説明

還元型無電解銀めっき液

【課題】 シアン化合物を含まない還元型の無電解銀めっき液において、液安定性の優れた還元型無電解銀めっき液を提供する。
【解決手段】 還元型無電解銀めっき液は、水溶性銀化合物と、還元剤と、下記一般式(1)で表される化合物を液安定剤として含有してなる。ここで、一般式(1)で表される化合物としては、Cas番号68603−67−8の化合物であることが好ましい。
【化1】


(式中、Rはアルキル基又はアリール基を表し、m及びnはそれぞれ1〜3の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元型無電解銀めっき液に関し、特に、シアン化合物を含まないめっき液において液安定性の優れた還元型無電解銀めっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
銀めっきは、古くは装飾用等に用いられており、近年ではその電気特性や高い反射率を活かして、電気工業分野や光学工業分野、その他電磁波シールドや滅菌コート等の分野においても多く用いられている。そのなかでも、無電解銀めっきは、膜厚のコントロールが可能であり、必要な銀膜厚を容易に生成できるという点において多用されている。
【0003】
無電解銀めっきは、置換型と還元型に大別される。置換型無電解銀めっきは、めっき液としては比較的安定性に優れており、市場でも多く利用されている(例えば特許文献1及び2参照)。しかしながら、置換型無電解銀めっきは、素地金属との置換反応によって銀めっきを析出させるものであるため、下地素地に制限があるという問題がある。
【0004】
一方で、還元型無電解銀めっきは、めっき液中に還元剤を含有させ、水溶性銀化合物を金属銀に還元することによって、下地金属上に銀めっきを析出させるものであり、下地素地を荒らすことなく、また下地素地の種類が制限されることなく、良好な銀めっき皮膜を形成することができる。
【0005】
ところが、これまで還元型無電解銀めっき液として報告されている大部分は、シアンを錯体として用いためっき液となっている。近年、地球温暖化や作業環境の改善等が重視されており、シアン化合物を含まない還元型無電解銀めっき液が求められている。
【0006】
しかしながら、環境的な問題を考慮して、還元型の無電解銀めっき液においてシアン化合物を含まない、いわゆるシアンフリー化を検討した場合、めっき液の安定性に問題が生じる。シアン化合物を錯体として含有させない場合、めっき液中の銀化合物が自己分解してしまい、めっき液を長期間に亘って安定的に保持させることができなくなる。
【0007】
これまで、シアンフリーのめっき液を安定に保つために、例えば特許文献3又は4に記載されているように、硫黄系化合物やヨウ素系化合物等を添加するという技術が提案され、めっき液の安定性が保たれたという報告はなされているものの、未だ十分な安定性を維持できるレベルまでには至っておらず、シアン化合物含有めっき液以上に量産化・実用化させることは困難となっている状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−309875号公報
【特許文献2】特開2006−316315号公報
【特許文献3】特許3937373号公報
【特許文献4】特開2003−268558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、そのような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、シアン化合物を含まない還元型の無電解銀めっき液において、十分な液安定性を有する還元型無電解銀めっき液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のアミン系化合物を添加することによって、シアンフリーの還元型無電解銀めっき液でも、優れた液安定性が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明に係る還元型無電解銀めっき液は、水溶性銀化合物と、還元剤と、下記一般式(1)で表される化合物を液安定剤として含有してなる。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Rはアルキル基又はアリール基を表し、m及びnはそれぞれ1〜3の整数である。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シアン化合物を含有させることなく、液安定性に優れた還元型無電解銀めっき液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液について詳細に説明する。本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液は、少なくとも、水溶性銀化合物と、還元剤と、液安定剤とを含有する。
【0016】
水溶性銀化合物としては、めっき液に可溶性であるものであれば特に限定されないが、例えば硝酸銀、酸化銀、硫酸銀、塩化銀、亜硫酸銀、炭酸銀、酢酸銀、乳酸銀、スルホコハク酸銀、スルホン酸銀、スルファミン酸銀、シュウ酸銀等を用いることができる。これら水溶性銀化合物は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0017】
水溶性銀化合物の含有量としては、銀濃度として0.1〜30g/lとすることが好ましい。濃度として0.1〜30g/lの範囲とすることにより、銀めっきの析出速度を良好にし、また良好な安定性を有するめっき液とすることができる。
【0018】
還元剤としては、めっき液中の水溶性銀化合物を金属銀に還元する能力を有するものであって水溶性の化合物であれば特に限定されないが、例えばヒドラジン誘導体、ホルムアルデヒド化合物、ヒドロキシルアミン類、糖類、ロッセル塩、水素化ホウ素化合物、次亜リン酸塩、DMAB、アスコルビン酸等を用いることができる。これら還元剤は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0019】
還元剤の含有量としては、例えば0.1〜30g/lとすることが好ましい。還元剤の含有量が0.1g/lより少ない場合には、めっき液中の水溶性銀化合物を金属銀に還元することができず十分な銀めっきを析出させることができない。一方で、30g/lよりも多すぎると、めっき液の安定性に悪影響を及ぼすとともに経済的にも好ましくない。
【0020】
また、本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液は、液安定剤として、以下の一般式(1)で表される化合物を含有する。
【0021】
【化2】

