説明

遺伝子転移媒介の血管形成療法

【課題】アデノウイルスベクターを用いて心臓に対し良好な遺伝子移転を行う。
【解決手段】トランスジーン挿入された複製欠損アデノウィルス ベクターは末梢血管病および心筋虚血を含む心臓病のin vivo 遺伝子療法に効果的に使用され、これは一方もしくは両方の大腿動脈もしくは冠状動脈の管腔内に直接に深く行う1回の大腿動脈内もしくは冠状動脈内注射により、所望領域における細胞をトランスフェクトするのに充分な量にて行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の説明)
この出願は、1995年7月7日付け出願の米国特許出願第08/485,742号の部分継続出願であり、後者は1995年2月28日付け出願の米国特許出願第08/396,207号の部分継続出願である。
(公的支援研究に関する説明)
この発明は、米国国立衛生研究所により付与された認可番号HL 0281201およびHL 1768218の下で政府支援と共になされたものである。政府はこの発明に所定の権利を有する。
(発明の技術分野)
本発明は遺伝子療法に関し、より詳細にはウィルス媒介および他の形態の遺伝子療法に関し、さらに所望遺伝子の供給(デリバリー)に有用な或る種のアデノウィルス構築物に関するものである。特に本発明は、心臓における血管形成(angio gemesis) の促進に有用な遺伝子のアデノウィルス媒介供給、並びに末梢血管病および心臓の病気(たとえば心筋虚血)の前記ベクターを用いる処置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
米国にて約6000万人の成人が心臓血管病を有し、冠状心臓病を有する1100万人の成人を含むとアメリカン・ハート・アソシエーション(1995年統計)により報告されている。心臓血管病は、米国における年間の全死亡者の40%を越えるほぼ何百万という死亡の原因である。1995年、米国における150万人の成人は狭心症の診断を受け、胸痛をもたらす一時的な心筋虚血の期間を経験する。毎年約350,000の新たな狭心症の症例が米国にて発生する。
【0003】
心筋虚血は、心筋が充分な血液供給を受けずに酸素および栄養の必要レベルを欠如した際に生ずる。心筋虚血の最も一般的な原因はアテローム性動脈硬化症であって、心筋に血流を与える血管(冠状動脈)における閉塞をもたらす。現在の処置は薬理学的療法、冠状動脈バイパス手術、およびたとえばバルーンアンギオプラスティーのような技術を用いる経皮的血管再生を包含する。標準的な薬理学療法は、心筋に対する血液供給の増加または酸素および栄養に関する心筋の要求低下を含む手法に基づいている。心筋に対する血液供給の増加は、たとえばカルシウム チャンネル ブロッカーもしくはニトログリセリンのような薬剤によって達成される。これら薬剤は、動脈壁における平滑筋の弛緩を生ぜしめることにより発病動脈の直径を増大させると思われる。酸素および栄養に関する心臓の要求低下は、心臓に対する血液動力学負荷を低下させる薬剤(たとえば動脈血管拡張剤)により或いは所定の血液動力学負荷(たとえばβ−アドレナリン性リセプタ拮抗剤)に対する心臓の収縮反応を減少させる薬剤のいずれかにより得られる。
虚血性心臓病の外科処置は、計画的に設置されるバイパス移植物(通常、伏在静脈または内部乳房移植物)による発病動脈セグメントのバイパスに基づいている。
経皮的血管再生は、発病した冠状動脈における狭窄を減少させるためのカテーテルの使用に基づいている。これら手法は全て虚血現象の回数を減少させ或いは消去するために使用されるが、各種の限界を有する。
【0004】
予備的レポートは、血管形成性蛋白もしくはペプチドを直接注射して心筋虚血を処置する心臓における新たな血管発達を記載している。繊維芽細胞成長因子(FGF)群の数種の要素(すなわち酸性繊維芽細胞成長因子、aFGF;塩基性繊維芽細胞成長因子、bFGF;繊維芽細胞成長因子−5、FGF−5など)が成長および発達に際し血管形成の調節に関与している。たとえば成体動物にて血管形成を促進するaFGF蛋白の役割が最近のレポートの主題であった。これは、成体ラットの腹膜キャビティに入れられたコラーゲン被覆マトリックスにおけるaFGF蛋白が良好に血管形成されて正常に還流する構造をもたらしたと述べている( Thompson, et al., PNAS, 86:7928-7932, 1989) 。成体イヌの冠状動脈に冠状動脈閉塞に際しbFGF蛋白を注射すれば心筋機能不全の減少、より小さい心筋梗塞、および重症ベッドにおける血管形成の増加が得られると報告されている(Yanagisawa-Miwa, et al., Science, 257:1401-1403, 1992) 。同様な結果が、bFGF蛋白を用いて心筋虚血の動物モデルでも報告されている(Harada,et al.,J. Clin. Invest., 94:623-630, 1994, Unger, et al., Am, J. Physiol., 266:H1588-H1595, 1994) 。
【0005】
しかしながら、これら蛋白で血管形成作用を達成する前提は蛋白の反復もしくは長期間の供給を必要とし、これは臨床設計にて血管形成を刺激するためこれら蛋白を使用する用途を制約する。換言すれば、人間における満足しうる療法は1種もしくはそれ以上のこれら血管形成ペプチドもしくは蛋白の持続および長期間の輸液を必要とし、これら自身は極めて高価であって冠状動脈に挿入されたカテーテルにより供給する必要があり、したがって処置の経費および困難性を増大させる。
【0006】
最近、心臓病を含め病気の処置もしくは予防のための遺伝子転移の使用につき各種の刊行物が示されている。たとえば(Mazur, et al, "Coronary Restenosisand Gene Therapy", Molecular and Cellular Pharmacology, 21:104-111, 1994; French, "Gene Transfer and Cardiovascular Disorders", Herz, 18:222-229,1993; Williams, "Prospects for Gene Therapy of Ischemic Heart Disease",American Journal of Medical Sciences, 306:129-136, 1993; Schneider and French, "The Advent of Adenovirus: Gene Therapy for Cardiovascular Disease", Circulation, 88:1937-1942, 1993)。他の刊行物(Leiden, et al, 国際公開番号PCT/US93/11133, 題名 "Adenovirus-Mediated Gene Transfer to Cardiac and Vascular Smooth Muscle") は、心臓血管の平滑筋細胞における機能を調節する目的でアデノウィルス媒介の遺伝子転移の使用につき報告している。ライデン等は、遺伝子産生物をコードするDNA配列を含んだレコンビナントアデノウィルスを心臓もしくは血管の平滑筋細胞に供給して、細胞を遺伝子産生物が発現されるまで維持しうることを述べている。ライデン等によれば、筋肉細胞の機能は遺伝子の転写を変化させることにより調節され、たとえばポリヌクレオチドもしくはポリペプチドのような遺伝子転写産生物の生成に際し変化する。ライデン等の報告によれば、このポリヌクレオチドもしくはポリペプチドは心臓もしくは平滑筋細胞と相互作用して、その細胞の機能を調節する。ライデン等は、細胞がinvitro、in situ またはin vivo のいずれに存在してもこの調節を達成しうると述べている。ライデン等は、遺伝子産生物挿入された複製欠損アデノウィルス型−5(CMVプロモータを有する)をたとえばプラスミドJM17のような完成アデノウィルス ゲノムを有するプラスミドと一緒に293細胞中へ同時トランスフェクト(co-transfect)することにより、遺伝子産生物を有するアデノウィルス構築物を得;得られたアデノウィルス構築物を293細胞にて増殖させ;このアデノウィルス構築物を心筋もしくは血管平滑筋細胞にベクターを直接注射して供給することからなる遺伝子転移法を記載している。
【0007】
アデノウィルス ベクターを用いて心臓に対し良好な遺伝子転移を行うには障害が存在する。たとえば急速分裂する細胞集団へのトランスジーンの挿入は、相当減少したトランスジーン発現時間をもたらす。この種の細胞の例は全血管の内層を構成する内皮細胞および心臓全体に分散した繊維芽細胞を包含する。所望の細胞だけがトランスジーンを受け入れて発現すると共にトランスジーンが全身的に分配されないようトランスジーンを標的とすることも極めて重要な考慮である。
これが達成されなければ、トランスジーンの全身的発現およびそれに伴う問題が生ずる。たとえば肝臓におけるアデノウィルス媒介遺伝子転移の後に炎症性浸潤が観察されている(Yang, et al., Proc. Natl. Acad. Sci (U.S.A.), 91:4407,1994) 。最後に、血管形成をin vivo 刺激するためのFGF−5のアデノウィルス媒介遺伝子転移に関し、注射されたウィルス物質が重大なしばしば生命に危険な心臓不整脈を誘発しうることが突き止められた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以下説明する本発明は、従来技術に伴うこれらおよび他の問題を対処すると共に解消する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要点)
本発明は心臓病(好ましくは心筋虚血)および末梢血管病の処置に有用な遺伝子療法に向けられる。本発明の1目的は、血管形成性蛋白もしくはペプチド(好ましくはFGF−5)が心筋にて治療上顕著な程度まで連続的に持続期間にわたり産生される心臓病を処置する方法を提供し、この方法は前記血管形成性蛋白もしくはペプチドのための遺伝子を含有するベクター構築物(好ましくは複製欠損アデノウィルス構築物)を冠状動脈内注射により、好ましくは一方もしくは両方の冠状動脈または1本もしくはそれ以上の伏在静脈または内部乳房動脈移植物の小孔を越えて相当深く(典型的には少なくとも約1cm)導入されたカテーテルにより心臓を標的とする。
【0010】
