説明

遺伝子多型を用いた2型糖尿病の検査方法及び検査用キット

【課題】2型糖尿病の遺伝的感受性を判定する決定的な遺伝的な因子を対象とした、正確、簡便かつ迅速に被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性を検査する方法を提供する。
【解決手段】被験者から採取されたDNA含有試料において、EIF2KA4遺伝子に存在する1以上の多型を検出することを含む、上記被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法に関する。さらに詳しくは、被験者から採取されたDNA含有試料において、主としてKCNQ1遺伝子および/またはEIF2AK4遺伝子に存在する1以上の多型を検出することを含む、上記被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法に関する。さらに本発明は、KCNQ1遺伝子の発現または上記遺伝子の発現産物であるKCNQ1タンパク質の構造もしくは機能に相互作用する物質を選択する工程を含む、2型糖尿病の予防剤または治療剤のスクリーニング方法に関する。さらに本発明は、EIF2AK4遺伝子の発現または上記遺伝子の発現産物であるEIF2AK4タンパク質の構造もしくは機能に相互作用する物質を選択する工程を含む、2型糖尿病の予防剤または治療剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は世界中でもっともありふれた疾病の一種であり、中でも2型糖尿病は、アジア人やアフリカ人において特に急増している疾病である。2型糖尿病は、インスリン分泌不全および/またはインスリン抵抗性による、インスリンの相対的不足を特徴とする疾病である。インスリン分泌不全およびインスリン抵抗性のいずれも、遺伝的な因子が関与していると考えられており、特に日本人などアジア人では、インスリン分泌不全については、遺伝的な因子が主として関与しているといわれている。
【0003】
糖尿病患者では、多飲、多尿、夜尿等が症状として現れるとされている。しかし、これらの症状は、血糖値の異常高値が長期に続いてはじめて生じるものであり、また年齢が増すと自然にみられるものでもあることから、早期の段階で自身が糖尿病に罹患していることを自覚する患者は少ない。このため、糖尿病に罹患した患者の多くは、合併症に伴う症状が現れることではじめて糖尿病に罹患したことを自覚することとなる。このような合併症を伴った糖尿病患者の治療は、極めて困難となる場合が多い。したがって、糖尿病の治療には、早期の発見および治療が非常に有効である。特に、2型糖尿病については、遺伝的な因子の関与が大きいために、2型糖尿病の発症に関連する遺伝的な因子を見つけ出し、これらの因子を基に2型糖尿病の遺伝的感受性を検査することで、2型糖尿病の早期の発見および治療だけでなく、予防までもが可能になると考えられていた。
【0004】
これまでに、2型糖尿病の発症に関係する遺伝的な因子を探索するために、罹患血縁者を対象としたマイクロサテライトを用いた連鎖解析が日本国内外の多くの母集団で適用されている(非特許文献1〜4を参照)。それらの結果において、染色体番号2のCAPN10および染色体番号20のHNF4Aなどが2型糖尿病の感受性遺伝子としてこれまでに同定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Horikawa, Y. et al., (2000), Nat. Genet. 26,163-175
【非特許文献2】Weedon, M.N. et al., (2004), Diabetes 53,3002-3006.
【非特許文献3】Mori, Y. et al, (2002), Diabetes 51, 1247-1255.
【非特許文献4】Nawata, H. et al, (2004), J. Hum. Genet.49, 629-634.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これまでに多くの候補遺伝子が検討されてきたが、未だ決定的な遺伝因子は得られていない。さらに、一般的に、上記した罹患血縁者を対象としたマイクロサテライトを用いた連鎖解析により特定の疾病の発症に関係する遺伝子を見つけることは非常に困難である。上記CAPN10およびHNF4Aについても、2型糖尿病に対する遺伝的感受性を判定する決定的なマーカー遺伝子としては有効ではなかった。そこで、2型糖尿病の早期の発見および治療ならびに2型糖尿病の予防のために、被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性を正確、簡便かつ迅速に検査する方法が望まれている。
【0007】
したがって、本発明は、2型糖尿病の遺伝的感受性を判定する決定的な遺伝的な因子を対象とした、正確、簡便かつ迅速に被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性を検査する方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、2型糖尿病患者1612人および非罹患者1424人を対象として、標準日本人多型(JSNP)に由来する105種のSNPsを用いた全ゲノム規模の多段階相関解析を実施した。その結果、2型糖尿病の発症に関連する遺伝的な因子としてこれまでに報告されていない、新規な11種のSNPsを検出することに成功した。驚くべきことに、KCNQ1遺伝子における4種およびEIF2AK4における1種のSNPsは、他のSNPsと比して顕著に2型糖尿病の発症と相関していた。KCNQ1遺伝子は、カリウムイオンチャネルタンパク質をコードする遺伝子の一種であり、上記遺伝子の異常は、心不整脈、てんかん、聴力喪失、および筋肉機能障害などのイオンチャネル疾患を引き起こすことがこれまでに報告されている(例えば、Vincent, (1998), Ann. Med. Feb; 30(1):58-65)。他方、EIF2AK4遺伝子は、真核生物性翻訳開始因子2α(EIF2α)をリン酸化するキナーゼファミリータンパク質をコードする遺伝子であり、その発現産物はGCN2キナーゼとも呼ばれ、EIF2αタンパクをリン酸化し、多数のカスケードを経由して、タンパク合成の抑制や、最近では脂質合成にも関与すると考えられている(例えば、Howard C. Towle1、(2007)、Cell Metabolism 5, February 2007)。これらの報告に、KCNQ1遺伝子およびEIF2AK4遺伝子ならびにこれらの遺伝子産物が2型糖尿病の発症に関与するという情報は含まれておらず、本発明者らによってはじめて見出されたものである。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
本発明によれば、被験者から採取されたDNA含有試料において、EIF2AK4遺伝子に存在する1以上の多型を検出することを含む、上記被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法が提供される。
【0010】
さらに本発明の別の側面によれば、被験者から採取されたDNA含有試料において、EIF2AK4遺伝子に存在する多型であって、一方のアリール頻度が、任意の2型糖尿病非罹患者集団におけるよりも任意の2型糖尿病患者集団において高い多型からなる群より選ばれる1以上の多型を検出することを含む、上記被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法が提供される。
【0011】
好ましくは、本発明の被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法は、前記多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2250402で示される多型、および上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型である。
【0012】
好ましくは、本発明の被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法は、rs2250402の遺伝子型がCである場合に、2型糖尿病に対する遺伝的感受性が高いと判定する。
【0013】
好ましくは、本発明の被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法は、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2307027、rs3741872、rs574628、rs2233647、rs3785233およびrs2075931で示される多型、ならびに上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型であって、一方のアリール頻度が、任意の2型糖尿病非罹患者集団におけるよりも任意の2型糖尿病患者集団において高い多型からなる群より選ばれる1以上の多型を検出することをさらに含む。
【0014】
好ましくは、本発明の被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法は、rs2307027の遺伝子型がC、rs3741872の遺伝子型がC、rs574628の遺伝子型がG、rs2233647の遺伝子型がG、rs3785233の遺伝子型がC、および/またはrs2075931の遺伝子型がAである場合に、2型糖尿病に対する遺伝的感受性が高いと判定する。
