説明

還元糖を製造する方法

【課題】効率良く、大量に且つ簡便に還元糖を製造する方法を提供する。
【解決手段】下記工程(a)及び(b)を含むことを特徴とする、コーヒー豆廃棄物から還元糖を製造する方法:
(a)特定条件下で、コーヒー豆廃棄物からセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出し、pH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を得る工程;
(b)工程(a)で得られたpH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液に対してヘミセルラーゼ及びセルラーゼからなる群から選択される少なくとも1種の加水分解酵素を作用させることにより、還元糖を得る工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー豆廃棄物から還元糖を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品、化粧品、工業用途、又はバイオマスエネルギー等の様々な分野において、セルロース及びヘミセルロースが注目を集めている。例えば、ヘミセルロースの一種であるキシランは、食品分野及び化粧品分野においてキシリトールやキシロオリゴ糖等の原料として広く用いられている。また、キシランを加水分解して得られるキシロースは、バイオマスエタノールの原料となり得るためバイオマスエネルギーとしての活用が期待されている。このような背景から、セルロース及びヘミセルロースを加水分解して得られる還元糖を大量に且つ簡便に製造する方法が求められている。
【0003】
セルロース及びヘミセルロースは植物体の細胞壁に多く含まれていることが知られている。しかしながら、セルロース及びヘミセルロース自体は元来水不溶性であることから、効率よく還元糖を製造することは困難である。
【0004】
還元糖を製造する方法としては、ポプラチップを原料として、該ポプラチップを0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を用いて15℃で抽出した抽出液を、ヘミセルラーゼ及びセルラーゼにより処理し、還元糖を得る方法が報告されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、この方法により還元糖を製造した場合、ポプラチップ5gあたり約320mgの還元糖しか得られないため、還元糖をより効率よく、大量に且つ簡便に製造する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−19489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、効率良く、大量に且つ簡便に還元糖を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、コーヒー豆廃棄物を原料として還元糖を製造することにより、効率よく、大量に且つ簡便に還元糖を得ることができることを見出した。さらに、コーヒー豆廃棄物から、特定の条件によりセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を得て、該抽出液をヘミセルラーゼ及びセルラーゼからなる群から選択される少なくとも1種の加水分解酵素で処理することにより、より効率よく、大量に且つ簡便に還元糖を得ることができることを見出した。本発明の特定の条件により得られたセルロース及びヘミセルロース含有抽出液は、多くのヘミセルラーゼ及びセルラーゼの至適pH領域であるpH3〜8に調整しても析出することがないため、酵素処理を容易に行うことができる。本発明は、かかる知見に基づきさらに研究を重ねた結果完成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記の構成を有するものである。
【0010】
項1. 下記工程(a)及び(b)を含むことを特徴とする、コーヒー豆廃棄物から還元糖を製造する方法:
(a)下記工程(a1)、(a2)、又は(a3)により、コーヒー豆廃棄物からセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出し、pH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を得る工程:
(a1)コーヒー豆廃棄物から0.1〜2Nの強酸溶媒を用いて50〜150℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程、
(a2)コーヒー豆廃棄物から水性溶媒を用いて100〜250℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程、又は
