説明

遺伝毒性の予測方法

化合物が小核試験において遺伝毒性を示す可能性を、選択された群からの少なくとも5種のキナーゼを阻害する化合物の能力により予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して毒物学の分野に関する。より詳細には、本発明は、遺伝毒性を予測するための方法、および潜在的な遺伝毒性について化合物をスクリーニングするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小核試験(「MNT」)は、染色体損傷を検出するために製薬産業において慣用的に用いられる一般的なアッセイである。小核は、全染色体または染色体断片が有糸分裂の完了後に娘核内に組み込まれていない場合に生じる。それぞれ染色体の損失/増加および切断を引き起こす化学物質である、異数性誘発物質および染色体異常誘発物質は、小核形成を有意に増加させ、前記アッセイを用いて検出され得る。それゆえ、小核は染色体損傷のバイオマーカーであり、小核アッセイは異数性誘発物質および/または染色体異常誘発物質である化学物質を検出するための感度のよい方法である。小核アッセイは、遺伝毒性(またはそれらの欠如)の証拠として製薬産業において広く用いられている。
【0003】
しかしながら、小核アッセイの実行は煩雑で時間がかかり、偽陽性の結果が、細胞毒性の用量で試験された時に得られる可能性があり、大量の供給(細胞、細胞株維持のための試薬、および化合物)がアッセイを行うために必要である。
【0004】
キナーゼは、基質のリン酸化、ならびに、有糸分裂の間の染色体複製の開始、伝播、および終了を含む、細胞間および細胞内シグナル伝達に関与する酵素である。多くのシグナルカスケードが様々な疾患において公知の役割を担うため、キナーゼはしばしば製薬会社により阻害の標的とされる。しばしば、小分子キナーゼ阻害剤(SMKI)は、キナーゼATP結合ポケットに競合的に結合し、基質をリン酸化する酵素の能力を阻害するように開発される。しばしば、SMKIは、キノーム(kinome)内のATP結合ポケットの高度に保存された性質のために所望の標的に加え多くのキナーゼを阻害し、そのため、標的ではないキナーゼの阻害に関連する毒性がこの薬学的クラスの化合物の問題となっている。特に、陽性の小核結果として明らかとなる中期後の遺伝子毒性は、SMKIの一般的な毒物学上の不利益である。
【発明の概要】
【0005】
そこで、本発明者らは、より早く、より少量の試薬を用い、より容易に自動化される方法を用いて、小核アッセイにおいて陽性(すなわち、遺伝毒性)結果を示す化合物を予測するための方法を発明した。
【0006】
本発明は、化合物と複数のキナーゼとの相互作用(キナーゼ結合および/または阻害)を調べることにより、所与の化合物がMNTアッセイにおいて遺伝毒性を示す可能性を速やかに決定するための方法を提供する。キナーゼ阻害および/または結合は速やかに、かつ自動化方法を用いることにより決定されるので、本発明の方法により、遺伝毒性(またはその欠如)について化合物のハイスループットスクリーニングが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施において、結合および阻害は、当技術分野において公知の方法を用いて決定できる。例えば、参照により全体が本明細書に組み入れられるM. A. Fabian et al., Nature Biotechnol(2005)23:329-36を参照のこと。
【0008】
本発明の一つの局面は、化合物の遺伝毒性を予測するための方法であり、該方法は、次の工程を含む:試験化合物を提供する工程;ならびにCDK2(Seq. Id. 1)、CLK1(Seq. Id. 2)、DYRK1B(Seq. Id. 3)、ERK8(Seq. Id. 4)、GSK3A(Seq. Id. 5)、GSK3B(Seq. Id. 6)、PCTK1(Seq. Id. 7)、PCTK2(Seq. Id. 8)、STK16(Seq. Id. 9)、TTK(Seq. Id. 10)、CLK2(Seq. Id. 11)、ERK3(Seq. Id. 12)およびPRKR(Seq. Id. 13)からなる群、または、CDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8(MAPK15)、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CDK7(Seq. Id. 64)、CLK4(Seq. Id. 68)およびPCTK3(Seq. Id. 69)からなる群より選択される少なくとも10種のキナーゼのキナーゼ活性を阻害する化合物の能力を決定する工程であって、該キナーゼのうちの少なくとも5種を少なくとも50%阻害することにより、該試験化合物が遺伝毒性を示す可能性が示される、工程。
