説明

部分アシル化シクロデキストリンの製造方法および部分アシル化ロタキサンの製造方法

【課題】シクロデキストリンの水酸基数を簡便に効率良く制御することのできるシクロデキストリンの製造方法およびロタキサンの製造方法を提供する。
【解決手段】シクロデキストリンまたはシクロデキストリンを輪成分とするロタキサンと、ビニルエステル類とを、酸触媒下で反応させて、シクロデキストリンの一部又は全部の水酸基を、ビニルエステル類のアシル基でアシル化してアシル化シクロデキストリンまたはアシル化ロタキサンを製造し、得られたアシル化シクロデキストリンまたはアシル化ロタキサンの一部のアシル基を脱アシル化して水酸基にし、もって水酸基数が制御された部分アシル化シクロデキストリンまたは部分アシル化ロタキサンを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロデキストリンの一部の水酸基がアシル化された部分アシル化シクロデキストリンの製造方法、およびシクロデキストリンの一部の水酸基がアシル化されたシクロデキストリンアシル誘導体を輪成分とする部分アシル化ロタキサンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリンは水酸基を多数有しており、具体的には、1分子あたり一番少ないα−シクロデキストリンでも18個の水酸基を有しており、その水酸基数の制御が問題となっている。
【0003】
一方、ロタキサンの一種として、シクロデキストリンの開口部に直鎖状分子が貫通し、直鎖状分子の両末端を封鎖したロタキサンが知られている。このロタキサンにおいても、上記と同様に、輪成分であるシクロデキストリンにおける水酸基数の制御が問題となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シクロデキストリンにおける水酸基数の制御方法の一例として、メチル化剤を使用してシクロデキストリンの水酸基をメチル化する方法がある。この方法によれば、メチル化剤の量をコントロールすることにより、シクロデキストリンに残す水酸基の数を制御することは可能である。しかし、反応時間が長く、精製にも時間がかかるため、効率的ではない。また、反応性の高い水酸基を残すためには、残したい水酸基を保護基等により保護する必要があり、煩雑な作業を要する。
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、シクロデキストリンの水酸基数を簡便に効率良く制御することのできるシクロデキストリンの製造方法およびロタキサンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、シクロデキストリンと、ビニルエステル類とを、酸触媒下で反応させて、前記シクロデキストリンの一部又は全部の水酸基を、前記ビニルエステル類のアシル基でアシル化してアシル化シクロデキストリンを製造し、得られた前記アシル化シクロデキストリンの一部のアシル基を脱アシル化して水酸基にすることを特徴とする部分アシル化シクロデキストリンの製造方法を提供する(請求項1)。
【0007】
上記発明(請求項1)によれば、シクロデキストリンのアシル化および脱アシル化を組み合わせることにより、シクロデキストリンの水酸基数の制御を容易に行うことができる。また、各反応は短時間で進行し得るため、シクロデキストリンの水酸基数の制御を効率良く行うことができる。場合によっては、保護基を別に使用して水酸基を保護することなく、得られる部分アシル化シクロデキストリンにおいて、反応性の高い水酸基を存在させることが可能である。
【0008】
上記発明(請求項1)においては、前記ビニルエステル類を溶媒として使用することが好ましい(請求項2)。
【0009】
上記発明(請求項1,2)においては、前記ビニルエステル類として、酢酸イソプロペニルを使用することが好ましい(請求項3)。
【0010】
上記発明(請求項1〜3)においては、前記シクロデキストリンのアシル化工程において、前記シクロデキストリンの全部の水酸基をアシル化してパーアシル化シクロデキストリンとすることが好ましい(請求項4)。かかる発明によれば、水酸基数が少ない部分アシル化シクロデキストリンを製造することが可能となり、したがって水酸基数の制御をより広い範囲で行うことができる。また、かかる発明によれば、脱アシル化の開始状態をそろえることができるため、より正確な水酸基数の制御が可能となる。
【0011】
上記発明(請求項1〜4)においては、前記アシル化シクロデキストリンに求核剤および塩基を作用させることにより、前記アシル化シクロデキストリンの脱アシル化を行うことが好ましい(請求項5)。
【0012】
