説明

選択透過膜構造体の製造方法、選択透過膜構造体、及び空調システム

【課題】気体の選択透過性及びSPM、nSPMの除去機能を有し、且つ多種多様な用途に耐えうる強度を有する選択透過膜構造体の製造方法を提供すること。
【解決手段】補強用メッシュ材302と補強用メッシュ材302に積層された選択透過膜13aとを有する選択透過膜構造体40aの製造方法は、補強用メッシュ材302の開口302bに目留め材332を充填する工程と、開口302bに充填された目留め材332の体積を収縮させる工程と、目留め材332で覆われていない補強用メッシュ材302の露出部302cと、開口302bに充填された目留め材332の露出部332aと、を覆うように、選択透過材料13sから選択透過膜13aを形成する工程と、選択透過膜13aを形成した後に、補強用メッシュ材302の開口302bから目留め材332を除去する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択透過構造体の製造方法、選択透過膜構造体、及び空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、技術の進歩に伴い、例えば自動車等の気密性を高めることが難しかった空間においても気密性を高めることが可能となった。このような気密性の高い自動車に多くの乗員が長時間の乗車をした場合には、酸素濃度の低下や二酸化炭素濃度の上昇が起こり、乗員に頭痛や不快感をもたらすおそれがあるため、適度に外気を導入する必要がある。
【0003】
しかしながら、都会の道路や幹線道路等は粉塵等の汚染物質により汚染されているため、乗員の健康を考えると外気をそのまま車内に導入することは大きな問題であった。この問題を解決するための1つの方法としては、大気中の汚染物質、例えば浮遊物質を除去するためのフィルタを、外気導入のための取り入れ口に設置する方法がある。
【0004】
このようなフィルタとしては従来、不織布やメカニカルフィルタ等が用いられていた。また、特許文献1では、自動車全体の空調システムが提案されている。
【特許文献1】特開2004−203367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の不織布やメカニカルフィルタ等のフィルタでは、大気中の浮遊物質のうち粒径が10μm以下のもの(以下「SPM」という。)、特に粒径が100nm以下のもの(以下「nSPM」という。)を除去することが非常に困難であった。また、高分子材料からなる気体選択透過膜をフィルタに適用したとしても、SPM、nSPMの除去は可能であるものの、気体の透過性が不十分であり、外気を十分に導入する目的を達成することができないという問題があった。
【0006】
また、近年、自動車の気密性が高まっていることに伴い、上述のフィルタや気体選択透過膜を、空調システムのみならず自動車全体の多種多様な箇所に装備することが求められている。フィルタや気体選択透過膜を多種多様な箇所に装備するためには、フィルタや気体選択透過膜に対して、SPM、nSPMの除去機能および気体の透過性のみならず、多種多様な用途に耐えうる機械的強度を付与することも必要とされていた。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、気体の選択透過性及びSPM、nSPMの除去機能を有し、且つ多種多様な用途に耐えうる強度を有する選択透過膜構造体の製造方法、選択透過膜構造体、及び選択透過膜構造体を備える空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の選択透過膜構造体の第1の製造方法は、補強用メッシュ材の開口に目留め材を充填する工程と、開口に充填された目留め材の体積を収縮させる工程と、目留め材で覆われていない補強用メッシュ材の露出部と、開口に充填された目留め材の露出部と、を覆うように、選択透過材料から選択透過膜を形成する工程と、選択透過膜を形成した後に、補強用メッシュ材の開口から目留め材を除去する工程と、を備える。なお、本発明において、選択透過膜構造体とは、補強用メッシュ材と、補強用メッシュ材に積層された選択透過膜と、を有するものである。また、本発明において、「補強用メッシュ材の開口」とは、補強用メッシュ材の目に相当する。
【0009】
上記本発明においては、補強用メッシュ材の開口に目留め材を充填することによって、補強用メッシュ材が目留めされ、補強用メッシュ材に平滑な平面が形成される。よって、補強用メッシュ材の開口に目留め材を充填した後に選択透過材料から選択透過膜を形成することによって、選択透過材料が補強用メッシュ材の開口内に過度に(開口内を満たす程度に)進入することを防止でき、厚さが均一で表面が平滑な選択透過膜を形成することができる。
【0010】
また上記本発明においては、選択透過膜を形成した後に、補強用メッシュ材の開口から目留め材を除去することによって、補強用メッシュ材の開口に面する選択透過膜における気体の透過性を確保することができる。
【0011】
更に上記本発明においては、開口に充填された目留め材の体積を収縮させる際に目留め材の体積収縮率を調整できるため、目留め材の体積収縮に伴って補強用メッシュ材の開口内に形成される空間の容積を調整できる。よって、目留め材の体積収縮に伴って補強用メッシュ材の開口内に形成される空間に導入する選択透過材料の体積も調整できる。その結果、成膜後の選択透過膜の厚み、特に開口に面する位置における選択透過膜の厚みを調整することが可能となる。また、目留め材の体積収縮によって補強用メッシュ材の開口内に形成される空間に選択透過材料を導入すると、成膜後の選択透過膜に補強用メッシュ材がめり込んだ構造ができて、この構造がアンカー効果を奏し、選択透過膜を補強用メッシュ材に強固に密着させることができる。
【0012】
本発明の選択透過膜構造体の第2の製造方法は、補強用メッシュ材の開口に目留め材を充填する工程と、開口に充填された目留め材の露出部に、目留め材との接着性及び選択透過材料との接着性を共に有する中間層を形成する工程と、開口に充填された目留め材の体積を収縮させる工程と、目留め材で覆われていない補強用メッシュ材の露出部及び中間層を覆うように、選択透過材料から選択透過膜を形成する工程と、選択透過膜が形成された後に、補強用メッシュ材の開口から目留め材及び中間層を除去する工程と、を備える。
【0013】
上記第2の製造方法においては、上記第1の製造方法と同様の効果を奏することできる。さらに、上記第2の製造方法においては、目留め材と接着し、且つ選択透過材料とも接着性を有する中間層上で選択透過材料を膜状に成形するため、厚さが均一で表面が平滑な選択透過膜を形成することが容易となる。仮に、目留め材と接着し難い選択透過材料を用いて、補強用メッシュ材の露出部と、開口に充填された目留め材の露出部と、を直接覆うように選択透過膜を形成した場合、目留め材と選択透過材料が接着し難く、目留め材上において選択透過材料を膜状に成形し難い傾向があるが、上記第2の製造方法においては、目留め材と接着し、且つ選択透過材料とも接着性を有する中間層上で選択透過材料を成形するため、このような問題が発生しない。
【0014】
上記本発明においては、開口に充填された目留め材の体積を収縮させる工程において、目留め材の体積収縮に伴い目留め材に被覆されていた補強用メッシュ材の一部を露出させることによって、補強用メッシュ材の露出部を形成することが好ましい。
【0015】
目留め材は、それを乾燥させる処理等によって、容易に体積収縮する。よって、目留め材の体積収縮を利用すれば、補強用メッシュ材の露出部を容易に形成することができる。また、目留め材の体積収縮を利用すれば、選択透過膜の形成前の段階で、補強用メッシュ材の露出部を形成するために補強用メッシュ材を被覆する目留め材の一部を除去したり、目留め材の除去により補強用メッシュ材の表面を平坦化したりする工程が不要となる。
【0016】
本発明の選択透過膜構造体は、上記本発明の選択透過膜構造体の第1、2の製造方法のいずれかによって得られる選択透過膜構造体であって、選択透過膜を形成するための選択透過材料が、オルガノシロキサン骨格を有するポリマー(以下、場合により「シリコーン系ポリマー」ともいう。)に固形添加剤が分散されてなり、選択透過材料から形成される膜(選択透過膜)に酸素及び窒素を透過させた場合に、23±2℃、膜間の圧力差1.05〜1.20atmにおける酸素及び窒素の透過係数(cm3・cm・sec-1・cm-2・cmHg-1)の関係が下記式(1)で表され、補強用メッシュ材の開口径が選択透過膜の膜厚より大きく、補強用メッシュ材の開口率が30%以上であることを特徴とする。
【数1】



[式中、P(O)は酸素の透過係数、P(N)は窒素の透過係数を示す。]
【0017】
なお、本発明において、「固形添加剤」とは、常温常圧で固形の添加剤をいい、可塑剤やイオン性液体等の液状物質は含まれない。
【0018】
または、本発明の選択透過膜構造体は、上記本発明の選択透過膜構造体の第1、2の製造方法のいずれかによって得られる選択透過膜構造体であって、選択透過膜を形成するための選択透過材料が、シリコーン系ポリマーにイオン性液体を添加してなり、選択透過材料から形成される膜(選択透過膜)に酸素及び窒素を透過させた場合に、23±2℃、膜間の圧力差1.05〜1.20atmにおける酸素及び窒素の透過係数(cm3・cm・sec-1・cm-2・cmHg-1)の関係が下記式(1)で表され、補強用メッシュ材の開口径が前記選択透過膜の膜厚より大きく、補強用メッシュ材の開口率が30%以上であることを特徴とする。
【数2】



[式中、P(O)は酸素の透過係数、P(N)は窒素の透過係数を示す。]
【0019】
上記本発明の選択透過膜構造体が備える選択透過膜は、上述の選択透過材料(固形添加剤またはイオン性液体のいずれかと、シリコーン系ポリマーとを含む材料)から形成されるため、膜を透過する気体の流れにおいてクヌーセン流(Knudsen flow)が支配的となる。このような選択透過膜を備える選択透過膜構造体によれば、SPM、nSPM等の大気中の浮遊物質を除去することが可能であり、且つ気体の透過性を十分に確保することができる。
【0020】
なお、本明細書中において、「クヌーセン流(Knudsen flow)」とは、分子の動きが問題となるほどの希薄な気体の流れをいい(化学大辞典3、化学大辞典編集委員会編、縮刷版44頁参照)、ガスの透過速度がその分子量に依存するという特徴を有する。また、「クヌーセン流が支配的である」とは、ガスの透過速度がその分子量に依存するようになることをいう。また、「気体の透過性が十分である」とは、23±2℃、膜間の圧力差1.05〜1.20atmにおける酸素及び窒素の透過係数が8.0×10−8cm3・cm・sec-1・cm-2・cmHg-1以上、好ましくは1.0×10−7cm3・cm・sec-1・cm-2・cmHg-1以上であることをいう。また、本明細書中において、「SPM、nSPM等の大気中の浮遊物質を除去することが可能」とは、nSPMの遮断率が80wt%以上(好ましくは90wt%以上、より好ましくは99wt%以上)であることをいう。nSPMの遮断率が80wt%以上である場合には、当然に、nSPMよりも粒径の大きいSPM等の大気中の浮遊物質も遮断することができる。nSPMの遮断率は、例えば実施例に記載の方法により測定することができる。
【0021】
選択透過膜における気体の透過性を向上させるためには、選択透過膜を薄膜化する必要がある。しかし、選択透過膜を薄膜化するほど気体の透過性が向上する反面、膜強度が低下して、膜が破損し易くなる傾向がある。そこで、本発明では、選択透過膜を補強用メッシュ材に積層して選択透過膜構造体とすることによって、薄膜化された選択透過膜を補強することができる。このような選択透過膜構造体は多種多様な用途に耐えうる強度を有することができる。
【0022】
また、本発明では、選択透過膜の補強材として、開口径が選択透過膜の膜厚より大きく、開口率が30%以上である補強用メッシュ材を用いることによって、選択透過膜における気体の透過性及び選択透過膜構造体全体としての気体の透過機能を損なうことなく、選択透過膜を補強することが可能となる。このように、多孔質フィルムや不織布に比べて気体の透過性に優れる補強用メッシュ材を用いた選択透過膜構造体においては、多孔質フィルムや不織布で選択透過膜を補強した選択透過膜構造体に比べて、選択透過膜構造体全体としての気体の透過機能を向上させることができる。
【0023】
上記固形添加剤は、フィラー、導電性ポリマー、又はこれらの混合物であることが好ましい。フィラーは、膜における気体の透過性の更なる向上の観点から、シリカ系フィラーであることが好ましく、多孔質フィラーであることが特に好ましい。なお、固形添加剤がフィラーである場合において、以下の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たすことが好ましい。
(1)前記フィラーが、多孔質シリカ粒子であり、シリコーン系ポリマー100質量部に対して前記固形添加剤の添加量が25〜1560質量部である、
(2)前記フィラーが、平均粒径10〜120nmの、疎水性若しくは親水性表面を有する非多孔質シリカ粒子であり、シリコーン系ポリマー100質量部に対して前記固形添加剤の含有量が65〜3800質量部である、
(3)前記フィラーが、平均粒径10〜60nmの、親水性表面を有する非多孔質酸化チタン粒子であり、シリコーン系ポリマー100質量部に対する前記固形添加剤の含有量が330〜6400質量部である。
【0024】
上記導電性ポリマーとしては、ポリアニリン又は酸処理ポリアリニンを採用することもできる。ポリアニリン又は酸処理ポリアニリンは、シリコーン系ポリマーと同様に例えばトルエン等の溶媒に可溶である。このため、ポリアニリンを溶媒に溶解させることにより、シリコーン系ポリマーとの混合、分散を、容易かつ安定して行うことができる。
【0025】
本発明の空調システムは、空調対象空間への気体の供給及び/又は空調対象空間からの気体の排出が行われる選択透過膜構造体として、上記本発明の選択透過膜構造体を備える。これによれば、本発明の選択透過膜構造体を用いていることから、SPM、nSPM等の大気中の浮遊物質の空調対象空間への流入を防止することができ、且つ空調対象空間内にSPM、nSPM等の浮遊物質が存在する場合にはそれを除去することもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、気体の選択透過性及びSPM、nSPMの除去機能を有し、且つ多種多様な用途に耐えうる強度を有する選択透過膜構造体の製造方法、当該製造方法により得られる選択透過膜構造体、及び当該選択透過膜構造体を備える空調システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、場合により図面を用いて本発明の好適な一実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0028】
