説明

避難用多層建物

【課題】津波や洪水などの災害時に倒壊したり流されたりすることなく、平常時の利用性も高い避難用建物を安価に提供する。
【解決手段】外周に沿って配置された複数の柱2と、隣接する一対の柱2を連結する複数の梁3と、隣接する一対の柱2および上下一対の梁3に囲まれる領域に固定される外壁6とを有する多層階の避難用建物1において、水平方向の所定の外力Fが外壁6に加わったときに外壁6を固定位置から脱離させる脱離手段を設ける。脱離手段としては、外壁6の外面を係止する外側突起7と外壁6の内面を係止する内側突起8とを柱2に設け、外側突起7と内側突起8とのうち津波流の下流側に位置するものについて、所定の外力Fにより破壊されるようにその強度を設定する形態が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波や洪水などによる災害時に避難場所を確保し得る避難用多層建物に関する。
【背景技術】
【0002】
地震大国である日本では古来多くの津波被害が発生している。事実、2011年3月に発生した東日本大震災においても、津波により甚大な被害が発生した。一方、津波発生時の避難施設に関して、これまでにも多くの発明が提案されている。
【0003】
例えば、内部に複数階の床面を備える防水構造の避難設備として、天井に近い階層に出入り口を設け、外階段によって出入り口と地上と接続し、津波に対する抵抗が小さくなるように、津波の来襲する方向の壁面の外形を曲面状に形成し、且つ津波のエネルギを受けるこの曲面部の壁厚を他の部分に比較して厚い構造としたものが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、地面から突出するように地盤に打設した鋼管杭を脚部とし、鋼管に支持させて鉄骨造の避難ステージを地面から一定高さに設置するとともに、避難ステージへ昇降するための昇降階段を設けた専用の津波非難施設(特許文献2)や、コンクリート基礎上に鉄骨造の架構を構築し、1階部分については壁を設けずに駐車場として利用し、2階以高の部分については壁を設けて平常時に利用できる部屋とし、屋上部分を避難ステージとするとともに、津波が来襲する側の建物から離間した位置に、津波流や漂流物に対する防護手段として鉄パイプや樹木などを配置するようにした避難用建物(特許文献3)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−132280号公報
【特許文献2】特開2007−138388号公報
【特許文献3】特開2007−239451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の発明は、専用の非難施設であって平常時の利用には適するものではない。また、防水構造としているために内部への浸水は防止できるが、津波の高さが高い場合には浮力により建物が浮遊してしまう虞があり、これを防止するためには基礎に莫大な費用がかかる。
【0007】
また、特許文献2の発明も専用の避難施設であるため、平常時にはその用途が限定される。また、想定する津波の高さが高いほど、避難ステージが高くなるために平常時に利用し難いものとなり、平常時の利用し易さを優先して避難ステージを想定した高さに設置すれば、想定よりも高い津波が来襲した場合に本来の機能を発揮できなくなる。
【0008】
一方、特許文献3の発明は、平常時に比較的利用し易い構成となっており、階数を多くして建物高さを高くすることで、平常時の利用を一概に不便にすることなく、想定する津波の高さよりも高い位置への避難ステージの設置が可能である。しかし、やはり津波の高さが高く、2階や3階部分が浸水した場合には、壁面が受ける津波のエネルギが大きいために建物が倒壊する或いは流される虞がある。
【0009】
実際、東日本大震災では、これまで津波に強いとされていた鉄筋コンクリート造の建物においても、特に開口部が小さい建物において、津波流や漂流物の衝突エネルギにより倒壊したり、浮力で浮かんで流されたりする被害が多発した。
