説明

遺伝子発現増強剤およびそれを用いた遺伝子発現増強方法

【課題】遺伝子発現増強剤として有用な新規な化合物を提供する。また当該化合物を有効成分とする遺伝子発現増強剤およびそれを用いた遺伝子発現増強方法を提供する。
【解決手段】下式(1)


で示される化合物のヒドトキシル基またはチオール基のいずれか一方に、直接またはリンカーを介して、コレステリル基、アルキルカルボニル基、オキシアルキル基、またはチオアルキル基が結合してなる化合物を有効成分として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子発現増強剤として有用な化合物に関する。また本発明は、当該化合物を有効成分とする遺伝子発現増強剤およびそれを用いた遺伝子発現増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所望の細胞に目的とする遺伝子を導入し、当該細胞内で効率的に発現させる技術は、生命科学の研究分野では基幹技術であり、かかる遺伝子導入に基づく遺伝子治療は、癌や神経系疾患などの様々な疾患に対して有効な治療法になると考えられている。
【0003】
遺伝子治療を達成するためには、特定の遺伝情報をもった遺伝子を体細胞内に導入しなければならない。その場合、慢性疾患では、導入する遺伝子が核内遺伝子の適切な部位に組み込まれて恒常的に発現することが望まれる一方、癌などの治療では、一過的な発現が適切である場合もある。遺伝子治療において、遺伝子導入には、遺伝子の運び屋である「ベクター」が用いられるのが通常である。かかるベクターを用いた遺伝子導入法は、ベクターの種類に応じて下記の2つに大別される。
(1)ウイルス法:ベクターとしてアデノウイルスやレトロウイルスなどのウイルスを用いて、遺伝子導入対象細胞に感染させる方法、
(2)非ウイルス法:ベクターにウイルスを用いないで、人工的に作成したベクターを用いて、所望の遺伝子を目的とする細胞に導入する方法。
【0004】
(1)のウイルス法は、発現効率が高いという利点があるものの、ウイルス自体に病原性があるという問題があり、さらにウイルスタンパクに対する免疫応答が起こるため、複数回導入を行う場合には、その効果が減弱するという欠点がある。また導入するDNAの大きさが制限されるという問題もある。
【0005】
細胞膜と遺伝子はともに負に帯電しているため、電気的反発により遺伝子をそのまま細胞内に効率的に導入することは難しい。また、導入された遺伝子は、核に到達するまえにDNaseにより切断されてしまうという問題もある。
【0006】
そこで、(2)の非ウイルス法としては、細胞に到達する前に、酵素による切断を防ぐ目的で、DNAを、正電荷を有するリポソームで包み、静電的な相互作用により細胞に付着させ、取り込まれやすくした方法、すなわちベクターとして、正電荷を有するカチオン性脂質(カチオン性リポソーム)を用いた遺伝子導入法が提案されている(例えば、非特許文献1)。かかる非ウイルス法を用いた遺伝子導入技術は、ベクターに病原性ならびに免疫源性がないため、複数回の治療に用いることができ、また一過性の遺伝子発現に有効に用いることができるという利点がある。また、導入するDNAの大きさに制限がなく、製剤化が可能で、ドラッグデリバリーシステム(DDS)にも応答できるという利点もある。
【0007】
しかしながら、非ウイルス法は、ウイルス法と比較して、遺伝子導入効率および発現率が劣るという問題がある。遺伝子導入効率を高める方法としては、従来から複数検討され(例えば、特許文献1〜3、非特許文献2〜3)、なかには一定の導入効率の上昇ならびに核内移行性の向上が認められる技術もあるが、遺伝子の発現率を向上させる技術はいまだないのが現状である。
【特許文献1】国際公開公報 WO01/40254
【特許文献2】特開2001−2592号公報
【特許文献3】特開2006−254877号公報
【非特許文献1】Yotsuyanagi, T. ら、日本臨床、56、153-160 (1998)
【非特許文献2】Miller, A.D., The problem with cationic liposome/micelle-based non-viral vector systems for gene therapy. Curr. Med. Chem. 10, 1195-1211 (2003).
【非特許文献3】Pietersz, G.A., Tang, C.K., Apostolopoulos, V., Structure and design of polycationic carriers for gene delivery. Mini Rev. Med. Chem. 6, 1285-1298 (2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記非ウイルス法を用いた遺伝子導入技術の問題である遺伝子発現効率の低さを改善し、細胞内での遺伝子の発現効率を高めるうえで有用な化合物を提供することを目的とする。また本発明の目的は、上記特徴を有する化合物を有効成分とする遺伝子発現増強剤、ならびに当該化合物または遺伝子発現増強剤を用いた遺伝子発現増強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)に対して強い阻害活性を有する下記の化合物(ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACi))
【0010】
【化1】

【0011】
のヒドロキシル基かチオール基のいずれか一箇所に、直接またはリンカーを介して、コレステリル基、アルキルカルボニル基、オキシアルキル基、またはチオアルキル基が結合してなる化合物に、遺伝子の発現を増強する作用があることを見出した。具体的には、上記化合物をカチオン性のリン脂質またはコレステロールと混合して調製される脂質膜構造物と目的の遺伝子(DNA)とを複合化させてなる複合体(ナノプレックス)を、細胞内に導入することによって、細胞内での当該遺伝子の発現が増強することを確認した。
【0012】
本発明は、かかる知見に基づいて、完成したものであり、下記の構成を有するものである。
(I)遺伝子発現増強剤の有効化合物
(I-1)下式(1)
【0013】
【化2】

【0014】
で示される化合物のヒドトキシル基またはスルフヒドリル基のいずれか一方に、直接またはリンカーを介して、コレステリル基、アルキルカルボニル基、オキシアルキル基、またはチオアルキル基が結合してなる化合物。
【0015】
(I-2)上記化合物(1)が、一般式(2)に記載される化合物である、(I-1)記載の化合物:
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、Xは酸素原子または硫黄原子;AおよびBは、それぞれ、水素原子、コレステリル基、炭素数3〜20のアルキルカルボニル基、炭素数3〜20のオキシアルキル基、または炭素数3〜20のチオアルキル基;lは1または2の整数;mは0または1の整数;Yは、下式(3)または(4)で示される基;
【0018】
【化4】

【0019】
[式中、Wは酸素原子、窒素原子または硫黄原子を;「S−Z−CO」は、チオール基を有するアミノ酸の残基(チオール基の水素原子およびカルボキシル基の水酸基が置換されたチオール基を有するアミノ酸)、またはチオアルキルカルボニル基を;nは0または1の整数;pは1〜8の整数を意味する]
を意味する。但し、「−(Y)−A」または「−(Y)−B」のいずれか一方は水素原子であり、その場合、他方は水素原子ではない。)。
【0020】
(I-3)一般式(1)に記載される化合物が、下式で示される化合物からなる群から選択される少なくとも1つである、(I-1)または(I-2)に記載する化合物:
(1)2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthylmethyl)amino]ethyl laurate、
(2) 1-cholest-5-en-3-yl 4-{2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthyl
methyl)amino]ethyl}succinate、
(3)cholest-5-en-3-yl 4-{[(4-{[(2-hydroxyethyl)(2-naphthylmethyl)amino]methyl}
benzoyl)amino]oxy}-4-oxobutanoate、
(4) N-(dodecanoyloxy)-4-{[(2-hydroxyethyl)(2-naphthylmethyl)amino]methyl}
benzamide、
(5)2-(dodecyldisulfanyl)ethyl 2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthyl
methyl) amino]ethyl carbonate、および
(6) cholest-5-en-3-yl (13R)-13-amino-2-{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}-1-(2-
naphthyl)-6-oxo-5,7-dioxa-10,11-dithia-2-azatetradecan-14-oate
(7)4-{[[3-(dodecyldisulfanyl)propyl](2-naphthylmethyl)amino]methyl}-N-
hydroxybenzamide。
【0021】
(II)遺伝子発現増強剤、および遺伝子導入用キット
(II-1)(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する化合物を含む遺伝子発現増強剤。
(II-2)(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する化合物、およびカチオン性の脂質若しくはコレステロールを含有する(II-1)記載の遺伝子発現増強剤。
(II-3)脂質膜環状構造または粒状構造を有するものである、(II-2)記載の遺伝子発現増強剤。
【0022】
(II-4)(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する遺伝子発現増強剤を含む遺伝子導入用キット。
(II-5)(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する遺伝子発現増強剤および導入する遺伝子を含む、(II-4)に記載する遺伝子導入用キット。
【0023】
(III)遺伝子含有組成物
(III-1)(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する遺伝子発現増強剤および遺伝子を含むことを特徴とする、発現が増強された遺伝子含有組成物。
【0024】
(IV)内因性または外因性の遺伝子の発現増強方法
(IV-1)(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する遺伝子発現増強剤、または(III-1)に記載する遺伝子含有組成物を、インビトロで細胞に導入して、内因性または外因性の遺伝子の発現を増強する方法。
(IV-2)上記細胞が、腫瘍細胞であることを特徴とする(IV-1)に記載する方法。
【発明の効果】
【0025】
前述するように本発明の遺伝子発現増強剤は、上記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACi)のヒドロキシル基かチオール基のいずれか一箇所に、直接またはリンカーを介して、コレステリル基、アルキルカルボニル基、オキシアルキル基、またはチオアルキル基が結合してなる構造を有する。かかる遺伝子発現増強剤は、内在性および外因性の別を問わず、遺伝子の発現を増強することができる。当該遺伝子発現増強剤を、正電荷コレステロールを含むナノ粒子内に注入することで調製されるナノ粒子(ナノプレックス)は、細胞内に導入されやすいため、細胞内への効率的な遺伝子導入に有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(I)遺伝子発現増強剤の有効化合物
本発明の遺伝子発現増強剤は、下式(1)
【0027】
【化5】

【0028】
で示される化合物のヒドロキシル基かチオール基のいずれか一箇所に、直接またはリンカーを介して、コレステリル基、アルキルカルボニル基、オキシアルキル基、またはチオアルキル基が縮合またはジスルフィド結合してなる化合物(以下、「有効化合物」ともいう)を有効成分とすることを特徴とする。
【0029】
ここでアルキルカルボニル基、オキシアルキル基、およびチオアルキル基のアルキル基としては、いずれも炭素数3〜20の直鎖または分岐状のアルキル基を挙げることができる。好ましくは炭素数12〜20の直鎖状のアルキル基である。具体的には、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、およびアラキル基を例示することができ、好ましくはラウリル基である。
【0030】
またここでリンカーは、上記化合物(1)のヒドロキシル基またはチオール基に、コレステリル基、アルキルカルボニル基、オキシアルキル基、またはチオアルキル基を結合させることのできる架橋基を意味する。
【0031】
制限はされないが、リンカーとして具体的には「−(Y)−」で示される基を例示することができる。当該式中、mは0または1の整数を意味し、Yは下式(3)または(4)で示される基を意味する。
【0032】
【化6】

【0033】
当該式中、Wは酸素原子、窒素原子または硫黄原子を意味する。好ましくは、酸素原子である。
【0034】
「S−Z−CO」は、チオール基を有するアミノ酸の残基、またはチオアルキルカルボニル基であり、かかるチオール基を有するアミノ酸として、好ましくはシステインおよびホモシステインを挙げることができる。またチオアルキルカルボニル基のアルキル基(Z)としては、炭素数1〜6、好ましくはメチル基、エチル基またはブチル基などの炭素数1〜3のアルキル基を挙げることができる。
【0035】
また上記式において、pは1〜8の整数、好ましくは1であり、nは0または1の整数を意味する。
【0036】
かかる本発明の有効化合物としては、好適には下記一般式(2)に記載される化合物を挙げることができる。
【0037】
【化7】