【0022】
ここで、上記一般式(1)中において、Rはアルキル基又はアリール基を表し、m及びnはそれぞれ1〜3の整数である。
【0023】
上記一般式(1)で表される化合物として、より好ましくはCas番号68603−67−8の化合物を用いることができ、例えばベンジルジエチレントリアミンクロライドを挙げることができる。
【0024】
この液安定剤の添加量としては、特に限定されないが、例えば0.1〜100mg/lとすることが好ましい。添加量が0.1mg/lより少ない場合には、十分にめっき液の自己分解を抑制させることができず、めっき液の安定性を向上させることができない。一方で、添加量が100mg/lより多い場合には、それ以上液安定性の効果を高めることができず、経済的でない。また、添加量が多すぎるとめっき析出速度を低下させ、所望とする膜厚の銀めっき皮膜を形成させることができなくなる。
【0025】
このように、本実施の形態に係る還元型無電解液銀めっき液は、液安定剤として、上記一般式(1)で表される化合物を添加する。これにより、本実施の形態に係る還元型無電解液銀めっき液では、めっき液中における銀化合物の自己分解を抑制し、長期間に亘ってめっき液の安定性を維持することができる。
【0026】
この液安定剤によるメカニズムは定かではないが、以下の2種類の働きによって、めっき液を安定に保つことができるものと推測される。すなわち、まず、めっき液中の液安定剤である当該化合物が、カソード(素地)表面に移動することによって、カソード−カチオン間の相互作用によってカソード表面に吸着するようになり、反応場を制限するためにめっき反応が制御され、めっき液を安定に維持することができるものと考えられる。また、当該化合物は、ピラミッド型の立体構造であり、めっき液中における活性で不安定な銀イオンを補足して、銀イオンを安定化することができるため、めっき液の自己分解を抑制することができるものと考えられる。なお、当然、以上の働きがあるため、当該化合物の濃度が高くなると反応場が減少し、さらにめっき液中の活性な銀イオンも極端に低下するためにめっき析出速度は低下し、過剰に添加すると反応が停止する。
【0027】
本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液には、さらに含硫黄化合物及び/又は含ヨウ素化合物を添加するようにしてもよい。このように、めっき液中にさらに含硫黄化合物及び/又は含ヨウ素化合物を添加することによって、より一層効果的にめっき液の銀イオンを錯化して、めっき液の安定性をより向上させることができる。
【0028】
含硫黄化合物としては、特に限定されないが、例えばチオ尿素、メチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1−アリル-2チオ尿素、エチレンチオ尿素、1,1−ジフェニル−2−チオ尿素、1,3−ジブチルチオ尿素、1,3−ジエチル−2−チオ尿素、1,3−ジメチルチオ尿素、グアニルチオ尿素、メチルイソチオ尿素硫酸塩、N−ベンゾイルチオ尿素、N−メチルチオ尿素、o−トリルチオ尿素、p−トリルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素等のチオ尿素誘導体や、(2−メルカプトエチル)ピラジン、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、2−メルカプト−5−ベンゾイミダゾールカルボン酸、2−メルカプト−5−メトキシベンズイミダゾール、2−メルカプト−5−メトキシベンゾチアゾール、5−メチル−2−ベンゾイミダゾールチオール、2−メルカプト−5−メチルチオ−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−5−チアゾリドン、2−メルカプト−6−ニトロベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトエタノール、2−メルカプトニコチン酸、2−メルカプトピリジン、2−メルカプトピリミジン、2−メルカプトチアゾリン、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−2−ブタノン、3−メルカプト−2−ペンタノン、3−メルカプト−4−メチル−4H−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプトイソ酪酸、