説明

遺伝子組換え改変ワクシニアアンカラウイルス(MVA)ベースのインフルエンザ万能ワクチン

本発明は、新規のインフルエンザワクチン、それを調製するための新規のプラスミド及びそれを含む新規の剤形に関する。本発明は特に、インフルエンザウイルス、具体的には鳥インフルエンザウイルス、由来の少なくとも4つの外来遺伝子のカセットを含み、かつ同時に発現可能な遺伝子組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスに関し、ここで当該遺伝子は、MVAゲノム内の、非必須部位に挿入されている。本発明はさらに、インフルエンザウイルス由来の2つ以上の外来遺伝子のカセットを含み、かつ同時に発現可能な遺伝子組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスに関し、ここで、当該遺伝子は、MVAゲノム内の、非必須部位に挿入されており、ただし、少なくとも1つの外来遺伝子が、PB2又はM2eのいずれかである。本発明はまた、インフルエンザ万能ワクチンを作成するための組成物及び方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のインフルエンザ万能ワクチン及びそれを含む新規の剤形に関する。本発明は特に、インフルエンザウイルス、具体的には、H5N1鳥インフルエンザウイルス、の外来遺伝子の新規の組合せを、好ましくは単一カセット中に含み、かつ発現可能な、遺伝子組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスに関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科に属し、A、B及びCの3つの型に分けられる。A型インフルエンザウイルスは、鳥類並びにほ乳動物に感染し得るのに対し、B型及びC型インフルエンザウイルスは、ヒトのみに感染し得る。これらは、一本鎖のマイナス鎖RNAの8つの分節からなる分節性ゲノムを持つ、エンベロープを有するウイルスである。水鳥は、A型インフルエンザウイルスの自然宿主である(Websterら,1992)。これらのウイルスは、種の壁を越え、ヒトを含むほ乳動物における一過性の感染又は持続的な系統の確立のいずれかを引き起こすことが知られている(Ludwigら,1995)。1918年におけるスペイン風邪の大流行(H1N1)、1957年におけるアジア風邪の大流行(H2N2)及び1968年におけるホンコン風邪の大流行(H3N2)、という20世紀の最も壊滅的なインフルエンザウイルスは全て、鳥類由来であった(Lipatovら,2004)。
【0003】
一般的に「鳥インフルエンザ」と呼ばれているものを引き起こす、H5N1亜型の高病原性の鳥インフルエンザウイルスは、家禽類において、感染力の強い、致命的な病原体である。2003年の終わりごろより、H5N1はニワトリにおいて、動物間流行性のレベルに達し、世界のほとんど半分を襲ってきた。しかしながら、それの、ヒト集団への伝播は現在までは限られてきた。ヒトにおけるH5N1感染の最初の症例は、1997年にホンコンにおいて報告された(Claasら,1998;Subbaraoら,1998)。現在までに報告されたほとんど全ての症例において、証拠は鳥類からヒトへの伝染を示すが、ヒトからヒトへの直接的な伝染を示すタイから報告が1つある(Ungchusakら,2005)。
【0004】
インフルエンザの大流行は、「抗原不連続変異」に起因し、これは、ヒトにおいて現在伝播していない新たなインフルエンザA亜型の形成をもたらす、HA/NA又は両遺伝子における大きな変化を意味する。宿主細胞受容体への結合の原因である主要なウイルスタンパク質である赤血球凝集素(HA)における変化は、H5N1ウイルスが、ヒトにおける感染を確立するために、変化が起こることが必須である重要なタンパク質の一つである(Gambaryanら,2006;Stevensら.2006;Yamadaら,2006)。その後、感染が持続できるようにウイルスが効率的に複製するためには、ウイルスポリメラーゼ複合体のタンパク質において突然変異が起こる必要がある(Almond,1977;Subbaraoら,1993;Hattaら,2001;Mainesら,2005;Li Zら,2005;Subbaraoら,1998;Katzら,2000)。もしも、ヒトにおける複製能に加えてH5N1ウイルスの受容体特異性における変化が実際に起こるか、又はすでに伝播しているヒトインフルエンザウイルスとの遺伝子再集合が実際に起これば、持続的なヒト系統の確立を除外することはできない。新たなインフルエンザの大流行という迫りくる危険を考慮すると、大流行前の準備のために資源を使用することは有意義である。これは、有効なワクチンを開発するための努力を含む。インフルエンザのための現在のワクチンは、非経口経路によって、又は鼻腔内経路によって、のいずれかで使用されている。
【0005】
非経口インフルエンザワクチン
感染された発育卵由来の不活化ウイルス物質を含有する不活化インフルエンザワクチンの、1940年代における導入以来、その感染症のリスク及び経過並びに高齢者における死亡率は低下した。不活化ワクチンには、全粒子、スプリット(リン酸エーテル又はリン酸トリブチルで化学的に破壊されている)及びサブユニット(精製された表面糖タンパク質)、の3つのクラスがある。これらのワクチンは、筋肉内又は皮下投与され得る。全粒子不活化インフルエンザワクチンは、高レベルの副作用のために、現在は使用されていない。季節性インフルエンザワクチン(スプリット及びサブユニット)は、三価であり、H3N2、H1N1の各A型インフルエンザウイルス株及びB型インフルエンザウイルスを含む。抗原連続変異のために、ここ数年にわたって、毎年少なくとも一つの成分が変更されなければならなかった。BEGRIVAC(登録商標)、FLUARIX(登録商標)、FLUZONE(登録商標)及びFLUSHIELD(登録商標)製品は、スプリットワクチンである。FLUVIRIN(登録商標)、AGRIPPAL(登録商標)及びINFLUVAC(登録商標)製品は、サブユニットワクチンである。不活化インフルエンザワクチンは、罹患及び死亡の予防において60%〜100%有効であるが、若年者及び高齢者においては、より低い有効率が観察される。
【0006】
2003年の6月に、食品医薬品局(FDA)は、メドイミューン社によって開発された、寒冷適応弱毒生インフルエンザウイルスワクチンであるフルミスト(Flumist)(登録商標)の、5〜17歳の健康な小児及び若者、並びに18〜49歳の健康な成人における、季節性インフルエンザに対する使用を認可した。
【0007】
近年の研究は、ビルレンスを減弱させるための改変遺伝子を有するワクチン株を産生するための、逆遺伝子工学の使用を報告してきた(Subbaraoら.2003)。
【0008】
鼻腔内インフルエンザワクチン
M.L.Clementsら、1986年は、分泌型IgA及び血清型IgGの両方が、インフルエンザウイルスに対する免疫に関与していることを以前に報告している。その上、マウスにおいては、数々の発表された研究が、インフルエンザ感染に対する防御のための呼吸器IgAの重要性を実証してきた。インフルエンザに対する局所IgA応答を刺激することの利点は、それがしばしば血清応答よりも幅広い特異性を持ち、したがって、ワクチン中に存在する赤血球凝集素分子と異なる赤血球凝集素分子を保有するウイルスに対する交差防御を提供し得ることであることもまた、発見されている。したがって、局所IgA応答及び血清抗赤血球凝集素応答の両方を誘発するインフルエンザワクチンは、現在のワクチンに対し、より優れた免疫を提供するだろう。しかしながら、非経口ワクチン接種(筋肉内、皮下等)は、以前に粘膜暴露(例えば、感染)がない場合には、局所IgA生産の誘発における効果がない。粘膜免疫系を刺激するためには、ワクチンは、粘膜表面に局所的に投与されなければならない。
【0009】
インフルエンザワクチンの粘膜投与は、伝統的な非経口免疫化制度に勝る数々の利点を有する。それらの中で最高のものは、気道の局所粘膜免疫系のより効果的な刺激、及び注射に伴う恐怖及び不快感の低減によるワクチンの取込み速度が上昇する可能性である。したがって、粘膜インフルエンザワクチンを開発するための、数々の試みがなされてきた。しかし、欠点は、不活化ワクチンはしばしば、粘膜投与された場合に免疫原性が不十分であることである。この問題を解消するために、経口又は鼻腔内投与されるインフルエンザワクチンの免疫原性を改善するための異なるアプローチが評価されている。これらの努力のいくつかとしては、アジュバントとしてのコレラトキシンのBサブユニット(CTB)の使用、種々のミクロスフェア中へのワクチンのカプセル化、及び弱毒生インフルエンザ株の使用、が挙げられる。
【0010】
季節性インフルエンザ用の市販の鼻腔内ワクチンであるフルミストは、米国において、2003年9月に発売された。メドイミューン社のフルミストは、鼻用スプレーによって、5歳〜49歳の患者に投与されている、弱毒生ワクチンである。このワクチンは、「潜在的にリスクのある」集団における使用のためには、認可されていない。このワクチンのためのウイルスもまた発育鶏卵上で生育され、鼻用スプレーによって送達される弱毒生処方物である。毎年製造され得る投薬量における制限に加えて、ワクチンは、インフルエンザからの防御を最も必要とする若齢及び高齢人口における使用のためには認可されていない。
【0011】
