説明

遺伝子検査装置

【課題】本発明の課題は、互いに異なる温度制御が必要な複数の検査を並列に精度よく行うことができる遺伝子検査装置を提供することにある。
【解決手段】本発明の遺伝子検査装置1は、試料(反応液52)を収容する複数の検査容器(反応容器50)と、各検査容器(反応容器50)に対して個別に設けられる熱源40と、各検査容器(反応容器50)内のそれぞれの試料(反応液52)の量に応じて各熱源40を制御してそれぞれの試料(反応液52)の温度を個別に調節する制御部Cと、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、核酸増幅検査装置としては、回転可能なカローセルと、このカローセルの周方向に沿って搭載される複数の反応容器と、この反応容器に励起光を照射する光源と、この励起光によって前記反応容器内の反応液が発する蛍光を検出する検出器と、前記反応容器内の反応液の温度を所定の温度に設定する温度調節機構と、を有するものが知られている(特許文献1参照)。この検査装置においては、カローセルを収容するケーシングの天井部に、熱源、ファン及び温度センサが配置されている。そして、この検査装置を使用して、例えばPCR(Polymerase Chain Reaction)法に準拠した遺伝子検査が行われる場合には、前記した熱源等によってケーシング内の温度が調節され、カローセルに配置された反応容器内の反応液は、複数の温度間(例えば、95℃と59℃)でPCR処理が繰り返される。
また、従来の核酸増幅検査装置としては、ガラス基板に、核酸の増殖反応場として複数のウェル(容器)が形成されると共に、各ウェルに設けられる熱源素子の温度を所定の周期で反転させるように制御するPCRデバイスが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−151665号公報
【特許文献2】特開2009−278956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記した従来の核酸増幅検査装置のうち特許文献1に係るものは、カローセルに搭載される複数の反応容器内の各反応液の温度が、ケーシング内の温度で一律に調節されている。また、特許文献2に係る核酸増幅検査装置では、各ウェル内で反応させる反応液量が異なる場合の熱源素子の温度制御については考慮されていない。
つまり、従来の核酸増幅検査装置(特許文献1、2参照)においては、互いに異なる温度制御が必要な複数の反応液の検査を並列に精度よく実施することができない場合がある。
【0005】
そこで、本発明の課題は、互いに異なる温度制御が必要な複数の検査を並列に精度よく行うことができる遺伝子検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明の遺伝子検査装置は、試料を収容する複数の検査容器と、各検査容器に対して個別に設けられる熱源と、各検査容器内のそれぞれの試料の量に応じて各熱源を制御してそれぞれの試料の温度を個別に調節する制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、互いに異なる温度制御が必要な複数の検査を並列に精度よく行うことができる遺伝子検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(a)は、本発明の実施形態に係る遺伝子検査装置の構成説明図であり、(b)は、(a)の遺伝子検査装置を構成する検査デバイスの平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る遺伝子検査装置を構成する制御部が、検査に供する複数の試料の温度を個別に制御する際の第1の制御例を示すフローチャートである。
【図3】図2に示す第1の制御例において、制御部が所定のテーブルを参照する際の参照手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態に係る遺伝子検査装置を構成する制御部が、検査に供する複数の試料の温度を個別に制御する際の第2の制御例を示すフローチャートである。
【図5】図4に示す第2の制御例において、制御部が所定のテーブルを参照する際の参照手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態に係る遺伝子検査装置を構成する制御部が、検査に供する複数の試料の温度を個別に制御する際の第3の制御例を示すフローチャートである。
【図7】図6に示す第3の制御例において、制御部が所定のテーブルを参照する際の参照手順を示すフローチャートである。
【図8】(a)から(c)は、各熱源同士が熱的に独立である遺伝子検査装置と、各熱源同士が熱的に独立でない遺伝子検査装置とにおける、反応液の温度、熱源温度センサのモニタ温度、熱源の発熱量、及び熱源の制御電圧の相対関係を示すグラフである。
【図9】(a)は、本発明の他の実施形態に係る遺伝子検査装置の構成説明図であり、(b)は、(a)の遺伝子検査装置を構成する検査デバイスの平面図である。
【図10】(a)から(d)は、各熱源同士が熱的に独立である遺伝子検査装置と、各熱源同士が熱的に独立でない遺伝子検査装置とにおける、反応液の温度、モニタ部温度差、熱源の発熱量、及び熱源の制御電圧の相対関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明における上下方向は、本発明の遺伝子検査装置を水平に配置した際の上下方向に一致させた図1(a)に示す上下方向を基準とする。
<遺伝子検査装置>
図1(a)に示すように、本実施形態に係る遺伝子検査装置1は、カバー11と、このカバー11内に収納される検査デバイス10とで構成されている。カバー11の上面には、このカバー11の内外を連通する開口を開閉自在に塞ぐ扉12が設けられている。ちなみに、この扉12を開けると、検査デバイス10が前記開口を介して臨めるようになっている。
【0010】
検査デバイス10は、本実施形態に係る遺伝子検査装置1の主たる構成要素であり、反応液52を収容する複数の反応容器50と、各反応容器50を支持すると共に熱的に接するようにこの反応容器50ごとに設けられる伝熱部41と、各反応容器50に対して個別に設けられる熱源40と、この熱源40に熱的に接する恒温部20と、この恒温部20に熱的に接する恒温温調部30と、各反応容器50内のそれぞれの反応液52の量に応じて各熱源40を制御してそれぞれの反応液52の温度を個別に調節する制御部Cと、を主に備えて構成されている。
