説明

遺伝子発現を用いた疲労の判定方法

【課題】被験体より容易に入手し得る生体試料を用いた被験体の疲労の程度を判定する方法、被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法、及び疲労判定試薬又はキットを提供する。
【解決手段】被験体由来(ヒトなど)の生体試料(血液、細胞など)における、特定の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することを含む、疲労の程度を判定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の遺伝子の発現を解析することによる(1)被験体の疲労の程度を判定する方法、(2)被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法、(3)疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法、及び(4)疲労判定試薬又はキットに関する。
【背景技術】
【0002】
生活者の6割以上の人は、日常的に疲労を感じており、以前と比較して十分な作業活動を維持できないと感じている(非特許文献1)。疲労に悩む生活者は、企業間競争の激化や成果主義の導入による心身負担の増大など、労働環境変化に伴って、年々増加している。
【0003】
生活者は、日々の疲労を回復するために、入浴、コーヒーの飲用、一般用医薬品及びサプリメントの摂取、アロマグッズの使用など、さまざまな方法を試行しているが(非特許文献2)、日々の疲労に適切に対応できなかった際においては、疲労は蓄積していく。今や、疲労の蓄積に関連する健康障害及び経済損失は大きく、社会的問題になっている。これらの社会的問題を解決するためには、生活者の疲労の程度を判定し、疲労の程度に応じた適切な方法を選択し、早期に疲労を改善又は回復することが必要である。
疲労の程度を判定する方法については公的な対策も推進されており、広く知られている公的対策の一つとしては、睡眠の時間や質、労働時間、疲労感や抑うつ感などの項目からなる簡易な自己判断方法(労働者の疲労蓄積度チェックリストなど)が挙げられる(非特許文献3)。しかし、国内外における多数の研究にもかかわらず、疲労感などの自覚症状によることなく、疲労の程度を客観的に判定することが可能な方法として、広く認められた方法は未だにない。
【0004】
これまでにも、栄養素の変動、サイトカインやその受容体、さらにはシグナルを受け取ってからの細胞内シグナル伝達機構などの研究から、疲労の程度を客観的に判定するための方法の開発が試みられている(非特許文献4)。例えば、血液中の複数のアミノ酸濃度(特許文献1)、TGF―β濃度(特許文献2)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV−6)の遺伝子の発現量(特許文献3)、モノアミン類の濃度変化率の測定、尿中の脂質過酸化物などの酸化ストレスマーカーの濃度、唾液中のコルチゾール、副腎性ホルモン又はそれらの代謝物、クロモグラニンAなどの測定などが挙げられる。
【0005】
上記の方法において、例えばヒトヘルペスウイルスの遺伝子の発現変動は、免疫機能の乱れを背景とする中期的・長期的な疲労と関係するが、短期的な疲労によっては引き起こされ難い課題がある。また、病的疲労の一つである慢性疲労症候群と深く関係しており、カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、ゾニサミド、サラゾスルファピリジン、メキシレチン、アロプリノールなどによる薬剤性過敏症症候群とも密接に関係していることが知られている(非特許文献5)。従って、リンパ腺の腫れなどを伴う病的疲労や薬剤の副作用としての疲労の判定方法として活用することは可能であるが、日常生活における疲労の判定方法としては、使用において課題が残されている。
【0006】
尿中のイソプラスタンや8−OHdGなどの酸化ストレスマーカーにおいては、高血糖や動脈硬化などの生活習慣病、喫煙と密接に関係しており、極めて一般的な酸化ストレスマーカーであり、疲労を判定していることにならない。
さらに、コルチゾール、副腎性ホルモン又はそれらの代謝物、クロモグラニンA、モノアミン類などを用いた判定方法などは精神機能に大きく影響されることが知られている。
複数のアミノ酸やTGF-βなどを用いた判定方法は、単にエネルギー代謝を反映している場合もあり、疲労の程度を客観的に判定していないと考えられる。
【0007】
一方、疲労の状態の特性を個々に働く遺伝子に注目するだけで表現するには不十分であるとの考えから、末梢白血球における複数の遺伝子の発現量を一度に比較する方法によって、疲労の程度を客観的に判定する方法が報告されている(特許文献4及び5)。これまでにも、注目する疾患を発症している患者と、疾患を発症していない患者との間で発現量が異なる遺伝子を探索して、得られた遺伝子を疾患の診断や治療薬の探索の標的として用いる方法が広く知られている(特許文献6)。
例えば、末梢白血球における複数の遺伝子の発現量を一度に比較する方法によって、運動疲労状態を評価する方法が報告されている(特許文献7)。
この方法においては、被験者に運動を負荷した後において、末梢白血球における複数の遺伝子(1クラスタあたり7個から20個の遺伝子よりなる6種のクラスター、計117個の遺伝子)を用いて、疲労を評価している。しかし、疲労感の程度に応じて発現変動する遺伝子であるが、パフォーマンスの低下などの程度に応じて発現変動する遺伝子ではなく、客観的に疲労の程度を評価できるとは限らない。さらには、個々の遺伝子の発現変動の程度は不明確であり、抗疲労効果を有する被験物質により発現変動が抑制される遺伝子についても不明瞭であり、各クラスターに含まれる7個から20個の全ての遺伝子を用いなければ、運動疲労状態を客観的に評価できるとは言えない。
【0008】
ヒトに運動を負荷し、その前後における複数の遺伝子の発現量を解析することにより、運動を起因とするストレス状態を精度高く評価できることとする方法も報告されている。
この方法においては、ヒトに運動を負荷し、外から生体に加わった外力である運動(ストレス刺激ストレッサー)に対して、そのゆがみを元に戻そうとする反応を“運動を起因とするストレス状態”としている。そして、その前後における複数の遺伝子の発現量を解析することにより、運動を起因とするストレス状態を客観的に評価できるとしている。しかし、この方法においては、“運動による生体のゆがみを元に戻そうとする反応”であるストレスを評価しており、“生体のゆがみ”を評価していない。ましてや、運動負荷による疲労の程度を客観的に評価していない。
【0009】
疲労の蓄積などによる社会的問題を解決するため、生理学的な特徴に立脚した新たな疲労の程度の判定方法が望まれている。また、疲労の状態を確実に改善できる薬剤も依然開発途上にあり、疲労の程度の判定に有用な方法は、そのような薬剤の疲労に対する有効性の判定のためにも必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2005/078448号公報
【特許文献2】WO2007/094472号公報
【特許文献3】特開2007−330263号公報
【特許文献4】特開2002−340917号公報
【特許文献5】特開2008−54590号公報
【特許文献6】特開2004−33082号公報
【特許文献7】特開2011−125326
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】疲労の実態調査と予防策、P222−228、疲労の科学 株式会社講談社、2001年
【非特許文献2】疲労回復ホームページ、P229−233、疲労の科学 株式会社講談社、2001年
【非特許文献3】厚生労働省 労働者の疲労蓄積度チェックリスト
【非特許文献4】疲労の生化学バイオマーカー(血液、尿)、P71−75、最新・疲労の科学、別冊・医学のあゆみ、医歯薬出版株式会社、2010年
【非特許文献5】薬剤性過敏症症候群とヒトヘルペスウイルス、臨床免疫・アレルギー科、50巻3号、P302−306、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
疲労感に頼ることなく、日常生活における生理的疲労、特に肉体疲労の程度を客観的に判定することは、睡眠や休息の確保、栄養補給や摂取、さらには、薬剤投与を適切に行うことを可能とし、疲労の回復、改善及び予防することが容易に可能となり、国民の健康維持・増進に大きく寄与することとなる。従って、疲労の程度の判定などに有用な方法は、国民の健康維持・増進のためにも重要なものであり、薬剤の疲労に対する有効性を判定するためにも必要である。しかしながら、疲労の程度の判定に有用な方法は開発されていない。また、疲労状態を確実に治療できる薬剤も依然として開発途上にあり、学問上も大きな問題である。
【0013】
本発明は、被験体より容易に入手し得る生体試料を用いた被験体の疲労の程度を判定する方法、疲労を回復、改善又は予防し得る物質(被験物質)の疲労に対する有効性を判定する方法、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法、及び疲労判定試薬又はキットを提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、生理学的な特徴に立脚した手法によって、疲労により発現が変動する遺伝子を見出し、これら特定の遺伝子からなるリストを作成することに成功し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0015】
(1) 被験体由来の生体試料における、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することを含む、疲労の程度を判定する方法。
(2) 被験体に被験物質を投与し、被験体由来の生体試料における表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することを含む、被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法。
【0016】
(3) 被験体に被験物質を投与し、被験体由来の生体試料における表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較し、当該遺伝子の発現を変動させる物質を、疲労を回復、改善又は予防し得る候補物質として選択することを含む、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法。
【0017】
(4) 被験体が、ヒト又は非ヒト哺乳動物である、(1)から(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5) 生体試料が、血液である、(1)から(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) 生体試料が、細胞である、(1)から(4)のいずれか1項に記載の方法。
(7) 疲労が生理的疲労である、(1)から(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8) 疲労が肉体疲労である、(1)から(7)のいずれか1項に記載の方法。
【0018】
(9) 肉体疲労を引き起こすために被験体に対して筋運動を負荷させる工程をさらに含む、(1)から(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10)表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現量の変動を分析及び/又は比較する、(1)から(9)のいずれか1項に記載の方法。
(11)表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子について、少なくとも2個以上の当該遺伝子のうち発現変動が異なる遺伝子の数を分析及び/又は比較する、(1)から(10)のいずれか1項に記載の方法。
【0019】
(12) 表2に記載のNo.001〜No.112の遺伝子及び表3に記載のNo.001〜No.109の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現の増大を分析及び/又は比較し、及び/又は表2に記載のNo.113〜No.146の遺伝子及び表3に記載のNo.110〜No.148の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現の減少を分析及び/又は比較する、(1)から(11)のいずれか1項に記載の方法。
【0020】
