説明

部位特異的遺伝子組換法

【課題】TG1インテグラーゼを利用した部位特異的遺伝子組換法および該部位特異的遺伝子組換法による微生物ゲノム改変法の提供の提供。
【解決手段】TG1ファージの特異的部位(attPTG1)に対応する宿主菌S.avermitilisの特異的部位(attBTG1)と相同性が高い塩基配列をゲノム上に有する放線菌およびプロテオバクテリアを用い、TG1インテグラーゼを利用した部位特異的遺伝子組換法および該部位特異的遺伝子組換法による微生物ゲノム改変法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバクテリオファージTG1(以下、TG1ファージとする)が産生するファージインテグラーゼ(以下、TG1インテグラーゼとする)を利用した部位特異的遺伝子組換法に関する。さらに、該部位特異的遺伝子組変法による微生物ゲノム改変法に関する。
【背景技術】
【0002】
バクテリオファージは細菌を宿主とするウイルスの総称であり、細菌ウイルスとも呼ばれる。バクテリオファージは、ウイルス粒子の形態やサイズ、感染増殖様式、遺伝情報物質(DNA、RNA、およびそれらの存在様式)、感染し得る細菌の範囲(宿主域)等に関して多種多様な種類が存在する。感染増殖様式について見ると、宿主菌に感染すると直ちに複製増殖を開始し、溶菌を行って子ファージを放出する(溶菌サイクル)タイプのファージと感染後溶菌サイクルに入るか、あるいは直ちに溶菌サイクルに入らずに宿主菌中に維持される(溶原化サイクル)かのいずれかの道を辿るタイプとに大きく分けることができる。後者のタイプのファージ(溶原性ファージ)の多くは、溶原化に伴い自身のゲノムを宿主菌ゲノム中に挿入して、潜在化(プロファージ化)する。
溶原化における宿主菌ゲノム中へのファージゲノムの挿入は、ファージゲノム上の特異的部位(ファージ・アタッチメント部位:attP)と宿主菌ゲノム上の特異的部位(バクテリア・アタッチメント部位:attB)との間の部位特異的組換え反応によって起こり、2つのゲノムは一つのゲノムへと一体化する。
【0003】
このような部位特異的組換え反応は、バクテリオファージが産生するインテグラーゼ(ファージインテグラーゼ)によって触媒され、バクテリオファージの種類によってTG1インテグラーゼ、R4インテグラーゼ、phiC31インテグラーゼ等の様々なファージインテグラーゼが存在することが知られている。
部位特異的組換え反応において、これらのファージインテグラーゼが認識する部位(attP、attB)はファージインテグラーゼ毎に特異的であり、相互に認識されない。また、一つのattPに対して対応するattBは一つであり、他のファージインテグラーゼに対応するattBとは反応が起こらないことから、ファージインテグラーゼによる部位特異的組換え反応には、高い厳密性があるものとされてきた。
【0004】
そして、この部位特異的組換反応を利用して、例えば、エリスロマイシン、テイコプラニン等の抗菌剤、ドキソルビシン等のような抗腫瘍化合物等、医薬品において重要な用途を有する天然物を製造する方法(例えば、特許文献1参照)や、所望の核酸を組み込んだベクターをEscherichia属、Streptomyces属等の細菌中で増殖および/または複製することでクローニングまたはサブクローニングする方法(例えば、特許文献2参照)等が開発されている。
【0005】
本発明者らは、バクテリオファージのひとつであるTG1ファージにおいて、この部位特異的組換反応が放線菌Streptomyces属において広く行われることを確認しており(例えば、非特許文献1〜3参照)、この部位特異的組換反応を触媒するTG1 インテグラーゼを見出している(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−518045号公報
【特許文献2】特許第4303418号
【特許文献3】特開2007−228920号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Morita et al.FEMS Lett.297 234−240(2009)
【非特許文献2】Morita et al.Mol.Genet.Genomics. 282 607−616(2009)
【非特許文献3】Foor et al.Gene.39 11−16(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、TG1インテグラーゼを利用した部位特異的遺伝子組換法の提供を課題とする。さらに、該部位特異的遺伝子組変法による、微生物ゲノム改変法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、TG1ファージの特異的部位(以下、attPTG1とする)に対応する宿主菌Streptomyces avermitilis(以下、S.avermitilisとする)の特異的部位(以下、attBTG1とする)と相同性が高い塩基配列をゲノム上に有するS.avermitilis以外の放線菌およびプロテオバクテリアを見出した。
そして、これらのS.avermitilis以外の放線菌およびプロテオバクテリアのゲノム上の塩基配列と、TG1ファージの特異的部位(attPTG1)との間で高い頻度でTG1インテグラーゼによる部位特異的組換反応が起こることを確認し、本発明の部位特異的遺伝子組換法、および該部位特異的遺伝子組換法による微生物ゲノム改変法を完成するに至った。
