説明

還元気化水銀測定装置

【課題】試料を汚染することなく、試料の色の濃淡変化を短時間で高感度に検出することができる、コンパクトな還元気化水銀測定装置を提供する。
【解決手段】試料前処理装置1で試料Sの前処理を行ったのちに、還元気化法により各試料中の水銀を測定する還元気化水銀測定装置であって、試料前処理装置1は、試料Sが収容された複数の試料容器10のそれぞれに少なくとも過マンガン酸カリウム溶液を含む複数の試薬を注入する試薬分注装置2と、発光素子として緑色LED71を有し、試料容器10に対して移動される反射型光センサ7とを備え、反射型光センサ7が、試料容器10の開口部の直上で、試料容器10内における試薬の過マンガン酸カリウム溶液の色の濃淡変化を非接触で検出するとともに、試料容器10を非接触で検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元気化法により水銀ガスを発生させて、試料中の水銀を測定する還元気化水銀測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料の前処理を行ったのちに、還元気化法により水銀ガスを発生させて、試料中の水銀を測定する自動前処理機構付き還元気化水銀測定装置が知られている。この還元気化水銀測定装置では、多数の試料容器に試料を採取することから、試料容器が所定位置に配置されているか否かの確認や、試料容器における前処理の完了の確認を簡便に行うために、試料が収容された試料容器の側面に反射型光センサを配置して試料容器からの反射光を検出して試料容器中の試料の色の濃淡変化を検出する(特許文献1)。さらに、試料容器内の試料溶液を吸出させた試料容器外の吸出位置にて、透過型光センサを用いて試料の色の濃淡変化を検出する装置や、試料容器内に反射型光センサを挿入して試料と接触させた状態で試料の色の濃淡変化を検出する装置がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−98400号公報
【特許文献2】特開2007−113990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、試料容器の側面に反射型光センサを配置するため、試料容器の間隔を広くする必要があり、試料容器を配置する試料テーブルが大きくなり、装置が大型化し、コストアップになっていた。特許文献2に記載の装置では、複数の試料容器の中から1回ずつ試料溶液を吸い上げ、フッ素樹脂チューブ中に送り、色変化の検出後に元の試料容器内に試料溶液を戻し、フッ素樹脂チューブを洗浄する工程が必要となるので、色変化の検出に長時間を要する問題があった。また、試料中に高濃度の水銀が含まれている場合、フッ素樹脂チューブを洗浄してもフッ素樹脂チューブ内に水銀が残留し、次の試料を汚染するという恐れもあった。さらに、特許文献1および特許文献2に記載の装置では、透明な試料溶液と極淡い色の試料溶液との判別が困難であった。
【0005】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、試料Sを汚染することなく、試料Sの色の濃淡変化を短時間で高感度に検出することができる、コンパクトな還元気化水銀測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の還元気化水銀測定装置は、試料前処理装置で複数の試料の前処理を行ったのちに、還元気化法により水銀ガスを発生させて、各試料中の水銀を測定する還元気化水銀測定装置であって、前記試料前処理装置は、試料が収容された複数の試料容器のそれぞれに少なくとも過マンガン酸カリウム溶液を含む複数の試薬を注入する試薬分注装置と、発光素子として緑色LEDを有し、試料容器に対して移動される反射型光センサとを備え、その反射型光センサが、試料容器の開口部の直上で、試料容器内における前記試薬の過マンガン酸カリウム溶液の色の濃淡変化を非接触で検出するとともに、試料容器を非接触で検出する。
【0007】
本発明の還元気化水銀測定装置によれば、発光素子として緑色LEDを有する反射型センサが、試料容器の開口部の直上で、非接触で試薬である過マンガン酸カリウム溶液の色の濃淡変化を検出するとともに、試薬注入前の試料容器の有無を検出するので、試料を汚染することなく、試料の色の濃淡変化を短時間で高感度に検出することができ、装置全体がコンパクトになる。
【0008】
