説明

避雷針

【課題】落雷時に特定パスを通して雷電流を地中に流すとともに建屋内部に前記誘導雷による電磁場を発生させない効果を有する。
【解決手段】建屋2の屋上3に避雷針1を、建屋2に対して絶縁して敷設し、前記避雷針1から接地極4までの間は、単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルから成る避雷ケーブル5で接続し、予め建屋2の内部に通した金属管路6内に前記避雷ケーブル5を通して建屋2の上から下に引下げ、前記避雷針1に雷が誘導された際、前記避雷ケーブル5に流れる雷電流と逆向きの誘導電流が前記金属管路6に流れることにより、雷撃電流による前記避雷ケーブル5の外部磁場の発生を抑制させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高層ビル等の建屋屋上の避雷針若しくは独立棟上げ導体、或いは建屋側面用避雷針若しくは建屋側面用導体(以後、これらをまとめて「避雷針」という。)において、建屋内に発生する誘導雷による被害を抑制する効果を持った避雷針に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図9に示すように、建物の落雷に対し建物を守る方法としては、JIS−A−4201に代表されるように、避雷針を立て、当該避雷針に雷を導くことで直接建物に落雷しないようにしている。これは、建物の損傷や火災を防止することを目的としたものである。
【0003】
しかし、近年高層ビルの乱立化による雷撃確率の増加に加え、ビル内で使用される電子機器による電子情報の付加価値が上昇の一途をたどる中、避雷針を設けているにもかかわらずこれらの電子情報や電子回路が雷撃電流による誘導起電圧が起因した機能麻痺や損傷を招く事態が多発するようになった。
【0004】
雷電流はインパルスであり、DC〜10MHz程度までのさまざまな周波数の波の成分を有していると考えられる。図9において、避雷針1に雷電流が流れると、特に絶縁を施しているわけではないので、建屋2の鉄筋に電流が流れる。建屋2の金属配筋(鉄筋)にこれらの電流が流れると、低周波数成分の波は表皮効果の影響で建屋の外壁部を流れ、磁気シールドを形成することで、建屋内部に磁場が形成されず、誘導雷現象を妨げると考えられる。しかし、高周波になると建屋2内部の金属配筋パスを流れることにより、例えば、λ/2波長の直列共振系のパスが形成され、そのパスがその特定の周波数の波の低インピーダンス系になって建屋2内部に分流する場合が考えられる。これにより、建屋2内部に誘導磁場が発生し、建屋2内部に発生した磁場と鎖交した電子機器等に誘導起電力が生じ、当該電子機器等に障害が生じる。
このように従来の避雷システムでは、強電系の対策であって、電子工学系の弱電機器に対しては対策を考えていなかったのが現状である。
【0005】
この対策としてSPDと呼ばれる素子を用いて、電子機器を保護する方式がある。この方式は有効とされているが、局所的な対策であり、基本的には電子機器或いは電気回路毎にSPDを取り付けることとなり、その個数も膨大となる。また、このSPD素子は落雷時の強力な電磁インパルスによる建屋内部の電子機器に過大な電圧が加わることに対しては有効に機能しないことも想定される。
【0006】
上述のように、SPD素子を用いるものは局所的な対策であり、先進的研究では、このような局所的対策だけでなく、建物全体の耐雷性を高めることが求められている。この対策として、独立型避雷設備がある。この方式は、避雷針やそれに付随するケーブル(引下げ導線)の電気的な絶縁を強化し、さらに引下げ導線にシールドを施すことで、落雷時に建物の構造体に雷電流が流れることや落雷時に大地の電位が上昇し、接地から雷電流が侵入することを抑制するものである。
【0007】
【特許文献1】特開平11−40390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この独立型避雷設備を用いても、単に引下げ導線にシールドを施すだけでは、静電誘導対策となるが電磁誘導対策とはならず、前記強力な電磁インパルスによる電子機器への過大な電圧付加を完全に抑制することはできない。また、避雷針やケーブルの電気的な絶縁性能を高く設計する必要があり、効果や設計面で課題が残る。
【0009】
この発明はこのような従来技術を考慮したものであって、落雷時に特定パスを通して雷電流を地中に流すとともに建屋内部に前記誘導雷による電磁場を発生させない効果を持った避雷針を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、この発明は、避雷針は、ステーションポスト碍子などで絶縁し、高層ビルの屋上に敷設し、保護角の設計はJIS-A-4201などの従来方法によるものとする。避雷針から接地極までの間はシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルを用い、これを雷の誘導電流を流せるよう亜鉛引きなど容易に腐食しがたい金属管路内に収納して建屋の内部又は外部に設けて、当該建屋の上部から下部に引下げるものとする。この金属管路は、管路に限らず、ダクト状のもの、網状のもの、銅テープ等を巻きつけたもの等、電磁シールド筒体であればよい。