(選択透過膜構造体)
図1に示すように、本実施形態の選択透過膜構造体40aは、補強用メッシュ材302と、補強用メッシュ材302に積層された選択透過膜13aと、を有する。選択透過膜13aを形成するための選択透過材料は、シリコーン系ポリマーと添加剤(固形添加剤又はイオン性液体)とからなり、選択透過材料から形成される選択透過膜13aに酸素及び窒素を透過させた場合に、23±2℃、膜間の圧力差1.05〜1.20atmにおける酸素及び窒素の透過係数(cm3・cm・sec-1・cm-2・cmHg-1)の関係が下記式(1)で表される。また、補強用メッシュ材302の開口径302aは選択透過膜13aの膜厚13tより大きく、補強用メッシュ材の開口率は30%以上である。
【数3】



[式中、P(O)は酸素の透過係数、P(N)は窒素の透過係数を示す。]
【0029】
本実施形態の選択透過膜構造体40aが備える選択透過膜13aは、上述の選択透過材料から形成されるため、選択透過膜13aに気体を透過させた場合に、膜を透過する気体の流れにおいてクヌーセン流(Knudsen flow)が支配的となる。このような選択透過膜13aを備える選択透過膜構造体40aによれば、SPM等の大気中の浮遊物質を除去することが可能であり、且つ気体の透過性を十分に確保することができる。
【0030】
選択透過膜13aにおける気体の透過性を向上させるためには、選択透過膜13aを薄膜化する必要がある。しかし、選択透過膜13aを薄膜化するほど気体の透過性が向上する反面、膜強度が低下して、膜が破損し易くなる傾向がある。そこで、本実施形態では、選択透過膜13aを補強用メッシュ材302に積層して選択透過膜構造体40aとすることによって、薄膜化された選択透過膜13aを補強することができる。このような選択透過膜構造体40aは多種多様な用途に耐えうる強度を有することができる。
【0031】
選択透過膜13aの厚み13tは、0.1〜10μmであることが好ましく、1〜5μmであることがより好ましい。本実施形態の選択透過材料から形成される選択透過膜13aでは、その膜厚に関係なく、膜を透過する気体の流れにおいてクヌーセン流が支配的になるが、選択透過膜13aの厚み13tを0.1〜10μmとすることにより、選択透過膜13aの気体透過性と成膜性(選択透過膜13aの成膜の容易性)とを両立し易くなる。特に、選択透過膜13aの厚み13tを1〜5μmとすることにより、選択透過膜13aの気体透過量を充分に確保することができると共に、選択透過膜13aに欠点が生じ難く、且つ成膜し易くなる。
【0032】
補強用メッシュ材302は、これに積層される選択透過膜13aの気体透過性を低下させない程度の気体透過性能(気体透過量)を有することが好ましく、補強用メッシュ材302におけるO又はNのいずれかの気体透過量は、1.0×10−4cm・sec−1・cm−2以上であることが好ましく、1.0×10−2cm・sec−1・cm−2以上であることがより好ましい。このような補強用メッシュ材302としては、表1に示すスクリーンメッシュ材を用いることが好ましい。なお、表1には、本発明の選択透過膜構造体40aが備える補強用メッシュ材302の代わりに選択透過膜13aの補強材として用いることができる多孔質フィルム及び不織布も参考例として示す。ただし、本発明においては、選択透過膜13aの補強材として、多孔質フィルム及び不織布に比べて気体の透過性に優れる補強用メッシュ材302を用いる。
【0033】
【表1】



【0034】
<表1における気体透過量の測定条件>
温度 :23±2℃
膜の下流の圧力(全圧):約1atm
膜の上流の圧力(全圧):約1atm
膜間の圧力差(全圧) :0
膜の下流のO分圧(分圧):約19%(残りはN)
膜の上流のO分圧(分圧):約20.9%(残りはN)
膜間のO圧力差(分圧) :1.9%。
【0035】
本実施形態では、選択透過膜13aの補強材として、開口径302aが選択透過膜13aの膜厚13tより大きく、開口率が30%以上である補強用メッシュ材302を用いることによって、選択透過膜13aにおける気体の透過性及び選択透過膜構造体全体としての気体の透過機能を損なうことなく、選択透過膜13aを補強することが可能となる。このように、多孔質フィルムや不織布に比べて気体の透過性に優れる補強用メッシュ材302を用いた選択透過膜構造体40aにおいては、多孔質フィルムや不織布で選択透過膜13aを補強した選択透過膜構造体に比べて、選択透過膜構造体全体としての気体の透過機能を向上させることができる。
【0036】
(選択透過材料)
次に、本実施形態の選択透過膜構造体40aが備える選択透過膜13aを形成するための選択透過材料について詳説する。
【0037】
選択透過材料は、シリコーン系ポリマーに固形添加剤が分散されてなる選択透過材料、またはシリコーン系ポリマーにイオン性液体を添加してなる選択透過材料のいずれかである。これらの選択透過材料のいずれかから形成される選択透過膜13aに酸素及び窒素を透過させた場合に、23±2℃、膜間の圧力差1.05〜1.20atmにおける酸素及び窒素の透過係数(cm3・cm・sec-1・cm-2・cmHg-1)の関係が下記式(1)で表される。
【0038】
【数4】



[式中、P(O)は酸素の透過係数、P(N)は窒素の透過係数を示す。]
【0039】
以下、上記式(1)における酸素の透過係数を窒素の透過係数で除した値(P(O)/P(N):以下、「分離比α」ともいう。)が、0.94以上1未満である場合は、選択透過材料からなる膜(選択透過膜13a)を透過する気体の流れにおいてクヌーセン流が支配的であるということができる。上述のように「クヌーセン流」は、ガスの透過速度がその分子量に依存するような流れであるが、膜を透過する気体の流れが理想的なクヌーセン流である場合には、気体の透過係数Pはその分子量の平方根に逆比例する。例えば、透過するガス成分が酸素及び窒素である場合には、それらの分離比αは、下記式(2)で表されるように0.935となる。
【0040】
【数5】



[式中、P(O)及びP(N)はそれぞれ酸素及び窒素の透過係数を示し、M(O)及びM(N)はそれぞれ酸素及び窒素の分子量を示す。]
【0041】
これに対して、「溶解拡散流」と呼ばれる気体の流れがある。溶解拡散流とは、膜に対する気体の溶解度と膜内での気体の拡散係数との積に依存する流れをいい、一般にクヌーセン流に比べ膜中の気体の透過速度が遅い。従来のシリコーン系ポリマーを含有する膜においては、膜を透過する気体の流れにおいて溶解拡散流が支配的であり、酸素及び窒素の分離比αが1以上であることが知られている。
【0042】
これらのことから、本発明の選択透過膜構造体が備える選択透過膜においては、分離比α(P(O)/P(N))が上記式(1)で表されるものであることにより、膜を気体が透過する際にクヌーセン流が生じ、従来のものと比較して、気体の透過性が飛躍的に向上すると考えられる。
【0043】
上述の選択透過材料から形成される選択透過膜により、クヌーセン流が生じる理由は必ずしも明らかでないが、本発明者らの考えを、図2を用いて以下に説明する。図2は、上記選択透過材料から形成される選択透過膜13aの模式断面図である。
【0044】
選択透過材料がシリコーン系ポリマーと固形添加剤と含む場合、選択透過膜13aは、シリコーン系ポリマー321と固形添加剤323とから構成され、それらの境界(シリコーン系ポリマー321と固形添加剤323との界面)には、クヌーセン流を生じる空隙325(例えば1〜100nmの空隙)が存在する。シリコーン系ポリマー321と固形添加剤323との親和性が低いことに起因して空隙325が生じているものと考えられる。なお、固形添加剤323自身にも、クヌーセン流が生じる空隙が形成されていることが好ましい。
【0045】
このような選択透過膜13aにおいて、気体は、シリコーン系ポリマー321中を溶解拡散流により、空隙325中をクヌーセン流により透過する。また、固形添加剤323が多孔質体等のようにそれ自身が気体を通す性質を有するものであった場合には、気体が固形添加剤323中を透過することも考えられる。さらに、固形添加剤323同士が隣接する場合には、その隣接する固形添加剤323同士の界面に形成された空隙を気体がクヌーセン流により透過することも考えられ、シリコーン系ポリマー321中に空泡が存在する場合には、その空泡中を気体がクヌーセン流により透過することも考えられる。
【0046】
選択透過材料がシリコーン系ポリマーとイオン性液体とを含む場合、この選択透過材料から形成される選択透過膜13aによりクヌーセン流が生じる理由は必ずしも明らかでないが、イオン性液体がシリコーン系ポリマー中で分散状態で存在していることに起因するものと推察される。特に、選択透過材料を、固化するイオン性液体と有機溶剤を用いて製造する場合において、このような分散が顕著になる。すなわち、イオン性液体が不溶な有機溶媒を、シリコーン系ポリマー用の溶媒として用いると(イオン性液体はトルエン等の非極性有機溶媒には通常不溶である)、イオン性液体は、そのような溶媒に溶けたポリマー中で懸濁状態で分散・分離する。その状態で溶媒を揮発すると、分離した状態でシリコーン系ポリマー中にイオン性液体が固定される。その後、膜の温度をイオン性液体の融点以下にすることにより、イオン性液体が固化され、シリコーン系ポリマーとイオン性液体の界面及びイオン性液体内部に隙間を生じ、その隙間をガスが高速で流れていると考えられる。
【0047】
選択透過材料がシリコーン系ポリマーとイオン性液体と含む場合に選択透過材料から形成される選択透過膜13aによりクヌーセン流が生じる理由を、図2を用いて説明すると、選択透過膜13aは、シリコーン系ポリマー321とイオン性液体323とから構成され、それらの境界(ポリマー321とイオン性液体323との界面)には、クヌーセン流を生じる空隙325(例えば1〜100nmの空隙)が存在する。シリコーン系ポリマー321とイオン性液体323との親和性が低いことに起因して空隙25が生じているものと考えられる。
【0048】
このような選択透過膜13aにおいて、気体は、シリコーン系ポリマー321中を溶解拡散流により、空隙325中をクヌーセン流により透過する。また、イオン性液体323が多孔質体等のようにそれ自身が気体を通す性質を有するものであった場合には、気体がイオン性液体323中を透過することも考えられる。さらに、イオン性液体323同士が隣接する場合には、その隣接するイオン性液体323同士の界面に形成された空隙を気体がクヌーセン流により透過することも考えられ、シリコーン系ポリマー321中に空泡が存在する場合には、その空泡中を気体がクヌーセン流により透過することも考えられる。
【0049】
上述のように、選択透過材料がシリコーン系ポリマーと固形添加剤と含む場合、又は選択透過材料がシリコーン系ポリマーとイオン性液体と含む場合のいずれにおいても、本発明の選択透過材料から形成される選択透過膜13aでは、気体がクヌーセン流により透過する距離が溶解拡散流により透過する距離よりも長くなるため、気体の透過性が飛躍的に向上すると推察される。また、溶解拡散流により気体が透過する部分に関しては、SPM及びnSPMはブロックされるので、SPM、nSPM等の大気中の浮遊物質を除去することが可能となると考えられる。
【0050】
「シリコーン系ポリマー」としては、下記一般式(3),(4),(5)及び(6)で示されるシロキシ基(式中のRとしてはそれぞれ独立して炭素数1〜30までのアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、更にはハロゲン原子が置換した上述の置換基等が挙げられる。)から選択される1つ又は2つ以上で構成される、ポリオルガノシロキサン、又は、ポリオルガノシロキシ単位とシリコーン以外の有機ポリマーとの共重合体、例えば、シリコーン変性シクロオレフィンポリマー、シリコーン変性プルランポリマー(例えば、特開平8−208989号公報に記載のもの)及びシリコーン変性ポリイミドポリマー(例えば特開2002−332305号公報に記載のもの)が挙げられる。
SiO1/2 …(3)
SiO2/2 …(4)
RSiO3/2 …(5)
SiO4/2 …(6)
【0051】
「固形添加剤」は、フィラー、導電性ポリマー、又はこれらの混合物であることが好ましい。「フィラー」としては、有機物フィラー又は無機物フィラーを用いることができ、親水性表面を有する無機物フィラーが好ましい。このような無機物フィラーとしては、例えば、表面水酸基が存在するために親水性表面を有する、シリカ、ゼオライト、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム及び酸化亜鉛等の酸化物からなる酸化物系フィラーが挙げられる。これらの中で、シリコーン系ポリマーとのぬれ性の観点から、シリカ系フィラーが好ましい。シリカ系フィラーとしては、例えば、球状シリカ、多孔質シリカ(ゼオライト及びメソポーラスシリカを含む)、石英パウダー、ガラスパウダー、ガラスビーズ、タルク及びシリカナノチューブが挙げられる。
【0052】
なお、添加されるフィラーの表面は疎水化されていないことが好ましい。必要に応じて、カップリング剤等を用いた表面処理、又は水和処理による親水化を施したフィラーを用いてもよい。
【0053】
また、気体の透過性の観点から、フィラーは多孔質フィラーであることが好ましい。多孔質フィラーとしては、メソポーラスシリカ及びゼオライトが好ましい。フィラーの形状については、シリコーン系ポリマーとのぬれ性の観点から、表面の凹凸が実用上無視できるほど小さく、表面積が小さく、配向による特性に影響しない球状であることが好ましい。
【0054】
フィラーの粒径に関しては、選択材料から形成される膜の膜厚が薄くなる観点から、1nm〜100μmであることが好ましく、10nm〜10μmであることが特に好ましい。また、フィラーが疎水性若しくは親水性表面を有する非多孔質シリカ粒子である場合には、膜における気体の透過性の更なる向上の観点から、その平均粒径が10〜120nmであることが好ましく、10〜60nmであることがより好ましい。さらに、フィラーが親水性表面を有する非多孔質酸化チタン粒子である場合には、膜における気体の透過性の更なる向上の観点から、その平均粒径が10〜60nmであることが好ましい。