【0009】
一つの態様において、前記試験化合物を、約10μMの濃度にて試験する。
【0010】
別の態様において、前記群より選択される少なくとも12種のキナーゼのキナーゼ活性を阻害する化合物の能力を試験する。別の態様において、前記群のうちの13種すべてのキナーゼのキナーゼ活性を阻害する化合物の能力を決定する。
【0011】
さらに別の態様において、上記した13種のキナーゼの群に加えて、以下のさらなるキナーゼの少なくとも一つもまた試験できる。これらのさらなるキナーゼ(同定された13種のキナーゼの大部分に加えて)の一つまたは複数に対する化合物の高い親和性は、遺伝毒性のより高い可能性に相関する。さらなるキナーゼは以下のものである。

【0012】
本発明の別の局面は、潜在的な遺伝毒性について候補化合物をスクリーニングするための方法であり、該方法は、以下の工程を含む:複数の化合物を提供する工程;ならびにCDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CLK2、ERK3およびPRKRからなる群、または、CDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8(MAPK15)、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CDK7、CLK4およびPCTK3からなる別の群より選択される複数のキナーゼのキナーゼ活性を阻害する各化合物の能力を決定する工程であって、該キナーゼのうちの少なくとも5種の、少なくとも50%の阻害または特異的結合により、該試験化合物が遺伝毒性を示す可能性が示される、工程。好ましい態様において、本方法は、遺伝毒性の可能性を示す化合物を除外する工程をさらに含む。
【0013】
概して、所与のキナーゼに対する化合物の結合親和性は、そのキナーゼの活性を阻害する化合物の能力とよく相関しており、そのため、結合親和性は阻害活性の信頼できる代替物である。好ましい態様において、それゆえ、キナーゼ活性を阻害する化合物の能力は、該キナーゼに対する化合物の結合親和性を測定することによって決定される。結合親和性は当技術分野において公知の種々の方法により;例えば、固定化キナーゼ(または固定化試験化合物もしくは固定化競合リガンド。これらのいずれもが標識されていてもよい)を用いる競合アッセイにより、決定できる。化合物およびキナーゼは、例えばビオチン化およびストレプトアビジン被覆基質上での捕捉などの標準的な方法により、固定化できる。
【0014】
このように、好ましくは本明細書で同定した13種のキナーゼ:CDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8(MAPK15)、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CLK2、ERK3およびPRKR(または代替の同定されたキナーゼ)を含む例えば複数の固定化キナーゼを有する試験基質を調製できる。キナーゼは表面上に直接的に(すなわち、吸着、共有結合、もしくはビオチン-アビジン結合などにより)、または、間接的に(例えば、吸着、共有結合、ビオチン-アビジンまたは他の連結により表面につながれたリガンドへの結合により)固定化できる。ついで、キナーゼを試験化合物と接触させ、親和性(または酵素阻害)を、例えば標識化合物の結合または標識競合物の損失を測定することにより決定する。
【0015】
各化合物のキナーゼ親和性を、同定されたキナーゼまたは代替の同定されたキナーゼのうちの少なくとも10種について、もっとも好ましくは13種すべてについて測定する:より多くの数(13種まで)のキナーゼの使用により、より高い信頼性で遺伝毒性の予測ができる。高い全活性(total activity)(例えば、13種のキナーゼのうちの少なくとも5種、好ましくは8種またはそれ以上に対して高い親和性を示す)を有する化合物は遺伝毒性の高い可能性を有する:この化合物はMNTにおいて遺伝毒性について試験で陽性であると予想される。低い全活性(例えば、同定されたキナーゼに対して低い親和性のみ示す、または、1〜4種の同定されたキナーゼにのみ高い親和性を示す)を有する化合物は、MNTにおいて試験で陰性であると予想される。
