説明

部分水素添加油脂、それを含む油脂組成物及びその製造方法

【課題】水素添加油脂由来の好ましい風味が強く、かつ酸化安定性を示し、更にトランス脂肪酸含有量が低下した食品を製造することができる油脂組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】部分水素添加油脂の製造方法において従来よりも水素添加油脂風味が格別に強い油脂を製造できることが見いだされた。本発明によって得られる3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量を0.1ppm以上含有する部分水素添加植物油脂を少量配合した油脂組成物により、水素添加油脂由来の風味が強く、かつ酸化安定性を示し、更にトランス脂肪酸含有量が低下した油脂組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品に用いられる油脂組成物に関する。より詳細には、水素添加油脂由来の好ましい風味を持つ食品を製造することができる油脂組成物に用いられる部分水素添加油脂及びその製造方法、並びに前記部分水素添加油脂を含む油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂を含む食品では、様々な植物油脂または動物油脂が用いられているが、熱安定性あるいは酸化安定性を付与する目的で水素添加した水素添加油脂(いわゆる「硬化油」)が多用されている。水素添加油脂を用いて調理された食品には、甘さやコクなどの独特の風味がある。具体的には、フライドポテトやドーナツ或いは、油脂を含む生地を焼成するクロワッサンなどのパンやクッキー、パイなどの菓子、あるいはクリーム類のような食品では、これらの油脂由来の独特の風味が重要な要素となっている。
一方、水素添加処理により油脂中のトランス脂肪酸含有量が増加することが知られている。トランス脂肪酸は、近年、その摂取により動脈硬化等の疾病を引き起こす可能性があることが報告されており、その含有量をできる限り低くしたいという市場の要請がある。
従って、油脂組成物において、酸化安定性を向上しかつ水素添加油脂由来の風味を増強する一方で、トランス脂肪酸含有量を低下させることが一つの課題である。
特許文献1には、パーム油の分別硬質油を50質量%以上用いることにより、トランス脂肪酸含有量を低減しながら水素添加油脂由来の風味を出す方法が開示されている。また、特許文献2には、パーム油にラードあるいは硬化油を添加して用いることにより、トランス脂肪酸含有量を低減しながら水素添加油脂風味を出す方法が開示されている。また、特許文献3には、蒸留精製したパーム油を用いることにより、トランス脂肪酸含有量を低減しながら水素添加油脂風味を出す方法が開示されている。また、特許文献4には、バニリン及び/またはエチルバニリンを含有する硬化油風味付与剤が開示されている。しかし、これらの提案は、水素添加油脂を使用したときの風味と比べると、風味の質や強度といった点で不十分である。
また、特許文献5では、過酸化物価(POV)を特定の範囲とした部分水素添加油脂を用いることにより、低トランス脂肪酸油脂の水素添加油脂風味を強くできるとしているが、POVが高い油脂を得るには、過酸化物価を上昇させるための特別な処理が必要となり、手間がかかる。
また、特許文献6には、脱臭した油脂を水素添加した油脂に、バタ−様の風味があると開示されているが、水素添加処理時の温度で油脂が劣化し、特許文献5の油脂同様、揮発性の高い不快な臭い(いわゆる「水添臭」)も有し、風味の質の点で不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−271818号
【特許文献2】特開2009−5681号
【特許文献3】特開2009−240220号
【特許文献4】国際公開公報第2008/032852号パンフレット
【特許文献5】特開2009−89684号
【特許文献6】特表2010−504753号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、食品において水素添加油脂由来の好ましい風味(以下、水素添加油脂風味ともいう)を強く生じさせる、トランス脂肪酸含有量が低下した油脂組成物及びその製造方法を提供することである。
本発明はまた、食品において水素添加油脂由来の好ましい風味を強く生じさせる、トランス脂肪酸含有量が低下した油脂組成物に用いる部分水素添加油脂及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を行った結果、3,7,11,15-テトラメチル−2−ヘキサデセンを0.1ppm以上含み、トランス脂肪酸を比較的多く含む油脂(A)を、トランス脂肪酸を実質的に含まないかあるいは少ない油脂(B)に少量含有させた油脂組成物を用いることにより、油脂由来のトランス脂肪酸が少なく、かつ淡白な風味でなく、水素添加油脂由来の好ましい風味が強化された食品を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明者らは、水素添加油脂に由来する好ましい風味と精製した水素添加油脂中の成分について検討したところ、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを含む特定の成分(後述する所定の条件でGCMS分析を行った場合にヘキサデカンを内部標準として、25〜45分に検出される中沸点成分)の量が所定量以上である場合に、水素添加油脂に由来する好ましい風味が強く感じられ、更に3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを前記特定の成分の指標物質として使用できることを見いだしたものである。本発明は、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン量を特定量含む水素添加油脂風味強化用の部分水素添加油脂とその製法、およびそれを添加した油脂組成物に関する。3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを0.1ppm以上含有する部分水素添加油脂は、抽出や蒸留処理により製造してもよく、薄膜蒸留や水蒸気蒸留などの方法を適用してもよい。油脂の最終精製処理の脱臭工程を工夫することによっても得ることができる。
