説明

遺伝的に操作された細胞培養適応感染性嚢胞疾患ウイルス(IBDV)突然変異体

【課題】感染性嚢胞疾患ウイルス(IBDV)をCEF細胞培養内での増殖に適応させるための方法を提供する。
【解決手段】IBDVのゲノムセグメントAおよびBのcDNAを含むDNA構築物を別々に調製し、該セグメントAを含むcDNA上の、変異体Eまたは古典的IBDV株のVP2遺伝子のアミノ酸残基253および284の1以上のコドン内またはGLS IBDV株のVP2遺伝子のアミノ酸残基284のコドン内に突然変異を導入して、変異体Eまたは古典的IBDV株の場合には、該突然変異VP2遺伝子のアミノ酸残基253および284のコドンがそれぞれヒスチジンおよびトレオニン残基をコードするようにし、該セグメントAと該セグメントBとを含むcDNAのRNA転写産物に、培地内の宿主細胞内で該IBDV突然変異体の複製を開始させ、該培養から該IBDV突然変異体を単離する工程を含んでなる、感染性IBDV突然変異体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CEF細胞培養内で複製する能力を有する感染性IBDV突然変異体の製造方法、遺伝的に操作されたIBDV突然変異体、およびそのようなIBDV突然変異体を含むワクチン関する。
【背景技術】
【0002】
感染性嚢胞疾患ウイルス(IBDV)はビルナウイルス科のメンバーである。この科のウイルスは、非常に類似したゲノム体制および類似した複製周期を有する。これらのウイルスのゲノムは、二本鎖(ds)RNAの2つのセグメント(AおよびB)よりなる。大きい方のセグメントAは、自己タンパク質分解により切断されて成熟ウイルスタンパク質VP2、VP3およびVP4を形成するポリタンパク質をコードする。VP2およびVP3は、ビリオンの主要構造タンパク質である。VP2はビルナウイルスの主要な宿主防御免疫原であり、中和抗体の誘導を引き起こす抗原領域を含有する。VP4タンパク質は、VP2、VP3およびVP4タンパク質の前駆体ポリタンパク質のプロセシングに関与するウイルスコード化プロテアーゼであるらしい。大きい方のセグメントAはまた、該ポリタンパク質遺伝子に先行する及び部分的に重複する第2のオープンリーディングフレーム(ORF)を有する。この第2のオープンリーディングフレームは、IBDV感染細胞内に存在する未知機能のタンパク質VP5をコードする。小さい方のセグメントBは、ポリメラーゼおよびキャッピング酵素活性を有する90kDaの多機能タンパク質であるVP1をコードする。
【0003】
IBDVには、血清型1および2の2つの血清型が存在する。それらの2つの血清型はウイルス中和(VN)試験により識別されうる。さらに、血清型1の亜型が既に分離されている。血清型1のこれらのいわゆる「変異(体)」ウイルスは、交差中和試験、モノクローナル抗体のパネル、またはRT−PCRにより同定されうる。また、IBDVの血清型1のこれらの亜型、例えば、古典的、変異体E、GLS、RS593およびDS326株が文献に記載されている(Van Loonら,Proceedings of the International symposium on infectious bursal disease and chicken infectious anaemia,Rauischholzhausen,Germany,179−187,1994)。
【0004】
ガンボロー病とも称される感染性嚢胞疾患(IBD)は、ファブリキウス嚢の細胞に対して選択指向性を有しリンパ系組織を一次標的とする、ニワトリにおける高伝染性急性ウイルス感染症である。感受性集団における罹患率は高く、急激な体重減少および中等度の死亡率を伴う。該疾患から回復したニワトリは、ニワトリの防御機構に不可欠であるファブリキウス嚢の破壊のため、免疫不全を有することがある。IBDウイルスは、3週齢未満のニワトリにおいては重篤な免疫抑制を引き起こし、3月齢までのニワトリにおいては嚢の病変を誘発する。
【0005】
該疾患は、弱毒化生IBDVワクチンで初回抗原刺激されたニワトリに対する不活化ワクチンの適用により種禽(breeder)集団において高レベルの抗体を誘導することにより長年にわたり予防されうる。このため、IBDにより引き起こされる経済的損失が最小限に維持されている。ワクチン接種された種禽に由来するニワトリにおける移行抗体は、IBDVによる初期感染を予防し、免疫抑制に伴う問題を減少させる。さらに、移行抗体が減弱した後の商業用のニワトリ集団においても、弱毒化生ワクチンが成功裡に使用されている。
【0006】
最近、ヨーロッパにおいて、非常にビルレントなIBDV株が、高い死亡率の疾患の発生を引き起こした。現在のワクチン接種計画では、ニワトリを十分に防御することができなかった。ワクチン接種の失敗は、主として、ビルレントな野外ウイルスによる攻撃の前に生ワクチンがニワトリに感染できなかったことによるものであった。
【0007】
したがって、既存のワクチンを改良し、新規タイプのワクチンを開発することが絶えず要求されている。生ワクチンの開発のためには、弱毒化形態のIBDウイルスが必要とされる。通常、これは、適当な基質上でのIBDV野外分離体の連続継代により得ることができる。不活化IBDVワクチンの開発のためには、該基質上でのIBDウイルスの増殖から生じる大量のIBDV抗原塊の作製のための適当な基質が必要である。
【0008】
野外IBDVは、感染したトリの嚢内または発育鶏卵内でインビボで容易に増殖しうることが公知である。一方、ニワトリ胚由来のインビトロ細胞培養にいくつかのIBDV株の増殖を適応させるのに成功したことが報告されているにもかかわらず、野外の感染嚢から分離されたほとんどのIBDV株、特に、いわゆるビルレントまたは非常にビルレントなIBDV株は、ニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)などのニワトリ胚由来の細胞または腎臓、肝臓などの他の器官に由来する細胞には適応させることができないことが一般に認められている(Brownら,J.Gen.Virology 75,675−680,1994,van Loonら,1994,前掲)。
【0009】
インビボ培養基質の欠点は明らかである。そのような培養方法は、動物に対する思いやりがない方法であり、多数の動物を必要とし、長時間を要し、標準化されたストリンジェントな条件下で行なうことができない。また、インビトロ細胞培養基質に対する適応に不応性でない限られた数のIBDV株は、IBDV株の適応につながる連続継代法の結果、ランダムな突然変異が該ウイルスのゲノム内に無制御に導入されるという欠点を有する。そのような突然変異は、細胞培養に対するウイルスの適応に関連したもの以外のウイルスの特性、例えば、ウイルスの免疫原性に関連した特性に影響を及ぼしうる。そのような追加的なランダムな突然変異は望ましくない。
【0010】
CEF細胞培養内のインビトロでのウイルスの継代によるIBDVの適応は、感染したトリの嚢内の病変を該ウイルスが誘発する能力の減少により示されるとおり、ビルレンスの弱毒化を伴う。Yamaguchiら(Virology 223,219−223,1996)は、IBDウイルスのビルレンスに関する、およびCEF細胞培養に対する嚢IBDVの適応の結果としてこれらのウイルスが弱毒化されることに関する分子的根拠について検討している。野生型IBDVの弱毒化に関与する明確な突然変異を同定することはできないと、Yamaguchiらが行なった研究から結論づけられた。セグメントAの長いオープンリーディングフレームにコードされるポリタンパク質の279位(Asp/Asn)および284位(Ala/Thr)のアミノ酸残基が、CEF細胞内でのIBDVのビルレンスまたは増殖に重要であると示唆された。後者は、Lim,B−L(Proceedings of the 4th Asia Pacific Poultry Health Conference,22−26,1998年11月,Melbourne,Australia,Abst.79)により確認された。IBDVのVP2タンパク質内のアミノ酸残基279および284の置換(それぞれAsp→AsnおよびAla→Thr)は、CEF細胞培養内で増殖しうるIBDV突然変異体を与える、と該刊行物に開示されている。しかしながら、先行技術においては、CEF細胞培養に対する嚢IBDVの適応を可能にするのに必要かつ十分であるアミノ酸の突然変異のタイプおよび最小数の別態様は開示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Van Loonら,Proceedings of the International symposium on infectious bursal disease and chicken infectious anaemia,Rauischholzhausen,Germany,179−187,1994
【非特許文献2】Brownら,J.Gen.Virology 75,675−680,1994,van Loonら,1994
【非特許文献3】Yamaguchiら(Virology 223,219−223,1996)
【非特許文献4】Lim,B−L(Proceedings of the 4th Asia Pacific Poultry Health Conference,22−26,1998年11月,Melbourne,Australia,Abst.79)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