【0010】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、津波や洪水などの災害時に倒壊したり流されたりすることなく、平常時の利用性も高い避難用建物を安価に提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、津波避難施設として利用可能な多層建物(1)であって、外周に沿って配置された複数の柱(2)と、隣接する一対の柱を連結する複数の梁(3)と、隣接する一対の柱および上下一対の梁に囲まれる領域に固定される外壁(6)と、少なくとも1つの階において、水平方向の所定の外力(F)が前記外壁に加わったときに前記外壁を固定位置から脱離させる脱離手段(7〜14)とを有するように構成する。このような構成を有することにより、本発明は、多層建物を外壁のある平常時の利用性が高いものとしつつ、津波などにより所定の外力が外壁に加わったときには、離脱手段が外壁を所定の固定位置から離脱させて建物に大きな外力が加わらないようにするため、津波や洪水などの災害時に多層建物が倒壊したり流されたりすることを防止でき、津波避難用多層建物としての利用が可能になる。
【0012】
また、本発明の一側面によれば、前記脱離手段が複数の階に設けられ、各脱離手段は、一定の外力が各階の外壁に加わったときに前記外壁を脱離させる構成とすることができる。このような構成とすることにより、水面の上昇により一定の外力が外壁に加わると、離脱手段が下層階から順次外壁を離脱させるため、津波の高さが高い場合であっても多層建物が倒壊したり流されたりすることを防止できる。
【0013】
また、本発明の一側面によれば、前記外壁は、断面内に鉄筋(6a)を二重に配置したダブル配筋の鉄筋コンクリートからなる耐震壁である構成とすることができる。このような構成とすることにより、津波や洪水などの災害時には外壁が離脱して多層建物の倒壊や移動を防止する一方、平常時には外壁が耐震壁として機能し得るため、多層建物の耐震性を高め、或いは柱や梁の断面性能を低くして建設コストを抑制することができる。
【0014】
また、本発明の一側面によれば、前記脱離手段は、前記一対の柱および前記一対の梁の少なくとも一方に設けられ、前記外壁の外面を係止する外側係止手段(7)と、前記一対の柱および前記一対の梁の少なくとも一方に設けられ、前記外壁の内面を係止する内側係止手段(8)とを備え、前記外側係止手段と前記内側係止手段とのうち想定する水流の下流側に位置するものについて、水平方向の所定の外力(F)が前記外壁に加わったときに破壊されるようにその強度を設定する構成とすることができる。離脱手段をこのように構成することにより、柱や梁、壁のプレキャストコンクリート化を容易とし、建設コストの低減および工期の短縮を図ることができる。また、下流側に位置する外側係止手段または内側係止手段の強度設定により、脱離手段を容易に具現化することができる。
【0015】
また、本発明の一側面によれば、前記脱離手段は、前記一対の柱および前記一対の梁の少なくとも一方に設けられ、前記外壁の外面を係止する外側係止手段(7、9、11)と、前記一対の柱および前記一対の梁の少なくとも一方に設けられ、前記外壁の内面を係止する内側係止手段(8、10、12)と、前記外壁に所定の外力が加わったときに前記外壁に破壊を誘引する破壊誘引手段(13、14)とを備え構成とすることができる。離脱手段をこのように構成することにより、柱や梁、壁のプレキャストコンクリート化を容易とし、建設コストの低減および工期の短縮を図ることができる。また、外壁に破壊誘引手段を設けることにより、柱断面の共通化および梁断面の共通化による施工コストの低減或いはプレキャストコンクリート製の柱および梁のコスト低減を図ることができる。
【0016】
また、本発明の一側面によれば、前記破壊誘引手段は、前記外壁における想定する水流の下流側の内部にコンクリートを分断するように設けられたプレート(13、14)である構成とすることができる。破壊誘引手段をこのように構成することにより、外力によって破壊が誘引されて津波被害を防止する機能と耐震壁としての機能とを外壁に与えることを容易な構成で実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
このように本発明によれば、津波や洪水などの災害時に倒壊したり流されたりすることなく、平常時の利用性も高い避難用建物を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る避難用建物の概略平面図
【図2】図1に示す避難用建物の南面の正面図
【図3】図2中のIII−III断面図
【図4】図2中のIV−IV線に沿って示す建物南側要部の断面図
【図5】図2中のIV−IV線に沿って示す建物北側要部の断面図
【図6】図1に示す避難用建物の作用説明図
【図7】第2実施形態に係る避難用建物の正面図
【図8】図7中のVIII−VIII断面図
【図9】図7中のIX−IX断面図
【図10】第3実施形態に係る避難用建物の要部平断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る避難用建物1の2つの実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