【0007】
本発明は下記1〜10を提供する。
1.3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを0.1ppm以上含有することを特徴とする部分水素添加油脂。
2.酸価が0.06〜1.00である上記1記載の部分水素添加油脂。
3.トランス脂肪酸含有量が20〜60質量%である、上記1または2記載の部分水素添加油脂。
4.ポリ不飽和脂肪酸を25質量%以上含む原料油脂から製造される上記1〜3のいずれか一に記載の部分水素添加油脂。
5.原料油脂を水素添加し、200℃以下の温度でかつ20〜650Paの圧力において、脱臭処理を行うことにより製造される、上記1〜4のいずれか一に記載の部分水素添加油脂。
6.原料油脂を部分水素添加し、その後、200℃以下の温度でかつ20〜650Paの圧力において脱臭処理を行うことを特徴とする、部分水素添加油脂の製造方法。
7.上記1〜5のいずれか一に記載の部分水素添加油脂を、油脂組成物全質量に対して
1〜30質量%含み、トランス脂肪酸含量が15質量%以下であることを特徴とする、油脂組成物。
8.トランス脂肪酸が5.5質量%以下であり、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを0.01ppm以上含有する上記7記載の油脂組成物。
9.上記1〜5のいずれか一つに記載の部分水素添加油脂以外に、(i)パーム系油脂、(ii)ラウリン系油脂、(iii)パーム系油脂及びラウリン系油脂の混合物、(iv)パーム系油脂のエステル交換油脂、(v)ラウリン系油脂のエステル交換油脂及び(vi)パーム系油脂とラウリン系油脂の混合物のエステル交換油脂、からなる群より選択される少なくとも一つを含む、上記7または8記載の油脂組成物。
10.上記7または8記載の油脂組成物を用いて製造される水素添加油脂風味が強化された食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水素添加油脂風味強化用の部分水素添加油脂を所定量含む油脂組成物を用いることにより、水素添加油脂由来の好ましい風味が強く、かつ酸化安定性があり、更にトランス脂肪酸含有量が低下した油脂組成物及び食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(油脂A)
本発明の油脂(A)は、水素添加油脂由来の好ましい風味を与える物質を含み、水素添加油脂由来の好ましい風味を与える物質の指標物質である3,7,11,15−テトラメチル−2ヘキサデセンを0.1ppm以上含有する部分水素添加油脂である。
本発明の部分水素添加油脂の好ましい風味は、不快な匂い呈味物質群である揮発性の高い成分を脱臭操作により除去し、かつ、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを指標とする物質群(以下、中沸点成分と言う)を、多く含有する事で達成される。
本発明において3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンは油脂(A)の水素添加油脂由来の好ましい風味を与える物質の量と相関している。3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを0.1ppm以上含むように脱臭処理された部分水素添加油脂は、水素添加油脂由来の好ましい風味を強く生じる。そのため、かかる風味を有さない水素添加油脂に比べて少量(例えば5質量%)の配合でも、食品に水素添加油脂由来の好ましい風味を付与することができることを見いだしたものである。
3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量は、更に0.2ppm以上であることが風味の観点から好ましい。
【0010】
なお、部分水素添加油脂中の3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量が0.1ppm以上であることにより、水素添加油脂由来の好ましい風味が与えられるが、かかる風味の強度と3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量は必ずしも強い相関関係にあるわけではない。同じ風味成分であっても、成分の濃度により、好ましいものから好ましくないものに変化する場合もあり、また部分水素添加油脂の精製の方法あるいは度合いにより、風味に影響する他の成分の残存量が変化して影響するからである。従って、部分水素添加油脂中の3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量の上限は、好ましくは10ppm程度であるが、精製方法などにより変動しうる。より好ましい上限は9ppm、更には8ppmである。
【0011】
ここで、中沸点成分とは、以下のガスクロマトグラフ(GCMS)分析によりリテンションタイムが、25〜45分に検出される成分である。
