説明

遺伝子ベクター

miRNA配列標的を含む遺伝子ベクター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入および治療適用における使用のための遺伝子ベクター、ならびにその製造方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
レンチウイルスベクター(LV)および他のウイルスベクターは、遺伝子治療のための魅力的な道具である(Thomasら、2003)。LVは、肝細胞、神経細胞および造血幹細胞などの非分裂細胞などの様々な組織を形質導入することができる。さらに、LVは標的細胞ゲノムに組込まれ、長期間のトランスジーン発現を提供する。
【0003】
LVは効率的で安定な遺伝子導入を提供することができるが、特定の細胞型への発現を標的化すること、または特定の細胞型からの発現を脱標的化することは依然として難しい。この問題は特に、トランスジーン発現が、腫瘍細胞または肝細胞などの特定の細胞集団において望ましいだけでなく、広範囲の細胞型を形質導入することができるin vivoでのベクター投与後に関連する。発現を脱標的化することはまた、前駆細胞または幹細胞を形質導入する場合に重要であるが、分化した集団の1つの特定の系列のみに限定されたトランスジーン発現を有することが必要である。現在まで、この問題に取り組むための多くの努力は、ベクターのエンベロープを標的化すること、または組織特異的プロモーターを操作することに依ってきた。しかしながら、これらの方法には、両方とも制限が存在する。
【0004】
標的化されたエンベロープは、ベクター力価を低下させ、ベクターの感染性の低下をもたらし得る (Sandrinら、2003)。天然のプロモーター/エンハンサーエレメントに基づいて構築されるが、それと同一ではない組織特異的プロモーターは、普遍的に発現されるプロモーターと比較して、標的組織において弱く発現されることが多い。さらに、これらの組織特異的プロモーターは、常に絶対的な細胞特異性を達成するわけではない(Follenziら、2002)。非標的細胞におけるトランスジーン発現は、「漏出しやすい」プロモーター活性およびプロモーター/エンハンサートラッピングなどの様々な理由で生じ得る(De Palmaら、2005)。トラッピング現象は、前記ベクターが活発な転写の部位に優先的に組込まれ、次いで、該ベクターのプロモーターとは無関係にトランスジーン転写を駆動し得るために生じる。
【0005】
特定の細胞型からのトランスジーン発現の厳しい制限を可能にしながら、これらの問題を回避し、高い感染性および活発な発現を維持することができるベクターを作製するために、本発明者らは、内因的に発現されるマイクロRNA(miRNA)により調節されるベクターを開発した。
【0006】
WO 03/020931は、miRNAを提示するリポーター系アッセイ系が、容易にアッセイされる遺伝子のノックダウンを測定する方法を提供することを記載している。この系は、siRNAおよびキメラRNAが、容易にアッセイされるルシフェラーゼ遺伝子の発現を低下させ得るかどうか、を決定するのに用いられる。
【0007】
米国特許出願第20050266552号は、miRNA翻訳抑制経路に関与する遺伝子および/またはそのような経路の化学的調節因子の同定に用いることができる細胞系を作製するための哺乳動物細胞への導入にとって好適なリポーター構築物の構築を記載している。
【0008】
Mansfield JHら(2004) Nat Genet 36(10):1079-83 Epub、Nat Genet (2004) 36(11):1238における誤植; およびBrennecke Jら(2005) PloS Biol 3(3):e85は両方とも、miRNA標的配列を有するリポーター遺伝子を含むプラスミドを記載している。両報告においては、前記構築物は、内因性miRNAの発現をモニターするために設計されており、トランスジーンを調節し、および/または発現を特定の細胞型に制限するために設計されたわけではなかった。
【0009】
強調されるべき本発明者らの発明の重要な特徴は、本発明者らが、トランスジーン発現を制御するために、内因性miRNA調節型ようにベクターを設計して、該ベクターの特異的発現プロフィールを達成する方法を記載していることである。miRNA標的配列をリポーター構築物(ルシフェラーゼなどのマーカー遺伝子を発現するプラスミド)中に含有させて、miRNAの発現を追跡することができることを証明する報告は既に存在するが、それらはベクター調節のために特異的にmiRNAを活用することを記載していない。それらは、目的のトランスジーンの免疫を介する拒絶を阻止するための遺伝子治療手法またはウイルス粒子を産生する細胞にとって通常は毒性的である毒性遺伝子を発現するウイルス粒子の力価を増加させるための製造手法のための、本発明のベクターの使用を具体的に記載していない。
【発明の開示】
【0010】
発明の要旨
本発明の一態様に従って、遺伝子治療、遺伝子導入および/またはmiRNA配列標的を含むトランスジーンの発現の調節などの遺伝子操作手法にとって好適な遺伝子導入ベクターが提供される。このmiRNAを、前記トランスジーンに「機能し得る形で連結する」。用語「機能し得る形で連結された」とは、記載の成分が、その意図される様式でそれらが機能することを可能にする関係にあることを意味する。
【0011】
一実施形態においては、前記ベクターは、miRNA配列標的を含むウイルスベクター粒子である。
【0012】
一実施形態においては、前記粒子は、ゲノムがmiRNA配列標的を含む、ベクター粒子のゲノム(DNAまたはRNA)を含む。
【0013】
一実施形態においては、前記粒子は、RNAゲノムがmiRNA配列標的を含む、ベクター粒子のゲノムを含む。
【0014】
一実施形態においては、前記粒子は、直列であってもよい複数のmiRNA配列標的を含む、ベクター粒子のRNAゲノムを含む。
【0015】
一実施形態においては、前記粒子は、直列であってもよい複数の異なるmiRNA配列標的を含む、ベクター粒子のRNAゲノムを含む。
【0016】
前記ベクター中に含まれる2コピー以上のmiRNA標的配列は、前記系の有効性を増加させることができる。また、本発明者らが想定するのは、異なるmiRNA標的配列を含有させることができることである。例えば、2個以上のトランスジーンを発現するベクターは、異なっていてもよい2個以上のmiRNA標的配列の制御下にトランスジーンを有してもよい。miRNA標的配列は直列であってもよいが、アンチセンス方向の使用のような、他の配置も想定される。アンチセンス方向は、さもなければ産生細胞にとって毒性的であり得る遺伝子産物の発現を回避するためのウイルス粒子の産生において有用であり得る。
【0017】
別の実施形態においては、前記粒子は、RNAゲノムがトランスジーンを含む該ベクター粒子のゲノムを含む。
【0018】
好ましくは、前記粒子はレンチウイルスから誘導可能なものである。
【0019】
別の実施形態においては、前記遺伝子導入ベクターは、非ウイルス遺伝子導入ベクターの形態である。この実施形態においては、遺伝子導入ベクターは、miRNA標的配列および必要に応じて、トランスジーンを含む発現ベクターもしくはプラスミドを含むか、またはその形態であってもよい。
【0020】
本明細書に記載の発現ベクターは、転写され得る配列を含む核酸の領域を含む。かくして、mRNA、tRNAおよびrRNAをコードする配列が、この定義内に含まれる。
【0021】
本発明の遺伝子ベクターまたは遺伝子導入ベクターを用いて、目的の部位または細胞にトランスジーンを送達することができる。本発明のベクターを、ウイルスまたは非ウイルスベクターにより標的部位に送達することができる。
【0022】
ベクターは、ある環境から別の環境への実体の導入を可能にするか、または容易にするツールである。例えば、組換えDNA技術において用いられるいくつかのベクターは、DNAの断片(異種cDNA断片などの異種DNA断片など)などの実体を、標的細胞に導入することを可能にする。必要に応じて、一度、標的細胞内に導入されたら、ベクターは該細胞内に異種DNAを維持するように働くか、またはDNA複製の単位として作用し得る。組換えDNA技術において用いられるベクターの例としては、プラスミド、染色体、人工染色体またはウイルスが挙げられる。
【0023】
非ウイルス送達系としては、限定されるものではないが、DNAトランスフェクション方法が挙げられる。ここで、トランスフェクションは、遺伝子を標的哺乳動物細胞に送達するために非ウイルスベクターを用いる方法を含む。
【0024】
典型的なトランスフェクション方法としては、エレクトロポレーション、DNA微粒子銃(biolistics)、脂質媒介性トランスフェクション、圧縮DNA媒介性トランスフェクション、リポソーム、イムノリポソーム、リポフェクチン、陽イオン剤媒介性、陽イオン顔面性両親媒性物質(CFA)(Nature Biotechnology 1996, 14;556)、およびその組合せが挙げられる。
【0025】
ウイルス送達系としては、限定されるものではないが、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、バキュロウイルスベクターが挙げられる。ベクターの他の例としては、ex vivo送達系が挙げられ、例えば、限定されるものではないが、エレクトロポレーション、DNA微粒子銃、脂質媒介性トランスフェクション、圧縮DNA媒介性トランスフェクションなどのDNAトランスフェクション方法が挙げられる。
【0026】
用語「ベクター粒子」とは、好ましくは標的細胞に結合し、それに進入することができる、パッケージングされたレトロウイルスベクターを指す。ベクターについて既に考察されたように、前記粒子の成分を、野生型レトロウイルスについて改変することができる。例えば、前記粒子のタンパク質性コート中のEnvタンパク質を遺伝的に改変して、その標的化特異性を変化させるか、またはいくつかの他の所望の機能を達成することができる。
【0027】
好ましくは、ウイルスベクターは、特定の細胞型(複数も可)に優先的に形質導入する。
【0028】
より好ましくは、ウイルスベクターは、標的化されたベクターであり、すなわち、該ベクターは、それが特定の細胞に対して標的化されるように、天然のウイルスと比較して変化した組織親和性を有する。
【0029】
別の実施形態においては、miRNA標的配列を含む粒子は、mir-142as(hsa-mir-142-3pとも呼ばれる)、let-7a、mir-15a、mir-16、mir-17-5p、mir-19、mir-142-5p、mir-145、mir-218 miRNAにより標的化されるものである。
【0030】
本発明の別の態様に従えば、miRNA配列標的、および必要に応じて、トランスジーンを含むパッケージング可能なベクターゲノムをコードするDNA構築物を含むウイルスベクター粒子を製造するためのDNA構築物のセットが提供される。パッケージング可能なベクターゲノムとは、このベクターゲノムが、それがウイルスベクター粒子中にパッケージングされうる環境にあることを意味する。これは一般的には、Gag-PolおよびEnvの存在を必要とする。
【0031】
本発明の別の態様に従えば、宿主細胞中に特許請求の範囲に記載のDNA構築物のセットを導入し、ウイルスベクター粒子を取得することを含む、ウイルスベクター粒子を調製する方法が提供される。
【0032】
本発明の別の態様に従えば、本発明の方法により製造されたウイルスベクター粒子が提供される。
【0033】
本発明の別の態様に従えば、本発明に従う遺伝子ベクターまたはベクター粒子と、製薬上許容し得る希釈剤、賦形剤または担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0034】
本発明のさらなる態様に従えば、本発明のベクター粒子に感染したか、またはそれを用いて形質導入された細胞が提供される。一実施形態においては、この細胞は、対応するmiRNAを含む。この細胞を、in vivoまたはin vitroシナリオで形質導入するか、または感染させることができる。この細胞は、動物、好ましくは、ヒトもしくはマウスなどの哺乳動物の一部に由来するものであるか、またはそれを形成することができる。かくして、本発明は、例えば、疾患モデルとしての使用のためのトランスジェニック動物の提供において有用であることが明らかであろう。一実施形態においては、前記哺乳動物は非ヒト哺乳動物である。
【0035】
現在のベクター転写制御手法は、内因性遺伝子から取得されたエンハンサー-プロモーターエレメントの送達にほとんど依存している(Thomasら、2003; VermaおよびWeitzman, 2005)。これらの手法を用いれば、遺伝子導入および治療適用にとってしばしば必要とされるような、高度に特異的な遺伝子発現パターンの再構成は、送達系、ベクター能力、および挿入の位置的効果(組込みベクターについて)により制限される。内因的に発現されるmiRNAをその制御のために利用する新規ベクターを開発することにより、本発明者らは、以前には存在しなかったベクターに対して制御の層を付加した。この新規手法により、選択された細胞型および系列における遺伝子発現の特異的抑制が可能になる。
【0036】
この系を用いて、本発明者らは、既存技術を用いて現在可能であるものよりも非常に厳密なトランスジーン発現の制御を達成することができる。
【0037】
組込みベクターに適用した場合、それは、挿入位置効果(ベクター-内部プロモーターの転写制御を無効にする強力なプロモーター/エンハンサー配列の後ろに組込む)の結果として起こり得、高度に細胞特異的なパターンのトランスジーン発現を可能にし得る、トランスジーン調節異常の問題を回避することができる。
【0038】
本発明のいくつかのさらに重要な利点
遺伝子導入および治療のためのトランスジーン発現のために、レンチウイルスベクターを含むウイルスなどのベクターを、miRNA標的配列と共に工学的に操作して、細胞型特異的な内因性miRNAにより認識されるようにし、かくして、細胞のサブセット中でのトランスジーン発現を制御することができる。さらに、miRNA標的配列の組合せを用いて、高度に特異的な細胞発現パターンを有するベクターを取得することができる。
【0039】
本発明者らは、let-7a、mir-15a、mir-16、mir-17-5p、mir-19、mir-142-3p、mir-142-5p、mir-145、およびmir-218などの9個の異なるmiRNAを用いてこれを証明する。彼らは、細胞内のmiRNAの濃度を、ベクターの発現プロフィールを予測するのに用いることができることを示す。かくして、本特許により記載される方法は、高度に特異的な細胞発現パターンを有するベクターを設計するための簡便な方法を提供する。
【0040】
本発明のための様々な使用を想定することができる。
【0041】
実際、一例として、本発明者らは、miR-142-3pは造血組織中で細胞型特異的発現パターンを有するため、以下の図面に示されるような、トランスジーンの3'UTR中にmir-142-3p標的配列を提示するベクターを用いることにより、普遍的に発現されるプロモーターからのトランスジーン発現を造血細胞系において正確に阻止することができることを示した。かくして、この系は他の細胞型においてトランスジーン発現を低下させない。
【0042】
本発明者らはまた、mir-19aの標的配列を前記ベクターに組込み、トランスジーン発現が、mir-19aを高レベルで発現する293T産生細胞中で抑制されうること、およびこれが該ベクターの産生に負に影響しないことを証明する。この戦略は、毒性的なトランスジーンを担持する高力価のベクターを製造するための重要で、これまでは利用できなかった手段を提供する。
【0043】
我々の発明のさらなる使用は、異なる発現プロフィールを有する2個のトランスジーンを発現するベクター系の設計にある。本発明者らは、mir-142-3pの標的配列を、二方向レンチウイルスベクターの2個の遺伝子のうちの1個に組込むことにより、これを証明する。腎臓細胞においては、mir-142-3pが存在しないため、両トランスジーンが発現される。しかしながら、造血細胞においては、2個のトランスジーンのうちの1個のみが発現される。この構築物は、miRNA調節を用いて、単一のベクター構築物に由来する2個のトランスジーンを個別に調節することができるという原理の証拠を提供する。このベクター設計の使用は、細胞の異種集団を形質導入することができ、かつ存在する細胞型の1つにおいては、遺伝子1の発現が必要であり、別の細胞型においては、遺伝子2の発現が必要である状況を含む。この設計を、特定の細胞の陰性および陽性選択の両方を必要とする治療用途に用いることができる。例えば、胚性幹細胞を、遺伝子1が毒性的トランスジーンであり、遺伝子2が細胞にとって有利な増殖を提供するトランスジーンである単一ベクターにより形質導入することができる。遺伝子1はニューロンにとって特異的なmiRNA標的配列を含み、遺伝子2は胚性幹細胞にとって特異的なmiRNA標的配列を含んでもよい。このように、形質導入された胚性幹細胞を、ニューロンに分化するように仕向けることができ、また、分化せず、未分化の胚性幹細胞として残存する任意の細胞を選択的に殺傷することができる。
【0044】
本発明者らは、miRNA標的配列の細胞中への導入は、高いコピー数でさえ、前記ベクター配列を標的化している内因性miRNAの天然の活性または発現を混乱させないことを示す。
【0045】
本発明者らはまた、高度に特異的な細胞発現パターンを有するベクターを取得するために、miRNA標的配列の組合せを付加することができる。
【0046】
遺伝子発現を制限するためのmiRNA介在性手法は、トランスジーンを制御する他の戦略を超えるいくつかの利点を有する。現在まで、専門的抗原提示細胞(APC)からの発現を限定する多くの努力は、組織特異的プロモーターに依存している(Brownら、2004b;Follenziら、2004;Mingozziら、2003)。この手法は発現を標的細胞に首尾よく限定することができるが、少数の非標的細胞における「漏出しやすい」発現が観察される。これは、ベクター系への組込みのために改変された、再構成されたプロモーターが、その細胞特異性のいくつかを失うことが多いため、また、活発なプロモーターおよびエンハンサーの近くでのベクターの組込みが、組織特異的プロモーターを活性化し、トランスジーン発現を駆動することができるために起こる。miRNA介在性サイレンシングは転写後レベルで起こるため、プロモーターおよびエンハンサーのトラッピングは無意味である。それゆえ、miRNA調節を用いて、本発明者らが本明細書に記載したように、依然として広い組織発現を可能にしながら、特定の細胞型からのトランスジーン発現を効率的に脱標的化することができる。miRNA調節を、プロモーター/エンハンサーによってトランスジーンを調節することに対する相補的な手段として用いることもできる。既に組織特異的プロモーターの制御下にある発現カセット中にmiRNA標的配列を含有させることにより、本発明者らは標的外の発現を排除するであろう追加の調節の層を付加する。
【0047】
miRNAを用いて、特定の細胞型からのトランスジーン発現を脱標的化することができるという原理の証拠として、本発明者らは、造血細胞からの発現を阻止しながら、肝細胞および他の非造血細胞における活発な発現を提供することができるLVを開発した。この設計は、トランスジーンに対する宿主の免疫応答が治療効率を制限する全身遺伝子治療と特に関係がある(BrownおよびLillicrap, 2002)。本発明者らの研究室および他者に由来する研究は、遺伝子導入後のトランスジーン特異的免疫応答の誘導に寄与する主な因子は、トランスジーン発現の部位に関連することを示唆している(Brownら、2004b;Follenziら、2004)。マクロファージおよび樹状細胞などの造血系のAPCにおいて発現されるベクターは、抗トランスジーン免疫応答を効率的に誘発することが知られている(De Geestら、2003)。
【0048】
