説明

遺伝子検出方法

【課題】目的遺伝子を特異的に検出する方法に関し、疎水場発光性を有する電気化学発光物質を増幅中に取り込ませることで迅速・高感度に目的遺伝子を検出することのできる遺伝子検出方法を提供する。
【解決手段】目的遺伝子に相補な配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーと、疎水場でのみ電気化学発光反応を起こす電気化学発光物質を標識した少なくとも一種の核酸を構成する基質を含む基質群と、鋳型核酸である目的遺伝子と増幅酵素とを容器内で混合し、サーマルサイクラーによって目的遺伝子の増幅反応を行う過程で電気化学発光物質を疎水場である増幅産物内に取り込ませる。増幅されずに取り込まれなかった未反応の電気化学発光物質を標識した基質は親水場である反応溶液内に存在するので発光しないことで、増幅産物を抽出することなく迅速かつ高感度に目的遺伝子を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来、試料中に存在する特定の目的遺伝子を迅速に検出するため、蛍光体が標識されたヌクレオチドを基質とし、目的遺伝子を増幅させる方法が用いられていた。これは、目的遺伝子に特異的に結合したオリゴヌクレオチドプライマー対によって目的遺伝子に含まれる特定配列を増幅される際に、増幅産物中に蛍光体が標識されたヌクレオチドが取り込まれ、その取り込まれた蛍光体からの蛍光量を測定することで目的遺伝子の有無を検出する方法である(例えば特許文献1及び特許文献2)。この時に測定対象のみを測定するために、未反応の基質や夾雑物を磁気ビーズやカラムにより除去する。この除去工程をB/F(Bound/Free)分離工程と呼び、不用なものが含まれる液体と目的物質を含む固体とを分離することで選択的に目的物質を得る。
【0002】
近年、検出感度を高めて、より少ない測定サンプルから検出を行う方法が求められている。ところが、従来の蛍光測定では蛍光体を励起させるための励起光が必要であり、この励起光が測定時のバックグラウンド光となることや、励起光が容器に照射されることで容器から自家蛍光が発生する。このバックグラウンド光や自家蛍光が、測定時のノイズ光となり、検出感度を低減させていた。そこで、励起光が不要な発光法が使われるようになってきた。
【0003】
この発光法の中でも電気化学発光法は電気化学発光物質が電圧の印加により発光反応を起こすことから励起光が不要となり、これによりバックグラウンド光や自家蛍光が生じることなく高感度な測定が可能となる。電気化学発光法を用いた遺伝子検出方法は、電気化学発光物質を標識したヌクレオチドを基質として用いる。上記の蛍光体を用いた増幅工程と同様に、目的遺伝子に特異的に結合したオリゴヌクレオチドプライマー対により増幅される際に、増幅された増幅産物中に電気化学発光物質を取り込ませ、その取り込まれた電気化学発光物質からの発光量を測定することで目的遺伝子の有無を検出する(例えば特許文献3)。この測定の前工程として、電気化学発光物質を増幅産物に乗り込ませた後に磁気ビーズに予め固定した捕捉プローブによって増幅産物を捕捉し、磁石を用いて磁気ビーズと反応溶液を分離するB/F分離工程を経ることで反応溶液中の未反応の基質等を取り除いていた。
【特許文献1】特表2001−519354号公報
【特許文献2】特開2003−34696号公報
【特許文献3】特開2002−34561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の構成では、B/F分離工程で磁気ビーズを用いているが、このB/F分離工程での磁気ビーズに目的物質を結合させる効率が低い。そのため、目的物質の収率が下がり、測定感度の低下を招くという課題を有していた。