【0015】
さらに本発明の別の側面によれば、EIF2AK4遺伝子に存在する1以上の多型を検出し得る1以上の核酸プローブおよび/またはプライマーを含む、2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査用キットが提供される。
【0016】
さらに本発明の別の側面によれば、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2250402で示される多型、ならびに上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型からなる群より選ばれる1以上の多型を検出し得る1以上の核酸プローブおよび/またはプライマーを含む、2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査用キットが提供される。
【0017】
好ましくは、本発明の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査用キットは、前記核酸プローブおよび/またはプライマーが、遺伝子型がC/Aのrs2250402を検出し得る核酸プローブおよび/またはプライマーである。
【0018】
好ましくは、本発明の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査用キットは、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2307027、rs3741872、rs574628、rs2233647、rs3785233およびrs2075931で示される多型、ならびに上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型からなる群より選ばれる1以上の多型を検出し得る1以上の核酸プローブおよび/またはプライマーをさらに含む。
【0019】
好ましくは、本発明の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査用キットは、前記核酸プローブおよび/またはプライマーが、遺伝子型がC/Tのrs2307027、遺伝子型がC/Tのrs3741872、遺伝子型がG/Aのrs574628、遺伝子型がG/Aのrs2233647、遺伝子型がC/Aのrs3785233、および/または遺伝子型がA/Gのrs2075931を検出し得る核酸プローブおよび/またはプライマーである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、EIF2AK4遺伝子の疾患感受性多型を検査(遺伝子検査、血液検査等)することによって、2型糖尿病の疾患感受性の正確、簡便かつ迅速な検査が可能になる。すなわち、本発明によれば、2型糖尿病の発症前検査、リスク検査、早期検査が可能になる。さらに本発明によれば、EIF2AK4遺伝子の発現・生理活性を調節することによる2型糖尿病の予防および治療、ならびに2型糖尿病の原因治療が可能になる。以上の検査、予防および治療は、EIF2AK4遺伝子の疾患感受性多型に加えて、他の疾患感受性多型を対象とすることで、2型糖尿病の遺伝的感受性の検査精度が増すことになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】図1Aは、日本人SNPデータベースを用いた多段階ゲノム規模連鎖解析の概念図を示す。
【図1B】図1Bは、1stスクリーニングにおける2セットの相関解析の概念図を示す。
【図2】図2は、KCNQ1遺伝子のデンス・マッピングを示す。
【図3】図3は、siRNAを投与した後のKCNQ1の発現量を示す。
【図4】図4は、siRNAを投与した後のEIF2AK4の発現量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0023】
本発明による2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法は、被験者から採取されたDNA含有試料において、KCNQ1遺伝子に存在する1以上の多型を検出することを含むことを特徴とする方法である。
【0024】
さらに本発明の別の側面によれば、本発明による2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法は、被験者から採取されたDNA含有試料において、KCNQ1遺伝子に存在する多型であって、一方のアリール頻度が、任意の2型糖尿病非罹患者集団におけるよりも任意の2型糖尿病患者集団において高い多型からなる群より選ばれる1以上の多型を検出することを含むことを特徴とする方法である。
【0025】
さらに本発明の別の側面によれば、本発明による2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法は、被験者から採取されたDNA含有試料において、EIF2AK4遺伝子に存在する1以上の多型を検出することを含むことを特徴とする方法である。
【0026】
さらに本発明の別の側面によれば、本発明による2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法は、被験者から採取されたDNA含有試料において、EIF2AK4遺伝子に存在する多型であって、一方のアリール頻度が、任意の2型糖尿病非罹患者集団におけるよりも任意の2型糖尿病患者集団において高い多型からなる群より選ばれる1以上の多型を検出することを含むことを特徴とする方法である。
【0027】
本明細書において「被験者」とは、特に制限される者ではなく、2型糖尿病患者や2型糖尿病に対する遺伝的感受性の高い者に限らず、健常者を含めたあらゆる者をいう。
【0028】
本明細書において「DNA含有試料」とは、特に制限されるものではないが、DNAの種類や含有量に係らず、DNAが含まれている試料をいう。
【0029】
本明細書において「2型糖尿病に対する遺伝的感受性」とは、遺伝的に2型糖尿病の発症を誘発され得る性質をいう。
【0030】
本明細書において「(遺伝子)多型」とは、ゲノムDNA上の1または複数の塩基の変化(置換、欠失、挿入、転位、逆位等)であって、その変化が集団内に1%以上の頻度で存在するものをいい、例えば、1個の塩基が他の塩基に置換されたもの(SNP)、1〜数十塩基が欠失もしくは挿入されたもの(DIP)、2〜数十塩基を1単位とする配列が繰り返し存在する部位においてその繰り返し回数が異なるもの(繰り返し単位が2〜4塩基のものをマイクロサテライト多型、数〜数十塩基のものをvariable number of tandem repeat(VNTR)という)等が挙げられる。本発明の検査方法に利用することができる多型は、下記の条件を満たす限りいずれのタイプのものであってもよいが、好ましくはSNPである。
【0031】
本発明の方法において利用することができる多型は、
KCNQ1遺伝子および/またはEIF2AK4遺伝子に存在する1以上の多型、
または、
(1)KCNQ1遺伝子内および/またはEIF2AK4遺伝子内に存在する多型であって、
(2)その一方のアリール頻度が、任意の2型糖尿病非罹患者集団におけるよりも任意の2型糖尿病患者集団において有意に高いもの
のいずれかであれば特に制限されない。
【0032】
本明細書にいう「一方のアリール頻度」とは、ある特定のアリール(allele;対立遺伝子)が繰り返して起こる度合いをいう。
【0033】
本明細書にいう「任意の2型糖尿病非罹患者集団」とは、任意の基準で2型糖尿病を発症していないと判定された者の集団をいい、さらに「任意の2型糖尿病患者集団」とは、任意の基準で2型糖尿病を発症していると判定された者の集団をいう。2型糖尿病患者集団および2型糖尿病非罹患者集団は、上記を満足し、かつそれぞれ統計学上信頼し得る結果を与えるに十分な数からなる集団であれば、その大きさ(サンプル数)、各サンプルの背景(例えば、出身地、年齢、性別、疾患等)などに特に制限はない。また、倫理上、試料提供者のインフォームド・コンセントを必要とすることから、2型糖尿病非罹患者集団としては、通常、ある医療機関における2型糖尿病以外の患者群、あるいはある地域における集団検診において2型糖尿病に罹患していないと診断された被験者群などが好ましく用いられる。
【0034】
したがって、本明細書にいう「一方のアリール頻度が、任意の2型糖尿病非罹患者集団におけるよりも任意の2型糖尿病患者集団において高い」とは、例えば、ある特定のアリールが、任意の基準で2型糖尿病を発症していないと判定された者の集団よりも、任意の基準で2型糖尿病を発症していると判定された者の集団において、繰り返して起こる度合いが高いことをいう。
【0035】
KCNQ1遺伝子内およびEIF2AK4遺伝子内に存在する多型としては、例えば、NCBI SNP Database(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)、JSNP Database(http://snp.ims.u−tokyo.ac.jp/)、Applied Biosystemsホームページ(http://www.appliedbiosystems.com/index.cfm)等に登録された公知の多型が挙げられる。NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs151290、rs163184、rs2237895、rs2237892およびrs2250402で示される多型、ならびに該多型と連鎖不平衡係数D'が0.9以上の連鎖不平衡状態にある多型からなる群より選択される多型を挙げることができる。
