説明

遺伝子ベクター

造血前駆細胞(HSPC)または造血幹細胞(HSC)中ではヌクレオチド配列の発現を防止するか、または低下させるが、分化した細胞中ではそうしない、HSPCまたはHSC中に対応するmiRNAを有するヌクレオチド配列に機能し得る形で連結された少なくとも1個のmiRNA配列標的を含む、遺伝子療法における使用のための遺伝子ベクター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入および遺伝子療法適用における使用のための遺伝子ベクター、ならびにその製造方法、および使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正常なドナーからの造血細胞移植(HCT)は、いくつかの遺伝性障害および後天性障害のための治癒的療法である。しかしながら、移植は、適合ドナーの利用可能性が低いことや、同種異系手順に関連する死亡率(多くは移植片対宿主疾患(GvHD)と関連する)によって制限されている。HCTは、リソソーム蓄積疾患(LSD)などのいくつかの障害においては非常に効果が低い。同種異系移植片の安全性および効果を改善するため、ならびに適合ドナーがない患者のための代替プロトコルを同定するためには、遺伝子修正された自己の造血幹細胞(HSC)の移植に基づく遺伝子療法手法が必要である。
【0003】
同種異系HCTに対する代替として、遺伝子療法により、患者自身の造血細胞中で遺伝的欠陥を修正することができる。しかしながら、体内の全ての罹患した細胞に関連遺伝子の機能的コピーを送達することは困難である。幹細胞遺伝子療法の概念は、自己再生的分裂を受けることにより体内に長期間残存し、多数の遺伝的に修正された子孫を生成し、かくして、患者の残りの寿命にわたって修正された細胞の連続的供給を確保する、比較的少数の幹細胞の遺伝的改変に基づく。造血幹細胞(HSC)は、骨髄(BM)または集められた末梢血から容易かつ安全に取得することができるため、遺伝子療法の優れた標的集団である。単離されたHSCを遺伝的に改変し、自己移植片として患者に戻すことができる。長期的な利益には、条件付けられたBMを再増殖させ、全ての造血系列の修正された血液細胞を生じることができる十分に多数の遺伝子改変されたHSCの移植が必要である。自己同種異系HSCは全ての患者にとって利用可能な移植手順であり、GvHDを誘導する免疫適合性の問題を回避することができる。さらに、原発性免疫不全などのいくつかの疾患は、HSC画分およびその子孫の修正を必要とする。患者にとってより良好な許容性およびより少ない副作用をもたらす条件付け計画の強度(いわゆる「非骨髄機能破壊的」または「ミニ」条件付け計画)は低い。混合ドナーキメラは通常、宿主由来免疫細胞との免疫学的拮抗作用に起因して同種異系設定においては不安定であるため、低い条件付け計画は、標準的な同種異系移植との適合性が低い。
【0004】
HSCおよびその子孫の効率的な長期的遺伝子改変には、HSC機能に影響することなく、修正されたDNAをゲノム中に安定的に組込むことができる技術が必要である。最も効率的な送達系はウイルスベクターである。
【0005】
例えば、リソソーム酵素ガラクトセレブロシダーゼ(球様細胞白質萎縮症(GLD)またはクラッベ病において欠損している)の造血前駆細胞(HSPC)中での遺伝子導入および発現は、形質導入された細胞のアポトーシスおよび機能的損傷を引き起こし、前記障害を治療するためのHSPCに基づく遺伝子療法手法の開発を妨げている(以下を参照されたい)。かくして、遺伝子療法に用いられる将来の発現カセットは、生理学的発現パターンに似ているべきであり、形質導入された細胞の毒性、排除またはさらには悪性形質転換をもたらし得る、異所性および/または非生理的トランスジーン発現を回避すべきである。これは、遺伝子療法の長期的効果を保証する重要な標的細胞型であり、その生態が遺伝的介入によって阻害されてはならない幹細胞にとっては特に重要である。
【0006】
まとめると、現在の造血遺伝子療法戦略は、造血系の長期的修正を保証するためにはHSCの形質導入を必要とするが、HSC中ではトランスジーン産物を異所的に発現しないが、遺伝的疾患の標的である分化した子孫、例えば、SCIDにおいてはリンパ球、CGDにおいては顆粒球およびGLDにおいては単球/マクロファージにおいてのみ「スイッチが入る」調節性トランスジーン発現カセットから有意に利益を得るであろう。
【0007】
これを達成するための1つの方法は、系列特異的転写制御エレメント、例えば、ベクター中の治療的遺伝子の発現を駆動するための遺伝子座の内因性プロモーターの使用である。しかしながら、プロモーターは、DNAの長い範囲にわたって広がっていることが多く、あまり特性評価されていないため、ベクター構築物中でその全体を容易に再構成させることができない。さらに、遺伝子導入ベクター中で再構成された組織特異的プロモーターからの発現レベルは、おそらく半無作為なベクター組込み部位でのクロマチンの不完全な再構成および/または有害な影響のため、表現型修正を達成するには十分でないことが多い。かくして、トランスジーンを調節するためのさらなる戦略が緊急に必要である。
【発明の概要】
【0008】
本発明の一態様に従って、造血前駆細胞(HSPC)中ではヌクレオチド配列の発現を防止するか、または低下させるが、分化した細胞中ではそうしない、HSPC中に対応するmiRNAを有するヌクレオチド配列に機能し得る形で連結された少なくとも1個のmiRNA配列標的を含む、遺伝子療法における使用のための遺伝子ベクターを提供する。
【0009】
本発明の別の態様に従って、造血幹細胞(HSC)中ではヌクレオチド配列の発現を防止するか、または低下させるが、分化した細胞中ではそうしない、HSC中に対応するmiRNAを有するヌクレオチド配列に機能し得る形で連結された少なくとも1個のmiRNA配列標的を含む、遺伝子療法における使用のための遺伝子ベクターを提供する。
【0010】
換言すれば、本発明は、造血前駆細胞または造血幹細胞中に有効量で存在するmiRNAのための少なくとも1個のmiRNA配列標的と、必要に応じて、トランスジーンとを含む、造血遺伝子療法における使用にとって好適な遺伝子ベクターを提供する。有効量とは、本発明者らは、内因性miRNAの濃度が、対応するmiRNA標的配列に機能し得る形で連結されたトランスジーンの発現を低下させるか、または防止するのに十分であることを意味する。かくして、本発明は、疾患を有する子孫においては発現および治療効果を維持しながら、感受性幹細胞集団においては潜在的に毒性的なトランスジーンの発現を防止するか、または低下させる、HSPCおよびHSCなどの細胞中では強力に発現されるが、例えば、骨髄およびリンパ球系列の分化した子孫においては発現されないmiRNAの使用を用いる。
【0011】
miRNAを、トランスジーンに「機能し得る形で連結」する。用語「機能し得る形で連結された」とは、記載の成分が、その意図される様式でそれらが機能するのを許容する関係にあることを意味する。
【0012】
幹細胞は、多くの細胞型に分化することができる。あらゆる細胞型に分化することができる細胞は、分化全能性細胞として知られる。哺乳動物においては、受精卵と初期の胚細胞のみが分化全能性である。幹細胞は、全てではないが、多くの多細胞生物において認められる細胞である。それらは、有糸細胞分裂を介して自己を再生し、多様な特殊化された細胞型に分化する能力を特徴とする。2つの広い型の哺乳動物幹細胞は、胚盤胞の内部細胞塊から単離される胚性幹細胞と、成体組織中に認められる成体幹細胞である。発生中の胚においては、幹細胞は全ての特殊化された胚組織に分化することができる。成体生物においては、幹細胞と前駆細胞は、身体の修復系として働き、特殊化された細胞を補充するだけでなく、血液、皮膚または腸組織などの再生器官の正常な代謝回転をも維持する。
【0013】
造血幹細胞(HSC)は、骨髄系列(単球およびマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞)、ならびにリンパ球系列(T細胞、B細胞、NK細胞)などの全ての血液細胞型を生じる多能性幹細胞である。
【0014】
前駆細胞は、特定の型の細胞に分化する能力を有する。しかしながら、幹細胞とは対照的に、それらは既にはるかにより特異的である:それらはその「標的」細胞に分化するように後押しされる。幹細胞と前駆細胞との最も重要な違いは、幹細胞は無制限に複製することができるが、前駆細胞は限られた回数だけ分裂することができるということである。HSPCを、機能的in vivoアッセイ、すなわち、移植と、それらが長期間にわたって全ての血液系列を生じることができることの証明によってのみ、HSCから正確に区別することができる。SLAM受容体ファミリー(CD150およびCD48)に属する最近記載された分子セットと組合わせた、c-Kit(CD117)、Sca-1などの細胞表面マーカーおよび系列マーカーの一団の非存在/低発現の検出は、HSCおよびHSPCサブ集団を富化することができ、標準的な機能的アッセイ(Kielら)に対してアッセイした場合、50%の純度に達する。
【0015】
分化した細胞は、幹細胞または前駆細胞と比較してより特殊化されるようになった細胞である。生物としての多細胞生物の発生の間に起こる分化は、1個の受精卵から組織および細胞型の複雑な系まで変化する。分化は、成体においては一般的なプロセスでもある:成体幹細胞は分裂し、組織修復および正常な細胞代謝回転の間に完全に分化した娘細胞を作る。分化は、細胞の大きさ、形状、膜電位、代謝活性、およびシグナルに対する応答性を劇的に変化させる。これらの変化は、遺伝子発現における高度に制御された改変に大きく起因する。換言すれば、分化した細胞は、特定の遺伝子の活性化および脱活性化を含む発生プロセスに起因して、特異的な構造を有し、特定の機能を実行する細胞である。ここで、分化した細胞は、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞、T細胞、B細胞およびNK細胞などの造血系列の分化した細胞を含む。例えば、造血系列の分化した細胞を、未分化細胞上では発現されないか、またはあまり発現されない細胞表面分子の検出により、HSCおよびHSPCから区別することができる。好適な系列マーカーの例としては、CD11b、Gr1、CD19、Ter119およびCD3が挙げられる。
【0016】
本発明の別の態様に従って、ヌクレオチド配列に機能し得る形で連結されたmir-130a、mir-126およびmir-223を含む群より選択されるmiRNAに対応する少なくとも1個のmiRNA配列標的を含む、遺伝子療法における使用のための遺伝子ベクターを提供する。
【0017】
miR-126標的は、より原始的なHSPCおよび(ヒトにおいては)赤血球系列において、最も効率的に発現を遮断する。miR-126は、骨髄およびリンパ球系列における強固なトランスジーン発現に依存する遺伝子療法適用にとって特に好適であろう。
【0018】
miR-130a標的は、より原始的なHSPC(miR-126と同様)において最も効率的に発現を遮断し、miR-130aは、骨髄、リンパ球および赤血球系列における強固なトランスジーン発現に依存する遺伝子療法適用にとって最も特に好適であろう。
【0019】
miR-126は、ヒトCD34細胞においてはmiR-130aよりも強いが、分化した子孫においては非特異的活性も有し得る。miR-130aT配列(好ましくは、2〜4コピー)と「半分の」miR-126T(好ましくは、2コピー)を含む組合せ標的は、HSPCにおける抑制と骨髄子孫における発現との比率により決定されるオペレーティングウインドウを最大化する。さらに、組合せ標的を用いる場合、HSPCにおけるトランスジーン下方調節は2種の独立したmiRNAにより確保され、内因性miRNA調節を阻害する危険性が低下し、かくして、標的配列の安全性および効果を増加させる。miR-223標的は、骨髄前駆細胞において最も効率的に、およびより原始的なHSPCにおいては少なくとも部分的に、発現を遮断する。miR-126およびmiR-130aと違って、miR-223標的は、顆粒球、単球、マクロファージ、骨髄樹状細胞などの分化した骨髄細胞において完全かつ強力に発現を遮断する。miR-223標的は、リンパ球または赤血球系列における強固なトランスジーン発現に依存する遺伝子療法適用にとって特に好適であろう。miR-223標的は、ヒトHSCにおいても非常に効率的に発現を遮断することができる。
【0020】
好ましくは、miRNA配列標的は、mir-130aおよびmir-126に対応する。
【0021】
一実施形態においては、前記遺伝子ベクターは、該ベクターの発現を制御するヌクレオチド配列を含む。換言すれば、内因性マイクロRNAは、特定の細胞型(HSCおよびHSPC)においてはウイルスの発現または増殖を防止するが、他の細胞型においては発現または増殖を許容する。例えば、mir-126、mir-130およびmir-223は、造血幹細胞または前駆細胞において遺伝子ベクターまたは腫瘍崩壊ウイルスの発現を防止する。
【0022】
一実施形態においては、前記遺伝子ベクターは、トランスジーンであるヌクレオチド配列を含む。
【0023】
別の実施形態においては、遺伝子導入ベクターは、非ウイルス遺伝子導入ベクターの形態にある。この実施形態においては、遺伝子導入ベクターは、ヌクレオチド配列に機能し得る形で連結されたmiRNA標的配列を含む発現ベクターまたはプラスミドを含むか、またはその形態にあってよい。
【0024】
本明細書に記載の発現ベクターは、転写され得る配列を含有する核酸の領域を含む。かくして、mRNA、tRNAおよびrRNAをコードする配列はこの定義内に含まれる。
【0025】
本発明の遺伝子ベクターまたは遺伝子導入ベクターを用いて、目的の部位または細胞にトランスジーンを送達することができる。本発明のベクターを、ウイルスまたは非ウイルスベクターにより標的部位に送達することができる。
【0026】
ベクターは、ある環境から別の環境への実体の導入を可能にするか、または容易にする道具である。例えば、組換えDNA技術において用いられるいくつかのベクターは、DNAの断片(異種cDNA断片などの異種DNA断片など)などの実体を標的細胞に導入することができる。必要に応じて、一度標的細胞内に入れば、ベクターはその細胞内で異種DNAを維持するのに役立つか、またはDNA複製の単位として働くことができる。組換えDNA技術において用いられるベクターの例としては、プラスミド、染色体、人工染色体またはウイルスが挙げられる。
【0027】
非ウイルス送達系としては、限定されるものではないが、DNAトランスフェクション法が挙げられる。ここで、トランスフェクションは、標的哺乳動物細胞に遺伝子を送達するための非ウイルスベクターを用いるプロセスを含む。
【0028】
典型的なトランスフェクション法としては、エレクトロポレーション、DNAバイオリスティクス、脂質媒介性トランスフェクション、圧縮DNA媒介性トランスフェクション、リポソーム、イムノリポソーム、リポフェクション、カチオン媒介性、カチオン性表面両親媒性物質(CFA)(Nature Biotechnology 1996 14; 556)、およびその組合せが挙げられる。
【0029】
一実施形態においては、前記遺伝子ベクターは、ウイルスベクターである。
【0030】
ウイルス送達系としては、限定されるものではないが、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、バキュロウイルスベクターが挙げられる。ベクターの他の例としては、ex vivo送達系が挙げられ、それらのものとしては、限定されるものではないが、エレクトロポレーション、DNAバイオリスティクス、脂質媒介性トランスフェクション、圧縮DNA媒介性トランスフェクションなどのDNAトランスフェクション法が挙げられる。
【0031】
用語「ベクター粒子」とは、好ましくは、標的細胞に結合し、進入することができる、パッケージングされたレトロウイルスベクターを指す。ベクターについて既に考察されたように、粒子の成分を、野生型レトロウイルスに関して改変することができる。例えば、粒子のタンパク質性外被中のEnvタンパク質を遺伝的に改変して、その標的化特異性を変化させるか、またはいくつかの他の所望の機能を達成することができる。
【0032】
好ましくは、前記ウイルスベクターは、特定の細胞型または複数の細胞型を選択的に形質導入する。
【0033】
より好ましくは、前記ウイルスベクターは、標的化ベクターである、すなわち、それは、該ベクターが特定の細胞に対して標的化されるように、天然ウイルスと比較して変化した組織親和性を有する。
【0034】
好ましい実施形態においては、前記遺伝子ベクターはレンチウイルスから誘導可能である。
【0035】
一実施形態においては、前記遺伝子ベクターは、組織特異的プロモーターを含む。好ましくは、組織特異的プロモーターを、CD11bおよびc-Fes、ならびにシトクロムb-245重鎖(CYBB、gp91 phox)座およびTEK(Tie2)から誘導されるプロモーターを含む群より選択する。TEK(Tie2)プロモーターをmiR-126標的配列と組合わせることができ、この組合せは腫瘍浸潤性骨髄細胞のサブセット中での特異的トランスジーン発現を可能にするであろう。
【0036】
一実施形態においては、前記遺伝子ベクターは、酵素をコードするトランスジーンを含む。好ましくは、この酵素を、リソソーム酵素ガラクトセレブロシダーゼおよびgp91 phoxの群より選択する。本発明を用いて、インターフェロンαなどの免疫調節分子を送達することができる。好ましくは、これらのベクターは、骨髄移植時に免疫調節分子を腫瘍細胞に送達する。好ましくは、これらのベクターは、Tie2プロモーターとmiR-126T配列を含む。
【0037】
重要なことに、Tie2プロモーターは、造血幹細胞中で活性を有し、インターフェロンαなどの免疫調節分子はHSCに対して毒性的であることが知られている。かくして、本出願に記載のHSC特異的miRTの使用は、HSC機能を妨害することなく、Tie2を発現する腫瘍浸潤性マクロファージにより生物活性分子を特異的に送達するためには、任意的というよりもむしろ義務的になっている。Tie2プロモーターが本研究を通して用いられたPGKプロモーターよりもHSCにおいて弱いことを考慮して、本発明者らは、126T/130aT配列がHSCにおいてTie2プロモーターから発現されるトランスジーンの毒性を完全に防止すると予想した。
【0038】
本発明の別の態様に従って、本発明に従う少なくとも1個のmiRNA配列標的と、必要に応じて、トランスジーンとを含むパッケージ可能なウイルスベクターゲノムをコードするDNA構築物を含むウイルスベクター粒子を製造するためのDNA構築物のセットを提供する。パッケージ可能なベクターゲノムとは、本発明者らは、ベクターゲノムが、それをウイルスベクター粒子中にパッケージングすることができる環境中にあることを意味する。これは、一般的には、Gag-PolおよびEnvの存在を必要とする。
【0039】
本発明の別の態様に従って、本発明のDNA構築物のセットを宿主細胞中に導入し、ウイルスベクター粒子を取得することを含む、ウイルスベクター粒子を調製する方法を提供する。
【0040】
一実施形態においては、宿主細胞は、対応するmiRNAを含む。
【0041】
本発明の別の態様に従って、本発明の方法により産生されるウイルスベクター粒子を提供する。
【0042】
本発明の別の態様に従って、本発明に従う遺伝子ベクターまたは粒子と、製薬上許容し得る希釈剤、賦形剤または担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0043】
本発明の別の態様に従って、本発明に従う遺伝子ベクターまたは粒子に感染させた、またはそれで形質導入された細胞を提供する。この細胞を、in vivoまたはin vitroのシナリオで形質導入するか、または感染させることができる。この細胞は、動物、好ましくは、ヒトもしくはマウスなどの哺乳動物から誘導されるか、またはその一部を形成してもよい。かくして、本発明は、例えば、疾患モデルとしての使用のためのトランスジェニック動物を提供するのに有用であることが理解されるであろう。一実施形態においては、哺乳動物は、非ヒト哺乳動物である。
【0044】
一実施形態においては、前記細胞は、造血幹細胞または造血前駆細胞である。
【0045】
本発明の別の態様に従って、mir-130a、mir-126およびmir-223を含む群より選択されるmiRNAに対応する少なくとも2個の異なるmiRNA配列標的の組合せを提供する。
【0046】
一実施形態においては、miRNA配列標的は、同時使用、個別的使用または連続的使用のためのものである。
【0047】
本発明の別の態様に従って、造血幹細胞もしくは造血前駆細胞中でのトランスジーンの発現を防止するか、または低下させるための、本発明に従う遺伝子ベクター、本発明に従う粒子、本発明に従う医薬組成物、本発明に従う細胞または本発明に従う組合せを提供する。
【0048】
本発明の別の態様に従って、球様細胞白質萎縮症、慢性肉芽腫性疾患および重症複合型免疫不全症(SCID)から選択される疾患を治療するための、本発明に従う遺伝子ベクター、本発明に従う粒子、本発明に従う医薬組成物、本発明に従う細胞または本発明に従う組合せを提供する。
【0049】
本発明の別の態様に従って、遺伝子療法に関連する造血幹細胞または造血前駆細胞の生存機会を増加させるための、本発明に従う遺伝子ベクター、本発明に従う粒子、本発明に従う医薬組成物、本発明に従う細胞または本発明に従う組合せを提供する。
【0050】
HSCまたはHSPCの生存機会を、これらの細胞からの遺伝子の発現を特異的に脱標的化することにより増加させることができる。特に、HSCまたはHSPCに対して毒性的であるトランスジーンの発現の脱標的化は、これらの細胞の生存にとって有益であろう。また、宿主中で望ましくない免疫反応を引き起こし得るトランスジーンの発現の脱標的化は、その細胞の生存機会の増加をもたらすことができる。
【0051】
本発明の別の態様に従って、遺伝子療法の安全性および/または効果を増加させるための、本発明に従う遺伝子ベクター、本発明に従う粒子、本発明に従う医薬組成物、本発明に従う細胞または本発明に従う組合せを提供する。
【0052】
遺伝子療法の安全性の増加は、HSCおよびHSPCなどの特定の細胞型におけるトランスジーンの望ましくない発現もしくはベクターの発現の防止または低下を含む。特定の細胞型からのトランスジーンまたはベクターの発現の脱標的化は、遺伝子療法に伴う望ましくない反応または副作用を減少させることができる。遺伝子療法の効果の増加は、トランスジーンが分化した造血細胞などの所望の細胞型においてより効率的に発現されることを含むが、これは、これらの細胞がマイクロRNA標的配列によるトランスジーン毒性および望ましくない免疫反応から保護された遺伝子改変未分化細胞からより効率的に生成されるためである。特に、HSCまたはHSPCの移植を含む遺伝子療法は、細胞が分化するまでトランスジーンの発現を回避することができる場合、より安全かつより効率的であり得る。