【0011】
具体的には、請求項1の発明は、建屋屋上の避雷針若しくは独立棟上げ導体、或いは建屋側撃雷用避雷針若しくは建屋側撃雷用棟上げ導体を、建屋に対して絶縁し、建屋の屋上若しくは側面に敷設させ、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体から接地極までの間は、単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルで接続し、予め建屋の内部又は外部に通した電磁シールド筒体内に前記ケーブルを通して建屋上部から下部に引下げ、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体に雷が誘導された際、前記ケーブルに流れる雷電流と逆向きの誘導電流が前記電磁シールド筒体に流れることにより、雷撃電流による前記ケーブルの外部に生じる磁場を相殺させる構成とした避雷針とした。
【0012】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルの内導体に接地極を接続し、前記ケーブルのシールド又は電力用高周波同軸ケーブルの外導体に接地極を接続し、前記シールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルの内導体と接続した接地極の接地抵抗値と、前記シールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルの外導体に接続した接地極の接地抵抗値の和の値が、前記ケーブルの特性インピーダンスに合うように前記接地抵抗を調整した接地極を設けた避雷針とした。
【0013】
また、請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルの内導体に接地極を接続し、前記ケーブルのシールド又は同軸ケーブルの外導体に接地極を接続し、これらの接地極の間をインダクタンスを用いて接続し、当該内導体と接続した接地極の抵抗値を、前記内導体と接続した単独の接地極の場合の抵抗値よりも低くした避雷針とした。
【0014】
また、請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において、前記電磁シールド筒体の出入口の間を、建屋の外周を被ったメッシュ状の電線で電気的に接続し、前記ケーブルに雷撃電流が流れた際、当該雷撃電流と逆向きに流れる誘導電流を建屋外部のメッシュ状の電線に還流させる避雷針とした。
【0015】
また、請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において、前記電磁シールド筒体の出入口の間を、建屋の外周を通した単数又は複数の電線で電気的に接続し、前記ケーブルに雷撃電流が流れた際、当該雷撃電流と逆向きに流れる誘導電流を建屋外部の前記電線に還流させる避雷針とした。
【0016】
また、請求項6の発明は、建屋屋上の避雷針若しくは独立棟上げ導体、或いは建屋側撃雷用避雷針若しくは建屋側撃雷用棟上げ導体を、建屋に対して絶縁し、建屋の屋上若しくは側面に敷設させ、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体から接地極までの間は、単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルで接続し、当該ケーブルを建屋上部から下部に引下げ、避雷針付近の前記ケーブルのシールド又は同軸ケーブルの外導体と、接地極付近の前記ケーブルのシールド又は同軸ケーブルの外導体の間を、建屋の外周を被ったメッシュ状の電線で電気的に接続し、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体に雷が誘導された際、前記ケーブル又は同軸ケーブルの内導体に流れる雷撃電流と逆向きに流れる誘導電流が前記シールド又は同軸ケーブルの外導体に流れ、さらにこの電流を建屋外部のメッシュ状の電線に還流させる避雷針とした。
【0017】