(a3)コーヒー豆廃棄物から0.1〜2Nのアルカリ性溶媒を用いて10〜40℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程;
(b)工程(a)で得られたpH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液に対してヘミセルラーゼ及びセルラーゼからなる群から選択される少なくとも1種の加水分解酵素を作用させることにより、還元糖を得る工程。
【0011】
項2. 前記工程(a)が工程(a1)によりコーヒー豆廃棄物からセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程である、請求項1に記載の方法。
【0012】
項3. 前記強酸が硫酸である、請求項2に記載の方法。
【0013】
項4. 前記コーヒー豆廃棄物がコーヒー抽出粕である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【0014】
項5. 前記加水分解酵素がヘミセルラーゼ及びセルラーゼの混合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、効率よく、大量に且つ簡便に還元糖を製造することができる。また、過剰な高温高圧条件を必要としないため、エネルギー効率の観点からきわめて優れている。さらにコーヒー豆廃棄物は、世界中で大量に製造されているものであり、単価も極めて安いものであるため、原材料の調達コストを低減することができる。そして、一般に高価な、アルカリ領域でのみ作用し得るような特殊な加水分解酵素を用いる必要がないため、製造コストを低減することができる。
【0016】
また、本発明によれば、通常廃棄されるコーヒー欠点豆やコーヒー抽出粕等から、有用成分である還元糖を製造することができる。さらに、本発明によれば、コーヒー欠点豆やコーヒー抽出粕の体積を大幅に減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】セルロース及びヘミセルロース含有抽出液をセルロシンTP25(キシラナーゼ及びセルラーゼの混合物)で処理することによって得られた還元糖の量を示す。
【図2】セルロース及びヘミセルロース含有抽出液をセルロシンTP25(キシラナーゼ及びセルラーゼの混合物)で処理した場合の抽出率を示す。
【図3】セルロース及びヘミセルロース含有抽出液をセルロシンAC40(セルラーゼ及びヘミセルラーゼの混合物)で処理することによって得られた還元糖の量を示す。
【図4】セルロース及びヘミセルロース含有抽出液をセルロシンAC40(セルラーゼ及びヘミセルラーゼの混合物)で処理した場合の抽出率を示す。
【図5】セルロース及びヘミセルロース含有抽出液をセルロシンTP25(キシラナーゼ及びセルラーゼの混合物)並びにセルロシンAC40(セルラーゼ及びヘミセルラーゼの混合物)で処理することによって得られた還元糖の量を示す。
【図6】セルロース及びヘミセルロース含有抽出液をセルロシンTP25(キシラナーゼ及びセルラーゼの混合物)並びにセルロシンAC40(セルラーゼ及びヘミセルラーゼの混合物)で処理した場合の抽出率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、下記工程(a)及び(b):
(a)下記工程(a1)、(a2)、又は(a3)により、コーヒー豆廃棄物からセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出し、pH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を得る工程:
(a1)コーヒー豆廃棄物から0.1〜2Nの強酸溶媒を用いて50〜150℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程、
(a2)コーヒー豆廃棄物から水性溶媒を用いて100〜250℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程、又は
(a3)コーヒー豆廃棄物から0.1〜2Nのアルカリ性溶媒を用いて10〜40℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程;
(b)工程(a)で得られたpH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液に対してヘミセルラーゼ及びセルラーゼからなる群から選択される少なくとも1種の加水分解酵素を作用させることにより、還元糖を得る工程
を含むことを特徴とする、コーヒー豆廃棄物から還元糖を製造する方法である。
【0019】
本明細書において、「セルロース」とは、d-グルコースがβ(1→4)結合で分枝無くつながっている糖鎖を意味する。
【0020】