本発明の還元気化水銀測定装置において、前記試料前処理装置は試薬が注入される位置にある試料容器の下方に設けられた攪拌機を有し、この攪拌機によって試料容器に入れられた攪拌子を回転させて試料を攪拌しながら前記反射型光センサで過マンガン酸カリウム溶液の色の濃淡変化を検出することが好ましい。この構成では、試料の表面に膜が浮くことがなく過マンガン酸カリウム溶液の色の濃淡変化をより高感度に検出することができる。
【0009】
本発明の還元気化水銀測定装置において、前記緑色LEDが点滅されることが好ましい。この構成では、緑色LEDの点灯時の信号から消灯時の信号を差し引くことにより、試料表面からの緑色LEDの反射光以外の迷光成分(例えば、当該反射型光センサの周辺の蛍光灯からの光成分)を除くことができ、試料の色の濃淡変化をより高感度に検出することができる。
【0010】
本発明の還元気化水銀測定装置において、前記緑色LEDが砲弾型LEDであることが好ましい。この構成により、緑色LEDからの放射される光の指向角が狭く、放射される光が少ない分散で試料の表面に到達することができ、試料の色の濃淡変化をより高感度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態の還元気化水銀測定装置の概略図である。
【図2】同装置のターンテーブルの平面図である。
【図3】色の濃淡変化および試料容器の有無検出位置における、同装置が備える反射型光センサの側面断面図である。
【図4】別の試料容器の有無検出位置における、同反射型光センサの側面断面図である。
【図5】同反射型光センサが有する緑色LEDの点滅波形図である。
【図6】同反射型光センサの検出感度図である。
【図7】従来装置が備える光センサの検出感度図である。
【図8】試料の攪拌効果の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る還元気化水銀測定装置を示す構成図である。本装置は、工場排水、土壌溶出水、飲料水、河川水、雨水、湖沼水などの試料について、試料の前処理を行ったのちに、還元気化法により水銀ガスを発生させて、試料中の水銀を測定するものであり、自動的に試料の前処理を行うものである。試料中の水銀は、公定法(JIS K 0102)で規定されるとおり、試料に硫酸、硝酸などの試薬を注入し、所定の処理後、試料は120分間、95℃に保持され、その後、冷却されて還元気化法で水銀ガスを発生させて、原子吸光法で測定される。
【0013】
本装置は、試薬分注装置2を含む試料前処理装置1、水銀検出装置3およびパーソナルコンピュータ(制御部)4を備えている。
【0014】
本装置の試料前処理装置1は、複数の試料Sの前処理を自動的に行うもので、試料容器10、複数の試料容器10のそれぞれに複数の試薬を注入する試薬分注装置2、数本の試料分注用のチューブ15が貫通して保持されている試料容器キャップ11、試料容器キャップ11が先端部に取り付けられ、基端部に回転および上下する鉛直軸が取り付けられて、試料容器キャップ11を旋回および上下させる試料容器キャップ駆動アーム(図示なし)、複数の試料容器10を鉛直方向の軸心121回りに環状配列で取り外し可能に保持する環状保持部122を有して、軸心121回りに回転されるターンテーブル12、ターンテーブル12を回転させるモータ126、環状保持部122の下面の一部に対向して配置され、直上に位置する環状保持部122の部分を非接触で加熱するヒータ13、環状保持部122の温度を非接触で測定する温度センサー17、温度センサー17で測定された環状保持部122の温度に基づいてヒータ13の発熱量を制御することにより試料Sの温度を調節する温度調節手段18、ならびに環状保持部122および試料容器10を側方から空冷する送風手段14である冷却ファンを備える。
【0015】
本装置の試料前処理装置1は、そのほかに、試料容器10に対して移動される反射型光センサ7、前記試料容器キャップ駆動アームの鉛直軸と同軸で旋回し、反射型光センサ7を検出位置に搬送する反射型光センサ搬送アーム75(図3)、試薬注入位置の試料容器10の下方に設けられた攪拌機35(図2)、自動洗浄装置8および試料の前処理中に発生する酸蒸気を排気する排気ファン(図示なし)を備えている。試料容器10は、例えば試験管である。
【0016】