【0055】
このようなフィラーをシリコーン系ポリマーに添加する場合には、その添加量は、シリコーン系ポリマー100質量部に対して、1〜500質量部であることが好ましく、10〜300質量部であることがより好ましい。フィラーの添加量が1質量部未満である場合には、形成される膜の気体透過性を向上させる効果が得られ難くなる傾向にあり、500質量部を超える場合には、形成される膜の機械的強度が低下し、薄膜化し難くなる傾向にある。
【0056】
「導電性ポリマー」としては、例えば、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリチオフェン及びポリピロールが挙げられ、ポリアニリンが好ましい。ポリアニリンは、シリコーン系ポリマーに対する親和性が低く、且つ良溶媒がシリコーン系ポリマーと異なる。これにより、ポリアニリンとシリコーン系ポリマーとの間の空隙が大きくなり、気体の透過性が向上すると考えられる。
【0057】
導電性ポリマーは、気体の透過性の観点から、酸により処理した後に添加することが好ましい。ポリアニリン等の導電性ポリマーは、酸と接触すると、ロイコ−エメラルディン(Leuco−Emeraldine)塩及び/又はエメラルディン(Emeraldine)塩を形成し、シリコーン系ポリマーに対する親和性が著しく低下する。これにより、シリコーン系ポリマーと導電性ポリマーとの間の空隙がより大きくなり、気体の透過性が向上すると考えられる。添加する酸としては、塩酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、ビニルホスホン酸及びアクリル酸が挙げられる。
【0058】
このように酸により導電性ポリマーを処理する場合における酸の好ましい添加量は、シリコーン系ポリマーと導電性ポリマーとの組み合わせによって異なるが、導電性ポリマー100質量部に対して、0.5〜45.6質量部であることが好ましい。特に、シリコーン系ポリマーがシリコーン変性プルランポリマーであり、導電性ポリマーがポリアニリンである場合には、導電性ポリマー100質量部に対して0.9〜1.4質量部の2規定塩酸を添加することが好ましい。また、シリコーン系ポリマーがシリコーン変性シクロオレフィンポリマーであり、導電性ポリマーがポリアニリンである場合には、導電性ポリマー100質量部に対して4.6〜9.1質量部の2規定塩酸を添加することが好ましい。
【0059】
このような導電性ポリマー(導電性高分子であるポリアニリン(アルドリッチ社製、分子量:2万)をシクロへキサノンに溶解して固形分を2wt%に調整した溶液)をシリコーン系ポリマーに添加する場合には、その添加量は、シリコーン系ポリマー100質量部に対して、2.2〜80.0質量部であることが好ましく、5.0〜30質量部であることがより好ましい。導電性ポリマーの添加量が2.2質量部未満である場合には、形成される膜の気体透過性を向上させる効果が得られ難くなる傾向にあり、80.0質量部を超える場合には、形成される膜の気体透過性を向上させる効果が得られ難くなるとともに、成膜性が低下し、形成される膜の機械的強度が低下する傾向にある。
【0060】
「イオン性液体」は、アニオンとカチオンとから構成され、溶媒に溶解させることなく、それ自身が加熱分解しない領域で溶解するイオン性化合物である。イオン性液体におけるカチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、4級アンモニウムイオンが挙げられる。また、イオン性液体におけるアニオンとしては、例えば、Cl、Br、BF、PF、NO、CFSOが挙げられる。イオン性液体の具体例としては、下記式(A)で示される1-ethyl-4-methylimidazolium-nitrateや、下記式(B)で示される1-ethyl-4-methylimidazolium-phosphateが挙げられる。本発明の選択透過材料に添加するイオン性液体は、その融点が20(常温)〜100℃であると好ましく、40〜60℃であるとより好ましい。
【0061】
【化1】



【0062】
選択透過材料には、必要に応じて溶剤を添加してもよい。溶剤としては、例えば、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、N−メチルピロリドン(以下、「NMP」という。)、シクロヘキサン、シクロヘキサノンが挙げられる。溶剤の種類は、シリコーン系ポリマーの種類に応じて選択することができ、例えば、シリコーン変性プルランポリマーである場合には、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、NMP等を用いることができる。また、ポリアニリン等の導電性ポリマーを添加する場合には、シリコーン系ポリマーと導電性ポリマーとを別々の溶媒に溶解させた後に混合することが好ましい。例えば、シリコーン系ポリマーをトルエンに、ポリアニリンをシクロヘキサノンにそれぞれ溶解させた後に混合することが好ましい。
【0063】
選択透過材料は、必要に応じて混合されていてもよい。例えば、シリコーン系ポリマーがペレット状である場合には、押出機やニーダー等を用いて他の成分と混合させてもよい。また、シリコーン系ポリマーが溶媒に溶解したものである場合には、その溶液に他の成分を添加し攪拌することにより、混合させてもよい。さらに、混合した後に、溶媒を除去してもよい。
【0064】
上述の選択透過材料を用いて膜を形成させる場合には、用いる成分に対応する成膜加工方法を利用することができる。例えば、シリコーン系ポリマーが、ペレット状等である場合には、融解押出法、カレンダー等の加工方法により、膜を得ることができる。また、シリコーン系ポリマーが溶媒に溶解したものである場合には、キャスト法、コーター法、水面展開法等の加工方法により、膜を得ることができる。
【0065】
(選択透過膜構造体の製造方法)
本実施形態に係る選択透過膜構造体40aは、本実施形態の第1の製造方法、第2の製造方法、又は第3の製造方法のいずれかによって得られる。以下、第1及び第2の各製造方法について説明する。
【0066】
本実施形態に係る選択透過膜構造体40aの第1の製造方法は、補強用メッシュ材302の開口に目留め材を充填する工程と、開口に充填された目留め材の体積を収縮させる工程と、目留め材で覆われていない補強用メッシュ材302の露出部と、開口に充填された目留め材の露出部と、を覆うように、上記選択透過材料から選択透過膜13aを形成する工程と、選択透過膜13aを形成した後に、補強用メッシュ材302の開口から目留め材を除去する工程と、を備える。以下、図3〜7を参照しつつ、各工程について説明する。
【0067】
まず、図3に示すように、PETフィルム330上に補強用メッシュ材302を設置する。次に、PETフィルム330上に設置された補強用メッシュ材302に、目留め材332をワイヤーコーターで塗布して、補強用メッシュ材302の開口302bに目留め材332を充填する(図4参照)。
【0068】
目留め材332としては、N,N−ジエチルアクリルアミド、(化学式:CH=C−ONHC、以下DEAAと記す)、ジエチレングリコールモノビニルエーテル(化学式:CH=C−(OCHCH−OH、以下DEGVと記す)、ポリエチレングリコール(化学式:HO−(CH−CH−O)−H(n=300)、以下PEGと記す)、N,N−ヒドロキシエチルアクリルアミド(化学式:CH=C−ONHCOH、以下HEAAと記す)等の少なくともいずれか、又はこれらを有機溶剤等で希釈して得られる塗料を用いればよい。特に目留め材332としてはHEAAが好ましい。HEAAを用いることによって、より確実に補強用メッシュ材302を目留めすることが可能となる。目留め材332としてHEAAを用いる場合、例えば、HEAAの濃度が80wt%となるようにHEAAをエタノールで希釈して塗料状とすればよい。HEAAを希釈するための溶剤(エタノール)の分量を調整することで、補強用メッシュ材302の目留め位置(開口部302bへの目留め材332の充填量)を調整することができ、結果として、成膜する選択透過膜13aの厚みを調整することができる。
【0069】
次に、図5に示すように、補強用メッシュ材302に塗布された目留め材332を熱処理することにより、開口302aに充填された目留め材332から希釈溶剤(エタノール)を揮発させ、目留め材332の体積を収縮させる。なお、開口302aに充填された目留め材332の体積を収縮させる工程において、目留め材332の体積収縮に伴い目留め材332に被覆されていた補強用メッシュ材302の一部を露出させることによって、補強用メッシュ材302の露出部302cを形成することが好ましい。
【0070】
目留め材332は、それを乾燥させる熱処理等によって、体積収縮する。よって、目留め材332の体積収縮を利用すれば、補強用メッシュ材302の露出部302cを容易に形成することができる。また、目留め材332の体積収縮を利用すれば、選択透過膜13aの形成前に露出部302cを形成するために、補強用メッシュ材302を被覆する目留め材332の一部を除去する工程が不要となる。なお、後工程において、露出部302cと選択透過材料とを接着させることによって、補強用メッシュ材302に選択透過膜13aが固定される。また、補強用メッシュ材302の露出部302cを形成する方法は、目留め材332の体積収縮に限定されない。
【0071】
目留め材332の体積を収縮させた後、図6に示すように、補強用メッシュ材302の露出部302cと、開口302bに充填された目留め材332の露出部332aと、を覆うように、塗料状の選択透過材料13sをワイヤーコーター等で塗布する。次に、熱処理によって、選択透過材料13sの溶剤成分を除去することにより、選択透過材料13sから選択透過膜13aを成膜する。なお、塗料状の選択透過材料13sは、レベリング剤を更に含有していてもよい。塗料状の選択透過材料13sが、レベリング剤を更に含有することにより、選択透過材料13sと目留め材332との接着性が良好でない場合であっても、平滑な表面を有する選択透過膜13aを成膜することができる。
【0072】
次に、選択透過膜13aが積層された補強用メッシュ材302から、PETフィルム330を剥離する。そして、補強用メッシュ材302において選択透過膜13aが積層された面とは反対側の面の側から、補強用メッシュ材302の開口302bに充填された目留め材332を水で洗い流して除去する。目留め材332を除去した後、補強用メッシュ材302及び選択透過膜13aを乾燥して水分を除去することによって、図7に示す選択透過膜構造体40aが得られる。
【0073】
なお、補強用メッシュ材302の開口302bに充填された目留め材332を除去する方法は、水による洗浄に限定されない。例えば、目留め材332の成分が可溶な溶剤又は薬品等によって目留め材332を洗浄、除去しても良い。あるいは、補強用メッシュ材302に塗布された目留め材332のうち、除去すべき部分のみをUV(紫外線)又はEB(電子線)等の照射によって除去し易い状態へ改質した後に、除去すべき部分のみを除去してもよい。
【0074】
本実施形態においては、補強用メッシュ材302の開口302bに目留め材332を充填することによって、補強用メッシュ材302が目留めされ、補強用メッシュ材302に略平滑な平面が形成される。そして、補強用メッシュ材302の開口302bに目留め材332を充填した後に選択透過材料13sから選択透過膜13aを形成することによって、塗料状の選択透過材料13sが補強用メッシュ材302の開口302b内に過度に(開口302b内を満たす程度に)流れ込むことを防止でき、厚さが均一で表面が平滑な選択透過膜13aを形成することができる。
【0075】
一般的なコーター法による基材上への積層成膜では、最適な加工条件に調整するために溶剤等で溶液粘度を調整した成膜材料を使用していた。特に薄膜の形成では、成膜材料の溶剤量を比較的多くして、低粘度に調整した成膜材料を使用するのが一般的であった。しかし、低粘度化した成膜材料では、その表面張力、流動性の点から、補強用メッシュ材のように開口径が大きい基材への塗工は難しかった。すなわち、塗工した成膜材料が補強用メッシュ材の開口部に流れ込んでしまうため、補強用メッシュ材と膜との積層状態が得られず、成膜精度(厚みの調整、厚みバラツキ)の点で、良好な膜を得ることができなかった。一方、本実施形態では、補強用メッシュ材302の開口302bに目留め材332を充填した後に選択透過材料13sから選択透過膜13aを形成することによって、塗工した選択透過材料13sが補強用メッシュ材302の開口部302bに流れ込むことを抑制できるため、上述の一般的なコーター法が有する問題を解決することができる。
【0076】
また本実施形態においては、選択透過膜13aを形成した後に、補強用メッシュ材302の開口302bから目留め材332を除去することによって、補強用メッシュ材302の開口302bに面する選択透過膜13aにおける気体の透過性を確保することができる。
【0077】
更に本実施形態においては、塗料状の目留め材332を希釈する溶剤量を調整することによって、開口302bに充填された目留め材332の体積を収縮させる際に目留め材332の体積収縮率を調整できる。したがって、目留め材332の体積収縮に伴って補強用メッシュ材302の開口302b内に形成される空間の容積を調整でき、この空間に導入される選択透過材料13sの体積も調整できる。その結果、成膜後の選択透過膜13aの厚み、特に開口302bに面する選択透過膜13aの厚み(開口302bの内側に位置する選択透過膜13aの厚み)を調整することが可能となる。また、目留め材332の体積収縮によって補強用メッシュ材302の開口302b内に形成される空間に選択透過材料13sを導入させると、成膜後の選択透過膜13aに補強用メッシュ材302がめり込んだ構造ができる。この構造がアンカー効果を奏し、選択透過膜13aを補強用メッシュ材302に強固に密着させることができる。
【0078】
次に、本実施形態に係る選択透過膜構造体40aの第2の製造方法について説明する。以下では、上述した第1の製造方法と第2の製造方法との相違点について説明し、第1の製造方法と第2の製造方法との共通点については説明を省略する。第1の製造法では、開口302bに充填された目留め材332の露出部332aを直接覆うように選択透過膜13aを形成するのに対して、第2の製造方法では、開口302bに充填された目留め材332の露出部332a上に中間層を形成した後で、中間層を覆うように選択透過膜13aを形成する点において、第1の製造方法と第2の製造法とは相違する。
【0079】