感染したトリの嚢内においてインビボでしか増殖しないIBDV分離体を、細胞培養内での増殖に適応させるために一般に適用可能な方法を提供することが、本発明の目的である。
【0013】
突然変異をIBDVゲノム内に制御的に導入することによる弱毒化IBDV突然変異体の製造方法を提供することが、本発明のもう1つの目的である。
【0014】
さらに、遺伝的に操作されたIBDV突然変異体であって、該突然変異体が細胞培養内で増殖することを可能にする適当なアミノ酸残基を含むことを特徴とするIBDV突然変異体を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、以下の工程を含んでなる、CEF細胞培養内で複製されうる感染性IBDV突然変異体の製造方法により達成されることが判明した:
(i)CEF細胞培養内で複製する能力を有さないIBDVのゲノムセグメントAおよびBのcDNAを含むDNA構築物を別々に調製し、
(ii)該セグメントAを含むcDNA上の、
(a)変異体Eまたは古典的IBDV株のVP2ゲノムのアミノ酸残基253および284の1以上のコドン内または
(b)GLS IBDV株のVP2遺伝子のアミノ酸残基284のコドン内に突然変異を導入して、変異体Eまたは古典的IBDV株の場合には、該突然変異VP2遺伝子のアミノ酸残基253および284のコドンがそれぞれヒスチジンおよびトレオニン残基をコードするようにし、あるいはGLS IBDV株の場合には、該突然変異VP2遺伝子のアミノ酸残基284のコドンがトレオニン残基をコードするようにし、
(iii)該セグメントAと該セグメントBとを含むcDNAのRNA転写産物に、培地内の宿主細胞内で該IBDV突然変異体の複製を開始させ、
(iv)該培養から該IBDV突然変異体を分離する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】pEDEL22BacII、pD78A/ΔNBおよびpD78A/ΔNB−E/DELの線状プラスミド地図を示す。
【図1B】pD78A/ΔNB−E/DEL−GLS−BおよびpD78A/ΔNB−E/DEL−GLS−TCの線状プラスミド地図を示す。
【図1C】pD78A/ΔNB−E/DEL、pD78A/ΔNB−E/DEL−QH、pD78A/ΔNB−E/DEL−ATおよびpD78A/ΔNB−E/DEL−SRの線状プラスミド地図を示す。
【図1D】pD78A/ΔNB−E/DEL、pD78A/ΔNB−E/DEL−QH−AT、pD78A/ΔNB−E/DEL−AT−SRおよびpD78A/ΔNB−E/DEL−QH−SRの線状プラスミド地図を示す。
【図1E】pD78A/ΔNB−E/DELおよびpD78A/ΔNB−E/DEL−QH−AT−SRの線状プラスミド地図を示す。
【図2】pD78A/ΔNB、pD78A/ΔNB−QH、pD78A/ΔNB−TA、pD78A/ΔNB−RSおよびpD78A/ΔNB−QH−TA−SRの線状プラスミド地図を示す。
【図3】pUC18BD78の線状プラスミド地図を示す。
【図4】pD78A−E/DEL、p661Apart、pD78A−E−661、pD78A−E−661−DN−AT、pD78A−E−661−QH、pD78A−E−661−E−ATおよびpD78A−E−661−QH−ATの線状プラスミド地図を示す。
【図5】pUK661B1、pUK661B2、pUK661B3およびpB661の線状プラスミド地図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、いずれのアミノ酸残基が、CEF細胞培養内でIBDVの複製を可能にするのに必要かつ十分であるかを、初めて同定するものである。ほとんどのIBDV嚢分離体はVP2タンパク質のアミノ酸残基253(Gln)、284(Ala)および330(Ser)を含むが、253位および284位のコドンがアミノ酸残基253(His)および284(Thr)をコードするように変化している変異体Eまたは古典的IBDV突然変異体はCEF細胞培養内で増殖しうる。GLS IBDV突然変異体の場合、284位のコドンがアミノ酸残基284(Thr)をコードするように該コドンを変化させることで十分であることが判明している。また、アミノ酸330位は、CEF内での古典的または変異体E IBDV突然変異体の複製に決定的に重要ではないことが判明している。しかしながら、本発明においては、その位置にセリン、アルギニンまたはリシン残基が存在するのが最も好ましい。また、GLS IBDVの場合には、アミノ酸253位は複製に決定的に重要ではなく、それは通常はグルタミン残基であることが判明している。したがって、好ましい方法においては、VP2タンパク質内のこの位置に、これらの3つのアミノ酸残基のいずれか、特に330(Arg)を含むIBDV突然変異体を製造する。GLS IBDV突然変異体の場合、253位の好ましいアミノ酸残基はグルタミンである。
【0018】
【表1】

【0019】
感染したニワトリの嚢内のみで複製する能力を有していた(キメラ)変異体E IBDV(D78/変異体E)のゲノムにおいては、CEF細胞培養に対するIBDV分離体の適応のためには2つの変化が必要であることが判明している。これらの位置はアミノ酸残基253および284を含む。これらの位置のそれぞれのアミノ酸残基ヒスチジンおよびトレオニンは、該IBDV突然変異体がCEF細胞培養内で複製するのを可能にする(表1および実施例1)。さらにまた、本発明方法によりCEF細胞培養に適応したIBDV突然変異体は弱毒化されることが判明している(実施例2)。
【0020】
古典的IBDV株における嚢からCEF細胞への適応がそれらの2つのアミノ酸によっても決定されることを更に確認するために、CEF細胞培養内で複製する能力を有するIBDV株D78のコドンを253、284および330位で変化させた。その結果を表2Aに示す。
【0021】
【表2】

【0022】
古典的な「非常にビルレントな」(VV)欧州分離体UK661(Brownら,J.Gen.Virology 75,675−680,1994; Brown and Skinner,Virus Res.40,1−15,1996)はインビトロでは増殖できないため、ニワトリにおいてインビボで増殖させる必要がある。ニワトリにVV株を感染させる必要があり、感染の数日後、生存したトリを殺し、その嚢を摘出する。ついで、さらなる使用のために、該ウイルスを嚢ホモジネートから抽出することができる。本発明を裏付ける実験は、前記のとおりの253位および284位のアミノ酸変化が、VV株UK661が細胞培養内で増殖するのを可能にすることを示した。古典的IBDV株に関する突然変異誘発およびトランスフェクション実験の結果を、表2Bに要約する。
【0023】
【表3】

【0024】
これらのデータは更に、古典的嚢IBDV株が細胞培養内で増殖するのが可能となるためには253位および284位のアミノ酸変化で十分であることを示している。他のすべての突然変異は、細胞培養内で複製されないか又は非常に不十分にしか複製されない突然変異体を与える(Limら,J.Viol.73,2854−62,1999)。
【0025】
また、GLS IBDVにおいては、嚢に適応したIBDVがCEF細胞内で複製されるのが可能となるためには284位における単一のアミノ酸残基の置換で十分であることが確認された(表3)。
【0026】
【表4】

【0027】
したがって、本発明の方法は、組換えDNA技術を用いて、細胞培養内での増殖に対するIBDV嚢分離体の適応を可能にする。本発明の利点は、該適応方法の結果、専ら、IBDVのゲノム内の253位および284位のコドンの1以上に突然変異が導入されることである。それらの番号は、該ポリタンパク質およびIBDVゲノムのセグメントA上の大きなオープンリーディングフレームの、それぞれアミノ酸およびコドンの位置を示している(MundtおよびMuller.J.Gen.Virol.77,437−443,1995; NCBI受託番号X84034)。
【0028】
CEF細胞培養上で増殖しない全てではなくともほとんどのIBDV株は、VP2遺伝子内にコドン253(Gln)、284(Ala)および330(Ser)を含有する。CEF細胞培養上で増殖しないいくつかの変異体Eまたは古典的IBDV株は、必要なコドンである253(His)および284(Thr)の1つを既に有しているかもしれない。したがって、本発明の方法は、生じるIBDV突然変異体が、アミノ酸残基253(His)および284(Thr)をコードするコドンをVP2遺伝子内に含むよう、前記の必要なコドンの1以上において突然変異を導入することを含む。
【0029】
より好ましくは、本発明の方法は、CEF細胞内で複製する能力を有さずアミノ酸残基253(Gln)および284(Ala)、より一層好ましくは330(Ser)のコドンを含むIBDVに適用する。古典的および変異体E株の場合には、VP2遺伝子のコドンの2または3つにおいて突然変異を導入して、コドン253(His)および284(Thr)、そして所望により330(Arg)を得る。これらの位置におけるアミノ酸の新たなコドンは、His(CATまたはCAC)、Thr(ACT、ACC、ACA、ACG)およびArg(CGT、CGC、CGA、CGG、AGA、AGG)であってもよい。
【0030】