本明細書において「ヘミセルロース」とは、植物細胞壁においてセルロースと結合して存在している多糖類の総称を意味する。
【0021】
ヘミセルロースとしては、特に限定されないが、例えば、主要構成成分としてキシランを含む多糖の混合物等が挙げられる。本明細書において「キシラン」とは、キシロースがβ1、4結合した主鎖に様々な側鎖が結合したヘテロ糖を意味する。ヘテロ糖の側鎖としてはアラビノース又はグルクロン酸等が挙げられる。ヘミセルロースとしては、キシラン、マンナン、ガランタンが挙げられる。
【0022】
本明細書において、「セルロース及びヘミセルロース含有抽出液」とは、セルロース及びヘミセルロースを含有している抽出液を意味する。
【0023】
本明細書において「還元糖」とは、セルロース及びヘミセルロースからなる群から選択される少なくとも1種が加水分解により分解されたものであり、還元力を示すものである。還元糖の量を測定する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えばジニトロサリチル酸法を用いることができる。
【0024】
以下、本発明の実施形態について、まず原料であるコーヒー豆廃棄物に関して説明した上で、次に工程ごとに分けて説明する。
【0025】
1.コーヒー豆廃棄物
本発明で用いる原料は、コーヒー豆廃棄物である。
【0026】
本発明において「コーヒー豆廃棄物」とは、具体的にはコーヒー豆、コーヒー欠点豆、又はコーヒー抽出粕を意味する。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。コーヒー豆廃棄物としては、還元糖の収率の観点及び材料の調達コストを低減できるという観点から、コーヒー欠点豆及びコーヒー抽出粕が好ましく挙げられ、コーヒー抽出粕がより好ましく挙げられる。
【0027】
コーヒー豆としては、コーヒー豆として一般に流通しているものであれば特に限定されるものではないが、具体的にはアカネ科植物に属するcoffea属の栽培品種由来のものが挙げられ、より好ましくはアラビカ種、カネフォラ種、リベリカ種、又はこれら3原種を元にした種が挙げられる。コーヒー豆としては、生豆、又は焙煎豆を問わず、粉砕、破砕、又は切断等の加工処理されたものであっても良い。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。還元糖の収率の観点から焙煎豆が好ましく挙げられ、粉砕又は破砕された焙煎豆がより好ましく挙げられる。
【0028】
コーヒー欠点豆としては、コーヒー豆に異物が混入していることや、病気や虫食いなどがあること、又はコーヒー豆を調製する段階で規格外品と判断される等の事情によりコーヒーの抽出に通常用いられないコーヒー豆であれば、一般に流通しているコーヒー豆に混入しているコーヒー欠点豆、又は一般に流通していないコーヒー欠点豆を問わず、特に限定されるものではない。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
コーヒー抽出粕としては、コーヒー豆及び又はコーヒー欠点豆よりコーヒー液を抽出した後の抽出残渣であれば特に限定されない。コーヒー液の抽出溶媒は特に限定されるものではなく、例えば水又はアルコール等の有機溶媒等が挙げられる。コーヒー液の抽出方法も特に限定されるものではなく、公知の抽出方法が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
2.工程(a)
工程(a)は、下記工程(a1)、(a2)、又は(a3):
(a1)コーヒー豆廃棄物から0.1〜2Nの強酸溶媒を用いて50〜150℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程、
(a2)コーヒー豆廃棄物から水性溶媒を用いて100〜250℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程、又は
(a3)コーヒー豆廃棄物から0.1〜2Nのアルカリ性溶媒を用いて10〜40℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程
により、コーヒー豆廃棄物からセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出し、pH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を得る工程である。
【0031】
工程(a)は、還元糖の収率の観点から、工程(a1)又は(a2)により、コーヒー豆廃棄物からセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出し、pH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を得る工程であることが好ましく、工程(a1)により、コーヒー豆廃棄物からセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出し、pH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を得る工程であることがより好ましい。
