説明

遺伝子導入剤の製造方法

【課題】分岐鎖の側鎖を短時間で加水分解し、血清を含む培地において優れた遺伝子導入活性を示す遺伝子導入剤を効率的に製造することができる遺伝子導入剤の製造方法を提供する。
【解決手段】分岐鎖を有する分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤を製造する方法において、芳香環に該芳香環から放射状に伸延する、少なくとも2−N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリレート及び/又はその誘導体を重合してなる複数の分岐鎖を導入することにより分岐型重合体を製造する分岐型重合体製造工程と、得られた分岐型重合体を加水分解する加水分解工程とを有する遺伝子導入剤の製造方法であって、該加水分解工程は、サイズ排除カラムに、該分岐型重合体を含む溶液を通液する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐鎖を有する分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤の製造方法に係り、詳しくは、血清を含む培地において優れた遺伝子導入活性を示す遺伝子導入剤を短時間で効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。外来DNAの導入のためのベクターとして、合成高分子ベクター、カチオン性脂質ベクターが研究開発されている。
【0003】
本出願人らは、DNAを細胞中に運搬するための合成高分子ベクターとして、ベンゼンなどの芳香環を核としてカチオン性ポリマー鎖が放射状に伸延する分岐構造のベクターがDNAを高密度で凝縮させて小さな核酸複合体微粒子を形成させ、効率良く細胞へ遺伝子導入できることを見出し、先に特許出願した(特許文献1,2)。
【0004】
上記特許文献1,2に記載されるベンゼン環から放射状にポリマー鎖が伸延する遺伝子導入剤は、同じモノマーユニットからなる線形ポリマーと比較して、その構造上、電荷密度を高く配置することが可能である。このため、DNAやRNAなどの核酸との複合体をより強く凝集させることが可能であり、より強く酵素などの作用から核酸を保護できるポリプレックス粒子を形成させることができ、遺伝子導入活性が向上した。しかしながら、このカチオン性ポリマーを含む遺伝子導入剤は、細胞を培養するのに最適な環境である血清を含む培地において、高い遺伝子導入活性を示さない。これは、上述のカチオン性ポリマーを含む遺伝子導入剤が、pHが7程度の中性条件下にあっても高いゼーター電位を有しているため、核酸を凝集することができるが、血清中のアニオン性のタンパクなども吸着・凝集してマクロ粒子を形成してしまい、細胞内に取り込まれにくくなったり、DNAがトランスポーターに認識されにくくなるためであると考えられる。
【0005】
本出願人らは、血清を含む培地においても効率的に遺伝子を導入することができる遺伝子導入剤として、所定温度未満ではカチオン性を示し、所定温度以上では遺伝子導入剤全体として親水性を示す感温性カチオン性ポリマーからなる遺伝子導入剤を見出し、先に特許出願した(特許文献3)。
【0006】
特許文献3に記載される遺伝子導入剤は、少なくとも2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体を重合してなる重合体を分岐型重合体の分岐鎖として導入し、この分岐鎖の一部を加水分解しているため、血清を含む培地において細胞に遺伝子を導入する場合であっても、効率的に遺伝子を導入することができる。即ち、この特許文献3の遺伝子導入剤にあっては、加水分解により生成したアニオン性官能基の効果により、遺伝子導入剤全体としては親水性を示すようになるため、これにより、血清を含む培地においても、アニオン性タンパクや、血清中の脂質などを吸着することなく、高い遺伝子導入活性を示す。この特許文献3の実施例では、前述の加水分解を、RO水を透析液として、25℃で120時間透析することにより行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2004/092388号公報
【特許文献2】特開2007−70579号公報
【特許文献3】特願2009−227405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この特許文献3に記載される遺伝子導入剤は、優れた遺伝子導入活性を示すものであり、遺伝子導入剤としての有用性が高いものであるが、製造に必要な時間が長いため、製造時間を短縮することが望まれる。即ち、一般的な加水分解では、反応溶液を加温することにより反応を促進させることができるが、特許文献3に係る分岐型重合体は、加温すると当該分岐型重合体が水中で脱溶媒和され、グロビュール構造のコロイド粒子を形成し、水との親和性が低下するため、分子全体を均一に加水分解することができなくなると共に、特にコロイド粒子の内郭部分の加水分解が進行しにくくなる。従って、特許文献3では、分岐型重合体が水に対して均一に溶解する温度で透析することにより加水分解を行っているが、この温度では加水分解が進行しにくく、製造に時間がかかるため、更なる改善が望まれている。
