説明

還元剤注入方法、還元剤注入装置及びそれを用いた純水の製造装置

【課題】本発明は、純水の製造において供給する還元剤を、その還元剤の製造ラインへの注入前に配管移送する段階で殺菌処理を行い、製造ラインへの還元剤による汚染を防止することができる還元剤注入方法及び装置を提供する。
【解決手段】純水の製造ラインへ注入する還元剤を収容するタンク2と、このタンクから純水の製造ラインへ前記還元剤を移送することができる配管3と、還元剤をタンク2から配管3へ送出して移送させるポンプ4と、配管中を移送する還元剤を50℃以上還元剤を沸騰させない温度に加熱して殺菌処理を行うことができる加熱用の熱交換器5と、を有することを特徴とする還元剤注入装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純水を製造する際に、その製造ラインに還元剤を加熱殺菌して注入する方法及び装置に関し、特に、還元剤の製造ラインへの注入を円滑に行い、かつ、効果的に還元剤の殺菌を行うことができる還元剤注入方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
純水の製造は、原水に含有される塩類、有機物、重金属等の不純物をそれぞれ除去する多くの工程を経て、不純物を可能な限り低減させるように処理されて行われている。このとき、原水中に含まれる残留塩素の還元分解をするためには、純水の製造ラインに還元剤を注入して行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−33800
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような純水の製造において、製造ラインへ還元剤が注入されるが、その還元剤は、タンクに収容されて保持されており、処理のタイミングに応じて製造ラインへ供給される構成をとっている。この還元剤は、純水の製造において、その品質を維持するための処理に用いられるものであるから、バクテリア等の菌類は通常含まれていない。
【0004】
しかしながら、本発明者らは、純水の製造装置に用いられている逆浸透膜装置の寿命が極端に短くなる場合がある事例について検討したところ、逆浸透膜装置等のろ過膜においては菌類が付着し、そこで繁殖してバイオファウリングによる目詰まりを起こし、それが原因となって通水量の低下を引き起こし、さらにはろ過膜自体の寿命を極端に低下させる要因となっていることをつきとめた。
【0005】
さらに、この菌類の混入が生じる原因について調査したところ、製造ラインへ注入する還元剤中に菌類が繁殖していることをつきとめた。上記したように、還元剤はタンクに収容されて保持されているため、その周囲の環境によっては、空気中の菌類が溶解したり、さらにはタンク内の温度が菌類の繁殖に適した温度になったり、かなりの数の菌類が還元剤中に存在することとなる場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、純水の製造において、製造ラインに供給する還元剤を、その還元剤の注入前に配管移送する段階で殺菌処理を行い、還元剤による汚染を防止することができる還元剤注入方法及び装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、移送配管中での所定温度での加熱殺菌により、菌類の殺菌除去を効果的に行うことができるとともに、純水の製造ラインへの注入も円滑に行うことができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の還元剤注入方法は、還元剤を収容するタンクから純水の製造ラインに連通する配管へ、該還元剤を送出する還元剤送出工程と、還元剤送出工程により送出された還元剤を、配管中で50℃以上還元剤が沸騰しない温度に加熱して殺菌処理を行う加熱殺菌工程と、加熱殺菌工程により殺菌処理された還元剤を、純水の製造ラインへ注入する還元剤注入工程と、を有することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の還元剤注入装置は、純水の製造ラインへ注入する還元剤を収容するタンクと、このタンクから純水の製造ラインに連通し、前記還元剤を純水の製造ラインに移送することができる配管と、配管中を移送する還元剤を50℃以上還元剤が沸騰しない温度に加熱して殺菌処理を行うことができる加熱用の熱交換器と、を有することを特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明の純水の製造装置は、本発明の還元剤注入装置を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の還元剤注入方法及び還元剤注入装置によれば、純水の製造ラインに供給する還元剤中に存在する菌類の殺菌除去を効率的に行うことができ、汚染のない還元剤を製造ラインに注入することができる。