≪第1実施形態≫
まず、図1〜図6を参照しながら本発明の第1実施形態を説明する。図1および図2に示すように、避難用建物1は、平常時には集合住宅やオフィス、商業ビルなどとして利用される鉄筋コンクリート(RC)造の多層建物(ここでは6階建て)であり、津波による浸水が予想される地域に建設される。避難用建物1は、平面視で略矩形を呈しており、ここでは対向する南側および北側の2面が図1中に白抜き矢印で示す津波流に対して略直交する向きに建てられている。
【0021】
避難用建物1は、建物外周に沿って配置された複数の柱2と、各階において隣接する一対の柱2を連結する複数の梁3(3a、3b)とを備えている。1階の梁3aは、基礎杭4の頭部に一体接合されたフーチング5の隣接するもの同士を連結する地中梁である。2階以高の階に配置される梁3bは、その両端をそれぞれ柱2に剛接合されており、ラーメン構造の躯体を構成している。
【0022】
水平方向に隣接する一対の柱2および上下方向に隣接する一対の梁3によって囲まれる領域Sには、正面視で矩形を呈する外壁6が固定されており、各階において外壁6が建物の全周にわたって設置されることで建物内部に居住空間を形成する。これにより、各フロアの平常時の用途が駐車場などに限定されることなく、避難用建物1の利用価値が向上している。ここでは、外壁6に窓や出入り口などの開口部を示していないが、当然、外壁6が開口部を有していてもよい。また、図示は省略するが、避難用建物1は、その外側に屋上へと繋がる昇降階段および必要の応じて階毎に設けられた廊下等を有している。
【0023】
なお、図1に想像線で示すように、避難用建物1の1階を、外壁6の一部が建物外周よりも内側に位置する形態とすることも可能である。このようにすることにより、例えば1階の一部をピロティや駐車場として利用することも可能である。また、各階において、避難用建物1が図1の想像線で示すような戸境壁などの内壁を有していてもよい。
【0024】
図3に示すように、1階の梁3aは、現場打ちの鉄筋コンクリートからなり、上面が平坦に形成されている。一方、2階以高の階に設置される梁3bは、プレキャストコンクリート製であり、略矩形の断面を有して下面および上面が水平となるように配置される。外壁6は、断面内に鉄筋6aを二重に配置したダブル配筋の鉄筋コンクリートからなるプレキャストコンクリート製であり、後述する外側突起7および内側突起8とによりその外面および内面を係止されることで所定の位置(領域S)に固定される。
【0025】
図4に示すように、柱2は、2階以高の梁3bと同様にプレキャストコンクリート製とされており、略正方形の断面を呈している。柱2は、所定の被り厚さtを有する位置に配置された帯筋2aおよび主筋2bを有する他、柱2の建物外周方向を向く面(建物外周方向と直交する面)からそれぞれ突出し、外壁6の外面を係止する外側突起7と、外壁6の内面を係止する内側突起8とを有している。
【0026】
想定される津波流の上流側に位置する図4に示す南面の外壁6および柱2では、津波流の下流側に位置する内側突起8は、無筋コンクリートとされ、且つ後述する水平方向の所定の外力Fが外壁6に加わると破壊される強度となるようにその幅寸法が設定されている。一方、津波流の上流側に位置する外側突起7は、同様に無筋コンクリートからなるが、幅寸法が比較的大きく且つ突出寸法が内側突起8よりも小さくされており、水平方向の所定の外力Fが外壁6に加わっても破壊されない程度の強度とされている。また、柱2は一定断面とされており、2階以高の階においても図4と同一の断面形状となっている。
【0027】
一方、想定される津波流の下流側に位置する北面の柱2では、図5に示すように、津波流の下流側に位置する外側突起7の寸法が、所定の外力Fが外壁6に加わったときに破壊される強度となるように設定され、津波流の上流側に位置する内側突起8の寸法が、所定の外力Fが外壁6に加わっても破壊されない強度となるように設定されている。
【0028】
図4および図5に示すように、避難用建物1の西面および東面に位置する柱2(ここでは南面および東面に位置する柱2のうち西端および東端に位置する各2本の柱2のみ)も、西面および東面を構成する外壁6の外面を係止する外側突起7と、外壁6の内面を係止する内側突起8とを有しているが、両突起7、8は、幅寸法が比較的大きく且つ突出寸法が比較的小さくされており、水平方向の所定の外力Fが西面および東面の外壁6に加わっても破壊されない程度の強度とされている。上記昇降階段は、破壊を想定しないこの西面または東面の外壁6に取付けるのが好ましい。
【0029】
