIS Z 8722の条件Cに適合した照明・受光光学系を搭載した装置(ミノルタカメラ製、CM−2002)を用いて、担体からの正反射光を取り込んだ場合の分光反射率を測定した。
基板の形状は、大きさが縦76mm、横26mm、厚み1mmであり、基板の中央部分を除き表面は平坦であった。基板の中央には、直径10mm、深さ0.2mmの凹んだ部分が設けてあり、この凹みの中に、最上部の直径0.2mm、高さ0.2mmの凸部を64(8×8)箇所設けた。なお、凸部の最低部(凸部の根本)の直径は0.23mmと、凸部にテーパーを付け、射出成形後の基板の離型が容易となるようにした。凹凸部分の凸部上面の高さ(64箇所の凸部の高さの平均値)と平坦部分との高さの差を測定したところ、3μm以下であった。また、64個の凸部上面の高さのばらつき(最も高い凸部上面の高さと最も低い凸部上面との高さの差)、さらには、凸部上面の高さの平均値と平坦部上面の高さの差を測定したところそれぞれ3μm以下であった。さらに、凹凸部凸部のピッチ(凸部中央部から隣接した凸部中央部までの距離)は0.6mmであった。
上記のPMMA基板を10Nの水酸化ナトリウム水溶液に65℃で12時間浸漬した。これを、純水、0.1NのHCl水溶液、純水の順で洗浄し、基板表面にカルボキシル基を生成した。なお、Axon Instruments社のGenePix4000Bを用いて、本実施例で用いたカーボンブラック入りのPMMAの平板を、励起波長532nm、フォトマルチプライヤーの設定ゲインを700、レーザーパワーを33%の条件で測定したとき、この板の自家蛍光強度は250であった。
(プローブDNAの固定化)
そして、配列番号2(60塩基、5’末端アミノ化)のDNAを合成した。このDNAは5’末端がアミノ化されている。このDNAを、純水に0.27nmol/μlの濃度で溶かして、ストックソリューションとした。基板に点着する際は、PBS(pH5.5)でプローブの終濃度を0.027nmol/μlとし、かつ、担体表面のカルボキシル基とプローブDNAの末端のアミノ基とを縮合させるため、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を加え、この終濃度を50mg/mlとした。そして、これらの混合溶液をガラス製のキャピラリーに取り、顕微鏡下でこのプローブDNAをPMMA基板の凸部上の4箇所に点着した。次いで、この基板を密閉したプラスチック容器入れて、37℃、湿度100%の条件で20時間程度インキュベートして、その後純水で洗浄した。
(検体DNAの調整)
実施例1と同様に行った。
(ハイブリダイゼーション)
前述の(検体DNAの調整)で調整したDNA溶液を10μl取りだし、これに30μlの、1重量体積%BSA、5×SSC、0.1重量体積%SDS、0.01重量体積%サケ精子DNAの溶液を加え、トータルで40μlとした(すなわち、実施例1や2と比較すると、検体の濃度は1/4であるが、トータルの検体量は実施例1と同じとなる)。そして、これを前述したDNAが固定化された担体の凹凸部分に滴下して、注意深くカバーガラスをかぶせた。そして、カバーガラスの周りをペーパボンドでシーリングして、ハイブリダイゼーション溶液が乾かないようにした。すなわち、検体DNAの分子量を実施例1や比較例1と同じにした。これをプラスチック容器に入れて、湿度100%、温度65℃の状態で10時間インキュベートした。インキュベート後、カバーガラスを剥離して、洗浄・乾燥した。
(測定)
実施例1と同じ条件にて、スキャナーにより蛍光測定を行った。その結果を表4に示す。

これから、蛍光強度については実施例2とほぼ同一であるが、ノイズについては実施例2よりもさらに低下した。
【実施例7】
次いで、凸部の高さがばらついた場合について実験を行った。実施例6で用いたPMMAの射出成形品の凸部をラッピングペーパーで削り、凸部上面の高さに差を設けた。すなわち、他の凸部上面(基準となる凸部)よりも、30μm低い凸部(4箇所)がある担体(担体ア)、他の凸部上面よりも、50μm低い凸部(4箇所)がある担体(担体イ)をそれぞれ作製した。なお、これら担体の低い部分以外の凸部(基準となる凸部)上面の高さと、平坦部分の高さの差は3μm以下であった。実施例6と同様に、点着するプローブDNAの調整を行った。ついで、基準となる凸部上面に4箇所、低い凸部上面に4箇所にプローブDNA溶液の点着を実施例6と同様に行った。さらに、ハイブリダイゼーション用のDNAの調整、ハイブリダイゼーションの操作を実施例6と同様に行い、測定も実施例6と同様に行った。基準となる凸部上面の蛍光強度の平均値とその周りのノイズの平均値、高さが低い凸部上面の蛍光強度の平均値とその周りのノイズの平均値を表5に示す。