【0036】
本発明の検査方法において利用することができる多型としては、好ましくは、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs151290、rs163184、rs2237895、rs2237892およびrs2250402で示される多型、ならびに上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型である。
【0037】
ここで「連鎖不平衡係数D'」は、2つのSNPについて第一のSNPの各アリールを(A,a)、第二のSNPの各アリールを(B,b)とし、4つのハプロタイプ(AB,Ab,aB,ab)の各頻度をPAB,PAb,PaB,Pabとすると、下記式により得られる。
D'=(PABPab−PAbPaB)/Min[(PAB+PaB)(PaB+Pab),(PAB+PAb)(PAb+Pab)]
[式中、Min[(PAB+PaB)(PaB+Pab),(PAB+PAb)(PAb+Pab)]は、(PAB+PaB)(PaB+Pab)と(PAB+PAb)(PAb+Pab)とのうち、値の小さい方をとることを意味する。]
好ましくは、D'が0.95以上、より好ましくは0.99以上、最も好ましくは1である多型が挙げられる。
【0038】
上記多型のうち、一方のアリール頻度が任意の2型糖尿病非罹患者集団におけるよりも任意の2型糖尿病患者集団において有意に高いものが、本発明の検査方法に利用することができる。本明細書においては、以下、かかる多型を2型糖尿病マーカー多型という場合もある。
【0039】
本発明においては、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs151290、rs163184、rs2237895、rs2237892およびrs2250402で示される多型、ならびに上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型を検査に用いることができる。本発明の検査方法において検出される多型は、上記した多型のうちのいずれか1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0040】
本発明の検査方法において、多型の検出は公知のSNP検出方法のいずれも使用することができる。古典的な検出方法としては、例えば、被験者の細胞等から抽出したゲノムDNAを試料とし、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs151290、rs163184、rs2237895、rs2237892またはrs2250402で示される多型部位の塩基を含む約15〜約500塩基の違続した塩基配列を含有してなる核酸をプローブとして用い、例えばWallaceら(Proc. Nat1. Acad. Sci. USA,80,278−282(1983))の方法に従って、ストリンジェンシーを正確にコントロールしながらハイブリダイゼーションを行い、プローブと完全相補的な配列のみを検出する方法や、上記核酸と上記核酸において多型部位の塩基が他の塩基に置換された核酸のいずれか一方を標識し、他方を未標識としたミックスプローブを用い、変性温度から徐々に反応温度を低下させながらハイブリダイゼーションを行い、一方のプローブと完全相補的な配列を先にハイブリダイズさせ、ミスマッチを有するプローブとの交差反応を防ぐ方法などが挙げられる。ここで標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。
【0041】
好ましくは、多型の検出は、例えば、WO 03/023063に記載された種々の方法、例えば、RFLP法、PCR−SSCP法、ASOハイブリダイゼーション、ダイレクトシークエンス法、ARMS法、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法、RNaseA切断法、化学切断法、DOL法、TaqMan PCR法、インベーダー法、MALDI−TOF/MS法、TDI法、モレキュラー・ビーコン法、ダイナミック・アリールスペシフィック・ハイブリダイゼーション法、パドロック・プローブ法、UCAN法、DNAチップまたはDNAマイクロアレイを用いた核酸ハイブリダイゼーション法、およびECA法などにより実施することができる(WO 03/023063,第17頁第5行〜第28頁第20行を参照)。以下、代表的な方法として、TaqMan PCR法とインベーダー法について、より詳細に説明する。
(a)TaqMan PCR法
TaqMan PCR法は、蛍光標識したアリール特異的オリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)とTaq DNAポリメラーゼによるPCRとを利用した方法である。TaqManプローブとしては、例えば、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs151290、rs163184、rs2237895、rs2237892またはrs2250402で示される多型部位の塩基を含む約15〜約30塩基の連続した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが用いられる。該プローブは、その5'末端がFAMやVICなどの蛍光色素で、3'末端がTAMRAなどのクエンチャー(消光物質)でそれぞれ標識されており、そのままの状態ではクエンチャーが蛍光エネルギーを吸収するため蛍光は検出されない。プローブは双方のアリールについて調製し、一括検出のために互いに蛍光波長の異なる蛍光色素(例えば、一方のアリールをFAM、他方をVIC)で標識することが好ましい。また、TaqManプローブからのPCR伸長反応が起こらないように3'末端はリン酸化されている。TaqManプローブとハイブリダイズする領域を含むゲノムDNAの部分配列を増幅するように設計されたプライマーおよびTaq DNAポリメラーゼとともにPCRを行うと、TaqManプローブが鋳型DNAとハイブリダイズし、同時にPCRプライマーからの伸長反応が起こるが、伸長反応が進むとTaq DNAポリメラーゼの5'ヌクレアーゼ活性によりハイブリダイズしたTaqManプローブが切断され、蛍光色素が遊離してクエンチャーの影響を受けなくなり、蛍光が検出される。鋳型の増幅により蛍光強度は指数関数的に増大する。
(b)インベーダー法
インベーダー法では、TaqMan PCR法と異なり、アリール特異的オリゴヌクレオチド(アリールプローブ)自体は標識されず、多型部位の塩基の5'側に鋳型DNAと相補性のない配列(フラップ)を有し、3'側には鋳型に特異的な相補配列を有する。インベーダー法では、さらに鋳型の多型部位の3'側に特異的な相補配列を有するオリゴヌクレオチド(インベーダープローブ;該プローブの5'末端である多型部位に相当する塩基は任意である)と、5'側がヘアピン構造をとり得る配列を有し、ヘアピン構造を形成した際に5'末端の塩基と対をなす塩基から3'側に連続する配列がアリールプローブのフラップと相補的な配列であることを特徴とするFRET(fluorescence resonance energy transfer)プローブとが用いられる。FRETプローブの5'末端は蛍光標識(例えば、FAMやVICなど)され、その近傍にはクエンチャー(例えば、TAMRAなど)が結合しており、そのままの状態(ヘアピン構造)では蛍光は検出されない。
【0042】
鋳型であるゲノムDNAにアリールプローブおよびインベーダープローブを反応させると、三者が相補結合した際に多型部位にインベーダープローブの3'末端が侵入する。この多型部位の構造を認識する酵素(cleavase)を用いてアリールプローブの一本鎖部分(即ち、多型部位の塩基から5'側のフラップ部分)を切り出すと、フラップはFRETプローブと相補的に結合し、フラップの多型部位がFRETプローブのヘアピン構造に侵入する。この構造をcleavaseが認識して切断することにより、FRETプローブの末端標識された蛍光色素が遊離してクエンチャーの影響を受けなくなって蛍光が検出される。多型部位の塩基が鋳型とマッチしないアリールプローブはcleavaseによって切断されないが、切断されないアリールプローブもFRETプローブとハイブリダイズすることができるので、同様に蛍光が検出される。但し、反応効率が異なるため、多型部位の塩基がマッチするアリールプローブでは、マッチしないアリールプローブに比べて蛍光強度が顕著に強い。
【0043】
通常、3種のプローブおよびcleavaseと反応させる前に、鋳型DNAはアリールプローブおよびインベーダープローブがハイブリダイズする部分を含む領域を増幅し得るプライマーを用いてPCRにより増幅しておくことが好ましい。
【0044】