【0038】
(式中、「−(Y)−」は前述する通りである。AおよびBは、それぞれ、水素原子、コレステリル基、炭素数3〜20の脂肪酸残基、炭素数3〜20の脂肪族アルコール残基、または炭素数3〜20の脂肪族チオール残基を意味する。但し、「−(Y)−A」または「−(Y)−B」のいずれか一方は水素原子であり、その場合、他方は水素原子ではない。)
上記式(2)において「−(Y)−」は、前述するリンカー、またはシングルボンドを意味する。すなわち「−(Y)−」において、mが0である場合は、「−(Y)−」はシングルボンドとなる。
【0039】
かかる化合物(2)において、「−(Y)−A」が水素原子である本発明の有効化合物(以下、「化合物A」ともいう)は、例えば、後述する製造例3または4に記載するように、N-hydroxy-4-{[(2-hydroxyethyl)(2-naphthylmethyl)amino]methyl}benzamide (K-182) を出発化合物として下記のようにし製造することができる。
【0040】
なお、K-182は、Synthesis and cancer antiproliferative activity of new histone deacetylase inhibitors:hydrophilic hydroxamates and 2-aminobenzamide-containing derivatives, Y. Nagaoka, et al., European Journal of Medicinal Chemistry 41 (2006) 697-708に記載されている方法で製造することができる。
【0041】
【化8】

【0042】
具体的には、当該化合物Aは、K-182と「HO−(Y)−B」を、塩化メチレン、酢酸エチル、またはジメチルホルムアミドなどの溶媒、好ましくは塩化メチレン中で、縮合剤と反応促進添加剤を用いて縮合反応させることによって製造することができる。ここで縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド、および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなどを例示することができるが、好ましくはDCCである。また反応促進添加剤としては、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、N-ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾール、およびイミダゾールなどを挙げることができるが、好ましくはDMAPである。
【0043】
当該方法により得られる化合物(2)(化合物A)として、具体的には、下記の化合物を挙げることができる:
・ cholest-5-en-3-yl (13R)-13-amino-2-{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}-1-(2-
naphthyl)-6-oxo-5,7-dioxa-10,11-dithia-2-azatetradecan-14-oate(製造例3)
・ N-(dodecanoyloxy)-4-{[(2-hydroxyethyl)(2-naphthylmethyl)amino]methyl}
benzamide(製造例4)。
【0044】
また化合物(2)において、「−(Y)−B」が水素原子である本発明の有効化合物(以下、「化合物B」ともいう)は、例えば、後述する製造例1、2および5に記載するように、下式で示される4-{[(2-hydroxyethyl)(2-naphthylmethyl)amino]methyl}-N-(tetrahydro-2H-pyran-2-yloxy)
benzamide(化合物5)を出発化合物として、下式に示すMethod AまたはMethod Bの方法により製造することができる。なお、化合物5は、後述する参考製造例1に記載する方法で製造することができる。
【0045】
【化9】

【0046】
具体的には、Method Aの方法では、化合物Bは、まず、化合物5を「HO−(Y)−A」と、塩化メチレン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミドなどの溶媒、好ましくは塩化メチレン中で、縮合剤と反応促進添加剤を用いて縮合反応させ、次いで、反応生成物をテトラヒドロフランと水の混合溶液中、酢酸で加水分解することにより、製造することができる。ここで縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド、および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなどが例示できるが、好ましくはDCCである。また反応促進添加剤としては、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、N-ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾール、およびイミダゾールなどを例示することができるが、好ましくはDMAPである。
【0047】
またMethod Bの方法では、化合物Bは、まず化合物5をDMAP存在下トリホスゲンで処理し、得られた酸クロリドに(I)で示される化合物を縮合させ、次いで、HS-Aを反応させて、テトラヒドロフランと水の混合溶液中で、酢酸で加水分解することにより、製造することができる。
【0048】
当該方法により得られる化合物(2)(化合物B)として、具体的には、下記の化合物を挙げることができる:
・ 2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthylmethyl)amino]ethyl laurate(製造例1)、
・ 1-cholest-5-en-3-yl 4-{2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthyl
methyl)amino]ethyl}succinate(製造例2)、
・ 2-(dodecyldisulfanyl)ethyl 2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthyl
methyl) amino]ethyl carbonate(製造例5)。
・ cholest-5-en-3-yl (13R)-13-amino-2-{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}-1-(2-
naphthyl)-6-oxo-5,7-dioxa-10,11-dithia-2-azatetradecan-14-oate(製造例6)。
【0049】
また「−(Y)−B」が水素原子である本発明の有効化合物(化合物B)は、後述する製造例6および7に記載するように、上記化合物5の製造中間体である化合物4を用いて、下式に示すMethod CまたはMethod Dの方法により製造することもできる。
【0050】
【化10】