上記発明(請求項5)によれば、アシル化シクロデキストリンの脱アシル化を短時間で効率良く行うことができるとともに、求核剤および塩基の添加量を調整することにより、脱アシル化度合いの制御、すなわち水酸基数の制御を容易に行うことができる。
【0013】
第2に本発明は、シクロデキストリンの開口部に直鎖状分子が貫通し、前記直鎖状分子の両末端にブロック基を有してなるロタキサンと、ビニルエステル類とを、酸触媒下で反応させて、前記シクロデキストリンの一部又は全部の水酸基を、前記ビニルエステル類のアシル基でアシル化してアシル化ロタキサンを製造し、得られた前記アシル化ロタキサンにおけるシクロデキストリンの一部のアシル基を脱アシル化して水酸基にすることを特徴とする部分アシル化ロタキサンの製造方法を提供する(請求項6)。
【0014】
上記発明(請求項6)によれば、ロタキサンの輪成分であるシクロデキストリンのアシル化および脱アシル化を組み合わせることにより、ロタキサンにおける水酸基数の制御を容易に行うことができる。また、各反応は短時間で進行し得るため、ロタキサンにおける水酸基数の制御を効率良く行うことができる。さらには、保護基を別に使用して水酸基を保護することなく、得られる部分アシル化ロタキサンにおいて、反応性の高い水酸基を存在させることが可能である。
【0015】
上記発明(請求項6)においては、前記ビニルエステル類を溶媒として使用することが好ましい(請求項7)。
【0016】
上記発明(請求項6,7)においては、前記ビニルエステル類として、酢酸イソプロペニルを使用することが好ましい(請求項8)。
【0017】
上記発明(請求項6〜8)においては、前記ロタキサンのアシル化工程において、前記シクロデキストリンの全部の水酸基をアシル化してパーアシル化ロタキサンとすることが好ましい(請求項9)。かかる発明によれば、水酸基数が少ない部分アシル化ロタキサンを製造することが可能となり、したがって水酸基数の制御をより広い範囲で行うことができる。また、かかる発明によれば、脱アシル化の開始状態をそろえることができるため、より正確な水酸基数の制御が可能となる。
【0018】
上記発明(請求項6〜9)においては、前記アシル化ロタキサンに求核剤および塩基を作用させることにより、前記アシル化ロタキサンの脱アシル化を行うことが好ましい(請求項10)。
【0019】
上記発明(請求項10)によれば、アシル化ロタキサンの脱アシル化を短時間で効率良く行うことができるとともに、求核剤および塩基の添加量を調整することにより、脱アシル化度合いの制御、すなわち水酸基数の制御を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シクロデキストリンの水酸基数が制御された部分アシル化シクロデキストリンおよび部分アシル化ロタキサンを簡便に効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔部分アシル化シクロデキストリンの製造〕
本実施形態では、第1段階として、シクロデキストリンと、ビニルエステル類とを、酸触媒下で反応させて、シクロデキストリンの水酸基をアシル化してアシル化シクロデキストリンを製造する。このとき、ビニルエステル類としては、溶媒を兼ねることができるものを使用することが好ましい。具体的には、ビニルエステル類の液体中に、シクロデキストリンおよび酸触媒を加えて反応させることが好ましい。
【0022】
シクロデキストリンは、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンまたはγ−シクロデキストリンのいずれであってもよい。
【0023】
本発明において、ビニルエステル類とは、カルボン酸と二重結合を有する化合物が二重結合を構成する炭素原子を介してエステル結合した構造を有する化合物群をいい、当該二重結合には任意の官能基を有することができる。例えば、酢酸イソプロペニル、酢酸ビニル、安息香酸イソプロペニル、2−ベンゾキシペンタフルオロプロペン等が挙げられ、中でも、反応性が良好で、得られたアシル化ロタキサンの精製が容易な観点から、酢酸イソプロペニルおよび安息香酸イソプロペニルが好ましい。なお、ビニルエステル類として酢酸エステルを使用した場合、シクロデキストリンの水酸基はアセチル化されることとなる。
【0024】
ビニルエステル類の使用量は特に限定されず、溶媒として使用できる範囲で適宜選択することができる。
【0025】
酸触媒としては、水酸基のアシル化で一般的に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム、硫酸、塩酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸等を使用することができる。
【0026】