なお、反応液52は、特許請求の範囲にいう「試料」に相当し、反応容器50は、特許請求の範囲にいう「検査容器」に相当し、伝熱部41は、特許請求の範囲にいう「熱伝導部」に相当し、恒温部20は、特許請求の範囲にいう「熱容量部」に相当する。
【0011】
本実施形態での反応液52は、PCR(Polymerase Chain Reaction)法に準拠した遺伝子検査法に供するものを想定しており、例えば、この検査法で増幅対象となるDNA、プライマー、DNAポリメラーゼ、dNTP(デオキシヌクレオチド三リン酸)、所定のバッファー溶液等を混合したもので構成される。
本実施形態での反応容器50は、図1(a)及び(b)に示すように、着脱自在の蓋51で封止可能なチューブで構成されており、後記する略円盤状の恒温部20の周囲に等間隔に複数(本実施形態では8つ)配置されている。この反応容器50は、光透過性を有する材料(ガラス、樹脂、石英等)で形成されている。
【0012】
伝熱部41は、図1(a)及び(b)に示すように、各反応容器50の胴部を包囲して支持すると共に、恒温部20の周囲で各反応容器50が等間隔に並ぶように恒温部20に後記する熱源40を介して取り付けられている。つまり、伝熱部41は、略円盤状の恒温部20のラジアル方向に配置されている。
この伝熱部41は、良熱伝導材料で形成されており、各反応容器50に対して熱源40の熱(熱源40がペルチェ素子の場合は温熱又は冷熱)を効率よく伝導する。
また、各伝熱部41は、その下部で反応容器50の底部を露出させると共に、各伝熱部41には、反応容器50の底部近傍を臨むことができるように観測窓43が形成されている。ちなみに、本実施形態での観測窓43は、前記したラジアル方向外側に形成されている。
【0013】
熱源40は、前記したように、各反応容器50に対して個別に設けられ、後記する制御部Cで制御されることで、各反応容器50内の反応液52の温度を個別に調節する。この熱源40としては、印加する電圧の大きさに応じて発生する熱量(温熱量又は冷熱量)が変化するものであれば特に制限はなく、例えば、電気ヒータ、ペルチェ素子等が挙げられる。
【0014】
恒温部20は、伝熱部41よりも熱容量が大きくなるように設計されている。なお、熱容量が伝熱部41よりも大きい恒温部20としては、伝熱部41よりも大きい比熱を有する材料で構成したものよりも、熱伝導率が良好な材料で形成すると共に伝熱部41よりも大きいマス(質量)で構成したものが望ましい。
このような恒温部20は、伝熱部41の温度を後記するように変化させる場合においても、恒温部20の温度の変化の幅を小さく抑制することができる。ちなみに、恒温部20は、恒温温調部30によって後記する所定の温度に維持されるようになっている。
このような恒温部20は、前記したように、円盤形状を呈しており、電動アクチュエータ21により所定の回転角度に設定されるように軸周りに回転するようになっている。ちなみに、電動アクチュエータ21は、公知の構成でよく、例えば、ステッピングモータ、減速機構等で構成することができる。
【0015】
恒温温調部30としては、恒温部20が所定の温度となるように温熱又は冷熱を恒温部20に供給できるものであれば特に制限はなく、電気ヒータ、ペルチェ素子等が挙げられる。なお、本実施形態での恒温温調部30は、ペルチェ素子であり、図1(a)及び(b)中、符号31は、ペルチェ素子に設けられた放熱フィンである。
【0016】
また、図1(a)及び(b)中、符号60は、反応容器50の下方から反応液52に対して励起光を照射する照射部であり、符号61は、反応液52で発する検出光を、観測窓43を介して受光する受光部である。そして、受光部61で受光した光の強度に基づいて所定の遺伝子検査が行われる。
なお、本実施形態での照射部60及び受光部61は、恒温部20を挟む位置で対向するように2組設けられているが、これらは1組以上であればよく、3組以上を設けることもできる。
【0017】
また、図1(b)中、符号22は、断熱部であり、この断熱部22は、一の熱源40に接する恒温部20の温度が、この熱源40に隣合う他の熱源40により影響を受けるのを防止している。
この断熱部22は、熱伝導率の小さい樹脂や発泡材等で構成することができる。また、断熱部22は、恒温部20に設けられたスリットで構成することもできる。
【0018】
制御部Cは、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力インターフェース及び各種電気・電子回路を含んで構成され、本実施形態に係る遺伝子検査装置1を総括的に制御する。また、制御部Cは、この遺伝子検査装置1に設けられた装置温度センサ13、放熱温度センサ32、及び熱源温度センサ42のそれぞれの温度検出信号に基づいて、後記する装置温度調節機(図示省略)、各熱源40及び恒温温調部30を制御することで、カバー11内の温度、恒温部20の温度、及び熱源40の温度を、後記する所定の温度となるように調節する。
ちなみに、装置温度センサ13は、カバー11内の上方の適所に設けられ、カバー11内の温度を検出すると共に、その温度検出信号を制御部Cに出力するようになっている。
放熱温度センサ32は、恒温部20に設けられ、恒温部20の温度を検出すると共に、その温度検出信号を制御部Cに出力するようになっている。ちなみに、本実施形態での放熱温度センサ32は、恒温温調部30の近傍に配置されている。
熱源温度センサ42は、恒温部20の各熱源40の近傍のそれぞれに設けられ、各熱源40の温度を検出すると共に、その温度検出信号を制御部Cに出力するようになっている。
【0019】
また、制御部Cは、後に詳しく説明する手順を実行することによって、各反応容器50内のそれぞれの反応液52の量に応じて各熱源40を制御してそれぞれの反応液52の温度を個別に調節するように構成されている。
【0020】
<遺伝子検査装置の動作>
次に、本実施形態に係る遺伝子検査装置1の動作を適宜図1(a)及び(b)を参照しながら説明する。以下では、PCR法に準拠した遺伝子検査法を実施する場合の遺伝子検査装置1の動作について説明する。