鼻腔内投与のための数々の他の候補ワクチンが、現在臨床評価段階にある。しかしながら、これらの先行技術文献のいずれもが、本発明にしたがった抗原の組合せ及び方法、をわずかですらも示唆していない。グラクソ・スミスクラインファーマシューティカルズ社による特許文献1は特に、非生のスプリット鼻腔内インフルエンザワクチンに関する。サノフィパスツール社は、鼻腔内インフルエンザワクチンの開発のために、アバント・イムノセラピューティクス社のMicromer送達系を使用するために、彼らと共同研究している。Micromerは、ワクチンのマイクロカプセル化(micro−encapsulation)及び粘膜送達のためにポリホスファゼンを利用する水性高分子である。現在、これは前臨床段階にある。シンビジーン社(Symbigene Inc.)による特許文献2は、インフルエンザの処置に使える可能性があるものとして、遺伝子組換え酵母ベースのワクチンを特許請求している。ワクチンは、経口又は鼻腔内投与され得る。ワクチンの前臨床研究が、米国において進行中である。アカンビス社は、評価段階にあったインフルエンザ予防のための鼻腔内ワクチンの開発を中止した。ワクチンは、不活化インフルエンザ抗原とキトサンとが組入れられていた。バイオベクター・セラピューティクス社(Biovector Therapeutics)のBiovector送達技術を使用した、インフルエンザに対する鼻腔内粘膜ワクチンを開発するためのバイオベクター・セラピューティクス社のプログラムは、中止された。バイオサンテ・ファーマシューティカルズ社(BioSante Pharmaceuticals)は、バイオサンテ社のリン酸カルシウムナノ粒子ベースのワクチンアジュバントと組合せたインフルエンザウイルスのH5N1株由来の抗原を含む、非注射用の、鼻腔内ワクチンを、H5N1インフルエンザウイルス感染の治療用に開発している。ナノバイオ社は、インフルエンザ用の粘膜ワクチンであるNB006を開発している。NB006の前臨床研究が進行中であり、2007年の第1四半期に、治験許可が申請された。第一相試験が、2007年の第4四半期に、開始している。アルキメデスファーマ社(Archimedes Pharma)(以前は、ウエスト・ファーマシューティカル・サービス社(West Pharmaceutical Services Inc.))による特許文献3は、アルキメデスファーマ社が特許を持つChiSys経鼻送達技術を使用する、インフルエンザを標的とするワクチンに関する。英国において実施されていた第一相評価(ウエスト社、2004年3月)は、完了した。アビィ・グリーンヒルズ・バイオテクノロジー社(Green Hills Biotechnology(GHB))による特許文献4は弱毒生複製欠損性インフルエンザウイルスワクチンであるFluVaccを論ずる。ワクチンは、病原性(pathogenecity)因子NS1を欠き、ベロ細胞中で生産され、スプレー装置で鼻腔内投与される。FluVaccの第一相試験は、オーストリアにおいて開始されている。IDバイオメディカル社は、インフルエンザの処置に使える可能性があるものとして、鼻腔内ワクチンであるFluINsureを開発している(特許文献5)。ワクチンは、赤血球凝集素を含むインフルエンザタンパク質の精製調製物と組合わされた、IDバイオメディカル社が特許を持つワクチン送達/アジュバント技術であるプロテオソームズ(Proteosomes)に基づいている。IDバイオメディカル社の経鼻プロテオソームインフルエンザワクチンのヒトにおける安全性及び免疫原性を研究するために、カナダにおいて、第一相研究が開始された。NasVax社は、NasVax社が特許を持つポリカチオン性脂質技術であるCCSを利用する、インフルエンザの予防のためのワクチンを開発している。CCSは、アジュバントとして作用し、またワクチンの鼻腔内投与を可能とする。140人の健康なボランティアにおける第一/二相試験が、イスラエルにおいて完了し、会社は、2007年半ばにヨーロッパにおける第三相試験を開始する許可を求めて、申請を提出する計画であった。バイオディエム社(BioDiem Ltd.)は、季節性インフルエンザウイルス感染のために、鼻腔内送達される、単回投与の寒冷適応弱毒生インフルエンザウイルスワクチンを開発している。ワクチンは、ロシア及び独立国家共同体において、サンクトペテルスブルグの実験医学研究所(ロシア)によって1993年以来市販されてきたワクチンに基づいている。ワクチンの前臨床評価は、ヨーロッパ及び米国において進行中である。
【0012】
H5N1ワクチンを開発するための努力:
メドイミューン社は、寒冷適応H5N1ワクチンを開発している。メドイミューン社は、大流行の可能性のある赤血球凝集素遺伝子を、弱毒化ヒトインフルエンザウイルス内へ配置するために、逆遺伝学及び古典的な遺伝子再集合等の方法を使用する。メドイミューン社の研究チームは、逆遺伝学を使用して、病原性H5N1インフルエンザウイルス由来の修飾タンパク質と、人工的に弱めた(弱毒化した)インフルエンザ株由来のタンパク質とを組み合わせることによって、3つの候補ワクチンを作成した。病原性H5N1ウイルスは、1997年及び2003年におけるホンコン、及び2004年におけるベトナム(A/Vietnam/1203/04)での、ヒト症例から単離された。メドイミューン社のフルミスト(登録商標)インフルエンザワクチンの基礎ともなるその弱毒化インフルエンザワクチン株は、得られたワクチンウイルスが、比較的冷たい上気道を越えて広がることを防ぐために、進行的により冷たくした温度において、実験室で生育される(「寒冷適応される」)。大量の、得られた寒冷適応ウイルスは、鶏卵中で生育された。2006年の6月には、メドイミューン社は、弱毒生H5N1ワクチンの安全性及び免疫原性を評価するために、第一相のヒトボランティア研究を開始した。研究からの結果は、まだ入手可能ではない(非特許文献1)。
【0013】
2007年4月にサノフィパスツール社によって売り出された、米国食品医薬品局(USFDA)に認可されたH5N1ワクチンは、不活化ワクチンであり、緊急時の場合にのみ使用されることが意図されている(非特許文献2)。サノフィパスツール社によって使用されたリアソータント(reassortant)候補ワクチン株NIBRG−14は、逆遺伝学を使用してこの株を開発した、イギリスの国立生物学的製剤研究所(National Institute for Biological Standard)から得られた。シノバック・バイオテック社(Sinovac Biotech Ltd.)(中国)は現在、イギリスの国立生物学的製剤研究所から取得したリアソータント候補ワクチン株NIBRG−14を使用して、不活化H5N1ワクチンを開発している(非特許文献3)。ウイルスは、卵中で生育され、その後、アジュバントを加えるとともに、不活化される。このワクチンは、第二相臨床試験中である(非特許文献4)。イタリアのカイロン・ワクチン/ノバルティスワクチン社((Chiron Vaccines/Novartis Vaccines)は、Vietnam 2004株を使用して、卵ベースのMF59アジュバント添加不活化ワクチンを開発している。カイロン社は、市販されているカイロン社のインフルエンザワクチンであるフルビリン(Fluvirin)で使用されている製造方法と同一の製造方法を使用して、そのワクチンを製造するだろう。ワクチンの第二相臨床試験は、2006年に終了した(非特許文献5)。デルサイト・バイオテクノロジーズ社(DelSite Biotechnologies Inc.)は、特許を持つジェルバック(GelVac)送達系を使用して、H5N1ウイルス株に対する、不活化された、点鼻粉末ワクチンを開発している。ジェルバック点鼻粉末ワクチン送達系は、その会社のジェルサイト(GelSite)高分子技術に基づいており、それは、鼻水と接触することで粉末からゲルへと変化する新規な多糖であり、その結果、ワクチン抗原の放出制御及び鼻での滞留時間の延長をもたらす。デルサイト・バイオテクノロジーズ社は、細胞ベースのH5N1全粒子抗原が鼻送達に使用されることを可能とする方法を開発するために、インビトロジェン社のPD−Directサービスと協力してきた(非特許文献6)。
【0014】
現在のワクチンの限界:
不活化/スプリット/寒冷適応ワクチンには多くの制限がある−主要な制限は、候補株が、その時に伝播している株によって、毎年変更されなければならないことである。さらに、同定された株は、発育卵において高力価まで生育されることに適応されなければならない。後者の使用は、高品質の特定病原体除去卵の通年の供給可能性等の一定の課題をもたらす。そのような卵の使用は必須であり、それは卵における外来性の薬剤の存在が、インフルエンザウイルスワクチンの調製を危うくし得るためである。鳥類におけるインフルエンザの大流行の場合、インフルエンザウイルスを培養するための特定病原体除去卵の供給が不足するだろう。このことは、人類の逆境における使用のためのワクチンの入手可能性に影響するだろう。また、卵タンパク質が原因の過敏症反応が、有意な人口において実際に起こる。ホルマリンによるウイルスの不活化もまた、抗原エピトープの変性をもたらし、したがって、有効性がより低くなる可能性がある。その上、局所IgA及び細胞障害性T細胞応答の誘発能は制限されているために、これらのワクチンの効力は最適以下である。それゆえ、伝統的なスプリット/サブユニットワクチンの防御効果は、非常に制限されている。
【0015】
代替のインフルエンザワクチン:
現在製造されているインフルエンザワクチンの弱点を軽減するための努力において、ワクチンを生産するためのいくつかの代替アプローチが現在開発されている。
【0016】
細胞培養ベースのワクチン:
培養細胞ベースの系の使用は、探求されている分野のうち、おそらく最も検討されているものであろう。試験されている2つの主要な細胞株は、MDCK(Palacheら,1999)及びベロ(Halperinら.2002及びNicolson,2005)である。バクスター・インターナショナル社は、そのH5N1(A/Vietnam/1203/04)不活化全細胞ワクチンの第三相臨床試験を、2007年に開始した。バクスター・インターナショナル社は、ウイルスの培養のために、特許を持つベロ細胞技術を使用している(非特許文献7)。ワクチンにおける使用のためにこれらの細胞中で生育されるウイルスの不活化方法は、卵で生産されたウイルスで使用される方法と同様である。したがって、ウイルスはやはり、抗原上のエピトープを破損する可能性を有する化学物質で不活化される。細胞培養法の使用は、発育卵の使用を回避するものの、方法の類似性が原因である、伝統的に生産された卵ワクチンの制限と共に、新たな規制上の障害(外来性の薬剤の許可)がある。
【0017】
遺伝子組換えワクチン
インフルエンザウイルスのHA及びNP遺伝子をコード化するDNAワクチンが、マウスチャレンジモデルにおいて評価されてきた(Williamsら,2002;Kemble及びGreenberg,2003)。NP遺伝子をコード化するDNAでのワクチン接種は、異種インフルエンザ株でのチャレンジからの防御をもたらした(Montgomeryら,1993)。同種ウイルスのチャレンジからの防御は、HAをコード化するDNAでのワクチン接種後にマウスにおいて達成された。DNAでのワクチン接種によって誘導された抗体応答は、マウスにおいて長く続く力価をもたらした(Ulmerら,1993)。特許文献6は、合成インフルエンザ赤血球凝集素遺伝子の生産を開示し、これは、所定の具体的なインフルエンザvRNAの二本鎖相補的DNA(cDNA)コピーであり、かつこれは、インフルエンザワクチンとして作用するであろうポリペプチドの、挿入DNAを通しての翻訳及び発現、を保証するように遺伝子操作された細菌プラスミド内への挿入が可能である。
【0018】
DNAワクチンは明らかに、卵又はほ乳動物細胞培養に依存しない。しかしながら、ほとんどの研究は、マウスのみにおいて、励ましになる結果を提示してきた(Montgomeryら,1993;Ulmerら,1993;及びWilliamsら,2002)。より大きな動物における、見込みがある結果の報告は、見つけることが困難である。マウスにおいてよく働いたM2−NP DNAは、ブタモデルにおけるチャレンジ後には、疾患を悪化させた(Heinenら.2002)。インフルエンザ用のDNAワクチンの可能性は存在するものの、ワクチン接種に対するこのアプローチに伴って継続するであろう問題として、依然として安全性の課題がある。DNAベースのワクチンのいくつかの例は、以下のとおりである:
