説明

部分マルチコートによる加飾製品の製造方法

【課題】 装飾感に優れた加飾製品を容易に製造することができる部分マルチコートによる加飾製品の製造方法を提供する。
【解決手段】 基板11上に有機溶剤剥離型又はアルカリ剥離型のレジストインクを印刷することによりレジスト層12を形成した後、基板11上に蒸着法によってマルチコート層13を被覆形成する。次いで、レジスト層12の位置に有機溶剤又はアルカリ水溶液を作用させマルチコート層13を浸透させてレジスト層12を溶解させた後、ブラッシングを行ってレジスト層12が存在していた位置のマルチコート層13を剥離し、その部分の基板11を露出させる。次いで、マルチコート層13上にマスキング層15を形成し、剥離されたレジスト層12の部分にメッキを施して装飾部14としてのメッキ層を形成し、その後マスキング層15を剥離する。このようにして、部分マルチコートによる加飾製品が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばネームプレート、ペンダント等の装飾品として用いられ、マルチコート層とメッキ層等によって優れた装飾感が得られる部分マルチコートによる加飾製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の加飾(装飾)製品として、例えば部分メッキ方法により得られるものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。この加飾製品を得る方法は、メッキ膜を形成しない物品の表面部分にレジスト膜を形成する工程と、粗面化液を用いてレジスト膜で覆われていない物品の表面部分を粗面化する工程と、レジスト膜を除去した後に、メッキ処理を行って前記粗面化された面だけにメッキ膜を形成する工程とからなっている。
【0003】
また、別の加飾製品の製造方法も知られている(例えば、特許文献1を参照)。すなわち、ステンレス素材からなる装飾部材表面に電気メッキ法により金ストライクメッキ層を形成し、メッキ用レジストで文字等の印刷パターンを形成した後、印刷パターン以外の表面に銀メッキ層を積層する。その後、印刷パターンを剥離除去し、さらに金メッキ層を剥離してそこに黒色クロムメッキ層等を形成した後、銀メッキ層を剥離し、さらに金メッキ層を剥離する。このようにして、ステンレス素地と黒色文字の二色を有する加飾製品が得られる。
【特許文献1】特開2000−204480号公報(第2頁及び第5頁)
【特許文献2】特開平5−40182号公報(第2頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記従来の特許文献1及び2に記載されている加飾製品は、素材面とメッキ面とにより構成されているだけであることから、単調で装飾感に欠けるものであった。ところで、光学製品、光学機器等の分野においては、主に反射防止を目的としてマルチコート(多層コート、マルチコーティング)が施されている。この場合、光の屈折や反射により、光が干渉して七色の虹のように見え、斬新な外観が得られる。このようなマルチコートを利用することで、装飾感を高めることができるが、マルチコートは複数層で構成され、蒸着等を複数回繰り返して行い、積層形成する必要があるため、マルチコートを部分的に施すことは製造上煩雑で、困難を伴うものであった。
【0005】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、装飾感に優れた加飾製品を容易に製造することができる部分マルチコートによる加飾製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の部分マルチコートによる加飾製品の製造方法は、基板上に有機溶剤剥離型又はアルカリ剥離型のレジストインクを印刷することによりレジスト層を形成した後、該レジスト層を含む基板上に蒸着法によってマルチコート層を被覆形成し、次いで前記レジスト層の位置に有機溶剤又はアルカリを作用させマルチコート層を浸透させてレジスト層及びその上のマルチコート層を剥離し、その部分の基板を露出させて装飾部を形成することを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明の部分マルチコートによる加飾製品の製造方法は、請求項1に係る発明において、前記有機溶剤又はアルカリを作用させてレジスト層を剥離した後、ブラッシングを行ってレジスト層が存在していた位置のマルチコート層を剥離することを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明の部分マルチコートによる加飾製品の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記有機溶剤又はアルカリによるレジスト層及びその上のマルチコート層の剥離後に、マルチコート層上にマスキング層を被覆形成し、剥離されたレジスト層の部分にメッキを施して装飾部としてのメッキ層を形成し、その後マスキング層を剥離することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明の部分マルチコートによる加飾製品の製造方法では、基板上に有機溶剤剥離型又はアルカリ剥離型のレジストインクを印刷することによりレジスト層を形成する。