この遺伝子検査装置1が起動すると、制御部Cは、予めカバー11内及び恒温部20を所定の温度に設定する。ちなみに、本実施形態では、装置温度センサ13の温度検出信号に基づいて制御部Cが図示しない装置温度調節機(例えば、電気ヒータ)を制御することでカバー11内の温度を30℃に設定する。また、放熱温度センサ32の温度検出信号に基づいて制御部Cが恒温温調部30を制御することで恒温部20の温度を40℃に設定する。この際、各伝熱部41には各反応容器50が装着されていないが、熱源温度センサ42の温度検出信号に基づいて制御部Cが各熱源40を制御することで、各伝熱部41の温度を恒温部20と同じ40℃に設定する。
【0021】
次に、反応容器50が伝熱部41に装着される。この際、反応容器50の温度は伝熱部41と同じ温度(本実施形態では40℃)に予熱しておくことが望ましい。なお、検査デバイス10に装着する反応容器50の数は、1個以上であればよく(本実施例では最大8つ)、以下の検査工程の途中で変更することができる。
【0022】
次に、制御部Cは、後記する手順により熱源40に印加する電圧を高くすることで伝熱部41を加熱する。具体的には、反応液52の温度が95℃に維持されるように、制御部Cは熱源40を制御する。そして、反応容器50内の反応液52は、伝熱部41を介して熱源40により加熱される。
この際、熱源40と恒温部20とは熱的に接触しているので、熱源40が電気ヒータであれば恒温部20は加熱され、熱源40がペルチェ素子であれば恒温部20は冷却される。
【0023】
一方、この遺伝子検査装置1においては、前記したように、放熱温度センサ32の温度検出信号に基づいて制御部Cが恒温温調部30を制御することで恒温部20の温度を40℃に維持する。つまり、恒温部20が熱源40(電気ヒータ)によって加熱される場合には、恒温温調部30が恒温部20を冷却し、恒温部20が熱源40(ペルチェ素子)によって冷却される場合には、恒温温調部30が恒温部20を加熱する。そして、恒温温調部30は、放熱フィン31を介してカバー11内の雰囲気と熱交換を行うことで、恒温部20の温度制御を、より効率的に行うことができる。
【0024】
次に、遺伝子検査装置1では、反応液52の温度を95℃から59℃に変化させる。この際、熱源40が電気ヒータである場合には、制御部Cは、熱源40に対する電力の供給を停止し、あるいは印加する電圧を低減する。そして、反応液52から伝熱部41を介して熱を逃がすことで反応液52の温度を95℃から59℃に変化させる。この際、伝熱部41の熱は、カバー11の雰囲気に逃げると共に、恒温部20に逃げる。
【0025】
また、制御部Cは、恒温温調部30を制御することにより、恒温部20の温度を30℃よりも低く設定することで、反応液52の温度変化を加速してもよい。また、制御部Cは、前記した装置温度調節機(図示省略)を制御してカバー11内の温度を低くすることで、反応液52の温度変化を加速してもよい。また、熱源40がペルチェ素子である場合には、これに印加する電圧の大きさ及び向きを変えることで伝熱部41を冷却し、反応液52の温度変化を加速してもよい。ちなみに、ペルチェ素子で温度変化を加速する場合には、ペルチェ素子は恒温部20を逆に加熱することになるが、この際、放熱温度センサ32の温度検出信号に基づいて制御部Cが恒温温調部30を制御することで恒温部20の温度を40℃に維持することもできる。
本実施例では、恒温温調部30で制御される恒温部20の温度は、放熱温度センサ32でモニタしたが、恒温部20の温度制御部40の近くに熱源温度センサ42を設けて恒温部20の温度をモニタしてもよい。熱源温度センサ42を用いることで、恒温部20の温度むら(例えば内周側では40℃に制御されているが、外周側すなわち温度制御部40の近くではもっと高温)がわかり、恒温温調部30及び温度制御部40での制御を高精度に実施できる。
【0026】
このような遺伝子検査装置1を使用した遺伝子検査においては、反応液52の温度を交互に95℃(高温)と59℃(低温)に設定する工程を複数回、周期的に繰り返す間にPCR処理を行って遺伝子増幅を行う。そして、この温度変化を複数回、周期的に繰り返す工程と並行して遺伝子検査が行われる。この遺伝子検査は、電動アクチュエータ21で恒温部20が所定の回転角度となるように回転して照射部60の位置に反応容器50が到達した際に、この反応容器50に対して照射部60から励起光が照射される。そして、励起光の受けた反応液52が発する検出光を、受光部61が観測窓43を介して受光することにより所定の遺伝子検査が行われる。
そして、検査が終了した反応容器50は、順次に扉12を開いて取り出され、次の検査対象である反応容器50が伝熱部41に装着される。
【0027】
<反応液52の温度の制御例>
次に、制御部Cが複数の反応容器50内のそれぞれの反応液52の温度を個別に制御する際の制御例について説明する。以下では、第1の制御例から第4の制御例について説明する。なお、以下では、ペルチェ素子を熱源40として使用した遺伝子検査装置1の制御例について説明する。
【0028】
(第1の制御例)
次に参照する図2は、本発明の実施形態に係る遺伝子検査装置1を構成する制御部Cが、検査に供する複数の反応液52の温度を個別に制御する際の第1の制御例を示すフローチャートである。図3は、図2に示す第1の制御例において、制御部が所定のデータを参照する際の参照手順を示すフローチャートである。
この第1の制御例は、オペレータが反応液52の液量Qと、この反応液52に設定する2つの制御温度(Ta,Tb)を指定する際の、制御部Cによる制御例である。但し、以下では、高温の方をTaとし、低温の方をTbとして示す。
【0029】
この制御例では、図2に示すように、オペレータが遺伝子検査装置1の図示しない入力インターフェースに対して、遺伝子検査に供する反応液52の液量Q及び制御温度(Ta,Tb)を入力すると(ステップS110)、制御部Cは、その制御温度(Ta,Tb)に応じたテーブルを参照する。このテーブルは、制御温度ごとに複数用意されており、制御部Cの前記したメモリに格納(登録)されている。そして、このテーブルには、後に詳しく説明するように(図3参照)、制御温度に応じて予め求められた、反応液52の液量Qと、熱源40の制御電圧Vと、熱源40に対するその制御電圧Vでの印加時間tとの関係が記録されている。
本実施形態では、前記したステップS110の後に、制御部Cが制御温度Ta(高温)に基づいてテーブルDa1及びDa2を参照する(ステップS120)。
【0030】
ちなみに、制御部Cは、反応液52を昇温させるために2つのテーブルDa1及びDa2を参照しているが、一方のテーブルDa1は、反応容器50が伝熱部41に装着される際の反応液52の初期温度から制御温度Taに反応液52の温度を昇温する場合に使用するテーブルであり、他方のテーブルDa2は、後の工程で、制御温度Tb(低温)から制御温度Ta(高温)に反応液52の温度を昇温する場合に使用するテーブルである。