また、請求項7の発明は、建屋屋上の避雷針若しくは独立棟上げ導体、或いは建屋側撃雷用避雷針若しくは建屋側撃雷用棟上げ導体を、建屋に対して絶縁し、建屋の屋上若しくは側面に敷設させ、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体から接地極までの間は、単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルで接続し、当該ケーブルを建屋上部から下部に引下げ、避雷針付近の前記ケーブルのシールド又は同軸ケーブルの外導体と、接地極付近の前記ケーブルのシールド又は同軸ケーブルの外導体の間を、建屋の外周を通る単数又は複数の電線で電気的に接続し、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体に雷が誘導された際、前記ケーブル又は同軸ケーブルの内導体に流れる雷撃電流と逆向きに流れる誘導電流が前記シールド又は同軸ケーブルの外導体に流れ、さらにこの電流を建屋外部の電線に還流させる避雷針とした。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体に雷が誘導された際、前記シールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルに流れる雷電流と逆向きの誘導電流が前記電磁シールド筒体に流れることにより、雷撃電流による前記ケーブルの外部磁場の発生を抑制させ、建屋内部の電子機器等に誘導起電力による障害を発生させないもとし、建屋及び当該建屋内部の電子機器等を雷撃から保護するものである。
【0019】
また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、雷電流の高周波成分については、シールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルの内導体と接続した接地極の接地抵抗値と、前記シールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルの外導体に接続した接地極の接地抵抗値の和の値が、前記ケーブルの特性インピーダンスに合うように前記接地抵抗を調整した接地極としたため、反射波が減衰し、大地にそのエネルギーを吸収させ、反射波による避雷針の電圧上昇を抑えるものである。このように請求項2の発明は、雷電流の高周波成分と低周波成分ついて夫々対策を設けているため、より完全に建屋内に雷の誘動起電圧による磁場を生じさせず、建屋及び当該建屋内部の電子機器等を雷撃から保護するものである。
【0020】
また、請求項3の発明によれば、請求項1又は2の発明の効果に加え、前記単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルの内導体に接地極を接続し、前記ケーブルのシールド又は同軸ケーブルの外導体に接地極を接続し、これらの接地極の間をインダクタンスを用いて接続したことにより、当該内導体と接続した接地極の抵抗値を、前記内導体と単独で接続した接地極の場合の抵抗値よりも低くし、雷電流の低周波成分は接地極4aと接地極4bに分流し、低抵抗になり、より大地に流れ易くなるものである。
【0021】
また、請求項4及び5の発明によれば、建屋の外部に建屋を包むようにメッシュ状の電線又はメッシュ状でない電線から成る短絡線を敷設することにより、前記電線の内側、すなわち建屋内部の誘導磁場がほぼ零になるか或いは小さくなるので、建屋内部の雷誘導起電圧は小さくなり、建屋内の誘導雷による障害の発生を防止することができる。また、請求項6及び7の発明によれば、前記請求項4及び5の発明と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明は、建屋屋上の避雷針若しくは独立棟上げ導体、或いは建屋側撃雷用避雷針若しくは建屋側撃雷用棟上げ導体を、建屋に対して絶縁し、建屋の屋上若しくは側面に敷設させ、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体から接地極までの間は、単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブル(以下これらを避雷ケーブルという)で接続し、予め建屋の内部又は外部に通した電磁シールド筒体内に前記ケーブルを通して建屋上部から下部に引下げ、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体に雷が誘導された際、前記ケーブルに流れる雷電流と逆向きの誘導電流が前記電磁シールド筒体に流れ、これにより雷撃電流による前記ケーブルの外部磁場の発生を抑制させ、建屋内部での誘導起電圧の発生を抑制する構成とした避雷針とした。
【0023】
この様な構成とした理由は、次の通りである。
雷電流はインパルスであり、振幅がほぼ等しいDC〜10MHz帯までの波を集合させた波形と考えられる。そこで、まず、周波数帯に応じた対策を行う。