その後、該レジスト層を含む基板上に蒸着法によってマルチコート層を被覆形成する。次いで、前記レジスト層の位置に有機溶剤又はアルカリを作用させマルチコート層を浸透させてレジスト層及びその上のマルチコート層を剥離し、その部分の基板を露出させて装飾部を形成する。
【0010】
すなわち、蒸着法によって形成されたマルチコート層には、有機溶剤又はアルカリが浸透するに足る微細な孔が形成される。これを利用し、レジスト層の位置に有機溶剤又はアルカリを作用させると、有機溶剤又はアルカリはマルチコート層の微細な孔を通ってレジスト層に達してレジスト層が溶解され、レジスト層とその上のマルチコート層が剥離される。このため、得られる加飾製品は虹色に輝くマルチコート層と、レジスト層及びその上のマルチコート層が除去され基板が露出されて形成された装飾部とにより構成される。従って、装飾感に優れた加飾製品を容易に製造することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明の部分マルチコートによる加飾製品の製造方法では、前記有機溶剤又はアルカリを作用させてレジスト層を剥離した後、ブラッシングを行ってレジスト層が存在していた位置のマルチコート層を剥離するものである。このため、請求項1に係る発明の効果に加え、レジスト層が存在していた位置のマルチコート層の剥離を容易かつ十分に行うことができる。
【0012】
請求項3に記載の発明の部分マルチコートによる加飾製品の製造方法では、前記有機溶剤又はアルカリによるレジスト層及びその上のマルチコート層の剥離後に、マルチコート層上にマスキング層を被覆形成し、剥離されたレジスト層の部分にメッキを施して装飾部としてのメッキ層を形成し、その後マスキング層を剥離するものである。このため、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、メッキ層に基づく金属光沢による装飾感を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の最良と思われる実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1(a)〜(f)は本第1実施形態の加飾製品10の製造工程を順に示す説明図である。なお、図1(b)、(d)及び(f)の各断面図において、基板、レジスト層及びマルチコート層の厚さは理解を容易にするために誇張して厚く描かれている。
【0014】
図1(a)及び(b)に示すように、正方形状をなす基板11上には、レジストインクを用いたスクリーン印刷法によりレジスト層12がAの文字を描くように形成されている。基板11を構成する材質としては、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、銅、鉄等の金属のほか、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ナイロン樹脂等の樹脂も用いられる。基板11の厚さは、通常0.1〜3mm程度であり、表面に多数のヘアライン等の模様が形成されていてもよい。
【0015】
レジストインクは、有機溶剤剥離型又はアルカリ剥離型のものである。有機溶剤剥離型のレジストインクとしては、例えばタール系の熱可塑性樹脂〔太陽インキ製造(株)製、M−85K〕のほか、シリコーン変性アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられ、シンナー、ベンゼン、トルエン等の有機溶剤で剥離可能なものである。なお、シンナーは、トルエンを主成分とし、キシレン及び酢酸エチルを含有する有機溶剤混合液である。アルカリ剥離型のレジストインクとしては、例えば共重合系の熱可塑性樹脂〔太陽インキ製造(株)製、MA−830〕のほか、スチレン−マレイン酸共重合体等の共重合系熱可塑性樹脂等が挙げられ、炭酸ナトリウムの水溶液(例えば、5%水溶液)、炭酸カリウムの水溶液等によって剥離可能である。基板11として樹脂を用いる場合には、有機溶剤によって溶ける場合があるため、レジストインクとしてはアルカリ剥離型のものを採用することが好ましい。
【0016】