【0031】
次に、制御部Cは、オペレータによって入力された液量Qに対応する制御電圧Vと印加時間tとがテーブルDa1及びDa2に記録されている場合には、その液量Qに対応する制御電圧Va1及び印加時間ta1をテーブルDa1に基づいて設定し、制御電圧Va2及び印加時間ta2をテーブルDa2に基づいて設定する(ステップS130)。また、制御部Cは、液量Qに対応する制御電圧Vと印加時間tとがテーブルDa1及びDa2に記録されていない場合には、図示しないが、入力された液量Qに基づいてテーブルデータを補間することで制御電圧Va1及び印加時間ta1、並びに制御電圧Va2及び印加時間ta2に対応する各制御電圧及び各印加時間を設定する。テーブルデータの補間方法としては、例えば図3のテーブルDa1において、Q1≦Q2≦Q3≦・・・とし、オペレータによって入力された液量QがQ1<Q<Q2であったとすると、液量Qと制御電圧V(又は印加時間t)のデータの組(Q,V)(又は(Q,t))は、液量Qに最も近い前後の液量Q1及びQ2に対するデータの組(Q1,V1)及び(Q2,V2)(又は(Q1,t1)及び(Q2,t2))を用いて線形補間すればよいが、補間方法はこれに限定されるものではない。
【0032】
次に、制御部Cは、制御温度Tb(低温)に基づいてテーブルDbを参照する(ステップS140)。そして、制御部Cは、オペレータによって入力された液量Qに対応する制御電圧Vと印加時間tとがテーブルDbに記録されている場合には、その液量Qに対応する制御電圧Vb及び印加時間tbをテーブルDbに基づいて設定する(ステップS150)。また、制御部Cは、液量Qに対応する制御電圧Vと印加時間tとがテーブルDbに記録されていない場合には、図示しないが、入力された液量Qに基づいてテーブルデータを補間することで制御電圧Vb及び印加時間tbに対応する制御電圧及び印加時間を設定する。テーブルデータの補間方法としては、テーブルDa1の参照方法で述べたように、オペレータによって入力された液量Qに最も近い前後の液量に対するデータの組を用いて線形補間すればよいが、補間方法はこれに限定されるものではない。
【0033】
そして、制御部Cは、設定された制御電圧及び印加時間の条件で熱源40の制御を開始する(ステップS160)。
つまり、制御部Cは、まず制御電圧Va1及び印加時間ta1の条件で熱源40を制御することにより、反応液52の温度を前記した初期温度(例えば、40℃)から制御温度Ta(例えば、95℃)に昇温する。次いで、制御部Cは、制御電圧Vb及び印加時間tbの条件で熱源40を制御することにより、反応液52の温度をTa(例えば、95℃)からTb(例えば、59℃)に変化させる。その後、制御部Cは、制御電圧Va2及び印加時間ta2の条件で熱源40を制御する工程と、制御電圧Vb及び印加時間tbの条件で熱源40を制御する工程とを繰り返すことで、反応液52の温度をTa(例えば、95℃)とTb(例えば、59℃)との間で周期的に変化させる。
【0034】
そして、制御部Cは、このような熱源40に対する制御を、複数の反応容器50に対して個別に設けられた各熱源40についても行う。そのことで、制御部Cは、互いに異なる液量Qの各反応液52の温度を、個別にかつ並行して、予め定められた2つの制御温度(Ta,Tb)の間で周期的に変化させることができる。
【0035】
次に、この第1の制御例において、制御部Cが反応液52の温度を制御する際に参照するテーブルについて説明する。
図3に示すように、オペレータが反応液52の液量Q及び制御温度(Ta,Tb)を入力した際に(ステップS110)、制御部CがステップS120及びステップS140で参照するテーブルは、テーブルDa1、テーブルDa2及びテーブルDbで構成されている。そして、前記したように、テーブルDa1は、反応容器50が伝熱部41に装着される際の反応液52の初期温度から制御温度Taに反応液52の温度を昇温する場合に使用するテーブルである。また、テーブルDa2は、制御温度Tb(低温)から制御温度Ta(高温)に反応液52の温度を昇温する場合に使用するテーブルである。また、テーブルDbは、制御温度Ta(高温)から制御温度Tb(低温)に反応液52の温度を降温する場合に使用するテーブルである。
これらのテーブルDa1,Da2,Dbには、反応容器50内に収容される反応液52の量(Q1,Q2,Q3・・・)と、これらの各液量において、所定の制御温度(Ta,Tb)に調節するために必要な熱源40の制御電圧(V1,V2,V3・・・)と、その制御電圧(V1,V2,V3・・・)を熱源40に印加する印加時間(t1,t2,t3・・・)とが登録されている。
そして、制御部Cは、図2に示すステップS120及びステップS140において、これらのテーブルDa1,Da2,Dbを参照し、図3に示すように、ステップS130及びステップS150において、初期温度から制御温度Taに昇温するための条件である制御電圧Va1及び印加時間ta1、反応液52の温度をTaとTbとの間で周期的に変化させるための条件である制御電圧Va2及び印加時間ta2並びに制御電圧Vb及び印加時間tbをそれぞれ設定することとなる。
なお、図3には2種類の昇温条件(初期温度から制御温度Taに昇温するための条件、及び制御温度をTbからTaに昇温するための条件)と1種類の降温条件(制御温度をTaからTbに降温するための条件)の合計3種類の制御条件に対する3種類のテーブル(Da1,Da2,Db)を記載したが、テーブルの種類は3種類に限定するものではない。例えば、高温Ta、低温Tbだけでなく中間温Tmを含めた3種類の温度で反応液を制御するような検査では、初期温度から制御温度Taに昇温するための条件、高温Taから低温Tbに降温するための条件、低温Tbから中間温Tmに昇温するための条件、中間温Tmから高温Taに昇温するための条件、などのように4種類の制御条件に合わせたテーブルを登録しておけばよい。このときステップS110では,オペレータは流量Qと3種類の制御温度(Ta,Tb,Tm)を入力する。
【0036】
(第2の制御例)
次に参照する図4は、本発明の実施形態に係る遺伝子検査装置1を構成する制御部Cが、検査に供する複数の反応液52の温度を個別に制御する際の第2の制御例を示すフローチャートである。図5は、図4に示す第2の制御例において、制御部が所定のデータを参照する際の参照手順を示すフローチャートである。