すなわち、本実施形態の選択透過膜構造体40aの第2の製造方法は、補強用メッシュ材302の開口302bに目留め材332を充填する工程と、開口302bに充填された目留め材332の露出部332aに、目留め材332との接着性及び選択透過材料13sとの接着性を共に有する中間層334を形成する工程と、開口302bに充填された目留め材332の体積を収縮させる工程と、目留め材で覆われていない補強用メッシュ材302の露出部302c及び中間層334を覆うように、選択透過材料13sから選択透過膜13aを形成する工程と、選択透過膜13aが形成された後に、補強用メッシュ材302の開口302bから目留め材332及び中間層334を除去する工程と、を備える。以下では、図8〜10を参照しつつ、本実施形態に係る第2の製造方法の各工程について説明する。
【0080】
まず、図8に示すように、PETフィルム330上に補強用メッシュ材302を設置した後、PETフィルム330上に設置された補強用メッシュ材302に、目留め材332をワイヤーコーターで塗布して、補強用メッシュ材302の開口302bに目留め材332を充填する。
【0081】
次に、目留め材332が塗布された補強用メッシュ材302上に、目留め材332との接着性及び選択透過材料13sとの接着性を共に有する塗料を塗布し、この塗料から中間層334を形成する。その結果、補強用メッシュ材302の開口302bに充填された目留め材332の露出部332aが中間層334で被覆される。中間層334としては、目留め材332との接着性及び選択透過材料13sとの接着性を共に有する層であればよく、例えば、ポリビニルアルコール(以下、PVAと記す)等を含む層を中間層334とすればよい。なお、PVAは、HEAAのような目留め材332に比べて水に溶解し難いので、後工程において中間層334を除去し易くするために、PVAを含む中間層334は薄くすることが好ましく、その厚さは、0.01〜30μm程度であることが好ましい。
【0082】
中間層334として用いるPVAとしては、例えば、重合度が400〜4000程度、ケン化度が80mol%以上であるような公知のPVAを用いることができるが、本実施形態では、水溶性が高いPVAを用いることが好ましく、具体的には、重合度が100〜400程度、ケン化度が0〜90mol%程度であるPVAを用いることが好ましい。より具体的には、重合度が200〜250程度、ケン化度が約81mol%であるPVA(日本酢ビ・ポバール社製JL−05E)、又は重合度が200〜250程度、ケン化度が約88mol%であるPVA(日本酢ビ・ポバール社製ASP05)を用いることが好ましい。また、一般的なPVAの水酸基、酢酸基以外の官能基を有する変性PVAを用いても良い。
【0083】
中間層34の形成後、熱処理により、開口302bに充填された目留め材332及び中間層334に含まれる溶媒成分を除去し、目留め材332及び中間層334の体積を収縮させ、補強用メッシュ材302の露出部302cを形成する(図9参照)。
【0084】
次に、補強用メッシュ材302の露出部302c及び中間層334を覆うように、塗料状の選択透過材料13sをワイヤーコーター等で塗布する。次に、熱処理によって、選択透過材料13sの溶剤成分を除去することにより、選択透過材料13sから選択透過膜13aを成膜する(図10参照)。
【0085】
選択透過膜13aの成膜後、選択透過膜13aが積層された補強用メッシュ材302から、PETフィルム330を剥離する。そして、補強用メッシュ材302において選択透過膜13aが積層された面とは反対側の面の側から、補強用メッシュ材302の開口302bに充填された目留め材332と、その奥の中間層334とを、水による洗浄等によって除去する。目留め材332及び中間層334を除去した後、補強用メッシュ材302及び選択透過膜13aを乾燥して水分を除去することによって、図7に示す選択透過膜構造体40aが得られる。
【0086】
上記第2の製造方法においては、上記第1の製造方法と同様の効果を奏することできる。さらに、上記第2の製造方法においては、目留め材332と接着し、且つ選択透過材料13sとも接着性を有する中間層334の表面で選択透過材料13sを成形するため、選択透過材料13sを膜状に成形し易く、厚さが均一で表面が平滑な選択透過膜13aを形成することが容易となる。仮に、目留め材332と接着し難い選択透過材料13sを用いて、補強用メッシュ材302の露出部302cと、開口302bに充填された目留め材332の露出部332aと、を直接覆うように選択透過膜13aを形成した場合、目留め材332と選択透過材料13sが接着し難く、目留め材332の表面において選択透過材料13sを膜状に成形し難い傾向があるが、上記第2の製造方法においては、目留め材332と接着し、且つ選択透過材料13sとも接着性を有する中間層334の表面で選択透過材料13sを成形するため、このような問題が発生しない。すなわち、上記第2の製造方法においては、目留め材332と選択透過材料13sの両方と相性の良い中間層334を介することによって、目留め材332への選択透過材料13sのぬれ性(成膜性)を向上させることができ、選択透過材料13sの成膜精度を向上させることができる。なお、選択透過膜13aの成膜後、目留め材332と中間層334とを開口302bから除去する際に、補強用メッシュ材302をマスクとして機能させて、中間層334のエッチングを行うことにより、選択透過膜13aと補強用メッシュ材302との間に中間層334の一部を残存させてもよい。この場合、中間層334として、接着効果を有する材料(熱等の二次的負荷で接着性を発現する材料)を用いれば、選択透過膜13aと補強用メッシュ材302との接着(固定化)も可能となる。
【0087】
(空調システム)
上述した本実施形態に係る選択透過膜構造体40aは、例えば以下で説明する空調システムに用いることができる。この空調システムは、空調対象空間への気体の供給及び/又は空調対象空間からの気体の排出が行われる膜として、選択透過膜構造体40aを備える。この空調システムとしては、例えば、外気導入のための取り入れ口(外気導入口)に上述の選択透過膜構造体40aが設置されたものが挙げられる。空調対象空間としては、例えば、自動車、住宅、新幹線、飛行機等の、空間内の気体と外気とを交換することが必要な空間が挙げられ、その具体例としては、図11に示されるような自動車が挙げられる。
【0088】
図11は、空調システムの一形態である自動車を前後方向に切断した概略断面図である。自動車10の車室19は、車室壁11と選択透過膜構造体40aとを備え、外気導入のための取り入れ口に設置された選択透過膜構造体40a以外の部分では、実質的に外気と遮断されている。
【0089】
車室壁11は、鉄、アルミニウム、ガラス等の気体を実質的に透過させない材料により構成されている。選択透過膜構造体40aが有する選択透過膜13aの厚さは、0.1〜10μmであることが好ましい。自動車10における選択透過膜構造体40aの具体的な設置場所としては、例えば図12に示すエアコンユニット内の外気導入のための取り入れ口が挙げられる。
【0090】
図12は、本発明の空調システムの一形態である自動車におけるエアコンユニット30の一部を示す模式断面図である。図12に示すように、エアコンユニット30は、エアコンユニットケース35、遠心式送風ファン37及び選択透過膜構造体40aを備える。エアコンユニットケース35は、外気導入口35a、内気導入口35b及び開口部35cを有する。送風ファン37は、エアコンユニットケース35において、内気が循環する経路上に設置されている。選択透過膜構造体40aは、エアコンユニットケース35に、外気導入口35aを閉塞するように設置されている。
【0091】
このようなエアコンユニット30によれば、外気導入口35aから選択透過膜構造体40aを通して外気が、内気導入口35bから内気がエアコンユニット内に導入され、開口部35cを通して自動車の車室に外気及び/又は内気が供給される。また、外気導入口35aから選択透過膜構造体40aを通して内気が車外へ排出される場合もある。
【0092】
エアコンユニットケース35は、ポリプロピレンのようなある程度の弾性を有し、機械的強度に優れた樹脂により形成されている。遠心式送風ファン37としては、従来自動車における内気循環のために用いられているものを用いることができる。
【0093】
車両10における選択透過膜構造体40aの具体的な設置場所としては、上述した以外に、圧力調整用換気装置(図13)、天井(図14〜16)、フロントガラス(図17)、ピラー(図20、21)、床(図22)、又はドア(図23〜27)等も挙げられる。以下、これらの設置場所の詳細な例について説明する。
【0094】
(圧力調整用換気装置の構成)
図13は、本発明の選択透過膜構造体を圧力調整用換気装置内に備える車両の一形態を示す概略構成図である。
【0095】
本実施形態の圧力調整用換気装置110は、図13(a)に示すように、車両10後部のバンパ34近傍の左右両側面に配置されている。そして、車両10の後方から見た車両10の後部部分の断面図である図13(b)に示すように、圧力調整用換気装置110は、筐体38、ダンパ32、及び選択透過膜構造体40aから構成される。
【0096】
圧力調整用換気装置110は、一部が略長方形に切り取られた車両10のボディ122部分に、ボディ122内部に埋め込まれるように取り付けられている。つまり、圧力調整用換気装置110の筐体38が角筒状に形成され、角筒状に形成された筐体38の車両10外側の端面にはフランジが設けられている。そして、そのフランジが溶接などでボディ122に固定されている。
【0097】
筐体38は、ボディ122に固定されている端部と反対側の端部(奥端部)の下面が車室19側に上向き斜めに曲げられている。この曲げられている部分をダンパ受け部38aと呼ぶ。後述するように、ドアが閉じた状態でダンパ32の下端部が、ダンパ受け部38aに車両10外側から車室19に向かって接触するようになっている。
【0098】
そして、ダンパ32が筐体38にヒンジ32aで取り付けられている。具体的には、ダンパ32の上辺部分と角筒状の筐体38の奥部の内側の上壁内側とがヒンジ32aによって結合され、ダンパ32がヒンジ32aを中心として回動可能に取り付けられている。
【0099】
圧力調整用換気装置110においては、車両10のドア(図示せず)が閉ると、車室19内の圧力が上昇する。すると、その上昇した圧力によって、ダンパ32が車室19側から車両10外側に向かって押される。すると、ダンパ32は、ヒンジ32aを中心として回動し開状態、つまり、図13(b)中のβの状態になる。
【0100】
ダンパ32が開状態になると図13(a)の矢印で示すドア閉時の空気の流れが生じ、車室19内の空気が車室19外に逃れる。このように、ドアが閉まるとダンパ32が開状態になって、車室19内圧力の上昇を緩和する。
【0101】
一方、ドアが閉じた状態では、車室19内の圧力上昇がないので、ダンパ32には車室19側から圧力が加わらない。ダンパ32に車室19側から圧力が加わらなければ、ダンパ32は、自重によりヒンジ32aを中心として車室19側に回動する。ダンパ32が回動してダンパ32の下端部がダンパ受け部38aに接触すると、それ以上回動できなくなる。したがって、ダンパ32が閉状態、つまり、図6(b)中のαの状態になって車室19が密閉状態になる。
【0102】
なお、車両10外側から車室19に向かってダンパ32に圧力が加わったときにも、ダンパ32はヒンジ32aを中心として車室19側に回動しようとするが、そのときもダンパ32の下端部がダンパ受け部38aに接触する。したがって、ダンパ32はそれ以上回動できないので、ダンパ32は閉状態となり、車室19が密閉状態になる。
【0103】
(天井)
図14〜16は、本発明の選択透過膜構造体を天井部分に備える、本発明の空調システムの一形態である車両を示す概略構成図である。図14(a)に示すように本実施形態における車両10は、天井部分に選択透過膜構造体40aが設けられている。以下、本実施形態における天井部分の具体的な形態について説明する。
【0104】
[実施形態1A]
実施形態1Aの天井部分は、図14(b)に示すように、車両10の天井部分に設けられた空洞70、車両10の外壁22の一部に設けられた外気導入口26及び外気排出口28、空洞70の一部に設けられた選択透過膜構造体40a等からなる。
【0105】
空洞70は、車両10の天井部分の車室19内に面する内壁24と車室19外に面する外壁22とで形成されている。なお、外壁22及び内壁24は、鉄、アルミニウム、ガラスなどの実質的に気体を透過させない材質の材料によって構成されている。
【0106】
外気導入口26は、車両10の進行方向側から空洞70へ外気を導入するために、空洞70を形成する外壁22に設けられた孔であり、外気排出口28は、空洞70へ導入した外気を車両10の進行方向反対側へ排出するために空洞70を形成する外壁22に設けられた孔である。
【0107】
外気導入口26及び外気排出口28は、車両10の横方向を長手方向として穿たれた略四角形状の細長い孔であり、長手方向及び短手方向の長さは、車種や空洞70に導入する外気の量によって決定される。
【0108】
選択透過膜構造体40aは、空洞70を形成する内壁24に、選択透過膜構造体40aの少なくとも一部が外気導入口26により空洞70へ導入された外気と接し、他の部分が車室19内の空気と接するように配置されている。
【0109】
具体的には、図14(b)に示すように、車両10の内壁24の一部を略四角形状に切り取る。そして、選択透過膜構造体40aを略四角形状に切り取った内壁24部分と同じ大きさの略四角平板形状に形成し、周囲を補強材で補強する。ここで、選択透過膜構造体40aの周囲を補強する補強材のうち、車両10の進行方向の補強材を前方補強材12a、車両10の進行方向反対側の補強材を後方補強材12bという。
【0110】
そして、内壁24を略四角形状に切り取った部分に、補強材で周囲を補強した選択透過膜構造体40aを取り付ける。なお、ここでは内壁24を略四角形状に切り取ったが、特に略四角形状に切り取る必要はなく、天井の形状などに合わせて他の形状、例えば、円形や台形あるいは、複数の直線や曲線からなるより複雑な形状に切り取ってもよい。
【0111】
次に、外気導入口26及び外気排出口28から空洞70へ水滴が浸入しないようにした空調システムについて図15に基づいて説明する。図15(a)〜(c)は、空洞70へ水滴が浸入しないようにするための構造を示す図である。
【0112】
[実施形態2A]