他面において本発明は心筋虚血を有する患者にて心臓病を処置する方法であり、トランスジーン挿入された複製欠損アデノウィルスベクターを冠状動脈内注射、好ましくはベクターの1回の注射を一方もしくは両方の冠状動脈(または移植物)に直接行って患者の心筋に供給することにより、罹患した心筋に心臓筋細胞をトランスフェクトし、前記ベクターはたとえばFGF−5、aFGF、bFGFもしくはVEGF(血管内皮成長因子)のような血管形成性蛋白もしくはペプチドをコードするトランスジーンを含み、このトランスジーンを心臓で発現させることにより、罹患した心筋の領域にて血管形成を促進することからなっている。野生型ウィルスを含まないベクターストックを一方もしくは両方の冠状動脈(または移植物)の管腔中に、好ましくは右側および左側の両冠状動脈(または移植物)に、好ましくは光学密度測定により測定して107 〜1013個のウィルス粒子の量にて(より好ましくは109〜1011 個のウィルス粒子)を注射することにより、所望
個数の細胞(特に心臓筋細胞)を罹患した心筋にて血管形成性蛋白もしくはペプチドコード遺伝子で局部的にトランスフェクトし、これにより遺伝子転移の治療効果を最大化させると共に心臓外部位における望ましくない血管形成およびウィルス蛋白に対する炎症反応の可能性を最小化させることができる。たとえば心室筋細胞特異性プロモータを使用すれば、このプロモータは心臓筋細胞に制限された発現を一層確実に可能にして、たとえば網膜のような非心臓組織における血管形成の極めて有害な作用を回避することができる。
【0011】
他面において本発明は濾過されたアデノウィルス ベクター注射製剤を提供し、この製剤は好ましくは107 〜1013個のウィルス粒子の最終ウィルスタイターにてレコンビナントアデノウィルスベクターを含み、このベクターは野生型ウィルスを含まず、しかも複製競合性を付与する1種もしくはそれ以上の所要のアデノウィルス遺伝子(たとえばE1A/E1B遺伝子)が欠失している部分アデノウィルス配列と、たとえば血管形成性aFGF、bFGFおよびVEGFのような血管形成性蛋白もしくはペプチドをコードするトランスジーン(これは部分アデノウィルス配列に整列したプロモータにより促進される)と、医薬上許容しうるキャリヤとで構成される。このアデノウィルス ベクター注射製剤を使用することにより、臨床的心筋虚血もしくは末梢血管病の処置に有効なアデノウィルス媒介FGF−5遺伝子転移を何ら望ましくない作用なしに行うことができる。
【0012】
他面において本発明は、心筋にて血管形成性蛋白もしくはペプチドをin vivoで発現し
うるレコンビナントベクターを含有するウィルスストックの製造方法をも提供し、この方法は好ましくはたとえばFGF−5、aFGF、bFGFおよびVEGFのような血管形成性蛋白もしくはペプチドをコードするトランスジーンを、プロモータとヒトアデノウィルス5ゲノムの左末端の部分アデノウィルス配列(これからは複製競合性を付与する1個もしくはそれ以上の所要のアデノウィルス遺伝子、たとえばE1A/E1B遺伝子が欠失している)に整列したポリリンカーとを含有するプラスミドにクローン化させ;前記プラスミドを欠失複製要求性遺伝子でトランスフォームされた哺乳動物細胞に同時トランスフェクトすると共にプラスミドは、全ヒトアデノウィルス5ゲノムと包封するにはプラスミドを大き過ぎるようにする追加挿入部とを有し、これによりトランスジーン挿入されたプラスミドと全アデノウィルスゲノムを有するプラスミドとの間でレスキュー組換を生ぜしめて複製要求性遺伝子なしにトランスジーンを含むレコンビナントゲノムを形成させ、ここで、前記レコンビナントゲノムは包封されるよう充分小さく;細胞培養物にて良好なレコンビナントを同定し;得られたレコンビナントを不在複製−要求性遺伝子でトランスフォームされた哺乳動物細胞にて増殖させ;増殖したレコンビナントを精製して野生型ウィルスなしにレコンビナントベクターを含有するようにし;精製されたベクターをフィルタ、好ましくは0.1〜0.5μmフィルタ、より好ましくは0.3μmフィルタに通過させる各工程を含む。
【0013】
さらに他面において、血管形成性ペプチドもしくは蛋白を発現するレコンビナントアデノウィルスは大腿動脈の近位部分にカテーテルにより供給され、これにより大腿動脈からの血流を受け入れる骨格筋の細胞へ遺伝子転移を行う。これは血管形成刺激を与えて、脚部の骨格筋における血管形成をもたらすと共に末梢血管病(すなわち脚の筋肉に対す不充分な血液供給を特徴とする病気)の処置として役立つ。
【0014】
さらに他面において、心臓および脚部の他に本発明は他の器官もしくは組織を標的にして所望の器官もしくは組織への部位指向の遺伝子転移をもたらすアデノウィルス媒介のトランスジーン供給および発現をも可能にする。したがって本発明は、特定動脈により給血される任意の組織もしくは器官に向けられたアデノウィルス媒介の遺伝子転移を包含する。たとえばトランスジーン含有アデノウィルスをたとえば腎臓に給血する1本もしくはそれ以上の腎臓動脈または肝臓の肝動脈など所望の動脈における管腔中へ深く注射(たとえば約1cm)して供給することにより、これら器官に制限された遺伝子転移を行うことができる。この種の手法は血管形成、器官もしくは組織特異性腫瘍の処置、遺伝代謝病の処置などを含め多くの用途に用いることができる。注射の深さは標的器官もしくは組織、患者の動脈解剖構造および当業界で知られた他の因子に応じて変化することができる。好ましくは注射の深さおよび位置はレコンビナントアデノウィルスの局部的であるが全身的でない供給を可能にするよう選択される。当業者はこの種の深さを不当な実験なしに決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】トランスジーン コード化アデノウィルスのレスキュー組換構成を示す略図である。
【図2】lacZ(比較遺伝子)およびFGF−5での遺伝子転移の前およびその14±1日後における末端拡張期壁厚さ(EDWTh)および末端収縮期壁厚さ(ESWTh)を測定して計算された右側心房調整(HR=200bpm)の際の虚血ベッドにおける壁肥厚%(%WTh)を示し、虚血ベッドにおける機能はFGF−5での転移後に2.6倍増大し(p=0.0001)、比較遺伝子では影響を受けなかった。
【図3】虚血領域におけるピーク ビデオ強度(LCxベッド)を心室間隔膜(IVS)におけるピーク ビデオ強度で割算した比として現されるピークコントラスト比(血流の相関)を示し、これはlacZ(比較遺伝子)およびFGF−5による遺伝子転移の前および14±1日後のコンピュータに基づく心房調整(200bpm)の際のビデオ分析プログラムを用いてビデオ画像から測定した。虚血ベッドに対する血流はFGF−5での遺伝子転移の後に通常の2倍増大し(p=0.0018)、比較遺伝子の後には正常値の50%に留まった。
【図4a】心筋コントラスト超音波心臓検査図(図示せず)に対応する図面である。白色領域はコントラスト増大(より多い血流)を示し、黒色領域は減少した血流を示す。第4a図は正常ブタにおける急性LCx閉塞を示す。
【図4b】心筋コントラスト超音波心臓検査図(図示せず)に対応する図面である。白色領域はコントラスト増大(より多い血流)を示し、黒色領域は減少した血流を示す。第4b図はlacZ遺伝子転移の14±1日後を示す。
【図4c】心筋コントラスト超音波心臓検査図(図示せず)に対応する図面である。白色領域はコントラスト増大(より多い血流)を示し、黒色領域は減少した血流を示す。第4c図はFGF−5での遺伝子転移の14±1日後を示す。
【図5】はFGF−5およびlacZでの遺伝子転移の後における虚血および非虚血領域の顕微鏡分析により定量した毛管数と繊維数との比を示す。FGF−5遺伝子転移の後に血管形成が増大した(p<0.038)。
【図6a】処置動物の領域的収縮機能をグラフで示す。
【図6b】処置動物の領域的収縮機能をグラフで示す。
【図7】処置動物の領域的心筋血流をグラフで示す。
【図8a】処置動物における血管数の測定をグラフで示す。
【図8b】処置動物における血管数の測定をグラフで示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
(血管形成性蛋白もしくはペプチドをコードするトランスジーン)
本発明においては、心臓の虚血領域(または末梢血管病の場合は骨格筋)に対する心筋血流を向上させうる各種の蛋白もしくはペプチド成長因子を使用することができる。発現させるべき血管形成性蛋白もしくはペプチドとしては、たとえばaFGF、bFGFおよびFGF−5のような血管形成性蛋白もしくはペプチドを例示することができる。FGF群の血管形成活性は合理的には蛋白輸液の設定にて良好に確認される(Yanagisawa-Miwa, et al., Science, 257:1401-1403,1992, Harada, et al., J. Clin, Invest., 94:623-630, 1994, Unger, et al.,Am. J. Physiol., 266:H1588-H1595, 1994)。VEGF(血管内皮成長因子)のための遺伝子、すなわち新たな血管成長の有力な刺激剤も使用することができる。
遺伝子転移手法を成功させるには、遺伝子産生物の合成およびトランスフェクト細胞からの分泌の両者を必要とする。この観点からFGF−5をコードする遺伝子が好適であり、好ましくはシグナル ペプチドをコードして発現された際に遺伝子産生物が心臓(もしくは骨格筋)の間質にアクセスすると共に血管形成を誘発するよう指令する配列を含むよう選択される。
(ヘルパー独立性の複製欠損ヒトアデノウィルス5系)
一般に、興味ある遺伝子を心臓筋細胞(および骨格筋細胞)を含む心臓(または骨格筋)までin vivo にて転移させ、コードされた蛋白の構成的産生を指令する。数種の異なる遺伝子転移手法が可能である。好適なものはヘルパー非依存性の複製欠損ヒトアデノウィルス5系である。この系を用いて、本出願人等は1回の冠状動脈内注射により心筋細胞の60%より高いトランスフェクションをin vivo にて示した(Giordano and Hammond, Clin. Res., 42:123A, 1994) 。非複製レコンビナントアデノウィルスベクターが、冠状動脈内皮および心臓筋細胞をトランスフェクトして冠状動脈内注射の後に極めて効率的なトランスフェクションをもたらすのに特に有用である。同じことが末梢血管系の所望細胞をトランスフェクトする際にも言える。
【0017】