このように、凸部の高さにばらつき(50μm以下)があっても、比較例と比べると十分に大きなS/Nが得られていることがわかる。
【実施例8】
さらに、凸部上面と平坦部の差がある場合について検討した。実施例6で用いたPMMAの射出成形品の平坦部をラッピングペーパーで削り、平坦部上面と凸部上面の高さの差が30μm(担体ウ)、50μm(担体エ)の2種類の担体を作製した。すなわち、担体ウは凸部の高さが平坦部の高さより30μm高いことになる。実施例6と同様に、点着するプローブDNAの調整、凸部上面へのプローブDNA溶液の点着、ハイブリダイゼーション用DNAの調整、ハイブリダイゼーションの操作を行い、実施例6と同様に測定を行った。なお、上面にDNA溶液をスポットした凸部はそれぞれの基板について4カ所である。そして、DNAを点着したスポット(4カ所)の蛍光強度と、その周りのノイズ(4カ所)の平均値を求めた。その結果を表6に示す。

このように、平坦部上面と凸部上面との高さに差(50μm以下)があっても、比較例と比較するれば十分に大きなS/Nが得られていることがわかる。
【実施例9】
ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリフェニルメタクリレートの平板をキャスト法で作製し、これを10Nの水酸化ナトリウム水溶液に50℃で10時間浸漬した。次いで、純水、0.1N HCl水溶液、純水の順で洗浄した。このようにして、板表面のポリマーの側鎖を加水分解して、カルボキシル基を生成した。
プローブDNAの固定化(ただし固定化したプローブDNAは60塩基長のみである)、検体DNAの調整、ハイブリダイゼーション、測定を実施例1と同様に行った。その結果を表7に示す。

このように、比較例と比べると十分に大きなS/Nが得られていることがわかる。
【実施例10】
(DNA固定化担体の作製)
実施例6と同様の基板を作製した。ついで、この基板上にスパッタ法によりNi−Cr(組成はNiCr)を50nm作製した。別途、クロロホルム10mL中に上記基板(Ni−Cr膜は設けていない)を粉砕したものを1gの割合で溶かした溶液を用意した。そして、これをスピンコート法により塗布して、Ni−Cr膜上に黒色のPMMA膜からなる絶縁層を作製した。ついで、研磨機により、凸部上面の絶縁層、Ni−Cr膜を除去した後、65℃の10NのNaOH溶液に浸漬したあと、純水、0.1NのHCl水溶液、純水の順で洗浄した。そして、プローブDNAの固定化、検体DNAの調整は、実施例6と同様に行った。
(ハイブリダイゼーション)
カバーガラスにクロムを5nm、金を100nm蒸着した。これに金線をはんだで付けた。一方、先に用意した核酸が固定化されている担体の凹凸部分に、ハイブリダイゼーション用の溶液を50μl加え、カバーガラスの金の面が担体の凹凸部分に向くようにして、上記のカバーガラスをかぶせた。この時、担体の金とカバーガラスの金が電気的にショートしないように、高さ0.2mmのスペーサーを間に入れた。カバーガラスの周りをペーパーボンドでシールし、ハイブリダイゼーションの溶液が乾燥しないようにした。
ついで、担体のNi−Cr膜と電源の陽極が電気的に導通するように、金線および市販の銀ペーストを用いて接続し、カバーガラスの金(金線)を電源の陰極につないだ。これを65℃のオーブンに入れ15分間インキュベートした。そして、電源から1Vの電圧を5分間印加した後、オーブンから取りだし、カバーガラスを剥離後に洗浄、乾燥した。
その結果、実施例6と同様な結果が得られた。このように、ハイブリダイゼーション時間が短くとも、凸部の側面に電極を設けて電界を印可することによりハイブリダイゼーションの時間を短くできる。
比較例4
ポリアクリロニトリルを主成分とする1mm厚の板(三井化学(株)製 ゼクロン)を75mm×25mmの大きさに切断した。これを10NのNaOHに浸漬し、70℃で12時間放置した。これを洗浄後、実施例1と同様にプローブDNAの固定化(プローブDNAの塩基長は60塩基)、検体DNAとのハイブリダイゼーションとを行った。実施例1と同様に測定した結果、自家蛍光が大きく、検体とプローブとのハイブリダイゼーションの有無を検出することが不可能であった。これは、板自体が黄色みを帯びているいるため、自家蛍光が非常に大きいためである。なお、Axon Instruments社のGenePix4000Bを用いて、励起波長532nm、フォトマルチプライヤーの設定ゲインを700、レーザーパワーを33%の条件でアルカリ処理前の平板を測定したとき、この板の自家蛍光強度は30000と非常に大きかった。
比較例5
メチルメタクリレート(MMA)99重量部とメタクリル酸1重量部とを共重合した。これを精製した後、溶媒にとかし、ディッピング法によりPMMAからなる板の上に、このポリマーからなる膜を作製した。アルカリに浸漬することを省いたこと以外は、実施例1と同様にこの膜上でのプローブDNA(60塩基長)の固定化、検体DNAとのハイブリダイゼーションとを行い、実施例1と同様に測定を行った。その結果、シグナルは6000、ノイズは300であった。
【実施例11】
メチルメタクリレート(MMA)99重量部とメタクリル酸1重量部とを共重合した。これを精製した後、溶媒にとかし、ディッピング法によりPMMAの板の上に、この共重合ポリマーからなる膜を作製した。これを50℃で10時間アルカリに浸漬した以外は、実施例1と同様にこの膜上でのプローブDNA(60塩基長)の固定化、検体DNAとのハイブリダイゼーションとを行い、実施例1と同様に測定を行った。その結果、シグナルは15000、ノイズは150であった。比較例5より本実施例が優れている理由は、アルカリ処理を行うことにより、担体表面のカルボキシル基量が増えたためであると推定される。なお、メチルメタクリレート(MMA)99重量部とメタクリル酸1重量部とを共重合したポリマーからなる1mm厚の板をキャスト法により作製し、Axon Instruments社のGenePix4000Bを用いて、励起波長532nm、フォトマルチプライヤーの設定ゲインを700、レーザーパワーを33%の条件でアルカリ処理を未実施の平板を測定したとき、この板の自家蛍光強度は850であった。
比較例6
実施例1のアルカリ処理(水酸化ナトリウムに浸漬すること)を省いた以外は、同様な実験を行った。そのところ、ハイブリダイゼーションを示す蛍光は観察されなかった。これは、アルカリ処理品や酸での表面処理を行わないと、カルボキシル基が十分に生成されず、結果的に固定化されるプローブDNAが非常に少ないことが原因であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
本発明により、非特異的な検体の吸着が少なく、かつ、ハイブリダイゼーション効率が良好であり、結果的にS/N比が良好な選択結合物質が固定化された担体を提供することができる。
【配列表】