図15(a)は、空洞70へ水滴が浸入しないようにする手段、すなわち水滴浸入防止手段として前部開閉扉27a及び後部開閉扉27cが備えられた形態(実施形態2A)を示す図である。前部開閉扉27a及び後部開閉扉27cは、各々外壁22にヒンジ27b,27dで取り付けられており、ヒンジ27b,27dを中心として回動することによって車両10の進行方向に沿って開閉する。
【0113】
ヒンジ27bの取り付け位置は、車両10の進行方向に沿って、外気導入口26の後方、かつ、選択透過膜構造体40aの前方補強材12aの前方である。また、ヒンジ27dの取り付け位置は、車両10の進行方向に沿って外気排出口28の前方、かつ、選択透過膜構造体40aの後方補強材12bの後方である。
【0114】
前部開閉扉27a及び後部開閉扉27cは、外気の圧力によって開閉する。つまり、車両10が走行すると外気導入口26から空洞70内に外気が導入される。外気導入口26から導入された外気は前部開閉扉27aに当たる。すると、前部開閉扉27aの外気導入口26側の面には外気によって圧力が生じるので、その圧力によって前部開閉扉27aは開く。
【0115】
逆に、車両10が停止すると、外気導入口26から外気が導入されない。したがって、前部開閉扉27aの外気導入口26側の面には圧力が発生しないので、前部開閉扉27aは閉じる。
【0116】
後部開閉扉27cも前部開閉扉27aと同じように空洞70へ導入される外気によって開閉する。前部開閉扉27aが開いたときの最大角度θは、選択透過膜構造体40aの前方補強材12aの位置によって決まる。つまり、前部開閉扉27aが最大に開いたときに前部開閉扉27aの下端部分が前方補強材12aよりも車両10の進行方向側に位置するように最大角度θが決まるのである。
【0117】
このようにすれば、前部開閉扉27aに外気が当たって前部開閉扉27aが最大角度θまで開いた場合であっても、前部開閉扉27aに外気に含まれる水滴が当たって、その水滴が図中下方に滴下しても選択透過膜構造体40aの表面に付着することがない。つまり、選択透過膜構造体40aの表面に水滴が付着しなくなるので、選択透過膜構造体40aの気体透過性能を保持することができる。
【0118】
[実施形態3A]
図15(b)は、水滴浸入防止手段として堰を用いた形態、すなわち、外気導入口26と選択透過膜構造体40aの前方補強材12aとの間に前部堰27eが配置され、選択透過膜構造体40aの後方補強材12bと外気排出口28との間に後部堰27fが配置された形態(実施形態3A)を示す図である。
【0119】
前部堰27eは、車両10の進行方向に前後に配置された略四角形状の細長い一対の板材から構成されている。一対の板材は、その長手方向が車両10の車幅方向となるように取り付けられており、一対の板材のうち、外気導入口26側に配置された板材は、車両10の外壁22に取り付けられ、内壁24との間に隙間ができるように取り付けられている。また、選択透過膜構造体40a側に配置された板材は、車両10の内壁24に取り付けられ、外壁22との間に隙間ができるように取り付けられている。なお、各板材の長手方向は、水滴が選択透過膜構造体40aへ浸入させないようにするため、車両10の車幅方向における選択透過膜構造体40aの長さよりも若干長くなっている。
【0120】
後部堰27fは、1枚の板材から構成されている。板材は、外気排出口28を形成する外壁22の端部に車両10の下方、かつ、車両10の進行方向に向かって斜め前方に向かって取り付けられている。この板材も車両10の車幅方向における選択透過膜構造体40aの長さ以上の長さを有している。
【0121】
このような前部堰27eによれば、空洞70へ導入される外気に含まれる水滴は、まず前部堰27eを構成する板材のうち外気導入口26側の板材により除去され、内壁24の外面上に滴下し、内壁24の外面上を伝わってドレイン(図示せず)から車両10の外部へ排出される。また、外気導入口26側の板材によって除去仕切れずに残った水滴は、選択透過膜構造体40a側の板材で除去され、内壁24の外面を伝わってドレイン(図示せず)から車両10の外部へ排出される。したがって、外気導入口26から空洞70へ水滴が浸入することがなくなる。
【0122】
また、後部堰27fでは、外気排出口28から外気が排出されるので、外気排出口28への外気の流入に伴う水滴の浸入よりも車両10を形成する外板からの雨粒などの跳ね返りを防ぐことができればよい。したがって、上記のように板材を外気排出口28の端部に板材を取り付ければ、空洞70への水滴の浸入を防止することができる。
【0123】
このように、外気導入口26や外気排出口28から空洞70へ水滴が浸入することがなくなるので、空洞70に設置された選択透過膜構造体40aの表面に水滴が付着することがない。選択透過膜構造体40aの表面に水滴が付着しなくない。よって、選択透過膜構造体40aが酸素や二酸化炭素を透過させることを妨げることがない。
【0124】
[実施形態4A]
次に、車室19内の酸素濃度に応じて、空洞70に外気を導入する場合(実施形態4A)について図14及び図15(c)により説明する。
【0125】
(構成)
実施形態4Aにおける空調システムは、図14及び図15(c)に示すように、実施形態1A〜3Aに示す空調システムに、前部ファン29a、後部ファン29b、酸素センサ18及び制御部90が加えられた構成となっている。
【0126】
前部ファン29a及び後部ファン29bは、外気を導入する旨の外気導入指令に基づき空洞70へ導入する外気の量を調整可能とするためのものである。
【0127】
前部ファン29aは、図15(c)に示すように、前部堰27e(図15(b)参照)と同様に、空洞70において外気導入口26と前方補強材12aとの間に配置されている。また、後部ファン29bは、図15(c)に示すように、空洞70において、外気排出口28と選択透過膜構造体40aの後方補強材12bとの間に配置されている。
【0128】
酸素センサ18は、車室19内の酸素濃度を検出するためのものであり、図14に示すように、車両10のダッシュボードに埋め込まれている。
制御部90は、酸素センサ18により検出された車室19内の酸素濃度が所定の濃度である場合に、外気を導入する旨の外気導入指令を前部ファン29a及び後部ファン29bへ出力するものであり、CPU(Central Processing Unit),ORM(Object/Relational Mapping),RAM(Random Access Memory),I/O(Input/Output)等(図示せず)から構成されている。なお、制御部90は、図14に示すように、車両10のダッシュボード内部に格納されている。
【0129】
(作動と特徴)
以上のように構成された空調システムでは、酸素センサ18で検出された酸素濃度が制御部90へ送られる。
【0130】
制御部90では、酸素センサ18から送られてきた酸素濃度の情報に基づいて、酸素濃度が所定の値以下であるか否かが判定される。そして、酸素濃度が所定の値以下であると判定された場合には、前部ファン29a及び後部ファン29bに外気導入指令が出力され、外気が空洞70へ導入される。逆に、制御部90において、酸素濃度が所定の値を超えていると判定された場合には、前部ファン29a及び後部ファン29bに外気導入指令が出力されない。なお、酸素濃度の「所定の値」とは、車室19内の快適性を保つために必要とされる酸素濃度を示す。
【0131】
前部ファン29a及び後部ファン29bは、制御部90からの指令を受けると作動し、単に外気導入口26が設けられているだけの場合よりも、外気をより多く空洞70内に導入する。
【0132】
このように、実施形態4Aの空調システムによれば、車室19内の酸素濃度が所定の値以下のときだけ空洞70へ外気が導入される。したがって、炭化水素等を一定量含んだ外気が選択透過膜構造体40aに常に接することがなくなるので、炭化水素等が常に選択透過膜構造体40aに吸着あるいは吸収されることがなくなる。よって、選択透過膜構造体40aの選択分離性能の劣化を遅く、つまり、選択透過膜構造体40aを長寿命化することができる。
【0133】
なお、ここでは、酸素センサ18を用いる場合について説明したが、酸素センサ18に代えて二酸化炭素センサを用い、車室19内の二酸化炭素濃度が高くなったときに前部ファン29a及び後部ファン29bを作動させて外気を空洞70へ導入するようにしてもよい。
【0134】
また、上述の酸素センサ18や二酸化炭素センサの他にも、微小固体成分の濃度を検出するセンサや微小固体成分の個数をカウントするセンサ等を用いて、それらの濃度等に応じて外気を空洞70内に導入するようにしてもよい。
【0135】
[その他の実施形態]
(1)上記実施形態1A〜4Aでは、車両10の天井部分の内壁24の一部を選択透過膜構造体40aで形成していたが、図16に示すように、内壁24の天井部分に穴を開けるようにしてもよい。
【0136】
つまり、図16(a)に示すように、内壁24の天井部分に多数の小穴を開け、穴の空いた部分を選択透過膜構造体40aで覆う。このとき、開けられた多数の小穴が全て選択透過膜構造体40aで覆われるようにし、かつ、選択透過膜構造体40aの周囲を補強するための補強材12が内壁24に密着して、外気導入口26から導入された外気が直接車室19に進入しないようにする。
【0137】
このとき図16(b)に示すように、微小固体成分に比べ塵などを除去するためのフィルタを選択透過膜構造体40aの表面に設けるようにしてもよい。さらに、上述の小穴の代りに図16(c)に示すように、内壁24の天井部分を切り取り、その部分をメッシュ状の材料で塞ぎ、その表面に選択透過膜構造体40aを配置するようにしてもよい。
【0138】
(ガラス)
[実施形態1B:フロントガラス]
図17は、本発明の選択透過膜構造体をフロントガラス部分に備える、本発明の空調システムの一形態である車両(実施形態1B)を示す概略構成図である。図17(b)に示すように、車両10のフロントガラスの下部に選択透過膜構造体40aが設けられており、カバー112、外気導入口126、外気排出口128、前部堰127a、後部堰127b、選択透過膜構造体40a等が設けられている。
【0139】
カバー112は、水滴を遮断するために、選択透過膜構造体40aの外気に接する側を覆うものである。カバー112は、車両10の正面から見て略長方形となるように、また、車両10の横方向から見てフロントガラス130に沿って湾曲するように形成されている。
【0140】
カバー112の長手方向及び短手方向の長さは、各々後述する平板状に形成された選択透過膜構造体40aの長手方向及び短手方向の長さよりも若干長くなっており、平板状の選択透過膜構造体40aの片面全部を覆うことができるようになっている。
【0141】
カバー112の車両進行方向側の端部に、カバー112で覆われた空間120(以下、単に空間120と呼ぶ。)へ外気を導入するための外気導入口126が設けられており、車両進行方向反対側の端部に、空間120に導入された外気を排出するための外気排出口128が設けられている。
【0142】
外気導入口126及び外気排出口128は、車両10の横方向を長手方向として穿たれた略長方形の細長い孔であり、孔の大きさ、つまり、孔の長手方向及び短手方向の長さは、車種や空間120に導入する外気の量によって決定される。
【0143】
また、外気導入口126の空間120側の近傍に前部堰127aが配置されており、フロントガラス130と選択透過膜構造体40aの上側の境界近傍の空間120内のフロントガラス130の外部に後部堰127bが配置されている。
【0144】
前部堰127aは、車両10の進行方向に前後に配置された略長方形の細長い板材から構成されている。板材は、その長手方向が車両10の車幅方向となるように取り付けられており、選択透過膜構造体40aとの間に隙間ができるように取り付けられている。なお、板材の長手方向は、水滴が選択透過膜構造体40aへ浸入させないようにするため、車両の10車幅方向における選択透過膜構造体40aの長さよりも若干長くなっている。
【0145】
後部堰127bは、前部堰127aと同様の板材から構成されている。この板材も車両10の車幅方向における選択透過膜構造体40aの長さ以上の長さを有している。このような前部堰127aによって、空間120へ導入される外気に含まれる水滴は、前部堰127aにより除去され、車両10のボディ外面上に滴下し、ボディの外面上を伝わってドレイン(図示せず)から車両10の外部へ排出される。
【0146】
また、後部堰127bによって、フロントガラス130の外表面を伝わって空間120に浸入しようとする水滴が遮断され、遮断された水滴は、ドレイン(図示せず)により車両10の外部へ排出される。
【0147】
選択透過膜構造体40aは、車両10のフロントガラス130の一部を構成するように配置されている。具体的には、図17(b)に示すように、車両10のフロントガラス130の下部の一部を車幅方向が長手方向となるように略長方形に切り取る。そして、略長方形に切り取ったフロントガラス130と同じ大きさの略長方形平板状に選択透過膜構造体40aを形成し、略長方形平板状に形成した選択透過膜構造体40aをフロントガラス130が切り取られた部分にはめ込む。
【0148】
選択透過膜構造体40aの大きさ、つまり、長手方向及び短手方向の長さは、車両10の車種や空間120に導入する外気の量によって決定される。
【0149】
[実施形態2B:リアウィンドウ]
次に、選択透過膜構造体40aを多孔質ガラス132に装着したものでリアウィンドウ139を形成した形態(実施形態2B)について図18に基づいて説明する。図18は、リアウィンドウ139を、選択透過膜構造体40aが装着された多孔質ガラス132で構成したときの概略構成図である。
【0150】
本実施形態の車両空調システムは、図18(a)に示すようなリアウィンドウ139のガラス部分を、図18(b)に示すような選択透過膜構造体40aが装着された多孔質ガラス132で置き換えたものである。
【0151】
多孔質ガラス132は、その材料の全体に細孔を有しており、空気を車室19内と車室19外との双方向へ透過させる機能を有している。
【0152】
この多孔質ガラス132の車室19側の全面に選択透過膜構造体40aが密着した状態で装着されている。また、多孔質ガラス132に装着された選択透過膜構造体40aの車室19側には、選択透過膜構造体40aを補強するためにメッシュ状の材料で形成された補強材134が装着されている。
【0153】
図18(c)に示すように、図18(b)におけるメッシュ状の補強材134と選択透過膜構造体40aとの間に防塵用フィルタ136を備えるものを用いてもよい。防塵用フィルタ136を備えることにより、車室19内の埃等が直接選択透過膜構造体40aに付着することを防止できる。