避雷ケーブルの長さをlとする。そこで、分布定数による扱いをしなければ反射波が大きくなり避雷ケーブルの端末に生ずる起電圧が上昇するなどの悪影響が生じる。そこで今、ケーブル内を速度cで進行し、波長をλ、周波数をf(=1/λ)とする。
【0024】
一般に分布定数を考慮すべき周波数はケーブル長l(以下、lはスモールエルを示す)の10倍が1波長になる周波数以上であるから
λ=c/f=10l (1式)
より f=c/10l (2式)
すなわち、雷インパルスの周波数がc/10l≦f≦10MHz帯までを分布定数で扱わなくてはならない。そこで、前記請求項2の発明に記述したように、この周波数範囲の雷電流に対しては、対地側の前記避雷ケーブル端部(ケーブルヘッド)のシールド又は外導体に接続する接地極の抵抗値rとケーブル又は内導体と接続する接地極の抵抗値Rとの和(r+R)を当該避雷ケーブルの特性インピーダンスZと合わせて(整合をとる)吸収させ、反射波を防止する。この整合が行われないと前記避雷ケーブル端で発生した反射波が前記シールド又は外導体を伝わり避雷針側に伝播する。このとき入射波と反射波の位相がずれて伝播するために変位電流などにより前記避雷ケーブルの外部に誘導起電圧が発生し、電波が放射され、他の電気機器に障害を引き起こす原因となる。また、反射波が避雷針側に反射し、波の干渉によって避雷針の電圧が上昇する。従って、この場合、耐電圧を必要以上にとったケーブル端部(ケーブルヘッド)を用いなければならなくなる。このように前記整合が重要である。
【0025】
f<c/10lの範囲の周波数帯の雷電流に関しては集中定数系で扱う。この場合、避雷ケーブルの中心導体に誘導する電圧Eはケーブルの中心導体のインダクタンスをLとするとファラデーの電磁誘導の法則により、
E=−L(di/dt) (3式)
となり、雷電流の流れる方向と逆方向に誘導起電圧が発生する。すなわち、避雷針から接地極に向けて電流が流れる方向を+と仮定すると、接地極から避雷針に向かう−の起電圧が生じ、避雷針先端に高い電圧が誘起する。
ここで、避雷ケーブルに流れる雷電流は一方向に流れる電流パスで考えられるから、無限遠にリターン電流が流れるモデルで考え、前記3式のインダクタンスLは、
【0026】
【数1】



【0027】
で与えられる。ここで、aはケーブル導体の半径である。μは真空の透磁率である。このままケーブルにこの電圧を誘起させるとケーブルやケーブル端末の耐電圧は高くとらなくてはならなくなる。また、周辺に発生する磁界により生じる誘導電圧が大きくなり、さまざまな障害、いわゆる誘導障害が発生する。そこで、前記請求項1の発明に記載したように、電磁シールド筒体、例えば金属管路内にこの避雷ケーブルを収納して建屋の上部から下部に引下げる。この金属管路に対する相互誘導Mはケーブル長lと金属管路長がほぼ等しいので、
【0028】
【数2】

【0029】
結局、管路に誘起する起電力Eは
E=−M(di/dt) (6式)
である。ここで、bは金属管路の外径である。
a<bであるが、ケーブル長lが十分に長いと、6式は、金属管路にはケーブルのインダクタンスLに発生するのとほぼ等しい相互誘導電圧をこの金属管路に誘導させることができること、つまり、この誘導起電力により金属管路にケーブルに流れる雷電流と逆向きに誘導電流を発生させることが出来ることを示している。
【0030】
また、金属管路の両端にインピーダンスの小さい短絡パスを形成させる。すなわち、請求項4の発明に記載したように、建屋の外部に建屋を包むようにメッシュ状のシールド無し絶縁電線による短絡線を敷設することにより、メッシュの内部すなわち建屋内部の誘導磁場がほぼ零になるか或いは小さくなるので、建屋内部の雷誘導起電圧は小さくなり、建屋内の誘導雷による障害の発生を防止することができる。これは前記請求項4又は5の発明に示すように施工すれば、建屋内の誘導雷による障害の発生をより確実に防止できるが、このようにせず、金属管路を建屋鉄筋に電気的に接触させても、建屋内部の雷誘導起電圧は小さくなり、同様の効果が得られる。建屋配筋の接地は、余計な電流パスを流す要因になると考えられ、建屋内の磁場を緩和する観点から行わない方がよいが、接地を行っても行わなくてもよい。
【0031】
さらに、前記請求項3の発明に記載したように、集中定数で扱える低周波領域の波のエネルギーはシールド付電力ケーブル又は電力用高周波ケーブルの内導体側に接続した接地極とシールド又は同軸ケーブルの外導体に接続した接地極との間をインダクタンスで接続させることで、内導体に接続した接地極単独の抵抗値よりもその抵抗値を低くすることが出来る。従って、この場合、雷電流は前記内導体に接続した接地極により流れやすくなる。
【0032】
また、前記金属管路等の電磁シールド筒体を用いずに、シールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルの外導体の端末において、避雷針側から接地極までを、建屋を包むようにメッシュ状の電線などを用いて短絡しても、前記と同様に雷電流の誘導起電力による誘導電流が前記ケーブルのシールド又は外導体に流れ、これが内導体に流れる雷電流によって生じる外部磁界を相殺する効果が得られる。