ヒトアデノウィルス5(Virology, 163:614-617, 1988) に基づくレコンビナントアデノウィルスベクターは、アデノウィルスゲノム(一般にE1A/E1B)から必須早期遺伝子を喪失し、したがってこの喪失遺伝子産生物を許容細胞株で増殖させなければ複製することができない。喪失アデノウィルスゲノム配列の代わりに、興味あるトランスジーンをクローン化させると共に複製欠損アデノウィルスで感染された組織/細胞にて発現させることができる。アデノウィルスに基づく遺伝子転移は宿主ゲノムへのトランスジーンの組込みを与えず(0.1%未満のアデノウィルス媒介トランスフェクションは宿主DNAへのトランスジーン組み込みをもたらす)、したがって安定でないが、アデノウィルスベクターは高タイターで増殖して非複製細胞をトランスフェクトすることができる。トランスジーンは娘細胞まで移行しないが、これは分裂しない成体骨格筋および心臓筋細胞への遺伝子転移につき許容しうる。レトロウィルスベクターは安定な遺伝子転移を与え、高タイターがレトロウィルス・プソイドタイピングにより得られる(Burns, et al, Proc. Natl.Acad. Sci (USA), 90:8033-8037, 1993) 。ただし現在のレトロウィルスベクターは非複製細胞(成体骨格筋および心臓筋細胞)を効率的にトランスジデースすることができない。さらに、宿主DNAへのトランスジーン組込みの強力な被害は短期間の遺伝子転移が充分であれば保証されない。
実際に、血管形成性蛋白の制限された時間的発現は実質的な血管形成につき充分であり、心臓血管病および末梢血管病の各過程に関する一時的な遺伝子転移にて治療上充分であることが突き止められた。
【0018】
アデノウィルスE1A/E1B遺伝子でトランスフォームされたヒト胎児腎細胞であるヒト293細胞は有用な許容細胞ラインの典型例である。しかしながら、複製欠損アデノウィルスベクターを増殖させうる他の細胞株、たとえばHeLa細胞も使用することができる。
(レコンビナントアデノウィルスベクターの作成)
本発明で使用するアデノウィルスベクターは全て刊行物(Graham, Virology, 163:614-617, 1988) に記載されたレスキュー組換技術によって作製することができる。要するに、興味あるトランスジーンをプロモータとポリリンカーとE1A/E1B遺伝子が欠失している部分整列アデノウィルス配列とを有するシャトルベクターにクローン化させる。シャトルベクターとしては、ヒトアデノウィルス5ゲノム(Virology, 163:614-617, 1988) の左側末端の部分からウィルス複製に必須であるE1AおよびE1B配列をコードする早期蛋白をマイナスした部分をコードするプラスミドpAC1(Virology, 163:614-617, 1988)(または同族体)、さらにポリリンカーとCMVプロモータとE1A/E1B遺伝子が欠失している部分アデノウィルス配列に整列したSV40ポリアデニレーションシグナルとを有するプラスミドACCMVPLPA(J. Biol. Chem., 267:25129-25134, 1992)を例示することができる。プラスミドpAC1もしくはACCMVPLPAの使用はクローニング過程を容易化させる。次いでシャトルベクターを、包封するには大き過ぎる長さを持った全ヒトアデノウィルス5ゲノムを含むプラスミドと共に293細胞中へ同時トランスフェクトさせる。同時トランスフェクションは燐酸カルシウム沈澱またはリポフェクションによって行うことができる(Biotechiniques, 15:868-872, 1993)。プラスミドJM17は全ヒトアデノウィルス5ゲノム+アンピシリン耐性のための遺伝子を含むベクターpBR322の部分(4.3kb)をコードする。JM17は成熟ウィルス粒子を作成するのに必要な全てのアデノウィルス蛋白をコードするが、包封するには大き過ぎる(40kb対野生型の36kb)。少ない種類の同時トランスフェクト細胞にて、たとえばプラスミドpAC1のようなシャトル ベクターを含むトランスジーンと、たとえばプラスミドpJM17のような全アデノウィルス5ゲノムを有するプラスミドとの間のレスキュー組換は、E1A/E1B配列が欠損すると共に興味あるトランスジーンを有するが二次的にたとえば組換に際しpBR322配列のような追加配列を喪失して包封するのに充分小さくなるようなレコンビナントゲノムを与える(第1図参照)。上記方法に関し、本出願人等は成功した結果を報告した(Giordano, et al., Circulation, 88:I-139, 1993, and Giordano and Hammond, Clin. Res.,42:123A, 1994) 。アデノウィルスHCMVSP1 lacZ(Clin. Res., 42:123A, 1994) をコードするCMV促進されたβ−ガラクトシダーゼを使用して、X−gal処理により遺伝子転移の効率を評価することができる。
【0019】
遺伝子転移の初期方式は上記したようなアデノウィルスベクターを使用する。
これらベクターの利点は、高効率の遺伝子転移(in vivo にてトランスフェクトされた標的器官細胞の60%以上)を行う能力、高タイターのウィルスストックを得る容易さ、およびたとえば分裂しない心臓筋細胞のような細胞への遺伝子転移を行うこれらベクターの能力を包含する。
(組織特性プロモータ)
さらに本発明は、たとえば冠状動脈もしくは大腿動脈へトランスジーンを供給することを目標とする細胞の使用だけでなく、組織特異性プロモータの使用をも包含する。たとえば左側心室ミオシン軽鎖−2(MLC2v)もしくはミオシン重鎖(MHC)の組織特異性転写制御配列をたとえばアデノウィルス構築物におけるFGF−5遺伝子のようなトランスジーンに融合させることにより、トランスジーン発現を心室心臓筋細胞に制限する。遺伝子発現の効果、並びにlacZでMLC2vおよびMHCプロモータにより示される特異性の程度を、本発明のレコンビナントアデノウィルス系を用いて決定した。心臓特異性発現はリー等(J. Biol. Chem., 267:15875-15885, 1992) により従来報告されている。MLC2vプロモータは250bpからなり、アデノウィルス−5パッキング範囲内に容易に適合する。転写の強力プロモータであることが知られたミオシン重鎖プロモータは合理的な代案の心臓特異性プロモータを与え、300bp未満からなっている。
極めて効果的かつ充分小さい、たとえばトロポニン−Cプロモータのような他のプロモータは充分な組織特異性を欠如する。MLC2vもしくはMHCプロモータを使用すると共にトランスジーンをin vivo で供給することにより、心臓筋細胞単独(すなわち内皮細胞、平滑筋細胞および心臓内の繊維芽細胞における同時発現を伴わない)はたとえばFGF−5のような血管形成性蛋白の充分な発現を与えて血管形成を促進すると思われる。心臓筋細胞に発現を制限することも、臨床的心筋虚血を処置すべく遺伝子転移の有用性に関し利点を有する。発現を心臓に限定することにより、たとえば網膜のような非心臓組織における血管形成の強力な有害作用が回避される。さらに、心臓における細胞のうち、筋細胞は細胞が急速ターンオーバーを受けないので最長のトランスジーン発現を与えると思われ、したがって発現は内皮細胞で生ずるような細胞分裂および死滅によって減少しない。内皮特異性プロモータはこの目的で既に入手しうる(Lee, et al., J. Biol,Chem., 265:10446-10450, 1990)。
【0020】
本発明においては、心臓病の処置に関し高タイターのベクターを冠状動脈内注射して心臓を目標にすると共に、全細胞種類をトランスフェクトすることが現在好適である。
(アデノウィルスベクターの増殖および精製)
好適なレコンビナントベクターは標準的方法により精製されたプラークとすることができる。得られるウィルスベクターを、 in trans でE1AおよびE1B機能を与える293細胞において、好適には1010〜1012個のウィルス粒子/mL範囲のタイターまで増殖させる。細胞を80%融合にて感染させ、48時間後に回収することができる。3回の凍結−解凍サイクルの後、細胞残骸を遠心分離によりペレット化させ、ウィルスをCsCl濃度勾配超遠心分離(二重CsCl濃度勾配超遠心分離が好適である)により精製する。in vivo 注射に先立ち、ウィルスストックをたとえばG25セファデックスのようなセファロースカラムでのゲル濾過によって脱塩する。次いで生成物を0.3μmフィルタで濾過することにより、未濾過ウィルスの冠状動脈内注射の悪作用(生命に危険な心臓不整脈)を減少させると共に、効率的な遺伝子転移を促進させる。得られるウィルスストックは1010〜1012個ウィルス粒子/mLの範囲の最終ウィルスタイターを有する。レコンビナントアデノウィルスは野生型(強力な複製性)ウィルスを含まないよう高度に精製せねばならない。不純な構築物は宿主動物にて強力な免疫反応をもたらしうる。この観点から、増殖および精製は、たとえば適するプライマーを用いるPCRで良好なレコンビナントを同定し、2回のプラーク精製と二重CsCl濃度勾配超遠心分離とを行うことにより、夾雑物と野生型ウィルスとを排除するよう行うことができる。さらに、患者へのアデノウィルスベクター注射により誘発される心臓不整脈に伴う問題は、冠状動脈内注射に先立つ適する寸法のフィルタによるレコンビナント アデノウィルスの濾過により回避することができる。この手法は遺伝子転移および発現をも相当に向上させると思われる。
(レコンビナントアデノウィルスベクターの供給)
ウィルスストックは、たとえば塩水のような医薬上許容しうるキャリヤを必要に応じ含有する注射製剤の形態とすることができる。注射製剤におけるベクターの最終タイターは好ましくは、効果的な遺伝子転移を可能にする107 〜1013個のウィルス粒子の範囲である。他の医薬キャリヤ、処方および投与量につき以下説明する。アデノウィルストランスジーン構築物は、X線透視検査指針の下で標準的な経皮カテーテルに基づく方法を用い、極めて効果的な療法を可能にする程度までトランスジーンを発現させるのに充分な量にて、直接に冠状動脈内(または移植血管)注射によって心筋に供給される。注射は冠状動脈(または移植血管)の管腔内へ深く(動脈管腔内の約1cm)行うべきであり、好ましくは両冠状動脈にて行うべきである。何故なら、側副血管の成長は個々の患者にて極めて変動しうるからである。この物質を冠状動脈カテーテルにより冠状動脈の管腔中へ直接に注入することにより、遺伝子をかなり効果的に標的としかつ注射に際し近位動脈に対するレコンビナントベクターの損失を最少化させることができる。
このように供給されると遺伝子発現は肝細胞では生ぜず、ウィルスRNAは冠状動脈内注射後の任意の時点で尿中に見出しえないことが判明した。たとえば任意の種類の冠状動脈カテーテルまたはスタック輸液カテーテルを本発明で使用することができる。さらに、当業者に知られた他の技術を動脈壁への遺伝子の転移につき使用することができる。
【0021】
