説明

遺伝子改変装置

【課題】経済性、安全性、操作性にそれぞれ優れ、また、副作用の心配も殆ど無く、癌細胞等の遺伝子を好適に切断可能な遺伝子改変装置を提供する。
【解決手段】超短パルスレーザPを導入する導入口41xと、真空または希ガスを封入して成り前記導入口41xから導入した超短パルスレーザPにより電子を加速させる細孔41zと、前記細孔41zで加速された電子ビームQ1を被照射体の遺伝子Maを切断するために該遺伝子Maに対して射出する射出口41yとを具備して成るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超短パルスレーザを利用して加速した電子ビームを被照射体の遺伝子に照射して、その遺伝子を切断するように構成した遺伝子改変装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、加速器からの陽子線や重量子線を用いた治療装置は、エネルギーに応じてある深さで急に強くなるがその前後は弱いといった陽子線や重量子線の特性を利用することで、ピークの部分を癌の患部に合わせれば正常の組織の障害を少なくしながら有効な治療効果を得られることから、身体表面近くで最も強く深く進むにつれて減弱するといった特性を有するx線、ガンマ線、中性子線を用いた治療装置に代えて用いられるようになっている。
【0003】
具体的にこの種の治療装置は、加速器からの陽子ビームを受けるビームラインと、このビームラインを搭載した回転ガントリーとを具備するものであって、ビームラインは、陽子ビームを加速器側から被検者側に向けて偏向させる偏向電磁石と、この偏向電磁石を介してビームの照射野を被検者の治療部に応じて形成する照射野形成装置とを備えて成る一方、回転ガントリーは、被検者の回りで略90度の回転角を有する半径方向の照射位置に偏向電磁石及び照射野形成装置を含むビームラインを空間的に回転させる回転手段(回転用フレーム、及び回転機構(突出体、ガイド))を備えて成るように構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平10−94617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の構成では、その装置の巨大さから例えば多くの専従操作員が必要であり、放射線防御管理が大変であるといった問題点を有している。しかも、最低でも全国都道府県規模で、安価、安定、安全な無痛治療装置が備えられなければ、健全な保険医療とはならない。また、従来型パルスレーザは、励起光源とレーザ本体との結合効率が%以下という悪さであり、大掛かりな冷却系を必要とする上、システム要素間の伝搬経路を確保するためには、部屋全体の防振、空調が不可欠であり、非常にコスト高になるといった問題点を有している。また、超高強度レーザ装置を用いたとしても、チャープパルス増幅法が一般的に用いられるため、上述した問題が技術的にさらに深刻である。
【0005】
そこで本発明は、経済性、安全性、操作性にそれぞれ優れ、また、副作用の心配も殆ど無く、癌細胞等の遺伝子を好適に切断できるといった遺伝子改変装置を提供することをその主たる課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る遺伝子改変装置は、超短パルスレーザを導入する導入口と、真空または希ガスを封入して成り前記導入口から導入した超短パルスレーザにより電子を加速させる細孔と、前記細孔で加速された電子ビームを被照射体の遺伝子を切断するために該遺伝子に対して射出する射出口とを具備して成ることを特徴とする。
【0007】
ここで、「被照射体」とは、動物・植物・微生物など生命をもつ狭義の生物に限らず、例えば、ウイルスをも含む広い概念である。また、この被照射体は、例えば、パレットで培養しているもの等、生体外にあるものであっても良い。また、「電子ビームを遺伝子に射出する」とは、電子ビームを遺伝子に直接射出することを含むのは無論のこと、電子ビームを利用して得られるイオンビーム等を遺伝子に射出することをも含む概念である。
【0008】
このようなものによれば、導入口から超短パルスレーザを細孔に導入すれば、該細孔内で加速された癌治療に有効な数MeV以上の電子ビームを、射出口から射出することができるので、この電子ビームを被照射体の癌細胞に射出すれば、癌細胞の遺伝子を切断でき、良好な治療効果を期待することができる。しかも、細孔を、例えば、内径が60μmで長さが10mm程度のものとすれば、人体に対して無用な負荷を与えることなく、射出口を、直接腫瘍付近に接近することができるので、余分な部位への照射がなくなり、従来の放射線治療装置に比べ、数十Gyの線量を一桁以上減少することが可能となる。また、例えば、シンクロトロン炭素線治療装置に比べ、装置の省スペース化及び低価格化を実現できるため、治療現場への導入の促進を図ることができる上、植物の遺伝子を改変するといった治療目的以外の用途への活用も、容易に行うことができる。