より一層好ましくは、本発明の方法は、CEF細胞内で複製する能力を有さずコドンGln253(CAA)、Ala284(GCC)および所望によりSer330(AGT)またはそれらの任意の組合せを含むIBDVに適用する。
【0031】
特に、本発明の方法は、CEF細胞内で複製する能力を有さずコドン253(CAA)、284(GCC)および330(AGT)を含むIBDVに適用する。
【0032】
本発明のIBDV突然変異体の製造方法は、ビルナウイルスに関する最近確立された「逆遺伝学(reverse genetics)」系(MundtおよびVakharia,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93,11131−11136,1996ならびにWO 98/09646)を含む。この逆遺伝学系は、IBDウイルスのRNAゲノム内に突然変異を導入する可能性を開いた。本発明の逆遺伝学法の原理は、ゲノムRNAセグメントAおよびBを該ウイルスから単離し、ついで該RNAからcDNAへの逆転写を行ない、ついで該cDNAをRNAに転写させるというものである。該ウイルスのセグメントA(またはB)内への必要な突然変異の導入は、cDNAレベルで生じる。この逆遺伝子学系における重要な工程は、DNAベクター分子(例えば、プラスミド)とIBDVのセグメントAまたはBの完全長cDNAクローンとを含む別々のDNA構築物を準備することである。これらの両方のセグメントの5’および3’末端のヌクレオチドを含む、セグメントAまたはB cDNAよりなるDNA構築物は、MundtおよびVakharia(1996,前掲)に記載の方法に従い作製することができる。該逆遺伝学法における後続の工程においては、適当なセグメントAおよびB遺伝物質を適当な宿主細胞にトランスフェクトし、それにより該トランスフェクト化宿主細胞内で、cDNAセグメントAおよびBのRNA転写産物に該ウイルスの複製を開始させて感染性IBDVを得、それを、該宿主細胞が培養される培地から単離することができる。
【0033】
逆遺伝学系の最終工程には、いくつかの方法を用いることができる。好ましくは、本発明の方法は、セグメントAおよびBの両方のcDNAからインビトロで合成RNA転写産物を調製することを含む。この場合、該DNA構築物は、それらのセグメントのいずれかに作動的に結合したRNAポリメラーゼプロモーターを含む。該プロモーターは、T7、SP6またはT3ポリメラーゼのプロモーターであってもよく、T7プロモーターが好ましい。AおよびBセグメントの合成転写産物を単離し、それを使用して適当な宿主細胞にトランスフェクトする。
【0034】
あるいは、提供するもう1つの方法においては、セグメントBのRNA転写産物が構成的に発現されるよう、セグメントBのcDNAとRNAポリメラーゼプロモーターとを含むDNA構築物で形質転換された、RNAポリメラーゼを発現しうる宿主細胞を含む細胞系を提供する。突然変異セグメントAを含むcDNAの合成RNA転写産物でそのような細胞をトランスフェクトした後、IBDV突然変異体の複製を宿主細胞内で開始させる。特に、バクテリオファージT7 DNA依存性RNAポリメラーゼを発現しうる(例えば、これは組換えワクチンウイルスから細胞質的で発現される)宿主細胞を使用することができる。
【0035】
所望の突然変異は、この目的のために当技術分野で一般に知られている方法によりVP2遺伝子内に導入することができる。特に、部位特異的突然変異誘発により突然変異を導入する。IBDVゲノム内に突然変異を導入するための方法は、本明細書に記載されているが、当技術分野においても一般に用いられている(MundtおよびVakharia,1996,前掲;Yaoら,J.Virology 72,2647−2654,1998; Mundtら,欧州特許出願第0887,412号およびCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubelら編,Wiley N.Y.,1995版,p.8.5.1−8.5.9.)。
【0036】
本発明の方法は、CEF細胞培養内で複製する能力を有さない、IBDVの古典的、変異体EまたはGLS抗原亜型である全てのIBDV株に適用することができる。
【0037】
さらに、本発明の方法は、株のビルレンスとは無関係に、非常にビルレントな株(例えば、CS89およびUK661)、ビルレント株(例えば、F52/70およびSTC)およびワクチン株(例えば、228Eおよび2512)を含む、CEF細胞培養内で複製する能力を有さない全てのIBDV株に適用することができる。非常にビルレントな及びビルレントな株に由来する細胞培養内での複製に適応したIBDV突然変異体は、それより低いビルレンスを有することとなり、生ワクチン株として使用することができる。あるいは、そのようなIBDV突然変異体は、細胞培養内で簡便に増殖させることができ、不活化ワクチンとして製剤化することができる。
【0038】
また、本発明の方法は、CEF細胞培養内で複製する能力を有さないIBDV弱毒化株に有利に適用することができる。そのような弱毒化ウイルスに由来する突然変異体を、ワクチンの製造のために、インビボ産生系の代わりに細胞培養系内で使用することができる。
【0039】
もう1つの態様において、本発明は、CEF細胞培養内で複製する能力を有する「キメラ」IBDV突然変異体の製造方法を提供する。該方法は、第1 IBDVのセグメントAの遺伝子(特に、VP2遺伝子)内に突然変異を導入する追加的工程を含み、その結果、その遺伝子により発現されるタンパク質は、第2 IBDVのエピトープ決定基を含む。
【0040】
キメラIBDVは、第1抗原亜型のセグメントAまたはVP2遺伝子を遺伝子バックボーンとして含み、さらに、第2 IBDVエピトープ決定基をコードする遺伝情報を含むウイルスである。特に、そのようなキメラIBDVは、第1抗原亜型のIBDVのVPタンパク質上に1以上の追加的エピトープ決定基を発現する。そのようなキメラIBDVの利点は、それが、IBDVの少なくとも2つの抗原亜型に対する免疫を誘導する単一の免疫原として使用可能なことである。
【0041】
特に、古典的、GLSまたは変異体E IBDVのセグメントAバックボーンまたはVP2遺伝子を含むIBDV突然変異体を製造する。種々のIBDV株のセグメントAの全コード領域を含有するcDNAクローンを、標準的なクローニング法および当技術分野において記載されている方法(Vakhariaら,Avian Diseases 36,736−742,1992;J.Gen.Virology 74,1201−1206,1993)を用いて調製することができる。種々のIBDV株のセグメントAのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列が、当技術分野において開示されている(例えば、WO 95/26196およびVakhariaら,Avian Diseases 36,736−742,1992)。
【0042】
さらに、WO 95/26196は、各抗原亜型に特徴的なIBDV抗原亜型のいくつかのエピトープ決定基のアミノ酸配列を開示している。また、WO 95/26196は、中和モノクローナル抗体のパネルに対する反応性により、種々のIBDV株の抗原の特徴づけを開示している。そのような中和モノクローナル抗体に反応性である重要なエピトープ決定基は、B69(古典的亜型)、R63および67(変異体E)および57(GLS)エピトープ決定基である。これらのエピトープ決定基のアミノ酸配列を含むVP2タンパク質の領域は、Vakhariaら,Virus Res.31,265−273,1994に記載されている。
【0043】
好ましくは、本発明の方法においては、古典的セグメントAバックボーンと変異体Eエピトープ決定基67またはGLSエピトープ決定基57をコードするヌクレオチド配列とを含む、CEF細胞培養内で複製する能力を有するキメラIBDV突然変異体を製造する。あるいは、該キメラIBDV突然変異体は、GLSバックボーンとB69、R63または67エピトープ決定基をコードするヌクレオチド配列とを含む。
【0044】
特に、本発明の方法は、(i)該VP2遺伝子が変異体E株のVP2遺伝子により置換されている、および(ii)253、284および330位のコドンが前記のとおりに改変されている(実施例1)、株D78(Intervet International B.V.,the Netherlandsから商業的に入手可能)に由来するキメラIBDV株(D78/変異体E)の製造を含む。
【0045】
基本的には、第1 IBDVのバックボーンセグメントA内に、該エピトープ決定基をコードするヌクレオチド配列を導入するための工程は、前記の突然変異を導入するための工程と実質的に同じである。これは、ゲノムセグメントAおよびBのcDNAを準備し、(i)第1 IBDVのエピトープ決定基のコード配列を、第2 IBDVのものにより置換し、あるいは(ii)部位特異的突然変異誘発により第1 IBDV内の特定のコドンを改変することにより、最も簡便に行われる。そのような方法もまた、WO 95/26196に記載されている。最後に、これらのcDNA分子のRNA転写産物に、該トランスフェクト化宿主細胞内で複製を開始させて、感染性キメラIBDVを得る。
【0046】