【0016】
本発明のアッセイにおいて試験で陽性である候補薬物(すなわち、MNTで遺伝毒性を示すことが予想されるもの)を、概して「遺伝毒性」または「潜在的に遺伝毒性」であると同定し、さらなる開発から除外するかさもなければ落とす。ハイスループットスクリーニング用途の場合には、そのような化合物を毒性であるとして印をつけることができ(例えば、自動化ハイスループットシステムの場合にはシステムを管理するソフトウェアにより)、それゆえより早期の意思決定が可能となる。
【0017】
このように、本発明の方法を用いて、遺伝毒性についての化合物の潜在性に一部基づき、製薬開発のために、候補化合物に優先順位をつけること、および選択することができる。例えば、選択した標的に対して同様な活性を有する多数の化合物(例えば、50種またはそれより多く)を調製し、さらなる開発のために該化合物の優先順位をつけること、または部分集団を選択することを望む場合、化合物の全体の群を本発明の方法で試験し、遺伝毒性の陽性の徴候を示すすべての化合物を放棄するかまたは除外することができる。このことは、早い時期に毒性の重要なソースを同定することにより、製薬開発のコスト、および開発用に選択された任意の化合物への投資量を減少させる。本発明の方法は、迅速かつ容易に自動化されるので、他の方法では可能でも実際的でもない化合物の大量のスクリーニングを可能とする。
【0018】
環境汚染物質および同様なものもまた、本発明の方法を用いて同定でき、この場合、典型的には、そのような化合物をそれらの毒性性質へのさらなる研究のために同定する。本発明の方法のこの用途において、公知の方法(例えば、クロマトグラフィー)により環境試料(例えば、汚染が疑われる土壌、水、または空気)を分画し、該フラクションを本発明の方法に供することができる。遺伝毒性の徴候を示すフラクションをついでさらに分画し、(本発明の方法を用いて)原因である毒性物質を同定できる。あるいは、環境汚染物質である疑いのある純粋なまたは精製された化合物を用いて本発明の方法を行い、遺伝毒性についてそれらの潜在性を決定できる。本発明の方法は、迅速かつ容易に自動化されるので、他の方法では可能でも実際的でもない試料の大量のスクリーニングを可能とする。
【0019】
本明細書において引用されるすべての出版物は、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0020】
特記しない限り、明細書および特許請求の範囲を含む本出願において使用する下記の用語は、以下に示す定義を有する。明細書および添付の特許請求の範囲において使用する際、文脈が明らかに別のことを示さない限り、単数形「1つの(a)」、「「1つの(an)」、および「その(the)」は、複数の言及を包含することに注意しなければならない。
【0021】
本明細書で用いる「遺伝毒性」という用語は、切断(染色体異常誘発物質)または異常複製数(異数性誘発物質)を含む、染色体異常を起こす化合物を意味する。この文脈において、「遺伝毒性」は、小核試験において陽性の結果となることを意味する。「遺伝毒性の可能性」は、問題の化合物が少なくとも75%の信頼性でMNTにおいて遺伝毒性を示すことが予想されることを特に意味する。
【0022】
「試験化合物」という用語は、遺伝毒性について試験される物質を意味する。試験化合物は候補薬物またはリード化合物、化学中間体、環境汚染物質、化合物の混合物などであり得る。
【0023】
「キナーゼ」という用語は、タンパク質または分子にリン酸基を結合させるおよび/またはタンパク質もしくは分子からリン酸基を取り除くことのできる酵素を意味する。「キナーゼ活性の阻害」は、このようなホスファターゼ活性を減少させるかまたはこれを妨げる化合物の能力を意味する。所与のキナーゼに対する小分子の結合親和性は、キナーゼ活性を阻害する該分子の能力とよく相関しているので、結合親和性は本明細書においてキナーゼ活性と同義であると考えられ、高い結合親和性は、高いキナーゼ阻害活性と等価であると考えられる。結合親和性とキナーゼ阻害との相関は、参照により完全に本明細書に組み入れられる、M. A. Fabian et al., Nature Biotechnol(2005)23:329-36に記載される。
【0024】