実際、CMVプロモーターの制御下でトランスジーンを発現するLVの全身投与は、肝臓および脾臓のAPCにおけるトランスジーン発現の高い発生率を誘導し、これは該トランスジーンを発現する細胞の免疫介在性消失をもたらした(Follenziら、2004)。対照的に、CMVプロモーターを、肝臓特異的アルブミンプロモーターと置換した場合、免疫応答の頻度および強度が減少した。免疫の発生率はアルブミンプロモーターの使用により減少したが、いくらかのレベルの免疫応答は依然として観察された。これは、漏出しやすい転写活性およびプロモーター/エンハンサートラッピングの結果である、アルブミンプロモーターからのAPCにおける低レベルのトランスジーン発現に起因するようである。かくして、転写調節のレベルで起こる事象により引き起こされる、非標的細胞におけるトランスジーン発現の問題を、転写後に働くmiRNA系の遺伝子調節を用いることにより克服することができる。トランスジーン発現を特定の細胞型に限定することにより、該トランスジーンを発現する細胞のプールを制限することによる遺伝子導入の潜在的効率をも低下させることができる。
【0049】
かくして、本発明者らは、遺伝子発現を標的化するよりもむしろ脱標的化し、転写後レベルで機能するmiRNA調節が、現在の遺伝子送達系の限界を克服するためのユニークな手段を提供し得ると仮定した。非造血細胞における高レベルの発現を許容しながら、造血系列におけるトランスジーン発現を阻止することにより、本発明者らは、miRNA調節が免疫応答の非存在下で強力で安定な遺伝子導入を可能にすると結論づけた。
【0050】
本発明者らは、普遍的に発現されるPGKプロモーターの転写制御下でグリーン蛍光タンパク質(GFP)リポーターを含む、予め存在するLVを改変して、造血起源の細胞において発現されることが知られるmiRNAの標的配列を含有させた。本発明者らのmiRNAに調節されるLVの全身ベクター投与後、遺伝子発現は、ほとんど肝細胞および肝臓の内皮細胞のみにおいて検出された。クッパー細胞、肝臓常在性マクロファージにおける発現は、実際に検出されなかった。これらの結果は、トランスジーン発現の大部分がクッパー細胞において起こる、miRNA標的配列を含まないLVの投与とはかなり対照的であった。
【0051】
ベクターを免疫応答性Balb/cマウスに注入したその後の実験において、注入後2週間までに、本発明者らは、LV.PGK.GFPにより処理したマウスの肝臓内にGFP陽性細胞を観察しなかった。それとは著しく対照的に、LV.PGK.GFP.142-3pTで処理したマウスは、ベクター投与後2週間で、有意な頻度のGFP陽性肝細胞を有していた。さらに、GFP発現は、注入後120日(分析した最後の時点)以上持続することが見出された。同様に、miRNA調節戦略も、循環する抗原に対する免疫応答を阻止するのに有効であった。具体的には、本発明者らは、ヒト第IX因子(hFIX)を発現するレンチウイルスベクターを用いてB型血友病マウスを処理し、mir-142-3pT配列が該ベクターに含まれる場合、hFIX発現は安定なままであるが、mir-142-3pT配列を含まない同様のベクターで処理したマウスにおいては、hFIX発現は注入の3週間後にも検出されないことを見出した。
【0052】
これらの結果は、miRNAを用いて、ウイルスベクターの発現を再標的化し、疾患の長期間続く治療をもたらすことができるという初めての証明を提供する。それらは、前記ベクターのmiRNA調節が抗トランスジーン免疫応答を減少させることができるという証拠も提供する。その種類の最初のものである、このmiRNA調節型LVは、造血細胞内での遺伝子発現が治療対象にとって有害であり得る場合、肝臓指向的遺伝子治療にとって重要な含蓄を有するであろう。従って、本発明を用いて、導入された遺伝子の免疫介在性拒絶を阻止することができる。
【0053】
in vivoでのベクター投与に際して、本発明は、造血系の一部である免疫系の抗原提示細胞におけるベクター発現を回避し、それによって前記トランスジーンに対する免疫応答の開始を阻止するであろう。考え得るところでは、発現を肝細胞に標的化する組織特異的プロモーターに適用した場合、それは形質導入されたAPCにおける異所性発現の抑制を可能にするであろう。これは、遺伝子導入における主要なハードルおよび長年の問題、すなわち、導入された遺伝子の免疫介在性拒絶を解決することができるであろう。
【0054】
本発明のさらに特定の好ましい態様を、添付の独立請求項および従属請求項に記載する。従属請求項の発明特定事項を、必要に応じて独立請求項の発明特定事項と組み合わせてもよく、特許請求の範囲で明確に記載されたもの以外の組合せであってもよい。
【0055】
本発明の実施は、特に指摘しない限り、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の従来の技術を用いるものであり、それらは当業者の能力の範囲内にある。そのような技術は文献中で説明されている。例えば、J. Sambrook, E. F. Fritsch、およびT. Maniatis, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、1-3巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press; Ausubel, F. M.ら(1995および定期的補遺; Current Protocols in Molecular Biology, 9, 13,および16章, John Wiley & Sons, New York, N.Y.); B. Roe, J. Crabtree,およびA. Kahn, 1996, DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons; J. M. PolakおよびJames O’D. McGee, 1990, In Situ Hybridization: Principles and Practice; Oxford University Press; M. J. Gait (Editor), 1984, Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, Irl Press; D. M. J. LilleyおよびJ. E. Dahlberg, 1992, Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology, Academic Press; Using Antibodies : A Laboratory Manual : Portable Protocol NO. I by Edward Harlow, David Lane, Ed Harlow (1999, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-544-7); Antibodies : A Laboratory Manual by Ed Harlow (編), David Lane (編) (1988, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-314-2), 1855, Handbook of Drug Screening, Ramakrishna Seethala, Prabhavathi B. Fernandes(編)(2001, New York, NY, Marcel Dekker, ISBN 0-8247-0562-9); ならびにLab Ref: A Handbook of Recipes, Reagents, and Other Reference Tools for Use at the Bench, Jane RoskamsおよびLinda Rodgers(編), 2002, Cold Spring Harbor Laboratory, ISBN 0-87969-630-3を参照されたい。これらの一般的な教科書の各々は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0056】
図面の簡単な説明
本発明を、添付の図面に例示されるような好ましい実施形態を参照して、例のみを用いて、さらに説明する(図面の簡単な説明については別節を参照)。
【0057】
マイクロRNA(miRNA)
miRNAは、植物および動物のゲノム中にコードされる小さいRNA分子である。これらの高度に保存された約21マーのRNAは、特定のmRNAに結合することにより、遺伝子の発現を調節する(HeおよびHannon, 2004)。
【0058】
miRNAは、配列特異的様式で遺伝子発現を調節する小さい非コードRNAのファミリーである。
【0059】
「マイクロRNA:遺伝子調節における大きな役割を有する小さいRNA(microRNAs: SMALL RNAS WITH A BIG ROLE IN GENE REGULATION)」、Lin He & Gregory J. Hannon, Nature Reviews Genetics 5, 522-531(2004)からまとめると、以下の通り:
・マイクロRNA(miRNA)は、転写後レベルで遺伝子発現を負に調節する約21〜25ヌクレオチドの小さいRNAのファミリーである。
・miRNAファミリーの基本メンバーであるlin-4およびlet-7は、シノラブディス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)幼虫発達の一時的調節の欠損についての遺伝子スクリーニングを介して同定された。
・ゲノム規模でのクローニングの努力のため、現在では数百のmiRNAが、ハエなどのほとんど全ての後生動物、植物および哺乳動物において同定された。
・miRNAは、多様な発達および生理学的プロセスの間に一時的かつ空間的に調節される発現パターンを示す。
・特性評価された動物のmiRNAの大多数は、今までのところ、それらの標的mRNAからのタンパク質合成に影響する。一方、研究された多くの植物のmiRNAは、今までのところ、それらの標的の切断を指令する。
・miRNAとその標的の間の相補性の程度は、少なくとも部分的には、調節機構を決定する。
・動物においては、miRNAの一次転写物は2つのRNase-III酵素、DroshaおよびDicerにより、成熟miRNA鎖とその相補鎖(miRNA*)の両方を含む小さい、不完全なdsRNA二本鎖(miRNA:miRNA*)に連続的に加工される。成熟miRNAの5'末端での相対的不安定性は、エフェクター複合体であるRNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)への成熟miRNAの非対称的集合体を誘導する。
・Agoタンパク質は、RISCの重要な成分である。種々の後生動物ゲノムにおいて相同な複数のAgoは、関連するが特異的である生物学的機能を実行する複数のRISCの存在を示唆する。
・miRNA標的の生物情報学的予測は、miRNAの機能を研究するための重要な道具を提供してきた。
【0060】
数百のmiRNAが、マウス、ヒト、ショウジョウバエ、C.エレガンスおよびシロイヌナズナからクローニングされ、配列決定されている。そのような配列の例を、www.sanger.ac.uk上に見出すことができる(Griffiths-Jonesら、2006)。さらなるmiRNA標的配列を、www.miRNA.orgで検索することができる。
【0061】
mRNAと同様、miRNA発現プロフィールは、組織によって変化するが、異なる個体における同一の組織については類似するようである(BaskervilleおよびBartel, 2005)。所望の発現プロフィールを有するmiRNAの決定を、当業者には公知の技術を用いて達成することができる。一度、miRNAが同定されたら、対応する標的配列を、例えば、上記のデータベースを用いて容易に決定することができる。
【0062】
例えば、Ambion, Incから入手可能なmirVana(商標)miTNA Probe SetおよびmirVana(商標)miTNA Labelling Kitを用いて、製造業者の説明書に従ってヒト組織におけるmiRNA発現プロフィールを比較することができる。
【0063】
組織特異的miRNAを同定する別の一般的な方法は、ノーザンブロットを用いることである。そのような技術の例は、Lagos-Quintana Mら、Current Biol(2002) 12:735-739に記載されており、彼らはマウスに由来する約21ヌクレオチドのRNAの組織特異的クローニングにより34個の新規miRNAを同定している(Lagos-Quintanaら、2002)。
【0064】
同様に、Michael Mら、Mol Can Res(2003) 1:882-891は、結腸癌および正常な粘膜における28個の異なるmiRNA配列の同定を記載している。
【0065】
Chen C-Zら、Science(2004) 303:83-86は、造血細胞中で特異的に発現される3つのmiRNAであるmiR-181、miR-142およびmiR-223を記載している(Chenら、2004)。
【0066】
Sempere Lら、Genome Biology(2004) 5:R13は、特定のマウス器官にのみ検出された合計17個のmiRNAを開示する;これらは、7つの脳特異的miRNA(miR-9、-124a、-124b、-135、-153、-183、-219)、6つの肺特異的miRNA(miR-18、-19a、-24、-32、-130、-213)、2つの脾臓特異的miRNA(miR-189、-212)、1つの肝臓特異的miRNA(miR-122a)、および1つの心臓特異的miRNA(miR-208)を含んでいた。指摘されたマウスの脳、肝臓および心臓特異的miRNAは全て、ヒト脳におけるmiR-183を除いて、ヒトの対応する器官においても検出された(miRNA発現はヒト腎臓、肺または脾臓においては試験されなかった)。2つ以上のマウス器官において検出された75個のmiRNAのうち、これらのうちの14個のレベルは、任意の他の器官よりも少なくとも2倍高いレベルで特定のマウス器官において検出された;これらは、7つの脳で富化されたmiRNA (miR-9*、-125a、-125b、-128、-132、-137、-139)、3つの骨格筋で富化されたmiRNA (miR-1d、-133、-206)、2つの腎臓で富化されたmiRNA (miR-30b、-30c)、および1つの脾臓で富化されたmiRNA(miR-99a)を含んでいた。脳で富化された、および骨格筋で富化されたmiRNAは全て、ヒトの対応する器官において同様にレベルが上昇していた。マウスとヒトの間のこれらの器官特異的および器官で富化されたmiRNAの発現の高い保存は、それらが、その特定の器官の細胞もしくは組織型の確立および/または維持において保存的な役割を果たし得ることを示唆している(Sempereら、2004)。
【0067】
Baskerville & Bartel, RNA(2005) 11:241-247は、マイクロアレイプロファイリング調査および24個の異なるヒト器官に渡る175個のヒトmiRNAの発現パターンを開示している。この結果は、近接した対のmiRNAが一般的には同時発現されることを示している(BaskervilleおよびBartel、2005)。さらに、発現されるmiRNA対の間の相関における突然の移行は、50 kbの距離で起こり、これは、50 kb未満により分離されたmiRNAは典型的には共通の転写物に由来することを意味している。いくつかのmiRNAは、宿主遺伝子のイントロン内にある。イントロン性miRNAは通常、その宿主遺伝子mRNAと共に協働的に発現されるが、これは、それらも一般的には共通の転写物に由来し、宿主遺伝子発現のin situ分析を用いて、イントロン性miRNAの空間的かつ一時的局在化を調べることができることを意味している。
【0068】
Baradら、Genome Research (2004) 14:2486-2494は、今までのところ、同定されたヒトmiRNAの発現の効率的な分析を可能にするmiRNA特異的オリゴヌクレオチドマイクロアレイ系を確立している。それは、マイクロアレイ上の60マーのオリゴヌクレオチドプローブは、miRNAの標識されたcRNAにハイブリダイズするが、増幅された、サイズ分画されたヒト起源の総RNAから誘導された、その前駆体ヘアピンRNAにはハイブリダイズしないことを示している。シグナル強度は、60マーのプローブ内のmiRNA配列の位置に関連するが、最も高いシグナルを与えるのは5'領域の位置であり、最も低いシグナルを与えるのは3'末端の位置である。従って、5'末端に1個のmiRNAコピーを担持する60マーのプローブは、2個または3個のmiRNAコピーを含むプローブと類似する強度のシグナルを与えた。不一致分析は、miRNA配列内の突然変異が、前記シグナルを有意に低下させるか、または排除することを示し、これは、観察されたシグナルが、標識されたcRNA中の一致するmiRNAの量を正確に反映することを示唆している。5種のヒト組織およびHeLa細胞における150個のmiRNAの発現プロファイリングにより、以前に公開された結果と良好な全体の一致が示されたが、いくらかの差異も示された。彼らは、胸腺、精巣、および胎盤におけるmiRNA発現に関するデータを提供し、これらの組織中で高度に富化されたmiRNAを同定した。同時に、これらの結果は、miRNAの検出および研究のための他の方法よりも増加したDNAマイクロアレイの感度、ならびに健康および疾患におけるmiRNAの研究のためのそのようなマイクロアレイの適用における非常に大きな可能性を強調している(Baradら、2004)。
【0069】
Kasashima Kら、Biochem Biophys Res Commun (2004) 322(2):403-10は、ヒト白血病細胞(HL-60)中で発現される3種の新規なmiRNAおよび38種の公知のmiRNAの同定を記載している(Kasashimaら、2004)。
【0070】
Mansfield Jら、Nature Genetics(2004) 36:1079-1083は、miR-10aおよびmiR-196aなどの、胚形成の間のいくつかのmiRNAの組織特異的発現を開示している(Mansfieldら、2004)。
【0071】
Chen C-ZおよびLodish H, Seminars in Immunology (2005) 17(2):155-165は、マウス骨髄内のB細胞において特異的に発現されるmiRNAであるmiR-181を開示している(ChenおよびLodish, 2005)。それはまた、いくつかのヒトmiRNAは白血病と関連し;miR-15a/miR-16座が、B細胞慢性リンパ性白血病を有する患者において欠失するか、または下方調節されることが多く、miR-142が悪性B細胞白血病の場合に認められる転座位置にあることも開示している。これらの結果は、miRNAが哺乳動物の造血の重要な調節因子であり得ることを示唆していることが記述されている。
【0072】
コンピューター手法を用いて新規miRNAおよびその標的配列を同定する方法が、WO2004/066183およびBrennecke Jら、PLoS Biology (2005) 3(3):0404-0418に開示されている(Brenneckeら、2005)。
【0073】
以下の表1は、本発明において適用性を有するmiRNAをまとめたものである。
【表1】



【0074】
本発明者らのデータは、造血細胞からの発現を制限するためのこの手法の有用性を証明しているが、内因性miRNA調節ネットワークは、トランスジーン発現を厳しく制限するための多くのより高い可能性を可能にするであろう。発現の研究は既に、ニューロン、膵島、および脂肪組織などの多くの異なる細胞型にとって特異的なmiRNAを示してきた。本発明者らの設計を用いて、胚性幹細胞(ESC)分化後に上方調節される2個のmiRNAであるmiR-21およびmiR-22の標的配列(Houbaviyら、2003)を含むベクターを作製し、チミジンキナーゼなどの自殺遺伝子につなぐことができる。このベクターは、ESC由来組織において未分化のESCを選択的に殺傷するのに役立ち得るが、これはESCに基づく治療を病院にもっていくための非常に望ましい安全性制御である。
【0075】
miRNA調節型ベクター設計の別の可能性のある使用は、癌の治療におけるものであろう。いくつかの報告は、特定のmiRNAが特定の腫瘍において下方調節されることを示唆してきた。例えば、miR-15およびmir-45は、慢性リンパ性白血病および乳癌において下方調節される(Calinら、2004a; Calinら、2004b; Iorioら、2005)。miR-15またはmir-145標的配列を、毒性トランスジーンを発現するベクター中に含有させることができる。ベクター産生細胞などのmiR-15またはmir-145を発現する正常細胞は、毒素の産生を抑制し、かくして、生存するであろうが、miR-15またはmir-145をもはや発現していない、形質導入された腫瘍細胞は毒素遺伝子を容易に産生し、死ぬであろう。
【0076】
