遺伝子改変酵母を用いた硫酸抱合体の製造方法
【課題】生産性に優れた新たな硫酸抱合体の製造方法とこの製造方法に用いる新たな手段の提供。
【解決手段】被抱合物質の硫酸抱合体生成に用いるための、酵母発現ベクターに硫酸基転移酵素遺伝子を発現可能に挿入した硫酸基転移酵素発現ベクターで形質転換した酵母からなる、形質転換体。この形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の水酸化物の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む、硫酸抱合体の製造方法。酵母発現ベクターにシトクロムP450遺伝子を発現可能に挿入したベクターでさらに形質転換した酵母からなる、形質転換体。この形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む、硫酸抱合体の製造方法。
【解決手段】被抱合物質の硫酸抱合体生成に用いるための、酵母発現ベクターに硫酸基転移酵素遺伝子を発現可能に挿入した硫酸基転移酵素発現ベクターで形質転換した酵母からなる、形質転換体。この形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の水酸化物の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む、硫酸抱合体の製造方法。酵母発現ベクターにシトクロムP450遺伝子を発現可能に挿入したベクターでさらに形質転換した酵母からなる、形質転換体。この形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む、硫酸抱合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫酸抱合体の製造方法、並びにそれに用いる酵母発現ベクター及び形質転換体に関する。より詳しくは、酵母発現ベクターは、硫酸基転移酵素を導入した酵母発現ベクターであり、形質転換体は、前記酵母発現ベクターで形質転換された酵母である。
【背景技術】
【0002】
医薬品開発において、ヒト体内における医薬品代謝物の解析は重要である。硫酸抱合体は医薬品の第II相解毒代謝物として排泄されるが、その一部は反応性代謝物となり毒性を示す可能性が指摘されている。例えば、硫酸抱合体の内、多環芳香族炭化水素のN-ヒドロキシ抱合体は、親電子性の反応性代謝物となり生体高分子との相互作用により変異原性や発ガンの原因となる可能性がある(非特許文献1)。
【0003】
そこで、抱合体自身の安全性評価が必要であるが、有機合成法による部位特異的抱合化はきわめて困難である。そこで、酵素や微生物等を用いて効率良く目的とする抱合体を製造する方法が切望されている。現在、動物肝臓由来細胞質画分を用いた抱合体調製が実用化されているが、生産性や適用範囲が十分とは言えない。また、大腸菌発現系を用いたヒト硫酸基転移酵素がすでに市販されているが、酵素源として抱合体調製に用いるにはコスト面からも現実的ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】E. Banoglu, Current status of the cytosolic sulfotransferases in the metabolic activation of promutagens and procarcinogens. Currt drug Metab. 1, 1-30. (2000)
【非特許文献2】Gamage N, Barnett A, Hempel N, Duggleby RG, Windmill KF, Martin JL, McManus ME.Human sulfotransferases and their role in chemical metabolism.Toxicol Sci. 90, 5-22. 2006)
【非特許文献3】Hildebrandt MA, Carrington DP, Thomae BA, Eckloff BW, Schaid DJ, Yee VC, Weinshilboum RM, Wieben ED , Genetic diversity and function in the human cytosolic sulfotransferases. Pharmacogenomics J. 7, 133-143.(2007).
【非特許文献4】T. Sakaki, M. Akiyoshi-Shibata, Y. Yabusaki, H. Ohkawa, Organellatargeted expression of rat liver cytochrome P450c27 in yeast: genetically engineered alteration of mitochondrial P450 into a microsomal form creates a novel functional electron transport chain, J. Biol.Chem. 267 16497-16502. (1992)
【非特許文献5】JS. Walsh, Patanella, JE, Halm, KA, Facchine, KL. An improved HPLC assay for the assessment of liver slice metabolic viability using 7-ethoxycoumarin, Drug Metab Disp, 23 869-874 (1995)
【非特許文献6】Ikushiro, S., Sahara, M., Emi, Y., Yabusaki, Y.,and Iyanagi, T. : Functional Coexpression of Xenobiotic Metabolizing Enzymes, Rat Cytochrome P4501A1 and UDP-Glucuronosyltransferase 1A6, in Yeast Microsomes. Biochimica Biophysica Acta, 1672, 86-92 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大腸菌内で発現させて得られるヒト由来硫酸基転移酵素(SULT)を酵素源として試験管内における酵素変換にて抱合体を調製する方法は、生産性や適用範囲が十分とは言えなかった。特に硫酸基供与体として用いる活性硫酸(PAPS)は高価であり、抱合体調製に際してコスト低減が可能な方法の出現が待たれている。
【0006】
そこで本発明の目的は、上記方法に代わる生産性に優れた新たな硫酸抱合体の製造方法とこの製造方法に用いる新たな手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
酵母は、硫酸抱合体産生に必要とされる硫酸基転移酵素を欠失しているため、菌体内での抱合体への直接変換は不可能である。そこで、本発明者らは、ヒト由来SULT遺伝子を取得し、酵母へSULT遺伝子を導入した。その結果、このSULT導入酵母株において、菌体に添加した基質の硫酸抱合体への直接変換が見られた。このようにして、酵母菌体内での硫酸抱合体製造に成功した。
【0008】
本発明は以下の通りである。
[1]
酵母発現ベクターに硫酸基転移酵素遺伝子を発現可能に挿入した硫酸基転移酵素発現ベクターで形質転換した酵母からなる、形質転換体。
[2]
被抱合物質の硫酸抱合体生成に用いるための、[1]に記載の形質転換体。
[3]
酵母発現ベクターにシトクロムP450遺伝子を発現可能に挿入したベクターでさらに形質転換した酵母からなる、[1]または[2]に記載の形質転換体。
[4]
酵母発現ベクターが自律複製型ベクターである、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の形質転換体。
[5]
酵母発現ベクターが染色体組み込み型ベクターである、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の形質転換体。
[6]
[1]に記載の形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の水酸化物の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む、硫酸抱合体の製造方法。
[7]
[3]に記載の形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む、硫酸抱合体の製造方法。
[8]
出芽酵母発現ベクターに硫酸基転移酵素遺伝子を発現可能に挿入したものである、硫酸基転移酵素発現ベクター。
[9]
酵母発現ベクターが自律複製型ベクターまたは染色体組み込み型ベクターである、[8]に記載のベクター。
[10]
硫酸基転移酵素遺伝子が微生物、動物または植物由来の遺伝子である、[8]〜[9]のいずれかに記載のベクター。
[11]
硫酸基転移酵素遺伝子がヒト由来遺伝子である、[8]〜[10]のいずれかに記載のベクター。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、SULT発現酵母菌体を用いて抱合体を調製することができる。遺伝子改変酵母菌体を用いた抱合体調製法は、従来の有機合成法や試験管内での酵素法にくらべて、著しく効率的かつ安価に目的の代謝物を調製することができる。例えば、実施例に示すように、ヒトSULT1E1発現酵母菌体を用いた最適条件下において、7−ヒドロキシクマリンの硫酸抱合体を1L反応溶液あたり150mgの産生効率で製造することが可能である。
【0010】
さらに、SULT分子種は、種々のものの遺伝子情報が知られていることから、本発明のSULT発現酵母菌体を多様なSULT分子種について調製することができる。その結果、本発明のSULT発現酵母菌体は、さまざまな医薬品に対して適用でき、実用性もきわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】硫酸基転移酵素遺伝子を含む自律複製型酵母発現ベクターの構築スキームを示す。
【図2】酵母内発現硫酸基転移酵素タンパクの発現をウエスタンブロット法により確認した結果を示す。
【図3】SULT1A1発現酵母静止菌体を用いた7ヒドロキシクマリン抱合体の製造結果を示す。
【図4】SULT発現株における抱合体産生の硫酸アンモニウム濃度の影響を示す
【図5】SULT1E1発現株における抱合体産生の時間変化を示す。
【図6】酵母静止菌体を用いたケルセチン抱合体の製造結果を示す。
【図7】酵母静止菌体を用いたアセトアミノフェン抱合体の製造結果を示す。
【図8】酵母静止菌体を用いたステロイド抱合体の製造結果を示す。
【図9】酵母静止菌体を用いた1ヒドロキシピレン抱合体の製造結果を示す。
【図10】シトクロムP450を含む同時発現株の酵母静止菌体を用いた7ヒドロキシクマリン抱合体の製造結果を示す。
【図11】組換え酵母菌体を用いた硫酸抱合体の調製の模式説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[酵素発現ベクター]
本発明では、(1)硫酸基転移酵素発現ベクター、及び(2)シトクロムP450遺伝子発現ベクターを用いる。以下、順に説明する。
【0013】
<硫酸基酵素発現ベクター>
硫酸基酵素発現ベクターは、酵母発現ベクターに硫酸基転移酵素SULT)遺伝子を挿入したものである。
【0014】
酵素遺伝子を挿入する発現ベクターは、宿主である酵母において複製保持され、上記酵素遺伝子を発現し得る自律複製型ベクターであっても、酵母の染色体に組み込まれる、染色体組み込み型プラスミドベクターであってもよい。自律複製型ベクターおよび染色体組み込み型プラスミドベクターは、宿主である酵母において保持されかつ機能するものであれば制限なく利用できる。自律複製型ベクターとしては、例えば、実施例で用いたpGYR、さらには酵母由来のプラスミドYEp352GAP、YEp51、pSH19などを挙げることができる。染色体組み込み型プラスミドベクターとしては、実施例で用いたpAURなどを挙げることができる。
【0015】
上記酵素遺伝子および、必要により、シグナル配列遺伝子を上記発現に適したベクター中のプロモーターの下流に連結して発現ベクターを得ることができる。プロモーターとしては、ENO1プロモーター、GAL10プロモーター、GAPDHプロモーター、ADHプロモーターなどが挙げられる。
【0016】
硫酸基転移酵素遺伝子は、公知の遺伝子から適宜選択することができる。硫酸基転移酵素(SULT)は、約300アミノ酸残基からなる細胞質タンパク質であり、肝臓や小腸において複数の分子種が存在する(非特許文献2)。分子種の例としては、SULT1A1、SULT1A2、SULT1A3、SULT1A4、SULT1B1、SULT1C2、SULT1C4、SULT1E1、SULT2A1、SULT2B1_v1、SULT2B1_v2、SULT4A1_v1、SULT4a1_vを挙げることかできる。実施例では、ヒト由来の遺伝子を用いた。
【0017】