図2はターンテーブル12の平面図であり、部分Aは試料容器挿入孔124を表示しているが、図2を見やすくするために部分Bについては試料容器挿入孔124を省略して表示している。図2に示すように、ターンテーブル12は、複数の試料容器10(図1)を鉛直方向の軸心121回りに環状配列で取り外し可能に保持する環状保持部122と、環状保持部122の内径側に軸心121を中心とする円形凹部123とで形成されて、軸心121回りに回転される。試料容器10は環状保持部122の試料容器挿入孔124に取り外し可能に保持される。部分Bにも部分A同様に試料容器挿入孔124が形成されており、ターンテーブル12全体には、例えば80個の試料容器挿入孔124が形成されている。ターンテーブル12は、軸心121においてターンテーブル12を回転させるモータ126と接続され、軸心121を中心に回転駆動される。
【0017】
図2に示すように、ヒータ13は、2本の棒状の赤外線ヒータである発熱体131と、この赤外線ヒータを取り囲むように配置された半筒状の熱反射板132とで形成されている。ヒータ13は、ターンテーブル12の下部を覆うように配置されたターンテーブル枠125の開口部に下から取り付けられ、環状保持部122の下面の一部に対向し、ヒータ13の長手方向が環状保持部122の外周の弦方向に沿うように配置されており、直上に位置する環状保持部122の部分を非接触で加熱する。
【0018】
図3に示すように、反射型光センサ7は、発光素子として緑色LED71を、受光素子としてフォトダイオード(フォトトランジスタでもよい)72を有する。反射型光センサ7は試料容器10の開口とほぼ同じ直径の円柱状のキャップ73内に取り付けられ、キャップ73はセンサ搬送アーム75に固定されている。試料容器10の開口の直上に搬送された反射型光センサ7の緑色LED71から放射された光が試料容器10内の試料Sの表面に照射され、その反射光をフォトダイオード72が検出して過マンガン酸カリウム溶液の色の濃淡変化を非接触で検出する。さらに、反射型光センサ7は過マンガン酸カリウム溶液の色の濃淡変化を検出する位置と同じ位置で、試料容器10を非接触で検出する。
【0019】
緑色LED71は、波長500〜565nmの光を、例えば、2000mcd(ミリカンデラ)以上の高輝度で放射し、指向角が12°以下の砲弾型LEDである。
【0020】
緑色LED71は、例えば、500〜600Hzの周波数で、図5に示すように、パルス点灯されている。
【0021】
自動洗浄装置8は、試料容器キャップ11を自動的に洗浄するもので、ターンテーブル12上で試料容器キャップ11を移動させ、試料分注装置2から注入された蒸留水が入ったリンスビン16内で洗浄したのち、リンスビン16内の洗浄液を排液する。
【0022】
この試料前処理装置1は、試薬が注入される前に試料容器10の有無の検出を、試薬が注入された後に試料容器10内における試薬(過マンガン酸カリウム)の色の濃淡変化の検出を、反射型光センサ7で自動的に行うことができる。
【0023】
試薬分注装置2は、前記試料容器10とチューブ15を介して連結されており、試料容器10への分注液として所定量の硫酸(HSO)、硝酸(HNO)、過マンガン酸カリウム(KMnO)溶液、ペルオキソニ硫酸カリウム(K)溶液、塩化ヒドロキシルアンモニウム(HONHCl)溶液、塩化スズ(SnCl)溶液、蒸留水(HO)が例えばチューブポンプ(図示なし)による分注方式で分注される。塩化スズ(SnCl)溶液は還元気化法における還元剤として、蒸留水(HO)は試料容器洗浄用のリンスに使用される。
【0024】
水銀検出装置3である原子吸光分析装置は、試料前処理装置1で発生させた水銀ガスを測定するもので、吸収セル21、2つの光電管22、プリアンプ23、演算処理装置24、低圧水銀放電管26、除湿器28、ドレインタンク29、フィルタ30、エアポンプ31を備える。
【0025】
制御部(パーソナルコンピュータ)4は、試料前処理装置1について、反射型光センサ7による試料容器10の有無の検出制御および試料容器10内の試料の色の濃淡変化の検出制御、攪拌機35の回転の制御、図示しないタイマを用いた各処理時間の制御、ターンテーブル12の回転速度制御、温度調節手段18の制御のほかに、試薬分注装置2および水銀検出装置3を含む装置全体を制御する。
【0026】
本実施形態の還元気化水銀測定装置の動作について説明する。本動作は、制御部4に格納されたプログラムに基づいた手順で行われる。
【0027】