【0012】
また、本発明の純水の製造装置は、製造ラインに注入される還元剤が菌類に汚染されていないものであるため、製造ラインに設けられた種々の装置、例えば、逆浸透膜装置等の機能を阻害することなく運転することができ、装置の寿命を延ばして、純水製造のコストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の還元剤注入装置の概略構成を示した図である。
【0014】
図1に示した本発明の還元剤注入装置1は、還元剤を収容するタンク2と、このタンク2から純水の製造ラインへ還元剤を移送することができる配管3と、還元剤が配管中を移送するように駆動力を与えるポンプ4と、配管中を移送する還元剤を加熱して殺菌処理する加熱用の熱交換器5と、から構成されるものである。
【0015】
本発明に用いるタンク2は、収容する還元剤の特性に影響を与えることなく還元剤を安定して収容することができるものであれば、その材質等は特に限定されないが、SUS等の金属、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂等の高分子ポリマー等が挙げられ、収容する還元剤によって適宜選択すればよい。
【0016】
本発明に用いる配管3は、タンク2から純水の製造ラインまで還元剤を移送することができるものであればよく、後述するように外部から加熱して配管内部を移送される還元剤を所定の温度まで昇温させる必要があるため、熱伝導性のよい金属製のものであることが好ましく、例えば、SUS316、SUS316L等が挙げられ、還元剤の種類、濃度によって耐熱性のある高分子ポリマー等を用いることができる。
【0017】
また、このとき、配管内部を移送される還元剤を所定の温度まで確実に昇温させるために、加熱される部分の配管を図2a及びbに示したようにスプリングコイル状の形状とすることが還元剤を加熱する時間を十分に確保して、確実に所定の温度に加熱できる点で好ましく、さらに、この形状とした場合には、加熱用の熱交換器のサイズをコンパクトにすることができ、還元剤注入装置自体のサイズもコンパクトにすることができ好ましいものである。
【0018】
次に、本発明に用いるポンプ4は、タンク2に収容される還元剤を配管中に送出させ、さらには還元剤が配管中を移送する駆動力を与えるものであればよく、特に限定されるものではないが、還元剤が必要な時に必要量を間欠的に供給することができるパルスポンプであることが好ましい。
【0019】
本発明に用いる加熱用の熱交換器5は、配管3により移送される還元剤を配管中で50℃以上で還元剤が沸騰しない温度に昇温させ、還元剤の殺菌処理を行うものであり、これは一般に用いられている熱交換器により達成することができる。なかでも還元剤の急な温度上昇等を引き起こさないような液型の熱交換器であることが好ましく、例えば、加熱用水槽とその加熱用水槽の内部に配置されたヒーターとから構成され、加熱用水槽の水温を一定に保つことができる熱交換器や配管の周囲を取り囲むジャケット内部に熱水を循環させる熱交換器等が挙げられる。
【0020】
ここで、加熱用の熱交換器5の後段であって、製造ラインに注入する前の配管に冷却用の熱交換器を配設してもよい。この冷却用の熱交換器は、加熱用の熱交換器5で加熱された還元剤を室温(20〜25℃)程度にまで降温させるものであり、これにより純水の製造ラインに還元剤を注入したとき急激な温度変化を生じさせないようにすることができる。また、この冷却は、冷却用の熱交換器を用いて行ってもよいが、特別な装置を設けることなく配管を図2a及びbで示したスプリングコイル状の形状にすることで加熱された還元剤が放冷されるように構成して行ってもよい。
【0021】
次に、本発明の還元剤注入方法について、図1の還元剤注入装置を用いて説明する。
【0022】
本発明における還元剤送出工程は、還元剤が収容されたタンク2から、該還元剤を純水の製造ラインへ注入するために、まず配管へ送出するものであり、この送出により還元剤は配管中を移送されることとなる。この還元剤送出のための駆動力は、ポンプにより与えられるものであり、ここで用いるポンプとしては特に限定されないが、還元剤を必要な時に必要量を間欠的に供給することができるパルスポンプであることが好ましい。
【0023】