SUTLは活性硫酸(PAPS)を硫酸基の供与体として生体内外の異物への硫酸抱合を行なう。硫酸基転移酵素遺伝子は、これまでの研究により多くの分子種がクローニングされ、その塩基配列が明らかにされた(非特許文献3)。本発明ではこれら公知の遺伝子を適宜利用できる。代表的な硫酸基転移酵素は、例えば、ヒトの酵素である。それら転移酵素の遺伝子配列は、ヒト由来の酵素はGenBankに登録されており、配列情報は容易に入手可能である。
【0018】
【表1】
【0019】
<シトクロムP450遺伝子発現ベクター>
シトクロムP450遺伝子発現ベクターは、非特許文献6に記載されており、この文献の記載に基づいて調製することができる。酵母発現ベクターは上記硫酸基転移酵素発現ベクターで説明したものと同様のものを用いることができる。
【0020】
シトクロムP450遺伝子発現ベクターは、小胞体膜酵素であるシトクロムP450の発現で実績のあるpGYRを用いた。発現調節領域に醤油酵母(Zygosaccharomyces rouxii)グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素遺伝子由来のプロモーター及びターミネーター領域を有し定常的なタンパク発現を可能にしている。さらに酵母由来P450還元酵素遺伝子を含むことによりNADPHからの電子供給を増強することで酵母内でのP450によるモノオキシゲナーゼ反応を促進することができる。
【0021】
<発現ベクターの調製>
酵素遺伝子及び必要により、シトクロムP450遺伝子をそれぞれ機能的に連結し、これらを適切なベクターに挿入する方法は、当業者に通常知られる方法、たとえば、文献Molecular Cloning (1989) (Cold Spring Harbor Lab.)に記載の方法である。組換えベクターにおける挿入位置は、組換えベクターの複製に関与していない領域であればどこでも良く、通常はベクター内のマルチクローニングサイトが利用される。
【0022】
[形質転換体]
本発明の形質転換体は、上記本発明のいずれか1つまたは2つ以上のベクターで形質転換した酵母からなる。宿主して用いる酵母はSaccharomyces属に属し、例としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri))等が挙げられるが、例えば、Saccharomyces cerevisiae AH22株、NA87-11A株、SHY3株等を用いることができる。
【0023】
本発明の形質転換体は、例えば、
(A)硫酸基転移酵素発現ベクターで形質転換した酵母、並びに
(B)硫酸基転移酵素発現ベクター及びシトクロムP450遺伝子発現ベクターで形質転換した酵母を挙げることができる。
【0024】
形質転換体の調製方法にも特に制限はなく、酵母宿主への組み換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。
【0025】
調製された形質転換体は、適宜常法により培養、増殖させた後に、後述する硫酸抱合体の製造方法に使用することができる。増殖させた形質転換体は、導入した遺伝子の種類や宿主の種類により異なるが、一般には対数増殖期にある菌体を用いることが適当であるが、対数増殖期前の菌体や対数増殖期後の菌体を用いることが好ましい場合もある。
【0026】
[硫酸抱合体の製造方法]
本発明の硫酸抱合体の製造方法には、原料として被抱合物質の水酸化物を用いる方法(第1の態様)と被抱合物質を用いる方法(第2の態様)とがある。
【0027】
図11に、本発明の組換え酵母菌体(形質転換体)を用いた硫酸抱合体の調製の模式説明図を示す。
【0028】
一般に、生体内外の異物(脂溶性化合物(疎水性基質)(RH))は、抱合化反応を受けて水溶性の抱合体となり、体外へ排泄される。特に硫酸抱合は、脂溶性化合物中の水酸基やアミノ基に硫酸基が付加されることによって水溶性の極性代謝物に変換される。極性代謝物(硫酸抱合体)は、多剤耐性薬剤輸送タンパク質(ABCC2)により、生体外に排泄が促進される。従って、本発明の硫酸抱合体の製造方法において用いられる被抱合物質は、上記水酸基、アミノ基などの官能基を有する化合物であり、これらの化合物は、医薬品または医薬品の候補物質であることができる。
【0029】
生体内外の脂溶性化合物(疎水性基質)(RH, 脂溶性基質 )は、シトクロムP450(CYP)により酸化されて水酸化物(ROH)となった後に、菌体内の硫酸基転移酵素(SULT)が触媒する硫酸基転移反応により、活性硫酸(PAPS)を硫酸基の供与体として、硫酸抱合体に変換される。硫酸基転移酵素(SULT)が関与するこの系は、生体外への異物排泄を促進させる役割をもつ異物代謝系のひとつである。
【0030】
原料として被抱合物質の水酸化物を用いる方法(第1の態様)は、本発明の形質転換体として、上記(A)の形質転換体を用い、かつこの形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の水酸化物の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含むものである。
【0031】
第1の態様では硫酸抱合体の原料抱合物質の水酸化物あるいはアミノ基を有する化合物の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成として被抱合物質の水酸化物を用いる。本発明において、硫酸抱合のターゲットとなる被抱合物質は、例えば、アルコール性水酸基を含む医薬品、フェノール性水酸基を多数含むポリフェノール化合物、フェノール性あるはアルコール性水酸基を含むステロイドホルモン、アミノ基を含む医薬品等を挙げることができる。
【0032】
本発明の製造方法において用いられる被抱合物質は、上記のように特に制限はない。これは、上述のように本発明においては、硫酸基転移酵素(SULT)の基質となる被抱合物質の種類に応じて、形質転換体に含まれる硫酸基転移酵素(SULT)遺伝子の種類を適宜選択することができるからである。例えば、実施例に示す例では、7ヒドロキシクマリンの抱合体(フェノール性水酸基)を調製する場合、用いるUGTは、SULT1E1であることが適当であり、ケルセチンの抱合体(フェノール性水酸基)を調製する場合、用いるUGTは、SULT1A3であることが適当であり、1−ヒドロキシピレンの1位水酸基に対する抱合体(フェノール性水酸基)を調製する場合、用いるUGTは、SULT1B1であることが適当である。
【0033】
被抱合物質は公知の方法で入手でき、例えば、以下の方法を挙げることができる。有機合成法を用いた水酸基の導入やシトクロムP450を用いた酵素法による選択的な水酸化によって得ることが可能である。
【0034】
上記(A)または(B)の形質転換体の培養は、グルコース、硫酸アンモニウム及び被抱合物質の存在下、公知の酵母の培養方法を適宜用いて実施できる。酵母宿主が上記AH22株の場合、L-ヒスチジンとL-ロイシン以外の全ての必須アミノ酸を生合成することができる。従って、培地には、これら2つのアミノ酸を添加して培養するか、あるいは発現ベクターとして、いずれか一方のアミノ酸合成遺伝子を持つベクターを用いることで、この発現ベクターを有する酵母宿主を選択的に培養することもできる。
【0035】
培養の条件は、酵母形質転換体の生育に適した条件において適宜に設定することができる。形質転換体の培養に用いる栄養培地としては、炭素源、窒素源、無機物、および必要に応じ使用菌株の必要とする微量栄養素を程よく含有するものであれば、天然培地、合成培地のいずれでもよい。あるいは酵母形質転換体の生育に必要な栄養源の少なくとも一部を欠いた条件で培養することで、硫酸抱合体の生成、蓄積が良好に得られる場合もある。被抱合物質の種類によっては後者の条件が好ましい場合もある。
【0036】
栄養培地の炭素源としては、酵母形質転換体が資化しうる物であればよく、例えば、グルコース、マルトース、フラクトース、マンノース、トレハロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、デンプン、デキストリン、糖蜜などの糖質、またはクエン酸、コハク酸などの有機酸、またはグリセリンなどの脂肪酸も使用することができる。
【0037】
栄養培地の窒素源としては、各種有機および無機の窒素化合物、さらに培地は各種の無機塩を含むことができる。たとえば、コーンスティープリカー、大豆粕、あるいは各種ペプトン類等の有機窒素源、そして塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸アンモニウム等の無機窒素源などの化合物が使用可能である。また、グルタミン酸などのアミノ酸および尿素などの有機窒素源が炭素源にもなることはいうまでもない。さらに、ペプトン、ポリペプトン、バクトペプトン、肉エキス、魚肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、大豆粉、大豆粕、乾燥酵母、カザミノ酸、ソリュブルベジタブルプロテイン等の窒素含有天然物も窒素源として使用できる。
【0038】
栄養培地の無機物としては、たとえば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などが適宜用いられる。具体的には、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等が用いられる。さらに、必要に応じて、アミノ酸ならびにビオチンおよびチアミンなどの微量栄養素ビタミンなども適宜用いられる。
【0039】
培養法としては液体培養法がよく、回分培養、流加培養、連続培養または灌流培養のいずれを用いてもよいが、工業的には通気攪拌培養法が好ましい。培養温度とpHは、使用する形質転換体の増殖に最も適した条件を選べばよい。培養時間は微生物が増殖し始める時間以上の時間であればよく、好ましくは8〜120時間であり、さらに好ましくは組換えタンパク質遺伝子の遺伝子産物が最大に生成する時間までである。たとえば、形質転換体が出芽酵母の場合の培養は、通常、温度20〜40℃、好ましくは25〜35℃、pH2〜9、好ましくは5〜8、培養日数0.5〜7日間から選ばれる条件で振盪または通気攪拌して行われる。酵母の増殖を確認する方法は特に制限はないが、たとえば、培養物を採取して顕微鏡で観察してもよいし、吸光度で観察してもよい。また、培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常は、0.5〜20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、撹拌したり、通気に酸素を追加したりすればよい。
【0040】
形質転換体の使用量は、例えば、0.5〜5%(w/v、乾燥重量/培養液体積)の範囲であることができる。さらに、グルコース、硫酸アンモニウム及び被抱合物質の水酸化物の培地への添加量は、培地における浸透圧及び細胞に対する毒性を考慮して適宜決定され、例えば、グルコースは4〜10%(w/v)の範囲であり、硫酸アンモニウムは0.5〜2%(w/v)範囲であり、被抱合物質の水酸化物は0.5〜10mMの範囲であることが適当である。
【0041】
形質転換体を培養することで培養物中に硫酸抱合体が蓄積する。培養後、酵母形質転換体の培養液から硫酸抱合体を回収する。硫酸抱合体は、形質転換体外に蓄積されることが多いが、一部は形質転換体内にも蓄積される。形質転換体外に蓄積された硫酸抱合体は、例えば、溶媒抽出により回収することができる。溶媒抽出による回収は、例えば、通常知られる手段によって形質転換体を培養液から除いた後に、得られる培養上清に対して行うことができる。形質転換体は再利用も可能である。
【0042】
また、形質転換体内に蓄積した硫酸抱合体は、例えば、有機溶剤やザイモリアーゼのような酵素によって形質転換体の細胞壁を溶解する方法、および、超音波破砕法、フレンチプレス法、ガラスビーズ破砕法、ダイノミル破砕法等の細胞破砕法で得られた形質転換体の細胞破砕物および/または培養物を遠心分離法、ろ過法等の操作によって形質転換体と培養上清に分離する。このようにして得られた培養上清から、上記と同様に硫酸抱合体を回収することができる。
【0043】
原料として被抱合物質を用いる方法(第2の態様)は、本発明の形質転換体として、(B)の形質転換体を用い、かつこの形質転換体をグルコース、硫酸アンモニウム及び被抱合物質の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む。
【0044】
第2の態様は、形質転換体として(B)の形質転換体を用いること、被抱合物質の水酸化物の代りに、例えば、アミノ基などの官能基を有する化合物である被抱合物質を原料として用いること以外は、第1の態様と同様である。被抱合物の培地への添加量は、培地における浸透圧及び細胞に対する毒性を考慮して適宜決定され、例えば、被抱合物質は0.5〜10mMの範囲であることが適当である。
【0045】
第2の態様においては、シトクロムP450を含む同時発現株を用いる。そのため、抱合化基質の前駆体(被抱合物質)から抱合体を調製することができる。
即ち、被抱合物質を前駆体化(水酸化物への変換)をすること無しに、抱合体を調製することができる。
【実施例】
【0046】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0047】
実施例1
1. 硫酸基転移酵素発現プラスミドの構築