(13) 表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子が、ARG2遺伝子、BLVRB遺伝子、BRP44遺伝子、C19orf59遺伝子、CCR1遺伝子、CCRL2遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CLEC4D遺伝子、CLEC4E遺伝子、CSTA遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、CXCR2P1遺伝子、EMR2遺伝子、EMR3遺伝子、EMR4P遺伝子、FPR1遺伝子、GPR109A遺伝子、GPR109B遺伝子、GZMA遺伝子、HMBS遺伝子、HP遺伝子、HPR遺伝子、IL1R2遺伝子、IRG1遺伝子、KLRAP1遺伝子、KLRK1遺伝子、MMP8遺伝子、OXER1遺伝子、P2RY13遺伝子、PLIN2遺伝子、RAB3IL1遺伝子、S100A8遺伝子、SLFN12遺伝子、SLFN12L遺伝子、SPATC1遺伝子、TARM1遺伝子、TAS2R60遺伝子、TMOD1遺伝子、TREM1遺伝子、TSPO2遺伝子、TSTD2遺伝子又はVTI1B遺伝子、又はそれらのホモログ遺伝子である、(1)から(12)のいずれか1項に記載の方法。
【0021】
(14) 表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子が、ACE遺伝子、ACP1遺伝子、ACTA2遺伝子、ACTG2遺伝子、AFMID遺伝子、ALOX15遺伝子、ARG2遺伝子、ATP5L遺伝子、BLVRB遺伝子、BST1遺伝子、C5AR1遺伝子、CA2遺伝子、CBR1遺伝子、CCL5遺伝子、CCR1遺伝子、CCR3遺伝子、CD14遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、F8遺伝子、FPR1遺伝子、GZMA遺伝子、HDC遺伝子、HMBS遺伝子、HPR遺伝子、IFITM1遺伝子、IFNA1遺伝子、IFNA10遺伝子、IFNA13遺伝子、IFNA14遺伝子、IFNA16遺伝子、IFNA17遺伝子、IFNA2遺伝子、IFNA21遺伝子、IFNA4遺伝子、IFNA5遺伝子、IFNA6遺伝子、IFNA7遺伝子、IFNA8遺伝子、IL13RA1遺伝子、IL1B遺伝子、IL1R2遺伝子、IL2RB遺伝子、ISG15遺伝子、KLRB1遺伝子、KLRD1遺伝子、KLRK1遺伝子、MITF遺伝子、NCR1遺伝子、OAS3遺伝子、OR10A3遺伝子、OR10A6遺伝子、OR51V1遺伝子、P2RY13遺伝子、PIGY遺伝子、PPP1R3D遺伝子、RARS遺伝子、S1PR5遺伝子、SERPINB10遺伝子、SOCS3遺伝子、TAS2R60遺伝子、TK1遺伝子、UBE2F遺伝子、UPP1遺伝子、UROD遺伝子又はVTI1B遺伝子、又はそれらのホモログ遺伝子である、(1)から(12)のいずれか1項に記載の方法。
【0022】
(15)表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子が、ARG2遺伝子、BLVRB遺伝子、CCR1遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、FPR1遺伝子、GZMA遺伝子、HMBS遺伝子、HPR遺伝子、IL1R2遺伝子、KLRK1遺伝子、P2RY13遺伝子、TAS2R60遺伝子又はVTI1B遺伝子である、(1)から(12)のいずれか1項に記載の方法。
【0023】
(16)表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子が、ACTA2遺伝子、ACTG2遺伝子、PLIN2遺伝子、ARG2遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CCR1遺伝子、FPR1遺伝子、HDC遺伝子、HMBS遺伝子、IL1B遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、CXCR2P1遺伝子、MXD1遺伝子、MMP8遺伝子、PPP1R3D遺伝子、S100A8遺伝子、S100A9遺伝子、IL1R2遺伝子、IFITM1遺伝子、HCAR3遺伝子(GPR109B遺伝子)、IFITM3遺伝子、IFITM2遺伝子、XPO7遺伝子、TREM1遺伝子、SLFN12遺伝子、RTP4遺伝子、PRAM1遺伝子、OXER1遺伝子、CLEC4D遺伝子、TAS2R60遺伝子、HCAR2遺伝子(GPR109A遺伝子)、SLFN12L遺伝子、TARM1遺伝子、ALOX15遺伝子、GZMA遺伝子、CCL5遺伝子、NCR1遺伝子、KLRK1遺伝子、EMR2遺伝子、EMR3遺伝子、EMR4P遺伝子、ADAM8遺伝子、TCN2遺伝子、OLFM4遺伝子、GPR77遺伝子、STEAP4遺伝子、DGAT2遺伝子、HLA−DQB1遺伝子、HLA−DQB2遺伝子、KLRC4−KLRK1遺伝子又はHDAC9遺伝子である、(1)から(12)のいずれか1項に記載の方法。
【0024】
(17) 被験体由来の生体試料における遺伝子の発現量が、疲労の状態の対照体及び/又は非疲労の状態の健常対照体における当該遺伝子の発現量のどちらに近いかに基づいて行われ、疲労の状態の対照体に近い場合に、被験体は疲労の状態であると判定することを特徴とする、(1)から(16)のいずれか1項に記載の方法。
(18) 被験体由来の生体試料における遺伝子の発現変動量又は発現変動率が、疲労の状態の対照体及び/又は非疲労の状態の健常対照体における当該遺伝子の発現変動量又は発現変動率のどちらに近いかに基づいて行われ、疲労の状態の対照体に近い場合に、被験体は疲労の状態であると判定することを特徴とする、(1)から(16)のいずれか1項に記載の方法。
(19)被験物質の疲労に対する有効性を判定するにおいて、被験物質の投与に伴って被験体由来の生体試料における遺伝子の発現変動が減弱又は消失している場合に、被験物質は疲労に対して有効であると判定することを特徴とする、(1)から(18)のいずれか1項に記載の方法。
【0025】
(20) 表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子に特異的なプローブ又はプライマー、又は上記遺伝子の遺伝子産物に特異的な抗体を含む、(1)から(19)のいずれか1項に記載の方法において上記遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較するための疲労判定試薬又は疲労判定キット。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、本明細書に記載した遺伝子リストより選ばれる特定の遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することによる、被験体の疲労の程度を判定する方法、被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法、及び疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法が提供される。更に本発明によれば、上記の方法に用いるための疲労判定試薬又はキットが提供される。
これらにより、簡便かつ客観的に疲労の程度を判定でき、疲労を回復、改善又は予防し得る物質の疲労に対する有効性を判定でき、これらの物質を探索することも可能である。さらに、疲労の程度が未知である被験体の疲労の程度を客観的に判定することにより、疲労の状態と判定された被験体は、睡眠や休息の確保、栄養補給や摂取、さらには、医薬品投与を適切に行うことが可能となり、疲労の回復、改善及び予防が容易に可能となり、国民の健康維持・増進に大きく寄与することとなる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
<疲労>
本発明における疲労は、特に限定されないが、一般的な意味としては、例えば、身体作業あるいは精神作業などにより、身体あるいは精神に負荷を与えた際に生じる作業効率(パフォーマンス)が低下した状態を示す。この場合、疲労の程度とは作業効率の低下の程度(度合い)を意味する。
本発明において、判定の対象となる疲労は、好ましくは生理的疲労である。また、好ましくは末梢性の疲労(末梢性疲労)であり、肉体疲労、身体疲労、筋肉疲労、運動疲労などがさらに好ましい。また、身体作業により筋肉などの末梢組織が疲労することに起因する肉体疲労などが特に好ましい。
【0028】
「生理的疲労」とは、睡眠や休息の確保、栄養の摂取などを適切に得ることにより、自然の状態で回復が可能な範囲での疲労であり、病的疲労や薬剤由来の疲労を含まない。逆に、不適切な生活習慣は、疲労の蓄積を引き起こす。
「病的疲労」とは慢性疲労症候群、悪性腫瘍、細菌又はウイルス感染、後天性免疫不全症候群、糖尿病、うつ病などの疾病に伴う疲労を示す。
「薬剤由来の疲労」とは、抗ガン剤、免疫抑制剤、向精神剤などの薬剤の使用によって引き起こされる疲労を示す。
「末梢性疲労」とは、脳が主体となって疲労を感じている中枢性疲労の状態でなく、脳以外の末梢組織に起因する疲労を示し、いわゆる身体疲労、肉体疲労、筋肉疲労などが挙げられる。また、身体に負荷を与える作業(身体作業)や精神に負荷を与える作業(精神作業)、不適切な生活習慣(睡眠や休息、栄養の不足など)による末梢組織に起因する疲労である。
ここで言う身体作業や精神作業には、産業活動における労働作業のみでなく、日常生活における作業や運動、走行、自転車こぎ、階段の昇降などの動作も含む。
従って、非疲労の状態とは、病的疲労又は薬剤由来の疲労を呈していない状態であり、精神あるいは身体などへの負荷が少なく、十分な睡眠や休息が確保されており、栄養摂取量を満たしており、さらに、日常的に適度な運動を行い、中枢性及び末梢性の疲労を呈していない状態を示す。
【0029】
<被験体、及び生体試料>
本発明においては、被験体由来の生体試料における、特定の遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較する。
本発明における「被験体」とは、好ましくは、生体試料を採取することが可能なヒト又は非ヒト哺乳動物であり、ヒトであることが特に好ましい。
「非ヒト哺乳動物」とは、ヒトを除く哺乳綱の脊椎動物を意味し、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、霊長類(例えば、サルなど)、並びにイヌなど、薬剤の有効性を判定する際に汎用される動物が好ましく、上記の中でもマウス及びラットが特に好ましい。
【0030】
本発明における「生体試料」とは、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子を発現しており、その遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較できる試料であれば、その種類は特に限定されない。
生体試料としては、被験体より採取することが可能である血液、脳脊髄液、唾液、精液などの体液や細胞が挙げられるが、特に限定されない。これらの試料は、倫理的な問題が生じないように採血又はバイオプシーなどにより、被験体から分離されることが望ましい。好ましくは、生体試料は、血液であり、さらに好ましくは血球などの血液細胞である。
【0031】
また、本発明における「細胞」とは表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子を発現しており、その遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較できる細胞である。
細胞としては、例えば、血液細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、グリア細胞、骨髄細胞、繊維芽細胞、繊維細胞、間質細胞、又はこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。細胞は、好ましくは、筋細胞、肝細胞、血液細胞、又はそれらの前駆細胞もしくは幹細胞であり、ヒト由来の細胞であることがより好ましい。
【0032】
<遺伝子>
本発明の方法においては、被験体由来の生体試料における、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較する。
表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子又はそのホモログ遺伝子は、少なくともヒト又はマウスにて公知の遺伝子であり、その塩基配列又はポリペプチド配列は公知であり、当業者に利用可能な遺伝子である。
【0033】