【0009】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであり、特許文献3におけるような分岐型重合体の加水分解に要する時間を短縮し、血清を含む培地において優れた遺伝子導入活性を示す遺伝子導入剤を効率的に製造することができる遺伝子導入剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の遺伝子導入剤の製造方法は、分岐鎖を有する分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤を製造する方法において、芳香環に該芳香環から放射状に伸延する、少なくとも2−N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリレート及び/又はその誘導体を重合してなる複数の分岐鎖を導入することにより分岐型重合体を製造する分岐型重合体製造工程と、得られた分岐型重合体を加水分解する加水分解工程とを有する遺伝子導入剤の製造方法であって、該加水分解工程は、サイズ排除カラムに、該分岐型重合体を含む溶液を通液する工程を含むことを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1において、前記サイズ排除カラム内の圧力が30〜80kg/cmであることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1又は2において、前記サイズ排除カラムは、多孔性ポリマー粒子が充填されたものであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項3において、前記多孔性のポリマー粒子は、粒径が10μm以下であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項5の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項3又は4において、前記多孔性ポリマー粒子は、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体、ポリビニルアルコール、及びポリアクリルアミドからなる群から選択される1種以上であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項6の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項5において、前記多孔性ポリマー粒子がスチレン/ジビニルベンゼン共重合体であり、サイズ排除カラム内の圧力が40〜80kg/cmであることを特徴とするものである。
【0016】
請求項7の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項5において、前記多孔性ポリマー粒子がポリビニルアルコールであり、サイズ排除カラム内の圧力が30〜40kg/cmであることを特徴とするものである。
【0017】
請求項8の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記サイズ排除カラムの理論段数が、1,000/10cm以上であることを特徴とするものである。
【0018】
請求項9の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし8のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤のLCST(Lower Critical Solution Temperature)が、37〜60℃であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項10の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし9のいずれか1項において、前記分岐型重合体は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくとも前記2−N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリレート及び/又はその誘導体を光照射リビング重合させてなるものであることを特徴とするものである。
【0020】
請求項11の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項10において、前記N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合したものであることを特徴とするものである。
【0021】
請求項12の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし11のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤の分子量は、2,000〜600,000であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の遺伝子導入剤の製造方法では、少なくとも2−N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリレート及び/又はその誘導体(以下、2−N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリレート及び/又はその誘導体を、「DAAAM」と称す場合がある。)を重合してなる分岐鎖のDAAAM由来の構成単位(以下、DAAAM由来の構成単位を、「DAAAM単位」と称す場合がある。)の加水分解を、サイズ排除カラムを利用して、短時間で行うことができる。また、加水分解をサイズ排除カラムで行うため、加水分解と同時に遺伝子導入剤を精製することもできる。
【0023】
前記圧力は、30〜80kg/cmであることが好ましい(請求項2)。圧力が前記範囲内であれば、より一層加水分解の時間の短縮を図ることができる。
【0024】
前記サイズ排除カラムとしては、多孔性ポリマー粒子が充填されたものであることが好ましく(請求項3)、この多孔性のポリマー粒子は、粒径が10μm以下であることが好ましい(請求項4)。
【0025】
前記多孔性ポリマー粒子は、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体、ポリビニルアルコール、及びポリアクリルアミドからなる群から選択される1種以上であることが好ましい(請求項5)。