「同定されたキナーゼ」という用語は以下のキナーゼのセットを意味する:CDK2(Seq. Id. 1)、CLK1(Seq. Id. 2)、DYRK1B(Seq. Id. 3)、ERK8(Seq. Id. 4)、GSK3A(Seq. Id. 5)、GSK3B(Seq. Id. 6)、PCTK1(Seq. Id. 7)、PCTK2(Seq. Id. 8)、STK16(Seq. Id. 9)、TTK(Seq. Id. 10)、CLK2(Seq. Id. 11)、ERK3(Seq. Id. 12)、およびPRKR(Seq. Id. 13)。「代替の同定されたキナーゼ」は、CDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8(MAPK15)、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CDK7、CLK4およびPCTK3からなるキナーゼのセットを意味する。好ましいキナーゼは配列表中に示すヒトキナーゼである。しかしながら、任意の他の生物由来のキナーゼも本方法で使用することができる。
【0025】
本明細書中に明記するすべての特許および出版物は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0026】
実施例
試験化合物が遺伝毒性を示す可能性を表すキナーゼのセットを同定するために、以下の分析を行った。第一に、54種の適当な小分子キナーゼ阻害剤(「SMKI」)を選択し、トレーニングセットを形成した。第二に、トレーニングセットの各化合物に、290種のキナーゼに対するインビトロMNT結果およびシングルポイント阻害プロフィールを獲得した。ついで、統計学的分析を行って、(1)該MNT結果を予測するために該シングルポイントキナーゼ阻害プロフィールを用いてモデルを構築し、(2)MNT結果と相関するキナーゼを同定した。最後に、トレーニングに使用しなかった33種のSMKIのさらなるセットに対してモデルを検証した。
【0027】
インビトロ小核アッセイはこれまでに詳細に記載されている(M. Fenech, Mutation Res(2000)455(1-2):81-95)。懸濁液中で生育する、樹立された永久マウスリンパ腫細胞株L5178Ytk+/-(ATCC CRL 9518)をこの実験に用いた。概して、化合物を500μg/mLまで試験し、少なくとも12の濃度レベルを試験した。概して、評価用の最高用量を選択して、許容可能な毒性(50%未満の、関連する細胞数(RCC)の減少)、または、水性培地中の沈殿の明らかな徴候を観察した。化合物が可溶性かつ非毒性である場合、5000μg/mLの最大用量レベルを設定した。細胞毒性の評価のため、関連する細胞数(RCC、%陰性コントロールとして)を計算した。細胞密度を約1x106細胞/mLに設定することによりスライドを調製し、サイトスピン(1000rpm、5分)を用いてクリーンなガラススライド上に遠心分離した。細胞の固定および保管を氷冷メタノール(-20℃、少なくとも4時間)中で行った。スライドを5分間、H33258(1μg/mL PBS/CMF)とインキュベートし、蛍光顕微鏡検査用に10μLのアンチフェード(antifade)を乗せた。最小の3つの濃度レベルを、小核を有する細胞の存在について、適当なフィルターセットを備えた落射蛍光顕微鏡を利用して分析した。一つまたは複数の濃度で、同時の陰性コントロールと比較して小核を有する細胞の数の少なくとも2倍の増加が示される場合、化合物は染色体異常誘発/異数性誘発活性を有すると考えられる。
【0028】
選択的キナーゼ阻害プロフィール、冗長性の最小化、および化学的多様性を含む複数の基準に基づき、54種の化合物をトレーニングセットに包含するために選択した。SMKIの内部データベースから、選択的キナーゼ阻害プロフィールを有する化合物のみを検討した。この際、選択的化合物は、95%より大きいシングルポイント阻害値にて6種またはそれより少ないキナーゼを阻害する、および、85%よりも大きな値にて11種またはそれより少ないキナーゼを阻害するものとみなした。M. A. Fabian et al., Nature Biotechnol(2005)23:329-36に記載される方法を用いて、キナーゼ阻害を決定した。多くの同じキナーゼに対して複数の化合物が選択的である場合、化合物のうち一つのみを選択して、これらのキナーゼの冗長性または過剰な表示を最小化した。これらのふるいわけ工程の後に、化学的に異なるセットを、ALogP、分子量、水素ドナーおよびアクセプターの数、回転可能な結合の数、原子の数、環の数、芳香族環の数、およびフラグメントの数を包含する、物理的な特徴に基づいて選択した。多様性を、SciTegic's Pipeline Pilot 6. 0. 2にて、最大相違点方法(maximum dissimilarity method)に基づき、「Diverse Molecules」フィルターを用いて明確にした。