上記した内側突起8および外側突起7の幅寸法を決定する水平方向の所定の外力Fは、ここでは次のように設定される。すなわち、図6(A)に示すように、津波が発生し、避難用建物1に1階の高さ(例えば3m)の津波が来襲した時に外壁6が受ける平均津波波圧をPとしたときに、図6(B)に示すように、避難用建物1に2階の高さ(例えば6m)の津波が来襲した時に外壁6が受ける概ね3Pの平均津波波圧に外壁6の面積を乗じた水平波力(津波荷重)が上記水平方向の所定の外力Fとして設定される。
【0030】
ここで、津波による外力Fの算定には、様々な算定式を用いることができる。例えば、「原子力発電所の津波評価技術」(土木学会、2002年発行)に提案されている、下式(1)に示す陸上浸水津波の水平波力Fの算定式や、下式(2)に示す家屋に作用する津波氾濫流による水平波力FDHの算定式により求めることができる。
【数1】

ただし、F:水平波力、B:構造物の幅、C:抗力係数(=0.25)、C:質量計数(=2.19)、C(θ):衝撃力計数(=3.6tanθ(θ:波面の角度))、u:津波進行波の水平速度、η:津波進行波の浸水深、ρ:流体の密度、g:重力加速度である。
【数2】

ただし、C:抗力係数(=1.1〜2.0)、u:陸上での流速、hf:建物前面浸水深、Bh:構造物の浸水部の幅、である。
【0031】
なお、避難用建物1の高さが想定される津波の高さよりも高い場合には、想定津波高さ以高の階については上記構成の柱2および外壁6を採用する必要はなく、外壁6を柱2に一体形成した通常のRC造としてもよい。
【0032】
このような構成の避難用建物1では、大地震が発生するとまず、全ての壁6が耐震部材として機能することから、倒壊または損壊を免れることができる。避難用建物1の住民および近隣住民は、津波の来襲に備えて避難用建物1の予想津波高さよりも高い階や屋上に避難する。その後、津波が来襲し、2階の高さに達すると、1階の外壁6が概ね3Pに応じた外力Fを受けることにより、南面の柱2では内側突起8がせん断破壊され、北面の柱2では外側突起7がせん断破壊され、南面および北面にて外壁6が一対の柱2間の所定位置から脱離する。これにより、避難用建物1の南面および北面において、2階部分では1Pの津波波圧に応じた外力が外壁6および柱2に加わるが、1階部分では、概ね3Pの津波波圧に応じた外力が外壁6に加わらなくなることにより、避難用建物1が倒壊したり流されたりすることが防止される。
【0033】
柱2は2階以高の階においても同一の断面となっている。そのため、図6(C)に示すように、避難用建物1に3階の高さの津波が来襲すると、2階の外壁6が概ね3Pの津波波圧に応じた外力Fを受けることにより、南面の柱2では内側突起8がせん断破壊され、北面の柱2では外側突起7がせん断破壊され、外壁6が一対の柱2間の所定位置から脱離する。より高い津波が来襲すると、同様にして順次下層階から外壁6が脱離する。このように、津波の高さに応じて下層階から順に外壁6を犠牲的に脱離させることにより、如何なる高さの津波が来襲しても避難用建物1の倒壊および滑動が防止され、避難建物1に非難した避難者は津波の高さに応じて上階へ避難することで安全を確保することができる。
【0034】
なお、津波の来襲を受けた避難用建物1は、津波による倒壊および滑動を防止すべく犠牲的に下層階の外壁6を脱離させたために耐震力が低下している。また、本震の後には余震が発生する恐れがある。余震は一般的には本震より規模が小さくなると考えられるため、外壁6の離脱による耐震力の低下は、合理性な設計で対応が可能である。しかし、余震規模の推定は容易ではないため、避難者は津波が引いた後に、余震と津波の第2波に備え、近くの高台などにさらに避難する必要がある。すなわち、この避難用建物1は一時的な避難場所として機能させることを目的とするものである。
【0035】
また、避難用建物1は、外壁6がダブル配筋の鉄筋コンクリートからなる耐震壁とされたことにより、津波や洪水などの災害時には外壁6が離脱することで倒壊や滑動を防止できる一方、平常時においては外壁6が避難用建物1の耐震性を高め、或いは柱2や梁3の断面性能の抑制を可能にするため、避難用建物1の建設コストを低減している。
【0036】
そして、一対の柱2にそれぞれ設けられた外側突起7および内側突起8のうち想定する津波流の下流側に位置するものについて、その強度を所定の外力Fで破壊されるように設定することで、外壁6を固定位置(領域S)から脱離させる脱離手段を構成したことにより、柱2や梁3、外壁6のプレキャストコンクリート化が容易であり、建設コストの低減および工期の短縮が可能である。
【0037】
≪第2実施形態≫