まず、試料容器10の有無が反射型光センサ7により検出される。図3に示すように、試料容器10の開口部の直上相当位置に反射型光センサ7がくるように、反射型光センサ7が取り付けられたキャップ73がセンサ搬送アーム75によって移動され、試料容器10が検出位置に有ると反射光がフォトダイオード72によって検出されるが、試料容器10が検出位置に無いと反射光がフォトダイオード72によって検出されない。このようにして試料容器10の有無が検出される。試薬は所定位置に置かれた試料容器10に注入されるが、試料容器10が人為的ミスで所定位置に置かれなかったり、プログラムミスで試料容器10の位置が誤って設定されたりした場合には、試薬が試料容器10外にこぼれることになる。このため、反射型光センサ7により試料容器10の有無が検出される。反射型光センサ7により試料容器10が所定位置にないと検出される場合には、試薬注入が中止される。試料容器10が所定位置にあることが反射型光センサ7により確認されると、試料容器キャップ駆動アームによって搬送された試料容器キャップ11から試薬注入が開始される。
【0028】
上記の試料容器10の有無検出および試料容器キャップ11からの試薬注入は、複数の試料容器10が環状配列で保持されたターンテーブル12を回転させて複数の試料Sに順次行われる。
【0029】
試料容器10が検出位置に有ると反射光がフォトダイオード72によって検出されるが、試料容器10が検出位置に無いと反射光がフォトダイオード72によって検出されないと上記したが、実験では、フォトダイオード72によって検出される、試料容器10の有無信号強度は、相対強度で、無信号強度が1、有信号強度が10であり、試料Sが試料容器10に注入されている場合、フォトダイオード72によって検出される信号強度は100であった。このように、試料容器10の有無検出および試料Sの有無も感度よく検出できる。なお、本実施形態では、反射型光センサ7が試料容器10の開口部の直上相当位置にくるように移動されたが、図4に示すように、試料容器10の開口部端面の直上相当位置に緑色LEDがくるように移動されると、試料容器10をより感度よく検出することができる。
【0030】
試料Sに硫酸(HSO)、硝酸(HNO)、過マンガン酸カリウム(KMnO)溶液の試薬が加えられ、振り混ぜられて15分間放置される。このとき、図3に示すように、反射型光センサ7が取り付けられたキャップ73がセンサ搬送アーム75により試料容器10の開口部の直上に搬送され、試薬が注入される位置、すなわち試薬注入位置にある試料容器10の下方に設けられた攪拌機35(図2)によって、試料容器10に入れられた攪拌子36(図3)が回転されて試料Sが攪拌されながら、緑色LED71から放射された光が試料容器10内の試料S表面に照射され、試料Sからの反射光がフォトダイオード72によって検出される。具体的には、過マンガン酸カリウムの赤紫色が消えているか否かが検出される。過マンガン酸カリウムの赤紫色が消えている時、つまり未分解試料が残っている時は、試料Sの赤紫色が15分間持続するまで、過マンガン酸カリウム溶液が少量ずつ加えられる。この試薬注入・攪拌が多数の試料Sについて順次行われる。
【0031】
試料Sによっては、攪拌されない場合、試料Sに試薬が加えられるとその試料Sの表面に膜(例えば銀色の膜)が浮いて、その溶液表面の膜で反射型光センサ7からの光が反射してしまい、膜よりも下の過マンガン酸カリウムの赤紫色の濃淡変化を十分高感度に検出できないおそれがあるが、本装置においては、試料容器10に入れられた攪拌子36を回転させて試料Sを攪拌しながら、反射型光センサ7で過マンガン酸カリウムの赤紫色の濃淡変化を検出するので、試料Sの表面に膜が浮くことがなくより高感度に検出することができる。
【0032】
過マンガン酸カリウムの赤紫色の濃淡変化の検出における試料Sの攪拌効果の実験結果について以下に説明する。過マンガン酸カリウムを加えた、海水、蒸留水、食塩水の試料Sを5回繰り返し測定したときの反射型光センサ7の信号強度の比較データを図8に示す。図8に示すように、攪拌子36で試料Sを攪拌しながらの色検出を行った、海水の試料S(■マーク)、蒸留水の試料S(▲マーク)および食塩水の試料S(□マーク)のすべての信号強度は色判断閾値以下の強度であり、過マンガン酸カリウムの濃い赤紫色を検出しており、高感度に色検出を行っていることが分かる。しかし、攪拌子36で攪拌しない静置状態で色検出を行った海水の試料S(◆マーク)では、大半の試料Sの信号強度が色判断閾値を超え、過マンガン酸カリウムの赤紫色を淡色または透明と誤検出している。このように、試料Sを攪拌しながら色検出を行わないと、誤検出するおそれのあることがこの実験によって確認できた。
【0033】