【実施例1】
【0033】
以下、この発明の実施例1を図に基づいて説明する。図1はこの発明の避雷針の概略構成図で、引下げケーブルの本数は1本で説明する。
【0034】
避雷針1はステーションポスト碍子などで絶縁し、高層ビル等の建屋2の屋上3に敷設する。保護角の設計は、JIS-A-4201などによるものとする。避雷針1から接地極4までの間は、シールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルから成る避雷ケーブル5で接続する。一方、前記建屋2の屋上3から地上まで、亜鉛引きのような容易に腐食しがたい金属管路6を設け、この金属管路6内に前記避雷ケーブル5を通し、地中に引下げる。そして前記避雷ケーブル5の導体やシールド層と金属管路6とは電気的に非接触とする。この金属管路6は前記建屋2の内部に配管したが、場所は限定するものでなく、ケーブル収納用ダクトやエレベータ用シャフトなどに配管することも可能で、さらに、前記建屋2の外壁に沿って設けてもよい。ただし、この金属管路6は、周囲と電気的に絶縁することが好ましい。
【0035】
また、前記接地極4は、実際には、前記避雷ケーブル5のケーブル又は同軸ケーブルの内導体の端部に接続した接地極4aと、シールド又は同軸ケーブルの外導体の端部に接続した接地極4bとに分けられている。そして、前記接地極4aの抵抗値RΩと前記接地極4bの抵抗値rΩの和の値を、前記避雷ケーブル5の特性インピーダンスZに合うように、夫々の接地抵抗値を調整している。つまり、避雷ケーブル5の特性インピーダンスと地面の特性インピーダンスをマッチングさせる。
【0036】
これにより、雷インパルスの周波数がc/10l≦f≦10MHz帯までの範囲の雷電流については、対地側の避雷ケーブル5の端部に接続した外導体用接地極4bの抵抗値rと内導体用接地極4aの抵抗値Rとの和r+Rで吸収させ、反射を防止させて、前記避雷針1の電圧上昇を抑える効果が得られる。また、f<c/10lの範囲の周波数帯の雷電流に関しては、前記避雷ケーブル5のインダクタンスLに発生するのとほぼ等しい相互誘導起電圧を前記金属管路6に誘導させ、この誘導起電力により金属管路6に誘導電流を発生させる。これにより、内導体に流す雷電流と金属管路6に流させる誘導電流により外部に生ずる磁場を相殺でき、当該金属管路6の外部、つまり建屋2の内部に磁場を発生させない。
【0037】
このように、この実施例1の避雷システムでは、落雷による雷電流を高周波と低周波に分け、高周波成分に対してと低周波成分に対して夫々別の処理を行い、建屋2内に磁場を生じさせないようにしている。
【0038】
また、上記実施例1に加え、図2に示すように、前記避雷ケーブル5のケーブル又は同軸ケーブルの内導体に接続した接地極4aと、前記避雷ケーブル5のシールド又は同軸ケーブルの外導体に接続した接地極4bとをインダクタンスLを介して接続させる。これにより、当該内導体等と接続した接地極4aの抵抗値を、前記内導体等と接続した接地極4a単独の場合の抵抗値よりも低くすることができ、雷電流の低周波成分は接地極4aと接地極4bに分流し、低抵抗になり、より大地に流れ易くなる。また、この場合、高周波成分は、前記LとRとrがローパスフィルタ効果を果たし、接地極4aと接地極4b間に流れ、ケーブル端の反射波を減衰する。
【0039】
図3は、雷電流の高周波成分に対して、L、R、rがローパスフィルタの効果を奏して、内導体の接地極4aと外導体の接地極4b間に流れ、ケーブル端の反射波を減衰させることを示している。
【実施例2】
【0040】
図4はこの発明の実施例2の構成を示し、避雷針1の近傍の金属管路6の入り口から接地極4近傍の金属管路6の出口までを、建屋2の外周を被ったメッシュ状シールド無し絶縁電線7で電気的に接続したもので、他の構成は前記実施例1と同様である。このように配線することで、前記避雷ケーブル5に雷撃電流が流れた際、当該雷撃電流と逆向きに流れる誘導電流を建屋外部に還流させ、建屋2の内部に電流が流れるパスが抑制でき、建屋2の内部の誘導磁場をほぼ零にするか或いは小さくすることができるので、建屋2内の誘導雷による障害の発生を防止することができる。
【0041】
前記メッシュ状シールド無し絶縁電線7は、これに限らず、メッシュ状でない、シールド無し絶縁電線でもよい。図5は建屋2の屋上3の平面図を示し、このように金属管路6から放射状にシールド無し絶縁電線8を設け、これを建屋2の外壁に沿って引き下げ、建屋2の下面を這わせて、金属管路6の出口に接続する。当該シールド無し絶縁電線8と建屋2の外壁との接続には、例えば、金属製の雨どい等に溶接するなどして対応できるが、余計な電流パスを作ると、それが建屋2内の誘導電圧につながる危険性があるので、バイパス電路はできるだけ他の構成物と電気的に絶縁するのが望ましい。また、このシールド無し絶縁電線7又は8はシールドがあっても、絶縁電線でなくても基本的には使用できる。