本発明のもう1つの実施形態においては、前記のIBDV突然変異体の製造方法であって、得られるIBDV突然変異体が、該ウイルスを弱毒化する他の突然変異をも含むことを特徴とする製造方法を提供する。そのような突然変異の一例は、天然VP5タンパク質を発現する能力を有さないIBDV突然変異体を与える、IBDVゲノムのセグメントAのVP5遺伝子内の突然変異である。IBDV VP5突然変異体の製造は欧州特許出願第887,412号に記載されている。
【0047】
もう1つの態様においては、本発明は、古典的または変異体E株のVP2遺伝子内にコドン253(His)および284(Thr)、そして所望により330(Arg)を、あるいはGLS株のコドン284(Thr)を含む、CEF細胞培養内で複製する能力を有する遺伝的に操作された感染性IBDV突然変異体を提供する。そのようなIBDV突然変異体は、遺伝子操作技術により制御的に導入された前記の新たなコドンを除き、CEF細胞培養内で複製する能力を有さない嚢IBDVの遺伝情報を依然として含む。
【0048】
特に、318位および325位にそれぞれグリシンおよび/またはバリンを有さない前記の変異体E IBDV突然変異体を提供する。これらの位置にそれぞれアスパラギン酸および/またはメチオニンを有する遺伝的に操作された変異体E突然変異体が、最も好ましい。
【0049】
好ましい実施形態においては、変異体E株のVP2遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含み、前記で特定した3つの新たなコドンを有する、本発明の遺伝的に操作されたIBDV突然変異体は、キメラIBDV突然変異体、特に、株D78に由来するキメラIBDV突然変異体である。
【0050】
本発明は、インビトロ細胞培養内での複製に予め不応性であったIBDV株からIBDVワクチンを容易に製造する可能性を与える。本発明の追加的な利点は、IBDVが、前記方法により制御的に(さらに)弱毒化されうることである。そのような弱毒化IBDV突然変異体は、生IBDVワクチン内の有効成分として使用することができる。
【0051】
したがって、本発明のもう1つの態様は、IBDV感染により生じる疾患に対して家禽を防御するのに使用するためのワクチンである。該ワクチンは、前記のとおりに製造された遺伝的に操作されたIBDV突然変異体と医薬上許容される担体または希釈剤とを含む。
【0052】
該IBDV突然変異体は、生弱毒化または不活化ウイルスとして該ワクチン内に含有させることができる。
【0053】
本発明のワクチンは、例えば、商業的に入手可能な生および不活化IBDVワクチンに一般に用いられる方法などの通常の方法により製造することができる。簡単に説明すると、感受性基質に本発明のIBDV突然変異体を接種し、所望の感染力価まで該ウイルスが複製されるまで該基質を増殖させ、ついでIBDV含有物質を収穫する。
【0054】
本発明のワクチンを製造するために、IBDV突然変異体の複製を支持しうる各基質を使用することができ、それらには、初代(トリ)細胞培養、例えば、ニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)またはニワトリ胚肝細胞(CEL)、哺乳動物細胞系、例えばベロ細胞系またはBGM−70細胞系、またはトリ細胞系、例えばQT−35、QM−7またはLMHが含まれる。通常、該細胞の接種後、該ウイルスを3〜10日間増殖させ、ついで該細胞培養上清を収穫し、所望により濾過または遠心分離して細胞残渣を除去する。
【0055】
あるいは、該IBDV突然変異体を発育鶏卵内で増殖させる。特に、これらのIBDVを増殖させる基質として、SPF発育卵が挙げられる。発育卵に、例えば、少なくとも10 TCID50/卵を含む懸濁液またはホモジネートを含有する0.2mlのIBDV突然変異体を接種し、ついで該卵を37℃でインキュベートする。約2〜5日後、該胚および/または該膜および/または該尿膜腔液を集め、この物質を適当にホモジナイズすることにより、該IBDウイルス産物を収穫することができる。ついで該ホモジネートを2500 x gで10分間遠心分離し、該上清をフィルター(100μm)で濾過することができる。
【0056】
該生ウイルスを含有する本発明のワクチンは、懸濁液の形態または凍結乾燥形態で製造し販売することができ、そのような組成物に一般に用いられる医薬上許容される担体または希釈剤を更に含有する。担体には、安定化剤、保存剤およびバッファーが含まれる。適当な安定化剤としては、例えば、SPGA、炭水化物(例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、ショ糖、デキストラン、グルタマートまたはグルコース)、タンパク質(例えば、乾燥乳血清、アルブミンまたはカゼイン)またはそれらの分解産物が挙げられる。適当なバッファーとしては、例えば、アルカリ金属ホスファターゼが挙げられる。適当な保存剤としては、チメロサール、メルチオラートおよびゲンタマイシンが挙げられる。希釈剤には、水、水性バッファー(例えば、緩衝食塩水)、アルコールおよびポリオール(例えば、グリセロール)が含まれる。
【0057】
所望により、本発明の生ワクチンはアジュバントを含有しうる。アジュバント活性を有する適当な化合物および組成物としては、例えば、後記のものと同様のものが挙げられる。
【0058】
本発明の生ワクチンの注射(例えば、筋肉内、皮下)による投与は可能であるが、該ワクチンは、好ましくは、IBDVのワクチン接種に一般に用いられる安価な大量適用技術により投与する。IBDVのワクチン接種のためのこれらの技術には、飲水および噴霧ワクチン接種が含まれる。
【0059】
該生ワクチンの投与のためのもう1つの方法には、卵内、点眼および嘴の浸漬による投与が含まれる。
【0060】
本発明のもう1つの態様においては、不活化形態のIBDV突然変異体を含むワクチンを提供する。不活化ワクチンの大きな利点は、得られうる長期持続性の防御抗体のレベルが高いことである。
【0061】
増殖工程後に収穫したウイルスの不活化の目的は、該ウイルスの再生を排除することである。一般に、これは、化学的または物理的手段により達成することができる。化学的不活化は、例えば酵素、ホルムアルデヒド、β−プロピオラクトン、エチレン−イミンまたはそれらの誘導体で該ウイルスを処理することにより行なうことができる。必要に応じて、後で該不活化化合物を中和する。ホルムアルデヒドで不活化した物質は、例えば、チオスルファートで中和することができる。物理的不活化は、好ましくは、該ウイルスを高エネルギー放射(例えば、UV光またはγ線)に付すことにより行なうことができる。所望により、処理後、該pHを約7の値に調節することができる。
【0062】
該不活化IBDV突然変異体を含有するワクチンは、例えば、この目的に適した前記の医薬上許容される担体または希釈剤の1以上を含んでいてもよい。
【0063】
好ましくは、本発明の不活化ワクチンは、アジュバント活性を有する1以上の化合物を含む。この目的のための適当な化合物または組成物には、水酸化、リン酸または酸化アルミニウム、例えば鉱油(例えばBayol F(登録商標)またはMarcol 52(登録商標))または植物油(例えばビタミンEアセタート)に基づく水中油滴型または油中水滴型エマルション、およびサポニンが含まれる。
【0064】
本発明のワクチンは、有効成分としての該IBDV突然変異体の有効量(すなわち、ワクチン接種された鳥において、ビルレントウイルスによる攻撃に対して免疫を誘導する免疫性IBDV物質の量)を含む。本発明においては、免疫は、ワクチン接種後の鳥集団において、非ワクチン接種群と比べて有意に高いレベルの防御を誘導することと定義される。
【0065】
典型的には、本発明の生ワクチンは、10〜10 TCID50(50%組織培養感染量)/動物の用量、好ましくは105.0〜107.0 TCID50の用量で投与することが可能であり、不活化ワクチンは、10〜10 TCID50/動物の抗原相当量を含有していてもよい。
【0066】
不活化ワクチンは、通常、非経口的(例えば、筋肉内または皮下)に投与する。
【0067】
本発明のIBDVワクチンはニワトリにおいて有効に使用することができ、他の家禽(例えば、シチメンチョウ、ホロホロチョウおよびウズラ)にも該ワクチンを成功裡に接種することができる。ニワトリには、ブロイラー、繁殖ストックおよび産卵ストックが含まれる。
【0068】
本発明の生または不活化ワクチンを投与する動物の齢は、通常の生または不活化IBDVワクチンを投与する動物の齢と同じである。例えば、ブロイラー(母親に由来する抗体MDAを有さないもの)には1日齢でワクチン接種することが可能であり、一方、高レベルのMDAを有するブロイラーには、好ましくは、2〜3週齢でワクチン接種する。低レベルのMDAを有する産卵ストックまたは繁殖ストックには、1〜10日齢でワクチン接種し、ついで6〜8週齢および16〜20週齢で不活化ワクチンをブースター接種することができる。
【0069】
本発明はまた、前記のIBDV突然変異体と、それぞれ家禽または魚類に対して感染性である他の病原体に由来する1以上の免疫原とを含んでなる混合(combination)ワクチンを含む。
【0070】
好ましくは、該混合ワクチンは更に、伝染性気管支炎ウイルス(IBV)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、産卵低下症候群(EDS)ウイルスおよびシチメンチョウ鼻気管炎ウイルス(TRTV)のワクチン株の1以上を含む。
【実施例】
【0071】
実施例1
IBDV突然変異体の構築およびCEF細胞培養内でのそれらの複製特性