【0051】
具体的には、まず化合物4に、(II)で表されるアルデヒドを、好ましくはトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムもしくは四水素化ホウ素ナトリウムの存在下で反応させた後、テトラヒドロフランと水の混合溶液中で、酢酸で加水分解し、引き続きトリエチルシラン(Et3SiH)の存在下で、トリフルオロ酢酸(TFA)で処理し、(III)で示されるチオール基を有する化合物を得る。次いで、Method Cの方法では、得られたチオール化合物に、(IV)で示される化合物を縮合することによって、-S-Aで示される残基を上記化合物に形成させることにより、化合物Bを製造することができる。またMethod Dの方法では、上記で得られたチオール化合物に、(V)で示される化合物を縮合し、得られたピリジルジスルフィド中間体に化合物「H−A」を反応させて、−S−Aで示される残基を形成させることにより、化合物Bを製造することができる。
当該方法により得られる化合物(2)(化合物B)として、具体的には、下記の化合物を挙げることができる:
・4-{[[3-(dodecyldisulfanyl)propyl](2-naphthylmethyl)amino]methyl}-N-
hydroxybenzamide(製造例7)。
【0052】
(II)遺伝子発現増強剤、および遺伝子導入用キット
本発明の遺伝子発現増強剤は、前述する有効化合物を有効成分とするものであり、その限りにおいて特に制限されないが、遺伝子の細胞導入効率を向上させる目的で、上記化合物に加えて、カチオン性の脂質またはコレステロールを含有するものであることが好ましい。
【0053】
カチオン性の脂質は、核酸と複合体を形成するものであれば特に制限されず、リン脂質、コレステロール骨格を有するもの、グルタミン酸骨格を有するもの、1,2、3あるいは4級アンモニウムを有する脂質等を挙げることができる。ここで、コレステロール骨格を有するカチオン性の脂質の例としては、コレスト−5−エン−3−イル 2−[(2−ヒドロキシエチル)アミノ]エチルカルバメート(OH-Chol)、[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール(DC-Chol);グルタミン酸骨格を有するカチオン性の脂質の例としては塩化N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジドデシル−D−グルタミン酸(TMAG);4級アンモニウム塩の例としてはDOTMA(N−(1−(2,3−ジオレイロキシ)プロピル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムブロマイド)、DDAB(ジメチルジオクタクレシルアンモニウムブロマイド)、DOSPA(2,3−ジオレイロキシ−N−[2(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート)、DOGS(ジオレオイル−D−グルタメート−N−2(スペルミンカルボキシアミド)エチル)、DMRIE(1,2−ジミリスチロキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロマイド)等を挙げることができる。
【0054】
なお、これらのカチオン性の脂質またはコレステロールは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
本発明の遺伝子発現増強剤における、これらのカチオン性の脂質またはカチオン性のコレステロールの割合としては、モル分率で5〜90%、好ましくは40〜90%、より好ましくは50〜90%を挙げることができる。また、本発明の遺伝子発現増強剤における、有効化合物の割合としては、モル分率で0.5〜30%、好ましくは1〜10%、より好ましくは1〜5%を挙げることができる。
【0056】
本発明の遺伝子発現増強剤の形態としては、本発明の有効化合物と脂質および/またはコレステロールが単に混合物の状態で存在していてもよいし、また本発明の化合物と脂質および/またはコレステロールとが組み合わさって脂質膜構造体または粒子物を形成していてもよい。かかる脂質膜構造体として、好適には、本発明の有効化合物を包含した脂質膜環状構造体を挙げることができる。
【0057】
該脂質膜構造体または粒子物の存在形態およびその製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、存在形態としては、乾燥形態、脂質膜構造体または粒子物が水系溶媒に分散した形態、さらにこれを凍結させた形態、および乾燥させた形態(噴霧乾燥、凍結乾燥を含む)を挙げることができる。
【0058】
乾燥した脂質混合物は、脂質および/またはコレステロールを有効化合物とともに、クロロホルムなどの有機溶媒に溶解させ、次いで減圧乾固や噴霧乾燥を行うことで製造することができる。
【0059】
脂質膜構造体または粒子物が水系溶媒に分散した形態としては、一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル(以上、脂質膜環状構造体)、ひも状ミセル、および不定型の層状構造物などを挙げることができる。分散した状態の脂質膜構造体の大きさは、特に限定されるものではないが、例えば、脂質膜環状構造体のうち、リポソームやエマルション、ナノパーティクルなどについては、粒子径が数十nmから数百nm、好ましくは50〜1000nm、より好ましくは90〜200nmであり、球状ミセルについては、粒子径が5〜50nm程度である。ひも状ミセルや不定型の層状構造物の場合は、その1層あたりの厚みが5nmから10nmでこれらが層を形成していると考えればよい。
【0060】
水系溶媒(分散媒)の組成も特に限定されるものではないが、水;グルコース、乳糖、およびショ糖などの糖水溶液;グリセリンやプロピレングリコールなどの多価アルコール水溶液;リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝化生理食塩液等の緩衝液;生理食塩水;細胞培養用の培地などを挙げることができる。脂質の化学的安定性を上げるために、水系溶媒のpHを弱酸性から中性付近(pH3から8)に設定したり、窒素バブリングにより溶存酸素を除去してもよい。さらに凍結乾燥保存や噴霧乾燥保存をする場合には糖水溶液を、また凍結保存する場合には、糖水溶液や多価アルコール水溶液をそれぞれ用いることが好ましい。
【0061】
これらの水系溶媒の濃度は特に限定されるものではないが、例えば、糖水溶液においては、2〜20%(W/V)、好ましくは5〜10%(W/V)を挙げることができる。また、多価アルコール水溶液においては、1〜5%(W/V)、好ましくは2〜2.5%(W/V)を挙げることができる。さらに緩衝液においては、5〜50mM、好ましくは10〜20mMを挙げることができる。
【0062】
水系溶媒中の脂質膜構造体または粒子物の濃度は、特に限定されるものではないが、脂質膜構造体として用いる脂質またはコレステロールの総量の濃度として、0.001〜100mM、好ましくは0.01〜20mMを挙げることができる。
【0063】
脂質膜構造体または粒子物が水系溶媒に分散した形態は、上記する乾燥した脂質混合物を水系溶媒に添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等により乳化することで製造することができる。また、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば超音波照射法、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法、薄膜法、逆相蒸発法、エタノール注入法、脱水−再水和法などを用いても製造することもできる。脂質膜構造体の大きさを制御する場合には、孔径のそろったメンブランフィルター等を用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行う方法を挙げることができる。
【0064】
また、上記の水系溶媒に分散した脂質膜構造体または粒子物をさらに乾燥させる方法としては、通常の凍結乾燥や噴霧乾燥を挙げることができる。この時の水系溶媒としては、上記したように、糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液、乳糖水溶液を用いるとよい。ここで、水系溶媒に分散した脂質膜構造体または粒子物をいったん製造した上でさらに乾燥すると、脂質膜構造体または粒子物の長期保存が可能となるほか、この乾燥した脂質膜構造体または粒子物に、導入する遺伝子の水溶液を添加すると、効率よく脂質混合物が水和されるために遺伝子自身も効率よく、脂質膜構造体または粒子物に保持させることができるといったメリットがある。
【0065】
かかる本発明の遺伝子発現増強剤は、細胞に導入する目的の遺伝子と組み合わせて用いることにより、当該細胞における対象遺伝子の発現を増強することができる。このため、本発明の遺伝子発現増強剤は、遺伝子導入用キットの一構成成分として使用することができる。
【0066】
ゆえに、本発明は、別の観点から、上記遺伝子発現増強剤を含む遺伝子導入用キットを提供するものである。当該遺伝子導入用キットは、上記遺伝子発現増強剤と細胞に導入する目的遺伝子とを、別々の包装形態で含むものであってもよい。
【0067】
なお、本発明において、対象とする遺伝子としては、オリゴヌクレオチド、DNAおよびRNAのいずれでもよく、特に形質転換等のインビトロにおける導入用遺伝子や、インビボで発現することにより作用する遺伝子、例えば、遺伝子治療用遺伝子、実験動物や家畜等の産業用動物の品種改良に用いられる遺伝子が好ましい。遺伝子治療用遺伝子としては、オリゴヌクレオチド(アンチセンスDNA、短鎖2本鎖RNA(siRNA))、酵素、サイトカイン等の生理活性物質をコードする遺伝子等を挙げることができる。
【0068】
(III)遺伝子含有組成物
また本発明は、別の観点から、上記遺伝子発現増強剤と細胞に導入する目的遺伝子とを含む、遺伝子含有組成物を提供するものである。
【0069】
かかる遺伝子含有組成物の形態としては、具体的には、本発明の有効化合物と遺伝子を含有する混合物;本発明の有効化合物とリン脂質および/またはコレステロールからなる混合物(好ましくは脂質膜構造体または粒子物)に遺伝子が混合されてなる形態;本発明の有効化合物とリン脂質および/またはコレステロールからなる混合物(好ましくは脂質膜構造体または粒子物)に遺伝子が保持されてなる形態を挙げることができる。ここでいう保持とは、遺伝子が、脂質膜構造体または粒子物の一部、例えば脂質膜構造体の膜の中、表面、内部、脂質層中または脂質層の表面に、存在することを意味する。
【0070】
遺伝子含有組成物の存在形態およびその製造方法は、前述する脂質膜構造体または粒子物と同様に、特に限定されるべきものでないが、例えば、存在形態としては、混合乾燥物形態、水系溶媒に分散した形態、さらにこれを乾燥させた形態や凍結させた形態を挙げることができる。
【0071】
脂質膜構造体または粒子物と遺伝子との混合乾燥物は、例えば、使用する脂質膜構造体または粒子物と遺伝子とをいったんクロロホルム等の有機溶媒で溶解させ、次にこれをエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことにより製造することができる。脂質膜構造体または粒子物と遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した形態としては、多重層リポソーム、一枚膜リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定形の層状構造物などを挙げることができる。
【0072】
具体的には、脂質膜構造体または粒子物と遺伝子との混合乾燥物に水系溶媒を添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等による乳化を行う方法を用いることができる。大きさ(粒子径)を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し慮過)を行うことができる。この方法の場合には、まず脂質膜構造体と遺伝子との混合乾燥物を作るために、遺伝子を有機溶媒に溶解しなければならないが、遺伝子と脂質膜構造体との相互作用を最大限に利用できるメリットがある。すなわち、脂質膜構造体が層状構造を有する場合にも、遺伝子は多重層の内部にまで入り込むことが可能であり、一般的にこの製造方法を用いると遺伝子の脂質膜構造体への保持率を高くすることができる。
【0073】
また別の方法として、脂質膜構造体または粒子物を有機溶媒でいったん溶解後、有機溶媒を留去した乾燥物に、さらに遺伝子を含む水系溶媒を添加して乳化する方法である。大きさ(粒子径)を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し慮過)を行うことができる。当該方法は、有機溶媒には溶解しにくいが、水系溶媒には溶解する遺伝子に適用できる。メリットとしては、脂質膜構造体がリポソームの場合、内水相部分にも遺伝子を保持できる点が挙げられる。
【0074】
さらに別の方法としては、水系溶媒に既に分散したリポソーム、エマルション(ナノパーティクル)、ミセル、層状構造物などの脂質膜構造体または粒子物に、さらに遺伝子を含む水系溶媒を添加する方法である。したがって、この場合には水溶性の遺伝子に限定される。当該方法は既にできあがっている脂質膜構造体または粒子物に外部から遺伝子を添加する方法であるため、遺伝子か高分子の場合には、遺伝子は脂質膜構造体または粒子物の内部には入り込めず、脂質膜構造体または粒子物の表面に結合した存在様式をとる。脂質膜構造体としてリポソームを用いた場合、当該方法を用いると、遺伝子がリポソーム粒子同士の間に挟まったサンドイッチ構造(一般的には複合体あるいはコンプレックスと呼ばれている。)をとる。この方法のメリットとしては、一度、水系溶媒に既に分散したリポソーム、エマルション(ナノパーティクル)、ミセル、層状構造物などの脂質膜構造体を製造、保管しておくことにより、一種の遺伝子ばかりでなく、共通して他の遺伝子への適用も可能となることが挙げられる。また、脂質膜構造体または粒子物単独の水分散液をあらかじめ製造するため、乳化時の遺伝子の分解を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御もたやすいので、前述する2つの製造方法に比べて比較的製造が容易であるといえる。
【0075】
さらにまた別の製造方法としては、水系溶媒に分散した脂質膜構造体または粒子物をいったん製造した上でさらに乾燥させた乾燥物に、さらに遺伝子を含む水系溶媒を添加する方法を挙げることができる。したがって、この場合にも上記方法と同様に水溶性の遺伝子に限定される。この方法では、水系溶媒に分散した脂質膜構造体をいったん製造した上でさらに乾燥させた乾燥物を製造するために、この段階で脂質膜構造体は脂質膜の断片として固体状態で存在する。この脂質膜の断片として固体状態に存在させるために、前に記したように水系溶媒として糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液や乳糖水溶液を用いる必要がある。ここで、遺伝子を含む水系溶媒を添加すると、固体状態で存在していた脂質膜の断片は水の侵入とともに水和を速やかに始め、脂質膜構造体を再構成することができる。この時に、遺伝子が脂質膜構造体内部に保持された形態のものが製造できることになる。この方法のメリットとしては、一度製造すれば、一つの遺伝子ばかりでなく共通して他の遺伝子への適用も可能となること、並びに脂質膜構造体または粒子物単独の水分散液をあらかじめ製造するため、乳化時の遺伝子の分解を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御もたやすいので、前述する方法に比べて比較的製造が容易であることが挙げられる。また、この他に、凍結乾燥あるいは噴霧乾燥を行うため、製剤としての保存安定性を保証しやすいこと、乾燥製剤を遺伝子水溶液で復水しても大きさ(粒子径)を元にもどせること、高分子の遺伝子の場合でも脂質膜構造体または粒子物の内部に遺伝子を保持させやすいことなどが挙げられる。
【0076】
脂質膜構造体または粒子物と遺伝子との混合物を、水系溶媒に分散した形態として調製する方法としては、他に、リポソームを製造する方法としてよく知られる方法、例えば超音波照射法、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法、薄膜法、逆相蒸発法、エタノール注入法、脱水−再水和法などを挙げることができる。大きさ(粒子径)を制御したい場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し慮過)を行うことができる。
【0077】
また、上記の脂質膜構造体または粒子物と遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに乾燥させる方法としては、凍結乾燥や噴霧乾燥が挙げられる。この時の水系溶媒としては、脂質膜構造体または粒子物単独の場合と同様に糖水溶液、好ましくはショ糖水溶液や乳糖水溶液を用いるとよい。上記の脂質膜構造体または粒子物と遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに凍結させる方法としては、通常の凍結方法が挙げられるが、この時の水系溶媒としては、脂質膜構造体単独の場合と同様に、糖水溶液や多価アルコール水溶液を用いるとよい。
【0078】
本発明の遺伝子含有組成物中に含まれる脂質膜構造体または粒子物の割合としては、遺伝子1μgに対して、1〜500nmolが好ましく、5〜10nmolがより好ましい。
【0079】
本発明の遺伝子含有組成物を用いれば、インビトロ及びインビボのいずれにおいても、所望の細胞内に遺伝子を効率良く導入することができ、かつ導入した遺伝子を当該細胞内で効率よく発現させることができる。
【0080】
本発明において、遺伝子を導入する細胞としては、インビトロ培養細胞、生体から抽出した細胞、生体内に存在する細胞を挙げることができる。好ましくは腫瘍細胞である。
【0081】
かかる細胞への遺伝子の導入方法としては、インビトロの場合には、標的とする細胞を含む懸濁液に本発明の遺伝子含有組成物を添加する方法、本発明の遺伝子含有組成物を含有する培地で標的とする細胞を培養する方法などを挙げることができる。インビトロ培養細胞への遺伝子導入には、溶液、凍結乾燥物、エアロゾルの形態の組成物が用いられる。
【0082】
また、インビボの場合には、本発明の遺伝子含有組成物を宿主(ヒト、ヒトを除く動物)に投与する方法を挙げることができる。宿主への投与手段としては、経口投与でも、非経口投与でもよいが、非経口投与が好ましい。剤形としては、通常知られたものでよく、経口投与の剤形としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等を挙げることができる。また、非経口投与の剤形としては、例えば、注射剤、点眼剤、軟膏剤、坐剤等を挙げることができる。遺伝子を細胞に導入するには、組織に直接注入する、静脈および標的組織の支配動脈等の血管内に投与する、エアロゾル化して呼吸器に投与する、生分解性カプセル等に封入して組織に埋め込む、消化管内で分解可能なカプセル等に封入して経口投与する等の方法が用いられる。
【0083】
本発明の遺伝子含有組成物は、細胞に取り込まれることで、当該細胞内または組織内で遺伝子が効率よく発現され、産生されたタンパク質に基づいて生理活性作用または薬理活性作用を発揮する。ゆえに本発明の遺伝子含有組成物は、種々の疾患の治療や予防に有効な遺伝子治療剤(医薬組成物)として有用である。
【実施例】
【0084】
以下に、製造例および実験例によって本発明の効果を明らかにするが、これらは単なる例示であり、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0085】
参考製造例1 4-{[(2-hydroxyethyl)(2-naphthylmethyl)amino]methyl}-N-(tetrahydro-2H-pyran-2-yloxy)
benzamide (化合物5)の製造
下記反応工程に従って、標題の化合物5を製造した。
【0086】
【化11】