末梢血管病、すなわち脚部への不充分な血液供給を特徴とする病気の処置には、血管形成性ペプチドもしくは蛋白を発現するレコンビナントアデノウィルスを大腿動脈の近位部分に挿入されるカテーテルによって供給し、これにより大腿動脈から血流を受ける骨格筋の細胞に遺伝子転移を行う。これは血管形成刺激を与えて、脚部の骨格筋における血管形成をもたらす。
【0022】
他の器官−もしくは組織−特異性の病気の処置には、治療ペプチドもしくは蛋白(たとえば血管形成性ペプチドもしくは蛋白)を発現するレコンビナントアデノウィルスを器官もしくは組織給血動脈の近位部分に充分深く挿入されるカテーテルなどの装置によって供給し、遺伝子転移を標記器官もしくは組織の細胞にのみ実質的に行う。
(心筋虚血の動物モデル)
遺伝子療法に関する満足な研究のための重要な前提は、(a)臨床心筋虚血に適用して心筋虚血の設定における血管形成のメカニズムに関する有用なデータを与えうる動物モデルの構成、並びに(b)遺伝子転移の効果の正確な評価である。
この観点から、従来技術はいずれも満足しえない。本発明は臨床的冠状動脈病に類似した心筋虚血症のブタのモデルを利用した。左側回旋(LCx)冠状動脈の周囲にアメロイド収縮器を設置して、最小の梗塞で徐々に完全閉鎖させる(設置の7日以内)(左心室の1%、LCxベッドの4±1%)(Roth, et al, Circulation, 82:1778, 1990, Roth, et al., Am. J. Physiol., 235:H1279, 1987; White, et al., Circ. Res., 71:1490, 1992; Hammond, et al., Cardiol., 23:475, 1994; and Hammond, et al., J. Clin. Invest., 92:2644, 1993)。心筋機能および血流は側副血管発達に基づき閉塞動脈(虚血領域と称する)により予め灌流された領域にて休息/時に正常であるが、血流保持は心筋酸素要求が増大すると虚血を防止するのに不充分となる。したがってLCxベッドは臨床的狭心症に類似した重症虚血を受ける。側副血管発達および血流機能の関係はアメロイド設置の21日以内にて安定であって、4か月にわたり不変化に留まる(Roth,et al.,Circulation, 82:1778, 1990; Roth et al., Am. J. Physiol., 235:H1279, 1987; White, et al., Circ.Res., 71:1490, 1992) 。動物が重症ベッドにて期間虚血機能不全を1日中有して、輸血の際の心搏数の上昇の阻止、人員による輸血中断などに関連すること(未公開データ)が遠隔測定により示されている。すなわちモデルは安定であるが不充分な側副血管を持ったベッドを有し、期間性虚血を受ける。モデルの他の明確な利点は、異常に灌流されて機能する領域(LCxベッド)に隣接した正常に灌流されて機能する領域(LADベッド)が存在して、各動物内に比較ベッドを与える点である。
【0023】
心筋コントラスト超音波心臓検査技術を用いて領域的心筋灌流を推定した。コントラスト材料はガラクトースの微小凝集物で構成し、画像の超音波度(白色度)を増大させる。微小凝集体は血流に比例するよう冠状動脈および心筋壁に分配される(Skyba, et al., Circulation, 90:1513-1521, 1994)。コントラストのピーク強度は、微小球により測定される心筋血流と密接に相関することが示されている[Skyba, et al., Circulation, 90:1513-1521, 1994) 。本発明で使用した超音波心臓検査画像がLCxベッドを正確に同定し、しかも心筋コントラスト超音波心臓検査技術を用いて心筋血流を評価しうることを示すため、液圧カフオクルーダをアメロイドに隣接する近位LCxの周囲に設置した。
【0024】
本発明の研究では、動物を殺す際に心臓を灌流固定(グルタルアルデヒド、生理学的圧力、in situ)して、顕微鏡により毛管(capillary) 成長を定量した。PCRを用いて、遺伝子転移を受けた動物からの心筋における血管形成性蛋白、DNAおよびmRNAを検出した。さらに下記するように、遺伝子転移の2週間後、5匹全部のlacZ−感染動物からの心筋試料は組織学的検査にて実質的なβ−ガラクトシダーゼ活性を示す。最後に、血管形成性蛋白に対するポリクローナル抗体を使用して、遺伝子転移を受けた動物からの細胞および心筋における血管形成性蛋白発現を示した。
【0025】
治療研究の手法はトランスジーン供給のタイミング、トランスジーンの投与ルート、および血管形成性遺伝子の選択を含んだ。心筋虚血のアメロイドモデルにおいて、遺伝子転移は安定であるが不充分な側副血管が発達した後に行った。アメロイドモデルを用いる事前の研究は、虚血および側副血管の発生前にアメロイドの閉鎖に際し血管形成性ペプチドを供給することを含んだ。しかしながら、この手法は幾つかの理由で用いなかった。第1に、事前の研究は進行中の心筋虚血の設定にて遺伝子転移が示されるような臨床的心筋虚血の処置に存在する条件を正確に再現するには適しておらず、事前の研究は虚血の予測にてペプチドを供給することに類似し、したがって適切でない。第2に、細胞培養における事前の研究に基づき、ペプチドに関する虚血刺激は血管形成の刺激につき最適な環境であると思われた。これは、心筋虚血が既に存在する時点でトランスジーンを供給して最適に達成することができた。これら判定に連携して、トランスジーン供給を達成する方法を選択した。この技術をその後の冠状動脈病を有する患者の処置に適用すべき範囲は幾つかの手段を不適切にした(冠状動脈中へのペプチドの連続的灌流、心臓への直接的プラスミド注入、長期間の徐放をもたらすペプチドを含有した樹脂による心臓の被覆)。最後に、ブタ モデルは遺伝子供給の前後に領域的血流および機能を追跡する優秀な手段を与えた。同じレコンビナントアデノウィルス構築物を受けたがレポータ遺伝子を有する比較動物の使用をこれら研究の比較とした。当業者が理解するように、ブタにおける下記する結果はヒトにおける結果を予測させる。ブタはヒトに極めて類似した天然の冠状動脈循環系を有し、これは天然の冠状側副血管の不存在を含む。
(治療用途)
本発明の複製欠損レコンビナントアデノウィルスベクターは、遺伝子発現の領域にて細胞病理作用もしくは炎症なしにin vivo での極めて効率的な遺伝子転移を可能にする。 これら結果に基づき、下記の実施例でさらに説明するように、invivo の機能変化を行うのに充分な高程度のin vivo 遺伝子転移が達成されることが判る。
【0026】
心臓病を処置する場合、冠状動脈内注射による血管形成性蛋白の遺伝子転移は血管形成を促進する。すなわち、虚血の処置は初期の虚血現象が観察された後に行うことができる。さらに、遺伝子転移の後に毛管数と血流と機能とが虚血領域にて増大する。これら技術の使用は臨床的に、特に最初に手術不能の冠状動脈病および不能状態の狭心症を有する患者にて極めて有用である。本発明のデータは、ヒブロブラスト成長因子−5(FGF−5)を発現するレコンビナントアデノウィルスの遺伝子転移が心筋虚血を実質的に減少させるのに有効であることを示す。
【0027】
本発明の組成物もしくは産生物は便利には冠状動脈内投与に適する組成物として提供することができる。適する投与方式は個々の患者の担当医により最も良く決定することができる。適する医薬上許容しうるキャリヤおよびその処方は標準的処方慣行、たとえばレミントン・ファーマスーチカル・サイエンス(E.W. Martin. See also Wang, Y.J. and Hanson, M.A. "Parental Formulations of Proteins and Peptides: Stability and Stabilizers", Journals of Parental Sciences and Technology, Technical Report No. 10, Supp. 42:2S(1988)) に記載されている。本発明のベクターは好ましくは中性pH、たとえば約pH6.5〜約pH8.5、より好ましくは約pH7〜8における溶液にて賦形薬と共に処方して溶液をほぼ等張性にすべきであり、たとえば4.5%のマニトールもしくは0.9%の塩化ナトリウムとし、pHを公知の緩衝溶液、たとえば燐酸ナトリウム(一般に安全と見られる)で緩衝すると共に許容保存料、たとえばメタクレゾール0.1〜0.75%、より好ましくは0.15〜0.4%のメタクレゾールを含ませる。所望の等張性は塩化ナトリウムまたは他の医薬上許容しうる薬剤、たとえばデキストロース、硼酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコール、ポリオール(たとえばマニトールおよびソルビトール)或いは他の無機もしくは有機溶解質を用いて達成することができる。塩化ナトリウムが、特にナトリウムイオンを含有する緩衝液につき好適である。所望ならば、上記組成物の溶液を使用寿命および安定性を増大させるべく作製することもできる。本発明の治療上有用な組成物は、一般的に認められた手法にしたがい各成分を混合して作成される。たとえば選択された各成分を混合して濃厚混合物を作成し、次いでこれを水および/またはpHを調節する緩衝液または緊張度を調節する追加溶解質の添加により最終的濃度および粘度に調整することができる。
【0028】
医者による使用のため、組成物は1回もしくは複数回の投与にて選択レベルで血管形成を誘発するのに有効である量の本発明によるベクターを含有した投与形態物で提供される。当業者には了解されるように、治療剤の有効量は患者の年令および体重、患者の身体状態および獲得すべき血管形成のレベルおよび他の因子を含む多くの因子と共に変化する。
【0029】
本発明による化合物の有効投与量は典型的には少なくとも約107 個のウィルス粒子、好ましくは約109 個のウィルス粒子、より好ましくは約1011個のウィルス粒子の範囲である。ウィルス粒子の個数は1013としうるが、好ましくは1013を越えない。注目されるように、投与すべき正確な量は担当医により決定されるが、好ましくは1mLの燐酸塩緩衝塩水にて決定される。
【0030】
心臓病の場合に本発明で好適な投与方式は一方もしくは両方の冠状動脈(または1本もしくはそれ以上の伏在静脈または内部乳房動脈移植物)に対する適する冠状動カテーテルを用いた冠状動脈内注射である。末梢血管病の場合に本発明で好適な投与方式は大腿動脈の近位部分への適する動脈カテーテルを用いた注射である。他の標的器官もしくは組織の場合に本発明で好適な投与方式も、適する動脈カテーテルの使用による。
(標的遺伝子発現)