【0029】
290種のキナーゼに対する阻害プロフィールおよびインビトロMNT結果をトレーニングセット(N=54)にて各化合物について獲得した。3種の異なる読み出しをMNT結果について得た:陰性(N=22)、陽性(N=26)、および弱い陽性(N=6)。6種の弱い陽性を阻害プロフィールがなされる濃度にてMN細胞の割合(%)に基づき、陰性レベルまたは陽性レベルのいずれかに割り当てた。これにより、6種の化合物のうち5種が陰性であるとして再度割り当てられ、全体で27種の陰性および27種の陽性化合物となった。
【0030】
第一に、前処理をすべての阻害プロフィールのセットを通して行い、情報価値がないかまたは偏りのあるキナーゼを除いた。54種の化合物のセットを通して変動のないキナーゼを、情報価値がないものとして除いた。JNKおよびp38イソ型を除き、これらのキナーゼを標的とするよう開発されたトレーニングセットにおける多くの化合物の偏りを減らした。JNKおよびp38イソ型の除去が異なる形態の偏りを導入することが無いことを確かめるために、本発明者らはさらなる分析を行い、それによってこれらのキナーゼ標的用に開発されていないトレーニングセット化合物のみを検討して、JNKおよびp38イソ型のどちらもMNT結果と相関していないことを見出した。
【0031】
特徴選択(FS)およびパターン認識(PR)を、モデルを構築するためにいくつかのフェーズで行った。すべての分析のため、交差検定を用いていくつかのトライアルでのモデルパフォーマンスを評価した。各トライアルは、初期データをトレーニングセットおよび試験セットにランダムに分割した;トレーニングセットを使用して一時的なモデルを構築し、試験セットを使用して結果を予測し、ついでパフォーマンスを検証した。特徴選択法を用いて、どのキナーゼまたは「特徴」がもっともMNT結果と相関しているらしいかを決定した。各トライアルにおいて、選んだ特徴に対する阻害値をパターン認識法のインプットとして使用し、ついで、陽性または陰性結果を予測した。
【0032】
第一のフェーズにおいて、特徴選択法を2つのグループに分けた:大量のインプットデータセットを処理できる方法(FS1)、および、より少ないデータでよりうまく行う方法(FS2)。FS1、FS2、およびPRの異なる組み合わせを10回の5分割交差検定を用いていくつかのトライアルで試験した。最も低い平均エラー率を有する方法の組み合わせを、分析の次のフェーズ用に選んだ。この組み合わせには、FS1用のKolmogorov-Smirnov/T検定ハイブリッドアルゴリズム、FS2用のランダムフォレスト(Random Forests)、およびPR用のサポートベクターマシン(Support Vector Machines)が包含される(T. Hastie et al., 「The Elements of Statistical Learning」(2001, Springer-Verlag); R. O. Duda et al.,「Pattern Classification, 2ndED.」(2000, Wiley-Interscience);および「Feature Extraction-Foundations and Applications」(2006, Springer-Verlag, I. Guyon et al. Eds.))。
【0033】
第一フェーズから選んだ方法の組み合わせを最適なパフォーマンスのために調整した。モデルで用いられるキナーゼの数を含め、いくつかのパラメーターを最適化した。調整プロセスは、いくつかのトライアルの中で、FS1およびFS2後に有意であるとして選ばれるキナーゼの数が13である場合に、平均エラー率が最も低くなることを示した。このように、モデルを最適パラメーターで調節し、ついでPR用のインプットとして13個の最も有意な特徴を選ぶことを指定した。
【0034】
特徴選択およびパターン認識法のこの組み合わせ、特徴の数、および最適調整パラメーターを用いるモデルの正確さを、ついで50回の5分割交差検定を行うことにより評価した。重要なことには、特徴選択およびパターン認識を各分割交差検定分割内で行った。得られたモデルは、80%±4%の正確さを有していた:すなわち、モデルは平均でMNT結果を80%の確率で正確に予測した。
【0035】