・VGXは、NA及びM2e−NP遺伝子の保存領域と共に、種々のインフルエンザHA遺伝子:[H1、H2、H3、及びH5(鳥)]を標的化するDNAベースの万能インフルエンザワクチンであるVGX−3400を開発した。全てのコンストラクトは、SynCon(登録商標)技術を使用して作られた。前臨床評価が、ペンシルバニア大学(米国)において開始され、2008年5月に治験許可申請が提出された。
・バイカル社(Vical)に帰属する特許文献7は、H5N1鳥インフルエンザウイルスA/Vietnam/1203/04の赤血球凝集素遺伝子並びにそれほど突然変異に供されない遺伝子(核タンパク質、NP及び基質タンパク質、又はM2e)を含有するDNAワクチンを開示する。それは、バイカル社のVAXFECTIN技術を使用して処方される。2007年8月には、バイカル社は、米国において、健康なボランティアにおける、ワクチンの第一相試験を開始した。この特許は、遺伝子コンストラクトにおけるPB2遺伝子の使用は、示唆しない。
・ノバルティス社は、ノバルティス社が特許を持つ薬物送達技術を使用して、インフルエンザの予防用の遺伝子ベースのワクチンを開発している(この技術は、以前はパウダージェクト社(PowderJect)によって開発されていた。それは、遺伝子物質でコーティングされた粒子を標的内へと加速させる、ガス駆動の器具を有する(特許文献8)。ワクチンは、可変及び保存遺伝子抗原の両方をコード化する多ベクター戦略を利用するだろう。これは現在、前臨床段階にある。
・ファイザー社に帰属する特許文献9は、ほ乳動物宿主細胞における異種コード配列の発現増強を提供する核酸コンストラクト(ベクター)を包含する(以前はパウダーメッド社によって開発されていた)。ファイザー社は、季節性インフルエンザウイルスの感染予防のために、DNAベースのワクチンであるPF 4522625を開発している。ワクチンは、パウダーメッド社(現在はファイザー社)のワクチンベクターであるpPJV1671中にクローニングされたA/Panama/2007/99インフルエンザ株由来のHA遺伝子を含み、パウダーメッド社(現在は、ファイザー社)が特許を持つ、無針の粒子媒介上皮送達系を使用して投与されるように設計されている。第一相の評価が、進行中である。その制限は、ワクチンがHA遺伝子のみを含有していることである。
・ダイナバックス・テクノロジーズ社(Dynavax Tech Corp)に帰属する特許文献10は、インフルエンザ万能ワクチンを開示する。それは、一つの抗原に対する免疫応答を、免疫活性化ポリヌクレオチドと併せて別の抗原を投与することによって調節する方法、に関する。ワクチンは、免疫活性化DNA配列(ISS)を、毎年ウイルス株間であまり変化しない抗原である主要インフルエンザ抗原核タンパク質(NP)へと連結する。NP−ISSは、基質タンパク質2、M2e、の細胞外ドメインへと連結される。前臨床研究が、米国において進行中である。
・リポキセン社(Lipoxen)に帰属する特許文献11は、リポキセン社が特許を持つリポソーム技術であるImuXen(これは、関連するタンパク質と一緒にプラスミドDNAをリポソーム内へと組入れる)を使用して作出されたインフルエンザワクチンを開示する。インフルエンザワクチンリポソームには、インフルエンザタンパク質を発現するDNAに加えて抗原のタンパク質形態が、同一の粒子中に一緒に処方されて、含有される。処方物は、複数のワクチン株の送達を可能とし、ここで各リポソームは、一価のワクチンとして作用する。前臨床評価が、英国において進行中である。
【0019】
多くの従来ワクチンについて、遺伝子組換えサブユニットタンパク質ワクチンが解決策として提唱されてきた。遺伝子組換えタンパク質生産は、全てのワクチン成分の厳格な品質管理及びロット間の変動のより簡単な定量化を可能とする。この技術基盤はまた、インフルエンザワクチンについても検討されてきた。大腸菌、酵母、昆虫細胞及びほ乳動物細胞ベースの発現系が、利用されてきた。インフルエンザ用の遺伝子組換えサブユニットタンパク質ワクチンの開発は、ウイルスを生育させる必要性が排除されるため、魅力的な選択肢である。動物モデルにおける遺伝子組換えサブユニットタンパク質ワクチン候補の試験に関する多数の研究が報告されており、ヒトの臨床試験では、ほんの数種類のみが試験されてきた。2つの主要な問題が、遺伝子組換えタンパク質ベースのインフルエンザワクチンの開発を妨害してきた。多くの場合、タンパク質をそれらの天然形態で発現させることは困難であり、また発現量も低い。例えば、インフルエンザワクチンの主要な成分であるHAは、遺伝子組換え体として発現することが困難なタンパク質であることが証明されている。膜アンカーを持たないHA分子の、ピキアにおける発現が報告されている(Saelensら,1999)。発現されたHAタンパク質は、抗体結合に基づいて適切な構造を有し、マウスにおける部分的な防御をもたらしたものの、生産物は、本質的に完全に均一ではなかった。N末端は、種々のプロセシングが原因で可変的であり、グリコシル化パターンもまた不均一であった。ピキアによって発現されたHAタンパク質が、ワクチン候補としての潜在力を有するという記載にもかかわらず、この努力が、ヒトにおける試験のために実行されたという表示はない。
【0020】
バキュロウイルス発現系もまた、遺伝子組換えインフルエンザタンパク質ワクチンの生産のための系として、検討されてきた。バキュロウイルス発現系を使用した全長HAの発現に関する初期の報告は、HAが、昆虫細胞の表面上に局在化されるという結果となった(Kurodaら,1986)。バキュロウイルス発現系由来の可溶性HAの発現に関するさらなる研究が報告された(Valandschootら,1996))。可溶性バキュロウイルス発現HAに関するこの報告は、タンパク質がいくらかの天然様の特徴を有していたものの、それはほとんどが凝集していたことを特定した。したがって、それは、マウスモデルにおけるいかなる防御を提供することにも失敗した。プロテイン・サイエンシズ社(Protein Sciences Corporation)(PSC メリデン)によって開発中である遺伝子組換えバキュロウイルス発現HAタンパク質(特許文献12)は、現在までで最も先進的な遺伝子組換えインフルエンザタンパク質ワクチン(Flubloc)を示している。PSCによって発現されたHAは、全長分子を提供し、HAタンパク質の宿主昆虫細胞上の局在化をもたらす。HAは、膜からの抽出後、一連の工程を経て精製される。この方法論に基づいたH5−HAワクチンが、ヒト臨床試験において、評価されている(Treanorら.2001)。遺伝子組換えH5ワクチンは、高用量では中程度に免疫原性であった。この研究の結果は、バキュロウイルス発現H5 HAは、以前にH5ウイルスへの暴露がなかった個体において機能的抗体を誘導し得ることを示唆したが、ワクチンの免疫原性を改善するためのさらなる研究が必要である。
【0021】
インフルエンザ抗体の、ウイルスベースの送達もまた検討されてきた。ピッツバーグ大学に帰属する特許文献13は、A/Vietnam/1203/2004インフルエンザウイルス由来のコドン最適化HA遺伝子を発現する、E1/E3欠損アデノウイルス血清型5ベースのベクターを提供する。これは現在前臨床段階にある。しかしながら、このコンストラクトは、HA遺伝子のみを含有する。
【0022】
広範に評価されている別のウイルス発現ベクターは、ワクシニアウイルスである。特許文献14(Paul Ehrlich)は、とりわけH5N1株から、インフルエンザワクチンを調製するためのMVAの使用を開示する。発明は、H5N1鳥インフルエンザウイルスのA/Vietnam/1194/04株のHA、NA、M1、M2及びNP遺伝子を好ましくは含む、インフルエンザワクチンに関する。A/Vietnam/1203/04に関する請求項がある。好ましい実施態様のうちの一つにおいて、DelIIIにおけるMVAの異種遺伝子配列は、HA、NA、NP、M1、M2の任意の組合せであり得る。P11プロモーターは、発明において使用される好ましいプロモーターのうちの一つである。この出願はしかしながら、コンストラクトにおけるインフルエンザポリメラーゼ遺伝子の使用は開示せず、またMVAのDelIII部位においてクローニングされている全ての遺伝子の具体的な開示も欠いている。
【0023】
インフルエンザワクチンのための他の代替的なアプローチとしては以下が挙げられる:
・バキュロウイルス発現系において生産されたウイルス様粒子(VLP)が、報告されている(Latham and Galzara,2001)。この方法論は現在、ノババックス社(Novavax)によって探求されている。ノババックス社に帰属する特許文献15は、インフルエンザM1、HA及びNAタンパク質を含むVLP及びそれらの処方物を包含する。ノババックス社は、H5N1 A/Indonesia/05/2005ウイルスに対するVLPベースのワクチンを開発し、第I/IIaヒト臨床試験を完了し、それは好ましい結果を示した。
・バックスインネイト社に帰属する特許文献16は、A/Vietnam/1203/04由来のM2eと、TLR5(Toll様受容体5)のリガンドであるサルモネラ・チフィリウムフラジェリン(fljB)との融合タンパク質を特許請求する。前臨床研究が、米国において進行中である。しかしながら、ワクチンアジュバントとしてのTLRアゴニストの使用は、少なくともT細胞応答の作出に関しては、期待外れであった。
・アンティジェン・エクスプレス社(Antigen Express)に帰属する特許文献17は、抗原提示促進ハイブリッドポリペプチドと共に、特異的インフルエンザHA(H5N1)抗原を発現することを開示する。ワクチンは、遺伝子組換えH5赤血球凝集素タンパク質に対するヘルパーT細胞応答を初回刺激するために使用され得、又は独立型ワクチンとして使用されてもよい。これは現在前臨床段階にある。その制限は、ワクチンがHA遺伝子のみを含有していることである。
・アカンビス社は、ACAM−FLU−Aという名称の万能インフルエンザワクチンを開発している。それは、B型肝炎コアタンパク質を使用して、イオンチャネルタンパク質M2eの細胞外ドメインであるM2eを送達する、遺伝子組換えワクチンである。ワクチンは、アンチジェニックス社(Antigenics Inc.)のQS21アジュバントを含有する。健康な対象におけるワクチンの米国第一相試験が、2007年7月に開始された。