材料および方法
IBDVの古典的、変異体EまたはGLS株のVP2の可変領域を含む(属間)IBDVプラスミドの構築
(i)古典的IBDV株のVP2
D78
以下の部位特異的突然変異誘発のための必要条件は、プラスミドpUC18の修飾であった。この目的のために、pUC18をNdeIおよびBamHIで切断し、電気溶出し、クレノウ酵素により平滑末端化し、再連結して、pUC18 ΔNde I−BamH I(pUC18/ΔNB)を得た。プラスミドpAD78/EK(Mundtら,J.Virology 71,5647−51,1997)をEcoRIおよびKpnIで切断して、T7−RNAポリメラーゼプロモーター部位を含む血清型I株D78のセグメントAの完全長配列を得た。この断片を、EcoRIおよびKpnIで切断されたpUC18/ΔNB中に連結して、pD78A/ΔNBを得た(図1A)。プラスミドpD78A/ΔNBを、クローニングおよび部位特異的突然変異誘発法のためのバックボーンとして使用した。
【0072】
UK661
プラスミドpD78−E/DEL(後記を参照されたい)を、株UK661のセグメントAの配列を含有するキメラプラスミドの構築のために使用した。ウイルスRNAの沈降後、標準的な方法に従い、オリゴヌクレオチドUK661AFor1およびUK661ARev1(BrownおよびSkinner,Virus Res.40,1−15,1996,それぞれヌクレオチド番号621−644−センスおよび1201−1223−アンチセンス)を使用することにより、逆転写およびPCRを行なった。得られたPCR断片を平滑末端化し、SmaIで切断されたベクターpUC 18(Pharmacia,Sweden)中にクローニングしてp661Apartを得た。配列決定後、p661Apartを制限酵素NdeIおよびSpeIでそれぞれヌクレオチド647および1182で切断して(番号づけは、株P2:NCBI受託番号X 84034の完全長配列に基づいている)、株UK661のVP2の可変領域のコード配列を含む535bpの断片を得た。NdeI−SpeIで切断されたpD78−E/DEL中への連結後、株D78、E/DelおよびUK661のセグメントAの配列を含有するキメラ完全長プラスミドpD78A−E−661を得た(図4)。
【0073】
(ii)変異体E IBDVのVP2
IBDV特異的配列の置換のためには、変異体E株E/Delの完全なコード領域を含有するプラスミドを使用した(pEDEL22BacII,Vakharia,Biotechnology annual review ,151−168,1997)。pEDEL22BacII(図1A)を制限酵素NdeIおよびSalIでそれぞれヌクレオチド647および1725(株P2(NCBI受託番号X 84034)の完全長配列に基づく)で切断して、VP2の可変領域のコード配列および株E/DelのVP4の配列を含む1078bpの断片を得た。NdeI−SalIで切断されたpD78A/ΔNB中への連結後、株D78およびE/DelのセグメントAの配列を含有するキメラ完全長プラスミドpD78A/ΔNB−E/Del(図1)を得た。プラスミドpAD78/ΔNBおよびpD78A/ΔNB−E/Delを部位特異的突然変異誘発に使用した。
【0074】
(iii)GLS IBDVのVP2
さらに、それぞれGLS−BおよびGLS−TCの可変領域を含有する1対のプラスミドを構築した。超可変領域のクローニングのために、GLS−TCをCEF内で増殖させ、超遠心により精製した。GLS−Bの嚢ホモジネートを低速遠心により精製し、該上清を以下の操作に使用した。プロテイナーゼK(0.5mg/ml)/ドデシル硫酸ナトリウム(SDS,0.5%)での消化の後、ウイルスRNAを精製し、cDNAに逆転写し、標準的な方法に従いオリゴヌクレオチドA14およびA44(表4)を使用してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅した。増幅産物を平滑末端化によりクローニングし、適当なPCR断片を含有するプラスミドを配列決定した。GLS−TC(pGLS−TC)およびGLS−B(pGLS−B)のいずれかの各インサートを含有するプラスミドを以下の実験に使用した。属間セグメントAの構築には、完全長クローンpD78A/ΔNB−E/Delを使用した。pGLS−TCおよびpGLS−BをそれぞれSacIおよびSpeIで消化した。ついで、電気溶出された断片を、予めSacI−SpeIで消化されたpD78A/ΔNB−E/Del中に連結して、それぞれpD78A/ΔNB−E/Del−GLS−TCおよびpD78A/ΔNB−E/Del−GLS−Bを得た。両方のプラスミドのプラスミド地図を図1Bに示す。
【0075】
部位特異的突然変異誘発
PCRにより部位特異的突然変異誘発を行なった。オリゴヌクレオチドは、アミノ酸の置換をもたらす突然変異および追加的な制限酵素切断部位を含有していた(表4)。それぞれpD78A/ΔNB、pD78A/ΔNB−E/DelおよびpD78A−E−661を使用するPCR増幅の後、断片を平滑末端化によりクローニングし、配列決定した(pfrag)。突然変異したコドンを含有するクローンを、以下のとおり予め切断されたプラスミド中に連結した。
【0076】
(i)変異体E IBDV
突然変異したコドンを含有するプラスミドpD78A/ΔNB−E/DelのセグメントAの完全長クローンの樹立のために、以下のPCR断片を得た:プライマーE/Del−MutQHおよびA14(pfragQH)、E/Del−MutATおよびA14(pfrag AT)、E/Del−MutSRおよびP21F(pfragSR)を使用して、E−Del配列の適当な単一アミノ酸置換(それぞれQ253H、A284TおよびS330R)を有する断片を得た。PfragQHおよびpfragSRをScaIおよびSpeIで切断し、予めSacI−SpeIで消化されたpD78A/ΔNB−E/Del中に連結して、それぞれpD78A/ΔNB−E/DelQH(図1)およびpD78A/ΔNB−E/DelSR(図1C)を得た。pD78A/ΔNB−E/DelAT(図1C)を構築するために、pfragATをNarI−SpeIで切断し、ついで、予め切断されたpD78A/ΔNB−E/Del中に連結した。2個の突然変異コドンを含有するプラスミドを得るために、以下のPCRを行なった。プライマーE/Del−MutQHおよびE/Del−MutSR、ならびにE/Del−MutATおよびE/Del−MutSRを、pD78A/ΔNB−E/Del上のそれぞれfragQH−SRおよびfragAT−SRの増幅に使用した。クローニングおよび配列決定の後、pfragQH−SRをScaI−SpeIで消化し、ついで、予め切断されたpD78A/ΔNB−E/Del中に連結して、pD78A/ΔNB−E/DelQH−SR(図1D)を得た。pD78A/ΔNB−E/DelAT−SR(図1D)の構築のために、プラスミドpfragAT−SRをNarIおよびSpeIで消化し、同じように切断されたpD78A/ΔNB−E/Del中に連結した。2個のアミノ酸置換(Q253H; A284T)のための突然変異コドンを含有するプラスミドの構築のために、プラスミドpD78A/ΔNB−E/DelATおよびプライマーE/Del−MutQH; A14を使用してPCRを行なった。得られたプラスミドpfragQH−ATをSacI−SpeIで切断し、pD78A/ΔNB−E/Del中に連結して、pD78A/ΔNB−E/DelQH−AT(図1D)を得た。全3個のアミノ酸置換(Q253H、A284TおよびS330R)のための突然変異コドンを含有するプラスミドのクローニングのために、プライマーE/Del−MutQHおよびE/Del−MutSRを、pD78A/ΔNB−E/Del−AT上でのfrag QH−AT−SRの増幅のために使用した。pfrag QH−AT−SRをSacIおよびSpeIで切断した後、溶出した断片を、SacIおよびSpeIで切断されたpD78A/ΔNB−E/Del中に連結して、pD78A/ΔNB−E/Del−AT−SR(図1E)を得た。
【0077】
(ii)古典的IBDV
D78
突然変異コドンを含有するプラスミドpD78A/ΔNBのセグメントAの完全長クローンの樹立のために、pD78A/ΔNBのNdeI−HindIII断片を、予めNdeI−HindIIIで切断されたpUC19中にサブクローニングして、以下の操作のための単一の制限酵素部位(pUC19/NH−D78A)を得た。オリゴヌクレオチドD78−MutHQおよびA14(pfragHQ)、D78−MutTAおよびA14(pfragTA)、D78−MutRSおよびP21F(pfragRS)をPCR増幅に使用して、D78配列の適当な単一のアミノ酸置換(それぞれH253Q、T284AおよびR330S)を有する断片を得た。断片pfragHQをSacIおよびStyIで切断し、pfragTAをNarIおよびStyIで切断し、pfragRSをSacIおよびStyIで切断し、適当に切断されたpUC19/NH−D78A中に再連結した。該突然変異コドンを含有するプラスミドpUC19/NH−D78AをNdeIおよびSacIIで切断し、適当な断片を電気溶出し、予めNdeIおよびSacIIで切断されたpD78/ΔNB中に連結して、それぞれpD78A/ΔNB−HQ、pD78A/ΔNB−TAおよびpD78A/ΔNB−RSを得た。全3個のアミノ酸(H253Q、A284T、R330S)の置換につながるヌクレオチド置換を含有する完全長クローンの構築のために、オリゴヌクレオチドD78−MutHQ、D78−MutRSおよびプラスミドpD78/ΔNB−TAを使用するPCRを行なった。得られたPCR断片を平滑末端化によりクローニングして、pfragHQ−TA−RSを得た。pfragHQ−TA−RSをSacIおよびStyIで切断した後、電気溶出した断片を、SacIおよびStyIで切断されたpUC19/NH−D78A中にクローニングした。得られたプラスミドをNdeIおよびSacIIで切断し、適当な断片を電気溶出し、最後に、予めNdeIおよびSacIIで切断されたpD78A/ΔNB中に連結して、pD78A/ΔNB−HQ−TA−RSを得た。得られた突然変異プラスミドのヌクレオチド配列を配列決定により確認した。配列は、Wisconsin Package,バージョン8(Genetics Computer,Madison,Wis.)で分析した。プラスミドpD78A/ΔNB−HQ、pD78A/ΔNB−TA、pD78A/ΔNB−RSおよびpD78A/ΔNB−HQ−TA−RSを図2に示す。