【0032】
以下、各工程について説明する。
【0033】
2−1.工程(a1)
工程(a1)は、コーヒー豆廃棄物から0.1〜2Nの強酸溶媒を用いて50〜150℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程である。
【0034】
強酸溶媒の種類としては0.1〜2Nにおいて50〜150℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出することができるものであれば、特に限定されるものではないが、還元糖の収率の観点から、硫酸溶媒及び塩酸溶媒が好ましく挙げられ、硫酸溶媒がより好ましく挙げられる。
【0035】
強酸溶媒は、還元糖の収率の観点では0.3〜1.5Nであれば好ましく、0.5〜1Nであればより好ましい。
【0036】
セルロース及びヘミセルロース含有抽出液の抽出は、コーヒー豆廃棄物を0.1〜2Nの強酸溶媒中に浸漬すること等により行うことができる。浸漬後に必要に応じて抽出を促進し得るような工程をさらに加えてもよい。そのような工程としては、例えば、溶媒を撹拌する工程等が挙げられる。
【0037】
コーヒー豆廃棄物の量としては、セルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出することができる限り特に限定されるものではないが、還元糖の収率という観点では、溶媒に対するコーヒー豆廃棄物の重量部比が乾燥重量換算で10重量%以下であれば好ましい。
【0038】
抽出温度は、還元糖の収率の観点から70〜130℃が好ましく、80〜120℃がより好ましく、90〜110℃がさらに好ましい。
【0039】
抽出時間は、セルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出することができる限り特に限定されるものではないが、還元糖の収率という観点から、好ましくは30分〜4時間であり、より好ましくは1時間〜3時間である。
【0040】
上記の抽出工程は、1回のみ実施してもよいし、さらに抽出効率を高めるため、必要に応じて、抽出工程後に残渣固形分として得られるコーヒー豆廃棄物に対して複数回繰り返し実施してもよい。コーヒー豆廃棄物を原料とし且つ上記抽出方法により抽出し、後述の工程(b)を経ることで、1回のみの抽出工程によっても、従来技術に比べて大量の還元糖を製造することができる。
【0041】
抽出されたセルロース及びヘミセルロース含有抽出液は、後述の「2−4.セルロース及びヘミセルロース含有抽出液のpHの調整」に従って、必要に応じてpH調整されてから工程(b)に供される。また必要に応じて残渣固形分を公知の方法で取り除いてから工程(b)に供してもよい。
【0042】
2−2.工程(a2)
工程(a2)は、コーヒー豆廃棄物から水性溶媒を用いて100〜250℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程である。
【0043】
水性溶媒の種類としては100〜250℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出することができるものであれば、特に限定されるものではないが、各種水溶液、具体的には緩衝剤水溶液が挙げられる。
【0044】
セルロース及びヘミセルロース含有抽出液の抽出は、コーヒー豆廃棄物を水性溶媒中に浸漬すること等により行うことができる。浸漬後に必要に応じて抽出を促進し得るような工程をさらに加えてもよい。そのような工程としては、例えば、溶媒を撹拌する工程等が挙げられる。
【0045】
コーヒー豆廃棄物の量としては、セルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出することができる限り特に限定されるものではないが、還元糖の収率という観点では、溶媒に対するコーヒー豆廃棄物の重量部比が乾燥重量換算で10重量%以下であれば好ましい。
【0046】
抽出温度は、還元糖の収率の観点から120〜230℃が好ましく、145〜210℃がより好ましく、160〜200℃がさらに好ましく、170〜190℃がよりさらに好ましく、175〜185℃が特に好ましい。
【0047】
抽出時間は、セルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出することができる限り特に限定されるものではないが、還元糖の収率という観点から、好ましくは30分〜4時間であり、より好ましくは30分〜2時間である。
【0048】