【0087】
(1)化合物2の合成
Methyl ( 4-aminomethyl ) benzoate hydrochloride (化合物1)(シグマアルドリッチ社)(10.0 g, 44.8 mmol)、Et3N 6.92 ml(44.8 mmol)、そして2-Naphthaldehyde 7.74 g (44.8 mmol)を順に脱水CHCl3に溶解させ、NaBH(OAc)3(14.7 g, 44.8 mmol)を加えた後4.5 hr室温で攪拌した。220 ml の飽和NaHCO3水溶液を加えることで反応を止め、そのまま室温で2 時間攪拌した。この溶液をCHCl3で抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、CHCl3相を減圧濃縮し黄色の固体残渣を得た。この残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 酢酸エチル:トルエン=8:1)にて精製し、methyl 4-{[(2-naphthylmethyl)amino]methyl}benzoate (化合物2)(11.0 g、収率80 %)を得た(非特許文献4:Synthesis and cancer antiproliferative activity of new histone deacetylase inhibitors: hydrophilic hydroxamates and 2-aminobenzamide-containing derivatives, Y. Nagaoka, et al., European Journal of Medicinal Chemistry 41 (2006) 697-708参照)。
【0088】
化合物2の1H NMR結果は下記の通りである:
1H NMR (CDCl3) δ: 3.90 (2H, s, NaphCH2), 3.91 (3H, s, CO2Me), 3.97 (2H, s, NHCH2Ph), 7.42-7.49 (5H, m), 7.75-7.83 (4H, m), 7.99-8.01 (2H, m)。
【0089】
(2)化合物3の合成
化合物2(18.7 g, 61.2 mmol)と1M LiOH水溶液 (244.8 ml, 244.8 mmol)をTHF (357 ml)に溶解させ室温で10時間撹拌した。氷冷下、反応液に30% HClを滴下し、溶液をpH 1にして化合物3(20g 収率100%)の結晶を塩酸塩として析出させた。化合物3の融点、1H NMR、IRおよびHR-FAB-MS結果は下記の通りである:
mp. 227-229°C
1H-NMR (399.65 MHz, DMSO-d6) δ: 3.78 (2H, s), 3.85 (2H, s), 7.43-7.90 (11H, m). 13C-NMR (100.4 MHz CDCl) δ: 51.66, 52.14, 125.57, 126.05, 126.29, 126.78, 127.52, 127.56, 127.69, 128.13, 129.27, 129.48, 132.21, 132.94, 137.60, 167.36
IR (KBr)cm-1: 2781, 2592, 1595, 1537, 1373, 1012, 817, 781, 752.
HR-FAB-MS m/z: 292.1336 (calcd for C19H18NO2, 292.1338)。
【0090】
(3)化合物4の合成
化合物3の塩酸塩 (16.8 g, 51.2 mmol)とEt3N (7.13 ml, 51.2 mmol)をDMF 180 mlに加え、この混合液にNH2-O-THP (5.7 g, 48.6 mmol)、HOBt (6.92 g, 51.2 mmol)、およびWSCI (8.98 ml, 51.2 mmol)の順に加え、5時間撹拌した。その後、反応溶液を減圧濃縮し、残渣をクロロホルムに溶解させて、それを飽和炭酸水素ナトリウム溶液と飽和食塩水で洗浄した。有機層をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)にて精製することにより、化合物4(15.3 g、収率80.9 %)を得た。化合物4のIR、1H NMR、13C-NMRおよびHR-FAB-MS結果は下記の通りである:
IR (KBr)cm-1:3165, 2945, 2848, 1658, 1454, 1128, 904, 873.
1H-NMR (399.65 MHz, CDCl3) d: 1.58-1.92 (6H, m, CH2x3 of THP), 3.63-3.69 (1H, m, -CHa-O of THP), 3.88 (2H, s, N-CH2-Ar), 3.95 (2H, s, Naph-CH2-N), 4.02 (1H, ddd, J=11.4, 9.2, 2.6 Hz, -CHb-O of THP ), 5.08 (1H, m, O- CH-O of THP), 7.42-7.83 (11H, m).
13C-NMR (100.4 MHz CDCl3) d: 18.70, 24.99, 28.08, 52.57, 53.14, 62. 72., 102.72, 125.61, 126.03, 126.47, 126.53, 127.30, 127.63, 127.65, 128.13, 128.29, 130.58, 132.67, 133.37, 137.37, 144.65.
HR-FAB-MS m/z: 391.2025 (calcd for C24H27N2O3, 391.2022)。
【0091】
(4)化合物5の製造
4-{[(2-naphthylmethyl)amino]methyl}-N-(tetrahydro-2H-pyran-2-yloxy)benzamide(化合物4) (1.0 g, 0.94 mmol)、Et3N 0.71 ml (5.12 mmol)、 そして2-bromoethanol (0.36 ml,5.12 mmol)を順次CH3CN 20 mlに溶解させ、この混合溶液を60℃で6時間撹拌した。反応液を減圧濃縮して、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/へキサン=3/2) にて分画し、標題の化合物5を含む画分をクロロホルムとヘキサンで再沈殿させ、化合物5(650 mg、収率58.5%)を得た。当該化合物5の1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MSの結果は次の通りである。
1H-NMR (399.65 MHz, CDCl3) d: 1.62-1.86 (6H, m, CH2 x 3 of THP) , 2.71 (2H, t, J=5.6 Hz, N-CH2-CH2 ), 3.62 (2H, t, J=5.6 Hz, CH2-CH2-OH ), 3.64-3.68 (1H, m, -CHa-O of THP), 3.69 (2H, s, N-CH2-Ar), 3.78 (2H, s, Naph-CH2-N ), 4.00 (1H, ddd, J=11.2, 9.2, 2.8 Hz, -CHb-O of THP ) 5.07 (1H, t, J=2.8 Hz, O- CH-O of THP), 7.38-7.84 (11H, m, Ar-H), 8.81 (1H, s, CO-NH-O ).
13C-NMR (100.40 MHz, CDCl) d: 18.61, 24.99, 28.03, 54.98, 57.97, 58.54, 58.71, 62.63, 102.65, 125.79, 126.14, 126.83, 127.37, 127.59, 127.67, 127.73, 128.29, 129.09, 130.97, 132.79, 133. 24, 135.91, 143.33.
IR (neat) cm-1 3221, 2936, 1719, 1653, 1275, 1204, 1051, 905.
HR-FAB-MS m/z: 435.2289 (calcd for C26H31N2O4, 435.2284)。
【0092】
製造例1 2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthylmethyl)amino]ethyl laurate(以下、「化合物DD-K-182」ともいう)の製造
下記反応工程に従って、化合物DD-K182を製造した。
【0093】
【化12】

【0094】
(1)2-[(2-naphthylmethyl)(4-{[(tetrahydro-2H-pyran-2-yloxy)amino]carbonyl}benzyl)amino]ethyl laurate (化合物6)の製造
参考製造例1で製造した4-{[(2-hydroxyethyl)(2-naphthylmethyl)amino]methyl}-N-(tetrahydro-2H-pyran-2-yloxy)
benzamide (化合物5) (26.2 mg, 60.3 μmol)のCH2Cl2(2.0 ml)溶液に、Lauric acid (12.1 mg, 60.3 μmol)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(12.4 mg, 60.3 μmol)、ジメチルアミノピリジン(DMAP) (7.37 mg, 60.3 μmol) を加え、室温で5時間撹拌した。反応液から沈殿物を濾過して除いた後、ろ液を減圧濃縮し、得られた濃縮混合物をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(SiO2TLC) (展開溶媒:EtOAc/hexane=1 / 4)で精製し、無色油状の目的化合物6 (22.4 mg, 36.3 μmol, 収率60.2%)を得た。当該化合物6の1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MSの結果は次の通りである。
1H-NMR (CDCl3, 399.65 MHz) d: 0.87 (t, 3H, J=7.2Hz, CH3CH2), 1.25-1.28 (m, 16H), 1.43-1.58 (m, 6H), 1.84-1.92 (m, 2H), 2.28 (t, 2H, J=7.6Hz, COCH2), 2.77 (t, 2H, J=5.6Hz, NCH2CH2), 3.72 (s, 2H, NCH2Ph), 3.78 (s, 2H, NCH2), 4.20 (t, 2H, J=6.0Hz, OCH2CH2N), 5.08 (s, 1H, OCH2O), 7.43-7.52 (m, 5H, Ar-H), 7.70-7.83 (m, 6H, Ar-H).
13C-NMR (100.40 MHz CDCl) d: 14.09, 18.66, 22.66, 24.91, 25.02, 25.60, 28.06, 29.18 29.28, 29.31, 29.46, 29.59, 31.86, 33.91, 34.34, 51.91, 58.31, 58.89, 62.05, 62.69, 102.71, 125.62, 126.00, 126.92, 127.20, 127.30, 127.61, 127.65, 128.01, 128.88, 130.75, 132.80, 133.27, 136.56, 144.06, 173.74.
IR (CHCl3) cm-1: 3010, 2927, 1728, 1683, 1456, 1112, 777, 669.
HR-FAB-MS m/z: 617.3960 (calcd for C38H53N2O5, 617.3876)。
【0095】
(2)2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthylmethyl)amino]ethyl laurate (化合物DD-K-182)の製造
上記で得られた化合物6(16.5 mg, 26.8 μmol)に、酢酸 (2.0 ml)、THF (1.0 ml)、および水(0.5 ml)の混合溶液を加え60℃で10時間加熱還流した。反応溶液を減圧濃縮後、得られた濃縮混合物を分取SiO2 TLC (展開溶媒: EtOAc/ hexane=1 / 2)で精製し、目的の褐色油状の化合物DD-K-182 (11.5 mg, 21.6 μmol, 収率80.6%)を得た。当該化合物DD-K-182の1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MSの結果は次の通りである。
【0096】
1H-NMR (CDCl3, 399.65 MHz) d: 0.874 (t, 3H, J=6.8 Hz), 1.03-1.25 (m, 16H), 1.57-1.70 (m, 2H), 1.90-1.93 (d, 1H), 2.27 (t, 2H, J=7.6 Hz), 2.76 (t, 2H, J=5.6 Hz), 3.70 (s, 2H), 3.78 (s, 2H), 4.18 (t, 2H, J=5.6 Hz), 7.42-7.50 (m, 5H), 7.68-7.82 (m, 6H).
13C-NMR (100.40 MHz CDCl) d: 14.09, 22.66, 24.90, 24.93, 25.58, 29.18, 29.28, 29.32, 29.46, 29.60, 31.89, 33.87, 34.36, 52.04, 58.36, 59.00, 62.08, 125.66, 126.03, 126.87, 126.92, 127.34, 127.62, 127.66, 128.04, 129.01, 129.37, 132.83, 133.30, 136.54, 144.41, 173.78.
IR (CHCl3) cm-1: 3405, 3210, 2927, 2854, 1728, 1612, 1454, 763.
HR-FAB-MS m/z: 533.3373 (calcd for C33H45N2O4, 533.3301)。
【0097】
製造例2 1-cholest-5-en-3-yl 4-{2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthylmethyl)amino]ethyl}succinate (以下、「化合物CM-K-182」ともいう)の製造
下記反応工程に従って、化合物CM-K182を製造した。
【0098】
【化13】