このようなTG1インテグラーゼが認識する特異的部位(attBTG1)と同様の作用を有する部位が、プロテオバクテリア等の放線菌群以外の細菌群でも存在することは本発明で初めて見出されたものであり、phiC31インテグラーゼ等の他のファージインテグラーゼにおいても認められていない。
【0010】
すなわち、本発明は次の(1)〜(8)の部位特異的遺伝子組換法、微生物ゲノム改変法等に関する。
(1)TG1インテグラーゼを用いることにより、TG1ファージのattPTG1と、TG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1と相同性の高い塩基配列を有する部位との間で遺伝子組換えを行う部位特異的遺伝子組換法。
(2)TG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1が、配列表配列番号2に記載の塩基配列を含むattBTG1である上記(1)に記載の部位特異的遺伝子組換法。
(3)TG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1と相同性の高い塩基配列を有する部位が、配列表配列番号3〜53のいずれかに記載の塩基配列を有する部位である上記(1)または(2)に記載の部位特異的遺伝子組換法。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の部位特異的遺伝子組換法による微生物ゲノム改変法。
(5)微生物がTG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1と相同性の高い塩基配列を有する部位をゲノム上に含む微生物である上記(4)に記載の微生物ゲノム改変法。
(6)TG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1と相同性の高い塩基配列を有する部位が、配列表配列番号3〜53のいずれかに記載の塩基配列を有する部位である上記(5)に記載の微生物ゲノム変換法。
(7)微生物がS.avermitilis以外の放線菌またはプロテオバクテリアである上記(4)〜(6)のいずれかに記載の微生物ゲノム変換法。
(8)S.avermitilis以外の放線菌がStreptomyces scabiei、Streptomyces coelicolor、Catenulispora acidiphila、Micrococcus luteus、Saccharomonospora viridis、Mycobacterium gilvum、Nocardia farcinica、Kytococcus sedentarius、Salinispora tropica、Salinispora arenicola、Clavibacter michiganensis、Arthrobacter aurescens 、Arthrobacter sp.、Thermobifida fusca、Kocuria rhizophila、Corynebacterium efficiens、Arthrobacter chlorophenolicus、Brachybacterium faecium、Streptomyces griseusまたはBeutenbergia cavernaeのいずれかであり、プロテオバクテリアがRhodospirillum palustris、Bradyrhizobium japonicum、Bradyrhizobium sp.、Methylobacterium sp.、Methylobacterium nodulans、Methylobacterium radiotolerans、Magnetospirillum magneticum、Oligotropha carboxidovorans、Sphingomonas wittichii、Methylobacterium populi、Phenylobacterium zucineum、Methylobacterium extorquens、Methylobacterium chloromethanicum、Caulobacter sp.、Novosphingobium aromaticivorans、Nitrobacter winogradskyi、Gluconacetobacter diazotrophicus、Gluconobacter oxydans、Parvibaculum lavamentivorans、Rhodospirillum rubrumまたはRhodospirillum centenumのいずれかである上記(7)に記載の微生物ゲノム変換法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の部位特異的遺伝子組換法および微生物ゲノム改変法により、S.avermitilis以外の放線菌やプロテオバクテリア属の菌においても、目的遺伝子の導入が可能となる。
本発明の微生物ゲノム改変法により、菌自体を改変することで生物分解性プラスチックの生産菌、バイオ燃料の生産菌、メタン分解菌等のプロテオバクテリア属の菌における生物分解性プラスチックやバイオ燃料の生産能、メタン分解能の向上等に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】attPTG1に対応するattB TG1と相同性の高い塩基配列を有する微生物の検索結果を示した図である(実施例1)。
【図2】attPTG1に対応するattB TG1と相同性の高い塩基配列を有する微生物の検索結果の一部を示した図である(実施例1)。
【図3】pUCIP−TG1のプラスミドマップを示した図である(実施例1)。
【図4】各微生物における部位特異的組換反応を示した図である(実施例1)。