本発明の予想外の知見は、レコンビナントアデノウィルスがその遭遇する第1血管ベッドにて極めて効率的に取り上げられることである。実際、実施例4の動物モデルにて、冠状動脈内注射後の心臓におけるウィルスの取上効率は98%であった。すなわちウィルスの98%が心筋血管ベッドに対する最初のウィルスの通過に際し除去された。さらに、注射に際し動物から採取された血清は200倍希釈されるまでウィルスプラークを増殖させることができず(Graham, Virology,163:614-617, 1988) 、このことは血清因子(または
結合性蛋白)の存在がウィルス増殖を抑制することを示唆する。これら2つの因子(ウィルスの効率的な第1通過付着および蛋白を結合する血清の可能性)は一緒に作用して、遺伝子発現をウィルスにより遭遇した第1血管ベッドに限定することができる。
【0031】
遺伝子転移が冠状動脈内遺伝子転移の後の心臓に制限された程度をさらに評価するため、ポリメダーゼ連鎖反応(PCR)を用いてウィルスDNAの心臓外の存在につき2匹の処置動物(下記実施例4)における遺伝子転移の2週間後に証明されるかどうか調べた。各動物はその心臓にウィルスDNAの存在を示したが網膜、骨格筋もしくは肝臓には存在しなかった。PCRの感度は、5,000,000個の細胞当り単一のDNA配列が検出されうるよう支配する。したがって、これらデータは遺伝子供給の2週間後に心臓外の組織にはウィルスDNAが存在しなかったことを示す。この知見は、トランスジーンが心臓における発現を標的とするが、その他のどこも標的としないという概念と一致するので極めて重要である。これは本発明に患者の処置で有用性を増大させる安全性を付与する。何故なら、アデノウィルスの予想外の生物学的性質を利用して、部位指向の遺伝子転移を可能にするからである。これらは、本出願人が知る限り従来記載されておらず、しかもこの方法に関する安全性の利点が当業者には明かでないため重要な観察である。この予想外の知見は他の血管ベッドにも一般化することができ、これによりトランスジーンの供給を特定動脈により給血される特定器官もしくは組織に比較的排他的に行うことを可能にする。
【0032】
本発明の理解を助けるため、以下の実施例を示して一連の実験の結果を説明する。本発明に関するこれら実験は本発明を特定的に限定するものではないことは勿論であり、現在既知または将来開発されるであろう各種の改変も本発明の範囲に含まれることが当業者には了解されよう。
【0033】
実施例
【実施例1】
【0034】
アデノウィルス構築物
ヘルパー非依存性性の複製欠損ヒトアデノウィルス5系を使用した。対象となる遺伝子はlacZおよびFGF−5とした。ヒトFGF−5のための全長cDNAをプラスミドpLTR122E(Zhen, et al., Mol. Cell. Biol., 8:3487,1988)から遺伝子の解読枠の981bpを含む1.1kb ECOR1断片として遊離させ、CMVプロモータとE1AおよびE1B遺伝子(ウィルス複製に必須)が欠失している部分アデノウィルス配列に整列したSV40ポリアデニレーションシグナルとを含有するプラスミドACCMVPLPAのポリリンカーにクローン化させた。このプラスミドをプラスミドJM17と共に293細胞に同時トランスフェクトし(リポフェクション)、プラスミドJM17は全ヒトアデノウィルス5ゲノムと追加4.3kb挿入物とを有してpJM17を包封するには大き過ぎるようにした。相同性レスキュー組換は、E1A/E1B配列の不存在下にトランスジーンを有するアデノウィルスベクターを与えた。これらレコンビナントは哺乳動物細胞にて非複製性であったが、これらはE1A/E1Bでトランスフォームされた293細胞で増殖すると共にこれら必須遺伝子産生物をtransで与えた。トランスフェクトされた細胞を細胞障害効果の証拠につき監視し、一般にトランスフェクトションの10〜14日間後に生じた。満足しうるレコンビナントを同定するため、細胞障害効果を示すプレートからの細胞上澄液をプロテナーゼK(0.5%のドデシル硫酸ナトリウムと20mMのEDTAとを含む50mg/mL)により56℃で60分間処理し、フェノール/クロロホルム抽出し、次いでエタノール沈澱させた。次いで良好なレコンビナントを、CMVプロモータおよびインサート(予想1.1kb断片)を増幅するSV40ポリアデニレーション配列に対し相補性のプライマー(Biotechiniques, 15:868-872,1993)とアデノウ
ィルス配列を同時に増幅するよう設計されたプライマー(Biotechiniques, 15:868-872, 1993)とを用いるPCRにより同定した。次いで良好なレコンビナントを2回のプラーク精製にかけた。ウィルスストックを293細胞にて1010〜1012個の範囲のウィルス粒子タイターまで増殖させ、使用前に二重CsCl濃度勾配遠心分離によって精製した。全長cDNAを用いて、β−ガラクトシダーゼをコードするレコンビナントアデノウィルスもしくはFGF−5を作製した。レコンビナントアデノウィルスを発生させるべく使用した系は、5kbのトランスジーン挿入物をパッキング限界とした。提案された遺伝子は、CMVプロモータにより促進されると共にSV40ポリアデニレーション配列を有して4kb未満であり、充分パッキング範囲内にあった。レコンビナントベクターを標準法によって精製されたプラークである。得られたウィルスベクターを293細胞にて1010〜1012個の範囲のウィルス粒子タイターまで増殖させた。
細胞を80%コンフレントにて感染させ、36〜48時間にて回収した。凍結−解凍サイクルの後、細胞残骸を標準的遠心分離によりペレット化させ、ウィルスを二重CsCl濃度勾配超遠心分離によりさらに精製した[非連続的1.33/1.45CsCl濃度勾配;5mMのトリス、1mMのEDTA(pH7.8)にて作製したセシウム;90,000×g(2時間)、105,000×g(18時間)]。in vivo 注射の前に、ウィルスストックをたとえばG25セファデックスのようなセファロースカラムでのゲル濾過により脱塩した。得られたウィルス ストックは1010〜1012個のウィルス粒子範囲における最終ウィルスタイターを有した。このアデノウィルス構築物は高度に精製されて、野生型(強力な複製性)ウィルスを含まなかった。
【実施例2】
【0035】
細胞培養物における成体ラット心筋細胞
成体ラット心筋細胞(cardiomyocyte) を、コラゲナーゼ含有灌流液を用いるランゲンドルフ灌流により標準法にしたがって作製した。棒状細胞をラミニン被覆プレートで培養し、24時間にて上記実施例1で得られたβ−ガラクトシダーゼコード化アデノウィルスを1:1の感染多重度で感染させた。さらに36時間の後、細胞をグルタルアルデヒドで固定し、X−galと共に培養した。常に成体筋細胞の70〜90%が、レコンビナントアデノウィルスでの感染後にβ−ガラトシダーゼトランスジーンを発現した。1〜2:1の感染多重度にて、細胞毒性は観察されなかった。
【実施例3】
【0036】
in vivo のブタ心筋
実施例1で得られたβ−ガラクトシダーゼコード化アデノウィルスベクターを許容しうる293細胞にて増殖させ、CsCl濃度勾配超遠心分離により実施例1の手順に基づき1.5×1010個ウィルス粒子の最終ウィルスタイターにて精製した。麻酔および通気された40kgのブタを開胸術にかけた。26ゲージのバタフライ針を中間左前側下降(LAD)冠状動脈に挿入し、ベクター(1.5×1010個のウィルス粒子)を2mL容積で注射した。胸を閉鎖し、動物を回復させた。注射後の4日目に動物を殺した。心臓をグルタルアルデヒドで固定し、切開し、次いでX−galと共に16.5時間にわたり培養した。着床および切開の後、組織をエオシンで対比染色した。
【0037】
組織セクション(lacZを含有するアデノウィルスの冠状動脈内注射の96時間後におけるLADベッドの経壁セクション)の顕微鏡分析はLAD冠状動脈ベッドで観察される遺伝子転移の顕著な程度を示すと共に、多くの組織セクションは細胞の50〜60%より多くがβ−ガラクトシダーゼにつきプラスに染色することを示した。LAD循環ベッドから離れた心筋の領域はX−gal染色を示さず、陰性比較として使用した一方、遺伝子の拡散発現が筋細胞および内皮細胞にて観察された。筋細胞の大部分はβ−ガラクトシダーゼ活性(青色染色)を示し、その後の試験にて閉胸冠状動脈内注射を用い同様な活性が遺伝子転移の14日後に存在した(n=8)。遺伝子発現の領域には、炎症または壊死の証拠が存在しなかった。
【実施例4】
【0038】
ブタ虚血モデル
動物は18頭の家畜ブタ(30〜40kg)を含んだ。左側開胸術を機器装備のため無菌条件下で行った(Hammond, et al., J. Clin. Invest., 92:2644-2652,and Roth, et al., J. Clin. Invest., 91:939-949, 1993) 。各カテーテルを左心房と大動脈とに挿入し、局部的血流を測定すると共に圧力を監視する手段を設けた。左心房にワイヤーを縫合してECG記録および心房調整を可能にした。最後に、アメロイドを近位LCxの周囲に設置した。安定程度の虚血が発生した後、処理群(n=11)にはCMVプロモータにより促進されるFGF−5(血管形成性遺伝子)を含むアデノウィルス構築物を接種した。比較動物(n=7)にはCMVプロモータにより促進されるレポータ遺伝子(すなわちlacZ)を含むアデノウィルス構築物で遺伝子転移させた。
【0039】
試験をアメロイド設置の35±3日後に開始し、その時点で側副血管の発達および調整誘発の機能不全が安定した(Roth, et al., Am. J. Physiol., 253:H1279-1288, 1987, and Roth, et al., Circulation, 82:1778-1789)。意識動物を三角巾で懸垂し、LV、LAおよび大動脈からの圧力および心電図をデジタルフォーマットのオンラインで記録した(休止時および200bpmにおける心房調整時)。二次元およびM−モードの画像をヒューレット・パッカード超音波画像システムにより得た。画像を中間乳頭筋レベルにおける右側胸骨傍から得ると共にVHSテープに記録した。各画像を基礎状態における動物および再び右心房調整時(HR=200bpm)の各動物で記録した。これら試験を遺伝子転移の1日前に行い、さらにその14±1日後に反復した。心搏数−圧力の積および左心房圧力は遺伝子転移の前後におる両群にて同様であり、これは同様な心筋酸素要求および負荷条件を示した。超音波心臓検査測定を標準的基準(Sahn, et al., Circulation, 58:1072, 1978)を用いて行った。末端−拡張期壁厚さ(EDWTh)および末端−収縮期壁厚さ(ESWTh)を5回の連続心搏から測定して平均した。壁肥厚%(%WTh)を計算した[(EDWTh−ESWTh)/EDWTh]×100。動物が摂取した遺伝子の知識なしにデータを解析した。超音波心臓検査測定値の再現性を示すため、動物(n=5)を連続2日間にわたり画像形成させ、高い相関関係(r2=0.90;p=0.005)を示した。