レジスト層12の厚さは、通常5〜100μmである。この厚さが5μm未満の場合にはAの文字を形成することが難しくなり、また剥がれやすくなってその形状を維持することが難しくなり、100μmを越える場合には後述するマルチコート層がレジスト層12を設けた部分と設けない部分とで段差が生じやすくなって好ましくない。
【0017】
次いで、図1(c)及び(d)に示すように、基板11及びレジスト12層上に、真空蒸着装置にて蒸発物質を加熱蒸発させ、蒸着層を形成する。その後、同様にして複数の蒸着層を形成し、それらの蒸着層が積層されることによってマルチコート層13が形成される。このマルチコート層は、図1(c)では灰色で示されている。マルチコート層13は、好ましくは3〜7層の蒸着層によって構成される。そのようなマルチコート層13に基づいて、色調の変化による装飾感を向上させることができる。各蒸着層を形成する蒸発物質としては、フッ化マグネシウム(MgF)、二酸化珪素(SiO)、アルミナ(Al)、二酸化チタン(TiO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)、硫化亜鉛(ZnS)等が用いられる。蒸着層を形成する場合の圧力は、通常10−2〜10−4Paである。また、各蒸着層の厚さは、好ましくは100〜160nmに設定される。
【0018】
続いて、図1(e)及び(f)に示すように、マルチコート層13上に有機溶剤又はアルカリ(アルカリ水溶液)を作用させることにより、有機溶剤又はアルカリがマルチコート層13を浸透(透過)してレジスト層12に達し、レジスト層12が溶解され、除去される。この場合、基板11を有機溶剤又はアルカリ水溶液中に浸漬させる方法又はマルチコート層13上に有機溶剤又はアルカリ水溶液をコーティングする方法のいずれでもよい。これによってレジスト層12がなくなるため、その上のマルチコート層13は基板11上方位置で浮いており、簡単に剥がれる状態となっている。マルチコート層13が極く薄い場合には、レジスト層12の剥離とともに剥離される。
【0019】
その後、マルチコート層13の表面をブラッシングすることにより、除去されたレジスト層12上に位置していたマルチコート層13がブラッシングの物理的な力により容易に剥離される。このブラッシングの物理的な力は、残存するマルチコート層13の厚さに応じて変化し、マルチコート層13が厚いほど大きくなるように調整される。一方、基板11上のその他の部分におけるマルチコート層13は基板11に密着されているため剥がれることはない。そして、レジスト層12及びその上のマルチコート層13が除去された部分は、基板11が露出されて装飾部14となる。
【0020】
このようにして、マルチコート層13が設けられていないAの文字を表す装飾部14と、それ以外の部分に設けられているマルチコート層13とで構成される部分マルチコートによる加飾製品10が製造される。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図2(a)〜(l)に基づいて説明する。本第2実施形態においては、前記第1実施形態と同じ部分の説明を省略し、異なる部分について主に説明する。
【0021】
本第2実施形態では、装飾部14の文字をBとし、レジスト層12を剥離、除去するまでは第1実施形態と同様に操作する。すなわち、図1(a)及び(b)は図2(a)及び(b)に対応し、図1(c)及び(d)は図2(c)及び(d)に対応し、図1(e)及び(f)は図2(e)及び(f)に対応する。図2(e)及び(f)に示すように、Bの文字の部分は基板11が露出されて露出部16となり、それ以外の部分にはマルチコート層13が形成されている。マルチコート層13の部分は、図2(e)では薄い灰色で示されている。
【0022】
図2(g)及び(h)に示すように、マルチコート層13上には第1実施形態と同様のレジストインクでマスキング層15を形成する。そのマスキング層15は、図2(g)では中間の灰色で示されている。その後、図2(i)及び(j)に示すように、基板11の露出部16上に電気メッキを施し、装飾部14としてのメッキ層を形成する。電気メッキのメッキ浴としては、硫酸銅メッキ浴、ワット浴(ニッケルメッキ浴)等が用いられる。
【0023】
硫酸銅メッキ浴は、硫酸銅(150〜200g/l)、硫酸(40〜60g/l)及び光沢剤(微量)等で構成される。そして、常温にて、電流密度1〜4A/dm及び通電時間30〜90分の条件で電気メッキを行うことにより、厚さが20〜70μmの銅メッキ層が形成される。また、ワット浴は、硫酸ニッケル(200〜250g/l)、塩化ニッケル(40〜50g/l)、ホウ酸(35〜45g/l)及び光沢剤(微量)等で構成される。そして、45〜55℃にて、電流密度1〜10A/dm及び通電時間1〜10分の条件で電気メッキを行うことにより、厚さが1〜10μmのニッケルメッキ層が形成される。これらのメッキ層は、図2(i)では濃い灰色(Bの文字)で示されている。また、メッキとしては、目的とする装飾感に合せて光沢のあるメッキ、艶消しのメッキ等適宜選択することができる。