GCMS分析条件:サンプル注入及びGCMS分析は、加熱脱着冷却インジェクションシステム(ゲステル社)及びガスクロマトグラフ6890N及び5973(アジレント社)を用い、各サンプル30mgを使用し、熱抽出分析により行う。カラムは、INNOWAX 60m×0.25mm×0.25μmを用い、40℃、2min⇒3℃/min⇒100℃⇒5℃/min⇒240℃、30minの温度条件で保持し、マススペクトロメトリーで、含まれている成分の検出及び定量を行う。中沸点成分量は、ヘキサデカンを内部標準として、25〜45分に検出される成分の面積総量として求める。
【0012】
3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンの含有量は、上記中沸点成分量と同様にして求めることができる。3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンはGCMS分析においてリテンションタイム40分近傍に検出される。
【0013】
さらに、油脂(A)の酸価は0.06〜1.00であることが好ましい
「酸価」とは、試料1g中に含まれている遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数をいう。酸価は、日本油化学会編「基準油脂試験分析法」(1996年)の「2.3.1酸価」に記載の方法に従って測定することができる。
本発明において酸価は水素添加油脂の精製の度合いを示す指標であるが、油脂(A)の水素添加油脂由来の好ましい風味を与える物質の量とも相関し、上記範囲内の酸価を示すように脱臭処理された水素添加油脂は、水素添加油脂由来の好ましい風味を強く生じる。
本発明において、酸価はより好ましくは、0.06〜0.50であり、更に好ましくは0.11〜0.20である。
【0014】
本発明において、「酸価」とは「脱臭処理後の酸価」を意味し、「脱臭処理後の酸価」とは、後述する脱臭処理と、任意の脱色処理とを行った後に測定した酸価を意味する。なお、通常、酸価は、油脂を加熱調理に用いると徐々に増大した値を示すから、食品の加熱調理に用いる前の油脂の酸価を意味することは当然である。
【0015】
本発明において「部分水素添加油脂」とは、動物由来、植物由来及びその混合どちらでもよく、それらの油脂を「部分水素添加処理」を行った油脂を意味する。
本発明において、原料油脂は、「ポリ不飽和脂肪酸」を25質量%以上、好ましくは30〜90質量%含む油脂であることが好ましい。「ポリ不飽和脂肪酸」とは、多価不飽和脂肪酸ともいい、不飽和結合を2以上含む脂肪酸を意味する。具体的には、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
原料の油脂としては、コーン油、大豆油、ナタネ油、サフラワー油、米油、綿実油、サンフラワー油、魚油及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
なお、これらの原料油脂は、搾油後、脱ガム・脱酸、・脱色・脱臭等の工程を経た精製油脂であれば良く、例えば、「食用油脂製造の実際」(幸書房、昭和63年7月5日発行)の“3精製工程の実際”に記載されている方法等、当業者が通常行う方法を適用できる。
【0016】
「部分水素添加処理」は、本分野において公知の方法で行うことができるが、水素圧力0.05〜2.0MPa、触媒中のニッケル含量0.005〜0.3%、反応開始温度が120〜200℃という条件下で行うことができる。例えば、水素圧力0.5MPa、触媒中のニッケル含量0.04%、反応開始温度150℃で行うことができる。なお、本明細書において、「部分水素添加処理」とは、完全水素添加処理ではない水素添加処理、あるいは不飽和結合が残存するように行う水素添加処理を意味する。
本発明において、トランス脂肪酸含量が、処理を行う油脂の構成脂肪酸の全質量に対して好ましくは20〜60質量%、より好ましくは30〜55質量%となるように、部分水素添加処理を行うことが好ましい。トランス脂肪酸含量が一定量となった部分水素添加油脂は、例えば、ヨウ素価40〜100、更に60〜80程度となるように水素添加処理を行ってから、トランス脂肪酸含量を測定し、一定量となっている油脂を選択することにより得ることができる。
トランス脂肪酸含量は、例えば、日本油化学会編「基準油脂試験分析法」(2007年)に記載の「トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」により決定することができる。
【0017】
本明細書において、「脱臭処理」とは、食用油脂の分野で通常行われる、仕上げ段階に行われる精製処理(脱臭、脱色工程)の一つである。脱臭処理は、好ましくない不快なにおいや呈味物質を除去して、保存安定性の良い油脂を製造するための処理である。
通常、脱臭操作は、高真空下、高温に加熱された油脂中にスチームを吹き込み、有臭成分や、脂肪酸、不けん化物などの揮発成分を蒸留する水蒸気蒸留の原理により行われる。遊離脂肪酸の残存量(酸価)が脱臭処理の目安となり、本発明では、部分水素添加油脂(A)の中沸点成分の残存程度の指標としても用いることができる。
脱臭装置には、バッチ式、半連続式、連続式などがあるが、いずれの装置を用いてもよい。
【0018】
通常の脱臭処理は、230℃以上の温度で、真空度が3〜6mmHg(約400〜800Pa)程度で行われる。このような脱臭処理をした水素添加油脂は、水素添加油脂に由来する好ましい風味物質群である中沸点成分が少なく、その指標である3,7,11,15−テトラメチル−2ヘキサデセンが0.1ppm未満となり、酸価も0.10未満となり、水素添加油脂由来の風味が希薄になることがわかった。