【0040】
アウロイド設置の35±3日後、アウメロイド閉鎖の充分後であるが遺伝子転移の前、コントラスト超音波心臓測定試験を心房調整(200bpm)時に左心房に注射されたコントラスト材料(レボビスト)を用いて行った。各試験を遺伝子転移の14±1日後に反復した。ピークコントラスト強度を、コンピュータに基づくビデオ分析プログラム(カラー・ビューII、ノバ・マイクロソニックス社、インディアナポリス、インディアナ州)を用いてビデオ画像から測定し、これはビデオ強度の目的測定値を与えた。コントラスト試験を、試験動物が摂取した遺伝子の知識なしに解析した。
【0041】
試験の終了後、各動物を麻酔して正中線開胸術を行った。短頭動脈を分離し、カニューレを挿入し、他の大血管を結搾した。各動物には静脈内ヘパリン(10,000 IU)とパパベリン(60mg)とを接種した。塩化カリウムを投与して拡張期の心搏動停止を誘発させると共に大動脈を縛った。塩水を短頭動脈カニューレを介して供給し(圧力120mmHg)、これにより冠状動脈に灌流させた。グルタルアルデヒド溶液(6.25%、0.1Mカコジレート緩衝液)を心臓が充分固定するまで(10〜15min)灌流させた(圧力120mmHg)。
次いで心臓を剔出し、左前側下降動脈(LAD)、左回旋動脈および右冠状動脈を介する着色コード染料を注入したアンテログレードを用いてベッドを同定した。
アメロイドを検査して閉鎖を確認した。正常に灌流された虚血領域から採取した試料を三分割し、心内膜および心外膜の1/3をプラスチックに埋めた。毛管数を定量する顕微鏡分析を刊行物(Mathieu-Costello, et al., Am. J. Physiol.,359:H204, 1990) に記載されたように行った。4個の厚さ1μmの横セクションを各サブ試料(各領域の心内膜および心外膜)から採取し、点計数を行って繊維数当りの毛管数の比を400倍の倍率にて測定した。20〜25倍の高倍率視野をサブ試料につき計数した。各領域内にて、毛管数と繊維数との比は心内膜および心外膜にて同様であり、したがって1領域当り40〜50視野を平均して経壁毛管数と繊維数との比を得た。
【0042】
改善された領域機能および血流がトランスジーン発現から生じたことを確認するため、PCRおよびRT−PCRを用いて、FGF−5遺伝子転移を受けた動物からの心筋におけるトランスジェニックFGF−5DNAおよびmRNAを検出した。CMVプロモータに対するセンスプライマー[GCAGAGCTCGTTTAGTGAAC](配列番号1)および内部FGF−5配列に対するアンチセンスプライマー[GAAAATGGGTAGAGATATGCT](配列番号2)を用いて、PCRにより予想500bp断片を増幅させた。FGF−5配列の開始部に対するセンスプライマー[ATGAGCTTGTCCTTCCTCCTC](配列番号3)および内部FGF−5配列に対するアンチセンスプライマー[GAAAATGGGTAGAGATATGCT](配列番号2)を用いて、RT−PCRにより予想400bp断片を増幅させた。
【0043】
最後にFGF−5に指向するポリクローナル抗体(Kitaoka, et al., Science,35:3189,1994) を用いて、FGF−5蛋白発現を、FGF−5で遺伝子転移を受けた動物からの
細胞および心筋にてFGF−5遺伝子転移の48時間後および14±1日後に示した。
【0044】
実施例1で作成したヘルパー非依存性の複製欠損ヒトアデノウィルス5系を用いてトランスジーン含有ベクターを作成した。関心ある遺伝子はlacZおよびFGF−5とした。in vivo 注射した物質は高度に精製し、野生型(複製競合性)アデノウィルスを含有しなかった。かくして心臓におけるアデノウィルス感染および炎症浸潤は最小化された。この物質を冠状動脈カテーテルにより冠状動脈の管腔中に直接注射することにより、遺伝子を効果的に標的とすることができる。
このように供給した際、肝細胞ではトランスジーン発現が存在せず、ウィルスRNAは冠状動脈内注射の後の任意の時点で尿中に見ることができなかった。
【0045】
構築物の注射(約1011個のアデノウィルス粒子を含有する4.0mL)を行い、その際2.0mLを左側および右側の両冠状動脈に注射した(LCxベッドに対する側副流は両血管から来ると思われた)。各動物を麻酔すると共に、動脈アクセスをカットダウンにより右頸動脈から得た。5Fコルジス シース(5F Cordis shearth) を設置した。5Fマルチパーパス(A2)冠状動脈カテーテルを用いて、冠状動脈に係合させた。LCxアメロイドの閉鎖を、左側主冠状動脈にコントラスト注射して確認した。次いでカテーテル先端を動脈管腔内の1cmに設置して、注射に際し近位大動脈へ最少化の物質しか喪失されないようにした。
この手順を各ブタにつき行った。
【0046】
遺伝子転移を行った後、3種の手法を用いて遺伝子の組込みおよび発現の成功を確認した。(1)或る種の構築物はレポータ遺伝子(lacZ)を含み;(2)該当ベッドからの心筋を採取してFGF−5の存在を定量するため免疫ブロッティングを行い;さらに(3)PCRを用いてFGF−5mRNAおよびDNAを検出した。
【0047】
第2図における領域的収縮機能データは、lacZを摂取したブタが遺伝子転移の前および14±1日後に虚血領域にて調整誘発の機能不全を同程度で示したことを示す。これに対し、FGF−5遺伝子転移を受けたブタは調整に際し虚血領域にて2.6倍の壁肥厚増加を示した(p=0.0001)。これらデータは、本発明によるFGF−5遺伝子転移が調整の際に虚血領域にて向上した収縮に関連したことを示す。正常に灌流された領域(心室間隔膜)における壁肥厚は調整時に正常であって、遺伝子転移により影響を受けなかった(壁肥厚%:lacZ群:プレ−ジーン、56±11%、ポスト−ジーン、51±9%;FGF−5群:プレ−ジーン、63±7%、ポスト−ジーン、58±5%;差なし、2方向変動分析)。これら別々の測定からのデータは極めて再現性があった(横方向壁肥厚%:r2 =0.90;p=0.005)。経胸腔超音波心臓検査術により測定された機能の低下%は、同じモデルにおける心房調整時のソノミクロメトリー(Hammond, et al., J. Clin. Invest., 92:2644, 1993)により測定した減少%と極めて類似し、虚血機能不全の評価につき超音波心臓検査術の正確性を示す。第2図における棒線は平均値を示し、エラー棒状は1 SEを示す。第4A〜4C図は心筋コントラスト超音波心臓検査写真に対応する図面である。第4A図は正常ブタにおける急性LCx閉塞を示し、LCxベッドには血流が示されなかったのに対し、隔膜(IVS)が増大し(白色)、これは画像がLCxベッドを正確に同定すると共に、減少した血流が減少したコントラスト増大に関連したことを確認する。第4B図はlacZでの遺伝子転移の14日後におけるIVSとLCxベッドとの間のコントラスト増大の差を示し、これは心房調整(200bpm)時の2つの領域における異なった血流を示す。第4C図において、コントラスト増大はFGF−5での遺伝子転移の14日後にIVSとLCxベッドとで同等であると思われ、これは心房調整時に2つの領域で同様な血流を示す。
【0048】
第3図は全動物からの2つの領域におけるビデオ強度のコンピュータ分析を要約する。第3図において、データは虚血領域(LCxベッド)におけるピークビデオ強度(心筋血流に相関)を心室間隔膜(IVS、閉塞されてない左前側下降冠状動脈を流過する正常な血流を受けた領域)におけるピークビデオ強度で割算した比として現した。2つの領域における等しい血流は1.0の比を与える。遺伝子転移前の比は平均して0.5であり、これは隔膜におけるよりもLCxベッドにて血流が相当低いことを示す。第3図は、lacZ遺伝子転移を受けた動物が虚血領域にて持続性血流不足を有することを示す。FGF−5遺伝子転移を受けた動物は2つの領域にて均質コントラスト増大を示し、これは心筋血流の2倍の増加が虚血領域における血流を向上させたことを示す(p=0.0018、2方向変動分析)。棒線は平均値を示し、エラー棒線は1 SEを示す。
【0049】
第5図における棒グラフは顕微鏡分析データを要約し、FGF−5での遺伝子転移を受けた動物の虚血領域および非虚血領域における毛管数と繊維数との比がlacZで遺伝子転移を受けた動物の心臓における同じ領域と比較して増大することを示す。棒線は各群における5〜6頭の動物からの平均値を示す。エラー棒線は1 SEを示し、p値は遺伝子効果に関する2方向変動分析からの数値である。この分析は処理群の知識なしに行った。
【0050】
PCR増幅に関する電気泳動図は、FGF−5で遺伝子転移してから14日後における3頭のブタのLADおよびLCxベッドにJM17−CMV−FGF−5 DNA(予想500bp断片)が存在することを確認した。RT−PCR増幅に関する電気泳動図は、FGF−5によるがlacZによらない遺伝子転移の14日後のLADおよびLCxベッドにおける心臓FGF−5mRNA(予想400bp断片)の存在を確認した。さらに遺伝子転移の2週間後、5頭の全lacZ感染動物からの心筋試料は組織学検査にて相当なβ−ガラクトシダーゼ活性を示した。
【0051】
最後に、FGF−5に対するポリクローナル抗体を用いた培養繊維芽細胞からの細胞培地の免疫ブロットは、FGF−5の遺伝子転移の2日後に蛋白発現および細胞外分泌を確認した(n=4プレート)が、lacZの遺伝子転移後には観察されなかった。さらに蛋白発現はFGF−5の遺伝子転移の14±1日後に心筋試料にて確認されたが、lacZの遺伝子転移後には確認されなかった(n=4)。
【0052】
上記実験をより多数の家畜ブタで反復した。処理群(n=16)にはCMVプロモータにより促進されるFGF−5を含む上記アデノウィルス構築物を接種した。比較動物(n=7)にはCMVプロモータにより促進されたレポータ遺伝子(lacZ)を含む上記アデノウィルス構築物を接種した。5頭の各動物の経過を遺伝子転移後の12週間にわたり追跡した。その結果を第6〜8図に示す。
【0053】