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、目的物質の収率低下させることなく高感度に遺伝子を検出する遺伝子検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、本発明の遺伝子検出方法は、特定配列を有する目的遺伝子を検出する遺伝子検出方法において、前記目的遺伝子が含まれる遺伝子サンプルを得る前処理ステップと、前記遺伝子サンプルを少なくとも第一のオリゴヌクレオチドプライマーと第二のオリゴヌクレオチドプライマーと電気化学発光物質を標識した基質を含む基質群と増幅酵素とを含む混合溶液に混合する混合ステップと、前記特定配列を含む目的産物を得る増幅過程において前記目的産物の増幅量に応じて前記電気化学発光物質を標識した基質が前記目的産物に取り込まれる増幅ステップと、前記目的産物に取り込まれた前記電気化学発光物質を標識した基質の量に応じた電気化学発光成分を検出する検出ステップと、からなるステップで構成されることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の遺伝子検出方法によれば、疎水場でのみで発光する電気化学発光物質を標識した基質を用いる。本発明の構成を用いると、未反応の電気化学発光物質は溶液中の親水場に存在し発光反応を起こさないので、これらの未反応の電気化学発光物質が標識した基質をB/F分離工程により除去する必要がない。従って、増幅産物の収率が低下することなく高感度に目的遺伝子を検出することが可能となる。さらに、煩雑なB/F分離工程を省略できることで簡便に且つ短時間に測定することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の遺伝子検出方法の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0009】
(実施の形態1)
まず、検体から遺伝子サンプルを抽出する前処理を行う。痰、血液、糞便、精液、唾液、培養細胞、組織細胞、その他遺伝子を有する検体から超音波、振とうなどの物理手段、核酸抽出溶液を用いる化学的手段を用いて必要試料を抽出する。試料中の細胞の破壊は、常法により行うことができ、例えば、振とう、超音波等の物理的作用を外部から加えて行うことができる。また、核酸抽出溶液(例えば、SDS、Triton−X、Tween−20等の界面活性剤、又はサポニン、EDTA、プロテア−ゼ等を含む溶液等)を用いて、細胞から核酸を遊離させることもできる。
【0010】
得られた試料を、増幅するための混合液に混合する。混合液は、遺伝子増幅を行うためのオリゴヌクレオチドプライマー対(フォワード側、リバース側)、増幅酵素、核酸を構成する基質を用意する。オリゴヌクレオチドプライマーは目的遺伝子の一部と相補的であり、特異的に目的遺伝子を検出するために作製されたオリゴヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドプライマーの長さは特定の用途に依存するが、20〜30塩基対が通常の長さであることは周知である。また、目的遺伝子の一部とハイブリッド形成を行うためにオリゴヌクレオチドプライマーが完全に相補的である必要はなく、特異性を有するのに充分な配列であれば良いことは周知である。また、増幅酵素は好熱性の細菌から得た耐熱性DNAポリメラーゼ等の周知の酵素が用いられる。また、核酸を構成する基質はヌクレオチド又はヌクレオシドが用意され、増幅すべき目的サンプルに対応したものが用いられる。一例を挙げると、目的サンプルが核酸の場合、デオキシリボヌクレオチド3リン酸(dATP、dGTP、dCTP、dTTP)が挙げられる。
【0011】
これらの基質の少なくとも一種には電気化学発光物質が結合される。ここで、本発明で用いる電気化学発光物質は疎水場で発光し親水場では発光しない性質を有する。このような性質を有する電気化学発光物質は配位子にピリジン部位を有する複素環式化合物から成る金属錯体であり、前記複素環式化合物のうち少なくとも1つは、前記金属錯体の中心金属との配位結合に関与しない部位に第三級アミンを有することを特徴とする。これは、金属錯体の配位子中に存在する、配位結合に関与しない第三級アミン部位が親水場ではプロトン付加するため、還元剤から得られる電子が、そのアミン部位に奪われてしまうことで、金属錯体が励起しなくなるためである。
【0012】
増幅反応時の反応溶液は親水場であり、増幅過程によって生じた増幅産物である2本鎖核酸の内部は疎水場である。増幅過程において本発明で用いる電気化学発光物質を標識した基質は2本鎖核酸内に挿入される。2本鎖核酸の内部は疎水性であることから、中心金属の配位結合に関与しない第三級アミンを有する配位子が2本鎖核酸内部に挿入され、かつ中心金属の配位結合に関与しない第三級アミンを有さない配位子が2本鎖核酸外部に存在する状態の時に電気化学発光反応を起こす。