上記のようにして多型を調べた結果、任意の2型糖尿病非罹患者集団におけるよりも任意の2型糖尿病患者集団において有意に高いアリールを保有していると判定された場合、特に該アリールについてホモ接合体であると判定された場合には、被験者は当該2型糖尿病に対する遺伝的感受性が高いと判定することができる。例えば、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs151290の遺伝子型がC、rs163184の遺伝子型がG、rs2237895の遺伝子型がC、rs2237892の遺伝子型がCおよび/またはrs2250402の遺伝子型がCである場合に、2型糖尿病に対する遺伝的感受性が高いと判定することができる。
【0045】
さらに本発明の別の側面によれば、本発明による2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法は、被験者から採取されたDNA含有試料において、上記したKCNQ1遺伝子および/またはEIF2AK4遺伝子に存在する1以上の多型に加えて、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2307027、rs3741872、rs574628、rs2233647、rs3785233およびrs2075931で示される多型、ならびに上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型であって、一方のアリール頻度が、任意の2型糖尿病非罹患者集団におけるよりも任意の2型糖尿病患者集団において高い多型からなる群より選ばれる1以上の多型を検出することをさらに含むことを特徴とする方法である。例えば、rs2307027の遺伝子型がC、rs3741872の遺伝子型がC、rs574628の遺伝子型がG、rs2233647の遺伝子型がG、rs3785233の遺伝子型がC、および/またはrs2075931の遺伝子型がAである場合に、2型糖尿病に対する遺伝的感受性が高いと判定することができる。
【0046】
本発明のキットは、KCNQ1遺伝子および/またはEIF2AK4遺伝子に存在する1以上の多型を検出し得る1以上の核酸プローブおよび/またはプライマーを含むことを特徴とする、2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査用キットである。すなわち、本発明のキットは、例えば、KCNQ1遺伝子内および/またはEIF2AK4遺伝子内に存在する多型であって、一方のアリール頻度が、任意の2型糖尿病非罹患者集団におけるよりも任意の2型糖尿病患者集団において高い多型からなる群より選択される1以上の多型の各々を検出し得る1以上の核酸プローブおよび/またはプライマーを含むことを特徴とする。
【0047】
具体的には、本発明のキットに用いられる核酸プローブは、上記本発明の検査方法において検出すべき多型部位の塩基を含む領域でゲノムDNAとハイブリダイズする核酸であり、標的部位に対して特異的であり、かつ多型性を容易に検出し得る限りその長さ(ゲノムDNAとハイブリダイズする部分の塩基長)に特に制限はなく、例えば約15塩基以上、好ましくは約15〜約500塩基、より好ましくは約15〜約200塩基、いっそう好ましくは約15〜約50塩基である。
【0048】
該プローブは、多型性の検出に適した付加的配列(ゲノムDNAと相補的でない配列)を含んでいてもよい。例えば、上記インベーダー法に用いられるアリールプローブは、多型部位の塩基の5'末端にフラップと呼ばれる付加的配列を有する。
【0049】
また、該プローブは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。あるいは、蛍光物質(例:FAM、VIC等)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。かかる実施態様においては、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
【0050】
好ましくは、本発明のキットに用いられる核酸プローブは、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs151290、rs163184、rs2237895、rs2237892およびrs2250402で示される多型、ならびに上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型からなる群から選ばれる多型部位の塩基を含む、約15〜約500塩基、好ましくは約15〜約200塩基、より好ましくは約15〜約50塩基の連続した塩基配列を含有してなる核酸である。さらに好ましくは、上記核酸プローブとともに、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2307027、rs3741872、rs574628、rs2233647、rs3785233およびrs2075931で示される多型、ならびに上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型からなる群から選ばれる多型部位の塩基を含む、約15〜約500塩基、好ましくは約15〜約200塩基、より好ましくは約15〜約50塩基の連続した塩基配列を含有してなる核酸である核酸プローブも用いられ得る。
【0051】
本発明のキットに用いられる核酸プライマーは、上記本発明の検査方法において検出すべき多型部位の塩基を含むゲノムDNAの領域を特異的に増幅し得るように設計されたものであればいかなるものであってもよい。該プライマーは、多型性の検出に適した付加的配列(ゲノムDNAと相補的でない配列)、例えばリンカー配列を含んでいてもよい。
【0052】
また、該プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。
【0053】
本発明のキットに用いられる核酸プローブまたはプライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、また、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。二本鎖の場合は二本鎖DNA、二本鎖RNA、DNA/RNAハイブリッドのいずれであってもよい。従って、本明細書においてある塩基配列を有する核酸について記載する場合、特に断らない限り、該塩基配列を有する一本鎖核酸、該塩基配列と相補的な配列を有する一本鎖核酸、それらのハイブリッドである二本鎖核酸をすべて包含する意味で用いられていると理解されるべきである。
【0054】
上記核酸プローブまたはプライマーは、例えば、NCBI SNP Databaseにおける登録番号登録番号rs151290、rs163184、rs2237895、rs2237892、rs2250402、rs2307027、rs3741872、rs574628、rs2233647、rs3785233、またはrs2075931で示される塩基配列の情報に基づいて、DNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って合成することができる。
【0055】
好ましくは、本発明のキットに用いられる1以上の核酸プローブおよび/またはプライマーは、遺伝子型がC/Aのrs151290、遺伝子型がG/Tのrs163184、遺伝子型がC/Aのrs2237895、遺伝子型がC/Tのrs2237892および/または遺伝子型がC/Aのrs2250402を検出し得る核酸プローブおよび/またはプライマーと、遺伝子型がC/Tのrs2307027、遺伝子型がC/Tのrs3741872、遺伝子型がG/Aのrs574628、遺伝子型がG/Aのrs2233647、遺伝子型がC/Aのrs3785233、および/または遺伝子型がA/Gのrs2075931を検出し得る核酸プローブおよび/またはプライマーを含む。
【0056】
上記核酸プローブおよび/またはプライマーは、各々別個に(あるいは可能であれば混合した状態で)水もしくは適当な緩衝液(例:TEバッファーなど)中に適当な濃度(例:2×〜20×濃度で1〜50μMなど)となるように溶解し、約−20℃で保存することができる。
【0057】
本発明のキットは、多型検出法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、該キットがTaqMan PCR法による多型検出用である場合には、該キットは、10×PCR反応緩衝液、10×MgCl水溶液、10×dNTPs水溶液、Taq DNAポリメラーゼ(5U/μL)等をさらに含むことができる。
【0058】
本発明はまた、KCNQ1遺伝子および/またはEIF2AK4遺伝子の発現および/または活性を調節(例えば、抑制)することによる、2型糖尿病の予防および/または治療に関する。
【0059】
KCNQ1遺伝子の発現またはKCNQ1タンパク質の構造もしくは機能に相互作用(例えば、促進、抑制または安定化)する物質は、2型糖尿病の予防または治療に有効である。したがって、本発明のスクリーニング方法は、KCNQ1遺伝子を発現する細胞(例えば、INS−1細胞やRIN細胞などの膵β細胞、心筋細胞など)に被験物質を作用させる工程、KCNQ1遺伝子の発現変化またはKCNQ1タンパク質の機能変化を検出する工程、および上記変化に対応してKCNQ1遺伝子またはKCNQ1タンパク質に相互作用する物質を選択する工程を含むことを特徴とする、上記相互作用する物質のスクリーニング方法である。スクリーニングして得られた上記相互作用する物質は、2型糖尿病の予防剤または治療剤として、2型糖尿病の予防または治療するために使用される。これはEIF2AK4遺伝子の発現またはEIF2AK4タンパク質の構造もしくは機能に相互作用する物質についても同様のことがいえる。