miRNA調節型ベクター設計の別の可能性のある使用は、野生型ウイルスと重複感染するようになる形質導入された造血細胞からのベクター可動化を阻止することであろう。miRNA標的配列を、トランスジーンの発現カセットと異なるベクターの領域中に含有させることもできる。
【0077】
miRNAベクターを、二方向プロモーターと組合わせて用いてもよい(Amendolaら、2005)。単一のプロモーターから2個の異なるmRNA転写物を産生するというユニークな特性を有するこれらのベクターを、前記発現カセットの1つまたは両方にmiRNA標的配列を含むように改変することができる。かくして、トランスジーン2ではなく、トランスジーン1へのmir-142-3pTの付加により、造血細胞中でのトランスジーン1の発現を阻止しながら、トランスジーン2を普遍的に発現させることができる。この設計により、2個のトランスジーンの分岐調節が可能になるであろうが、これは現行の技術を用いては不可能な功績である。
【0078】
miRNAを、好適な遺伝子ベクター、すなわち、ウイルスベクターなどの、目的の遺伝子(トランスジーン)を送達するのに好適なベクターと共に使用することができる。これらの例は後述されている。
【0079】
レトロウイルス
過去10年の間、遺伝子治療は数百の臨床試験において疾患の治療に適用されてきた。遺伝子をヒト細胞に送達するための様々な道具が開発されてきた;特に、レンチウイルスなどの遺伝子操作されたレトロウイルスは、現在、遺伝子送達のための最もよく知られている道具である。多くの系は、目的の遺伝子を受け入れることができるベクターならびにウイルス構造タンパク質およびベクターを含む感染性ウイルス粒子の生成を可能にする酵素を提供することができるヘルパー細胞を含む。レトロウイルス科は、ヌクレオチドおよびアミノ酸配列、ゲノム構造、病原性、ならびに宿主範囲において異なるレトロウイルスのファミリーである。この多様性は、様々な治療適用を開発するために様々な生物学的特性を有するウイルスを使用する機会を提供する。任意の送達道具と同様、効率、特定の組織または細胞型を標的化する能力、目的の遺伝子の発現、およびレトロウイルスに基づく系の安全性が、遺伝子治療の適用の成功にとって重要である。近年、これらの研究領域には多大な努力が捧げられてきた。遺伝子発現を変化させ、送達を標的化し、ウイルス力価を改善し、および安全性を増加させるための様々な改変が、レトロウイルスに基づくベクターおよびヘルパー細胞に行われてきた。本発明は、この設計プロセスが目的の遺伝子をそのようなウイルスベクターに効率的に送達するように働くという点で該プロセスにおける改善を示す。
【0080】
ウイルスは、遺伝子送達のための道理にかなったツールである。それらは、細胞の内側で複製し、従って、細胞に進入し、それらの遺伝子を発現する細胞機構を使用するための機構を進化させてきた。ウイルスに基づく遺伝子送達の概念は、ウイルスが目的の遺伝子を発現することができるように、該ウイルスを操作することである。ウイルスの特定の用途および型に応じて、多くのウイルスベクターは、宿主中で野生型ウイルスとして自由に複製するその能力を阻害する突然変異を含む。
【0081】
いくつかの異なるファミリーに由来するウイルスが、遺伝子送達のためのウイルスベクターを生成するように改変されてきた。これらのウイルスとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ピコルナウイルス、およびアルファウイルスが挙げられる。本発明は、好ましくはレンチウイルスなどのレトロウイルスを用いる。
【0082】
遺伝子送達のための理想的なレトロウイルスベクターは、効率的であり、細胞特異的であり、調節され、かつ安全でなければならない。送達の効率は、それが治療の効率を決定し得るため、重要である。現在の努力は、レトロウイルスベクターによる細胞型特異的感染および遺伝子発現を達成することを目指している。さらに、前記治療が長時間の発現または調節される発現を必要とするため、目的の遺伝子の発現を調節するレトロウイルスベクターが開発されている。多くのウイルスは病原体であるか、または病原体としての能力を有するため、安全性がウイルス遺伝子送達のための主要な問題である。遺伝子送達の間に、患者が完全な複製能力を有する病原性ウイルスをうっかり受容しないことも重要である。
【0083】
レトロウイルスは、組込まれたDNA中間体を介して複製するRNAウイルスである。レトロウイルス粒子は、それぞれのコピーがウイルス複製にとって必要とされる完全な遺伝子情報を含む、2コピーの完全長ウイルスRNAをキャプシドで包む。レトロウイルスは、脂質エンベロープを有し、膜に埋め込まれたウイルスにコードされるエンベロープタンパク質と、宿主細胞に進入するための細胞受容体との相互作用を使用する。ビリオン中に存在する、ウイルスにコードされる酵素である逆転写酵素を用いて、ウイルスRNAはDNAコピーに逆転写される。このDNAコピーは、別のウイルスにコードされる酵素であるインテグラーゼにより宿主ゲノム中に組込まれる。組込まれたウイルスDNAは、プロウイルスと呼ばれ、宿主ゲノムの永続的な一部になる。細胞の転写および翻訳機構は、ウイルス遺伝子の発現を実行する。宿主のRNAポリメラーゼIIは、プロウイルスを転写して、RNAを生成し、他の細胞プロセスは、このRNAを改変し、それを核外に輸送する。少量のウイルスRNAは、スプライシングされて、いくつかの遺伝子の発現を可能にするが、他のウイルスRNAは完全長のままである。宿主の翻訳機構は、ウイルスタンパク質を合成および改変する。新規に合成されたウイルスタンパク質および新規に合成された完全長ウイルスRNAは一緒に集合して、新しいウイルスを形成し、宿主細胞から出芽する。
【0084】
そのゲノム構造に基づいて、レトロウイルスを、単純なレトロウイルスおよび複雑なレトロウイルスに分類することができる。単純な、および複雑なレトロウイルスは、gag(群特異的抗原)、pro(プロテアーゼ)、pol(ポリメラーゼ)、およびenv(エンベロープ)遺伝子をコードする。これらの遺伝子に加えて、複雑なレトロウイルスは、いくつかの補助遺伝子もコードする。
【0085】
レトロウイルスを、癌ウイルス、レンチウイルス、およびスプマウイルスに分類することもできる。多くの癌ウイルスは単純なレトロウイルスである。レンチウイルス、スプマウイルス、およびいくつかの癌ウイルスは複雑なレトロウイルスである。現在、3つのウイルス型の全てが、遺伝子治療道具として活用されている。それぞれの型の例を以下に考察する。
【0086】
マウス白血病ウイルス(MLV)は、癌ウイルスの例であり、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)はレンチウイルスの例であり、ヒト泡沫状ウイルスはスプマウイルスの例である。
【0087】
複製可能なレトロウイルスが天然の宿主細胞に感染する場合、それは宿主ゲノム中でプロウイルスを形成し、ウイルス遺伝子を発現し、新しい感染性粒子を放出して、他の宿主に感染することができる。多くの遺伝子治療適用においては、複製可能なウイルスは標的化された組織を越えて拡散し、有害な病原作用を引き起こし得るため、該ウイルスを患者に送達することは望ましくない。従って、遺伝子送達のために設計された多くのレトロウイルス系においては、ウイルス成分をベクターとヘルパー構築物に分割して、自由に複製する該ウイルスの能力を制限する。
【0088】
一般的には、用語「ベクター」とは、目的の遺伝子(またはトランスジーン)ならびに遺伝子発現および複製にとって必要なシス作用エレメントを含む改変されたウイルスを指す。多くのベクターは、それらが複製可能とならないように、ウイルスタンパク質コード配列のいくつか、または全部の欠失を含む。ベクター中では欠いているウイルス遺伝子を発現し、ベクターの複製を支持するヘルパー構築物を設計する。ヘルパー機能は、ヘルパー細胞形式で提供されることが最も多いが、ヘルパーウイルスとして、または同時トランスフェクトされたプラスミドとして提供することもできる。
【0089】
ヘルパー細胞は、レトロウイルスベクターを増殖させるのに必要なウイルスタンパク質を発現する遺伝子操作された培養細胞である;これは、一般的には、ウイルスタンパク質を発現するプラスミドを培養細胞にトランスフェクトすることにより達成される。多くのヘルパー細胞系は、レトロウイルスベクター複製の支持における均一性を確保するための細胞クローンから誘導される。複製可能ウイルスを高頻度の組換えを経て作成することができる可能性のため、ヘルパーウイルスを用いないことが多い。ヘルパー機能を、ヘルパー構築物の一過性トランスフェクションにより提供して、レトロウイルスベクターの迅速な増殖を達成することもできる。
【0090】
多くのレトロウイルスベクターは、ベクターDNAの操作および増殖を容易にするために細菌プラスミドとして維持される。これらの二本鎖DNAベクターを、DNAトランスフェクション、リポフェクション、またはエレクトロポレーションなどの従来の方法によりヘルパー細胞中に導入することができる。示されるヘルパー細胞は、ウイルスタンパク質の全部(Gag、Gag-Pol、およびEnv)を発現するが、パッケージングシグナルを含むRNAを欠く。ウイルスRNAは、感染性ウイルス粒子の形成および放出にとって必須であるが、「空の」非感染性ウイルス粒子の形成にとっては必須ではない。ベクターDNAをヘルパー細胞に導入する場合、パッケージングシグナルを含むベクターRNAを転写させ、ウイルス粒子中に効率的にパッケージングする。このウイルス粒子は、ヘルパー構築物から発現されるウイルスタンパク質と、ベクターから転写されるRNAを含む。これらのウイルス粒子は、標的細胞に感染し、ベクターRNAを逆転写して二本鎖DNAコピーを形成し、このDNAコピーを宿主ゲノム中に組込んで、プロウイルスを形成することができる。このプロウイルスは目的の遺伝子をコードし、宿主細胞機能により発現される。しかしながら、このベクターはいかなるウイルスタンパク質も発現しないため、他の標的細胞に拡散することができる感染性ウイルス粒子を生成することができない。
【0091】
ヘルパー細胞を、レトロウイルスベクターの増殖を支援するように設計する。ヘルパー細胞中のウイルスタンパク質は、哺乳動物細胞中にトランスフェクトされるヘルパー構築物から発現される。ヘルパー構築物は、その発現様式およびそれらがコードする遺伝子に応じて変化する。
【0092】
1ゲノムヘルパー構築物
最初に開発されたヘルパー細胞系においては、全てのウイルス遺伝子を、1個のヘルパー構築物から発現させた。これらのヘルパー細胞の例は、C3A2および-2である。これらの細胞系のためのヘルパー構築物は、パッケージングシグナルを欠いたクローン化されたプロウイルスDNAであった。これらのヘルパー細胞は、レトロウイルスベクターの効率的な増殖を支援することができる。しかしながら、これらのヘルパー細胞に関する主要な問題は、複製可能ウイルスがウイルスベクターの増殖の間に頻繁に生成され得るということである。このヘルパー構築物は、多くのウイルスゲノムを含み、かくして、レトロウイルスベクターと有意な配列相同性を有する。配列相同性は、ヘルパー構築物とレトロウイルスベクターの間の組換えを容易にして、複製可能ウイルスを生成することができる。ヘルパーRNAはパッケージングシグナルを欠くが、それでも低い効率(RNAを含有するものよりも約100〜1,000倍低い)でビリオン中にパッケージングすることができる。レトロウイルスの組換えは、両親からの遺伝子情報を含むDNAコピーを生成する2個の同時パッケージングされたウイルスRNAの間で頻繁に起こる。ヘルパーRNAおよびベクターRNAを同じビリオンにパッケージングする場合、2個のRNA間の配列相同性の大きい領域は、逆転写の間の相同組換えを容易にして、複製可能ウイルスを生成することができる。同様の組換え事象は、より低い効率で、ヘルパーRNAと、内因性ウイルスに由来するRNAとの間でも起こり、複製可能ウイルスを生成することができる。
【0093】
スプリットゲノムヘルパー構築物
複製可能ウイルスの生成に関連する安全性の懸案事項は、CRIP、GP+envAm12、およびDSNなどの「スプリットゲノム」を用いる多くのヘルパー細胞系の設計を誘発してきた。これらのヘルパー細胞においては、ウイルスのGag/Gag-Polポリタンパク質は一方のプラスミドから発現され、Envタンパク質は他方のプラスミドから発現される。さらに、2個のヘルパー構築物は、レトロウイルスベクターとの配列相同性を減少させるか、または排除するウイルスのシス作用エレメントの欠失も含む。これらのヘルパー細胞においては、ウイルスタンパク質をコードする遺伝子は2個の異なる構築物に別れ、ウイルスのシス作用エレメントは該ベクター中に位置する。従って、いくつかの組換え事象は、ウイルスゲノムを再構成するように起こらなければならない。さらに、相同性の領域を減少させることにより、これらの組換え事象が起こる確率が低下する。従って、スプリットゲノムヘルパー構築物を含むヘルパー細胞は、1ゲノムヘルパー構築物を含むヘルパー細胞よりも安全であると考えられる。
【0094】
誘導性ヘルパー構築物
ウイルスタンパク質を構成的に発現する上記のヘルパー細胞系と対照的に、誘導性様式でウイルスタンパク質を発現するいくつかのヘルパー細胞系が設計されてきた。誘導性ヘルパー細胞系の生成に関する1つの論理的根拠は、いくつかのウイルスタンパク質が細胞傷害性であり、高レベルで容易に発現させることができないことである。誘導性の系を用いることにより、細胞傷害性タンパク質の発現を、ウイルスが増殖する段階に限定することができる。細胞傷害性タンパク質の発現を制御することにより、高いウイルス力価を達成することができる。誘導性ヘルパー細胞の例としては、293GPG細胞およびHIV-1ヘルパー細胞系が挙げられる。
【0095】
一過性トランスフェクション系
効率的なトランスフェクション方法の開発と共に、一過性トランスフェクション系もレトロウイルスベクターの増殖のために開発されてきた。これらの系においては、一般的には、ヘルパー機能は、一方はgag-polを発現し、他方はenvを発現する2個の異なる構築物から発現される。これらの2個の構築物は、一般的には、わずかな配列相同性を有する。レトロウイルスベクターとヘルパー構築物を、細胞にトランスフェクトし、トランスフェクションの数日後にウイルスを収穫する。
【0096】
偽型ウイルスを生成する系
偽型とは、1つのウイルスに由来するウイルスゲノムおよび異なるウイルスに由来するウイルスタンパク質の一部(または全部)を含むウイルス粒子を指す。偽型の最も一般的な形態は、別のウイルスのエンベロープタンパク質を用いる1つのウイルスを含む。いくつかのヘルパー細胞系は、1つのウイルスに由来するgag-polおよび別のウイルスに由来するenvを発現するヘルパー構築物を含む。Gagポリタンパク質はウイルスRNAを選択するため、増殖させようとするウイルスベクターは、これらの細胞中で発現されるGagポリタンパク質により認識されるRNAを含む。しかしながら、産生されるウイルス粒子は、別のウイルスに由来するEnvタンパク質を含む。従って、これらのウイルス粒子は、異種エンベロープタンパク質と相互作用することができる受容体を発現する細胞にのみ感染することができる。例えば、ヘルパー細胞系PG13は、MLVに由来するgag-polおよびテナガザル白血病ウイルス(GaLV)に由来するenvを発現する。PG13細胞系はMLV Gagポリタンパク質を発現するため、MLVに基づくレトロウイルスベクターを効率的にパッケージングすることができる。異なるファミリーのウイルスに由来するいくつかのエンベロープがレトロウイルスを偽型化し、感染性ウイルス粒子を生成することができることも示された。例えば、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、ラブドウイルスのGタンパク質を用いて、偽型レトロウイルスベクターを作成することができる。これらのVSV G偽型ウイルスは、非常に広範な宿主範囲を示し、通常はレトロウイルスに感染することができない様々な細胞に感染することができる。ベクターの偽型化に用いることができる他のエンベロープは、以下のウイルスのものである:造血細胞を効率的に標的化するRD114内因性ネコレトロウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)、狂犬病ウイルス、エボラおよびモコラウイルス、ロスリバーおよびセムリキ森林熱ウイルス、ならびにバキュロウイルスgp64エンベロープ。
【0097】
偽型化は、例えば、HIVまたはウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)などのレンチウイルスに基づくレトロウイルスゲノムを含んでもよく、エンベロープタンパク質は、例えば、4070Aと命名された両種性エンベロープタンパク質であってよい。あるいは、エンベロープタンパク質は、インフルエンザヘマグルチニンなどの別のウイルスに由来するタンパク質であってよい。別の代替では、エンベロープタンパク質は、突然変異され、トランケートされるか、または遺伝子操作されたエンベロープタンパク質(遺伝子操作されたRD114エンベロープ)などの改変されたエンベロープタンパク質であってよい。標的化能力を導入するか、もしくは毒性を減少させるか、または別の目的のための改変を作製するか、または選択することができる。
【0098】
細胞または組織標的化のために遺伝的に改変されたenvを含む系
ウイルスエンベロープタンパク質と細胞受容体との相互作用は、ウイルスの宿主範囲を決定する。ウイルスEnvを改変することにより、特定の細胞型にウイルス送達を標的化するための戦略が開発されてきた。翻訳および改変後、EnvのSU部分は細胞受容体と相互作用する。EnvのSU部分の改変は、SUのコード領域の一部を欠失させること、およびそれを他のタンパク質の領域で置換することにより達成されることが多い。EnvのSU部分を改変するのに用いられてきたタンパク質としては、エリスロポエチン、ヘレグリン、インスリン様増殖因子I、および種々のタンパク質に対する一本鎖可変フラグメント抗体が挙げられる。
【0099】
ハイブリッド系
いくつかの最近開発された系は、レトロウイルスベクターの増殖のためのハイブリッド手法を使用する。ヘルパー細胞系を用いて、いくつかのウイルスタンパク質を構成的に発現させるが、他のウイルスタンパク質を一過性トランスフェクションによりヘルパー細胞系に導入する。例えば、レトロウイルスベクターを、MLV gag-polを構成的に発現するヘルパー細胞系に導入することができる。レトロウイルスベクターを増殖させるために、VSV Gを発現するように設計されたプラスミドを、一過性トランスフェクションにより前記系に導入することができる。このテーマ上の別のバリエーションとして、レトロウイルスベクター自身は、いくつかのウイルスタンパク質(例えば、Gag/Gag-Pol)をコードしてもよく、またヘルパー細胞系は他のウイルスタンパク質(Env)を提供してもよい(Boerkoelら、1993)。レトロウイルスヘルパー構築物を送達するために他のウイルスを使用する手法を用いることもできる。例えば、ヘルパー機能に役立つレトロウイルスのgag、pol、およびenvを含むように改変された単純ヘルペスウイルスを作製した。同様に、アデノウイルスベクターおよびセムリキ森林熱ウイルスに由来する発現ベクターも用いて、MLVウイルスタンパク質をコードする遺伝子をヘルパー細胞に送達してきた。
【0100】
種々のレトロウイルスに基づくベクター
目的の遺伝子(トランスジーン)を担持することができるベクターを作成するために、多くのレトロウイルスが改変されてきた。一般的には、ウイルスベクターは、ウイルスの複製および遺伝子発現に必要とされるシス作用エレメントの全部を含む。遺伝子送達の成功を確保するには、いくつかのウイルスに由来するベクター中に、さらなるエレメントも必要である。これらのシス作用エレメントのための要件は、これらのウイルスの生物学のより優れた理解から明らかとなったことが多い。さらに、細菌細胞中での操作を容易にするために、多くのレトロウイルスベクターは、プラスミドの形態にあり、細菌の複製起点および抗生物質耐性遺伝子を含む主鎖を有する。典型的には、以下の工程を実行して、レトロウイルスベクターからウイルス粒子を産生する。最初に、ベクターDNAを、トランスフェクション、エレクトロポレーション、またはリポフェクションによりヘルパー細胞に導入する。ヘルパー細胞にDNAを導入した後、ベクターDNAはヘルパー細胞に組込まれ、発現される。ウイルスRNAは5'LTRから発現され、2つのR領域間の配列の全部からなる。このウイルスRNAは、パッケージングシグナルを含み、ウイルス粒子中に効率的にパッケージングされる。レトロウイルス複製の間に、2個のLTRの外側のプラスミド主鎖配列は、標的細胞に移らない。種々のレトロウイルスに由来するいくつかのレトロウイルスベクターの基本的構造を、以下に記載する。