本発明では、脱臭処理を、部分水素添加油脂中の3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンが0.1ppm以上となるように行う。そのような脱臭処理により、中沸点成分を多く含む油脂を得ることができる。特に、真空度が20〜650Pa、より好ましくは200〜400Paにおいて、好ましくは200℃以下、更に好ましくは100〜180℃、もっとも好ましくは120〜170℃の温度条件で行うことが好ましい。
また、脱臭処理時間は、通常、0.3〜2.5時間、より好ましくは0.7〜1.5時間である。
【0019】
本発明において、油脂(A)を製造するには、上記部分水素添加した後、脱臭処理の前または後に、好ましくは脱臭処理の前に、更に脱色処理を行うことが好ましい。
脱色処理とは通常、油脂中の色素を吸着等により脱色する処理のことをいう。公知の方法を使用することができるが、例えば、油脂に、油脂全質量に対して0.1〜4質量%程度の活性白土を添加して、常圧または減圧下で、油脂を60〜120℃で、5〜60分程度加熱することにより行うことができる。その後、ろ過により活性白土を除去する。脱色処理を行う場合には、脱臭処理及び脱色処理後の部分水素添加油脂中の3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンが0.1ppm以上となるように行う。
【0020】
(油脂組成物)
上述した油脂(A)(水素添加油脂風味強化用の水素添加油脂)は、他の油脂(B)と混合して、油脂組成物を製造することができる。
油脂組成物全質量に対して、油脂(A)を、1〜30質量%の量で含むことが好ましく、2〜20質量%含むことがより好ましく、更に2〜15質量%含むことが最も好ましい。
本発明の油脂組成物における、油脂(A)以外の他の油脂(B)中の「ポリ不飽和脂肪酸」は、20質量%以下であることが好ましい。ポリ不飽和脂肪酸が、20質量%を越えると、水素添加油脂由来の風味が弱まる場合がある。ポリ不飽和脂肪酸が20質量%以下の油脂としては、(i)パーム系油脂、(ii)ラウリン系油脂または(iii)パーム系油脂及びラウリン系油脂の組み合わせ、(v)ラウリン系油脂のエステル交換油脂、及び(vi)パーム系油脂とラウリン系油脂の混合物のエステル交換油脂から選択される少なくとも一つを含む油脂であることが好ましい。
【0021】
パーム系油脂としては、パーム油、部分水素添加パーム油、分別パーム油及び部分水素添加分別パーム油およびこれら1種以上をエステル交換した油脂が挙げられる。
また、ラウリン系油脂としては、パーム核油、やし油、パーム核分別油およびこれらの部分或いは完全水素添加油及びこれら1種以上をエステル交換した油脂が挙げられる。
また、パーム系油脂とラウリン系油脂を混合したもの、あるいは混合物をエステル交換した油脂を用いることも可能である。
部分水素添加パーム油とは、パーム油を部分水素添加したものである。分別パーム油とは、パーム油を分別処理し、得られた高融点画分、中融点画分もしくは低融点画分の油脂を意味する。また、得られた画分をさらに分別したものを使用することもできる。部分水素添加分別パーム油とは、上記分別パーム油をさらに部分水素添加したもの、もしくは部分水素添加パーム油を分別処理することにより得られた画分を意味する。
【0022】
油脂(B)は、油脂組成物全質量に対して70〜99質量%の量で含まれることが好ましい。
本発明の油脂組成物のトランス脂肪酸含量は、15質量%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0023】
本発明の油脂(A)と油脂(B)から構成される油脂混合物は、油脂(A)由来の3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを0.01ppm以上含むことが好ましく、更に0.02ppm以上含むことがより好ましい。
【0024】
本発明の油脂組成物は、例えば、フライドポテト、ドーナツなどの油ちょう食品、あるいは、パン、クッキー、ビスケット、パイなどの加熱調理食品、あるいは、ホイップクリーム、コーヒークリーム、アイスクリームなどのクリーム類等の油脂を含む食品への利用が挙げられる。その他、チョコレート及び上記食品を用いたプリンやケーキ類などのチルドデザートなどにも利用できる。
本発明の油脂組成物は、加熱されることでより効果を発揮する。例えば、フライドポテトやドーナツなどの油脂を加熱して調理する食品のための揚げ油や炒め油、あるいは、油脂を含む生地を焼成するクロワッサンなどのパンやクッキー、パイなどの菓子において用いる油脂として用いることが好ましい。かかる加熱調理される食品に用いると、水素添加油脂由来の好ましい風味が強くなるため、特に好ましい。加熱されることにより水素添加油脂由来の好ましい風味を感じやすくなり、更に、加熱調理により、油脂(A)中の成分が、アルデヒド類、ケトン類等に変化し、水素添加油脂由来の好ましい風味が増強されるためと考えられる。本発明の油脂組成物は、特に70〜250℃程度、より好ましくは100〜230℃の加熱調理をする食品に用いることが好ましい。
【実施例】
【0025】
<実施例1〜21及び比較例1〜6>
(水素添加油脂風味強化用部分水素添加油脂の調製)
表1に示した配合で原料油脂を混合し、これをヨウ素価75または88となるまで水素添加することで部分水素添加油脂を調製した。