【図5】phiC31ファージのattPに対応するattBと相同性の高い塩基配列を有する微生物の検索結果を示した図である(実施例1)。
【図6】微生物ゲノム改変法に用いるプラスミドベクターを示した図である(実施例2)。
【図7】微生物ゲノム改変法の一例を示した図である(実施例2)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の「部位特異的遺伝子組換法」とは、TG1インテグラーゼを用いることにより、TG1ファージのattPTG1と、TG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1と相同性の高い塩基配列を有する部位との間で遺伝子組換えを行うことをいう。
ここで、「TG1ファージのattPTG1」とは、TG1インテグラーゼによって認識されるTG1ファージゲノム上の特異的部位のことをいい、この「TG1ファージのattPTG1」は、配列表配列番号1で示されたattPTG1として機能する最小塩基配列を含む部位であることが好ましい。
また、「TG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1」とは、TG1インテグラーゼによって認識される宿主菌ゲノム上の特異的部位のことをいい、本願発明においては放線菌S.avermitilisのゲノム上に存在する、配列表配列番号2で示された塩基配列を含む部位のことをいう。
【0014】
このattBTG1と「相同性の高い塩基配列を有する部位」とは、attBTG1の塩基配列と相同性が高く、S.avermitilis以外の微生物ゲノム上に存在するTG1ファージのattPTG1によって認識され得る部位のことをいう。
attBTG1の塩基配列のうち、コアとなる塩基配列(配列表配列番号2に示された塩基配列のうち左から23番目と24番目の塩基(TT)からなる配列)を有する部位であることが好ましく、さらに、配列表配列番号2で示されたattBTG1の一部の塩基配列(46bp)と、FASTA program(http://fasta.ddbj.nig.ac.jp/top−j.html)で、E−value<5、identity>75%の条件で検索した場合に該当する塩基配列を有する部位であることが好ましい。このような部位としては、S.avermitilis以外の放線菌やプロテオバクテリア等のゲノム上に存在する配列表配列番号3〜53のいずれかに示される塩基配列を含む部位等が挙げられる。
【0015】
本発明の「微生物ゲノム改変法」とは、本発明の「部位特異的遺伝子組換法」により、微生物のゲノム上に発現させたい遺伝子等を組み込み、微生物ゲノムを改変することをいう。
この「微生物ゲノム改変法」の対象となる微生物は、本発明の「部位特異的遺伝子組換法」により、ゲノムの改変が可能な微生物であればいずれの微生物であっても良いが、TG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1と相同性の高い塩基配列を有する部位をゲノム上に含む微生物であることが好ましい。
このような微生物として、配列表配列番号3〜53のいずれかに記載の塩基配列を有する部位をゲノム上に含む微生物が挙げられる。配列表配列番号3〜53のいずれかに記載の塩基配列を有する部位をゲノム上に含むS.avermitilis以外の放線菌またはプロテオバクテリア等が該当する。
【0016】
例えば、配列表配列番号3〜53のいずれかに記載の塩基配列を有する部位をゲノム上に含むS.avermitilis以外の放線菌として、Streptomyces scabies(配列表配列番号3)、Streptomyces coelicolor A3(2)(同配列番号4)等のStreptomyces coelicolor、Catenulispora acidiphila DSM 44928(同配列番号5)等のCatenulispora acidiphila、Micrococcus luteus NCTC 2665(同配列番号6)等のMicrococcus luteus、Saccharomonospora viridis DSM 4301(同配列番号7)等のSaccharomonospora viridis、Mycobacterium gilvum PYR−GCK(同配列番号8)等のMycobacterium gilvum、Nocardia farcinica IFM 10152(同配列番号9)等のNocardia farcinica、Kytococcus sedentarius DSM 20547(同配列番号10)等のKytococcus sedentarius、Salinispora tropica CNB−440(同配列番号11)等のSalinispora tropica、Salinispora arenicola CNS−205(同配列番号12)等のSalinispora arenicola、Clavibacter michiganensis subsp(同配列番号13、14)等のClavibacter michiganensis、Arthrobacter aurescens TC1(同配列番号15)等のArthrobacter aurescens、Arthrobacter sp.FB24(同配列番号16)等のArthrobacter sp.、Thermobida fusca YX(同配列番号17)等のThermobifida fusca、Kocuria rhizophila DC2201(同配列番号18)等のKocuria rhizophila、Corynebacterium effciens YS−314(同配列番号19)等のCorynebacterium efficiens、Arthrobacter chlorophenolicus A6(同配列番号20)等のArthrobacter chlorophenolicus、Brachybacterium faecium DSM 4810(同配列番号21)等のBrachybacterium faecium、Streptomyces griseus subsp.(同配列番号22)等のStreptomyces、 griseus subsp.またはBeutenbergia cavernae DSM 12333(同配列番号23)等のBeutenbergia cavernaeが挙げられる。