【0026】
前記多孔性ポリマー粒子として、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体の粒子を用いた場合、サイズ排除カラム内の圧力は40〜80kg/cmであることが好ましく(請求項6)、多孔性ポリマー粒子としてポリビニルアルコールの粒子を用いた場合、サイズ排除カラム内の圧力は30〜40kg/cmが好ましい(請求項7)。
【0027】
前記サイズ排除カラムの理論段数は、1,000/10cm以上であることが好ましい(請求項8)。理論段数が前記範囲内であれば、短時間で加水分解を行うことができると共に、加水分解により生じたアルコールと、目的とする遺伝子導入剤とを分離することができる。
【0028】
前記遺伝子導入剤のLCST(Lower Critical Solution Temperature)は、37〜60℃であることが好ましい(請求項9)。遺伝子導入剤のLCSTが、36℃以上、特に37〜60℃であると、細胞を培養するために最適な温度である35〜37℃の条件において、遺伝子導入剤が部分的には疎水性を示すが、全体としては親水性を示し、遺伝子導入剤同士の凝集が生じない。これにより、この遺伝子導入剤からなる核酸複合体も、血清中の疎水性物質や、核酸複合体同士の凝集も生じにくくなり、また、血清に含まれるコレステロールやアルブミンなどの疎水性物質を可溶化する成分などの影響も受けにくくなり、さらに、疎水性のポリスチレン製シャーレへの吸着も防止される。
【0029】
前記分岐型重合体は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくとも前記DAAAMを光照射リビング重合させてなるものであることが好ましく(請求項10)、前記N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合したものであることが好ましい(請求項11)。
【0030】
前記遺伝子導入剤の分子量は、2,000〜600,000であることが好ましい(請求項12)。遺伝子導入剤の分子量が上記範囲内であると、高分子量化を抑えた上で、より効率的に遺伝子導入剤と核酸とを複合化させることができ、低分子量で遺伝子導入効率に優れた遺伝子導入剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0032】
[1]遺伝子導入剤の製造方法
本発明の遺伝子導入剤の製造方法は、芳香環に放射状に伸延する、DAAAMを重合してなる複数の分岐鎖を導入する分岐型重合体製造工程と、この工程により得られた分岐型重合体を加水分解する加水分解工程とを有するものであって、この加水分解工程が、サイズ排除カラムに該分岐型重合体を含む溶液を通液する工程を含むことを特徴とする。
【0033】
本発明の遺伝子導入剤の製造方法によれば、分岐型重合体を含む溶液をサイズ排除カラムに通液するという簡単な操作で、短時間で、目的とする遺伝子導入剤を得ることができると共に、精製を行うこともできる。
【0034】
本発明の遺伝子導入剤の製造方法を説明するにあたり、まず、加水分解工程について説明し、次いで、分岐型重合体製造工程について説明する。
【0035】
[加水分解工程]
本発明の遺伝子導入剤の製造方法に係る加水分解工程においては、具体的には、分岐型重合体を含む溶液を、多孔性ポリマー粒子を充填したサイズ排除カラムに通液することにより、分岐型重合体の加水分解を行うことができる。
【0036】
本発明における分岐型重合体を含む溶液の通液速度は、0.1mL/分以上、例えば0.1〜10mL/分程度、特に0.5〜5.0mL/分程度であることが好ましく、サイズ排除カラム内の圧力は、一般的に30kg/cm以上、特に50〜70kg/cm程度とすることが好ましい。また、前記多孔性ポリマー粒子として、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体からなる粒子を用いた場合には、サイズ排除カラム内の圧力を40〜80kg/cmに調整することが好ましく、多孔性ポリマー粒子としてポリビニルアルコールからなる粒子を用いた場合にあっては、サイズ排除カラム内の圧力を30〜40kg/cmに調整することが好ましい。通液速度、圧力が前記範囲内であれば、より短時間で加水分解を行うことができる。前記溶液の分岐型重合体の濃度は、1〜300g/L、10〜100g/L程度が好ましい。分岐型重合体の濃度が高いと、圧力が高くなり過ぎたり、サイズ排除カラムが閉塞する場合があり、濃度が低いと1回の加水分解工程で加水分解することができる分岐型重合体の量が低下するため効率的ではない。
【0037】
本発明に用いるサイズ排除カラムの直径は、5〜40mm程度が好ましく、サイズ排除カラムの長さは、150〜600mm程度が好ましい。カラムの直径及び長さが前記範囲より大きいと、大きい設備が必要になると共に使用する溶媒の量が多くなるためコストが上昇し、前記範囲より小さいと、通液させることができる分岐型重合体の量が制限されるため、製造効率が低くなる。
【0038】
多孔性ポリマー粒子の粒径としては、10μm以下、特に3〜8μm程度が好ましい。多孔性ポリマー粒子の粒径が大きい場合は、サイズ排除カラム内の圧力が上がりにくくなる。粒径が前記範囲を超える場合であっても、通液速度やサイズ排除カラムの長さを調節することにより、圧力を高くすることができるが、使用する溶媒の量、多孔性ポリマー粒子の量が多くなったり、大きな設備が必要になるため好ましくない。この加水分解工程においては、加水分解による側鎖の分解の他に、せん断応力によって側鎖が切断される分解も生じていると考えられる。このせん断応力は、粒径が前記範囲内である多孔性ポリマー粒子を用いた場合に、より効率的に生じると考えられる。
【0039】