次に、本発明における加熱殺菌工程は、還元剤送出工程により配管中に送出された還元剤を、配管中を移送している間に加熱して殺菌処理するものであり、このときの加熱温度は50℃以上で還元剤を沸騰させない温度である。この加熱殺菌工程は、還元剤中に含まれるバクテリア等の菌類を死滅させるために行うものであるから、その温度は適宜調整すればよく、例えば、この処理を効果的に行うためには50〜95℃であることが好ましく、60〜90℃であることが特に好ましい。また、このとき殺菌処理を行う時間は加熱温度により適宜決定すればよいが、例えば、5〜30分間の加熱処理を行えばよく、加熱温度が高いほど短時間の処理で済ませることができる。
【0024】
この殺菌処理においては、還元剤が沸騰する温度以上に加熱を行ってしまうと還元剤中の水分が蒸発し、これにより生じた蒸気により、配管中で還元剤を移送することが円滑に行えなくなるおそれがある。特に、パルスポンプを用いた場合には、所定量の還元剤の移送が困難となるおそれが大きいため、特に沸騰させないような条件設定をすることが好ましい。
【0025】
また、本発明における還元剤注入工程は、加熱殺菌処理された還元剤を純水の製造ラインへ注入するものであり、純水の処理のためにその還元剤が奏する効果は本発明の殺菌処理によっては損なわれないため、所望の効果を発揮させるものである。
【0026】
ここで、加熱殺菌工程の後であって、還元剤注入工程の前に還元剤を冷却する冷却工程を行ってもよく、この冷却工程は、加熱殺菌工程で50℃以上還元剤が沸騰しない温度に加熱された還元剤の温度を室温(20〜25℃)程度まで下げるものであり、これにより純水の製造ラインに還元剤を注入したときに急激な温度変化を生じさせないようにすることができる。
【0027】
以上、説明した還元剤注入方法及び還元剤注入装置において、使用する還元剤としては、菌類が混入する可能性があって、純水の製造のために適宜供給する還元剤であれば特に限定されるものではなく、例えば、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、ホルマリン等が挙げられる。
【0028】
還元剤が適することの理由としては、還元剤は残留塩素による性能低下を防止するために、逆浸透膜装置の直前に投入されるのが一般的であり、仮に還元剤中に菌類が存在している場合には逆浸透膜装置が次のような影響を受けることとなるためである。
【0029】
還元剤中に菌類が存在すると、逆浸透膜装置は菌類を捕捉して処理水から除去するが、菌類は逆浸透膜装置で生存しているため繁殖してバイオファウリングによる目詰まりを起こす可能性が高く、これにより逆浸透膜装置の寿命は極端に短くなり、純水の製造にも多大な影響を与えてしまうのである。
【0030】
なお、重亜硫酸ナトリウムのように酸性を示すような場合には菌類の繁殖は抑制されるが、全く問題ないわけではなく、亜硫酸ナトリウムのように中性付近の場合には菌類が繁殖する可能性が高く、本発明が特に有効である。
【0031】
次に、本発明の純水の製造装置は、前処理手段、逆浸透膜装置、イオン交換装置、脱気装置等の純水の製造装置として一般的に用いられているものから構成され、その他に還元剤の注入装置として本発明の還元剤注入装置を用いるものである。さらに、本発明の純水の製造装置は、イオン交換ポリッシャー、紫外線照射装置等の超純水の製造装置として一般的に用いられているものが付加されたものから構成されているものも含まれる。本明細書において純水とは、抵抗率が1MΩ・cm以上のものを全て含むものである。
【0032】
本発明の純水の製造装置としては、例えば、図3に示したように前処理装置21と逆浸透膜装置22の間に、還元剤を注入して還元剤注入装置1が設けられて構成されるものが挙げられ、この純水製造装置のその他の構成は公知の純水製造装置と同様な構成とすることができる。本発明においては還元剤を加熱によって殺菌除去しながら、純水の製造ラインに注入している。
【0033】
このような構成とすることによって、還元剤中で繁殖してしまった菌類を死滅させることができるので、注入部の後段にある逆浸透膜装置等において菌類が繁殖することを抑制し、バイオファウリングによる目詰まりを防止することができる。これによって逆浸透膜の寿命が確保され、膜装置の洗浄、交換等の手間を省き、純水製造におけるコストを低減することができるのである。これは2次処理を行う超純水の製造装置においても同様に適用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0035】
まず、還元剤を収容する容器、この容器に接続した配管、配管に還元剤を送出して移送することができるポンプ、配管の一部を加熱することができる加熱用水槽を用意し、図1と同様の還元剤注入装置を構成した。