【0154】
また、図18(d)に示すように、図18(b)におけるメッシュ状の補強材134を用いる代わりに、選択透過膜構造体40aを2枚の多孔質ガラス132a,132bで挟み込みんで、多孔質ガラス132a、選択透過膜構造体40a及び多孔質ガラス132bがこの順番に積層されるようにしてもよい。
【0155】
[実施形態3B:サンルーフ]
次に、選択透過膜構造体40aを多孔質ガラス132に装着したものでサンルーフ138を形成した形態(実施形態2B)について図19に基づいて説明する。図19は、サンルーフ138を選択透過膜構造体40aを装着した多孔質ガラス132で構成したときの構成図である。
【0156】
この空調システムは、図19(b)に示すようなサンルーフ138のガラス部分を図19(a)に示すように選択透過膜構造体40aを装着した多孔質ガラス132で置き換えるとともに、サンルーフ138を形成する車両10の内壁24に多数の孔を設けたものである。
【0157】
このようすると、外気はサンルーフ138を構成する多孔質ガラス132の外表面に沿って車両進行方向から車両進行方向反対方向へ向かって流れる。このとき、選択透過膜構造体40aを介して車室19内の空気と外気との交換が行われる。
【0158】
(ピラー)
図20は、本発明の選択透過膜構造体をピラー部分に備える、本発明の空調システムの一形態である車両を示す概略断面図である。車両10は、図20に示すように、実質的に空気を通さないアルミやガラス等の壁面で囲まれ、外気が進入しない車両10と外気が進入することができるトランクやエンジンルームなどの車室19外の空間とからなる。
【0159】
また、車室19を構成する壁面の一部として、ピラー50,52,54を備えている。このピラー50,52,54には、車室19前部のフロントガラスの両端部分に設けられたフロントピラー50、車両10両側のウィンドウの車両10前後方向のほぼ中央部分に設けられたセンターピラー52、車室19後部のリアウィンドウの両端部分に設けられたリアピラー54がある。
【0160】
また、車両10にはエアコン(図示せず)が備えられている。このエアコンは、内気循環モードのみを備えている。
【0161】
次に、空調システムの構成について図21を用いて説明する。図21(a)は、車両10及び車両10に設けられた各ピラー50,52,54の概略構成図であり、図21(b)はセンターピラー52の構造を模式的に示した概略構造図である。
【0162】
図21(a)に示すように、車両10には、フロントピラー50、センターピラー52、リアピラー54が備えられている。各ピラー50,52,54は同じ構造であるので、以下センターピラー52を例に詳細を説明する。
【0163】
センターピラー52は、図21(b)に示すように、上端部52e及び下端部52fが楕円形状をした中空の円柱状に形成されている。円柱の車室19外側の側面に外気取入れ口52a及び外気排出口52bを有し、車室19内側の側面に内気取入れ口52c及び内気排出口52dを有している。
【0164】
また、外気取入れ口52aはセンターピラー52の下部に設けられ、外気排出口52bはセンターピラー52の上部に設けられている。さらに、内気取入れ口52cはセンターピラー52の上部に設けられ、内気排出口52dはセンターピラー52の上部に設けられている。
【0165】
また、センターピラー52の中空部分に、外気取入れ口52aから取り入れられ、外気排出口52bから排出される外気と、内気取入れ口52cから取り入れられ、内気排出口52dから排出される内気とを隔てるように選択透過膜構造体40aが設置されている。
【0166】
具体的には、センターピラー52の楕円形状の上下端部52e,52fの長手軸に、選択透過膜構造体40aの上下端部が各々一致するように選択透過膜構造体40aが配置される。そして、選択透過膜構造体40aの上端部がセンターピラー52の楕円形状の上端部52eの内側に接着剤で密着して固定され、選択透過膜構造体40aの下端部がセンターピラー52の楕円形状の下端部52fの内側に接着剤で密着して固定される。
【0167】
また、蛇腹状に折られた選択透過膜構造体40aの上下端部は、センターピラー52の楕円断面形状を有する円柱側面の劣弧部分内側面に円柱の中心軸方向に接着剤で密着して固定されている。
【0168】
なお、図21(b)においては、選択透過膜構造体40aを模式的に平板状に図示しているが、蛇腹状に折られた形状を有していてもよい。
【0169】
また、選択透過膜構造体40aの車室19外側の表面には温度センサ60が設けられており、センターピラー52内部には2つのファン56a,56bが設けられている。温度センサ60は、選択透過膜構造体40aの表面温度を計測するためのものであり、熱電対やペルチェ素子など、選択透過膜構造体40aの表面温度を電気信号に変換して出力するものである。
【0170】
ファン56a,56bは、外気取入れ口52aから外気排出口52bに至る外気導入経路及び内気取入れ口52cから内気排出口52dに至る内気循環経路に設置されている。そして、温度センサ60で計測した選択透過膜構造体40aの表面温度が選択透過膜構造体40aの所定の温度となった場合に作動し、外気取入れ口52aから外気、内気取入れ口52cから内気を取り入れて選択透過膜構造体40aを冷却(空冷)する。
【0171】
以上にセンターピラー52を例として説明したが、フロントピラー50、リアピラー54においても同様である。
【0172】
(床)
図22は、本発明の選択透過膜構造体を床部分に備える、本発明の空調システムの一形態である車両を示す概略断面図である。図22(a)は、車両10の概略縦断面図であり、図22(b)は、床部150の拡大図である。
【0173】
車両10は、図22(a)に示すように、実質的に空気を通さないアルミニウムやガラスなどの壁面で囲まれ、外気が進入しない車室19と外気が進入することができるトランクやエンジンルームなどの車室19外の空間とからなる。
【0174】
また、車室19の床部150は図22(b)に示すように床板152と外板154との間に空間151が形成されている。また、車両10にはエアコン(図示せず)が備えられている。このエアコンは、内気循環モードのみを備えている。
【0175】
(空調システムの構造)
次に、空調システムの構成について説明する。図22(b)は床部150の構造を模式的に示した概略構造図である。
【0176】
図22(b)に示すように、床部150は、車室19内側に面した床板152及び車室19外側に面した外板154から構成されている。床板152と外板154の間には、床板152、外板154及び側板153a,153bによって空間151が形成されており、その空間151内部に選択透過膜構造体40aが配置されている。
【0177】
床板152には、車室19内側から空間151内へ内気を取り入れるための内気取入れ口152a及び空間151内へ取り入れた内気を車室19内側へ排出する内気排出口152bが設けられている。
【0178】
内気取入れ口152aは、車両10進行方向に対して運転席よりも前方、具体的には、運転者の足下に配置されている。また、内気排出口152bは、車両10進行方向に対して運転席よりも後方、具体的には後部座席の直前に設けられている。
【0179】
外板154には、空間151を形成する外板154に、車室19外側から空間151内へ外気を取り入れるための外気取入れ口154c、及び空間151内へ取り入れた外気を車室19外側へ排出する外気排出口154dが設けられている。
【0180】
外気取入れ口154cは、車両10進行方向に対して運転席よりも前方、具体的には、運転者の足下に配置されている。また、外気排出口154dは、車両10進行方向に対して運転席よりも後方、具体的には後部座席の直前に設けられている。
【0181】
空間151内には、車室19内側と車室19外側とを隔てるように選択透過膜構造体40aが配置されている。具体的には、選択透過膜構造体40aは平板状に形成されており、その端辺が空間151を形成する側板153a,153bの空間151側の面に接着材やシール材で密着して固定されている。
【0182】
なお、図22(b)においては、選択透過膜構造体40aを模式的に平板状に図示しているが、蛇腹状に折られた形状を有していてもよい。
【0183】
また、選択透過膜構造体40aの車室19外側の表面には温度センサ60が設けられており、空間151内部には2つのファン56a,56bが設けられている。温度センサ60は、選択透過膜構造体40aの表面温度を計測するためのものであり、熱電対、白金抵抗体、サーミスタなど、選択透過膜構造体40aの表面温度を電気信号に変換して出力するものである。
【0184】
ファン56a,56bは、内気取入れ口152aから内気排出口152bに至る内気循環経路及び外気取入れ口154cから外気排出口154dに至る外気導入経路に設置されている。そして、温度センサ60で計測した選択透過膜構造体40aの表面温度が選択透過膜構造体40aの所定の温度となった場合に作動し、外気取入れ口154cから外気、内気取入れ口152aから内気を取り入れて選択透過膜構造体40aを冷却(空冷)する。
【0185】
(ドア)
[実施形態1C]
(空調システムの構成)
図23(a)は、本発明の選択透過膜構造体をドア部分に備える、本発明の空調システムの一形態である車両10の側面図であり、図23(b)は、ドア140を車両10の車幅方向に切った概略断面図である。
【0186】
空調システムは、図23に示すように、ドア140に設けられた内装材164、選択透過膜構造体40a、外気取入れ口52a及び外気排出口52bから構成される。また、ドア140の略中心線上には、ガラスなどで形成された窓80が取り付けられている。外気取入れ口52aは、車室19外側から外気を取り入れるためにドア140の窓80よりも車室19外側のドア140の上部に設けられた孔である。また、外気排出口52bは、外気取入れ口52aから取り入れた外気を車室19外側へ排出するためにドア140の窓80よりも車室19外側のドア140の下部に設けられた孔である。
【0187】
内装材164は、車室19内側に面して装着され、空気を透過させる材料で形成されている。具体的には、無機化合物および有機化合物を多孔質形状、繊維形状又は薄膜形状のうちの1つあるいはそれらを複合形状で形成したものである。内装材164は、その細孔を空気が透過できるようになっていれば特に限定するものではない。好ましくは、数10ナノメートルから数100ナノメートルが好ましい。
【0188】
また、内装材164には、図23(d)に示すように、内装材164内部の細孔の壁面に脱臭材17が担持されている。
【0189】
脱臭材17は、加熱触媒による脱臭材であり、銅、マンガン、白金、ニッケル、鉄、タンタル、アルミニウム、チタンのうちの1つ又は2つ以上を組み合わせた酸化物である。この脱臭材17を細孔をもつ内装材164である無機化合物多孔質体に担持させてある。無機多孔質体の孔径は、選択透過膜への気体の供給の妨げにならなければ、いずれの孔径でも良い。一例としては、数10から数100マイクロメータが好ましい。
【0190】
選択透過膜構造体40aは、内装材164の車室19外側に密着して配置されている。
【0191】
そして、選択透過膜構造体40aが平板状に形成されたものが図23(c)に示すように、車室19外側から導入される外気の流れる方向に対して平板の面が略平行になるように、換言すれば、蛇腹の凸部が外気の流れと略平行になるように蛇腹状に折られている。
【0192】
このように、選択透過膜構造体40aを内装材164の車室19外側に密着して配置し、外気取入れ口52a及び外気排出口52bをドア140の窓80の車室19外側に設けることにより、ドア140において、車室19内側と車室19外側とを隔て、かつ、外気取入れ口52aから取り入れた外気が選択透過膜構造体40aの車室19外側の面に当たるようになっている。
【0193】
(空調システムの作動と特徴)
以上のように構成された空調システムでは、外気取入れ口52aから取り入れられた外気が選択透過膜構造体40aの車室19外側の面に接触する。選択透過膜構造体40aの車室19外側の面に接触した外気は外気排出口52bから排出される。
【0194】
車両10の走行中には、外気取入れ口52aから取り入れられる外気の量が増えるので、車両10走行中には、選択透過膜13の車室19外側の面に外気が当たり続ける。つまり、選択透過膜13の車室19外側の面には、一定濃度の酸素、二酸化炭素及び微小固体成分を有する外気が供給され続ける。
【0195】
したがって、車両10走行中には、外気をブロワ等で車室19内側へ導入しなくても、選択透過膜13によって車室19内側の酸素と二酸化炭素の濃度を外気と同じ濃度に保つことができる。そして、ブロワを作動させる必要がないので、車載バッテリに対する負荷を低減することができる。
【0196】
また、内装材164の多孔質体の細孔に脱臭材17が担持されているので、選択透過膜構造体40aを透過して選択透過膜構造体40aの車室19内側に至った外気に悪臭成分が含まれていても脱臭材17でその悪臭成分が除去される、したがって、車室19内側に悪臭成分が進入することがないので、車室19内側を快適に保つことができる。
【0197】
また、選択透過膜13が蛇腹状に折られているので、選択透過膜13の表面積が大きい。選択透過膜13の表面積が大きければ、酸素や二酸化炭素の交換量が増えるので、車室19内側の酸素や二酸化炭素の濃度に変化があっても、それらの濃度を短時間で一定の値に戻すことができる。
【0198】
[実施形態2C]
次に、選択透過膜構造体40aに種々の機能を有する機能材などを配置したものについて図25及び図26に基づいて説明する。図24(a)は、車両10の側面図であり、図24(b)は、ドア140を車両10の車幅方向に切った概略断面図である。また、図25は、ドア140を車両10の車幅方向に切った概略断面図である。
【0199】
実施形態2Cにおける空調システムでは、図24(b)に示すように、選択透過膜構造体40aの車室19外側に除塵フィルタ14を密着させて装着している。
【0200】
除塵フィルタ14は、選択透過膜構造体40aの細孔よりも大きな孔を持つ材料で構成されており、例えば、活性炭素繊維、不織布、樹脂繊維、帯電繊維などの膜状の材料と繊維状、不織布状、板状、波板状あるいは粒状の基材から構成されている。
【0201】
樹脂繊維としては、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、アクリルなどが用いられる。そして、それらの何れか1つ又はそのうちの2つ以上を組み合わせて編み込むように構成される。