【0053】
本発明の別の態様に従って、トランスジーンの発現によりアポトーシスが引き起こされる造血幹細胞または造血前駆細胞のアポトーシスを防止するための、本発明に従う遺伝子ベクター、本発明に従う粒子、本発明に従う医薬組成物、本発明に従う細胞または本発明に従う組合せを提供する。
【0054】
本発明の別の態様に従って、造血幹細胞または造血前駆細胞の分化の段階をモニターするための、本発明に従う遺伝子ベクター、本発明に従う粒子、本発明に従う医薬組成物、本発明に従う細胞または本発明に従う組合せを提供する。
【0055】
mir-126、mir-223およびmir-130aの存在は、HSCまたはHSPCを示す。より具体的には、mir-126は、原始的なHSPCを示し、ヒトにおいては、赤血球系列の細胞も示す。mir-130aは、より原始的なHSPCを示す。mir-223は、骨髄前駆細胞およびより原始的なHSPCを示す。mir-223はまた、顆粒球、単球、マクロファージおよび骨髄樹状細胞などの分化した骨髄細胞も示す。
【0056】
一実施形態においては、前記遺伝子ベクターは、造血細胞療法における使用のためのものである。造血細胞療法は、造血幹細胞移植を含む。
【0057】
本発明の別の態様に従って、遺伝子療法における使用のためのmir-130a、mir-126およびmir-223の群より選択されるmiRNAに対応するmiRNA配列標的を提供する。
【0058】
本発明の別の態様に従って、造血幹細胞または造血前駆細胞の分化段階を決定する方法であって、該細胞中で、ヌクレオチド配列に機能し得る形で連結されたmiRNA標的配列に対応し、造血前駆細胞(HSPC)または造血幹細胞(HSC)中では該ヌクレオチド配列の発現を防止するか、または減少させるが、分化した細胞中ではそうしない、miRNAの発現レベルを決定することを含む前記方法を提供する。例えば、mir-130aおよびmir-126の発現は、細胞がHSPCまたはHSCであることを示すが、miR-223の発現は骨髄系列、すなわち、顆粒球および単球、例えば、その前駆細胞および誘導体への所属を示す。
【0059】
本発明の別の態様に従って、造血幹細胞または造血前駆細胞の分化段階を決定する方法であって、該細胞中で、ヌクレオチド配列に機能し得る形で連結されたmiRNA標的配列に対応し、miRNAが造血前駆細胞(HSPC)または造血幹細胞(HSC)中では該ヌクレオチド配列の発現を防止するか、または低下させるが、分化した細胞においてはそうしない、少なくとも2種の異なるmiRNAの発現レベルを決定すること、ならびに様々なmiRNAの発現レベルを比較することを含む、前記方法を提供する。さらに、2種のマイクロRNAの発現を、それぞれ異なるマイクロRNA標的配列を含む2種のマーカー遺伝子を発現する二方向ベクターを用いて、同時に、および互いに独立にアッセイすることができる。例えば、異なるマイクロRNAを、蛍光マーカーなどの異なるマーカーに連結することができる。異なる色は異なる分化段階を表すマイクロRNAの発現の異なる混合物を示すであろう(例えば、緑色マーカー + miR-126T、赤色マーカー + miR-223T。細胞が赤色または黒色である場合:→HSPC;細胞が黄色である場合:→リンパ球;細胞が緑色である場合:分化した骨髄系列細胞)。
【0060】
本発明の別の態様に従って、造血幹細胞または造血前駆細胞の分化段階を決定する方法であって、造血幹細胞または造血前駆細胞中のトランスジーンの発現レベルを決定することを含み、該トランスジーンはmiRNA配列標的に機能し得る形で連結され、対応するmiRNAが造血前駆細胞(HSPC)または造血幹細胞(HSC)においてはトランスジーンの発現を防止するか、または低下させるが、分化した細胞においてはそうしない、前記方法を提供する。
【0061】
さらに、miR-126、miR-130aおよびmiR-223を含む群より選択されるmiRNAのためのリポーターベクターを適用して、人工多能性幹細胞(iPS)または胚性幹細胞(ES)から造血系列細胞を取得することを目指した培養系において造血幹細胞および/またはその直近の前駆細胞を同定することができる。
【0062】
本発明の一実施形態においては、本発明の方法において用いられるmiRNAは、mir-130a、mir-126およびmir-223を含む群より選択されるmiRNAを含む。
【0063】
本発明のいくつかのさらに重要な利点
本発明は、遺伝子療法にとって好適な遺伝子ベクターを、トランスジーン発現を制御して該ベクターの特異的発現プロフィールを達成するためのHSCおよびHSPCにとって内因性であるmiRNAにより調節されるように設計することができる方法を教示する。本発明は、HSCおよびHSPCにおけるトランスジーン毒性を防止するのに役立ち、かくして、様々な疾患の治療のための遺伝子療法戦略の開発を容易にするため、これらのベクターの幅広い適用を提供する。前記ベクターは、HSCまたはHSPCにとって毒性的であるトランスジーンの発現を含む遺伝子療法にとって特に好適である。
【0064】
本発明者らは、稀なHSPC集団などの複数の造血細胞サブセットに渡って選択されたmiRNAの活性をプロファイルし、かくして、幅広いが、予め精製された集団に限られる従来のmiRNA発現プロファイリング手法に新しい次元を加えるための新規方法を提供する。この方法は、レンチウイルスmiRNAリポーターベクターを用いるHSPCの形質導入に基づき、フローサイトメトリーにより単一の細胞レベルで、また複数の細胞集団中で平行に容易に定量可能なmiRNAの活性の生きた遺伝的指示因子として役立つ。この手法を用いて、本発明者らは、最も原始的な幹細胞について富化されたサブセットなどのマウスおよびヒトのHSPCにおいて高度に機能的である2種のmiRNAを同定した。分化の際に、一方のmiRNAは初期前駆細胞レベルで迅速に下方調節されるが、他方のmiRNAは顆粒球形成および単球形成の間にはさらに誘導されるが、リンパ球において、および巨核球/赤血球分化の間には鋭く下方調節される。
【0065】
さらに、本発明者らは、レンチウイルスベクターに基づく造血幹細胞遺伝子療法によるマウスモデルにおける球様細胞白質萎縮症(GLD)(リソソーム酵素ガラクトセレブロシダーゼ(GALC)活性の欠損に起因するリソソーム蓄積障害)の有効な治療を妨げる主要な問題を克服するためにHSPC中で高度に発現される2種のmiRNAのうちの1種を適用した。他のリソソーム酵素とは対照的に、HSPC中でのGALC遺伝子の導入および発現は、酵素発現の結果として生じる生物活性スフィンゴ脂質中の細胞内含量の不均衡に起因して、形質導入された細胞のアポトーシスおよび機能的損傷を引き起こす。骨髄およびリンパ球系列の分化した細胞は、GALC発現によって影響されないが、これは、酵素毒性に対するHSPCのユニークな感受性を示唆している。リポーターベクターに用いられるmiRNA応答性配列により、GALC発現毒性により影響されない分化した子孫における完全な治療的発現を許容しながら、治療上関連するGALCトランスジーンの発現プロフィールを調節し、同族miRNAが発現される細胞(HSPC)からのトランスジーン発現を脱標的化することができる。miRNA調節性GALCレンチウイルスベクターで形質導入されたHSPCは、酵素毒性から保護され、in vitroでもin vivoでもその機能を保持した。予備的結果は、マウスモデルにおける疾患徴候の修正におけるこの手法の治療効果を示している。
【0066】
好ましくは、以下のmiRNA標的配列を用いて、ヒト造血系におけるトランスジーン発現の調節を達成する:骨髄系列における発現を必要とする遺伝子療法適用(例えば、慢性肉芽腫性疾患、クラッベ病などのリソソーム蓄積障害、異染性白質ジストロフィー、副腎白質ジストロフィーなど):126T/130aT(2+2種の標的配列)(HSPCにおける最大抑制について最適化);126T(2種の標的配列)(骨髄子孫における最小バックグラウンド活性について最適化)。
【0067】
赤血球系列における発現を必要とする遺伝子療法適用(例えば、サラセミア、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ欠損症、鎌状赤血球病):130aT(4種の標的配列)、または223T(2もしくは4種の標的配列)。後者の標的は、より原始的なBFU-EおよびCFU-Eにおいていくらかの活性(<5x)を示し得る。
【0068】
リンパ球系列における発現を必要とする遺伝子療法適用(例えば、RAG1/RAG2欠損症、BTK欠損症、X-SCID、ADA-SCID):おそらく126T/130aT(2+2種の標的配列)または126T(2種の標的配列)と組合わせた、223T(2もしくは4種の標的配列)。
【0069】
遺伝子導入および遺伝子療法のためのトランスジーン発現のためのレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターなどのベクターを、HSCおよびHSPCにとって内因性である内因性miRNA細胞により認識されるようにmiRNA標的配列を用いて遺伝子操作し、かくして、細胞のサブセット中でのトランスジーン発現を調節することができる。さらに、miRNA標的配列の組合せを用いて、高度に特異的な細胞発現パターンを有するベクターを取得することができる。
【0070】
本発明の実施には、別途指摘しない限り、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の従来の技術を使用するものとし、それらは当業者の能力の範囲内にある。そのような技術は、文献で説明されている。例えば、J. Sambrook, E. F. Fritsch,およびT. Maniatis, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、Books 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Ausubel, F. M.ら(1995および定期的補遺; Current Protocols in Molecular Biology, ch. 9, 13,および16, John Wiley & Sons, New York, N.Y.); B. Roe, J. Crabtree, およびA. Kahn, 1996, DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons; J. M. PolakおよびJames O’D. McGee, 1990, In Situ Hybridization: Principles and Practice; Oxford University Press; M. J. Gait (編), 1984, Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, Irl Press; D. M. J. LilleyおよびJ. E. Dahlberg, 1992, Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology, Academic Press; Using Antibodies : A Laboratory Manual : Portable Protocol NO. I, Edward Harlow, David Lane, Ed Harlow (1999, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-544-7); Antibodies : A Laboratory Manual, Ed Harlow (編), David Lane (編) (1988, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-314-2), 1855. Handbook of Drug Screening, edited, Ramakrishna Seethala, Prabhavathi B. Fernandes (2001, New York, NY, Marcel Dekker, ISBN 0-8247-0562-9); ならびにLab Ref: A Handbook of Recipes, Reagents, and Other Reference Tools for Use at the Bench, Jane RoskamsおよびLinda Rodgers(編), 2002, Cold Spring Harbor Laboratory, ISBN 0-87969-630-3を参照されたい。これらの一般的な教科書はそれぞれ、参照により本明細書に組入れられるものとする。
【0071】
本発明を、ほんの一例として、添付の図面に例示されるその好ましい実施形態を参照してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】二方向miRNA調節性レンチウイルスリポーターベクターの略図である。ここに示されるのは、miRNAリポーターとして緑色蛍光タンパク質(GFP)および構成的に発現される正規化因子としてヒト低親和性神経増殖因子リポーター(NGFR)のトランケート型を含有する、miRNA調節性二方向ベクター(Bd.LV)の代表的構造である。Bd.LV-ctrはmiRNA標的配列(miRT)を含まないが、Bd.LV-223TおよびBd.LV-126Tを、それぞれmiR-223またはmiR-126と完全に相補的な21 bpを含む4個のタンデムリピートの付加により構築した。
【図2−1】細胞系におけるmiRNAリポーターBd.LVの評価である。a)遍在プロモーターの制御下でのpri-mir-126を含有するLVを用いる形質導入によるHEK293T、U937およびmiR-126を異所的に発現するHEK293T細胞におけるmiR-223およびmiR-126発現レベル(コピー/pg)の定量分析。b)示されたmiRNA調節性Bd.LVを用いて形質導入された、HEK-293T、U937、HUVECおよびHEK293T.LV.miR-126細胞の代表的なFACS分析。細胞をGFP「miRNAリポーター」およびNGFR「正規化因子」発現について分析する。c)タンパク質レベルおよびRNAレベルでのリポーター遺伝子発現のmiRNA媒介性抑制倍数の算出のための式。ヒストグラムは、タンパク質レベルでGFP FR値として算出された細胞系におけるmiR-223およびmiR-126活性を示す。菱形はRNAレベルでのGFP FRを表す。
【図2−2】図2−1の続きである。
【図2−3】図2−2の続きである。
【図3−1】in vivoでのmiRNAリポーターBdLVの評価である。系列-/low骨髄(BM)造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)を、miR-223およびmiR-126のための二方向miRNAリポーターレンチウイルスベクター(BdLV)を用いて形質導入し、レシピエントマウスに移植した。miRNAリポーターを担持する細胞を安定に生着したマウスの末梢血細胞をFACSにより分析した。a)マウス末梢血から主要な白血球集団を同定するのに用いられたゲーティング戦略:顆粒球(CD11b+、SSChigh)、単球(CD11b+、SSClow)、B細胞(CD19+)およびT細胞(CD11b-、CD19b-)。b)マウス末梢血サブセット内のGFPおよびNGFR発現の代表的なFACS分析。c)Bd.LV-ctr(n=5)、Bd.LV-223T(n=6)またはBd.LV-126T(n=4)で形質導入されたHSPCを移植されたマウスに由来する末梢血サブ集団におけるGFP FR値(平均+/-SD)。
【図3−2】図3−1の続きである。
【図3−3】図3−2の続きである。
【図4−1】(a)系列-/low骨髄(BM)造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)を、二方向miRNAリポーターレンチウイルスベクター(Bd.LV)で形質導入し、致死量の放射線を照射したマウスに移植した。BdLVは完全に相補的なmiRNA標的(miRT)配列の4個のタンデムリピートにより特定のmiRNAに応答するようになった脱安定化されたGFP(d4GFP)リポーターと、トランケートされたNGFRマーカー遺伝子(ΔNGFR)とを同時発現する。マウスを、移植の8〜12週間後に安楽死させ、示されるような免疫表現型決定により複数のBM HSPCサブ集団を予め同定した(HSC:造血幹細胞;MPP:多能性前駆細胞;GMLP:顆粒球-単球-リンパ球前駆細胞;GMP:顆粒球-単球前駆細胞;eMEP:初期巨核球-赤血球前駆細胞;EP:赤血球前駆細胞)。(b)代表的なFACSプロットは、(a)に記載のような移植マウスのBMから新鮮に単離されたHSPCサブ集団における、対照-BdLV(miRTもしくは133aTなし、筋肉特異的miRT)ならびにmiR-126 (126T)、miR-130a (130aT)、miR-196b (196bT)、miR-10a (10aT)、miR-223 (223T)、miR-19a (19aT)、miR-93 (93T)、miR-17-5p (17T)およびlet-7a (Let7aT)のためのリポーターBd.LVの発現を示す。各行は、上記の分化段階のHSPC中での示されたBdLVに関するリポーター発現の代表的なパターンを示す。各行の右側の棒グラフは、リポーターの平均蛍光強度から算出された平均抑制倍数(FR)±標準誤差を示す(対照:n=9;126T:n=10;130aT:n=4;196bT:n=4;HSCおよびMPP1以外の10aT:n=4(n=1である場合、統計値n/a);223T;eGFPリポーターを含むこれらの5種のうち、n=6;19aT:n=3;93T:n=2;17T:n=3;let7aT:n=1、3匹のマウスのプール)。HSPCサブ集団間のmiRNA活性の統計的比較を、参考値として各リポーターBdLV群のEPを用いる一元配置分散分析およびボンフェローニ検定後補正により行った(***:p<0.001;**:0.01>p>0.001;*:p<0.05)。
【図4−2】図4−1の続きである。
【図4−3】図4−2の続きである。
【図4−4】図4−3の続きである。
【図5−1】(a)移植マウスから単離された複数の細胞集団において示されたリポーターBdLVの平均抑制倍数(FR)により測定された8種のmiRNAの造血活性を示す。系列-BMサブセット:図4に記載;系列+BMサブセット:Pro B: CD19+CD43+; CD43- B: CD19+CD43-; T Ly: CD3+; 単球: CD11b+CD48+; 顆粒球: CD11b+CD48lo; 末梢血: 顆粒球: CD11b+ side scatterhi; 単球: CD11b+ side scatterlo; B Ly: CD19+; T Ly: CD3。(b)4コピーのmiR-130aTおよび2コピーのmiR-126Tを含む組合せ標的配列(130a/126T;n=4匹のマウス)を、4コピーのmiR-126T(126T;n=10匹のマウス)または4コピーのmiR-130aT(130aT;n=4匹のマウス)と比較した。バーは、系列マーカー陰性骨髄集団(図4と同様の凡例)および末梢血白血球中でこれらのmiRT配列により得られた抑制倍数±標準誤差を示す。130a/126Tは126TのみよりもHSCにおいて良好な抑制を達成するが、PB白血球におけるバックグラウンド抑制は低下することに留意されたい。
【図5−2】図5−1の続きである。
【図6−1】miRNA標的配列による自殺遺伝子の発現の調節を示す。(a)miR-142、miR-223、miR-126、またはmiR-130aと完全に相補的なmiRT配列を、脱安定化チミジンキナーゼ(dTK)転写物に付加した。(b)については一方向レンチウイルス自殺ベクター(それぞれのベクター図の右半分)を用いたが、(c)においてはGFPマーカーをmiRNA調節性TKに結合させるか、またはNGFRマーカーを対照-TKに結合させる二方向自殺ベクターを用いた。(b)系列-/low HSPCを、示されたレンチウイルスベクターで形質導入し、+/-ガンシクロビル(GCV)の半固形培地中に播種した(LV-GFP: n=2; CTRL-TK: n=8; TK-142T: n=4; TK-223T: n=6; TK-126T: n=4; TK-130aT: n=2)。10日後、骨髄細胞(CFU-GM、CFU-G、CFU-GM)および赤血球(BFU-E、CFU-E)コロニーの数を計数した。箱ヒゲ図は、GCVを含まないそれぞれの対照培養物中のコロニー計数で割ったGCVを含有する培養物中のコロニー数を示す(10〜90%)。「GCVなし」のデータ点は、播種の変動性を示す(全ての非GCV処理培養物の平均コロニー計数で割ったそれぞれの非GCV処理培養物のコロニー計数;n=26)。統計的比較を、GCV処理、LV-GFP群に対して行った;ns、有意差なし;**、0.001<p<0.01:***、p<0.001。(c)CD45.1+マウスに由来する系列-/low HSPCを、TK対照ベクター(NGFRマーク付)またはmiRNA調節性TKベクター(GFPマーク付;Exp#1:TK.126T;Exp#2:TK.142T)で形質導入した。LV.NGFR/対照TKおよびLV.GFP/TK-miRTで形質導入された細胞を、1:1の比率で混合し、移植後3日目に開始して7〜14日間、GCVで処理するか(Exp#1:n=6マウス;Exp#2:n=5マウス)、または未処理のまま放置した(Exp#1:n=4;Exp#2:n=3)、CD45.2+コンジェニックマウスに移植した。代表的なFACSプロットは、CD45.1+ドナー細胞内のGFP/NGFRキメラ現象を示す。グラフは、各血液細胞型につき、7〜8ヶ月間にわたる、GCV処理されたマウス(赤色)および未処理のマウス(黒色)についての、血液中の形質導入されたドナー由来細胞内のGFPを発現する細胞の画分を示す。有意に多い細胞がGCV群においてGFP+であり(***: p<0.001、二元配置分散分析)、GFP/TK.126TまたはGFP/TK.142Tにより形質導入されたHSCの自殺からの保護および選択的利点を示唆することに留意されたい。かくして、トランスジーンに付加されたmiR-126T配列は、遍在プロモーターから発現された場合でも、毒性の高いトランスジーンを生じるHSPC毒性を克服し、HSPCに基づく遺伝子療法の安全性および効果を改善する有意な能力を担持する。さらに、これらの結果は、miR-126が機能的再増殖アッセイにより示されるように、長期移植性造血幹細胞において活性であることを正式に証明している。