過マンガン酸カリウムの赤紫色の濃淡変化の検出にあたり、試料容器10ごとに制御部4内蔵のカウンタにより前記試薬注入後の15分間がカウントされ、この15分間経過後に、試料容器10に入れられた攪拌子36を回転させて試料Sを攪拌しながら、反射型光センサ7で過マンガン酸カリウムの赤紫色の濃淡変化が検出される。このとき赤紫色が消えていれば過マンガン酸カリウム溶液が追加注入されてカウンタがリセットされ、同様の作業により、さらに15分間経過した後に赤紫色の濃淡変化が検出される。この一連の作業がすべての試料容器10について次々と行われる。各試料容器10について過マンガン酸カリウム溶液が追加注入された回数は制御部4内のメモリに記録される。これにより、多数の試料容器10についてそれぞれの試薬注入後の経過時間が正確にカウントされ、多数の試料Sについて赤紫色の濃淡変化の検出を正確なタイミングで行うことができる。こうして、試薬注入後に、試料容器10に入れられた攪拌子36を回転させて試料Sを攪拌しながら、反射型光センサ7で試料容器10内の過マンガン酸カリウムの赤紫色の濃淡変化の検出が自動的に行われる。
【0034】
過マンガン酸カリウム溶液の赤紫色の濃淡変化を検出する際は、測定者の目視により赤紫色の濃淡変化を判別できる程度の極淡い赤紫色が検出できる光センサを用いることが望ましい。この極淡い赤紫色を検出することができれば、試料S中に過マンガン酸カリウムが残留していることが分かるので、さらに過マンガン酸カリウム溶液を試料Sに加える必要がなくなり、試料前処理を短時間にすることができる。本発明で用いる緑色LED71を発光素子とする反射型光センサ7は、波長500〜565nmの光を放射しており、過マンガン酸カリウム溶液は、この波長領域の光の吸収効率が高く、極低濃度の過マンガン酸カリウム溶液の極淡い赤紫色であっても検出することができる。
【0035】
本実施形態の反射型光センサ7と従来の光センサとの比較のために、本実施形態の反射型光センサ7の検出感度図(図6)と従来の光センサの検出感度図(図7)とを示す。図6、7の横軸は5mLの試料溶液に加えられた5.0wt%の過マンガン酸カリウム溶液の液量(μL)を示し、縦軸は光センサによって検出される信号強度を示している。縦軸は過マンガン酸カリウムが含まれていない蒸留水のみのときの信号強度を1とし、ノーマライズして表示している。図6に示す本実施形態の反射型光センサ7では、0〜5μLで大きく信号強度が変化しており、過マンガン酸カリウム溶液の低濃度領域で検出感度が高いことが分かる。これに対して、図7に示す従来の光センサの検出感度は低濃度領域で信号強度変化が小さく、低濃度領域で検出感度が低いことが分かる。このように、本実施形態の反射型光センサ7は、従来の光センサでは検出できなかった極淡い赤紫色の溶液であっても感度よく検出することができる。
【0036】
次に、試料Sにペルオキソニ硫酸カリウム(K)溶液が加えられる。ペルオキソニ硫酸カリウム(K)溶液が加えられると、制御部4によって、温度調節手段18およびターンテーブル12を回転させるモータ126が制御され、ヒータ13が加熱を開始するとともに、ターンテーブル12が、例えば、1分間に2回転の一定速度で回転されて、環状保持部122の全体が加熱される。このようにして、ターンテーブル12が回転されながら、温度センサー17で測定された環状保持部122の温度に基づいてヒータ13の発熱量が制御されることにより、試料容器10に収容された試料Sの温度が調節され、約95℃で2時間加熱されて、自動的に試料前処理が行われる。
【0037】
加熱工程が終了すると、ターンテーブル12が回転されながら、送風手段14によって試料Sが室温まで冷却され、再度、反射型光センサ7で試料Sの過マンガン酸カリウムの赤紫色の検出が自動的に行われ、試料S中に未分解試料が残っているか、否かの確認が行われる。なお、この再度の色検出工程は省略されてもよい。
【0038】
試料容器10内の試料Sが加熱の間に蒸発することにより、試料容器10内壁に溶液中に含まれている過マンガン酸カリウム、硫酸などがこびりつく。特に、過マンガン酸カリウムは後に発生させる水銀ガスを吸着し測定値に影響を与えるので、除去する必要がある。そこで、室温まで冷却された後に、試料分注装置2から送られる試薬の塩化ヒドロキシルアンモニウム(HONHCl)溶液の吹き付けにより、内壁の洗浄が開始され、所定時間洗浄が行われるとともに、過剰の過マンガン酸カリウムが還元される。こうして、試料分注装置2を用いて、試料中の水銀ガスの測定前に試料容器10の内壁に付着した付着物(硫酸、過マンガン酸カリウムなど)が自動的に洗浄される。