【0013】
これは、親水場である反応溶液第三級アミンを有する配位子が存在する場合、第三級アミン部位が親水場ではプロトン付加するため、還元剤から得られる電子が、そのアミン部位に奪われてしまうからである。
【0014】
未反応の基質は親水場である反応溶液中に存在することから、電気化学発光反応に寄与しない。このように、疎水場でのみ電気化学発光反応を起こす電気化学発光物質を標識した基質を用いることで、増幅産物である2本鎖核酸に挿入されたときのみ発光反応を起こす。
【0015】
配位子の一例は、dppz(dipyrido[3,2−a;2´,3´−c]phenazine)、(tppz){tppz=tetrapyrido[3,2−a;2´,3´−c:3´´,2´´−h:2´´,3´´´−j]phenazine}、imidazo[4,5,f][1,10] phenanthroline等を挙げることができる。また、前記これらの配位子を有する金属錯体は、それぞれ(化1)から(化3)に挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
また、好適には複素環式化合物にはビピリジン骨格又はフェナントロリン骨格を有する電気化学発光物質が挙げられる。これにより、より発光効率の良い電気化学発光性能を得ることができる。
【0020】
さらに、このような電気化学発光物質の中心金属としては、例えば、ルテニウム、オスニウム、亜鉛、コバルト、白金、クロム、モリブデン、タングステン、テクネチウム、レニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、銅、インジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム等を挙げることができ、より好適には、良好な電気化学発光特性を有するルテニウム、オスニウム、レニウム、イリジウムが挙げられる。
【0021】
電気化学発光物質を基質に標識させる方法は、例えば求核剤を有する電気化学発光物質と活性化させた基質とを求核置換反応により結合させる方法が挙げられる。その他の結合方法は周知の方法が用いられるが、具体的な一例としては実施例に示す合成方法が挙げられる。
【0022】
目的遺伝子の増幅はPCR反応等の周知の増幅法を用いる。PCR反応の場合、鋳型である目的遺伝子へのオリゴヌクレオチドプライマー対の結合と増幅酵素の伸長反応を最適化された温度制御によって繰り返すことで増幅が行われる。この時、本発明の電気化学発光物質が結合した基質を用いることで増幅産物中に電気化学発光物質を取り込ませることができる。
【0023】
図1は本発明における遺伝子の増幅方法の概要を示したものである。鋳型核酸である目的遺伝子4と相補な配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー1、核酸を構成する基質2、疎水場でのみ発光する電気化学発光物質を標識した基質3、及び増幅酵素を容器内で混合し、サーマルサイクラー内に配置する(図1(a))。オリゴヌクレオチドプライマー1は最適な融解温度で目的遺伝子と特異的に結合する(図1(b))。さらに、結合したオリゴヌクレオチドプライマーが増幅酵素によって最適な温度において伸長反応を起こす(図1(c))。この後一本鎖化、オリゴヌクレオチドプライマーの鋳型核酸への結合、伸長反応を繰り返すことで目的遺伝子の増幅が行われる。鋳型核酸が目的遺伝子と配列が異なる場合はオリゴヌクレオチドプライマーが結合せず、このような増幅反応は起こらないことから電気化学発光物質の増幅産物への取り込みは行われない。取り込まれなかった電気化学発光物質を標識した基質3は親水場である反応溶液中に存在し、発光されない。これにより、増幅産物を電気化学的に発光検出することで、目的遺伝子の有無を検知することが可能となる。
【0024】