50回の5分割交差検定を用い、MNT結果に相関するキナーゼもまた決定した。キナーゼの選択は、キナーゼを250回のトライアル(50回の5分割交差検定)の中で有意であると選んだ回数に基づいた。最初の290種のキナーゼのうち55種を、有意であるとして少なくとも一度選んだ。50%より大きな頻度で選んだこれらのキナーゼ(N=13)を選択し、最終モデルに含めた。試験を複数実行し、これらの13種のキナーゼに対するキナーゼ阻害プロフィールは、実際のMNT結果を少なくとも50%の確率で予測するのに有意であることを見出した。すなわち、陽性のインビトロMNT結果を有するSMKIは、13種のキナーゼに対して阻害の高いレベルを有する傾向があった。
【0036】
各SMKI用に、モデルは、以下の13種のキナーゼ: CDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8(MAPK15)、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CLK2、ERK3、およびPRKRに対するシングルポイントキナーゼ阻害プロフィールからなる。さらに、キナーゼのふるい分けが行われた濃度でのインビトロMNTアッセイ結果が包含される。第2のモデルは、第2の(重複する)13種のキナーゼのセット: CDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8(MAPK15)、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CDK7、CLK4、およびPCTK3からなる定量的結合定数に基づいた。2つのモデル用に選択されたキナーゼは、高度に類似し、シングルポイントキナーゼ阻害モデルの強固さを示す。
【0037】
最終モデルの有用性を評価するため、検定(validation)セットとして33種の化合物のさらなるセットを用いた。これらの33種の化合物は、最初の54種のセットには含まれないが、各化合物は、インビトロMNT結果を加えた、13種のモデルキナーゼに対するシングルポイント阻害値を含んだ。この検定データを踏まえて、モデルはすべての化合物のMNT結果を正確に予測でき、それゆえ、交差検定に基づく本発明者らが推定したモデルの正確さ内にある、76%の正確さで行われた。
【0038】
本発明をこれらの特定の態様に関して記載したが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、種々の変更が可能であり、等価物が置き換えられ得ることが、当業者に理解されるべきである。加えて、特定の状況、材料、物質の組成、プロセス、プロセス工程または工程を本発明の目的の精神および範囲に適合させるために、多くの改変が成され得る。すべてのこのような改変は、本明細書に添付の特許請求の範囲の範囲内にあると意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)試験化合物を提供する工程;
(b)CDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CLK2、ERK3およびPRKRからなる群より選択される少なくとも10種のキナーゼのキナーゼ活性を阻害する化合物の能力を決定する工程であって、該キナーゼのうちの少なくとも5種を少なくとも50%阻害することにより、該試験化合物が遺伝毒性を示すと考えられることが示される、工程
を含む、化合物の遺伝毒性を予測するための方法。
【請求項2】
(a)試験化合物を提供する工程;
(b)CDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8(MAPK15)、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CDK7、CLK4、およびPCTK3からなる群より選択される少なくとも10種のキナーゼのキナーゼ活性を阻害する化合物の能力を決定する工程であって、該キナーゼのうちの少なくとも5種を少なくとも50%阻害することにより、該試験化合物が遺伝毒性を示すと考えられることが示される、工程
を含む、化合物の遺伝毒性を予測するための方法。
【請求項3】