原料油脂には精製コーン油(商品名:コーンオイル、太陽油脂株式会社製)(酸価:0.03)と精製大豆油(商品名:大豆白絞油、太陽油脂株式会社製)を使用した(酸価:0.03)。これらはそれぞれ、通常の方法に従い、搾油後脱ガム、脱酸、脱色、脱臭等の工程を経て精製されたものである。これらの油脂を混合後、オートクレーブ内で、開始温度150℃、水素圧力0.5MPa、ニッケル触媒0.1質量%(ニッケル含量20質量%)で加熱しながら、ヨウ素価75または88となるまで水素添加反応を行った。
この部分水素添加油脂に、活性白土を添加し、撹拌しながら減圧下(0.009MPa)110℃まで加熱し15分保持後80℃まで冷却した。これを濾紙にて活性白土を濾過して脱色油を得た。この脱色油は、揮発性の高い不快な臭いが強く、好ましい水素添加油脂風味ではなかった。
この脱色油を減圧下で表1に示す条件で脱臭することにより、実施例1〜7、比較例1〜2および油脂風味基準品の精製された部分水素添加油脂を得た。
【0026】
また、実施例1〜7、比較例1〜2の水素添加油脂風味強化用部分水素添加油脂の3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンの量及び中沸点成分の量を、GCMSを用いて、下記の方法により測定した。
【0027】
(GCMSによる成分定量法)
サンプル注入及びGCMS分析は、加熱脱着冷却インジェクションシステム(ゲステル社)及びガスクロマトグラフ6890N及び5973(アジレント社)を用い、各サンプル30mgを使用し、熱抽出分析により行った。詳細な分析条件を、以下に示す。
サンプルは、ゲステル社製TDS用ガラス管(内径4mm*17.8cm)に直接サンプリングし、加熱脱着(TDS)及び冷却インジェクション(CIS)により、ガスクロマトグラフに供し、マススペクトロメトリーで、含まれている成分の検出及び定量を行った。サンプルには、ヘキサデカンを1ppmを内部標準として添加し、リテンションタイム40分近傍に検出される3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンの含有量と、リテンションタイム25−45分で検出される成分の面積総量(中沸点成分含有量)を求めた。
【0028】
◆TDS条件
・トランスファーライン温度:250℃
・初期温度、保持時間:20℃、1分
・昇温速度:毎分60℃分
・最終温度、保持時間:240℃、5分
◆CIS条件
・初期温度、保持時間:−100℃、1分
・昇温速度:12℃/秒
・最終温度、保持時間:240℃、10分
◆ガスクロマトグラフ条件
・カラム INNOWAX 60m×0.25mm×0.25μm (アジレント社)
・初期温度、保持時間:40℃、2分
・一次昇温速度:3℃/分
・一次最終温度、保持時間:100℃、0分
・二次昇温速度:5℃/分
・二次最終温度、保持時間:240℃、30分
・ガス流量:1.8ml/分
・トランスファーライン温度:240℃
◆マス検出器条件
・イオン源温度 230℃
・四重極温度 150℃
【0029】
実施例において、ポリ不飽和脂肪酸含量、トランス脂肪酸含量、融点及び酸価は下記書籍に記載の方法に基づいて測定した。
ポリ不飽和脂肪酸含量:「食用油脂製造の実際」(幸書房、昭和63年7月5日発行)の“3精製工程の実際”に記載されている方法
トランス脂肪酸含量:日本油化学会編「基準油脂試験分析法」(2007年)に記載の「トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」
融点:日本油化学会編「基準油脂試験分析法」(1996年)の「2.2.4.1融点(上昇融点)」
酸価:日本油化学会編「基準油脂試験分析法」(1996年)の「2.3.1酸価」
【0030】
(油脂組成物の調製)
実施例1〜7、比較例1〜2に示した部分水素添加油脂を用いて表2に示した実施例8〜14、比較例3〜4の加熱調理用油脂組成物を得た。パーム油は精製パーム油を使用した。また油脂風味基準品は、これを100%用いることで実施例8〜14、比較例3〜4の油脂組成物と風味を比較評価するための風味基準品とした。
【0031】
(調理評価)
実施例8〜14、比較例3〜4の加熱調理用油脂組成物および油脂風味基準品を用いて、市販のプレフライ済み冷凍ポテトを、180℃で4分間フライ調理し、実施例15〜21、比較例5〜6および油脂風味基準品のフライドポテトを得た。
水素添加油脂風味の基準となる油脂風味基準品のフライドポテトを標準とし、実施例15〜21、比較例5〜6のフライドポテトをパネル(20人)が食したときの標準との水素添加油脂風味の違いを以下の基準で点数化し、平均値を算出すことで得られたフライドポテトの評価を行った。結果を表3に示す。
表3から分かるように、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量が0.1ppm以上で脱臭後酸価が0.06及びそれ以上の部分水素添加油脂(脱臭温度が200℃およびそれ以下で精製された部分水素添加油脂)を配合した加熱調理用油脂組成物で調理したフライドポテトは、標準と比較して水素添加油脂風味の差が少ないものとなった(実施例15〜21)。一方、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量が0.1ppm以下で脱臭後酸価が0.04及び0.03の部分水素添加油脂(脱臭温度が230℃、250℃で精製した部分水素添加油脂)を配合した加熱調理用油脂組成物で調理したフライドポテトは、水素添加油脂風味が弱いものとなった。
【0032】
評価基準
標準とほぼ同等の水素添加油脂風味を有する 5点
標準より水素添加油脂風味がやや弱いが問題の無いレベル 4点
標準より水素添加油脂風味が少し弱い 3点
標準より水素添加油脂風味が弱い 2点
標準より水素添加油脂風味が明らかに弱い 1点
※ 3点以上を合格レベルとする
【0033】