【0060】
被験物質としては、例えば核酸、タンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。
【0061】
KCNQ1(またはEIF2AK4)の発現量は、KCNQ1(またはEIF2AK4)をコードする核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸(即ち、前記したKCNQ1(またはEIF2AK4)をコードする塩基配列またはその一部を含有する核酸(以下、「センスKCNQ1(またはEIF2AK4)」ともいう)またはKCNQ1(またはEIF2AK4)をコードする塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部(アンチセンスKCNQ1(またはEIF2AK4)))を用いてそのmRNAを検出することにより、転写レベルで測定することもできる。あるいは、該発現量は、通常知られる方法で作製された抗KCNQ1(またはEIF2AK4)抗体を用いてタンパク質(ペプチド)を検出することにより、翻訳レベルで測定することもできる。
【0062】
従って、より具体的には、本発明は、
(1)KCNQ1(またはEIF2AK4)遺伝子を発現する細胞を被験物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下におけるKCNQ1(またはEIF2AK4)をコードするmRNAの量を、センスもしくはアンチセンスKCNQ1(またはEIF2AK4)を用いて測定、比較することを特徴とする、KCNQ1(またはEIF2AK4)遺伝子またはKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質に相互作用する物質のスクリーニング方法、
(2)KCNQ1(またはEIF2AK4)遺伝子を発現する細胞を被験物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下におけるKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質(ペプチド)の量を、抗KCNQ1(またはEIF2AK4)抗体を用いて測定、比較することを特徴とする、KCNQ1(またはEIF2AK4)遺伝子またはKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質に相互作用する物質のスクリーニング方法、および
(3)KCNQ1(またはEIF2AK4)遺伝子を発現する細胞を被験物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下におけるKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質の機能を、バッククランプ法によるチャネル活性の変化を測定、比較することを特徴とする、KCNQ1(またはEIF2AK4)遺伝子またはKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質に相互作用する物質のスクリーニング方法を提供する。
【0063】
例えば、KCNQ1(またはEIF2AK4)のmRNA量またはタンパク質(ペプチド)量の測定は、具体的には以下のようにして行うことができる。
(i)正常あるいは疾患モデル非ヒト温血動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、トリなど)に対して、薬剤あるいは物理的刺激などを与える一定時間前(30分前〜24時間前、好ましくは30分前〜12時間前、より好ましくは1時間前〜6時間前)もしくは一定時間後(30分後〜3日後、好ましくは1時間後〜2日後、より好ましくは1時間後〜24時間後)、または薬剤あるいは物理的刺激と同時に被験物質を投与し、投与から一定時間が経過した後、心筋、膵組織などを採取する。得られた生体試料に含まれるKCNQ1(またはEIF2AK4)遺伝子を発現する細胞において発現したKCNQ1(またはEIF2AK4)のmRNAは、例えば、通常の方法により細胞等からmRNAを抽出し、例えば、TaqManアッセイやRT−PCRなどの手法を用いることにより定量することができ、あるいは自体公知のノーザンブロット解析により定量することもできる。一方、KCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質量は、ウェスタンブロット解析や以下に詳細する各種イムノアッセイ法を用いて定量することができる。
(ii)KCNQ1(またはEIF2AK4)またはその部分ペプチドをコードする核酸を導入した形質転換体を常法に従って作製し、該形質転換体を常法に従って培養する際に被験物質を培地中に添加し、一定時間培養後、該形質転換体に含まれるKCNQ1(またはEIF2AK4)のmRNA量またはタンパク質(ペプチド)量を定量、解析することにより行うことができる。
【0064】
上記のスクリーニング方法におけるKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質の量の測定は、具体的には、例えば、(i)抗KCNQ1(またはEIF2AK4)抗体と、試料液および標識化されたKCNQ1(またはEIF2AK4)とを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化されたKCNQ1(またはEIF2AK4)を検出することにより試料液中のKCNQ1(またはEIF2AK4)を定量する方法や、(ii)試料液と、担体上に不溶化した抗KCNQ1(またはEIF2AK4)抗体および標識化された別の抗KCNQ1(またはEIF2AK4)抗体とを、同時あるいは連続的に反応させた後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、試料液中のKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質を定量する方法等が挙げられる。
【0065】
上記(ii)の定量法においては、2種の抗体はKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質の異なる部分を認識するものであることが望ましい。例えば、一方の抗体がKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質のN端部を認識する抗体であれば、他方の抗体としてKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質のC端部と反応するものを用いることができる。
【0066】
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。
【0067】
試料液としては、KCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質が細胞内に局在する場合は、細胞を適当な緩衝液に懸濁した後、超音波処理または凍結融解などによって細胞を破壊して得られる細胞破砕液が、KCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質が細胞外に分泌される場合には、細胞培養上清がそれぞれ用いられる。必要に応じて、破砕液や培養上清からKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質を分離・精製した後に定量を行ってもよい。また、標識剤の検出が可能である限り、無傷細胞を試料として用いてもよい。
【0068】
抗KCNQ1(またはEIF2AK4)抗体を用いるKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質の定量法は、特に制限されるべきものではなく、試料液中の抗原量に対応した、抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法が好適に用いられる。感度、特異性の点で、例えば、後述するサンドイッチ法を用いるのが好ましい。
【0069】
抗原あるいは抗体の不溶化にあたっては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化・固定化するのに用いられる化学結合を用いてもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等があげられる。
【0070】
サンドイッチ法においては不溶化した抗KCNQ1(またはEIF2AK4)抗体に試料液を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の抗KCNQ1(またはEIF2AK4)抗体を反応させた後(2次反応)、不溶化担体上の標識剤の量もしくは活性を測定することにより、試料液中のKCNQ1(またはEIF2AK4)を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序で行っても、また、同時に行ってもよいし、時間をずらして行ってもよい。標識化剤および不溶化の方法は前記のそれらに準じることができる。また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相化抗体あるいは標識化抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。