表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子は、The HUGO Gene Nomenclature Committee (HGNC)、米国立生物工学情報センター(NCBI)、欧州分子生物学研究所(EMBL)、日本DNAデータバンク(DDBJ)などの遺伝子データベースに登録されている遺伝子であり、これらのデータベースにおいて遺伝子シンボル、Entrez GeneID(EGID)、HGNC ID、Mouse Genome Informatics(MGI)、VErtebrate Genome Annotation(VEGA)又はアクセッション番号(Accessoion number)などによって容易に塩基配列又はポリペプチド配列などの遺伝子情報を入手することができる。これらの遺伝子のいくつかは、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)、BioCarta、Gene Map Annotator and Pathway Profiler(GenMAPP)などのパスウェイデータベースや遺伝子オントロジー(Gene Ontology:GO)データベースにも登録されており、機能的情報を容易に得ることもできる。
【0034】
本発明においては、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子のホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較してもよい。
「ホモログ遺伝子」とは、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる遺伝子と機能的に同等な遺伝子のことを言う。ホモログ遺伝子のいくつかは、HGNCやNCBIなどに登録されている遺伝子より、容易に塩基配列又はポリペプチド配列などの遺伝子情報を入手することができる。
【0035】
「機能的に同等な遺伝子」とは、ホモログ遺伝子によってコードされるポリペプチドが、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子によってコードされるポリペプチドと、同等の生物学的機能、生理学的機能又は生化学的機能を有することを示す。
通常、機能的に同等な遺伝子は、塩基配列又はポリペプチド配列において、高い相同性や同一性を有しており、少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性又は同一性を示す。機能的に同等な遺伝子は、塩基配列を基にした遺伝子増幅法などを利用して単離及び特定することも可能である。
【0036】
また、本発明における「遺伝子」とは、DNA又はRNAのいずれもでもよく、ゲノムDNAのみならず、mRNA、aRNA、cRNA及びcDNAなども含むものであり、全長遺伝子のみでなく、その一部を含む遺伝子(expressed sequence tag、EST)でもよい。
ここで言う「その一部を含む遺伝子」とは、ハイブリダイズする際に十分な配列長を有するものであれば、その長さは特に限定されないが、好ましくは少なくとも10塩基以上であり、より好ましくは10塩基以上100塩基以下であり、さらに好ましくは10塩基以上50塩基以下である。また、塩基配列又はポリペプチド配列などによって特定される各遺伝子には、例えば、各塩基配列と相補的な塩基配列からなる遺伝子とハイブリダイズする遺伝子が含まれる。
【0037】
<遺伝子リスト>
本発明による、(1)被験体の疲労の程度を判定する方法、(2)疲労を回復、改善又は予防し得る物質(被験物質)の疲労に対する有効性を判定する方法、(3)疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法においては、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より遺伝子リストを作成し、遺伝子リストより選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較する。
表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より作成される遺伝子リストに含まれる遺伝子としては、例えば、疲労の状態の被験体における遺伝子の発現変動が、非疲労の状態の健常対照体の発現変動と比較して、著しく異なっている遺伝子である。
【0038】
本発明において選定する遺伝子としては、生理的疲労の程度に応じて発現が変動(増加又は減少)する遺伝子であり、例えば、身体作業や精神作業の程度に応じて発現が変動(増加又は減少)する遺伝子であることが好ましい。疲労を呈している複数の被験体において、身体作業や精神作業などにおける作業効率の低下の程度に応じて発現が変動(増加又は減少)する遺伝子でもよい。
疲労の状態の対照体由来及び/又は非疲労の状態の健常対照体由来の生体試料における遺伝子の発現変動は、前もって測定して得られた発現変動でもよいし、被験体の特定の遺伝子の発現変動を解析する際に同時に得た発現変動でもよい。
【0039】
「身体作業」としては、身体的な負担より作業効率が低下する動作であり、例えば、水泳、走行、自転車こぎ、階段昇降などの動作であり、最大筋力や筋持久力を低下させる動作が望ましく、トレッドミル走行あるいは自転車エルゴメータ運動がより好ましい。
「精神作業」としては、精神的な負担により作業効率が低下する動作であり、例えば、内田・クレペリン精神作業、視覚入力作業、単純作業の反復に伴う作業、高い緊張下での複雑作業などの作業が好ましく、処理時間の遅延、あるいは誤処理の数量の増加を引き起こす作業がより好ましい。
また、疲労の状態である被験体由来の生体試料を用いて、十分な休息や睡眠の確保、栄養の摂取による疲労回復の前後において、著しく発現が変動している遺伝子から選定してもよい。
【0040】
上記の疲労の状態である被験体がヒトである場合、病的疲労や薬剤由来の疲労でないことを医師などによって診断されていることが好ましく、疲労が生理的疲労であり、より好ましくは末梢性疲労であり、身体作業に伴う肉体疲労であることがさらに好ましい。
【0041】
生理的な特徴に立脚した手法によって、疲労により発現が変動する遺伝子リストを作成するには、非侵襲的に採取しやすい血液において、疲労時に発現変動する遺伝子から選定することが望ましい。
【0042】
遺伝子リストを簡易に作成するための方法としては、例えば、運動負荷による疲労困憊の状態の動物モデル(マウス)の血液において、運動負荷前と比較して著しく発現変動を示す遺伝子から選定する方法があり、ヒト遺伝子と比較して相同性又は同一性が高い遺伝子であることがより好ましい。
【0043】
表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる特定の遺伝子の数としては、1個以上であれば特に限定されないが、2個以上の遺伝子を使用する場合は、好ましくは2個以上100個以下の遺伝子であり、より好ましくは2個以上53個以下の遺伝子であり、より好ましくは2個以上30個以下の遺伝子であり、より好ましくは2個以上22個以下の遺伝子であり、さらに好ましくは2個以上10個以下の遺伝子である。
【0044】
疲労の程度の判定のために用いる遺伝子は、ハウスキーピング遺伝子や疾患診断のための遺伝子などと組み合わせて用いてもよい。
【0045】
本発明における、好ましい特定の遺伝子としては、表2、表3、表5又は表6より選ばれる1個以上の遺伝子である。
【0046】
表2、表3、表5又は表6より選ばれる、より好ましい特定の遺伝子としては、ARG2遺伝子、BLVRB遺伝子、BRP44遺伝子、C19orf59遺伝子、CCR1遺伝子、CCRL2遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CLEC4D遺伝子、CLEC4E遺伝子、CSTA遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、CXCR2P1遺伝子、EMR2遺伝子、EMR3遺伝子、EMR4P遺伝子、FPR1遺伝子、GPR109A遺伝子、GPR109B遺伝子、GZMA遺伝子、HMBS遺伝子、HP遺伝子、HPR遺伝子、IL1R2遺伝子、IRG1遺伝子、KLRAP1遺伝子、KLRK1遺伝子、MMP8遺伝子、OXER1遺伝子、P2RY13遺伝子、PLIN2遺伝子、RAB3IL1遺伝子、S100A8遺伝子、SLFN12遺伝子、SLFN12L遺伝子、SPATC1遺伝子、TARM1遺伝子、TAS2R60遺伝子、TMOD1遺伝子、TREM1遺伝子、TSPO2遺伝子、TSTD2遺伝子及びVTI1B遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子である。
【0047】
又は、ACE遺伝子、ACP1遺伝子、ACTA2遺伝子、ACTG2遺伝子、AFMID遺伝子、ALOX15遺伝子、ARG2遺伝子、ATP5L遺伝子、BLVRB遺伝子、BST1遺伝子、C5AR1遺伝子、CA2遺伝子、CBR1遺伝子、CCL5遺伝子、CCR1遺伝子、CCR3遺伝子、CD14遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、F8遺伝子、FPR1遺伝子、GZMA遺伝子、HDC遺伝子、HMBS遺伝子、HPR遺伝子、IFITM1遺伝子、IFNA1遺伝子、IFNA10遺伝子、IFNA13遺伝子、IFNA14遺伝子、IFNA16遺伝子、IFNA17遺伝子、IFNA2遺伝子、IFNA21遺伝子、IFNA4遺伝子、IFNA5遺伝子、IFNA6遺伝子、IFNA7遺伝子、IFNA8遺伝子、IL13RA1遺伝子、IL1B遺伝子、IL1R2遺伝子、IL2RB遺伝子、ISG15遺伝子、KLRB1遺伝子、KLRD1遺伝子、KLRK1遺伝子、MITF遺伝子、NCR1遺伝子、OAS3遺伝子、OR10A3遺伝子、OR10A6遺伝子、OR51V1遺伝子、P2RY13遺伝子、PIGY遺伝子、PPP1R3D遺伝子、RARS遺伝子、S1PR5遺伝子、SERPINB10遺伝子、SOCS3遺伝子、TAS2R60遺伝子、TK1遺伝子、UBE2F遺伝子、UPP1遺伝子、UROD遺伝子及びVTI1B遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子がより好ましい遺伝子である。
【0048】
又は、ACTA2遺伝子、ACTG2遺伝子、PLIN2遺伝子、ARG2遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CCR1遺伝子、FPR1遺伝子、HDC遺伝子、HMBS遺伝子、IL1B遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、CXCR2P1遺伝子、MXD1遺伝子、MMP8遺伝子、PPP1R3D遺伝子、S100A8遺伝子、S100A9遺伝子、IL1R2遺伝子、IFITM1遺伝子、HCAR3遺伝子(GPR109B遺伝子)、IFITM3遺伝子、IFITM2遺伝子、XPO7遺伝子、TREM1遺伝子、SLFN12遺伝子、RTP4遺伝子、PRAM1遺伝子、OXER1遺伝子、CLEC4D遺伝子、TAS2R60遺伝子、HCAR2遺伝子(GPR109A遺伝子)、SLFN12L遺伝子、TARM1遺伝子、ALOX15遺伝子、GZMA遺伝子、CCL5遺伝子、NCR1遺伝子、KLRK1遺伝子、EMR2遺伝子、EMR3遺伝子、EMR4P遺伝子、ADAM8遺伝子、TCN2遺伝子、OLFM4遺伝子、GPR77遺伝子、STEAP4遺伝子、DGAT2遺伝子、HLA−DQB1遺伝子、HLA−DQB2遺伝子、KLRC4−KLRK1遺伝子及びHDAC9遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子がより好ましい遺伝子である。
【0049】
さらに好ましい特定の遺伝子としては、ARG2遺伝子、BLVRB遺伝子、CCR1遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、FPR1遺伝子、GZMA遺伝子、HMBS遺伝子、HPR遺伝子、IL1R2遺伝子、KLRK1遺伝子、P2RY13遺伝子、TAS2R60遺伝子及びVTI1B遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子である。
【0050】
又は、ACTA2遺伝子、ACTG2遺伝子、CD33遺伝子、HMBS遺伝子、IL1B遺伝子、MXD1遺伝子、MMP8遺伝子、S100A8遺伝子、IFITM1遺伝子、IFITM3遺伝子、IFITM2遺伝子、TREM1遺伝子、SLFN12遺伝子、RTP4遺伝子、PRAM1遺伝子、TAS2R60遺伝子、SLFN12L遺伝子、TARM1遺伝子、TCN2遺伝子、OLFM4遺伝子、STEAP4遺伝子及びDGAT2遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子がさらに好ましい遺伝子である。
【0051】
本発明における好ましい遺伝子のEntrez GeneID及びアクセッション番号を表1に記載する。
【0052】
【表1】