【図6−2】図6−1の続きである。
【図7−1】(a)遺伝子療法のためにmiR-126調節を活用する安全性を解決するために、miR-126リポーターを含有するトランスジェニックマウス系(Tg.126T)を、受精卵の囲卵腔への例示されたLVのマイクロインジェクションにより作製した。若い成体のトランスジェニックマウスの骨髄のFACS分析により、GFP発現はKit+Sca+系列マーカー-(KSL)細胞において最も低いが(ヒストグラムプロット中の青色のグラフ)、GFP発現はKit+Sca-Lin-前駆細胞にスイッチする(ヒストグラムプロット中の黒色および赤色のグラフ)ことが示された。Tg.126Tマウスおよび対照GFPトランスジェニックマウスのGFP MFIを測定して、示されたHSPCサブ集団中のmiR-126リポーターのFRを算出した(平均±標準誤差、n=10 Tg.126Tマウス;EPと比較して、***:p<0.001;**:0.01>p>0.001)。(b)miR-126に関する2個のノックアウト対立遺伝子を担持するマウスは、血管形成の欠陥に起因して有意な胚致死性を示すが、育種した本発明者らのTg.126Tコロニーは、親世代の1つを反映する子孫において正常な同腹子数および期待されたベクターコピー数(VCN)分布をもたらし、これは、PGKプロモーターからのmiR-126T配列の中程度の発現が、発生中に天然のmiR-126標的の調節を阻害しなかったことを示唆している。(c)CD45.2+Tg126TマウスおよびCD45.1+野生型(WT)マウスに由来するBM細胞を、CD117に関する陽性選択によりHSPCについて富化し、致死量の放射線を照射したCD45.2+レシピエント(n=4)に競合的に移植した(1:1の比率)。移植されたマウスを規則的な間隔で出血させ、CD45.1/CD45.2キメラ現象を様々な末梢血細胞系列において決定した(顆粒球: CD11b+side scatterhi; 単球: CD11b+side scatterlow; B細胞: CD19+; T細胞: CD3+)。これらのデータは、miR-126調節を安全に活用するための快適な治療域が存在することを示唆している。
【図7−2】図7−1の続きである。
【図8−1】(A)CD34+ HSPCをヒト臍帯血(CB)から精製し、対照-BdLV(対照)またはmiR-126(126T)、miR-130a(130aT)もしくはmiR-223(223T)についてはmiRNAリポーターBdLVを用いて形質導入した(n=3生物反復/群)。HSPCの短期的維持を支援する条件下で細胞を液体培養物中で保持し、BdLVマーカー発現を、CD34+CD38-HSPCおよびCD34+CD38+前駆細胞中、形質導入の2日後に測定した(左側の最初の2列)。次いで、液体培養物中で6日間(CD34-CD38+細胞;中央の列)、または半固形培地中で16日間(CD13+骨髄細胞、CD235+赤血球細胞)、細胞を分化させた。代表的なFACSプロットを示す。下の棒グラフは、それぞれのサブ集団中のmiR-126、miR-130aおよびmiR-223活性の定量を示す(n=3;平均抑制倍数+/-標準誤差;**、0.001<p<0.01:***、p<0.001)。(B)臍帯血CD34+細胞を、対照またはmiR-223(TK-223T)もしくはmiR-126(TK-126T、図2も参照)のためのmiRNA標的配列を含有するmiRNA調節性二方向自殺ベクターで形質導入し、プロドラッグGCVの存在下または非存在下で4回、CFCアッセイ中に播種した。GFP+赤血球(CFU-E、BFU-E)または骨髄(CFU-G、CFU-M、CFU-GM)コロニーの数を、播種の14日後に計数し、「GCVなし」培養物中で計数された数に対して正規化した。箱ヒゲ図は10〜90%を示す。GCVはCTR-TK形質導入コロニーの増殖を完全に阻害した。(C)miR-126TとmiR-130aT配列の組合せ(それぞれ、4+4個および2+2個のタンデムリピート)、ならびにmiR-126Tの2個のタンデムリピートを、それぞれ、miR-126TまたはmiR-130aTの4個のタンデムリピートを用いて、標準的なmiRT設計と比較した。ヒト臍帯血細胞を対応するリポーターBdLVで形質導入し、リポーターの抑制倍数を、形質導入の2日後に原始的幹細胞/前駆細胞区分(CD34+CD38-)および前駆細胞区分(CD34+CD38+)、ならびに形質導入の10〜14日後に骨髄子孫(CD13+)および赤血球子孫(CD235+)において決定した。126T(4個の標的)、126T/130aT(4+4個の標的)および126T/130aT(2+2個の標的)は、幹細胞/前駆細胞区分において同等によく抑制する。しかしながら、126T/130aT(4+4個の標的)は骨髄子孫においてより高いバックグラウンド抑制活性を有する。(D)G-CSF誘導性のin vitroでの分化の際の原始的区分(Cと同様)および後期骨髄分化段階(骨髄細胞:CD11b+/CD16-;後骨髄球:CD11b+/CD16+/SSClow;顆粒球:CD11b+/CD16+/SSChigh)における126T(4個の標的)、126T/130aT(2+2個の標的)および126T(2個の標的)の抑制活性を示す。分化段階を、培養物に由来するMay-Grunwald/Giemsa染色サイトスピンサンプル上で検証した。CD34+/CD38-幹細胞/多能性細胞区分における対応するmiRTの抑制倍数を、後骨髄球における抑制倍数で割ることにより、調節指数(右側のグラフ)を算出する。骨髄子孫におけるトランスジーン発現の最良の「放出」は126T(2個の標的)により得られるが、幹細胞/前駆細胞区分における抑制は130aT(4個の標的)と同様であり、126T(4個の標的)および126T/130aT(2+2個の標的)と比較してわずかに低い。後者の2個の標的配列に関しては、126T/130aT(2+2個の標的)は、最大の調節指数を与えるため、126T(4個の標的)よりも好ましい。さらに、トランスジーン下方調節は2種の独立したmiRNAにより確保され、内因性miRNA調節を阻害する危険性がさらに低下し、かくして、miRTの安全性および効果を増加させる。
【図8−2】図8−1の続きである。
【図9】HSPC中でのリソソーム酵素の過剰発現を示す。LV形質導入の際にmHSPC(A)およびhHSPC(B)中で野生型に対して正規化された酵素発現レベルを示す。GALC発現はARSAおよびIDUAと比較して有意に低かった。
【図10】LV媒介性GALC発現の際のマウスHSPCの機能的損傷を示す。(A)GALCおよび対照LVで形質導入されたmHSPCに関するCFCアッセイを示す。コロニー数(#)/プレート(左Y軸、柱)を計数し、組込まれたLVのコピー数/細胞(VCN)(右Y軸、点)を測定した。GALC.LVで形質導入された-/-mHSPC(n=12回の独立した実験)は、GFP.LV(n=10)およびARSA.LV(n=8)で形質導入された細胞と比較して有意に少ない数のコロニーを産生した。この損傷は、mHSPCをmirl42T GALC.LV(n=6)で形質導入した場合には観察されなかった。両コピー数/プレートおよびVCNに関して、一元配置分散分析で*p<0.001であった。平均±SDを示す。同様の結果が、-/-および+/+ mHSPCを用いた場合に得られた。(B)形質導入されたmHSPC上で測定されたGALC活性を示す。GALC/LV形質導入後、GALC -/-(ここでは-/-)(n=5)およびGALC +/+(ここでは+/+)(n=5)mHSPCは、野生型レベル(GFP.LVで形質導入された+/+ mHSPC、n=5)よりもGALC活性の2倍の増加を示した。mirl42調節性GALC.LV(mirl42T)(n=3)で形質導入されたmHSPC中では活性の増加は検出されなかった。
【図11】LV媒介性GALC発現の際のヒトHSPCの機能的損傷を示す。(A)GALCおよび対照LVで形質導入されたmHSPCに関するCFCアッセイを示す。コロニー数(#)/プレート(左Y軸、柱)を計数し、組込まれたLVのコピー数/細胞(VCN)(右Y軸、点)を測定した。GALC.LVで形質導入されたn.d.(n=4)およびGLD hHSPC(n=4)は、対照細胞(n=5)と比較してコロニー形成の有意な損傷を示し、これはmirl42T GALC.LV形質導入(n=4)後には観察されなかった。GALC.LVで形質導入されたhHSPCから得られたコロニーは、GFP/ARSA/GALCmirl42T/LV対照と比較した場合、有意に低いベクター含量を示した。両コピー数/プレートおよびVCNに関して、一元配置分散分析で*p<0.001であった。(B)形質導入されたhHSPC上で測定されたGALC活性を示す。GALC.LV形質導入により、GLD hHSPC(n=3)においてn.d.レベルでGALC活性の再構成が可能であったが、n.d. hHSPC(CBについてはn=4およびBMについてはn=3)の形質導入は、GFP.LV形質導入レベル(n=3)を超える酵素の過剰発現を誘導した。mirl42調節性GALC.LV(mirl42T)(n=3)で形質導入されたhHSPCにおいては活性の増加は検出されなかった。
【図12】HSCTの際のtwiマウスの生存を示す。(A)GFP.LVおよびGALC.LVの略図である。(B)HSCTを受けるtwiマウスの平均生存日数を示す。総BM(TBM)(n=12)またはGFP.LVで形質導入された+1+ mHSPCおよび形質導入されなかったScal-前駆細胞(GFP.LV +1+ Lin- & +1+ Scal-、n=7)またはGFP.LVで形質導入された+1+ mHSPCおよびGFP.LVで形質導入されたScal-前駆細胞(GFP.LV +1+ Lin- & GFP.LV +1+ Scal-、n=5)を移植したtwiマウスは、未処理の対照(UT)(n=10)と比較して長い生存日数を達成した。GALC.LVで形質導入された-I-mHSPCおよび+1+ Scal-前駆細胞(n=7)を受けるマウスは、TBMまたは+1+ Lin- & Scal-移植マウスに関して有意により高い寿命を示した。対照的に、GALC.LVで形質導入された-I- Lin- & -I- Scal- (n=13)を用いる移植は、寿命の延長をもたらさなかった。対照群:GFP.LVで形質導入された+1+ HSPC(+1+ LIn-)(n=10)を移植されたマウス;GFP.LVで形質導入された+1+ Scal-前駆細胞(n=8)を移植されたマウス。一元配置分散分析検定で*p<0.01であった。(C)GFP.LVで形質導入された+1+ mHSPCおよびScal-前駆細胞を移植されたtwiマウスの末梢血中のGFP+移植細胞の割合(%)を示す代表的なプロットを示す。
【図13−1】FVB/twiマウスにおけるmHSPCのin vivo機能的損傷を示す。示されるように、mHSPC移植を受けるマウスの平均生存日数である。GFP.LVで形質導入された+/+ mHSPC(n=11)を移植された-/-マウスは、未処理対照(UT)と比較してより長い生存日数を達成した;対照的に、GALC.LVで形質導入された-/- mHSPCを移植された-/-(n=9)および+/-(°)(n=5)マウスは、致死的照射後に生存しなかった。表2。移植後20および120日目(n=3個の時点)での列挙されたmHSPCを移植された-/-または+/-マウス(GALC.LVまたはGFP.LVで形質導入された)のBMにおいて検出された平均VCN SDを示す。(°)+/-宿主。(§)同様の結果が+/+ mHSPCを用いる場合に得られた。
【図13−2】図13−1の続きである。
【図14−1】GALC発現マウスおよびヒトHSPCのアポトーシスを示す。(A-B)遺伝子導入の2および5日後の-/- mHSPC(左)およびhHSPC(右)(n.d. CBおよびGLC BM由来)上でのTUNELアッセイを示す。有核細胞の総数に対するTUNEL+核の割合(%)を報告する。8個の視野と100個の細胞が計測条件であった。+/+ mHSPCを用いた場合に同様の結果が得られた。(A)GALC.LVで形質導入されたm-およびhHSPCの大部分が、形質導入の2および5日後の両方においてTUNEL陽性であった。(B)示されたLVを用いる形質導入の2日後のm-およびhHSPCならびに日後の(mHSPC)上での核に関するTUNELアッセイ(赤色)およびToPro(TPIII、青色)染色を示す:代表的な画像(画像を3レーザー共焦点顕微鏡Radiance 2100, BioRadにより獲得した;1個の光学切片に由来する蛍光シグナルを連続的に獲得し、Adobe Photoshop CSソフトウェアにより分析した;倍率100倍)。(C)m-(上パネル)(-/-ドナーマウス由来)およびhHSPC(下パネル)(n.d. CB由来)上でのAnnexin V染色の細胞蛍光分析を示す。アポトーシス細胞の画分は、GFPで形質導入された対照と比較して、GALC.LVで形質導入されたmHSPCおよびhHSPCにおいてより高い。CMT=カンプトテシン処理陽性対照。獲得を、FACS Calibur 2、Beckton Dickinsonを用いて実施した。少なくとも10,000の事象をスコア化し、データをFlowJo 8.5.3ソフトウェアにより処理した。-/- mHSPCおよびn.d. CB(およびTUNELのためにGLD BM)から得たデータを示すが、-/-細胞と比較して+/+ mHSPCのGALC形質導入後に、およびCB細胞と比較してn.d. BM(TUNELおよびAnnexin V)およびGLD BM(Annexin V)hHSPCにおいて、同様の知見が得られた。
【図14−2】図14−1の続きである。
【図15】IGF1処理はGALCを発現するHSPCのアポトーシスを防止する。(A)IGF1で処理したか、または処理しなかったGALC.LVおよびARSA.LVで形質導入されたmHSPCに関するCFCアッセイを示す。コロニー数(#)/プレート(左Y軸、棒)を計数し、組込まれたレンチウイルスベクターのコピー数/細胞(VCN)(右Y軸、点)を測定した。IGF1処理は、GALC.LVで形質導入された未処理細胞と比較して、より高いコロニー数の増殖を誘導した(n=4回の独立した実験)。抗アポトーシス処理の際に、GALC.LVで形質導入された細胞のVCNは、ARSA.LVで形質導入された対照細胞のものに近づいた(CFC数とVCNの両方に関する一元配置分散分析:処理されたGALCで形質導入されたmHSPCと未処理のGALC.LV形質導入細胞との比較については*=p<0.001;処理されたGALC.LVで形質導入されたmHSPCとARSA.LVで形質導入された細胞との比較についてはp>0.05)。(B)処理されたmHSPCから増殖したコロニーはまた、サイズの増加も示した(右側の写真、倍率5倍)(C)IGF1で処理したか、または処理しなかったGALC.LVおよびARSA.LVで形質導入されたmHSPCに関するTUNELアッセイを示す。処理された細胞の大部分がTUNELについて陰性であった(一元配置分散分析:未処理のGALC.LVで形質導入された細胞との比較についてはp<0.001;ARSA.LVで形質導入された細胞との比較についてはp>0.05)。(D)-/-または+/+マウスに由来する形質導入されたmHSPC上で測定されたGALC活性を示す。IGF1処理は、形質導入された未処理細胞(n=6)と比較した場合、GALC発現レベル(n=3)に有意に影響しなかった。平均値SDを示す。
【図16】形質導入された細胞におけるカテプシンD活性化の分析を示す。示されるように、遺伝子導入後の様々な時点でのGFP.LVまたはGALC.LVで形質導入されたmHSPCおよびU937細胞に対するカテプシンDに関するウェスタンブロット分析を示す。活性化形態は矢印で示されるように30 kDa膜結合型アイソフォームに対応する。GFP.LVで形質導入された細胞と比較して、遺伝子導入後のGALC.LVで形質導入された細胞においては、活性型形態のカテプシンDの有意な蓄積は観察されなかった。前駆体(48 kDa、矢印)は培養の7日後にGFPで形質導入された細胞中に蓄積したが(GFP 7d)、その蓄積はGALCの存在下ではあまり顕著ではなく、7日後には前駆体と成熟型の両方が消失した。抗アクチンをタンパク質ローディングのための対照として用いた。
【図17】様々な細胞型における基礎GALC活性を示す。基礎GALC活性を野生型mHSPCレベルに対して正規化した。一次野生型オリゴデンドロサイト(n=4)とミクログリア(n=4)は共に、mHSPCと比較してより高いGALC活性を示した。
【図18−1】骨髄細胞中でのGALCのde novo発現に対する感受性を示す。形質導入の5日後に、(A)ヒト単球、(B)単球ヒト細胞系U、(C)マウスマクロファージおよび(D)マウスミクログリアに対して実施された、TUNELアッセイ(総有核細胞に対するTUNEL+細胞の割合(%)、左Y軸、棒)、GALC活性決定(右Y軸、点)および、可能な場合、専用染色から得られた結果を示す。全ての試験条件において、TUNEL染色は、効率的な形質導入((C)におけるマクロファージ上での抗HA染色により評価)にも拘わらず、少量のアポトーシスの出現/アポトーシスなしを示し(条件あたり6個以上の視野および250個以上の細胞を計測した)、全ての他のサンプル(ARSA.LVまたはGFP.LVで形質導入された細胞)において基礎レベルを超える持続的GALC発現が観察された。平均値±SDを示す。(CおよびD)GALC/GALC-HA.LVまたはGFP.LVで形質導入されたマクロファージ(C)およびミクログリア(D)に関するTUNELアッセイの代表的画像を示す。3レーザー共焦点顕微鏡(Radiance 2100, BioRad)により画像を獲得した。単一の光学切片に由来する蛍光シグナルを連続的に獲得し、Adobe Photoshop CSソフトウェアにより分析した。倍率:Cでは80倍、Dでは100倍。
【図18−2】図18−1の続きである。
【図19】リンパ球中でのGALCのde novo発現に対する感受性を示す。形質導入の5日後に、TおよびBリンパ球に対して実施された、TUNELアッセイ(総有核細胞に対するTUNEL+細胞の割合(%)、左Y軸、棒)、GALC活性決定(右Y軸、点)から得られた結果を示す。TUNEL染色は、効率的な形質導入(基礎レベルを超える持続的GALC発現を参照)にも拘わらず、少量のアポトーシスの出現/アポトーシスなしを示した(条件あたり6個以上の視野および250個以上の細胞を計測した)。平均値±SDを示す。
【図20】オリゴデンドロサイト中でのGALCのde novo発現に対する感受性を示す。(A)形質導入の5日後に実施された、TUNELアッセイ(総有核細胞に対するTUNEL+細胞の割合(%)、左Y軸、棒)、GALC活性決定(右Y軸、点)を示す。TUNEL染色は、、効率的な形質導入(基礎レベルを超える持続的GALC発現を参照)にも拘わらず、少量のアポトーシスの出現/アポトーシスなしを示した(条件あたり6個以上の視野および250個以上の細胞を計測した)。平均値±SDを示す。(B)GALC.LVまたはGFP.LVで形質導入されたオリゴデンドロサイトに関するTUNELアッセイの代表的画像を示す。オリゴデンドロサイト調製の純度を、非形質導入細胞(UT)上でのNG2およびGal-Cer染色により検証したが、ミクログリアをGALC/LVで形質導入された細胞上、F4/80で染色した;ToPro(TPIII)を用いて、核を染色した。3レーザー共焦点顕微鏡(Radiance 2100, BioRad)により画像を獲得した。単一の光学切片に由来する蛍光シグナルを連続的に獲得し、Adobe Photoshop CSソフトウェアにより分析した。倍率:40倍。
【図21】miRNA 126によるGALC発現の調節を示す。(A)GALC.miRNA126Tag.LVの略図である。(B-C)GALC.miRNA126Tag.LV(GALC.126miT)またはGALC.LVもしくはGFP.miRNA126Tag.LVで形質導入された-I- mHSPC上で実施されたGALC活性アッセイおよびCFCアッセイを示す。(B)活性を+1+レベルに関して正規化した(1列目)。GALC.miRNA126Tag.LVで形質導入された細胞は、超生理学的レベルでGALCを過剰発現する。(C)コロニー数(#)/プレート(左Y軸、棒)を計数し、組込まれたレンチウイルスベクターコピー数/細胞(VCN)(右Y軸、点)を測定した。miRNA126によるGALC発現の抑制により、GALC.LVで形質導入された細胞と比較して、より高いコロニー数の増殖が可能になった(n=4回の独立した実験)。一元配置分散分析で*p<0.01であった。
【図22】GALC発現のmiRNA126調節はmHSPCのアポトーシスを防止する。(A)GALC.miRNA126Tag.LVまたはGALC.LVおよびGFP.miRNA126Tag.LVで形質導入されたmHSPCに関するTUNELアッセイを示す。条件あたり8個以上の視野および100個以上の細胞を計測した。GALC.miRNA126Tag.LVで形質導入された細胞の大部分がTUNIELについて陰性であった。(B)形質導入の5日後のGALC.miRNA126Tag.LVまたはGALC.LVで形質導入されたmHSPC-/-に関するTUNELアッセイ(赤色)およびToPro(TPIII、青色)染色を示す:代表的な画像(3レーザー共焦点顕微鏡(Radiance 2100, BioRad)により画像を獲得した;単一の光学切片に由来する蛍光シグナルを連続的に獲得し、Adobe Photoshop CSソフトウェアにより分析した;倍率40倍)。
【図23−1】HSPC中でのde novoのGALC発現の毒性およびmiR-126調節によるレスキューを示す。示されたLV(A)を用いて、それぞれ、Galc-/-(-/-)および野生型(+/+)マウスならびに正常なドナーに由来する臍帯血(CB)および骨髄(BM)から得られたマウスおよびヒトHSPCを形質導入した。GALC活性(B)およびベクターコピー数(VCN)(C)を、形質導入されたマウス(上パネル)およびヒト(下パネル)HSPC(-/-および+/+HSPCからプールされたデータを上パネルに示す(C))のin vitroでの培養子孫中で測定した。(D)マウス-/-(上パネル)およびヒト(下パネル)HSPCに対して示されたLVを用いる形質導入の終わりに実施されたコロニー形成アッセイ(CFC)から回収されたコロニー数(#)を報告する。(E)マウス-/-HSPC(上パネル)ならびに正常なドナーのCBおよびBMから得たCD34+細胞(下パネル)に対して、示されたLVで形質導入した2日後にTUNELアッセイを実施した。形質導入された細胞間のアポトーシスの頻度を評価した(TUNEL+細胞%)。それぞれの点は、個々のサンプルを表す(B-E)。Eにおいては、8個以上の視野および100個以上の細胞を各サンプルにつき計測した。*:p<0.05;**:p<0.01;***:p<0.001。(F)GFP LVおよびGALC LVで形質導入されたHSPCに対する代表的なTUNEL染色を示す。倍率:100倍。