サイズ排除カラムの理論段数は、1,000〜6,000/10cm程度が好ましい。理論段数が大きいと、より純度が高い遺伝子導入剤を得ることができるが、加水分解工程に要する時間が長くなり、理論段数が小さいと、得られる遺伝子導入剤の純度が低下する場合がある。このようなサイズ排除カラムは1種を単独で用いてよく、異なる種類の2種以上のサイズ排除カラムを連結して用いてもよい。
【0040】
本発明のサイズ排除カラムを用いる加水分解における処理条件は、サイズ排除カラムに充填されている多孔性ポリマー粒子の種類により個々に異なり、また、同じ多孔性ポリマー粒子を用いた場合であっても、用いる溶媒等に応じて、都度、効率的な加水分解を行うことができるように条件設定を行う必要があり、一概に規定することはできないが、例えば、以下(1),(2)における処理条件を利用することができる。なお、以下(1),(2)は、本発明における処理条件の一例を挙げるものであり、本発明に係る加水分解工程は、サイズ排除カラムを用いて、前述の分岐型重合体の加水分解を行う範囲において何ら、以下のものに限定されるものではない。
【0041】
(1)多孔性ポリマー粒子が、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体からなる場合
≪移動相(溶媒)≫
スチレン/ジビニルベンゼン共重合体からなる多孔性ポリマー粒子が充填されたサイズ排除カラムを用いる場合の溶媒としては、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、酢酸エチル、DMSO(ジメチルスルホキシド)、ジオキサン、ジメチルアセトアミド、キシレン、トルエンが好ましい。この多孔性ポリマー粒子は、他の多孔性ポリマー粒子に比べて硬いため、このような溶媒を用いることにより、サイズ排除カラム内の圧力を上昇させやすい。
【0042】
≪多孔性ポリマー粒子の孔径≫
スチレン/ジビニルベンゼン共重合体からなる多孔性ポリマーの孔径は、5〜1,000nm程度、特に30〜600nm程度が好ましい。
【0043】
≪温度≫
サイズ排除カラムの温度としては、30℃以上、例えば40〜80℃程度、特に40〜60℃程度が好ましい。温度を前記範囲内とすることにより、室温との差が適当であるため温度制御が容易であり、トラブルなく安定して分離が行える。なお、温度を上げることで移動相の粘度が下がり、カラム内圧が低下するが、流速を上げる又は粘度の高い移動相を利用するなど当業者により適宜調整を行うことが可能である。
【0044】
(2)多孔性ポリマーがポリビニルアルコールやポリアクリルアミドなどの親水性ポリマー基材からなる場合
≪移動相(溶媒)≫
ポリビニルアルコールやポリアクリルアミドなどからなる多孔性ポリマーが充填されたサイズ排除カラムを用いる場合の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、DMSO、DMFが好ましい。この多孔性ポリマーは、他の多孔性ポリマーに比べて極性溶媒との親和性が高く、このような溶媒を用いることにより、サイズ排除カラム内の圧力を上昇させやすい。さらに、臭化リチウムなどの無機塩類を50mM以下の範囲で混合することでも移動相の粘度が上昇し、サイズ排除カラム内の圧力を上昇させやすい。過剰に無機塩類を混合すると回収した遺伝子導入剤の精製が複雑になる可能性が高く好ましくない。
【0045】
≪多孔性ポリマーの孔径≫
ポリビニルアルコールやポリアクリルアミドなどからなる多孔性ポリマーの孔径は、50〜5,000nm程度、特に100〜1,000nm程度が好ましい。
【0046】
≪温度≫
サイズ排除カラムの温度としては、前記のスチレン/ジビニルベンゼン共重合体からなる多孔性ポリマーを使用した場合におけるサイズ排除カラムの温度と同じ温度にすることが好ましい。
【0047】
本発明においては、移動相にジエチルアミンなどの2級アミンや、エタノールアミンなどの1級アミンを添加してもよい。特に、移動相として、トルエンやクロロホルムなどの無極性溶媒を用いた場合に前記アミンを添加することが好ましい。このようなアミンは、分岐鎖の一部を分解する際の良好なプロトン供与体として作用し、多孔性ポリマーからの水素引き抜き反応や、ポリマー鎖同士での水素引き抜き反応を抑制するため、分岐鎖の分解反応が優先的に生じると考えられる。また、このようなアミンを用いることは、DAAAMに含まれる3級アミンを保護することができる点、及び低分子量で沸点が低く、カチオン性ポリマーの側鎖と化学的に結合することもないので、回収した遺伝子導入剤を容易に精製できる点で好ましい。
【0048】
本発明においては、水を使用することなく製造することができるため、加水分解工程終了後に生じる加水分解を極力抑えることができる。即ち、水を用いる透析により加水分解を行う場合には、加水分解工程終了後、水による意図しない加水分解反応が進行してしまうことがあり、この加水分解により生じたアルコールが遺伝子導入剤に混入し、遺伝子導入剤の純度が低下する場合があったが、本発明によればこの問題を回避することができる。
【0049】
この方法により製造された遺伝子導入剤は、前述の通り、DAAAMに由来する構成単位を含むポリマー鎖よりなる分岐鎖を有するものであり、この分岐鎖中のDAAAM単位の一部が加水分解されているため、この加水分解により生成したアニオン性の官能基により、遺伝子導入剤全体が親水性を示し、血清中のアニオン性タンパクや、脂質を吸着することが少なく、血清を含む培地であっても、効率的に遺伝子を導入することができる。
【0050】
[分岐型重合体製造工程]
本発明において用いる分岐型重合体は、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、このイニファターに少なくともDAAAMを光照射リビング重合させたものが好ましい。
【0051】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0052】