・アルファバックス社(Alphavax Inc.)に帰属する特許文献18は、同時に投与されたHA抗原に対する免疫系の応答を促進する、アルファウイルスレプリコン粒子(ARP)製剤を開示する。アルファバックス社は、アルファバックス社のアルファワクチン(alphavaccine)(アルファウイルスベクター)技術を使用して、インフルエンザワクチンを開発している。その計画におけるワクチンは、単一のインフルエンザ株由来の赤血球凝集素遺伝子を含有する。その会社は、インフルエンザ用のアルファワクチンを評価するいくつかの臨床試験のうちの最初のものを開始した。インフルエンザ用の最初のアルファワクチンは、インフルエンザのA/Wyoming H3N2株由来の赤血球凝集素遺伝子を含有する。その後の治験は、大流行の可能性のあるインフルエンザ株のための追加のワクチン候補を試験するだろう。
・VLPバイオテック社(VLP Biotech)は、インフルエンザ万能ワクチンを開発している。ワクチンは、特許を持つVLPワクチンプラットフォームと組合せたインフルエンザM2タンパク質ベースである。前臨床研究が、米国において進行中である。
・国立アレルギー感染症研究所(NIAID)は、前臨床研究において、A型インフルエンザによる感染を予防するためのワクチンを開発している。ワクチンは、変異体ポリメラーゼ塩基性タンパク質2(polymerase basic 2)(PB2)遺伝子を持つ、弱毒生、リアソータントA型インフルエンザウイルスである。
・ヴァクシン社は、非複製アデノウイルスベクターを介してHA遺伝子を鼻粘膜へと送達する、鼻腔内H5N1インフルエンザワクチンを開発している。ヴァクシン社は、アデノウイルスベクターワクチンの生産のための製造用基質として、オランダのバイオテクノロジー企業であるクルーセル社(著作権)からライセンスを受けたPER.C6(著作権)細胞株を使用している。このH5N1インフルエンザワクチン用の第一相臨床試験は、完了している(非特許文献8)。そのようなアデノウイルスベースのワクチンの制限は、毎年、その時期に伝播している株によって、クローニングされるHA遺伝子を変え続けること、であろう。さらに、a)アデノウイルスは、非相同(heterologus)DNAを取り込む能力が制限されており、したがって、いくつかの抗原を収容できず、かつb)人口の60〜80%において既に存在する、アデノウイルスに対する免疫が、アデノウイルスベクターワクチンの効力を制限するだろう。
【0024】
しかしながら、これらの全ての努力にもかかわらず、完全に表面タンパク質(HA及びNA)ベースである従来のインフルエンザワクチンを、核タンパク質又は基質タンパク質等の内部ウイルスタンパク質ベースのインフルエンザワクチンに完全に置き換えることが実行可能かどうかは、不確かである。これは、ウイルスの表面タンパク質に対する中和抗体が、感染の確立の予防において、決定的な役割を果たすのに対し、ウイルスの内部タンパク質に対する細胞障害性Tリンパ球は、既に感染された細胞を排除するからである。したがって、ワクチンコンストラクト中に、ウイルスの表面タンパク質及び内部タンパク質の両方を含むことが適切となるであろう。高度に保存されたPB2抗原の、ワクチンコンストラクトにおける使用に関する報告はこれまでにあるものの、これらの先行技術のいずれも、本発明の抗原の組合せ及び方法を示唆していない。
【0025】
次世代インフルエンザワクチンの課題に対応するために、我々は、容易に入手可能な細胞培養系において生産され得るウイルスベクターにおいて、表面及び保存された内部ウイルスタンパク質の両方を組合せる、新たなインフルエンザワクチンを開発した。先行技術に対する、本発明のワクチンのいくつかの顕著な利点は:
1.発明は、異なるインフルエンザ株に対する防御を与えることができる、季節性及び流行性インフルエンザ用の「万能ワクチン」を作るため、1年毎を基本とする、伝播しているウイルス株由来の抗原の組入れを必要としない。この目的のために、鳥インフルエンザウイルスの2つの内部遺伝子である、M2外部ドメイン遺伝子及びPB2遺伝子が、MVA中に組入れられた。M2タンパク質の細胞外部分は、著しく保存されている。1933年に単離された最初のヒトA型インフルエンザ株以来、M2タンパク質の細胞外ドメインにおけるアミノ酸変化は、認められていない。
2.遺伝子組換えMVAウイルスは、卵でなくBHK21細胞中で生育されるため、MVAベースのワクチンは、卵ベースのワクチンの全ての弱点を克服するであろう。
3.発明中と同様に、複製欠損ベクターが使用される;抗原エピトープのホルマリンによる不活化及び変性の問題が、回避されている。
4.MVAベースワクチンの送達は、全身性及び粘膜免疫応答の両方を産生するために、鼻腔内経路及び筋肉内経路の両方(鼻腔内経路による初回刺激及び筋肉内経路による追加免疫、又はその逆)によって行われるだろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】欧州特許第1214054号明細書
【特許文献2】国際公開第2003/063785号
【特許文献3】米国特許第7323183号明細書
【特許文献4】国際公開第2009/007244号
【特許文献5】米国特許第6743900号明細書
【特許文献6】米国特許第4357421号明細書
【特許文献7】国際公開第2005/116270号
【特許文献8】米国特許第5865796号明細書
【特許文献9】国際公開第2005/035771号
【特許文献10】米国特許第7479285号明細書
【特許文献11】国際公開第2004/004758号
【特許文献12】米国特許第6224882号明細書
【特許文献13】国際公開第2006/063101号
【特許文献14】国際公開第2008/061939号
【特許文献15】米国特許出願公開第2007/0184526号明細書
【特許文献16】国際公開第2006/069262号
【特許文献17】米国特許第7179645号明細書
【特許文献18】国際公開第2008/085557号
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】インターネット<URL:http://www.medicalnewstoday.com/articles/51701.php>
【非特許文献2】インターネット<URL:http://www.fda.gov/bbs/topics/NEWS)
【非特許文献3】インターネット<URL:http://www.medicalnewstoday.com/articles/51392.php
【非特許文献4】インターネット<URL:http://www.bio-medicine.org/medicine-technology-1
【非特許文献5】インターネット<URL:http://www.ifpma.org/Influenza/content/pdfs/Table_Avian_Pandemic_Influenza_RnD_17 Oct06.pdf
【非特許文献6】インターネット<URL:http://www.biospace.com/news_story.aspx?NewsEntityId=34335
【非特許文献7】インターネット<URL:http://www.medicalnewstoday.com/articles/66602.php
【非特許文献8】インターネット<URL:http://www.curevents.com/vb/showpost.php?p=616437&postcount=107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は、インフルエンザ万能ワクチンを調製するための組成物及び調製方法を提供する。本発明は、遺伝子組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスベースのインフルエンザ万能ワクチンに関する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
これら及び他の目的にしたがって、本発明は、インフルエンザウイルス、具体的には鳥インフルエンザウイルス、由来の少なくとも4つの外来遺伝子のカセットを含み、かつ同時に発現可能な遺伝子組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスに関し、ここで、当該遺伝子は、MVAゲノム内の、好ましくはDelIIIである非必須部位において挿入されており、ここで当該外来遺伝子の各々は、個別の単一コピー又は複数コピーの、同一のプロモーター又は複数のプロモーターの転写制御下にある。
【0030】
別の実施態様において、本発明は、インフルエンザウイルス、具体的には鳥インフルエンザウイルス、由来の2つ以上の外来遺伝子のカセットを含み、かつ同時に発現可能な遺伝子組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスに関し、ここで、当該遺伝子は、MVAゲノム内の、好ましくはDelIIIである非必須部位において挿入されており、ここで、当該外来遺伝子は、単一のプロモーターの個別のコピーの転写制御下にあり、ただし、少なくとも1つの外来遺伝子は、PB2又はM2eのいずれかである。
【0031】
本発明はさらに、プロモーターを含むインフルエンザ遺伝子発現カセット;当該発現カセットを含むベクター並びに医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】商業的に合成されたHA、NA及びPB2遺伝子の、プラスミドP8、4、7における存在を示す、1%アガロースゲル(二重消化)。
【図2】商業的に合成されたM2e及びEGFP遺伝子の、プラスミドP5及び6における存在を示す、1%アガロースゲル(二重消化)。
【図3】MVAゲノムDNAのバンドを示す1%アガロースゲル。
【図4】図4(4−1〜4−7)は、トランスファープラスミドp2.BRC/V/A9のコンストラクト作成の図示。
【図5】クローニングされたHA、NA、M2e、PB2、EGFP、右隣接領域(right flank)、左隣接領域(left flank)遺伝子の、トランスファープラスミドにおける存在、及びSnaBIでの消化によるインフルエンザ遺伝子カセットの切り出し、を示す1%アガロースゲル。
【図6】トランスフェクション後に取得された混合子孫ウイルスにおける遺伝子組換えMVA(H5N1のHA、NA、M2e、PB2遺伝子を有する)の存在の、PCRによる確認。(レーン1:1Kbラダー;レーン2、4、6、8:野生型MVA由来のHA、NA、M2e、PB2それぞれのPCR;レーン3、5、7、9:遺伝子組換えMVA由来のHA、NA、M2e、PB2それぞれのPCR)
【図7】図面は、マウスにおいて、1.0×10pfu/マウスでの遺伝子組換えMVAの筋肉内接種後、第28、43、71、85日目の血清試料中の抗インフルエンザウイルスIgGの力価を示す。
【図8】図面は、マウスにおいて、1.0×10pfu/マウスでの遺伝子組換えMVAの鼻腔内接種後、第43、71、86日目の血清試料中の抗インフルエンザウイルスIgGの力価を示す。