【図23−2】図23−1の続きである。
【図23−3】図23−2の続きである。
【図24−1】HSC遺伝子療法後のGLDマウスの生存日数の改善を示す。Galc-/-または+/+マウスHSPCを示されたベクターで形質導入し、(A)に記載の実験スキームに従ってTrsマウス中に静脈内移植した。120日目または死亡時に移植されたマウスのBM中で検出されたGFP+細胞またはVCNの割合(%)(±SD)として測定された、形質導入された細胞の平均生存日数±SDおよび平均生着率を示す(n=4-26/群)。(§)+/+mHSPCを用いた場合も同様の結果が得られた。未処理のGLDマウスの生存日数を1行目に示す(*=照射なし;n.a.=適用なし)。(B)ヒト一次単球、BおよびTリンパ球ならびにマウスミクログリアを、示されたベクターで形質導入した。GALC活性(非形質導入細胞(UT)に対する倍数として表す)を、形質導入の5日以上後に培養細胞上で測定し(中央パネル)、形質導入の2日後にTUNELアッセイ(TUNEL+細胞の%として表す)を実施した(右パネル)。GALCで形質導入されたマウスおよびヒトHSPCから得られたデータ(図5から)ならびにGFPで形質導入されたミクログリア中のTUNEL+細胞の%を比較のために報告する。それぞれの点は個々のサンプルを表し、6個以上の視野および250個以上の細胞を計測した。(C)示されるように、GALC LVまたはGFP LVで形質導入され、ミクログリアマーカーF4/80(GALCで形質導入された細胞)またはGFPについて染色された、ミクログリア細胞に対するTUNEL染色の代表的な画像を示す。核をToProIII(TPIII)で標識した。倍率:100倍。(D)GALC-126T LVにより形質導入されたGalc-/-HSPC(n=26)またはGFP LVにより形質導入されたGalc+/+HSPC(n=10)を移植したTrsマウスならびに未処理の罹患した対照(UT)(n=15)のKaplan-Meier生存曲線を示す。ペアワイズ比較のためのlogランク検定でのGALC-126T対GFP:p=0.002;GALC-126対UT:p<0.0001。(E)GALC-126T移植マウスを、死亡時に総BM細胞上で測定されたVCNに従って2群に分割した。BM細胞中に5LVコピー未満(平均±SD=67±13日)または以上(平均±SD=117±43日)を担持する動物についての生存日数を示し、処理されたマウスの集団全体のBM中で測定された平均VCNは5であった。(F-I)GALC-126T移植マウスおよび対照マウスから得た脳切片上で、GALC活性(淡青色)を定性的に評価した。WTおよび未処理のTrsマウスと比較した、GALC-126T移植マウスの海馬(F、G)および脳橋(H、I)に由来する代表的切片を示す。GALCアッセイをミクログリア/マクロファージIba1マーカー(F、G)および造血マーカーCD45(H、I)と関連付けた。未処理のTrsマウスおよびGALC-126T移植Trsマウスにおいては活性化造血細胞の顕著な浸潤が存在するが、後者は形質導入されたHSPC造血子孫(GおよびI中の矢印頭部はGALC[青色]ならびにIba1[G]およびCD45[I][褐色]の同時染色を示す)およびIba-、CD45-非造血細胞の両方におけるGALC活性を示す。倍率:(F、H)においては20倍、(G、I)においては40倍。
【図24−2】図24−1の続きである。
【図24−3】図24−2の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0073】
マイクロRNA(miRNA)
遺伝情報がDNA→mRNA→タンパク質と流れることは生物学のセントラルドグマであった。換言すれば、タンパク質のための遺伝子コードおよびそのタンパク質は、遺伝子発現プログラムの調節などの全ての細胞機能を実行すると仮定されてきた。しかしながら、高等真核生物においては、タンパク質をコードするRNA転写物はほんの少量に過ぎず(2〜3%)、タンパク質が細胞機能の唯一のエフェクターであるというセントラルドグマに疑問を投げ掛けている(Mercerら、2009)。事実、「マイクロRNA」と呼ばれる非コード小分子RNAクラスが遺伝子発現の調節における基礎的役割を果たす新たな証拠がある。マイクロRNA(miRNA)(Biffiら、2004; Sadelain M., 2006; Sadelainら、2005; Gazievら、2005; Yesilipek MA., 2006; Abonourら、2000)は、RNA干渉(RNAi、以下を参照)(Bartel DP., 2004)と呼ばれるプロセスを誘発することにより、転写後レベルで遺伝子発現を負に調節するヌクレオチド長、非コードRNAである。マイクロRNAは、lin-4およびlet-7の形態でカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)において初めて発見され、それらは幼虫発達のタイミングを調節することが示された(Leeら、1993; Reinhartら、2000)。この知見は、高等真核生物中での遺伝子発現を制御する同様の非コードRNAの探索をもたらした。全ての生物はmiRNAを発現し、その多くが種を超えて系統発生的に保存されているという発見は、生物学の分野における革命であると考えられてきた。参照マイクロRNAデータベース(http://microrna.sanger.ac.uk/)によれば、695種の異なるmiRNAが、記載の時点でヒトにおいて同定されている。マイクロRNAは、発生、分化、増殖およびアポトーシスなどのあらゆる生物学的プロセスに関与してきた(XiaoおよびRajewsky, 2009)。それらはまた、癌、心不全および代謝障害などの疾患において重要な役割を果たす(Xiaoら、2009; Divakaら、2008; Krutzfeldtら、2006)。
【0074】
マイクロRNA遺伝子は、Y染色体以外の全てのヒト染色体にわたって散在している。それらはゲノムの非コード領域中に位置するか、またはタンパク質コード遺伝子のイントロン内に位置し得る。miRNAの約50%は、ポリシストロニック一次転写物として転写されるクラスター中に出現する(Lagos-Quintanaら、2003)。タンパク質コード遺伝子と同様、miRNAは通常、ポリメラーゼIIプロモーターから転写され、いわゆる一次miRNA転写物(プリmiRNA)を生成する。次いで、このプリmiRNAは、RNAse III型ファミリーに属する2種の酵素、DroshaおよびDicerにより実行される一連のエンドヌクレアーゼ的切断工程を介して加工される。プリmiRNAから、mirna前駆体(プレmirna)と呼ばれる約60ヌクレオチド長のステムループが、DroshaおよびDiGeorge症候群臨界領域(DGCR8)から構成される特異的な核複合体により切り出され、一次ステムループの塩基の近くで両鎖を切り取り、5'リン酸および2 bp長の3'突出部を遊離する。次いで、プレmirnaは、RAN-GTPおよびExportin-により核から細胞質へ活発に輸送される(Yiら、2003; Lundら、2004)。次いで、DicerはDrosha切断により規定されなかったステムループの末端で二本鎖切断を実行し、成熟miRNAと、miRNA*と呼ばれる二本鎖の反対側の鎖とから構成される19〜24 bpの二本鎖を生成する(Bartel DP., 2004)。熱力学的非対称則と一致して、二本鎖の一方の鎖のみがRNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)中に選択的にロードされ、成熟マイクロRNAとして蓄積する。この鎖は通常、siRNA二本鎖のそれぞれの鎖の5'末端に導入された単一ヌクレオチド不一致により証明されたように(Tomariら、2005)、5'末端がその相補体とあまりきつく対形成しない鎖である。しかしながら、両方の鎖の蓄積を同程度に支援するいくつかのmiRNAが存在する(Schwarzら、2003)。
【0075】
マイクロRNAは、実験的遺伝子ノックダウンに広く用いられる小分子干渉RNA(siRNA)と非常に類似して、RNAiを誘発する。miRNAとsiRNAとの主な違いは、その生物発生である。一度、RISC中にロードされたら、小さいRNA分子のガイド鎖は、タンパク質コード遺伝子の3'非翻訳領域(3'UTR)中に主に認められるmRNA標的配列と相互作用する。miRNAの5'末端から数えて2〜8個のヌクレオチド、いわゆるシード配列が、RNAiを誘発するのに必須であることが示された(Brenneckeら、2005)。siRNAおよび植物miRNAについては通常の事例であるように、ガイド鎖配列全体がmRNA標的と完全に相補的である場合、mRNAは、RNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)への小さいRNA二本鎖の「スライサー」とも呼ばれるArgonaute(Ago)タンパク質の関与によりエンドヌクレアーゼ的切断される。DGRC(DiGeorge症候群臨界領域遺伝子8)およびTRBP(TAR(HIV)RNA結合タンパク質2)は、それぞれ、DroshaおよびDicer RNase III酵素による成熟miRNA生物発生を容易にする二本鎖RNA結合タンパク質である。miRNA二本鎖のガイド鎖は、エフェクター複合体RISC中に組込まれるようになり、不完全な塩基対形成を介して特定の標的を認識し、転写後遺伝子サイレンシングを誘導する。この調節様式については、いくつかの機構が提唱されている:miRNAは翻訳開始の抑制を誘導し、脱アデニル化による分解のために標的mRNAに印を付けるか、または標的を細胞質P小体に隔離することができる。
【0076】
一方、シードのみが標的mRNAと完全に相補的であるが、残りの塩基が不完全な対形成を示す場合、RNAiは翻訳抑制を誘導する複数の機構を介して作用する(Bartel DP., 2004; Pillai RS., 2005; Bartel DP., 2009)。真核生物のmRNA分解は主に、mRNAの3'末端でのポリA尾部の短縮、および5'末端での脱キャップ化、次いで、5'-3'エキソヌクレアーゼ消化およびmRNA崩壊経路の成分中で富化された個別の細胞質領域、いわゆるP小体でのmiRNAの蓄積を介して生じる(Luiら、2005)。
【0077】
本発明において有用であるmiRNAは、造血幹細胞および/または前駆細胞中で発現されるが、分化した細胞中ではあまり発現されないmiRNAである。好ましい例としては、mir-130a、mir-126およびmir-223が挙げられる。他の好適なマイクロRNAとしては、胚性幹細胞およびいわゆるiPS細胞中で発現されるマイクロRNAが挙げられる。例えば、miR-302a、miR-373およびmiR-292は、多能性細胞(ES、iPS)中では特異的に発現されるが、成体型幹細胞または分化した細胞中では発現されない。let-7ファミリーのマイクロRNAは、多能性細胞(ES、iPS)に由来するもの以外の全ての細胞中で発現される。miR-124aはニューロン中で特異的に発現される。
【0078】
遺伝子ベクター
前記miRNAを、好適な遺伝子ベクター、すなわち、ウイルスベクターなどの、目的の遺伝子(トランスジーン)を送達するのに好適なベクターと共に用いることができる。遺伝子療法にとって好適なウイルスベクターは、当業界でよく知られている。本発明にとって有用なウイルスベクターの例は、WO2007/000668に記載されている。
【0079】
いくつかの異なるファミリーに由来するウイルスを改変して、遺伝子送達のためのウイルスベクターを作製した。本発明において用いることができるウイルスとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ピコルナウイルス、およびアルファウイルスが挙げられる。本発明は、好ましくはレトロウイルス、例えば、レンチウイルスを用いる。
【0080】
本発明を用いて、前記ベクター中に含まれるトランスジーンの発現を制御することができる。また、本発明を用いて、前記ベクターの発現を制御することもできる。例えば、本発明のmir-RNAにより制御することができるベクターは、腫瘍崩壊ウイルスである。
【0081】
造血幹細胞移植
造血幹細胞移植(HSCT)は、骨髄(この場合、骨髄移植として知られる)または血液に由来する血液幹細胞の移植である。幹細胞移植は、血液、骨髄の疾患、または特定の型の癌を有する人々において最も頻繁に実施される、血液学および腫瘍学の分野における医療処置である。
【0082】
幹細胞増殖因子GM-CSFおよびG-CSFの利用性と共に、多くの造血幹細胞移植手順が現在、骨髄よりもむしろ末梢血から採取された幹細胞を用いて実施されている。末梢血幹細胞の採取は、より大きい移植片を提供し、その移植片を採取するためにドナーを全身麻酔にかける必要がなく、より短い時間での生着をもたらし、より低い長期再発率を提供することができる。
【0083】
造血幹細胞移植は依然として、多くの合併症を伴う可能性のある危険性の高い手順である;それは伝統的に、生命を脅かす疾患を有する患者のために備えられてきた。重症の無力化自己免疫疾患および心血管疾患などの非悪性腫瘍および非血液学的兆候において実験的に用いられることがあるが、より広い許容性を獲得するには致命的合併症の危険性が高すぎるようである。
【0084】
HSCTの多くのレシピエントは、長期間の化学療法から利益を得られないか、またはそれに対して既に耐性である多発性骨髄腫または白血病の患者である。HSCTの候補としては、患者が、重症複合免疫不全症もしくは欠陥幹細胞を有する先天性好中球減少症などの先天的欠陥を有する小児事例、および誕生後にその幹細胞を失った再生不良性貧血を有する子供もしくは成人も挙げられる。幹細胞移植を用いて治療される他の症状としては、鎌状赤血球病、骨髄異形成症候群、神経芽細胞腫、リンパ腫、ユーイング肉腫、線維形成性小円形細胞腫瘍およびホジキン病が挙げられる。より最近では、より少量の予備化学療法および放射線療法を要する、非骨髄破壊的手順、またはいわゆる「ミニ移植」手順が開発されている。これにより、高齢者およびさもなければ従来の治療計画に耐えるには弱すぎると考えられるであろう他の患者においてHSCTを行うことができるようになった。本発明は、その安全性および/または効果を改善することにより、そのような治療の治療的適応を拡大することを目的とする。
【0085】
疾患
本発明は、遺伝子療法において特に有用である。特に、潜在的に毒性的なトランスジーンの発現を含む療法において有用である。本発明に従って治療することができる疾患としては、球様細胞白質萎縮症(GLD)などのリソソーム蓄積障害(LSD)が挙げられる。本発明により治療可能な疾患の別の例は、慢性肉芽腫性疾患(CGD)である。
【0086】
球様細胞白質萎縮症(GLD)またはクラッベ病は、GALC遺伝子中の突然変異により引き起こされ、ガラクトシルセラミダーゼと呼ばれる酵素の欠損を引き起こす。代謝されていない脂質の蓄積は、神経の保護的ミエリン鞘(多くの神経を防護する被覆)の増殖に影響し、運動神経の能力の重篤な変性を引き起こす。大脳白質萎縮症として知られる障害群の一部として、クラッベ病はミエリンの不完全な増殖および発達の結果生じる。GLDの遺伝子療法治療は、GALC遺伝子を患者に誘導することを含む。例えば、GALCをHSPCまたはHSC中に導入した後、患者に移植することができる。本発明者らは、LV媒介性GALC遺伝子導入および発現後の、マウスおよびヒトHSPCの毒性ならびにin vitroおよびin vivoでの機能的損傷を見出した。本発明の遺伝子ベクターを用いることにより、この毒性を克服することができる。
【0087】
本発明に従うベクター系による1個以上の治療的遺伝子の送達を、単独で、または他の治療もしくは治療成分と組合わせて用いることができる。
【0088】
例えば、本発明のベクターを用いて、WO-A-98/05635に列挙された障害の治療において有用な1個以上のトランスジーンを送達することができる。参照を容易にするために、その一覧の一部をここに提供する:癌、炎症もしくは炎症性疾患、皮膚障害、発熱、心血管作用、出血、凝固および急性期応答、悪液質、食欲不振、急性感染、HIV感染、ショック状態、移植片対宿主反応、自己免疫疾患、再かん流傷害、髄膜炎、片頭痛およびアスピリン依存的抗血栓症;腫瘍増殖、浸潤および拡散、血管新生、転移、悪性腫瘍、腹水症および悪性胸膜滲出;脳虚血、虚血性心疾患、変形性関節症、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、喘息、多発性硬化症、神経変性、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、卒中、血管炎、クローン病および潰瘍性大腸炎;歯周炎、歯肉炎;乾癬、アトピー性皮膚炎、慢性潰瘍、表皮水疱症;角膜潰瘍、網膜症および外科的創傷治癒;鼻炎、アレルギー性結膜炎、湿疹、アナフィラキシー;再狭窄、鬱血性心不全、子宮内膜症、アテローム性動脈硬化症またはエンド硬化症(endosclerosis)。
【0089】
さらに、またはあるいは、本発明のベクターを用いて、WO-A-98/07859に列挙された障害の治療において有用な1個以上のトランスジーンを送達することができる。参照を容易にするために、その一覧の一部をここに提供する:サイトカインおよび細胞増殖/分化活性;免疫抑制もしくは免疫刺激活性(例えば、ヒト免疫不全ウイルスによる感染などの免疫不全症の治療;リンパ球増殖の調節;癌および多くの自己免疫疾患の治療、ならびに移植片拒絶の防止もしくは腫瘍免疫の誘導のため);造血の調節、例えば、骨髄もしくはリンパ疾患の治療;例えば、創傷治癒、熱傷、潰瘍および歯周病ならびに神経変性の治療のための骨、軟骨、腱、靱帯および神経組織の増殖促進;卵胞刺激ホルモンの阻害もしくは活性化(受胎能力の調節);走化性/化学運動性(例えば、特定の細胞型の傷害部位もしくは感染部位への移動のため);止血活性および血栓溶解活性(例えば、血友病および卒中の治療のため);抗炎症活性(例えば、敗血症性ショックもしくはクローン病の治療のため);抗菌剤として;例えば、代謝もしくは行動の調節因子;鎮痛剤として;特定の欠損症の治療;例えば、ヒト医学または獣医学における感染の治療。
【0090】
さらに、またはあるいは、本発明のレトロウイルスベクターを用いて、WO-A-98/09985に列挙された障害の治療において有用な1個以上のトランスジーンを送達することができる。参照を容易にするために、その一覧の一部をここに提供する:マクロファージ阻害活性および/もしくはT細胞阻害活性およびかくして、抗炎症活性;抗免疫活性、すなわち、炎症と関連しない応答などの、細胞性および/もしくは体液性免疫応答に対する阻害効果;マクロファージおよびT細胞が細胞外マトリックス成分およびフィブロネクチンに接着する能力の阻害、ならびにT細胞におけるfas受容体発現の上方調節;慢性関節リウマチ、過敏症に関連する炎症、アレルギー反応、喘息、全身性エリテマトーデス、コラーゲン疾患および他の自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症に関連する炎症、アテローム性動脈硬化症、アテローム硬化性心疾患、再かん流傷害、心停止、心筋梗塞、血管炎症障害、呼吸窮迫症候群もしくは他の心肺疾患、消化性潰瘍に関連する炎症、潰瘍性大腸炎および消化管の他の疾患、肝線維症、肝硬変もしくは他の肝疾患、甲状腺炎もしくは他の腺疾患、糸球体腎炎もしくは他の腎疾患および泌尿器疾患、耳炎もしくは他の耳鼻咽喉疾患、皮膚炎もしくは他の皮膚疾患、歯周病もしくは他の歯疾患、精巣炎もしくは睾丸副睾丸炎、不妊症、睾丸外傷もしくは他の免疫関連精巣疾患、胎盤機能障害、胎盤機能不全、習慣流産、子癇、前子癇ならびに他の免疫および/もしくは炎症関連婦人科疾患、後部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、結膜炎、脈絡網膜炎、ぶどう膜網膜炎、視神経炎、眼内炎、例えば、網膜炎もしくは類嚢胞黄斑浮腫、交感性眼炎、強膜炎、網膜色素変性、眼底変性疾患の免疫および炎症成分、眼外傷の炎症成分、感染により引き起こされる眼の炎症、増殖性硝子体網膜症、急性虚血性視神経症、例えば、緑内障濾過手術後の過剰瘢痕化、眼内埋込み物に対する免疫および/もしくは炎症反応ならびに他の免疫および炎症関連眼疾患、中枢神経系(CNS)もしくは任意の他の器官の両方において、免疫および/もしくは炎症抑制が有益である自己免疫疾患もしくは症状もしくは障害に関連する炎症、パーキンソン病、パーキンソン病の治療に由来する合併症および/もしくは副作用、AIDS関連認知症、複合HIV関連脳症、デビック病、シデナム舞踏病、アルツハイマー病および他の変性疾患、CNSの症状もしくは障害、卒中の炎症成分、ポリオ後症候群、精神障害の免疫および炎症成分、脊髄炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎、脳脊髄炎、急性神経障害、亜急性神経障害、慢性神経障害、ギランバレー症候群、シデナム舞踏病、重症筋無力症、偽脳腫瘍、ダウン症候群、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、CNS圧迫もしくはCNS外傷もしくはCNSの感染の炎症成分、筋萎縮症および筋ジストロフィーの炎症成分、ならびに中枢および末梢神経系の免疫および炎症関連疾患、症状もしくは障害、外傷後炎症、敗血性ショック、感染症、手術、骨髄移植の炎症性合併症もしくは副作用または他の移植合併症および/もしくは副作用、例えば、ウイルス担体の感染に起因する遺伝子療法の炎症および/もしくは免疫合併症および副作用、またはAIDSに関連する炎症などの、望ましくない免疫反応および炎症の阻害、体液性および/もしくは細胞性免疫応答の抑制もしくは阻害、天然もしくは人工細胞、角膜、骨髄、器官、レンズ、ペースメーカー、天然もしくは人工皮膚組織などの組織および器官の移植の場合の移植片拒絶の予防および/もしくは治療のために、単球もしくはリンパ球の量を減少させることによる、単球もしくはリンパ球増殖疾患、例えば、白血病の治療もしくは改善。
【0091】