【0053】

【0054】
<遺伝子産物の発現量の測定>
本発明においては、上記した特定の遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較する。遺伝子の発現変動の分析及び/又は比較は、当該遺伝子又は当該遺伝子産物の発現量、発現強度、又は発現頻度などを測定し、得られたデータを解析することによって行うことができる。
【0055】
「遺伝子産物」とは、転写産物、又は翻訳産物のいずれでもよく、例えば、遺伝子の発現変動の比較とは、通常、転写産物や翻訳産物の発現量を測定し、その増減を比較することを示す。
「転写産物」とは、各遺伝子から転写の過程を経て生じる遺伝子、通常、RNAを示し、好ましくはmRNAを示す。
「翻訳産物」とは、各遺伝子から転写、翻訳の過程を得て生じるタンパク質を示し、未修飾であっても翻訳後修飾されていてもよい。
「翻訳後修飾」としては、リン酸、糖、糖鎖、リン脂質、脂質などによる修飾が挙げられる。
【0056】
遺伝子産物の発現量などを測定する方法としては、転写産物を検出し得るプローブやプライマーを用いる方法、翻訳産物を認識する抗体や結合する物質を用いる方法、翻訳産物を同定し得る二次元電気泳動によるタンパク質発現解析やLC/MS質量分析法による質量分析法などがある。
【0057】
「転写産物を検出し得るプローブやプライマーを用いる方法」の一例として、プローブやプライマーを用いて特定の遺伝子の転写産物であるmRNAを測定する方法について示す。ここでの遺伝子の測定にはmRNAのみでなく、mRNAから調整されたcRNA、cDNA又はaRNAを測定する場合も含まれる。測定のためには先ずmRNAを抽出するが、mRNAは、当該分野で公知の方法によって抽出してもよいし、市販のキットを用いて行ってもよい。対照として用いられるmRNAは、同様の抽出及び精製方法により調製してもよいし、市販のものを用いてもよい。
【0058】
「プローブ」とは、ハイブリダイゼーションによって、mRNAなどの転写産物の検出の用に供される核酸分子を示す。本発明に用いられるプローブとしては、各遺伝子を特異的に検出するため、少なくとも10塩基以上の長さを有するものが好ましく、少なくとも15塩基以上の長さを有するものがより好ましく、少なくとも18塩基以上の長さを有するものがさらに好ましく、少なくとも20塩基以上の長さを有するものがさらに好ましい。より好ましくは10塩基以上100塩基以下の長さを有するものであり、さらに好ましくは10塩基以上50塩基以下の長さを有するものであり、さらに好ましくは15塩基以上50塩基以下の長さを有するものであり、さらに好ましくは18塩基以上50塩基以下の長さを有するものであり、さらに好ましくは20塩基以上50塩基以下の長さを有するものである。
【0059】
「プライマー」とは、核酸の合成反応にあたりヌクレオチド鎖が伸長していく出発点として働く核酸分子を示す。本発明に用いられるプライマーとしては、各遺伝子を検出するため、少なくとも10塩基以上の長さを有するものが好ましく、少なくとも15塩基以上の長さを有するものがより好ましく、少なくとも18塩基以上の長さを有するものがさらに好ましく、少なくとも20塩基以上の長さを有するものがさらに好ましくい。より好ましくは10塩基以上100塩基以下の長さを有するものであり、さらに好ましくは10塩基以上50塩基以下の長さを有するものであり、さらに好ましくは15塩基以上50塩基以下の長さを有するものであり、さらに好ましくは18塩基以上50塩基以下の長さを有するものであり、さらに好ましくは20塩基以上50塩基以下の長さを有するものである。
【0060】
プローブ又はプライマーとしては、市販のプローブやプライマーを用いてもよいし、遺伝子データベースなどの配列情報をもとにクローニング又は化学合成したものでもよい。プローブやプライマーは、当業者に公知の技術に従って設計することができる。これらのプローブやプライマーは、適当な標識が施されていてもよい。
「標識」としては酵素標識、放射性標識、蛍光標識などが挙げられる。また、ビオチン、リン酸、アミンなどにより修飾されていてもよい。
【0061】
プライマーを用いた遺伝子の増幅手法としては、特に限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)法の原理を利用した方法(PCR法、Quantitative polymerase chain reaction(Q−PCR)法、リアルタイムPCR(RT−PCR)法)、Loop−mediated Isothermal Amplification(LAMP)法、Isothermal and Chimeric primer―initiated Amplification of Nucleic acids(ICAN)法などを挙げることができる。増幅は遺伝子産物が検出可能なレベルになるまで行う。これらの増幅手法の条件や方法は、当業者に公知であり、当業者であれば適宜設定することができる。
【0062】
転写産物の発現量を測定する他の方法としては、プローブを用いたハイブリダイゼーション手法として、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などを挙げることができる。これらの増幅手法やハイブリダイゼーション手法の条件や方法は、当業者に公知であり、当業者であれば適宜設定することができる。
【0063】
2個以上の複数の遺伝子の遺伝子産物の発現量などを測定する場合にも、RT−PCR法などのプライマーを用いた遺伝子の増幅手法を選択することができる。しかし、特に測定する遺伝子の数が多い場合には、同時に複数の遺伝子の遺伝子産物などを測定することができる技術、例えば、DNAアレイ、DNAチップ、RNAカードなどのプローブやプライマーが固定化された担体やハイスループットqPCRダイナミックアレイなどの集積流体回路(Integrated Fluidic Circuit:IFC)により同時に複数の遺伝子の転写産物の発現量などを測定する方法などを用いることも可能である。
【0064】
担体としては、例えば、ガラス板、プラスチック板、メンブレン、繊維、マイクロビーズ又はシリコンチップなどを使用することができる。これらの好ましい例としては、アレイ・チップを用いる方法が挙げられる。アレイ・チップとしては、特定の遺伝子の遺伝子産物の発現量などを測定できるものであれば、市販のものを用いてもよいし、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる特定の遺伝子を含むアレイ・チップを作製してもよい。
【0065】
アレイ・チップなどを用いて複数の遺伝子の遺伝子産物の発現量などを同時に測定する際には、標準化操作により各遺伝子の遺伝子産物の発現量などを補正することが望ましい。また、シグナル強度の低い部分は、バックグランドの影響を大きく受けるので、測定データを棄却するレベル(カットオフ値)を設け、シグナル強度がカットオフ値を超えるデータのみを採用することが好ましい。
【0066】
「翻訳産物を認識する抗体や結合する物質を用いる方法」の一例として、抗体を用いて特定の遺伝子の翻訳産物の発現量などを測定する方法を示す。翻訳産物を認識する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のどちらでもよい。翻訳産物に対する抗体の一部が市販されている場合には、市販の抗体を用いてもよい。ポリクローナル抗体やモノクローナル抗体は、当該分野で周知の方法によって作製することができる。これらの抗体は修飾されていてもよい。
複数の遺伝子の翻訳産物などを測定する場合においては、担体にこれらの抗体を固定化した抗体アレイ・チップを用いることも可能である。
【0067】
翻訳産物の発現量を測定する他の方法としては、翻訳産物の活性を測定してもよい。
ここでいう「翻訳産物の活性」とは、キナーゼ活性、プロテアーゼ活性、サイトカイン活性などが挙げられる。他の方法として、公知の二次元電気泳動、LC/MS質量分析法、クロマトグラフィー、核磁気共鳴分光法、免疫沈降法、Enzyme―Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)法などの方法でもよく、特に限定されない。
【0068】
<遺伝子の発現量及び/又は発現変動の補正>
遺伝子の発現変動を比較する場合には、予め発現量などの測定値を公知の方法によって補正することができる。補正により、独立した複数の生体試料における遺伝子の発現変動をより正確に比較することが可能となる。測定値の補正は、疲労の状態の有無において発現量などが大きく変動しない遺伝子、例えば、ハウスキーピング遺伝子の発現量などの測定値に基づいて、特定の遺伝子の発現量などの測定値を補正することにより行われる方法や、全測定値の平均値及び分散値を用いる標準化処理方法などがあり、その他にも公知の方法がある。
ハウスキーピング遺伝子としては、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)やβ−アクチン(ACTB)などを挙げることができる。
【0069】
<遺伝子の発現変動の比較>
遺伝子の発現変動の比較は、例えば、(i)遺伝子の発現量及び/又は発現変動量の増減の比較や、遺伝子の発現量及び/又は発現変動量が増減している遺伝子数の比較、又は(ii)統計的処理に基づいて行われ、対となる複数の遺伝子の発現変動の特徴を比較することが挙げられる。
【0070】
すなわち、1個の特定の遺伝子の発現量などの増減を比較する場合、例えば、生体試料(B)に発現している遺伝子(x)の発現量などが、生体試料(A)に発現している遺伝子(x)の発現量などを比較して、“増加”、“減少”又は“変動なし”と判断することを示す。
ここでの「生体試料(A)」及び/又は「生体試料(B)」とは、例えば、疲労の状態の対照体由来の生体試料及び/又は非疲労の状態の健常対照体由来の生体試料などを示す。
【0071】
疲労の程度を判定するための遺伝子は1個でもよいが、2個以上の遺伝子を用いてもよい。
発現変動を比較する遺伝子が2個である場合、例えば、生体試料(B)に発現している遺伝子(x)及び遺伝子(y)の発現量などが、生体試料(A)に発現している遺伝子(x)及び遺伝子(y)の発現量などを比較して、それぞれの遺伝子の発現量などにおいて“増加”、“減少”又は“変動なし”と判断することができる。
また、それぞれの遺伝子の発現量などの平均値又は中央値を分析及び/又は比較することにより“増加”、“減少”又は“変動なし”と判断することができる。
また、遺伝子(x)及び遺伝子(y)の発現量が増減している遺伝子の数を比較し、全体としての発現挙動、発現量が変動している遺伝子の占める割合など、遺伝子の発現量の状態を判定できる情報、すなわち遺伝子の発現変動の特徴により判断することができる。
他にも、遺伝子(x)の発現量の増減に対する遺伝子(y)の発現量の増減を比較して判断することもできるし、発現量が増加している遺伝子の数及び発現量が減少している遺伝子の数を、それぞれ比較して判断することもできる。
【0072】
遺伝子の発現量などの増減の判断をする際には、一定の倍率をもって“増加”、“減少”又は“変動なし”と判断するFold Change比較の方法と統計処理により判断する方法が挙げられる。
【0073】
「Fold Change」比較の方法とは、例えば、生体試料(B)に発現している遺伝子(x)の測定値が生体試料(A)に発現している遺伝子(x)の測定値と比較して1.5倍以上の比率で増加している場合に、生体試料(B)に発現している遺伝子(x)の発現量は“50.0%以上の増加”と判断する方法を意味する。また、1.5倍以上の比率で減少している場合には、“−33.3%以下の減少”と判断することができる。
【0074】
比率は、30.0%以上の増加又は−23.1%以下の減少が好ましく、35.0%以上の増加又は−25.9%以下の減少がより好ましく、40.0%以上の増加又は−28.6%以下の減少がより好ましく、50.0%以上の増加又は−33.3%以下の減少が特に好ましいが、特には限定されない。
【0075】
統計的処理には、2群間以上で比較することが可能である方法であれば、どのような方法であってもよい。例えば、T−検定(2群の場合)、分散分析(3群以上の場合)、多変量解析、クラスタリング、判別分析などの方法、回帰直線を求める方法、相関係数を求める方法など、公知の方法が広く知られている。これらの統計的処理における基準の設定は、当業者であれば、適宜行うことができる。
【0076】
<疲労の程度の判定方法>
本発明による疲労の程度の判定方法においては、被験体由来の生体試料における、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することによって”疲労の程度”を判定する。
具体的には、生体試料における当該特定の遺伝子の発現量が非疲労の状態の健常対照体における発現量と比較して増加又は減少している場合に、疲労の状態であると判定し、その発現量の変動の程度を疲労の程度とすることができる。
【0077】
なお本発明においては、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現量の変動を分析及び/又は比較してもよいし、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子について、少なくとも2個以上の当該遺伝子のうち発現量が異なる遺伝子の数を分析及び/又は比較してもよい。
【0078】
また、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子又はそれらのホモログ遺伝子より選ばれる1個の特定の遺伝子の発現変動量又は発現変動率を分析及び/又は比較してもよいし、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる2個以上の特定の遺伝子それぞれの発現変動量又は発現変動率の平均値又は中央値を分析及び/又は比較してもよい。
【0079】