*1:ポリ不飽和脂肪酸は、原料油全質量中のポリ不飽和脂肪酸の質量%である。
*2:トランス脂肪酸含量は、部分水素添加油脂全質量中のトランス脂肪酸の質量%である。
【0034】

*1:トランス脂肪酸含量は、配合油脂全質量中のトランス脂肪酸の質量%である。
【0035】

【0036】
以上からコーン油と大豆油の混合水素添加油脂を200℃以下で脱臭処理した3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量が0.1ppm以上である油脂は、水素添加油脂風味が強い。この油脂をパーム油に5%添加混合した油脂で加熱調理したフライドポテトには、好ましい水素添加油脂風味があった。
【0037】
<実施例22〜33及び比較例7〜12>
トランス脂肪酸量が異なる部分水素添加油脂を作製して、これにパーム油を混合した低トランス脂肪酸配合油脂及びフライドポテトの水素添加油脂風味の評価を行った結果を表4〜6に示した。
原料油脂として、米油、大豆油、ナタネ油及びサフラワー油の4種類の植物油を単体で使用して、実施例1〜7と同様な条件で、水素添加反応を行い、トランス脂肪酸が20〜45%の部分水素添加油脂を作製して、活性白土処理した。作製した部分水素添加油脂を200℃以下で脱臭した油脂と230〜250℃で脱臭した油脂の酸価を表4に示した。200℃以下で脱臭した部分水素添加油脂の実施例22〜25では、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量が0.1ppm以上で酸価は全て0.06以上であった。それに対して、200℃を超えた温度で脱臭した比較例7〜8の油脂の3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量は0.1ppm以下で酸価は0.06未満であった。
【0038】
次に、表4で示した実施例22〜25と比較例7〜8の油脂にパーム油を混合した加熱調理用油脂組成物の配合を表5に示した。
【0039】
さらに、表6に実施例26〜29及び比較例9〜10の加熱調理用油脂組成物で調理したフライドポテトの評価結果を示した。評価方法は、実施例15〜21及び比較例5〜6の評価と同様に行った。フライドポテトの風味評価においても、200℃以下で脱臭した3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量が0.1ppm以上で脱臭後酸価が0.06及びそれ以上の部分水素添加油脂を使用した実施例30〜33は水素添加油脂風味が強かった。しかし、脱臭温度が200℃を超える3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量が0.1ppm以下で脱臭後酸価が0.06未満の比較例9〜10の油脂組成物で調理したフライドポテトの水素添加油脂風味は弱かった。
このようにポリ不飽和酸が30質量%以上の原料油脂から作製された部分水素添加油脂を200℃以下で脱臭処理し、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量が0.1ppm以上である水素添加油脂風味強化用部分水素添加油脂をトランス脂肪酸含有量が低い油脂に少量配合して用いると、低トランス脂肪酸量で、かつ、水素添加油脂風味を付与できて市場の要請に答える発明である事がわかる。
【0040】

*1:ポリ不飽和脂肪酸は、原料油全質量中のポリ不飽和脂肪酸の質量%である。
*2:トランス脂肪酸含量は、部分水素添加油脂全質量中のトランス脂肪酸の質量%である。
【0041】