本発明はまた、遺伝子療法により個体を治療するための医薬組成物であって、1種以上の送達可能な治療的および/もしくは診断的トランスジーンを含む治療上有効量の本発明のベクターまたはそれにより産生されるか、もしくはそれから得られるウイルス粒子を含む前記組成物も提供する。この医薬組成物は、ヒトまたは動物への使用のためのものであってよい。典型的には、医師であれば、個々の被験体にとって最も好適であろう実際の用量を決定できるであろうし、それは特定の個体の年齢、体重および応答に応じて変化するであろう。
【0092】
前記組成物は、必要に応じて、製薬上許容し得る担体、希釈剤、賦形剤またはアジュバントを含んでもよい。医薬担体、賦形剤または希釈剤の選択を、意図される投与経路および標準的な薬務に関して選択することができる。医薬組成物は、担体、賦形剤もしくは希釈剤として、またはそれに加えて、任意の好適な結合剤、潤滑剤、懸濁剤、コーティング剤、可溶化剤、および標的部位へのウイルスの進入を助けるか、もしくは増加させることができる他の担体(例えば、脂質送達系など)を含んでもよい。
【0093】
必要に応じて、前記医薬組成物を、以下のうちのいずれか1種以上:吸入、坐剤もしくはペッサリーの形態で、ローション、溶液、クリーム、軟膏もしくは散布剤の形態で局所的に、皮膚パッチの使用により、スターチもしくはラクトースなどの賦形剤を含有する錠剤の形態で経口的に、または単独で、もしくは賦形剤との混合物中で、カプセルもしくは胚珠中で、または香料もしくは着色料を含有するエリキシル剤、溶液もしくは懸濁液の形態で、投与するか、またはそれらを非経口的に、例えば、静脈内的、筋肉内的もしくは皮下的に注入することができる。非経口投与のためには、前記組成物を、他の物質、例えば、溶液を血液と等張性にするのに十分な塩または単糖類を含んでもよい滅菌水性溶液の形態で最良に用いなければならない。頬または舌下投与のためには、前記組成物を、従来の様式で製剤化することができる錠剤またはロゼンジ剤の形態で投与することができる。
【0094】
本発明に従うベクター系による1個以上の治療的遺伝子の送達を、単独で、または他の治療もしくは治療成分と組合わせて用いることができる。治療することができる疾患としては、限定されるものではないが、癌、神経疾患、遺伝病、心疾患、卒中、関節炎、ウイルス感染および免疫系の疾患が挙げられる。好適な治療的遺伝子としては、腫瘍抑制タンパク質、酵素、プロドラッグ活性化酵素、免疫調節分子、抗体、遺伝子操作された免疫グロブリン様分子、融合タンパク質、ホルモン、膜タンパク質、血管作動性タンパク質またはペプチド、サイトカイン、ケモカイン、抗ウイルスタンパク質、アンチセンスRNAおよびリボザイムをコードするものが挙げられる。
【0095】
(実施例)
ヌクレオチド配列:太字:miRNAと相補的な標的配列。一般的には、本発明者らは4〜6ヌクレオチドのリンカーにより分離された4コピーのmiRNA標的を用いる。しかしながら、これを最適化することもできる。
【0096】

【実施例1】
【0097】
レンチウイルスマイクロRNAリポーターベクターの構築および検証
HSCなどの稀であまり特性評価されていない集団を含む造血細胞中でのmiRNAの活性を決定するために、本発明者らは、人工結合部位(miRT、miRNA標的部位)をトランスジーンカセットに付加し、内因性miRNAにより、レンチウイルスベクターから発現されたトランスジーンを下方調節することができるという本発明者らの以前の観察(Brown BD., 2006)を利用した。かくして、本発明者らは、リアルタイムおよび単一の細胞分解でmiRNA活性を読み取るレンチウイルスmiRNAリポーターベクターを構築することを目指した。二方向レンチウイルスベクター(Bd.LV)により、最小サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの形態で反対向きにTATAボックスに融合したヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターから構成される、二方向活性を有する構成的プロモーターにより駆動される2個のリポーター遺伝子の協調的発現が可能になる(Amendola M., 2005)。この設計により、両リポーターを2種の独立した転写物として発現させることができるため、それらの一方を、miRTを3'UTRに付加することによりmiRNAに応答するようにすることができるが(「miRNAリポーター」)、miRTを備えていない他方はmiRNAにより影響されず、内部対照(「正規化因子」)として働くであろう。本発明者らは、miRNAリポーターとしての緑色蛍光タンパク質(GFP)と、構成的に発現される正規化因子としてのトランケート型ヒト低親和性神経増殖因子受容体(NGFR)とを含有するそのようなBd.LVの一団をクローニングした。
【0098】
本発明者らは、造血組織中で発現されると考えられる2種のmiRNA、miR-223およびmiR-126-3pを精査することを選択した。miR-223は、分化した骨髄細胞においては高度かつ特異的に発現されるが、リンパ球においては存在しないと報告されており(Fazi F., 2005)、本発明者らは、よく特性評価された系列中での本発明者らのリポーターBd.LVの性能を試験することができた。さらに、本発明者らは、miR-223が造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)集団中でどのように発現されるかを探索することを望んだ。遺伝子療法的観点から、疾患を有する子孫の治療的修正を完全に維持しながら、感受性幹細胞集団中での的外れのトランスジーン発現を防止するために、HSPCにおいては強く発現されるが、分化した子孫においては発現されないmiRNAを同定することは非常に意味があるであろう。miR-126がヒトCD34+ HSPC中では特異的に検出されたが、他の造血細胞集団中では検出されなかったため、大規模miRNAクローニングは、miR-126がこれらの基準を満たすことを示唆していた(Landgrafら、2007)。
【0099】
本発明者らは、miR-223およびmiR-126-3pのためのリポーターBd.LV(それぞれ、Bd.LV-223TおよびBd.LV-126T)、ならびに任意のmiRTを含まない対照Bd.LVを作製した(図1)。次いで、これらのベクターを、様々な細胞型の一団上で評価した(図2)。HEK293T胚性腎細胞、U937単球細胞およびヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)を、適合用量のBd.LV-ctr、Bd.LV-223TおよびBd.LV-126Tで形質導入し、形質導入の数日後にフローサイトメトリー(FACS)によりリポーター発現について分析した。HEK293T細胞は低レベルから検出不可能なレベルのmiR-223またはmiR-126を発現する一方、U937細胞はmiR-223を強く発現するが、miR-126を発現せず(図2a)、HUVECはmiR-126を発現するが、miR-223を発現しない(Kuehbacherら、2007)。さらなる対照として、本発明者らは、遍在プロモーターの制御下にpri-mir-126を含有するLVで形質導入することによりmiR-126を異所的に発現するようにHEK293T細胞を遺伝子操作した(ここで、野生型HEK293T細胞と反対に、HEK293T.LV.miR-126と呼ぶ)。
【0100】
HEK293T細胞においては、NGFRを発現する形質導入細胞のGFP平均蛍光強度(MFI)は、3種全部のBd.LVと同一であった(図2b、左列)が、これはmiR-223もmiR-126-3pもこれらの細胞中では発現されないことを確認するものである。際だって対照的に、Bd.LV.223Tで形質導入されたU937細胞は、Bd.LV.126TまたはBd.LV.ctrlと比較してGFP MFIの実質的な低下を示したが、これはmiR-126ではなく、miR-223がU937細胞中で生物学的に活性であることを示している。対照的に、HUVECは、対照ベクターと比較した場合、Bd.LV-126Tに対して特異的にGFPの抑制を示した。同様に、Bd.LV-126Tリポーターで形質導入されたHEK293T.LV.miR-126細胞は、野生型HEK293T細胞と比較してGFP発現を強く下方調節した(図2bの3行目の最後と最初のプロットを比較されたい)。
【0101】
より定量的な表現でmiRNA活性を記述するために、本発明者らは、対照Bd.LVに関するmiRNAリポーターBd.LVの正規化平均蛍光強度(MFI)に基づいて「タンパク質抑制倍数」値(FR)を算出した(図2c)。ベクター群間での様々なレベルの遺伝子導入を説明するために、本発明者らは、miRNAリポーターGFPと共に化学量論量で転写される内部正規化因子NGFRを使用した。かくして、本発明者らは、NGFR陽性細胞に対してFACS分析を行い、それぞれのBd.LVに関するGFP MFIでNGFR MFIを割って「トランスジーン比」(TGR)を算出した。次いで、miRNAリポーターベクター(それぞれ、Bd.LV.223TまたはBd.LV.126T)について得られたTGRを、対照Bd.LVのTGRで割った。本発明者らが以後「抑制倍数」と呼ぶこの商は、ベクター用量および形質導入レベルとは無関係であり(ベクター用量応答曲線の少なくとも直線部分内)、分析した細胞中でmiRNA活性の定量的リードアウトを提供する(図2c)。本発明者らのmiRTは、同族miRNAと完全に相補的であるように設計されたものである。かくして、本発明者らは、miRNAにより認識される転写物が分解されると予想した。これを証明するために、本発明者らは、U937およびHEK293T.LV.miR-126細胞中でRT-PCRによりNGFRおよびGFP mRNA転写物を測定し、図2cに概略されたように「RNA抑制倍数」を算出した。実際、GFP転写物は、それぞれ、7および14の算出されたRNA抑制倍数により示されるように、U937.Bd.LV.223T細胞ならびにHEK293T.LV.miR-126.Bd.LV.126T細胞中でNGFR転写物と比較して低かった(図2c、菱形)。
【0102】
総合すれば、これらの結果は、本発明者らのmiRNAに調節されるBd.LVが細胞系においてmiRNA活性を忠実に報告し、本発明者ら自身の、および以前に公開されたmiRNA発現データと一致することを示している。従来のmiRNAプロファイリング技術に加えて、本発明者らのベクターはmiRNAの存在を報告するだけでなく、その生物活性をも報告する。本発明者らのBd.LVリポーターを担持する細胞のFACS分析により、単一細胞レベルでmiRNA活性を評価することが可能になり、かくして、免疫表現型決定によりさらに再分割することができる異種細胞混合物を分析するのに好適である。
【0103】
マウス造血系におけるmiR-223およびmiR-126活性の特性評価
一度、細胞系においてmiRNA活性を測定する際のリポーターBd.LVの信頼性を証明したら、本発明者らは一次造血細胞における前記miRNAの活性を精査するために動いた。この目的のために、本発明者らは、実験設定において広く入手可能であり、容易に操作でき、よく特性評価されているため、マウスモデルを利用した。実際、稀なHSPC集団中でmiRNA活性を定義することを目指す場合、表面マーカーによりよく特性評価されたマウス造血系が大いに有利である。本発明者らの実験手法は、系列マーカー陽性細胞を枯渇させることにより骨髄由来マウスHSPCを富化し、それらをレンチウイルスmiRNAリポーターベクターで形質導入し、これらの細胞を致死的に照射されたコンジェニックレシピエントマウスに移植することであった。次いで、マイクロRNA活性を長時間にわたって末梢血白血球中でモニターして、分化した細胞中でのそれらの活性を決定した。安定な生着に到達した後、マウスを安楽死させ、表面免疫型決定により定義された複数の骨髄集団中でmiRNA活性を決定した。このように、本発明者らは、これらのmiRNAが予め同定されたHSPC中で発現されるかどうかを評価することを望んだ。特に、本発明者らは、miR-126が多くの原始的HSC区分に存在するかどうかを決定することを望んだ。第1セットのマウスに、以前に記載されたリポーターBd.LVにより形質導入されたHSPCを移植した(図1を参照;Bd.LV-ctr、n=5匹の移植マウス;Bd.LV-223T、n=6匹のマウス;またはBd.LV-126T、n=4匹のマウス)。
【0104】
末梢血(PB)を移植の8週間後にサンプリングし、物理的パラメーターおよび表面マーカーに従って白血球集団を顆粒球(CD11b+、side scatterhi SSchi)、単球(CD11b+SSClo)、B細胞(CD19+)およびT細胞(CD11b-CD19-)に選別した(図3a)。FACSによりこれらの白血球サブセット内でGFP miRNAリポーターおよびNGFR正規化因子発現を定量した(図3b)。GFPはBd.LV-ctr-およびBd.LV-126T-形質導入HSPCに由来する全ての白血球サブセットにおいて同様に発現されたが、本発明者らは、特にPB骨髄細胞中でのGFPの強い下方調節を認めたが、Bd.LV-223T群内のリンパ球においては認めなかった。miR-223活性の定量は顆粒球および単球においてそれぞれ30倍および17倍を示したが、miR-126はPB白血球中では活性ではなかった(図3c)。異なるHSPCサブセット中でのmiR-223およびmiR-126プロフィールを特性評価するために、本発明者らは、Bd.LVリポーターマウスを犠牲にし、その骨髄を多色免疫表現型決定分析にかけて、異なる前駆細胞および幹細胞サブ集団を予め同定した。これを上記のマウスについて行ったが、脱安定化GFP変異体に基づいてより感受性の高いmiRNAリポーターを発現するHSPCを移植したマウスに対するその後の実験においても行った。このリポーターは、GFPにC末端に融合したプロリン-グルタミン酸-セリン-トレオニンに富む(PEST)配列を含む。PESTモチーフは素早いプロテアソーム分解およびタンパク質の迅速な代謝回転を媒介し、GFPの半減期を約26時間から4時間に短縮する(Kitseraら、2007)。この短いdGFPの半減期により、本発明者らは、おそらくHSCが前駆細胞に遷移する間に生じるmiRNA発現の変化をより正確に検出することができるようになった。標準的なGFPよりも低いdGFPシグナルを確実に決定するために、GFP遺伝子を含まないBd.LV-NGFRベクターを担持するマウス群を含有させることにより、それぞれ個々のサブ集団中の自己蛍光をGFP MFIから差し引いた。以下の図4におけるFACSプロットは、より感受性の高いBd.dGFPベクターを移植されたマウスのBMから得られたものである。しかしながら、標準的なGFPリポーターを担持するマウスにおけるmiRNA活性の決定は非常に類似する結果を与えたので、図3c中の抑制倍数を、行った2つの独立した実験に由来する合わせたデータ上で算出することができる(Bd-ctr、n=10;Bd-223T、n=9;Bd-126T、n=13匹のマウス)。
【0105】
マウスHSPCおよびその子孫におけるマイクロRNA活性のフットプリンティング
次いで、本発明者らは、再構成されたマウスから単離された複数の予め同定された造血サブ集団中でBdLVリポータータンパク質レベルを定量した。HSPC区分を、c-Kithi系列マーカー-/low免疫表現型を有する骨髄(BM)細胞と定義し、Sca-1、CD150、CD48およびCD45の発現に基づいて様々な自己再生能力および分化能力を有する画分に再分割した。注目すべきは、免疫表現型c-Kit+Sca-1+Lin-(KSL)CD150hiCD48-を有する5種の細胞のうちの3種が、単一細胞移植の際に長期的な複数系列増殖能力を有し、かくして、真正なHSCであることが報告されたことである(Kiel MJ., 2005)。さらに、文献(Pronk CJ., 2007)および本発明者ら自身の知見に基づいて、本発明者らは、顆粒球/単球前駆細胞(GMP)対巨核球および赤血球前駆細胞(EP)について富化されたサブセットにKit+Sca-Lineage-細胞を再分割し、miRNA発現を評価した。興味深いことに、miR-126、miR-130aおよびmiR-196bは、多くの原始的HSCについて富化された画分において最も高い活性を示し、この活性は分化の初期段階で失われた(図4)。重要なことに、miR-126、miR-130aおよびmiR-196bは、ある程度のmiR-126活性を再確立するようである最終的に分化した顆粒球を除いて、リンパ球および骨髄系列の分化した細胞において大部分は不活性である。miR-223は大部分のKSL細胞および全ての骨髄前駆細胞(GMP)において発現されたが、EPにおいては鋭く下方調節された。予想通り、miR-223は骨髄分化の間に進行的に上方調節されたが、BおよびTリンパ球はそれを回避した(図5a)。また、miR-17〜92クラスターのメンバー(miR-19、miR-93a、miR-17-5p)は、HSPC中での高度な発現をもたらした。しかしながら、それらの抑制活性は、さらなる分化の間に維持され、最終的に分化したB細胞および顆粒球においてのみ、ある程度まで低下した(図5a)。最終的に、let-7aは、真正のHSCを含む全ての造血細胞型において実質的な抑制活性を保持し、その遍在的発現パターンと一致していた。
【0106】
miR-126による条件的自殺からのHSCの保護
前記miRNA活性フットプリントは、免疫表現型に従う造血細胞集団の予備的単離に基づくものであった。機能的に確定した細胞サブセットにおいて選択されたmiRNAの活性を最終的に確立するために、本発明者らは、様々なmiRT配列により調節される単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)遺伝子を発現するレンチウイルスベクターに基づいて条件的自殺系を考案した(図6a)。TKは約35時間の半減期で非常に安定であるため、本発明者らは、dGFPのPESTドメインをTKのC末端に融合させることにより、TKタンパク質を脱安定化させた(本明細書ではdTKと呼ぶ)。HSPCを、示された自殺ベクターの1つまたはGFP対照ベクターで形質導入し、GCVの存在下または非存在下で、半固形培地中に播種した(図6b)。対照TKベクターで形質導入されたHSPCは、GCVの存在下ではコロニーを形成しなかった。miR-142T配列をdTK転写物に付加した場合、コロニー形成を完全にレスキューし、これはこのmiRNAの全造血発現と一致していた(Brown BD., 2006)。代わりに、miR-142Tは骨髄コロニーの増殖を少なくとも部分的に修復したが、赤血球コロニー数は有意に低下し(p<0.001)、対照TKで形質導入された細胞と統計的に異ならなかった。miR-126Tについては骨髄コロニーの部分的レスキューも得られたが、miR-223Tについて得られたものよりも低レベルであった。GCVは、miR-130aT群においては骨髄および赤血球コロニーの両方の増殖を完全に阻害したが、これは分化の初期段階でのmir-130aの鋭い下方調節と一致していた。
【0107】
次いで、本発明者らは、機能的に確定したHSCにおけるmiRNA活性を証明するためにin vivo自殺アッセイを開発した。TK/GCV自殺系は毒性的になるために細胞分裂を必要とする。TK形質導入細胞と非形質導入BM支持細胞とを同時移植するパイロット実験により、生着の最初の2週間以内に与えられた1週間のGCVはTKで形質導入された長期的に再増殖するHSCを効率的に排除することが示された(データは示さない)。次いで、本発明者らは、dTK-126TもしくはdTK-142TおよびGFPを発現するmiRNA調節性二方向自殺ベクター、またはdTKおよびΔNGFRを発現する対照二方向自殺ベクターでHSPCを形質導入した。次いで、対照またはmiRNA調節性自殺ベクターの1つで形質導入された細胞を、生着期の間にGCVを受けたか、または受けなかったコンジェニックマウスに同時移植した(図6c)。末梢血キメラ現象の長期分析により、多くのNGFR+細胞がGCV処理マウスにおいて効率的に排除されたが、GFP+細胞は相対数が増加して生存することが示された。これは、dTK-126TおよびdTK-142Tで形質導入された細胞の両方について、複数の系列(顆粒球、単球、BおよびTリンパ球)において、および7ヶ月を超える期間観察された。これらのデータは、miR-126およびmiR-142が両方とも、TKタンパク質発現およびGCVにより誘導される細胞死を防止するのに十分なレベルで長期的に増殖するHSC中で発現されることを立証している。
【0108】
遺伝子療法のためにmiR-126調節を活用する際の安全性
次いで、本発明者らは、上記のBdLV研究において用いられたのと同じプロモーターからd4GTP.126T転写物を発現するレンチウイルスベクターの生殖腺組込み物を担持するトランスジェニックマウス系(Tg.126Tマウス)を誘導した。若い成体のTg.126TマウスのLin-BM細胞のFACS分析により、移植されたマウスにおいて観察されたのと類似するmiR-126活性のパターンが示された(図7a)。これは、miR-126がHSC中で生理学的に発現されることを確認するものである。miR-126は、内皮細胞中で発現されることが知られており、発達中の機能喪失は血管新生の欠損に起因して胎児死亡をもたらした(Fish JE., 2008)。Tg.126Tマウスには全体的な表現型異常は存在しなかった。Tg.126マウスを交雑させた場合、その親のベクター要素の平均数を維持した正常なサイズの同腹子が得られた(図7b)。このデータは、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK)プロモーターからのmiR-126T配列の発現がマウスの発達を阻害しなかったことを示し、miR-126T発現がこれらの環境下で内皮細胞における天然miR-126標的の調節を阻害し得るという仮説に異議を唱えるものである。造血細胞におけるこの後者の問題をさらに排除するために、本発明者らは競合的再増殖実験を設定した。CD45.1+ HSPCを、致死量の放射線を照射したCD45.1+レシピエントに、Tg.126Tマウスに由来する等量のCD45.2+ HSPCと共に同時注入した。末梢血キメラ現象は安定であり、全ての主要な血液系列について約40〜50%のCD45.2+細胞(n=4)で少なくとも1年間(分析の最後の時点)維持された(図7c)。総合すれば、これらのデータは、miR-126が原始的なHSC中で発現され、バイオセンサー手法がmiRNA発現に基づいて単一細胞レベルで造血細胞を同定するための強力で非毒性的な手段を提供することを示している。
【0109】
ヒト造血細胞中での候補miRNA活性の特性評価