【0024】
電解メッキについては、例えば次に示す(a)〜(d)の4工程により行うこともできる。
(a)下地メッキ工程
塩酸(HCl)と塩化ニッケル(NiCl)とより構成される電解液中に基板11を浸漬し、通電することによりニッケルメッキを施す。この下地メッキ処理により、基板11上に厚さ0.1〜0.2μm程度の下地メッキ層が形成される。
(b)銅メッキ工程
硫酸銅(CuSO)及び硫酸よりなる電解液中に、下地メッキを施した基板11を浸漬し、銅メッキ処理を行うことにより、下地メッキ層上に厚さ40〜80μmの銅メッキ層が肉厚に形成される。
(c)ニッケルメッキ工程
塩化ニッケル、硫酸ニッケル(NiSO)及びホウ酸(HBO)よりなる電解液中に、銅メッキを施した基板11が浸漬され、ニッケルメッキが行われる。このニッケルメッキにより、銅メッキ層上に厚さ2〜3μm程度のニッケルメッキ層が形成される。
(d)金メッキ工程
電解液として、シアン化金酸カリウム「K〔Au(CN)〕」、コバルトを含有する建浴液、同じくコバルトを含有する補給液の水溶液が用いられる。この金メッキ処理により、ニッケルメッキ層上に厚さ0.1μm程度の金メッキ層が形成される。
【0025】
最後に、図2(k)及び(l)に示すように、マスキング層を有機溶剤又はアルカリ水溶液で除去する。このようにして、装飾部14としてBの文字を表すメッキ層と、それ以外のマルチコート層13とで構成される部分マルチコートによる加飾製品10が得られる。
【0026】
さて、本実施形態の作用について説明すると、基板11上に例えばシンナー剥離型のレジストインクを印刷してレジスト層12を形成した後、蒸着法によってマルチコート層13を被覆形成し、次いで基板11をシンナー中に浸漬する。蒸着法によって形成されたマルチコート層13は、微細な孔が多数形成された多孔質体となっている。このため、シンナーはマルチコート層13の微細な孔を浸透してレジスト層12に到り、レジスト層12を溶解する。その後、ブラッシングを行うことにより、レジスト層12の上に位置していたマルチコート層13を物理的な力で剥離し、その部分の基板11を露出させて装飾部14を形成する。このようにして部分マルチコートによる加飾製品10が製造される。
【0027】
得られた加飾製品10は、マルチコート層13が光の反射と干渉によって虹色に輝くと同時に、露出された基板11がステンレス鋼による金属色を呈し、それらのコントラストにより斬新な装飾感が醸し出される。
【0028】
以上詳述した本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
・ 本実施形態における部分マルチコートによる加飾製品10の製造方法では、基板11上に有機溶剤剥離型又はアルカリ剥離型のレジストインクを印刷することによりレジスト層12を形成する。その後、該レジスト層12を含む基板11上に蒸着法によってマルチコート層13を被覆形成する。次いで、前記レジスト層12の位置に有機溶剤又はアルカリを作用させマルチコート層13を浸透させてレジスト層12及びその上のマルチコート層13を剥離し、その部分の基板11を露出させて装飾部14を形成する。
【0029】
すなわち、蒸着法によって形成されたマルチコート層13には、有機溶剤又はアルカリが浸透するに足る微細な孔が形成されている。これを利用し、レジスト層12の位置に有機溶剤又はアルカリを作用させると、有機溶剤又はアルカリはマルチコート層13の微細な孔を通ってレジスト層12に達してレジスト層12を溶解する。このため、加飾製品は虹色に輝くマルチコート層13と、そのマルチコート層13及びレジスト層12が除去され、基板11が露出されて形成された装飾部14とにより構成される。従って、装飾感に優れた加飾製品10を容易に製造することができる。
【0030】
・ 前記有機溶剤又はアルカリを作用させてレジスト層を剥離した後、ブラッシングを行ってレジスト層12が存在していた位置のマルチコート層13を剥離するものである。従って、レジスト層12が存在していた位置のマルチコート層13の剥離を容易かつ十分に行うことができる。
【0031】
・ 前記有機溶剤又はアルカリによるレジスト層12及びその上のマルチコート層13の剥離後に、マルチコート層13上にマスキング層15を被覆形成し、剥離されたレジスト層12の部分にメッキを施して装飾部14としてのメッキ層を形成し、その後マスキング層15を剥離するものである。従って、メッキ層に基づく金属光沢による装飾感を得ることができる。
【0032】