【0037】
前記した第1の制御例(図2参照)では、オペレータが反応液52の量(液量Q)と制御温度(Ta,Tb)とを指定したが、一般に、制御温度については検査試薬で決まる場合が多い。次の第2の制御例は、制御温度が検査項目を指定することで一義的に決まるもの、つまりオペレータが液量Qと検査項目hのみを指定する制御例である。
【0038】
この制御例では、図4に示すように、オペレータが遺伝子検査装置1の図示しない入力インターフェースに対して、遺伝子検査に供する反応液52の液量Q及び検査項目hを入力すると(ステップS210)、制御部Cは、その検査項目hに応じたテーブルDhを参照する(ステップS220)。このテーブルDhは、検査項目ごとに複数用意されている。ちなみに、本実施形態では、3つの検査項目hに対応するように、テーブルDh1、テーブルDh2及びテーブルDh3の3つが用意されて、これらは制御部Cの前記したメモリに格納されている。そして、このテーブルDhには、後に詳しく説明するように(図5参照)、入力した検査項目hで使用される検査試薬で一義的に決まる制御温度(例えば、テーブルTh3では2つの温度Ta,Tb)が規定されている。
【0039】
そして、本実施形態では、入力した検査項目hに応じて制御部CがテーブルDh3を参照した場合を想定すると、制御部Cは、制御温度としてTa(高温)とTb(低温)とを設定する(ステップS230)。
【0040】
次いで、制御部Cは、入力した液量Q及びステップS230で設定した制御温度(Ta,Tb)に基づいて、図2のステップS120からステップS160と同様の手順である図4に示すステップS240からステップS280の手順を実行することで、互いに異なる液量Qの各反応液52の温度を、個別にかつ並行して、予め定められた2つの制御温度(Ta,Tb)の間で周期的に変化させる。
【0041】
次に、この第2の制御例において、制御部Cが反応液52の温度を制御する際に参照するテーブルについて説明する。
図5に示すように、オペレータが検査項目hを入力した際に(ステップS210)、制御部CがステップS220で参照するテーブルDh3には、前記したように、検査項目hで使用される検査試薬で一義的に決まる制御温度(Ta,Tb)が規定されている。ちなみに、他の検査項目を入力して制御部Cが参照する他のテーブルDh1,Dh2のそれぞれには、その検査項目で使用される検査試薬で一義的に決まる制御温度が規定されている。なお、本実施形態では3つの検査項目に対応するテーブルDh1,Dh2,Dh3が用意されているが、この検査項目に係るテーブルは、この遺伝子検査装置1で行う検査項目に応じて増減される。
【0042】
また、図5に示すテーブルDa1,Da2,Dbは、図3に示す第1の制御例で制御部Cが参照するテーブルDa1,Da2,Dbと同様に液量、制御電圧及び印加時間が規定されている。つまり、テーブルDa1,Da2,Dbには、反応容器50内に収容される反応液52の量(Q1,Q2,Q3・・・)と、これらの各液量において、所定の制御温度(Ta,Tb)に調節するために必要な熱源40の制御電圧(V1,V2,V3・・・)と、その制御電圧(V1,V2,V3・・・)を熱源40に印加する印加時間(t1,t2,t3・・・)とが登録されている。
【0043】
そして、この第2の制御例では、制御部Cが、図4に示すステップS240及びステップS260において、これらのテーブルDa1,Da2,Dbを参照し、図5に示すように、ステップS250及びステップS270において、初期温度から制御温度Taに昇温するための条件である制御電圧Va1及び印加時間ta1、反応液52の温度をTaとTbとの間で周期的に変化させるための条件である制御電圧Va2及び印加時間ta2並びに制御電圧Vb及び印加時間tbをそれぞれ設定することとなる。
【0044】
(第3の制御例)
次に参照する図6は、本発明の実施形態に係る遺伝子検査装置1を構成する制御部Cが、検査に供する複数の反応液52の温度を個別に制御する際の第3の制御例を示すフローチャートである。図7は、図6に示す第3の制御例において、制御部が所定のデータを参照する際の参照手順を示すフローチャートである。
【0045】
前記した第1及び第2の制御例では、オペレータが反応液52の量(液量Q)を指定したが、一般に、液量Qは、検査試薬で決まっている場合が多い。次の第3の制御例は、液量Q及び制御温度が検査項目を指定することで一義的に決まるもの、つまりオペレータが検査項目hのみを指定する制御例である。
【0046】
この制御例では、図6に示すように、オペレータが遺伝子検査装置1の図示しない入力インターフェースに対して、検査項目hを入力すると(ステップS310)、制御部Cは、その検査項目hに応じたテーブルDhを参照する(ステップS320)。このテーブルDhは、検査項目ごとに複数用意されている。ちなみに、本実施形態では、3つの検査項目hに対応するように、テーブルDh1、テーブルDh2及びテーブルDh3の3つが用意されて、これらは制御部Cの前記したメモリに格納されている。そして、このテーブルDhには、後に詳しく説明するように(図7参照)、入力した検査項目hで使用される検査試薬で一義的に決まる反応液52の量(液量Q)と制御温度(例えば、テーブルDh3では2つの温度Ta,Tb)が規定されている。
【0047】
そして、本実施形態では、入力した検査項目hに応じて制御部CがテーブルDh3を参照した場合を想定すると、制御部Cは、液量Qと、制御温度としてTa(高温)及びTb(低温)とを設定する(ステップS330)。
【0048】
次いで、制御部Cは、ステップS330で設定した液量Q及び制御温度(Ta,Tb)に基づいて、図2のステップS120からステップS160と同様の手順である図6に示すステップS340からステップS380の手順を実行することで、各反応液52の温度を、個別にかつ並行して、予め定められた2つの制御温度(Ta,Tb)の間で周期的に変化させる。
【0049】
次に、この第3の制御例において、制御部Cが反応液52の温度を制御する際に参照するテーブルについて説明する。
図7に示すように、オペレータが検査項目hを入力した際に(ステップS310)、制御部CがステップS320で参照するテーブルDh3には、前記したように、検査項目hで使用される検査試薬で一義的に決まる液量Q及び制御温度(Ta,Tb)が規定されている。ちなみに、他の検査項目を入力して制御部Cが参照する他のテーブルDh1,Dh2のそれぞれには、その検査項目で使用される検査試薬で一義的に決まる液量及び制御温度が規定されている。なお、本実施形態では3つの検査項目に対応するテーブルDh1,Dh2,Dh3が用意されているが、この検査項目に係るテーブルは、この遺伝子検査装置1で行う検査項目に応じて増減される。