ヒト由来硫酸基転移酵素は、cDNAライブラリーを鋳型として、両端に相補的な配列を有するプライマーを用いてPCR法によって増幅し構築した。酵母発現ベクターとしては自律複製型プラスミドであるpGYR(文献番号4)あるいは染色体組み込み型プラスミドであるpAUR101(TaKaRa)を用いた(図1)。
【0048】
1-1.ヒト由来硫酸基転移酵素遺伝子の作成
ヒト肝臓及び肺のcDNAライブラリーを用いてPCR法によって5種のSULT遺伝子(SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)のクローニングを行った。cDNAライブラリーはPCR ready First Strand cDNA (Biochain 社)を用いた。
【0049】
DNAポリメラーゼとしてはKOD-plus-(TOYOBO)を用いた。反応液組成は製造業者の指示に従い、以下に示すプライマーと反応条件でPCRを行った。
1) SULT1A1
フォワード配列 : 配列番号 1
リバース配列 : 配列番号 2
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、40℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、50℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0050】
2) SULT1A3
フォワード配列 : 配列番号 3
リバース配列 : 配列番号 4
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、42℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、50℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0051】
3) SULT1B1
フォワード配列 : 配列番号 5
リバース配列 : 配列番号 6
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、37℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0052】
4) SULT1E1
フォワード配列 : 配列番号 7
リバース配列 : 配列番号 8
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、40℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、52℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0053】
5) SULT2A1
フォワード配列 : 配列番号 9
リバース配列 : 配列番号 10
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、42℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、52℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0054】
それぞれのPCR産物を1%アガロースゲルで電気泳動した結果、目的サイズ(約0.9kb)に特異的な増幅がみられた。(以下、1%アガロースゲルでの電気泳動は、単に電気泳動と略称する)。PCR増幅溶液を電気泳動して、DNA断片をゲルから分離した後、TAクローニングキット(Target cloneTM-plus-,TOYOBO社)を用いてpTAベクターに挿入した。このクローニングされた遺伝子のシークエンスを行い遺伝子配列を解析したところ、配列番号11〜15に示した塩基配列(表1にGenBank Acc.No. を示す)であることを確認した。
【0055】
本遺伝子を発現ベクターにサブクローニングするために、部位特異的な変異導入によりアミノ酸配列を変えずに内部HindIIIサイトを欠失させた。変異導入は変異体作成キットQuick ChangeTMを用いた。変異導入をおこなったクローンの塩基配列を解析し、目的以外の箇所に変異導入されていないことを確認した。
【0056】
1-2. 硫酸基転移酵素遺伝子発現ベクターの構築
1-2-1. 自律複製型酵母発現ベクターの構築
1-1で作成した硫酸基転移酵素断片を含むプラスミド約1μgを37℃で4時間、HindIII処理し、電気泳動後、遺伝子断片をゲルから切り出した。切り出したゲルからWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてインサート断片を調製した。
【0057】
酵母発現ベクターとして用いるpGYRを37℃で4時間HindIII処理し、電気泳動後、目的サイズ(約11kb)のバンドを切り出した。その後、Wizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてベクター断片を調製した。
【0058】
インサート断片とpGYR-HindIIIベクター断片の濃度を電気泳動で確認後、それらのモル比が3:1〜10:1程度になるように混合し、等量のDNA Ligation Kit Ver. 2 (TaKaRa)のsolution Iを加え、16℃、1時間反応を行った。その後、大腸菌JM109株にヒートショック法を用いてトランスフォーメーションを行い、LBプレート(アンピシリン50μg/ml含有)に展開した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、それらを鋳型としてコロニーPCRを行った。DNAポリメラーゼは、Ex Taq(登録商標) DNAポリメラーゼを用いた。プライマーはYGAP-Pプライマー(5'-aatgacaccgtgtggtgatcttcaagg-3')(配列番号24)と上記に示したSULTリバースプライマー(配列番号2, 4, 6, 8, あるいは10)をそれぞれ用いた。以下の条件でPCRを行った。
【0059】
PCR条件
変性 98℃5分
30サイクル 94℃ 30秒、50℃ 30秒、72℃ 2分30秒
最終伸長 72℃4分
【0060】
PCR後、電気泳動を行い、予想サイズ(約1.5kb)に特異的な増幅がみられるクローンを数個得た。得られた大腸菌コロニーを5mlのLB培地(アンピシリン100μg/ml含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後アルカリSDS法を用いてプラスミドを抽出した。そして、その一部を37℃で1時間、HindII処理し、電気泳動をしてインサートの導入を再度確認し、硫酸基酵素遺伝子を含む酵母発現ベクター(pGYR/SULT)を得た。
【0061】
1-2-2. 染色体組み込み型酵母発現ベクターの構築
1-2-1で作成した硫酸基転移酵素断片を含む発現プラスミド(pGYR/SULT)約1μgを37℃で4時間、NotI処理し、電気泳動後、酵母発現プロモーター及びターミネーター領域を含む遺伝子断片(約2kb)をゲルから切り出した。切り出したゲルからWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてインサート断片を調製した。
【0062】
自律複製型酵母発現ベクターpAUR101(TaKaRa)に上記で得られたNotI断片を挿入するために、部位特異的な変異導入によりマルチクローニングサイトにNotI制限酵素配列(GCGGCCGC)をマルチクローニングサイト領域に導入した。変異導入は変異体作成キットQuick ChangeTMを用いた。変異導入をおこなったクローンの塩基配列を解析し、目的以外の箇所に変異導入されていないことを確認した(pAUR-N)。酵母発現ベクターとして用いるpAUR-Nを37℃で4時間NotI処理し、電気泳動後、目的サイズ(約7kb)のバンドを切り出した。その後、Wizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてベクター断片を調製した。
【0063】
インサート断片とpAUR-NotIベクター断片の濃度を電気泳動で確認後、それらのモル比が3:1〜10:1程度になるように混合し、等量のDNA Ligation Kit Ver. 2 (TaKaRa)のsolution Iを加え、16℃、1時間反応を行った。その後、大腸菌JM109株にヒートショック法を用いてトランスフォーメーションを行い、LBプレート(アンピシリン50μg/ml含有)に展開した。得られた大腸菌コロニーを5mlのLB培地(アンピシリン100μg/ml含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後アルカリSDS法を用いてプラスミドを抽出した。そして、その一部を37℃で1時間、NotI処理し、電気泳動をしてインサートの導入を再度確認し、硫酸基転移酵素を含む酵母発現ベクター(pAUR/SULT)を得た。
【0064】
実施例2
2. 硫酸基転移酵素を発現する酵母形質転換体の作成
2-1. 酵母への発現用プラスミドの形質転換
発現酵母には、酵母(Saccharomyces cerevisiae)AH22株を用いた。AH22株は、L-ヒスチジンとL-ロイシン以外は全ての必須アミノ酸を生合成することが出来る。pGYRはL-ロイシン合成遺伝子(LEU2)を持つため、培地にL-ヒスチジンを添加するとプラスミドを持った酵母のみが増殖できる。また、pAURは抗生物質であるAureobasdin A耐性遺伝子を有しており、Aureobasidin A存在下で形質転換体を選択することが可能である。発現用コンストラクトを酵母AH22株に塩化リチウム法により形質転換した。以下に形質転換の詳細なプロトコールを示す。
【0065】
<材料>
YPD培地:1%酵母抽出物、2%ポリペプトン、2%グルコース
SDプレート:2%グルコース、0.67%N-base w/o アミノ酸、1.5%寒天、20μg/ml L-ヒスチジン、0.2M LiCl: 10ml(フィルター滅菌)、1M LiCl: 10ml(フィルター滅菌)
70%(w/v) PEG 4000: 10ml(溶解後、10mlにメスアップ)
【0066】
<方法>
30℃で培養したS.cerevisiae AH22株1.0x107細胞を使用し、卓上遠心機で13,000rpm、4分遠心を行い、上清を除いた。ペレットを0.2M LiClで洗浄した(少しボルテックスにかけた)。卓上遠心機で13,000rpm、4分遠心を行い、上清を完全に取り除いた。ペレットを1M LiCl 20μlにピペッティングにより懸濁した。DNA(プラスミド)溶液10μl(0.5〜1μgのプラスミドを含有)を加えた。70%(w/v) PEG 4000を30μl加え、ピペッティングによりよく混合した。40℃で30分間インキュベートした。滅菌水140μlを加えてpGYRベクターの場合にはSDプレート、またはpAURベクターの場合には0.5μg/ml Aureobasidin A を含むYPDプレートに展開し、30℃にてインキュベートした。プレート上で30℃、3日間培養し、3〜5mm程度の大きさのコロニーを数十個得た。また、pGYR及びpAURの同時形質転換体の場合は、0.5μg/ml Aureobasidin A を含むSDプレートに展開し、30℃にてインキュベートした。プレート上で30℃、5日間培養し、3〜5mm程度の大きさのコロニーを数個得た。
【0067】
2-2. 硫酸基転移酵素タンパク質の酵母内での発現の確認
実施例2-1で得られた形質転換体について、それぞれの菌体内でタンパク質が機能的に発現されているかどうかを、ウエスタンブロット法によって確認した。
【0068】
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体をZymolyase処理にした後に、ヒト硫酸基転移酵素抗体を用いたウエスタンブロット法により解析した(図2)。
【0069】
酵母内発現硫酸基転移酵素タンパクの発現を確かめるために、SULT1A1,SULT1E1,SULT2A1形質転換体の酵母抽出液タンパクのウエスタンブロット解析を行った。パネル(A):SULT1A1抗体、パネル(B):SULT2A1抗体、パネル(C):SULT1E1抗体。それぞれのレーン1はヒト肝臓サイトゾルタンパク、レーン2:コントロール酵母(AH22:pGYR)、レーン3:SULT発現酵母(pGYR/SULT)を示す。
それぞれのパネルにおいてヒト肝臓(レーン1)で見られるSULTに対応するバンド(レーン3)が各形質転換体酵母より検出されたことより、酵母におけるSULTタンパクの発現が確認された。
【0070】
実施例3
3. 酵母形質転換体を用いた硫酸抱合体の製造
【0071】
3-1. 静止菌体を用いた7ヒドロキシクマリン抱合体の製造