第6図は処理動物の領域的収縮機能を図示する。ヒューレット・パッカード超音波画像形成システムを用いて二次元およびMモードの画像を得た。画像を乳頭筋レベルにて右胸骨傍から得ると共に、VHSテープに記録した。意識動物を快適な三角巾で懸垂して試験し、身体運動を最小化させた。画像を基礎状態における動物および右心房調整時(HR=200bpm)における動物で記録した。これら試験を遺伝子転移の1日前に行い、その14±1日後に反復した(左側パネル、第6a図)。5頭の動物を再びFGF−5での遺伝子転移の12週間後に検査して、機能向上に対する作用が持続したかどうかを判定した(右側パネル、第6b図)。心搏数−圧力の積および左心房圧は遺伝子転移前後の両群にて類似し、これは類似した心筋酸素要求および負荷条件を示す。標準化された基準を用いて超音波心臓検査を行った。末端−拡張期の壁厚さ(EDWTh)および末端−収縮期壁厚さ(ESWTh)を5回の連続心搏から測定して平均した。壁肥厚%(%WTh)を[(EDWTh−ESWTh)/EDWTh]×100から計算した。超音波心臓検査の再現性を示すため、処理動物(n=5)を連続2日間にわたり画像形成させた。別々の測定からのデータは極めて再現性があった(横方向壁肥厚:r2 =0.90;p=0.005)。このモデルにて実験室で経胸超音波心臓検査術およびソノミクロメトリーにより測定された機能低下%は極めて類似し(Hammond, et al., J. Clin. Invest., 92:2644-2652, 1993) 、これは虚血機能不全の評価につき超音波心臓検査術の正確性を示す。壁肥厚はFGF−5での遺伝子転移の2週間後に虚血領域にて増大した(左パネル;p=0.0001、2方向変動分析)。作用は12週間にわたり持続した(右パネル;p=0.005)。棒線は平均値を示し、エラー棒線は1 SEを示す。解析は処理群の知識なしに行った。
【0054】
第7図は処理動物の領域的心筋血流をグラフで示す。コントラスト材料(ガラクトースの微小凝集物)は左心房注射の後に画像のエコジェニシチー(「白色度」)を増大させる。微小凝集物は、血流に対し比例するよう冠状動脈および心筋壁に分配される(Skyba, et al, Circulation, 90:1513-1521, 1994) 。コントラスト増大のピーク強度は微小球により測定される心筋血流と相関する(Skyba, et al.,Circulation, 90:l1513-1521, 1994)。アメロイド設置の32±7日間後(すなわちアメロイド閉鎖の充分後であるが遺伝子転移の前)にコントラスト超音波心臓検査試験を心房調整時(200bpm)に行った。試験を遺伝子転移の14±1日後に反復し、5頭の動物ではFGF−5での遺伝子転移の12週間後に行った。ピークコントラスト強度をビデオ画像から測定し、これにはビデオ強度の目的測定値を与えるコンピュータに基づくビデオ分析プログラム(カラー・ビューII、ノバ・ミクロソニックス社、インディアナポリス、インディアナ州)を用いた。データは、虚血領域(LCxベッド)におけるピークビデオ強度を心室間隔膜(IVS、未閉塞の左前側下降冠状動脈から正常血流を受ける領域)におけるピークビデオ強度で割算した比として現した。コントラスト試験を、動物が摂取した遺伝子の知識なしに解析した。コントラスト超音波心臓検査技術により測定された心房焼成時の領域的血流の差は実験室にて同じモデルで微小球により測定された差と類似し(Hammond, et al., J. Clin. Invest.,92:2644-2652, 1993)、これは領域的心筋血流の評価につき超音波心臓検査術の正確性を示す。
【0055】
lacZ遺伝子転移を受けた動物は、虚血領域にて持続血流不足を示した。FGF−5遺伝子転移を受けた動物は2つの領域で均質コントラスト増大を示し、これは虚血領域における向上した血流を示し(p=0.0001、2方向変動分析)、すなわち効果は12週間にわたり持続した(p=0.001)。棒線は平均値を示し、エラー棒線は1 SEを示す。コントラスト超音波心臓検査は4頭のFGF−5処置動物にて行わなかった。解析は処理群の知識なしに行った。
【0056】
第8図は処理動物における血管数の評価をグラフで示す。試験の終了後、動物を麻酔して正中線開胸術を行った。短頭動脈を分離し、カニューレを挿入し、他の大血管を結搾した。動物には静脈内ヘパリン(10,000IU)とパパベリン(60mg)とを接種した。塩化カリウムを投与して、拡張期心搏動停止を誘発させると共に大動脈を縛った。塩水を短頭動脈カニューレを介して供給し、これにより冠状動脈に灌流させた。グルタル アルデヒド溶液(6.25%、0.1Mカコジレート緩衝液)を心臓が充分固定するまで120mmHg圧力にて灌流させた(10〜15min)。次いで心臓を剔出し、着色コード染料を注射したアンテログレードを左前側下降動脈と左旋回動脈と右冠状動脈とに通してベッドを同定した。アメロイドを検査して閉鎖を確認した。正常に灌流された領域と虚血領域とから採取した試料を三分割し、心内膜および心外膜の1/3をプラスチックに埋めた。毛管数を定量する顕微鏡分析を前記のように行った(Poole, etal., Am. J. Physiol., 259:H204-H210, 1990) 。4個の厚さ1μmの横セクションを各サブ試料(各領域の心内膜および心外膜)から採取し、点計数を用いて各ミオ繊維芽細胞成長因子ブリルの周囲の毛管数を測定した。20〜25個の高倍率視野(400X)をサブ試料につき計数した。左パネル(第8a図)はこれらデータを要約し、FGF−5での遺伝子転移を受けた動物の虚血領域および非虚血領域における毛管数がlacZでの遺伝子転移を受けた動物の心臓における同じ領域と比較して増加したことを示す。より大きい口径の血管は、FGF−5遺伝子転移の後に、虚血領域に特異性の効果を増大させる傾向を有した(右パネル、第8b図)。エラー棒線は1 SEを示し、p値はFGF−5遺伝子作用に関する2方向変動分析からの数値を示す。各解析は処理群の知識なしに行った。
【0057】
以下、本発明の態様を例挙する。
1. 心筋虚血を有する患者にて冠状側副血管の発達を刺激する方法であって、一方もしくは両方の冠状動脈中への直接的な冠状動脈内注射によって患者の心筋に複製欠損アデノウィルスベクターを供給し、ここで前記ベクターは血管形成性蛋白もしくはペプチドをコードするトランスジーンを含み、心筋においてトランスジーンを発現可能にし、これにより冠状側副血管の発達を促進させることを含む方法。
2. 前記ベクターを1回の注射で供給する、1に記載の方法。
3. 約107〜約1013個のアデノウィルスベクター粒子を注射にて供給する、1に記載の方法。
4. 約109〜約1012個のアデノウィルスベクター粒子を注射にて供給する、1に記載の方法。
5. 約1011個のアデノウィルスベクター粒子を注射にて供給する、1に記載の方法。
6. 前記トランスジーンをベクター内に含有されるCMVプロモータにより誘導する、1に記載の心臓病の処置方法。
7. 前記トランスジーンをベクター内に含有される心室筋細胞特異性プロモータにより誘導する、1に記載の心臓病の処置方法。
8. 前記心室筋細胞特異性プロモータが心室ミオシン軽鎖−2の配列を有する、7に記載の心臓病の処置方法。
9. 前記心室筋細胞特異性プロモータがミオシン重鎖プロモータの配列を有する、7に記載の心臓病の処置方法。
10. 前記血管形成性蛋白もしくはペプチドがaFGF、bFGF、FGF−5およびVEGFよりなる群から選択される、1に記載の心臓病の処置方法。
11. 前記血管形成性蛋白がFGF−5である、1に記載の方法。
12. 前記血管形成性蛋白がaFGFである、1に記載の方法。
13. 前記血管形成性蛋白がbFGFである、1に記載の方法。
14. 前記血管形成性蛋白がVEGFである、1に記載の方法。
15. 前記冠状動脈内注射を、左側および右側冠状動脈の管腔中へ約1cmにて行う、1に記載の心臓病の処置方法。
16. 前記冠状動脈内注射を、冠状動脈の他に伏在静脈移植片および/または内部乳房動脈移植片の管腔中へ約1cmにて行う、1に記載の心臓病の処置方法。
17. レコンビナントアデノウィルスベクターを含み、前記ベクターが野生型ウィルスを含有せず、さらに: E1A/E1B遺伝子が欠失している部分アデノウィルス配列と、 部分アデノウィルス配列に整列したプロモータにより誘導される血管形成性蛋白もしくはペプチドをコードするトランスジーンと、 医薬上許容しうるキャリヤとを含むことを特徴とする濾過されたアデノウィルスベクター注射製剤。
18. 前記アデノウィルス ベクターが0.3μmのフィルタにより濾過されている、17に記載の製剤。
19. 前記血管形成性蛋白がFGF−5である、17に記載のアデノウィルスベクター注射製剤。
20. 前記プロモータが、CMVプロモータ、心室筋細胞特異性プロモータおよびミオシン重鎖プロモータよりなる群から選択される、17に記載のアデノウィルスベクター注射製剤。
21. 血管形成性蛋白もしくはペプチドを心臓にてin vivo発現可能なレコンビナントベクターを含有したウィルスストックの製造方法であって: 血管形成性蛋白もしくはペプチドをコードするトランスジーンを、複製欠損ヒトアデノウィルスゲノムの左側末端の部分アデノウィルス配列に整列したプロモータとポリリンカーとを含有するプラスミドにクローン化し;
全ヒトアデノウィルスゲノムとプラスミドを包封するには大き過ぎるようにする追加挿入とを含有するプラスミドを用いて、複製競合性を付与する所要のアデノウィルス遺伝子によりトランスフォームされた哺乳動物細胞に前記プラスミドを同時トランスフェクトし、これによりトランスジーン挿入されたプラスミドと全アデノウィルスゲノムを有するプラスミドとの間にレスキュー組換を生ぜしめて、1個もしくはそれ以上の複製競合性付与遺伝子を持たないトランスジーンを含有するレコンビナントゲノムを形成させ、ここで、前記レコンビナントゲノムは包封しうるよう充分小さくし、;
良好なレコンビナントを細胞培養物にて同定し;
得られたレコンビナントをアブセント複製競合遺伝子でトランスフォームされた哺乳動物細胞にて増殖させ;
増殖したレコンビナントを、レコンビナントベクターを含有するが野生型ウィルスを含まないよう精製し;
前記精製されたレコンビナントを0.1〜0.5μmのフィルタに通過させることを含む方法。
22. トランスジーンをクローン化させる前記プラスミドが、プラスミドpAC1またはプラスミドACCMVPLPAである、21に記載のウィルスストックの製造方法。
23. 前記同定が: トランスフェクトされた細胞を細胞変性効果の証明のためモニターし;
細胞変性効果を示す細胞培養物からの細胞上澄液をプロテナーゼKで処理した後、フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈澱を行い;
良好なレコンビナントを、CMVプロモータに対し相補性のプライマーおよびアデノウィルス配列に対し相補性のプライマーを用いて、PCRによって同定し;
