説明

遺伝子発現促進剤

【課題】人体には免疫機構があり、病原体が体内に入ってきても、白血球やリンパ球などの免疫細胞が連携プレーで病原体を撃退することができる。免疫細胞が活発に動いて病原体を撃退すれば、感染しても発病することはない。免疫細胞が弱いと、病原体との戦いに敗れて発病してしまう。本発明は、遺伝子発現促進剤を提供する。すなわち、感染症を解決し、感染症に起因する感染死などの様々な病態の予防・治療剤を提供することを目的とする。
【解決手段】グァーガム分解物を含むことを特徴とする遺伝子発現促進剤を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グァーガム酵素分解物を含有することを特徴とする遺伝子発現促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人類は紀元前の昔から、さまざまな感染症を経験してきた。すなわちウイルス、細菌、カビ、原虫などが体内に侵入し、悪影響を及ぼす症状と戦ってきた。
原因も治療も十分に確立されていなかった時代には、感染症の大流行は歴史を変えるほどの影響を及ぼしてきた。19世紀後半になってから、感染症をもたらす病原体や対処方法がわかってきて、感染症による死亡者は激減した。
しかし、1970年頃より、以前には知られてなかった新たな感染症である「新興感染症」や、過去に流行した感染症で一時は発生数が減少したものの再び出現した感染症「再興感染症」が問題となっている。
天然痘は人類が根絶した唯一の感染症であるが、15世紀には大変な猛威をふるった。
ペストはヨーロッパで「黒死病」と呼ばれ、ヨーロッパだけで2500万人以上の死者が出たといわれる。
1918年のスペインかぜ、1957年のアジアかぜ、1968年の香港かぜに代表されるインフルエンザは現在でも毎年のように流行している。
新興感染症として、エイズ(後天性免疫不全症候群、HIV)、プリオン病、高病原性鳥インフルエンザ、SARS(重症急性呼吸器症候群)などがあり、再興感染症としては、結核、マラリアなど脅威となっている。
感染症を予防できる発明が望まれている。そこで日常的に摂取できる食品による予防を考えた。感染症の予防に関する発明として抗生物質とワクチンの開発が知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。しかしながら、まだ十分とは言えない。抗生物質は、人間の正常な細胞はそのままに、人体に有害な菌を殺すので、細菌に対して非常に有効である。しかし、人体に有用な菌も殺すことや、使いすぎると細菌に耐性が生じるという欠点がある。また、抗生物質はウイルスには効果がない。ウイルスに効果があるのはワクチンで、あらかじめ毒性を弱めた病原体を予防接種で人工的に感染させ、体内に抗体をつくることで、病気を予防してきた。ワクチンは個々の病原菌に対して対処できるものを一つ一つ開発する必要があるが、開発できるとは限らないという欠点がある。また、ワクチン接種により、発熱、悪寒などの副作用が生じる場合もある。
【0003】
人体には免疫機構があり、病原体が体内に入ってきても、白血球やリンパ球などの免疫細胞が連携プレーで病原体を撃退することができる。免疫細胞が活発に動いて病原体を撃退すれば、感染しても発病することはない。免疫細胞が弱いと、病原体との戦いに敗れて発病してしまう。
免疫細胞である白血球などの好中球やマクロファージなどの貪食細胞は活性酸素種を生じ、病原性微生物を殺菌する働きがある。活性酸素種は神経細胞、心筋細胞、血管内皮細胞などでも生じ、細胞増殖を制御する働きや、体内酸素センサーとして働いていると考えられている。
活性酸素種は酵素により合成される。その内の一つにNOX(NADPHオキシダーゼ)と呼ばれる酵素が知られている。NOXは酸素を1電子還元してスーパーオキシドアニオン(O2−)を生成する。一方、酸素を2電子還元して、過酸化水素を合成するDual oxidaseもくしはThyroid oxidaseと呼ばれる酵素も存在する。Dual oxidaseをコードする遺伝子にはDuox1とDuox2の存在が知られている。Duox1のmRNAは甲状腺と肺に、Duox2のmRNAは甲状腺と腸に主に発現している。
【0004】
2’,5’−結合オリゴアデニル酸(2−5A)はアデニル酸同士が2’,5’−ホスホジエステル結合によって連結された構造を持つ。2−5Aは、RNase Lという、RNAを分解する酵素を活性化する。活性化したRNase LはウイルスのmRNAを分解し、ウイルスの増殖を抑制する。2−5AはATPを材料にして、2−5A合成酵素(OAS:Oligoadenylate synthetase)により合成される。OASをコードする遺伝子にはOas1、Oas2、Oas3などのサブタイプが知られている。
炎症反応とは、ウイルスなどの侵襲から宿主を防御する作用である。炎症は生体の防御に必要だが行き過ぎると宿主を損傷し、ショック状態になったりして生命にかかわる。NLRCはNOD−like受容体(NLR)の一種である。ヒトには22種のNLRがあるが機能がよくわかっていないものも多い。それらの内、NLRC5はINF−γとLPSの刺激で発現が増加して、炎症反応を抑制し、行過ぎた反応にならないように調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−37294号公報(第1−13頁)