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸イソプロピル、3−メルカプトプロピオン酸3−メトキシブチル、4,6−ジアミノ−2−メルカプトピリミジン、4,6−ジメチル−2−メルカプトピリミジン、4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、4−メルカプト安息香酸、4−メルカプトピリジン、5−アミノ−2−メルカプトベンゾイミダゾール、5−エトキシ−2−メルカプトベンズイミダゾール、5−メルカプト−(1H)−テトラゾリル酢酸ナトリウム、1H−1,2,3−トリアゾール−5−チオールナトリウム、6−アミノ−2−メルカプトベンゾチアゾール、8−メルカプトキノリン塩酸塩、メルカプト酢酸アンモニウム、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2−メルカプトプロピオン酸エチル、3−メルカプトプロピオン酸エチル、3−メルカプトプロピオン酸メチル、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム、3−メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、メルカプト酢酸ナトリウム等のメルカプト類や、2,5,6−トリメチルベンゾチアゾール、2,5−ジメチルベンゾチアゾール、2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾール、2−(2−チエニル)ベンゾチアゾール、2−(4−メトキシフェニル)ベンゾチアゾール、2−(メチルチオ)ベンゾチアゾール、2−(メチルチオ)ナフト[1,2−d]チアゾール、2−(メチルチオ)チアゾール、2−アセトアミドチアゾール、2−アセチルチアゾール、2−アミノ−4,5−ジメチルチアゾール、2−アミノ−5−メチルチアゾール、2−アミノベンゾチアゾール、2−アミノチアゾール、2−エトキシチアゾール、2−エチルチアゾール、2−エチル−4−メチルチアゾール、2−ヒドラジノベンゾチアゾール、2−ヒドロキシベンゾチアゾール、2(3H)−ベンゾチアゾロン、ベンゾチアゾール、チアゾール、(−)−ベンゾテトラミゾール、1,2−ベンゾイソチアゾール−3(2H)−オン、2,2’−メチレンビスベンゾチアゾール、2,4,5−トリメチルチアゾール、2,4−ジメチルチアゾール等のチアゾール類などを挙げることができる。これら含硫黄化合物は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0029】
含硫黄化合物の添加量としては、特に限定されないが、例えば0.01〜500mg/lとすることが好ましい。含硫黄化合物の添加量が0.01mg/lより少なすぎると、銀が十分に錯化されないため、めっき液のさらなる安定性向上効果を得ることができなる。一方で、添加量が500mg/lより多すぎると、めっき液の安定性向上効果は奏し得るものの、めっき析出速度が低下して、所定の析出銀量を得るために長時間が必要となり効率的ではない。
【0030】
また、含ヨウ素化合物としては、特に限定されないが、例えばヨウ化カリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウドチロシン、ヨウドメタン、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、アセチルヨージド、安息香酸2−ヨードエチル、2−ヨード−2−メチルプロパン、2−ヨードブタン、1,2−ビス(2−ヨードエトキシ)エタン、ジヨードメタン、1,3−ジヨードプロパン、1,2−ジヨードエタン、1,4−ジヨードブタン、1,5−ジヨードペンタン、2−ヨードアセトアミド、1−ヨードブタン、ヨードエタン、1−ヨード−3−メチルブタン、1−ヨードオクタデカン、1−ヨードプロパン、2−ヨードプロパン、3−ヨード-1-プロペン、3−ヨードプロピオン酸、1−ヨード−2−メチルプロパン、2−ヨードエタノール、1−ヨードヘキサデカン、2−ヨードアセトアミド、5−ヨードウラシル、3−ヨードピリジン、4−ヨードピリジン、ヨードベンゼン、5−ヨード−2‐メチルベンズイミダゾール、2−ヨードチオアニゾール、p−ヨードフェノール、1−(ヨードメチル)−ピロリドン、3,5−ジヨードアニゾール、1−ヨード−2−イソプロピルベンゼンなどを挙げることができる。これら含ヨウ素化合物は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0031】