【0101】
癌ウイルスに由来するベクター
いくつかの最も広く用いられるレトロウイルスベクターを説明するために、3つの異なる癌ウイルスに由来するベクターを本明細書で説明する。癌ウイルスは、分裂している細胞にのみ感染することができる;従って、癌ウイルスに由来するベクターのみを用いて、分裂する細胞中に遺伝子を効率的に送達することができる。時には、細胞増殖のための要件を、迅速に分裂する細胞(例えば、癌細胞)を選択的に標的化するための利点として用いることができる。
【0102】
1.マウス白血病ウイルスに基づくベクター。現在、MLVに基づくレトロウイルスベクターおよびヘルパー細胞は、遺伝子送達のために最も頻繁に用いられる系である。遺伝子操作されたベクターおよびヘルパー細胞系の開発および利用可能性は、MLVに基づくベクターの人気を促進してきた。このベクターは、LTR、PBS、PPT、およびattなどの、遺伝子発現およびウイルス複製にとって必要とされるシス作用ウイルス配列を含む。パッケージングシグナルは、最小のシグナルまたはgagのオープンリーディングフレーム(+)に伸長するより長いシグナルであってよい。+がベクター中に存在する場合、gagの翻訳開始コドンを突然変異させて、トランケートされたGagタンパク質の発現を阻止することが必要である。パッケージングシグナルと3'非翻訳領域の間に複数の制限酵素部位を含むいくつかのベクターが設計されてきた。これらのクローニング部位の存在により、目的の遺伝子を発現することができるベクターの構築が容易になる。
【0103】
MLVに基づくベクターを、全てのMLVヘルパー細胞系において効率的に増殖させることができる。MLVベクターの宿主範囲を決定するいくつかのMLVエンベロープタンパク質が存在する。同種指向性エンベロープを使用するウイルスは、マウス細胞に感染することができるが、他の種に由来する細胞に感染することができない。両親性エンベロープを使用するウイルスは、マウス細胞と、ヒト細胞などの他の種に由来する細胞の両方に感染することができる。異種指向性エンベロープを使用するウイルスは、マウス細胞に感染することができないが、他の種に由来する細胞に感染することができる。さらに、MLVベクターを、脾臓壊死ウイルス(SNV)に基づくヘルパー細胞系中で増殖させることもできる。SNVは、MLVと距離的に関連する鳥類のウイルスである。驚くべきことに、SNVタンパク質は、MLVのシス作用配列と相互作用し、MLVのRNAをパッケージングし、MLVゲノムを逆転写し、MLVのRNAを宿主に組み込む能力を保持する。
【0104】
2.脾臓壊死ウイルスに基づくベクター。これらのベクター中で必要とされるウイルス配列は、MLVベクターのものと非常に類似している。Eと呼ばれる、SNVのパッケージングシグナルは、gagオープンリーディングフレーム中に伸長しない;従って、多くのSNVに基づくベクターは、gagコード領域を含まない。MLVベクターと同様、目的の遺伝子は、パッケージングシグナルと3'非翻訳領域の間に複数の制限部位を含むリンカー領域中に挿入される。SNVに基づくベクターを、C3A2、DSDH、DSH134G、およびDSNなどのSNVに基づくヘルパー細胞系中で増殖させることができる。
【0105】
3.ラウス肉腫ウイルスおよび鳥白血病ウイルスに基づくベクター。RSVは、複製可能である唯一の公知の急性癌原レトロウイルスである。gag-polおよびenvに加えて、RSVはenvと3'LTRの間に癌遺伝子v-srcもコードする。v-srcの上流のスプライス受容部位により、スプライシングされたものとして前記遺伝子を発現させることができる。RSVは、さらなる遺伝子をコードする能力を有する。複製可能なウイルスベクターを作製するために、様々な改変が為されてきたが、その一例は、スプライス受容部位およびいくつかの制限酵素部位によるv-srcの置換である。DNA断片を、制限部位に挿入して、目的の遺伝子を発現する複製可能ベクターを作製することができる。
【0106】
また、ALVを改変して、その増殖のためにヘルパー細胞を必要とするベクターを作製した。上記のMLVおよびSNVと同様、ALVベクターの基本構造も、5'および3'LTR、att、PBS、PPT、およびパッケージングシグナルを含む。ALVのパッケージングシグナルは、gagオープンリーディングフレーム中に伸長し、gagの関連する部分を、ALVに基づくベクター中に含有させて、効率的なパッケージングを達成する。
【0107】
レンチウイルスに由来するベクター
癌ウイルスとは対照的に、いくつかのレンチウイルスは、分裂していない、休止状態の細胞に感染することが示されている。レンチウイルスは、その複製周期の調節のために補助タンパク質を発現する必要がある複雑なレトロウイルスである。これらの補助タンパク質のいくつかは、ウイルスゲノムの領域に結合して、遺伝子発現を調節する。従って、レンチウイルスに基づくベクターは、効率的なウイルス複製および遺伝子発現が起こり得るように、さらなるシス作用エレメントを組込む必要がある。レンチウイルスに基づくベクターの例として、HIV-1およびHIV-2に基づくベクターを以下に記載する。HIV-1ベクターは、単純なレトロウイルス中にも認められるシス作用エレメントを含む。gagオープンリーディングフレーム中に伸長する配列は、HIV-1のパッケージングにとって重要であることが示された。従って、HIV-1ベクターは、翻訳開始コドンを突然変異させたgagの関連部分を含むことが多い。さらに、多くのHIV-1ベクターは、RREを含むenv遺伝子の一部も含む。RevはRREに結合し、核から細胞質への完全長mRNAまたは1回スプライシングされたmRNAの輸送を許容する。Revおよび/またはRREの非存在下では、完全長HIV-1のRNAは核に蓄積する。あるいは、Mason-Pfizerサルウイルスなどの特定の単純なレトロウイルスに由来する構成的輸送エレメントを用いて、RevおよびRREの要求を軽減することができる。HIV-1のLTRプロモーターからの効率的な転写には、ウイルスタンパク質Tatが必要である。従って、HIV-1のLTRからの効率的な転写が必要である場合には、Tatが標的細胞中で発現されることが重要である。Tat発現の必要性を、レトロウイルスベクターからTat遺伝子を発現させることにより満たすことができる。あるいは、異種内部プロモーターから目的の遺伝子を発現させることにより、Tat発現の必要性を回避することができる。
【0108】
多くのHIV-2に基づくベクターは、HIV-1ベクターと構造的に非常に類似している。HIV-1に基づくベクターと同様、HIV-2ベクターも、完全長または1回スプライシングされたウイルスRNAの効率的な輸送のためにはRREを必要とする。
【0109】
また、HIV-1ベクターを、サル免疫不全ウイルスに由来するウイルスタンパク質を用いて高いウイルス力価で増殖させることができることも証明された。1つの系においては、ベクターおよびヘルパー構築物は2つの異なるウイルスに由来し、ヌクレオチド相同性の低下は、組換えの確率を減少させる。霊長類のレンチウイルスに基づくベクターに加えて、ネコ免疫不全ウイルスに基づくベクターも、病原性HIV-1ゲノムに由来するベクターの代替物として開発された。これらのベクターの構造も、HIV-1に基づくベクターと類似している。
【0110】
スプマウイルスに由来するベクター
泡沫状ウイルスは、その複製周期における多くの特徴が、癌ウイルスおよびレンチウイルスのものと異なる点で、異例のレトロウイルスである。これらのウイルスは培養細胞にとって毒性的であり得るが、泡沫状ウイルスはいずれも宿主において疾患を引き起こさないことが知られている。
【0111】
泡沫状ウイルスベクターの一例は、典型的なレトロウイルスのシス作用配列を含む。5'非翻訳領域中の配列に加えて、gagオープンリーディングフレームの5'部分およびpolオープンリーディングフレームの3'部分中の配列が、効率的なパッケージングにとって重要である。レンチウイルスと同様、ヒト泡沫状ウイルスプロモーターからの発現は、ウイルスタンパク質Tasにより活性化される。
【0112】
レトロウイルスベクターの設計
レトロウイルスベクターは、遺伝子治療専門家にとって様々な目的に役立つ多くの異なる改変を含んでもよい。これらの改変を、2個以上の遺伝子の発現を許容し、遺伝子発現を調節し、ウイルスベクターを活性化または不活性化し、ウイルス配列を排除して、複製可能ウイルスの生成を回避するために導入することができる。これらの改変のいくつかの例を、以下に記載する。
【0113】
A.標準ベクター
1.U3プロモーターにより駆動される遺伝子発現。完全長ウイルスRNAを、5'LTRのU3領域中に位置するレトロウイルスプロモーターから発現させる。ウイルスRNAは、R、U5、5'非翻訳領域、目的の遺伝子、3'非翻訳領域、U3、およびRを含む。5'および3'非翻訳領域の間に挿入された遺伝子を、U3プロモーターから転写される完全長RNAから翻訳することができる。
【0114】
ウイルス保存物の増殖の間に、ウイルスベクターによりトランスフェクトされたか、または感染したヘルパー細胞を選択することができるように、該ベクター中で選択マーカー遺伝子を発現させることが望ましいことが多い。従って、選択マーカー遺伝子ならびに目的の遺伝子を発現するレトロウイルスベクターを設計する必要があることが多い。薬剤耐性遺伝子が選択マーカーとして用いられることが多いが、グリーン蛍光タンパク質遺伝子などの他のマーカー遺伝子を用いて、トランスフェクトされたか、または感染した細胞を選択することもできる。レトロウイルスベクター中の2個の遺伝子の発現を、内部プロモーター、RNAスプライシング、または内部リボソーム進入部位(IRES)を用いることによって3'遺伝子を発現させることにより達成することができる。
【0115】
2.さらなる遺伝子を発現させるために内部プロモーターを使用するベクター。例えば、ウイルスのU3プロモーターから発現される完全長RNAを用いて、第1の目的の遺伝子を翻訳する場合の、内部プロモーターを含むレトロウイルスベクターからの遺伝子発現の一例。内部プロモーターから発現されるサブゲノミックRNAを用いて、第2の目的の遺伝子を翻訳する。
【0116】
3.さらなる遺伝子を発現させるためにスプライシングを使用するベクター。レトロウイルスは、調節されたスプライシングによりenvを発現する。envを発現させるのに用いられるスプライス供与部位は、レトロウイルスの5'非翻訳領域中に位置する。複製の間、いくつかの完全長ウイルスRNAはスプライシングされて、Envタンパク質を発現させるために用いられるサブゲノミックウイルスRNAを産生する。ウイルスのスプライス供与部位およびスプライス受容部位を用いることによって2つの異なる遺伝子を発現させるための同じ原理を用いることにより、スプライシングベクターが開発された。スプライシングベクターの利点は、ただ1個のプロモーターが必要であり、プロモーター干渉の可能性が排除されることである。
【0117】
4.さらなる遺伝子を発現させるために翻訳制御シグナルを使用するベクター。mRNA中の配列が、リボソームをmRNAの中央に結合させ、mRNAの5'末端から遠い遺伝子を翻訳させるシグナルとして役立ち得ることは、ピコルナウイルスにおいて初めて証明された。これらの配列(すなわち、IRES)は、現在ではレトロウイルスベクター中で一般的に用いられている。ピコルナウイルスにおいて同定されたIRES配列に加えて、MLV、SNV、および内因性ウイルス様粒子(VL30)などのいくつかのレトロウイルスの5'非翻訳領域においてもIRES配列が同定された。従って、第2の遺伝子を発現させるために、これらのレトロウイルスIRES配列を使用することもできる。単一の転写物から複数のタンパク質の発現を可能にする他の配列は、口蹄疫ウイルスおよび他のピコRNAウイルスに由来する自己切断性2A様ペプチド(CHYSEL、シス作用ヒドロラーゼエレメントとも呼ばれる)である。あるいは、二方向プロモーターを用いて、同じプロモーターから2個の遺伝子を発現させることができる。
【0118】
B.2コピーベクター
LTR配列がレトロウイルスベクター中で複製されるという事実を活用して、2コピーの目的の遺伝子を含むベクターを構築してきた。例えば、2コピーベクターの第1のセットは、ウイルスの上流のU3領域中に目的の遺伝子を含む。これらの遺伝子を、RNAポリメラーゼIIプロモーターまたはRNAポリメラーゼIIIプロモーターを用いて発現させる。この戦略は、遺伝子発現のレベルを首尾よく増加させることが示された。2コピーベクターの別の例においては、前記ベクターはR領域の中央に目的の遺伝子を含む。
【0119】
C.自己不活性化ベクター
遺伝子治療のためにレトロウイルスベクターを用いることに関する1つの安全性の懸案事項は、非標的組織への治療用ベクターの不注意な拡散を誘導し得る複製可能ウイルスが、ベクターの増殖の間に生成され得ることである。この懸案事項に取り組むために、1クラスのベクターを、自己不活性化を受けるように設計した。その原理は、遺伝子送達後、このベクターは別の周回の複製を完了させるのに必要とされるいくつかのシス作用エレメントを欠失するであろうということである。従って、複製可能ウイルスの存在下でさえ、これらのベクターを他の標的細胞に効率的に導入することができない。複製可能ウイルスの生成は、時に欠損ヘルパープラスミドと目的の遺伝子をコードするベクターとの組換えを含む。従って、自己不活性化ベクターの別の可能性のある利益は、それが複製可能ウイルスを生成する確率を低下させ得ることである。
【0120】
1.U3マイナスベクター。U3マイナスベクターは、開発された初めての自己不活性化レトロウイルスベクターであった。これらのベクターを、標的細胞中のプロウイルスがウイルスプロモーターを欠くように、逆転写の間にウイルスのU3プロモーターを欠失するように設計する。これらのベクターにおいては、5'LTRのU3は無傷であるが、3'LTRのU3は大きい欠失により不活性化される。このベクターから生成されるRNAは、R、U5、5'非翻訳領域、目的の遺伝子、3'非翻訳領域、欠失したU3、およびRを含む。逆転写の間に、ウイルスRNAの3'末端のU3は、通常、LTRを生成するための鋳型として用いられる。従って、逆転写を介してU3マイナスベクターから合成されるウイルスDNAは、両方のLTR中に欠失されたU3配列を含む。ウイルスプロモーターは逆転写の間に欠失されるため、目的の遺伝子は内部プロモーターの制御下にある。U3マイナスベクターの利点は、複製可能ウイルスの生成の確率が低下するため、それが潜在的により安全であることである。しかしながら、低い頻度で、DNAトランスフェクションの間の組換えが起こり、3'LTRでU3を再生することができる。これが起こる場合、得られるベクターは依然としてU3中に前記プロモーターを含み、かくして、2個の完全なLTRを保持するであろう。いくつかのU3マイナスベクターにおいてさらなる改変を作製して、DNAトランスフェクションの間の無傷のLTRの組換えおよび再生の確率を低下させる、5'および3'LTRの間の相同性を減少させた。
【0121】
2.Cre/loxPベクター。バクテリオファージP1の天然の部位特異的リコンビナーゼであるCreリコンビナーゼは、loxPと命名された32bpの配列を認識する。Creは、様々な長さの配列により分離された2個のloxP部位を用いて、部位特異的組換えを効率的に媒介する。組換え事象としては、loxP部位間の配列の欠失、挿入、および転置が挙げられる。この系を活用して、自己不活性化レトロウイルスベクターが開発された(Choulikaら、1996;Russら、1996)。そのようなベクターの一例は、無傷の5'LTRおよびレトロウイルス複製に必要とされるシス作用エレメントの全部を含む。このベクターは、内部プロモーターを用いて発現されるcreリコンビナーゼ遺伝子を含む。3'LTRを、loxP部位、プロモーター、および目的の遺伝子などのU3中のいくつかの配列の挿入により改変した;さらに、3'U3はプロモーター活性を低下させる欠失を含むことが多い。完全長ウイルスRNAはビリオン中にパッケージングされ、標的細胞の感染に際して、このウイルスRNAは逆転写される。3'U3配列は、両方のLTRを合成するための鋳型として用いられる;結果として、両方のLTR中の配列は、1コピーのloxP部位、プロモーター、および目的の遺伝子を含む。感染した標的細胞中で、cre遺伝子が発現され、Creリコンビナーゼが合成される。次いで、Creリコンビナーゼは、ウイルスDNA中の2個のLoxP部位の間にある配列の欠失を媒介し、5'LTR、5'非翻訳領域、内部プロモーター、およびcreの欠失をもたらす。結果として、標的細胞中のプロウイルスは、目的の遺伝子を発現する1個のLTRのみを含む。
【0122】
同じ原理を用いて、Cre/loxP系を用いて、レトロウイルスベクター中の異なる配列を欠失させ、ならびにパッケージング細胞中のヘルパー構築物の部分を欠失させることができる。Cre/loxP系の別の用途は、それを用いて、ウイルスDNAを標的細胞の染色体に組込んだ後、レトロウイルスベクターから選択マーカーを欠失させることができるということである。この選択マーカーを、ベクターDNAを用いてトランスフェクトされたヘルパー細胞を選択することができるように、該ベクター中に含有させる。選択マーカーの存在はプロモーター干渉または形質導入された細胞に対する免疫応答を誘導し得るため、選択マーカーの欠失が望ましい。選択マーカーの欠失を、選択マーカー遺伝子に隣接する2個のloxP部位の挿入により達成する。前記ベクターを感染により標的細胞に導入した後、標的細胞に、Creリコンビナーゼを発現する別のベクターを感染させる。次いで、Creリコンビナーゼは、前記選択マーカーを含む2個のloxP部位の間の配列を欠失させる。結果として、最終的なプロウイルスは、目的の遺伝子のみを発現する。
【0123】
D.自己不活性化および自己活性化ベクター
遺伝子産物の特性および効果に応じて、目的の遺伝子をヘルパー細胞中で不活性化し、それを標的細胞に送達した後、この遺伝子を活性化するのが望ましい。例えば、目的の遺伝子からの産物が毒性的である場合、ヘルパー細胞中での該遺伝子の発現は、毒性をもたらし、ウイルス産生を十中八九低下させるか、または排除するであろう。一連のベクターを作製して、遺伝子を同時に活性化し、遺伝子送達の間に該ベクターを不活性化した。これは、逆転写の間に直接反復される配列の頻繁な欠失により達成される。直接反復される配列がウイルス中に存在する場合、1コピーの直接反復物および2個の反復物の間の配列の全部を、逆転写の間に高頻度で欠失させることができる。逆転写酵素のこの特性を活用して、自己活性化および自己不活性化レトロウイルスベクターを作製した。
【0124】
E.特定の細胞に標的化されたベクター
遺伝子治療専門家の重要な目標は、遺伝子送達を特定の細胞型または組織に標的化するための手段を開発することである。レトロウイルスベクターを用いて遺伝子送達を標的化する努力においては、少なくとも2つの戦略が用いられてきた。1つの戦略を、細胞型特異的受容体と相互作用する天然または遺伝子操作されたエンベロープタンパク質を用いることにより、宿主細胞中へのウイルス進入の時点で遺伝子送達を制御するように設計する。別の戦略を、組織特異的プロモーターを用いることにより特定の細胞型における治療用遺伝子の発現を制御するように設計する。
【0125】
F.細胞型特異的プロモーターを使用するベクター
特定の組織において活性であるか、または特定の試薬に応答するプロモーターを用いて、目的の遺伝子の発現を調節することができる。これらのプロモーターを、レトロウイルスベクターのLTRの間に挿入することができる。あるいは、調節されたプロモーターを用いて、U3領域中のウイルスプロモーターを置換することができる。内部組織特異的プロモーターを有するレトロウイルスベクターの設計は、内部プロモーターを含む他のレトロウイルスベクターのものと類似している。
【0126】
ウイルスの宿主範囲
1.エンベロープ選択およびウイルスの宿主範囲に関する考慮。ウイルスエンベロープタンパク質の性質は、特定のウイルスが標的細胞に進入することができるかどうかを決定する。従って、ウイルス産生に用いられるであろうエンベロープタンパク質の選択の前に、標的細胞が正しい細胞表面受容体を有するかどうかを考慮することが重要である(上記で考察されたように)。
【0127】