【0202】
また帯電繊維には、外部の電極からイオンを強制的に打ち込むエレクトロ・エレクトレット法を用いてポリプロピレンなどのポリマーの繊維を帯電させたエレクトレット繊維がある。また、ポリマーとしては、ポリプロピレンの他に、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン類、ポリスチレン誘導体、ポリスチレン、ポリアミド、ポリビニルハライド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネートなどを用いることができる。
【0203】
また、帯電繊維の帯電法として、エレクトロ・エレクトレット法の他に、電界下で紫外線などを照射するフォト・エレクトレット法、高分子ポリマーに応力を加えて塑性流動させるメカノ・エレクトレット法、温度を上昇させた状態で高分子ポリマーの高電界を印加するサーモ・エレクトレット法、温度を上昇させ磁場をかけるマグネット・エレクトレット法、γ線などの電磁波を照射するラジオ・エレクトレット法などを使用することができる。このように、選択透過膜構造体40aの車室19外側に除塵フィルタ14が設けられているので、選択透過膜構造体40aの車室19外側の面に接触する外気から粉塵が除去される。したがって、選択透過膜構造体40aの車室19外側の面に粉塵が付着することがないので、選択透過膜構造体40aの気体の透過性能が低下することがない。
【0204】
また、図25(a)に示すように、選択透過膜構造体40aの車室19外側に除湿材16を密着して配置するようにしてもよい。
【0205】
除湿材16は、選択透過膜構造体40aの車室19外側に密着して配置され、選択透過膜構造体40aの車室19外側の面に接触する外気に含まれる湿気を除去するものである。具体的には、吸水性ポリマー、綿状パルプ、給水紙、シリカゲル、酸化カルシウム、酸化マグネシウム又は塩化カルシウムを多孔質体と混合させたもの、あるいは、電解質ポリマー又は親水性ポリマーからなる吸水性ポリマー、アクリル重合体、ビニルアルコール又はアクリル酸ポリマーなどが選択透過膜構造体40aの車室19外側に積層されている。
【0206】
このようにすると、選択透過膜構造体40aの車室19外側の面に接触する外気に含まれる湿気を除去することができるので、選択透過膜構造体40aの表面に水分が付着することがない。したがって、選択透過膜構造体40aにおける気体の透過性能を所定の性能に保つことができる。
【0207】
また、選択透過膜構造体40aを介して水分が車室19内側に浸入することがないので、車室19の窓80のくもりを防止することができる。なお、「湿気を除去する」とは、湿気を完全になくすということではなく、湿気を許容値の範囲に保つために湿気を除去するという意味である。
【0208】
さらに、図25(b)に示すように、選択透過膜構造体40aの車室19外側に送風機118を備えるようにしてもよい。
【0209】
送風機118は、選択透過膜構造体40aに対して車室19外側に備えられ、外気取入れ口52aから取り入れた車室19外側の外気を選択透過膜構造体40aの車室19外側の表面に供給するためのものである。
【0210】
このようにすれば、送風機118により、車室19外側の外気が選択透過膜構造体40aに対して送風される。したがって、選択透過膜構造体40aの車室19外側の面に新たな外気が当たり続けるので、選択透過膜構造体40aの車室19外側の酸素及び二酸化炭素の濃度は一定になる。したがって、車室19内の酸素及び二酸化炭素の濃度が変化しても短時間でも一定値に戻すことができる。また、選択透過膜構造体40aを介して水分が車室19内側に浸入することがないので、車室19の窓80のくもりを防止することができる。
【0211】
[実施形態3C]
次に、上述の実施形態1C及び2Cのように選択透過膜構造体40aを内装材164に密着させて配置する代わりに、外気取入れ口52a及び外気排出口52bをドア140の内側から覆うように配置した実施形態について図26及び図27に基づいて説明する。図26(a)は、車両10の側面図であり、図26(b)は、ドア140を車両10の車幅方向に切った概略断面図である。また、図27は、ドア140を車両10の車幅方向に切った概略断面図である。
【0212】
実施形態3Cにおける空調システムでは、図26(b)に示すように、ドア140は、車室19外側に面する外壁50aと車室19内側に面する内壁50bとで構成された空間151を有している。また、外気取入れ口52aは、外壁50aの下部に外気排出口52bよりも上方に設けられている。
【0213】
また、外気排出口52bは、外壁50aの下部に設けられており、選択透過膜構造体40aは、空間151に外気取入れ口52a及び外気排出口52bを覆うように、空間151に図中右上から左下に斜めに配置されている。また、選択透過膜構造体40aは、その車室内側の片面全体を補強材13cにより補強されている。さらに、選択透過膜構造体40a及び外壁50aに挟まれた部分には、蓄熱体15が設けられている。
【0214】
補強材13cの材料としては、有機系高分子、無機化合物又は炭素を含む材料を用いることができ、例えば、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルサルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、フッ素樹脂(例えば、PTFE、PEFなど)、ガラス(たとえば繊維状)、セルロースなどから選ばれる単一材料もしくは2つ以上の材料が挙げられる。この補強材13cは、多孔構造をとることが好ましく、例えば、数10から数100ナノメータの径の細孔が形成されていることが好ましい。
【0215】
蓄熱体15は、選択透過膜構造体40aを直接又は補強材13cを介して間接的に加熱するものである。また、蓄熱体15は、外部から供給される熱を蓄え、蓄えた熱で選択透過膜構造体40aを加熱する。具体的には、ハニカム構造のセラミック、無機塩類水和物、パラフィン又はワックスなどを多孔質体に担持させた、選択透過膜構造体40aや補強材13cよりも熱伝導性の高い材料から構成されている。
【0216】
また、蓄熱体15は、外部から供給される熱として、太陽光の輻射熱を蓄えるようになっている。つまり、選択透過膜構造体40aがドア140内部に置かれた場合に車両10を照らす太陽光の輻射熱が蓄積されるのである。
【0217】
なお、図27(a)に示すように、選択透過膜構造体40aの車室19外側に除湿材16を備えるようにすると、選択透過膜構造体40aの車室19外側の面に接触する外気に含まれる湿気を除去することができるので、選択透過膜構造体40aの表面に水分が付着することがない。したがって、選択透過膜構造体40aの気体の透過性能を保持することができる。
【0218】
さらに、図27(b)に示すように、補強材13cの車室19内側に送風機118を装着するようにしてもよい。このようにすると、送風機118により車室19内側に外気を吸い込むようにすると、外気取入れ口52aから取り入れられ、選択透過膜構造体40aの車室19外側の面に接触する外気の量が増す。
【0219】
したがって、車室19内側に取り入れられる酸素や車室19外側に排出される二酸化炭素の量が増えるので、車室19内側の酸素や二酸化炭素の濃度が変化しても短い時間で一定値に戻すことができる。
【0220】
上述の空調システムを備える自動車によれば、SPM等の大気中の浮遊物質の車室への流入を防止することができ、且つ車内にSPM等の浮遊物質が存在する場合にはそれを除去することもできる。
【実施例】
【0221】
(実施例1)
Pluronic P123(BASF社製、(エチレンオキサイド)20(プロピレンオキサイド)70(エチレンオキサイド)20)88g、水2640g、塩酸453.5mlの混合液を室温でメカニカルスターラーを用いて撹拌し、Pluronic P123が溶解した後、テトラエトキシシラン(関東化学社製)187.8gを滴下して、さらに12時間撹拌した。35℃に保ったオーブンで20時間加熱し、さらに100℃に保ったオーブンで24時間加熱した。生成した白色固体を水洗浄、濾取し、真空ポンプを用いて乾燥した。その後、550℃に保った焼成炉で6時間焼成し、選択透過材料の添加剤であるメソポーラスシリカ(56.3g)を得た。
【0222】
次に、シリコーン系ポリマーであるシリコーン変性プルランポリマー(信越化学工業社製、X−22−8400)をトルエンで溶解して、トルエンに含まれるシリコーン変性プルランポリマー(固形分)の含有率を10wt%に調整した。この溶液12gに対して、上述のメソポーラスシリカ0.098g(シリコーン変性プルラン樹脂固形分100質量部に対する添加量が81.7重量部となるメソポーラスシリカ)を配合し、超音波分散機を用いて混合し、選択透過材料を得た。
【0223】
次に、補強用メッシュ材であるPET64−HCをPETフィルム上に設置した後、PETフィルム上に設置されたPET64−HCに、目留め材塗料をワイヤーコーターで塗布して、PET64−HCの開口に目留め材塗料を充填し、目留めを行った。目留め材塗料としては、HEAA樹脂(固形分)を50wt%の含有率で含むエタノール溶液を用いた。
【0224】
PET64−HCの開口に目留め材塗料を充填した後に、PET64−HCに塗布された目留め材塗料を熱処理し、PET64−HCの開口に充填された目留め材塗料から希釈溶剤であるエタノールを揮発させることにより、目留め材の体積を収縮させ、PET64−HCの露出部を形成した。
【0225】
次に、PET64−HCの露出部と、開口に充填された目留め材の露出部と、を覆うように、上述の選択透過材料をワイヤーコーターで塗布した。次に、熱処理によって、選択透過材料の溶剤成分(トルエン)を除去することにより、選択透過材料から選択透過膜を成膜した。
【0226】
次に、選択透過膜が積層されたPET64−HCから、PETフィルムを剥離した。そして、PET64−HCにおいて選択透過膜が積層された面とは反対側の面の側から、PET64−HCの開口に充填された目留め材を水で洗い流して除去した。目留め材を除去した後、PET64−HC及び選択透過膜を乾燥して水分を除去することによって、実施例1の選択透過膜構造体を得た。なお、選択透過膜構造体が備える選択透過膜の平均膜厚は3.8μmとした。
【0227】
(実施例2〜4,7〜9)
補強用メッシュ材の種類、目留め材塗料が含有する樹脂の種類、目留め材塗料における樹脂(固形分)の含有率(wt%)、選択透過材料が含む添加剤の種類、シリコーン変性プルラン樹脂固形分100質量部に対する添加剤の添加量(質量部)を表2に示すものとしたこと以外は、実施例1と同様の材料及び製造方法を用いて、実施例2〜4,7〜9の各選択透過膜構造体をそれぞれ作成した。なお、表2に示すNanoTek SiOはシーアイ化成社製の添加剤である。
【0228】
【表2】



【0229】
(実施例5)
実施例5では、補強用メッシュ材の種類、目留め材塗料が含有する樹脂の種類、目留め材塗料における樹脂(固形分)の含有率(wt%)、選択透過材料が含む添加剤の種類、シリコーン変性プルラン樹脂固形分100質量部に対する添加剤の添加量(質量部)を表2に示すものとしたこと以外は、実施例1と同様の材料を用いて選択透過膜構造体を作成した。また、実施例5の選択透過膜構造体は、以下にように、実施例1とは異なる製造方法で作成した。
【0230】
まず、補強用メッシュ材であるPET85−HCをPETフィルム上に設置した後、PETフィルム上に設置されたPET85−HCに、目留め材塗料をワイヤーコーターで塗布して、PET85−HCの開口に目留め材塗料を充填した。
【0231】
次に、目留め材塗料が塗布されたPET85−HC上に、目留め材との接着性及び選択透過材料との接着性を共に有する塗料を塗布し、この塗料から中間層を形成した。中間層の厚さは、約2.6μmとした。中間層を形成するための塗料としては、目留め材のHEAA及び上述の選択透過材料との接着性を共に有するPVA(品番:JL−05E、日本酢ビ・ポバール社製)の含有率が20wt%である水溶液を用いた。
【0232】
中間層の形成後、熱処理により、PET85−HCの開口に充填された目留め材及び中間層に含まれる溶媒成分を除去し、目留め材及び中間層の体積を収縮させ、PET85−HCの露出部を形成した。
【0233】
次に、PET85−HCの露出部及び中間層を覆うように、上述の選択透過材料をワイヤーコーターで塗布した。次に、熱処理によって、選択透過材料の溶剤成分を除去することにより、選択透過材料から選択透過膜を成膜した。
【0234】
選択透過膜の成膜後、選択透過膜が積層されたPET85−HCから、PETフィルムを剥離した。そして、PET85−HCにおいて選択透過膜が積層された面とは反対側の面の側から、PET85−HCの開口に充填された目留め材と、その奥の中間層とを、水による洗浄等によって除去した。目留め材及び中間層を除去した後、PET85−HC及び選択透過膜を乾燥して水分を除去することによって、実施例5の選択透過膜構造体を得た。
【0235】
(実施例6)
中間層を形成するための塗料として、PVA(日本酢ビ・ポバール社製、ASP05)の含有率が20wt%である水溶液を用いたこと以外は、実施例5と同様の材料及び方法を用いて、実施例6の選択透過膜構造体を形成した。
【0236】
(比較例1,2)
比較例1,2では、補強用メッシュ材の種類、目留め材塗料が含有する樹脂の種類、目留め材塗料における樹脂(固形分)の含有率(wt%)、選択透過材料が含む添加剤の種類、シリコーン変性プルラン樹脂固形分100質量部に対する添加剤の添加量(質量部)を表2に示すものとした以外は実施例1と同様の材料を用いて選択透過膜構造体を形成した。また、比較例1,2では、目留め材で補強用メッシュ材を目留めすることなく、補強メッシュ材に直接選択透過材料を塗布することによって、選択透過膜を作成した。
【0237】
実施例1〜9、および比較例1,2において、補強用メッシュ材に選択透過材料を塗布し、選択透過膜を形成した際に、選択透過膜の成膜状態(厚さの均一性、表面の平滑性)を評価した。
【0238】
目留め材で補強用メッシュ材を目留めした実施例1〜9では、補強用メッシュ材の開口に選択透過材料が過度に流入することがなく、厚さが均一で表面が平滑な選択透過膜を有する選択透過膜構造体を得ることができた。特に、目留め材として、HEAA樹脂含むエタノール溶液を用いた実施例1〜6では、目留め材による目留めが確実になされ、選択透過膜の成膜状態が良好であることが確認された。