マウス造血系におけるmiR-223、miR-130aおよびmiR-126活性の本発明者らの特性評価は、分化した骨髄細胞およびリンパ系細胞中での治療的発現を可能にしながら、HSPC中でのトランスジーン毒性を制限するための有望な内因性調節因子として、これらのmiRNAを提唱した。本発明者らは次に、遺伝子療法の実際の標的であるヒト造血細胞中でのこれらのmiRNAの活性を調査しようとした。本発明者らは、ヒトCB CD34+細胞を、miR-126、miR-130a、miR-223のためのリポーターBd.LVで形質導入した(図8A)。細胞を、HSPCの短期的維持のための支援を提供するin vitro条件下で培養し、CD34/CD38発現に基づくサブ集団をフローサイトメトリーにより同定した。骨髄(CD13+)および赤血球(CD235+)の分化を、メチルセルロースアッセイを用いて評価した。miR-126、miR-130aおよびmiR-223は全て、CD34+ HSPC集団中でその対応するリポーター転写物を抑制した。分化の際に、miR-223は骨髄系列においては活性を維持したが、それは赤血球分化の間に低下した。対照的に、miR-126は骨髄分化の間にその活性を喪失したが、赤血球子孫中ではそれを維持した。これらの発現パターンを、条件的自殺アッセイにより機能的に検証した(図8b)。miR-130aは骨髄および赤血球系列の両方においてその活性を喪失した。それぞれの集団におけるmiRNA活性の定量(図8A)は、試験したmiRNAのうち、原始的HSPCについて富化されたCD34+CD38-CB画分中でmiR-126が最も強力なmiRNAであることを示していた。図8c/dは、miR-126TおよびmiR-130aT配列を組合わせることによるmiRT配列のさらなる最適化を示す。
【実施例2】
【0110】
HSPC中での強制的GALC発現
マウスHSPC(mHSPC)中でのGALC過剰発現の実行可能性を評価するために、本発明者らは、FVB/twi(GALC -/-)マウスからLin-細胞を単離した。mHSPCを、最適化されたサイトカイン混合物の存在下、MOI 100でGALC.LVを用いて形質導入した(Biffiら、2004)。形質導入後、細胞をin vitroで10〜14日間培養して、Q-PCRにより酵素活性およびベクターコピー数(VCN)を評価した。本発明者らは、GALCの発現レベルと、対照ベクターARSA.LVおよびIDUA.LVでmHSPCを形質導入することにより得られた他のリソソーム酵素アリールスルファターゼA(ARSA)およびイズロニダーゼ(IDUA)の過剰発現とを比較した。全てのベクターが、ヒトPGKプロモーターを含有する同じ発現カセットからトランスジーンを発現した。本発明者らの目的は野生型HSPC中の生理学的酵素レベルに対する形質導入された-/-HSPC中での酵素過剰発現を比較することであったので、ARSA KOマウスおよびIDUA KOマウスから得られたmHSPCを、それぞれARSA.LVおよびIDUA.LV形質導入のために用いた。mHSPCの形質導入は-/-細胞中でリソソーム酵素活性を再構成し、形質導入された-/-mHSPCの培養子孫中での野生型レベルに対して酵素過剰発現を誘導した(図9A)。しかしながら、GALC発現の増加(野生型の2倍以上)は、同様のVCNにも拘わらず、IDUA.LVおよびARSA.LV対照により得られたIDUAおよびARSAの増加(それぞれ、野生型の320倍および5.6倍)と比較して有意に低かった。
【0111】
正常なドナー(n.d.)から得られたCBからのCD34+選択を介して単離された、ヒトHSPC(hHSPC)に対して、同様の実験を行った。hHSPCを、以前に最適化された形質導入プロトコル105を用いて、MOI 100でGALC.LV、ARSA.LVおよびIDUA.LVを用いて形質導入した。mHSPCと同様、本発明者らは、形質導入細胞のin vitro培養の際に酵素活性再構成およびVCNを評価した。n.d.のCB(n=4)に由来するHSPCのGALC.LV形質導入は、IDUA.LV(n=3)およびARSA.LV(n=6)対照と比較して、培養細胞子孫中での酵素の過剰発現の制限を誘導した(図9B)。
【0112】
LV媒介性GALC発現時のGALC発現HSPCのin vitro機能の損傷
mHSPCコロニー形成能力に対する形質導入および酵素発現の効果を、CFCアッセイにより評価した。同数のGALC/GFP/ARSA.LVで形質導入されたmHSPCを、コロニーアッセイのために播種した。ARSAはHSPC機能に影響しないことが以前に示されていたので(Capontondoら、2007)、それを対照リソソーム酵素として選択した。12回の独立した実験において、GALC.LV形質導入-/-および+/+ mHSPCは、GFP.LVおよびARSA.LV形質導入細胞と比較して有意に少ない数のコロニーを生じた(GALC -/-細胞については図10A)。GALC.LVで形質導入されたmHSPCに由来するコロニーは、対照と比較して顕著に小さいサイズのものであった(図24B)。これらの結果は、LV形質導入時のGALC過剰発現が、mHSPCコロニー形成能力を損傷させることを示唆していた。GALC.LV形質導入時の赤血球と骨髄コロニーの相対比率は、対照と類似していた(示さず)が、これは、酵素発現が同程度に異なる造血系列を損傷させたことを示唆している。
【0113】
GALC.LVで形質導入されたmHSPCのコロニー形成能力の低下は、高度に形質導入されたGALCを過剰発現する造血前駆細胞の死の結果生じた可能性がある。高度に形質導入されたmHSPCの陰性選択の発生可能性を調査するために、本発明者らはQ-PCRによりコロニーのVCNを定量した。Q-PCRを、4個のコロニーの各プールから抽出されたDNAに対して行った(分析にとって十分な量の材料を得るためにプールを作製した)。GALC.LVで形質導入されたmHSPCから得られたコロニーは、対照と比較した場合、有意に少ないベクター含量を示したが(図10A)、これは、高度に形質導入された前駆細胞の陰性選択の発生を示唆している。
【0114】
これらのデータに従って、本発明者らは、機能的損傷およびin vitroでの選択が、形質導入の毒性効果またはベクター産生細胞により放出され、ベクターと共に同時精製された夾雑物の存在に起因するかどうかを識別することができなかった。GALC.LV産生の間に、293T細胞はプレートから剥離し、これは、GALC発現がこれらの細胞に対しても毒性的であることを示唆していることに言及しなければならない。この理由から、ベクター調製物への死んだ293T細胞に由来する毒性分子の組込みを排除することはできなかった。この問題に対処するために、本発明者らは、造血特異的マイクロRNA、GALCmir142T.LV 56により調節される対照ベクターを作製した。トランスジーンの下流に組込まれたマイクロRNA 142のための4個の標的配列により、293T LV産生細胞などの非造血細胞中でのGALC発現を損傷させることなく、mHSPCおよびその子孫における発現を抑制することができる。この技術は、マイクロRNA転写後調節に基づく:造血細胞によってのみ発現されるマイクロRNA 142は、トランスジーンの下流のその標的配列を認識し、転写物の翻訳およびトランスジーンの発現を阻害する。予想されたように、GALCmir142T.LVを用いるmHSPCの形質導入は、GALC活性の増加と関連しなかった(図10B)。さらに、GALCmir142T.LV(n=6)で形質導入されたmHSPCは、対照と比較して、影響を受けないコロニー形成能力およ同様のベクター含量を示し、かくして、以前に観察された損傷がGALC発現に依存することを確認している(図10A)。
【0115】
本発明者らは、ヒトHSPCにも対するGALC過剰発現の効果を調査した。hHSPCを、n.d. CBおよびBMならびに廃棄されるようにスケジュールされたGLD患者の採取されたBMから単離した。同数のhHSPCを、GALC.LVもしくはARSA.LVで形質導入するか、またはGFP.LV対照ベクターをCFCアッセイのために播種して、形質導入されたhHSPCのコロニー形成能力を評価した。マウス細胞の場合と同様、GALC.LVで形質導入されたn.d.およびGLD hHSPCは、コロニー形成能力の損傷を示した(図11A)。GALC.LVで形質導入されたhHSPCに由来するコロニーは、対照と比較した場合、有意に低いベクター含量、低下したサイズおよび保存された赤血球-骨髄比率を示し、これは再び、高度に形質導入された前駆細胞の陰性選択を示唆している(図11A)。またこの場合、対照ベクターGALCmir142T.LVを用いて、形質導入の亜特異的毒性効果を排除した。マウス細胞の場合と同様、GALCmir142T.LVで形質導入されたhHSPC(n=4)は、対照細胞において観察されたものと類似するGALC活性およびコロニー形成能力を示した(図11AおよびB)。
【0116】
全体として、これらのデータは、LV形質導入時の強制的GALC de novo発現は、マウスおよびヒトのHSPCの両方に対して有害な効果を示し、GALCを過剰発現する細胞の陰性選択および機能的損傷を誘導する。
【0117】
LV媒介性GALC発現時のHSPCのin vivo機能の損傷
本発明者らは、GALC.LV形質導入およびGALC de novo発現の際のm-およびhHSPCの再増殖能力を評価するためにin vivo実験を行った。in vivo試験を、mHSPCについてはtwiおよびFVB/twiマウス上で、hHSPCについてはRag2cマウス上で行った。
【0118】
本発明者らの初期実験を、方法の節に記載のように、GLDの重篤モデルであるtwiマウス上で行った。第1セットの実験を、twiマウスにおけるHCTのための条件を設定するように充てた。野生型ドナーからの総BM移植をこれらのマウスにおいて行ったところ、115により以前に報告されたように、最大で100日間までその寿命が有意に増加した。これらの予備実験により、最適な照射用量を定義することできた。twiマウスはCD45.2対立遺伝子を担持するため、CD45.1対立遺伝子を担持するドナーHSCの使用により、ドナー細胞の生着を評価することができた。本発明者らの目標はtwi HSCを形質導入することであったため、本発明者らはLin-HSPCの移植を設定して、総BM細胞の使用と比較して、形質導入および移植される細胞数を減少させようとした。野生型(+/+)マウスに由来するHSPCを、最適化されたサイトカイン混合物(Biffiら、2004)の存在下、MOI 100で、PGK_GFP.LV(GFP.LV)を用いて形質導入した(図12A)。形質導入後、細胞を、致死量の放射線を照射された8日齢のtwiマウスまたは+/-対照に移植した。対照群は、野生型BMまたはLin-細胞を移植されたtwiマウスも含んでいた。驚くべきことに、および対照動物と違って、HSPCを移植された-/-twiマウスは致死条件後に生存せず、かくして、これはLin-細胞のみがtwiマウスを再生できなかったことを示唆している(図12B)。
【0119】
かくして、本発明者らは、HSCを枯渇させた、形質導入されていないBM由来造血前駆細胞の同時移植により、GFP.LVで形質導入されたHSPCの生着を支援することを決定した。これらの細胞は、+/+マウスの総BMからのSca1+細胞の磁気的枯渇により得られたものである。興味深いことに、GFP.LVで形質導入された+/+ Lin-細胞および形質導入されていない+/+ Sca1-細胞を移植されたtwiマウスは、+/+総BM移植を用いて得られたものと類似する生存率に達した(図12B)。GFP.LVで形質導入されたHSPCの生着を、末梢血に対するフローサイトメトリーにより評価した。移植の5〜6週間後、細胞蛍光分析により、GFP+HSPC由来細胞の高い生着率が示された(図12C)。かくして、+/+ Sca1-前駆細胞の同時移植は、精製されたHSPCの生着欠損をレスキューし、総+/+BM移植の場合に得られたもの(Yeagerら、1993;Wuら、2000)と同様に寿命を延長し、twiマウスの表現型を改善することができた。
【0120】
一度、移植手順を+/+HSPCおよびGFP.LVを用いて最適化したら、GALC.LVで形質導入された-/-HSPCおよび+/+またはGALC.LVで形質導入された-/-Sca1細胞をtwiマウスに移植した。GALC.LVで形質導入された-/-HSPCおよび+/+非形質導入細胞を受けたtwiマウスは、+/+総BMまたは+/+HSPCおよびSca1前駆細胞を移植したマウスよりも有意に長く生存し、その表現型の改善およびより遅い疾患進行を示した(図12B)。このデータは、GALCを過剰発現するHSPCの移植が、従来のHSCTと比較して独特の治療的利益を提供することを示唆していた。しかしながら、本発明者らがQ-PCRによりこれらのマウスのBM中のGALC.LV形質導入細胞の存在を評価した時、本発明者らは、0.8〜1の低いベクターコピー数(VCN)を見出し、これは、低いVCNを有するGALC.LV形質導入細胞のみが生着することができたことを示唆している。
【0121】
にも拘わらず、共にGALC.LVで形質導入された-/-Lin-およびSca1-細胞を受けたtwiマウスは、致死的条件化後に死滅したか、または未処理のマウスと同様の寿命を有していた。これらの結果は、GALC.LVで形質導入された前駆細胞がHSPC生着を支援することができず、生着の失敗と造血の自己再構成をもたらすことを示唆していた。
【0122】
本発明者らは、重篤度がわずかに低いモデルを利用するために、GLDの通常のtwiモデルの代わりに、FVB/twiマウスを使用することを決定した:以前の実験により、Sca1支援細胞を必要とすることなくLin-細胞移植の成功がこのモデルにおいて可能であることが示された。さらに、FVB/twiマウスはより多くの同腹子を有し、かくして、本発明者らはmHSPCを単離するためにより多数の-/-マウスを得ることができた。
【0123】
形質導入されたmHSPCを、致死量の放射線を照射した8日齢のFVB/twi -/-およびヘテロ接合性(+/-)レシピエントに移植した(図13)。生物学的変動を減少させるために、本発明者らは、-/-および+/-同腹子を移植した。対照群のマウスにはGFP.LVで形質導入された+/+細胞を移植した。この対照群について、形質導入効率を、in vitro培養物上で形質導入の7日後に細胞蛍光分析を行うことにより評価したが、形質導入細胞の生着をHSCTの6週間後に末梢血上で細胞蛍光分析を行うことにより評価した。形質導入効率は非常に高く、GFP+細胞の75%〜93%の範囲であった。GFPを移植された動物は全て、移植細胞の高い生着率(63%〜85%)を示し、照射対照は全て(HSCTを受けなかった致死量の放射線を照射されたマウス)は、条件化後3週間以内に死滅し、かくして、HSCT条件の正確な設定が確認された。GFP.LVで形質導入された+/+ mHSPCを受ける-/-マウスは、非移植対照マウスと比較して、致死的条件化後に生存日数の延長を達成した。未処理およびGFPを移植されたFVB/twiマウスの生存日数は、twiマウスのそれぞれの群において観察されたものに対してより長く、かくして、表現型の重篤度に対する遺伝的背景の影響が確認された。また、形質導入されたmHSPCの生着を、犠牲時にBM移植マウスから抽出されたDNA上でQ-PCRにより評価した。ゲノムあたりのVCNとして測定された、GFP.LVで形質導入されたmHSPCの有意な生着が観察された(表2)。驚くべきことに、GALC.LVで形質導入された-/-または+/+ mHSPCを移植した-/-および+/-マウスは共に、致死的照射に対して生存しなかった(照射対照のものと同様、21日以内に死滅)(図13およびデータは示さない)。Q-PCRは、そのBM中で非常に低いものから検出不可能なVCNを示した(表2)。これらの結果は、GALCで形質導入されたmHSPCの機能的損傷を示し、致死的条件化宿主を再生させることができなくなった。
【0124】
GALCを発現するマウスおよびヒトHSPCのアポトーシス
GALC.LVで形質導入されたHSPCの機能的損傷を検出したら、本発明者らは、これがde novo GALC発現により媒介される形質導入細胞のアポトーシスに起因するものであり得るかどうかを評価した。アポトーシスの発生を、トランスジーン発現がおそらくAnnexin V染色およびTUNELアッセイにより安定状態(図14B中のGFP発現を参照)に達する時、2つの異なる時点、形質導入の2および5日後に評価した。1番目の技術は初期のアポトーシス細胞を標識し、2番目の技術は後期のアポトーシス細胞を標識するものである。m-およびhHSPCを、GALC.LVおよび対照GFP/ARSA.LVで形質導入した。形質導入および洗浄の後、細胞をTUNELアッセイのためにマトリゲル被覆カバースリップ上に塗布するか、または通常のプレート中で培養し、Annexin VおよびTUNELについて染色した。共焦点顕微鏡観察において、大多数のGALC.LVで形質導入されたmHSPCがTUNEL陽性であり、凝縮クロマチンを含む核の拡大を示したが、これは、両時点でのアポトーシスの幅広い発生を証明している(図14A-B)。対照的に、ARSA/GFP.LVで形質導入された細胞は、多くはTUNEL陰性であった。Annexin V染色はアポトーシスの発生を確認したが、これは、対照と比較して、GALCで形質導入されたm-およびhHSPCの間でより多くのアポトーシス細胞を示している(図14C)。
【0125】
GALC発現毒性に対する感受性は分化および細胞系列に依存する
マクロファージおよびミクログリアは、LSDのためのHSPC遺伝子療法手法における、神経系などの罹患組織中で酵素活性を再構成するHSPCエフェクター子孫である。本発明者らは、単球原型細胞系(U937)、一次ヒト単球、一次マウスマクロファージおよびミクログリアは、LV媒介性遺伝子導入の際にGALC発現毒性を経験し得るかどうかを評価した。
【0126】
さらに、造血分化の間のGALC誘導性アポトーシスの特異性をさらに分析するために、本発明者らは、TおよびBリンパ球を試験した。GALCの免疫検出を可能にし、形質導入効率を見積もるために、いくつかの実験において、本発明者らは、遺伝子がヒトインフルエンザウイルスのヘマグルチニンタンパク質に由来するHAペプチドをコードする配列と読み枠を合わせて融合された、C末端タグ付トランスジーンを用いた。HAタグ付酵素は、非改変酵素のものと匹敵する比活性を有し、リソソーム区分に適切に分類された(データは示さない)。形質導入後、本発明者らは、TUNELアッセイおよびGALC活性により様々な時点でアポトーシスの発生を評価した。予想通り、分析した全ての細胞型は様々なレベルの基礎的GALC活性を示した(図17)。
【0127】
腹膜細胞採取の接着画分としてマウスマクロファージを取得した。ミクログリアの一次培養物を、確立されたプロトコル(Armstrong RC., 1998; Grittiら、1996)により、+/+および-/-FVB/twiマウスの脳から単離した。さらに、本発明者らは、一次単球およびU937単球細胞系の両方を試験した。ヒト単球を、CD14単球マーカーの陽性選択によりPBMCから単離した。GFP.LVを用いて形質導入条件を設定し、細胞蛍光分析(可能な場合)または共焦点顕微鏡観察により形質導入効率を分析した。一度、形質導入プロトコルが最適化されたら、ミクログリアおよびマクロファージをGALC/LV/GALC-HA.LVおよび対照ベクターを用いて、それぞれMOI 50および200で効率的に形質導入し、基礎レベル以上にGALCを発現させた(図18)。高い発現レベル(野生型レベルに対して最大40倍)が達成された場合でも、TUNELアッセイは、全ての試験した細胞において、GALC.LV形質導入およびGALC過剰発現後に低頻度のアポトーシスまたはアポトーシスがないことを示した(図18)。+/+と-/-ミクログリアの間には差異は観察されなかった(図18および他のデータは示さない)。これらの結果は、HSC遺伝子療法エフェクター細胞がGALC毒性に対して感受性ではないことを示し、かくして、GLDのためのHSC遺伝子療法戦略を開発するために、HSPC中ではGALC発現を回避するべきであるが、罹患組織に酵素を標的化することができる分化した造血骨髄細胞中ではそれを促進するべきであることを示唆している。
【0128】
ヒトTおよびBリンパ球を、それぞれ、総PBMCのPHA刺激およびEBV形質転換の際に取得した。単球およびマクロファージを用いる実験と同様、GFP.LVおよびフローサイトメトリーを用いることにより形質導入を最適化した。Bリンパ球をGALC.LV/GALC-HA.LVおよび対照ベクターを用いてMOI 100で効率的に形質導入したが、Tリンパ球にはMOI 100での2個のヒットを用いた。形質導入時のGALC活性の持続的増加にも拘わらず、全ての実験時点でアポトーシスは検出されず(図19)、かくして、分化した造血細胞がGALC過剰発現に対して検出可能なほどに感受性ではないという意見をさらに支持している。
【0129】
miRNA126によるGALC発現に対するin vitroでの調節
HSPC中でのmiRNA126に調節されるGALC発現の効果を評価するために、本発明者らは、GALC.miR126T.LVまたはGFP.miR126T.LVもしくはGALC.LVを用いてMOI 100でmHSPCを形質導入した。洗浄後、細胞をCFCアッセイのために播種するか、またはGALC活性アッセイおよびQ-PCR分析のために2週間in vitroで培養した。GALC.miR126T.LVを用いる形質導入により、野生型レベルに対して最大2倍まで、分化したmHSPC子孫中で超生理学的レベルでGALC活性を再構成することができた(図35B)。重要なことに、GALC.miR126T.LVで形質導入されたmHSPCから得られたコロニー数は対照と同様であり、GALC.LVコロニーに対してほぼ2倍であり(図21C)、かくして、miRNA126によるGALC発現の調節により、形質導入されたmHSPCのコロニー形成能力が保存されることを示唆している。これらの有望な結果により、本発明者らは、影響されないコロニー形成能力が、GALC.miR126T.LVで形質導入されたmHSPCのアポトーシスからのレスキューに起因するかどうかを評価するよう促された。形質導入後、mHSPCをマトリゲル被覆カバースリップ上に播種し、培養の2および5日後にTUNELアッセイを実施した。共焦点顕微鏡観察により、アポトーシスのレベルを評価した。GALC.miR126T,LVで形質導入された細胞に対するTUNELアッセイにより、対照LVで形質導入された細胞中で観察されたものと同様、両時点で少しのアポトーシスまたはアポトーシスがないことが示された(2および5日目で、それぞれ、1%1および3%2)(図22A-B)。このデータは、miRNA126によるGALC発現の抑制がGALC誘導性アポトーシスからmHSPCをレスキューすることができることを示していた。