【0042】
また、雷電流に含まれる周波数帯に前記メッシュ状シールド無し絶縁電線7で作られる短絡パスに分布定数系による遮断インピーダンス、すなわち短絡系の並列共振インピーダンスが存在するようなときにはその周波数だけ先に述べた雷撃電流と逆向きに流れる誘導電流の効果が望めなくなるので、前記メッシュ状シールド無し絶縁電線7で作られる短絡パスにLR並列型などのローパスフィルタなどを挿入してQ値の調整を図ることも考えられる。
【0043】
また、図6は建屋2の配筋が金属と非金属を用いており、屋上、外壁及び基礎部に鉄筋などの金属配筋9を用い、建屋2の内部の配筋にすべて非金属、例えばアラミドなどを用いた場合の概略構成図である。この場合は落雷時に建屋2の内部に分流することがないので、屋上3と基礎部で金属配筋9と避雷ケーブル5を収納する金属管路6を電気的に接続する。また、建屋2内部の配筋を、全て非金属を用いる場合で、屋上3、外壁、基礎部のいずれかを非金属にする場合は、建屋2外部を被うようにその非金属配筋部をバイパスケーブルでバイパスする構造とする。
【0044】
また、図7は避雷ケーブル5を複数本引下げた場合の例を示す概略構成図である。この場合、避雷ケーブル5流れる電流によって金属管路6と短絡線10a又は10bに流れる電流によって磁場が相殺するため、一方の金属管路6の短絡線10aと他方の金属管路6の短絡線10bとは、絶縁させることが好ましい。なぜなら、一方の金属管路6に収納された避雷ケーブル5に雷電流が流れた場合、当該一方の金属管路6に、誘導起電圧が生じ、この金属管路6と接続された短絡線10aにも還流し、この短絡線10aと短絡線10bとが繋がっていると、他方の金属管路6にも誘導起電圧が生じ、他方の金属管路6の付近の建屋2の内部に磁場が生じる恐れがある。なお、この短絡線10a又は10bは前記メッシュ状のシールド無し絶縁電線7又はシールド無し絶縁電線8と同じものである。
【0045】
また、図8は、建屋2の屋上3に設ける避雷針1と建屋側撃雷用避雷針1を建屋2の側壁部に設けた場合の避雷システムの概略構成図である。金属管路6内の避雷ケーブル5にT分岐11を設けて、建屋2の屋上3に設ける避雷針1と建屋2の側壁部に設けた避雷針1とを接続したものである。他の構成は、前記実施例1及び2と同様である。
【0046】
図8において、避雷ケーブル5は、地中埋設部に達するまで、避雷ケーブル5どうしが互いに接触して雷電流の反射波が建屋内に波及しないような構成としたことを模試的に示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明の実施例1の概略構成図である。
【図2】この発明の実施例1に付加する要部構成原理図である。
【図3】この発明の実施例1に付加した構成における、雷電流の高周波成分の反射抑制原理図である。
【図4】この発明の実施例2の概略構成図である。
【図5】この発明の実施例2に使用する、建屋屋上に敷設する放射状絶縁電線の敷設概念図である。
【図6】この発明の実施例2の建屋配筋の内部部分が非金属で構成されている場合の金属管路と、屋上、側壁、基礎部の配筋との接続状態を示す概略構成図である。
【図7】この発明の実施例2において、避雷ケーブルを複数本設けた場合の概略構成図である。
【図8】この発明の実施例2において、建屋屋上の避雷針と側壁の避雷針とを一本の避雷ケーブルで引下げた状態を示す概略構成斜視図である。
【図9】従来の避雷システムの概略構成図である。
【符号の説明】
【0048】
1 避雷針 2 建屋
3 屋上 4 接地極
5 避雷ケーブル 6 金属管路
7 ネット状シールド無し絶縁電線
8 シールド無し絶縁電線
9 金属配筋 10 短絡線
11 T分岐

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋屋上の避雷針若しくは独立棟上げ導体、或いは建屋側撃雷用避雷針若しくは建屋側撃雷用棟上げ導体を、建屋に対して絶縁し、建屋の屋上若しくは側面に敷設させ、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体から接地極までの間は、単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルで接続し、予め建屋の内部又は外部に通した電磁シールド筒体内に前記ケーブルを通して建屋上部から下部に引下げておくことにより、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体に雷が誘導された際、前記ケーブルに流れる雷電流と逆向きの誘導電流が前記電磁シールド筒体に流れて、雷撃電流による前記ケーブルの外部に生じる磁場を相殺させる構成としたことを特徴とする避雷針。