本発明によるレトロウイルスベクター粒子は、ゆっくりと分裂する細胞を形質導入することもできるであろうが、MLVなどの非レンチウイルスを効率的に形質導入することができないであろう。特定の腫瘍細胞などの、ゆっくりと分裂する細胞は、ほぼ3〜4日毎に1回分裂する。腫瘍は急速に分裂する細胞を含むが、いくつかの腫瘍細胞、特に、腫瘍の中心にあるものは、あまり頻繁に分裂しない。あるいは、標的細胞は、腫瘍塊の中心部分にある細胞または造血幹細胞もしくはCD34陽性細胞などの幹細胞などの細胞分裂を受けることができる増殖が停止した細胞であってよい。さらなる代替として、標的細胞は、単球前駆体、CD33陽性細胞、または骨髄前駆体などの分化した細胞の前駆体であってよい。さらなる代替として、標的細胞は、ニューロン、アストロサイト、グリア細胞、ミクログリア細胞、マクロファージ、単球、上皮細胞、内皮細胞または肝細胞などの分化した細胞であってよい。標的細胞を、ヒト個体から単離した後、in vitroで形質導入するか、またはin vivoで直接形質導入することができる。
【0128】
アデノウイルスに由来するベクター
アデノウイルスは、RNA中間体を通過しない二本鎖の線状DNAウイルスである。全て比較可能な遺伝子組織化を示す遺伝子配列相同性に基づいて6つの亜群に分割される、50種を超えるアデノウイルスの異なるヒト血清型が存在する。ヒトアデノウイルスC群血清型2および5(95%の配列相同性を有する)は、アデノウイルスベクター系において最も一般的に用いられ、通常、若年者における上気道感染と関連している。
【0129】
本発明のアデノウイルス/アデノウイルスベクターは、ヒトまたは動物起源のものであってよい。ヒト起源のアデノウイルスに関しては、好ましいアデノウイルスは、C群に分類されるもの、特に、2型(Ad2)、5型(Ad5)、7型(Ad7)または12型(Ad12)のアデノウイルスである。より好ましくは、それはAd2またはAd5アデノウイルスである。特に、動物起源の様々なアデノウイルス、イヌアデノウイルス、マウスアデノウイルスまたはCELOウイルスなどの鳥アデノウイルス(Cottonら、1993, J Virol 67:3777-3785)を用いることができる。動物のアデノウイルスに関しては、イヌ起源のアデノウイルス、特に、CAV2アデノウイルスの株を使用することが好ましい[例えば、マンハッタン株またはA26/61(ATCC VR-800)]。動物起源の他のアデノウイルスとしては、参照により本明細書に組み入れられるものとする出願WO-A-94/26914に引用されるものが挙げられる。
【0130】
上記のように、アデノウイルスゲノムの組織化は、全てのアデノウイルス群において類似しており、一般的には、特定の機能は、試験した各血清型について同一の位置に位置する。アデノウイルスのゲノムは、各末端に逆方向末端反復(ITR)、キャプシド封入化配列(Psi)、初期遺伝子および後期遺伝子を含む。主要初期遺伝子は、中間初期(E1a)、遅延初期(E1b、E2a、E2b、E3およびE4)、ならびに中間領域の配列に分類されている。これらのうち、特にE1領域中に含まれる遺伝子がウイルス増殖にとって必要である。主要後期遺伝子は、L1〜L5領域中に含まれる。Ad5アデノウイルスのゲノムは完全に配列決定されており、データベース上で入手可能である(特に、Genbank受託番号M73260を参照)。同様に、他のアデノウイルスゲノム(Ad2、Ad7、Ad12など)の部分、または全部でさえも配列決定されている。
【0131】
組換えベクターとしての使用のために、典型的には、アデノウイルスを、感染細胞中で複製することができないように改変する。
【0132】
かくして、従来技術において記載された構築物は、ウイルス複製にとって必須であり、異種DNA配列が挿入されるE1領域を欠失したアデノウイルスを含む(Levreroら、1991, Gene 101: 195; Gosh-Choudhuryら、1986, Gene 50: 161)。さらに、ベクターの特性を改良するために、アデノウイルスゲノム中に他の欠失または改変を作製することが提唱されてきた。かくして、熱感受性点突然変異を、72 kDaのDNA結合タンパク質(DBP)を不活性化することができるts125突然変異体に導入した。好ましくは、本発明において用いられる組換えアデノウイルスベクターは、そのゲノムのE1領域中に欠失を含む。より具体的には、それはE1aおよびE1b領域中に欠失を含む。特に好ましい様式に従って、E1領域を、Ad5アデノウイルス配列中のヌクレオチド454からヌクレオチド3328(Genbank受託番号M73260)まで伸びるPvuII-BglII断片の欠失により不活性化させる。別の好ましい実施形態においては、ヌクレオチド382からヌクレオチド3446まで伸びるHinfII-Sau3A断片の欠失により、E1領域を不活性化させる。
【0133】
他のアデノウイルスベクターは、ウイルスの複製および/または増殖にとって必須である別の領域であるE4領域の欠失を含む。E4領域は、後期遺伝子の発現の調節、後期核RNAの安定性、宿主細胞タンパク質発現の減少およびウイルスDNAの複製の効率に関与する。従って、E1およびE4領域が欠失したアデノウイルスベクターは、非常に低下したウイルス遺伝子発現および転写バックグラウンドノイズを有する。そのようなベクターは、例えば、出願WO-A-94/28152、WO-A-95/02697、WO-A-96/22378に記載されている。さらに、IVa2遺伝子の改変を担持するベクターも記載されている(WO-A-96/10088)。
【0134】
好ましい変形に従えば、本発明において用いられる組換えアデノウイルスベクターは、さらに、そのゲノムのE4領域中に欠失を含む。より具体的には、E4領域中の欠失は、全てのオープンリーディングフレームに影響する。正確な例として、ヌクレオチド33466〜35535または33093〜35535の欠失に言及することができる。特に、好ましいベクターは、E4領域の全部の欠失を含む。これを行って、ヌクレオチド35835〜32720に対応するMaeII-MscI断片を欠失させるか、または切り出すことができる。E4領域における他の型の欠失は、参照により本明細書に組み入れられるものとする、出願WO-A-95/02697およびWO-A-96/22378に記載されている。
【0135】
あるいは、E4の機能的部分のみを欠失させる。この部分は、少なくともORF3およびORF6フレームを含む。例えば、これらのコードフレームを、それぞれ、ヌクレオチド34801〜34329および34115〜33126に対応する、それぞれPvuII-AluIおよびBglII-PvuII断片の形態でゲノムから欠失させることができる。ウイルスAd2 dl808またはウイルスAd5 dl1004、Ad5 dl1007、Ad5 dl1011もしくはAd5 dl1014のE4領域の欠失を、本発明のフレームワーク内で用いることもできる。
【0136】
上記の位置は、データベース上に公開された、アクセス可能なものとしての野生型Ad5アデノウイルス配列を指す。種々のアデノウイルス血清型の間には小さい変異が存在してもよいが、これらの位置は、一般的には、任意の血清型、特に、アデノウイルスAd2およびAd7からの本発明に従う組換えアデノウイルスの構築に適用可能である。
【0137】
さらに、産生されたアデノウイルスは、そのゲノム中に他の変更を有してもよい。特に、他の領域を欠失させて、ウイルスの許容能力を増加させ、ウイルス遺伝子の発現に関連するその副作用を軽減させることができる。かくして、特に、E3またはIVa2領域の全部または一部を欠失させることができる。しかしながら、E3領域に関しては、gp19Kタンパク質をコードする部分を保存することが特に好ましい。このタンパク質は実際、アデノウイルスベクターが、(i)その作用を制限し、(ii)望ましくない副作用を有する免疫反応の対象になることを阻止することができる。特定の様式に従って、E3領域を欠失させ、gp19Kタンパク質をコードする配列を、異種プロモーターの制御下で再導入する。
【0138】
本発明のポリヌクレオチド/NOIを、組換えゲノムの様々な部位に挿入することができる。欠失された配列または残りの配列のための置換物として、それをE1、E3またはE4領域中に挿入することができる。また、ウイルスの産生にとってin cisに必要となる配列(ITR配列およびキャプシド化配列)の外側の任意の他の部位に、それを挿入することもできる。
【0139】
E2領域は、それが72 kDa DNA結合タンパク質、DNAポリメラーゼおよびDNA合成を開始するタンパク質プライミングにとって必要な55 kDa末端タンパク質(TP)の80 kDa前駆体をコードするため、必須である。
【0140】
より欠損したウイルスを作製するための代替的な手法は、ウイルス複製に必要な末端反復のみを完全に維持するウイルスを「ガット(gut;除去する)」することであった。「ガットされた」または「ガットされていない」ウイルスを、293細胞系中で第1世代のヘルパーウイルスを用いて高力価で増殖させることができる。
【0141】
典型的には、組換えアデノウイルスは、組換えアデノウイルスゲノム中で欠損した1個以上の機能をトランスに相補することができる細胞系であるキャプシド化細胞系において産生される。これらの細胞系の1つは、例えば、アデノウイルスゲノムの一部を組込んだ293系である。より正確には、293系は、左ITR、キャプシド化領域、E1aおよびE1bなどのE1領域、タンパク質pIXをコードする領域ならびにタンパク質pIVa2をコードする領域の一部を含む、血清型5アデノウイルス(Ad5)のゲノムの左端(約11〜12%)を含むヒト腎臓胚性細胞系である。この細胞系は、E1領域を欠損した、すなわち、E1領域の全部または一部を欠いている組換えアデノウイルスをトランスに相補し、高力価を有するウイルス保存物を産生することができる。この系はまた、許容温度(32℃)で、さらに熱感受性E2突然変異を含むウイルス保存物を産生することもできる。
【0142】
E1領域を相補することができる他の細胞系は、特に、ヒト肺癌細胞A549(WO-A-94/28152)またはヒト網膜芽細胞(Hum. Gen. Ther.(1996) 215)に基づいて記載されている。さらに、いくつかのアデノウイルス機能をトランスに相補することができる細胞系、例えば、E1およびE4領域を相補する細胞系(Yehら、1996, J. Virol. 70: 559; Krougliakら、1995, Hum. Gen. Ther. 6:1575)ならびにE1およびE2領域を相補する細胞系(WO-A-94/28152、WO-A-95/02697、WO-A-95/27071)も記載されている。
【0143】
通常、組換えアデノウイルスを、ウイルスDNAをキャプシド化細胞系に導入した後、約2または3日後に該細胞を溶解させることにより産生する(アデノウイルスの周期の動力学は24〜36時間である)。このプロセスを実行するために、導入されるウイルスDNAは、必要に応じて、細菌(WO-A-96/25506)または酵母(WO-A-95/03400)中で構築され、前記細胞中にトランスフェクトされた、完全な組換えウイルスゲノムであってよい。また、それはキャプシド化細胞系を感染させるのに用いられる組換えウイルスであってもよい。ウイルスDNAを、それぞれ、組換えウイルスゲノムの一部およびキャプシド化細胞への導入の後に、様々な断片の間の相同組換えにより組換えウイルスゲノムを再構成させることができる相同性の領域を担持する断片の形態で導入することもできる。
【0144】
複製可能アデノウイルスを、遺伝子治療に用いることもできる。例えば、E1a遺伝子を、腫瘍特異的プロモーターの調節下で第1世代のウイルスに挿入することができる。理論的には、腫瘍への前記ウイルスの注入後、該ウイルスは腫瘍中で特異的に複製することができるが、周囲の正常細胞中では複製することができない。この型のベクターを用いて、溶解により直接的に腫瘍細胞を殺傷するか、またはガンシクロビルを用いる治療後に感染した細胞およびバイスタンダー細胞を殺傷することができる単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV tk)などの「自殺遺伝子」を送達することができる。
【0145】
かくして、本発明のHRE構築物が、多くの固形腫瘍塊内に存在する低酸素状態のおかげで特定の腫瘍組織において選択的に活性であり得るならば、本発明は、アデノウイルスE1aポリペプチドをコードする核酸配列に機能し得る形で連結された本発明のポリヌクレオチドを含むアデノウイルスベクターを提供する。HREエンハンサーの制御下では、E1aポリペプチドのみが低酸素状態で発現され、従って、アデノウイルスのみが低酸素状態で複製可能となるであろう。アデノウイルスは内因性E1遺伝子を欠き、好ましくは、内因性E3遺伝子も欠く。欠失させることができるアデノウイルスゲノムの他の領域は、上記されている。また、宿主細胞の免疫調節が平衡化して、腫瘍内での正確なウイルス拡散および感染細胞に対する免疫応答を取得するように、低酸素応答エレメントの制御下でE3遺伝子の全部または一部を含有させることも望ましい。
【0146】
E1bのみを欠損するアデノウイルスが、特に第1相臨床試験における抗腫瘍治療に用いられてきた。E1bによりコードされるポリペプチドは、p53を介するアポトーシスを阻害し、細胞がウイルス感染に応答して自身を殺傷するのを阻止することができる。かくして、正常な非腫瘍細胞においては、E1bの非存在下で、前記ウイルスはアポトーシスを阻害することができず、従って、感染性ウイルスを産生し、拡散することができない。p53が欠損した腫瘍細胞中では、E1b欠損ウイルスは増殖し、付近のp53欠損腫瘍細胞に拡散することができるが、正常細胞に拡散することはできない。同様に、この型のベクターを用いて、HSV tkなどの治療用遺伝子を送達することもできる。
【0147】
結果として、本発明のE1aを発現するアデノウイルスが機能的E1b遺伝子を欠くことが好ましい。
【0148】
他の必須ウイルス遺伝子を、低酸素応答性調節エレメントの制御下に置くこともできる。
【0149】
単純ヘルペスウイルスに由来するベクター
1. ウイルス株
本発明のHSVベクターは、例えば、HSV1もしくはHSV2株、またはその誘導体、好ましくはHSV1に由来するものであってよい。誘導体としては、HSV1およびHSV2株に由来するDNAを含む型間組換え体が挙げられる。誘導体は、HSV1またはHSV2ゲノムに対して少なくとも70%の配列相同性を有するのが好ましく、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは95%の配列相同性を有する。
【0150】
治療手順におけるHSV株の使用は、それらの株が溶解周期を確立することができないように、該株を弱毒化することを必要とするであろう。特に、HSVベクターをヒトにおける遺伝子治療に用いる場合、好ましくは、前記ポリヌクレオチドを、必須遺伝子中に挿入するべきである。これは、ベクターウイルスが野生型ウイルスに遭遇する場合、野生型ウイルスへの異種遺伝子の導入が、組換えにより起こり得るためである。しかしながら、前記ポリヌクレオチドを必須遺伝子中に挿入する限り、この組換え的導入は、レシピエントウイルス中の必須遺伝子をも欠失させ、複製可能な野生型ウイルス集団中への異種遺伝子の「エスケープ」を阻止するであろう。
【0151】
ほんの数例を挙げれば、ICP34.5またはICP27中に突然変異を有する株、例えば、1716株(MacLeanら、1991, J Gen Virol 72: 632-639)、全て、ICP34.5中に突然変異を有するR3616およびR4009株(ChouおよびRoizman, 1992, PNAS 89: 3266-3270)ならびにR930(Chouら、1994, J. Virol 68: 8304-8311)、ならびにICP27中に欠失を有するd27-1(RiceおよびKnipe, 1990, J. Virol 64: 1704-1715)などの、弱毒化された株を用いて、本発明のHSV株を製造することができる。あるいは、VMW65中に不活性化する突然変異を含むか、または上記のいずれかの組合せを含む、ICP4、ICP0、ICP22、ICP6、ICP47、vhsもしくはgHを欠失した株を用いて、本発明のHSV株を製造することもできる。
【0152】
種々のHSV遺伝子を記載するのに用いられた用語は、CoffinおよびLatchman, 1996、「単純ヘルペスウイルスに基づくベクター(Herpes simplex virus-based vectors.)」、Latchman DS(編)、「神経系の遺伝子操作(Genetic manipulation of the nervous system.)」、Academic Press:London, pp 99-114に認められる通りである。
【0153】
2. 相補細胞系
ICP27が欠損したHSVウイルスを、ICP27を発現する細胞系、例えば、V27細胞(RiceおよびKnipe, 1990, J. Virol 64: 1704-1715)または2-2細胞(Smithら、1992, Virology 186: 74-86)中で増殖させる。ICP27を発現する細胞系を、哺乳動物細胞、例えば、Vero細胞もしくはBHK細胞を、該細胞中で発現させることができる機能的HSV ICP27遺伝子を含む、ベクター、好ましくは、プラスミドベクター、および選択マーカー、例えば、ネオマイシン耐性をコードするベクター、好ましくは、プラスミドベクターで同時トランスフェクトすることにより作製することができる。次いで、選択マーカーを有するクローンをスクリーニングして、当業者には公知の方法(例えば、RiceおよびKnipe, 1990に記載のもの)を用いて、例えば、ICP27-突然変異HSV株の増殖を支援する能力に基づいて、どのクローンが機能的ICP27も発現することができるかを決定する。
【0154】
ICP27-突然変異HSV株の機能的ICP27を有する株への逆転を可能にしない細胞系を上記のように作製し、機能的ICP27遺伝子を含むベクターが、ICP27-突然変異ウイルスを維持する配列と重複する(すなわち、相同である)配列を含まないことを確実にする。
【0155】
本発明のHSV株が、他の必須遺伝子、例えば、ICP4中に不活性化する改変を含む場合、相補細胞系は、ICP27について記載されたのと同じ様式で、改変された必須遺伝子を相補する機能的HSV遺伝子をさらに含むであろう。
【0156】
3. 突然変異の方法
HSV遺伝子を、当業界でよく知られたいくつかの技術により機能的に不活性にすることができる。例えば、欠失、置換または挿入、好ましくは、欠失により、それらを機能的に不活性にすることができる。欠失は、遺伝子の一部または遺伝子全部を除去してもよい。挿入された配列は、上記の発現カセットを含んでもよい。
【0157】
突然変異を、当業者にはよく知られた相同組換え方法により、HSV株中に作製する。例えば、HSVのゲノムDNAを、相同的HSV配列に隣接した突然変異された配列を含むベクター、好ましくは、プラスミドベクターと共にトランスフェクトする。突然変異された配列は、欠失、挿入または置換を含んでもよく、これらは全て、日常的な技術により構築することができる。挿入は、例えば、β-ガラクトシダーゼ活性により組換えウイルスをスクリーニングするための、選択マーカー遺伝子、例えば、lacZを含んでもよい。
【0158】
また、他のHSV遺伝子、例えば、ICP0、ICP4、ICP6、ICP22、ICP47、VMW65、gHまたはvhsなどの遺伝子中で突然変異を作製することもできる。VMW65遺伝子の場合、それが必須構造タンパク質をコードするため、遺伝子全体を欠失させないが、VMW65がIE遺伝子を転写活性化する能力を破壊する小さい不活性化挿入を作製する(Aceら、1989, J Virol 63: 2260-2269)。
【0159】
4.本発明のトランスジーンおよびmiRNAを含むHSV株
本発明のトランスジーンおよびマイクロRNAを、NOIを必須遺伝子に挿入する場合、別のHSV必須遺伝子(2.に記載)を担持する細胞系の使用を必要とし得るウイルスを依然として増殖させることができる限り、HSVゲノム中の任意の位置に挿入することができる。
【0160】
本発明の配列を、例えば、突然変異を導入するために上記されたような、HSV配列に隣接する発現カセットを担持するプラスミドベクターとの、HSV株の相同組換えによりHSVゲノム中に挿入することができる。前記ポリヌクレオチドを、当業界でよく知られたクローニング技術を用いてHSV配列を含む好適なプラスミドベクター中に導入することができる。