【0078】
UK661
部位特異的突然変異誘発のために、プラスミドpD78A−E−UK661をEcoRI/KpnIで切断し、ついでセグメントAを含有する断片の完全長配列を、EcoRI/KpnIで切断されたプラスミドベクターpBS(Stratagene)中に連結した。得られたプラスミドpBSD78A−E−661を、既に記載されている方法(Kunkelら,Methods Enzymol.154,367−382,1987)に従い部位特異的突然変異誘発実験で使用した。Limら(1999 前掲)の結果に基づき、アンチセンス配向オリゴヌクレオチドMut 1(BrownおよびSkinner前掲;ヌクレオチド番号947−1001,946−966はAAC、および979−981はACGであり、アミノ酸置換D279NおよびA284Tを引き起こす)を使用してプラスミドpBSD78A−E−661のアミノ酸279および284のヌクレオチド配列を置換(D279N,A284T)した。得られたプラスミドpBSD78A−E−661−DN−ATの適当な部分を配列決定した。pBSD78A−E−661−DN−ATをNdeI/SpeIで切断した後、535bpの断片を、適当に切断されたpD78A− E−661中に連結して、pD78A− E−661−DN−ATを得た。
【0079】
さらに、アンチセンス配向オリゴヌクレオチドMut 2(BrownおよびSkinner,前掲;ヌクレオチド番号874−900、886−888は、アミノ酸置換O253Hを与えるCATである)を使用して、アミノ酸Q253のヌクレオチド配列を、H253をコードするヌクレオチド配列に置換した。得られたプラスミドpD78A− E−661−QHは、アミノ酸置換Q253Hを含有していた。アンチセンス配向オリゴヌクレオチドMut 3(Brownら,前掲;ヌクレオチド番号966−993、979−981は、アミノ酸置換A284Tを与えるACCである)を使用することにより、アミノ酸284の置換(A284T)を行なって、プラスミドpD78A−E−661−ATを得た。第4のプラスミドであるpD78A−E−661−QH−ATは、1つの部位特異的突然変異誘発反応において両方のオリゴヌクレオチド(Mut2,Mut3)を使用することによる両アミノ酸(Q253HおよびA284T)の置換を含有していた。プラスミドp661Apart、pD78A−E−661、pD78A−E−661−DN−AT、pD78A−E−661−QH、pD78A−E−661−ATおよびpD78A−E−661−QH−ATを図4に示す。
【0080】
【表5】

部位特異的突然変異誘発およびクローニングに使用するオリゴヌクレオチドプライマーの組成および位置。用いる制限部位には下線が付されており、適当な制限酵素が表示されている。突然変異誘発で変更されたヌクレオチドは小文字で示されており、コードヌクレオチドトリプレットは太字で示されている。該位置は、プライマー結合(ヌクレオチド番号)であり、アミノ酸の番号づけは、P2株の公開されている配列(MundtおよびMuller,1995,前掲;NCBI受託番号 X84034)に基づいている。
【0081】
セグメントBの完全長cDNAクローンの構築
株D78
血清型I株D78のセグメントBの完全長cDNAのクローニングのために、ウイルスをCEF内で増殖させ、超遠心により精製した。株D78のゲノムウイルスRNAを精製し、cDNAに逆転写し、標準的な方法に従い、記載されているオリゴヌクレオチド(MundtおよびVakharia,1996)を使用してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅した。増幅産物を平滑末端化によりクローニングし、適当なPCR断片を含有するプラスミドを配列決定した。T7−RNAポリメラーゼプロモーターの制御下でセグメントBの完全長cDNAを含有するプラスミド(pUC18BD78)を得るためのクローニング法は、株P2のセグメントBに関してMundtおよびVakharia(1996 前掲)により記載されている方法に対応するものであった(図3)。
【0082】
株UK661
BrownおよびSkinner(1996,前掲)に記載の配列情報から導き出した以下の3対のオリゴヌクレオチドを使用した。i)UK661BFor1(オリゴヌクレオチド配列B5’−P2(MundtおよびVakharia,1996 前掲)に基づく配列)、アンチセンス配向のUK661BRev1(ヌクレオチド番号708−736)。オリゴヌクレオチドUK661BRev1の5’末端は、株UK−661のセグメントBの配列に加え、9ヌクレオチド配列5’−CTCTAGAGGを含有する制限酵素切断部位XbaIを含有する。ii)UK661BFor2(ヌクレオチド番号751−677)、アンチセンス配向のUK661Rev2(ヌクレオチド番号2089−2113)。オリゴヌクレオチドUK661BRev2の5’末端は、株UK−661のセグメントBの配列に加え、9ヌクレオチド配列5’−CTCTAGAGGを含有する制限酵素切断部位XbaIを含有する。iii)UK661BFor3(ヌクレオチド番号2011−2035)、アンチセンス配向のUK661Rev3(MundtおよびMuller,1995,前掲,ヌクレオチド番号2804−2827)。オリゴヌクレオチドUK661BRev3の5’末端は、株UK−661のセグメントBの配列に加え、9ヌクレオチド配列5’−TCTAGAGCCCを含有する制限酵素切断部位XbaIを含有する。この場合、トリプレットCCCは、セグメントBのウイルスゲノム配列の最後の3ヌクレオチド(ヌクレオチド番号2825−2827)と共にSmaI切断部位を生成した。RT−PCR中にこれらの3対のオリゴヌクレオチドUK661BFor1;UK661BRev1、UK661BFor2;UK661BRev2およびUK661BFor3;UK661BRev3を使用することにより、3個のcDNA断片を増幅し、SmaIで切断されたベクターpUC18中に平滑末端化によりクローニングして、それぞれpUK661B1、pUK661B2およびpUK661B3を得た。それらの3個の挿入断片の配列決定後、pUK661B2をAgeIおよびXbaIで切断して、1441bpの断片を得、ついでそれを、AgeI/XbaIで切断されたpUK661B1中に連結して、pUK661B12を得た。セグメントBの完全長cDNAクローンの構築のために、pUK661B3をBstBI/XbaIで切断し、得られた694bpの断片を、BstBI/XbaIで切断されたpUK661B12中に連結した。得られたプラスミドpB661は、T7プロモーターの制御下で株UK661のセグメントBの完全長cDNA配列を含有していた。pB661を図5に示す(番号づけは、MundtおよびMuller,1995,前掲に記載のP2株の配列に基づく)。
【0083】
組織培養内のcRNAからのウイルスの回収
RNAのインビトロ転写のために、プラスミドpAD78/ΔNB、pAD78/ΔNB−HQ、pAD78/ΔNB−TA、pAD78/ΔNB−RS、pAD78/ΔNB−HQ−TA−RS、pD78/ΔNB−E/Del、pD78A/ΔNB−E/Del−QH、pD78A/ΔNB−E/Del−AT、pD78A/ΔNB−E/Del−SR、pD78A/ΔNB−E/Del−QH−AT、pAD78A/ΔNB−E/Del−AT−SR、pD78A/ΔNB−E/Del−QH−SR、pAD78A/ΔNB−E/Del−QH−AT−SRおよびpD78Bを、BsrGIまたはPstIで切断することにより線状化した。線状化DNAの更なる処理および転写は、i)該転写混合物をフェノール/クロロホルム精製に付さなかったこと及びii)QM−7細胞をトランスフェクション実験に使用したことの2点を除き、MundtおよびVakharia (1996)に記載のとおりに行なった。トランスフェクションの2日後、細胞を凍結/融解し、700 x gで遠心分離して細胞残渣を除去し、得られた上清を0.45μmフィルターで更に清澄化し、−70℃で保存した。免疫蛍光研究のために、QM−7細胞を無菌カバーグラス上で増殖させた。RNAのインビトロ転写のために、UK661のセグメントAを含有するプラスミド(図5)を、BsrGIで切断することにより線状化した。株D78のセグメントBはPstIで線状化し、一方、株UK661のセグメントBはSmaIで線状化した。線状化DNAの更なる処理および転写を前記のとおりに行なった。