【0009】
すなわち、経済性、安全性、操作性にそれぞれ優れ、また、副作用の心配も殆ど無く、癌細胞等の遺伝子を好適に切断できるといった遺伝子改変装置を提供することができる。
【0010】
なお、本発明の望ましい態様としては、両端に開口を有する中空細管と、この中空細管の両端開口を超短パルスレーザを通過可能としながら気密的に閉塞する気密部とを具備し、前記中空細管の一方の開口を導入口に設定し、他方の開口を射出口に設定し、各開口を繋ぐ中空細管内部の貫通孔を細孔に設定してるものが挙げられる。
【0011】
装置を安価に構成するには、前記中空細管および前記気密部を、ガラスにより一体的に形成していることが好ましい。
【0012】
装置自体の小型化を図りつつ、細孔内での電子ビームの加速及び輻射の高効率化を図るには、前記超短パルスレーザを発生する超短パルスレーザ発生部を具備して成ることが望ましい。
【0013】
超短パルスレーザの導入口への導光効率を向上させるためには、前記超短パルスレーザを前記導入口へ光学的または形状的に集光する集光部を設けていることが好ましい。
【0014】
前記集光部が、略コーン形状を有するものであれば、簡単な構成でありながら、超短パルスレーザを、導入口に効果的に導光することができる。
【0015】
前記電子ビームを衝突させることにより、反衝突面側に前記遺伝子に照射可能なイオンビームを発生する薄膜を具備して成るのであれば、イオンビームによって、例えば、螺旋構造をなす2本のDNA鎖を、一度に切断することができる。
【0016】
この場合には、前記射出口と前記薄膜との間の空間を真空にしていることが望ましい。このように構成すれば、該空間での無用な照射ロスを防止できるからである。
【0017】
前記細孔の少なくとも射出口側を、前記被照射体の内部に配して使用するのであれば、例えば、被照射体としての身体内部の深い位置へ電子ビームを照射することができ、しかも、身体を無用に傷つけることを防止できる。
【発明の効果】
【0018】
このように本発明に係る遺伝子改変装置は、導入口から超短パルスレーザを細孔に導入すれば、該細孔内で加速された癌治療に有効な数MeV以上の電子ビームを、射出口から射出することができるので、この電子ビームを被照射体の癌細胞に射出すれば、癌細胞の遺伝子を切断でき、良好な治療効果を期待することができる。しかも、細孔を、例えば、内径が60μmで長さが10mm程度のものとすれば、人体に対して無用な負荷を与えることなく、射出口を、直接腫瘍付近に接近することができるので、余分な部位への照射がなくなり、従来の放射線治療装置に比べ、数十Gyの線量を一桁以上減少することが可能となる。また、例えば、シンクロトロン炭素線治療装置に比べ、装置の省スペース化及び低価格化を実現できるため、治療現場への導入の促進を図ることができる上、植物の遺伝子を改変するといった治療目的以外の用途への活用も、容易に行うことができる。
【0019】
すなわち、経済性、安全性、操作性にそれぞれ優れ、また、副作用の心配も殆ど無く、癌細胞等の遺伝子を好適に切断できるといった遺伝子改変装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態の遺伝子改変装置Aは、内部照射型治療器として用いられるものであって、図1、図2、図3に示すように、電源1に接続され超短パルスレーザPを発生する超短パルスレーザ発生部2と、この超短パルスレーザ発生部2で発生した超短パルスレーザPを集光する集光部3と、この集光部3で集光した超短パルスレーザPを導入し加速された電子ビームQ1を射出するキャピラリー部4とを具備し、患者Mを載置する載置台Bと、この載置台Bの上面側に設けたガントリーC等とともに使用される。以下、各部を具体的に説明する。
【0022】
超短パルスレーザ発生部2は、図示しない半導体レーザ励起固体素子と、ファイバー増幅およびパルス幅圧縮を兼ねるファイバー伝送系21とを具備し、繰返し1kHz、ピーク出力1TW、平均出力100Wの超短パルスを発生するものであって、本実施形態では、畳1畳に収まる安定、可搬型のものとしている。
【0023】