【0239】
一方、目留め材で補強用メッシュ材を目留めすることなく、補強メッシュ材に直接選択透過材料を塗布することによって選択透過膜を成膜した比較例1,2では、補強用メッシュ材の開口内に選択透過材料が過度に流入してしまい、厚さが均一で表面が平滑な選択透過膜を得ることができなかった。
【0240】
(気体透過係数の評価)
選択透過膜の膜厚を表3に示す値としたこと以外は、実施例3と同様の方法で、実施例3aの選択透過膜構造体を形成した。選択透過膜の膜厚を表3に示す値としたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例4aの選択透過膜構造体を形成した。選択透過膜の膜厚を表3に示す値としたこと以外は、実施例6と同様の方法で、実施例6aの選択透過膜構造体を形成した。選択透過膜の膜厚を表3に示す値としたこと以外は、比較例1と同様の方法で、比較例1aの選択透過膜構造体を形成した。実施例3a,4a,6a及び比較例1aで得られた膜について、気体透過率測定装置(GTRテック社製、型番:GTR−20XAMDE)を用い、下記の測定条件で、酸素及び窒素についての気体透過係数を測定した。得られた結果を表3に示す。
<測定条件>
温度 :23±2℃
膜の下流の圧力:約0.0013atm
膜の上流の圧力:1.05〜1.20atm
膜間の圧力差 :1.05〜1.20atm
【0241】
(nSPM遮断率の評価)
実施例3a,4a,6a及び比較例1aで得られた膜について、図28の概略図に示す装置を用い、次の(1)〜(5)のプロセスで、nSPM遮断率の測定を行った。得られた結果を表3に示す。
(1)ナノ粒子発生装置(Palas社製、型番:GFG−1000)により10〜500nmのカーボン粒子を発生させた。
(2)膜をサンプルホルダー(膜面積:MAX16[cm])にセットし、バルブ(V1)を閉じ、B層を減圧した(差圧1[kPa])。
(3)B層を減圧した後、バルブ(V1)を開き、B層内が大気圧に戻る際に透過するガスに乗せてナノ粒子を膜に供給し、膜を透過した粒子をB層にためた。
(4)B層内の粒子重量を、粒子カウンター(TSI社製、型番:SMPS−3034)で粒子重量を計測した。
(5)以下の式に基づいて遮断率を算出した。
nSPM遮断率[wt%]=100×{(Cin−Cout)/Cin}
(式中、「Cin」は、膜上流での粒子濃度[単位:μg/ml]を示し、「Cout」は、膜透過後の粒子濃度[単位:μg/ml]を示す。)
【0242】
【表3】



【0243】
(参考例1〜3)
参考例1〜3では、目留め材を用いず、補強用メッシュ材の種類、選択透過材料が含む添加剤の種類、及びシリコーン変性プルラン樹脂固形分100質量部に対する添加剤の添加量(質量部)を表3に示すものとした以外は、実施例1と同様の材料を用いて選択透過膜構造体を作成した。また、参考例1〜3では、実施例1とは異なる以下の方法で選択透過膜構造体を作成した。まず、参考例1〜3では、支持フィルムである離型PETフィルム上にコーター法で水溶性のPVA膜を成膜した。PVA膜の平均膜厚は、表4に示す値とした。次に、PVA膜の上に、表4に示す選択透過材料をコーター法で塗布し、選択透過膜を形成した。この選択透過膜を補強用メッシュ材(PET85−HC)に転写した後、これを水に浸漬してPVA膜を溶解することにより、選択透過膜構造体を形成した。
【0244】
【表4】



【0245】
参考例1〜3においても、選択透過膜の成膜状態(厚さの均一性、表面の平滑性)を評価した。
【0246】
参考例1〜3のいずれにおいても、厚さが均一で表面が平滑な選択透過膜を有する選択透過膜構造体を得ることができた。特に、離型PETフィルム上に形成された水溶性のPVA膜が薄いほど、完成後の選択透過膜構造体に付着したPVA膜の残渣が少ないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0247】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る選択透過膜構造体の概略斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る選択透過膜構造体が備える選択透過膜を透過する気体の流れを示すイメージ図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る選択透過膜構造体の第1の製造方法が備える工程を示す概略図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る選択透過膜構造体の第1の製造方法が備える工程を示す概略図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る選択透過膜構造体の第1の製造方法が備える工程を示す概略図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態に係る選択透過膜構造体の第1の製造方法が備える工程を示す概略図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態に係る選択透過膜構造体の概略断面図である。
【図8】図8は、本発明の一実施形態に係る選択透過膜構造体の第2の製造方法が備える工程を示す概略図である。
【図9】図9は、本発明の一実施形態に係る選択透過膜構造体の第2の製造方法が備える工程を示す概略図である。
【図10】図10は、本発明の一実施形態に係る選択透過膜構造体の第2の製造方法が備える工程を示す概略図である。
【図11】図11は、本発明の選択透過膜構造体を備える空調システムの一実施形態を示す図である。
【図12】図12は、本発明の選択透過膜構造体を備える本発明の空調システムの一形態である自動車におけるエアコンユニットの一部を示す模式断面図である。
【図13】図13(a)は、本発明の選択透過膜構造体を圧力調整用換気装置内に備える車両の一形態を示す概略構成図であり、図13(b)は、車両の後方から見た車両の後部部分の断面図である。
【図14】図14(a)は、本発明の選択透過膜構造体を天井部分に設けた車両を示す概略構成図であり、図14(b)は、図14(a)に示す天井部分の拡大断面図である。
【図15】図15(a)、図15(b)、図15(c)は、本発明の選択透過膜構造体を天井部分に設けた車両における天井部分の拡大断面図である。
【図16】図16(a)、図16(b)、図16(c)は、本発明の選択透過膜構造体を天井部分に設けた車両における天井部分の拡大断面図である。
【図17】図17(a)は、本発明の選択透過膜構造体をフロントガラス部分に備える車両の一形態を示す概略構成図であり、図17(b)は、図17(a)に示す車両のフロントガラス部分の拡大断面図である。
【図18】図18は、本発明の選択透過材料からなる選択透過膜をリアウィンドウ部分に備える、本発明の空調システムの一形態である車両を示す概略構成図である。
【図19】図19(a)は、車両のサンルーフを、本発明の選択透過膜構造体を装着した多孔質ガラスで構成したときの構成図であり、図19(b)は、本発明の選択透過膜構造体をサンルーフに備える車両の一形態を示す概略構成図である。
【図20】図20は、本発明の選択透過膜構造体を備えるピラーを有する車両の概略断面図である。
【図21】図21(a)は、本発明の選択透過膜構造体を備えるピラーを有する車両及び車両に設けられた各ピラーの概略構成図であり、図21(b)は、本発明の選択透過膜構造体を備えるセンターピラーの構造を模式的に示した概略構造図である。
【図22】図22(a)は、本発明の選択透過膜構造体を床部に備える車両の概略断面図であり、図22(b)は、図22(a)に示す床部の拡大図である。
【図23】図23(a)は、本発明の選択透過膜構造体をドアに備える車両の側面図であり、図23(b)は、本発明の選択透過膜構造体を備えるドアを車両の車幅方向に切った概略断面図である。
【図24】図24(a)は、本発明の選択透過膜構造体をドアに備える車両の側面図であり、図24(b)は、本発明の選択透過膜構造体を備えるドアを車両の車幅方向に切った概略断面図である。
【図25】図25(a)、図25(b)は、本発明の選択透過膜構造体を備えるドアを車両の車幅方向に切った概略断面図である。
【図26】図26(a)は、本発明の選択透過膜構造体をドアに備える車両の側面図であり、図26(b)は、本発明の選択透過膜構造体を備えるドアを車両の車幅方向に切った概略断面図である。
【図27】図27(a)、図27(b)は、本発明の選択透過膜構造体を備えるドアを車両の車幅方向に切った概略断面図である。
【図28】図28は、nSPM遮断率の測定を行った装置の概略図である。
【符号の説明】
【0248】
10…車両、11…車室壁、12a…前方補強材、12b…後方補強材、13a・・・選択透過膜、13c…補強材、13s・・・選択透過材料、14,36…除塵フィルタ、16…除湿材、17…脱臭材、18…酸素センサ、19…車室、22…外壁、24…内壁、26、126…外気導入口、27a…前部開閉扉、27b,27d…ヒンジ、27c…後部開閉扉、27e…前部堰、27f…後部堰、28…外気排出口、29a…前部ファン、29b…後部ファン、30…エアコンユニット、32…ダンパ、32a…ヒンジ、34…バンパ、35…エアコンユニットケース、35a…外気導入口、35b…内気導入口、35c…開口部、37…遠心式送風ファン、38…筐体、40a・・・選択透過膜構造体、50…フロントピラー、52…センターピラー、52a,154c…外気取入れ口、52b,128,154d…外気排出口、52c,152a…内気取入れ口、52d,152b…内気排出口、52e…上端部、52f…下端部、53…側板、54…リアピラー、60…温度センサ、70…空洞、80…窓、90…制御部、110…圧力調整用換気装置、112…カバー、118…送風機、120…空間、122…ボディ、126…外気導入口、127a…前部堰、127b…後部堰、130…フロントガラス、132…多孔質ガラス、138…サンルーフ、140…ドア、150…床部、151…空間、152…床板、154…外板、156a,156b…ファン、164…内装材、302・・・補強用メッシュ材、302b・・・補強用メッシュ材の開口、302c・・・補強用メッシュ材の露出部、321…シリコーン系ポリマー、323…固形添加剤、325…空隙、332・・・目留め材、332a・・・目留め材の露出部。334・・・中間層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強用メッシュ材の開口に目留め材を充填する工程と、
前記開口に充填された前記目留め材の体積を収縮させる工程と、
前記目留め材で覆われていない前記補強用メッシュ材の露出部と、前記開口に充填された前記目留め材の露出部と、を覆うように、選択透過材料から選択透過膜を形成する工程と、
前記選択透過膜を形成した後に、前記補強用メッシュ材の前記開口から前記目留め材を除去する工程と、を備える、
前記補強用メッシュ材と前記補強用メッシュ材に積層された前記選択透過膜とを有する選択透過膜構造体の製造方法。
【請求項2】
補強用メッシュ材の開口に目留め材を充填する工程と、
前記開口に充填された前記目留め材の露出部に、前記目留め材との接着性及び選択透過材料との接着性を共に有する中間層を形成する工程と、
前記開口に充填された前記目留め材の体積を収縮させる工程と、
前記目留め材で覆われていない前記補強用メッシュ材の露出部及び前記中間層を覆うように、前記選択透過材料から選択透過膜を形成する工程と、
前記選択透過膜が形成された後に、前記補強用メッシュ材の前記開口から前記目留め材及び前記中間層を除去する工程と、を備える、
前記補強用メッシュ材と前記補強用メッシュ材の上に積層された前記選択透過膜とを有する選択透過膜構造体の製造方法。
【請求項3】
前記開口に充填された前記目留め材の体積を収縮させる工程において、前記目留め材の体積収縮に伴い前記目留め材で被覆されていた前記補強用メッシュ材の一部を露出させることによって、前記補強用メッシュ材の前記露出部を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の選択透過膜構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の選択透過膜構造体の製造方法によって得られる選択透過膜構造体であって、
前記選択透過膜を形成するための選択透過材料が、オルガノシロキサン骨格を有するポリマーに固形添加剤が分散されてなり、
前記選択透過材料から形成される膜に酸素及び窒素を透過させた場合に、23±2℃、膜間の圧力差1.05〜1.20atmにおける酸素及び窒素の透過係数(cm3・cm・sec-1・cm-2・cmHg-1)の関係が下記式(1)で表され、
前記補強用メッシュ材の開口径が前記選択透過膜の膜厚より大きく、
前記補強用メッシュ材の開口率が30%以上であることを特徴とする選択透過膜構造体。
【数1】



[式中、P(O)は酸素の透過係数、P(N)は窒素の透過係数を示す。]
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の選択透過膜構造体の製造方法によって得られる選択透過膜構造体であって、
前記選択透過膜を形成するための選択透過材料が、オルガノシロキサン骨格を有するポリマーにイオン性液体を添加してなり、
前記選択透過材料から形成される膜に酸素及び窒素を透過させた場合に、23±2℃、膜間の圧力差1.05〜1.20atmにおける酸素及び窒素の透過係数(cm3・cm・sec-1・cm-2・cmHg-1)の関係が下記式(1)で表され、
前記補強用メッシュ材の開口径が前記選択透過膜の膜厚より大きく、
前記補強用メッシュ材の開口率が30%以上であることを特徴とする選択透過膜構造体。
【数2】



[式中、P(O)は酸素の透過係数、P(N)は窒素の透過係数を示す。]
【請求項6】
空調対象空間への気体の供給及び/又は空調対象空間からの気体の排出が行われる選択透過膜構造体を備える空調システムであって、
前記選択透過膜構造体は請求項4または5に記載の選択透過膜構造体である空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2008−178863(P2008−178863A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286557(P2007−286557)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】