硫酸基転移酵素を発現した酵母静止菌体における硫酸抱合体の生成を確かめるために、形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコースを含む適当な緩衝溶液に懸濁し、抱合化基質として0.1−1mM 7ヒドロキシクマリンを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。それぞれの代謝物を超高速液体クロマトグラフィーにより分析した。条件は以下のとおりである。カラム:Nacalai Tesque社製 2.5C18-MS-II (内径2.0mm × 長さ100mm)、検出波長:320nm、流速:0.5ml/min、カラム温度:45℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.1%TFAを含む)、10%アセトニトリル(4分間)、10-70%アセトニトリル直線濃度勾配(6分間)の後、70-10%アセトニトリル(2分間)、10%アセトニトリル(3分間)
【0072】
3-1-1. 硫酸基転移酵素発現酵母における抱合体生成
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1)における7ヒドロキシクマリン抱合体の生成を確かめた。
【0073】
図3に示すように、コントロール酵母と比較してSULT遺伝子を導入した酵母菌体においては基質である7ヒドロキシクマリン(7HC)が減少するとともに溶出時間1.7分付近に新たなピークが検出された。このピークは硫酸抱合体の標準品である7硫酸化クマリン(7SC)と同一の溶出時間を示し、硫酸抱合体特異的な加水分解酵素であるサルファターゼ処理によって消失したことより、添加した7HCが酵母発現SULTによって菌体内にて7SCに変換されたものと確認された。
【0074】
3-1-2. SULT発現株における抱合体産生の硫酸アンモニウム濃度の影響
SULT発現酵母株(AH22: pAUR/SULT1A1,1E1,2A1,)における7ヒドロキシクマリン抱合体の生成における硫酸アンモニウム濃度を調べた(図4)。
【0075】
図4に示されるように、添加した硫酸アンモニウム濃度に依存して抱合体の産生量は増加し、1%の濃度でほぼ最大変換を示した。さらに、生成した抱合体の培地と菌体への分布を調べると、90%以上の抱合体が培地中に分泌されていることがわかった。
3-1-3. SULT1E1発現株における抱合体産生の時間変化
実施例3-1-2でもっとも変換効率の高かった同時発現酵母株(AH22: pAUR/SULT1E1)における7ヒドロキシクマリン抱合体の生成の時間依存性を調べた(図5)。
【0076】
図5に示されるように、加えた基質(1mM 7HC:△)は反応時間に依存して減少し、抱合体(7SC:○)は直線的に増加してゆき、4時間経過後には加えた基質の90%以上が抱合体へ変換されることが示された。
【0077】
3-2. 静止菌体を用いたケルセチン抱合体の製造
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1) におけるケルセチン抱合体の生成を確かめた。
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコースを含む0.1Mリン酸緩衝溶液(pH7.4)に懸濁し、抱合化基質として0.5mM ケルセチンを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。ケルセチン抱合体のHPLCによる分析条件は以下のとおりである。カラム:Wako社製 WakoPack Navi C-30-5(内径3.0mm × 長さ150mm)、検出波長:370nm、流速:0.4ml/min、カラム温度:37℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.5% リン酸を含む)、18 %アセトニトリル(10分間)、18-55%アセトニトリル直線濃度勾配(10分間)の後、55%アセトニトリル(5 分間)
【0078】
結果を図6に示す。ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株(AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)におけるケルセチン抱合体の生成を確かめたところ、SULT1A3とSULT1E1の2種に関して高い抱合能が見られた。
【0079】
3-3. 静止菌体を用いたアセトアミノフェン抱合体の製造
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)におけるアセトアミノフェン抱合体の生成を確かめた。
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコース溶液に懸濁し、抱合化基質として10mMアセトアミノフェンを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。代謝物を超高速液体クロマトグラフィーにより分析した。条件は以下のとおりである。カラム:Nacalai Tesque社製 2.5C18-MS-II(内径2.0mm × 長さ100mm)、検出波長:260nm、流速:0.5ml/min、カラム温度:45℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.1%TFAを含む)、2%アセトニトリル(4分間)、2-60 %アセトニトリル直線濃度勾配(4分間)の後、60-2%アセトニトリル(2分間)、2%アセトニトリル(2分間)
【0080】
結果を図7に示す。ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株(AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)におけるアセトアミノフェン抱合体の生成を確かめたところ、いずれの分子種においても抱合能がみられたが、中でもSULT1A1が最も高い変換効率を示した。
【0081】
3-4.静止菌体を用いたステロイド抱合体の製造
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)におけるステロイド抱合体の生成を確かめた。
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコース溶液に懸濁し、抱合化基質として1mMエストロンまたはエストラジオールを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。代謝物を超高速液体クロマトグラフィーにより分析した。条件は以下のとおりである。カラム:Nacalai Tesque社製 2.5C18-MS-II(内径2.0mm × 長さ100mm)、検出波長:280nm、流速:0.5ml/min、カラム温度:45℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.1%TFAを含む)、25%アセトニトリル(4分間)、25-80%アセトニトリル直線濃度勾配(6分間)の後、80-25%アセトニトリル(2分間)、25%アセトニトリル(3分間)
【0082】
結果を図8に示す。ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株(AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)における(A)エストロン及び(B)エストラジオール抱合体の生成を確かめたところ、いずれの基質に関してもSULT1A3とSULT1E1が高い抱合能を示した。
【0083】
3-5. 静止菌体を用いた1-ヒドロキシピレン抱合体の製造
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)における1-ヒドロキシピレン抱合体の生成を確かめた。
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコース溶液に懸濁し、抱合化基質として1mMエストロンまたはエストラジオールを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。代謝物を超高速液体クロマトグラフィーにより分析した。条件は以下のとおりである。カラム:Nacalai Tesque社製 2.5C18-MS-II (内径2.0mm × 長さ100mm)、検出波長:333nm、流速:0.5ml/min、カラム温度:45℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.1%TFAを含む)、25%アセトニトリル(4分間)、25-70%アセトニトリル直線濃度勾配(4分間)の後、70-25%アセトニトリル(2分間)、25%アセトニトリル(2分間)
【0084】
結果を図9に示す。ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株(AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)における1-ヒドロキシピレン抱合体の生成を確かめたところ、いずれの分子種においても抱合能がみられたが、中でもSULT1B1が最も高い変換効率を示した。
【0085】
3-4.シトクロムP450を含む同時発現株の静止菌体を用いた7ヒドロキシクマリン抱合体の製造
生体内で生じる抱合体の多くは、その前段階としてシトクロムP450によるモノオキシゲナーゼ反応を受け、抱合化をうける官能基としてはたらく水酸基の導入を受ける。肝細胞においては、7エトキシクマリンを基質として、シトクロムP450による水酸化反応による水酸化体生成、引き続いて硫酸基転移酵素による抱合化が観測される(非特許文献5)。このP450と硫酸基転移酵素の連続的な変換反応を酵母菌体内で可能にするために、pAUR/humanSULT1A1及びpGYR/ratCYP1A2の発現ベクターを同時に形質転換した酵母株を作成した。形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコースを含む溶液に懸濁し、抱合化基質として1mM 7エトキシクマリンを添加した。30℃の条件下で12時間シントウ培養をおこない、培養液に生成される水酸化体及び抱合体生成を調べた(図10)。
【0086】
図10に示されるように、添加した7エトキシクマリン(ピーク3:7EC)はP450(CYP1A2)により3位水酸化をうけ、3ヒドロキシ7エトキシクマリン(ピーク2:溶出時間7.9分)に変換された後、SULTによって硫酸抱合を受けて抱合体(ピーク1:溶出時間6.7分)に変換された。したがって、シトクロムP450を含むSULT同時発現菌体は抱合化基質の前駆体から直接抱合体を調製する系として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
医薬品開発におけるヒト体内における医薬品代謝物の解析に関する分野に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は硫酸抱合体の製造方法、並びにそれに用いる酵母発現ベクター及び形質転換体に関する。より詳しくは、酵母発現ベクターは、硫酸基転移酵素を導入した酵母発現ベクターであり、形質転換体は、前記酵母発現ベクターで形質転換された酵母である。
【背景技術】
【0002】
医薬品開発において、ヒト体内における医薬品代謝物の解析は重要である。硫酸抱合体は医薬品の第II相解毒代謝物として排泄されるが、その一部は反応性代謝物となり毒性を示す可能性が指摘されている。例えば、硫酸抱合体の内、多環芳香族炭化水素のN-ヒドロキシ抱合体は、親電子性の反応性代謝物となり生体高分子との相互作用により変異原性や発ガンの原因となる可能性がある(非特許文献1)。
【0003】
そこで、抱合体自身の安全性評価が必要であるが、有機合成法による部位特異的抱合化はきわめて困難である。そこで、酵素や微生物等を用いて効率良く目的とする抱合体を製造する方法が切望されている。現在、動物肝臓由来細胞質画分を用いた抱合体調製が実用化されているが、生産性や適用範囲が十分とは言えない。また、大腸菌発現系を用いたヒト硫酸基転移酵素がすでに市販されているが、酵素源として抱合体調製に用いるにはコスト面からも現実的ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】E. Banoglu, Current status of the cytosolic sulfotransferases in the metabolic activation of promutagens and procarcinogens. Currt drug Metab. 1, 1-30. (2000)
【非特許文献2】Gamage N, Barnett A, Hempel N, Duggleby RG, Windmill KF, Martin JL, McManus ME.Human sulfotransferases and their role in chemical metabolism.Toxicol Sci. 90, 5-22. 2006)
【非特許文献3】Hildebrandt MA, Carrington DP, Thomae BA, Eckloff BW, Schaid DJ, Yee VC, Weinshilboum RM, Wieben ED , Genetic diversity and function in the human cytosolic sulfotransferases. Pharmacogenomics J. 7, 133-143.(2007).