上記の抽出工程は、1回のみ実施してもよいし、さらに抽出効率を高めるため、必要に応じて、抽出工程後に残渣固形分として得られるコーヒー豆廃棄物に対して複数回繰り返し実施してもよい。コーヒー豆廃棄物を原料とし且つ上記抽出方法により抽出し、後述の工程(b)を経ることで、1回のみの抽出工程によっても、従来技術に比べて大量の還元糖を製造することができる。
【0049】
抽出されたセルロース及びヘミセルロース含有抽出液は、後述の「2−4.セルロース及びヘミセルロース含有抽出液のpHの調整」に従って、必要に応じてpH調整されてから工程(b)に供される。また必要に応じて残渣固形分を公知の方法で取り除いてから工程(b)に供してもよい。
【0050】
2−3.工程(a3)
工程(a3)は、コーヒー豆廃棄物から0.1〜2Nのアルカリ性溶媒を用いて10〜40℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程である。
【0051】
アルカリ性溶媒の種類としては0.1〜2Nにおいて10〜40℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出することができるものであれば、特に限定されるものではない。還元糖の収率の観点からは、強アルカリ性溶媒が好ましい。例えば、アルカリ金属水酸化物、又はアルカリ土類金属水酸化物の水溶液が挙げられる。還元糖の収率の観点からは、アルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましい。具体的には、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウム等が挙げられ、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム溶媒が好ましく挙げられ、水酸化ナトリウム溶媒がより好ましく挙げられる。
【0052】
アルカリ性溶媒は、還元糖の収率の観点では0.3〜1Nであれば好ましく、0.4〜0.6Nであればより好ましい。
【0053】
セルロース及びヘミセルロース含有抽出液の抽出は、コーヒー豆廃棄物を0.1〜2Nのアルカリ性溶媒中に浸漬すること等により行うことができる。浸漬後に必要に応じて抽出を促進し得るような工程をさらに加えてもよい。そのような工程としては、例えば、溶媒を撹拌する工程等が挙げられる。
【0054】
コーヒー豆廃棄物の量としては、セルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出することができる限り特に限定されるものではないが、還元糖の収率という観点では、溶媒に対するコーヒー豆廃棄物の重量部比が乾燥重量換算で10重量%以下であれば好ましい。
【0055】
抽出温度は、エネルギー効率の観点から10〜30℃が好ましく、10〜20℃がより好ましい。
【0056】
抽出時間は、セルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出することができる限り特に限定されるものではないが、還元糖の収率という観点から、好ましくは30分以上であり、より好ましくは1時間以上であり、さらに好ましくは2時間以上である。
【0057】
上記の抽出工程は、1回のみ実施してもよいし、さらに抽出効率を高めるため、必要に応じて、抽出工程後に残渣固形分として得られるコーヒー豆廃棄物に対して複数回繰り返し実施してもよい。コーヒー豆廃棄物を原料とし且つ上記抽出方法により抽出し、後述の工程(b)を経ることで、1回のみの抽出工程によっても、従来技術に比べて大量の還元糖を製造することができる。
【0058】
抽出されたセルロース及びヘミセルロース含有抽出液は、後述の「2−4.セルロース及びヘミセルロース含有抽出液のpHの調整」に従って、必要に応じてpH調整されてから工程(b)に供される。また必要に応じて残渣固形分を公知の方法で取り除いてから工程(b)に供してもよい。
【0059】
2−4.セルロース及びヘミセルロース含有抽出液のpH調整
上記工程(a1)、(a2)、又は(a3)によって抽出されたセルロース及びヘミセルロース含有抽出液のpHがpH3〜8の範囲にある場合は、該セルロース及びヘミセルロース含有抽出液をそのまま工程(b)に供することができる。上記工程(a1)、(a2)、又は(a3)によって抽出されたセルロース及びヘミセルロース含有抽出液のpHがpH3〜8の範囲にない場合は、該セルロース及びヘミセルロース含有抽出液のpHをpH3〜8に調整することにより、pH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液が得られる。
【0060】
成分が溶解している溶液のpHを変化させると、通常であれば溶解成分が析出すると予測される。本発明者らは、上記工程(a1)、(a2)、又は(a3)によって抽出されたセルロース及びヘミセルロース含有抽出液は、pHをpH3〜8の領域に調整してもセルロース及びヘミセルロースが上記予測に反して固体となって析出しないという驚くべき知見を得た。