【0099】
(1)1-cholest-5-en-3-yl 4-{2-[(2-naphthylmethyl)(4-{[(tetrahydro-2H-pyran-2-yloxy)amino]carbonyl}benzyl)amino]ethyl} succinate (化合物7)の製造
参考製造例1で製造した化合物5 (48.6 mg, 111.6 μmol)のCH2Cl2(2.0 ml)溶液に、Cholesteryl succinate (54.4 mg, 111.6 μmol)、DCC(23.0 mg, 111.6 μmol)、DMAP (13.6 mg, 111.6 μmol) を加え、室温で4時間撹拌した。反応液から沈殿物を濾過して除いた後、濾液を減圧濃縮し、得られた混合物を分取SiO2 TLC (展開溶媒: EtOAc/hexane=1/2)で精製し、上記標題の無色油状の化合物7 (66.3 mg, 73.4 μmol, 収率65.8%)を得た。当該化合物7の1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MSの結果は次の通りである。
1H-NMR (CDCl3, 399.65 MHz) d: 0.67-2.04 (m, 48H), 2.29 (d, 2H, J=8.0 Hz, CCH2CH), 2.57 (m, 2H, 2OCH2CH2O), 2.76 (t, 2H, J=5.6 Hz, NCH2CH2), 3.69 (s, 2H, NCH2Ph), 3.78 (s, 2H, NCH2), 4.20 (t, 2H, J=5.6 Hz, OCH2CH2N), 4.62 (m, 1H, OCHCH2), 5.08 (s, 1H, OCH2O), 5.35 (d, 1H, CCHCH2), 7.43-7.53 (m, 5H, Ar-H), 7.70-7.82 (m, 6H, Ar-H).
13C-NMR (100.40 MHz CDCl) d: 11.83, 18.63, 18.70, 19.27, 21.00, 22.54, 22.80, 23.81, 24.26, 24.91, 25.04, 25.60, 27.71, 27.99, 28.07, 28.21, 29.41, 31.83, 31.88, 33.91, 35.76, 36.17, 36.55, 36.92, 38.04, 39.50, 39.71, 42.29, 49.99, 51.96, 56.12, 56.67, 58.31, 59.01, 62.44, 62.61, 74.43, 102.63, 122.71, 125.63, 126.02, 126.94, 127.24, 127.34, 127.62, 127.66, 128.06, 128.87, 130.82, 132.81, 133.27, 136.52, 144.01, 171.74, 172.17.
IR (CHCl3) cm-1: 3008, 2947, 2854, 1728, 1683, 1456, 1363, 1112, 761.
HR-FAB-MS m/z: 903.5882 (calcd for C57H78N2O7: 903.5809)。
【0100】
(2)1-cholest-5-en-3-yl 4-{2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthylmethyl)amino]ethyl} succinate (化合物CM-K-182)の製造
上記で合成した化合物7 (33.0 mg, 36.6 μmol)に、酢酸(2.0 ml)、THF (1.0 ml)、および水(0.5 ml)の混合溶液を加え60℃で7時間加熱還流した。反応液を減圧濃縮後、得られた混合物を分取SiO2 TLC (展開溶媒: EtOAc/hexane=2/3)で精製し、上記標題の褐色油状の化合物DM-K-182 (18.4 mg, 22.5 μmol, 収率61.5%)を得た。当該化合物DM-K-182の1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MSの結果は次の通りである。
1H-NMR (CDCl3, 399.65 MHz) d:0.67-1.98 (m, 41H), 2.30 (m, 2H, CCH2CH), 2.56 (m, 4H, 2OCH2CH2O), 2.74 (m, 2H,NCH2CH2), 3.68 (s, 2H, NCH2), 3.80 (s, 2H, NCH2Ph), 4.19 (t, 2H, J=4.8Hz, OCH2CH2N), 4.61 (m, 1H, OCHCH2), 5.34 (s, 1H, CCHCH2), 7.44-7.54 (m, 5H) 7.69-7.80 (m, 6H).
13C-NMR (100.40 MHz CDCl) d: 11.85, 18.71, 19.28, 21.02, 22.55, 22.80, 23.83, 24.27, 27.72, 28.00, 28.21, 29.18, 29.41, 29.68, 31.85, 31.88, 35.78, 36.19, 36.56, 36.91, 38.03, 39.52, 39.72, 42.32, 49.98, 52.22, 56.15, 56.67, 58.37, 59.26, 62.42, 74.64, 122.77, 125.68, 126.05, 126.94, 127.39, 127.63, 127.67, 128.09, 128.97, 132.84, 133.300, 136.50, 139.50, 144.36, 171.99, 172.15.
IR (CHCl3)cm-1: 3421, 2935, 2854, 1728, 1612, 1465, 1365, 1164.
HR-FAB-MS m/z: 819.5304 (calcd for C52H71N2O6, 819.5234)。
【0101】
製造例3 cholest-5-en-3-yl 4-{[(4-{[(2-hydroxyethyl)(2-naphthylmethyl)amino]methyl}benzoyl)amino]oxy}-4-oxobutanoate(以下、「化合物K-182-CM」ともいう)の製造
下記反応工程に従って、化合物K-182-CMを製造した。なお、合成出発化合物として使用したK-182 N-hydroxy-4-{[(2-hydroxyethyl)(2-naphthylmethyl)amino]methyl}benzamide (K-182)は、前述する非特許文献4に記載されている方法で合成した。
【0102】
【化14】

【0103】
K-182 (21.2mg, 60.5μmol)のCH2Cl2(2.0 ml)溶液に、Cholesteryl succinate (29.5 mg, 60.5 μmol)、DCC(12.5 mg, 60.5 μmol)、DMAP (7.4mg, 60.5μmol) を加え、室温で6時間撹拌した。反応液から沈殿物を濾過して除いた後、濾液を減圧濃縮し、得られた混合物を分取SiO2 TLC (EtOAc/hexane=4/5)で精製し、標題の無色油状の化合物K-182-CM (10.5mg, 12.8μmol, 収率21.2%)を得た。当該化合物K-182-CMの1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MS の結果は次の通りである。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz) d: 2.32 (d, 2H, J=7.6 Hz, CCH2CH), 2.71 (m, 4H, 2OCH2CH2O), 2.87 (t, 2H, J=6.8Hz, NCH2CH2), 3.62 (t, 2H, J=5.6 Hz, HOCH2CH2), 3.70 (s, 2H, NCH2Ph), 3.78 (s, 2H, NCH2), 4.63 (m, 1H, OCHCH2), 5.36 (m, 1H,CCHCH2), 7.41-7.48 (m, 5H, Ar-H), 7.70-7.83 (m, 6H, Ar-H).
13C-NMR (100.40 MHz CDCl) d: 11.85, 18.70, 19.28, 21.02, 22.54, 22.80, 23.83, 24.27, 27.05, 27.69, 28.00, 28.21, 29.14, 31.84, 31.89, 35.78, 36.18, 36.58, 36.94, 38.00, 39.52, 39.73, 42.32, 50.01, 55.17, 56.16, 56.69, 58.07, 58.65, 58.82, 74.79, 122.77, 125.84, 126.19, 126.87, 127.64, 127.68, 127.71, 127.79, 128.36, 129.29, 129.61, 132.86, 133.30, 135.87, 139.49, 144.29, 171.06.
IR (CHCl3) cm-1 : 3320, 2949, 2868, 1759, 1724, 1466, 1364, 1105, 667.
HR-FAB-MS m/z: 819.5320 (calcd for C52H71N2O6, 819.5234)。
【0104】
製造例4 N-(dodecanoyloxy)-4-{[(2-hydroxyethyl)(2-naphthylmethyl)amino]methyl}benzamide (以下、「化合物K-182-DD」ともいう)の製造
下記反応工程に従って、化合物K-182-DDを製造した。
【0105】
【化15】

【0106】
K-182 (33.2 mg, 94.6 μmol)のCH2Cl2(4.0 ml)溶液に、Lauric acid (19.0 mg, 94.6 μmol)、DCC(19.5 mg, 94.6 μmol)、およびDMAP (11.56 mg, 94.6 μmol) を加え、室温で5時間撹拌した。反応液から沈殿物を濾過して除いた後、濾液を減圧濃縮し、得られた混合物を分取SiO2 TLC (EtOAc/ hexane=1/1)で精製し、無色油状の標題化合物K-182-DD(12.23mg, 22.96μmol, 収率24.3%)を得た。当該化合物K-182-DDの1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MS の結果は次の通りである。
1H-NMR (CDCl3, 400MHz) d: 0.88 (t, 3H, J=7.2 Hz, CH3CH2), 2.55 (t, 2H, J=7.6 Hz, COCH2), 2.71(t, 2H, J=5.2Hz, NCH2CH2), 3.62 (t, 2H, J=5.2 Hz, HOCH2CH2), 3.70 (s, 2H, NCH2Ph), 3.78 (s, 2H, NCH2), 7.41-7.52 (m, 5H, Ar-H), 7.71-7.84 (m, 6H, Ar-H).
13C-NMR (100.40 MHz CDCl) d: 14.10, 22.66, 24.70, 24.90, 25.59, 28.99, 29.14, 29.31, 29.37, 29.56, 31.78, 31.89, 33.90, 55.11, 58.03, 58.61, 58.77, 125.85, 126.19, 126.86, 127.63, 127.67, 127.71, 127.80, 128.37, 129.29, 129.78, 132.84, 133.29, 135.86, 144.22, 172.20.
IR (CHCl3) cm-1 : 3341, 3010, 2927, 2854, 1780, 1697, 14111, 1141, 773.
HR-FAB-MS m/z: 533.3370 (calcd for C33H45N2O4, 533.3301)。
【0107】
製造例5 2-(dodecyldisulfanyl)ethyl 2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthylmethyl) amino]ethyl carbonate(以下、「化合物DDTS-K-182」ともいう)の製造
下記反応工程に従って、化合物DDTS-K-182を製造した。
【0108】
【化16】

【0109】
(1)2-[(2-naphthylmethyl)(4-{[(tetrahydro-2H-pyran-2-yloxy)amino]carbonyl}benzyl)amino]ethyl 2-(2-pyridinyldisulfanyl)ethyl carbonate (化合物8)の製造
参考製造例1で製造した化合物5(100 mg、0.230 mmol)とDMAP(167 mg、1.38 mmol)を脱水CH2Cl(2.0 ml)に溶解し、この溶液にtriphosgene(23.9 mg、0.0805 mmol)を加え15分間室温で撹拌した。この反応溶液に2-(2-pyridinyldisulfanyl)ethanol(Jones, Lisa R. et al.,: Journal of the American Chemical Society (2006), 128(20), 6526-6527)(43.0 mg、0.230 mmol)を加え7時間室温で撹拌した。反応溶液をCHCl3(20 ml)で希釈した後、この溶液を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥後、減圧濃縮し、オイル状の残渣を得た。これを分取SiO2TLC (展開溶媒:酢酸エチル/へキサン=3/2)にて精製することにより、無色オイル状の標題化合物8(55.0 mg、収率36.9%)を得た。当該化合物8の1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MS の結果は次の通りである。
【0110】
1H-NMR (399.65 MHz, CDCl3) δ:1.60-1.86 (6H, m, CH2 x 3 of THP), 2.79 (2H, t, J=6Hz, CH2-CH2-SS), 3.05 (2H, t, J =3.2 Hz, N-CH2-CH2), 3.64 (1H, m, -CHa-O of THP), 3.72 (2H, s, N-CH2-Ar), 3.80 (2H, s, Naph-CH2-N ), 3.99 (1H, ddd, J=11.2, 9.2, 2.8 Hz, -CHb-O of THP), 4.23 (2H, t, J =3.2Hz, CH2-CH2-OCOO ), 4.35 (2H, t, J=6.0 Hz, OCOO-CH2-CH2), 5.08 (1H, m, O- CH-O), 7.07-7.81 (15H, m, Ar-H), 8.45 (1H, m, Pyr-H).
13C-NMR (100.40 MHz CDCl) d: 18.65, 24.99, 28.07, 37.00, 51.79, 58.33, 58.86, 62.61, 65.34, 65.84, 76.68, 77.00, 77.31, 102.60, 119.88, 120.88, 125.63, 125.99, 126.87, 127.24, 127.32, 127.62, 128.04, 128.82 132.78, 133.25, 136.32, 137.05, 143.73, 149.68, 154.76, 159.47.
IR (neat) cm-1: 3400, 3027, 3010, 2950, 2824, 1743, 1684, 703.
HR-FAB-MS m/z: 648.2205 (calcd for C34H38N3O6S2 [M+H+], 648.2202)。
【0111】
(2)2-(dodecyldisulfanyl)ethyl 2-[(2-naphthylmethyl)(4-{[(tetrahydro-2H-pyran-2-yloxy)amino]carbonyl}benzyl)amino]ethyl carbonate (化合物9)の製造
上記で得られた化合物8 (55 mg、0.085 mmol) をDMSO (1.5 ml)に溶解し、dodecanethiol (0.02 ml、0.085 mmol ) を加え室温で2.5時間撹拌した。反応溶液をCHCl3(10 ml)で希釈後、その溶液を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥後、減圧濃縮し油状の残渣を得た。これを分取SiO2TLC (展開溶媒:酢酸エチル/へキサン=3/2)にて精製することにより、無色油状の標題化合物9(59.0 mg、収率93.9%)を得た。当該化合物9の1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MS の結果は次の通りである。
【0112】
1H-NMR (399.65 MHz, CDCl3) δ: 0.88 ( 3H, t, J =7.2Hz, (CH2)9-CH3) 1.25 (18H, m, CH2-(CH2)9-CH3), 1.35 (2H, t, J =7.2Hz, CH2-CH2-(CH2)9 ), 1.62-1.86 (6H, m, CH2 x 3 of THP) δ:2.69 (2H, t, J=7.2Hz, SS-CH2-CH2 ), 2.81 (2H, t, J =6.0Hz, N-CH2-CH2 ), 2.90 ( 2H, t, J =6.8Hz, CH2-CH2-SS ), 3.64 (1H, m, CH2-CHa-O), 3.73 (2H, s, N-CH2-Ar ), 3.80 (2H, s, Naph-CH2-N ), 4.00 (1H, ddd, J=11.2, 9.2, 2.8 Hz, CH2-CHb-O), 4.25 (2H, t, J =6.0Hz, CH2-CH2-OCOO), 4.34 (2H, t,J=6.8Hz, OCOO-CH2-CH2 ), 5.07 (1H, m, O-CH-O), 7.45-7.93 (11H, m, Ar-H).
13C-NMR (100.40 MHz CDCl) δ: 14.053, 18.680, 22.631, 24.994, 28,057. 28.460, 29.094, 29.160, 29.283, 29.440, 29.530, 29.580, 31.860, 36.816, 39.088, 39.187, 41.180, 51.824, 58.345, 58.905, 60.345, 62.700, 65.812, 65.869, 76.679, 77.000, 77.313, 102.719, 125.614, 125.976, 126.857, 127.219, 127.318, 127.615, 128.035, 128.578, 128.866, 129.714, 130.776, 132.801, 133.270, 136.341, 143.825, 154.873.
IR (neat) cm-1 : 3400, 3030, 2927, 2855, 1744, 1683.
HR-FAB-MS m/z: 738.3816 (calcd for C41H59N2O6S2 [M+H+], 739.3815)。
【0113】
(3)2-(dodecyldisulfanyl)ethyl 2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthylmethyl) amino]ethyl carbonate (化合物DDTS-K-182)の製造
上記で得られた化合物9(29.0 mg、39.0μmol)のTHF/ H2O (2/1)(0.60 ml)溶液に酢酸(0.80 ml)を加え、60℃で6時間撹拌した。その後、反応液を減圧濃縮し、油状の残渣を得た。これを分取SiO2TLC (展開溶媒:酢酸エチル/へキサン=1/2)にて精製することにより、無色油状の標題化合物DDTS-K-182 (19.0 mg、収率76.0%)を得た。当該化合物DDTS-K-182の1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MS の結果は次の通りである。
1H-NMR (399.65 MHz, CDCl3) d: 0.88 (3H, t, J=7.2 Hz, (CH2)9-CH3), 1.25 (20H, m, CH2-(CH2)10-CH3), 2.69 (2H, t, J =7.2 Hz, SS-CH2-CH2), 2.81 (2H, t, J =5.2Hz, N-CH2-CH2), 2.90 (2H, t, J =5.6 Hz, CH2-CH2-SS ), 3.73 (2H, s, N- CH2-Ar), 3.80 (2H, s, Naph-CH2-N), 4.24 (2H, t, J =5.2 Hz, CH2-CH2-OCOO), 4.34 (2H, t, J =5.6Hz, OCOO-CH2-CH2), 7.47-7.81 (11H, m, Ar-H ).
13C-NMR (100.40 MHz CDCl) 14.061, 14.135, 20.985, 22.639, 28.468, 29.102, 29.176, 29.300, 29.456, 29.547, 29.588, 29.604, 29.654, 31.877, 36.816, 39.195, 51.907, 58.386, 59.028, 60.411, 65.828, 65.902, 125.663, 126.017, 126.874, 127.368, 127.631, 128.067, 128.989, 132.818, 133.279, 136.317, 144.047, 154.906.
IR (neat) cm-1: 3300, 3026, 2928, 2855, 1730, 1653, 705.
HR-FAB-MS m/z: 654.3243 (calcd for C36H51N2O5S2 [M+H+], 655.3239)。
【0114】
製造例6 cholest-5-en-3-yl (13R)-13-amino-2-{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}-1-(2-naphthyl)-6-oxo-5,7-dioxa-10,11-dithia-2-azatetradecan-14-oate(以下、「化合物CCS-K-182」ともいう)の製造
下記反応工程に従って、化合物CCS-K-182を製造した。
【0115】
【化17】