2回のプラーク精製を行う工程を含む、21に記載のウィルスストックの製造方法。
24. 前記精製が: 得られたレコンビナントを複製競合性付与遺伝子でトランスフォームされた細胞にて1010〜1012個のウィルス粒子範囲のタイターまで増殖させ;
増殖したレコンビナントを二重CsCl濃度勾配超遠心分離によって精製し;
精製されたレコンビナントをセファーロースカラムに流過させる工程を含む、21に記載のウィルスストックの製造方法。
25. E1A/E1B配列を持たないトランスジーン挿入複製欠損アデノウィルスプラスミドと;FGF−5をコードするトランスジーンと含み、ここでトランスジーンは、これに連結したCMVプロモータにより誘導されるレコンビナントベクター。
26. 前記ベクターが、トランスジーンに連結したSV40ポリアデニレーション配列を含む、25に記載のベクター。
27. トランスジーン挿入された複製欠損アデノウィルスプラスミドが、トランスジーンがクローン化されるCMVプロモータ及び、SV40ポリアデニレーションシグナルに整列するヒトアデノウィルス型−5である、25に記載のレコンビナントベクター。
28. 全アデノウィルスゲノムを有するプラスミドが、全ヒトアデノウィルス5−ゲノムとアンピシリン耐性遺伝子を含むベクタ−pBR322の部分とを有するプラスミドである、25に記載のレコンビナントベクター。
29. 全アデノウィルスゲノムを有するプラスミドと組合せた、25に記載のレコンビナントベクター。
30. 29に記載のベクター組合せを有する宿主細胞。
31. 前記細胞がヒト293細胞である、30に記載の宿主細胞。
32. 25に記載のレコンビナントアデノウィルスベクターを得る方法であって、 トランスジーン挿入複製欠損アデノウィルスプラスミドと全アデノウィルスゲノムを有するプラスミドとを、アデノウィルス早期遺伝子領域1(E1)でトランスフォームされた細胞に同時トランスフェクトし;
アデノウィルスベクターを、同時トランスフェクトエ程の細胞と同一もしくは異なる細胞としうるアデノウィルス早期遺伝子領域1(E1)でトランスフォームされた細胞にて増殖させる ことを含む方法。
33. 末梢欠損血管病を有する患者にて血管発達を刺激する方法において、一方もしくは両方の大腿動脈中の直接的な大腿内動脈注射によって患者の末梢血管系に複製欠損アデノウィルスベクターを供給し、ここで前記ベクターは血管形成性蛋白もしくはペプチドをコードするトランスジーンを含み、末梢血管系においてトランスジーンを発現可能にし、これにより末梢血管発達を促進させることを含む方法。
34. 前記ベクターを1回の注射で供給する、33に記載の方法。
35. 約107〜約1013個のアデノウィルスベクター粒子を注射にて供給する、33に記載の方法。
36. 約109〜約1012個のアデノウィルスベクター粒子を注射にて供給する、33に記載の方法。
37. 約1011個のアデノウィルスベクター粒子を注射にて供給する、33に記載の方法。
38. 前記血管形成性蛋白もしくはペプチドは、aFGF、bFGF、FGF−5およびVEGFよりなる群から選択される、33に記載の心臓病の処置方法。
39. トランスジーン供給および発現を単一の器官もしくは構造物に制限する方法であって、レコンビナント アデノウィルスを前記器官もしくは構造物の動脈血管供給部へ約1cm挿入されたカテーテルを介し注射する方法。
【0058】
(配列表)






【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓病の治療に使用するためのアデノウイルスベクター注射製剤の製造における、血管形成性タンパク若しくはペプチドをコードするトランスジーンを含む複製欠損アデノウイルスベクターの使用であって、前記心臓病の治療は、前記アデノウイルスベクター注射製剤を、1又は複数の冠状動脈中への冠状動脈内注射によって患者の管腔中に投与し、前記トランスジーンを心筋内で発現させることを含む使用。
【請求項2】
前記治療が、冠状側副血管発達を促進する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記患者が、心筋虚血を有している、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記治療が、患者の心臓における収縮機能を増加させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記治療が、心臓の壁肥厚率を増加させる、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記治療が、患者の心臓内の血流を増加させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記治療が、心筋内の血流を増加させる、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記患者が、アテローム性動脈硬化を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記患者がヒトである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記冠状動脈内注射を、右冠状動脈の管腔内に、又は左冠状動脈の管腔内に行なう、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記冠状動脈内注射を、少なくとも2つの冠状動脈の管腔内に行なう、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記冠状動脈内注射を、右冠状動脈の少なくとも1つ、および左冠状動脈の少なくとも1つに行なう、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記ベクターの供給が、さらに心筋に血液を供給する伏在静脈グラフトおよび/または内部乳房動脈グラフトの管腔内への注射を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記冠状動脈内注射が、1または複数の冠状動脈に導入されたカテーテルから行なわれる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記カテーテルが、前記冠状動脈内注射に先立ち、1または複数の冠状動脈の管腔内へ少なくとも1cm導入されている、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記トランスジーンの発現が、ベクターに含有されるCMVプロモータまたはベクターに含有される組織特異性プロモータによって誘導される、請求項1〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
前記組織特異性プロモータが、心室筋細胞特異性プロモータである、請求項16の使用。
【請求項18】
前記心室筋細胞特異性プロモータが、心室ミオシン軽鎖−2プロモータの配列を有する、請求項17の使用。
【請求項19】
前記心室筋細胞特異性プロモータが、ミオシン重鎖プロモータの配列を有する、請求項17に記載の使用。
【請求項20】
前記トランスジーンの発現が主に心臓内で起こる、請求項1〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
前記トランスジーンの発現が主に心筋内で起こる、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記トランスジーンの発現が主に心筋細胞内で起こる、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
末梢欠損血管病を有する患者の血管形成を促進するためのアデノウイルスベクター注射製剤の製造における、血管形成タンパク若しくはペプチドをコードするトランスジーンを含む複製欠損アデノウイルスベクターの使用であって、前記血管形成の促進は、片方または両方の大腿動脈中へ直接大腿動脈内注射を行なうことにより、前記ベクターを患者の末梢血管系に供給し、前記トランスジーンを前記末梢血管系で発現させることを含む使用。
【請求項24】
前記ベクターが、107〜1013アデノウイルスベクター粒子を含有する1単位用量である、請求項1〜23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
前記ベクターが、109〜1012アデノウイルスベクター粒子を含有する1単位用量である、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記ベクターが、1011アデノウイルスベクター粒子を含有する1単位用量である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記血管形成タンパク若しくはペプチドが繊維芽細胞成長因子(FGF)である、請求項1〜26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
前記血管形成タンパク若しくはペプチドがFGF−5である、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記血管形成タンパク若しくはペプチドが酸性FGFである、請求項27に記載の使用。
【請求項30】
前記血管形成タンパク若しくはペプチドが塩基性FGFである、請求項27に記載の使用。
【請求項31】
前記血管形成タンパク若しくはペプチドが血管内皮成長因子である、請求項1〜26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項32】
前記血管形成タンパク若しくはペプチドがシグナルペプチドを含有する、請求項1〜31のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【公開番号】特開2011−225611(P2011−225611A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168994(P2011−168994)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【分割の表示】特願2007−54963(P2007−54963)の分割
【原出願日】平成8年2月27日(1996.2.27)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】