集光部3は、両端部にそれぞれ開成する小口部31及び大口部32を備えるとともに、これら小口部31から大口部32にかけて漸次拡大する内部導光空間3aを備えた略切頭円錐形状(換言すると略コーン形状)を成す金属製のものであって、大口部32から導入する超短パルスレーザPを小口部31に集光し、集光した超短パルスレーザPを、後述するキャピラリー部4の導入口41xに対して射出し得るように、該小口部31とキャピラリー部4の導入口41xとを接続している。なお、本実施形態では、小口部31の内径を60μm、大口部32の内径を500μmで、全長を900μmとしているが、各寸法は、これに限られるものではなく、実施態様に応じて適宜変更することができる。
【0024】
キャピラリー部4は、内部に希ガスを充填したガス封入型のものであって、外径が100μmで、内径が60μmで、全長が10mmの中空細管41と、この中空細管41の両端開口を超短パルスレーザPを通過可能としながら気密的に閉塞する気密部42とを具備し、これら各部をガラスにより一体的に形成している。そして、前記中空細管41における超短パルスレーザ発生部2側の開口を、超短パルスレーザPを導入する導入口41xに設定する一方、患者M側の開口を、前記細孔41zで加速された電子ビームQ1を患者Mの遺伝子Maを切断するために該遺伝子Maに対して射出する射出口41yに設定し、これら各開口を繋ぐ中空細管41内部の貫通孔を、前記導入口41xから導入した超短パルスレーザPにより電子を加速させる細孔41zに設定している。なお、中空細管41の内径を100μmとし、全長を100mmとするなど、各部の寸法は、実施態様に応じて適宜変更することができる。
【0025】
次に上記構成の遺伝子改変装置Aの動作について説明する。
【0026】
まず、載置台Bに横臥させた患者Mに対してキャピラリー部4の先端側を挿入し、導入口41xを患部M1(例えば、癌細胞)に近接または患部M1内に位置付ける。なお、キャピラリー部4は、図示しない支持部材を利用して、載置台Bに固定しても良いしガントリーCに固定しても良い。また、患者Mを利用して固定することを妨げない。
【0027】
そして、超短パルスレーザ発生部2で発生した超短パルスレーザPを、集光部3を介して導入口41xに対して射出すると、細孔41z内に、プラズマ波が発生する。このプラズマ波によって、電子は高エネルギー(図4に示すように、全長1.2mmの中空細管に比べ、当該実施形態の全長10mmの中空細管が、エネルギーに広がりがあり、最大で100MeV(1億電子ボルト)ものエネルギーを有する。)まで加速され、10MeV電子10/shot程度の電子ビームQ1およびγ線を射出口41yから射出することができる。
【0028】
そしてこのようにして射出口41yから射出する電子ビームQ1を、患部M1に対して照射すれば、図5に示すように、患部M1の遺伝子Maを好適に切断することができる。このとき、電子ビームQ1の強度などを調整すれば、螺旋をなす二本鎖Ma1、Ma2のうち一本のみを切断することもできるし、或いは、両方を一度に切断することもできる。
【0029】
したがって、このような遺伝子改変装置Aによれば、患部M1の遺伝子Maを好適に切断し、患部M1を治療することができる。また、外科療法などに比べ、切開の必要がないので深部の腫瘍治療に優位性があるのに加え、従来の加速器を用いた放射線治療装置に比べても副作用および呼吸運動による照射不安定の問題も殆ど無い。
【0030】
すなわち、経済性、安全性、操作性にそれぞれ優れ、また、副作用の心配も殆ど無く、癌細胞等の遺伝子Maを好適に切断できるといった、優れた遺伝子改変装置Aを提供することができる。
【0031】
中空細管41および前記気密部42を、ガラスにより一体的に形成しているため、装置を安価に構成することができる。
【0032】
超短パルスレーザPを発生する超短パルスレーザ発生部2を具備して成るので、装置自体の小型化を図りつつ、細孔41z内での電子ビームQ1の加速及び輻射の高効率化を図ることができる。
【0033】
超短パルスレーザPを前記導入口41xへ集光する略コーン形状の集光部3を設けているため、簡単な構成でありながら、超短パルスレーザPを、導入口41xに効果的に導光することができる。
【0034】
前記細孔41zの少なくとも射出口41y側を、患者Mの内部に配して使用するようにしているので、例えば、患者Mの深い位置へ電子ビームQ1を照射することができ、しかも、患者Mを無用に傷つけることを防止できる。
【0035】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0036】
例えば、集光部3に、略コーン形状のものを用いることでその形状を利用して集光するようにしているが、例えば、レンズを用いて光学的に集光するようにしてもよい。
【0037】