【0116】
(1)cholest-5-en-3-yl (2R)-2-{[(9H-fluoren-9-ylmethoxy)carbonyl]amino}-3-
{[(4-methoxyphenyl)(diphenyl)methyl]sulfanyl}propanoate (化合物10)の製造
Fmoc-Cys (Mmt)-OH (500 mg、0.812 mmol) , cholesterol (314 mg、0.812 mmol) , DMAP (99.2 mg、0.812 mmol), およびDCC (178 mg、0.812 mmol) をCH2Cl2(ml)に溶解し、この溶液を室温で3時間撹拌した。反応溶液をろ過してDCUを除いた後、ろ液をクロロホルム(ml)で希釈し、この溶液を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を集め、Na2SO4で乾燥ろ過後、減圧濃縮し、油状の残渣を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/へキサン=1/5) にて精製することにより無色油状の標題化合物10(581mg、収率72.9%)を得た。当該化合物10の1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MS の結果は次の通りである。
1H-NMR (399.65 MHz, CDCl3) d: 0.68-1.86 (43H, m, chol), 2.04 (1H, m, S-CHa-CH), 2.30 (2H, m, CH-CH2-C=), 2.59-2.65 (1H, m, S-CHb-CH), 3.76 (3H, s, O-CH3), 4.24 (1H, m, CH2-CH-(Ar)2), 4.35 (2H, m, COO-CH2- of Fmoc), 4.63 (1H, m, NH-CH-COO), 5.32 (1H, m, CH2-CH=C), 6.80-7.77 (22H, m, Ar-H).
13C-NMR (100.40 MHz CDCl) 11.846, 14.102, 18.704, 19.305, 21.018, 22.549, 22.639, 22.804, 23.817, 24.270, 27.637, 27.999, 28.213, 31.835, 31.893, 34.322, 35.779, 36.174, 36.553, 36.866, 37.837, 39.508, 39.706, 42.307, 47.091, 49.972, 53.051, 55.051, 56.130, 56.665, 66.437, 67.170, 75.658, 113.249, 119.950, 122.980, 125.145, 126.791, 127.080, 127.697, 127.969, 129.393, 129.418, 130.727, 136.398, 139.313, 141.264, 143.775, 143.907, 144.599, 144.640, 155.573, 158.207, 169.890.
IR (neat) cm-1 : 3428, 3028, 2951, 2855, 1728, 1669, 700.
HR-FAB-MS m/z:1006.5414 (calcd for C65H77NNaO5S [M+Na+], 1006.5420)。
【0117】
(2)cholest-5-en-3-yl (2R)-2-amino-3-{[(4-methoxyphenyl)(diphenyl)methyl]sulfanyl}propanoate (化合物11)の製造
上記で得られた化合物10を20%piperidine/CH2Cl2に溶解し、この溶液を室温で20分間撹拌した。この反応液をクロロホルム(ml)で希釈し、この溶液を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を集め、Na2SO4で乾燥後ろ過した溶液を減圧濃縮し油状の残渣を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/へキサン=1/5) にて精製することにより目的の無色油状化合物11 (101 mg、収率39.4%)を得た。当該化合物11の1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MS の結果は次の通りである。
1H NMR (399.65 MHz, CDCL) d: 0.68-1.83 (43H, m, chol), 1.99 (1H, m, S-CHa-CH), 2.25 (2H, m, CH-CH2-C=), 2.49 (1H, m, S-CHb-CH), 3.20 ( 1H, m, O-CH-(CH2)2), 3.78 (3H, s, O-CH3), 4.52-4.60 (1H, m, NH-CH-COO), 5.36-5.36 (1H, m, CH2-CH=C), 6.80-7.43 (14H, m, Ar-H).
13C NMR (100.40 MHz CDCL) 11.846, 14.185, 18.712, 19.305, 21.026, 22.541, 22.796, 23.825, 24.270, 27.645, 27.999, 28.205, 31.860, 31.893, 35.779, 36.182, 36.561, 36.907, 37.195, 37.928, 39.517, 39.722, 42.316,50.005, 54.121, 55.200, 56.147, 56.682, 60.353, 66.372, 74.785, 113.183, 122.807, 126.660, 127.895, 129.508, 130.801, 136.662, 139.445, 144.912, 144.936, 158.158, 173.232.
IR (neat) cm-1 : 3400, 3050, 2951, 2855, 1718, 1650, 701.
HR-FAB-MS m/z: 784.4734 (calcd for C50H67NNaO3S, 784.4739)。
【0118】
(3)cholest-5-en-3-yl (13R)-13-amino-1-(2-naphthyl)-6-oxo-2-(4-{[(tetrahydro-2H-pyran-2- yloxy)amino]carbonyl}benzyl)-5,7-dioxa-10,11-dithia-2-azatetradecan-14-oate (化合物12)の製造
化合物11(35. 1 mg, 0.0462 mmol) を、TFA (16 μl) ,トリエチルシラン(TESH) (20 μl),およびCH2Cl2(2.0 ml) の混合溶液に溶解し、この溶液を氷冷アルゴン雰囲気下、4時間撹拌した。その後、反応液を減圧濃縮し油状残渣を得た。この残渣をDMSO (0.5 ml) に溶解させ、この溶液に化合物5 (30 mg、0.069 mmol) を加え、2時間室温で撹拌した。反応液をクロロホルム(20 ml)に溶解し、この溶液を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥ろ過後、減圧濃縮し油状の残渣を得た。これを分取SiO2TLC(展開溶媒: 酢酸エチル/へキサン=3/2)にて精製することにより無色油状の標題化合物12 (30.0 mg、収率71.0%)を得た。当該化合物12の1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MS の結果は次の通りである。
【0119】
1H-NMR (399.65 MHz, CDCl3) d: 0.67-2.04 (52H, m), 2.31-2.33 (m, 2H , SS-CH2-CH,), 2.81 (2H, t, J=5.6 Hz, N-CH2-CH2), 2.96 (2H, m, CH2-CH2-SS), 3.09-3.14 (1H, m, O-CH-(CH2)2), 3.64 (2H, s, N-CH2-Ar), 3.72 (1H, m, CH2-CHa-O), 3.80 (2H, s, Naph-CH2-N), 4.00 (1H, ddd, J=11.2, 9.2, 2.8 Hz, CH2-CHb-O), 4.25 (2H, t, J=5.6 Hz, CH2-CH2-OCOO), 4.36 (2H, t, J=6.4Hz, OCOO-CH2-CH2), 4.64-4.67(1H, m, NH-CH-COO), 5.07 (1H, m, O-CH-O), 5.30-5.36 (1H,m, CH2-CH=C), 7.43-7.81 (11H, m, Ar-H).
13C-NMR (100.40 MHz CDCl) 11.838, 18.696, 18.811, 19.281, 21.009, 22.541, 22.796, 23.809, 24.253, 25.035, 27.670, 27.991, 28.155, 28.197, 29.678, 31.819, 31.868, 35.762, 36.166, 36.545, 36.890. 37.993, 39.500, 39.698, 42.291, 49.980, 51.890, 53.817, 56.122, 56.657, 58.353, 58.946, 52.815, 65.614, 65.878, 75.279, 102.801, 122.955, 125.655, 126.017, 126.898, 127.252, 127.359, 127.656, 128.084, 128.874, 133.287, 136.341, 143.792, 154.898.
IR (neat) cm-1: 3400, 3030, 2935, 2855, 1734, 1684, 699.
HR-FAB-MS m/z: 1026.5697 (calcd for C59H84N3O8S2 [M+H+], 1026.5700)。
【0120】
(4)cholest-5-en-3-yl (13R)-13-amino-2-{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}-1-(2-naphthyl)-6-oxo-5,7-dioxa-10,11-dithia-2-azatetradecan-14-oate (CCS-K-182)の製造
化合物12(20.0 mg、0.0195 mmol) に酢酸 (0.8 ml), THF (0.4 ml) , H2O (0.2 ml) の混合溶液を加え、60℃で2.5hr撹拌した。その後、反応液を減圧濃縮し油状残渣を得た。これを分取SiO2 TLC(展開溶媒: 酢酸エチル)にて精製することにより、無色油状の標題化合物CCS-K-182 (16mg、収率87.0%)を得た。当該化合物CCS-K-182の1H-NMR、13C-NMR、IRおよびHR-FAB-MS の結果は次の通りである。
1H-NMR(399.65 MHz, CDCl3) d: 0.81-2.01 (47H, m), 2.31 (m, 2H , SS-CH2-CH,), 2.77 (2H, t, J=5.6 Hz, N-CH2-CH2), 2.94 (2H, m, CH2-CH2-SS), 3.13 (1H, m, O-CH-(CH2)2), 3.64 (2H, s, N-CH2-Ar), 3.80 (2H, s, Naph-CH2-N), 4.23 (2H, t, J=5.6 Hz, CH2-CH2-OCOO) 4.33 (2H, t, J=6.4 Hz, OCOO-CH2-CH2), 4.65 (1H, m, NH-CH-COO), 5.34 (1H,m, CH2-CH=C), 7.43-7.81 (11H, m, Ar-H).
13C-NMR (100.40 MHz CDCl) 11.863, 14.127, 18.729, 19.297, 21.026, 22.566, 22.698, 22.821, 23.850, 24.278, 27.670, 28.024, 28.222, 29.366, 29.704, 31.828, 31.893, 35.796, 36.199, 36.553, 36.891, 36.981, 37.986, 39.525, 39.715, 42.316, 49.981, 52.195, 56.147, 56.666, 58.337, 59.259, 65.648, 65.763, 70.530, 75.576, 123.021, 125.705, 126.067, 126.948, 127.426, 127.681, 128.150, 128.924, 132.859, 133.312, 136.350, 139.240, 144.031, 154.906.
IR (neat) cm-1 : 3400, 3019, 2930, 2855, 1740, 1650, 706.
HR-FAB-MS m/z: 942.5115 (calcd for C54H76N3O7S2 [M+H+], 942.5125)。
【0121】
製造例7 4-{[[3-(dodecyldisulfanyl)propyl](2-naphthylmethyl)amino]methyl}-N-
hydroxybenzamide(以下、「化合物15」ともいう)の製造
下記反応工程に従って、化合物15を製造した。
【0122】
【化18】