含ヨウ素化合物の添加量としては、特に限定されないが、例えば0.01〜500mg/lとすることが好ましい。含ヨウ素化合物の添加量が0.01mg/lより少なすぎると、めっき液のさらなる安定性向上効果を得ることができない。一方で、添加量が500mg/lより多すぎると、めっき析出速度が低下して、所定の析出銀量を得るために長時間が必要となり効率的ではない。
【0032】
また、本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液においては、必要に応じて錯化剤を添加してもよい。錯化剤としては、特に限定されないが、亜硫酸塩、コハク酸イミド、ヒダントイン誘導体、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等を用いることができる。これら錯化剤は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0033】
錯化剤の添加量としては、その種類によっても異なり、特に限定的ではないが、1〜100g/l程度とすることが好ましい。錯化剤の濃度をこのような範囲とすることで、銀めっきの析出速度を良好にし、またより一層に良好な安定性を有するめっき液とすることができる。
【0034】
なお、その他、本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液には、上述の成分以外に、必要に応じて公知の界面活性剤、pH調整剤、緩衝剤、平滑剤、応力緩和剤等の添加剤を混合するようにしてもよい。
【0035】
本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液は、液温として0〜80℃の範囲で用いることができ、特に10〜60℃程度で用いることにより、めっき液の安定性をより一層に良好にすることができる。めっき液の温度が低すぎると、銀の析出速度が遅く所定の銀析出量を得るために長時間が必要となる。一方で、めっき液の温度が高すぎると、自己分解反応による還元剤の損失や、めっき液安定性の低下を引き起こし易くなる。
【0036】
また、還元型無電解銀めっき液のpHは、1〜14の範囲で使用することができる。特に、めっき液のpHを6〜13程度とすることによって、めっき液の安定性をより一層に良好にすることができる。めっき液のpH調整は、通常、pHを下げる場合には、水溶性銀塩のアニオン部分と同種のアニオン部分を有する酸、例えば水溶性銀塩として硫酸銀を用いる場合には硫酸、水溶性銀塩として硝酸銀を用いる場合には硝酸を用いて行い、pHを上げる場合には、アルカリ金属水酸化物、アンモニア等を用いて行う。
【0037】
本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液を用いためっき処理方法としては、例えば上述した液温、及びpH値に調節しためっき液中に、被めっき物を浸漬して処理する。また、噴霧、塗布等することによってめっき液を被めっき物に対して接触させるようにしてもよい。
【0038】
無電解銀めっき皮膜を形成させる被めっき物としては、特に限定されるものではなく、金属材料やその他の各種の導電性材料、非導電性材料を被めっき物とすることができる。金属材料を被めっき物とする場合には、常法に従って脱脂処理等の前処理を行った後、被めっき物を直接めっき液中に浸漬する。
【0039】
また、セラミックス、プラスチックス等の非金属材料にめっき処理を行うには、脱脂処理等の前処理を行った後、被めっき物を活性化処理し、その後めっき液に浸漬する。活性化処理は、常法に従えばよく、例えばパラジウム触媒(キャタリスト−アクセラレーター法、センシタイズ−アクチベーター法等)、銀触媒、銅触媒等を用いて、公知の条件に従って、活性化処理を行う。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0041】
(実施例)
硝酸銀を銀濃度として2.0g/l、還元剤としてのヒドラジン5.0g/l、錯化剤としてのEDTA50g/l、及び液安定剤として下記一般式(1)に示す化合物50mg/lを含有する水溶液に水酸化カリウムを用いてpH8.0とし、還元型無電解銀めっき液を調製した。なお、実施例1〜36では、上記一般式(1)中のR、m、nをそれぞれ下記表2に示すようにした化合物を添加した。
【0042】
【化3】