【非特許文献4】T. Sakaki, M. Akiyoshi-Shibata, Y. Yabusaki, H. Ohkawa, Organellatargeted expression of rat liver cytochrome P450c27 in yeast: genetically engineered alteration of mitochondrial P450 into a microsomal form creates a novel functional electron transport chain, J. Biol.Chem. 267 16497-16502. (1992)
【非特許文献5】JS. Walsh, Patanella, JE, Halm, KA, Facchine, KL. An improved HPLC assay for the assessment of liver slice metabolic viability using 7-ethoxycoumarin, Drug Metab Disp, 23 869-874 (1995)
【非特許文献6】Ikushiro, S., Sahara, M., Emi, Y., Yabusaki, Y.,and Iyanagi, T. : Functional Coexpression of Xenobiotic Metabolizing Enzymes, Rat Cytochrome P4501A1 and UDP-Glucuronosyltransferase 1A6, in Yeast Microsomes. Biochimica Biophysica Acta, 1672, 86-92 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大腸菌内で発現させて得られるヒト由来硫酸基転移酵素(SULT)を酵素源として試験管内における酵素変換にて抱合体を調製する方法は、生産性や適用範囲が十分とは言えなかった。特に硫酸基供与体として用いる活性硫酸(PAPS)は高価であり、抱合体調製に際してコスト低減が可能な方法の出現が待たれている。
【0006】
そこで本発明の目的は、上記方法に代わる生産性に優れた新たな硫酸抱合体の製造方法とこの製造方法に用いる新たな手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
酵母は、硫酸抱合体産生に必要とされる硫酸基転移酵素を欠失しているため、菌体内での抱合体への直接変換は不可能である。そこで、本発明者らは、ヒト由来SULT遺伝子を取得し、酵母へSULT遺伝子を導入した。その結果、このSULT導入酵母株において、菌体に添加した基質の硫酸抱合体への直接変換が見られた。このようにして、酵母菌体内での硫酸抱合体製造に成功した。
【0008】
本発明は以下の通りである。
[1]
酵母発現ベクターに硫酸基転移酵素遺伝子を発現可能に挿入した硫酸基転移酵素発現ベクターで形質転換した酵母からなる、形質転換体。
[2]
被抱合物質の硫酸抱合体生成に用いるための、[1]に記載の形質転換体。
[3]
酵母発現ベクターにシトクロムP450遺伝子を発現可能に挿入したベクターでさらに形質転換した酵母からなる、[1]または[2]に記載の形質転換体。
[4]
酵母発現ベクターが自律複製型ベクターである、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の形質転換体。
[5]
酵母発現ベクターが染色体組み込み型ベクターである、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の形質転換体。
[6]
[1]に記載の形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の水酸化物の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む、硫酸抱合体の製造方法。
[7]
[3]に記載の形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む、硫酸抱合体の製造方法。
[8]
出芽酵母発現ベクターに硫酸基転移酵素遺伝子を発現可能に挿入したものである、硫酸基転移酵素発現ベクター。
[9]
酵母発現ベクターが自律複製型ベクターまたは染色体組み込み型ベクターである、[8]に記載のベクター。
[10]
硫酸基転移酵素遺伝子が微生物、動物または植物由来の遺伝子である、[8]〜[9]のいずれかに記載のベクター。
[11]
硫酸基転移酵素遺伝子がヒト由来遺伝子である、[8]〜[10]のいずれかに記載のベクター。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、SULT発現酵母菌体を用いて抱合体を調製することができる。遺伝子改変酵母菌体を用いた抱合体調製法は、従来の有機合成法や試験管内での酵素法にくらべて、著しく効率的かつ安価に目的の代謝物を調製することができる。例えば、実施例に示すように、ヒトSULT1E1発現酵母菌体を用いた最適条件下において、7−ヒドロキシクマリンの硫酸抱合体を1L反応溶液あたり150mgの産生効率で製造することが可能である。
【0010】
さらに、SULT分子種は、種々のものの遺伝子情報が知られていることから、本発明のSULT発現酵母菌体を多様なSULT分子種について調製することができる。その結果、本発明のSULT発現酵母菌体は、さまざまな医薬品に対して適用でき、実用性もきわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】硫酸基転移酵素遺伝子を含む自律複製型酵母発現ベクターの構築スキームを示す。
【図2】酵母内発現硫酸基転移酵素タンパクの発現をウエスタンブロット法により確認した結果を示す。
【図3】SULT1A1発現酵母静止菌体を用いた7ヒドロキシクマリン抱合体の製造結果を示す。
【図4】SULT発現株における抱合体産生の硫酸アンモニウム濃度の影響を示す
【図5】SULT1E1発現株における抱合体産生の時間変化を示す。
【図6】酵母静止菌体を用いたケルセチン抱合体の製造結果を示す。
【図7】酵母静止菌体を用いたアセトアミノフェン抱合体の製造結果を示す。
【図8】酵母静止菌体を用いたステロイド抱合体の製造結果を示す。
【図9】酵母静止菌体を用いた1ヒドロキシピレン抱合体の製造結果を示す。
【図10】シトクロムP450を含む同時発現株の酵母静止菌体を用いた7ヒドロキシクマリン抱合体の製造結果を示す。
【図11】組換え酵母菌体を用いた硫酸抱合体の調製の模式説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[酵素発現ベクター]
本発明では、(1)硫酸基転移酵素発現ベクター、及び(2)シトクロムP450遺伝子発現ベクターを用いる。以下、順に説明する。
【0013】
<硫酸基酵素発現ベクター>
硫酸基酵素発現ベクターは、酵母発現ベクターに硫酸基転移酵素SULT)遺伝子を挿入したものである。
【0014】
酵素遺伝子を挿入する発現ベクターは、宿主である酵母において複製保持され、上記酵素遺伝子を発現し得る自律複製型ベクターであっても、酵母の染色体に組み込まれる、染色体組み込み型プラスミドベクターであってもよい。自律複製型ベクターおよび染色体組み込み型プラスミドベクターは、宿主である酵母において保持されかつ機能するものであれば制限なく利用できる。自律複製型ベクターとしては、例えば、実施例で用いたpGYR、さらには酵母由来のプラスミドYEp352GAP、YEp51、pSH19などを挙げることができる。染色体組み込み型プラスミドベクターとしては、実施例で用いたpAURなどを挙げることができる。
【0015】
上記酵素遺伝子および、必要により、シグナル配列遺伝子を上記発現に適したベクター中のプロモーターの下流に連結して発現ベクターを得ることができる。プロモーターとしては、ENO1プロモーター、GAL10プロモーター、GAPDHプロモーター、ADHプロモーターなどが挙げられる。
【0016】
硫酸基転移酵素遺伝子は、公知の遺伝子から適宜選択することができる。硫酸基転移酵素(SULT)は、約300アミノ酸残基からなる細胞質タンパク質であり、肝臓や小腸において複数の分子種が存在する(非特許文献2)。分子種の例としては、SULT1A1、SULT1A2、SULT1A3、SULT1A4、SULT1B1、SULT1C2、SULT1C4、SULT1E1、SULT2A1、SULT2B1_v1、SULT2B1_v2、SULT4A1_v1、SULT4a1_vを挙げることかできる。実施例では、ヒト由来の遺伝子を用いた。
【0017】
SUTLは活性硫酸(PAPS)を硫酸基の供与体として生体内外の異物への硫酸抱合を行なう。硫酸基転移酵素遺伝子は、これまでの研究により多くの分子種がクローニングされ、その塩基配列が明らかにされた(非特許文献3)。本発明ではこれら公知の遺伝子を適宜利用できる。代表的な硫酸基転移酵素は、例えば、ヒトの酵素である。それら転移酵素の遺伝子配列は、ヒト由来の酵素はGenBankに登録されており、配列情報は容易に入手可能である。
【0018】
【表1】
【0019】
<シトクロムP450遺伝子発現ベクター>
シトクロムP450遺伝子発現ベクターは、非特許文献6に記載されており、この文献の記載に基づいて調製することができる。酵母発現ベクターは上記硫酸基転移酵素発現ベクターで説明したものと同様のものを用いることができる。
【0020】
シトクロムP450遺伝子発現ベクターは、小胞体膜酵素であるシトクロムP450の発現で実績のあるpGYRを用いた。発現調節領域に醤油酵母(Zygosaccharomyces rouxii)グリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素遺伝子由来のプロモーター及びターミネーター領域を有し定常的なタンパク発現を可能にしている。さらに酵母由来P450還元酵素遺伝子を含むことによりNADPHからの電子供給を増強することで酵母内でのP450によるモノオキシゲナーゼ反応を促進することができる。
【0021】
<発現ベクターの調製>
酵素遺伝子及び必要により、シトクロムP450遺伝子をそれぞれ機能的に連結し、これらを適切なベクターに挿入する方法は、当業者に通常知られる方法、たとえば、文献Molecular Cloning (1989) (Cold Spring Harbor Lab.)に記載の方法である。組換えベクターにおける挿入位置は、組換えベクターの複製に関与していない領域であればどこでも良く、通常はベクター内のマルチクローニングサイトが利用される。
【0022】
[形質転換体]
本発明の形質転換体は、上記本発明のいずれか1つまたは2つ以上のベクターで形質転換した酵母からなる。宿主して用いる酵母はSaccharomyces属に属し、例としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri))等が挙げられるが、例えば、Saccharomyces cerevisiae AH22株、NA87-11A株、SHY3株等を用いることができる。
【0023】
本発明の形質転換体は、例えば、
(A)硫酸基転移酵素発現ベクターで形質転換した酵母、並びに
(B)硫酸基転移酵素発現ベクター及びシトクロムP450遺伝子発現ベクターで形質転換した酵母を挙げることができる。
【0024】
形質転換体の調製方法にも特に制限はなく、酵母宿主への組み換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。
【0025】
調製された形質転換体は、適宜常法により培養、増殖させた後に、後述する硫酸抱合体の製造方法に使用することができる。増殖させた形質転換体は、導入した遺伝子の種類や宿主の種類により異なるが、一般には対数増殖期にある菌体を用いることが適当であるが、対数増殖期前の菌体や対数増殖期後の菌体を用いることが好ましい場合もある。
【0026】
[硫酸抱合体の製造方法]
本発明の硫酸抱合体の製造方法には、原料として被抱合物質の水酸化物を用いる方法(第1の態様)と被抱合物質を用いる方法(第2の態様)とがある。
【0027】
図11に、本発明の組換え酵母菌体(形質転換体)を用いた硫酸抱合体の調製の模式説明図を示す。
【0028】
一般に、生体内外の異物(脂溶性化合物(疎水性基質)(RH))は、抱合化反応を受けて水溶性の抱合体となり、体外へ排泄される。特に硫酸抱合は、脂溶性化合物中の水酸基やアミノ基に硫酸基が付加されることによって水溶性の極性代謝物に変換される。極性代謝物(硫酸抱合体)は、多剤耐性薬剤輸送タンパク質(ABCC2)により、生体外に排泄が促進される。従って、本発明の硫酸抱合体の製造方法において用いられる被抱合物質は、上記水酸基、アミノ基などの官能基を有する化合物であり、これらの化合物は、医薬品または医薬品の候補物質であることができる。