*1:トランス脂肪酸含量は、配合油脂全質量中のトランス脂肪酸の質量%である。
【0042】

【0043】
<実施例34〜39、及び比較例13〜18>
(水素添加油脂風味強化用部分水素添加油脂の調製)
表7に示した配合で原料油脂を混合し、実施例1〜7と同様の条件で水素添加することで実施例34及び35、比較例13及び14の部分水素添加油脂を調製した。
【0044】
(可塑性油脂組成物の作製)
実施例34及び35、比較例13及び14の部分水素添加油脂を用いて表8に示した配合の可塑性油脂組成物を作製した。即ち、油相部に対し水相部を添加後60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合して乳化したものを、急冷捏和機を用いて常法にて冷却捏和して実施例36及び37、比較例15及び16のシート状ロールイン用可塑性油脂組成物を得た。
【0045】
(調理評価)
実施例36及び37、比較例15及び16の可塑性油脂組成物を用いて表9に示した配合でクロワッサンを作製した。即ち、可塑性油脂組成物以外の原材料をボールに入れ、ビーターを用いて縦型ミキサーにて低速、中速にて各原材料が均一になるようにミキシングし、捏ね上げ温度25℃にて生地を得た。フロアータイム30分の後、−5℃で0℃になるまで温調し、15℃に温調しておいた可塑性油脂組成物をロールインした。ロールインは三つ折り二回行い0℃で一晩保存後、三つ折り1回行い、シーターで延ばしてカット成型した。これを35℃のホイロで60分入れた後、200℃のオーブンで15分焼成して実施例32及び33、比較例17及び18のクロワッサンを得た。
得られたクロワッサンをパネル(20人)が食したときの標準との水素添加油脂風味の違いを前述の評価基準にて評価した。結果を表10に示す。
【0046】

*1:ポリ不飽和脂肪酸は、原料油全質量中のポリ不飽和脂肪酸の質量%である。
*2:トランス脂肪酸含量は、部分水素添加油脂全質量中のトランス脂肪酸の質量%である。
【0047】

エステル交換油A*1:パーム油とやし油の混合比(85部:15部)のエステル交換油
エステル交換油B*2:パーム油ステアリンとパーム核オレインの混合比(70部:30部)のエステル交換油
*3:トランス脂肪酸含量は、配合油脂全質量中のトランス脂肪酸の質量%である。
【0048】

【0049】

【0050】
以上から、クロワッサン評価においても、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量が0.1ppm以上である水素添加油脂風味強化用部分水素添加油脂をトランス脂肪酸含有量が低い油脂に少量配合して用いると、水素添加油脂風味が強い事が分かる。
【0051】
<実施例40〜51、及び比較例19〜27>
(水素添加油脂風味強化用部分水素添加油脂の調製)
表11に示した配合で原料油脂を混合し、実施例1〜7と同様の条件で水素添加することで実施例40〜43、比較例19〜21の部分水素添加油脂を調製した。
【0052】
(O/W型乳化油脂組成物の作製)
実施例40〜43、比較例19〜21の部分水素添加油脂を用いて表12に示した配合のO/W型乳化油脂組成物を作製した。即ち、油脂部に副原料を加え、融解混合し、油相を調製した。
そして、水相を調製し、油相と水相を攪拌混合させ、65℃で予備乳化を行った。次いでホモゲナイザーにて80kg/cm2の圧力下で均質化処理後、UHTプレート殺菌機にて120℃で3秒間加熱殺菌し、再度20kg/cm2の圧力下で均質化処理した。その後殺菌済みのO/W型乳化組成物を5 ℃まで冷却し、冷蔵庫にて20時間エージングしてO/W型乳化油脂組成物を得た。
【0053】
(評価)
実施例44〜47、比較例22〜24のO/W乳化油脂組成物を用いてホイップした。即ち、O/W乳化油脂組成物500gと砂糖50gをボールに入れ、5℃に温調し、ホッパーを用いて縦型ミキサーにて中速にてオーバーランが200%になるようにホイップし、ホイップクリームを得た。
得られたホイップクリームをパネル(20人)が食したときの標準との水素添加油脂風味の違いを前述の評価基準にて評価した。結果を表13に示す。
【0054】

*1:ポリ不飽和脂肪酸は、原料油全質量中のポリ不飽和脂肪酸の質量%である。
*2:トランス脂肪酸含量は、部分水素添加油脂全質量中のトランス脂肪酸の質量%である。
【0055】

【0056】

【0057】
以上から、ホイップクリーム評価においても、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量が0.1ppm以上である水素添加油脂風味強化用部分水素添加油脂をトランス脂肪酸含有量が低い油脂に少量配合して用いると、水素添加油脂風味が強い事が分かる。
【0058】
<実施例52〜57、及び比較例28〜33>
(水素添加油脂風味強化用部分水素添加油脂の調製)
表14に示した配合で原料油脂を混合し、実施例1〜7と同様の条件で水素添加することで実施例52及び53、比較例28及び29の部分水素添加油脂を調製した。
【0059】
(O/W型乳化油脂組成物の作製)
実施例52及び53、比較例28及び29の部分水素添加油脂を用いて表15に示した配合のO/W型乳化油脂組成物を作製した。即ち、油脂部に副原料を加え、融解混合し、油相を調製した。
そして、水相を調製し、油相と水相を攪拌混合させ、70℃で予備乳化を行った。次いでホモゲナイザーにて150kg/cm2の圧力で均質化処理後、UHTプレート殺菌機にて120℃で5秒間加熱殺菌した。その後殺菌済みのO/W型乳化組成物を5℃まで冷却し、冷蔵庫にて20時間エージングしてO/W型乳化油脂組成物を得た。
【0060】
(評価)
実施例54及び55、比較例30及び31のO/W乳化油脂組成物を用いてアイスクリームを作成した。即ち、O/W乳化油脂組成物2000gをアイスクリームフリーザーにてフリージングを行い、アイスクリームを得た。
得られたアイスクリームをパネル(20人)が食したときの標準との水素添加油脂風味の違いを前述の評価基準にて評価した。結果を表16に示す。
【0061】