【0017】
また、プロテオバクテリアとして、Rhodopseudomonas palustris TIE−1(同配列番号24)、Rhodopseudomonas palustris CGA009(同配列番号25)、Rhodopseudomonas palustris BisA53(同配列番号26)、Rhodopseudomonas palustris BisB18(同配列番号30)、Rhodopseudomonas palustris BisB5(同配列番号34)あるいはRhodopseudomonas palustris HaA2(同配列番号35)等のRhodospirillum palustris、Bradyrhizobium japonicum USDA 110(同配列番号27)等のBradyrhizobium japonicum、Bradyrhizobium sp.ORS278(同配列番号28)あるいはBradyrhizobium sp.BTAi1(同配列番号29)等のBradyrhizobium sp.、Methylobacterium sp.4−46(同配列番号31)等のMethylobacterium sp.、Methylobacterium nodulans ORS 2060(同配列番号32)等のMethylobacterium nodulans、Methylobacterium radiotolerans JCM(同配列番号33)等のMethylobacterium radiotolerans、Magnetospirillum magneticum AMB−1(同配列番号36)等のMagnetospirillum magneticum、Oligotropha carboxidovorans OM5(同配列番号37)等のOligotropha carboxidovorans、Sphingomonas wittichii RW1(同配列番号38)等のSphingomonas wittichii、Methylobacterium populi BJ001(同配列番号39)等のMethylobacterium populi、Phenylobacterium zucineum HLK1(同配列番号40)等のPhenylobacterium zucineum、Methylobacterium extorquens PA1(同配列番号41)、Methylobacterium extorquens AM1(同配列番号42)あるいはMethylobacterium extorquens DM4(同配列番号44)等のMethylobacterium extorquens、Methylobacterium chloromethanicum(同配列番号43)、Caulobacter sp.K31(同配列番号45)等のCaulobacter sp.、Novosphingobium aromaticivorans(同配列番号46)、Nitrobacter winogradskyi Nb−255(同配列番号47)等のNitrobacter winogradskyi、Gluconacetobacter diazotrophicus(同配列番号48、49)、Gluconobacter oxydans 621H(同配列番号50)等のGluconobacter oxydans、Parvibaculum lavamentivorans DS−1(同配列番号51)等のParvibaculum lavamentivorans、Rhodospirillum rubrum ATCC 11170(同配列番号52)等のRhodospirillum rubrumまたはRhodospirillum centenum SW(同配列番号53)等のRhodospirillum centenum等が挙げられる。
【0018】
本発明の「微生物ゲノム改変法」により、例えば、生物分解性プラスチックの生産菌として知られるRhodospirillum centenumに生物分解性プラスチックの生産に関連する遺伝子を組み込んだり、バイオ燃料の生産菌として知られるRhodopseudomonas palustrisにバイオ燃料の生産に関連する遺伝子を組み込んだり、メタン分解菌として知られるMethylobacterium sp.にメタン分解に関連する遺伝子を組み込んだりすることで、それぞれの微生物ゲノムを改変し、より有用な微生物を得ることができる。
【0019】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
<S.avermitilis以外の放線菌およびプロテオバクテリアの検討>
TG1ファージの宿主菌のひとつである S.avermitilis以外の微生物について、部位特異的組換反応を行う可能性があるものを探索した。