【特許文献2】特開2006−193527号公報(第1−33頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、感染症発症の問題を解決し、人類の健康維持向上を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意努力した結果、ガラクトマンナン多糖を主成分とするグァーガム酵素分解物を経口摂取することにより感染症の予防に関連した遺伝子の発現が促進されることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明はグァーガム酵素分解物を含有することを特徴とする遺伝子発現促進剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の遺伝子発現促進剤は、免疫系を活性化できるという利点がある。本発明の遺伝子発現促進剤を用いることにより感染症の予防が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本願発明におけるグァーガム分解物は、水溶性の食物繊維で、インド・パキスタン等で食用にされている一年生豆科植物グァー(学名 Cyamopsis tetragonoloba)由来の豆を原料とし、その胚乳に含まれるガラクトマンナン多糖を加水分解し低分子化することにより得られるものである。加水分解の方法としては、酵素分解法、酸分解法など、特に限定するものではないが、分解物の分子量が揃い易い点から酵素分解法が好ましい。酵素分解法に用いられる酵素は、マンノース直鎖を加水分解する酵素であれば市販のものでも天然由来のものでも特に限定されるものではないが、アスペルギルス属菌やリゾップス属菌などに由来するβ−マンナナーゼが好ましい。また、グァーガム分解物の平均分子量分布は、上限値が1.8×10以下であり、好ましくは、1.0×10以下、さらに好ましくは、2.5×10以下である。グァーガム分解物の平均分子量分布の下限値は5×10以上であり、好ましくは、3.0×10以上、さらに好ましくは、1.0×10以上である。平均分子量分布が5×10以下では本願発明の遺伝子発現促進剤を供することが不可能となり、平均分子量が1.8×10を超えると、粘度が高く飲食品に含有させる場合に不都合が生じる。平均分子量分布の測定方法は、特に限定するものではないが、例えばポリエチレングリコール(平均分子量:2×10、2×10、2×10及び1×10)をマーカーに高速液体クロマトグラフ法(カラム:YMC−Pack Diol−120(ワイエムシイ社製、検出器:示差屈折計)を用いて、平均分子量分布を測定する方法等を用いることにより求めることができる。
【0010】
本願発明のグァーガム分解物は、特に限定するものではないが、上記平均分子量分布のものが70%以上、好ましくは80%以上含まれるものが用いられる。市販品としては、サンファイバー(太陽化学社製)、ファイバロン(大日本住友製薬社製)、グアファイバー(明治フードマテリアル社製)などが挙げられる。
以下、実施例及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0011】
実施例1
水900g に0.1N 塩酸を加えてpH 4.5に調整し、これにアスペルギルス属細菌由来のβ−マンナナーゼ(ノボノルディスクバイオインダストリー社製)0.2gとグァーガム粉末(太陽化学株式会社製)100gを添加、混合し、40〜45℃で24時間に渡り、グァーガムの酵素分解を行った。反応後、90℃で15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離(吸引濾過)して、不溶物を除去して得られた透明な溶液を減圧濃縮(Yamato製エバポレーター)した後(固形分量:20重量%)、噴霧乾燥装置〔大川原化工機(株)製〕により乾燥し、グァーガム分解物を粉末として65g得た。
【0012】
グァーガム分解物を水に溶解させて得た、グァーガム分解物量換算で0.5(w/v)%濃度の水溶液をポリエチレングリコール(平均分子量:2×10、2×10、2×10及び1×10)を分子量マーカーとする高速液体クロマトグラフィー〔(株)ワイエムシイ製カラム:Y M C−Pack Diol−120〕に供して平均分子量を求めたところ約20,000であった。
【0013】
実施例2
水900gに0.1N塩酸を加えてpH3に調整し、これにアスペルギルス属細菌由来のβ−マンナナーゼ(ノボノルディスクバイオインダストリー社製)0.15gとグァーガム粉末(太陽化学株式会社製)100gを添加、混合し、40〜45℃で24時間に渡り、グァーガムの酵素分解を行った。反応後、90℃で15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離(吸引濾過)して、不溶物を除去して得られた透明な溶液を減圧濃縮(Yamato製エバポレーター)した後(固形分量:20重量%)、噴霧乾燥装置〔大川原化工機(株)製〕により乾燥し、グァーガム分解物を粉末として68g得た。