【0043】
BGA基板(上村工業株式会社製)を被めっき物として用い、上述の還元型無電解銀めっき液によるめっき処理に先立ち、前処理として下記表1に示す各工程を順に行った。すなわち、被めっき物であるBGA基板に対して、ACL−738(上村工業株式会社製)によるクリーナー処理(脱脂)後、100g/Lの過硫酸ナトリウム溶液(SPS)にてソフトエッチング処理を行った。続いて、10%硫酸(HSO)溶液でエッチング残渣を除去し(酸洗)、3%硫酸溶液でプリディップ処理後、MNK−4(上村工業株式会社製)でPd触媒を付与(キャタリスト)した。そして、その後、無電解ニッケル液NPR−4(上村工業株式会社製)を用いて下地となるニッケルめっき皮膜を形成させた。
【0044】
【表1】

【0045】
この前処理を行った後、被めっき物を上述の還元型無電解銀めっき液に浸漬し、60℃で20分無電解めっき処理を行った。
【0046】
めっき処理を行った後、60℃で100時間昇温放置し、めっき液の自己分解の有無でめっき液の安定性を評価した。
【0047】
(比較例)
比較例1では、上記一般式(1)に示す化合物を添加しなかったこと以外は、実施例と同様にして還元型無電解銀めっき液を調整して前処理工程を行った後にめっき処理を施し、60℃で100時間昇温放置した後のめっき液の安定性を評価した。
【0048】
表2に、実施例において添加した液安定剤としての一般式(1)に示す化合物及びその添加量、並びに実施例及び比較例のめっき液の安定性評価結果を示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示されるように、上記一般式(1)に示す化合物を添加した場合(実施例1〜36)には、めっき液の自己分解が起こらず、めっき液は安定した状態を維持していた。また、これら実施例で用いた還元型無電解銀めっき液では、下地ニッケルめっき皮膜上にムラを形成させることなく、良好な銀めっき皮膜を形成させることができた。
【0051】
一方で、一般式(1)に示す化合物を添加しなかった比較例1では、めっき液の自己分解が起こってしまい、めっき液を安定的に保つことはできなかった。また、下地ニッケルめっき皮膜上の全体に銀めっきが析出されず、局所的にムラのある銀めっき皮膜となってしまった。
【0052】
次に、上述の実施例のように、一般式(1)に示す化合物を添加した還元型無電解銀めっき液に、さらに含硫黄化合物及び/又は含ヨウ素化合物を添加し、実施例1〜36と同様に前処理工程を行った後にめっき処理を施し、60℃で100時間昇温放置した後のめっき液の安定性を評価した。
【0053】
また、上述の比較例1の還元型無電解銀めっき液に、さらに含硫黄化合物及び/又は含ヨウ素化合物を添加し、実施例1〜36と同様に前処理工程を行った後にめっき処理を施し、60℃で100時間昇温放置した後のめっき液の安定性を評価した。すなわち、この実験では、一般式(1)に示す化合物を添加せずに、含硫黄化合物及び/又は含ヨウ素化合物のみを添加した場合におけるめっき液の安定性について調べた。
【0054】
表3A及び表3Bに、それぞれの評価結果を示す。なお、表中の「○」は自己分解せずめっき液が安定であったことを示し、「×」は自己分解してしまいめっき液の安定を維持できなかったことを示す。
【0055】
【表3A】