この分岐型重合体製造工程に用いるDAAAM、すなわち、2−N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリレートは、炭素数1〜3程度の2つのアルキル基と、炭素数1又は2のアルキレン基を有するジアルキルアミノアルキルアルコールと、メタクリル酸とのエステルであることが好ましい。このようなジアルキルアミノアルキルメタクリレートとしては、前述の2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及びその誘導体が好ましい。
【0053】
イニファターとなるN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する芳香族化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基、好ましくはN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖化合物としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖化合物としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖化合物としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが挙げられる。なお、ここで、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に含まれるジアルキル部分のアルキル基としては、エチル基等の炭素数2〜18個のアルキル基が好ましいが、アルキル基に限らず、フェニル基など芳香族系の炭化水素基であっても構わない。即ち、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に限らず、N,N−ジアリールジチオカルバミルメチル基等を含む、脂肪族炭化水素基及び/又は芳香族炭化水素基で置換されたN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であれば目的を達成することができる。
【0054】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン特にトルエンが好適である。
【0055】
イニファターと上記DAAAMとを反応させるには、イニファター、及びDAAAMを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対し、DAAAMが結合した反応生成物を生成させる。
【0056】
該原料溶液中のDAAAMの濃度は0.5M以上、例えば0.5M〜2.5Mが好適であり、イニファターの濃度は1〜20mM程度が好適である。
【0057】
照射する光の波長は250〜400nmが好適であり、例えばショートアークキセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯などを用いることができる。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜90分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1〜60分程度が特に好適である。
【0058】
この光照射により、反応液中に目的とする分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製することにより、分岐鎖部分にDAAAM単位よりなるポリマー鎖が導入され、分岐鎖の末端がN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であるホモポリマーを得る。
【0059】
この分岐型重合体の分岐鎖の1本当たりの分子量としては、300〜100,000程度、特に3,000〜60,000程度が好ましい。この分子量は、光照射の時間を制御することにより調整することができる。即ち、反応時間を長くすることにより、重合反応を進行させて分子量の大きい分岐型重合体を得ることができる。
【0060】
なお、本明細書において、分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリエチレングリコール換算の数平均分子量をさす。
【0061】
本発明に係る分岐型重合体の分岐鎖は、前述のDAAAMのみからなるホモポリマーであることが好ましいが、DAAAMとDAAAMとは異なる1種以上のモノマーを導入したブロックコポリマー又はランダムコポリマーであってもよい。
【0062】
この場合の他のモノマーとしては、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等のビニル系モノマーが好適であり、具体的には、N,N−ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH、4−N,N-ジメチルアミノスチレン、及び4−アミノスチレンの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のビニル系モノマーが挙げられ、特に、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH等のカチオン性ビニル系モノマーが好ましい。これらのビニル系モノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
イニファターとDAAAMとDAAAMとは異なるモノマーとを反応させるには、前述のイニファターとDAAAMとを反応させる場合と同様に、イニファター、DAAAM、及びDAAAM以外のモノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対し、DAAAM及びDAAAM以外のモノマーが結合したランダムコポリマーを得る。
【0064】