次に、図7〜図9を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。なお、上記実施形態と同一または類似の部材などには同一の符号を付すものとし、上記実施形態と重複する説明は省略する。後述する第3実施形態についても同様とする。
【0038】
図7〜図9に示すように、避難用建物1は、上記実施形態と同様に建物外周に沿って配置された複数の柱2と、各階において隣接する一対の柱2を連結する複数の梁3(3a、3b)とを備えるラーメン構造の躯体を有している。柱2は、上記実施形態と同様に外側突起7および内側突起8を備えているが、両突起7、8ともに所定の外力Fが外壁6に加わっても破壊されない強度となるようにその幅寸法および突出寸法が設定される。
【0039】
1階の梁3aは、現場打ちの鉄筋コンクリートからなり、略矩形断面を有するとともに、上方に突出してそれぞれ外壁6の外面および内面の下端部分を係止する上外側突起9および上内側突起10を有している。一方、2階以高の階に設置される梁3bは、プレキャストコンクリート製であり、略矩形断面を呈して上外側突起9および上内側突起10を有するとともに、下方に突出してそれぞれ外壁6の外面および内面の上端部分を係止する下外側突起11および下内側突起12を有している。なお、最上階の梁3bは、下外側突起11および下内側突起12のみを有している。梁3に形成されたこれら上下の外側突起9、11および上下の内側突起10、12は、柱2に形成された外側突起7および内側突起8と同様に、所定の外力Fが外壁6に加わっても破壊されない強度となるように幅寸法および突出寸法が設定される。
【0040】
外壁6は、断面内に縦筋6bおよび横筋6cからなる鉄筋6aを二重に配置したダブル配筋の鉄筋コンクリートからなるプレキャストコンクリート製である。外壁6における想定する津波流の下流側の内部には、それぞれ外壁6の厚さの2分の1程度の幅を有し、略鉛直に延在するスチール製の鉛直プレート13および略水平に延在するスチール製の水平プレート14が、それぞれ外壁6の幅方向の中央および高さ方向の中央にてコンクリートを左右および上下に分断するように設けられている。
【0041】
鉛直プレート13および水平プレート14は、外壁6における津波流の下流側の面にその端縁を位置させており、鉛直プレート13は津波流の下流側の鉄筋6aの横筋6cを分断し、水平プレート14は津波流の下流側の鉄筋6aの縦筋6bを分断している。より詳細には、左右に分断された2本の横筋6cの近位端同士が鉛直プレート13に溶接され、上下に分断された2本の縦筋6bの近位端同士が水平プレート14に溶接されている。
【0042】
鉛直プレート13および水平プレート14の表面は、コンクリートの付着力が小さくなるように平滑とされている。そのため、津波流の上流側から外壁6に所定の外力Fが加わると、曲げによる引張力によってコンクリートとプレート13、14とが容易に剥離して、鉄筋6a(6b、6c)のみに引張応力が発生する。つまり、外壁6は、地震時に加わる面方向の荷重や津波流の下流側から上流側(図8、図9の外壁6の場合、建物内側から外側)への荷重に対しては比較的強いが、津波流の上流側から下流側(図8、図9の外壁6の合、建物外側から内側)への荷重に対しては比較的弱く、津波来襲時に水平方向の所定の外力Fが加わったときに一方向へ屈曲し易い構造となっている。すなわち、鉛直プレート13および水平プレート14が、外壁6に所定の外力Fが加わったときに外壁6に破壊を誘引する破壊誘引手段として機能するとともに、柱2や梁3の外側突起7、9、11や内側突起8、10、12と協働して、水平方向の所定の外力が加わったときに外壁6を固定位置から脱離させる脱離手段として機能する。
【0043】
柱2、梁3および外壁6がこのように構成されることにより、津波来襲時に水平方向の所定の外力Fが外壁6に加わったときに、外壁6が鉛直プレート13および水平プレート14の設置部位にて破壊され、柱2や梁3の外側突起7、9、11または内側突起8、10、12に係止された所定位置から脱離する。これにより、避難用建物1が倒壊したり流されたりすることが防止される。なお、所定の外力Fは、第1実施形態と同様に設定されるが、鉄筋6aの全てを鉛直プレート13または水平プレート14に溶接すると外壁6の強度が大きくなり過ぎる場合には、溶接する鉄筋6aの本数を少なくするなどして外壁6の強度を調整すればよい。
【0044】
避難用建物1をこのように構成しても、図6を参照して説明した第1実施形態と同様に、津波の高さに応じて下層階から順に外壁6を犠牲的に脱離させることにで、如何なる高さの津波が来襲しても避難用建物1の倒壊および滑動が防止され、津波の高さに応じて上階へ避難した避難者の安全を確保することができる。