【0029】
生体内外の脂溶性化合物(疎水性基質)(RH, 脂溶性基質 )は、シトクロムP450(CYP)により酸化されて水酸化物(ROH)となった後に、菌体内の硫酸基転移酵素(SULT)が触媒する硫酸基転移反応により、活性硫酸(PAPS)を硫酸基の供与体として、硫酸抱合体に変換される。硫酸基転移酵素(SULT)が関与するこの系は、生体外への異物排泄を促進させる役割をもつ異物代謝系のひとつである。
【0030】
原料として被抱合物質の水酸化物を用いる方法(第1の態様)は、本発明の形質転換体として、上記(A)の形質転換体を用い、かつこの形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の水酸化物の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含むものである。
【0031】
第1の態様では硫酸抱合体の原料抱合物質の水酸化物あるいはアミノ基を有する化合物の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成として被抱合物質の水酸化物を用いる。本発明において、硫酸抱合のターゲットとなる被抱合物質は、例えば、アルコール性水酸基を含む医薬品、フェノール性水酸基を多数含むポリフェノール化合物、フェノール性あるはアルコール性水酸基を含むステロイドホルモン、アミノ基を含む医薬品等を挙げることができる。
【0032】
本発明の製造方法において用いられる被抱合物質は、上記のように特に制限はない。これは、上述のように本発明においては、硫酸基転移酵素(SULT)の基質となる被抱合物質の種類に応じて、形質転換体に含まれる硫酸基転移酵素(SULT)遺伝子の種類を適宜選択することができるからである。例えば、実施例に示す例では、7ヒドロキシクマリンの抱合体(フェノール性水酸基)を調製する場合、用いるUGTは、SULT1E1であることが適当であり、ケルセチンの抱合体(フェノール性水酸基)を調製する場合、用いるUGTは、SULT1A3であることが適当であり、1−ヒドロキシピレンの1位水酸基に対する抱合体(フェノール性水酸基)を調製する場合、用いるUGTは、SULT1B1であることが適当である。
【0033】
被抱合物質は公知の方法で入手でき、例えば、以下の方法を挙げることができる。有機合成法を用いた水酸基の導入やシトクロムP450を用いた酵素法による選択的な水酸化によって得ることが可能である。
【0034】
上記(A)または(B)の形質転換体の培養は、グルコース、硫酸アンモニウム及び被抱合物質の存在下、公知の酵母の培養方法を適宜用いて実施できる。酵母宿主が上記AH22株の場合、L-ヒスチジンとL-ロイシン以外の全ての必須アミノ酸を生合成することができる。従って、培地には、これら2つのアミノ酸を添加して培養するか、あるいは発現ベクターとして、いずれか一方のアミノ酸合成遺伝子を持つベクターを用いることで、この発現ベクターを有する酵母宿主を選択的に培養することもできる。
【0035】
培養の条件は、酵母形質転換体の生育に適した条件において適宜に設定することができる。形質転換体の培養に用いる栄養培地としては、炭素源、窒素源、無機物、および必要に応じ使用菌株の必要とする微量栄養素を程よく含有するものであれば、天然培地、合成培地のいずれでもよい。あるいは酵母形質転換体の生育に必要な栄養源の少なくとも一部を欠いた条件で培養することで、硫酸抱合体の生成、蓄積が良好に得られる場合もある。被抱合物質の種類によっては後者の条件が好ましい場合もある。
【0036】
栄養培地の炭素源としては、酵母形質転換体が資化しうる物であればよく、例えば、グルコース、マルトース、フラクトース、マンノース、トレハロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、デンプン、デキストリン、糖蜜などの糖質、またはクエン酸、コハク酸などの有機酸、またはグリセリンなどの脂肪酸も使用することができる。
【0037】
栄養培地の窒素源としては、各種有機および無機の窒素化合物、さらに培地は各種の無機塩を含むことができる。たとえば、コーンスティープリカー、大豆粕、あるいは各種ペプトン類等の有機窒素源、そして塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸アンモニウム等の無機窒素源などの化合物が使用可能である。また、グルタミン酸などのアミノ酸および尿素などの有機窒素源が炭素源にもなることはいうまでもない。さらに、ペプトン、ポリペプトン、バクトペプトン、肉エキス、魚肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、大豆粉、大豆粕、乾燥酵母、カザミノ酸、ソリュブルベジタブルプロテイン等の窒素含有天然物も窒素源として使用できる。
【0038】
栄養培地の無機物としては、たとえば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などが適宜用いられる。具体的には、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等が用いられる。さらに、必要に応じて、アミノ酸ならびにビオチンおよびチアミンなどの微量栄養素ビタミンなども適宜用いられる。
【0039】
培養法としては液体培養法がよく、回分培養、流加培養、連続培養または灌流培養のいずれを用いてもよいが、工業的には通気攪拌培養法が好ましい。培養温度とpHは、使用する形質転換体の増殖に最も適した条件を選べばよい。培養時間は微生物が増殖し始める時間以上の時間であればよく、好ましくは8〜120時間であり、さらに好ましくは組換えタンパク質遺伝子の遺伝子産物が最大に生成する時間までである。たとえば、形質転換体が出芽酵母の場合の培養は、通常、温度20〜40℃、好ましくは25〜35℃、pH2〜9、好ましくは5〜8、培養日数0.5〜7日間から選ばれる条件で振盪または通気攪拌して行われる。酵母の増殖を確認する方法は特に制限はないが、たとえば、培養物を採取して顕微鏡で観察してもよいし、吸光度で観察してもよい。また、培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常は、0.5〜20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、撹拌したり、通気に酸素を追加したりすればよい。
【0040】
形質転換体の使用量は、例えば、0.5〜5%(w/v、乾燥重量/培養液体積)の範囲であることができる。さらに、グルコース、硫酸アンモニウム及び被抱合物質の水酸化物の培地への添加量は、培地における浸透圧及び細胞に対する毒性を考慮して適宜決定され、例えば、グルコースは4〜10%(w/v)の範囲であり、硫酸アンモニウムは0.5〜2%(w/v)範囲であり、被抱合物質の水酸化物は0.5〜10mMの範囲であることが適当である。
【0041】
形質転換体を培養することで培養物中に硫酸抱合体が蓄積する。培養後、酵母形質転換体の培養液から硫酸抱合体を回収する。硫酸抱合体は、形質転換体外に蓄積されることが多いが、一部は形質転換体内にも蓄積される。形質転換体外に蓄積された硫酸抱合体は、例えば、溶媒抽出により回収することができる。溶媒抽出による回収は、例えば、通常知られる手段によって形質転換体を培養液から除いた後に、得られる培養上清に対して行うことができる。形質転換体は再利用も可能である。
【0042】
また、形質転換体内に蓄積した硫酸抱合体は、例えば、有機溶剤やザイモリアーゼのような酵素によって形質転換体の細胞壁を溶解する方法、および、超音波破砕法、フレンチプレス法、ガラスビーズ破砕法、ダイノミル破砕法等の細胞破砕法で得られた形質転換体の細胞破砕物および/または培養物を遠心分離法、ろ過法等の操作によって形質転換体と培養上清に分離する。このようにして得られた培養上清から、上記と同様に硫酸抱合体を回収することができる。
【0043】
原料として被抱合物質を用いる方法(第2の態様)は、本発明の形質転換体として、(B)の形質転換体を用い、かつこの形質転換体をグルコース、硫酸アンモニウム及び被抱合物質の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む。
【0044】
第2の態様は、形質転換体として(B)の形質転換体を用いること、被抱合物質の水酸化物の代りに、例えば、アミノ基などの官能基を有する化合物である被抱合物質を原料として用いること以外は、第1の態様と同様である。被抱合物の培地への添加量は、培地における浸透圧及び細胞に対する毒性を考慮して適宜決定され、例えば、被抱合物質は0.5〜10mMの範囲であることが適当である。
【0045】
第2の態様においては、シトクロムP450を含む同時発現株を用いる。そのため、抱合化基質の前駆体(被抱合物質)から抱合体を調製することができる。
即ち、被抱合物質を前駆体化(水酸化物への変換)をすること無しに、抱合体を調製することができる。
【実施例】
【0046】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0047】
実施例1
1. 硫酸基転移酵素発現プラスミドの構築
ヒト由来硫酸基転移酵素は、cDNAライブラリーを鋳型として、両端に相補的な配列を有するプライマーを用いてPCR法によって増幅し構築した。酵母発現ベクターとしては自律複製型プラスミドであるpGYR(文献番号4)あるいは染色体組み込み型プラスミドであるpAUR101(TaKaRa)を用いた(図1)。
【0048】
1-1.ヒト由来硫酸基転移酵素遺伝子の作成
ヒト肝臓及び肺のcDNAライブラリーを用いてPCR法によって5種のSULT遺伝子(SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)のクローニングを行った。cDNAライブラリーはPCR ready First Strand cDNA (Biochain 社)を用いた。
【0049】
DNAポリメラーゼとしてはKOD-plus-(TOYOBO)を用いた。反応液組成は製造業者の指示に従い、以下に示すプライマーと反応条件でPCRを行った。
1) SULT1A1
フォワード配列 : 配列番号 1
リバース配列 : 配列番号 2
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、40℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、50℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0050】
2) SULT1A3
フォワード配列 : 配列番号 3
リバース配列 : 配列番号 4
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、42℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、50℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0051】
3) SULT1B1
フォワード配列 : 配列番号 5
リバース配列 : 配列番号 6
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、37℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0052】
4) SULT1E1
フォワード配列 : 配列番号 7
リバース配列 : 配列番号 8
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、40℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、52℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0053】
5) SULT2A1
フォワード配列 : 配列番号 9
リバース配列 : 配列番号 10
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、42℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、52℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0054】