酸触媒の使用量は、触媒の種類によっても異なるが、一般的には、シクロデキストリン100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、特に2〜10質量部であることが好ましい。
【0027】
シクロデキストリンとビニルエステル類との反応は、加熱下において効率良く進行するため、通常は、ビニルエステル類とシクロデキストリンと酸触媒とを混合した後、加熱する。加熱温度は、40〜150℃であることが好ましく、特に60〜90℃であることが好ましい。
【0028】
反応時間は、0.5〜5時間であることが好ましく、特に、シクロデキストリンの水酸基を100%アシル化する場合には、1〜5時間であることが好ましい。上記反応は、このように短時間で進行し得る。
【0029】
以上の方法により、水酸基が80%以上、場合によっては100%アシル化されたアシル化シクロデキストリンを得ることができる。特に、ビニルエステル類として酢酸エステルを使用した場合には、シクロデキストリンの水酸基が80%以上、場合によっては100%アセチル化されたアセチル化シクロデキストリンを得ることができる。なお、精製は常法によって行えばよい。
【0030】
この第1段階で、100%アシル化されたアシル化シクロデキストリンを製造しておくことにより、水酸基数が少ない部分アシル化シクロデキストリンを製造することが可能となり、したがって水酸基数の制御をより広い範囲で行うことができる。また、このように脱アシル化の開始状態をそろえることにより、正確な水酸基数の制御が可能となる。
【0031】
以上のようにしてアシル化シクロデキストリンを製造したら、第2段階として、得られたアシル化シクロデキストリンの一部のアシル基を脱アシル化して水酸基にする。これにより、水酸基数が制御された部分アシル化シクロデキストリンが得られる。
【0032】
アシル化シクロデキストリンの脱アシル化は、アシル化シクロデキストリンに求核剤および塩基を作用させることにより行うことが好ましく、求核剤および塩基の添加量を調整することにより、脱アシル化度合いの制御、すなわち水酸基数の制御を容易に行うことができる。
【0033】
アシル化シクロデキストリンの脱アシル化は、アシル化シクロデキストリンが溶解可能な溶媒中で行うことが好ましい。かかる溶媒としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられ、中でもクロロホルムが好ましい。
【0034】
求核剤としては、例えば、メタノール、エタノール、過酸化水素等が挙げられ、中でも反応を効率良く進行させることのできるメタノールが好ましい。求核剤の使用量は、種類や反応条件にもよるが、例えばメタノールの場合には、アシル化シクロデキストリン100質量部に対して10〜5000質量部であることが好ましく、特に50〜3000質量部であることが好ましい。
【0035】
塩基としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、ヒドラジン、グアニジン、シアン化カリウム等が挙げられ、中でも反応を効率良く進行させることのできる炭酸カリウムが好ましい。塩基の使用量は、種類や反応条件にもよるが、例えば炭酸カリウムの場合には、アシル化シクロデキストリン100質量部に対して0.01〜100質量部であることが好ましく、特に0.1〜20質量部であることが好ましい。
【0036】
アシル化シクロデキストリンの脱アシル化反応は、加熱下において効率良く進行するため、通常は、アシル化シクロデキストリンと、求核剤および塩基とを混合した後、加熱する。加熱温度は、20〜80℃であることが好ましく、特に40〜60℃であることが好ましい。
【0037】
反応時間は、0.1〜3時間であることが好ましく、特に、0.5〜1.5時間であることが好ましい。反応は、このように短時間で進行し得る。
【0038】
上記方法により、アシル化シクロデキストリンの一部のアシル基が脱アシル化されて水酸基になり、水酸基数が制御された部分アシル化シクロデキストリンが得られる。例えば、α−シクロデキストリンの場合、水酸基数は0〜18個の範囲で制御することが可能である。
【0039】
また、上記方法によれば、保護基を別に使用して水酸基を保護することなく、得られる部分アシル化シクロデキストリンにおいて、反応性の高い水酸基、例えば1級の水酸基を存在させることが可能である。脱アシル化反応では、反応性の高いアシル基から反応が開始するからである。
【0040】
以上の方法によれば、簡便にかつ短時間で効率良く、シクロデキストリンの水酸基数を制御して部分アシル化シクロデキストリンを製造することができる。なお、精製は常法によって行えばよい。
【0041】