【0123】
(1)4-({(2-naphthylmethyl)[3-(tritylsulfanyl)propyl]amino}methyl)-N-
(tetrahydro-2H-pyran-2-yloxy)benzamide (化合物13)の製造
化合物4 (100 mg, 0.25 mmol)、3-(tritylsulfanyl)propanal (86.8 mg, 0.25 mmol)、Et3N (42 ml, 0.30 mmol)をクロロホルム (2.0 ml)に溶解し、この溶液にNaBH(OAc)3 (53 mg, 0.5 mmol)加えて室温で2時間撹拌した。その後、反応溶液に飽和NaHCO3水溶液を2 ml加えて室温で1時間撹拌した。これにクロロホルムを5ml加え、有機層を飽和NaHCO3水溶液と飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥後、溶媒を留去した。得られた残渣をSiO2カラムクロマトグラフィー (EtOAc/toluene=1/6)で精製し、目的の無色油状物質である化合物13 (100 mg, 56%収率)を得た。当該化合物13の1H-NMR、13C-NMR、の結果は次の通りである。
1H-NMR (399.65 MHz, CDCl3) d: 1.47-1.84 (6H, m, CH2 x 3 of THP) , 1.53-1.58 (2H, m, N-CH2-CH2-), 2.14 (2H, t, J=7.5 Hz, S-CH2-), 2.33 (2H, t, J=6.8 Hz, N-CH2-CH2 ), 3.45 (2H, s, N-CH2-Ar), 3.53 (2H, s, Naph-CH2-N ), 3.54-3.64 (1H, m, -CHa-O of THP), 3.93-4.02 (1H, m, -CHb-O of THP ) 5.05 (1H, s, O- CH-O of THP), 7.15-7.78 (26H, m, Ar-H), 9.15 (1H, s, CO-NH-O ).
13C-NMR (100.40 MHz, CDCl) d: 18.61, 24.90, 26.15, 28.00, 29.88, 52.69, 57.75, 58.26, 62.60, 66.37, 77.21, 102.65, 125.19, 125.44, 125.83, 126.45, 126.96, 127.05, 127.20, 127.53, 127.73, 127.79, 127.94, 128.12, 128.75, 128.92, 129.14, 129.20, 129.46, 129.73, 130.40, 132.61, 133. 14, 136.70, 144.15, 144.85, 166.78。
【0124】
(2)N-hydroxy-4-({(2-naphthylmethyl)[3-(tritylsulfanyl)propyl]amino}methyl)benzamide (化合物14)の製造
上記で得られた化合物13 (100 mg, 142 mmol)に、酢酸 (1.0 ml)、THF (0.5 ml)、および水(0.5 ml)の混合溶液を加え60℃で15時間加熱還流した。反応溶液を減圧濃縮後、得られた濃縮混合物を分取SiO2 TLC (展開溶媒: EtOAc/ hexane=1 / 1)で精製し、目的の褐色油状の化合物14 (56.9 mg, 91.4 mmol, 収率80.6%)を得た。当該化合物14の1H-NMR、13C-NMRの結果は次の通りである。
1H-NMR (399.65 MHz, CDCl3) d: 1.52-1.64 (2H, m, N-CH2-CH2-), 2.10-2.20 (2H, m, S-CH2-), 2.33 -2.42 (2H, m, N-CH2-CH2 ), 3.47 (2H, s, N-CH2-Ar), 3.56 (2H, s, Naph-CH2-N ), 7.10-7.90 (26H, m, Ar-H).
13C-NMR (100.40 MHz, CDCl) d: 26.15, 29.93, 52.74, 57.83, 58.37, 66.43, 77.20, 125.51, 125.91, 126.51, 126.79, 127.03, 127.29, 127.59, 127.79, 127.85, 129.00, 129.52, 132.66, 133. 18, 136.70, 144.20, 144.90, 165.30。
【0125】
(3)4-{[[3-(dodecyldisulfanyl)propyl](2-naphthylmethyl)amino]methyl}-N-
hydroxybenzamide (化合物15)の製造
化合物14 (45 mg, 72 mmol)をCH2Cl2(0.14 ml)に溶解し、この溶液にCF3CO2H (134 ml)とEt3SiH (12 ml)を加え室温で1時間撹拌した。この溶液を減圧濃縮した後、濃縮残渣をCH2Cl2 (0.5 ml) に溶解し、この溶液に2-(dodecyldisulfanyl)pyridine (27 mg, 86 mmol)を加え、3時間室温で撹拌した。反応溶液を減圧濃縮後、得られた濃縮混合物を分取SiO2 TLC (展開溶媒: EtOAc/ hexane=1 / 1)で精製し、目的の褐色油状の化合物15 (30 mg, 収率71%)を得た。当該化合物15の1H-NMRの結果は次の通りである。
1H-NMR (399.65 MHz, CDCl3) d: 0.87 (3H, t, J=6.8 Hz), 1.21-1.45 (20H, m), 1.54-1.62 (2H, m), 2.33-2.51 (6H, m), 3.46 (2H, s, N-CH2-Ar), 3.54 (2H, s, Naph-CH2-N ), 7.39-7.90 (11H, m, Ar-H)。
【0126】
実験例1 遺伝子導入用ナノ粒子の調製
5mol%の界面活性剤(Tween 80、NOF Co. Ltdから入手)と、陽性脂質として正電荷コレステロール(cholest-5-en-3-yl 2-[(2-hydroxyethyl)amino]ethylcarbamate、以下「OH-Chol」という。)を含むナノ粒子を調製した(以下、これを「NP」という。)。これに、修正エタノール注入法(非特許文献5:Y. Hattori, et al., Folate-linked nanoparticles formed with DNA complexes in sodium chloride solution enhance transfection efficiency, J. Biomed. Nanotech. 1 (2005) 176-184)を用いて、上記製造例1〜6の方法に従って製造した化合物DD-K-182、CM-K-182、K-182-CM、K-182-DD、DDTS-K-182、またはCCS-K-182を、それぞれ最終濃度が10mol%になるように注入し、遺伝子発現増強用ナノ粒子を調製した(以下、これを「遺伝子発現増強用NP」という。)。
【0127】
具体的には、NPの調製については、まず10mg OH-Cholと1.3mg Tween 80を1 mlエタノール溶液に溶解したナスフラスコに、60℃に加温した9mlの水を添加した。その後エバポレーターによりエタノールを留去後、水を添加し10mlに調整した。その後、超音波処理により粒子径を小さくすることでNPを調製した。また遺伝子発現増強用NPは、まず10mg OH-Cholと1.3mg Tween 80を1 mlエタノール溶液に溶解したナスフラスコに、NPの脂質量に対して10mol%となるように製造例1〜5で製造したDD-K182、CM-K182、K182-CM、K182-DDまたはDDTS-K182をそれぞれ添加し、後は上記NPの調製と同様の操作により作製した。
【0128】
斯くして調製したNP(対照例)および各遺伝子発現増強用NP(実施例1(NP-DD-K182)、実施例2(NP-CM-K182)、実施例3(NP-K182-CM)、実施例4(NP-K182-DD)、実施例5(NP-DDTS-K182))の組成を表1に記載する。
【0129】
【表1】

【0130】
なお、正電荷コレステロール(OH-Chol)は、上記非特許文献5に記載されている方法に従って合成して使用した。
【0131】
次いで、調製したNP(対照例1)および各遺伝子発現増強用NP(実施例1〜5)について、粒度分布を、動的光散乱式粒度分布測定装置(ELS-Z2、大塚電子(株)製)を用いて測定した。調製後のNPおよび各遺伝子発現増強用NPの平均粒子径(nm)を表2に記載する。
【0132】
【表2】