・ 本実施形態の加飾製品10は、ネームプレート、ペンダント、銘板、ステッカー、パネル、貼着用シール等として用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
図1(a)〜(f)に示す第1実施形態に従って、基板11上にAの文字を表す部分マルチコートによる加飾製品10を製造した。すなわち、図1(a)及び(b)に示すように、正方形板状をなすステンレス鋼製の基板11上には、有機溶剤剥離型のレジストインク〔太陽インキ製造(株)製、M−85K〕にてスクリーン印刷法によりAの文字を表すようにレジスト層12を形成した。基板11は厚さ0.4mmで、表面に多数のヘアラインが形成されているものを使用した。レジスト層12の厚さは、20μmとした。
【0034】
次に、図1(c)及び(d)に示すように、基板11及びレジスト層12上に、真空蒸着装置にて10−3Paの圧力で蒸発物質にフッ化マグネシウム(MgF)を用いて加熱蒸発させ、第1蒸着層を形成した。その上に同様にして、蒸発物質を二酸化珪素(SiO)、アルミナ(Al)及び二酸化チタン(TiO)に代え、第2蒸着層、第3蒸着層及び第4蒸着層を形成した。これら蒸着層の厚さは、それぞれ130nmとした。
【0035】
次いで、図1(e)及び(f)に示すように、基板11を有機溶剤としてのシンナー中に浸漬することにより、そのシンナーがマルチコート層13を浸透してレジスト層12に達し、レジスト層12が溶解され、除去された。その後、マルチコート層13の表面を軽くブラッシングすることにより、除去されたレジスト層12上に位置していたマルチコート層13がブラッシングの物理的な力により簡単に剥離された。一方、基板11上のその他の部分におけるマルチコート層13は基板11に密着されていた。そして、レジスト層12及びその上のマルチコート層13が除去された部分は、基板11であるステンレス鋼が露出されて装飾部14が形成された。
【0036】
このようにして、マルチコート層13が設けられていないAの文字を表す装飾部14と、それ以外の部分に設けられているマルチコート層13とで構成された部分マルチコートによる加飾製品10を製造した。得られた加飾製品10は、装飾部14ではステンレス鋼による金属光沢とヘアラインによる斬新さが発現され、マルチコート層13では多層構造であるため光の反射や干渉によって七色の虹のような見る方向で異なる外観を呈し、斬新な見栄えを得ることができ、優れた装飾感を発揮することができた。
【0037】
また、マルチコート層13の形成に当たり、蒸着法を部分的に繰り返し行うのではなく、基板11の全面に適用した後、必要な部分を除去する方法を採用したことから、加飾製品10を容易に製造することができた。
(実施例2)
図2(a)〜(l)に示す第2実施形態に従って、基板11上にBの文字を表す部分マルチコートによる加飾製品10を製造した。この実施例2では、Bの文字の部分では基板11が露出され、それ以外の部分でマルチコート層13が形成されるまでは実施例1と同じである。すなわち、図2(a)及び(b)に示すように、基板11上にレジスト層12を形成した。続いて、図2(c)及び(d)に示すように、基板11上の全面にマルチコート層13を被覆形成した。次いで、図2(e)及び(f)に示すように、有機溶剤によってレジスト層12及びその上のマルチコート層13を剥離、除去した。
【0038】
その後、図2(g)及び(h)に示すように、マルチコート層13上には実施例1と同じレジストインクでマスキング層15を形成した。次に、図2(i)及び(j)に示すように、基板11の露出部16上に電気メッキを施し、銅メッキ層を形成した。メッキ浴としては硫酸銅メッキ浴を使用した。すなわち、硫酸銅メッキ浴の組成は、硫酸銅(170g/l)、硫酸(50g/l)及び艶消し剤(常法による量)とした。そして、常温にて、電流密度3A/dm及び通電時間60分の条件で電気メッキを行うことにより、厚さが50μmの銅メッキ層を形成した。
【0039】
最後に、図2(k)及び(l)に示すように、マスキング層15をシンナーで除去した。このようにして、装飾部14としてBの文字を表すメッキ層と、それ以外のマルチコート層13とで構成される部分マルチコートによる加飾製品10を得た。得られた加飾製品10は、装飾部14では銅メッキ層による金色で金属表面の艶消しによる外観が発現され、マルチコート層13では実施例1と同様の外観を呈し、斬新な見栄えを得ることができ、優れた装飾感を発揮することができた。また、マルチコート層13の形成に当たっては、実施例1と同様に基板11の全面に適用した後、必要な部分を除去する方法を採用したことから、加飾製品10を容易に製造することができた。
【0040】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 装飾部14をA、B以外の文字、さらには記号、図形、模様等で構成することもできる。