【0039】
前記前処理後の試料Sに対して、還元気化法により塩化スズ(SnCl)溶液が還元剤として加えられ、水銀ガスを発生させる。この場合、試料容器10の上部のバブラー51(図1)に水銀検出装置3のエアポンプ31(図1)から空気が送られる。この試料前処理装置1で発生させた水銀ガスは、水銀検出装置3の吸収セル21(図1)に導入されて測定される。
【0040】
以上のように、本発明によれば、発光素子として緑色LEDを有する反射型センサが、試薬である過マンガン酸カリウム溶液の色の濃淡変化を試料容器の開口部の直上で、反射型センサが非接触で検出するとともに、試薬注入前の試料容器の有無を検出するので、試料を汚染することなく、試料の色の濃淡変化を短時間で高感度に検出することができ、装置全体がコンパクトになる。
【0041】
特に、この実施形態の還元気化水銀測定装置では、図5に示すように、緑色LED71が500〜600Hzの周波数でパルス点灯されているので、反射型光センサ71の周辺の商用周波数で点灯されている蛍光灯の光成分を除くことができる。つまり、緑色LED71の点灯時のフォトダイオード72の信号Vp(ON)から、消灯時のフォトダイオード72の信号Vp(OFF)を差し引くことにより、試料表面からの緑色LEDの反射光以外の迷光成分を除くことができ、試料Sの色の濃淡変化をより高感度に検出することができる。図5において、時間t1、t3がVp(OFF)を検出するためのタイミングを、時間t2、t4がVp(ON)を検出するためのタイミングを示している。これらの構成により、試料容器10の有無および試料容器10内の試料の色の濃淡変化をより正確に検出できる。さらに、前記緑色LEDが砲弾型LEDであるので、緑色LED71からの放射される光の指向角が狭く、放射される光が少ない分散で試料の表面に到達することができ、試料の色の濃淡変化をいっそう高感度に検出することができる。
【0042】
なお、この実施形態の還元気化水銀測定装置では、水銀検出装置3として原子吸光分析装置について説明したが、本発明においては水銀検出装置3は原子蛍光分析装置であってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 試料前処理装置
2 試薬分注装置
7 反射型光センサ
10 試料容器
71 緑色LED
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料前処理装置で複数の試料の前処理を行ったのちに、還元気化法により水銀ガスを発生させて、各試料中の水銀を測定する還元気化水銀測定装置であって、
前記試料前処理装置は、
試料が収容された複数の試料容器のそれぞれに少なくとも過マンガン酸カリウム溶液を含む複数の試薬を注入する試薬分注装置と、
発光素子として緑色LEDを有し、試料容器に対して移動される反射型光センサとを備え、
その反射型光センサが、試料容器の開口部の直上で、試料容器内における前記試薬の過マンガン酸カリウム溶液の色の濃淡変化を非接触で検出するとともに、試料容器を非接触で検出する還元気化水銀測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の還元気化水銀測定装置において、
前記試料前処理装置は試薬が注入される位置にある試料容器の下方に設けられた攪拌機を有し、この攪拌機によって試料容器に入れられた攪拌子を回転させて試料を攪拌しながら前記反射型光センサで過マンガン酸カリウム溶液の色の濃淡変化を検出する還元気化水銀測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の還元気化水銀測定装置において、
前記緑色LEDが点滅される還元気化水銀測定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の還元気化水銀測定装置において、
前記緑色LEDが砲弾型LEDである還元気化水銀測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−64715(P2013−64715A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−39697(P2012−39697)
【出願日】平成24年2月27日(2012.2.27)
【出願人】(599102310)日本インスツルメンツ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】