【0061】
pH3〜8で作用する加水分解酵素は一般に入手しやすいため、pH3〜8に調整すれば次の工程(b)で加水分解酵素を選択する際に有利である。
【0062】
具体的なpHは、工程(b)で使用する加水分解酵素の種類並びに活性等の特性に応じて適宜設定することができる。例えば、加水分解酵素として、ヘミセルラーゼ及びセルラーゼの混合物を用いる場合、pH3〜7が好ましく、pH4〜6がより好ましく、pH4〜5がさらに好ましい。
【0063】
pHの調整は、アルカリ性溶媒又は酸性溶媒を用いて任意の方法で行うことができる。アルカリ性溶媒としては2Nの水酸化ナトリウムが挙げられ、酸性溶媒としては2Nの塩酸が挙げられる。アルカリ性溶媒又は酸性溶媒の濃度としては0.1〜2Nのものが好ましい。
【0064】
必要に応じて、pH調整後にセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を一定時間静置してもよい。
【0065】
3.工程(b)
工程(b)は、工程(a)で得られたpH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液に対してヘミセルラーゼ及びセルラーゼからなる群から選択される少なくとも1種の加水分解酵素を作用させることにより、還元糖を得る工程である。
【0066】
pH調整されたセルロース及びヘミセルロース含有抽出液に対して加水分解酵素を添加し、当該加水分解酵素が作用し得る温度でこれを作用させることにより還元糖を得ることができる。
【0067】
加水分解酵素の反応条件(温度、酵素添加量、及び時間等)は、使用する加水分解酵素の種類及び活性等の特性に応じて適宜設定される。
【0068】
反応温度としては、30〜60℃であれば好ましく、40〜55℃であればより好ましい。
【0069】
上記温度の範囲内において、経時的に温度を適宜変化させてもよい。ヘミセルラーゼ及びセルラーゼからなる群より選択される少なくとも2種の加水分解酵素を用いる場合は、各酵素の至適温度を考慮した上で反応温度を適宜設定することができる。
【0070】
加水分解酵素の反応溶液中における酵素の添加量は、抽出に用いたコーヒー豆廃棄物の量に応じて適宜設定できる。例えば、乾燥重量1gのコーヒー豆廃棄物から抽出したセルロース及びヘミセルロース含有抽出液に対しては、500〜2000HCU単位の酵素量が好ましく、800〜1800HCU単位の酵素量がより好ましく1100〜1500HCU単位の酵素量がさらに好ましい。また別の例としては、乾燥重量1gのコーヒー豆廃棄物から抽出したセルロース及びヘミセルロース含有抽出液に対して、100〜400CSU単位の酵素量が好ましく、160〜360CSU単位の酵素量がより好ましく、220〜300CSU単位の酵素量がさらに好ましい。
【0071】
なお、酵素活性の単位であるHCU単位(ヘミセルラーゼ分解活性)は、アラビノキシランを基質とし、酵素がpH4.5、40℃で10分間作用した時、反応初期に1μmolのグルコース量に相当する還元力の増加をもたらす酵素量を1単位と定義する単位である。CSU単位(セルラーゼ分解活性)は、CMCを基質とし、酵素がpH4.2、40℃で10分間作用した時、反応初期に1μmolのグルコース量に相当する還元力の増加をもたらす酵素量を1単位と定義する単位である。
【0072】
反応時間は、加水分解の進行の程度に応じて適宜決定すればよい。反応時間としては、12〜240時間であれば好ましく、12〜96時間であればより好ましく、24〜48時間であればさらに好ましい。
【0073】
最終的に必要に応じてさらに加水分解酵素の反応を停止させるための工程を設けてもよい。反応を停止する工程としては、例えば、アルカリ処理もしくは加熱処理する工程等が挙げられる。
【0074】
ヘミセルラーゼとしては、弱酸性から中性で作用するキシラナーゼが好ましい。
【0075】
セルラーゼとしては、弱酸性から中性で作用するセルラーゼが好ましい。
【0076】
還元糖の収率の観点からは、ヘミセルラーゼ及びセルラーゼの混合物が好ましい。
【0077】
ヘミセルラーゼ及びセルラーゼの混合物としては、例えば、トリコデルマ属、アスペルギルス属、バチルス属、オウレオバシジム属、ストレプトマイセス属、及びフミコーラ属等の微生物の産生するもの等を用いることができる。また、市販されているものを用いることもできる。市販されているものとしては、例えば、セルロシンTP25(エイチビィアイ株式会社)、セルロシンAC40(エイチビィアイ株式会社)、セルロシンHC100(エイチビィアイ株式会社)等が挙げられる。
【0078】
加水分解酵素を作用させることにより還元糖を得る工程は、1回のみ実施してもよいし、同じ加水分解酵素を用いて、または別の加水分解酵素もしくは別の組み合わせの加水分解酵素群を用いて複数回繰り返し実施してもよい。