【0130】
miRNA126によるGALC発現に対するin vivoでの調節
mHSPC再増殖能力に対するmiRNA126調節性GALC発現の効果を、+/- FVB/twiマウスにおいて評価した。致死量の放射線を照射された8日齢のマウスに、GALC.miR126T.LVで形質導入された-/- mHSPCまたたはPGK GALC.LVで形質導入された細胞を移植し、生存日数を短期間および長期間の両方で評価した。CD11b_GALC.LVについて観察されたものと同様、GALC.miR126T.LVで形質導入されたmHSPCを移植された+/- FVB/twiマウスは、致死的条件化後に生存しなかったPGK_GALC.LVを移植されたマウスと違って、死亡からレスキューされ、長期間(HSCT後に3ヶ月以上)生存した。GALC.miR126T.LVで形質導入されたmHSPCを移植されたマウスを80日齢で安楽死させ、Q-PCR分析をBM上で行った場合、本発明者らは、平均5のVCNを見出し、かくして、HCT後に長期間、BM中に形質導入細胞が存在することが確認された。
【0131】
全体として、CD11b_GALC.LVで形質導入された細胞について観察された結果と共に、これらの結果は、本発明者らの改善された調節性遺伝子療法戦略による、GALC欠損のレスキューの成功およびHSPC中でのde novo GALC発現からの保護を示している。
【0132】
強制的GALC発現はHSPCに対して毒性的であるが、分化した造血細胞に対しては毒性的ではない
遺伝子療法のモデルを開発するために、本発明者らは、野生型および5%未満の残留酵素活性(Trs)45をもたらす点突然変異を担持するGLDマウスに由来するHSPCを、GALCまたはGFPを発現するレンチウイルスベクターを用いて形質導入した(図23A)。GALCベクターを用いる形質導入は、GLD細胞の培養子孫においてGALC活性を再構成させ、GFPで形質導入された野生型細胞と比較して約2倍の過剰発現をもたらした(図23B)。同様の発現レベルが、野生型マウスHSPCならびに正常なCBもしくはBMに由来するヒトCD34+ HSPCの形質導入時に観察された(図23B)。予想外なことに、強制的GALC発現は、GFPで形質導入された細胞と比較して、マウスおよびヒトのHSPCの両方のコロニー形成活性を損傷させた(図23Dおよびデータは示さない)。形質導入の2日後に行ったTUNELアッセイにより、GFPで形質導入されたHSPCではなく、GALCで形質導入されたHSPCの多くがTUNEL陽性であり、凝縮クロマチンを含む核の拡大を示すことが示された(図23EおよびF)。これらの知見は、GALCで形質導入されたHSPCのコロニー形成能力損傷が、アネキシンV染色(示さず)によっても確認されるように、アポトーシスの誘導に起因するものであることを示唆している。miR-142に調節されるGALCをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたHSPCは正常なコロニー形成活性およびアポトーシスの非存在を示したため、HSPCの機能的損傷は、強制的/de novoでのGALC発現により直接引き起こされたものであり、ベクター調製物に関連する毒性によって引き起こされるものではなかった。実際、142T配列は、造血細胞中ではGALC酵素発現を抑制したが、LV産生細胞33中では抑制しなかった(図23B)。GALCで形質導入されたマウスHSPCは致死的照射からTrsマウスをレスキューすることができなかったため、強制的/de novo GALC発現は、長期的に生着する細胞に対しても毒性的であった(図24A)。
【0133】
HSC移植の際に、マクロファージおよびミクログリアは、罹患組織中でGALC活性を再構成するのを担うエフェクター子孫である。強制的/de novo GALC発現による毒性も罹患した分化細胞に影響したかどうかを試験するために、本発明者らは、ヒト一次単球、TおよびBリンパ球、ならびにマウスミクログリアを、GALC-ベクターまたは対照ベクターで形質導入した(図24B)。効率的な形質導入およびGALC過剰発現が全ての細胞型において達成されたが、TUNELアッセイは培養物中で低いアポトーシスまたはアポトーシスがないことを示した(図24BおよびC)。かくして、GALC発現に対する感受性はHSPCの独特の特徴であり、成熟した造血細胞中では観察されなかった。
【0134】
miR-126調節はGALC発現毒性からHSPCをレスキューし、GLDの遺伝子療法を可能にする
HSPC中でのde novo GALC発現の選択的毒性は、GLDの遺伝子療法の成功のためには、HSPC中でのトランスジーン発現を厳密に調節する必要があることを強調している。かくして、本発明者らは、本発明者らの新規miR-126に基づく調節系の効果を試験し、それと、分化したHSPC子孫にGALC発現を標的化する骨髄特異的CD11bプロモーターに基づく転写戦略とを比較した。両戦略ともGALC誘導性毒性から形質転換されたHSPCをレスキューした(図23B-Eを参照)。しかしながら、再構成されたGALC活性は、同様のベクターコピー数に形質導入された培養物を比較した場合でも、CD11b-GALC形質導入細胞よりもGALC-126Tレンチベクター(GALC発現がPGKプロモーターにより駆動される)で形質導入された細胞の子孫において実質的に高かった(野生型レベルの最大2倍)(図23BおよびC)。本発明者らはまた、GALC.126TレンチウイルスベクターがGALC毒性からヒトHSPCを効率的に保護することを検証した(図23CおよびD)。成熟した造血細胞中での超生理学的酵素活性から得られる同様の利益を考慮して、本発明者らは、GLD療法のin vivo試験のためにmiRNA調節性ベクターを選択した。
【0135】
Trsマウスに由来するHSPCを、GALC-126Tレンチウイルスベクターで形質導入し、新生Trsマウス中に移植した。移植されたマウスはうまく生着し(図24A)、未処理のTrsマウス(p<0.0001)に関してだけでなく、野生型GFPで形質導入されたHSPC(p=0.002;図24AおよびD)を移植されたマウスに関しても有意に長い生存日数を示した。さらに、本発明者らがBM中で測定されたベクターコピー数に従って遺伝子療法で治療されたマウスを階層化した場合、最も高いベクター含量を有する動物が有意に長い生存日数を示し(図6E)、これは、造血細胞中での超生理学的酵素発現がHSC移植の治療効果を増加させることを強く示唆している。実際、罹患した脳への機能的GALC酵素の効率的送達および欠損活性の再構成が、遺伝子療法により治療されたTrsマウスの脳において観察された(図24F-I)。治療されたマウスの中枢神経系において、GALC活性がIba+、CD45+浸潤造血細胞内、およびIba-、CD45-非造血細胞内の両方で検出された(図24F-I)が、これは、移植され、形質導入されたHSPCの子孫による酵素分泌におそらく起因する常在細胞の交叉補正を証明している。重要なことに、酵素活性の再構成および生存日数の増加は、歩行能力の保存および痙攣の減少(GLDに関連する意図的な震え)と共に、治療されていない罹患対照と比較して治療されたマウスの有意に改善された表現型と関連していた。
【0136】
考察
造血系におけるmiRNA発現の大規模プロファイリング
本研究において用いられたmiRNAリポーターベクターは、miRNA発現レベルにのみ依存するよりもむしろ、miRNA生物活性を測定する機会を提供し、かくして、生物学的に意味のある、miRNA機能の定量的読み出しを提供する。Brownらは、miRNA標的に対する有意な抑制活性を生じさせるためには、miRNA発現の閾値レベルに到達しなければならず、それは細胞内で利用可能な制限的RNAi機構の結果であり得ると提唱している(Brownら、2007)。小分子RNAが、制限されたRNAiエフェクター複合体について競合する場合、miRNAの活性RISCへの組込みを確保するためには十分に高レベルの発現が必要であり得る。かくして、非常に低レベルで発現されるこれらのmiRNA種は、機能的RISCの一部ではないため、ほとんど活性を有さないか、または全く有さないかもしれない。miRNAプロファイリング試験は、miRNA発現における相対的差異のみを考慮することが多く、かくして、統計学的に有意な差異を示唆し得るが、しかしながら遺伝子調節とは無関係であり得る。ゲノム規模でのmiRNA発現分析の幅(例えば、マイクロアレイもしくは大規模配列決定による)と、miRNAリポーターBd.LV手法との組合せは、マイクロRNAの研究に別の次元を加える。それは示差的miRNA発現の生物学的意味を厳密に検証することを可能にし、それを用いて、複数の細胞集団にわたって、単一細胞分解と共に、および生細胞において、選択されたmiRNAの発現を縦方向に研究することができる。本発明者らはこの手法を用いて、HSCのような稀で、入手しにくい細胞集団における選択されたmiRNAの発現を研究した。本発明者らのmiRNAリポーターベクター研究は、文献に記載されたmiR-223およびmiR-126発現プロフィールに関するデータを確認するだけでなく、高度に純粋なHSPCサブ集団およびその子孫におけるこれらのmiRNAの活性に関するさらなる情報を付加した。miR-223はマウスおよびヒトの骨髄系列において豊富に発現されると以前に記載されている(Chenら、2004;Faziら、2005;Rosaら、2007)。実際、本発明者らのリポーターベクターのデータは、顆粒球における最も高いmiR-223活性を見出した。さらに、miR-223活性はまた
、単球およびHSPCの階層、特に、顆粒球-単球系列の前駆細胞においても示された。本発明者らのデータは、少なくともいくつかの多能性造血細胞が、マウスおよびヒトの両方において、miR-223を発現することを示唆している。1つの可能性は、これらの細胞が顆粒球-単球の運命に向けて準備されているということである。本発明者らの二方向リポーターベクターにより、miR-223発現に従ってこれらのHSPC集団を分画し、その分化能力を探査することができる。これらの研究は、表面マーカーにのみ依存せずに骨髄前駆細胞を予め同定し、おそらく系列コミットメントの最も早い段階を調査するための新規方法を提供することができる。
【0137】
造血系におけるmiR-126の発現は、今まであまり特性評価されていなかった。幅広く大規模な配列決定に基づくmiRNAプロファイリング研究は、それをCD34+ HSPCに広く割り当てた。本発明者らはここで、miR-126がマウスおよびヒトHSPCにおいて、特に、多くの原始的HSCについて富化されたサブセット内で活性であることを示す。分化の初期段階の間に、miR-126活性は進行的に低下する。miR-126のヒトHSCへの結合を、UHN、Torontoの本発明者らの共同研究者(Lechmanら、2008、ASH Abstract)により実施されたNOD/SCIDマウスから新鮮に単離されたBdLV.126Tで形質導入されたCB HSPCの分析によりさらに確認する。本発明者らのデータは、多くの下流の系列におけるサイレンシングと共に、miR-126の幹細胞/初期前駆細胞特異的発現パターンを支持している。
【0138】
興味深いことに、「コア結合因子」(CBF)中の突然変異を特徴とする急性骨髄性白血病(AML)の亜群は、高レベルのmiR-126 121を発現する。著者らは、polo様キナーゼを同定した(miR-126の検証された標的としてのPLK-2)。PLK-2は細胞周期の調節因子として認識されており、血液悪性腫瘍における腫瘍抑制遺伝子として作用し得る。miR-126とHSCとの堅い結合を考慮して、本発明者らは、UHN、TorontoのJohn Dick氏のグループと協力して、AMLの発達階層の頂点に立つ稀なサブ集団であり、化学療法耐性および再発の原因であると考えられる(Barabeら、2007;Kennedyら、2007)、白血病幹細胞(LSC)中でのmiR-126の活性を研究している。予備的結果は、AMLサンプル、特に、CBF-AML以外の亜群に属するものが、miR-126発現の勾配を示し、LSC富化CD34+38-画分において最も高く、非生着画分において低いことを示唆している。miR-126活性のこのパターンは、免疫不全NOD/SCIDマウスへのLSCの移植の際に維持される。かくして、レンチウイルスリポーターBd.LVにより可視化されるmiR-126活性は、白血病AML幹細胞のための新しい生物マーカーおよび潜在的な治療標的として役立ち得る(Lechmanら、2008、ASH Abstract)。
【0139】
造血系以外では、miR-126は内皮細胞における血管新生シグナリングの正の調節因子として広く記載されている。血管新生は、元々存在する血管の増殖を介する新しい血管の形成を説明するものである。血管新生を促進するシグナルとしては、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)およびホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)カスケードを活性化し、内皮細胞の運動および増殖を調節し、その後の血管出芽を調節する、血管内皮増殖因子(VEGF)および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が挙げられる。miR-126は血管新生プロセスに関与する2個の検証された標的、Sprouty関連EVH1ドメイン含有タンパク質(Spred1)およびPI3Kの調節サブユニットを有し、それらは両方ともVEGF/FGFシグナリングの負の調節因子である。miR-126を欠く内皮細胞は、血管新生シグナルに応答することができない。ゼブラフィッシュにおけるmiR-126のノックダウンは、胚発生の間の血管の完全性の喪失および出血をもたらすが(Fishら、2008)、マウスにおけるmiR-126の欠失は、血管の完全性の喪失および内皮細胞増殖、移動および血管新生の欠陥に起因して、漏れやすい血管、出血、および部分的胚致死性を引き起こす(Wangら、2008)。
【0140】
まとめると、miR-126は血管新生内皮細胞ならびに造血幹細胞およびその直近の子孫において生物学的に関連するレベルで発現される。興味深いことに、miR-126の発現は、内皮細胞とHSCが共通して有する別の因子である。事実、胚発生の間に、卵黄嚢における内皮細胞と造血細胞(赤血球)の同時出現、ならびに大動脈-性腺-中腎領域(AGM)におけるHSCと内皮細胞の連続的出現は、いわゆる「血管芽細胞」集団から生じる、これらの2つの系列の共通の起源を強調している。驚くべきことではないが、HSCならびに転写因子ならびにTie2受容体、Sca-1、VEGFR-(Flt-1)、VEGFR-(Flk-1)およびCD31などの膜受容体中で上昇した血管内皮中で広く発現されると元々考えられた多くの遺伝子一覧が存在する。
【0141】
発生を介する、および成体骨髄における、微小血管とHSCとの機能的および解剖学的関連を考慮すれば、miR-126は造血ニッチの恒常性に寄与し、その内皮成分とHSC成分の両方の増殖を調節することができる。
【0142】
miRNA機能によるmiRNA調節性LVの阻害
miRNA調節の活用に関する1つの関心は、miRNA標的配列を含有する転写物を過剰発現することにより天然miRNA標的の調節を阻害する可能性である。マイクロRNAに調節されるLVの生態および安全性を理解するために、本発明者らは、miRNAの活性を飽和させるための用量要件を定量した(Gentnerら、2009)。miRNA標的配列を含有する大量の転写物で細胞をチャレンジする際の感受性リポーターおよび天然miRNA標的の調節の喪失を測定して、本発明者らは、生理学的miRNA調節を阻害する閾値が、一般的には高く、強力なウイルスプロモーターからの発現を駆動する場合にのみ到達することができることを見出した。ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターなどの中程度のプロモーターから発現されたmiRNA標的配列は、高いベクターコピー数(最大50個の組込み物)でも、miRNA活性を飽和させなかった。これは、miRNAの調節を、中程度のプロモーターおよび細胞あたり限られた数の組込み物からmiRNA調節性転写物を発現させる場合にHSC遺伝子療法に安全に活用することができることを示唆していた。しかしながら、本発明者らは、miRNA活性を意図的に阻害するためにレンチウイルスベクターを遺伝子操作し、かくして、miRNA機能を特性評価するための道具として用いることができることを見出した。
【0143】
強力なプロモーターからmiRNA標的配列を過剰発現させた場合、本発明者らは、miRNA活性を飽和させ、そのmiRNA 126の天然の標的の調節の喪失をもたらすことができることを証明した。さらに、本発明者らは、本発明者らの標的配列の設計を変化させることにより、飽和を助けることができることを見出した。本論文に記載されたものなどの本発明者らの遺伝子調節性ベクターについて、本発明者らは、siRNAの作用様式と同様(Brownら、2007)、主にmRNA転写物の分解をもたらす完全に相補的なmiRNA結合部位を活用した(図2cを参照)。このプロセスは速い反応速度で起こるため(Haleyら、2004)、miRNA-RISC複合体は、実際には高い回転率を有する酵素のように働き、それを飽和させることは本質的に困難である。他方、miRNA標的配列中にmiRNAのヌクレオチド9と11の間に不一致を導入した場合、転写物の分解は弱まり(57)、miRISC/mRNA複合体を、動物細胞中の天然miRNAによっても主に用いられる「翻訳抑制」経路に再指向させる。翻訳抑制は分解よりも遅い速度で起こるようであるため、本発明者らは、不完全な標的が、完全に相補的な標的に対してmiRNA活性をより効率的に競合的に遮断することを示した(Gentnerら、2009)。重要なことに、レンチウイルスベクターに基づく技術により、ゲノム中へのmiRNAノックダウンのために設計されたそのような発現カセットの安定な組込みが可能になり、かくして、それはmiRNA活性を安定に阻害することができるプラットフォームである。本発明者らはこの技術を上手く活用して、miR-223の安定なノックダウンを取得した。高いベクターコピー数でmiR-223ノックダウンベクターで形質導入されたBM細胞をマウスに移植することにより、骨髄細胞の増殖が得られるが、これは、miR-223が骨髄造血の負の調節因子として顆粒球・単球前駆細胞に対して作用することを示唆している。さらに、本発明者らは、miR-223ノックダウンベクターを含有するBMで再構成されたマウスにおいて炎症性肺病変を発見したが、これは、炎症性骨髄細胞の調節におけるmiR-223のさらなる機能を示唆している(Gentnerら、2009)。驚くべきことに、これらのマウスは、最近記載されたmiR
-223ノックアウトマウス系(Johnnidisら、2008)を表現型模写した。遺伝子ノックアウトとは別に、miRNA機能喪失試験は今まで、「antagomir」(Krutzfeldtら、2005)と呼ばれる化学的に改変されたmiRNAアンチセンス分子の一過的トランスフェクションに限られていた。効率的であるが、それらの使用は、容易にトランスフェクトすることができる細胞に限られ、多くの一次細胞の場合は異なる。さらに、ノックダウンは一過的であり、かくして、遺伝子モデル系には容易に適用できない。本発明者らは、安定なmiRNAノックダウンを媒介するLVに関する広い適用を想定している。それらはmiRNAの生理学的役割を調査するための重要な道具を構成するであろう。
【0144】
造血幹細胞遺伝子療法へのマイクロRNA調節性ベクターの適用
本研究で本発明者らが記載するリポーター遺伝子発現のパターンはまた、遺伝子療法に対する関連的影響を持つ。多くの臨床遺伝子療法構築物は、標的細胞型中でのトランスジーンの強固な発現を保証するが、的外れの発現をももたらす遍在的に発現するプロモーターを含む。この異所性発現は、毒性、遺伝子改変細胞の対抗選択、トランスジーン産物に対する免疫応答の誘発、またはさらには癌性形質転換をもたらし得る(Weilら、1997; Ottら、2006; Brownら、2006; Brownら、2007; Woodsら、2006)。
【0145】
HSCに送達される治療的トランスジーンへのmiR-223標的配列の付加は、顆粒球単球前駆細胞および少なくともHSCのサブ画分などの骨髄子孫における発現を防止するであろう。重要なことに、この戦略はリンパ球および赤血球系列における完全な治療的発現をもたらすであろう。
【0146】
骨髄およびリンパ球系列の分化した子孫ではなく、HSPCにおいて強く発現されるmiR-126の同定により、疾患を有する子孫における発現および治療効果を維持しながら、感受性幹細胞集団における潜在的に毒性的なトランスジーンの発現を防止することができる。
【0147】
GALC de novo発現の毒性
LSD患者(Rohrbachら、2007; Bradyら、2004)および動物モデル(Biffiら、2006; Sanoら、2005; Hoflingら、2004; Sandsら、1997)における酵素置換および遺伝子療法適用は、一般的には、リソソーム酵素投与の毒性の欠如および正常レベルを超える発現を示した。異染性白質ジストロフィー(MLD)の場合、スルファチド代謝におけるGALCの上流の工程を触媒するARSAのLV媒介性過剰発現の安全性が、mHSPC、hHSPCおよびトランスジェニックマウスにおいて証明され(Biffiら、2004;Capontondoら、2007)、この疾患のためのHSPC遺伝子療法の臨床試験を促進している。ここで、本発明者らは、LV媒介性GALC遺伝子導入および発現後のマウスおよびヒトHSPCの明らかな毒性ならびにin vitroおよびin vivoでの機能的損傷に関する予想外の知見を報告する。GALC.LVで形質導入されたマウスHSPCは、コロニー形成能力の損傷を示し、骨髄破壊的移植レシピエントに生着することができず、長期的に再増殖することができなかった。これは、高度に形質導入されたHSPCの陰性選択およびアポトーシスと関連していた。GALC発現がマイクロRNAにより調節される対照ベクター(Mechtcheriakovaら、2007)(造血系列細胞中でのみ発現される) (Brownら、2006)で形質導入された、マウスおよびヒトHSPCにおいて観察されたアポトーシスの欠如および機能的損傷により、形質導入細胞の死の決定における発現されたGALCの独特の役割が確認された。
【0148】
分化した細胞はGALC関連毒性に対する感受性が低い