【請求項2】
前記単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルの内導体に接地極を接続し、前記ケーブルのシールド又は電力用高周波同軸ケーブルの外導体に接地極を接続し、前記シールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルの内導体と接続した接地極の接地抵抗値と、前記シールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルの外導体に接続した接地極の接地抵抗値の和の値が、前記ケーブルの特性インピーダンスに合うように前記接地抵抗を調整した接地極を設けたことを特徴とする、請求項1に記載の避雷針。
【請求項3】
前記単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルの内導体に接地極を接続し、前記ケーブルのシールド又は同軸ケーブルの外導体に接地極を接続し、これらの接地極の間をインダクタンスを用いて接続し、当該内導体と接続した接地極の抵抗値を、前記内導体と接続した単独の接地極の場合の抵抗値よりも低くする構成としたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の避雷針。
【請求項4】
前記電磁シールド筒体の出入口の間を、建屋の外周を被ったメッシュ状の電線で電気的に接続しておくことにより、前記ケーブルに雷撃電流が流れた際、当該雷撃電流と逆向きに流れる誘導電流を建屋外部のメッシュ状の電線に還流させる構成としたことを特徴とする、請求項1、2又は3のいずれかに記載の避雷針。
【請求項5】
前記電磁シールド筒体の出入口の間を、建屋の外周を通した単数又は複数の電線で電気的に接続し、前記ケーブルに雷撃電流が流れた際、当該雷撃電流と逆向きに流れる誘導電流を建屋外部の前記電線に還流させる構成としたことを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の避雷針。
【請求項6】
建屋屋上の避雷針若しくは独立棟上げ導体、或いは建屋側撃雷用避雷針若しくは建屋側撃雷用棟上げ導体を、建屋に対して絶縁し、建屋の屋上若しくは側面に敷設させ、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体から接地極までの間は、単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルで接続し、当該ケーブルを建屋上部から下部に引下げ、避雷針付近の前記ケーブルのシールド又は同軸ケーブルの外導体と、接地極付近の前記ケーブルのシールド又は同軸ケーブルの外導体の間を、建屋の外周を被ったメッシュ状の電線で電気的に接続し、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体に雷が誘導された際、前記ケーブル又は同軸ケーブルの内導体に流れる雷撃電流と逆向きに流れる誘導電流が前記シールド又は同軸ケーブルの外導体に流れ、さらにこの電流を建屋外部のメッシュ状の電線に還流させる構成としたことを特徴とする、避雷針。
【請求項7】
建屋屋上の避雷針若しくは独立棟上げ導体、或いは建屋側撃雷用避雷針若しくは建屋側撃雷用棟上げ導体を、建屋に対して絶縁し、建屋の屋上若しくは側面に敷設させ、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体から接地極までの間は、単数又は複数のシールド付電力ケーブル又は電力用高周波同軸ケーブルで接続し、当該ケーブルを建屋上部から下部に引下げ、避雷針付近の前記ケーブルのシールド又は同軸ケーブルの外導体と、接地極付近の前記ケーブルのシールド又は同軸ケーブルの外導体の間を、建屋の外周を通る単数又は複数の電線で電気的に接続し、前記避雷針若しくは独立棟上げ導体に雷が誘導された際、前記ケーブル又は同軸ケーブルの内導体に流れる雷撃電流と逆向きに流れる誘導電流が前記シールド又は同軸ケーブルの外導体に流れ、さらにこの電流を建屋外部の電線に還流させる構成としたことを特徴とする、避雷針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−28920(P2011−28920A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171579(P2009−171579)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)
【出願人】(503018205)
【Fターム(参考)】