それぞれのPCR産物を1%アガロースゲルで電気泳動した結果、目的サイズ(約0.9kb)に特異的な増幅がみられた。(以下、1%アガロースゲルでの電気泳動は、単に電気泳動と略称する)。PCR増幅溶液を電気泳動して、DNA断片をゲルから分離した後、TAクローニングキット(Target cloneTM-plus-,TOYOBO社)を用いてpTAベクターに挿入した。このクローニングされた遺伝子のシークエンスを行い遺伝子配列を解析したところ、配列番号11〜15に示した塩基配列(表1にGenBank Acc.No. を示す)であることを確認した。
【0055】
本遺伝子を発現ベクターにサブクローニングするために、部位特異的な変異導入によりアミノ酸配列を変えずに内部HindIIIサイトを欠失させた。変異導入は変異体作成キットQuick ChangeTMを用いた。変異導入をおこなったクローンの塩基配列を解析し、目的以外の箇所に変異導入されていないことを確認した。
【0056】
1-2. 硫酸基転移酵素遺伝子発現ベクターの構築
1-2-1. 自律複製型酵母発現ベクターの構築
1-1で作成した硫酸基転移酵素断片を含むプラスミド約1μgを37℃で4時間、HindIII処理し、電気泳動後、遺伝子断片をゲルから切り出した。切り出したゲルからWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてインサート断片を調製した。
【0057】
酵母発現ベクターとして用いるpGYRを37℃で4時間HindIII処理し、電気泳動後、目的サイズ(約11kb)のバンドを切り出した。その後、Wizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてベクター断片を調製した。
【0058】
インサート断片とpGYR-HindIIIベクター断片の濃度を電気泳動で確認後、それらのモル比が3:1〜10:1程度になるように混合し、等量のDNA Ligation Kit Ver. 2 (TaKaRa)のsolution Iを加え、16℃、1時間反応を行った。その後、大腸菌JM109株にヒートショック法を用いてトランスフォーメーションを行い、LBプレート(アンピシリン50μg/ml含有)に展開した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、それらを鋳型としてコロニーPCRを行った。DNAポリメラーゼは、Ex Taq(登録商標) DNAポリメラーゼを用いた。プライマーはYGAP-Pプライマー(5'-aatgacaccgtgtggtgatcttcaagg-3')(配列番号24)と上記に示したSULTリバースプライマー(配列番号2, 4, 6, 8, あるいは10)をそれぞれ用いた。以下の条件でPCRを行った。
【0059】
PCR条件
変性 98℃5分
30サイクル 94℃ 30秒、50℃ 30秒、72℃ 2分30秒
最終伸長 72℃4分
【0060】
PCR後、電気泳動を行い、予想サイズ(約1.5kb)に特異的な増幅がみられるクローンを数個得た。得られた大腸菌コロニーを5mlのLB培地(アンピシリン100μg/ml含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後アルカリSDS法を用いてプラスミドを抽出した。そして、その一部を37℃で1時間、HindII処理し、電気泳動をしてインサートの導入を再度確認し、硫酸基酵素遺伝子を含む酵母発現ベクター(pGYR/SULT)を得た。
【0061】
1-2-2. 染色体組み込み型酵母発現ベクターの構築
1-2-1で作成した硫酸基転移酵素断片を含む発現プラスミド(pGYR/SULT)約1μgを37℃で4時間、NotI処理し、電気泳動後、酵母発現プロモーター及びターミネーター領域を含む遺伝子断片(約2kb)をゲルから切り出した。切り出したゲルからWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてインサート断片を調製した。
【0062】
自律複製型酵母発現ベクターpAUR101(TaKaRa)に上記で得られたNotI断片を挿入するために、部位特異的な変異導入によりマルチクローニングサイトにNotI制限酵素配列(GCGGCCGC)をマルチクローニングサイト領域に導入した。変異導入は変異体作成キットQuick ChangeTMを用いた。変異導入をおこなったクローンの塩基配列を解析し、目的以外の箇所に変異導入されていないことを確認した(pAUR-N)。酵母発現ベクターとして用いるpAUR-Nを37℃で4時間NotI処理し、電気泳動後、目的サイズ(約7kb)のバンドを切り出した。その後、Wizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてベクター断片を調製した。
【0063】
インサート断片とpAUR-NotIベクター断片の濃度を電気泳動で確認後、それらのモル比が3:1〜10:1程度になるように混合し、等量のDNA Ligation Kit Ver. 2 (TaKaRa)のsolution Iを加え、16℃、1時間反応を行った。その後、大腸菌JM109株にヒートショック法を用いてトランスフォーメーションを行い、LBプレート(アンピシリン50μg/ml含有)に展開した。得られた大腸菌コロニーを5mlのLB培地(アンピシリン100μg/ml含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後アルカリSDS法を用いてプラスミドを抽出した。そして、その一部を37℃で1時間、NotI処理し、電気泳動をしてインサートの導入を再度確認し、硫酸基転移酵素を含む酵母発現ベクター(pAUR/SULT)を得た。
【0064】
実施例2
2. 硫酸基転移酵素を発現する酵母形質転換体の作成
2-1. 酵母への発現用プラスミドの形質転換
発現酵母には、酵母(Saccharomyces cerevisiae)AH22株を用いた。AH22株は、L-ヒスチジンとL-ロイシン以外は全ての必須アミノ酸を生合成することが出来る。pGYRはL-ロイシン合成遺伝子(LEU2)を持つため、培地にL-ヒスチジンを添加するとプラスミドを持った酵母のみが増殖できる。また、pAURは抗生物質であるAureobasdin A耐性遺伝子を有しており、Aureobasidin A存在下で形質転換体を選択することが可能である。発現用コンストラクトを酵母AH22株に塩化リチウム法により形質転換した。以下に形質転換の詳細なプロトコールを示す。
【0065】
<材料>
YPD培地:1%酵母抽出物、2%ポリペプトン、2%グルコース
SDプレート:2%グルコース、0.67%N-base w/o アミノ酸、1.5%寒天、20μg/ml L-ヒスチジン、0.2M LiCl: 10ml(フィルター滅菌)、1M LiCl: 10ml(フィルター滅菌)
70%(w/v) PEG 4000: 10ml(溶解後、10mlにメスアップ)
【0066】
<方法>
30℃で培養したS.cerevisiae AH22株1.0x107細胞を使用し、卓上遠心機で13,000rpm、4分遠心を行い、上清を除いた。ペレットを0.2M LiClで洗浄した(少しボルテックスにかけた)。卓上遠心機で13,000rpm、4分遠心を行い、上清を完全に取り除いた。ペレットを1M LiCl 20μlにピペッティングにより懸濁した。DNA(プラスミド)溶液10μl(0.5〜1μgのプラスミドを含有)を加えた。70%(w/v) PEG 4000を30μl加え、ピペッティングによりよく混合した。40℃で30分間インキュベートした。滅菌水140μlを加えてpGYRベクターの場合にはSDプレート、またはpAURベクターの場合には0.5μg/ml Aureobasidin A を含むYPDプレートに展開し、30℃にてインキュベートした。プレート上で30℃、3日間培養し、3〜5mm程度の大きさのコロニーを数十個得た。また、pGYR及びpAURの同時形質転換体の場合は、0.5μg/ml Aureobasidin A を含むSDプレートに展開し、30℃にてインキュベートした。プレート上で30℃、5日間培養し、3〜5mm程度の大きさのコロニーを数個得た。
【0067】
2-2. 硫酸基転移酵素タンパク質の酵母内での発現の確認
実施例2-1で得られた形質転換体について、それぞれの菌体内でタンパク質が機能的に発現されているかどうかを、ウエスタンブロット法によって確認した。
【0068】
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体をZymolyase処理にした後に、ヒト硫酸基転移酵素抗体を用いたウエスタンブロット法により解析した(図2)。
【0069】
酵母内発現硫酸基転移酵素タンパクの発現を確かめるために、SULT1A1,SULT1E1,SULT2A1形質転換体の酵母抽出液タンパクのウエスタンブロット解析を行った。パネル(A):SULT1A1抗体、パネル(B):SULT2A1抗体、パネル(C):SULT1E1抗体。それぞれのレーン1はヒト肝臓サイトゾルタンパク、レーン2:コントロール酵母(AH22:pGYR)、レーン3:SULT発現酵母(pGYR/SULT)を示す。
それぞれのパネルにおいてヒト肝臓(レーン1)で見られるSULTに対応するバンド(レーン3)が各形質転換体酵母より検出されたことより、酵母におけるSULTタンパクの発現が確認された。
【0070】
実施例3
3. 酵母形質転換体を用いた硫酸抱合体の製造
【0071】
3-1. 静止菌体を用いた7ヒドロキシクマリン抱合体の製造
硫酸基転移酵素を発現した酵母静止菌体における硫酸抱合体の生成を確かめるために、形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコースを含む適当な緩衝溶液に懸濁し、抱合化基質として0.1−1mM 7ヒドロキシクマリンを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。それぞれの代謝物を超高速液体クロマトグラフィーにより分析した。条件は以下のとおりである。カラム:Nacalai Tesque社製 2.5C18-MS-II (内径2.0mm × 長さ100mm)、検出波長:320nm、流速:0.5ml/min、カラム温度:45℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.1%TFAを含む)、10%アセトニトリル(4分間)、10-70%アセトニトリル直線濃度勾配(6分間)の後、70-10%アセトニトリル(2分間)、10%アセトニトリル(3分間)
【0072】
3-1-1. 硫酸基転移酵素発現酵母における抱合体生成
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1)における7ヒドロキシクマリン抱合体の生成を確かめた。
【0073】
図3に示すように、コントロール酵母と比較してSULT遺伝子を導入した酵母菌体においては基質である7ヒドロキシクマリン(7HC)が減少するとともに溶出時間1.7分付近に新たなピークが検出された。このピークは硫酸抱合体の標準品である7硫酸化クマリン(7SC)と同一の溶出時間を示し、硫酸抱合体特異的な加水分解酵素であるサルファターゼ処理によって消失したことより、添加した7HCが酵母発現SULTによって菌体内にて7SCに変換されたものと確認された。
【0074】
3-1-2. SULT発現株における抱合体産生の硫酸アンモニウム濃度の影響
SULT発現酵母株(AH22: pAUR/SULT1A1,1E1,2A1,)における7ヒドロキシクマリン抱合体の生成における硫酸アンモニウム濃度を調べた(図4)。
【0075】
図4に示されるように、添加した硫酸アンモニウム濃度に依存して抱合体の産生量は増加し、1%の濃度でほぼ最大変換を示した。さらに、生成した抱合体の培地と菌体への分布を調べると、90%以上の抱合体が培地中に分泌されていることがわかった。
3-1-3. SULT1E1発現株における抱合体産生の時間変化
実施例3-1-2でもっとも変換効率の高かった同時発現酵母株(AH22: pAUR/SULT1E1)における7ヒドロキシクマリン抱合体の生成の時間依存性を調べた(図5)。
【0076】
図5に示されるように、加えた基質(1mM 7HC:△)は反応時間に依存して減少し、抱合体(7SC:○)は直線的に増加してゆき、4時間経過後には加えた基質の90%以上が抱合体へ変換されることが示された。
【0077】
3-2. 静止菌体を用いたケルセチン抱合体の製造
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1) におけるケルセチン抱合体の生成を確かめた。