【図9】図面は、マウスにおいて、1.0×10pfu/マウスでの遺伝子組換えMVAの接種後、気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage)中の抗インフルエンザウイルスIgAを示す。
【図10】マウスにおいて、1.0×10pfu/マウスでの遺伝子組換えMVAの接種後の、細胞性免疫についてのリンパ球増殖アッセイ。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスのゲノム中へのインフルエンザ遺伝子の組合せの組入れに由来する、インフルエンザワクチンに関する。本発明のコンストラクトは、当技術分野においてこれまでに知られていない。
【0034】
本発明は、本明細書中に開示される特定の方法の工程及び材料に制限されるものではなく、関連する技術分野における当業者によって認識されるであろう、それらの均等物まで拡大される。本明細書において使用される用語法は、特定の実施態様を説明する目的にのみ使用されており、制限することを意図するものではないことが理解されるべきである。
【0035】
定義
改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルス
改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスは、177kbの二本鎖DNAのオルソポックスウイルスである。それは、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)における>570回の連続継代によって開発された、高度に弱毒化されたワクシニアウイルス株であり、連続継代の間に、それは、DNAの6つの主要な欠失(すなわち、欠失I、II、III、IV、V、及びVI)を被り、合計で31000塩基対となっている(Antoineら,1998)。欠失III(DelIII)部位は、外来配列の挿入および発現のために使用される、MVAゲノム内の最も一般的である部位の一つである。改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスの完全なゲノム配列及び他のオルソポックスウイルスらとの比較は、Virology 244:365−396中に見出すことができる。連続継代の結果、MVAウイルスは、宿主細胞が鳥細胞に厳しく限定されるようになり、ヒト及びほとんどの他のほ乳動物細胞において不十分にしか複製しない。極端な弱毒化のため、免疫不全非ヒト霊長類に高用量のMVAを与えた場合にも、有害作用は報告されなかった(Stittelaarら,2001)。120,000人を超えるヒトの、天然痘に対する最初のワクチン接種のためにMVAを使用した、網羅的な臨床経験がある。高リスクの患者を含む、広範な実地研究の間、MVAワクチンの使用に付随した副作用はなかった(Mayrら,1987;Sticklら,1974)。MVAは高度に弱毒化されているものの、それは依然として高い免疫原性を保持している(Meyerら,1991)。
【0036】
感染後には成熟した感染性ビリオンの集合は起こらないため、ヒト細胞におけるMVAの複製は認められていない。それでも、MVAは、非許容細胞(ほ乳動物細胞株)においても、ウイルス遺伝子及び組換遺伝子を高レベルで発現することが示されており、したがって、効率的かつ並はずれて安全な遺伝子発現ベクターとみなされてきた(Sutter and Moss,1992)。MVAの用途をさらに開拓するために、DNA組換えによって、MVAウイルスのゲノムを変化させることなく、外来遺伝子がMVA株中へと導入されてきた。
【0037】
Blu−MVA
Blu−MVAは、そのゲノム中のDelIII部位中にβ−gal遺伝子が挿入された、遺伝子組換えMVAウイルスである。
【0038】
ベビーハムスター腎臓細胞株(BHK21)
本明細書中で使用される場合、BHK21細胞株(ベビーハムスター腎臓細胞)は、ハムスターの腎臓由来の線維芽細胞株であり、1961年にI.A.Macpherson及びM.G.P.Stokerによって樹立された。BHK21細胞株は、ワクシニアウイルス、水疱性口内炎ウイルス、ヒトアデノウイルス25、レオウイルス3及びヒトポリオウイルス2に感受性である。この細胞株は、望ましい遺伝子及びマーカーDNAを含有する発現ベクターでのトランスフェクションのための宿主として使用されてきた。
【0039】
高感度緑色蛍光タンパク質
本明細書中で使用される場合、EGFPは、高感度緑色蛍光タンパク質をいい、それは遺伝子発現、タンパク質局在及びタンパク質−タンパク質相互作用をモニタリングするために使用される強力なレポーター分子である。いくつかのGFPの突然変異体が、現在は入手可能であり、それらは吸収、発光スペクトル及び量子収率において異なる。高感度GFP(EGFP)は、そのようなGFPの変異体の一つであり、Phe−64−Leu及びSer−65−Thr突然変異を含有する。それは、青色光励起後に、野生型GFPよりも高強度の発光を提供するため、広範に使用されている。EGFPは、蛍光活性化細胞分取及び他の研究のための理想的な分子として登場した。(Canellaら.2000)
【0040】
プロモーター
プロモーターは、特定の遺伝子の転写を促進するDNAのある領域である。プロモーターは典型的には、それらが制御する遺伝子の近辺で、同じ鎖上の(センス鎖の5’領域に向かって)上流に位置する。改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスにおける異種遺伝子の発現のためには、ポックスウイルスプロモーターを使用することが必須であり、これは、細胞性及び他のウイルスプロモーターはMVAの転写装置によって認識されないためである。MVAにおける高レベルの発現が望まれる場合には、p11又はpCAE等の強力な後期プロモーターが好ましい。
【0041】
Kozak配列
Kozak配列は、脊椎動物における翻訳開始のためのコンセンサス配列である。mRNA分子中のこの配列は、リボソームによって翻訳開始部位として認識され、そこからそのmRNA分子によって、タンパク質がコード化されている。
【0042】
改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスの非必須領域
本発明にしたがった非必須領域は、(i)ワクシニアウイルスのゲノムに関して自然発生するMVAゲノム中の欠失部位、又は(ii)MVAゲノムの遺伝子間領域、から選択され得る。遺伝子間領域という用語は好ましくは、2つの隣接した遺伝子間に位置するウイルスゲノムの部分であって、コード配列及び制御配列のいずれをも含まない部分をいう。しかしながら、本発明に従った異種核酸の組入れ用の挿入部位(非必須領域)は、これらの好ましい挿入部位に限定されず、これは、少なくとも1つの細胞培養系において増幅及び増殖され得る組換え体を得ることが可能である限り、組込みはウイルスゲノム中のどこであってもよいことが、本発明の範囲内であるためである。したがって、非必須領域はまた、MVAの増殖のために使用される細胞株によってその機能が補填され得る、一つの非必須遺伝子又は複数の非必須遺伝子らであり得る。
【0043】
インフルエンザ万能ワクチン
インフルエンザ万能ワクチンは、季節性並びに流行性インフルエンザを引き起こすウイルスに対する防御を提供することが意図されるインフルエンザワクチンをいう。それに応じて、鳥インフルエンザウイルスの2つの内部遺伝子(internal gene)である、M2外部ドメイン遺伝子及びPB2遺伝子、がMVAゲノムの非必須領域中に組入れられている。この遺伝子組換えウイルスは、インフルエンザ万能ワクチンの調製のために使用される。このワクチンのおかげで、インフルエンザワクチンの調製において使用するためのリアソータントを作るために、一年毎を基本として、その時に伝播しているウイルス株由来の抗原の組入れを行う必要がない。
【0044】
本発明
次世代インフルエンザワクチンの課題に対応するために、我々は、容易に入手可能な細胞株において生産され得る遺伝子組換えウイルスベクター中で、表面及び保存された内部ウイルスタンパク質の両方を組合わせる、新たなインフルエンザワクチンを開発した。
【0045】
本発明において使用される細胞株
MVAは、ニワトリ胚線維芽細胞、BHK21細胞、アフリカミドリザルの腎臓由来細胞株CV−1及びMA104中で増殖され得る。MVAの最も高い力価は、ニワトリ胚線維芽細胞(fibrablast)から得られるが、CEFの調製は厄介であり、かつ特定の細胞培養の経験を必要とする。CV−1及びMA104細胞は、CEF細胞と比較して、最も良くて約10分の1の量のウイルスを生産する。BHK21細胞は、CV−1及びMA104よりもはるかに、MVA増殖のためには許容的である。本発明によれば、BHK21(C13)が最も好ましい細胞株である。
【0046】
ワクチン
本発明によれば、インフルエンザ遺伝子は、H5N1、H5N3、H5N2、H5N7、H7N1、H7N3及びH9N2配列の群から選択され得る。好ましくは、遺伝子(ら)はH5N1由来である。好ましいインフルエンザ遺伝子の中には、以下がある:
【0047】
赤血球凝集素、HA、は、インフルエンザウイルスの表面上に見られる抗原性糖タンパク質であり、感染されている細胞へウイルスを結合させる原因である。少なくとも16個の異なるHA抗原がある。これらの亜型は、H1〜H16と標識される。最初の3つの赤血球凝集素であるH1、H2及びH3は、ヒトインフルエンザウイルスにおいて見られる。この付着は、インフルエンザウイルスの、細胞内への効率的な移行のために必要である。種々のインフルエンザ株の、種選択性を示す能力は、赤血球凝集素遺伝子における差異によるところが大きい。単一のアミノ酸置換を引き起こす、赤血球凝集素遺伝子中の遺伝子突然変異は、ウイルスの赤血球凝集素タンパク質が、宿主細胞表面上の受容体に結合する能力を、有意に変化させ得る。鳥インフルエンザウイルスHAは、α 2−3シアル酸受容体を結合し、一方でヒトインフルエンザウイルスHAは、α 2−6シアル酸受容体を結合する。ブタインフルエンザウイルスは、両方の種類のシアル酸受容体を結合する能力を有する。赤血球凝集素受容体タンパク質のアミノ酸位置223における突然変異は、ウイルスのヒト受容体に結合する能力を増大させ、家禽類受容体に対するその親和性を低下させ、この突然変異を持つ株を、ヒトの感染に、より適応させている。HAの受容体結合ポケットの位置226、227及び228におけるアミノ酸残基は、細胞表面受容体への結合親和性を決定しているように見え、かつ鳥(シアル酸−2,3−NeuAcGal)又はヒト(シアル酸−2,6−NeuAcGal)細胞表面受容体へのウイルスの選択的結合に影響を与えているように見える。ヒトA/HK/212/03及びA/HK/213/03単離物は、鳥受容体結合に付随するサインを保持するが、それらは、受容体結合ポケット内に、独特のアミノ酸置換(Ser227Ile)を有する。研究者らは、HA遺伝子中の2ヶ所における突然変異(182及び192と同定されている)が、ウイルスを、鳥受容体及びヒト受容体の両方へ結合することを可能としていることを発見した。H5N1ウイルスのHAにおける単一のE190D突然変異は、その結合優先性を、α 2−3シアル酸(鳥特異的)からα 2−6シアル酸(ヒト特異的)へと、潜在的に転換し得る。これが、1918年のスペイン風邪ウイルスで起こったことであり、スペイン風邪ウイルスは、アミノ酸226及び228におけるいかなる突然変異も有しておらず、したがって鳥特異的な受容体結合ポケットを有していたが、アミノ酸190におけるたった1つの突然変異が、その受容体特異性を、α 2−6シアル酸(ヒト特異的)へと変化させた。HAは、中和抗体応答を提供する。