【0050】
また、図7に示すテーブルDa1,Da2,Dbは、図3に示す第1の制御例で制御部Cが参照するテーブルDa1,Da2,Dbと同様に液量、制御電圧及び印加時間が規定されている。つまり、テーブルDa1,Da2,Dbには、反応容器50内に収容される反応液52の量(Q1,Q2,Q3・・・)と、これらの各液量において、所定の制御温度(Ta,Tb)に調節するために必要な熱源40の制御電圧(V1,V2,V3・・・)と、その制御電圧(V1,V2,V3・・・)を熱源40に印加する印加時間(t1,t2,t3・・・)とが登録されている。
【0051】
そして、この第3の制御例では、制御部Cが、図6に示すステップS340及びステップS360において、これらのテーブルDa1,Da2,Dbを参照し、図5に示すように、ステップS350及びステップS370において、初期温度から制御温度Taに昇温するための条件である制御電圧Va1及び印加時間ta1、反応液52の温度をTaとTbとの間で周期的に変化させるための条件である制御電圧Va2及び印加時間ta2並びに制御電圧Vb及び印加時間tbをそれぞれ設定することとなる。
【0052】
なお、以上の第1から第3の制御例においては、熱源40としてペルチェ素子を使用した遺伝子検査装置1の制御例について説明したが、これらの第1から第3の制御例は、熱源40として電気ヒータを使用した遺伝子検査装置1においても適用することができる。この際、反応液52の温度をTa(高温)からTb(低温)に降温するための条件を規定するテーブルDbとしては、液量Qに応じて、熱源40に対する電力の供給を停止する停止時間を規定するテーブルDbが用意される。また、このテーブルDbは、熱源40に対して印加する制御電圧を低減することで反応液52の温度を降温する場合においては、液量Qに応じて制御電圧Vb及び印加時間tbを規定したテーブルDbが用意される。
【0053】
(第4の制御例)
第1の制御例から第3の制御例においては、一の熱源40が、これに隣接する他の熱源40に熱的に接する恒温部20に熱的影響を及ぼさない、言い換えれば各熱源40同士が熱的に独立であると想定した遺伝子検査装置1において、各反応液52の温度を個別に制御する場合について説明した。これに対し、次の第4の制御例は、各熱源40同士が熱的に独立でない遺伝子検査装置1の制御例である。
参照する図8(a)から(c)は、各熱源40同士が熱的に独立である遺伝子検査装置1と、各熱源40同士が熱的に独立でない遺伝子検査装置1とにおける、反応液52の温度、熱源温度センサ42のモニタ温度(図8(a)中、「センサモニタ温度」と記す)、熱源40の発熱量、及び熱源40の制御電圧の相対関係を示すグラフである。図8(a)の縦軸は温度[K]、横軸は時間[s]である。図8(b)の縦軸は発熱量[W]、横軸は時間[s]である。図8(c)の縦軸は制御電圧[V]、横軸は時間[s]である。
【0054】
まず、第4の制御例との比較のために、各熱源40が熱的に独立している場合の反応液52の温度(図8(a)の実線L410参照)、熱源温度センサ42のモニタ温度(図8(a)の実線L420参照)、熱源40の発熱量(図8(b)の実線L430参照)、及び熱源40の制御電圧(図8(c)の実線L440参照)の関係について説明する。
【0055】
第1の制御例から第3の制御例においては、前記したように、制御部Cによる熱源40の制御方法は,制御温度ごとにテーブルに登録されている。ここに登録された制御方法は、熱源が熱的に独立している条件、すなわち隣接する熱源による熱の影響を受けない条件で決定されたものである。
【0056】
例えば、熱源が熱的に独立している場合、熱源40を図8(c)の実線L440で示す制御電圧のように制御することで,反応液温度を図8(a)の実線L410のように制御でき、この時の熱源温度センサ42によるセンサモニタ温度は図8(a)の実線L420である。このとき、熱源40から伝熱部41への発熱量は、図8(b)の実線430である。なお、図8(a)の実線L420で示すセンサモニタ温度は常に一定の温度を保っているが、熱源40が熱的に独立した条件であれば、温度一定である必要はない。
【0057】
次に、各熱源40が熱的に独立していない場合の反応液52の温度(図8(a)の実線L411参照)、及び熱源温度センサ42のモニタ温度(図8(a)の線分L421参照)の関係について説明する。
ここでは、一の熱源40で反応液52の温度を昇温させると、前記したように、例えば熱源がペルチェ素子の場合には恒温部20は冷却される。そして、各熱源40が熱的に独立していない遺伝子検査装置1においては、この冷却された恒温部20は、この一の熱源40に隣接する他の熱源40が熱的に接する恒温部20を冷却する。
したがって、各熱源40が熱的に独立していない遺伝子検査装置1においては、前記した「隣接する他の熱源40」のセンサモニタ温度は、図8(a)の実線L421に示すように、低くなっていく。そのため、テーブルに登録されている制御電圧、すなわち各熱源40が熱的に独立している条件での制御電圧(図8(c)の線分L440参照)で「隣接する他の熱源40」を制御すると、「隣接する他の熱源40」で制御する反応液52の温度も図8(a)の実線L411に示すように、熱源が熱的に独立している場合の反応液温度、すなわち目的とする反応液温度(図8(a)の実線L410)より低下する。
【0058】
これに対して、第4の制御例は、各熱源40が熱的に独立していない遺伝子検査装置1において、独立していたときの制御電圧(図8(c)の実線L440参照)と同じ制御電圧で熱源40を制御するのではなく、熱源温度センサ42のセンサモニタ温度(図8(a)の実線L421参照)に基づいて熱源40を制御する。つまり、「隣接する他の熱源40」の制御電圧を、図8(c)の実線L442に示すように所定の時刻で修正することで、図8(b)の実線L431で示す低い発熱量を、図8(c)の実線L430で示す発熱量に戻すことで、反応液52の温度を、図8(a)の実線L410の示す目標温度Tcに設定することができる。
【0059】