【0079】
4.還元糖の利用について
本発明により得られた還元糖は、必要に応じて、公知の方法により精製される。精製方法としては例えば、遠心分離、ろ過、イオン交換等が挙げられる。この還元糖は各種公知の用途で利用することができる。特に、食品素材やバイオマスエネルギーにおけるキシロオリゴ糖やキシロースの供給源として好ましく利用される。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0081】
実施例1.セルロース及びヘミセルロース含有抽出液の抽出
(1)硫酸溶媒を用いた抽出
コーヒー抽出後のコーヒー粕を乾燥させ、あらかじめミル(株式会社 スドー製)で細断したコーヒー豆廃棄物5gを0.72N硫酸溶液100mlに加え、20℃又は100℃で2時間抽出処理を行った。20℃の場合はスターラーバーで撹拌しながら抽出処理を行った。反応終了後に2M水酸化ナトリウム水溶液でpH4.5に調整し、調整したものをセルロース及びヘミセルロース含有抽出液とした。
【0082】
(2)水性溶媒を用いた抽出
コーヒー抽出後のコーヒー粕を乾燥させ、あらかじめミル(株式会社 スドー製)で細断したコーヒー廃棄物2.5gを水50mlに加え、130℃、160℃、180℃、又は200℃で1時間抽出処理を行った(耐圧硝子工業製 ポータブルリアクターTPR−1)。反応終了後、130℃で抽出した抽出液のpHを2M塩酸でpH4.5に調整し、160℃、180℃、又は200℃で抽出した抽出液のpHを2M水酸化ナトリウム水溶液でpH4.5に調整した。調整した抽出液をセルロース及びヘミセルロース含有抽出液とした。
【0083】
(3)アルカリ性溶媒を用いた抽出
コーヒー抽出後のコーヒー粕を乾燥させ、あらかじめミル(株式会社 スドー製)で細断したコーヒー豆廃棄物5gを0.5M水酸化ナトリウム水溶液100mlに加え、15℃で2時間スターラーバーを用いて攪拌することにより抽出処理を行った。反応終了後に2M塩酸溶液でpH4.5に調整し、調整したものをセルロース及びヘミセルロース含有抽出液とした。
【0084】
実施例2.セルロース及びヘミセルロース含有抽出液をセルロシンTP25(キシラナーゼ及びセルラーゼの混合物)で処理することによる、還元糖の取得
実施例1で得られたセルロース及びヘミセルロース含有抽出液に加水分解酵素としてセルロシンTP25(キシラナーゼ及びセルラーゼの混合物)(エイチビィアイ株式会社)を基質であるコーヒー廃棄物1g(乾燥重量)に対して、HCU換算で1300単位相当を添加し、50℃で酵素反応させた。
【0085】
酵素反応開始後、0時間後、24時間後、及び48時間後に反応上清をとりDNS法(ジニトロサリチル酸法)により還元糖量を測定した。結果を図1に示す。図1中、白抜き三角印(△)は、硫酸溶液を用いて20℃で抽出処理した場合を示し、バツ印(×)は、硫酸溶液を用いて100℃で抽出処理した場合を示し、黒塗りひし形印(◆)は、水を用いて130℃で抽出処理した場合を示し、黒塗り四角印(■)は、水を用いて160℃で抽出処理した場合を示し、黒塗り三角印(▲)は、水を用いて180℃で抽出処理した場合を示し、白抜きひし形印(◇)は、水を用いて200℃で抽出処理した場合を示し、白抜き四角印(□)は、水酸化ナトリウム水溶液を用いて15℃で抽出処理した場合を示す。
【0086】
また、酵素反応開始後、48時間後に反応液全量を2,000×gで10分間遠心分離し、得られた沈殿の乾燥重量を測定した。これに基づいて可溶化率(%)を次の通り算出した。『可溶化率(%)={(コーヒー廃棄物の乾燥重量(g)−沈殿の乾燥重量(g))/コーヒー廃棄物の乾燥重量(g)}×100(%)』。結果を図2に示す。
【0087】
実施例3.セルロース及びヘミセルロース含有抽出液をセルロシンAC40(セルラーゼ及びヘミセルラーゼの混合物)で処理することによる、還元糖の取得
実施例1で得られたセルロース及びヘミセルロース含有抽出液に加水分解酵素としてセルロシンAC40(セルラーゼ及びヘミセルラーゼの混合物)(エイチビィアイ株式会社)を基質であるコーヒー廃棄物1g(乾燥重量)に対して、CSU換算で260単位相当を添加し、50℃で酵素反応させた。
【0088】
酵素反応開始後、0時間後、24時間後、及び48時間後に反応上清をとりDNS法(ジニトロサリチル酸法)により還元糖量を測定した。結果を図3に示す。図3中、白抜き三角印(△)は、硫酸溶液を用いて20℃で抽出処理した場合を示し、バツ印(×)は、硫酸溶液を用いて100℃で抽出処理した場合を示し、黒塗りひし形印(◆)は、水を用いて130℃で抽出処理した場合を示し、黒塗り四角印(■)は、水を用いて160℃で抽出処理した場合を示し、黒塗り三角印(▲)は、水を用いて180℃で抽出処理した場合を示し、白抜きひし形印(◇)は、水を用いて200℃で抽出処理した場合を示し、白抜き四角印(□)は、水酸化ナトリウム水溶液を用いて15℃で抽出処理した場合を示す。