【0071】
抗KCNQ1(またはEIF2AK4)抗体は、サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどにも用いることができる。
【0072】
競合法では、試料液中のKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質と標識したKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質とを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B、Fいずれかの標識量を測定することにより、試料液中のKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、ポリエチレングリコールや前記抗体(1次抗体)に対する2次抗体などを用いてB/F分離を行う液相法、および、1次抗体として固相化抗体を用いるか(直接法)、あるいは1次抗体は可溶性のものを用い、2次抗体として固相化抗体を用いる(間接法)固相化法とが用いられる。
【0073】
イムノメトリック法では、試料液中のKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質と固相化したKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後、固相と液相を分離するか、あるいは試料液中のKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化したKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質を加えて未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し試料液中の抗原量を定量する。
【0074】
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。試料液中のKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質の量がわずかであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
【0075】
これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えてKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
【0076】
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「統ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」Vol. 70(Immunochemical Techniques(Part A))、同書Vol. 73(Immunochemical Techniques(Part B))、同書Vol. 74(Immunochemical Techniques(Part C))、同書Vol. 84(Immunochemical Techniques(Part D:Selected Immunoassays))、同書Vol. 92(Immunochemical Techniques(Part E:Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書Vol. 121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
【0077】
以上のようにして、抗KCNQ1(またはEIF2AK4)抗体を用いることによって、細胞におけるKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質の生産量を感度よく定量することができる。
【0078】
例えば、KCNQ1タンパク質の機能変化の測定は、具体的には以下のようにして行うことができる。
【0079】
ヒトKCNQ1タンパク質をCHO細胞に恒常的に高発現させた細胞株(hKvLQT1/hminK−CHO K1 Recombinant Cell Line:ミリポア社、カタログ番号CYL3007)を用い、パッチクランプ法により、電気的に電位変化を記録することにより、特定の物質の存在下および非存在下のチャネル活性を測定、比較することで上記細胞株内におけるKCNQ1タンパク質の機能変化を測定できる。さらに、市販の機器(FLIPR,IonWorks HT,PatchExpressなど)を用いることによりスループットの高いスクリーニングも可能である。さらに、EIF2AK4タンパク質の機能変化は、例えば、EIF2AK4タンパク質であるGCN2キナーゼによりリン酸化される基質量を測定することにより知ることができる。そのような方法としては、例えば、ポリアクリルアミドゲル中でリン酸化したEIF2タンパク質アルファサブユニットを特異的に染色するPro−QR ダイアモンドリン酸化タンパク質ゲル染色(イビトロジェン)などの他、32P放射性標識、抗リン酸化チロシン抗体を利用するELISA法、Western Blotting法、LC/MS/MS法などの通常知られる技術を利用することができる。
【0080】
KCNQ1(またはEIF2AK4)遺伝子の発現変化あるいはKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質の機能変化をもたらすことがわかったKCNQ1(またはEIF2AK4)遺伝子またはKCNQ1(またはEIF2AK4)タンパク質に相互作用する物質について、細胞機能の変化を下記の方法で測定することができる。
【0081】
例えば、薬剤の存在によりKCNQ1(またはEIF2AK4)遺伝子の発現が低下した細胞について、常法でインスリン分泌アッセイを行う。具体的には、24穴プレートで培養した細胞で薬剤を添加してKCNQ1(またはEIF2AK4)遺伝子の発現を低下させ、薬剤添加50〜100時間後、プレインキュベーションした後に、0.5〜2時間、高グルコース(例えば、20〜50mM)、低グルコース(例えば、1〜10mM)で刺激した後、上清を回収し、細胞に残った分は塩酸エタノールで抽出し、上清および細胞のインスリン含量を常法(例えば、ELISA)で測定する。インスリン分泌は、総インスリン量に対する分泌量の割合で表現し、比較することができる。
【0082】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
1 材料および方法
(1)試料:
3つの独立した患者集団を、多段階ゲノム規模スクリーニングのために用意した。集団1は2型糖尿病患者188人のみからなる。集団2は2型糖尿病患者752人と非罹患者752人からなり、集団3は2型糖尿病患者672人と非罹患者672人からなる。2型糖尿病患者の試験対象患者基準は次の通りである:(1)発症開始年齢:40〜55歳、(2)最大BMI < 30kg/m、(3)インシュリン治療は診断から3年前まで未開始、および(4)抗体GAD(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)抗体が陰性。
【0084】
集団2と3の非罹患者の基準は次の通り:(1)年齢:60歳以上、(2)過去に糖尿病としての診断履歴がない、および(3)ヘモグロビンAlc<5.6%。3集団の2型糖尿病患者と集団2と3の非罹患者は、日本の様々な地域に配置された11施設から適用された。ゲノムDNAは、常法により末梢血液から抽出された。BMI(体重インデックス)、血液生化学(血漿グルコースとインシュリンレベルを含む)および2型糖尿病の家族歴などの臨床情報もまた得られた。各集団の背景的な特徴は、表1に要約される。研究プロトコールは、各施設の倫理委員会により承認された。
【0085】
【表1】

【0086】
(2)研究設計:日本人SNPデータベースを用いた多段階ゲノム規模連鎖解析(図1Aおよび図1B)
「JSNPゲノムスキャン(JGS)」と呼ばれる、多段階スクリーニングを常法に従い計画した。まず、1stスクリーニングで、各疾病の188人の患者(糖尿病の集団1)が、IMS−JST日本人SNPデータベースプロジェクトにより提供された105種のSNPsに対してジェノタイプされた。相関解析は次の2セットが実施された:1)上記データベースで登録されている一般的な日本人集団の参照データとのアリール頻度を比較すること、および2)データが上記プロジェクトで得られた罹患者と他の4つの疾病集団における糖尿病非罹患者752人の集団とのアリールおよび/または遺伝子型頻度を比較すること(図1B)。より小さいアリール頻度(MAF)がデータベースとの比較で10%を越え、かつジェノタイプがOR>1.5またはアリールがOR>1.3を示したSNPsが2ndスクリーニングのために選ばれた。陽性相関を示す、同じ遺伝子における多くのSNPsが強い連鎖不均衡(LD)内にあったならば、冗長性を避けるために、一つのSNPだけが次のスクリーニングに対して選ばれた。その後、各疾病(糖尿病に対して2873種)の2880種のSNPsがp値で選ばれた。