即ち、TG1インテグラーゼが認識するattBTG1のうち、コアとなる塩基配列(配列表配列番号2に示された塩基配列のうち左から23番目と24番目の塩基(TT)からなる配列)を中心にattBTG1の一部の塩基配列(配列表配列番号2)を取り出し、これを用いてFASTA program(http://fasta.ddbj.nig.ac.jp/top−j.html)で、E−value<5、identity>75%の条件で区切り、相同性の高い塩基配列を検索した。
その結果、図1に示したように、ゲノム上にattBTG1と同様に認識される可能性がある塩基配列(配列表配列番号3〜53)を有する微生物が複数見つかった。これらの微生物はいずれも放線菌(図1、青線内)またはプロテオバクテリア(図1、赤線内)であった。
図1に示された微生物のうち、特にattBTG1の一部の塩基配列(配列表配列番号2)に相同性の高い塩基配列を有する上位10種の微生物とその塩基配列を図2に示した。図2の上部はFASTA programによる相同性の高い塩基配列の検索結果を示したものであり、下部はこれらの塩基配列の比較結果を示したものである。
【0021】
これらの微生物のうち、Streptomyces属ではない2種の放線菌Salinispora tropica(配列表配列番号11)、Arthrobacter aurescens(配列表配列番号15)(以下、S.tropicaまたはA.aurescensとする)と、3種のプロテオバクテリア属Rhodospirillum centenum(配列表配列番号53)、Rhodopseudomonas palustris(配列表配列番号24)(以下、R.centenum、R.palustrisとする)およびMethylobacterium sp.(配列表配列番号31)について、attBTG1の一部の塩基配列(配列表配列番号2)と相同性の高い塩基配列(上記、各配列表配列番号)からなるDNA断片を用いて、in vitroにおけるTG1ファージのattPTG1と部位特異的組換反応が生じるかどうかを検討した。
検討にあたり、0.03pmolのpUCIP−TG1(図3)と3pmolのTG1インテグラーゼを用いた。pUCIP−TG1は、pUC19(タカラバイオ株式会社)をHincIIで切断したところに、pKU462(北里大学から供与、下記文献参照)をNsiIとXhoIで切断した、配列表配列番号1で示された塩基配列を含むattPTG1とTG1インテグラーゼ遺伝子(配列表配列番号54)とを含む領域を挿入することで構築した。
即ち、3pmolの精製したTG1インテグラーゼ、0.03pmolのattPTG1を含むpUCIP−TG1と、0、0.01、0.03、0.09または0.3pmolのattBTG1に相同性の高い塩基配列からなる各DNA断片とを全量10μlになるようにReaction buffer(20mM Tris−HCl pH7.5、10mM EDTA、25mM NaCl、10mM Spermidine、1mM DTT、0.1mg/ml BSA)に混合し、30℃で2時間反応を行った。反応後、75℃で10分間反応を行い、反応を停止させた。2μlの10×Loading bufferを添加し、1.0%のアガロースゲル電気泳動により確認した。
文献:Komatsu M, Tsuda M, Omura S, Oikawa H&Ikeda H (2008) Identification and functional analysis of genes controlling biosynthesis of 2−methylisoborneol. P Natl Acad Sci USA 105:7422-7427.
【0022】
その結果、S.avermitilisと同様に、これらの微生物においてもTG1ファージのattPTG1と部位特異的組換反応が生じることが確認された(図4)。図4においては、各微生物のattBTG1に相同性の高い塩基配列からなるDNA断片の量を0、0.01、0.03、0.09、0.3pmolとした場合の結果を左から示している。
これらの結果より、Streptomyces属ではない2種の放線菌および3種のプロテオバクテリア属を用いて、本発明の部位特異的遺伝子組換法および微生物ゲノム改変法を行うことが可能であることが示された。
【0023】
なお、TG1ファージと同じく放線菌を宿主菌とするphiC31ファージのattPに対応するattBと相同性の高い塩基配列を有する微生物をFASTA programで同様に検索をしたところ、放線菌のみが見つかり、TG1ファージのように、プロテオバクテリア属が検出されることはなかった(図5)。
【実施例2】
【0024】
<微生物ゲノム改変法>
本発明の部位特異的遺伝子組換法による微生物ゲノム改変法の一例を以下に示した。
1)プラスミドベクター(Integration vector)の構築
大腸菌の複製開始地点(ori)を持つプラスミドベクターに、カナマイシン、ネオマイシン耐性遺伝子(aphII)、マルチクローニングサイト(MCS)、TG1ファージの配列表配列番号1で示された塩基配列を含むattP TG1およびTG1インテグラーゼ遺伝子(配列表配列番号54)を有するプラスミドベクターを構築した(図6)。このプラスミドベクターのマルチクローニングサイトに、微生物ゲノムに導入したい目的遺伝子を挿入し、プラスミドベクター(Integration vector)(図7a、上部)を構築した。
【0025】
2)微生物ゲノム改変法
上記1)のプラスミドベクター(Integration vector)をエレクトロポレーション法またはプロトプラスト法によってゲノムを改変したい微生物に導入した(図7a)。