【0089】
また、酵素反応開始後、48時間後に反応液全量を2,000×gで10分間遠心分離し、得られた沈殿の乾燥重量を測定した。これに基づいて可溶化率(%)を次の通り算出した。『可溶化率(%)={(コーヒー廃棄物の乾燥重量(g)−沈殿の乾燥重量(g))/コーヒー廃棄物の乾燥重量(g)}×100(%)』。結果を図4に示す。
【0090】
実施例4.セルロース及びヘミセルロース含有抽出液をセルロシンTP25(キシラナーゼ及びセルラーゼの混合物)並びにセルロシンAC40(セルラーゼ及びヘミセルラーゼの混合物)で処理することによる、還元糖の取得
実施例1で得られたセルロース及びヘミセルロース含有抽出液に加水分解酵素としてセルロシンTP25(キシラナーゼ及びセルラーゼの混合物)並びにセルロシンAC40(セルラーゼ及びヘミセルラーゼの混合物)(エイチビィアイ株式会社)を基質であるコーヒー廃棄物1g(乾燥重量)に対して、CSU換算で260単位相当を添加し、50℃で酵素反応させた。
【0091】
酵素反応開始後、0時間後、24時間後、及び48時間後に反応上清をとりDNS法(ジニトロサリチル酸法)により還元糖量を測定した。結果を図5に示す。図5中、白抜き三角印(△)は、硫酸溶液を用いて20℃で抽出処理した場合を示し、バツ印(×)は、硫酸溶液を用いて100℃で抽出処理した場合を示し、黒塗りひし形印(◆)は、水を用いて130℃で抽出処理した場合を示し、黒塗り四角印(■)は、水を用いて160℃で抽出処理した場合を示し、黒塗り三角印(▲)は、水を用いて180℃で抽出処理した場合を示し、白抜きひし形印(◇)は、水を用いて200℃で抽出処理した場合を示し、白抜き四角印(□)は、水酸化ナトリウム水溶液を用いて15℃で抽出処理した場合を示す。
【0092】
また、酵素反応開始後、48時間後に反応液全量を2,000×gで10分間遠心分離し、得られた沈殿の乾燥重量を測定した。これに基づいて可溶化率(%)を次の通り算出した。『可溶化率(%)={(コーヒー廃棄物の乾燥重量(g)−沈殿の乾燥重量(g))/コーヒー廃棄物の乾燥重量(g)}×100(%)』。結果を図6に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(a)及び(b)を含むことを特徴とする、コーヒー豆廃棄物から還元糖を製造する方法:
(a)下記工程(a1)、(a2)、又は(a3)により、コーヒー豆廃棄物からセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出し、pH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を得る工程:
(a1)コーヒー豆廃棄物から0.1〜2Nの強酸溶媒を用いて50〜150℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程、
(a2)コーヒー豆廃棄物から水性溶媒を用いて100〜250℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程、又は
(a3)コーヒー豆廃棄物から0.1〜2Nのアルカリ性溶媒を用いて10〜40℃でセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程;
(b)工程(a)で得られたpH3〜8のセルロース及びヘミセルロース含有抽出液に対してヘミセルラーゼ及びセルラーゼからなる群から選択される少なくとも1種の加水分解酵素を作用させることにより、還元糖を得る工程。
【請求項2】
前記工程(a)が工程(a1)によりコーヒー豆廃棄物からセルロース及びヘミセルロース含有抽出液を抽出する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記強酸が硫酸である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記コーヒー豆廃棄物がコーヒー抽出粕である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記加水分解酵素がヘミセルラーゼ及びセルラーゼの混合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−235720(P2012−235720A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105760(P2011−105760)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人日本農芸化学会 刊行物名 日本農芸化学会2011年度大会講演要旨集 発行年月日 2011年3月5日
【出願人】(391003587)エイチビィアイ株式会社 (3)
【出願人】(398018663)
【Fターム(参考)】