【0133】
この結果から、得られた遺伝子発現増強用NPはいずれも平均粒径が100〜200nmの範囲にあることが確認された。
【0134】
実験例2 DNAと遺伝子導入用ナノ粒子との複合体(ナノプレックス)の調製
(1)プラスミドDNAの調製
サイトメガロウイルスプロモーターにより制御される分泌性ルシフェラーゼ遺伝子をコードするプラスミドpCMV-Glucは、New England Biolabs (MA, USA) より購入した。また、遺伝子を発現しないコントロールプラスミドとして、pGL3-basic(プロメガ社)を用いた。各プラスミドを、 maxiprep カラム (Qiagen, Hilden, Germany)を用いて精製し、遺伝子導入用プラスミドDNAとした。
【0135】
(2)ナノプレックスの調製
NPまたは各遺伝子発現増強用NPとプラスミドDNAとの複合体(ナノプレックス)の調製は、実験例1で調製したNPまたは各遺伝子発現増強用NP(実施例1〜5)とプラスミドDNAとをそれぞれ混合することで調整した。具体的には、2μgのプラスミドDNAを含む50μlの50mM NaCl水溶液に、上記NPまたは各遺伝子発現増強用NPを9.5μlずつ加え、緩やかに撹拌した後、室温(25±5℃)に、10分間放置することにより、所望のナノプレックス(対照例2、実施例6〜10)を調製した。
【0136】
実験例3
実験例2で調製した各ナノプレックスについて、ヒト前立腺癌細胞(PC-3細胞)を用いて、遺伝子発現性と細胞毒性を評価した。
(1)PC-3細胞の培養
PC-3細胞は、東北大学加齢医学研究所附属医用細胞資源センターから入手した。当該細胞の培養は、10% 非動化ウシ胎児血清 (FBS) (Gibco, Inc.)とカナマイシン (100 μg/ml)を加えたRPMI-1640 培地を用いて、37℃、5%CO2 の条件で行った。遺伝子発現及び細胞毒性のアッセイにおいては、PC-3細胞を96 wellプレートに細胞を播種し、実験に用いた。
【0137】
(2)遺伝子発現性の測定(ルシフェラーゼアッセイ)
各ナノプレックスは、2μgのpCMV-Glucを含む50 μlの50mM NaCl水溶液に、上記NPまたは各遺伝子発現増強用NPを9.5μl加えて調整した。各ナノプレックスを、培地中DNA濃度が2μg/ml (K182の濃度として2μM)となるように、10% FBSを添加した1mlの培地で希釈し、96wellプレートで培養した上記ヒト前立腺癌細胞(PC-3細胞)に100 μl添加した。その後、細胞を、上記(1)に記載する条件で培養し、ナノプレックス添加48時間目に、10μLの培地を回収し、培地中に分泌されたルシフェラーゼの活性を測定した。
【0138】
なお、ルシフェラーゼ活性(counts per second(cps)/μL)は、Gaussia Luciferase Assay Kit (New England BioLabs, Inc., MA, USA)を用いて測定した。対照のため、上記ナノプレックスに代えて、対照例1のNPを用いてトランスフェクションした細胞についても、上記同様にルシフェラーゼ活性を測定した。また比較例1および2として、2μM K182および10μM K182を各々含む培地を用いてNPを希釈し、上記同様にルシフェラーゼ活性を測定した。
【0139】
実施例6〜9のナノプレックス(実施例6:NP-DD-K182、実施例9:NP-K182-DD)、対照例(NP)、および比較例1および2(2μMまたは10μM K182)のルシフェラーゼ活性を図1に、実施例10のナノプレックス(NP-DDTS-K182)と対照例(NP)のルシフェラーゼ活性を図2に示す。なお、おのおの結果は、対照例(NP)のルシフェラーゼ活性を100%とした場合の相対%で示す。
【0140】
図1に示すように、実施例6および9のナノプレックス(NP-DD-K182、NP-K182-DD)について、ルシフェラーゼ活性が増大し、ルシフェラーゼ遺伝子の発現が増強していることが判明した。また、図2に示すように、実施例10のナノプレックス(NP-DDTS-K182)についても、ルシフェラーゼ活性が増大し、ルシフェラーゼ遺伝子の発現が増強していることが判明した。
【0141】
(3)細胞毒性の評価
実施例6〜10のナノプレックス(実施例6:NP-DD-K182、実施例7:NP-CM-K182、実施例8:NP-K182-CM、実施例9:NP-K182-DD)、対照例(NP)、および比較例1および2(2μMまたは10μM K182)を、1ml RPMI-1640培地で希釈して2μg pCMV-Gluc/mLとし、培養上清を取り除いた96well プレートに培養したヒト前立腺癌細胞(PC-3細胞)に、100μlを添加した。これを上記(1)に記載する条件で培養し、48時間目に、細胞生存率をCell Counting Kit-8(同仁化学研究所)を用いて測定した。細胞生存率は、ナノプレックスを投与していない細胞に対する生細胞の比率(%)で計算した。
【0142】
結果を図3に示す。図3に示すように、各遺伝子発現増強用NPは、NPと比較し細胞毒性が高いことから、K182が細胞内で遊離し、遺伝子発現上昇効果と共に抗癌活性を示すことが判明した。
【0143】
実験例4
実験例2で調製した各ナノプレックスについて、ヒト前立腺癌細胞(PC-3細胞)を用いて、内因性の遺伝子発現上昇効果を評価した。
【0144】
(1)PC-3細胞の培養
Glucを恒常的に発現するPC-3細胞の安定発現株の作製は、pCMV-Glucを、リポフェクトアミン2000(インビトロジェン社)によりPC-3細胞に遺伝子導入後、48時間目にジェネチシン(G418)を800 μM含むRPMI-1640 培地で2週間培養後、染色体に遺伝子導入された細胞を限界希釈法により細胞のクローン化を行った。得られた細胞からGlucを細胞上清に効率よく分泌するPC-3細胞安定株を選別し、Gluc発現安定株PC-3細胞(PC-3-Luc)として用いた。PC-3-Luc細胞の培養は、10% 非動化ウシ胎児血清 (FBS) (Gibco, Inc.)とカナマイシン(100μg/ml)を加えたRPMI-1640 培地を用いて、37℃、5%CO2 の条件で行った。遺伝子発現及び細胞毒性のアッセイにおいては、各細胞を96 wellプレートに細胞を播種し、実験に用いた。
【0145】
(2)内因性遺伝子発現の測定(ルシフェラーゼアッセイ)
ナノプレックスは、2μgのpGL3-basicを含む50 μlの50mM NaCl水溶液に、上記NPまたは各遺伝子発現増強用NP9.5μlを加えて調整した。各ナノプレックス(実施例7〜10)を、培地中DNA濃度が2μg/ml (K182の濃度として2μM)となるように、10% FBSを添加した1mlの培地で希釈し、96wellプレートで培養したPC-3-Luc細胞に100 μl添加した。その後細胞を、上記(1)に記載する条件で培養し、ナノプレックス添加48時間目に、10μlの培地を回収し、培地中に分泌されたルシフェラーゼの活性を測定した。対照のため、ナノプレックスに代えて、対照例のNPを用いてトランスフェクションした細胞についても、上記と同様にルシフェラーゼ活性を測定した。
【0146】
実施例7〜9のナノプレックス(実施例7:NP-CM-K182、実施例8:NP-K182-CM、実施例9:NP-K182-DD)、および対照例(NP)のルシフェラーゼ活性を図4に、実施例10のナノプレックス(NP-DDTS-K182)と対照例(NP)のルシフェラーゼ活性を図5に示す。なお、おのおの結果は、対照例(NP)のルシフェラーゼ活性を100%とした場合の相対%で示す。
【0147】
図4および5に示すように、実施例7〜10の本発明のナノプレックスについて、ルシフェラーゼ活性が増大し、ルシフェラーゼ遺伝子の発現が増強していることが判明した。このことから、ナノプレックス投与により内因性の遺伝子発現が上昇していることがわかる。
【0148】
また、K182を細胞培地で溶解後、Gluc安定発現株に添加し、Gluc遺伝子発現に及ぼす影響を観察した。具体的には、K182を、1μM、2μM、および10μMで細胞に添加し、48時間後に培地中に分泌されたルシフェラーゼ活性を測定した。K182無添加の培地と比較した遺伝子上昇発現率(%)の値を、図6に示す。図6に示すように、K-182を含む培地を添加した場合も、ルシフェラーゼ活性が増大し、ルシフェラーゼ遺伝子の発現が上昇していることが判明した。これから、K182がヒストンアセチル化酵素阻害作用により内因性の遺伝子発現を上昇させていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】本発明のナノプレックス(遺伝子発現増強用NPと遺伝子との複合体)(実施例6:NP-DD-K182、実施例9:NP-K182-DD)について、ヒト前立腺癌細胞におけるルシフェラーゼ遺伝子発現増強効果を調べた結果を示す(実験例3)。ナノプレックスは、pCMV-Glucを用いて調整し、細胞に投与した。投与24時間後に培養上清を回収し、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【図2】本発明のナノプレックス(遺伝子発現増強用NPと遺伝子との複合体)(実施例10:NP-DDTS-K182)について、ヒト前立腺癌細胞におけるルシフェラーゼ遺伝子発現増強効果を調べた結果を示す(実験例3)。
【図3】本発明のナノプレックス(遺伝子発現増強用NPと遺伝子との複合体)(実施例6:NP-DD-K182、実施例7:NP-CM-K182、実施例8:NP-K182-CM、実施例9:NP-K182-DD)について、ヒト前立腺癌細胞に対する細胞毒性を調べた結果を示す(実験例3)。ナノプレックスは、pCMV-Glucを用いて調整し、細胞に投与した。投与48時間後にWST-8アッセイにより細胞生存率を測定した。
【図4】本発明のナノプレックス(遺伝子発現増強用NPと遺伝子との複合体)について、ヒト前立腺癌細胞に対する遺伝子発現を調べた結果を示す(実験例4)。Gluc安定発現株に対し、pGL3-basicをNP-K182-DD、NP-CM-K182、またはNP-K182-DDにより導入した時の結果であり、ナノプレックス投与により内因性の遺伝子発現を上昇させていることを示す。
【図5】本発明のナノプレックス(遺伝子発現増強用NPと遺伝子との複合体)(実施例10:NP-DDTS-K182)について、ヒト前立腺癌細胞に対する遺伝子発現を調べた結果を示す(実験例4)。Gluc安定発現株に対し、pGL3-basicをNP-DDTS-K182により導入した時の結果であり、ナノプレックス投与により内因性の遺伝子発現を上昇させていることを示す。
【図6】K182を細胞培地で溶解後、Gluc安定発現株に添加し、Gluc遺伝子発現に及ぼす影響を観察した結果を示す(実験例4)。K182は、1、2、10 μMで細胞に添加し、48時間後に培地中に分泌されたルシフェラーゼ活性を測定した。K182無添加の培地と比較した遺伝子上昇発現率(%)の値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)
【化1】

で示される化合物のヒドトキシル基またはスルフヒドリル基のいずれか一方に、直接またはリンカーを介して、コレステリル基、アルキルカルボニル基、オキシアルキル基、またはチオアルキル基が結合してなる化合物。
【請求項2】
上記化合物(1)が、一般式(2)に記載される化合物である、請求項1記載の化合物:
【化2】

(式中、Xは酸素原子または硫黄原子;AおよびBは、それぞれ、水素原子、コレステリル基、炭素数3〜20のアルキルカルボニル基、炭素数3〜20のオキシアルキル基、または炭素数3〜20のチオアルキル基;lは1または2の整数;mは0または1の整数;Yは、下式(3)または(4)で示される基;
【化3】

[式中、Wは酸素原子、窒素原子または硫黄原子を;「S−Z−CO」は、チオール基を有するアミノ酸の残基、またはチオアルキルカルボニル基を;nは0または1の整数;pは1〜8の整数を意味する]
を意味する。但し、「−(Y)−A」または「−(Y)−B」のいずれか一方は水素原子であり、その場合、他方は水素原子ではない。)。
【請求項3】
一般式(1)に記載される化合物が、下式で示される化合物からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載する化合物:
(1)2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthylmethyl)amino]ethyl laurate、
(2) 1-cholest-5-en-3-yl 4-{2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthyl
methyl)amino]ethyl}succinate、
(3)cholest-5-en-3-yl 4-{[(4-{[(2-hydroxyethyl)(2-naphthylmethyl)amino]methyl}
benzoyl)amino]oxy}-4-oxobutanoate、
(4) N-(dodecanoyloxy)-4-{[(2-hydroxyethyl)(2-naphthylmethyl)amino]methyl}
benzamide、
(5)2-(dodecyldisulfanyl)ethyl 2-[{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}(2-naphthyl
methyl) amino]ethyl carbonate、および
(6) cholest-5-en-3-yl (13R)-13-amino-2-{4-[(hydroxyamino)carbonyl]benzyl}-1-(2-
naphthyl)-6-oxo-5,7-dioxa-10,11-dithia-2-azatetradecan-14-oate
(7)4-{[[3-(dodecyldisulfanyl)propyl](2-naphthylmethyl)amino]methyl}-N-
hydroxybenzamide。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載する化合物を含む遺伝子発現増強剤。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載する化合物、およびカチオン性の脂質若しくはコレステロールを含有する請求項4記載の遺伝子発現増強剤。
【請求項6】
脂質膜環状構造または粒状構造を有するものである、請求項5記載の遺伝子発現増強剤。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかに記載する遺伝子発現増強剤を含む遺伝子導入用キット。
【請求項8】
請求項4乃至6のいずれかに記載する遺伝子発現増強剤および導入する遺伝子を含む、請求項7に記載する遺伝子導入用キット。
【請求項9】
請求項4乃至6のいずれかに記載する遺伝子発現増強剤および遺伝子を含むことを特徴とする、発現が増強された遺伝子含有組成物。
【請求項10】
請求項4乃至6のいずれかに記載する遺伝子発現増強剤、または請求項9に記載する遺伝子含有組成物を、インビトロで細胞に導入して、内因性または外因性の遺伝子の発現を増強する方法。
【請求項11】
上記細胞が、腫瘍細胞であることを特徴とする請求項10に記載する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−24203(P2010−24203A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189946(P2008−189946)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】