ここで、得られた部分アシル化シクロデキストリンは、制御された水酸基数に応じて、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、ハロゲン化アルキル類、アミド類等の有機溶媒および水に対する溶解性が変化する。したがって、得られた部分アシル化シクロデキストリンは、多様な用途に使用することができる。
【0042】
〔部分アシル化ロタキサンの製造〕
本実施形態では、第1段階として、シクロデキストリン分子の開口部に直鎖状分子が貫通し、その直鎖状分子の両末端にブロック基を有してなるロタキサンを製造する。このロタキサンの製造は、常法によって行うことができる。通常は、擬ロタキサンを製造し、次いで、得られた擬ロタキサンからロタキサンを製造する。
【0043】
本実施形態で製造する擬ロタキサンは、輪成分であるシクロデキストリン分子の開口部に、末端に官能基を有する直鎖状分子(軸分子)が貫通してなるものである。本実施形態では、最初に、末端に官能基を有する直鎖状分子を用意する。
【0044】
なお、本明細書において、「直鎖状分子」の「直鎖」は、実質的に「直鎖」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子上で環状分子(輪成分)が移動可能であれば、直鎖状分子は分岐鎖を有していてもよい。
【0045】
直鎖状分子としては、例えば、末端に官能基を有する炭素数8以上の直鎖状のアルカン、例えば、ジアミノオクタン、ジアミノデカン、ジアミノドデカン、ジアミノペンタデカン、ジアミノオクタデカン、ジアミノエイコサン;ポリテトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリジメチルシロキサン等が挙げられるが、シクロデキストリンの修飾率を考慮すると、末端に官能基を有する炭素数8〜20、特に炭素数10〜15の直鎖状のアルカンが好ましい。
【0046】
直鎖状分子の数平均分子量(Mn)は、200〜1,000,000であることが好ましく、特に1,000〜100,000であることが好ましい。数平均分子量が200未満であると、シクロデキストリンを貫通し難く、また、数平均分子量が1,000,000を超えると、シクロデキストリンの修飾率が低下するおそれがある。
【0047】
上記直鎖状分子の末端官能基としては、後述するブロック基と反応して直鎖状分子の末端を封鎖できるものであれば特に限定されないが、好ましくは、ヒドロキシル基、アミノ基、イソシアネート基、カルボキシル基、ビニル基およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用する。
【0048】
直鎖状分子が末端に上記官能基を有する場合には、当該官能基を使用すればよいが、直鎖状分子が末端に上記官能基を有しない場合、または有する場合であっても必要に応じて、直鎖状分子の末端に上記官能基を付加する。直鎖状分子の末端に対する上記官能基の付加は、従来公知の方法、例えば、Nature, 356, 325-327 (1992)に記載の方法などによって行うことができる。
【0049】
上記のように末端に官能基を有する直鎖状分子を用意したら、その直鎖状分子をシクロデキストリンで包接し(シクロデキストリンを直鎖状分子で串刺しにし)、擬ロタキサンを得る。
【0050】
シクロデキストリンは、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンまたはγ−シクロデキストリンのいずれであってもよい。
【0051】
擬ロタキサンの製造は、末端に官能基を有する直鎖状分子およびシクロデキストリンを溶媒中、通常は水中に存在させた状態にして(例えば、シクロデキストリンの水溶液に上記直鎖状分子を添加して)、その溶液を撹拌することによって行うことができる。加えて、撹拌後にその溶液を静置することが収率を向上させることができるので好ましい。好ましい静置期間は、1〜7日程度である。
【0052】
撹拌方法については特に制限はなく、常温または適当に制御された温度で、機械的撹拌処理、超音波処理などの方法で撹拌することができる。特に、超音波処理で撹拌することが貫通数を制御しやすいので好ましい。撹拌時間は、数分〜1時間の条件で行うことが好ましい。超音波の照射条件については特に制限はないが、周波数20〜40kHzで行うことが好ましい。
【0053】
以上のようにして擬ロタキサンを製造したら、その擬ロタキサンの直鎖状分子の末端官能基と反応し得るブロック基を当該末端官能基と反応させ、直鎖状分子の末端にブロック基を付加することにより、ロタキサンを得る。
【0054】
ブロック基としては、輪成分であるシクロデキストリンが直鎖状分子により串刺し状になった形態を保持し得る基であれば特に限定されないが、好ましくは、ジアルキルフェニル基類、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、アントラセン類等が適宜選択される。具体的には、ジメチルフェニルイソシアネート、トリチルフェニルイソシアネート等がブロック基用の反応試薬として好適に用いられる。