つまり、第4の制御例によれば、恒温部20(熱容量部)の温度に合わせて熱源40の制御電圧を制御するので、各熱源40が熱的に独立していない遺伝子検査装置1においても反応液52を高精度に温度制御することができる。なお、この第4の制御例における熱源温度センサ42は、特許請求の範囲にいう「各熱源の温度を、熱容量部を介して検出する温度センサ」に相当する。
【0060】
<遺伝子検査装置1の作用効果>
次に、本実施形態に係る遺伝子検査装置1の作用効果について説明する。
本実施形態に係る遺伝子検査装置1によれば、反応液52の温度を制御する熱源40及び伝熱部41を反応容器50ごとに設けており、複数の反応液52の温度を独立に制御できる。そのため、制御温度が異なる検査項目を同時に処理することができる。特に反応液51の液量Qに対して熱源40の制御電圧Vと印加時間tを設定できるため、液量Qが変化したとしても高精度に温度制御が可能となる。
【0061】
また、本実施形態に係る遺伝子検査装置1によれば、各反応液52の温度を独立に制御するため、熱源40は独立に制御される。一方、恒温部20は、銅やアルミなどの熱伝導率の大きい材質で構成すると共に、伝熱部41に比べて熱容量も十分大きくすることで、熱源40からの放熱あるいは吸熱の影響を抑制することができる。つまり、熱源40からの熱の影響は、恒温部20に拡散し、更に恒温温調部30で温度を制御することができるので、恒温部20全体が略一定温度(本実施例では40℃)に維持することができる。
【0062】
また、本実施形態に係る遺伝子検査装置1によれば、各熱源40周りの恒温部20に断熱部22を設けているので、一の熱源40からこれに隣接する熱源40周りの恒温部20に熱の影響が及ぶのを抑制することができる。そのため、この遺伝子検査装置1によれば、各熱源40を独立して温度制御することができ、反応液2を高精度に温度制御できる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態における第4の制御例では、恒温部20に設けた熱源温度センサ42を使用して恒温部20の温度をモニタすることによって、隣接する熱源40同士の熱的影響を補正するように構成したが、本発明は放熱温度センサ32や他の方法で恒温部20の温度をモニタすることもできる。
【0064】
次に参照する図9(a)は、本発明の他の実施形態に係る遺伝子検査装置の構成説明図であり、図9(b)は、図9(a)の遺伝子検査装置を構成する検査デバイスの平面図である。なお、ここでの他の実施形態に係る遺伝子検査装置1において、前記実施形態と同様の構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0065】
図9(a)及び(b)に示すように、この遺伝子検査装置1は、伝熱部41(熱伝導部)にモニタ部44が設けられると共に、このモニタ部44内には、モニタ部44の温度をモニタするための伝熱部温度センサ45が設けられている。ちなみに、伝熱部温度センサ45は、モニタ部44に埋め込まれている。この伝熱部温度センサ45は、特許請求の範囲にいう「各熱伝導部の温度を検出する温度センサ」に相当する。
モニタ部44は、反応容器50と同じ熱伝導率の材料で構成することで、反応容器50内の反応液52の温度を模擬している。また、モニタ部44には、観測窓43と同等の放熱特性を持つように放熱部46を設けることで、検査デバイス10の外部に放熱する熱を模擬することができる。
【0066】
なお、図9(a)及び(b)中、符号11はカバーであり、符号13は装置温度センサであり、符号20は恒温部であり、符号21は電動アクチュエータであり、符号30は恒温温調部であり、符号31は放熱フィンであり、符号32は放熱温度センサであり、符号40は熱源であり、符号41は伝熱部であり、符号60は照射部であり、符号61は受光部であり、符号Cは制御部である。
【0067】
次に、図9(a)及び(b)に示す遺伝子検査装置1の制御方法について説明する。
前記実施形態に係る遺伝子検査装置1の第4の制御例(図8(a)から(c)参照)では、熱源温度センサ42によるセンサモニタ温度(図8(a)参照)に基づいて制御部Cが熱源40を制御したが、図9(a)及び(b)に示す遺伝子検査装置1では、モニタ部温度差に基づいて熱源40を制御する。
【0068】
この「モニタ部温度差」とは、遺伝子検査装置1において、熱源40が熱的に独立している条件で、伝熱部41の温度を伝熱部温度センサ45で測定した値を基準とした場合に、他の任意の測定条件で、伝熱部41の温度を伝熱部温度センサ45で測定した値から、当該基準温度を減じた値をいう。
【0069】
次に参照する図10(a)から(d)は、各熱源40同士が熱的に独立である遺伝子検査装置1と、各熱源40同士が熱的に独立でない遺伝子検査装置1とにおける、反応液52の温度、モニタ部温度差、熱源40の発熱量、及び熱源40の制御電圧の相対関係を示すグラフである。図10(a)及び(b)の縦軸は温度[K]、横軸は時間[s]である。図10(c)の縦軸は発熱量[W]、横軸は時間[s]である。図8(d)の縦軸は制御電圧[V]、横軸は時間[s]である。
【0070】
まず、各熱源40が熱的に独立している場合の反応液52の温度(図10(a)の実線L510参照)、モニタ部温度差(図10(b)の実線L550参照)、熱源40の発熱量(図10(c)の実線L530参照)、及び熱源40の制御電圧(図10(d)の実線L540参照)の関係について説明する。
【0071】
各熱源40が熱的に独立している場合には、図10(b)の実線L550に示すように、モニタ部温度差は、0[K]となる。このとき、前記した第1から第4の制御例と同様に熱源40を制御することができる。
つまり、制御部Cは、図10(d)の実線L540で示されるように熱源40の制御電圧を制御することで、図10(c)の実線L530で示される発熱量で熱源40を発熱させる。そして、図10(a)中、反応液52の温度(L510)を目標温度Tcとなるように調節する。
【0072】
一方、隣接する熱源40同士の熱的影響で各熱源40が熱的に独立しない場合には、モニタ部温度差は、図10(b)の実線L551に示すように、各熱源40が熱的に独立している場合のモニタ部温度差(図10(b)の実線L550)から、すなわち0[K]から次第にずれていく。例えば、熱源40としてペルチェ素子を採用し、一の熱源40で反応液52を加熱すると、一の熱源40に近接する恒温部20の温度が低下し、これに隣接する他の熱源40に熱的に接する恒温部20の温度も低下する。そして、この恒温部20の温度の低下に伴って、「隣接する他の熱源40」から伝熱部へ移行する熱量も低下する。そのため、熱源40の制御電圧を各熱源40が熱的に独立している場合の制御電圧(図10(d)の実線L540)にすると、反応液52の温度は、目標温度Tcに到達せずに、図10(a)の実線L511に示すように、低温で推移する。同時に、モニタ部温度差も、図10(b)に示すように、0[K]よりも下回る。