また、上記イニファターに対し、まず、DAAAMをブロック重合させて、ホモポリマーを形成し、その後、このホモポリマーに3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをブロック重合させ、分岐鎖の基端側をDAAAMのブロックポリマー、分岐鎖の先端側を3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドブロックポリマーで構成した分岐鎖としてもよい。このように、分岐鎖を2種類以上のモノマーのブロックコポリマーとする場合、イニファターに対する重合の順序は任意である。いずれの場合も分岐鎖の末端は、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基となる。
【0065】
[2]遺伝子導入剤
本発明の遺伝子導入剤の製造方法により製造される遺伝子導入剤(加水分解後の分岐型重合体)は、LCST(Lower Critical Solution Temperature)が、36℃以上であることが好ましく、特に37〜60℃程度、とりわけ40〜50℃程度であることが好ましい。このLCSTが上記下限未満であると、細胞培養環境下において、遺伝子導入剤が疎水性を示すため、この遺伝子導入剤と核酸とからなる核酸複合体同士、もしくは、核酸複合体と血清に含まれる疎水性物質とが凝集することにより遺伝子導入効率が低下する。また、核酸複合体が血清中の疎水性物質可溶化成分の影響を受ける場合や、ポリスチレン製シャーレに吸着されやすくなるなどの不具合が生じるおそれがある。また、LCSTが上記上限を超える場合は、遺伝子導入剤が遺伝子導入剤の分子内及び/又は分子間でイオン結合性に凝集したり、遺伝子導入剤がアニオン性高分子である核酸と複合体を形成しにくくなる。なお、前記加水分解を過度に行うと、側鎖のアニオン性部位が多くなり、本来、カチオン性高分子である遺伝子導入剤がアニオン性に変化し、LCSTが上記上限を超え易くなる。従って、LCSTが上記範囲内、即ち36℃以上であれば効率的に細胞に遺伝子を導入することができる。なお、LCSTの測定方法は、後述の実施例の項に記載される通りである。
【0066】
遺伝子導入剤(加水分解工程後の分岐型重合体)の分岐鎖1本当たりの分子量としては、300〜100,000程度、特に1,000〜60,000程度が好ましいが、この遺伝子導入剤に含まれるDAAAM単位の合計の分子量は、分岐鎖の鎖数にもよるが、1,200〜590,000程度、特に10,000〜250,000程度が好ましい。この場合の遺伝子導入剤に含まれるDAAAM単位の合計の分子量とは、加水分解されていないDAAAM単位と、加水分解されたDAAAM単位の合計の分子量である。
【0067】
なお、この遺伝子導入剤(加水分解後の分岐型重合体)に含まれるDAAAM単位のうち、加水分解されているDAAAMの割合は、上述のLCSTを満足し得る程度であればよく、特に制限はない。即ち、本発明においては、前述の分岐型重合体を上述のLCSTを満たすように加水分解を行うことが好ましい。この加水分解の程度は、上述の透析による加水分解において、透析時間を調整することにより容易に制御することができ、即ち、透析時間が長い程、加水分解率が高く、従って、LCSTが高く、親水性の高い遺伝子導入剤を得ることができる。
【0068】
また、遺伝子導入剤の分子量としては、2,000〜600,000程度、特に10,000〜300,000程度が好ましい。
【0069】
[3]核酸複合体
上記の遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を核酸含有複合体として包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
【0070】
上記遺伝子導入剤と核酸とを複合させるには、遺伝子導入剤の濃度0.1〜1000μg/mL程度の溶液に対し、核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対して遺伝子導入剤を過剰量添加し、核酸に対して遺伝子導入剤を飽和状態にして遺伝子導入剤と核酸とを複合化することが好ましい。
【0071】
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0072】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0073】
核酸複合体の粒径は50〜400nm程度が好適である。この粒径は、例えばレーザを用いた動的光散乱法によって測定される。粒径がこれよりも小さいと、核酸複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0074】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0075】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0076】
核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
【0077】
この核酸複合体は培養試験に用いるほか、任意の方法で生体に投与することができる。
【0078】
生体への投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0079】
この核酸複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0080】
また、この核酸複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0081】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0082】
この核酸複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