図2は本発明における遺伝子検出装置の概要を示したものである。目的遺伝子、オリゴヌクレオチドプライマー、基質、疎水場でのみ発光する電気化学発光物質を標識した基質、及び増幅酵素等の、目的遺伝子の増幅を行う反応溶液11は反応チューブ12に入れられ、サーマルサイクラー13にセットされる。サーマルサイクラーは反応チューブに指定した温度を与える装置である。所望の増幅反応を行った後の反応溶液は垂直方向移動ステージ14が備えられたマイクロピペット15によって吸い出される。マイクロピペットはさらに水平方向ピペット移動ステージ16が備え付けられており、溶液滴下位置17まで移動される。溶液滴下位置17の直下の溶液保持位置18には、電極チップ19が保持されたホルダー20が配置されており、溶液滴下位置17にあるマイクロピペット15から滴下された反応溶液11が電極チップ19上に設けた作用極上に滴下される。さらに、反応溶液中の電気化学発光物質を反応させる電解液を電極チップ19上に滴下する。この時、電極チップ19上の作用極及び対極に共に電解液が滴下される。電解液の滴下は手動もしくはマイクロピペット15を用いた自動滴下が適応可能である。ホルダー20はホルダー移動ステージ21が備えられており、光検出器22の直下に移動される。光検出器は筐体23に囲まれており、筐体内は遮光されている。作用極と対極はポテンショスタット24によって電位が与えられ、電気化学発光物質を発光させる。ポテンショスタット24及び光検出器22からの信号のやりとりは制御用PC25によって行われる。電気化学発光物質由来の電気化学的な発光信号は、光電子増倍管やフォトディテクタ等の光検出器を用いて計測する。
【0025】
次に、本発明の遺伝子検出方法の具体的実施例を以下に説明する。なお、これは一例であり、本発明の遺伝子検出方法は、以下の方法に限定して解釈されるものではない。
【0026】
(実施例)
(1)ルテニウム標識基質の合成
以下、本発明における電気化学発光物質を標識した基質(以下ルテニウム標識基質)の合成方法の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
まず窒素置換を行った反応装置に、脱水キシレンで懸濁させた活性ラネーニッケルを5g加え、150℃で撹拌した。2時間後、4−メチルピリミジン10.00g(0.11mol)をゆっくり滴下し、24時間加熱還流した。反応後、自然ろ過にてラネーニッケルを除去し、キシレンはガラスチューブオーブンで留去した。粗生成物はシリカゲルカラムにて生成することにより、生成物Aを得た(収率12.6%)
次に、テトラヒドロフラン(THF)60.0mLに溶解させた4,4’−ジメチル−2,2’ビピリジル2.50g(13.5mmol)溶液を窒素雰囲気の容器に注入した後、リチウムジイソプロピルアミド2M溶液16.9mL(27.0mmol)を滴下し、冷却しながら30分撹拌した。一方、同様に窒素気流中で乾燥させた容器に、1,3−ジブロモプロパン4.2mL(41.1mmol)とTHF10mLとを加え、冷却しながら撹拌させた。この容器に、先程の反応液を30分かけて滴下させて2.5時間反応させた。反応溶液は2Nの塩酸で中和し、THFを留去した後、クロロホルムで抽出した。溶媒を留去して得た粗生成物をシリカゲルカラムで精製し、生成物Bを得た(収率47%)。
【0028】
窒素雰囲気の容器に、前記生成物B1.0g(3.28mmol)、フタルイミドカリウム0.67g(3.61mmol)、及びジメチルホルムアミド(脱水)30.0mLを加え、オイルバスで18時間還流した。反応後、クロロホルムで抽出し、0.2N水酸化ナトリウム50mLで蒸留水洗浄した。溶媒を留去して酢酸エチルとヘキサンから再結晶を行い、生成物Cを得た(収率61・5%)。
【0029】
塩化ルテニウム(III)(2.98g、0.01mol)、及び2,2’−ビピリジン(1.72g、0.011mol)、生成物C(4.09g、0.011mol)をジメチルホルムアミド(80.0mL)中で6時間還流した後、溶媒を留去した。その後、アセトンを加え、8時間4℃で冷却することで得られた黒色沈殿物を採取し、エタノール水溶液170mL(エタノール:水=1:1)を加え1時間加熱還流を行った。ろ過後、塩化リチウムを20g加え、エタノールを留去し、さらに8時間4℃で冷却した。析出した黒色物質は吸引ろ過で採取し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製した後、2,2’−ビピリジルと生成物Cを配位子にもつビスルテニウム錯体(生成物D)を得た(収率18.6%)。
【0030】
窒素置換した容器に、生成物A0.25g(1.35mmol)、前記生成物D1.13g(1.61mmol)、及びエタノール50mLを加えた。9時間窒素雰囲気で還流した後、溶媒を留去し、蒸留水で溶解させ、1.0Mの過塩素酸水溶液で沈殿させた。この沈殿物を採取し、メタノールで再結晶を行い、生成物Eを得た(収率72.3%)。