【0055】
直鎖状分子に対するブロック基の反応は、従来公知の方法、例えば、Nature, 356, 325-327 (1992)に記載の方法によって行うことができる。
【0056】
以上のようにしてロタキサンを製造したら、第2段階として、得られたロタキサンと、ビニルエステル類とを、酸触媒下で反応させて、シクロデキストリンの水酸基を、ビニルエステル類のアシル基でアシル化する。このとき、ビニルエステル類は溶媒として使用することが好ましい。具体的には、ビニルエステル類中に、ロタキサンおよび酸触媒を加えて反応させることが好ましい。
【0057】
ビニルエステル類および酸触媒としては、前述した部分アシル化ロタキサンの製造で使用したものと同様のものを使用することができる。
【0058】
ビニルエステル類の使用量は特に限定されず、溶媒として使用できる範囲で適宜選択することができる。
【0059】
酸触媒の使用量は、触媒の種類によっても異なるが、一般的には、シクロデキストリン100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、特に2〜10質量部であることが好ましい。
【0060】
ロタキサンとビニルエステル類との反応は、加熱下において効率良く進行するため、通常は、ビニルエステル類とロタキサンと酸触媒とを混合した後、加熱する。加熱温度は、40〜150℃であることが好ましく、特に60〜90℃であることが好ましい。
【0061】
反応時間は、0.5〜15時間であることが好ましく、特に、シクロデキストリンの水酸基を90%以上アシル化する場合には、5〜12時間であることが好ましく、シクロデキストリンの水酸基を100%アシル化する場合には、7〜12時間であることが好ましい。
【0062】
また、上記の反応工程を2回以上行うことにより、シクロデキストリンの水酸基を90%以上、場合によっては100%アシル化することができる。例えば、上記反応工程を2回行う場合には、反応工程一回当たりの反応時間は2〜6時間が好ましく、3〜5時間がさらに好ましい。2回目以降の反応を行う場合、前回の反応で得られたアシル化ロタキサンと、新たに用意したビニルエステル類および酸触媒とを混合して反応させてもよいし、前回の反応で得られたアシル化ロタキサンを、前回の反応で使用したビニルエステル類および酸触媒が残っている反応容器に投入して反応させてもよい。
【0063】
以上の方法により、シクロデキストリンの水酸基が80%以上、場合によっては100%アシル化されたシクロデキストリンアシル誘導体を輪成分とするアシル化ロタキサンを得ることができる。特に、ビニルエステル類として酢酸イソプロペニルを使用した場合には、シクロデキストリンの水酸基が80%以上、場合によっては100%アセチル化されたシクロデキストリンアセチル化誘導体を輪成分とするアセチル化ロタキサンを得ることができる。なお、精製は常法によって行えばよい。
【0064】
この第2段階で、100%アシル化されたアシル化ロタキサンを製造しておくことにより、脱アシル化の反応開始状態を揃えることができるため、より正確な水酸基数の制御が可能となる。加えて、ロタキサンをアシル化する従来の方法では、80%以上のアシル化が困難であり、そのため、水酸基数の少ない部分アシル化ロタキサンを製造することは困難であった。これに対し、本発明のように、第2段階で100%アシル化されたアシル化ロタキサンを製造しておくことにより、従来不可能であったアシル化の高い修飾率域での制御も可能となる。
【0065】
以上のようにしてアシル化ロタキサンを製造したら、第3段階として、得られたアシル化ロタキサンの輪成分であるシクロデキストリンアシル誘導体の一部のアシル基を脱アシル化して水酸基にする。これにより、シクロデキストリンの水酸基数が制御された部分アシル化ロタキサンが得られる。
【0066】
アシル化ロタキサンの脱アシル化は、アシル化ロタキサンに求核剤および塩基を作用させることにより行うことが好ましく、求核剤および塩基の添加量を調整することにより、脱アシル化度合いの制御、すなわち水酸基数の制御を容易に行うことができる。アシル化ロタキサンの脱アシル化は、アシル化ロタキサンが溶解可能な溶媒中で行うことが好ましい。
【0067】
溶媒、求核剤および塩基としては、前述した部分アシル化シクロデキストリンの製造で使用したものと同様のものを使用することができる。
【0068】
求核剤の使用量は、求核剤の種類や反応条件にもよるが、例えばメタノールを使用する場合、アシル化ロタキサン100質量部に対して10〜500質量部であることが好ましく、特に50〜300質量部であることが好ましい。また、塩基の使用量は、同様にその種類や反応条件にもよるが、例えば炭酸カリウムを使用する場合、アシル化ロタキサン100質量部に対して0.01〜100質量部であることが好ましく、特に0.1〜20質量部であることが好ましい。
【0069】
アシル化ロタキサンの脱アシル化反応は、加熱下において効率良く進行するため、通常は、アシル化ロタキサンと、求核剤および塩基とを混合した後、加熱する。加熱温度は、20〜80℃であることが好ましく、特に40〜60℃であることが好ましい。
【0070】
反応時間は、0.1〜3時間であることが好ましく、特に、0.5〜1.5時間であることが好ましい。反応は、このように短時間で進行し得る。
【0071】
上記方法により、アシル化ロタキサンの輪成分であるシクロデキストリンアシル誘導体の一部のアシル基が脱アシル化されて水酸基になり、シクロデキストリンの水酸基数が制御された部分アシル化ロタキサンが得られる。例えば、輪成分がα−シクロデキストリンの場合、α−シクロデキストリン1分子につき水酸基数は0〜18個の範囲で制御することが可能である。
【0072】
また、上記方法によれば、保護基を別に使用して水酸基を保護することなく、得られる部分アシル化ロタキサンのシクロデキストリンアシル誘導体において、反応性の高い水酸基、例えば1級の水酸基を存在させることが可能である。脱アシル化反応では、反応性の高いアシル基から反応が開始するからである。
【0073】
以上の方法によれば、簡便にかつ短時間で効率良く、輪成分であるシクロデキストリンの水酸基数を制御して部分アシル化ロタキサンを製造することができる。なお、精製は常法によって行えばよい。
【0074】
ここで、得られた部分アシル化ロタキサンは、制御された水酸基数に応じて、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、アミド類、ハロゲン化アルキル類等の有機溶媒および水に対する溶解性が変化する。したがって、得られた部分アシル化ロタキサンは、多様な用途に使用することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0076】
〔実施例1〕
α−シクロデキストリン(ナカライテスク社製)0.5gおよび触媒としてのp−トルエンスルホン酸20mgを、溶媒としての酢酸イソプロペニル5mlに加え、70℃で2時間反応させた。反応溶液を減圧留去し、得られた固体を10質量%炭酸ナトリウム水溶液で洗浄した後、アセトンにより再結晶させて、白色固体のアセチル化シクロデキストリン0.8gを得た。
【0077】
得られたアセチル化シクロデキストリンの一部を重クロロホルムに溶解し、H−NMR(日本電子社製,核磁気共鳴装置JNM−LA400/WB使用)で分析した。分析の結果、H−NMRチャートの5.1ppm付近のグルコース環の一位の炭素についたプロトン由来のピークと、2.1ppm付近のアセチル基由来のピークとの積分比より、アセチル化率(修飾率)は100%と算出された。
【0078】
得られたアセチル化シクロデキストリン50mgをクロロホルム2mlに溶解し、そして4mg/mlの炭酸カリウム/メタノール溶液0.1mlを添加し、50℃で1時間反応させた。反応溶液を減圧留去し、ヘキサンで洗浄した後、得られた固体(部分アセチル化シクロデキストリン)を重クロロホルムに溶解させ、H−NMR(日本電子社製,核磁気共鳴装置JNM−LA400/WB使用)で分析した。分析結果を図1に示す。
【0079】
分析の結果、H−NMRチャートの5.1ppm付近のグルコース環の一位の炭素についたプロトン由来のピークと、2.1ppm付近のアセチル基由来のピークとの積分比より、アセチル化率(修飾率)は65%と算出された。すなわち、水酸基の存在率は35%(水酸基の平均個数/シクロデキストリン1分子=6.3個)であることが分かった。
【0080】
〔実施例2〕
4mg/mlの炭酸カリウム/メタノール溶液の添加量を0.2mlに変更する以外、実施例1と同様にして部分アセチル化シクロデキストリンを製造した。
【0081】
実施例1と同様のH−NMRによる分析結果から、得られた部分アセチル化シクロデキストリンのアセチル化率は53%、すなわち水酸基の存在率は47%(水酸基の平均個数/シクロデキストリン1分子=8.5個)であることが分かった。
【0082】
〔実施例3〕
4mg/mlの炭酸カリウム/メタノール溶液の添加量を0.5mlに変更する以外、実施例1と同様にして部分アセチル化シクロデキストリンを製造した。
【0083】
得られたアセチル化シクロデキストリンの一部を重ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、H−NMR(日本電子社製,核磁気共鳴装置JNM−LA400/WB使用)で分析した。分析の結果、H−NMRチャートの4.9ppm付近のグルコース環の一位の炭素についたプロトン由来のピークと、2.0ppm付近のアセチル基由来のピークとの積分比より、アセチル化率(修飾率)は14%と算出された。すなわち、水酸基の存在率は86%(水酸基の平均個数/シクロデキストリン1分子=15.5個)であることが分かった。
【0084】
〔実施例4〕
4mg/mlの炭酸カリウム/メタノール溶液の添加量を1.0mlに変更する以外、実施例1と同様にして部分アセチル化シクロデキストリンを製造した。
【0085】
実施例3と同様のH−NMRによる分析結果から、得られた部分アセチル化シクロデキストリンのアセチル化率は9%、すなわち水酸基の存在率は91%(水酸基の平均個数/シクロデキストリン1分子=16.4個)であることが分かった。
【0086】
実施例1〜4の結果より、脱アシル化工程において炭酸カリウム/メタノール溶液の添加量を調整することにより、得られる部分アセチル化シクロデキストリンにおいて水酸基数を制御できることが分かる。
【0087】
〔実施例5〕
α−シクロデキストリン(ナカライテスク社製)の飽和水溶液5mlに、1,10−ジアミノデカン65mgを加え、超音波処理(周波数:25kHz)を60分間行った後、室温にて1日放置した。その後、氷浴中で攪拌しながら、3,5−ジメチルフェニルイソシアネート(Aldrich社製)550mgを滴下し、そのまま1時間攪拌した。次いで、反応溶液をテトラヒドロフラン中に注ぎ、析出した固体を回収し、水で洗浄した後、乾燥させて白色固体のロタキサン900mgを得た。
【0088】
得られたロタキサン900mgおよび触媒としてのp−トルエンスルホン酸20mgを、溶媒としての酢酸イソプロペニル10mlに加え、70℃で10時間反応させた。反応溶液を減圧留去し、得られた固体を10質量%炭酸ナトリウム水溶液で洗浄した。次いで、分取ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)により分子量3000付近のピークを回収し、白色固体のアセチル化ロタキサン400mgを得た。得られたアセチル化ロタキサンをH−NMR(日本電子社製,核磁気共鳴装置JNM−LA400/WB使用)で分析した。
【0089】
H−NMR分析の結果、シクロデキストリン由来の3〜6ppmのピークと、ブロック基である3,5−ジメチルフェニル基由来の6.7ppmおよび7.0ppm付近のピークとの積分比より、得られたアシル化ロタキサンはシクロデキストリンが2個入ったものであることが分かった。また、ブロック基である3,5−ジメチルフェニル基の芳香環由来の6.7ppm付近のピークと、アセチル化されたシクロデキストリンのアセチル基由来の2ppm付近の3本のピークとの積分比から、アセチル化率(修飾率)は100%であることが分かった。
【0090】
得られたアセチル化ロタキサン50mgをクロロホルム2mlに溶解し、そして4mg/mlの炭酸カリウム/メタノール溶液0.1mlを添加し、50℃で1時間反応させた。反応溶液を減圧留去し、水で洗浄した後、得られた固体(部分アセチル化ロタキサン)を重ジメチルスルホキシドに溶解させ、H−NMR(日本電子社製,核磁気共鳴装置JNM−LA400/WB使用)で分析した。分析結果を図2に示す。
【0091】
H−NMR分析の結果、ブロック基である3,5−ジメチルフェニル基の芳香環由来の6.7ppm付近のピークと、アセチル化されたシクロデキストリンのアセチル基由来の2ppm付近の3本のピークとの積分比から、アセチル化率(修飾率)は52%であることが分かった。すなわち、水酸基の存在率は48%(水酸基の平均個数/シクロデキストリン1分子=17.3個)であることが分かった。
【0092】
〔実施例6〕
4mg/mlの炭酸カリウム/メタノール溶液の添加量を0.2mlに変更する以外、実施例5と同様にして部分アセチル化ロタキサンを製造した。
【0093】
実施例5と同様のH−NMRによる分析結果から、得られた部分アセチル化ロタキサンのα−シクロデキストリンにおけるアセチル化率は40%、すなわち水酸基の存在率は60%(水酸基の平均個数/ロタキサン1分子=21.6個)であることが分かった。
【0094】
〔実施例7〕
4mg/mlの炭酸カリウム/メタノール溶液の添加量を0.5mlに変更する以外、実施例5と同様にして部分アセチル化ロタキサンを製造した。
【0095】
実施例5と同様のH−NMRによる分析結果から、得られた部分アセチル化ロタキサンのα−シクロデキストリンにおけるアセチル化率は21%、すなわち水酸基の存在率は79%(水酸基の平均個数/ロタキサン1分子=28.4個)であることが分かった。
【0096】
〔実施例8〕
4mg/mlの炭酸カリウム/メタノール溶液の添加量を1.0mlに変更する以外、実施例1と同様にして部分アセチル化ロタキサンを製造した。
【0097】
実施例5と同様のH−NMRによる分析結果から、得られた部分アセチル化ロタキサンのα−シクロデキストリンにおけるアセチル化率は5%、すなわち水酸基の存在率は95%(水酸基の平均個数/ロタキサン1分子=34.2個)であることが分かった。
【0098】
実施例5〜8の結果より、脱アシル化工程において炭酸カリウム/メタノール溶液の添加量を調整することにより、得られる部分アセチル化ロタキサンにおいてα−シクロデキストリンの水酸基数を制御できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、シクロデキストリンの水酸基数およびロタキサンの輪成分であるシクロデキストリンの水酸基数を簡便に効率良く制御することができる。得られた部分アシル化シクロデキストリンおよび部分アシル化ロタキサンは、制御された水酸基数に応じて有機溶媒に対する溶解性が変化するため、多様な用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】実施例1で製造した部分アシル化シクロデキストリンのH−NMRチャートである。
【図2】実施例5で製造した部分アシル化ロタキサンのH−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンと、ビニルエステル類とを、酸触媒下で反応させて、前記シクロデキストリンの一部又は全部の水酸基を、前記ビニルエステル類のアシル基でアシル化してアシル化シクロデキストリンを製造し、
得られた前記アシル化シクロデキストリンの一部のアシル基を脱アシル化して水酸基にする
ことを特徴とする部分アシル化シクロデキストリンの製造方法。
【請求項2】
前記ビニルエステル類を溶媒として使用することを特徴とする請求項1に記載の部分アシル化シクロデキストリンの製造方法。
【請求項3】
前記ビニルエステル類として、酢酸イソプロペニルを使用することを特徴とする請求項1または2に記載の部分アシル化シクロデキストリンの製造方法。
【請求項4】
前記シクロデキストリンのアシル化工程において、前記シクロデキストリンの全部の水酸基をアシル化してパーアシル化シクロデキストリンとすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の部分アシル化シクロデキストリンの製造方法。
【請求項5】
前記アシル化シクロデキストリンに求核剤および塩基を作用させることにより、前記アシル化シクロデキストリンの脱アシル化を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の部分アシル化シクロデキストリンの製造方法。
【請求項6】
シクロデキストリンの開口部に直鎖状分子が貫通し、前記直鎖状分子の両末端にブロック基を有してなるロタキサンと、ビニルエステル類とを、酸触媒下で反応させて、前記シクロデキストリンの一部又は全部の水酸基を、前記ビニルエステル類のアシル基でアシル化してアシル化ロタキサンを製造し、
得られた前記アシル化ロタキサンにおけるシクロデキストリンの一部のアシル基を脱アシル化して水酸基にする
ことを特徴とする部分アシル化ロタキサンの製造方法。
【請求項7】
前記ビニルエステル類を溶媒として使用することを特徴とする請求項6に記載の部分アシル化ロタキサンの製造方法。
【請求項8】
前記ビニルエステル類として、酢酸イソプロペニルを使用することを特徴とする請求項6または7に記載の部分アシル化ロタキサンの製造方法。
【請求項9】
前記ロタキサンのアシル化工程において、前記シクロデキストリンの全部の水酸基をアシル化してパーアシル化ロタキサンとすることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の部分アシル化ロタキサンの製造方法。
【請求項10】
前記アシル化ロタキサンに求核剤および塩基を作用させることにより、前記アシル化ロタキサンの脱アシル化を行うことを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の部分アシル化ロタキサンの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−40873(P2009−40873A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207014(P2007−207014)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】