【0084】
IBDV抗原の検出
IBDV抗原を、ウサギ抗IBDV抗血清を使用する間接免疫蛍光アッセイ(IFA)およびウエスタンブロット法により検出した。IFAの場合には、カバーグラス上で増殖させたCEFを、継代のために使用したそれぞれトランスフェクト化QM−7、CEFおよびCAMの上清と共にインキュベートした。16時間のインキュベーション時間の後、CEFをアセトンで固定し、IFAのために加工した。トランスフェクション後のIBDVの複製を調べるために、カバーガラス上で増殖させたQM−7細胞を24時間または48時間インキュベートし、アセトンで固定し、IFAのために加工した。
【0085】
結果
属間cRNAでのトランスフェクション実験
トランスフェクション実験のために、株D78のセグメントAの完全長cDNAクローン(pD78A/ΔNB)および属間セグメントA pD78A/ΔNB−E/Delを合成cRNAへ転写させ、セグメントB(pD78B)の完全長cRNAと共にQM−7細胞内およびCEF内に同時にコトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、細胞を凍結/融解し、得られた上清をCEF上で2回継代した。CEFを、各継代において感染後5日間までインキュベートした。凍結/融解後、各トランスフェクションの各トランスフェクション上清および各継代を、CEFを使用するIFAにより、IBDV抗原に関して試験した。トランスフェクション実験を3回繰返した。株D78rの生成をもたらすpAD78/ΔNBおよびプラスミドpD78BからのcRNAのトランスフェクション後、ウイルスを得た。これに対して、pD78/ΔNB−E/DelおよびpD78BからのcRNAを使用するトランスフェクション実験の後では、ウイルスに感染した組織培養を全く単離することができなかった。トランスフェクションの後に複製が生じたか否かを分析するために、カバーガラス上で増殖中のQM−7細胞を使用してトランスフェクションを行なった。ここではどちらの場合においても、トランスフェクションの24時間後にIFAでウイルス抗原が検出された。このように、本発明者らは、どちらの場合にもウイルスの複製が生じるが、D78rの場合のみにおいて、組織培養に感染したIBDVを得るのが可能であることを確認した。
【0086】
突然変異cRNAでのトランスフェクション実験
配列の比較の結果に基づいて、多数の異なる突然変異完全長cDNAクローンを部位特異的突然変異誘発により樹立した。
【0087】
(i)変異体E IBDV
可能なすべての7つの組合せにおいて253、284および330位にアミノ酸(aa)の置換を含有するpD78A/ΔNB−E/Delの突然変異プラスミドを作製した(表5)。トランスフェクション実験および継代を、CEFおよびQM−7細胞上で同時に3回行なった。得られた上清を、IFAにより感染性に関して分析した。プラスミドpD78A/ΔNB−E/Del、pD78A/ΔNB−E/Del−QH、pD78A/ΔNB−E/Del−AT、pD78A/ΔNB−E/Del−SR、pD78A/ΔNB−E/Del−AT−SRおよびpD78A/ΔNB−E/Del−QH−SRのcRNAをpD78BのcRNAと共にトランスフェクトした後は、QM−7細胞またはCEF感染ウイルスを単離することができなかった。pD78A/ΔNB−E/Del−QH−ATまたはpD78A/ΔNB−E/Del−QH−AT−SRから得たcRNAのトランスフェクションは、感染性ウイルス(D78A−E/Del−QH−ATおよびD78A−E/Del−QH−AT−SR)の生成を引き起こした。CEFおよびQM−7細胞上でのIFAにより特異性が確認された。これは、IBDVのVP2が、組織培養への感染において決定的に重要な役割を果たしていることを示している。アミノ酸置換(BU)Q−253−H(TC)および(BU)A−284−T(TC)は、使用した組織培養に対して感染性のIBDVを得るために必要かつ十分であった。3個のアミノ酸置換を有するIBDV突然変異体(D78/変異体E CEF適応)を、さらなる検査に使用した(実施例2)。
【0088】
(ii)古典的IBDV
D78
これらの結果を確認するために、部位特異的突然変異誘発のためにpAD78/ΔNBを使用してもう1組のプラスミドを構築して、単一のアミノ酸(pAD78/ΔNB−HQ、pAD78/ΔNB−TA、pAD78/ΔNB−RS)または全3個のアミノ酸(pAD78/ΔNB−HQ−TA−RS)の置換プラスミドを得た。これらの4個のプラスミドをpD78Bと共に、前記のとおりにトランスフェクション実験に使用した。pAD78/ΔNB−RSからのcRNAのトランスフェクションの後、感染性IBDVの生成をIFAにより検出することができた。この場合もまた、アミノ酸330は、組織培養への生成ウイルスの感染能に何ら影響を及ぼさなかった。
【0089】
トランスフェクション後、IFAにより全ての構築物を複製に関して試験した。トランスフェクションの特に24時間および48時間後にIBDV抗原を検出することができた。これは、濃く染色された典型的な細胞質内集合体を示している。
【0090】
UK661
トランスフェクション実験のために、キメラセグメントA pD78A−E−661、pD78A−E−661−DN−AT、pD78A−E−661−QH、pD78A−E−661−ATおよびpD78A−E−661−QH−ATの完全長cDNAクローンを合成cRNAに転写し、株D78のセグメントBまたは株UK661のセグメントBの完全長cRNAと共にQM−7細胞内およびCEC内に同時にコトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、細胞を凍結/融解し、得られた上清をCEC上で1回継代した。CECを、感染後24または48時間インキュベートし、固定し、免疫蛍光法のために加工した。キメラIBDV D78A−E−661−QH−ATを与えるpD78BおよびpB661の両方とプラスミドpD78A−E−661−QH−ATとからのcRNAのトランスフェクションの後、CECに対して感染性のウイルスを得た。これに対して、pBD78またはpB661のいずれかからのcRNAと共にpD78A−E−661、pD78A−E−661−DN−AT、pD78A−E−661−QH、pD78A−E−661−ATからのcRNAを使用するトランスフェクションの後では、組織培養に感染したウイルスは単離することができなかった。D78−E−661−DN−ATの場合には、感染の72時間後、該トランスフェクション上清のインキュベーションに際して単一の感染CEFが検出可能である。
【0091】
(iii)GLS IBDV
属間および突然変異プラスミドを使用するトランスフェクション実験の結果を確認するために、本発明者らは、天然に存在する1対のIBDV株を利用した。嚢由来のGLS株(GLS−B)のVP2の可変領域および組織培養適応変異体GLS−TCを増幅し、クローニングし、分析した。それぞれpGLS−BおよびpGLS−TCから得た2つのGLS株のアミノ酸配列の比較は、284位における1つのアミノ酸の両配列間での置換 [(GLS−B)A→T(GLS−TC)]を示した(図1B)。アミノ酸253(Q)および330(S)は、前記のとおりBU群のアミノ酸と同一であった。感染性ウイルスの生成のためには284位における置換(A→T)で十分であるか否かを分析するために、それらの両方のGLS変異体のVP2の超可変領域を含有する2つのプラスミド(pD78A/ΔNB−E/Del−GLS−TCおよびpD78A/ΔNB−E/Del−GLS−B)を構築した。それぞれpD78A/ΔNB−E/Del−GLS−TCおよびpD78A/ΔNB−E/Del−GLS−BのcRNAを、pD78BのcRNAと共にQM−7細胞内およびCEF内に同時にトランスフェクトした。組織培養内の上清の継代後、IFAによる感染性ウイルスの検出が、また、pD78A/ΔNB−E/Del−GLS−TCのcRNAのトランスフェクション後、CPEの検出が可能であった。何回かの試みにおいて、pD78A/ΔNB−E/Del−GLS−BからのcRNAのトランスフェクションは、組織培養に感染性のIBDVを含有する上清を産生しなかった。pD78A/ΔNB−E/Del−GLS−TCおよびpD78A/ΔNB−E/Del−GLSBの両プラスミドのインビトロ転写/翻訳は、該ポリタンパク質の完全なプロセシングを示した。両プラスミドのcRNAをpD78BからのcRNAと共にトランスフェクションした後、ウイルス抗原がIFAにより検出された。したがって、両方のキメラ体は複製適合性であることが判明した。この場合を総合すると、284位における単一のアミノ酸置換につながるVP2の超可変領域の置換は、感染性属間IBDVの生成に十分なものであった。
【0092】
【表6】

プラスミドは、組織培養適応血清型I株D78のセグメントAの完全長cDNAクローンに基づく。嚢由来血清型I株GLS−BU、Delaware E(E/Del)および組織培養適応血清型I株GLS−TCの配列をD78配列で置換した。
P2株の公開されている配列(MundtおよびMuller,1995,前掲;NCBI受託番号X84034)に基づくアミノ酸(aa)の番号づけ。天然に存在するアミノ酸はイタリックで表示されており、変化したアミノ酸は太字で表示されている。