【0031】
さらに、前記生成物E1.03g(1.02mmol)、及びメタノール70.0mLを1時間還流した。室温まで冷却した後、ヒドラジン一水和物0.21mL(4.21mmol)を加え再び13時間還流した。反応後、蒸留水を15mL加え、メタノールを留去した。次に、濃塩酸を5.0mL加え、2時間還流して得られた反応液を8時間4℃で冷蔵し、不純物を自然ろ過で除去した。これを炭酸水素ナトリウムで中和した後、水を留去し、無機物をアセトニトリルで除去した。溶媒を留去して得た粗生成物をシリカゲルカラムで精製し、生成物Fを得た(収率60.4%)。
【0032】
アルミホイルで遮光した容器に、前記生成物F0.59g(0.76mmol)を加え、アセトニトリル10mLに溶解させた。次に、トリエチルアミン0.23g(2.29mmol)を加えた後、アセトニトリル20mLに溶解したグルタル酸無水物0.87g(7.62mmol)を滴下した。9時間反応後、エバポレーターでアセトニトリルを留去して得た粗生成物をHPLCで精製し、生成物Gを得た(収率41.5%)。
【0033】
この生成物G0.080g(83nmol)をアセトニトリル5.0mLに溶解し、DCC0.052g(0.24mmol)を加え、4時間室温で撹拌させた後、1,3−ジアミノプロパン700μL(8.30mmol)滴下し、さらに2時間撹拌した。粗生成物をシリカゲルカラムで精製して生成物Hを得た(収率68.0%)。(化4)に生成物Hを示す。
【0034】
【化4】

【0035】
表1は、前述のようにして得た生成物Hに示す物質の1H-NMR結果である。
【0036】
【表1】

【0037】
次に、2’−デオキシグアノシンー5’−三リン酸1.0mg(1.8μmol)を蒸留水1.0mLに溶解し、そこに8.0mMに調製したN−ブロモスクシンイミドを2.3mL(18μmol)、pH9.6に調整した炭酸ナトリウム緩衝液4mL添加し、10分間氷冷した。その後、10mMの水溶液に調製した生成物Hを18μL(0.18μmol)滴下し、50℃で2時間撹拌させた。反応溶液をHPLCで精製し、(化5)で示されるようなルテニウム錯体にリンカーを介してグアニンを修飾したルテニウム標識基質を得た(収率63.4%)。
【0038】
【化5】

【0039】
(2)前処理ステップ
口腔スワブサンプルを、キアゲン社のDNA抽出キット(QIAamp DNA Mini Kit)を用いて精製した。ここで使用した鋳型核酸である遺伝子サンプルは、染色体6番であり、その塩基配列は下記の通りである。
5´−TAACATTCAGAATGTGTTCCAGTGATAGTTCTGTTCTCAGATTTGCTTTCTTCTCTTATACCTCCTGATCAGCAGGTGGAAATTAAAAGAGCATTGTGAGATGCTGGAGAGATCCAGAACCACTTGCCATCAACAGCTGGGGAATCCTAGCCAGTAGCTCGCAGGAGTTAGAGCAGCTTTTTCAGTTAGAGCAGTTAGAGCCTCTG−3´(配列表1)
(3)混合ステップ
遺伝子サンプルに相補なオリゴヌクレオチドプライマーセットの配列は5´−CACTGGAACACATTCTGAATGTTA−3´(プライマー1、配列表2)及び5´―CAGAGGCTCTAACTGCTCTAACTG−3´(プライマー2、配列表3)である。プライマー1及びプライマー2を混合し、プライマーセット1とした。
【0040】
この遺伝子サンプル2μLに、10×EX Taq バッファ5μL、2.5mMdATP、2.5mMdTTP、2.5mMdCTPの各溶液を1.0μL、(1)のステップで合成した(化5)に示すルテニウム標識基質2.5mMを1.0μL、10μMプライマーセット1を2.5μL、蒸留水30.2μL、EX Taq(5U/μL)0.5μLをそれぞれ反応チューブに添加した。
【0041】
また、測定の陰性対象として上記プライマーセット1の代わりに24merのpoly−A配列のオリゴヌクレオチドプライマー5´−AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA−3´(プライマー3、配列表4)のセットを用いて上記プライマーセット1と同じ試薬を同量反応チューブ2に添加した。このpoly−Aプライマーをプライマーセット2とした。