【0014】
得られたグァーガム分解物について、実施例1と同様にして平均分子量を求めたところ約25,000であった。
【0015】
実施例3
水900gに0.1N塩酸を加えてpH4に調整し、これにアスペルギルス属細菌由来のβ−マンナナーゼ(ノボノルディスクバイオインダストリー社製)0.25gとグァーガム粉末(太陽化学株式会社製)100gを添加、混合し、50〜55℃で12時間に渡り、グァーガムの酵素分解を行った。反応後、90℃で15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離(吸引濾過)して、不溶物を除去して得られた透明な溶液を減圧濃縮(Yamato製エバポレーター)した後(固形分量:20重量%)、噴霧乾燥装置〔大川原化工機(株)製〕により乾燥し、グァーガム分解物を粉末として70g得た。
【0016】
得られたグァーガム分解物について、実施例1と同様にして平均分子量を求めたところ約15,000であった。
【0017】
実施例4
前記特開平5−117156号公報の実施例(第4頁第3行〜第4頁第10行)の記載に従ってグァーガム分解物の調製を行った。実施例1に準じて平均分子量を求めたところ5,500であった。
【0018】
実施例5
実施例4で分子量測定のために高速液体クロマトグラフィーを行った際に、低分子量のピークを分取した。再度、高速液体クロマトグラフィーを行い、平均分子量を求めたところ約800であった。
【0019】
試験例1
実験動物は、BKS.Cg−Dock7+/+Leprdb/Jマウス(4週齢、オス)を、1週間、AIN−93G標準飼料で予備飼育して、異常のない個体を選別し、対照群およびグァーガム分解物投与群の計2群(1群3匹)に分け、実験に供した。予備飼育が終了した日から試験終了日(摂取期間28日間)まで、対照群にはAIN−93G標準飼料(組成は表1を参照)を、グァーガム分解物投与群にはAIN−93G標準飼料中のセルロースパウダー5%を実施例1〜5で調製したグァーガム分解物に置換した実験飼料を自由摂取させた。
【0020】
飼料の組成については表1に示した。表1における「%」は、全て「重量%」を表す。
【0021】
【表1】

【0022】
摂取期間終了後、麻酔下にてマウスを解剖し、小腸を摘出した。小腸を洗浄後、3等分し、最も盲腸に近い部位をハサミで切り開いた。スライドグラスを用いて腸の粘膜組織を削りとった。Isogen(ニッポン・ジーン製)を用い、全RNAを粘膜組織から抽出して、その一部をRNeasyMiniKit(QIAGEN)で精製し、250ngをサンプル調整して、Affymetrix MouseGene1.0STArray(アフィメトリクス社)にハイブリダイゼーション、およびスキャンを行った。スキャンしたデータを、PartekGenomicsSuite(Partek社)にインポートし、Array間補正(RMA法使用)後、指定された組み合わせにて比較解析、有意差検定(ANOVA)を行った。
【0023】
対照群に対してグァーガム分解物投与群の各遺伝子の発現量を比較して、発現量がグァーガム分解物投与群の方がともに1.2倍以上高い遺伝子を抽出した。その結果、グァーガム分解物を摂取して発現量が増加する遺伝子として、Duox2、Oas1g、Oas3、Nlrc5が確認された。各遺伝子の発現増加量から、特に実施例1で示したグァーガム分解物では最も強い効果が確認された。実施例2と実施例3で示したグァーガム分解物では、実施例1で示したグァーガム分解物に次いで強い効果を示した(表2)。
【0024】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の遺伝子発現促進剤により、様々な食品に応用することができ、感染症を予防することのできる食品を提供することが可能となり、産業上貢献大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グァーガム分解物を含有することを特徴とする遺伝子発現促進剤。
【請求項2】
遺伝子発現が免疫を制御する効果を持つ請求項1記載の遺伝子発現促進剤。
【請求項3】
遺伝子がDuox2、Oas1g、Oas3、Nlrc5の群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1または2記載の遺伝子発現促進剤。
【請求項4】
グァーガム分解物の平均分子量が、5×10〜1.8×10であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の遺伝子発現促進剤。

【公開番号】特開2012−162482(P2012−162482A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23597(P2011−23597)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】