【0045】
≪第3実施形態≫
最後に、図10を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態の避難用建物1は、第2実施形態と同様の構成を有しており、図9に対応する要部平断面図を示す図10から明らかなように、柱2がその外周に沿って配置された鉄板15を有する点で第2実施形態と相違する。外壁6は、津波来襲時に水平方向の所定の外力Fが加わったときに一方向へ屈曲し易いように第2実施形態と同一の構造となっている。
【0046】
柱2は、第2実施形態と同様に、所定の外力Fが外壁6に加わっても破壊されない強度の外側突起7および内側突起8を備えており、鉄板15が両突起7、8の輪郭を形成する断面形状とされている。なお、ここでは加工を容易にするために鉄板15の形状を角が少なくなるようにしているが、外壁6を挟む両突起7、8は、帯筋2aおよび主筋2bから所定の被り厚さtを確保してなる破線で示す柱本体2cから突出する付加的部分であり、機能的には第2実施形態の突起7、8と同じである。なお、このような形態の柱2は、例えば、図10に示す断面形状に加工した鉄板15内に帯筋2aおよび主筋2bを組み立てた鉄筋籠を挿入し、鉄板15内にコンクリートを打設することにより形成することができる。
【0047】
柱2をこのような構成とすることにより、鉄筋コンクリートからなる柱本体2cが露出している第2実施形態に比べ、柱2の耐震強度を高めるとともに、津波波圧あるいは漂流物の衝突を受けて柱2が損壊した場合であっても、柱本体2cのコンクリートの流出により柱2が座屈しやすくなって避難用建物1が倒壊することを防止することができる。
【0048】
以上で具体的実施形態についての説明を終えるが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、各部材の具体的形状や、配置、数量などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、避難用建物1が平面視で略矩形を呈しており、対向する2面が津波流に対して直交する配置とされているため、この2面の外壁6のみについて、津波流により水平方向に所定の外力Fが加わったときに所定の固定位置から脱離させる脱離手段(7〜14)を設けているが、避難用建物1が対向する2面を津波流に対して斜めに交差させる向きに建てられている場合や、避難用建物1が平面視で矩形以外の形状を呈する場合、さらに、津波流の方向の特定が困難な場合など、対向する2面以外の面や全ての面の外壁6について脱離手段を設けるようにしてもよい。
【0049】
さらに、脱離手段が外壁6を脱離させる所定の外力Fは、上記実施形態に限定されるものではなく、さらに、所定の外力Fを外壁6の位置に応じて変更させるような形態としてもよい。また、外壁6が脱離する方向を限定せずに、建物外側および内側のどちらから津波流が押し寄せても、所定の外力Fが加われば脱離手段が外壁6を脱離させるような形態としてもよい。すなわち、例えば第1実施形態においては、津波流の上流側に位置する外側突起7および内側突起8について、水平方向の所定の外力Fが外壁6に加わっても破壊されない程度の強度に設定しているが、津波流の下流側に位置する外側突起7および内側突起8と同様の強度に設定し、水平方向の所定の外力Fが外壁6に加わったときに破壊されるようにしてもよい。一方、例えば第2実施形態では、水平プレート14および鉛直プレート13について、外壁6の厚さの半分程度の幅寸法に形成して外壁6における津波流の下流側に埋め込んでいるが、外壁6の厚さと同一の幅寸法に形成して厚さ方向の全幅にわたるように外壁6に埋め込むようにしてもよい。
【0050】
また、上記第1実施形態では、柱2のみに外側突起7および内側突起8を形成しているが、梁3のみに上下の外側突起9、11および内側突起10、12を形成してもよい。或いは、第2実施形態のように柱2と梁3との両方に外側突起7、9、11および内側突起8、10、12を形成してもよい。この場合、津波流の下流側に位置する外側突起7、9、11または内側突起8、10、12の全ての合計強度を、外壁6に加わった水平方向の所定の外力Fによって破壊される程度に設定すればよい。
【0051】
加えて、上記第1実施形態では、脱離手段として柱2に一体形成されたコンクリート製の外側突起7および内側突起8を採用しているが、外側突起7および内側突起8を別体にして柱2に取り付けてもよく、アングルなどの鋼製部材を用いて外壁6の外面を係止する外側係止手段および外壁6の内面を係止する内側係止手段を形成してもよい。