【0048】
ノイラミニダーゼ、NA、は、インフルエンザウイルスの表面上に見られる、抗原性糖タンパク質酵素である。それは、感染細胞からの子孫ウイルスの放出を助ける。NAは、インフルエンザウイルス特異的免疫応答、すなわち、異なるウイルス変異体又は亜型に対する交差防御に貢献し得る抗体及びT細胞、を誘発する標的抗原である。
【0049】
Mは、同一のRNA分節由来の異なる読み枠を使用することによって、基質タンパク質M1及びM2をコードする。M1は、ウイルスRNAに結合するタンパク質である。M2は、イオンチャネルタンパク質として機能し、エンドソームからビリオン内部への陽子の流れを可能とし、エンドソームにおけるビリオンの脱コートの間のRNPからのM1タンパク質の除去を促進する。M2タンパク質の細胞外部分(M2e)は、著しく保存されている。1933年に単離された、最初のヒトA型インフルエンザ株以来、M2タンパク質の細胞外ドメイン中には、いかなるアミノ酸変化も見出されていない。M2eは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)機構による防御を提供する。
【0050】
ポリメラーゼ(PB1、PB2:塩基性ポリメラーゼ1及び2、PA:酸性ポリメラーゼ)。PB1は、3つのPタンパク質のうち最もよく特徴付けられている;PB1は、全てのRNA依存性RNAポリメラーゼ及びRNA依存性DNAポリメラーゼに共通する、5つの配列のブロックを含有する。PB1は、PB1タンパク質及びPB1−F2タンパク質をコードする。PB1タンパク質は、ウイルスポリメラーゼの必須成分である。PB1−F2タンパク質は、PB1 RNA分節の別のオープンリーディングフレームによってコード化されており、ウイルスの病原性に寄与する。PB2は、キャップ結合活性及びヌクレオチド鎖切断活性を有し、それらは、ウイルスのmRNA合成のために必要である。PAは、適切なプラス鎖コピーRNA及びvRNA合成のために不可欠であるが、これらのプロセスにおける具体的な機能は、PAに割り当てられていない。
【0051】
核タンパク質、NP、は、RNAの転写、複製及びパッケージングの目的のために、ウイルスゲノムのキャプシド形成が主要な機能である核タンパク質を、コードする。
【0052】
NSは、2つの非構造タンパク質、NS1及びNEP、をコードする。NS1(非構造タンパク質1)は、ウイルス感染細胞においてインターフェロン応答を抑制し、損なわれていない状態のウイルス生産をもたらす。NS1タンパク質は、宿主防御を回避させ、ウイルスの遺伝子転写が起こることを許容する。H5N1 NS1は、位置92における単一のアミノ酸変化によって特徴付けられる。そのアミノ酸を、グルタミン酸からアスパラギン酸へと変化させることによって、研究者らは、H5N1 NS1の効果を無効にすることができた。NS1遺伝子における、この単一のアミノ酸変化は、H5N1インフルエンザウイルスの病原性を、大いに増大させた。NEP(以前はNS2タンパク質といわれていた、核外輸送タンパク質)は、vRNPの排出を媒介する。
【0053】
本発明の一実施態様は、インフルエンザウイルスに対する万能ワクチンとして使用され得る、遺伝子組換えMVAウイルスに関する。本発明は具体的に、H5N1インフルエンザウイルスに対するワクチンの生産に関する。本発明の万能ワクチンはさらに、H5N1鳥インフルエンザ抗原の新規な組合わせを含み、かつそれを発現可能なMVAウイルスに関する。
【0054】
本発明の実施態様の一つによれば、H5N1ウイルス由来の抗原のいくつかをコードするヌクレオチド配列が、MVAのゲノム中へと導入され、それはワクチンとして使用され得る。使用される遺伝子は、A/Vietnam/1203/04 H5N1ウイルス由来のHA、NA、PB2及びM2e遺伝子から選択され得るが、それらに限定されない。本発明は、H5N1ウイルスに限定されなくてもよい。
【0055】
インフルエンザウイルスからクローニングされる遺伝子は、任意の適切なプロモーターの制御下にあり得る。遺伝子は、単一又は複数コピーの、同一又は異なるプロモーターの制御下にあり得る。インフルエンザ遺伝子が、その制御下で発現され得る最も好ましいプロモーターは、P11である。好ましい実施態様において、全ての遺伝子は、それらの個別のP11プロモーターの制御下にある。
【0056】
本発明の別の実施態様によれば、遺伝子組換えMVAウイルスはまた、インフルエンザ遺伝子と共に、マーカー遺伝子がクローニングされていてもよい。好ましい実施態様において、使用されるマーカー遺伝子は、高感度緑色蛍光タンパク質遺伝子(EGFP)であり得る。マーカー遺伝子は、インフルエンザ遺伝子の調節を制御しているP11プロモーターのうちの一つの制御下にあってもよい。好ましい実施態様において、EGFPマーカーは、別々のP11プロモーターの制御下にあり得る。
【0057】
インフルエンザウイルス由来の遺伝子並びにマーカー遺伝子を含む、これら全ての遺伝子は、一つのトランスファープラスミド中にクローニングされ得る。クローニングは、当技術分野において公知の方法によって実行され得る。トランスファープラスミドはさらに、任意の天然に存在する欠失における、MVAウイルスのゲノム中へのトランスファープラスミドの相同的組換えを助けるであろうMVAウイルス由来の配列、を有し得る。本発明の好ましい実施態様の一つは、インフルエンザ遺伝子、マーカー遺伝子、並びにMVAのDelIII部位において、トランスファープラスミドの相同的組換えを助けるであろう、MVAウイルスのDelIII部位由来の「左隣接領域(left flank)」配列及び「右隣接領域(right flank)」配列、を有するトランスファープラスミドに関する。
【0058】
したがって、インフルエンザウイルス由来の遺伝子は、例えば、MVAウイルスのウイルスゲノム中の天然に存在する欠失等の、任意の非必須部位中にクローニングされ得、ワクチンとして使用され得る遺伝子組換えMVAウイルスが生産され得る。好ましくは、インフルエンザウイルス由来の遺伝子は、ウイルスゲノムのDelIII部位中にクローニングされ得、ワクチンとして使用される遺伝子組換えMVAウイルスが生産され得る。
【0059】
本発明の好ましい実施態様によれば、受入番号.....下で.....に寄託された、新規のプラスミドが提供される。
【0060】
本発明の、一つのさらに好ましい実施態様は、インフルエンザウイルス、具体的には鳥インフルエンザウイルス、由来の少なくとも2つの遺伝子を含む、新規のプラスミドを提供し、ここで、少なくとも1つの遺伝子は、PB2及び/又はM2eである。より好ましい実施態様によれば、本発明の新規のプラスミドは、インフルエンザウイルス、具体的には鳥インフルエンザウイルス、由来の赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、ポリメラーゼPB2及び基質(M)タンパク質の細胞外部分(M2e)を含む。本発明の、一つのさらに好ましい実施態様は、これらの遺伝子が別々のP11プロモーターの制御下にあり得ることを定めている。
【0061】
本発明の、一つのさらに好ましい実施態様は、インフルエンザウイルス、具体的には鳥インフルエンザウイルス、由来の2つ以上の外来遺伝子のカセットを含み、かつ同時に発現可能な遺伝子組換えMVAウイルスに関し、ここで、当該遺伝子は、MVAゲノム内のDelIII部位において挿入されており、かつ外来遺伝子は単一のプロモーターの転写制御下にあり、ただし、少なくとも1つの外来遺伝子が、PB2又はM2eのいずれかである。
【0062】
本発明の別の好ましい実施態様は、インフルエンザウイルス、具体的には鳥インフルエンザウイルス、由来の少なくとも4つの外来遺伝子のカセットを含み、かつ同時に発現可能な遺伝子組換えMVAウイルスに関し、ここで、当該遺伝子は、MVAゲノム内のDelIII部位において挿入されており、かつ当該外来遺伝子は、単一のプロモーター、複数のプロモーター又は同一プロモーターの複数コピーの転写制御下にある。本発明の一つの好ましい実施態様によれば、当該インフルエンザ遺伝子は、別々のP11プロモーターの制御下にあり得る。
【0063】
遺伝子組換えMVAウイルスの調製は、種々の系において行われ得る。遺伝子組換えMVAウイルスの調製のためには、BHK21細胞が最も好ましい系である。
【0064】
本発明の好ましい実施態様によれば、遺伝子組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスを調製する方法が提供され、該方法は、以下の工程を含む:
a)ほ乳動物細胞株を培養する工程、
b)コンフルエントまで細胞株を生育させる工程、
c)Blu−MVAウイルスで細胞を感染させる工程、
d)P11プロモーターの制御下にあるインフルエンザウイルス(具体的には、鳥インフルエンザウイルス)を含む核酸で、細胞をトランスフェクトする工程、
e)前記遺伝子組換えMVAの力価を増大させるために、子孫ウイルスを継代する工程、及び
f)前記遺伝子組換えウイルスの単離工程。
【0065】
遺伝子組換えMVAウイルスの調製のためには、好ましくは、BHK21細胞が、公知の技術を使用して、MVAウイルスで感染され得る。感染後、感染細胞は、インフルエンザウイルス由来の遺伝子を含むトランスファープラスミドでトランスフェクトされ得る。トランスフェクションは、リン酸カルシウム法もしくはリポソームのいずれか、又は当技術分野において公知の任意の他の方法によって行われ得る。実験の間、適切な制御が使用され得る。細胞変性効果(cpe)が目に見えた後、トランスフェクトされた細胞は、掻き取られ、沈渣され、その後BHK21細胞の新鮮なバッチを感染させるのに使用され得るウイルス、を放出するよう、三回凍結融解され得る。遺伝子組換えMVAは、ストックを作る前に、9回継代され得る。このことは、遺伝子組換えMVAの力価を増大させるために行われ得る。このストックウイルスは、PCRによって混合子孫ウイルスにおける外来遺伝子の組込みを確認するため、ウエスタンブロットによって異種遺伝子の発現を確認するため、及びEGFP蛍光に基づいて、FACSによって遺伝子組換えMVAを単離するため、に使用され得る。次いで、遺伝子組換えMVAは精製され得る。