ここでの「発現変動量」とは、被験体由来の生体試料における特定の遺伝子の発現量(f)と、非疲労の状態の健常対照体由来の生体試料における当該遺伝子の発現量(a)との差(発現変動量F)を示す。
発現変動量F=発現量(f)−発現量(a)
「発現変動率」とは、特定の遺伝子の発現変動量Fが、非疲労の状態の健常対照体由来の生体試料における発現量(a)に対する割合を示す(発現変動率F(%))。
発現変動率F(%)=[発現変動量F/発現量(a)]×100
また、被験体由来の生体試料における遺伝子の発現量(f)が、疲労状態の対照体における発現量(b)及び/又は非疲労の状態の健常対照体における発現量(a)のどちらに近いかに基づいて行われ、疲労状態の対照体に近い発現量の場合に、被験体は疲労の状態であると判定し、その発現変動量又は発現変動率を疲労の程度とすることができる。
また、被験体由来の生体試料における遺伝子の発現変動量F又は発現変動率F(%)が、疲労状態の対照体及び/又は非疲労の状態の健常対照体における発現変動量又は発現変動率のどちらに近いかに基づいて行われ、疲労状態の対照体における発現変動量B又は発現変動率B(%)に近い場合に、被験体は疲労の状態であると判定し、疲労状態の対照体における発現変動量又は発現変動率に対する割合を疲労の程度Fとすることができる。
疲労の程度F =[発現変動量F/発現変動量B]×100
及び/又は
疲労の程度F =[発現変動率F/発現変動率B]×100
【0080】
また、被験体由来の生体試料における2個以上の遺伝子の発現変動量又は発現変動率の平均値又は中央値が、疲労状態の対照体及び/又は非疲労の状態の健常対照体における発現変動量又は発現変動率の平均値又は中央値のどちらに近いかに基づいて行われ、疲労状態の対照体における2個以上の当該遺伝子の発現変動量又は発現変動率の平均値及び/又は中央値に近い場合に、被験体は疲労の状態であると判定し、その発現変動量又は発現変動率の平均値又は中央値の占める割合を疲労の程度とすることができる。
【0081】
また、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子又はそれらのホモログ遺伝子より選ばれる2個以上の特定の遺伝子について、少なくとも2個以上の当該遺伝子のうち発現変動量又は発現変動率が異なる遺伝子の数を分析及び/又は比較してもよい。
【0082】
これらによると、特定の遺伝子の発現変動量又は発現変動率が増加している程、疲労の程度は増加していると判定することができる。
【0083】
疲労の程度が異なる状態における各遺伝子の発現量、発現変動量、発現変動率など又はその特徴から、前もって作成した疲労の程度を判定できる資料(データベース)を作成することにより、被験体の各遺伝子の発現量など又はその特徴を上記資料と比較して、疲労の程度を簡易に判定することも可能である。
【0084】
「疲労の程度を判定できる資料」を作成する方法としては、例えば、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子又はそれらのホモログ遺伝子より選ばれる1個以上の特定の遺伝子において、
(a)非疲労の状態の健常対照体由来の生体試料における遺伝子の発現量(a)を測定する工程、
(b)疲労を呈している被験体由来の生体試料における遺伝子の発現量(b)を測定する工程、
(c)疲労における発現量の差(発現変動量B=発現量(b)−発現量(a))を算出する工程、
(d)疲労における発現変動の比率(発現変動率B(%)=[発現変動量B/発現量(a)]×100(%))を算出する工程、
(e)発現変動量B及び/又発現変動率B(%)をそれぞれ“疲労の程度100”と変換する工程、及び、
(f)疲労の程度が未知の被験体由来の生体試料における発現量(f)と非疲労の状態の健常対照体における発現量(a)との差(発現変動量F=発現量(f)−発現量(a))及び/又は発現変動の比率(発現変動率F(%)=[発現変動量F/発現量(a)]×100(%))を算出し、次のいずれかの式より疲労の程度を判定する工程、及び、
式1: 疲労の程度 =[発現変動量F/発現変動量B]×100
式2: 疲労の程度 =[発現変動率F/発現変動率B]×100
(g)疲労の程度が、0に近似している場合に“非疲労の状態である”と判定し、100に近似している場合に“被験体は疲労の状態である”と判定する工程、
より、作成する方法がある。
【0085】
この方法によれば、非疲労の状態の被験体由来の生体試料を用いて疲労の程度を判定した場合には“疲労の程度0”に近似の判定となりやすく、疲労困憊の状態の被験体の生体試料を用いて疲労の程度を判定した場合には“疲労の程度100” に近似の判定となりやすい。
【0086】
また、発現量や発現変動量が異なる2個以上の遺伝子を組み合わせて、当該遺伝子における“発現変動量”や“発現変動率”を算出し、当該遺伝子の“発現変動量”や“発現変動率”の平均値又は中央値などを算出することによっても、多段階で疲労の程度を判定することが可能となる。
【0087】
従って、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子又はそれらのホモログ遺伝子より選ばれる1個以上の特定の遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することにより、多段階で疲労の程度を判定することが可能であり、疲労の程度が未知の被験体における発現変動量などが、疲労の程度100に相当する発現変動量などの50%であった場合に、被験体は“疲労の程度50”と判定し、疲労の程度100に相当する発現変動量などの150%であった場合に、被験体は“疲労の程度150”と判定することが可能となる。
さらには、例えば、“疲労の程度50”以上と判定された被験体においては休息の確保、栄養補給や摂取を適切に行うことを選択したり、“疲労の程度75”以上と判定された被験体においては医薬品投与を適切に行うことを選択することなどが可能となり、疲労の回復、改善及び予防が容易に可能となる。
疲労の程度を判定する基準となる発現変動量及び/又は発現変動率は、適宜増減することもできる。
【0088】
また、本発明にかかる疲労の程度の判定方法の一部あるいは全部をコンピューター等の従来公知の演算装置(情報処置装置)を利用して用いることも可能であることは、当業者には明らかである。
本発明にかかる疲労の程度の判定方法は、血液などの生体試料における遺伝子の発現量を測定する工程と、生体試料における遺伝子の発現量の測定結果に応じて、発現変動量や発現変動率の算出による被験体の疲労の程度を判定する工程とを含むが、特に発現変動量や発現変動率の算出による被験体の疲労の程度を判定する工程に演算装置を利用することができる。
【0089】
<被験物質の疲労に対する有効性の判定方法>
本発明によれば、被験体に被験物質を投与し、被験体由来の生体試料における表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較し、被験物質を投与した被験体の疲労の程度の判定をすることによって、当該被験物質の疲労に対する有効性(効果)を判定することができる。
【0090】
本発明における「被験物質」とは、本発明の方法を用いて被験体の疲労を回復、改善又は予防し得るか否かを評価するために用いる物質を意味し、ヒトを含む哺乳動物に投与可能な物質であれば特に限定されず、微生物、動物、植物などの天然成分、有機化合物、ビタミン類、アミノ酸類、ミネラル類、脂質類、糖質類、タンパク質類、核酸類などを挙げることができる。
【0091】
被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法としては、疲労の状態である被験体において、被験物質の投与前と投与後における特定の遺伝子の発現量を比較し、被験物質を投与した前後の発現量の変動(発現変動量又は発現変動率など)が、疲労の状態における特定の遺伝子の発現量の変動などより減弱又は消失している場合に、被験物質は疲労に対して有効であると判定することができる。
【0092】
また、被験物質を投与する前に、疲労の状態とする被験体を被験物質投与群と被験物質非投与群に分け、これらの群における特定の遺伝子の発現量の変動(発現変動量又は発現変動率など)を比較し、被験物質を投与した群の発現量の変動などが、被験物質を投与しなかった群の発現量の変動などより減弱又は消失している場合に、被験物質は疲労に対して有効であると判定してもよい。なお、被験物質投与群においては、複数の投与用量又は複数の被験物質の疲労に対する有効性を判定するために、群の数を適宜増減してもよい。
【0093】
被験物質の疲労に対する有効性の判定を身体作業や精神作業による生体への負荷と組み合わせて行う場合、被験物質の投与の時期は、被験物質の特性に応じて、身体作業や精神作業の負荷の前でも後でもよく、前後でもよく、投与の時期は特に限定されない。
【0094】
本発明による被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法についての具体的な態様を以下に示すが、本発明の方法はこれらに限定されるものではない。
【0095】
(第一の態様)
(i)疲労の状態である被験体に被験物質又はこれを含む製剤を投与し、投与後の当該被験体の生体試料における表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動量F又は発現変動率F(%)を解析する工程、
(ii)疲労の状態である被験体に被験物質又はこれを含む製剤を投与せず、当該被験体の生体試料における上記と同一の1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動量B又は発現変動率B(%)を解析する工程、
(iii)工程(i)における遺伝子の発現変動量F又は発現変動率F(%)が、工程(ii)における遺伝子の発現変動量B又は発現変動率B(%)などより減弱又は消失している場合に、被験物質又はこれを含む製剤を投与した被験体の疲労の程度が減弱又は消失していると判定する工程、及び
(iv)工程(iii)において、被験物質又はこれを含む製剤を投与した被験体の疲労の程度は減弱又は消失していると判定した場合に、被験物質又はこれを含む製剤は疲労に対して有効であると判定する工程、
を含む、被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法。
ここで、工程(i)と工程(ii)における疲労状態の被験体は同一の個体であっても、別々の個体であってもよい。
【0096】
また、発現量、発現変動量又は発現変動率が異なる2個以上の遺伝子を組み合わせて、各遺伝子における“発現変動量”や“発現変動率”を算出し、それら2個以上の遺伝子の“発現変動率”などから“疲労の程度”を算出することによっても、被験物質の疲労に対する有効性を判定することが可能である。
具体的な態様を以下に示す。
【0097】
(第二の態様)
(i)疲労の状態である被験体に被験物質又はこれを含む製剤を投与し、投与後の当該被験体の生体試料における、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる2個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動量F又は発現変動率F(%)を解析する工程、
(ii)疲労の状態である被験体に被験物質又はこれを含む製剤を投与せず、当該被験体の生体試料における上記と同一の2個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動量B又は発現変動率B(%)を解析する工程、
(iii)工程(i)における発現変動率F(%)などが、工程(ii)におけるにおける発現変動率B(%)などより減弱又は消失している場合に、被験物質又はこれを含む製剤を投与した被験体の疲労の程度が減弱又は消失していると判定する工程、及び
(iv)工程(iii)において、被験物質又はこれを含む製剤を投与した被験体の疲労の程度は減弱又は消失していると判定した場合に、被験物質又はこれを含む製剤は疲労に対して有効であると判定する工程、
を含む、被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法。
ここで、工程(i)と工程(ii)における疲労状態の被験体は同一の個体であっても、別々の個体であってもよい。
【0098】
この方法によれば、疲労に対する有効性(効果)が高い被験物質を投与した疲労状態の被験体由来の生体試料を用いて疲労の程度を判定した場合には、例えば、“疲労の程度75”以下、さらには“疲労の程度50”以下の判定となり、疲労を増悪させる被験物質を投与した疲労状態の被験体由来の生体試料を用いて疲労の程度を判定した場合には“疲労の程度150”以上の判定となりやすい。
疲労に対する有効性を判定する基準となる疲労の程度は、適宜増減することもできる。
【0099】
従って、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子又はそれらのホモログ遺伝子より選ばれる1個以上の特定の遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することにより、多段階で被験物質の疲労に対する有効性を判定することが可能となる。
【0100】
<疲労を回復、改善又は予防し得る物質又はこれを含む製剤の探索方法>
本発明においては、被験体に被験物質を投与し、被験体由来の生体試料における表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較し、当該遺伝子の発現を変動させる物質を、疲労を回復、改善又は予防し得る候補物質として選択することによって、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索することができる。
【0101】
表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子の発現変動を解析するためには、これらの遺伝子を発現変動させることが望ましく、“疲労の状態における特定の遺伝子の発現量の特徴”と類似させるための処置を施すことがより望ましい。