【0052】
一方、上記第2および第3実施形態では、外壁6を耐震壁として機能させるために、破壊誘引手段として外壁6に埋め込む形態の水平プレート14および鉛直プレート13を用いて面方向の荷重に対する強度を高めているが、耐震壁としての機能を発揮させ得る範囲で、或いは耐震壁として機能させる必要がない場合には、外壁6の表面にスリットを形成して破壊誘引手段とし、水平方向の所定の外力Fが外壁6に加わったときに、曲げ力によって外壁6がスリット部にて破壊されるようにしてもよい。
【0053】
さらに、上記実施形態では、柱2や2階以高の梁3bをプレキャストコンクリート製としているが、現場打ちの鉄筋コンクリートにより構築することも可能であり、鉄骨鉄筋コンクリートや鉄骨とすることも可能である。同様に、上記実施形態では、外壁6をプレキャストコンクリート製としているが、先に構築された柱2や梁3との間に目地材などを設置して現場打ちコンクリートにより構築することも可能であり、軽量気泡コンクリートなど、他の材料から形成することも可能である。
【0054】
また、上記第3実施形態では、柱本体2cを鉄板15で覆うに当たり、両突起7、8をも覆うようにしているが、鉄板15を柱本体2cのみを覆う矩形断面形状とし、鉄板15の外表面に両突起7、8を形成するようにしてもよい。このように内側突起7と外側突起8との少なくとも津波流の下流側に位置するものを鉄板15の外表面に形成する場合には、第1実施形態の外壁6を用いて両突起7、8のうち津波流の下流側のものを外壁6の脱離手段として機能させてもよい。
【0055】
他方、上記実施形態に示した本発明に係る避難用建物1の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 避難用建物
2 柱
3 梁
6 外壁
6a 鉄筋
6b 縦筋
6c 横筋
7 外側突起(脱離手段)
8 内側突起(脱離手段)
9 上外側突起(脱離手段)
10 上内側突起(脱離手段)
11 下外側突起(脱離手段)
12 下内側突起(脱離手段)
13 鉛直プレート(破壊誘引手段、脱離手段)
14 水平プレート(破壊誘引手段、脱離手段)
F 所定の外力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
津波避難施設として利用可能な多層建物であって、
外周に沿って配置された複数の柱と、
隣接する一対の柱を連結する複数の梁と、
隣接する一対の柱および上下一対の梁に囲まれる領域に固定される外壁と、
少なくとも1つの階において、水平方向の所定の外力が前記外壁に加わったときに前記外壁を固定位置から脱離させる脱離手段とを有することを特徴とする避難用多層建物。
【請求項2】
前記脱離手段が複数の階に設けられ、各脱離手段は、一定の外力が各階の外壁に加わったときに前記外壁を脱離させることを特徴とする、請求項1に記載の避難用多層建物。
【請求項3】
前記外壁は、断面内に鉄筋を二重に配置したダブル配筋の鉄筋コンクリートからなる耐震壁であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の避難用多層建物。
【請求項4】
前記脱離手段は、前記一対の柱および前記一対の梁の少なくとも一方に設けられ、前記外壁の外面を係止する外側係止手段と、前記一対の柱および前記一対の梁の少なくとも一方に設けられ、前記外壁の内面を係止する内側係止手段とを備え、
前記外側係止手段と前記内側係止手段とのうち想定する水流の下流側に位置するものについて、水平方向の所定の外力が前記外壁に加わったときに破壊されるようにその強度を設定したことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の避難用多層建物。
【請求項5】
前記脱離手段は、前記一対の柱および前記一対の梁の少なくとも一方に設けられ、前記外壁の外面を係止する外側係止手段と、前記一対の柱および前記一対の梁の少なくとも一方に設けられ、前記外壁の内面を係止する内側係止手段と、前記外壁に所定の外力が加わったときに前記外壁に破壊を誘引する破壊誘引手段とを備えたことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の避難用多層建物。
【請求項6】
前記破壊誘引手段は、前記外壁における想定する水流の下流側の内部にコンクリートを分断するように設けられたプレートであることを特徴とする、請求項5に記載の避難用多層建物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate