説明

部分めっき装置及び部分めっき方法

【課題】金属条ホールに変形を生じさせることなく金属条への部分めっきを可能とする部分めっき装置及び部分めっき方法を提供する。
【解決手段】長尺金属条11を円筒状ドラム110の外周部に沿って巻回し、円筒状ドラムに設けられためっき穴を介してめっき液を供給することにより長尺金属条の一部をめっきする部分めっき装置において、円環状ベルトホール12aが長手方向所定間隔で形成されかつ一部が駆動機構に連結された円環状ベルト12が円筒状ドラムの外周部に前記長尺金属条と並んだ状態で巻回され、当該巻回状態で円筒状ドラムの外周部に設けられた複数の突起部113が円環状ベルトホールに挿入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば端子に加工される長尺金属条の所定領域に部分めっきを施す部分めっき装置及び部分めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から長尺金属条の所定領域に部分めっきを施す部分めっき装置が種々知られている(例えば特許文献1乃至3参照)。ここで、特許文献1に記載のスポットめっき装置は、熱膨張による長尺金属条の外れ対策として金属やセラミック製のドラムを用いると共に、ドラム自体を駆動させる構成を有している。
【0003】
また、特許文献2に記載の鍍金装置は、歯車を使用し位置決めホイールとマスクホイールを同調させると共に、歯車とマスクホイールの周方向の相対的な位置を変更可能な構造を有している。
【0004】
また、特許文献3に記載の金属条へのスポットめっき装置は、複数めっき穴及び突起部を有し、円周方向に回転自在な円筒状の樹脂製部材と、円筒部材の両側から対向位置で挟持された剛性ホイールと、金属条を押圧機構により円筒に押し当てた無限ベルトとを備えた構成となっている。
【特許文献1】特開2006−283127号公報
【特許文献2】特開2004−52031号公報
【特許文献3】特開2000−87289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のスポットめっき装置は、同文献の段落(0032)及び段落(0043)に記載されたように、支持体ドラムのドラム本体の外周面に円周方向に亘って複数の突起部及び複数のめっき穴を設け、突起部を金属条に設けられたキャリア穴と嵌合して金属条を支持体ドラム表面の所定の位置に正確に定着させると共に、支持体ドラムを回転させることによって、金属条を強制的に引っ張ってこれを巻取側装置により巻き取っている。
【0006】
また、特許文献2に記載の鍍金装置は、同文献の段落(0042)に記載されたように、第1の歯車とホイール部とが回転することにより、長尺金属条をマスクホイールに向かって送り出すようになっている。そして、長尺金属条は、同文献の図1に示す様に突起に長尺金属条の穴が係合することにより、ホイール部の回転を介して強制的に送り出されて最終的に案内ローラを介して巻き取られるようになっている。
【0007】
また、特許文献3に記載の金属条へのスポットめっき装置は、同文献の段落(0014)及び段落(0021)に記載されたように金属条の長手方向に複数のキャリア用穴が穿設され、このキャリア用穴に支持体の外周面に設けられた複数の突起部が嵌合されるようになっている。また、金属条が巻き取り装置により巻き取られることにより、金属条の支持体のキャリア用穴に嵌合した支持体の突起部を介して支持体が回転するようになっている。
【0008】
以上、各特許文献に記載された構成によると、金属条に形成されたキャリア用穴にドラムの周面に形成された突起部を係合して金属条を巻き取り装置で巻き取るか、ドラムを回転させることによってめっき前の金属条をめっき装置側に引き込むと共にめっき後の金属条をめっき装置から送り出す。
【0009】
このような構成によると、このめっき工程において金属条のキャリア穴にドラム突起部が当たることで過大な応力が作用し、キャリア穴がかじる(変形する)ことがある。このようにキャリア穴に変形が生じると、その後の工程で金属条に何らかの処理を行う場合に、このキャリア穴を位置決め穴として使用しても正確な位置決めができず、その後の工程で支障が生じる場合がある。
【0010】
本発明は、長尺金属条に設けられているホールに変形を生じさせることなく長尺金属条への部分めっきを可能とする部分めっき装置及び部分めっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る部分めっき装置は、
長尺金属条を円筒状ドラムの外周部に沿って巻回し、前記円筒状ドラムに設けられためっき穴を介してめっき液を供給することにより前記長尺金属条の一部をめっきする部分めっき装置において、
円環状ベルトホールが長手方向所定間隔で形成されかつ一部が駆動機構に連結された円環状ベルトが前記円筒状ドラムの外周部に前記長尺金属条と並んだ状態で巻回され、当該巻回状態で前記円筒状ドラムの外周部に設けられた複数の突起部が前記円環状ベルトホールに挿入されていることを特徴としている。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、従来のように長尺金属条に形成された長尺金属条ホールに円筒状ドラムの突起部を係合させて円筒状ドラムを回転させることにより長尺金属条を移動させる構成をとっていないので、長尺金属条ホールが円筒状ドラムの突起部の引張り力によってかじる(変形する)おそれがない。
【0013】
これによって、部分めっきを行った後の工程で長尺金属条ホールを位置決め穴として使用する場合に、この位置決めをしっかり行うことができる。その結果、長尺金属条を信頼性の高い加工品に加工することができる。
【0014】
また、本発明の請求項2に係る部分めっき装置は、請求項1に記載の部分めっき装置において、
前記円環状ベルトホールの間隔が前記長尺金属条ホールの間隔の整数倍であることを特徴としている。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、長尺金属条ホールと円環状ベルトホールとの間の相対的な位置関係がずれた場合であっても、長尺金属条ホールの位置と円環状ベルト側突起部の位置とを比較することですぐにこれを確認することができる。その結果、円筒状ドラムに対する長尺金属条の滑りの有無を確実にチェックすることができる。
【0016】
また、本発明の請求項3に係る部分めっき装置は、請求項1に記載の部分めっき装置において、
前記円環状ベルトホールを前記円筒状ドラムに巻回した際の巻回部径が前記円筒状ドラムの長尺金属条が巻回された部分の径より大きいことを特徴としている。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、円環状ベルトが巻回された部分の円筒状ドラムに少ない動力で大きな回転力を発揮させることができるので、円筒状ドラムに巻回された長尺金属条を小さな駆動力で効率良く移動させることができる。
【0018】
また、本発明の請求項4に係る部分めっき装置は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の部分めっき装置において、
前記円筒状ドラムの外周部のうち円環状ベルトが巻回される領域のみに前記円筒状ドラムの複数の突起部が突出形成されていることを特徴としている。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、円筒状ドラムに形成された複数の突起部を長尺金属条ホールに係合させることがないので、長尺金属条の変形を確実に防止できる。
【0020】
また、本発明の請求項5に係る部分めっき装置は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の部分めっき装置において、
前記円筒状ドラムの外周部には前記長尺金属条が巻回された状態で前記長尺金属条ホールに挿入される複数の突出部が備わり、
前記円環状ベルトホールの内径と前記円筒状ドラムの突起部の外径のクリアランスが前記長尺金属条ホールの内径と前記円筒状ドラムの突出部の外径のクリアランスより小さいことを特徴としている。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、両クリアランスの関係がこのように規定されていることで、長尺金属条ホールに係合する突出部がこの長尺金属条ホールを変形させる前に円環状ベルトホールに係合する突起部が円環状ベルトホールを変形させるようになり、長尺金属条ホールの保護を図ることが可能となる。また、円筒状ドラムに突出部を持たせることで、金属条がドラム上を滑った場合でも、その際の位置ずれを前記クリアランスの範囲内に抑えることができる。
【0022】
また、本発明の請求項6に係る部分めっき装置は、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の部分めっき装置において、
前記円環状ベルトが金属条であることを特徴としている。
【0023】
請求項6に記載の発明によれば、円環状ベルトを長尺金属条と同等の材質とすることができるので、両者の熱膨張係数がほぼ一致し、めっき装置の設置された環境下での温度変化等の影響が円環状ベルトと長尺金属条の両者に同等に現れることになるため、長尺金属条と円環状ベルトとの間で相対的な位置ずれが発生しにくくなる。また、円環状ベルトを長尺金属条と同等の材質とすることにより、円環状ベルトおよび長尺金属条にホールを設ける際の加工誤差をほぼ同等にすることができ、円環状ベルトのホールと長尺金属条のホールの位置を同調させやすくなる。
【0024】
また、本発明の請求項7に係る部分めっき方法は、
長尺金属条を円筒状ドラムの外周部に沿って巻回し、
前記円筒状ドラムに設けられためっき穴を介してめっき液を供給することにより前記長尺金属条の一部をめっきする部分めっき方法において、
円環状ベルトホールが長手方向所定間隔で形成されかつ一部が駆動機構に連結された円環状ベルトを用意し、
前記円筒状ドラムの外周部に設けられた複数の突起部が前記円環状ベルトホールに挿入された状態で前記円環状ベルトを前記円筒状ドラムの外周部に前記長尺金属条と並べて巻回し、
前記長尺金属条に張力を付与して前記円筒状ドラムの外周部に前記長尺金属条を密着させることを特徴としている。
【0025】
請求項7に記載の発明によれば、長尺金属条に張力を与えて円筒状ドラムの外周部に長尺金属条を密着させているので、長尺金属条を移動させる際に長尺金属条ホールを変形させ難くかつ長尺金属条が円筒状ドラム外周に対し相対的な位置ずれを生じることがなく、長尺金属条の所望の領域のみに金属めっきを施すことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の部分めっき装置によれば、長尺金属条ホールに変形を生じさせることなく長尺金属条への部分めっきを可能とする部分めっき装置及び部分めっき方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の第1の実施形態に係る部分めっき装置について図面に基づいて説明する。本発明の第1の実施形態に係る部分めっき装置1は、図1乃至図3に示すように、円筒状ドラム110と円筒状ドラム110の内部に収容されためっき液噴出部120と、めっき液噴出部120に供給するめっき液を溜めると共にめっき液噴出部120から噴出されためっき液を回収するめっき槽130と、めっき槽130からめっき液噴出部120にめっき液を供給するポンプ140とを有している。
【0028】
そして、この円筒状ドラム110の外周部の幅方向には、図3に示すように例えば金属端子やその中間材である金属端子用プレス材などを形成する製品条(長尺金属条)11を巻回する第1の領域111と、円筒状ドラム110を回転させるためのエンドレス条(円環状ベルト)12を巻回する第2の領域112とが円筒状ドラムの110の回転軸方向で平行に並んで形成されている。
【0029】
円筒状ドラム110の製品条11が巻回されるドラム周面幅方向一側の第1の領域111には、スポットめっき穴111aが周方向所定間隔隔てて形成されている。また、円筒状ドラム110のエンドレス条12が巻回されるドラム周面幅方向他側の第2の領域112には、エンドレス条の円環状ベルトホール12aと係合する突起部113が所定間隔隔てて突出形成されている。なお、各スポットめっき穴111aの内周全体および円筒状ドラム110の表面側の各スポットめっき穴111a近傍には、めっき液が製品条11の所定箇所以外に付着しないようにするシール用ゴム部材111b(図4参照)が設けられている。シール用ゴム部材としては、シリコンゴムが好適に使用される。
【0030】
そして、エンドレス条12は、円筒状ドラム110の近傍に配置された駆動モータ150にも巻回され、円筒状ドラム110の突起部113とエンドレス条12の円環状ベルトホール12aが係合することによって、駆動モータ150の駆動力を介して円筒状ドラム110を回転させるようになっている。なお、エンドレス条12の外側部の一部は、ここでは図示しない張力付与機構を介して円筒状ドラム110の外周面に押付けられ、所定の張力を保つようになっている(図1中矢印F参照)。例えば、30mm幅で厚さ0.3mmのエンドレス条12に50N程度の張力を与える。また、突起部113の外径は3.9mmとする。これらの値はあくまでも一例である。
【0031】
製品条11には、その幅方向一側に偏倚してその長手方向に所定間隔を隔てて長尺金属条ホール11aが形成されている。そして、製品条11は、部分めっき装置1の図示しない電極と接続されて陰極とされている。なお、本実施形態の場合、製品条11は、黄銅などの銅合金からなる薄板を素材としており、例えば、エンドレス条12および円筒状ドラム110の突起部113の寸法を上記の値としたとき、製品条11は、幅65mm、厚さ0.3mm、ホール間隔25mm、ホール径4mmとする。これらの値はあくまでも一例である。そして、製品条11は、この部分めっき装置1による部分めっき及びこれに続く長尺金属条ホール11aを利用して位置決めを行う後工程を介して打抜き加工され、最終的には端子となる。また、エンドレス条12に形成された円環状ベルトホール12aの間隔は製品条11に形成された長尺金属条ホール11aの間隔と等しくなっている。
【0032】
製品条11は、これに部分めっきを行う円筒状ドラム110の周面に一部が巻回されると共に、この製品条11をガイドする4つのガイドドラム170(171〜174)に巻回されている。そして、4つのガイドドラム170の内、本実施形態の場合、円筒状ドラム110を挟む2つのガイドドラム172,173は、本実施形態では詳細には示さない張力付与手段を備え、この張力付与手段を介して図1の矢印X,Yに示すようにガイドドラム172,173の位置を上下に調整することによって、製品条11を円筒状ドラム110にしっかりと押さえ付けると共に、製品条11に一定の張力を付与し、円筒状ドラム110の回転時に製品条11が円筒状ドラム110の外周面に対して滑り難くしている。
【0033】
円筒状ドラム110の内側に設けられためっき液噴出部120は、めっき槽130からポンプ140を介して供給されためっき液を図中矢印Aに示すように円筒状ドラム110の内側に噴出し、上述した円筒状ドラム110の外周面の第1の領域111に所定間隔隔てて形成されたスポットめっき穴111aを介して製品条11を部分的にめっきするようになっている。ここで、各スポットめっき穴111aは、円筒状ドラムの周方向、回転軸方向にそれぞれ5mm、17mmの長方形状の穴としている。なお、各スポットめっき穴111aの形状、寸法等は上記の値に限られず、適宜決定される。
【0034】
そして、本実施形態に係る部分めっき装置1が上述した構成を有することで、駆動モータ150を駆動することにより、エンドレス条12を介して円筒状ドラム110を回転させ、この円筒状ドラム110に一定の張力を介してしっかりと巻回された製品条11を部分めっき装置1に送り込む(図1中矢印P参照)と共に、めっき液噴出部120によって部分的にめっきされた製品条11を部分めっき装置1から送り出す(図1中矢印Q参照)ようになっている。
【0035】
続いて、係る部分めっき装置1を用いた部分めっき方法について説明する。この部分めっき装置1を使用するにあたって、最初に上述した円環状ベルトホール12aが長手方向所定間隔隔てて形成されかつ一部が駆動モータ150に連結されたエンドレス条12を円筒状ドラム110に巻回する。この際、エンドレス条12を円筒状ドラム110の第2の領域112に巻回すると共に、円筒状ドラム110の外周部に設けられた複数の突起部113が円環状ベルトホール12aに挿入された状態で巻回する。また、エンドレス条12の一部を駆動モータ150に巻回する。
【0036】
次いで、製品条11を円筒状ドラム110の外周部の第1の領域111にエンドレス条12と並べて巻回する。この際、製品条11の円筒状ドラム110に巻回された部分以外は円筒状ドラム110を挟むように互いに対向配置された4つのガイドドラム170に巻回する。
【0037】
次いで、張力付与機構を介して円筒状ドラム110を隣接して挟む2つのガイドドラム172,173を若干移動させることで製品条11に張力を付与しつつ(図1中矢印X,Y参照)円筒状ドラム110に製品条11を密着させる。
【0038】
この際の張力は、例えば製品条11の条幅65mmの場合、200N程度で十分である。
【0039】
この程度の張力を製品条11に付与すれば、製品条側の張力がエンドレス条側の張力よりも大きくなり、製品条11が円筒状ドラム110の外周面において滑りにくい状態となるので、上述した実施形態のように製品条11の長尺金属条ホール11aに係合する円筒状ドラム110の外周面の第1の領域111に形成された従来の突出部をなくしても何ら支障が生じなくなる。
【0040】
このようにして製品条11を部分めっき装置1に取り付けた後、部分めっきを行う。この部分めっきを行うに際しては、駆動モータ150を駆動させエンドレス条12を介して円筒状ドラム110を回転させる。この際、円筒状ドラム110の外周面に設けられた複数の突起部113がエンドレス条12の円環状ベルトホール12aに挿入されているので、エンドレス条12を介して駆動モータ150の駆動力を円筒状ドラム110に無駄なく伝達し、円筒状ドラム110を効率的に回転させることができる。
【0041】
円筒状ドラム110が回転することで、張力付与手段によって円筒状ドラム110の外周部の第1の領域111に密着状態で巻回された製品条11を移動させることができる。これによって、製品条11は、ここでは図示しない送り出し装置から、円筒状ドラム110の上流側に配置されたガイドドラム171,172を介して円筒状ドラム110に送り込まれる(図1中矢印P参照)と共に、円筒状ドラム110の下流側に配置されたガイドドラム173,174を介してここでは図示ない巻き取り装置に向かって送り出される(図1中矢印Q参照)。また、図1において、図示しない送り出し装置とガイドドラム171との間、およびガイドドラム174と図示しない巻き取り装置との間には、部分めっき装置1において製品条11にかかる張力と、図示しない送り出し装置および図示しない巻き取り装置にかかる張力との縁を切るための図示しないローラが設置されていることが望ましい。
【0042】
この製品条11の部分めっき装置1への送り込みに伴って、部分めっき装置1のめっき槽130に溜められためっき液がポンプ140を介してめっき液噴出部120に供給され、めっき液噴出部120から円筒状ドラム110の内周面に噴出され、この内周面に形成されたスポットめっき穴111aを介して製品条11の一部のみに部分めっきを行う。
【0043】
このようにして一部がめっきされた製品条11を巻き取り装置に向かって送り出すことができる。これによって、製品条11を移動させる際に製品条11が巻回されている円筒状ドラム110との間に滑りを生じさせることなく、製品条11の所望の領域のみにめっきを施すことができる。
【0044】
続いて、係る部分めっき装置1を用いた部分めっき方法を行うことに伴う作用について説明する。上述の実施形態に係る部分めっき装置1によれば、エンドレス条12を介して駆動モータ150の駆動力を円筒状ドラム110に伝え、エンドレス条12の円環状ベルトホール12aと円筒状ドラム110の第2の領域112に形成された複数の突起部113との係合を介して駆動モータ150の駆動力を円筒状ドラムの回転力に効率良く変換することができる。そのため、従来のように製品条11に形成された長尺金属条ホール11aを円筒状ドラムの突起部を係合させて円筒状ドラムを回転させることにより製品条11を移動させる必要がない。その結果、従来の不具合である製品条11の長尺金属条ホール11aが円筒状ドラムの突起部の引張り力によってかじる(変形する)おそれがない。これによって、製品条11を信頼性の高い加工品に加工することができる。
【0045】
また、円環状ベルトホール12aの間隔が長尺金属条ホール11aの間隔が等しくなっていることで、長尺金属条ホール11aと円環状ベルトホール12aとの間の相対的な位置関係がずれた場合にすぐにこれを確認することができる。その結果、円筒状ドラム110に対する製品条11の滑りの有無を常にチェックすることができる。なお、部分めっき装置の起動時には、長尺金属条ホール11aと円筒状ドラム110の第2の領域112に形成された複数の突起部113とを所定の位置関係となるように正確に位置合わせすることが必要となる。位置合わせは、長尺金属条ホール11aに対応する突起と、円筒状ドラム110の突起部113に対応する貫通穴とを有する専用治具を、長尺金属条11が円筒状ドラム110にセットされた状態で円筒状ドラム110の外側から装着することで実現可能である。
【0046】
また、円筒状ドラム110の外周部のうちエンドレス条12の巻回部分である第2の領域112にのみ複数の突起部113が突出形成されているので、従来のように円筒状ドラムに形成された複数の突起部を製品条11の長尺金属条ホール11aに係合させることがない。これによって製品条11の変形を確実に防止できる。
【0047】
続いて、上述した第1の実施形態にかかる部分めっき装置1の変形例について説明する。なお、上述した第1の実施形態に係る部分めっき装置と同等の構成については詳細な説明を省略し、異なる構成についてその作用と共に説明する。
【0048】
本変形例に係る部分めっき装置1’は、上述した第1の実施形態に係る部分めっき装置1と異なり、図5に示すように円筒状ドラム110の外周部の長尺金属条ホール11aが巻回される第1の領域111において複数の突出部116が製品条11に形成された長尺金属条ホール11aに挿入されるように形成されている。なお、本変形例に係る部分めっき装置1’において、円筒状ドラム110やその周辺のガイドドラム(図示せず)に巻回された製品条11に付与される張力は適宜設定される。
【0049】
なお、エンドレス条12の円環状ベルトホール12aの内径と円筒状ドラム110の突起部113の外径のクリアランスは、製品条11の長尺金属条ホール11aの内径と円筒状ドラム110の突出部116の外径のクリアランスより小さくなっている。
【0050】
本変形例にかかる部分めっき装置1’がこのような構成を有することで、円筒状ドラム110の外周部の製品条11が巻回される第1の領域111において複数の突出部116がこの製品条11に形成された長尺金属条ホール11aに挿入されることで、製品条11を部分めっきする際に円筒状ドラム110と製品条11との間に滑りが生じることがない。
【0051】
また、エンドレス条12の円環状ベルトホール12aの内径と円筒状ドラム110の突起部113の外径のクリアランスが、製品条11の長尺金属条ホール11aの内径と円筒状ドラム110の突出部116の外径のクリアランスより小さくなっていることで、製品条11の長尺金属条ホール11aに係合する突出部116がこの長尺金属条ホール11aを変形させる前にエンドレス条12の円環状ベルトホール12aに係合する突起部113が円環状ベルトホール12aを変形させるようになり、製品条11の長尺金属条ホール11aの保護を図ることが可能となる。
【0052】
続いて、本発明の第2の実施形態に係る部分めっき装置について説明する。なお、上述した第1の実施形態に係る部分めっき装置と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。本発明の第2の実施形態に係る部分めっき装置2は、図6及び図7に示すように、円筒状ドラム210と円筒状ドラム210の内部に収容されためっき液噴出部(図示せず)と、めっき液噴出部に供給するめっき液を溜めると共にめっき液噴出部から噴出されためっき液を回収するめっき槽(図示せず)と、めっき槽からめっき液噴出部にめっきを供給するポンプ(図示せず)とを有している。なお、これらの図示しない構成要素は、上述した第1の実施形態に係る部分めっき装置1の対応する構成要素と全く同一である。
【0053】
そして、この円筒状ドラム210の外周部は、外径の異なる2段構成を有し、円筒状ドラムの幅方向の外径の小さい小径部の外周部が、例えば金属端子やその中間材である金属端子用プレス材などを形成する製品条(長尺金属条)21を巻回する第1の領域211となっており、外径が大きい大径部の外周部が、円筒状ドラム210を回転させるためのエンドレス条22を巻回する第2の領域212として形成されている。そして、第1の領域211には上述の実施形態と同様の複数の突起部213が所定間隔隔てて突出形成されている。
【0054】
第2の実施形態に係る部分めっき装置2がこのような構成を有することで、エンドレス条22の円環状ベルトホール22aが円筒状ドラム210に巻回された際の巻回部の外径が製品条21の巻回される円筒状ドラム210の第1の領域211の外径よりも大きくなるので、エンドレス条22が巻回された部分の円筒状ドラム210に少ない動力で大きな回転力を発揮させることができる。その結果、円筒状ドラム210に巻回された製品条21を小さな駆動力で効率良く移動させることができるようになる。
【0055】
また、めっき液の温度が変化すると、円筒状ドラム210の外径が変化するが、エンドレス条22の円環状ベルトホール22aが円筒状ドラム210に巻回された際の巻回部の外径が製品条21の巻回される円筒状ドラム210の第1の領域211の外径よりも大きくなっているため、突起部とホールとのクリアランスの変化が、製品条21側よりもエンドレス条22側で大きく現れ、エンドレス条22側でクリアランスを規制することができる。
【0056】
続いて、上述した第2の実施形態の作用を裏付けるために部分めっき装置2を用いて実際に実験したので、この実験結果について説明する。この実験に際して、部分めっき装置のめっき液温度は55±5℃とし、円筒状ドラム210はアクリル製で、図8に示すように第1の領域211の半径R1=100mm、第2の領域212の半径R2=150mmのものを使用した。ここで、製品条の熱膨張率α=9×10−5として温度変動ΔT=+10℃の場合における円筒状ドラム周長増加量(ドラム半周)を求めた。
【0057】
この際の円筒状ドラム周長増加量は、
ΔR1=α・R1/ΔT=(9×10−5)×150×10=0.135
→2π・ΔR1/2=0.424
ΔR2=α・R2/ΔT=(9×10−5)×100×10= 0.09
→2π・ΔR2/2=0.283であった。
【0058】
ここで、突起部(突出部)が半周で5本形成された場合、突起部(突出部)と各ホールの最小クリアランスΔL1(エンドレス条22と突起部213との間のクリアランス)、ΔL2(製品条11と突出部216との間のクリアランス)は以下の通りとなった。
【0059】
(1)ΔL1=0.424/4=0.106
(2)ΔL2=0.283/4=0.071
ここで、ΔL1=ΔL2=0.085であれば、エンドレス条22の円環状ベルトホール22aは突出部213によってかじる(変形する)が、製品条21の長尺金属条ホール20aまではかじらない(変形しない)ことが明らかである。また、同条件で実験により確認したところ、第2の実施形態に係る部分めっき装置2においては、製品条21の長尺金属条ホール20aがかじる(変形する)前にエンドレス条22の円環状ベルトホール22aがかじる(変形する)ので、製品条21の保護を確実に行うことができることが分かった。ΔL1=0.09、ΔL2=0.08のときにも結果は同様であった。
【0060】
なお、加工公差が突出部外径±0.005、ホール内径±0.015程度であれば、クリアランス誤差は±0.02程度となり、ΔL1=0.02<ΔL2としておけば、スポット位置ずれ量は0.02以下となり、かじりは生じないことが分かった(現状の位置ずれ量は0.5程度である)。
【0061】
なお、上述して実施形態においては、エンドレス条の円環状ベルトホールの間隔が製品条の長尺金属条ホールの間隔と等しかったが、本発明ではこれには限定されずエンドレス条の円環状ベルトホールの間隔が製品条の長尺金属条ホールの間隔の整数倍であっても良い。
【0062】
このような構成によれば、製品条の長尺金属条ホールとエンドレス条の円環状ベルトホールとの間の相対的な位置関係がずれた場合であっても、長尺金属条ホールの位置と円環状ベルト側突起部の位置とを例えば当該箇所の画像等を利用して比較することですぐにこれを確認することができる。その結果、円筒状ドラムに対する長尺金属条の滑りの有無を常にチェックすることができる。
【0063】
また、円環状ベルトをなすエンドレス条が長尺金属条をなす製品条と同等の金属条から構成されていても良い。
【0064】
このような構成によれば、エンドレス条を製品条と同等の材質とすることができるので、両者の熱膨張係数がほぼ一致し、めっき装置の設置された環境下での温度変化等の影響が円環状ベルトと長尺金属条の両者に同等に現れることになるため、長尺金属条と円環状ベルトとの間で相対的な位置ずれが発生しにくくなる。また、円環状ベルトを長尺金属条と同等の材質とすることにより、円環状ベルトおよび長尺金属条にホールを設ける際の加工誤差をほぼ同等にすることができ、円環状ベルトのホールと長尺金属条のホールの位置を同調させやすくなる。
【0065】
以上説明したように、本発明に係る部分めっき装置及びこれを用いた部分めっき方法によると、従来のように長尺金属条に形成された長尺金属条ホールを円筒状ドラムの突起部を係合させて円筒状ドラムを回転させることにより長尺金属条を移動させる構成をとっていないので、長尺金属条ホールが円筒状ドラムの突起部の引張り力によってかじる(変形する)おそれがない。
【0066】
これによって、部分めっきを行った後の工程で長尺金属条ホールを位置決め穴として使用する場合に、この位置決めをしっかり行うことができる。その結果、長尺金属条を信頼性の高い加工品に加工することができる。
【0067】
また、円環状ベルトホールの間隔が長尺金属条ホールの間隔の整数倍であることで、長尺金属条ホールと円環状ベルトホールとの間の相対的な位置関係がずれた場合であっても、長尺金属条ホールの位置と円環状ベルト側突起部の位置とを比較することですぐにこれを確認することができる。その結果、円筒状ドラムに対する長尺金属条の滑りの有無を常にチェックすることができる。
【0068】
また、円環状ベルトホールを円筒状ドラムに巻回した際の巻回部径が円筒状ドラム径より大きいことで、円環状ベルトが巻回された部分の円筒状ドラムに少ない動力で大きな回転力を発揮させることができるので、円筒状ドラムに巻回された長尺金属条を小さな駆動力で効率良く移動させることができる。
【0069】
また、円筒状ドラムの外周部のうち円環状ベルトの巻回部分のみに円筒状ドラムの複数の突起部が突出形成されていることで、円筒状ドラムに形成された複数の突起部を長尺金属条ホールに係合させないので、長尺金属条の変形を確実に防止できる。
【0070】
また、円環状ベルトが金属条であることで、両者の熱膨張係数がほぼ一致し、めっき装置の設置された環境下での温度変化等の影響が円環状ベルトと長尺金属条の両者に同等に現れることになるため、長尺金属条と円環状ベルトとの間で相対的な位置ずれが発生しにくくなる。また、円環状ベルトを長尺金属条と同等の材質とすることにより、円環状ベルトおよび長尺金属条にホールを設ける際の加工誤差をほぼ同等にすることができ、円環状ベルトのホールと長尺金属条のホールの位置を同調させやすくなる。
【0071】
また、円環状ベルトホールの内径と円筒状ドラムの突出部の外径のクリアランスが長尺金属条ホールの内径と円筒状ドラムの突出部の外径のクリアランスより小さいように規定されていることで、長尺金属条ホールに係合する突起部がこの長尺金属条ホールを変形させる前に円環状ベルトホールに係合する突起部が円環状ベルトホールを変形させるようになり、長尺金属条ホールの保護を図ることが可能となる。
【0072】
また、本発明に係る部分めっき方法によれば、長尺金属条に張力を与えて円筒状ドラムの外周面にこの長尺金属条を密着させているので、長尺金属条を移動させる際に長尺金属条ホールを変形させ難くかつ長尺金属条と円筒状ドラムとの間に滑りを生じさせ難くなり、長尺金属条の所望の領域のみに金属めっきを施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る部分めっき装置の全体構成を概略的に示す正面図である。
【図2】図1に示した部分めっき装置の円筒状ドラムを拡大して示す正面図である。
【図3】図2に示した円筒状ドラムの側面図である。
【図4】シール用ゴム部材を示す正面図(左側)及び側方断面図(右側)である。
【図5】図1に示した第1の実施形態に係る部分めっき装置の変形例を示す図3に対応する側面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る部分めっき装置を図2に対応して示す正面図である。
【図7】図6に示した第2の実施形態に係る部分めっき装置の円筒状ドラムの側面図である。
【図8】図6に示した円筒状ドラムの作用を説明するための側面図である。
【符号の説明】
【0074】
1,1’,2 部分めっき装置
11 製品条(長尺金属条)
11a 長尺金属条ホール
12 エンドレス条(円環状ベルト)
12a 円環状ベルトホール
21 製品条(長尺金属条)
22 エンドレス条
22a 円環状ベルトホール
110 円筒状ドラム
111 第1の領域
111a スポットめっき穴
111b シール用ゴム部材
112 第2の領域
113 突起部
116 突出部
120 めっき液噴出部
130 めっき槽
140 ポンプ
150 駆動モータ
170(171〜174) ガイドドラム
210 円筒状ドラム
211 第1の領域
212 第2の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺金属条を円筒状ドラムの外周部に沿って巻回し、前記円筒状ドラムに設けられためっき穴を介してめっき液を供給することにより前記長尺金属条の一部をめっきする部分めっき装置において、
円環状ベルトホールが長手方向所定間隔で形成されかつ一部が駆動機構に連結された円環状ベルトを前記円筒状ドラムの外周部に前記長尺金属条と並んだ状態で巻回し、当該巻回状態で前記円筒状ドラムの外周部に設けられた複数の突起部が前記円環状ベルトホールに挿入されていることを特徴とする部分めっき装置。
【請求項2】
前記円環状ベルトホールの間隔が前記長尺金属条ホールの間隔の整数倍であることを特徴とする、請求項1に記載の部分めっき装置。
【請求項3】
前記円環状ベルトホールを前記円筒状ドラムに巻回した際の巻回部径が前記円筒状ドラムの前記長尺金属条の巻回された部分の径より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の部分めっき装置。
【請求項4】
前記円筒状ドラムの外周部のうち前記円環状ベルトが巻回される領域のみに前記円筒状ドラムの複数の突起部が突出形成されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の部分めっき装置。
【請求項5】
前記円筒状ドラムの外周部には前記長尺金属条が巻回された状態で前記長尺金属条ホールに挿入される複数の突出部が備わり、
前記円環状ベルトホールの内径と前記円筒状ドラムの突起部の外径のクリアランスが前記長尺金属条ホールの内径と前記円筒状ドラムの突出部の外径のクリアランスより小さいことを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の部分めっき装置。
【請求項6】
前記円環状ベルトが金属条であることを特徴とする、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の部分めっき装置。
【請求項7】
長尺金属条を円筒状ドラムの外周部に沿って巻回し、前記円筒状ドラムに設けられためっき穴を介してめっき液を供給することにより前記長尺金属条の一部をめっきする部分めっき方法において、
円環状ベルトホールが長手方向所定間隔で形成されかつ一部が駆動機構に連結された円環状ベルトを用意し、
前記円筒状ドラムの外周部に設けられた複数の突起部が前記円環状ベルトホールに挿入された状態で前記円環状ベルトを前記円筒状ドラムの外周部に前記長尺金属条と並べて巻回し、
前記長尺金属条に張力を付与して前記円筒状ドラムの外周部に前記長尺金属条を密着させることを特徴とする部分めっき方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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