【0102】
ヒト又は非ヒト哺乳動物における遺伝子の発現変動させる処置としては、例えば、走行、遊泳、跳躍などの運動を持続的又は繰り返し身体に負荷させることにより疲労を惹起し得る方法や随意収縮及び電気刺激により筋疲労を惹起し得る方法などが挙げられる。
【0103】
細胞の遺伝子を発現変動させる処置としては、疲労における生物学的メカニズムと類似の処理、例えば、低酸素、低糖、低アミノ酸などの条件での培養、過酸化物又はラジカル発生剤の添加、UV照射、薬剤の添加、ウイルス感染、電気刺激などの方法が挙げられる。
【0104】
ヒト又は非ヒト哺乳動物への被験物質の投与は、経口投与又は非経口投与のいずれでもよく、投与時期は、遺伝子の発現量などを変動させる処置の前でも後でもよく、前後に投与してもよい。細胞培養培地への被験物質の添加においても、遺伝子の発現量を変動させる処置の前でも後でもよく、前後に添加してもよい。
【0105】
疲労の程度を判定できる資料を用いて疲労を回復、改善又は予防し得る物質又はこれを含む製剤の探索をすることも可能である。
この方法によれば、疲労に対して有効である被験物質を投与した疲労状態の被験体由来の生体試料を用いて疲労の程度を判定した場合には、例えば、被験体は“疲労の程度75”以下、さらには、“疲労の程度50”以下の判定となりやすく、疲労を増悪させる被験物質を投与した疲労状態の被験体由来の生体試料を用いて疲労の程度を判定した場合には、被験体は“疲労の程度150”以上の判定となりやすい。
【0106】
また、発現量、発現変動量又は発現変動率が異なる2個以上の遺伝子を組み合わせて、各遺伝子における“疲労の程度”を算出し、それら2個以上の遺伝子の“疲労の程度”の平均値又は中央値などを算出することによっても、被験物質などを選択することが可能である。
【0107】
上記の手法により、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子又はそれらのホモログ遺伝子より選ばれる1個以上の特定の遺伝子の発現量の変動を減弱又は消失させる被験物質を選択することにより、疲労を回復、改善又は予防し得る物質又はこれを含む製剤を選択ことが可能となる。
【0108】
<疲労判定試薬及び疲労判定キット>
本発明によれば、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較するための疲労判定試薬又は疲労判定キットが提供される。本発明の疲労判定試薬又は疲労判定キットには、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の遺伝子産物に特異的なプローブ又はプライマー、又は上記遺伝子の遺伝子産物に特異的な抗体が含まれている。本発明の疲労判定試薬又は疲労判定キットには、更に所望により、標識、標識二次抗体、担体、サンプル希釈液、酵素基質、反応停止液、標準物質、遺伝子の発現量、発現変動、発現変動量、発現変動率や特徴などから疲労の程度を判定するための資料などを含めてもよい。さらに必要に応じて、洗浄バッファー、保存剤、防腐剤などを加えることもできる。本発明の疲労判定試薬又は疲労判定キットに含まれるプライマー、プローブ、抗体などは、1種のみでもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。これらは、固体でも液体でもよく、単一又複数の固相上に固定されているもの、例えば、マイクロタイタープレートのようなプレートに個別に分注された状態となっていてもよいし、アレイ・チップに固定された状態でもよい。
【0109】
本発明にかかる疲労判定キットは、被験体の血液などの生体試料を採取するための手段を含んでいてもよい。また、疲労判定キットの包装材に付されたラベル又は添付された文書に、生体試料における遺伝子の発現変動を指標として被験体の疲労の程度を判定するために使用できることを表示していてもよい。さらに、本発明にかかる疲労判定キットは、コンピューターなどの従来公知の演算装置を用いてなるキットとなっていてもよい。
【0110】
<疲労のバイオマーカー>
本発明においては、疲労の程度が未知の被験体由来の生体試料において、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を解析することにより、被験体の疲労の程度を判定できる。従って、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子、及びその遺伝子産物は、疲労のバイオマーカー(生物学的指標)として用いることができる。
【0111】
「バイオマーカー」とは、例えば、通常の生物学的過程、病理学的過程、もしくは治療介入に対する薬理学的応答の指標として、客観的に測定され評価される特性である。すなわち、正常なプロセスや病的プロセス、あるいは治療に対する薬理学的な反応の指標として客観的に測定・評価される項目であり、治癒の程度を特徴づけるバイオマーカーは新薬の臨床試験での有効性を確認するためのサロゲートマーカーとして使われる項目である。バイオマーカーは、疾患にかかった後の治療効果の判定だけでなく、疾患を未然に防ぐための日常的な指標として疾患の予防にも用いることができる。また、一般的に、ゲノムバイオマーカーとは、正常な生物学的過程、発病過程、及び/又は治療介入等への反応を示す指標となる、DNAもしくはRNAの測定可能な特性である。ゲノムバイオマーカーは、例えば、遺伝子の発現、遺伝子の機能、遺伝子の制御により測定され、1つ又は複数の特性から構成され得る。RNAの特性としては、RNA配列、RNA発現量、RNAプロセシング、マイクロRNAが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
従って、疲労の状態の被験体と非疲労の状態の健常対照体との比較において発現量などが著しく異なっている遺伝子、疲労の形成又は回復過程において発現量などが著しく異なっている遺伝子は、疲労の治療標的候補遺伝子として同定することもできる。
【0113】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0114】
試験例1:遺伝子リスト作成及び疲労の程度の判定方法の開発
(方法)
実験動物には、7から11週齢のBALB/c系マウス、オス(日本エスエルシー(株))を用いた。実験動物は入荷後、試験期間を通して標準飼料(オリエンタル酵母工業(株))及び滅菌水を自由に摂取させ、少なくとも1週間の馴化を行った。試験には、非疲労状態である健常マウスを16匹使用した。遺伝子リストの作成及び疲労の程度の判定方法の開発は、(1)走行運動の負荷、(2)採血、(3)mRNAの抽出、(4)遺伝子の発現量の解析、及び(5)遺伝子リストの作成、の工程よりなる。遺伝子リストは、アレイ・チップを用いた遺伝子の発現量の解析によって作製した。
【0115】
(1)走行運動の負荷
実験群は、非走行運動負荷マウス(4匹)、走行運動負荷終了1時間後マウス(4匹)、走行運動負荷終了4時間後マウス(4匹)及び走行運動負荷終了翌日マウス(4匹)とし、非走行運動負荷マウス以外のマウスに走行運動を負荷した。走行運動の負荷は、マウス・ラット用トレッドミル走行装置(室町機械(株)又はバイオリサーチセンター(株))を用いて行った。走行運動の負荷条件は、傾斜角度10度、走行開始速度9メートル/分、漸増ステップ3メートル/4分とした。 走行時間は、疲労困憊の状態である、52分間とした。尚、走行訓練を3から4日間隔で4回実施し、疲労を惹起させる走行運動の負荷は最終走行訓練の3から4日後に実施した。走行訓練は全てのマウスに行った。
【0116】
(2)採血
走行運動負荷したマウスからの採血は、走行運動負荷終了から1時間後、4時間後、翌日にイソフルランにより無痛状態とし、腹部大静脈より採血して安楽死させた。
血液には速やかに、Isogen−LS(ニッポンジーン社)を添加して溶解及び安定化した後に、液体窒素により凍結し、RNA抽出に供した。
非走行運動負荷マウスは運動負荷をすることなく、同様の処置により安楽死させ、同様の方法を行った。
【0117】
(3)mRNAの抽出
溶解及び安定化された状態の血液サンプル2mlを用いて精製を行った。血液サンプル2mlに対し、クロロホルム400μlを加えて、十分ボルテックスし、遠心の後、水層800から1000μlをRNA粗抽出液として回収した。得られたRNA粗抽出液をRNeasy Mini kit中のColumnに流し入れ、RNAを吸着させた。洗浄後60μlのヌクレアーゼ不含水(nuclease−free water)に溶解させた。RNAを含むヌクレアーゼ不含水1μlを、ND−1000 Spectrophotometer(NanoDrop)を用いてRNAの定量及び純度指標による品質確認を行った。RNAを含むヌクレアーゼ不含水1μlを常法によりRNAを変性後、BioAnalyzer 2100 (Agilent)を用いて電気泳動し、分解度指標による品質確認を行った。その後、5μgの抽出したTotal RNAから、GLOBI NclearTM−Mouse/Rat Kit(Ambion社)を用いて、同キットの規定プロトコールに従って、血液中に大量に含まれるグロビンmRNAの除去処理を行い、30μlのKit付属Elution Bufferに溶解させた。RNAを含むKit付属Elution Buffer1μlを、ND―1000 spectrophotometer(NanoDrop)を用いてRNAの定量及び純度指標による品質確認を行った。RNAを含むKit付属Elution Buffer 1μlを常法によりRNAを変性後、BioAnalyzer 2100 (Agilent)を用いて電気泳動し、分解度指標による品質確認を行った。
【0118】
(4)Mouse Gene 1.0 ST Arrayを用いた遺伝子の発現量の解析
Affymetrix社において作製されたゲノム上の既知、及び想定される28853個の遺伝子について25mer×770317個の対象と完全一致するオリゴヌクレオチド・プローブ(パーフェクトマッチプローブ)が搭載されたDNAマイクロアレイ(GeneChip(登録商標)Mouse Gene 1.0 ST Array)を用い、遺伝子発現量の解析を行った。
【0119】
具体的には、次の手順で行った。WT Expression Kit(Ambion社)を用い、プロトコールに従って、250ngのTotal RNAより、anti―sense鎖cRNAの合成を介して、sense 鎖cDNAを合成した。その後、WT Terminal Labeling and Control Kit(Affymetrix社)を用いて、合成したcDNAを断片化し、その5’末端にビオチンラベルを行った。中途産物であるcRNAを常法により変性、断片化前のcDNA,及び断片化後のcDNA、100から375ngをBioAnalyzer 2100を用いて電気泳動し、品質確認を行った。5μgの断片化ビオチンラベルcDNAを、GeneChip(登録商標)Hybridization Wash and Stain Kit(Affymetrix社)を用い、プロトコールに従って、GeneChip Arrayへハイブリダイズさせるハイブリカクテルを調製した。ハイブリカクテルを、まず99℃で5分間ヒートブロックを用いてインキュベーションし、続けて45℃で5分間GeneChip(登録商標)Hybridization Oven 640(Affymetrix社)を用いてインキュベーションし、微量高速遠心機で室温、20,400 × G、1分間遠心した。GeneChip Arrayへハイブリカクテル80μlを注入し、45℃で17時間、毎分60回転で、GeneChip(登録商標)Hybridization Oven 640内で、ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション完了後、GeneChip(登録商標) Hybridization Wash and Stain KitとGeneChip(登録商標)Fluidics Satation 450(Affymetrix)を用い、システム制御ソフトウェア Affymetrix GeneChip(登録商標)Command Console (登録商標)(AGCC) Fludics Control(Affymetrix社)上の規定プロトコールに従って、GeneChip Arrayの染色及び洗浄を行った。AGCC Scan Controlに従って、GeneChip(登録商標)Scanner 3000 7G(Affymetrix社)によりGeneChip Arrayをスキャンし、各遺伝子プローブの蛍光強度を遺伝子発現データのアレイ毎の画像ファイル(DATファイル)として取得した。更にAGCC Viewerを用いて、DATファイルを数値化可能なCELファイルへ変換した。
【0120】
解析ソフトウェア・Expression Console(Affymetrix社)を用い、CELファイルから標準化された発現シグナル値の数値データをテキストファイルとして出力した。発現シグナル値の標準化には、本アレイにおけるAffymetrix社標準のRMA−skech法を用いた。
【0121】
次に、各アレイの遺伝子発現データについて、対応する走行運動負荷前後のアレイ間で、走行運動負荷後の発現シグナル値を分子としてそれぞれ発現比を求め、走行運動負荷後で発現増加もしくは発現減少と見なすデータを選定した。選定には、増減それぞれの発現変動幅の絶対値を等しくするために、Fold Change比較の方法を採用した。
【0122】
上記により選定した遺伝子より、その中で機能的に意味を有する遺伝子名が付与されている遺伝子を選定し、重複を除いた。
【0123】
(5)遺伝子リストの作成
試験により選定した、疲労の程度の判定に用いる特定の遺伝子を次に示す。
走行運動負荷1時間後かつ4時間後において、原則として、35.0%以上増加又は25.9%以上減少し、翌日に発現変動が消失したマウスの遺伝子は146個であり、マウスの遺伝子リストを作成した。遺伝子リストは表2と同じである。
【0124】
【表2】