【0041】
・ 剥離されたレジスト層12の部分に、印刷、塗装等によって着色、模様等を形成することもできる。
・ マルチコート層13には、ハードコート層を設けて強度を向上させたり、光の干渉層を設けて光を干渉させるように構成することも可能である。
【0042】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記メッキ層は、マルチコート層の厚さより厚くなるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の部分マルチコートによる加飾製品の製造方法。この製造方法によれば、請求項3に係る発明の効果に加えて、メッキ層が浮き出て見え、装飾感を一層向上させることができる。
【0043】
・ 前記マルチコート層は3〜7層に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の部分マルチコートによる加飾製品の製造方法。この製造方法によれば、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、マルチコート層に基づく色調の変化による装飾感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(a)〜(f)は第1実施形態の加飾製品の製造工程を順に示す図であって、(a)は基板上にレジスト層を形成した状態を示す平面図、(b)は(a)の1b−1b線断面図、(c)はマルチコート層を被覆形成した状態を示す平面図、(d)は(c)の1d−1d線断面図、(e)はレジスト層の部分を剥離して装飾部を形成した状態を示す平面図、(f)は(e)の1f−1f線断面図。
【図2】(a)〜(l)は第2実施形態の加飾製品の製造工程を順に示す図であって、(a)は基板上にレジスト層を形成した状態を示す平面図、(b)は(a)の2b−2b線断面図、(c)はマルチコート層を被覆形成した状態を示す平面図、(d)は(c)の2d−2d線断面図、(e)はレジスト層の部分を剥離して露出部を形成した状態を示す平面図、(f)は(e)の2f−2f線断面図、(g)はマルチコート層上にマスキング層を形成した状態を示す平面図、(h)は(g)の2h−2h線断面図、(i)はレジスト層が剥離された部分にメッキ層を形成して装飾部とした状態を示す平面図、(j)は(i)の2j−2j線断面図、(k)はマスキング層を剥離した状態を示す平面図、(l)は(k)の2l−2l線断面図。
【符号の説明】
【0045】
10…加飾製品、11…基板、12…レジスト層、13…マルチコート層、14…装飾部、15…マスキング層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に有機溶剤剥離型又はアルカリ剥離型のレジストインクを印刷することによりレジスト層を形成した後、該レジスト層を含む基板上に蒸着法によってマルチコート層を被覆形成し、次いで前記レジスト層の位置に有機溶剤又はアルカリを作用させマルチコート層を浸透させてレジスト層及びその上のマルチコート層を剥離し、その部分の基板を露出させて装飾部を形成することを特徴とする部分マルチコートによる加飾製品の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶剤又はアルカリを作用させてレジスト層を剥離した後、ブラッシングを行ってレジスト層が存在していた位置のマルチコート層を剥離することを特徴とする請求項1に記載の部分マルチコートによる加飾製品の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶剤又はアルカリによるレジスト層及びその上のマルチコート層の剥離後に、マルチコート層上にマスキング層を被覆形成し、剥離されたレジスト層の部分にメッキを施して装飾部としてのメッキ層を形成し、その後マスキング層を剥離することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の部分マルチコートによる加飾製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−51353(P2007−51353A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238410(P2005−238410)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(592118583)華陽技研工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】