【0042】
(4)増幅ステップ
(3)のステップで得られた反応チューブ1及び反応チューブ2内の混合溶液を、サーマルサイクラーを用いて反応させた。反応は4分間94℃で加熱し1本鎖に変性させた後、10秒間56℃でアニール、40秒間72℃、2分間72℃の加熱で伸長させ、10秒間94℃で再変性させる加熱サイクルを30回数繰り返して行うことで遺伝子サンプルを鋳型とした増幅反応を行った。
(比較例)
本実施例の比較例として、従来のB/F分離工程を行ったサンプルについて測定を行った。目的産物をプローブ核酸で捕捉し不要物をB/F分離工程により取り除く為に磁気ビーズ(Bangs Laboratories社製;CM01N/5896、平均粒径0.35μm)を用いた。この磁気ビーズはビーズ表面にストレプトアビジンがコーティングされている。プローブ核酸には、5´―CAGAGGCTCTAACTGCTCTAACTGAAAAAG−3´の配列を有する5’末端にビオチン基を修飾した30塩基のオリゴデオキシヌクレオチド(配列表5)を使用した。
【0043】
該プローブ核酸を10mMのPBS(pH7.4のリン酸ナトリウム緩衝液)に溶解させ、10μMに調製した。本比較例ではビーズを用いる洗浄の工程はすべて1.5mlのマイクロチューブ内で行った。洗浄する際にマイクロチューブ内の磁気ビーズを固定させるために磁石スタンド(Bangs Laboratories社製)を用いた。
まず、磁気ビーズを1mg採取し、TTLバッファー(終濃度:100mM Tris−HCl(pH8.0), 0.1% Tween20, 1M LiCl)で洗浄後、20μLのTTLバッファーに置換した。その後、100nMのプローブ核酸を5μL添加し、室温で15分穏やかに振とうした。これにより、磁気ビーズ表面にプローブ核酸を固定した。
マイクロチューブ内の溶液を除去し、残留した磁気ビーズを0.15MのNaOHで洗浄後、TTバッファー(終濃度:250mM Tris−HCl(pH8.0), 0.1% Tween20)で洗浄した。
【0044】
洗浄後、TTEバッファー(終濃度:250mM Tris−HCl(pH8.0),0.1% Tween20, 20mM Na2EDTA(pH8.0))に溶液を置換し、80℃で10分間インキュベートすることにより、不安定なアビジンービオチン結合を除去した。これにより、プローブ核酸が固定された磁気ビーズを得た。
【0045】
次に磁気ビーズが入った反応チューブ内に本実施例の(1)から(4)の工程で得られた反応チューブ1内の溶液を添加し、さらに2×SSCを全量200μLとなるように加えた。反応チューブ内で混合した後さらに98度5分熱変性を行うことで増幅産物を1本鎖化し、その後70℃で1時間穏やかに振とうさせた。これにより、1本鎖化した目的産物を磁気ビーズに捕捉させた。振とうさせた後、反応チューブ外に磁石スタンドを配置し磁気ビーズをマイクロチューブ内に保持した状態で溶液を除去し、40℃に加温した2×SSC、400μLで洗浄した。洗浄溶液をチューブ外に磁石スタンドを配置し磁気ビーズを固定した状態で除去し、さらにTTバッファーで洗浄した後、チューブ外に磁石を配置し磁気ビーズを固定した状態でTTバッファーを除去することで、2本鎖核酸が形成された磁気ビーズを得た。磁気ビーズは5μLの電解液(終濃度:0.1MPBS、0.1Mトリエチルアミン)で懸濁させておいた。これを反応チューブ3とした。
【0046】
(5)検出ステップ
(1)から(4)に示す実施例及び比較例によって得られた反応チューブ1から3中の反応溶液を垂直方向ピペット移動ステージによって反応溶液中にマイクロピペットを浸し、5μl吸い取った。反応溶液を吸い取った後、垂直方向ピペット移動ステージを上昇させ、さらに水平方向ピペット移動ステージによって、液滴保持位置にあるホルダーに備えられた電極チップ上部の液滴滴下位置に移動させた。移動後、電極チップの作用極上に反応溶液を5μl滴下した。5分静置後、作用極上に電解液をそれぞれ80μLマイクロピペットによって滴下した。さらに、ホルダー移動ステージによって光電子増倍管(浜松ホトニクス製H7360−01)の直下に移動させた後、作用極に電圧を印加し、この時に生じた電気化学発光量の測定を行った。なお、電圧の印加は、ポテンショスタットを用いて0Vから1.3Vまで1秒間掃印することで電気化学発光測定を行った。発光検出は光電子増倍管を用いて行った。この時電極チップと光電子増倍管の光電面は20mmの距離離した。電気化学発光量は、電圧掃印中における最大発光量を測定することで得た。測定データの解析は制御用PCを用いて行った。