導入された微生物体内にてTG1インテグラーゼ遺伝子が発現し、プラスミドベクター(Integration vector)上のattPTG1と微生物ゲノム上の対応する部位(attBTG1に相同性の高い塩基配列からなる部位またはattBTG1に相同性の高い塩基配列を含む部位)間で部位特異的組換反応が生じ(図7b)、目的遺伝子を含むプラスミドベクター(Integration vector)がゲノムに導入された(図7c)。
プラスミドベクター(Integration vector)上の抗生物質耐性遺伝子に対応する抗生物質で選抜を行うことにより、目的遺伝子が導入されたかどうかの判別を行った。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の部位特異的遺伝子組換法および微生物ゲノム改変法により、放線菌やプロテオバクテリア属の菌に目的遺伝子を導入したり、菌自体を改変したりすることが可能となる。これにより、有用なタンパク質の産生や、生物分解性プラスチックの生産菌、バイオ燃料の生産菌、メタン分解菌等のプロテオバクテリア属の菌における生物分解性プラスチックやバイオ燃料の生産能、メタン分解能の向上等に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TG1インテグラーゼを用いることにより、TG1ファージのattPTG1と、TG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1と相同性の高い塩基配列を有する部位との間で遺伝子組換えを行う部位特異的遺伝子組換法。
【請求項2】
TG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1が、配列表配列番号2に記載の塩基配列を含むattBTG1である請求項1に記載の部位特異的遺伝子組換法。
【請求項3】
TG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1と相同性の高い塩基配列を有する部位が、配列表配列番号3〜53のいずれかに記載の塩基配列を有する部位である請求項1または2に記載の部位特異的遺伝子組換法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の部位特異的遺伝子組換法による微生物ゲノム改変法。
【請求項5】
微生物がTG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1と相同性の高い塩基配列を有する部位をゲノム上に含む微生物である請求項4に記載の微生物ゲノム改変法。
【請求項6】
TG1ファージのattPTG1に対応するattBTG1と相同性の高い塩基配列を有する部位が、配列表配列番号3〜53のいずれかに記載の塩基配列を有する部位である請求項5に記載の微生物ゲノム変換法。
【請求項7】
微生物がS.avermitilis以外の放線菌またはプロテオバクテリアである請求項4〜6のいずれかに記載の微生物ゲノム変換法。
【請求項8】
S.avermitilis以外の放線菌がStreptomyces scabiei、Streptomyces coelicolor、Catenulispora acidiphila、Micrococcus luteus、Saccharomonospora viridis、Mycobacterium gilvum、Nocardia farcinica、Kytococcus sedentarius、Salinispora tropica、Salinispora arenicola、Clavibacter michiganensis、Arthrobacter aurescens、Arthrobacter sp.、Thermobifida fusca、Kocuria rhizophila、Corynebacterium efficiens、Arthrobacter chlorophenolicus、Brachybacterium faecium、Streptomyces griseusまたはBeutenbergia cavernaeのいずれかであり、プロテオバクテリアがRhodospirillum palustris、Bradyrhizobium japonicum、Bradyrhizobium sp.、Methylobacterium sp.、Methylobacterium nodulans、Methylobacterium radiotolerans、Magnetospirillum magneticum、Oligotropha carboxidovorans、Sphingomonas wittichii、Methylobacterium populi、Phenylobacterium zucineum、Methylobacterium extorquens、Methylobacterium chloromethanicum、Caulobacter sp.、Novosphingobium aromaticivorans、Nitrobacter winogradskyi、Gluconacetobacter diazotrophicus、Gluconobacter oxydans、Parvibaculum lavamentivorans、Rhodospirillum rubrumまたはRhodospirillum centenumのいずれかである請求項7に記載の微生物ゲノム変換法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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