【0125】

【0126】

【0127】

【0128】
表2に記載の遺伝子において、発現量が増加している遺伝子は112個であり、減少している遺伝子は34個であった。
【0129】
表2に記載されているマウスの遺伝子より、マウスとの相同性又は同一性の高いヒトの遺伝子148個を選定し、ヒトの遺伝子リストを作成した。遺伝子リストは表3と同じである。表3において、発現が増加している遺伝子としては109個であり、減少している遺伝子は39個であった。
【0130】
【表3】

【0131】

【0132】

【0133】

【0134】
表3の遺伝子より、KEGGパスウェイデータベースに収載されているヒトの遺伝子は、ACE遺伝子、ACP1遺伝子、ACTA2遺伝子、ACTG2遺伝子、AFMID遺伝子、ALOX15遺伝子、ARG2遺伝子、ATP5L遺伝子、BLVRB遺伝子、BST1遺伝子、C5AR1遺伝子、CA2遺伝子、CBR1遺伝子、CCL5遺伝子、CCR1遺伝子、CCR3遺伝子、CD14遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、F8遺伝子、FPR1遺伝子、GZMA遺伝子、HDC遺伝子、HMBS遺伝子、HPR遺伝子、IFITM1遺伝子、IFNA1遺伝子、IFNA10遺伝子、IFNA13遺伝子、IFNA14遺伝子、IFNA16遺伝子、IFNA17遺伝子、IFNA2遺伝子、IFNA21遺伝子、IFNA4遺伝子、IFNA5遺伝子、IFNA6遺伝子、IFNA7遺伝子、IFNA8遺伝子、IL13RA1遺伝子、IL1B遺伝子、IL1R2遺伝子、IL2RB遺伝子、ISG15遺伝子、KLRB1遺伝子、KLRD1遺伝子、KLRK1遺伝子、MITF遺伝子、NCR1遺伝子、OAS3遺伝子、OR10A3遺伝子、OR10A6遺伝子、OR51V1遺伝子、P2RY13遺伝子、PIGY遺伝子、PPP1R3D遺伝子、RARS遺伝子、S1PR5遺伝子、SERPINB10遺伝子、SOCS3遺伝子、TAS2R60遺伝子、TK1遺伝子、UBE2F遺伝子、UPP1遺伝子、UROD遺伝子及びVTI1B遺伝子であった。
【0135】
また、表3の遺伝子より、原則として、50.0%以上増加又は33.3%以上減少した遺伝子は、ARG2遺伝子、BLVRB遺伝子、BRP44遺伝子、C19orf59遺伝子、CCR1遺伝子、CCRL2遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CLEC4D遺伝子、CLEC4E遺伝子、CSTA遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、CXCR2P1遺伝子、EMR2遺伝子、EMR3遺伝子、EMR4P遺伝子、FPR1遺伝子、GPR109A遺伝子、GPR109B遺伝子、GZMA遺伝子、HMBS遺伝子、HP遺伝子、HPR遺伝子、IL1R2遺伝子、IRG1遺伝子、KLRAP1遺伝子、KLRK1遺伝子、MMP8遺伝子、OXER1遺伝子、P2RY13遺伝子、PLIN2遺伝子、RAB3IL1遺伝子、S100A8遺伝子、SLFN12遺伝子、SLFN12L遺伝子、SPATC1遺伝子、TARM1遺伝子、TAS2R60遺伝子、TMOD1遺伝子、TREM1遺伝子、TSPO2遺伝子、TSTD2遺伝子及びVTI1B遺伝子であった。
【0136】
従って、表3の遺伝子より、原則として、50.0%以上増加又は33.3%以上減少し、KEGGパスウェイデータベースに収載されているヒトの遺伝子は、ARG2遺伝子、BLVRB遺伝子、CCR1遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、FPR1遺伝子、GZMA遺伝子、HMBS遺伝子、HPR遺伝子、IL1R2遺伝子、KLRK1遺伝子、P2RY13遺伝子、TAS2R60遺伝子又はVTI1B遺伝子であった。
【0137】
表2又は表3に含まれる遺伝子から選定される特定の遺伝子及びホモログ遺伝子は、運動などの身体作業に伴う、いわゆる肉体疲労に伴って発現量が変動する遺伝子であり、十分な休息や睡眠により発現変動が消失する遺伝子である。これらの遺伝子の発現変動を比較することにより、疲労の程度を客観的に判定できる方法となる。
【0138】
試験例2:PCR法を用いた、疲労の程度を判定できる遺伝子リストの作成及び疲労の程度が未知の被験体における疲労の程度の判定
(方法)
表2に記載の遺伝子及び機能解析により選ばれる特定の遺伝子からなる遺伝子リストを作成し、疲労の程度が未知のマウス由来の末梢血液における遺伝子の発現変動量を分析及び比較し、“発現変動率”から“疲労の程度”を算出することによって、疲労の程度が未知の被験体(マウス)の疲労の程度を判定した。
【0139】
新たに作成した遺伝子リストに記載されているマウスの遺伝子42個は表5と同じである。また、表5に記載されているマウスの遺伝子より、マウスとの相同性又は同一性の高いヒトの遺伝子リストを作成した。ヒトの遺伝子リストに記載されているヒトの遺伝子53個は表6と同じである。
【0140】
実験動物には、7から11週齢のBALB/c系マウス、オス(日本エスエルシー(株))(12匹)を用いた。実験動物は入荷後、試験期間を通して標準飼料(オリエンタル酵母工業(株))及び滅菌水を自由に摂取させ、少なくとも1週間の馴化を行った。
疲労の程度を判定できる遺伝子リストの作成及び疲労の程度が未知の被験体における疲労の程度の判定は、(1)疲労困憊の状態である疲労動物モデル及び疲労の程度が未知の疲労動物モデルの作製、(2)動物からの血液の採取、(3)血液からの遺伝子産物(RNA)の抽出、(4)遺伝子産物の発現量の解析、(5)疲労の程度を判定できる資料(データベース)の作成、及び(6)疲労の程度が未知の疲労動物モデルの疲労の程度の判定、の工程よりなる。
【0141】
(1)疲労困憊の状態である疲労動物モデル及び疲労の程度が未知の疲労動物モデルの作製
実験群は、非走行運動負荷マウス(4匹)、走行運動負荷終了2時間後マウス(4匹)及び軽度走行運動負荷終了2時間後マウス(4匹)とし、非走行運動負荷マウス以外のマウスに走行運動を負荷した。
走行運動の負荷は、マウス・ラット用トレッドミル走行装置(バイオリサーチセンター(株))を用いて行い、走行運動の負荷条件は、傾斜角度10度、走行開始速度9メートル/分、漸増ステップ3メートル/4分とした。
走行運動負荷終了2時間後マウスの走行時間は、疲労困憊の状態までとした(52分間)。軽度走行運動負荷終了2時間後マウスの走行時間は20分間とした。
尚、走行訓練を3から4日間隔で4回実施し、疲労を惹起させる走行運動の負荷は最終走行訓練の3から4日後に実施した。走行訓練は全てのマウスに行った。
【0142】
(2)動物からの血液の採取
走行運動負荷終了2時間後マウス及び軽度走行運動負荷終了2時間後マウスは、それぞれ走行運動負荷の2時間後に深麻酔条件にて安楽死させ、腹部大静脈より血液を1ml採取し、ヌクレアーゼ不含水1mlを添加し、Isogen−LS(ニッポンジーン社)2mlを添加し、血液を溶解した。
非走行運動負荷マウスは走行運動負荷をすることなく安楽死させ、同様の方法を行った。
【0143】
(3)血液からの遺伝子産物(RNA)の抽出
Isogen−LSからの溶解されたRNAの粗抽出は、同試薬のプロトコールに従って実施した。粗抽出されたRNAは、RNeasy Mini Kit(Qiagen社)を用いてカラム精製を行った。カラム精製後のTOTAL RNAに対して一旦定量とクオリティチェックを行った後、必要十分量のRNAから、血液に大量に含まれており、発現解析の妨げとなるグロビンmRNAの除去処理を行った後、再度、定量とクオリティチェックを実施し、問題のないことを確認した。グロビンmRNA除去処理にはGLOBI Nclear-Mouse/Rat (Ambion社)を用いた。さらに、NanoDrop 1000 Spectrophotometer (Thermo Fisher Scientific社)を使用しtotal RNAの濃度を測定する。その後Agilent RNA 6000 Nano Kit(Agilent Technologies社)を使用し、Agilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies社)で電気泳動を行いtotal RNAのRIN値を測定し、問題のないことを確認した。
【0144】
(4)遺伝子産物の発現量の解析
逆転写反応液を調製し、GeneAmp PCR System 9700(Life Technologies社)を用いて、RNAの逆転写反応を行った。
次に、BioMark 96.96 ダイナミックアレイの機器及び試薬添付のプロトコルに従い、Sample inletsにSample mixを、Assay inletsにAssay mixをアプライし、BioMarkによりリアルタイムPCR反応を行った。PCR反応回数は最大35サイクルとした。測定の反復回数は3回とした。
上記試験において使用した42個の各遺伝子に対応するプライマーの配列は表4に示すとおりである(配列表の配列番号1から84)。
【0145】
【表4】