【0047】
図3に実施例及び比較例の結果を示す。実施例で得られた反応チューブ1からの発光量は陰性対象である反応チューブ2からの発光量に対して著しく高い値となっていることから、B/F分離工程を経ることなく目的遺伝子を検出可能であることは明らかである。また、図3のチューブ3に示すように、B/F分離工程において目的遺伝子を捕捉する効率が低下することからB/F分離工程を経た目的遺伝子からの発光量は低下することが示された。これらの結果から、本発明の遺伝子検出方法を用いれば、従来よりも迅速かつ高感度に目的遺伝子を検出出来ることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明にかかる遺伝子検出方法は、疎水場のみで発光する電気化学発光物質を基質に結合し、検体の増幅産物に取り込ませた後に検出することで不要なものをB/F分離工程により除去することなく測定可能となり、高感度且つ迅速な測定が可能となる。このため、高感度且つ迅速な測定が必要な1塩基変異多型の検出や細菌検査、ウイルス検査に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態における遺伝子の増幅方法を示した概略図
【図2】本発明の実施の形態における遺伝子検出装置を示した概略図
【図3】本実施例の各条件におけるルテニウム錯体の最大発光量を示した図
【符号の説明】
【0050】
1 オリゴヌクレオチドプライマー
2 核酸を構成する基質
3 疎水場でのみ発光する電気化学発光物質を標識した基質
4 目的遺伝子
11 反応溶液
12 反応チューブ
13 サーマルサイクラー
14 垂直方向ピペット移動ステージ
15 マイクロピペット
16 水平方向ピペット移動ステージ
17 液滴滴下位置
18 液滴保持位置
19 電極チップ
20 ホルダー
21 ホルダー移動ステージ
22 光検出器
23 筐体
24 ポテンショスタット
25 制御用PC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定配列を有する目的遺伝子を検出する遺伝子検出方法において、
前記目的遺伝子が含まれる遺伝子サンプルを得る前処理ステップと、
前記遺伝子サンプルを少なくとも第一のオリゴヌクレオチドプライマーと第二のオリゴヌクレオチドプライマーと電気化学発光物質を標識した基質を含む基質群と増幅酵素とを含む混合溶液に混合する混合ステップと、
前記特定配列を含む目的産物を得る増幅過程において前記目的産物の増幅量に応じて前記電気化学発光物質を標識した基質が前記目的産物に取り込まれる増幅ステップと、
前記目的産物に取り込まれた前記電気化学発光物質を標識した基質の量に応じた電気化学発光成分を検出する検出ステップと、
からなるステップで構成される遺伝子検出方法。
【請求項2】
前記電気化学発光物質は、疎水場でのみ電気化学発光反応を起こす請求項1に記載の遺伝子検出方法。
【請求項3】
前記基質は、少なくとも一種類の核酸を構成する基質である請求項1に記載の遺伝子検出方法。
【請求項4】
前記電気化学発光物質は配位子にピリジン部位を有する複素環式化合物から成る金属錯体であり、前記複素環式化合物のうち1つは、前記金属錯体の中心金属との配位結合に関与しない部位に第三級アミンを有する請求項2に記載の遺伝子検出方法。
【請求項5】
前記複素環式化合物はビピリジン骨格又はフェナントロリン骨格を有する請求項4に記載の遺伝子検出方法。
【請求項6】
前記金属錯体の中心金属は、ルテニウム、オスニウム、レニウム、イリジウムのいずれかである請求項5に記載の遺伝子検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−60861(P2009−60861A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232340(P2007−232340)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】