トランスフェクション実験にはニワトリ胚細胞(CEF)およびQM−7細胞を使用した。トランスフェクションの24時間後、ウサギ抗IBDV血清(Mundtら,1995)を使用する間接免疫蛍光法によりIBDV抗原が検出された。抗原陽性(+)、抗原陰性(−)。
トランスフェクション上清の継代にはCEFを使用した。CEF上への継代後、ウサギ抗IBDV血清(Mundtら,1995,前掲)を使用する間接免疫蛍光法によりIBDV抗原が検出された。抗原陽性(+)、抗原陰性(−)。
【0093】
実施例2
CEF適応変異体E IBDV突然変異体の生物学的特性
材料および方法
IBDVワクチンの製造
キメラD78/変異体E(嚢適応)
9〜12日齢のSPF卵に、滴下(dropped)漿尿膜(CAM)経路によりキメラD78/変異体ED(Q253H、A284TおよびS330Rにおける3つのアミノ酸置換を有さないD78/変異体E/D78)を感染させた。感染の5日後、該CAMおよび胚を集め、ホモジナイズした。該ホモジネートをCAM上で力価測定した。該上清を希釈して、点眼経路による適用のための102.0EID50/動物のワクチン用量を得た。
【0094】
キメラD78/変異体E(CEF適応体)
初代ニワトリ胚繊維芽(CEF)細胞を2×10/mlの最終濃度で調製した。該細胞を、5%ウシ胎仔血清を含有するイーグルの最小必須培地内で培養した。この細胞懸濁液15mlに、1ml中に溶解されたIBDV(Q253H、A284TおよびS330Rにおける3つのアミノ酸置換を有するD78/変異体E/D78)ウイルス0.1mlを加えた。高加湿インキュベーター内で37℃で3〜6日間のインキュベーションの後、該上清を希釈して、点眼または筋肉内注射による適用のためのそれぞれ105.3または103.5TCID50/動物のワクチン用量を得た。
【0095】
商業的に入手可能な古典的IBDVワクチンNobilis株D78
該ワクチンを希釈して、点眼経路による適用のための103.3TCID50/動物のワクチン用量を得た。
【0096】
パネル試験によるIBDVワクチンの同定
両IBDV株を、(Van Loon,A.A.W.M.,D.LuttickenおよびD.B.Snyder.Rapid Quantification of infectious bursal disease (IBD) challenge,field or vaccine virus strains.International symposium on infectious bursal disease and chicken infetious anemia,Rauischhilzhausen,Germany,179−187,1994)に従い、異なるモノクローナル抗体を使用するELISAにより同定した。
【0097】
CEF上での増殖
両IBDV株を使用してCEFに感染させた。IBDVに関する特異的CPE(細胞変性効果)の誘導を、6日間顕微鏡検査した。
【0098】
ワクチン接種
ワクチン接種の14日後、攻撃ウイルス(ビルレントIBDV株変異体E)の投与から得られる攻撃に対する抵抗性の測定により、種々のワクチンの効果を評価する。キメラワクチンD78/変異体E(嚢適応体)(102.0EID50/動物)を、2週齢の時点で点眼経路で適用した。キメラワクチンD78/変異体E(CEF適応体)(105.5または103.5TCID50/動物)を、2週齢の時点でそれぞれ点眼経路または筋肉内注射により適用した。商業的に入手可能な古典的ワクチンNobilis株D78(Intervet International B.V.,the Netherlands)(103.3TCID50/動物)を、2週齢の時点で点眼経路により適用した。ワクチン接種の3、7、10および13日後ならびに攻撃の3日後、5匹/群におけるファブリキウス嚢内のIBDVおよび該嚢内の顕微鏡的病変の存在を調べた。攻撃に対する防御が確認された。
【0099】
結果
パネル試験によるIBDVワクチンの同定
表6に示されるとおり、キメラD78/変異体E(嚢適応体)およびキメラD78/変異体E(CEF適応体)は、異なるMCAに対して同一の反応パターンを有する。このことは、3アミノ酸の変化が、種々のMCAによる測定において、該ウイルス上に存在するエピトープに何ら影響を及ぼさないことを意味する。古典的な市販ワクチンは、異なるMCAに対して異なる反応パターンを有する。
【0100】
【表7】

【0101】
CEF上での増殖
表7に示されるとおり、キメラD78/変異体E(嚢)はCEF上で増殖する能力を有していない。キメラD78/変異体Eおよび古典的な市販ワクチンNobilis株D78は共にCEF上で複製する能力を有し、CPEを誘導しうる。
【0102】
【表8】

【0103】
ワクチン接種の3、7、10および13日後ならびに攻撃の3および10日後の嚢における平均顕微鏡的病変指数
結果を表8に示す。表8に示されるとおり、非CEF適応株キメラD78/変異体E(嚢)はビルレントであり、ワクチン接種の7日後には既に完全なリンパ球喪失を誘発する。これに対して、組織培養適応株D78/変異体E(CEF)はワクチン接種後に病変を誘発しない。該市販ワクチンは軽度ないしは中等度の病変を誘発する。個々のデータは、キメラD78/変異体E(嚢)またはD78でワクチン接種された動物が攻撃に対して防御されたことを示している。眼または筋肉内経路によりD78/変異体Eでワクチン接種された動物も、ビルレントな親株による誘導より弱かったものの攻撃の3日後に防御を示した。
【0104】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)CEF細胞培養内で複製する能力を有さないIBDVのゲノムセグメントAおよびBのcDNAを含むDNA構築物を別々に調製し、
(ii)該セグメントAを含むcDNA上の、
(a)変異体Eまたは古典的IBDV株のVP2遺伝子のアミノ酸残基253および284の1以上のコドン内または
(b)GLS IBDV株のVP2遺伝子のアミノ酸残基284のコドン内に突然変異を導入して、変異体Eまたは古典的IBDV株の場合には、該突然変異VP2遺伝子のアミノ酸残基253および284のコドンがそれぞれヒスチジンおよびトレオニン残基をコードするようにし、あるいはGLS IBDV株の場合には、該突然変異VP2遺伝子のアミノ酸残基284のコドンがトレオニン残基をコードするようにし、
(iii)該セグメントAと該セグメントBとを含むcDNAのRNA転写産物に、培地内の宿主細胞内で該IBDV突然変異体の複製を開始させ、
(iv)該培養から該IBDV突然変異体を単離する工程を含んでなる、CEF細胞培養内で複製する能力を有する感染性IBDV突然変異体の製造方法。
【請求項2】
CEF細胞培養に適応したIBDV突然変異体が、セリン、アルギニンまたはリシン、好ましくはアルギニンアミノ酸残基を該VP2タンパク質の330位に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
古典的または変異体E IBDVのVP2遺伝子のコドン253、284および330のすべてに突然変異を導入する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
コドン253(Gln)、284(Ala)および330(Ser)内に該突然変異を導入する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
該突然変異セグメントAと該セグメントBとを含むcDNAから合成RNA転写産物を調製し、該合成RNA転写産物を宿主細胞にトランスフェクトする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
キメラIBDVを調製する追加的な工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
古典的または変異体E IBDVのVP2遺伝子内にアミノ酸253(His)および284(Thr)、そして所望により330(Arg)のコドンを、あるいはGLS IBDVのVP2遺伝子内にアミノ酸284(Thr)のコドンを含んでなる、CEF細胞培養内で複製する能力を有する遺伝的に操作された感染性IBDV突然変異体。
【請求項8】
キメラIBDV突然変異体である、請求項7に記載の遺伝的に操作された感染性IBDV突然変異体。
【請求項9】
該突然変異体がD78/変異体E(CEF適応体)である、請求項7に記載の遺伝的に操作された感染性IBDV突然変異体。
【請求項10】
前記請求項のいずれか1項に記載のとおりに製造された遺伝的に操作されたIBDV突然変異体と、医薬上許容される担体または希釈剤とを含んでなる、IBDV感染により生じる疾患に対して家禽を防御するのに使用するためのワクチン。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−36255(P2011−36255A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−201298(P2010−201298)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【分割の表示】特願2000−57146(P2000−57146)の分割
【原出願日】平成12年3月2日(2000.3.2)
【出願人】(506196247)インターベツト・インターナシヨナル・ベー・ベー (85)
【Fターム(参考)】