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコースを含む0.1Mリン酸緩衝溶液(pH7.4)に懸濁し、抱合化基質として0.5mM ケルセチンを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。ケルセチン抱合体のHPLCによる分析条件は以下のとおりである。カラム:Wako社製 WakoPack Navi C-30-5(内径3.0mm × 長さ150mm)、検出波長:370nm、流速:0.4ml/min、カラム温度:37℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.5% リン酸を含む)、18 %アセトニトリル(10分間)、18-55%アセトニトリル直線濃度勾配(10分間)の後、55%アセトニトリル(5 分間)
【0078】
結果を図6に示す。ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株(AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)におけるケルセチン抱合体の生成を確かめたところ、SULT1A3とSULT1E1の2種に関して高い抱合能が見られた。
【0079】
3-3. 静止菌体を用いたアセトアミノフェン抱合体の製造
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)におけるアセトアミノフェン抱合体の生成を確かめた。
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコース溶液に懸濁し、抱合化基質として10mMアセトアミノフェンを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。代謝物を超高速液体クロマトグラフィーにより分析した。条件は以下のとおりである。カラム:Nacalai Tesque社製 2.5C18-MS-II(内径2.0mm × 長さ100mm)、検出波長:260nm、流速:0.5ml/min、カラム温度:45℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.1%TFAを含む)、2%アセトニトリル(4分間)、2-60 %アセトニトリル直線濃度勾配(4分間)の後、60-2%アセトニトリル(2分間)、2%アセトニトリル(2分間)
【0080】
結果を図7に示す。ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株(AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)におけるアセトアミノフェン抱合体の生成を確かめたところ、いずれの分子種においても抱合能がみられたが、中でもSULT1A1が最も高い変換効率を示した。
【0081】
3-4.静止菌体を用いたステロイド抱合体の製造
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)におけるステロイド抱合体の生成を確かめた。
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコース溶液に懸濁し、抱合化基質として1mMエストロンまたはエストラジオールを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。代謝物を超高速液体クロマトグラフィーにより分析した。条件は以下のとおりである。カラム:Nacalai Tesque社製 2.5C18-MS-II(内径2.0mm × 長さ100mm)、検出波長:280nm、流速:0.5ml/min、カラム温度:45℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.1%TFAを含む)、25%アセトニトリル(4分間)、25-80%アセトニトリル直線濃度勾配(6分間)の後、80-25%アセトニトリル(2分間)、25%アセトニトリル(3分間)
【0082】
結果を図8に示す。ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株(AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)における(A)エストロン及び(B)エストラジオール抱合体の生成を確かめたところ、いずれの基質に関してもSULT1A3とSULT1E1が高い抱合能を示した。
【0083】
3-5. 静止菌体を用いた1-ヒドロキシピレン抱合体の製造
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)における1-ヒドロキシピレン抱合体の生成を確かめた。
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコース溶液に懸濁し、抱合化基質として1mMエストロンまたはエストラジオールを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。代謝物を超高速液体クロマトグラフィーにより分析した。条件は以下のとおりである。カラム:Nacalai Tesque社製 2.5C18-MS-II (内径2.0mm × 長さ100mm)、検出波長:333nm、流速:0.5ml/min、カラム温度:45℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.1%TFAを含む)、25%アセトニトリル(4分間)、25-70%アセトニトリル直線濃度勾配(4分間)の後、70-25%アセトニトリル(2分間)、25%アセトニトリル(2分間)
【0084】
結果を図9に示す。ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株(AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)における1-ヒドロキシピレン抱合体の生成を確かめたところ、いずれの分子種においても抱合能がみられたが、中でもSULT1B1が最も高い変換効率を示した。
【0085】
3-4.シトクロムP450を含む同時発現株の静止菌体を用いた7ヒドロキシクマリン抱合体の製造
生体内で生じる抱合体の多くは、その前段階としてシトクロムP450によるモノオキシゲナーゼ反応を受け、抱合化をうける官能基としてはたらく水酸基の導入を受ける。肝細胞においては、7エトキシクマリンを基質として、シトクロムP450による水酸化反応による水酸化体生成、引き続いて硫酸基転移酵素による抱合化が観測される(非特許文献5)。このP450と硫酸基転移酵素の連続的な変換反応を酵母菌体内で可能にするために、pAUR/humanSULT1A1及びpGYR/ratCYP1A2の発現ベクターを同時に形質転換した酵母株を作成した。形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコースを含む溶液に懸濁し、抱合化基質として1mM 7エトキシクマリンを添加した。30℃の条件下で12時間シントウ培養をおこない、培養液に生成される水酸化体及び抱合体生成を調べた(図10)。
【0086】
図10に示されるように、添加した7エトキシクマリン(ピーク3:7EC)はP450(CYP1A2)により3位水酸化をうけ、3ヒドロキシ7エトキシクマリン(ピーク2:溶出時間7.9分)に変換された後、SULTによって硫酸抱合を受けて抱合体(ピーク1:溶出時間6.7分)に変換された。したがって、シトクロムP450を含むSULT同時発現菌体は抱合化基質の前駆体から直接抱合体を調製する系として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
医薬品開発におけるヒト体内における医薬品代謝物の解析に関する分野に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母発現ベクターに硫酸基転移酵素遺伝子を発現可能に挿入した硫酸基転移酵素発現ベクターで形質転換した酵母からなる、形質転換体。
【請求項2】
被抱合物質の硫酸抱合体生成に用いるための、請求項1に記載の形質転換体。
【請求項3】
酵母発現ベクターにシトクロムP450遺伝子を発現可能に挿入したベクターでさらに形質転換した酵母からなる、請求項1または2に記載の形質転換体。
【請求項4】
酵母発現ベクターが自律複製型ベクターである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の形質転換体。
【請求項5】
酵母発現ベクターが染色体組み込み型ベクターである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の形質転換体。
【請求項6】
請求項1に記載の形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の水酸化物の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む、硫酸抱合体の製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載の形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む、硫酸抱合体の製造方法。
【請求項8】
出芽酵母発現ベクターに硫酸基転移酵素遺伝子を発現可能に挿入したものである、硫酸基転移酵素発現ベクター。
【請求項9】
酵母発現ベクターが自律複製型ベクターまたは染色体組み込み型ベクターである、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
硫酸基転移酵素遺伝子が微生物、動物または植物由来の遺伝子である、請求項8〜9のいずれかに記載のベクター。
【請求項11】
硫酸基転移酵素遺伝子がヒト由来遺伝子である、請求項8〜10のいずれかに記載のベクター。
【請求項1】
酵母発現ベクターに硫酸基転移酵素遺伝子を発現可能に挿入した硫酸基転移酵素発現ベクターで形質転換した酵母からなる、形質転換体。
【請求項2】
被抱合物質の硫酸抱合体生成に用いるための、請求項1に記載の形質転換体。
【請求項3】
酵母発現ベクターにシトクロムP450遺伝子を発現可能に挿入したベクターでさらに形質転換した酵母からなる、請求項1または2に記載の形質転換体。
【請求項4】
酵母発現ベクターが自律複製型ベクターである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の形質転換体。
【請求項5】
酵母発現ベクターが染色体組み込み型ベクターである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の形質転換体。
【請求項6】
請求項1に記載の形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の水酸化物の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む、硫酸抱合体の製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載の形質転換体を硫酸アンモニウム、グルコース及び被抱合物質の存在下で培養して、前記被抱合物質の硫酸抱合体を生成させることを含む、硫酸抱合体の製造方法。
【請求項8】
出芽酵母発現ベクターに硫酸基転移酵素遺伝子を発現可能に挿入したものである、硫酸基転移酵素発現ベクター。
【請求項9】
酵母発現ベクターが自律複製型ベクターまたは染色体組み込み型ベクターである、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
硫酸基転移酵素遺伝子が微生物、動物または植物由来の遺伝子である、請求項8〜9のいずれかに記載のベクター。
【請求項11】
硫酸基転移酵素遺伝子がヒト由来遺伝子である、請求項8〜10のいずれかに記載のベクター。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−165676(P2012−165676A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28515(P2011−28515)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】
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