本発明者らは、造血系列の分化した細胞(リンパ球、単球、マクロファージおよびミクログリア)および他の系列に由来する細胞(オリゴデンドロサイト、ならびに神経前駆細胞)(Grittiら、私信)が、LV媒介性GALC過剰発現によって影響されないことに気付いた。従って、HSPCは細胞生存のGALC媒介性およびスフィンゴ脂質媒介性制御に対する独特の感受性を有するようであり、それは成熟した骨髄、TおよびB細胞への分化の間に見かけ上失われ、造血系列に制限される。これに関する可能な説明は、ミクログリアまたはオリゴデンドロサイトなどの他の細胞型と比較して、HSPC中で検出される基礎的GALC活性が非常に低いことである。さらに、スフィンゴ脂質代謝の役割と、CerならびにSoおよびS1Pなどの誘導分子の内容における変化の結果は、細胞型および分化段階に応じて変化し得る。例えば、オリゴデンドロサイト中での細胞内Cer蓄積の効果は、深く研究されたが、その知見は矛盾している。最近の研究により、スフィンゴミエリン分解からのCer産生を担う酸スフィンゴミエリナーゼの誘導は、Cerの蓄積およびアポトーシスの誘導をもたらした(Chudakovaら、2008)。酸化ストレスによるか、またはアルツハイマー病におけるアミロイド-βペプチドの蓄積により誘導されるオリゴデンドロサイトの細胞死に同じ経路が関与するようである(Janaら、2007;Leeら、2004)。しかしながら、成熟オリゴデンドロサイトはまた、Cerの蓄積を誘導するいくつかの前アポトーシス刺激に対して耐性であるとも記載されている。同様に、前アポトーシスTNF刺激に対する示差的応答が、高レベルのアポトーシスが観察されたオリゴデンドロサイト前駆体において、およびアポトーシス刺激に対して耐性であるようである成熟オリゴデンドロサイトにおいて観察された(Scurlockら、1999)。成熟オリゴデンドロサイトはまた、IL-1投与により誘導されるアポトーシスに対しても耐性である(Brogiら、1997)。これは、細胞内Cerの増加が、その特定の細胞型において、およびその特定の分化段階で活性化される経路に応じて、異なる方法で管理されることを示唆している。この仮説を支持して、神経組織における細胞内Cerの増加が、酸セラミダーゼの高い活性により管理されることが報告された(Huangら、2004)。この酵素は、CerからSoへの分解を触媒し、次いで、S1Pにリン酸化される。S1PはCerにより誘導されるアポトーシスから細胞をレスキューし(Betitoら、2006)、神経前駆細胞中での増殖を誘導する(Haradaら、2004)。同様の機構が、GALC過剰発現に関連するアポトーシスに対するオリゴデンドロサイトの感受性の低下の原因となると仮定することができる。スフィンゴ脂質代謝経路はまた、オリゴデンドロサイト中で非常に活発であり、ミエリン糖スフィンゴ脂質(GalCerおよびスルファチド)を産生するためのミエリン化に関与する。さらに、これらの分子は、グリコシナプスを形成する炭水化物間相互作用に関与する(概説については、Boggsら、2008を参照されたい)。
【0149】
単球およびマクロファージにおいて観察されるGALCのde novo発現により誘導されるアポトーシスに対する感受性の低下を、セラミダーゼの活性およびその分泌作用の両方によって説明することができる。報告は、内皮細胞および免疫系の細胞中で、CerはSoおよびS1Pに迅速に変換され、分泌されることを示している。血漿中では、これらの分子はアルブミンに結合し、リンパ球上の特異的受容体のためのシグナルとして作用する(概説については、78 142 143Hannunら、2008; Mechtcheriakovaら、2007; Riveraら、2008を参照されたい)。
【0150】
安全かつ有効なGLD遺伝子療法のためのGALC発現の転写後調節
トランスジーン発現の調節は、遺伝子療法の分野において重要である。特に、マイクロRNA(miRNA)による転写後調節の可能性は、細胞型および分化に応じて、トランスジーンの発現レベルを調整するための最近開いた新しい見込みを有する(Gentnerら、2008)。本研究においては、本発明者らは、GALC分泌およびオリゴデンドロサイトの交叉補正の原因となる、分化した細胞中での酵素過剰発現を可能にしながら、GALC過剰発現毒性に対して最も感受性の高い細胞であることが示されたHSPCにおいてGALC発現を抑制するために本発明の技術を適用した。特に、本発明者らは、末梢血単核細胞と比較して、HSPC中でより高度に発現されると報告された(145)、マイクロRNA126を選択した。本発明者らのデータは、HSC特異的miRNA126によるGALC発現の調節が、in vitroでGALCのde novoで誘導されるアポトーシスからHSPCを保護し、GALC.miR126T.LVを用いるGALC -/- HSPCの形質導入が、CFCアッセイにより評価されるように、多能性前駆細胞のコロニー形成能力を損傷させることなく、超生理学的レベルでその分化した子孫中での酵素活性の再構成を可能にすることを示した。このデータにより、miRNA126が、HSPCにおいてのみGALC発現を抑制し、その分化した子孫においては抑制しないことが確認された。影響されないコロニー形成能力は、GALC発現がHSCだけでなく、CFCアッセイにおいて造血コロニーの形成を担う多能性前駆細胞においても抑制されることを示し得る。
【0151】
さらに、GALC +/- FVB/twiマウスへの、GALC.miR126T.LVで形質導入されたHSPCの移植は、治療された動物の長期的生存をもたらした。このデータは、miRNA126によるより原始的なHSCにおけるGALC活性の抑制が、その長期的再増殖能力および分化能力を保存することができることを示している。HSCTの10週間後のBM中の高度に形質導入された細胞の存在により、長期HSCがGALC過剰発現アポトーシスからレスキューされることがさらに確認された。
【0152】
重要なことに、HSC特異的miRNAによる転写後調節により、PGKなどの強力なプロモーターの使用が可能になり、それによって、分化したHSPC子孫におけるトランスジーンの、調節されていないPGK_GALC.LVを用いた場合に得られたものと同じ発現レベルを達成することができる。上記で考察されたように、有効であるHSC遺伝子療法にとって必要とされるGALC発現のレベルは未知である。しかしながら、臨床的利益を得るのに十分である酵素発現レベルが低い場合でも、より強力なプロモーターの使用により、ベクターコピー数を減少させることができるが、所望の酵素発現を達成することができる。この問題は、HSC遺伝子療法の臨床翻訳の安全性と関連し得る。
【0153】
結論
レンチウイルスベクタープラットフォームは、マイクロRNAの機能を研究するための多用途で高度に有用な道具である。開発された二方向miRNAリポーターベクターにより、複雑な細胞混合物中の単一細胞レベルでのmiRNA活性の測定、従来のmiRNA発現プロファイリング手法への新しい次元の付加が可能になる。この手法を用いて、本発明者らは、かつてない解像度で造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)集団中でのいくつかのmiRNAの発現を分析した。プロモーターとmiRNA標的設計の変化は、miRNAの生理学的役割を詳述するための基礎として機能喪失表現型を生成するのに有用な、安定なmiRNAノックダウンを達成することができるレンチウイルスベクターをもたらすことができる。安定なmiRNAノックダウン後のプロテオミック分析により、天然設定において調節されるそのmiRNAの重要な標的の同定が可能になるであろう。
【0154】
これらの基礎生物学の疑問に対処するほかに、miRNA調節性ベクターは有意な治療能力を有する。治療的トランスジーンの3'UTRに付加された場合、miRNA標的配列は異所性トランスジーン発現を低下させ、かくして、トランスジーン毒性を軽減するか、または回避することができる。特に、造血幹細胞(HSC)は遺伝子改変された娘細胞を連続的に供給することによって長期的疾患補正を保証するものであるため、HSCの生態は、遺伝子療法治療によって阻害されてはならない。本明細書で特性評価されたmiRNAであるmiR-126、miR-130aおよびmiR-223は、HSPC中では望ましくないトランスジーン発現を制限するが、分化した子孫においてはそれを可能にし、臨床遺伝子療法プロトコル中でさらに開発されるであろう。
【0155】
特許出願および特許の各々の審査中のものを含む、本明細書に記載の特許出願および特許の各々、ならびに上記特許出願および特許の各々に引用されるか、または参照される各文書(「特許出願に引用される文書」)ならびに特許出願および特許の各々において、ならびに特許出願に引用される文書のいずれかに引用されるか、または記載される任意の製品のための任意の製造業者の説明書またはカタログは、参照により本明細書に組入れられるものとする。さらに、本文に引用される全ての文書、および本文に引用される文書に引用されるか、または参照される全ての文書、ならびに本文に引用されるか、または記載される任意の製品のための任意の製造業者の説明書またはカタログは、参照により本明細書に組入れられるものとする。
【0156】
本発明の記載された方法および系の様々な改変および変更が、本発明の範囲および精神を逸脱することなく当業者には明らかとなるであろう。本発明を特定の好ましい実施形態と関連付けて説明してきたが、特許請求された本発明がそのような特定の実施形態に不当に制限されるべきではないと理解されるべきである。実際、分子生物学または関連する分野における当業者にとって明らかである本発明を実行するための記載された様式の様々な改変が、特許請求の範囲内にあると意図される。
【0157】
参考文献









【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血前駆細胞(HSPC)中に対応するmiRNAを有するヌクレオチド配列に機能し得る形で連結された少なくとも1個のmiRNA配列標的を含む遺伝子療法における使用のための遺伝子ベクターであって、該miRNAは、HSPC中では該ヌクレオチド配列の発現を防止するかまたは低下させるが、分化した細胞中では該発現を防止も低下もさせない、前記遺伝子ベクター。
【請求項2】
造血幹細胞(HSC)中に対応するmiRNAを有するヌクレオチド配列に機能し得る形で連結された少なくとも1個のmiRNA配列標的を含む遺伝子療法における使用のための遺伝子ベクターであって、該miRNAは、HSC中では該ヌクレオチド配列の発現を防止するかまたは低下させるが、分化した細胞中では該発現を防止も低下もさせない、前記遺伝子ベクター。
【請求項3】
ヌクレオチド配列に機能し得る形で連結されたmir-130a、mir-126、mir-223、126/130aT(2/2の組合せ)および126T(2個の標的)を含む群より選択されるmiRNAに対応する少なくとも1個のmiRNA配列標的を含む、遺伝子療法における使用のための遺伝子ベクター。
【請求項4】
mir-130aおよびmir-126に対応するmiRNA配列標的を含む、請求項3に記載の遺伝子ベクター。
【請求項5】
前記ヌクレオチド配列が前記ベクターの発現を制御する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項6】
前記ヌクレオチド配列がトランスジーンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項7】
前記ベクターがウイルスベクターである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項8】
前記ベクターがレンチウイルスから誘導可能である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項9】
前記ベクターが組織特異的プロモーターを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項10】
前記組織特異的プロモーターがCD11b、c-FesおよびCYBBおよびTEKを含む群より選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項11】
前記トランスジーンが酵素をコードする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項12】
前記酵素がリソソーム酵素ガラクトセレブロシダーゼ、gp91 phoxおよびインターフェロン-αの群より選択される、請求項11に記載の遺伝子ベクター。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか1項に定義された少なくとも1個のmiRNA配列標的と、必要に応じて、トランスジーンとを含む、パッケージ可能なウイルスベクターゲノムをコードするDNA構築物を含むウイルスベクター粒子を製造するためのDNA構築物のセット。
【請求項14】
請求項13に記載のDNA構築物のセットを宿主細胞中に導入し、ウイルスベクター粒子を取得することを含む、ウイルスベクター粒子を調製する方法。
【請求項15】
前記宿主細胞が対応するmiRNAを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項14または15に記載の方法により製造されたウイルスベクター粒子。
【請求項17】
請求項1〜12または16のいずれか1項に記載の遺伝子ベクターまたは粒子を含む医薬組成物。
【請求項18】
請求項1〜12または16のいずれか1項に記載の遺伝子ベクターまたは粒子を感染させたか、または該遺伝子ベクターまたは粒子で形質導入された細胞。
【請求項19】
造血幹細胞または造血前駆細胞である、請求項18に記載の細胞。
【請求項20】
mir-130a、mir-126、mir-223および126/130aT(2/2の組合せ)および126T(2個の標的)を含む群より選択されるmiRNAに対応する少なくとも2個の異なるmiRNA配列標的の組合せ。
【請求項21】
前記miRNA配列標的が同時、個別的または連続的使用のためのものである、請求項20に記載の組合せ。
【請求項22】
造血幹細胞または造血前駆細胞中でのトランスジーンの発現を防止するか、または低下させるための医薬の製造における、請求項1〜12のいずれか1項に記載のベクター、請求項16に記載の粒子、請求項17に記載の医薬組成物、請求項18もしくは19に記載の細胞、または請求項20もしくは21に記載の組合せの使用。
【請求項23】
球様細胞白質萎縮症、慢性肉芽腫性疾患、重症複合免疫不全症(SCID)および固形腫瘍から選択される疾患を治療するための医薬の製造における、請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター、請求項16に記載の粒子、請求項17に記載の医薬組成物、請求項18もしくは19に記載の細胞、または請求項20もしくは21に記載の組合せの使用。
【請求項24】
遺伝子療法に関連する造血幹細胞または造血前駆細胞の生存機会を増加させるための医薬の製造における、請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター、請求項16に記載の粒子、請求項17に記載の医薬組成物、請求項18もしくは19に記載の細胞、または請求項20もしくは21に記載の組合せの使用。
【請求項25】
遺伝子療法の安全性および/または効果を増加させるための医薬の製造における、請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター、請求項16に記載の粒子、請求項17に記載の医薬組成物、請求項18もしくは19に記載の細胞、または請求項20もしくは21に記載の組合せの使用。
【請求項26】
造血幹細胞または造血前駆細胞のトランスジーンの発現により引き起こされるアポトーシスを防止するための医薬の製造における、請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター、請求項16に記載の粒子、請求項17に記載の医薬組成物、請求項18もしくは19に記載の細胞、または請求項20もしくは21に記載の組合せの使用。
【請求項27】
造血幹細胞または造血前駆細胞の分化段階をモニターするための医薬の製造における、請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター、請求項16に記載の粒子、請求項17に記載の医薬組成物、請求項18もしくは19に記載の細胞、または請求項20もしくは21に記載の組合せの使用。
【請求項28】
前記医薬が造血細胞療法のためのものである、請求項22〜27のいずれか1項に記載の使用。
【請求項29】
造血幹細胞または造血前駆細胞中でのトランスジーンの発現を防止するか、または低下させるための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター、請求項16に記載の粒子、請求項17に記載の医薬組成物、請求項18もしくは19に記載の細胞、または請求項20もしくは21に記載の組合せ。
【請求項30】
球様細胞白質萎縮症、慢性肉芽腫性疾患、重症複合免疫不全症(SCID)および固形腫瘍から選択される疾患を治療するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター、請求項16に記載の粒子、請求項17に記載の医薬組成物、請求項18もしくは19に記載の細胞、または請求項20もしくは21に記載の組合せ。
【請求項31】
遺伝子療法に関連する造血幹細胞または造血前駆細胞の生存機会を増加させるための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター、請求項16に記載の粒子、請求項17に記載の医薬組成物、請求項18もしくは19に記載の細胞、または請求項20もしくは21に記載の組合せ。
【請求項32】
遺伝子療法の安全性および/または効果を増加させるための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター、請求項16に記載の粒子、請求項17に記載の医薬組成物、請求項18もしくは19に記載の細胞、または請求項20もしくは21に記載の組合せ。
【請求項33】
造血幹細胞または造血前駆細胞のトランスジーンの発現により引き起こされるアポトーシスを防止するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター、請求項16に記載の粒子、請求項17に記載の医薬組成物、請求項18もしくは19に記載の細胞、または請求項20もしくは21に記載の組合せ。
【請求項34】
造血幹細胞または造血前駆細胞の分化段階をモニターするための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター、請求項16に記載の粒子、請求項17に記載の医薬組成物、請求項18もしくは19に記載の細胞、または請求項20もしくは21に記載の組合せ。
【請求項35】
造血幹細胞療法における使用のための、請求項29〜34のいずれか1項に記載の遺伝子ベクター。
【請求項36】
遺伝子療法における使用のための医薬の製造における、mir-130a、mir-126、mir-223および126/130aT(2/2の組合せ)および126T(2個の標的)の群より選択されるmiRNAに対応するmiRNA配列標的の使用。
【請求項37】
遺伝子療法における使用のためのmir-130a、mir-126およびmir-223の群より選択されるmiRNAに対応するmiRNA配列標的。
【請求項38】
造血幹細胞または造血前駆細胞の分化段階を決定する方法であって、該細胞中で、ヌクレオチド配列に機能し得る形で連結されたmiRNA標的配列に対応し、造血前駆細胞(HSPC)または造血幹細胞(HSC)中では前記ヌクレオチド配列の発現を防止するか、または低下させるが、分化した細胞中では該発現を防止も低下もさせないmiRNAの発現レベルを決定することを含む、前記方法。
【請求項39】
造血幹細胞または造血前駆細胞の分化段階を決定する方法であって、該細胞中で、ヌクレオチド配列に機能し得る形で連結されたmiRNA標的配列に対応し、造血前駆細胞(HSPC)または造血幹細胞(HSC)中では前記ヌクレオチド配列の発現を防止するか、または低下させるが、分化した細胞中では該発現を防止も低下もさせない、少なくとも2種の異なるmiRNAの発現レベルを決定すること、および該異なるmiRNAの発現レベルを比較することを含む、前記方法。
【請求項40】
造血幹細胞または造血前駆細胞の分化段階を決定する方法であって、該造血幹細胞または造血前駆細胞中でのトランスジーンの発現レベルを決定することを含み、該トランスジーンが、miRNA配列標的に機能し得る形で連結され、対応するmiRNAが造血前駆細胞(HSPC)または造血幹細胞(HSC)中ではトランスジーンの発現を防止するか、または低下させるが、分化した細胞中では該発現を防止も低下もさせない、前記方法。
【請求項41】
miRNAがmir-130a、mir-126、mir-223、126/130aT(2/2の組合せ)および126T(2個の標的)を含む群より選択される、請求項38〜40のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23−1】
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【図23−2】
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【図23−3】
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【図24−1】
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【図24−2】
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【図24−3】
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【公表番号】特表2012−525141(P2012−525141A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507847(P2012−507847)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際出願番号】PCT/IB2010/001166
【国際公開番号】WO2010/125471
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(507208417)
【出願人】(511262290)
【Fターム(参考)】