【0087】
2ndスクリーニングにおいて、独立した2型糖尿病患者/非罹患者集団(集団2)が解析され、データの品質チェックの後に、妥当な2827種のSNPsのデータを生成し、アリールデータにより糖尿病(P<0.05)と相関があることを示したSNPsを3rdスクリーニングの対象として選択した。
【0088】
3rdスクリーニングにおいて、別の集団(集団3)がタイプされ、および3rdスクリーニングでの陽性SNPs(P<0.05)に対して、2集団を組み合わせた結果(集団2と3:2型糖尿病患者1424人と非罹患者1424人)もまた解析された。
【0089】
その後、KCNQ1遺伝子のデンスSNPマッピングを実施した。はじめに、約10kbのインターバルをもつように、NCBI SNP DatabaseからさらなるSNPsを取り出し、本ゲノムスキャンにもともと含まれていた陽性SNPsとともに、集団2と3においてそれらをタイプした。また24人の日本人対象者について、日本人において広範囲に遺伝子変異体を同定するためにすべてのエキソンおよび推測上のプロモーター領域(転写開始部位から4kbp上流)を含む遺伝子の配列を再決定した。また、KCNQ1遺伝子について、47kbp(イントロン15)にわたる陽性SNPs周辺領域の配列を再決定し、これらで同定されたSNPsのいくつかはその後、集団2と3でジェノタイプされた。
(3)タイピング方法
1stスクリーニングおよび2ndスクリーニングにおいて、ジェノタイピングを常法に従い、多重PCR型インベーダーアッセイ(multiplex polymerase chain reaction(PCR)−based Invader assay;サード・ウェーブ・テクノロジー社、マジソン、ウィスコンシン、USA)により実施した。3rdスクリーニングおよびデンス・マッピングにおいて、ゲノム規模で増幅したDOP−PCRテンプレートを蛍光相関分光器(FCS)にしたがって配列特異的プライマー(SSP)−PCRによりジェノタイプした。結果として、2ndスクリーニングおよびデンス・マッピングの両方に含められたSNPsに対して、集団2がSSP−PCR−FCS方法で再ジェノタイプされた。いくつかのSNPsをTaqman probe(アプライド・バイオシステムズ社、フォスターシティー、CA)を使ったリアルタイムPCRでジェノタイプした。
(4)リアル−タイムPCRによる遺伝子の組織発現解析
14時間断食した後の12齢週の5匹のメスC57BL6またはKK−Ayマウスから膵島を単離し、かつ全RNAをRNeasyキット(キアジェン社、ヒルデン、ドイツ)で抽出した。内部標準としてTATA結合タンパク質を用い、ABI7900HTで、マウスKCNQl mRNAの発現レベルを、TaqMan遺伝子発現アッセイ(アプライド・バイオシステムズ)を用いたリアルタイムRT−PCR法で解析した。結果を、非罹患マウスであるBL6マウスに対する倍変化量であらわした。
(5)統計解析
1stスクリーニングにおいて、上記で記載した通りに、2型糖尿病患者−非罹患者評価の2セットを実施した。非罹患者として4グループを使って、比較のために2×2または2×3分割表でデータを統計解析し、およびジェノタイプ・データが利用できなかった一般的な母集団の度数との比較のために、2×2分割表でアリールデータのみを解析した。
【0090】
2ndスクリーニングおよび3rdスクリーニング、ならびにデンス・マッピングにおいて2×2分割表のアリールデータをχ2試験で解析した。連鎖不均衡およびハプロタイプ解析(複数のアリールで、それぞれについてどちらの親から受け継いだ遺伝子かで分けたときに、片親由来の遺伝子の並びを解析)をHaploview3.31で実施した。ハプロタイプ度数の評価をさらにPHASEで計算した。臨床特性統計解析をStatView バージョン5.1(SAS社、キャリー、NC)を用いて実施した。データは、必要の都度、ログ変換した。年齢、性別およびBMIに対して調整されたp値をANCOVAで決定した。p<0.05を統計的に有意とした。
2 結果
(1)糖尿病の多段階相関解析
1stスクリーニングの多重PCR型インベーダーアッセイによるJGSに対してジェノタイプされた105種のSNPsのうち、常染色体の82,343種のSNPsのデータが2型糖尿病患者187人に対してタインピング品質チェックに合格と判定された。対象者一人はまったくジェノタイプコールを与えなかった。組み合わせられた2種の相関解析により、2,873種のSNPsを2ndスクリーニングの対象として選択した。
【0091】
2ndスクリーニングで、38種のSNPsが集団2における全試験者になんら結果を与えず、ならびに5種および3種のSNPsが多重PCR型インベーダーアッセイにより、2型糖尿病患者または非罹患者のいずれかにおいて失敗した。残りの2827種のSNPsのコール率は0.993であった。その後、201種の陽性SNPs(P<0.05)を、3rdスクリーニングへ選択した。
【0092】
3rdスクリーニングで、1種のSNPを集団3でまったくタイプできず、および他の200種のSNPsのコール率は0.990であった。7遺伝子の10種のSNPsはp値が0.05より低かった(表3)。最も顕著な相関を、p=3.4×10を示した、KCNQ1遺伝子のイントロン15における、rs2237895(IMS−JST018602)で見出した。別の2つのSNPs(IMS−JS018590および018601;rs151290およびrs16184にそれぞれ対応)は、さらに同じイントロンに局在しており、それぞれ1.1×10および0.0021のp値を示した。これらの10種のSNPsに対して、集団2をFCS−SSP−PCR法で再びジェノタイプし、インベーダー法(2ndスクリーニングに帰着する)との一致率は0.992であった。組み合わせられた2集団の結果(集団2+3)をさらにこれらの10種のSNPsで解析し、KCNQ1遺伝子の3種を含むすべてのSNPsはより低いp値を示した(表2Aおよび2B)。なお、表2Aおよび2Bにおいて、アスタリスク(*)は危険アリール、Chrは染色体番号、DMは2型糖尿病患者、NCは非罹患者をそれぞれ示す。例えば、rs151290のDM12とは、Rs151290の遺伝子型がA/Cのヘテロザイゴートである2型糖尿病患者のことを示す。上記した通り、p値は、2型糖尿病患者群と非罹患者群との間でアリール頻度を比較し、χ2検定を行って算出した。ORは、その危険アリールのオッズ比である。
【0093】
【表2A】

【0094】
【表2B】

【0095】
(2)デンス・マッピングおよびKCNQ1の相関解析
KCNQ1遺伝子は、[a]2型糖尿病患者に最も強い相関を示し、[b]陽性結果が複数のSNPsにまたがる唯一の遺伝子であり、かつ[c]染色体11p15.5に局在しており、日本人の糖尿病罹患同胞解析の独立した2報告において提案された、糖尿病と連鎖を示す候補領域に含まれていた(非特許文献3および4):上記2報告とも精密なマッピングを達成できていなかったが、この領域の最大LODスコアはそれぞれ3.08と2.89であった。以上の通り、KCNQ1遺伝子は2型糖尿病の発症に関連する遺伝子として重要かつ今回はじめて見出された遺伝子であった。そこで、3rdスクリーニングの後、KCNQ1遺伝子をさらに解析した。
【0096】
図2の下部で示されている通り、3rdスクリーニングを通過した3種のSNPs(rs151290、rs163184、およびrs2237895)は互いに「適度な」LD内にあった。最も低いp値を示したrs2237895は、rs151290とのD'およびr2値が0.544および0.124、rs163184とのD'およびr2値は0.83および0.455をそれぞれ示した。NCBI SNP Databaseから49種のSNPsをピックアップし、集団2と3において、もとのスキャンで陽性の上記3種のSNPsと共にタイプした(図2)。52種のSNPsのうち、rs2237892は、イントロン15に局在し、図2の上部で示されている通りに、2型糖尿病(p=6.7×1013;集団2と3)と最も強い相関を示した。ORは1.49[95%CI:1.34−1.66]であった。rs2237895とrs2237892との間のD'とR2値は、それぞれ、0.952と0.297であった。
【0097】
24人の日本人対象者で遺伝子領域の配列を再決定することにより、3種の同義置換と2種の非同義置換(P448RとG643R)を含む、212種の変異体を同定した。rs151290とrs2237895の間の35.6kbp領域で、MAF(マイナーアリール頻度)が10%を超えた10種のSNPsを選び、集団2と3においてそれらをジェノタイプした。総計で、平均2kbpのインターバルを持つ18種のSNPsを、rs151290とrs2237895の間でジェノタイプした。2つの非同義置換多型もまたジェノタイプした。これらのSNPsのいずれもが、rs2237892より糖尿病と強い相関を示さなかった(図2)。
【0098】
(3)グルコース・ホメオスタシスと関連する臨床パラメーターへのKCNQ1変異体の影響