【0066】
本発明はさらに、予防的に有効な量の遺伝子組換えMVAを必要としているヒト/動物/鳥類の免疫化方法に関する。本発明にしたがった当該方法は、担体、添加剤、抗生物質、防腐剤、希釈剤、塩、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤及び当該分野において周知の他の物質もまた随意に含有し得る組成物、を含み得る。これらは、「医薬的に許容可能」であることが必要であり、それは、これらが本発明にしたがったMVAの生物学的活性の有効性に干渉しない、無毒の物質であることを意味する。担体の特性は、投与経路に依存するであろう。医薬組成物はさらに、処置における活性又は使用のいずれかを促進する他の薬剤を含有し得る。そのような追加的な要素及び/又は薬剤は、相乗効果を生み出すため又は副作用を最小化するために、本発明にしたがった免疫化方法に適用される医薬組成物中に含まれ得る。本発明にしたがったMVAの処方技術及び投与技術は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(Muck Publishing Company、イーストン、ペンシルバニア州、最新版)中に見出すことができる。
【0067】
本発明の別の実施態様は、インフルエンザ(具体的には、鳥インフルエンザ)ウイルス由来の遺伝子を含む遺伝子組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスを含む免疫原性組成物又はワクチンを、対象に投与することによる、インフルエンザウイルスに起因する感染症の処置方法に関する。
【0068】
本発明にしたがった免疫化方法は、予防的に有効な量の遺伝子組換えMVAを使用する。本発明のワクチンは、小児及び成人の両方を処置するために使用され得る。予防的に有効な用量はさらに、感染の確立の阻止又は症状の寛解をもたらすために十分量である化合物/材料の量をいう。
【0069】
本発明のワクチンは、キットの形態で入手可能であってもよい。キット又は組成物は、例えば、投与のための指示、ワクチン内の抗原の詳細、等のワクチンの詳細を含む説明書と共に(例えば、同一の箱の中に)梱包され得る。指示はまた、例えば、ワクチン接種に続くアナフィラキシー反応の場合に備えて、アドレナリンの溶液をすぐに利用できるようにしておくこと、等の警告も含有し得る。
【0070】
本発明のある実施態様によれば、本発明のワクチンは、インフルエンザ遺伝子を含む改変ワクシニアアンカラ(MVA)と、ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、インフルエンザ菌、肝炎、髄膜炎、肺炎球菌、連鎖球菌、炭疽菌、デング熱、マラリア、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、BCG、日本脳炎、ロタウイルス、天然痘、黄熱、腸チフス、シングルス(Singles)、及び水痘ウイルス等の他の抗原と、を組合わせるように、処方され得る。本発明の別の実施態様は、本発明のワクチンが、上記の他の抗原を含むワクチンの投与の場合と、同一又は異なる部位において、実質的に同時に投与され得ることを定めている。
【0071】
投与方法、用量及び投与回数は、公知の様式で、当業者によって最適化され得る。免疫化は、予防的であるだろう。本発明のワクチンは、非経口並びに経口経路を介した投与に適切であり得る。一実施態様において、本発明の免疫原性組成物の投与は、粘膜経路によるものであり得る。好ましい実施態様において、MVAベースのワクチンの送達は、鼻腔内及び筋肉内経路の両方によって行われ得、鼻腔内経路による初回刺激及び筋肉内経路による追加免疫、又はその逆であり得る。もっとも好ましい実施態様において、ワクチンは、患者をインフルエンザに対して免疫化するために、鼻腔内経路によって投与され得る。ワクチン組成物の鼻腔内投与は、例えば、点鼻剤もしくは鼻用スプレーとして液体形態で、又は吸入に適した粉末として、又はクリームもしくはエマルジョンとして処方され得る。組成物は、安定化剤、緩衝剤、又は防腐剤等の種々の添加剤を含有し得る。簡便な適用のために、ワクチン組成物は好ましくは、点鼻剤又はエアロゾルの形態での抗原の流通のために適切な容器中において供給される。本発明のワクチンの、使用され得る他の投与経路は、経口、頬側、肺、局所、非経口(皮下、筋肉内及び静脈内を含む)、経皮、眼(点眼薬)、経粘膜、移植又は直腸投与である。
【0072】
以下の詳細な実施例は、本発明のより良き理解に寄与することを意図している。しかしながら、本発明が、実施例の対象に制限されるという印象を与えることを意図していない。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
1.商業的に合成されたインフルエンザ遺伝子(HA、NA、M2e、PB2及びEGFP)を有するプラスミドでの形質転換
H5N1のA/Vietnam/1203/04株の赤血球凝集素遺伝子(HA1、受入番号:AY818135)、ノイラミニダーゼ遺伝子(NA、受入番号:AY818141)、基質タンパク質2外部ドメイン遺伝子(M2e、受入番号:AY651388)、ポリメラーゼ塩基性サブユニット2遺伝子(PB2、受入番号:AY651719)及び高感度緑色蛍光タンパク質遺伝子(EGFP、受入番号:U57609)を、商業的供給源から、合成後に得た。各遺伝子は、遺伝子の前に、プロモーターP11及びリボソーム結合部位コザック配列を有していた。人工的に合成された遺伝子を、pGA1/pUC−Kana/pPCR−Script/pGA4中にクローニングして、それぞれプラスミドp8、p4、p5、p7及びp6を作出した。これらの各プラスミドを使用して、大腸菌DH5αコンピテント細胞を形質転換した(Maniatis,Sambrookら,2001)。各プラスミドを含有する2つの形質転換コロニーを、適切な栄養培地中に播種し、製造業者によって提供された標準プロトコルの通りにQiagenキットを使用することによって、プラスミドを単離した。単離されたプラスミドを、適正な制限酵素によって消化して、必要な遺伝子の存在を確認し(図1及び図2)、その後、−20℃にて保管した。プラスミドのグリセロールストックを、各プラスミドで形質転換された大腸菌DH5αの培養物の形態で、−80℃にて保管した。
【0074】
(実施例2)
2.ベビーハムスター腎臓(BHK21)細胞株の培養。
BHK21(C13)細胞株を、ATCCから得た。BHK21細胞は、10% NBCSを補填したDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbeco’s modified Eagle medium))培地における通常の継代及び播種によって維持した。並行して、BHK21細胞のストックもまた調製した。
【0075】
(実施例3)
3.MVAウイルスの生育
3.1 MVAの復元及びMVAのストック調製。
MVAウイルスを、BHK21細胞に感染させることによって、DMEM培地中で復元させた。しかしながら、任意の適切な培地が使用され得る。MVAウイルスが実質的に高力価に達するまで、それをBHK21細胞中で繰り返し継代した。標準的な方法を使用してMVA感染BHK21細胞を回収し、−80℃にて保管した。
【0076】
3.2 MVAの力価測定
MVAはBHK21細胞においてプラークを形成しないため、その濃度をKarber法によって算出して、TCID50/mlを決定した(Vaccinia Virus and Poxvirology:Methods and Protocols,Stuart N.Isaacs著,2004)。
【0077】
(実施例4)
4.MVAゲノムDNAの単離。
BHK21(C13)細胞を、MVAストックによって感染させた。CPEの発生後、感染されたBHK21細胞を回収し、MVAゲノムDNA抽出のために使用した(Vaccinia Virus and Poxvirology:Methods and Protocols, Stuart N.Isaacs著、において言及されているプロトコルの通り)。得られた沈渣を70%エタノールで洗浄し、風乾し、脱イオン滅菌水中に溶解した。抽出されたゲノムDNAを、アガロースゲル上で流した(図3)。
【0078】
(実施例5)
5.トランスファープラスミドp2.BRC/V/A9の構築。
数々のクローニング工程を通して、トランスファープラスミドを構築した(図4)。最終的なトランスファープラスミドは、各々が別々のP11プロモーターの制御下にある、HA、NA、M2e及びPB2インフルエンザ遺伝子並びにEGFPマーカー遺伝子を有する。トランスファープラスミド中のひと続きの遺伝子は、MVAのDelIII部位の「左隣接領域」配列及び「右隣接領域」配列によって、両側が隣接されており(図5)、それらはMVAウイルスゲノムのDelIII部位中へのトランスファープラスミドの相同的組換えを助けるだろう。
【0079】
(実施例6)
6.遺伝子組換えMVAの作出。
6.1.トランスファーカセットの切り出し。
トランスファープラスミドp2.BRC/V/A9を、制限酵素SnaBI(左及び右隣接領域の両方に、制限部位を持つ)によって消化して、MVA隣接領域と共に、遺伝子HA、NA、M2e、PB2、マーカー遺伝子EGFPを含有するカセット全体を切り出した(図5)。消化してゲル精製したカセットを、滅菌水中で溶出した。
【0080】
6.2 トランスファーカセットでのトランスフェクション及び全長トランスファープラスミド。
BHK21細胞を、60mm組織培養皿中で培養した。80〜90%のコンフルエンシーで、培地を除去し、細胞を1×PBS++(1% CaCl及び1% MgClを含有するPBS)で洗浄し、1ml/60mm皿の10−5希釈のBlu−MVA(DelIII部位中にβ−gal遺伝子が挿入された遺伝子組換えMVA)ウイルスストックで感染させた。1時間の感染期間の間に、遺伝子カセット(H5N1遺伝子HA、NA、M2e、PB2、マーカー遺伝子EGFP及びMVA隣接領域を含有する)を使用するか、又は全長トランスファープラスミドを使用することによって、トランスフェクション混合物を作成した。使用したトランスフェクション試薬は、リポフェクタミン又は塩化カルシウムのいずれかであった。1時間のインキュベーション後、ウイルスを除去し、当技術分野において公知の方法によって、トランスフェクションを行った。37℃での3〜4日間のインキュベーションに続き、トランスフェクトされた細胞を、掻き取り、沈渣させ、遺伝子組換えウイルス及び野生型ウイルスを放出するよう、三サイクルの凍結融解に供した。この、ウイルスの混合種個体群を使用して、新鮮なBHK21細胞を感染させた。ストックを作成する前に、子孫ウイルスを、BHK21細胞中で数回継代した。これは、遺伝子組換えMVAの力価を増大させるために行った。このストックウイルスを使用して、混合子孫における外来遺伝子の組込みを、PCRによって確認し(図6)、遺伝子組換えMVAを発色検出によって単離した。