【0056】
【表3B】

【0057】
表3A及び表3Bに示されるように、上記一般式(1)に示す化合物を添加しためっき液では、いずれの含硫黄化合物や含ヨウ素化合物をさらに添加した場合でも、自己分解せずにめっき液は安定した状態を維持した。また、これら実施例で用いた還元型無電解銀めっき液では、下地ニッケルめっき皮膜上にムラを形成させることなく、良好な銀めっき皮膜を形成させることができた。
【0058】
一方で、上記一般式(1)に示す化合物を添加せずに、含硫黄化合物や含ヨウ素化合物のみを添加しためっき液では、めっき液中において自己分解が生じてしまい、長期間に亘ってめっき液を安定的に保つことはできなかった。また、下地ニッケルめっき皮膜上の全体に銀めっきが析出されず、局所的にムラのある銀めっき皮膜となってしまった。
【0059】
次に、上記一般式(1)に示す化合物として、ベンジルエチレントリアミンクロライドを用い(実施例25と同様のめっき液)、当該ベンジルエチレントリアミンクロライドの添加量を変えて、めっき液の安定性を評価するとともに、形成された銀めっき皮膜の膜厚を調べた。
【0060】
実験方法は、上述の実施例25において添加した化合物を、添加量として0.1mg/l、10mg/l、100mg/l、1500mg/lのそれぞれの場合で添加することによって、実施例25と同様にして還元型無電解銀めっき液を調整し、前処理工程を行った後にめっき処理を施し、60℃で1時間及び60℃で100時間昇温放置した後のめっき液の安定性を評価した。また、めっき処理後に形成された銀めっき皮膜の膜厚(Ag膜厚)を測定した。なお、銀めっき膜厚は、蛍光X線膜厚計(SFT9550 エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を用いて測定した。表4に、評価結果を示す。
【0061】
【表4】

【0062】
表4に示されるように、上記一般式(1)に示す化合物であるベンジルエチレントリアミンクロライドをいずれの量で添加した場合においても、めっき液中の銀の自己分解は起こらず、長期間に亘ってめっき液を安定に保つことができた。
【0063】
一方、形成された銀めっき皮膜の膜厚の点においては、添加量を多くするに従って薄くなり、1500mg/l添加した場合には、めっき皮膜は形成されなかった。このことは、一般式(1)に示す化合物の添加量が多すぎる場合には、めっき液中における当該化合物の濃度が高くなることによって、水溶性銀化合物の反応場が減少するとともに、めっき液中の活性な銀イオンが極端に低下してしまうため、めっき析出速度が低下し反応が停止してしまったものと考えられる。
【0064】
以上の結果から明らかなように、還元型無電解銀めっき液に、上記一般式(1)に示す化合物を添加することにより、めっき液中における銀の自己分解を抑制し、長期間に亘って優れた安定性を有するめっき液とすることができることが分かった。また、上記一般式(1)に示す化合物の添加量としては、好ましくは0.1〜100mg/l程度とすることにより、優れた液安定性のもと、良好な銀めっき皮膜を形成できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性銀化合物と、還元剤と、下記一般式(1)で表される化合物を液安定剤として含有してなる還元型無電解銀めっき液。
【化1】

(式中、Rはアルキル基又はアリール基を表し、m及びnはそれぞれ1〜3の整数である。)
【請求項2】
上記化合物は、Cas番号68603−67−8の化合物であることを特徴とする請求項1記載の還元型無電解銀めっき液。
【請求項3】
上記化合物は、ベンジルジエチレントリアミンクロライドであることを特徴とする請求項2記載の還元型無電解銀めっき液。
【請求項4】
上記化合物の添加量は、0.1〜100mg/lであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の還元型無電解銀めっき液。
【請求項5】
さらに、含硫黄化合物及び/又は含ヨウ素化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の還元型無電解銀めっき液。

【公開番号】特開2012−82444(P2012−82444A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226919(P2010−226919)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】