【0161】
他のウイルスベクター
本発明において用いることができる他のウイルスベクターとしては、アデノ関連ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、ワクシニアウイルスおよびSV40に基づくウイルスベクターが挙げられる。
【0162】
投与
miRNAおよびトランスジーンを患者に投与するか、またはこれを用いて、トランスジェニック植物もしくは非ヒト動物を作製することができる。用語「投与された」は、ウイルスまたは非ウイルス技術による送達を含む。ウイルス送達機構としては、限定されるものではないが、上記のアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、およびバキュロウイルスベクターなどが挙げられる。非ウイルス送達機構としては、脂質媒介性トランスフェクション、リポソーム、免疫リポソーム、リポフェクション、陽イオン顔面性両親媒性物質(CFA)およびそれらの組合せが挙げられる。
【0163】
疾患
本発明に従うベクター系による1個以上の治療用遺伝子の送達を、単独で、または他の治療もしくは治療の成分と組合わせて用いることができる。
【0164】
例えば、本発明のベクターを用いて、WO-A-98/05635に列挙された障害の治療において有用な1個以上のトランスジーンを送達することができる。参照を容易にするために、その一覧の一部をここで提供する:癌、炎症もしくは炎症性疾患、皮膚障害、発熱、心血管作用、出血、凝固および急性期応答、悪液質、拒食症、急性感染、HIV感染、ショック状態、移植片対宿主反応、自己免疫疾患、再かん流傷害、髄膜炎、片頭痛およびアスピリン依存的抗血栓症;腫瘍の増殖、侵入および拡散、血管新生、転移、悪性腫瘍、腹水症および悪性胸水;脳虚血、虚血性心疾患、変形性関節症、慢性関節リウマチ、骨粗しょう症、喘息、多発性硬化症、神経変性、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、卒中、脈管炎、クローン病および潰瘍性大腸炎;歯周炎、歯肉炎;乾癬、アトピー性皮膚炎、慢性潰瘍、表皮水疱症;角膜潰瘍、網膜症および外科的創傷治癒;鼻炎、アレルギー性結膜炎、湿疹、アナフィラキシー;再狭窄、うっ血性心不全、子宮内膜症、アテローム性動脈硬化症または内部硬化症(endosclerosis)。
【0165】
さらに、またはあるいは、本発明のベクターを用いて、WO-A-98/07859に列挙された傷害の治療において有用な1個以上のトランスジーンを送達することができる。参照を容易にするために、その一覧の一部をここで提供する:サイトカインおよび細胞増殖/分化活性;免疫抑制もしくは免疫刺激活性(例えば、ヒト免疫不全ウイルスによる感染などの免疫不全を治療するため;リンパ球増殖の調節のため;癌および多くの自己免疫疾患の治療のため;ならびに移植片拒絶を阻止するため、もしくは腫瘍免疫を誘導するため);造血の調節、例えば、骨髄疾患もしくはリンパ球疾患の治療;例えば、創傷治癒、火傷、潰瘍ならびに歯周病および神経変性の治療のための、骨、軟骨、腱、靭帯および神経組織の増殖促進;卵胞刺激ホルモンの阻害もしくは活性化(妊娠の調節);走化性/化学運動性(chemokinetic)(例えば、傷害もしくは感染の部位に特定の細胞型を移動させるため);止血作用および血栓溶解作用(例えば、血友病および卒中を治療するため);抗炎症作用(例えば、敗血性ショックもしくはクローン病を治療するため);抗微生物剤として;例えば、代謝もしくは行動の調節因子;鎮痛剤として;特定の不全障害の治療;ヒトもしくは獣医学における、例えば、乾癬の治療。
【0166】
さらに、またはあるいは、本発明のレトロウイルスベクターを用いて、WO-A-98/09985に列挙された障害の治療において有用な1個以上のトランスジーンを送達することができる。参照を容易にするために、その一覧の一部をここで提供する:体液性および/もしくは細胞性免疫応答を抑制もしくは阻害するため、角膜、骨髄、器官、レンズ、ペースメーカー、天然もしくは人工皮膚組織などの天然もしくは人工の細胞、組織および器官の移植の場合の移植片拒絶の阻止および/もしくは治療のための、単球もしくはリンパ球の量を減少させることによる、単球もしくはリンパ球の増殖疾患、例えば、白血病を治療もしくは軽減するための、マクロファージ阻害活性および/もしくはT細胞阻害活性ならびにかくして、抗炎症活性;抗免疫活性、すなわち、細胞性および/もしくは体液性免疫応答、例えば、炎症と関連しない応答に対する阻害効果;細胞外マトリックス成分およびフィブロネクチンに接着するマクロファージおよびT細胞の能力の阻害、ならびにT細胞におけるfas受容体発現の上方調節;関節炎、例えば、慢性関節リウマチ、過敏性、アレルギー反応、喘息、全身性紅斑性狼瘡、コラーゲン疾患および他の自己免疫疾患に関連する炎症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化性心疾患、再かん流傷害、心停止、心筋梗塞、血管炎症障害、呼吸困難症候群もしくは他の心肺疾患に関連する炎症、消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎および胃腸管の他の疾患、肝線維症、肝硬変もしくは他の肝臓疾患、甲状腺炎もしくは他の腺疾患、糸球体腎炎もしくは他の腎臓および泌尿器疾患、耳炎もしくは他の耳鼻咽喉疾患、皮膚炎もしくは他の皮膚疾患、歯周病もしくは他の歯の疾患、精巣炎もしくは精巣上体-精巣炎、不妊、睾丸外傷もしくは他の免疫関連性精巣疾患、胎盤機能障害、胎盤機能障害、習慣流産、子癇、子癇前症ならびに他の免疫および/もしくは炎症関連女性生殖器疾患、後部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、結膜炎、脈絡網膜炎、ブドウ膜網膜炎、視神経炎、眼内炎、例えば、網膜炎もしくは類嚢胞黄斑浮腫、交感性眼炎、強膜炎、網膜色素変性症、変性フォンダス(fondus)疾患の免疫および炎症成分、眼の外傷の炎症成分、感染、増殖性硝子体網膜症、急性虚血性視神経障害、例えば、緑内障濾過手術後の過度の瘢痕化、眼の埋め込み物に対する免疫および/もしくは炎症反応ならびに他の免疫および炎症関連性眼疾患により引き起こされる眼の炎症に関連する炎症、中枢神経系(CNS)もしくは任意の他の器官の両方における、免疫および/もしくは炎症抑制が有益である自己免疫疾患もしくは症状もしくは障害、パーキンソン病、パーキンソン病の治療に由来する合併症および/もしくは副作用、AIDSに関連する認知症、複雑なHIVに関連する脳障害、デビック病、シデナム舞踏病、アルツハイマー病およびCNSの他の変性疾患、症状もしくは障害、卒中の炎症成分、ポリオ後症候群、精神障害の免疫および炎症成分、脊髄炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎、脳脊髄炎、急性神経障害、亜急性神経障害、慢性神経障害、ギランバレー症候群、シデナム舞踏病、重症筋無力症、偽脳腫瘍、ダウン症候群、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、CNS圧縮もしくはCNS外傷またはCNSの感染の炎症成分、筋萎縮症および筋ジストロフィーの炎症成分、ならびに中枢および末梢神経系の免疫および炎症に関連する疾患、症状もしくは障害、外傷後炎症、敗血性ショック、感染症、外科手術、骨髄移植の炎症性合併症もしくは副作用または他の移植合併症および/もしくは副作用、例えば、ウイルスキャリアによる感染に起因する、遺伝子治療の炎症および/もしくは免疫合併症および副作用に関連する炎症、またはAIDSに関連する炎症。
【0167】
本発明はまた、遺伝子治療によって個体を治療するための医薬組成物であって、1種以上の送達可能な治療用および/もしくは診断用トランスジーンを含む治療上有効量の本発明のベクターまたは同じものにより産生されるか、もしくはそれから得られるウイルス粒子を含む、前記組成物も提供する。この医薬組成物は、ヒトまたは動物における使用のためのものであってよい。典型的には、医師であれば、個々の被験体にとって最も好適である実際の用量を決定できるであろうし、またそれは特定の個体の年齢、体重および応答に応じて変化するであろう。
【0168】
前記組成物は、必要に応じて、製薬上許容し得る担体、希釈剤、賦形剤またはアジュバントを含んでもよい。製薬上の担体、賦形剤または希釈剤の選択を、意図される投与経路および標準的な薬務に関して選択することができる。前記医薬組成物は、担体、賦形剤もしくは希釈剤として、またはそれらに加えて、任意の好適な結合剤、潤滑剤、懸濁剤、コーティング剤、可溶化剤、および標的部位へのウイルスの進入を援助するか、もしくは増加させ得る他の担体剤(例えば、脂質送達系など)を含んでもよい。
【0169】
必要に応じて、前記医薬組成物を、以下のいずれか1つ以上により:吸入、座剤もしくはペッサリーの形態で、ローション、溶液、クリーム、軟膏もしくは散布剤の形態で局所的に、皮膚パッチの使用により、スターチもしくはラクトースなどの賦形剤を含む錠剤の形態で経口的に、または単独で、もしくは賦形剤との混合物中のカプセルもしくは胚珠中で、または香料もしくは着色料を含むエリキシル剤、溶液もしくは懸濁液の形態で投与するか、またはそれらを、非経口的に、例えば、海綿体内的、静脈内的、筋肉内的もしくは皮下的に注入することができる。非経口投与のために、前記組成物を、他の物質、例えば、溶液を血液と等張性にする十分な塩もしくはモノサッカリドを含んでもよい滅菌水性溶液の形態で最良に用いることができる。頬または舌下投与のために、前記組成物を、従来の様式で製剤化することができる錠剤またはロゼンジ剤の形態で投与することができる。
【0170】
本発明に従うベクター系による1個以上の治療用遺伝子の送達を、単独で、または他の治療もしくは治療の成分と組合わせて用いることができる。治療することができる疾患としては、限定されるものではないが、癌、神経疾患、遺伝病、心疾患、卒中、関節炎、ウイルス感染および免疫系の疾患が挙げられる。好適な治療用遺伝子としては、腫瘍抑制タンパク質、酵素、プロドラッグ活性化酵素、免疫調節分子、抗体、操作された免疫グロブリン様分子、融合タンパク質、ホルモン、膜タンパク質、血管作用タンパク質もしくはペプチド、サイトカイン、ケモカイン、抗ウイルスタンパク質、アンチセンスRNAおよびリボザイムをコードするものが挙げられる。
【実施例】
【0171】
プラスミド構築物
ここで用いた全てのmiRNAの配列は、miRNAレジストリ(Griffiths-Jonesら、2006) (http://www.sanger.ac.uk/Software/Rfam/mirna/index.shtml)から取得した 。miRNA Target(mirT)配列を、以下のように構築した:
4x.mir-142-3p.Target(mir-142-3pT)に対しては、以下のオリゴヌクレオチドをアニーリングさせた。

【0172】
これらのオリゴヌクレオチドの連結により、XbaIおよびXhoI付着末端を有する二本鎖DNA断片を作製した。下線を付した配列は、特定のmiRNAと完全に相補的になるように設計されている。アニーリングしたオリゴヌクレオチドを、pBluescriptII.KSのXbaIおよびXhoI部位にサブクローニングした。次いで、得られたベクターを、ScaIIおよびKpnI、NheIおよびAgeI、またはSalIのいずれかで消化し、以下のレシピエントベクターの適切な部位への連結のために、mirT断片を単離した:
pCCL.sin.cPPT.PGK.GFP.WPRE.mirTを作製するためのpCCL.sin.cPPT.PGK.GFP.WPRE、
pCCL.sin.cPPT.PGKas.GFPas.mirTas.CTEas.polyAasを作製するためのpCCL.sin.cPPT.PGKas.GFPas.CTEas.polyAas、
pCCL.sin.cPPT.PGK.ΔLNGFR.mirT.WPREを作製するためのpCCL.sin.cPPT.PGK.ΔLNGFR.WPRE、
pRRL.sin.cPPT.CMV.hFIX.WPRE.mirTを作製するためのpRRL.sin.cPPT.CMV.hFIX.WPRE、
pRRL.sin.cPPT.ET.hFIX.WPRE.mirTを作製するためのpRRL.sin.cPPT.ET.hFIX.WPRE、
pCCL.sin.cPPT.polyA.CTE.mirT.eGFP.minhCMV.hPGK.deltaNGFR.Wpreを作製するためのpCCL.sin.cPPT.polyA.CTE.eGFP.minhCMV.hPGK.deltaNGFR.Wpre。
DNAの大規模調製を、Marlingen Biosciences内毒素不含高純度プラスミドマキシプレップ系を用いて行った。
【0173】
ベクターの作製および力価測定
VSV偽型第3世代LVを、293T細胞への一過性4プラスミド同時トランスフェクションにより作製し、記載のようにして(De PalmaおよびNaldini, 2002)超遠心により精製した。GFPの発現力価を、限界希釈により293T細胞上で算出した。ベクター粒子を、HIV-1 gag p24抗原イムノキャプチャー(NEN Life Science Products)により測定した。濃縮されたベクター発現力価は、全てのベクターについて、0.15〜1.5 x 1010形質導入ユニット293T(TU)/mlであった。
【0174】
細胞培養物
293T細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS;Gibco)およびペニシリン-ストレプトマイシンおよびグルタミンの組合せを補給したIscoveの改変ダルベッコ培地(IMDM;Sigma)中で維持した。U937単球細胞系を、上記のものを補給したRPMI(完全RPMI)中で維持した。ヒト樹状細胞の一次培養物を、以前に記載のようにして末梢血から単離し、GM-CSFおよびIL-4を補給した完全RPMI中で維持した(Benderら、1996)。
【0175】
DNAおよびRNA抽出
「Blood & Cell Culture DNA Midi Kit」(Qiagen, Hilden, Germany)を製造業者の説明書に従って用いることにより、細胞および組織からDNAを抽出した。「Tri Reagent」(Sigma, Saint Louis, Missouri)を製造業者の説明書に従って用いることにより、細胞からRNAを抽出した。
【0176】
ノーザンブロット
ノーザンブロットを、以前に記載のようにして(De PalmaおよびNaldini, 2002)実施した。20マイクログラムの全RNAをローディングし、100 ngの32P標識されたGFPプローブを用いた。
【0177】
ベクターコピー数の定量
マウス組織から抽出された100 ngの鋳型DNAまたは細胞系から抽出された200 ngの鋳型DNAから出発するリアルタイムPCRにより、ベクターのC/Gを定量した。分析に用いたプライマーとプローブのセットは以下のものである:
LV主鎖:750 nmolのフォワードプライマー(F):5'TGAAAGCGAAAGGGAAACCA3'、200 nmolのリバースプライマー(R):5'-CCGTGCGCGCTTCAG-3'、200 nmolのプローブ(P):5'-VIC-CTCTCTCGACGCAGGACT-MGB-3';マウスゲノムDNA:β-アクチン:300 nmolのF:5'-AGAGGGAAATCGTGCGTGAC-3'、750 nmolのR:5'-CAATAGTGATGACCTGGCCGT-3'、200 nmolのP:5'-VIC-CACTGCCGCATCCTCTTCCTCCC-MGB-3';ヒトゲノムDNA:hTERT:200 nmolのF:5'-GGCACACGTGGCTTTTCG-3'、600 nmolのR:5'-GGTGAACCTCGTAAGTTTATGCAA-3'、200 nmolのP:5'-6FAM-TCAGGACGTCGAGTGGACACGGTG-TAMRA-3'。
【0178】
標準曲線のために、既知数のLV組込み体(サザンブロットにより測定)を含むトランスジェニックのマウスまたはヒト細胞系からのDNAの連続希釈液を用いた。ABI Prism 7900 HT Sequence Detection System(Applied Biosystems)において、反応を3重に実行した。C/Gは以下によって算出した:(ng LV/ng 内因性DNA)×(標準曲線中のLV組込み体の数)。。
【0179】
遺伝子発現分析
RT-PCRのためのSuperscript III First-Strand Synthesis System(Invitrogen, Carlsbad, CA)のランダムヘキサマープロトコルを用いて、2μgの全RNAに対して逆転写を実行した。定量的PCR分析を実施して、GFP mRNAの濃度を定量し、正規化のためにGAPDH発現を用いた。2セットのプライマーおよびプローブを用いた:
GFPについては、20X Assay on Demand(Applied Biosystems)、F:5'-CAGCTCGCCGACCACTA-3'、R: 5'-GGGCCGTCGCCGAT-3'およびP: 5'-6FAM-CCAGCAGAACACCCCC-MGB-3'、およびGAPDHについては: 200nmolのF: 5-ACCACAGTCCATGCCATCACT-3'、900nmolのR: 5'-GGCCATCACGCCACAGSTT-3'および200nmolのP: 5'-TET-CCACCCAGAAGACTGTGGATGGCC-TAMRA-3'。ABI Prism 7900 HT Sequence Detection System(Applied Biosystems)において、反応を3重に実行した。
【0180】
miRNA発現分析
製造業者の説明書に従って、Applied Biosystems Taqman microRNA Assay系を用いて、miRNA検出を行った。結果をhas-mir-16に対して正規化し、let-7aを較正物質として用いた。le-7aの発現と比較して値を報告する。
【0181】
フローサイトメトリー
形質導入した293T細胞を、安定状態のGFP発現に到達させるため、そして偽形質導入を除外するために、FACS分析の前の少なくとも14日間増殖させた。FACS分析の前に、接着細胞を、0.05%トリプシン-EDTAを用いて分離し、洗浄し、2%FBSを含むPBS中に再懸濁した。懸濁液中で増殖させた細胞を洗浄し、2%FBSを含むPBS中に再懸濁した。免疫染色のために、105個の細胞を、PBS、5%ヒト血清、2%FBS中、4℃で15分間ブロッキングした。ブロッキング後、R-フィコエリトリン(RPE)結合抗体(抗ΔLNGFRもしくは抗CD45、BD Pharmingen, San Diego, CA)を添加し、細胞を4℃で30分間インキュベートし、洗浄し、Beckman Coulter Cytomics FC500 (Beckman Couler, Miami, FL)上での2色フローサイトメトリーにより分析した。
【0182】
in vivoでのベクター投与
6〜8週齢のヌードマウスおよびBalb/cマウスを、Charles Rivers Laboratories (Milan, Italy)から購入し、特定病原体未感染の条件で維持した。B型血友病(第IX凝固因子ノックアウト)マウスは、Salk Institute (La Jolla, CA)から獲得したものであり、特定病原体未感染の条件で繁殖させ、維持した。ベクター投与を、マウスへの尾静脈注入により行った。全ての動物への手順は、San Raffaele病院の機関内動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)により承認されたプロトコルに従って実施した。
【0183】
遺伝子導入
トランスジェニックマウスを、記載のように(Loisら、2002)LVを用いて作製した。簡単に述べると、雌のFVBマウスを、妊馬の血清とヒト絨毛性ゴナドトロピンの組合せを用いて過剰排卵させた。1匹の雌当たり平均20〜30個の胚を回収し、それを、同じ日に10〜100 plの5 x 107TU/mlのLVストックを用いて囲卵腔にマイクロインジェクションした。操作した胚を、偽妊娠したCD1マウスの卵管にすぐに埋め込んだ。子犬を、PCRによるGFP配列の存在について遺伝子型決定した。陽性マウスを繁殖させて、トランスジーンの生殖細胞系伝達を試験した。尾からDNAを抽出し、これを用いて創始マウスおよびF1子孫マウスにおいてリアルタイムPCRによりベクターコピー数を定量した。