【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択結合性物質が固定化された担体であって、該担体の表面が低自家蛍光樹脂から成り、アルカリもしくは酸でこのポリマーの表面を処理してカルボキシル基を生成し、そして選択結合性物質を固定化したことを特徴とする選択結合性物質固定化担体。
【請求項2】
担体の表面に選択結合性物質を固定化した選択結合性物質固定化担体であって、担体表面が、下記一般式(1)で表される構造単位を含有しているポリマーを有し、アルカリもしくは酸でこのポリマーの表面を処理してから選択結合性物質を固定化したことを特徴とする選択結合性物質固定化担体。

(一般式(1)のR、R、Rは、アルキル基、アリール基もしくは水素原子を表す。)
【請求項3】
担体表面のポリマーをアルカリもしくは酸にて処理して、一般式(1)からなる構造単位の側鎖をカルボキシル基とし、このカルボキシル基と選択結合性物質の官能基とを結合することにより選択結合性物質が固定化されていることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項4】
担体表面のポリマーが一般式(1)の構造単位を全モノマー単位の10%以上含有していることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項5】
選択結合性物質のアミノ基もしくは水酸基と、担体表面のカルボキシル基との共有結合より、担体に選択結合性物質が固定化されていることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項6】
選択結合性物質が核酸である請求の範囲第1項または第2項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項7】
一般式(1)の構造単位を有するポリマーがポリメチルメタクリレートであることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項8】
担体表面が黒色であることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項9】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマーが、カーボンブラックを含有していることを特徴とする請求の範囲第8項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項10】
担体が少なくとも支持体層と選択結合性物質固定化層を有しており、選択結合性物質固定化層表面が上記一般式(1)で表される構造単位を有するポリマーを有し、かつ選択結合性物質は、選択結合性物質固定化層の表面と結合していることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項11】
支持体層がガラスまたは金属であることを特徴とする請求の範囲第10項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項12】
択結合性物質が固定化された担体であって、該担体には凹凸部が設けられており、選択結合性物質が凹凸部の複数の凸部の上面に固定化されていることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項13】
該凹凸部の凸部上面が実質的に平坦であり、選択結合性物質が固定化された凸部上面の高さが、略同一である請求の範囲第12項に記載に記載の選択結合性物質固定化坦体。
【請求項14】
該担体には平坦部が設けられていることを特徴とする請求の範囲第12項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項15】
選択性結合物質が固定化された複数の凸部の内、最も高い凸部の高さと、最も低い凸部の高さの差が50μm以下であることを特徴とする請求の範囲第12項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項16】
凹凸部の凸部の上面の高さと平坦部分の高さの差が50μm以下であることを特徴とする請求の範囲第14項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項17】
担体表面が黒色であることを特徴とする請求の範囲第12項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項18】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマーが、カーボンブラックを含有していることを特徴とする請求の範囲第17項に記載の選択結合性物質固定化担体。
【請求項19】
凸部の側面に導電性材料が設けられている請求の範囲第12項に記載の選択結合性物質固定化担体。

【国際公開番号】WO2004/102194
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506292(P2005−506292)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007060
【国際出願日】平成16年5月18日(2004.5.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】