【0036】
ここで、還元剤としては、活性塩素分解用の還元剤である6%亜硫酸ナトリウム水溶液(日産化学株式会社製)を用い、また、ポンプは容器内の還元剤を送出することができる定量ポンプ、配管の加熱部分はスプリングコイル状に形成された配管(SUS316L製、管径 9.52mm;[コイル概寸]:直径25cm、2cmピッチ×15巻き)を用い、このスプリングコイル形状の配管を電気ヒーターを有する加熱用水槽に浸漬して、配管中を移送する還元剤を加熱することができるようにした。
【0037】
このように構成した還元剤注入装置に、3%過酸化水素水溶液をポンプ、配管に供給し、一晩静置して殺菌処理を行った。
【0038】
次に、加熱用水槽内の水温を88℃±1℃、定量ポンプの送液流量を50mL/分に設定して純水を供給し、このとき、加熱水槽の出口における液温は80℃となっていることを確認した。純水の送液開始から1時間後に、操作ブランクとしての温水をサンプリングし、次いで、現場で使用していた6%亜硫酸ナトリウム水溶液を供給し、同様に送液開始から1時間後に、加熱処理された亜硫酸ナトリウム水溶液をサンプリングした。
【0039】
サンプリングした純水及び亜硫酸ナトリウム水溶液は、培養法を用いて生菌数を算出し、このときの結果を表1に示した。なお、併せて現場タンクで採取した亜硫酸ナトリウム水溶液、現場タンクへ収容される前の市販品である亜硫酸ナトリウムについても生菌数を算出し、その結果も併せて表1に示した。
【0040】
【表1】

【0041】
これにより、菌類はタンク内で繁殖しており、これを本発明の還元剤注入装置を用いることにより、効果的、かつ、簡便に殺菌処理を行うことができることがわかった。
【0042】
なお、培養法による測定は、サンプリングした液体を、普通寒天培地において35℃、6日間培養することにより行った。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の還元剤注入装置の概略構成図である。
【図2a】スプリングコイル状の配管を示した正面図である。
【図2b】スプリングコイル状の配管を示した側面図である。
【図3】本発明の純水の製造装置を示した図である。
【符号の説明】
【0044】
1…還元剤注入装置、2…タンク、3…配管、4…ポンプ、5…加熱用の熱交換器、11…スプリングコイル状配管、21…前処理装置、22…逆浸透膜装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤を収容するタンクから純水の製造ラインに連通する配管へ、該還元剤を送出する還元剤送出工程と、
前記還元剤送出工程により送出された還元剤を、配管中で50℃以上還元剤が沸騰しない温度に加熱して殺菌処理を行う加熱殺菌工程と、
前記加熱殺菌工程により殺菌処理された還元剤を、純水の製造ラインへ注入する還元剤注入工程と、
を有することを特徴とする還元剤注入方法。
【請求項2】
前記還元剤送出工程が、パルスポンプにより還元剤を間欠的に送出することを特徴とする請求項1記載の還元剤注入方法。
【請求項3】
前記還元剤が亜硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1又は2記載の還元剤注入方法。
【請求項4】
純水の製造ラインへ注入する還元剤を収容するタンクと、
前記タンクから純水の製造ラインに連通し、前記還元剤を純水の製造ラインに移送することができる配管と、
前記配管中を移送する還元剤を50℃以上還元剤が沸騰しない温度に加熱して殺菌処理を行うことができる加熱用の熱交換器と、
を有することを特徴とする還元剤注入装置。
【請求項5】
前記還元剤を収容するタンクから純水の製造ラインへ還元剤を間欠的に注入することができるパルスポンプを有することを特徴とする請求項4記載の還元剤注入装置。
【請求項6】
前記加熱用の熱交換器における配管が、スプリングコイル状に形成されていることを特徴とする請求項4又は5記載の還元剤注入装置。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか1項記載の還元剤注入装置を備えたことを特徴とする純水の製造装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−319845(P2007−319845A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156675(P2006−156675)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】