【0184】
免疫組織化学
免疫蛍光分析のために、組織を、4%パラホルムアルデヒド中で固定し、20%スクロースを含むPBS中、4℃にて48時間にわたり平衡化し、最適の切断温度(OCT)で包埋し、そして凍結させた。クリオスタット切片(5μm厚)を、パラホルムアルデヒドで後固定し、5%ヤギ血清(Vector Laboratories, Burlingame, CA)、1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%Tritonを含むPBS中でブロックし、そしてラット抗マウスF4/80 (Serotec, Raleigh, NC)または抗マウスCD45、CD31もしくはCD8(BD Pharmingen)と共にインキュベートした。単一の光学切片に由来する蛍光シグナルを、3-レーザー共焦点顕微鏡(Radiance 2000; Bio-Rad, Hercules, CA)により獲得した。
【0185】
第IX因子(hFIX)の定量
hF.IX濃度を、以前に記載のように(Brownら、2004b)、第IX因子:Ag(Roche, Milan, Italy)については、酵素免疫アッセイにより、FIX活性については、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイにより、マウスクエン酸血漿中で測定した。
【0186】
結果
脱標的化された発現プロフィールを有する組込みベクター系を作製するために、本発明者らは、最近同定されたmiRNAを介する転写後サイレンシング系を利用した。本発明者らは、mir-30a、mir-142-5pまたはmir-142-3pのいずれかに対する完全な相補性を有する23 bp配列(mirT)の4個の直列コピーを、普遍的に発現されるホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターにより駆動されるGFP発現カセットの3'非翻訳領域(3'UTR)中に挿入することにより、miRNA調節型レンチウイルスベクター(LV)を構築した(図1a)。複数コピーの完全に相補的な標的を用いるこの設計は、miRNAの存在下でトランスジーンの抑制を最適化することが意図されており、かつmiRNA媒介性調節を支配する規則の新たな理解に基づく(BartelおよびChen, 2004; Doenchら、2003)。ノーザンブロットおよびマイクロアレイ分析を用いる最近の報告は、これらのmiRNAが造血細胞において富化されていることを示していることから(BaskervilleおよびBartel, 2005; Chenら、2004)、mir-142-5pおよびmir-142-3pを選択した。本発明者らは、定量的リアルタイムPCR分析を行って、本発明者らの標的細胞における特定のmiRNAの濃度を決定することにより、これらの以前の知見を確認した(図2a)。図2aに示されるように、mir-142-3pおよびmir-142-5pは、U937細胞において高度に発現されるが、293T細胞においては低レベルで検出されるに過ぎなかった。mir-30aは、293T細胞およびU937細胞の両方において少ないことが見出され、従って本発明者らの研究のための対照として役立つ。
【0187】
ベクターを、以前に記載のようにして調製および濃縮した。miRNA調節型LVの力価測定は、標的配列の含有が、ベクターの感染性または非造血細胞におけるトランスジーン発現のレベルに有害な影響を及ぼさなかったことを示唆していた(図2b)。miRNA標的配列を含まない親ベクター(LV.PGK.GFP)匹敵するレベルの形質導入およびトランスジーン発現を達成した。対照的に、ヒトU937単球細胞系またはヒト初代樹状細胞の両方の形質導入により、2つのベクター、LV.PGK.GFPとLV.PGK.GFP.142-3pTとの間で大幅に異なる発現プロフィールが得られた。U937細胞においては、平均蛍光強度は、Taqman分析でゲノム当たりのベクターのコピー数(C/G)は類似することが示されたにもかかわらず、LV.PGK.GFPを形質導入した細胞では50〜100倍高かった。高いベクター濃度(>50 MOI)での形質導入の後でも、LV.PGK.GFP.142-3pTベクターを受容する細胞中でのトランスジーン発現のほぼ完全な廃止が起こった樹状細胞では、やはり同様の知見が観察された。対照ベクターとして、mir-30aの標的配列をLV.PGK.GFP中にクローニングして、LV.PGK.GFP.mir-30aTを作製した。mir-30aは、造血細胞中では発現されず(Zengら、2002)、予想通り、本発明者らは細胞形質導入後のGFP発現の減少を認めなかった。かくして、本発明者らの結果は明確に、ヒト細胞において、本発明者らのベクター設計は、特定の細胞型における遺伝子発現を抑制しながら、高いベクター感染性を維持することを示している。
【0188】
本発明者らは以前に、2個の異なる転写物を協働的に発現するための単一プロモーターエレメントの二方向活性を利用するベクター系を記載した(Amendolaら、2005)。この系により、2つのトランスジーンを、単一のベクターによる形質導入後に細胞中で発現させることができる。この系は多くの遺伝子治療適用にとって有用であるが、2個のトランスジーンのうちの1個のみを発現することが必要である状況も存在する。残念なことに、単一のベクターからの2個のトランスジーンの分岐調節を可能にする現在利用可能な遺伝子導入系は存在しない。
【0189】
分岐調節されるベクター系を開発するために、本発明者らは、GFPリポーターカセットの3'UTR中にmir-142-3pTを含むように二方向LV(Bd.LV)を改変した(図1b)。このベクターは、2個のトランスジーンの分岐的転写を駆動するPGKプロモーターの本来備わっている二方向活性を利用する。293T細胞の形質導入は、mirTを含むか、もしくは含まないBd.LVの間でGFPまたは低親和性神経増殖因子受容体(ΔLNGFR)発現の差異を示さなかった(図2c)。しかしながら、形質導入された単球においては、mirTを含まないBd.LVはGFPとΔLNGFRの両方を発現したが、タグ付けされたベクターはΔLNGFRのみを発現した。このことは、タグ付けされたトランスジーンの抑制が、転写的サイレンシングによってではなく(プロモーターのサイレンシングは両トランスジーンの発現を阻止したであろうから)、転写後レベルで起こることを示している。これらの結果はまた、単一ベクターに由来する分岐調節された2個のトランスジーンとして使用することができるベクター設計を提供するための、二方向ベクター系と組合わせた、本発明者らのmiRNA調節戦略の利用性も示している。
【0190】
この手法の多才さをさらに証明するために、本発明者らは、293TおよびU937細胞中でのそれらの示差的発現に基づいて一連のmiRNAを選択し(図2a)、これらのmiRNAの標的配列を、Bd.LVベクターのGFP発現カセット中にクローニングした。図2dに示されるように、2つの細胞集団の形質導入により、それぞれのベクター間で高度に異なる発現パターンが示された。重要なことに、リアルタイムPCRにより決定されるmiRNAの濃度は、観察される抑制の程度と強い相関を示した。例えば、218T.GFP.mCMV.PGK.ΔNGFRからのGFP発現は、293T細胞においては10倍以上低下したが、mir-218が低レベルでのみ発現されるU937細胞においては抑制はほとんど観察されなかった。かくして、このデータは、他のmiRNAに対する本発明者らの手法の利用可能性を拡張し、また、発現プロフィールが所望の組織発現パターンを有するベクター系を設計する簡便な手段を提供できることを証明しているものである。
【0191】
miRNA活性の頑健性についてはほとんど知られていないため、本発明者らは、標的細胞中にmirTを担持するベクターコピーを増加させることにより克服することができる調節の閾値が存在するかどうかを決定することを目指した。U937細胞の複数ラウンドの形質導入の後、トランスジーン発現の増加的上昇のみが存在し、これはベクターC/Gと線形的に関連していた(図3d)。これらの結果は、抑制が試験した全てのベクター用量について同じ程度まで維持され、175のベクターC/Gでも飽和に到達しないことを示唆している。本発明者らは次に、mirTを担持する外因性配列を発現させることが、その天然の標的に由来する内因性miRNAを抑制することができるかどうかを求めた。mir-142-3pについては標的mRNAが同定されていないため、本発明者らは、異なる発現カセット中で同じmirTを担持する第2のベクターにより細胞を過負荷にした。4 C/GのLV.PGK.GFP.142-3pTを担持するU937細胞を、LV.PGK.ΔLNGFR.142-3pTで重複感染させたが、図3eに示されるように、30コピーの新規ベクターを導入した後でも、GFP発現は増加しなかった。さらに、ΔLNGFR発現はmir-142-3pにより抑制された(図3e)。全体として、本発明者らのデータは、mir-142-3pがRNA干渉経路において反応制限的ではないこと、およびmir-142-3pTを含む新しい遺伝物質の導入が、このmiRNAの天然活性を混乱させるべきではないことを示唆している。
【0192】
miRNA調節戦略の新規性は、以前には可能ではなかった様式で、ベクターを工学的に操作する可能性を提供する。造血細胞における発現を阻止するためのその有用性に加えて、本発明者らは、ベクター産生細胞においてトランスジーン発現を選択的に阻止するためにmiRNA調節を使用しようとした。通常、ベクター産生の過程では、導入プラスミドからのベクターゲノムの発現に加えて、トランスジーンの発現も存在する。毒性タンパク質の発現は産生細胞を殺傷し、ベクター力価の全体的な減少につながるため、毒性分子をコードするベクターの場合、これは特に問題となり得る。かくして、産生細胞においてトランスジーン発現を選択的に阻止する能力は、毒性分子をコードするものなどの特定のベクターの製造にとって重要な進歩であろう。
【0193】
本発明者らのmiRNAプロファイリングデータは、mir-19aが293T細胞において高度に発現されることを示していた。このmiRNAは癌と関連するが、正常組織には認められないことが以前に示されており、形質転換された細胞系および腫瘍細胞系においてその高い発現を示し得る。本発明者らは、mir-19aT配列の含有が293T産生細胞においてトランスジーン発現を阻止するであろうと結論付けた。ベクター力価を低下させないために、本発明者らは、19aT配列を含む発現カセットがアンチセンスであるようなベクターを構築した。この配置においては、ベクターゲノムは転写され得るが、19aT配列はアンチセンスの向きにあるためその転写物はmir-19aを介するRNAiによる分解にさらされないであろう。
【0194】
図4に示されるように、293Tの一過性トランスフェクションの際、pLV.PGKas.GFPas.19aT.CTEas.polyAas、pLV.PGK.GFPおよびpLV.PGKas.GFPas.CTEas.polyAasのそれぞれの間では、GFP発現において100および10倍を超える減少が存在した。かくして、mir-19aT配列の含有が293T細胞における遺伝子発現を阻止することができることを示唆している。重要なことに、プラスミドにより産生される相補的転写物のアンチセンス作用によって標準的なプラスミドと比較してベクター力価の10倍の低下をもたらしたpLV.PGKas.GFPas.CTEas.polyAasと違って、pLV.PGKas.GFPas.19aT.CTEas.polyAasは、pLV.PGK.GFP構築物よりも低い力価でベクターを産生しなかった。かくして、本発明者らのデータは、miRNA調節を用いて、ベクター力価に負の影響を及ぼすことなくベクター産生の際にトランスジーンの発現を阻止することができることを示している。
【0195】
ヒト細胞における本発明者らのmiRNA調節型LVのin vitroでの特性評価の後、本発明者らは研究をマウスにまで拡張した。マウスは、本発明者らがin vitroで試験したヒトmiRNAの各々の正確な相同体を発現するが、それらの組織発現パターンはin situでは確立されていない(Lagos-Quintanaら、2002)。ヌードマウスに2 x 108個のLV粒子を投与した。脾臓および肝臓の定量的PCR(Q-PCR)分析は、全ての治療群について類似するベクター含量を示した(データは示さない)。しかしながら、発現プロフィールは劇的に相違した。LV.PGK.GFPおよびLV.PGK.GFP.30aTで治療した動物は、クッパー細胞、肝細胞および内皮細胞などの肝臓内で広範なパターンの細胞発現を示した(図5a)。対照的に、LV.PGK.GFP.142-3pTで治療した動物は、クッパー細胞においてはほとんど検出不能なGFP発現を示したが、肝細胞および内皮細胞においては高レベルのGFPを維持した。
【0196】
治療した動物の脾臓においても一致する知見が観察された。LV.PGK.GFPベクターを受容するマウスにおいては、FACS分析(図5c)により示されるように、強いレベルの発現を示すGFP+脾臓細胞が高頻度に(>5%)が存在した。比較すると、LV.PGK.GFP.142-3pTで治療された動物に由来する脾臓細胞の1%未満がGFP+であり、低い強度に過ぎなかった。これらのマウスの免疫組織化学分析により、ほぼ専ら辺縁帯(marginal zone)のみに認められるGFP+細胞の存在が示された。これらの細胞は、汎白血球(pan-leukocyte)マーカーCD45に関して陰性の共染色により示されるように(図5b)、造血系列のものではないが、おそらく脾臓の支持基質の一部である網状線維芽細胞(Steinigerら、2003)であった。これは、特定の細胞系列からの発現を制限しながら、様々な細胞型において遺伝子発現を維持することができるこの手法の新規態様を実証している。
【0197】
本発明者らのベクターの発現プロフィール、およびそれに付随して、mir-142-3pの調節活性をより良好に特性評価するために、LV.PGK.GFP.142-3pTベクターを用いて、トランスジェニックマウスを作製した。様々なベクターC/G(4〜24)を担持するF1子孫の末梢血を分析したところ、GFP発現は全ての造血系列(n=26; 図6a)において実質的に検出不可能であった。さらに、肝臓、腸および肺の柔組織、ならびに脾臓、胸腺、および骨髄の間質構造全体の汎細胞性(pan-cellular)蛍光は明るいにも拘らず、本発明者らは、これらの器官の造血系列細胞内でGFP発現を観察しなかった(図6b)。これらの結果は、内因性mir-142-3pが、造血系列からのトランスジーン発現を急速に、かつ確実に制限することを示している。
【0198】
最後に、本発明者らは、免疫応答性成体Balb/cマウスにおける全身的遺伝子導入のための本発明者らのmiRNA調節型LVの有用性を評価した。本発明者らは、LV.PGK.GFP、LV.PGK.GFP.142-3pT、またはアルブミンプロモーターの制御下でGFPを発現するLV (LV.ALB.GFP)のいずれかを、マウス当たり5 x 108形質導入ユニット(TU)投与した。マウスを、脾臓および肝臓において、強力なneo-抗原であるGFP(Stripeckeら、1999)の発現について様々な時点で分析した。LV.PGK.GFPにより治療したマウスにおいて、GFP+細胞は5日目に検出されたが、本発明者らの以前の知見(Follenziら、2004)と一致するように、14日目までGFP+細胞はほとんど観察されないかまたは全く観察されず、ベクター含量はほとんど検出不可能なレベルまで減少した(図7a)。発現は主に肝細胞に限定されたにも拘らず、LV.ALB.GFPを用いる場合、GFP+細胞の消失も起こった。しかしながら、注目すべきことに、このベクターからの標的外の発現が、脾臓において少量の造血細胞内などで検出され、これが免疫介在性ベクター消失の開始における役割を果たし得る(図7d)。
【0199】
LV.PGK.GFPおよびLV.ALB.GFPに関する本発明者らの知見とは対照的に、分析した全ての時点で(>120日、図7a、b)、全てのLV.PGK.GFP.142-3pTで治療されたマウスの肝臓中にGFP+肝細胞および内皮細胞が高頻度で存在した。形態学的分析により、10〜20%の肝細胞がGFP+であり(n=10)、重要なことに、陽性細胞の頻度は安定なままであることが示された。ベクターC/Gは、最初は全ての治療群について類似していたが、14日目までに、LV.PGK.GFP およびLV.ALB.GFPマウスにおいてはそれらは急速に減少し、LV.PGK.GFP.142-3pTで治療した動物においては良好に検出可能なレベルに維持された。C/Gのゆっくりした減少が、最も長い追跡試験で観察されたが、この減少はGFP+肝細胞の減少と一致しなかったことから、それは正常な造血細胞代謝回転の間の形質導入されたクッパー細胞の置換によるものと思われた。
【0200】
肝臓におけるGFP発現は広範囲であるにも拘らず、本発明者らは、GFP+クッパー細胞を全く検出しなかった。さらに、本発明者らは脾臓の辺縁帯においてGFP+網状線維芽細胞を観察したが、造血系列細胞においてはトランスジーン発現が検出されなかった。持続的なGFP発現と一致して、本発明者らは有意なCD8+浸潤または肝臓における病理の兆候を観察しなかった(図7c)。
【0201】
長期間のトランスジーン発現を確立するための本発明者らの手法の有用性のさらなる証明として、本発明者らはB型血友病の治療のために本発明者らの系を使用しようとした。B型血友病マウスは第IX凝固因子(FIX)を完全に欠損しており、それゆえそれらは正常な凝固作用を1%未満しか示さない。さらに、それらは天然にはFIXを発現しないため、それらはFIX抗原の導入の際に抗FIX免疫を生じる傾向が高い。この問題を回避するため、本発明者ら自身も含め、多くのグループが、肝細胞特異的FIX発現ベクターを構築して、APCにおける遺伝子発現を阻止し、抗FIX免疫の誘導を回避してきた(Brownら、2004a;Brownら、2004b;Follenziら、2004;Mingozziら、2003)。しかしながら、図8に示されるように、肝細胞特異的LV.ET.hFIXベクターは、静脈内投与後にB型血友病マウスにおいて長期間のFIX発現を提供することができなかった。対照的に、FIX発現カセットの3'UTR中にmir-142-3pT配列を含んだLV.ET.hFIX.142-3pTベクターの注入により、長期間のFIX発現が得られ、正常レベルの40%を超えるまで凝固活性が回復した。
【0202】
全体として、これらの結果は、miRNA調節型LVを用いて、細胞内でも細胞外でも、neo抗原の高レベルで安定な発現を免疫応答性マウスにおいて首尾よく確立することができ、これを用いて、B型血友病マウスにおいて証明されたように、疾患の表現型を是正することもできることを示している。
【0203】
ここで、本発明者らは、トランスジーン調節の内因性miRNA機構を活用する初めてのウイルス遺伝子導入系を記載する。LV介在性送達を用いることにより、in vivoでの遺伝子導入が可能であり、それゆえ本発明者らは、成体の哺乳動物におけるmiRNA活性の最初のin situデータの一部を提供する。下等後生動物における研究と同様(Brenneckeら、2005;Reinhartら、2000)、本発明者らは、miRNA調節が非常に効率的であることを観察した。トランスジェニックマウス、ならびにLVを静脈内投与されたマウスにおいては、本発明者らは、全ての造血細胞において一致したmir-142-3p活性を観察した。mir-142-3pT配列をトランスジーンに添加することにより、造血系列におけるトランスジーン発現が最大100倍減少したが、非造血細胞における発現に対しては影響はなかった。
【0204】
本発明者らの系においては、内因性miRNA調節は、肝細胞特異的アルブミンプロモーターの使用よりも、造血系列細胞におけるベクター発現を阻止するためのより良い手段を提供した。転写後調節は、挿入の位置的効果および/または組織特異的プロモーターの不完全な再構成に起因する標的外の発現を克服することができるため、これが起こる可能性が最も高い。この現象は、以前の細胞状態において転写されたか、または漏出しやすい転写に起因して生じたmRNAの翻訳を阻止するための、miRNA調節の提唱された天然の機能の1つと同種であり得る(BartelおよびChen, 2004; Farhら、2005)。そのようなものとして、miRNA調節をベクターに組込むことにより、普遍的プロモーターと共に用いる場合でも、組織特異的転写エレメントと組み合わせて用いる場合でも、トランスジーン発現に対して重要な制御の層を提供することができる。