【0146】
リアルタイムPCRにより得られた一定の増幅産物量になるサイクル数(threshold cycle値:Ct値)から、β―アクチン(Actb)遺伝子を内部標準遺伝子とした時の相対値を遺伝子毎にΔΔCt法により算出し、非走行運動負荷マウスと走行運動負荷終了2時間後マウスを比較した。尚、必要に応じて、プレアプリケーションを行った。
【0147】
(5)疲労の程度を判定できる資料(データベース)の作成
非走行運動負荷マウスにおける各遺伝子の発現量(a)及び走行運動負荷終了2時間後マウスの発現量(b)を算出し、各発現量の差(発現変動量B)、及びその比率(発現変動率B(%))を算出した。次に、発現変動量B及び又は発現変動率B(%)を “疲労の程度100”と設定した。
発現変動量B=発現量(b)−発現量(a)
発現変動率B(%)=[発現変動量B/発現量(a)]×100
【0148】
これより、疲労の程度が未知のマウスにおける発現量(f)の非走行運動負荷マウスにおける発現量(a)との差(発現変動量F)及びその比率(発現変動率F(%))を算出し、次の式を用いることにより、疲労の程度を判定できる資料を作成した。
発現変動量F=発現量(f)−発現量(a)
発現変動率F(%)=[発現変動量F/発現量(a)]×100
疲労の程度=[発現変動率F/発現変動率B]×100
【0149】
(6)疲労の程度が未知の疲労動物モデルの疲労の程度の判定
表5に記載の遺伝子42個それぞれにおいて、走行運動負荷終了2時間後マウスの発現量を非走行運動負荷マウスにおける遺伝子の発現量と比較すると、30%以上の増加、又は―68%以下の減少が認められた。
【0150】
【表5】

【0151】

【0152】
次に、表5に記載の遺伝子それぞれにおいて、疲労の程度を判定できる資料を用いて、走行運動負荷終了2時間後マウスの疲労の程度を判定すると、疲労の程度の平均値は18.6であり、最大値は85.2であった。
【0153】
これより、表5に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の特定の遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することによって、軽度走行運動負荷終了2時間後マウスの疲労の程度を判定することができた。
【0154】
従って、表5に記載の遺伝子より選ばれる1個の特定の遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することによっても、2個から42個の組み合わせにおける特定の遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することによっても、疲労の程度が未知の被験体の疲労の程度を判定することができた。さらには、疲労の程度を判定することができる遺伝子リストを作成することができた。
【0155】
【表6】

【0156】

【0157】
以上より、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子又はそれらのホモログ遺伝子より選ばれる1個の特定の遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することによっても、2個以上の特定の遺伝子の組み合わせにおける遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することによっても、被験体由来の血液などの生体試料における遺伝子の発現量を測定し、被験体由来の生体試料を用いた遺伝子の発現量が、疲労状態の対照体及び/又は非疲労の状態の健常対照体における発現量のどちらに近似しているかに基づいて行われ、疲労状態の対照体に近似している場合に疲労の状態であると判定することを特徴とし、著しい疲労の状態における被験体の生体試料から判定した疲労の程度は高値を示し、十分な休息や睡眠を得ることにより疲労が消失している状態における被験体の生体試料から判定した疲労の程度は低値を示し、多段階で疲労の程度を判定することができる方法を提供することが可能となった。
【0158】
即ち、疲労の程度の判定に用いる遺伝子リストを作成し、被験体の生体試料を用いて遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することにより、客観的に疲労の程度を判定することが可能となり、さらには、疲労に対する回復、改善又は予防の有効性(効果)を判定すること、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法を提供することが可能となった。
【0159】
本発明にかかる疲労の程度の判定方法は、バイオマーカーやサロゲートマーカーに利用することができる。
【0160】
本発明を利用することにより、疲労感に頼ることなく、日常生活における生理的疲労、末梢性疲労、特に肉体疲労の程度を客観的に判定することが可能になる。さらには、睡眠や休息の確保、栄養補給や摂取、医薬品投与を適切に行うことを可能とし、疲労の回復、改善及び予防が容易に可能となり、国民の健康維持・増進に大きく寄与する分野に利用が可能である。
【0161】
以上より、疲労の程度の判定に用いる遺伝子リストを作成し、遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することにより、疲労の程度を判定することが可能となり、さらには、疲労に対する回復、改善又は予防の有効性(効果)を判定すること、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法を提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体由来の生体試料における、表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することを含む、疲労の程度を判定する方法。
【請求項2】
被験体に被験物質を投与し、被験体由来の生体試料における表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較することを含む、被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法。
【請求項3】
被験体に被験物質を投与し、被験体由来の生体試料における表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較し、当該遺伝子の発現を変動させる物質を、疲労を回復、改善又は予防し得る候補物質として選択することを含む、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法。
【請求項4】
被験体が、ヒト又は非ヒト哺乳動物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
生体試料が、血液である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
生体試料が、細胞である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
疲労が生理的疲労である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
疲労が肉体疲労である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
肉体疲労を引き起こすために被験体に対して筋運動を負荷させる工程をさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現量の変動を分析及び/又は比較する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子について、少なくとも2個以上の当該遺伝子のうち発現変動が異なる遺伝子の数を分析及び/又は比較する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
表2に記載のNo.001〜No.112の遺伝子及び表3に記載のNo.001〜No.109の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現の増大を分析及び/又は比較し、及び/又は表2に記載のNo.113〜No.146の遺伝子及び表3に記載のNo.110〜No.148の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子の発現の減少を分析及び/又は比較する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子が、ARG2遺伝子、BLVRB遺伝子、BRP44遺伝子、C19orf59遺伝子、CCR1遺伝子、CCRL2遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CLEC4D遺伝子、CLEC4E遺伝子、CSTA遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、CXCR2P1遺伝子、EMR2遺伝子、EMR3遺伝子、EMR4P遺伝子、FPR1遺伝子、GPR109A遺伝子、GPR109B遺伝子、GZMA遺伝子、HMBS遺伝子、HP遺伝子、HPR遺伝子、IL1R2遺伝子、IRG1遺伝子、KLRAP1遺伝子、KLRK1遺伝子、MMP8遺伝子、OXER1遺伝子、P2RY13遺伝子、PLIN2遺伝子、RAB3IL1遺伝子、S100A8遺伝子、SLFN12遺伝子、SLFN12L遺伝子、SPATC1遺伝子、TARM1遺伝子、TAS2R60遺伝子、TMOD1遺伝子、TREM1遺伝子、TSPO2遺伝子、TSTD2遺伝子又はVTI1B遺伝子、又はそれらのホモログ遺伝子である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子が、ACE遺伝子、ACP1遺伝子、ACTA2遺伝子、ACTG2遺伝子、AFMID遺伝子、ALOX15遺伝子、ARG2遺伝子、ATP5L遺伝子、BLVRB遺伝子、BST1遺伝子、C5AR1遺伝子、CA2遺伝子、CBR1遺伝子、CCL5遺伝子、CCR1遺伝子、CCR3遺伝子、CD14遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、F8遺伝子、FPR1遺伝子、GZMA遺伝子、HDC遺伝子、HMBS遺伝子、HPR遺伝子、IFITM1遺伝子、IFNA1遺伝子、IFNA10遺伝子、IFNA13遺伝子、IFNA14遺伝子、IFNA16遺伝子、IFNA17遺伝子、IFNA2遺伝子、IFNA21遺伝子、IFNA4遺伝子、IFNA5遺伝子、IFNA6遺伝子、IFNA7遺伝子、IFNA8遺伝子、IL13RA1遺伝子、IL1B遺伝子、IL1R2遺伝子、IL2RB遺伝子、ISG15遺伝子、KLRB1遺伝子、KLRD1遺伝子、KLRK1遺伝子、MITF遺伝子、NCR1遺伝子、OAS3遺伝子、OR10A3遺伝子、OR10A6遺伝子、OR51V1遺伝子、P2RY13遺伝子、PIGY遺伝子、PPP1R3D遺伝子、RARS遺伝子、S1PR5遺伝子、SERPINB10遺伝子、SOCS3遺伝子、TAS2R60遺伝子、TK1遺伝子、UBE2F遺伝子、UPP1遺伝子、UROD遺伝子又はVTI1B遺伝子、又はそれらのホモログ遺伝子である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子が、ARG2遺伝子、BLVRB遺伝子、CCR1遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、FPR1遺伝子、GZMA遺伝子、HMBS遺伝子、HPR遺伝子、IL1R2遺伝子、KLRK1遺伝子、P2RY13遺伝子、TAS2R60遺伝子又はVTI1B遺伝子である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子が、ACTA2遺伝子、ACTG2遺伝子、PLIN2遺伝子、ARG2遺伝子、CD33遺伝子、CHI3L1遺伝子、CCR1遺伝子、FPR1遺伝子、HDC遺伝子、HMBS遺伝子、IL1B遺伝子、CXCR1遺伝子、CXCR2遺伝子、CXCR2P1遺伝子、MXD1遺伝子、MMP8遺伝子、PPP1R3D遺伝子、S100A8遺伝子、S100A9遺伝子、IL1R2遺伝子、IFITM1遺伝子、HCAR3(GPR109B)遺伝子、IFITM3遺伝子、IFITM2遺伝子、XPO7遺伝子、TREM1遺伝子、SLFN12遺伝子、RTP4遺伝子、PRAM1遺伝子、OXER1遺伝子、CLEC4D遺伝子、TAS2R60遺伝子、HCAR2(GPR109A)遺伝子、SLFN12L遺伝子、TARM1遺伝子、ALOX15遺伝子、GZMA遺伝子、CCL5遺伝子、NCR1遺伝子、KLRK1遺伝子、EMR2遺伝子、EMR3遺伝子、EMR4P遺伝子、ADAM8遺伝子、TCN2遺伝子、OLFM4遺伝子、GPR77遺伝子、STEAP4遺伝子、DGAT2遺伝子、HLA−DQB1遺伝子、HLA−DQB2遺伝子、KLRC4−KLRK1遺伝子又はHDAC9遺伝子である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
被験体由来の生体試料における遺伝子の発現量が、疲労の状態の対照体及び/又は非疲労の状態の健常対照体における当該遺伝子の発現量のどちらに近いかに基づいて行われ、疲労の状態の対照体に近い場合に、被験体は疲労の状態であると判定することを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
被験体由来の生体試料における遺伝子の発現変動量又は発現変動率が、疲労の状態の対照体及び/又は非疲労の状態の健常対照体における当該遺伝子の発現変動量又は発現変動率のどちらに近いかに基づいて行われ、疲労の状態の対照体に近い場合に、被験体は疲労の状態であると判定することを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
被験物質の疲労に対する有効性を判定するにおいて、被験物質の投与に伴って被験体由来の生体試料における遺伝子の発現変動が減弱又は消失している場合に、被験物質は疲労に対して有効であると判定することを特徴とする、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
表2、表3、表5又は表6に記載の遺伝子より選ばれる1個以上の遺伝子又はそのホモログ遺伝子に特異的なプローブ又はプライマー、又は上記遺伝子の遺伝子産物に特異的な抗体を含む、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法において上記遺伝子の発現変動を分析及び/又は比較するための疲労判定試薬又は疲労判定キット。

【公開番号】特開2012−205590(P2012−205590A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−55519(P2012−55519)
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】