*1:ポリ不飽和脂肪酸は、原料油全質量中のポリ不飽和脂肪酸の質量%である。
*2:トランス脂肪酸含量は、部分水素添加油脂全質量中のトランス脂肪酸の質量%である。
【0062】

*1:トランス脂肪酸含量は、配合油脂全質量中のトランス脂肪酸の質量%である。
【0063】

【0064】
以上から、アイスクリーム評価においても、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量が0.1ppm以上である水素添加油脂風味強化用部分水素添加油脂をトランス脂肪酸含有量が低い油脂に少量配合して用いると、水素添加油脂風味が強い事が分かる。
【0065】
<実施例58〜63、及び比較例34〜41>
(水素添加油脂風味強化用部分水素添加油脂の調製)
表17に示した配合で原料油脂を混合し、実施例1〜7と同様の条件で水素添加することで実施例58及び59、比較例34及び35の部分水素添加油脂を調製した。
【0066】
(W/O油脂組成物の作製)
実施例58及び59、比較例34及び35の部分水素添加油脂を用いて表18に示した配合のW/O油脂組成物を作製した。即ち、油相部に対し水相部を添加後60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合して乳化したものを、急冷捏和機を用いて常法にて冷却捏和して実施例60及び61、比較例36及び37のW/O油脂組成物を得た。
【0067】
(調理評価)
実施例60及び61、比較例36及び37のW/O油脂組成物を用いて表19に示した配合でクッキーを作製した。即ち、W/O油脂組成物をボールに入れ、ビーターを用いて縦型ミキサーにて低速、中速にて均一に滑らかになるように攪拌、粉糖を添加後さらに白くもったりするまで中速ミキシングし、さらに全卵をミキシングしながら添加し均一になるよう混合する。その後、薄力粉、食塩、ベーキングパウダーを篩って均一にしたものを添加し、生地がまとまるまで低速で混合した。できあがった生地を5℃で60分置いた後、シーターにて3mmに生地を圧延し型抜きを行い成型後、170℃のオーブンで15分焼成して実施例62及び63、比較例40及び41のクッキーを得た。
得られたクッキーをパネル(20人)が食したときの標準との水素添加油脂風味の違いを前述の評価基準にて評価した。結果を表20に示す。
【0068】

*1:ポリ不飽和脂肪酸は、原料油全質量中のポリ不飽和脂肪酸の質量%である。
*2:トランス脂肪酸含量は、部分水素添加油脂全質量中のトランス脂肪酸の質量%である。
【0069】

【0070】

【0071】

【0072】
以上から、クッキー評価においても、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン含有量が0.1ppm以上である水素添加油脂風味強化用部分水素添加油脂をトランス脂肪酸含有量が低い油脂に少量配合して用いると、水素添加油脂風味が強い事が分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを0.1ppm以上含有することを特徴とする部分水素添加油脂。
【請求項2】
酸価が0.06〜1.00である請求項1記載の部分水素添加油脂。
【請求項3】
トランス脂肪酸含有量が20〜60質量%である、請求項1または2記載の部分水素添加油脂。
【請求項4】
ポリ不飽和脂肪酸を25質量%以上含む原料油脂から製造される請求項1〜3のいずれか一項に記載の部分水素添加油脂。
【請求項5】
原料油脂を水素添加し、200℃以下の温度でかつ20〜650Paの圧力において、脱臭処理を行うことにより製造される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の部分水素添加油脂。
【請求項6】
原料油脂を部分水素添加し、その後、200℃以下の温度でかつ20〜650Paの圧力において脱臭処理を行うことを特徴とする、部分水素添加油脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の部分水素添加油脂を、油脂組成物全質量に対して1〜30質量%含み、トランス脂肪酸含量が15質量%以下であることを特徴とする、油脂組成物。
【請求項8】
トランス脂肪酸が5.5質量%以下であり、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセンを0.01ppm以上含有する請求項7記載の油脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の部分水素添加油脂以外に、(i)パーム系油脂、(ii)ラウリン系油脂、(iii)パーム系油脂及びラウリン系油脂の混合物、(iv)パーム系油脂のエステル交換油脂、(v)ラウリン系油脂のエステル交換油脂、及び(vi)パーム系油脂とラウリン系油脂の混合物のエステル交換油脂、からなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項7または8記載の油脂組成物。
【請求項10】
請求項7または8記載の油脂組成物を用いて製造される水素添加油脂風味が強化された食品。

【公開番号】特開2011−115149(P2011−115149A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107445(P2010−107445)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(591040144)太陽油脂株式会社 (17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】