【0205】
造血系列からのトランスジーン発現を脱標的化するためにmiRNA調節を用いることにより、本発明者らは、免疫介在性ベクター消失を阻止し、安定な遺伝子導入を可能にし、それによって、臨床遺伝子治療(Thomasら、2003)に対する最も重要な障害の1つを克服することができた。特に関連して、本発明者らは、細胞内および細胞外の両方の循環する抗原に対するこの手法の有用性を証明する。miRNA調節戦略を用いて、本発明者らは、B型血友病マウスの凝固表現型の安定かつ高レベルの是正を達成することができた。本発明者らの知識では、これは内因性miRNA調節を活用する治療用途の初めての証明である。
【0206】
本明細書に記載の研究はまた、miRNA媒介調節が、強力で構成的に活性なベクタープロモーターからの発現を実際に無効にするか、またはさらに組織特異的プロモーターの性能を改善するための頑強で高度に有効な手段であることの最初の証拠も提供する。全体として、miRNAがトランスジーンを調節するための強力な方法を提供することができることはこの研究から明らかであり、この複雑なネットワークを用いることにより、本発明者らは治療的遺伝子導入のための重要な暗示であるベクター設計における新しい理論的枠組みを開拓した。
【0207】
コンビナトリアルなmirT配置を可能にする本発明者らの手法を通して、in vitroで用いる場合であれin vivoで用いる場合であれ、遺伝子治療のためであれ動物の形質転換のためであれ、様々な遺伝子送達構築物を作製して、2個の異なるトランスジーンを分岐調節する能力を含む精巧なパターンの遺伝子発現を達成することができる。本発明者らは新しい組織特異的、ならびに発生的および腫瘍特異的miRNAを探索し続けているので、増殖または分化およびさらに腫瘍形成に条件的に応答するベクターを構築することができるであろう。
【0208】
本明細書に記載の出願および特許の各々、ならびに出願および特許の各々の経過(「出願で引用された明細書」)などの、上記の出願および特許の各々において引用されるか、または参照される各々の明細書ならびに出願および特許の各々ならびに出願で引用された明細書のいずれかで引用もしくは記載された任意の産物のための任意の製造業者の説明書またはカタログは、参照により本明細書に組み入れられるものとする。さらに、本明細書で引用された全ての書類および本明細書で引用された書類において引用または参照された全ての書類、ならびに本明細書で引用もしくは記載された全ての産物に関する任意の製造業者の説明書またはカタログは、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0209】
記載された方法および本発明の系の様々な改変および変更は、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明を特定の好ましい実施形態と共に記載してきたが、特許請求の範囲に記載の本発明はそのような特定の実施形態に過度に制限されるべきではないことが理解されるべきである。実際、本発明を実施するための記載された様式の様々な改変は、分子生物学または関連する分野における当業者にとって明らかであり、特許請求の範囲内にあると意図される。
【0210】
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【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】図1a:miRNA調節型レンチウイルスベクター系の模式図を示す。ここに示されるのは、普遍的に発現されるヒトPGKプロモーターの転写制御下で増強されたグリーン蛍光タンパク質(eGFP)をコードする親レンチウイルスベクター(LV.PGK.GFP)、および内因性miRNAにより標的化される配列の4個の直列コピーを含む、改変されたベクター(LV.PGK.GFP.mirT)である。図1b:miRNA調節を用いて分岐調節されるレンチウイルスベクター系の模式図を示す。ここで示されるのは、異なる転写物として2個のトランスジーンの協働的転写を可能にする二方向プロモーター構築物の転写制御下でeGFPおよび突然変異された低親和性神経増殖因子受容体(ΔLNGFR)をコードする親二方向レンチウイルスベクター(Bd.LV)である。Bd.Lvを改変して、eGFP発現カセットの3'非翻訳領域(3'UTR)中にmirT配列を含有させた。図1c:肝細胞特異的なmiRNA調節型レンチウイルスベクター系の模式図を示す。ここで示されるのは、合成肝臓特異的プロモーター/エンハンサーエレメントの転写制御下でヒト第IX凝固因子(hFIX)をコードする親レンチウイルスベクター(LV.ET.hFIX)、および内因性miRNAにより標的化される4個の直列コピーの配列を含む改変されたベクター(LV.ET.hFIX.mirT)である。
【図2a−c】図2a:miRNAプロファイリング分析を示す。リアルタイムPCRによる293TおよびU937細胞における選択されたmiRNAの発現分析を示す。構成的に発現される「ハウスキーピング」miRNAであるlet-7aと比較した発現レベルを報告する。図2b:miRNA調節を用いて、造血系列からの発現を脱標的化することができる。形質導入の14日後の、用量に一致する濃度の示したLVを用いて形質導入された293T(腎臓起源)、U937(単球起源)および初代樹状細胞(末梢血由来)のFACS分析を示す。肝臓特異的アルブミンプロモーターを含むLV(LV.ALB.GFP)を、このプロモーターの標的外の活性の比較のために示す。このヒストグラムは、3つの独立した実験の代表である。ゲノム当たりのベクターコピー数(C/G)を、Taqman分析により決定した。灰色で示されるのは形質転換されなかった細胞である。図2c:miRNA調節を活用して、2個のトランスジーンの分岐調節のためのベクターを構築することができる。形質導入の14日後の、mir-142-3pTを含むかまたは含まないGFP、およびΔLNGFRを発現するごく近く一致する濃度のBd.LVで形質導入された293TおよびU937細胞からのGFPおよびΔLNGFR発現のFACS分析を示す。ドットプロットは2個の独立した実験の代表である。
【図2d】図2d:miRNA調節型ベクター設計を用いて、異なる内因性miRNAにより調節され、異なるベクター発現プロフィールを媒介する様々なベクターを構築することができる。形質導入の14日後の、指示されるmirT配列を含むかまたは含まないGFP、およびΔLNGFRを発現するごく近く一致する濃度のBd.LVで形質導入された293TおよびU937細胞からのGFPおよびΔLNGFR発現のFACS分析を示す。
【図3】図3a:LV.PGK.GFPまたはLV.PGK.GFP.142-3pTにより形質導入された293TおよびU937細胞からのGFP発現の定量的RT-PCR分析を示す。cDNAは、図1bに提供される細胞に由来するものである。全サンプルをGAPDH発現に対して正規化し、較正物質として設定された105TU/mLのLV.PGK.GFPで形質導入された293T細胞から検出された転写物と比較した値を報告する。図3b:示したBd.LVにより形質導入されたU937細胞からのGFPおよびΔLNGFR発現の定量的RT-PCR分析を示す。cDNAを、図1cに提示された細胞から取得した。全ての値を、105TU/mLのBd.LVで形質導入された細胞中で検出されたΔLNGFR転写物のレベルと比較して報告する。図3c:mir-142-3pTを用いてまたは用いずにLVおよびBDd.LVにより形質導入された細胞のノーザンブロット分析を示す(それぞれ、図1bおよび1cに示される)。各サンプルについて、20μgの全RNAをロードし、GFPについてプローブした。GFP転写物の予想される大きさを、LV(上)およびBd.LV(下)について矢印により示す。図3d:ベクター含量の増加を得るためにLV.PGK.GFP.142-3pTで反復感染させたU937細胞を示す。GFPをFACS分析により測定した。細胞集団に関する平均ベクターC/Gを示す。ベクター用量の増加と、LV.PGK.GFP.142-3pTのトランスジーン発現との間の関係を示す回帰分析が含まれる(右)。U937細胞においては、1コピーのLV.PGK.GFP(左下パネル)が、175 C/G of LV.PGK.GFP.142-3pTよりも高いレベルでGFPを発現することに留意されたい。図3e:mir-142-3p介在性RNA干渉の頑健性を、漸増濃度のLV.PGK.ΔLNGFR.mir-142-3pTを用いた4 C/GのLV.PGK.GFP.mir-142-3pTを含むU937細胞の重複感染により測定した。Taqman分析を用いて、重複感染した細胞のベクターコピー数を検出し、GFPおよびΔLNGFR発現における変化をFACS分析により測定した。
【図4】図4:miRNA調節を活用して、ベクター力価を低下させることなく産生細胞におけるトランスジーン発現を阻止することができる。3つの異なるレンチウイルスベクター構築物のトランスジーン発現および産生力価を比較した。ヒストグラムは、ベクター産生時の293T細胞におけるGFP発現を示す。ドットプロットは、産生されたベクターによる形質導入後の293T細胞におけるGFP発現を表す。構築物pLV.PGKas.GFPas.CTEas.polyAasおよびpLV.PGKas.GFPas.19aT.CTEas.polyAasは、アンチセンス方向に前記発現カセットを有する。示されるように、発現カセットをアンチセンスに置く場合(pLV.PGKas.GFPas.CTEas.polyAas)、標準的なpLV.PGK.GFPベクターと比較した場合にベクター力価が10倍低下する。しかしながら、アンチセンス発現カセット中にmir-19aT配列を含有させることにより、標準的な構築物の値まで力価が回復する。
【図5】図5a:miRNA調節型ベクターを、in vivoで特定の細胞系列からの発現の選択的脱標的化を達成するように設計することができる。示したLVを2週間前に尾静脈により注入されたヌードマウスの肝臓の共焦点顕微鏡分析を示す。画像は3匹のマウスのうちの代表である。GFPを、直接的蛍光により可視化した。肝臓切片を、(左)マクロファージ特異的マーカーF4/80および(右)内皮細胞マーカーCD31について免疫染色した。実際には、F4/80+クッパー細胞は、mir-142-3pTベクターを用いる場合、検出可能なレベルまでGFPを発現しなかったが、他のベクターにより形質導入した場合、これらの細胞の多くがGFPを発現した。CD31+肝臓類洞内皮細胞は、LV.PGK.GFP.142-3pT(矢印)などの全ベクターによる形質導入の際にGFPを発現したことに留意されたい。図5b:miRNA調節型ベクターを、in vivoで特定の細胞系列からの発現の選択的脱標的化を達成するように設計することができる。上記の同じマウスに由来する脾臓切片を、汎白血球CD45マーカーについて免疫染色した。LV.PGK.GFP.142-5pTは、CD45+白血球からのGFP発現を効率的に脱標的化したが、辺縁帯洞の非造血間質細胞(CD45陰性)中での強力なGFP発現を可能とした。図5c:miRNA調節型レンチウイルスベクターを設計して、静脈内ベクター注入後の造血細胞におけるトランスジーン発現を阻止することができる。LV.PGK.GFP-およびLV.PGK.GFP.142-3pTにより治療された動物の脾臓細胞からのGFP発現のFACS分析を示す。
【図6】図6a:miRNA調節型ベクターを、高いベクターコピーでさえ、in vivoでの造血系列細胞におけるトランスジーン発現を阻止するように、設計することができる。代表的なTgN.PGK.GFP.142-3pT (24 C/G)およびTgN.PGK.GFP (4 C/G)トランスジェニックマウスからの末梢血および骨髄中でのGFP発現のFACS分析は、これらのマウスにより担持されるベクターコピーの数が多いにも拘らず、実際には検出不可能なトランスジーン発現を示す。図6b:miRNA調節型ベクターを、トランスジェニックマウスの造血系列と非造血系列の間の遺伝子発現を分離するように、設計することができる。上記のマウスからの指示される器官の免疫蛍光を示す。GFPを、直接的蛍光により可視化した。造血系列細胞を、胸腺について以外は分析した全ての器官においてCD45免疫染色によりマーキングしたが、胸腺細胞をマーキングするためにはCD3を用いた。TgN.PGK.GFPマウスにおいては、汎細胞性GFP発現は、全器官の柔組織および間質中で検出された。造血系列細胞は、CD45染色とGFP発現の間の重複のため、黄色になる。対照的に、PGK.GFP.142-3pTトランスジェニックマウスにおけるGFP発現は、CD45+クッパー細胞(肝臓)、歯槽(肺)および固有層(腸)マクロファージにおいて選択的に抑制されたが、これは赤色になり、矢印により示す。脾臓および胸腺においては、GFP発現はまた、これらの器官の間質内での発現は強いにも拘らず、全ての造血系列細胞において陰性であった。
【図7】図7a:miRNA調節型LVは、免疫応答性マウスにおいて安定な遺伝子導入を可能にする。示したLVを投与したBalb/cマウスからの肝臓および脾臓切片の共焦点免疫蛍光分析を示す。GFPを、直接的蛍光により肝臓中で可視化した;クッパー細胞、CD8+ T細胞、または内皮細胞を、それぞれ、抗F4/80、抗CD8、または抗CD31を用いる染色により検出した。LV.PGK.GFPおよびLV.ALB.GFPマウスのGFP+細胞は、2週間までに肝臓から消失したが、これはCD8+ T細胞浸潤物の存在と相関していた。対照的に、豊富なGFP+肝細胞および内皮細胞は、LV.PGK.GFP.142-3pTを注入したマウスにおいては120日を超えて(分析した最長の時点)持続した。図7b:LV.PGK.GFP.142-3pTにより処理したマウスの70日目の肝臓におけるGFP+細胞は、典型的な肝細胞の形態を有するか、またはCD31+内皮細胞であった(矢印)。これは、広範囲の細胞系列におけるトランスジーン発現を許容しながら、特定の細胞型からの発現の選択的脱標的化である、この手法の新規態様を証明している。図7c:注入後42日目のLV.PGK.GFP.142-3pTマウスにおける正常な組織学および単核細胞浸潤の非存在を示すヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を示す。図7d:示したベクターを5日前に注入された免疫応答性マウスの脾臓の分析を示す。mir-142-3pTベクターからのGFP発現は、主に辺縁帯洞(marginal zone sinus; MS)で観察された;これらのGFP+細胞のいくらかは、α-平滑筋アクチン(α-SMA)を発現し、線維芽細胞様間質細胞として同定された(矢印)。いくらかのCD45+造血細胞などの分散したGFP+細胞が、LV.ALB.GFPマウスの脾臓中に存在した(矢印)。これはさらに、miRNA調節戦略が組織特異的プロモーターよりも改善されたトランスジーン調節の手段を提供することができることを示している。
【図8】図8a:miRNA調節型レンチウイルスベクターは、マウスモデルにおけるB型血友病の安定な是正を媒介する。B型血友病マウス(第IX因子ノックアウト)に、尾静脈を介して、肝細胞特異的ETプロモーターの制御下でhFIXをコードするレンチウイルスベクター(LV.ET.hFIX)またはトランスジーンの3'UTR中にmir-142-3pT配列を含む改変されたLV.ET.hFIX(LV.ET.hFIX.142-3pT)を注入した。hFIX抗原の血漿濃度を、hFIX特異的ELISA(上)により決定したが、FIX凝固活性を、活性化された部分トロンボプラスチン時間の測定により決定した(下)。ベクター当たり治療された3匹のマウスからの平均±標準誤差として、結果を示す。
【図9】図9A:成熟なhsa-mir-142ステムループ配列を示す。図9B:標的としてのmir-142の配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
miRNA配列標的および必要に応じてトランスジーンを含む遺伝子操作における使用のための遺伝子ベクター。
【請求項2】
miRNA配列標的を含むウイルスベクター。
【請求項3】
ゲノムがmiRNA配列標的を含む、前記ウイルスベクターのゲノム(RNAまたはDNA)を含む請求項2に記載の遺伝子ベクター。
【請求項4】
必要に応じて直列でおよび/もしくは必要に応じて異なる向きで存在する、同じかまたは異なってもよい2個以上のmiRNA配列標的を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項5】
ゲノムが、miRNA配列標的に機能し得る形で連結された少なくとも1個のトランスジーンを含む、ウイルスベクターのゲノムを含む請求項2〜4のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項6】
ウイルスベクターがレンチウイルスから誘導可能である、請求項2〜5のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項7】
ウイルスベクターがウイルスベクター粒子の形態である、請求項2〜6のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項8】
非ウイルス遺伝子ベクターの形態である、請求項1に記載の遺伝子ベクター。
【請求項9】
非ウイルス遺伝子ベクターが、miRNA配列標的および必要に応じて少なくとも1個のトランスジーンを含む発現ベクターまたはプラスミドを含む、請求項8に記載の遺伝子ベクター。
【請求項10】
miRNA配列標的が、has-mir-142as(has-mir-142-3pとも呼ばれる) miRNA、let-7a、mir-15a、mir-16、mir-17-5p、mir-19、mir-142-5p、mir-145および/またはmir-218 miRNAにより標的化されるものである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項11】
miRNA配列標的、および必要に応じてトランスジーンを含むパッケージング可能なウイルスベクターゲノムをコードするDNA構築物を含むウイルスベクター粒子を製造するためのDNA構築物のセット。
【請求項12】
請求項11に記載のDNA構築物のセットを宿主細胞に導入し、ウイルスベクター粒子を取得することを含む、ウイルスベクター粒子を調製する方法。
【請求項13】
宿主細胞が対応するmiRNAを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法により製造されたウイルスベクター粒子。
【請求項15】
請求項1〜10または14のいずれか1項に記載の遺伝子ベクターまたは粒子を含む医薬組成物。
【請求項16】
請求項1〜10または14のいずれか1項に記載の遺伝子ベクターまたは粒子を用いて感染または形質導入された細胞。
【請求項17】
造血細胞、腎臓細胞、神経細胞、肺細胞、肝臓細胞、脾臓細胞、心臓細胞、腫瘍細胞または胚性幹細胞である、請求項16に記載の細胞。
【請求項18】
対応するmiRNAを含む細胞中のトランスジーンの発現を阻止するか、または減少させるための、miRNA標的配列に機能し得る形で連結されたトランスジーンを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載のベクターの、請求項14に記載の粒子のまたは請求項15に記載の医薬組成物の、使用。

【図1】
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【図2a−c】
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【図2d】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−545406(P2008−545406A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512952(P2008−512952)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【国際出願番号】PCT/IB2006/002266
【国際公開番号】WO2007/000668
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(507208417)
【出願人】(507388694)
【Fターム(参考)】