すべてのジェノタイプされたSNPsの中の最大および2番目に顕著な相関を示したrs2237892(C/T; 危険アリール=C)およびrs2237895(A/C;危険アリール=C)からハプロタイプを構築した。集団2+3のおける疾病と最も顕著な相関がT−Aハプロタイプ(p=3.2×1013)で見出された。上記p値がrs2237892単独(P=6.7×1013)に対してのp値より大きくないことを示したので、上記遺伝子中の原因となる変異体を逃している可能性は低く、およびrs2237892だけを使った詳しい分析を行なった。次に臨床表現型へのrs2237892の危険アリールの影響を調査した。集団2+3における1,424人の糖尿病患者において、上記SNPならびにBMI、糖尿病発症の年齢およびインスリン抵抗性のレベル(データなし)などの臨床パラメーターに対して相関は見出されなかった。
【0099】
空腹時血糖値とインシュリンのレベルが利用可能であった集団2+3における948人の非罹患者において、rs2237892(CC、n=353)の危険アリールの同型接合体(ホモザイゴート)は、他の遺伝子型(CTおよびTT、n=595)をもつそれらより、ホメオスタシス・モデル評価によるβ−細胞機能指数(HOMA−β)が、顕著により低い値を示した;HOMA−β値は、それぞれ81.7±57.9および94.3±84.3であった(P=0.0024;性別、年齢およびBMIによる調整の後のP値は0.02だった)。この結果は糖尿病患者においては確認されなかったが、おそらくKCNQ1の危険アリールがインシュリン分泌を阻害することにより、糖尿病発症率に寄与することを示唆した。
【0100】
(実施例2)
逆転写およびリアルタイムPCR分析によって2型糖尿病のマウス・モデルの膵島中でのKCNQ1の発現を検討した。高血糖と高インスリン血症の両方を明らかに示した12齢週の糖尿病罹患KK−Ayマウスの膵島におけるKCNQ1 mRNAの発現量は、C57BL6コントロール・マウス(P=0.0004)と比較して、1.6倍に顕著に増加された。
【0101】
(実施例3)
KCNQ1遺伝子の発現を変化させる物質のスクリーニング系について検討した。膵β細胞株INS−1細胞(ラット)をRPMI培地(10%FCS加)で培養した。配列表の配列番号1〜3に示す、KCNQ1遺伝子(ラットのKCNQ1遺伝子)のsiRNAをデザインし、トランスフェクション用試薬(Lipofectamine2000)を用いてトランスフェクションし、48〜72時間後にトータルRNAを回収しTaqManアッセイでKCNQ1遺伝子の発現量を定量した。その結果、膵β細胞株INS−1細胞に投与した3種のsiRNAのいずれも、siRNAを投与していないネガティブコントロールに比してmRNAレベルで約70%の発現の減少、すなわち発現レベルが約30%に低下したことが確認された(図3)。
【0102】
(実施例4)
実施例1と同様にして、集団1〜3とは異なる新たな集団4(2型糖尿病患者1000人と非罹患者1000人)のKCNQ1遺伝子のSNPsを測定し、得られたデータを基に相関解析を実施した。実施例1の解析結果と同様に、KCNQ1遺伝子内のNCBI SNP Database登録番号rs151290、rs2237895およびrs2237892のいずれのSNPsも2型糖尿病患者に強い相関を示した(表3)。したがって、集団4の解析結果は、実施例1の解析結果と非常に高い再現性を示す結果といえる。
【0103】
【表3】

【0104】
(実施例5)
実施例4と同様に、集団4(2型糖尿病患者1000人と非罹患者1000人)のEIF2AK4遺伝子のNCBI SNP Database登録番号rs2250402のSNPを測定し、得られたデータと集団2および3の測定データを合わせて相関解析した。その結果、p値は3.4×10−5であり、上記SNPが2型糖尿病患者に強い相関を示した。
【0105】
(実施例6)
実施例3と同様に、EIF2AK4遺伝子の発現を変化させる物質のスクリーニング系について検討した。EIF2AK4遺伝子(ラットのEIF2AK4遺伝子)のsiRNAをデザインし(配列表の配列番号4〜6)、トランスフェクション用試薬(Lipofectamine2000)を用いて2通りの継代数の膵β細胞株INS−1細胞にトランスフェクションし、48〜72時間後にトータルRNAを回収しTaqManアッセイでEIF2AK4遺伝子の発現量を定量した。その結果、膵β細胞株INS−1細胞に投与した3種のsiRNAのいずれも、siRNAを投与していないネガティブコントロールに比してmRNAレベルで約70−90%の発現の減少が確認された(図4)。
【配列表フリーテキスト】
【0106】
配列番号1〜3:KCNQ1遺伝子のsiRNA
配列番号4〜6:EIF2AK4遺伝子のsiRNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取されたDNA含有試料において、EIF2AK4遺伝子に存在する1以上の多型を検出することを含む、上記被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法。
【請求項2】
被験者から採取されたDNA含有試料において、EIF2AK4遺伝子に存在する多型であって、一方のアリール頻度が、任意の2型糖尿病非罹患者集団におけるよりも任意の2型糖尿病患者集団において高い多型からなる群より選ばれる1以上の多型を検出することを含む、上記被験者の2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法。
【請求項3】
前記多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2250402で示される多型、および上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
rs2250402の遺伝子型がCである場合に、2型糖尿病に対する遺伝的感受性が高いと判定する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2307027、rs3741872、rs574628、rs2233647、rs3785233およびrs2075931で示される多型、ならびに上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型であって、一方のアリール頻度が、任意の2型糖尿病非罹患者集団におけるよりも任意の2型糖尿病患者集団において高い多型からなる群より選ばれる1以上の多型を検出することをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
rs2307027の遺伝子型がC、rs3741872の遺伝子型がC、rs574628の遺伝子型がG、rs2233647の遺伝子型がG、rs3785233の遺伝子型がC、および/またはrs2075931の遺伝子型がAである場合に、2型糖尿病に対する遺伝的感受性が高いと判定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
EIF2AK4遺伝子に存在する1以上の多型を検出し得る1以上の核酸プローブおよび/またはプライマーを含む、2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査用キット。
【請求項8】
NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2250402で示される多型、および上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型からなる群より選ばれる1以上の多型を検出し得る1以上の核酸プローブおよび/またはプライマーを含む、2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査用キット。
【請求項9】
前記核酸プローブおよび/またはプライマーが、遺伝子型がC/Aのrs2250402を検出し得る核酸プローブおよび/またはプライマーである、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2307027、rs3741872、rs574628、rs2233647、rs3785233およびrs2075931で示される多型、ならびに上記多型と連鎖不均衡係数D'が0.9以上の連鎖不均衡状態にある多型からなる群より選ばれる1以上の多型を検出し得る1以上の核酸プローブおよび/またはプライマーをさらに含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
前記核酸プローブおよび/またはプライマーが、遺伝子型がC/Tのrs2307027、遺伝子型がC/Aのrs3741872、遺伝子型がG/Aのrs574628、遺伝子型がG/Aのrs2233647、遺伝子型がC/Aのrs3785233、および/または遺伝子型がA/Gのrs2075931を検出し得る核酸プローブおよび/またはプライマーである、請求項10に記載のキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−48639(P2013−48639A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−268965(P2012−268965)
【出願日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【分割の表示】特願2007−325366(P2007−325366)の分割
【原出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】