工程(b)が、MKNK2、SgK085、PIM2、TNNI3K、KIT、MELK、AURKA、CLK3、AAK1、DCAMKL3、LIMK1、FLT1、MAP2K4、PIM3、AURKB、ERK2、CSNK1A1L、DAPK3、MLCK、CLK3、PFTK1、PRKD3、AURKC、ERK5、STK17A、MST4、CDK3、MYLK、CDC2L1、QIK、CDK11、PLK1、PDGFRβ、PRKCM、MAPK4、PIP5K2B、CSNK1D、RPS6KA1.Kin.Dom.1、CDK5、PLK3、BIKE、PLK4、CAMK2A、STK3、CSNK2A1、STK17B、CDK8、MAP2K6、PIM1、MAP2K3、CDK7、IKKε、TGFBR2、CDK9、CLK4、およびPCTK3からなる群より選択される少なくとも1種のキナーゼのキナーゼ活性を阻害する化合物の能力を決定することをさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
試験化合物が約10μMの濃度で試験される、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
工程(b)が、前記群より選択される少なくとも12種のキナーゼのキナーゼ活性を阻害する化合物の能力を決定することを含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
工程(b)が、前記群の13種すべてのキナーゼのキナーゼ活性を阻害する化合物の能力を決定することを含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
(a)複数の試験化合物を提供する工程;
(b)CDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CLK2、ERK3、およびPRKRからなる群、または、CDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8(MAPK15)、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CDK7、CLK4、およびPCTK3からなる代替の群より選択される少なくとも10種のキナーゼのキナーゼ活性を阻害する各化合物の能力を決定する工程
を含む、潜在的な遺伝毒性について化合物をスクリーニングするための方法であって、
該キナーゼのうちの少なくとも5種を少なくとも50%阻害することにより、該試験化合物が遺伝毒性を示すと考えられることが示される、方法。
【請求項8】
(c)遺伝毒性の可能性を示す化合物を除外する工程をさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
キナーゼ活性を阻害する化合物の能力が、該キナーゼに対する化合物の結合親和性を測定することにより決定される、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
固体支持体;および
該固体支持体上に固定化された、キナーゼCDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CLK2、ERK3、およびPRKR、または、キナーゼCDK2、CLK1、DYRK1B、ERK8(MAPK15)、GSK3A、GSK3B、PCTK1、PCTK2、STK16、TTK、CDK7、CLK4、およびPCTK3
を含む、試験基質。
【請求項11】
MKNK2、SgK085、PIM2、TNNI3K、KIT、MELK、AURKA、CLK3、AAK1、DCAMKL3、LIMK1、FLT1、MAP2K4、PIM3、AURKB、ERK2、CSNK1A1L、DAPK3、MLCK、CLK3、PFTK1、PRKD3、AURKC、ERK5、STK17A、MST4、CDK3、MYLK、CDC2L1、QIK、CDK11、PLK1、PDGFRβ、PRKCM、MAPK4、PIP5K2B、CSNK1D、RPS6KA1.KD1、CDK5、PLK3、BIKE、PLK4、CAMK2A、STK3、CSNK2A1、STK17B、CDK8、MAP2K6、PIM1、MAP2K3、CDK7、IKKε、TGFBR2、CDK9、CLK4、およびPCTK3からなる群より選択される、前記固体支持体に固定化されたキナーゼをさらに含む、請求項10記載の試験基質。
【請求項12】
特に前述の実施例を参照して、本明細書において実質的に記載される、方法および試験基質。

【公表番号】特表2011−505847(P2011−505847A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538419(P2010−538419)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010530
【国際公開番号】WO2009/080219
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】