i)イニファターの合成
イニファターとしての1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0085】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム34.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下、室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、3Lのメタノール中に投入して30分間攪拌した後、濾過した。この操作を繰り返し合計4回行った。沈殿物をトルエン200mLへ溶解した後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫内で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0086】
H−NMR(in CDCl)の測定結果は、δ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)であった。
【0087】
【化1】

【0088】
ii)4分岐型スター型重合体よりなる感温性カチオン性ホモポリマーの光重合による合成
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートをモノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAEMAAと記載することがある。)よりなる感温性カチオン性ホモポリマーの合成を行った。
【0089】
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート8.5gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで10分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で、波長250〜400nmの混合紫外線を60分間照射した。照射強度は、ウシオ電機社のUIT−150へUVD−C405(検出波長範囲320〜470nm)を装着して2.5mW/cmに調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、n−ヘキサンで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/n−ヘキサン系で3回再沈殿を繰り返して精製し、n−ヘキサンを蒸散させた後に少量のベンゼンへ溶解し、0.2μmフィルターで濾過した後、凍結乾燥させて、目的とする4分岐型スター型重合体(pDMAEMAA)よりなる感温性カチオン性ホモポリマーを得た。この感温性カチオン性ホモポリマーのポリエチレングリコールを標準物質とした数平均分子量は、GPCにより、11,000(Mw/Mn=1.4)と測定された。また、計算により分岐鎖1本当たりの分子量は、2570であることが分かった。
【0090】
H−NMR(in CDOD)の測定結果は、δ0.8−1.2ppm(br,3H,−CH−CH−),δ1.6−2.0ppm(br,2H,−CH−CH−),δ2.2−2.4ppm(br,6H,N−CH),δ2.5−2.7ppm(br,2H,CH−N),δ4.0−4.2ppm(br,2H,O−CH)であった。
【0091】
【化2】

【0092】
iii)4分岐型スター型重合体よりなる感温性カチオン性ホモポリマーの側鎖の部分加水分解
<液体クロマトグラフ装置による加水分解>
上記ii)で合成した感温性カチオン性ホモポリマー0.3gを3mLのクロロホルムへ溶解し、この溶液を高速液体クロマトグラフ装置(島津製作所製「LC−10Avpシリーズ」)を用いて、表1に示すProtocol−A1〜A5及びB1〜B6の条件で処理することにより側鎖の部分加水分解を行った。なお、いずれのProtocolにおいても、Shodex社製のカラム2本を連結して用いた。各カラムの特性を表2に示す。
【0093】
いずれのProtocolにおいても、ポリマー総溶出時間のうち、溶出開始から10%、及び溶出終了から手前10%以外の時間において溶出したポリマー成分を回収した。ポリマー成分の回収は40分内に完了した。
【0094】
<ポリマーの精製>
各Protocolにおいて、回収したポリマー溶液をそれぞれエバポレーターで濃縮し、n−ヘキサン/ジエチルエーテル系で再沈殿させることにより、ポリマー成分を得、それぞれ少量のベンゼンに溶解させてから凍結乾燥することで各ポリマーの粉末を得た。各Protocolで得られた遺伝子導入剤の分子量、及びこの分子量より遺伝子導入剤の分岐鎖1本当たりの分子量を計算により求めた。結果をそれぞれ表1に示す。なお、Protocol−A5(比較例1−2)及びB6(比較例2−3)のポリマーは、溶媒に対して溶解しないものであったため、これらのポリマーについては分子量の測定及び後述の曇点の測定を行わなかった。
【0095】
<曇点の測定>
各Protocolにより得られたポリマーの水溶液を調製し、この水溶液の温度を上昇させることにより溶液が白濁する温度(LCST:曇点)の測定を行った。
【0096】
即ち、各ホモポリマーの3重量%水溶液を調製し、これらの水溶液の20〜60℃の温度範囲における波長600nmの光の吸光度を測定した。結果を表1に示す。なお、加水分解を行っていない未処理のポリマーは、32.0℃付近にLCSTを有していた。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
表1より明らかなように、各Protocolにおいて、カラム内の圧力が大きく異なっていた。各カラムに充填される多孔性ポリマーの粒子径、移動相の種類、粘度、通液速度及びカラム温度の差異が、圧力損失に影響したと考えられる。
【0100】