【0073】
これに対して、図9(a)及び(b)に示す遺伝子検査装置1の制御方法は、各熱源40が熱的に独立していない遺伝子検査装置1において、独立していたときの制御電圧(図10(d)の実線L540参照)と同じ制御電圧で熱源40を制御するのではなく、「隣接する他の熱源40」に接する伝熱部41における伝熱部温度センサ45のモニタ部温度差(図10(b)の実線L551参照)に基づいて、熱源40を制御する。つまり、「隣接する他の熱源40」の制御電圧を、図10(d)の実線L542に示すように所定の時刻で修正することで、図10(c)の実線L531で示す低い発熱量を、図10(c)の実線L530で示す発熱量に戻し、反応液52の温度を、図10(a)の実線L510の示す目標温度Tcに設定することができる。
【0074】
なお、ここでの他の実施形態では、反応容器50と同じ熱伝導率の材料で構成したモニタ部44を伝熱部41に設け、モニタ部44の温度を伝熱部温度センサ45でモニタしているが、モニタ部44を設けず伝熱部温度センサ45で直接伝熱部41の温度をモニタしても制御は可能である。その場合には、図10(a)から(d)に示したように、各熱源40が熱的に独立している条件で測定した温度との差を利用するが、モニタ部44がある場合と異なり応答が速いため、適当な時間で移動平均をとる必要がある。また、伝熱部41の温度には前の温度サイクルの履歴が残っている可能性があり、モニタ部44に対して放熱部46を設けたのと同様の、観測窓43と同等の放熱特性を設けるのが望ましい。
このような他の実施形態に係る遺伝子検査装置1によれば、予め反応液52の温度と伝熱部温度センサ45の温度検出信号との対応関係を把握して、遺伝子検査装置1の制御部Cに登録しておけば、恒温部20の温度が変化しても、伝熱部温度センサ45の温度検出信号から反応液52の温度を予測し、反応液52を高精度に温度制御することができる。
【0075】
前記した遺伝子検査装置1(図1(a)及び(b)参照)では、恒温温調部30で制御される恒温部20の温度は、放熱温度センサ32でモニタしたが、恒温部20の熱源40の近くに熱源温度センサ42を設けて恒温部20の温度をモニタしてもよい。このような熱源温度センサ42を用いることで、恒温部20の温度むら(例えば内周側では40℃に制御されているが、外周側すなわち温度制御部40の近くではもっと高温)がわかり、恒温温調部30及び熱源40での制御を高精度に実施できる。
【0076】
また、このような遺伝子検査装置1で使用される各反応液52は、試料と検査試薬との混合液であり、検査する内容に応じて検査試薬は異なり、制御温度が異なる。前記した制御例では、反応液52の温度を高温(95℃)と低温(59℃)に繰り返し制御することで検査を実施したが、高温及び低温の温度、並びにそれらの温度を継続する時間は、検査する内容に応じて異なる。また、高温及び低温の二つの温度だけでなく、その他の温度についても制御する場合もある。更に検査によっては、反応液52の液量が異なる場合があるため、制御温度及び反応液52の液量に応じた熱源40の電圧制御が必要となる。
【符号の説明】
【0077】
1 遺伝子検査装置
20 恒温部(熱容量部)
40 熱源
41 伝熱部(熱伝導部)
42 熱源温度センサ
44 モニタ部
45 伝熱部温度センサ
50 反応容器
52 反応液
C 制御部
Da1 テーブル
Da2 テーブル
Da3 テーブル
Db テーブル
Dh テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収容する複数の検査容器と、
各検査容器に対して個別に設けられる熱源と、
各検査容器内のそれぞれの試料の量に応じて各熱源を制御してそれぞれの試料の温度を個別に調節する制御部と、
を備えることを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の遺伝子検査装置において、
前記制御部は、各検査容器内のそれぞれの試料の量ごとに登録されたテーブルを参照してそれぞれの試料の温度を個別に調節することを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項3】
試料を収容する複数の検査容器と、
各検査容器に対して個別に設けられる熱源と、
この熱源に熱的に接する熱容量部と、
各熱源の温度を、この熱容量部を介して検出する温度センサと、
この温度センサの検出信号に基づいて各熱源を制御してそれぞれの試料の温度を個別に調節する制御部と、
を備えることを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載の遺伝子検査装置において、
前記温度センサは各熱源に隣接してこの熱源ごとに設けられることを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項5】
試料を収容する複数の検査容器と、
各検査容器を支持すると共に熱的に接するようにこの検査容器ごとに設けられる熱伝導部と、
この熱伝導部ごとに個別に設けられる熱源と、
この熱伝導部ごとに設けられ、各熱伝導部の温度を検出する温度センサと、
この温度センサの検出信号に基づいて各熱源を制御してそれぞれの試料の温度を個別に調節する制御部と、
を備えることを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項6】
請求項5に記載の遺伝子検査装置において、
各熱伝導部のそれぞれに前記検査容器と同等の熱伝導率を有する材料からなるモニタ部が設けられ、このモニタ部に前記温度センサが配置されることを特徴とする遺伝子検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−228212(P2012−228212A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99044(P2011−99044)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】