【0081】
(実施例7)
7.遺伝子組換えMVAの単離
11日齢の発育SPF卵からニワトリ胚線維芽細胞(CEF)を調製した。細胞を、遺伝子組換え子孫及び野生型子孫の混合されたストックで感染させた。ウイルスのプラークを、X−galのオーバーレイによって検出した。遺伝子組換えウイルスを示す白色のプラークを選び取った。
【0082】
(実施例8)
8.遺伝子組換えMVAの増幅、精製及び力価測定。
8.1遺伝子組換えMVAの増幅
いったん遺伝子組換えウイルスを単離したら、BHK21細胞を使用することによって、それを増幅させた。遺伝子組換えMVAを、T25フラスコ、T75及びT175フラスコのBHK21細胞に順次感染させることによって、増幅させた。T175中で生育された遺伝子組換えMVA感染細胞を沈渣させ、pH8の10mM Tris中に溶解し、−80℃で保管した。
【0083】
8.2遺伝子組換えMVAの精製
r−MVAを感染させた細胞を、超音波処理によって破壊し、遠心分離して細胞片を除去した。上清を段階的なショ糖密度勾配(stepped sucrose gradient)(濃度の段階:20%、25%、30%、35%及び40%)にアプライした。精製されたウイルスのバンドを回収し、沈渣させ、−80℃にて保管した。
【0084】
8.3 遺伝子組換えMVAの力価測定
MVAは、BHK21細胞中でプラークを形成しないため、その濃度は、TCID50/mlによって算出した。BHK21細胞を、96ウェルプレート中に播種し、遺伝子組換えMVAの2倍の段階希釈物で感染させた。プレートを、COインキュベータ中、37℃にて5日間インキュベートした。TCID50値毎mlを、Karber法によって算出した。(Vaccinia Virus and Poxvirology:Methods and Protocols,Stuart N.Isaacs著,2004)
【0085】
(実施例9)
9.BALB/cマウスにおける遺伝子組換えMVA−Fluウイルスの免疫原性の研究
6〜8週齢のBALB/cマウスの一群(n=6)を、1.0×10PFU/マウスの用量の精製遺伝子組換えMVA−Fluウイルスで、筋肉内経路を通して免疫化した。6〜8週齢のBALB/cマウスの第二群(n=6)を、1.0×10PFU/マウスの用量の精製遺伝子組換えMVA−Fluウイルスで、鼻腔内経路を通して免疫化した。プラセボ群は、適正に得た。免疫化前に、各マウスから血液試料を採取した。
【0086】
両群の全ての動物に、それぞれの経路によって、追加抗原量の精製遺伝子組換えMVA−Fluウイルスを、7、28及び50日目に与えた(1.0×10PFU/マウス)。
【0087】
初回免疫化後、0、28、43、71及び85日目(鼻腔内によって免疫化した群の場合は、初回免疫化後86日目)に各マウスを失血させた。安楽死の日に、各マウスから、BAL試料及び脾臓を採取した。
【0088】
インフルエンザ特異的全身性液性免疫応答を評価するため、各マウスの血清試料中の、インフルエンザウイルスに対する抗体を、ELISAによって決定した(図7及び8)。
【0089】
インフルエンザ特異的粘膜性液性免疫応答を評価するため、各マウスのBAL試料中の、インフルエンザウイルスに対する抗体を、ELISAによって決定した(図9)。
【0090】
脾臓から単離されたリンパ球を使用するリンパ球増殖アッセイ(Current Protocols In Immunology,第I巻)を行って、インフルエンザウイルスに対する細胞性免疫応答を評価した(図10)。
【図4−1】

【図4−2】

【図4−3】

【図4−4】

【図4−5】

【図4−6】

【図4−7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
受入番号.....下で.....に寄託された、新規のプラスミド。
【請求項2】
インフルエンザウイルス由来の少なくとも4つの遺伝子のカセットを含み、かつ同時に発現可能な、組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスであって、ここで当該遺伝子が、MVAゲノム内の欠失部位IIIに挿入されている、組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルス。
【請求項3】
前記インフルエンザウイルスが、H5N1、H5N3、H5N2、H5N7、H7N1、H7N3及びH9N2からなる群から選択される鳥インフルエンザウイルスである、請求項2に記載のウイルス。
【請求項4】
前記鳥インフルエンザウイルスが、H5N1である、請求項3に記載のウイルス。
【請求項5】
前記鳥インフルエンザウイルスが、A/Vietnam/1203/04 H5N1である、請求項4に記載のウイルス。
【請求項6】
前記インフルエンザウイルス由来の前記遺伝子が、赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、基質タンパク質(Ml及びM2)、ポリメラーゼ(PBl、PB2及びPA)、核タンパク質(NP)並びに非構造タンパク質(NS及びNEP)からなる群から選択される、請求項2に記載のウイルス。
【請求項7】
前記鳥インフルエンザウイルス由来の前記遺伝子が、赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、ポリメラーゼPB2及び基質(M)タンパク質の細胞外部分(M2e)である、請求項6に記載のウイルス。
【請求項8】
マーカー遺伝子が、前記インフルエンザ遺伝子と共にクローニングされる、請求項2に記載のウイルス。
【請求項9】
前記マーカー遺伝子が、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)遺伝子である、請求項8に記載のウイルス。
【請求項10】
前記インフルエンザウイルス由来の前記遺伝子が、単一又は複数コピーの同一又は異なるプロモーターの制御下にある、請求項2に記載のウイルス。
【請求項11】
前記インフルエンザウイルスが、鳥インフルエンザウイルスであり、全遺伝子が、1つのプロモーターの転写制御下にある、請求項10に記載のウイルス。
【請求項12】
前記インフルエンザウイルスが、鳥インフルエンザウイルスであり、全遺伝子が、別々のプロモーターの転写制御下にある、請求項10に記載のウイルス。
【請求項13】
使用される前記プロモーターが、P11である、請求項11または12に記載のウイルス。
【請求項14】
前記インフルエンザウイルスの各遺伝子が、別々のP11プロモーターの転写制御下にある、請求項2に記載のウイルス。
【請求項15】
インフルエンザウイルス由来の赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、ポリメラーゼPB2及び基質(M)タンパク質の細胞外部分(M2e)を含む、新規のプラスミド。
【請求項16】
遺伝子が、別々のP11プロモーターの転写制御下にある、請求項15に記載の新規のプラスミド。
【請求項17】
前記インフルエンザウイルスが、鳥インフルエンザウイルスである、請求項15または16に記載の新規のプラスミド。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれかに記載の新規のプラスミドで形質転換又はトランスフェクトされた、宿主細胞。
【請求項19】
インフルエンザウイルス由来の2つ以上の遺伝子のカセットを含み、かつ同時に発現可能な遺伝子組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスであって、ここで、当該遺伝子が、MVAゲノム内の欠失部位IIIにおいて挿入されており、ただし、少なくとも1つの遺伝子がPB2及び/又はM2eのいずれかである、遺伝子組換え改変ワクシニアアンカラウイルス。
【請求項20】
前記インフルエンザウイルスが、鳥インフルエンザウイルスである、請求項19に記載のウイルス。
【請求項21】
請求項19または20に記載のウイルスを含むワクチンであって、ここで、前記インフルエンザウイルス遺伝子が、別々のP11プロモーターの転写制御下にある、ワクチン。
【請求項22】
請求項2または19に記載の遺伝子組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスの調製方法であって、以下の工程
a)ほ乳動物細胞株を培養する工程、
b)コンフルエントまで細胞株を生育させる工程、
c)Blu−MVAウイルスで細胞を感染させる工程、
d)P11プロモーターの制御下にある前記インフルエンザ遺伝子を含む核酸で細胞をトランスフェクトする工程、
e)前記遺伝子組換えMVAの力価を増大させるために、子孫ウイルスを継代する工程、及び
f)前記遺伝子組換えウイルスの単離工程、
を含む、方法。
【請求項23】
使用される前記ほ乳動物細胞株が、BHK21である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項2または19に記載のウイルスを含み、他の添加剤、希釈剤及び安定化剤をさらに随意に含む、ワクチン。
【請求項25】
非経口投与及び経口投与に適している、請求項2または19に記載のウイルスを含む、ワクチン。
【請求項26】
鼻腔内、筋肉内及び粘膜経路を介した投与に適している、請求項25に記載のワクチン。
【請求項27】
当該組成物が、点鼻剤又は鼻用スプレーとして液体形態での経鼻経路を介した送達、又は粉末として吸入を介した送達、又はクリームもしくはエマルジョンとしての送達、に適している、請求項26に記載のワクチン。
【請求項28】
例えば、投与のための指示、ワクチン内の抗原の詳細、等の、ワクチンの詳細を示す説明書を含む、請求項24〜27のいずれかに記載のワクチンを含む、キット。
【請求項29】
請求項24〜27のいずれかに記載のワクチンの、対象への投与による、インフルエンザウイルスに起因する感染症の処置方法。


【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−527232(P2012−527232A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511410(P2012−511410)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【国際出願番号】PCT/IN2010/000314
【国際公開番号】WO2010/134094
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(500445631)パナセア バイオテック リミテッド (29)
【Fターム(参考)】