また、図6(a)に示すように、射出口41yと対向する位置に、例えば、金属製の薄膜5を設け、この薄膜5に電子ビームQ1を衝突させることにより、反衝突面側に前記遺伝子Maに照射可能なイオンビームQ2を発生させるといった実施態様も考えられる。そして、この場合には、前記射出口41yと前記薄膜5との間の空間を、真空シール部6とすることが好ましい。このように構成すれば、イオンビームQ2によって、螺旋構造をなす2本のDNA鎖を、一度に切断するに有用であるからである。
【0038】
また、図6(b)に示すように、集光部3を備えない実施態様とすることもできるし、図6(c)に示すように、集光部3を備えずに、前記薄膜5を備えるといった実施態様とすることもできる。
【0039】
また、キャピラリー部4の構成(形状や材質など)も、本実施形態に限られるものではない。
【0040】
また、本実施形態では、被照射体を患者(人体)としているが、被照射体はこれに限らず、他の動物やマウス白血病由来突然変異株などの培養細胞とすることもできるし、また、植物、微生物、ウイルスなどであってもよい。
【0041】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る遺伝子改変装置を示す全体図。
【図2】同実施形態における電子ビームの照射態様を説明するための説明図。
【図3】同実施形態における主要部を示す模式図。
【図4】同実施形態における中空細管内の電子エネルギーとMeV単位当たり電子個数との関係を示す図。
【図5】同実施形態における電子ビーム等による遺伝子の切断態様を示す模式図。
【図6】本発明の他の実施形態における主要部を示す模式図。
【符号の説明】
【0043】
A・・・・・遺伝子改変装置
M・・・・・被照射体(患者)
P・・・・・超短パルスレーザ
Q1・・・・電子ビーム
Q2・・・・イオンビーム
2・・・・・超短パルスレーザ発生部
3・・・・・集光部
5・・・・・薄膜
41・・・・中空細管
41x・・・開口(導入口)
41z・・・貫通孔(細孔)
41y・・・開口(射出口)
42・・・・気密部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超短パルスレーザを導入する導入口と、
真空または希ガスを封入して成り前記導入口から導入した超短パルスレーザにより電子を加速させる細孔と、
前記細孔で加速された電子ビームを被照射体の遺伝子を切断するために該遺伝子に対して射出する射出口とを具備して成ることを特徴とする遺伝子改変装置。
【請求項2】
両端に開口を有する中空細管と、この中空細管の両端開口を超短パルスレーザを通過可能としながら気密的に閉塞する気密部とを具備し、前記中空細管の一方の開口を導入口に設定し、他方の開口を射出口に設定し、各開口を繋ぐ中空細管内部の貫通孔を細孔に設定してることを特徴とする請求項1記載の遺伝子改変装置。
【請求項3】
前記中空細管および前記気密部を、ガラスにより一体的に形成していることを特徴とする請求項2記載の遺伝子改変装置。
【請求項4】
前記超短パルスレーザを発生する超短パルスレーザ発生部を具備して成ることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の遺伝子改変装置。
【請求項5】
前記超短パルスレーザを前記導入口へ光学的または形状的に集光する集光部を設けていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の遺伝子改変装置。
【請求項6】
前記集光部が、略コーン形状を有するものであることを特徴とする請求項5記載の遺伝子改変装置。
【請求項7】
前記電子ビームを衝突させることにより、反衝突面側に前記遺伝子に照射可能なイオンビームを発生する薄膜を具備して成ることを特徴とする請求項1乃至6いずれか記載の遺伝子改変装置。
【請求項8】
前記射出口と前記薄膜との間の空間を真空にしていることを特徴とする請求項7記載の遺伝子改変装置。
【請求項9】
前記細孔の少なくとも射出口側を、前記被照射体の内部に配して使用することを特徴とする請求項1乃至8いずれか記載の遺伝子改変装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−215774(P2007−215774A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39876(P2006−39876)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(505125945)学校法人光産業創成大学院大学 (49)
【Fターム(参考)】