なお、ii)において合成した感温性カチオン性ホモポリマーの分岐鎖の予想される加水分解の化学式を示す。この化学式は、分岐鎖に含まれる2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート由来の構成単位1個分の加水分解を示したものである。
【0101】
【化3】

【0102】
<考察>
Protocol−A1,B1,B2(比較例1−1,2−1,2−2)は、カラム内の圧力が低く、ポリマー側鎖の分解が起こらなかったため、曇点(LCST)に変化がなかったと考えられる。これに対して、Protocol−A3,A4,B3,B4,B5(実施例1−2,1−3,2−1,2−2,2−3)は、圧力が高く、カラム内で分解が生じたため曇点(LCST)が上昇したと考えられる。即ち、側鎖の部分的な加水分解によりアニオン性の官能基が露出し、温度の変化によりアミンが脱溶媒和しても親水性が維持されたため、水への溶解性が高まったと考えられる。
【0103】
なお、Protocol−A5,B6(比較例1−2,2−3)では、回収したポリマー成分が室温でも水に溶解しなかった。これは側鎖の加水分解が進行し過ぎて、ポリマー同士がイオン結合的に架橋、凝集し、ゲル化した、又は分解と同時に架橋反応がカラム内で生じ、水不溶性の成分となったためであると考えられる。Protocol−A5、B6により加水分解した重合体は、水への溶解性が低いことから、遺伝子導入剤として使用するのは困難であると考えられる。
【0104】
加水分解工程を透析により行う製造方法では、分岐型重合体を回収してから目的とする遺伝子導入剤を得るまでに5日程度要するが、本発明の遺伝子導入剤の製造方法によれば、1時間程度で済む。即ち、本発明の製造方法によれば、容易に、かつ短時間でポリマー側鎖の部分加水分解を行うことができ、目的とする遺伝子導入剤を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐鎖を有する分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤を製造する方法において、
芳香環に該芳香環から放射状に伸延する、少なくとも2−N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリレート及び/又はその誘導体を重合してなる複数の分岐鎖を導入することにより分岐型重合体を製造する分岐型重合体製造工程と、
得られた分岐型重合体を加水分解する加水分解工程と、
を有する遺伝子導入剤の製造方法であって、
該加水分解工程は、サイズ排除カラムに、該分岐型重合体を含む溶液を通液する工程を含むことを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記サイズ排除カラム内の圧力が30〜80kg/cmであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記サイズ排除カラムは、多孔性ポリマー粒子が充填されたものであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記多孔性のポリマー粒子は、粒径が10μm以下であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4において、前記多孔性ポリマー粒子は、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体、ポリビニルアルコール、及びポリアクリルアミドからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、前記多孔性ポリマー粒子がスチレン/ジビニルベンゼン共重合体であり、サイズ排除カラム内の圧力が40〜80kg/cmであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項7】
請求項5において、前記多孔性ポリマー粒子がポリビニルアルコールであり、サイズ排除カラム内の圧力が30〜40kg/cmであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記サイズ排除カラムの理論段数が、1,000/10cm以上であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤のLCST(Lower Critical Solution Temperature)が、37〜60℃であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、前記分岐型重合体は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくとも前記2−N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリレート及び/又はその誘導体を光照射リビング重合させてなるものであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、前記N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合したものであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤の分子量は、2,000〜600,000であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。

【公開番号】特開2011−207813(P2011−207813A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77279(P2010−77279)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
【Fターム(参考)】